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特許7448940気液混相流解析方法、気液混相流解析装置及びコンピュータプログラム
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  • 特許-気液混相流解析方法、気液混相流解析装置及びコンピュータプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】気液混相流解析方法、気液混相流解析装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/28 20200101AFI20240306BHJP
   G06F 113/08 20200101ALN20240306BHJP
【FI】
G06F30/28
G06F113:08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020042144
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021144425
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】596120717
【氏名又は名称】株式会社アールフロー
(74)【代理人】
【識別番号】100182349
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 誠治
(72)【発明者】
【氏名】竹田 宏
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-013424(JP,A)
【文献】特開2013-045423(JP,A)
【文献】特開2014-146096(JP,A)
【文献】GIMBUN, J. et al.,Modeling of mass transfer in gas-liquid stirred tanks agitated by Rushton turbine and CD-6 impeller: A scale-up study,Chemical Engineering Research and Design,Vol. 87,Elsevier,2009年,pp. 437-451
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
G16Z 99/00
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡群に対する流体抵抗モデルであるCD,group=Fgroup CD(CD,groupは気泡群に対する流体抵抗係数、Fgroup=1/(1-α)(n=1.5~3))を拡張することにより、気液混相流解析を行うための気液混相流解析方法であって、
気泡のクラスター化による気泡が受ける流体抵抗の減少割合であるFcluster(≦1)を用いて、気泡群に対する流体抵抗モデルをCD,group=Fcluster Fgroup CDと拡張する拡張ステップと、
Fclusterは気泡体積占有率αにのみ依存する関数として、Fcluster=f(α)(≦1)と仮定する仮定ステップと、
実験データを用いてf(α)を近似する近似ステップと、
を含むことを特徴とする、気液混相流解析方法。
【請求項2】
前記近似ステップにおいて、
気泡塔内の気泡体積占有率の平均値と空塔速度の関係を記述する近似式αav= 3f(αav)Fgroup CDρl vs /(4|g||ρbl|db)
(ここで、αavは気泡体積占有率の平均値、Cは流体抵抗係数、ρは液密度、vsは気泡塔の断面積あたりの通気量(空塔速度)、gは重力加速度、ρは気泡密度、dは気泡径)
を用いてf(α)を近似することを特徴とする、請求項1に記載の気液混相流解析方法。
【請求項3】
気泡塔における気液混相流解析を行うための気液混相流解析装置であって、
請求項1又は2に記載の気液混相流解析方法を実行可能な演算部を備えたことを特徴とする、気液混相流解析装置。
【請求項4】
