IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊電子工業の特許一覧

<>
  • 特許-熱処理システム及び熱処理方法 図1
  • 特許-熱処理システム及び熱処理方法 図2
  • 特許-熱処理システム及び熱処理方法 図3
  • 特許-熱処理システム及び熱処理方法 図4
  • 特許-熱処理システム及び熱処理方法 図5
  • 特許-熱処理システム及び熱処理方法 図6
  • 特許-熱処理システム及び熱処理方法 図7
  • 特許-熱処理システム及び熱処理方法 図8
  • 特許-熱処理システム及び熱処理方法 図9
  • 特許-熱処理システム及び熱処理方法 図10
  • 特許-熱処理システム及び熱処理方法 図11
  • 特許-熱処理システム及び熱処理方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】熱処理システム及び熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20240306BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20240306BHJP
   F27D 3/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C21D9/00 H
C21D9/00 J
C21D1/10 P
F27D3/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020017306
(22)【出願日】2020-02-04
(65)【公開番号】P2021123746
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】392035352
【氏名又は名称】株式会社豊電子工業
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】石垣 直裕
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-048620(JP,A)
【文献】特開2008-069439(JP,A)
【文献】実開平06-085356(JP,U)
【文献】特開2008-169436(JP,A)
【文献】特開2002-141165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00- 9/44
C21D 9/50
C21D 1/00- 1/84
F27D 3/00- 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状のワークを加熱可能な加熱部を備えた熱処理装置に、前記ワークを所定の送り方向で前記加熱部に通過させて熱処理を行う熱処理システムであって、
前記送り方向で前記熱処理装置の上流側で前記ワークを送る上流側ロボットと、
前記送り方向で前記熱処理装置の下流側で前記ワークを受け取る下流側ロボットと、
前記上流側ロボット及び前記下流側ロボットにそれぞれ設けられ、前記ワークを把持可能な把持部と、前記ワークの端部を前記ワークの軸方向から保持可能な保持部とを備えた受け渡しハンドと、
前記熱処理装置の前記上流側に設けられ、前記ワークを、前記加熱部への搬入姿勢で支持可能な上流側ワーク支持手段と、
前記熱処理装置の前記下流側に設けられ、前記ワークを、前記加熱部からの搬出姿勢で支持可能な下流側ワーク支持手段と、を備え、
前記上流側では、前記上流側ロボットが、前記受け渡しハンドの前記把持部によって前記ワークを把持して、前記ワークを前記上流側ワーク支持手段に支持させた後、前記保持部によって前記ワークの前記上流側の端部を保持する一方、
前記下流側では、前記下流側ロボットが、前記受け渡しハンドの前記保持部によって前記ワークの前記下流側の端部を保持し、
前記上流側ロボットと前記下流側ロボットとによって前記ワークを前記送り方向に移動させることで、前記ワークを前記加熱部に通過させて熱処理を行い、
前記下流側ロボットは、前記加熱部を通過して前記下流側ワーク支持手段に支持された前記ワークを、前記受け渡しハンドの前記把持部によって搬出することを特徴とする熱処理システム。
【請求項2】
前記熱処理前の前記ワークを収納し、前記上流側ロボットによる前記ワークの取り出しを許容する搬入部と、
