(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】揮発性有機化合物分析装置及び揮発性有機化合物の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/12 20060101AFI20240306BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20240306BHJP
G01N 30/54 20060101ALI20240306BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20240306BHJP
G01N 30/60 20060101ALI20240306BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
G01N30/12 Z
G01N30/72 A
G01N30/54 F
G01N30/88 G
G01N30/88 C
G01N30/60 K
G01N30/26 M
(21)【出願番号】P 2020138696
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】591113275
【氏名又は名称】日本分析工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】大栗 直毅
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-337158(JP,A)
【文献】特開平08-313508(JP,A)
【文献】特開平06-180306(JP,A)
【文献】特開平01-203970(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0097748(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
G01N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加温部を有し、試料が導入される試料導入部と、
第一流路変更部を介して前記試料導入部と接続され、RFコイルを有し、前記試料に含まれる揮発性有機化合物を吸着させる吸着部と、
第二流路変更部が設けられた第一流路を介して、前記吸着部と接続されたポンプ部と、
前記第一流路変更部を介して、前記試料導入部及び前記吸着部が接続され、キャピラリーカラムと、このキャピラリーカラムに直接通電された恒温部とを有し、前記第一流路と連結された第二流路が接続されたガスクロマトグラフ質量分析部と、
前記第二流路変更部よりも前記ポンプ部側に設けられた第三流路変更部を介して、前記第一流路に接続されたパージガス導入部と、
第四流路変更部を介して、前記第二流路に接続されたキャリアガス導入部と、
を備える、
ことを特徴とする揮発性有機化合物分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の揮発性有機化合物分析装置を使用した揮発性有機化合物の分析方法であって、
前記第二流路を介して、前記キャリアガス導入部から、キャリアガスを前記ガスクロマトグラフ質量分析部に流すとともに、前記ポンプ部によって、前記第一流路及び前記吸着部を負圧状態とすることで、前記揮発性有機化合物を前記吸着部に誘導し、前記吸着部に吸着させる第一工程と、
前記第一工程後、前記吸着部の前記負圧状態を解除し、前記第二流路及び前記第一流路を介して、前記パージガス導入部から、前記吸着部にパージガスを流すことで、前記吸着部に混流した大気を前記試料導入部から外部に排出させる第二工程と、
前記第二工程後、前記第二流路及び前記第一流路を介して、前記キャリアガス導入部から、前記吸着部に前記
キャリアガスを流し、前記吸着部から前記揮発性有機化合物を脱離させるとともに、この脱離した揮発性有機化合物を、前記第一流路変更部を介して、前記ガスクロマトグラフ質量分析部に導入させ、分析する第三工程と、を含む、
ことを特徴とする揮発性有機化合物の分析方法。
【請求項3】
前記第三工程において、前記RFコイルにより、少なくとも前記吸着部をキュリー点まで加熱し、前記吸着部から前記揮発性有機化合物を脱離させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の揮発性有機化合物の分析方法。
【請求項4】