コンピュータを請求項3に記載の気液混相流解析装置として機能させるためのコンピュータプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液混相流解析方法、気液混相流解析装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の気液混相流解析方法の概略について説明する。気泡塔、通気攪拌槽をはじめとする気液混相流に対する流体解析手法は、気泡の大きさと解析に用いる計算格子巾との大小関係から2つのタイプに大別される(非特許文献1、2参照)。一つは図3(a)に示したように、気泡よりも小さな計算格子を用いて解析する手法で、直接解法と呼ばれる。もう一つは、図3(b)に示したように、気泡よりも大きな計算格子を用いて解析する手法で、直接解法に比べて計算負荷が小さく、多数の気泡を取り扱えることから、工業的にはこちらの手法の方が広く用いられている。以下、後者の解析手法のことを、便宜上、間接解法と称する。
【0003】
間接解法は、さらに、個々の気泡に対する運動方程式を解くオイラー・ラグランジュ法(以下、ラグランジュ法と称する。)と、多数の気泡の集合体を連続体とみなして解析するオイラー・オイラー法(以下、オイラー法と称する。)の2種類に分類される。なお、オイラー法は2流体モデルとも称される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】化学工学便覧七版(P190-198)
【文献】竹田宏:「流体移動解析」6章、朝倉書店(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の直接解法と間接解法にはいずれも問題があった。図4は気液混相流解析方法の特徴をまとめた図である。図4に示したように、直接解法では気泡表面での流体圧と速度勾配が計算結果として直接求まるため、気泡が流体から受ける力については付加的なモデル無しで計算できるという利点がある。しかし、計算負荷が大きいため、扱える気泡の数が限られてくるという問題があった。
【0006】
一方、間接解法であるラグランジュ法とオイラー法は、直接解法に比べると多くの気泡を扱うことができるため、実用の気液混相流解析では、間接解法を用いることが多い。ただ、間接解法では、気泡が流体から受ける力を直接計算結果から求めることができないため、気泡と液体間の相互作用を評価するための気泡の流体抵抗モデルを構築し、支配方程式に付加する必要がある。
【0007】
一般に、多くの気泡が液体中に分散するときの気泡群に対する流体抵抗係数は、単一気泡に対する流体抵抗係数と、液体中の気泡の体積割合(α)を関数とする補正ファクターの積として表される。気泡の体積割合(α)が数%程度までのそれ程気泡が多くない場合には、このような従来の流体抵抗モデルによって実現象が概ね再現できる。それに対し、気泡の体積割合(α)が10%程度を越えてくると、気泡がクラスター化することにより、従来の気泡抵抗モデルを用いた場合には、実現象との乖離が大きくなることが指摘されている(非特許文献3~7参照)。そのため、気泡の体積割合(α)が10%を越える場合に適用可能な新たな気泡のクラスター化を前提とした気泡群に対する流体抵抗モデルを構築する必要がある。
【0008】
そこで本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、気泡の体積割合(α)が10%を越えるような場合にも適用可能な気泡クラスターを含む気泡群に対する流体抵抗モデルを新たに提供し、この流体抵抗モデルを用いた気液混相流解析方法、気液混相流解析装置及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によれば、気泡群に対する流体抵抗モデルであるCD,group=Fgroup CD(CD,groupは気泡群に対する流体抵抗係数、Fgroup=1/(1-α)(n=1.5~3))を拡張することにより、気泡塔における気液混相流解析を行うための気液混相流解析方法であって、
気泡のクラスター化による気泡が受ける流体抵抗の減少割合であるFcluster(≦1)を用いて、気泡群に対する流体抵抗モデルをCD,group=Fcluster Fgroup CDと拡張する拡張ステップと、
Fclusterは気泡体積占有率αにのみ依存する関数として、Fcluster=f(α)(≦1)と仮定する仮定ステップと、
実験データを用いてf(α)を近似する近似ステップと、
を含むことを特徴とする、気液混相流解析方法が提供される。
【0010】