前記熱処理後のワークを収納し、前記下流側ロボットによる前記熱処理後の前記ワークの返却を許容する搬出部とを備えるストッカを設けることを特徴とする請求項1に記載の熱処理システム。
【請求項3】
前記熱処理装置が、高周波焼き入れ機であり、
前記加熱部は、誘導加熱手段と冷却手段とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱処理システム。
【請求項4】
前記熱処理装置によって加熱された状態の前記ワークを挟持することで前記ワークの歪みを抑制する歪み抑制装置を前記熱処理装置の下流側近傍に設けることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の熱処理システム。
【請求項5】
長尺状のワークを加熱可能な加熱部を備えた熱処理装置に、前記ワークを所定の送り方向で前記加熱部に通過させて熱処理を行う熱処理方法であって、
前記送り方向で前記熱処理装置の上流側で前記ワークを送る上流側ロボットと、
前記送り方向で前記熱処理装置の下流側で前記ワークを受け取る下流側ロボットと、
前記上流側ロボット及び前記下流側ロボットにそれぞれ設けられ、前記ワークを把持可能な把持部と、前記ワークの端部を前記ワークの軸方向から保持可能な保持部とを備えた受け渡しハンドと、
前記熱処理装置の前記上流側に設けられ、前記ワークを、前記加熱部への搬入姿勢で支持可能な上流側ワーク支持手段と、
前記熱処理装置の前記下流側に設けられ、前記ワークを、前記加熱部からの搬出姿勢で支持可能な下流側ワーク支持手段と、を用い、
前記上流側ロボットが、前記受け渡しハンドの前記把持部によって前記ワークを把持し、前記ワークを前記上流側ワーク支持手段に支持させる工程と、
前記上流側ロボットが、前記受け渡しハンドの前記保持部によって前記ワークの前記上流側の端部を保持する工程と、
前記下流側ロボットが、前記受け渡しハンドの前記保持部によって前記ワークの前記下流側の端部を保持する工程と、
前記上流側ロボットと前記下流側ロボットとによって前記ワークを前記送り方向に移動させることで、前記ワークを前記加熱部に通過させて熱処理を行う工程と、
前記下流側ロボットが、前記加熱部を通過して前記下流側ワーク支持手段に支持された前記ワークを、前記受け渡しハンドの前記把持部によって搬出する工程と、
を実行することを特徴とする熱処理方法。
【請求項6】
前記ワークを挟持して前記ワークの歪みを抑制する歪み抑制装置が前記熱処理装置の下流側近傍に設けられ、
前記熱処理を行う工程の後、前記歪み抑制装置が、加熱された状態の前記ワークを挟持することで前記ワークの歪みを抑制する工程を実行することを特徴とする請求項5に記載の熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺状のワークの熱処理を行う熱処理システム及び熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ワークに焼き入れ等の熱処理を行うことで目的の性質を得る処理が知られている。従来より、様々な熱処理装置が広く利用されている中で、例えば、長尺状のワークに対して熱処理を行う熱処理装置として、一対のロボットアームに設けられたハンド部を用いてワークの長手方向両端部を把持した状態でワークを回転させながら、加熱コイルによってワークの熱処理を行う高周波焼入れ装置が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5029800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されているような高周焼入れ装置では、ワークの長手方向両端部をハンド部が把持する必要があるため、熱処理を行う箇所がワークの長手方向端部に至る場合、当該熱処理を行う事が困難である。
また、生産性の向上を目的に、熱処理前後におけるワークの搬入出を含めた自動化を実現することが望ましい。
【0005】