前記恒温部により、前記キャピラリーカラムの昇温又は降温を調整する、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の揮発性有機化合物の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、迅速に揮発性有機化合物を分析できる揮発性有機化合物分析装置及び揮発性有機化合物の分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、揮発性有機化合物は、社会に広く認知され、問題とされている。揮発性有機化合物とは、常温常圧下の大気中で、容易に揮発する有機化合物の総称であり、例えば、酢酸エチル、トルエン、ベンゼン、ジクロロメタンが挙げられる。これらの化合物は、環境中へ放出されると、公害などの健康被害を引き起こす場合がある。また、揮発性有機化合物には、食品添加物として使用されているものもある。このような状況において、揮発性有機化合物の定量分析や定性分析の重要性が大きくなってきている。
これまで、揮発性有機化合物を分析する揮発性有機化合物の分析方法や揮発性有機化合物分析装置が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
揮発性有機化合物の分析では、結果が迅速に分かること及び検出精度が高いことが強く望まれている。
しかし、従来の揮発性有機化合物分析装置では、例えば、ガスクロマトグラフ質量分析装置の内部に設けられたカラムを昇温する時間又は降温する時間が長くかかっていた。そのため、その場、分析結果を迅速に知ることは困難であった。また、揮発性有機化合物を分析する際、大気が混流してしまい、装置に不具合が生じてしまったり、検出精度が低下してしまったりすることもあった。
【0005】
そこで、本発明は、揮発性有機化合物を迅速に分析可能な揮発性有機化合物分析装置及び揮発性有機化合物の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る揮発性有機化合物分析装置は、加温部を有し、試料が導入される試料導入部と、第一流路変更部を介して試料導入部と接続され、RFコイルを有し、試料に含まれる揮発性有機化合物を吸着させる吸着部と、第二流路変更部が設けられた第一流路を介して、吸着部と接続されたポンプ部と、第一流路変更部を介して、試料導入部及び吸着部が接続され、キャピラリーカラムと、このキャピラリーカラムに直接通電された恒温部とを有し、第一流路と連結された第二流路が接続されたガスクロマトグラフ質量分析部と、第二流路変更部よりもポンプ部側に設けられた第三流路変更部を介して、第一流路に接続されたパージガス導入部と、第四流路変更部を介して、第二流路に接続されたキャリアガス導入部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る揮発性有機化合物の分析方法は、上記の揮発性有機化合物分析装置を使用したものであって、第二流路を介して、キャリアガス導入部から、キャリアガスをガスクロマトグラフ質量分析部に流すとともに、ポンプ部によって、第一流路及び吸着部を負圧状態とすることで、揮発性有機化合物を吸着部に誘導し、吸着部に吸着させる第一工程と、第一工程後、吸着部の負圧状態を解除し、第二流路及び第一流路を介して、パージガス導入部から、吸着部にパージガスを流すことで、吸着部に混流した大気を試料導入部から外部に排出させる第二工程と、第二工程後、第二流路及び第一流路を介して、キャリアガス導入部から、吸着部にキャリアガスを流し、吸着部から揮発性有機化合物を脱離させるとともに、この脱離した揮発性有機化合物を、第一流路変更部を介して、ガスクロマトグラフ質量分析部に導入させ、分析する第三工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る揮発性有機化合物の分析方法は、第三工程において、RFコイルにより、少なくとも吸着部をキュリー点まで加熱し、吸着部から揮発性有機化合物を脱離させることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る揮発性有機化合物の分析方法は、恒温部により、キャピラリーカラムの昇温又は降温を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る揮発性有機化合物の分析方法は、第一工程において、第一流路、吸着部や試料導入部を負圧とすることで、試料から発生した揮発性有機化合物を吸着部の内部に迅速に誘導することができる。
