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特許7448929新生児-乳児消化管アレルギーの診断のためのデータを収集する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】新生児-乳児消化管アレルギーの診断のためのデータを収集する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
G01N33/53 P
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019189063
(22)【出願日】2019-10-16
(65)【公開番号】P2021063743
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 俊史
(72)【発明者】
【氏名】安戸 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭李
(72)【発明者】
【氏名】福田 謙
(72)【発明者】
【氏名】脇口 宏之
(72)【発明者】
【氏名】大賀 正一
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-055684(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0170126(US,A1)
【文献】福田謙ほか,新生児・乳児消化管アレルギーにおける血清サイトカインプロファイルの検討,日本小児アレルギー学会誌,2017年10月20日,Vol.31, No.4,p.572
【文献】Mitsuaki KIMURA et al.,Cytokine profile after oral food challenge in infants with food protein-induced enterocolitis syndrome,Allergology International,2017年,Vol.66, No.3,pp.452-457
【文献】Jean Christoph CAUBET et al.,Humoral and cellular responses to casein in patients with food protein-induced enterocolitis to cow's milk,J Allergy Clin Immunol.,2017年,Vol.139, No.2,pp.572-583
【文献】伊藤靖典、足立雄一,新生児消化管アレルギーの負荷試験施行時の経時的サイトカインプロファイル,アレルギー,2017年,Vol.66, No.4-5,p.379
【文献】伊藤靖典ほか,Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome (FPIES)の負荷試験施行時の経時的サイトカインプロファイル,日本小児アレルギー学会誌,2017年10月20日,Vol.31, No.4,p.572
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53,33/68,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取された血清中のインターロイキン2(IL-2)及びインターロイキン10(IL-10)タンパク質レベルを測定する工程を含むことを特徴とする、新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)、食物蛋白誘発直腸大腸炎(FPIAP)、又は食物蛋白誘発胃腸症(FPE)の診断のためのデータを収集する方法であって、血清中のIL-2タンパク質レベルが4 pg/ml以上の場合に、被験者は上記FPIES、FPIAP、又はFPEを発症しているとの指標を得る工程を含む、前記方法
【請求項2】
FPIES、FPIAP、又はFPEがFPIESであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
被験者から採取された血清中のインターロイキン2(IL-2)及びインターロイキン10(IL-10)タンパク質レベルを測定する工程を含むことを特徴とする、新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)の診断のためのデータを収集する方法であって、血清中のIL-2タンパク質レベルが4 pg/ml以上、及び血清中のIL-10タンパク質レベルが7 pg/ml以上の場合に、被験者は上記FPIESを発症しているとの指標を得る工程を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新生児-乳児消化管アレルギーの診断のためのデータを収集する方法や、新生児-乳児消化管アレルギーの診断用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
新生児-乳児消化管アレルギーはIgE非依存性の食物アレルギーであり、反復する嘔吐、下痢その他の消化器症状を主症状とし、嘔吐や下痢による脱水状態から、全身がぐったりとした状態になる疾患である。かかる新生児-乳児消化管アレルギーは細胞性免疫、すなわち抗原提示細胞、アレルゲン、Tリンパ球、好酸球、局所の上皮細胞等が関与して成立すると考えられているが、その病態の詳細はいまだ明らかではない。