そこで、本発明の目的は、長尺状のワークの全長に渡って熱処理が可能であると共に、ワークの搬入出を含めた熱処理工程の自動化を実現することができる熱処理システム及び熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、長尺状のワークを加熱可能な加熱部を備えた熱処理装置に、ワークを所定の送り方向で加熱部に通過させて熱処理を行う熱処理システムであって、送り方向で熱処理装置の上流側で前記ワークを送る上流側ロボットと、送り方向で熱処理装置の下流側で前記ワークを受け取る下流側ロボットと、上流側ロボット及び下流側ロボットにそれぞれ設けられ、ワークを把持可能な把持部と、ワークの端部をワークの軸方向から保持可能な保持部とを備えた受け渡しハンドと、熱処理装置の上流側に設けられ、ワークを、加熱部への搬入姿勢で支持可能な上流側ワーク支持手段と、熱処理装置の下流側に設けられ、ワークを、加熱部からの搬出姿勢で支持可能な下流側ワーク支持手段と、を備え、上流側では、上流側ロボットが、受け渡しハンドの把持部によってワークを把持して、ワークを上流側ワーク支持手段に支持させた後、保持部によってワークの上流側の端部を保持する一方、下流側では、下流側ロボットが、受け渡しハンドの保持部によってワークの下流側の端部を保持し、上流側ロボットと下流側ロボットとによってワークを送り方向に移動させることで、ワークを加熱部に通過させて熱処理を行い、下流側ロボットは、加熱部を通過して下流側ワーク支持手段に支持されたワークを、受け渡しハンドの把持部によって搬出することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、熱処理前のワークを収納し、上流側ロボットによるワークの取り出しを許容する搬入部と、熱処理後のワークを収納し、下流側ロボットによる熱処理後のワークの返却を許容する搬出部とを備えるストッカを設けることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、熱処理装置が、高周波焼き入れ機であり、加熱部は、誘導加熱手段と冷却手段とを備えることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、熱処理装置によって加熱された状態のワークを挟持することでワークの歪みを抑制する歪み抑制装置を熱処理装置の下流側近傍に設けることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、長尺状のワークを加熱可能な加熱部を備えた熱処理装置に、ワークを所定の送り方向で加熱部に通過させて熱処理を行う熱処理方法であって、送り方向で熱処理装置の上流側で前記ワークを送る上流側ロボットと、送り方向で熱処理装置の下流側で前記ワークを受け取る下流側ロボットと、上流側ロボット及び下流側ロボットにそれぞれ設けられ、ワークを把持可能な把持部と、ワークの端部をワークの軸方向から保持可能な保持部とを備えた受け渡しハンドと、熱処理装置の上流側に設けられ、ワークを、加熱部への搬入姿勢で支持可能な上流側ワーク支持手段と、熱処理装置の下流側に設けられ、ワークを、加熱部からの搬出姿勢で支持可能な下流側ワーク支持手段と、を用い、上流側ロボットが、受け渡しハンドの把持部によってワークを把持し、ワークを上流側ワーク支持手段に支持させる工程と、上流側ロボットが、受け渡しハンドの保持部によってワークの上流側の端部を保持する工程と、下流側ロボットが、受け渡しハンドの保持部によってワークの下流側の端部を保持する工程と、上流側ロボットと下流側ロボットとによってワークを送り方向に移動させることで、ワークを加熱部に通過させて熱処理を行う工程と、下流側ロボットが、加熱部を通過して下流側ワーク支持手段に支持されたワークを、受け渡しハンドの把持部によって搬出する工程と、を実行することを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項5の構成において、ワークを挟持してワークの歪みを抑制する歪み抑制装置が熱処理装置の下流側近傍に設けられ、熱処理を行う工程の後、歪み抑制装置が、加熱された状態のワークを挟持することでワークの歪みを抑制する工程を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1及び5に記載の発明によれば、一対のロボットによって長尺状のワークの長手方向両端部を保持した状態で熱処理を行うため、ワークの長手方向全長に渡って熱処理を施すことができる。また、受け渡しハンドに把持部を設けたことで、ワークの搬入及び搬出をも上流側ロボット及び下流側ロボットが担うため、ワークの搬入出を含めた熱処理工程の自動化を実現できることから、生産性が向上する。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、ストッカに熱処理前のワーク及び熱処理後のワークを収納可能とすると共に、上流側ロボット及び下流側ロボットによるストッカへのワークの搬入出を許容したことで、システムの自動化を促進できる。また、搬入出を含むシステム全体の省スペース化を図ることができ、設置する際におけるレイアウトの自由度を向上させることができる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、ワークの搬入出を含めた高周波焼き入れ工程の自動化を実現でき、生産性を向上することができる。