したがって、この揮発性有機化合物分析方法によって、揮発性有機化合物の定性分析・定量分析を迅速に行うことができる。
【0011】
また、本発明に係る揮発性有機化合物の分析方法は、第三工程において、キュリーポイント加熱法により、少なくとも吸着部を急速に加熱することによって、捕集されていた揮発性有機化合物を吸着部から脱離させ、ガスクロマトグラフ質量分析部に導入する。
したがって、揮発性有機化合物の結露を防止することができるとともに、脱離させた揮発性有機化合物を効率よく、ガスクロマトグラフ質量分析部に導入できる。
【0012】
さらに、本発明に係る揮発性有機化合物の分析方法は、恒温部により、キャピラリーカラムの昇温又は降温を調整できるため、揮発性有機化合物の分析を迅速に行うことができる。
【0013】
また、本発明に係る揮発性有機化合物分析装置は、上記の揮発性有機化合物の分析方法を実施するための構成を備えている。そのため、この揮発性有機化合物分析装置を使用することで、高い検出精度で、かつ迅速に分析をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る揮発性有機化合物分析装置の概略図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る揮発性有機化合物分析装置の吸着部を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る揮発性有機化合物分析方法における第二工程を説明するための図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る揮発性有機化合物分析方法における第三工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態に係る揮発性有機化合物分析装置、
図1から
図4を参照し説明する。なお、以下、揮発性有機化合物をVOC(Vоlatile Organic Compounds)とも記す。
【0016】
揮発性有機化合物分析装置(VOC分析装置)1は、
図1に示すように、試料導入管(試料導入部)2と、吸着剤3cが充填された吸着管3と、真空ポンプ4と、ガスクロマトグラフ質量分析器5と、キャリアガス導入路6と、パージガス導入路7とを備えている。
【0017】
試料導入管2、吸着管3及びガスクロマトグラフ質量分析器5は、三方バルブ(第一流路変更部)V1を介して、接続されている。三方バルブV1は、耐熱性を有し、この三方バルブV1の耐熱温度は約300℃である。
吸着管3の後方(三方バルブV1と接続されている側と反対側)には、第一流路11が設けられ、この第一流路11によって、吸着管3と真空ポンプ4が連結されている。この第一流路11には、二方ソレノイドバルブ(第二流路変更部)V2と、二方ソレノイドバルブV2よりも真空ポンプ4側に三方ソレノイドバルブ(第三流路変更部)V3が、それぞれ設けられている。三方ソレノイドバルブV3には、パージガス導入路7が連結されている。
二方ソレノイドバルブV2は、真空ポンプ4とパージガス用ストップバルブとして使用され、三方ソレノイドバルブV3は、真空ポンプ4とパージガスの切り替えバルブとして使用される。
【0018】
第一流路11に設けられた二方ソレノイドバルブV2よりも吸着管3側には、第二流路12が接続されている。この第二流路12の一方が第一流路11側、他方側がガスクロマトグラフ質量分析器5側に接続されている。第二流路12には、三方ソレノイドバルブ(第四流路変更部)V4が設けられている。この三方ソレノイドバルブV4を介して、キャリアガス導入路6は、第二流路12に接続されている。
この三方ソレノイドバルブV4は、キャリアガス切り替えバルブとして使用される。
【0019】
[試料導入管2]
試料導入管2は、例えば、石英管を取り巻く電気炉で構成され、VOCが通過する流路は、内面不活性化処理されている。この試料導入管2には、三方バルブV1と連結する側と反対側に、翳し口2aが形成されている。また、試料導入管2には、測温センサーを含むヒーター(加温部)2bが設けられている。
【0020】
[吸着管3]
吸着管3は、
図2に示すように、吸着管本体3aと、吸着管本体3aの周囲に設けられたRFコイル3bとを備えている。