前記近似ステップにおいて、
気泡塔内の気泡体積占有率の平均値と空塔速度の関係を記述する近似式αav= 3f(αav)Fgroup CDρl vs /(4|g||ρbl|db)
(ここで、αavは気泡体積占有率の平均値、Cは流体抵抗係数、ρは液密度、vsは気泡塔の断面積あたりの通気量(空塔速度)、gは重力加速度、ρは気泡密度、dは気泡径)
を用いてf(α)を決定してもよい。
【0011】
本発明によれば、従来のオイラー・オイラー法による気液混相流解析において気泡クラスターを考慮することができ、気液混相流解析をより適切に行うことが可能である。特に、空塔速度が大きく、気泡体積占有率が10%程度を越える場合の気液混相流解析をより適切に行うことが可能である。
【0012】
本発明の第2の観点によれば、気泡塔における気液混相流解析を行うための気液混相流解析装置であって、本発明の第1の観点にかかる気液混相流解析方法を実行可能な演算部を備えたことを特徴とする、気液混相流解析装置が提供される。
【0013】
本発明の第3の観点によれば、コンピュータを本発明の第2の観点にかかる気液混相流解析装置として機能させるためのコンピュータプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、気液混相流解析をより適切に行うことが可能な気液混相流解析方法、気液混相流解析装置及びコンピュータプログラムが提供される。本発明のその他の効果については、以下の発明を実施するための形態の項でも説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態における空塔速度と気泡体積占有率の関係をグラフで示す図である。
図2】水空気系2次元気泡塔に対するオイラーモデルによる気液混相流解析事例を示す図である。
図3】直接解法と間接解法を比較する図であり、(a)は直接解法における気泡と計算格子との大きさの関係を示し、(b)はオイラー・ラグランジュ法(ラグランジュ法)、オイラー・オイラー法(オイラー法)における気泡と計算格子との関係を示す。
図4】気液混相流解析方法の特徴を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
本発明の一実施形態について、図1及び図2を参照しながら説明する。本実施形態の説明において、上記非特許文献1、2のほか、以下の非特許文献3~7を参照する。
[非特許文献3]原子炉における熱流動数値解析の現状(3) p.28 (1988)
[非特許文献4]J. Gimbun, C.D. Rielly, Z.K. Nagy:Chemical Engineering Research and Design 87, 437-451 (2009)
[非特許文献5]竹田宏:ケミカル・エンジニアリング, 3, 226-232 (2004)
[非特許文献6]Takeda, T., N. Esaki, K. Doi, H. Murakami, K. Yamasaki and Y. Kawase:Journal of Chemical Engineering of Japan, 37, 976-989 (2004)
[非特許文献7]Hills J. H.: Trans. Instn Chem. Engrs., 52, 1-9 (1974)
【0018】
(A)気泡に対する運動方程式
気液混相流を対象とする流体解析では、液体と気泡それぞれに対しての運動量保存則と連続の式を導出して解く。これらの支配方程式の内、気泡に対する運動量保存則(運動方程式)は下記の式(1)のように記述される。
【0019】
αρb(∂vb/∂t+vb・∇vb)=-α∇p+αρbg+α(1-α)β(vl-vb) (1)
【0020】
ここに、α:気泡の体積占有率(0≦α≦1),v:気泡速度,v:液速度,ρ:気泡密度,p:圧力,g:重力加速度,β:気泡流体間運動量交換係数である。
【0021】
なお、式(1)において、拡散項、揚力項、仮想質量項等は、簡単のため、省略してある。式(1)の右辺のβを含む項が気泡と液体間の運動量交換を表す項で、間接解法においては、βを別途モデル化した上でこの項を評価する必要がある。
【0022】
(B)気泡の流体抵抗モデル
式(1)中の気泡流体間運動量交換係数βは、気泡の流体抵抗係数を用いて、次の式(2)のように記述される。
【0023】