請求項4及び6に記載の発明によれば、請求項1乃至3の何れか又は請求項5の効果に加え、加熱に起因して生じるワークの歪みを抑制することで、高い製品精度でワークに熱処理を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の熱処理システムを示す説明図である。
図2】上流側ロボットの受け渡しハンドを示す斜視図である。
図3】(A)は下流側ロボットの受け渡しハンドを示す斜視図、(B)は保持部の中央縦断面を示す断面図である。
図4】(A)はストッカを示す斜視図、(B)は側面図である。
図5図4(A)のA-A断面図における丸枠Bの部分を示す拡大図であって、(A)はワーク収納時を示す説明図、(B)はワーク排出直前を示す説明図、(C)はワーク排出時の説明図である。
図6】(A)は歪み抑制装置を示す斜視図、(B)は待機時の歪み抑制装置を示す側面図、(C)は作動時の歪み抑制装置を示す側面図である。
図7】(A)はキャリブレーション用治具を取り付けた下流側ロボットの受け渡しハンドを示す斜視図、(B)はキャリブレーション用治具を取り付けた上流側ロボットの受け渡しハンドを示す斜視図、(C)はキャリブレーション動作の説明図である。
図8】上流側ロボットが上流側ワーク支持手段にワークを支持させる工程を示す説明図である。
図9】一対のロボットがワークの長手方向両端部を保持する工程を示す説明図である。
図10】熱処理工程の最中を示す説明図である。
図11】熱処理工程の終盤を示す説明図である。
図12】下流側ロボットが下流側ワーク支持手段に支持されたワークを把持する工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、熱処理システムを示す説明図である。
図1に示すように、熱処理システム1は、任意の横断面形状を有する長尺筒状のワークWを加熱可能な加熱部9を備える熱処理装置2によって、ワークWを所定の送り方向で加熱部9に通過させて熱処理を行う。
以下、熱処理システム1の構成の説明において、熱処理装置2の右側を送り方向の上流側、左側を送り方向の下流側として説明する。
熱処理装置2の右側には、多関節型の上流側ロボット3が設けられ、左側には、多関節型の下流側ロボット4が設けられる。
熱処理装置2の正面には、ストッカ5が設けられ、熱処理装置2の右側には、上流側ワーク支持手段である3台の上流側置台6,6,6が設けられ、熱処理装置2の左側には、下流側ワーク支持手段である2台の下流側置台7,7が設けられる。各置台6,6,6,7,7の上部には、ローラRが設けられ、ワークWの移動を円滑に行えるようになっている。なお、上流側置台6,6,6及び下流側置台7,7は、任意の駆動手段によって上下動可能に設けられる。
また、熱処理装置2と最も熱処理装置側に配置された下流側置台7との間であって、熱処理装置2の左側の直近に、歪み抑制装置8が設けられている。
【0010】
本実施の形態において、熱処理装置2は高周波焼き入れ機であり、加熱部9は、送り方向を螺旋軸として設置された誘導加熱手段である加熱コイル9aと、送り方向に開口してワークWの通過を許容する冷却手段であるシャワージャケット9bと、カバー9cとを備える。熱処理装置として高周波焼き入れ機を用いることで、熱処理の強度調整の容易化や処理時間の短時間化等を実現することができる。また、ワークWの搬入出を含めた高周波焼き入れ工程の自動化を実現でき、生産性を向上することができる。
なお、シャワージャケット9bは、図示しないチラーに配管を介して接続されており、加熱されたワークWがシャワージャケット9bを通過する際、チラーからシャワージャケット9bに供給された水が、シャワージャケット9bの開口部に設けられた図示しないノズルからワークWに向けて吐出してワークWを冷却する。カバー9cによって、冷却時に使用された水が周囲に飛び散ることを防止している。
【0011】
図2は、上流側ロボットの受け渡しハンドを示す斜視図であり、図3(A)は、下流側ロボットの受け渡しハンドを示す斜視図、図3(B)は、保持部の中央縦断面を示す断面図である。