【0003】
この新生児-乳児消化管アレルギーは早期診断及び介入が必要であるが、不活発、体重増加不良等の非特異的症状も認められ、臨床の現場では嘔吐、下痢をきたす他の疾患との鑑別が困難なことが多い。さらに小児医療の現場では、嘔吐や下痢等の消化器症状を呈する疾患はノロウイルス、ロタウイルス等によるウイルス性胃腸炎、カンピロバクター、病原性大腸菌、サルモネラ等による細菌性腸炎等の比較的頻度の高い疾患が複数あり、上記疾患の除外診断後に新生児-乳児消化管アレルギーを疑うことが多いため診断が遅れる場合がしばしばある。
【0004】
新生児・乳児消化管アレルギーの診断に用いられる検査として、アレルゲンリンパ球刺激試験、消化管内視鏡、食物負荷試験が挙げられる。アレルゲンリンパ球刺激試験は保険適用がなく、偽陽性及び偽陰性も見られるため、確定診断できない。消化管内視鏡及び食物負荷試験は確定診断に有用であるが、身体的負担やリスクが大きいことや、入院が必要となることや、かかる試験に対応できる施設が限定されること等の問題点がある。
【0005】
近年、新生児・乳児消化管アレルギーとサイトカインとの関係に関し研究が進められており、例えば、食物経口負荷試験陽性の新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎(Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome :FPIES)で所定のサイトカインが高値であることが開示されている(非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cytokine profile after oral food challenge in infants with food protein-induced enterocolitis syndrome. Kimura M. et al., Allergol Int. 2017
【文献】Humoral and cellular responses to casein in patients with food protein-induced enterocolitis to cow's milk. Caubet JC. et al., J Allergy Clin Immunol. 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように現時点では食物負荷試験が唯一の確定診断方法であるが、診断できる施設は限定される。新生児-乳児消化管アレルギーと類似した症状を呈する疾患も多く、それらとの速やかな鑑別が可能であり、かつ一般診療において急性期診断に用いることができる簡便な方法が求められている。そこで本発明の課題は、新生児-乳児消化管アレルギーの診断のためのデータを収集する非侵襲的かつ簡便な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これまで本発明者らは、新生児-乳児消化管アレルギーの病態解明のため、新生児-乳児消化管アレルギーの患児のサイトカインを測定してきた。その結果、血清中のIL-2、及び血清中のIL-10の濃度が消化器症状を有している時に有意に上昇していることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕被験者から採取された生体試料中のインターロイキン2(IL-2)及びインターロイキン10(IL-10)タンパク質レベルを測定する工程を含むことを特徴とする、新生児-乳児消化管アレルギーの診断のためのデータを収集する方法。
〔2〕生体試料中のIL-2タンパク質レベル及び生体試料中のIL-10タンパク質レベルがそれぞれ所定の閾値以上の場合に新生児-乳児消化管アレルギーを発症しているのとの指標を得る工程を含むことを特徴とする、上記〔1〕記載の新生児-乳児消化管アレルギーの診断のためのデータを収集する方法。
〔3〕生体試料が血清であることを特徴とする、上記〔1〕又は〔2〕記載の新生児-乳児消化管アレルギーの診断のためのデータを収集する方法。
〔4〕血清中のIL-2タンパク質レベルが4pg/ml以上、又は血清中のIL-10タンパク質レベルが7pg/ml以上の場合に、被験者は新生児-乳児消化管アレルギーを発症しているのとの指標を得る工程を含むことを特徴とする、上記〔3〕記載の新生児-乳児消化管アレルギーの診断のためのデータを収集する方法。
〔5〕血清中のIL-2タンパク質レベルが4pg/ml以上、及び血清中のIL-10タンパク質レベルが7pg/ml以上の場合に、被験者は新生児-乳児消化管アレルギーと発症しているとの指標を得る工程を含むことを特徴とする、上記〔3〕記載の新生児-乳児消化管アレルギーの診断のためのデータを収集する方法。
〔6〕抗IL-2抗体、及び抗IL-10抗体を含む、新生児-乳児消化管アレルギーの診断用キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明を用いれば、食物負荷試験を行うことなく、新生児-乳幼児の消化管アレルギーか否かを非侵襲的に診断するためのデータを収集することが可能となる。また、簡便な方法であるため、アレルギー専門施設以外においても迅速な診断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1において、FPIES、ウイルス性胃腸炎、及び細菌性胃腸炎における血清中のIL-2濃度(pg/ml)を測定してグラフ化した結果を示す図である。