吸着管本体3aには、例えば、外径6mm、長さ36mmの石英ガラス製のチューブを使用する。そして、吸着管本体3aの内部には、吸着剤(有機吸着剤)3cとして、2.6 Diphenyl-p-Phenylene Oxideのポーラスポリマービーズ(Tenax)が詰められている。この吸着剤3cは、両側に石英ウール3dが設けられることで、固定されている。さらに、吸着管本体3aの先端の内部には、強磁性パイプ3eが設けられている。この強磁性パイプ3eには、キュリー点が約300℃であるものを使用する。
【0021】
吸着剤3cが配置された吸着管本体3aの周囲は、強磁性ホイル(F280のパイロホイル)によって、包まれている。一方、RFコイル3bは、吸着管本体3aの周囲に設けられ、少なくとも石英ウール3d、吸着剤3c、強磁性パイプ3eが配置された吸着管本体3aの周囲を囲むように設けられている。
【0022】
[ガスクロマトグラフ質量分析器5]
ガスクロマトグラフ質量分析器5は、金属製のキャピラリーカラム5aを備えている(
図1)。このキャピラリーカラム5aには、キャピラリーカラム5aの両端を通電させた、直接通電型の恒温槽(恒温部)が設けられている。この恒温槽によって、キャピラリーカラム5aの抵抗値変化を利用し、温度の制御を行うことができる。また、昇温又は降温の迅速化を図る目的で、キャピラリーカラム5aは、耐熱被覆材により被覆され、ファンが設けられている。
【0023】
キャリアガス導入路6とパージガス導入路7に導入するガスは、窒素(N2)又はヘリウム(He)が使用される。これらのガスの種類、流速や流量は、適宜変更することができる。なお、キャリアガス導入路6、パージガス導入路7は、各ガス供給部に、それぞれ連結されている。
【0024】
次に、上述したVOC分析装置1を用いて、揮発性有機化合物を分析する方法(以下、VOC分析方法と記す)について、説明する。
本実施形態に係るVOC分析方法は、VOC吸着工程(第一工程)と、大気排出工程(第二工程)と、分析工程(第三工程)とを含む。以下、各工程について説明する。
【0025】
[VOC吸着工程]
VOC吸着工程では、三方バルブV1によって試料導入管2と吸着管3を連通させ、二方ソレノイドバルブV2によって第一流路11を開状態とし、三方ソレノイドバルブV4によってガスクロマトグラフ質量分析器5とキャリアガス導入路6を連通させた状態とする(
図1)。この際、第二流路12には、キャリアガスが導入される。
この状態で、三方ソレノイドバルブV3によって第一流路11と真空ポンプ4を連通させ、吸着管3の内部及び第一流路11の内部を負圧状態とし、常温下で、翳し口2aに測定対象である試料を翳してサンプリングを行う。そうすると、試料から発生したVOCは、試料導入管2及び三方バルブV1を通過し、吸着管3に吸引され、吸着剤3cに吸着する。この真空ポンプ4によるVOCの吸引は、約5秒間行い、VOCを吸着管3に捕集する。
なお、例えば、ポリエチレンシートのように、常温下でVOCを発生しない試料を測定する場合は、ヒーター2bによって加温された試料導入管2の内部で、試料を翳すことでサンプリングを行う。
【0026】
[大気除去工程]
次に、
図3に示すように、三方ソレノイドバルブV3によって第一流路11とパージガス導入路7を連通させ、第一流路11を介して、吸着管3に向けてパージガスを約5秒間流入させる。パージガスの流入速度は、VOC吸着工程におけるVOCの吸引速度と同じ速度とする。
そうすると、吸着管3、三方バルブV1、試料導入管2の内部に混流している大気(空気)は、VOC分析装置1の外部に排出される。
【0027】
[分析工程]
大気除去工程後、分析工程を行う。この分析工程では、
図4に示すように、三方バルブV1によって吸着管3とガスクロマトグラフ質量分析器5を連通させ、二方ソレノイドバルブV2によって第一流路11を閉状態とし、三方ソレノイドバルブV4によってキャリアガスを第一流路11側に流入させた状態とする。そして、RFコイル3bによるキュリーポイント加熱法により、VOCが吸着された吸着剤3c、吸着管本体3aの先端に設けられた強磁性パイプ3e(吸着剤3cから三方バルブV1に至る流路)を急速に約300℃に加熱する。
この急速な加熱によって、吸着管3に捕集されていたVOCは、吸着剤3cから脱離し、第一流路11から流入したキャリアガスによって、三方バルブV1を通過し、ガスクロマトグラフ質量分析器5に導入される。そして、ガスクロマトグラフ質量分析器5によって、VOCの定性・定量分析を行う(GC/MS)。
なお、分析工程は、大気排出工程を省略し、VOC吸着工程後にすることもできる。