図2に示すように、上流側ロボット3の受け渡しハンド(以下、駆動ハンド10)には、図示しないチューブに接続された継手部11aを介して外部から供給されるエアを駆動源としてチャック11bを開閉可能な把持部11と、把持部11の垂直方向に延びる略棒状の保持部12とが基台14に設けられ、駆動ハンド10は、基台14の中央付近に設けられた連結部15で上流側ロボット3に連結されている。また、保持部12は、先細りテーパ状の先端部12aが形成されており、ワークWの端部に嵌合可能となっている。加えて、保持部12は、駆動モータ13によって、保持部12の軸方向を回転軸として回転可能である。
一方、図3(A),(B)に示すように、下流側ロボット4の受け渡しハンド(以下、従動ハンド16)には、図示しないチューブに接続された継手部17aを介して外部から供給されるエアを駆動源としてチャック17bを開閉可能な把持部17と、把持部17の垂直方向に延びる略棒状の保持部18とが基台22に設けられ、従動ハンド16は、基台22の中央付近に設けられた連結部23で下流側ロボット4に連結されている。従動ハンド16の保持部18は、棒状部19と、外筒20とに分けられ、棒状部19と外筒20との間にはコイルバネ等の付勢手段21が挿入され、棒状部19を外筒20からの突出方向に付勢している。棒状部19は、先細りテーパ状の先端部18aが形成されており、ワークWの端部に嵌合可能となっている。また、外筒20には、棒状部19から延びるシャフト19aが挿入されており、外筒20の下流ロボット側の外側でシャフト19aの端部には抜け止め19bが形成され、抜け止め19bが外筒20に当接することで、棒状部19は、外筒20からの突出状態で保持されている。このように棒状部19と外筒20との間に付勢手段21を挿入することで、熱処理によってワークWに生じる軸方向の熱膨張に起因する全長の変化分を吸収し、安定した稼働を可能とする。
【0012】
図4(A)は、ストッカを示す斜視図、図4(B)は側面図である。
図4(A),(B)に示すように、ストッカ5は、搬入部24と、搬出部27とを備える。搬入部24には、熱処理前のワークWを収納する第1のワーク収納部24aと、上方に開口する取り出し開口24bとが、前方から後方へ向けて下り傾斜して設けられ、ワークWは、下り傾斜に対して垂直に延びる向きで収納される。また、搬入部24には、第1のワーク収納部24aと取り出し開口24bとの間に、第1のワーク収納部24aに収納されたワークWを一つずつ取り出し開口24bへ送るための爪部25が設けられる。爪部25は、前後に並ぶ2つの爪25a,25bを具備し、爪25a,25bは、ワークWが後方へ流れることを妨げる第1の位置と、第1の位置から上方へ退避してワークWが後方へ流れることを許容する第2の位置との間で上下動可能となっている。また、取り出し開口24bへ流れてきたワークWの転落を防止し、取り出し開口24bにおいてワークWを保持するための受けブロック26が設けられる。
一方、搬出部27には、熱処理後のワークWを収納する第2のワーク収納部27aと、取り出し開口24bより後方で上方に開口する返却開口27bとが、後方から前方へ向けて下り傾斜して設けられる。
【0013】
図5(A)~(C)は、図4(A)のA-A断面図における丸枠Bの部分を示す拡大図であって、図5(A)は、収納時を示す説明図、(B)は、ワーク排出直前を示す説明図、(C)は、ワーク排出時の説明図である。
ここで、爪部25の動きを説明する。
図5(A)に示すように、ワークWの収納時において、爪部25は、爪25aが第1の位置をとり且つ前方の爪25bが第2の位置をとるため、爪25aが、最も後方にあるワークW1を保持すると共に、ワークW1の自重による第1のワーク収納部24aから取り出し開口24bへの移動を妨げている。
ワークW1を取り出し開口24bへ移動させるために、爪部25を作動させると、まず、図5(B)に示すように、爪25bは、第1の位置に移動する。この時、最も後方にあるワークW1が爪25aに保持されると共に、ワークW1のすぐ前方にあるワークW2も爪25bに保持される。続いて、図5(C)に示すように、爪25aは、図5(B)に示した状態から、第2の位置へ移動する。すると、ワークW2,W3,W4・・・を第1のワーク収納部24aに残したまま、矢印で示すように、ワークW1のみを取り出し開口24bへ移動させることができる。