図2】実施例1において、FPIES、ウイルス性胃腸炎、及び細菌性胃腸炎における血清中のIL-10濃度(pg/ml)を測定してグラフ化した結果を示す図である。
図3】実施例1において、FPIES及びアナフィラキシーにおける血清中のIL-2濃度(pg/ml)を測定してグラフ化した結果を示す図である。
図4】実施例1において、FPIES及びアナフィラキシー症例における血清中のIL-10濃度(pg/ml)を測定してグラフ化した結果を示す図である。
図5】実施例1におけるFPIES患者のうちの1エピソード(No.5)における経時的な血清中のIL-2及び血清中のIL-10濃度を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の新生児-乳児消化管アレルギーの診断のためのデータを収集する方法は、被験者から採取した生体試料中のIL-2及びIL-10タンパク質レベルを測定する工程を含むことを特徴とする、新生児-乳児消化管アレルギーの診断のためのデータを収集する方法(以下、「本件新生児-乳児消化管アレルギーの診断のためのデータを収集する方法」ともいう)であれば特に制限されず、ここで、新生児-乳児消化管アレルギーとは、乳児(生後1か月以内)又は新生児(生後1年未満)の消化管アレルギーを意味する。具体的には、新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)食物蛋白誘発直腸大腸炎(FPIAP)、食物蛋白誘発胃腸症(FPE)を挙げることができる。
【0013】
本発明の新生児-乳児消化管アレルギーの診断用キットは、抗IL-2抗体、及び抗IL-10抗体を含む、新生児-乳児消化管アレルギーの診断用キットであれば特に制限されず、以下、「本件新生児-乳児消化管アレルギーの診断用キット」ともいう。
【0014】
上記「新生児-乳児消化管アレルギーの診断」とは、新生児-乳児消化管アレルギー発症の有無の判定、特に新生児-乳児消化管アレルギーの原因となる食物を摂取してから48時間以内における新生児-乳児消化管アレルギー発症の有無の判定を意味する。
【0015】
本明細書において、「被験者」とは、新生児-乳児消化管アレルギー未発症の者や、新生児-乳児消化管アレルギーに罹患している可能性がある者や、新生児-乳児消化管アレルギーを現に発症した者を挙げることができる。また、「被験者」としては、例えば、ヒトに限らず、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ等の哺乳動物であってもよい。
【0016】
生体試料としては、血清、血液、血漿、唾液、尿を挙げることができ、血清を好適に挙げることができる。かかる生体試料は、新生児-乳児消化管アレルギーの原因となる食物を摂取してから48時間、好ましくは36時間以内、より好ましくは24時間以内、さらに好ましくは12時間以内、最も好ましくは6時間以内に被験者から採取したものを挙げることができる。
【0017】
生体試料中のIL-2タンパク質やIL-10タンパク質のレベルを測定する方法としては、IL-2タンパク質やIL-10タンパク質の一部又はすべてを特異的に検出できる方法であれば特に制限されず、疫学的測定法や質量分析法を挙げることができる。
【0018】
上記免疫学的測定法としては、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法、イムノクロマト法、イムノブロット法、CBA(Cytometric Bead Assay)法、ウェスタンブロッティング法、フローサイトメトリー等を挙げることができる。
【0019】
上記疫学的測定法において抗体を用いる場合の抗体、又は上記本件新生児-乳児消化管アレルギーの診断用キットに含まれる抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、又はヒト化抗体を挙げることができ、モノクローナル抗体であることが好ましい。また、上記抗体には、F(ab’)、Fab、diabody、Fv、ScFv、Sc(Fv)等の抗体の一部からなる抗体断片も含まれる。
【0020】
また、上記抗体は標識物質によって標識されていてもよい。かかる標識物質としては、ペルオキシダーゼ(例えば、horseradish peroxidase)、アルカリフォスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコ-ス-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、アポグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等の酵素、フルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescence Protein;GFP)、シアン蛍光タンパク質(Cyan Fluorescence Protein;CFP)、青色蛍光タンパク質(Blue Fluorescence Protein;BFP)、黄色蛍光タンパク質(Yellow Fluorescence Protein;YFP)、赤色蛍光タンパク質(Red Fluorescence Protein;RFP)、ルシフェラーゼ(luciferase)等の蛍光タンパク質、3H、14C、125I若しくは131I等の放射性同位体、金属コロイド、非金属コロイド、染料ゾル若しくは分散染料のような染料粒子、ラテックス粒子又は着色微粒子、ビオチン、アビジン、又は化学発光物質を挙げることができる。