β=3 CD,groupρl|vb-vl|/(4db) (2)
【0024】
ここにCD,group:気泡群に対する流体抵抗係数,ρ:液密度,d:気泡径である。
【0025】
気泡群に対する流体抵抗係数CD,groupは、一般に単一気泡に対する流体抵抗係数よりも大きくなることが知られている(非特許文献3参照)。これは、多数の気泡の存在により液が通過できる流路が狭まり、液流速が大きくなることに加えて、液が気泡の合間を縫うように流れることにより気泡にかかる流体抵抗が増大するためである。気泡群に対する流体抵抗係数CD,groupは、単一気泡に対する流体抵抗係数Cを用いて、次の式(3)のように近似されることが多い(非特許文献3参照)。
【0026】
CD,group=Fgroup CD
Fgroup=1/(1-α)(n=1.5~3) (3)
【0027】
式(3)に従うと、気泡群に対する流体抵抗は、気泡の体積占有率αが大きくなるにつれて、単一気泡に対する抵抗よりも次第に大きくなる。なお、気泡群の影響を液の体積占有率(=1-α)のべき乗で近似する式(3)を用いる方法以外に、αのより複雑な関数で近似する方法も提案されているが(非特許文献4参照)、CD,groupが単一気泡に対する抵抗係数Cよりも大きくなるという点では変わりない。
【0028】
単一気泡に対する流体抵抗係数Cについては、気泡変形が無視できる場合の単一剛体球に対する流体抵抗モデルである以下の式(4)
【0029】
CD,rigid=max(16(1 + 0.15Re0.687)/Rep,0.44)
Rep=ρc|vd-vc|dpd (4)
【0030】
と、気泡変形による抵抗の増加を考慮した流体抵抗モデルである以下の式(5)
【0031】
CD,Eo=(8/3)Eo/(Eo+4)
Eo=(ρc―ρd) |g|dp 2/σ (エドベス数)、σ:表面張力 (5)
【0032】
を用いて、以下の式(6)のように近似することが多い(非特許文献1、2参照)。
【0033】
CD=max(CD0, CD,Eo) (6)
【0034】
なお、気泡径が大きくなり、気泡変形の影響が強くなると、E>>1となることから、式(5)よりCD,EOは8/3に漸近する。そのため、気泡径が大きくなると、気泡径によらず、気泡の流体抵抗係数は一定値に近づくことになる。
【0035】
代表的な気液混相流である気泡塔では、通気量がある一定値(空塔速度ベースで0.1m/s程度)以上では、通気量が多くなっても気泡塔内の気泡割合はそれ程増えずに、ほぼ頭打ちになることが知られている。今、液体中の気泡の上昇速度(液に対する気泡の相対速度)をvとすると、vはCD,groupを用いて、以下の式(7)と表される(非特許文献6参照)。
【0036】
vr = 4|g| |ρbl| db/(3CD,groupρl) (7)
【0037】
さらに、気泡塔内に存在する液面においては、鉛直方向液流速成分は平均的には0であることから、気泡が液面から抜け出る量は、液面での気泡の体積占有率αsを用いて、単位面積当たりvαと表すことができる。定常状態では、液面から抜け出る気泡の量は、空塔速度v(=気泡塔の断面積あたりの通気量)と釣り合うことから、以下の式(8)が成り立つ。
【0038】
vrαs = vs (8)
【0039】
なお、気泡塔内での気泡体積占率は、通常、それ程大きな空間分布を持たないため、液面での気泡体積占有率αsを気泡塔内の気泡体積占有率の平均値αavに等しいと仮定すると、式(8)は、以下の式(9)と書き換えられる。
【0040】
vrαav= vs (9)
【0041】
式(7)と式(9)からvを消去すると、αavに対する次式(10)が得られる。
【0042】
αav= 3CD,groupρl vs /(4|g||ρbl|db) (10)
【0043】
式(10)より、通気量、すなわち空塔速度vが大きくなっても気泡体積占率αが一定値以上に大きくならないためには、CD,groupがvに反比例して小さくならなければならないことがわかる。
【0044】