これらの動作を繰り返すことで、第1のワーク収納部24aからワークWを一つずつ取り出し開口24bへ移動させることができるため、後述する上流側ロボット3によるワークWのストッカ5からの取り出しを円滑に行う事ができる。従って、熱処理システム1の搬入出を含めた自動化を促進できる。
【0014】
図6(A)は、歪み抑制装置を示す斜視図、図6(B)は、待機時の歪み抑制装置を示す側面図、図6(C)は、作動時の歪み抑制装置を示す側面図である。
図6(A)に示すように、歪み抑制装置8は、上方抑え部8aと、下方抑え部8bと、上方抑え部8a及び下方抑え部8bが取り付けられたスタンド8cとからなる。また、上方抑え部8a及び下方抑え部8bは、左右方向を回転軸として回転自在なローラRを2つずつ備えている。さらに、上方抑え部8a及び下方抑え部8bは、任意の駆動手段を用いて、スタンド8cの長手方向に沿って移動可能に取り付けられている。歪み抑制装置8の待機時には、図6(B)に示すように、下方抑え部8bは、上方抑え部8aとの間に大きな空間を擁した状態で待機し、歪み抑制装置8の作動時には、図6(C)に示すように、上方抑え部8aは下方へ、下方抑え部8bは上方へ移動し、各ローラRがワークWを挟持する。
熱処理装置2によって熱処理された直後のワークWは、その形状が歪み易い状態にあるため、歪み抑制装置8を熱処理装置2の下流側直近に設けることで、ワークWの歪みを抑制することができる。
【0015】
続いて、熱処理システム1を用いたワークWの熱処理方法について説明する。
図7(A)は、キャリブレーション用治具を取り付けた下流側ロボットの受け渡しハンドを示す斜視図、図7(B)は、キャリブレーション用治具を取り付けた上流側ロボットの受け渡しハンドを示す斜視図、図7(C)は、キャリブレーション動作の説明図である。
後述するように、熱処理時において、上流側ロボット3の動きに追従して下流側ロボット4が動くことから、ワークWの熱処理を行う前に、上流側ロボット3の駆動ハンド10と下流側ロボット4の従動ハンド16との位置合わせのためのキャリブレーション工程を実行する。
まず、図7(A),(B)に示すように、従動ハンド16にキャリブレーション用治具C1を、駆動ハンド10にキャリブレーション用治具C2を取り付ける。キャリブレーション用治具C1,C2は、先端に半円状の切欠部C1a,C2aが形成されている。
その後、図7(C)に示すように、上流側ロボット3及び下流側ロボット4を作動させてキャリブレーション用治具C1,C2の切欠部C1a,C2aを合わせることで、駆動ハンド10の位置と従動ハンド16の位置とのキャリブレーションを行う。
キャリブレーション工程終了後、キャリブレーション用治具C1,C2は、駆動ハンド10及び従動ハンド16から取り外す。
【0016】
図8は、上流側ロボットが上流側ワーク支持手段にワークを支持させる工程を示す説明図である。なお、以下の説明で用いる図8-12において、ストッカ5を省略しているが、実際には、図1に示す位置にストッカ5が配置されている。
まず、ストッカ5の爪部25を駆動させることで、1つのワークWが取り出し開口24bへ自重により移動する。
続いて、取り出し開口24bへ移動したワークWを、上流側ロボット3が、把持部11によって、ワークWの短手方向から把持し、上流側置台6,6,6の上方へ移動させ、搬入する。引き続き、上流側ロボット3は、図8に示すように、上流側置台6,6,6にワークWを支持させる。このようにして、上流側ロボット3が上流側置台6,6,6にワークを支持させる工程を実行する。この時、上流側ロボット3及び駆動ハンド10は、ワークWの軸方向が送り方向と一致した状態(搬入姿勢)となるようにワークWを把持する。さらに、上流側置台6,6,6は、後述するようにワークWを送る際、ワークWを支持するため、上昇した状態にある。
【0017】
図9は、一対のロボットがワークの長手方向両端部を保持した状態の熱処理システムを示す説明図である。
ワークWを上流側置台6,6,6に支持させた後、上流側ロボット3は、駆動ハンド10の保持部12の先端部12aを、ワークWの軸方向に沿ってワークWの長手方向一端部(図9における右側端部)に嵌合させ、左側へ向けてワークWを移動させる。
一方、下流側ロボット4は、従動ハンド16の保持部18の先端部18aが加熱部9を通過して右側へ突出した状態で待機している。この時、下流側置台7,7はそれぞれ、移動する従動ハンド16との干渉を避けるため、下方に移動した状態にある。