【0021】
上記抗体は市販品を用いても良いが、IL-2又はIL-10の遺伝子配列をNCBI(National Center for Biotechnology Information)等のデータベースより取得し、クローニングにより組換えIL-2又はIL-10タンパク質を合成し、合成された組換えIL-2又はIL-10タンパク質をマウスに免疫して作製しても良い。
【0022】
被験者から採取された生体試料中のIL-2タンパク質レベル及び生体試料中のIL-10タンパク質レベルが所定の閾値以上の場合に、被験者は新生児-乳児消化管アレルギーを発症しているのとの指標を得ることができる。
【0023】
上記所定の閾値を求める方法は特に制限されないが、例えば新生児-乳児消化管アレルギーを発症している患者と、新生児-乳児消化管アレルギーを発症していない患者、ウイルス性胃腸炎を発症している患者、細菌性胃腸炎を発症している患者、及び/又はアナフィラキシーを発症している患者における生体試料中のIL-2タンパク質レベル及び生体試料中のIL-10タンパク質レベルを指標として定める方法を挙げることができる。この場合に、上記所定の閾値はそれぞれの患者における生体試料中のIL-2タンパク質レベル及び生体試料中のIL-10タンパク質レベルの平均値、中央値を参考にして求めても良い。このほか、上記所定の閾値はROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)によって求めてもよい。
【0024】
上記所定の閾値として具体的には、生体試料中のIL-2タンパク質の濃度が4pg/ml、5pg/ml、10 pg/ml、15 pg/ml、50 pg/ml、又は100 pg/mlを挙げることができ、生体試料中のIL-10タンパク質の濃度が7pg/ml、10 pg/ml、20 pg/ml、50 pg/ml、又は80 pg/mlを挙げることができる。
【0025】
本件新生児-乳児消化管アレルギーの診断用キットには、さらに、希釈剤、洗浄用緩衝液、標準物質、基質試薬等の他、新生児・乳児消化管アレルギー患児の診断のためのデータを収集し得る旨が記載された取扱説明書を含んでいてもよく、簡便に検査できるよう構成されたものが好ましい。
【0026】
本件新生児-乳児消化管アレルギーの診断用キットにおいて、抗IL-2抗体、及び抗IL-10抗体は担体に固定されていてもよく、イムノクロマト法等によってIL-2及びIL-10タンパク質レベルの測定が容易となる。上記担体としては、ニトロセルロース、酢酸セルロース、セルロース、ナイロン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリオレフィン等を挙げることができる。イムノクロマト法によって上記標識物質で標識した抗IL-2抗体、及び抗IL-10抗体を被験者から採取された生体試料と反応させることで、標識物質に基づく呈色の強弱により、IL-2及び/又はIL-10タンパク質レベルが上記所定の閾値以上かどうかを判別できる。かかる判別結果を、新生児-乳児消化管アレルギーの診断のためのデータとすることができる。
【実施例
【0027】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0028】
[実施例1]サイトカインの測定
FPIES、ウイルス性胃腸炎、細菌性胃腸炎、アナフィラキシー症例における血清中のサイトカイン濃度を以下の方法により測定した。
【0029】
(FPIESの対象患者)
FPIES患者5名(6エピソード)を対象とした。前記6名中5名は反復する牛乳又は卵黄摂取後の嘔吐、血便のエピソードから、1名は食物経口負荷試験陽性からFPIESと診断した。血液検体は嘔吐から3時間以内に採取した。FPIESの診断基準は、次の文献(J Allergy Clin Immunol. 2017 Apr;139(4):1111-1126)に従った。
【0030】
(比較対象)
比較対象として、食物アレルギー診療ガイドライン2016(日本小児アレルギー学会作成、協和企画編集)の定義を満たすアナフィラキシー症例10例、ノロウイルス、ロタウイルスによるウイルス性胃腸炎7例、エルシニア、サルモネラ、カンピロバクター、病原性大腸菌による細菌性胃腸炎9例について、受診時の血液検体を採取した。
【0031】
(サイトカイン測定方法)
採取した血液検体は3000rpmで5分間遠心し、遠心後の上清を血清として分離した。血清中のIL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IFN、及びTNF-α濃度は上記それぞれのサイトカインに対する抗体を含んだCytometric Bead Assay(CBA)Kit (BD Biosciences)を用いて測定した。血清中のIL-8濃度はQuantikine(登録商標) ELISA Human IL-8/CXCL8 Immunoassay(R&D Systems社)を用いて測定した。