しかしながら、上記気泡の流体抵抗モデルを用いると、空塔速度が大きくなるにしたがって気泡塔内の気泡体積占有率も大きくなり、その結果、式(3)から気泡群に対する抵抗はますます大きくなり、式(10)よりαavのさらなる増加につながることになる。なお、空塔速度が大きくなると、気泡塔内で気泡の合一が起きる結果、気泡径が大きくなることにより、気泡が受ける流体抵抗が小さくなると考える向きもあるが、式(5)に関連して述べたように、気泡径が大きくなると、実際には気泡変形の影響により流体抵抗の低下は頭打ちになるため、上述の指摘は当てはまらない。このように、従来用いられてきた気泡の流体抵抗モデルでは、空塔速度がある一定以上に大きくなった場合の空塔速度と気泡割合との実現象における関係を再現することができないという問題があった。
【0045】
(C)気泡クラスター流体抵抗モデル
空塔速度が一定以上に大きくなった場合に、気泡塔内の気泡割合が空塔速度によらずほぼ頭打ちになるという実験事実を気液混相流解析で再現するために、気泡クラスターの考え方が導入されている(非特許文献5、6参照)。気泡クラスターとは、多数の気泡が空間的に集中的に局在化することにより、あたかも一つの大きな気泡のように振る舞う気泡群のことである。
【0046】
大きな単一気泡と気泡クラスターの違いは、単一気泡の場合は、気泡径が大きくなると気泡変形の影響により流体抵抗が一定値以下には下がらなくなるのに対し、小さな気泡の集合体である気泡クラスターでは、クラスターが大きくなっても個々の気泡は変形しないために流体抵抗が気泡変形による影響を受けることなく、クラスター径が大きくなるにつれて流体抵抗が低下し、液中を速く上昇するようになる点にある。実際、非特許文献5、6では、気泡クラスターに対する流体抵抗モデルを導入することにより、空塔速度が一定以上に大きくなった場合でも、気泡クラスターが気泡塔内を速く上昇して液面から抜け出ることにより気泡体積占有率の増加が抑えられ、解析結果が実験結果をある程度再現できることが確認されている。
【0047】
ただ、非特許文献5、6では、多数の気泡群の中から気泡クラスターを抽出するために、個々の気泡の挙動を解析するラグランジュ法を用い、すべての気泡同士の接触状態を把握した上で、数珠つなぎ状態にある気泡の集合体を一つのクラスターとみなすという計算を行っている。その結果、解析に要する計算時間が膨大となることから、実用の解析には必ずしも向いていない。そのため、ラグランジュ法よりも計算負荷の小さいオイラー法をベースとした気泡クラスターモデルの導入が実用上不可欠となる。しかしながら、これまで、オイラー法を前提とした気泡クラスターの影響を考慮した流体抵抗モデルは存在せず、空塔速度が大きい場合の気液混相流解析を行うことは事実上困難であった。
【0048】
(D)流体抵抗モデルの拡張(気泡クラスター流体抵抗モデル)
オイラー法で気泡クラスターの影響を取り込むために、気泡群に対する流体抵抗モデルである式(3)を下記の式(11)のように拡張する。
【0049】
CD,group=Fcluster Fgroup CD (11)
【0050】
ここに、Fclusterは気泡のクラスター化による気泡が受ける流体抵抗の減少割合で、気泡クラスターではクラスター化していない気泡よりも流体抵抗が低下することから、Fcluster≦1となる。ここで、さらに、式(3)のFgroupと同様、Fclusterは気泡体積占有率αにのみ依存すると仮定し、Fcluster=f(α)(≦1)とおくと、以下の式(12)となる。
【0051】
CD,group=f(α)Fgroup CD (12)
【0052】
なお、気泡クラスターを考慮しない場合の流体抵抗係数にαの関数で表されるファクターを掛けることにより気泡クラスターに対する抵抗係数を表すという方法は、単一気泡に対する流体抵抗係数にαの関数として表されるファクターを掛けることにより式(3)の気泡群に対する抵抗係数を表すという方法と類似しているが、式(3)が気泡群効果による流体抵抗の増加を表すためのモデルでFgroup≧1であるのに対し、式(12)はクラスター化に伴う流体抵抗の低下を表すためのモデルでFcluster≦1となっている点が異なっている。式(10)に、式(12)においてαをαavで置き換えた式を代入すると、以下の式(13)が得られる。
【0053】
αav= 3f(αav)Fgroup CDρl vs /(4|g||ρbl|db) (13)
【0054】
式(13)は気泡塔内の気泡体積占有率の平均値と空塔速度の関係を記述する式で、右辺はf(αav)以外すべて既知となっている。なお、上記関係については非特許文献7をはじめとして実験データが存在することから、式(13)で記述される気泡体積占有率と空塔速度の関係が実験データに合うようにf(α)の関数形を決定することができる。