そして、上流側ロボット3は、図9に示すように、ワークWの長手方向他端部(図9における左側端部)が、待機している下流側ロボット4の保持部18の先端部18aに嵌合するまで、ワークWを移動させる。このようにして、上流側ロボット3及び下流側ロボット4が、ワークWの端部を軸方向から保持する工程を実行する。
ワークWの長手方向他端部を加熱部9の上流側で受け、ワークWの端部を軸方向から保持することで、ワークWを長手方向全長に渡って露出させることができる。
【0018】
図10は、熱処理工程の最中を示す説明図である。
次に、上流側ロボット3及び下流側ロボット4が連動し、ワークWの端部を軸方向から保持した状態で、送り方向の下流側である左方向へ向けて、ワークWの軸方向に沿って、ワークWを移動させる。この時、駆動ハンド10に設けられた駆動モータ13によって、保持部12を回転させることで、ワークWを、ワークWの軸方向を回転軸として回転させながら移動させることができる。ワークWの移動に際し、上流側置台6,6,6及び下流側置台7,7はそれぞれ、ワークWの移動と共に左方向へ移動する駆動ハンド10及び従動ハンド16との干渉を避けるため、ワークWの移動に合わせて下方へ移動する。駆動ハンド10及び従動ハンド16が各置台6,6,6,7,7の上方を通過し、それぞれが干渉しない状態になると、各置台6,6,6,7,7はそれぞれ個別に上昇して、ワークWを支持できる位置に戻る。
上述のように、一対のロボット3,4によって両端部を保持され、回転しながら移動するワークWは、図10に示すように、加熱部9を通過する際、加熱コイル9aによって加熱され、熱処理行程が実行される。また、ワークWの熱処理と同時に、加熱コイル9aの下流側では、シャワージャケット9bに供給された水が熱処理直後のワークWへ向けて吐出による冷却が随時行われる。熱処理によってワークWに生じる軸方向の熱膨張に起因する全長の変化分は、従動ハンド16の付勢手段21によって吸収されるため、安定した稼働が可能である。
一方、熱処理装置2の下流側では、歪み抑制装置8が作動してワークWを挟持し、熱処理によって生じるワークWの歪みを抑制している。このように、加熱に起因して生じるワークWの歪みを抑制することで、高い製品精度でワークWに熱処理を施すことができる。
【0019】
図11は、熱処理工程の終盤を示す説明図である。
上述のように熱処理工程が実行され、図11に示すように、下流側ロボット4と下流側置台7,7とが干渉しない位置までワークWが移動すると、下流側置台7,7は上昇し、下方からワークWを支持する。
その後、ワークWの熱処理が終了すると、上流側ロボット3及び下流側ロボット4は、熱処理後のワークWを下流側置台7,7上に載置した状態で、ワークWの両端部を開放する。
【0020】
図12は、下流側ロボットが下流側ワーク支持手段に支持されたワークを把持する工程を示す説明図である。
下流側置台7,7上に載置されたワークWは、図12に示すように、下流側ロボット4の把持部17によって把持され、引き続きストッカ5の返却開口27bへ搬出される。この時、下流側ロボット4及び従動ハンド16は、ワークWの軸方向が送り方向と一致した状態(搬出姿勢)となるようにワークWを把持する。返却開口27bに運び込まれたワークWは、第2のワーク収納部27aの傾斜により前方へ向けて自重により移動することで、返却開口27bに空きが生じ、次の熱処理後のワークWを受け入れ可能となる。
一方、上流側ロボット3は、下流側ロボット4によるワークWのストッカ5への搬出とほぼ同時に、取り出し開口24bから新たなワークWを搬入してもよい。つまり、上流側ロボット3によるワークWの搬入と下流側ロボット4によるワークWの搬出とをほぼ同時に行い、連続してワークWの熱処理を行うことで、生産性を向上させることができる。
【0021】
上述のように、ワークWの搬入及び搬出を含めた熱処理工程を上流側ロボット3及び下流側ロボット4を用いることで自動化できるため、生産性が向上する。
また、ストッカ5に熱処理前のワークW及び熱処理後のワークWを収納可能とすると共に、上流側ロボット3及び下流側ロボット4によるワークWの搬入出を許容したことで、より生産性を向上できる。
【0022】