【0032】
(サイトカイン測定結果)
FPIES、ウイルス性胃腸炎、及び細菌性胃腸炎における血清中のIL-2濃度(pg/ml)を測定してグラフ化した結果を図1に、FPIES、ウイルス性胃腸炎、及び細菌性胃腸炎における血清中のIL-10濃度(pg/ml)を測定してグラフ化した結果を図2に、FPIES及びアナフィラキシー症例における血清中のIL-2濃度(pg/ml)を測定してグラフ化した結果を図3に、FPIES及びアナフィラキシー症例における血清中のIL-10濃度(pg/ml)を測定してグラフ化した結果を図4に示す。FPIESにおいては、ウイルス性胃腸炎、細菌性胃腸炎、アナフィラキシー症例の場合と比較して、血清中のIL-2濃度、及び血清中のIL-10濃度が有意に上昇していることが明らかとなった。
【0033】
さらに、FPIES6症例における血清中のIL-2濃度及び血清中のIL-10濃度を、症例毎(No.1~5)にまとめたものを表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
No.2-1,2-2は同一症例で2回のエピソードがあり、2-2は1回目の発症から4ヶ月後に再度発症した症例である。また、胃腸炎9症例(ウイルス性胃腸炎7例、細菌性胃腸炎2例)における血清サイトカイン濃度(pg/ml)を表2に、アナフィラキシー10症例における血清サイトカイン濃度(pg/ml)を表3に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
表1から、FPIESでは血清中のIL-2濃度は4以上、血清中のIL-10濃度は7以上であることが明らかとなった。また、表2から胃腸炎では血清中のIL-2濃度は4未満、血清中のIL-10濃度は10未満であることが明らかとなった。さらに、表3からアナフィラキシーでは血清中のIL-2濃度は4未満、血清中のIL-10濃度は1症例を除いて20未満、4症例を除いて10未満であることが明らかとなった。
【0039】
かかる結果から、血清中のIL-2、及び血清中のIL-10濃度を測定し、得られた血清中のIL-2濃度、血清中のIL-10濃度に基づいてFPIESの診断のためのデータを提供できることが明らかとなった。なお、IL-2は主に活性化したT細胞から産生され、抗原と反応したT細胞を増殖する作用や、マクロファージを活性化する作用を有する。一方、IL-10は主にヘルパーT細胞から産生され、IL-2、TNF、インターフェロンγ等の産生を抑制する作用や、マクロファージ、樹状細胞上のMHCクラスII分子及び共刺激分子の表出を減少させて抗原提示能を低下させる作用を有する。すなわち、新生児-乳児消化管アレルギーの診断において、相反する作用を有する2つのサイトカインを指標として測定することで特異的な診断が可能となることは極めて予想外のことであった。
【0040】
なお、表1に示すように、症例によって血清中のIL-2濃度及び血清中のIL-10濃度に多少のばらつきがある。かかる原因として、血清中のIL-2の生体内の半減期と、血清中のIL-10の生体内の半減期が異なること、及びFPIESの原因となった食物を摂取してからの経過時間にばらつきがあることが関係していると思われる。したがって、血清中のIL-2濃度のみ、又は血清中のIL-10濃度のみで判断するのではなく、血清中のIL-2濃度及び血清中のIL-10濃度を組み合わせて判断することがより特異性が高く正確な診断につながるといえる。表1~3の結果から、例えば血清中のIL-2タンパク質の濃度が4pg/ml以上、又は血清中のIL-10タンパク質の濃度が7pg/ml以上の場合、好ましくは例えば血清中のIL-2タンパク質の濃度が4pg/ml以上、及び血清中のIL-10タンパク質の濃度が7pg/ml以上の場合に新生児-乳児消化管アレルギーと判断することができる。
【0041】
[実施例2]FPIES患者の経時的な血清中のIL-2及び血清中のIL-10濃度
実施例1におけるFPIES患者のうちの一人(No.5)における経時的な血清中のIL-2及び血清中のIL-10濃度を測定した。牛乳を15分おきに6回摂取し、1回目の牛乳摂取を0時間とした場合の0、0.5、1、1.5、2、48時間後の血清中のIL-2濃度及び血清中のIL-10濃度を実施例1と同様の方法で測定した。結果を図5に示す。
【0042】
図5から明らかなように、血清中のIL-2及び血清中のIL-10のいずれも1回目の牛乳摂取から2時間後に検出されている。一方で、48時間後には血清中のIL-2及び血清中のIL-10のいずれも検出されなかった。したがって、FPIESの原因となった食物を摂取したと思われる時点から少なくとも48時間以内に血清中のIL-2濃度及び血清中のIL-10濃度を測定する必要があることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
新生児-乳児の消化管アレルギー(FPIES)の迅速かつ簡易な診断において利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5