【0055】
図1は、このような手順により算出したf(α)を用いて、水空気系(気泡径6mm)での空塔速度と気泡体積占有率の関係を表したグラフである。すなわち、図1は、水空気系の気泡塔実験(非特許文献7参照)から得られた空塔速度と気泡体積占有率(α)との関係(四角印)と、実験結果を利用したフィッティングにより求めた式(14)で記述されるf(α)と式(7)により求めた空塔速度と、気泡体積占有率の関係(実線)を示す図である。f(α)については、式(13)により規定される空塔速度と気泡体積占有率の関係が、実験データ(非特許文献7参照)に合うように下記式(14)のように求めている。
【0056】
f(α)=1(0≦α≦0.07)
f(α)=1-0.7r3,r=(α-0.07)/(0.25-0.07) (0.07≦α≦0.25) (14)
【0057】
実際、図1を参照すると、式(14)のf(α)と式(13)により求めた空塔速度と気泡体積占有率の関係(実線)は実験データ(四角印)とほぼ合っている。なお、上記f(α)を求めるにあたっては、式(2)におけるFgroupについてもn=1.5としてαが0.1以下の範囲で考慮している。
【0058】
(E)解析事例
図2は、上記気泡クラスター流体抵抗モデルの効果を検証するために行った2次元気泡塔に対する気液混相流解析結果である。すなわち、図2は、水空気系2次元気泡塔に対するオイラーモデルによる気液混相流解析事例を示す図であり、気泡塔の横幅は0.26m、液深1.2m、空塔速度0.1m/s、気泡径6mmである。図中の左から、気泡クラスター流体抵抗モデルを考慮した場合のある瞬間の液流速分布、気泡体積占有率(α)分布、気泡クラスター流体抵抗モデルを考慮しなかった場合の液流速分布、気泡体積占有率(α)分布である。気泡クラスター流体抵抗モデルを考慮した場合の気泡体積占有率の平均値はαav=0.22、一方、気泡クラスター流体抵抗モデルを考慮しなかった場合の気泡体積占有率の平均値はαav=0.54を示す。
【0059】
ただし、f(α)を算出する際に用いた非特許文献7には、α≧0.25における実験データがないため、α≧0.25でのf(α)については、外挿により適宜決めた。また、比較のために、上記気泡クラスター流体抵抗モデルを考慮しなかった場合の解析結果についても、並べて示してある。
【0060】
図2を参照すると、気泡クラスター流体抵抗モデルを導入したことにより、気泡クラスターが再現されていることがわかる。
【0061】
また、気泡体積占有率についても気泡クラスター流体抵抗モデルを用いなかった場合の平均値はαav=0.54と、通常想定される値を大きく超えているのに対し、気泡クラスター流体抵抗モデルを用いた場合は、αav=0.22とほぼ妥当な値にまで低下していることがわかる。これらのことから、オイラー法による気液混相流解析においても、上記気泡クラスター流体抵抗モデルを用いることにより、これまで解析が困難とされてきた通気量の多い場合の実現象が概ね再現できることが確認された。
【0062】
以上、本実施形態にかかる気液混相流解析方法について説明した。本実施形態の気液混相流解析方法は、専用の装置(気液混相流解析装置)によって実行してもよい。かかる気液混相流解析装置は、演算部を備える。そして、かかる演算部は、本実施形態で説明した気液混相流解析方法を実行することができる。
【0063】
また、専用の装置ではなく、汎用のコンピュータに所定のコンピュータプログラムを組み込むことによって、コンピュータを、上述したような気液混相流解析装置として機能させてもよい。かかるコンピュータプログラムは、CR-ROM、DVD-ROM、半導体メディアなどの各種記憶媒体に格納された形で市場を流通させることができる。また、様々なネットワークを介した伝達、例えばインターネットを介したダウンロードによって市場を流通させるようにしてもよい。
【0064】
(本実施形態の効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、気液混相流解析をより適切に行うことが可能である。特に、空塔速度が大きい場合の気液混相流解析をより適切に行うことが可能である。
【0065】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
図1
図2
図3
図4