上記形態の熱処理システム1は、長尺筒状のワークWを加熱可能な加熱部9を備えた熱処理装置2に、ワークWを送り方向で加熱部9に通過させて熱処理を行うものであって、熱処理装置2の上流側で前記ワークを送る上流側ロボット3と、熱処理装置2の下流側で前記ワークを受け取る下流側ロボット4と、上流側ロボット3及び下流側ロボット4にそれぞれ設けられ、ワークWを把持可能な把持部11,17と、ワークWの端部をワークWの軸方向から保持可能な保持部12,18とを備えた駆動ハンド10及び従動ハンド16と、熱処理装置2の上流側に設けられ、ワークWを、加熱部9への搬入姿勢で支持可能な上流側置台6,6,6と、熱処理装置2の下流側に設けられ、ワークWを、加熱部9からの搬出姿勢で支持可能な下流側置台7,7と、を備え、上流側では、上流側ロボット3が、駆動ハンド10の把持部11によってワークWを把持して、ワークWを上流側置台6,6,6に支持させた後、保持部12によってワークWの上流側の端部を保持する一方、下流側では、下流側ロボット4が、従動ハンド16の保持部18によってワークWの下流側の端部を保持し、上流側ロボット3と下流側ロボット4とによってワークWを送り方向に移動させることで、ワークWを加熱部9に通過させて熱処理を行い、下流側ロボット4は、加熱部9を通過して下流側置台7,7に支持されたワークWを、従動ハンド16の把持部17によって搬出する。
このようにして構成される熱処理システム1によれば、一対のロボット3,4によって長尺筒状のワークWの長手方向両端部を保持した状態で熱処理を行うため、ワークWの長手方向全長に渡って熱処理を施すことができる。また、駆動ハンド10及び従動ハンド16に把持部11,17を設けた事で、ワークWの搬入及び搬出をも上流側ロボット3及び下流側ロボット4が担うため、ワークWの搬入出を含めた熱処理工程の自動化を実現できることから、生産性が向上する。
【0023】
また、熱処理前のワークWを収納し、上流側ロボット3によるワークWの取り出しを許容する搬入部24と、熱処理後のワークWを収納し、下流側ロボット4による熱処理後のワークWの返却を許容する搬出部27とを備えるストッカ5を設ける。
よって、ストッカ5に熱処理前のワークW及び熱処理後のワークWを収納可能とすると共に、上流側ロボット3及び下流側ロボット4によるストッカ5へのワークWの搬入出を許容したことで、システムの自動化を促進できる。また、搬入出を含むシステム全体の省スペース化を図ることができ、設置する際におけるレイアウトの自由度を向上させることができる。
【0024】
また、熱処理装置2が、高周波焼き入れ機であり、加熱部9は、加熱コイル9aとシャワージャケット9bとを備える。
よって、ワークWの搬入出を含めた高周波焼き入れ工程の自動化を実現でき、生産性を向上することができる。
【0025】
また、熱処理装置2によって加熱された状態のワークWを挟持することでワークWの歪みを抑制する歪み抑制装置8を熱処理装置2の下流側近傍に設ける。
よって、加熱に起因して生じるワークWの歪みを抑制することで、高い製品精度でワークWに熱処理を施すことができる。
【0026】
以上は、本発明を図示例に基づいて説明したものであり、その技術範囲はこれに限定されるものではない。
例えば、熱処理装置は、焼き入れ機に限定されず、焼き戻し機や焼き鈍し機、焼きならし機であっても良い。
また、加熱コイルの巻数や径、長さ等は任意に設定可能である。
また、加熱部は、ワークに対して所望の熱処理を行うことができるものであれば良く、レーザ加熱器等を用いても良い。
また、上流側ロボット及び下流側ロボットは、ワークの搬入出を含めた熱処理工程を自動で行うことができれば、その構造や駆動方法は限定されず、また、熱処理装置に対する配置も任意に設定可能である。
また、受け渡しハンドの把持部は、ワークの把持が可能であれば、エア以外の駆動源を利用しても良い。
また、受け渡しハンドの形状は、任意に設計可能であり、例えば、保持部が把持部の対向方向に延びる等しても良い。さらに、受け渡しハンドは、保持部及び把持部以外に、全く異なる機能を発揮する部位を備えていても良い。
また、ワークの送り方向は、適宜、設定可能であり、傾斜があっても良い。
また、上流側ワーク支持手段及び下流側ワーク支持手段は、置台以外のものを用いても良いし、複数種類のワーク支持手段の組み合わせであっても良い。
【符号の説明】
【0027】
1・・熱処理システム、2・・熱処理装置、3・・上流側ロボット、4・・下流側ロボット、5・・ストッカ、6・・上流側置台、7・・下流側置台、8・・歪み抑制装置、9・・加熱部、10・・駆動ハンド、11・・把持部、12・・保持部、16・・従動ハンド、17・・把持部、18・・保持部、W・・ワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12