【0028】
次に、本実施形態に係るVOC分析装置1及びVOC分析方法の作用・効果について、説明する。
【0029】
本実施形態に係るVOC分析方法は、VOC吸着工程において、真空ポンプ4により、第一流路11、吸着管3、試料導入管2の内部を負圧状態とすることで、試料から発生したVOCを吸着管3の内部に迅速に誘導することができる。そして、分析工程において、キュリーポイント加熱法により、吸着管3を急速に加熱することによって、捕集されていたVOCを吸着剤3cから脱離させ、ガスクロマトグラフ質量分析器5に導入することができる。
したがって、本実施形態に係るVOC分析方法を使用することで、VOCの定性・定量分析を迅速に行うことができる。
【0030】
具体的には、例えば、定性分析を目的とし、1mのキャピラリーパイプ(液相なし)を使用した場合、VOC吸着工程においてサンプリングの5秒間、分析工程においてパージングの5秒間、合計10秒間で主成分の定性分析を行うことができる。
一方、定量分析を目的とし、液相をコーティングした5mのキャピラリーカラムを使用した場合、VOC吸着工程においてサンプリングの5秒間、分析工程においてパージングの5秒間及びGC/MS分析の50秒間、合計60秒間でVOCの定性・定量分析を行うことができる。
【0031】
また、本実施形態に係るVOC分析方法では、吸着剤3cからVOCを急速に脱離させることに加え、キュリーポイント加熱法により、吸着剤3cから三方バルブV1に至る経路を約300℃まで加熱することができる。
そうすると、VOCがガスクロマトグラフ質量分析器5に導入される際に、VOC成分の結露を防止することが可能となり、かつ脱離させたVOCを効率よく、ガスクロマトグラフ質量分析器5に導入することができる。
【0032】
本実施形態に係るVOC分析方法は、大気排出工程を行うことで、吸着管3の内部や第一流路11等に混流している大気(空気)を外部に排出することができる。そうすると、分析工程において、大気中に含まれている酸素が、ガスクロマトグラフ質量分析器5に導入されることを防止でき、質量分析計(MS)のイオン源を傷めたり、著しく検出感度が低下したりすることを回避できる。
【0033】
試料から発生したVOC中に炭素数4以下の化合物が含まれている場合、これらの化合物は、吸着剤3cの入口(先端部分)で捕集されず、吸着剤3cを通過し、第一流路11側へ拡散する場合がある。本実施形態に係るVOC分析方法では、大気排出工程において、第一流路11側から吸着管3にパージガスを流入させる(バックラッシュ法)。吸着管3のVOCの流入側と反対側からパージガスを流入させることで、拡散した炭素数4以下の化合物を、吸着剤3cの入口まで押し戻し、吸着剤3cの入口に収斂することができる。このように、拡散した化合物を吸着剤3cの入口に収斂させることは、上述したVOCをパルス導入するために重要な要素である。
【0034】
本発明に係る揮発性有機化合物分析装置は、上述した揮発性有機化合物の分析方法を実施するための構成を備え、高い検出精度で、かつ迅速に分析をすることができる。
また、本実施形態に係るVOC分析装置1は、食品など室温で香気成分を発する試料を翳し口2aの上部に翳すだけで、VOCの測定が可能である。一方、プラスチックフィルムやプラスチック容器(低VOC試料)などの室温でVOCを発しない試料は、加温された試料導入管2の内部に数秒間翳すことで、VOCの測定が可能である。
【0035】
さらに、本実施形態に係るVOC分析装置1では、ガスクロマトグラフ質量分析器5のキャピラリーカラム5aの両端から通電させ、このキャピラリーカラム5aの抵抗を利用して、温度制御を行うことができる。また、キャピラリーカラム5aを耐熱被覆材で被覆し、ファンを設けている。このような構成とすることで、キャピラリーカラム5aの昇温又は降温をより短時間で行うことができるため、VOC分析装置1を使用することで、VOCを効率的に測定することができる。
【0036】
以上、本実施形態について説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 揮発性有機化合物分析装置(VOC分析装置)
2 試料導入管(試料導入部)
2a 翳し口
2b ヒーター(加温部)
3 吸着管
3a 吸着管本体
3b RFコイル
3c 吸着剤
3d 石英ウール
3e 強磁性パイプ
4 真空ポンプ(ポンプ部)
5 ガスクロマトグラフ質量分析器(ガスクロマトグラフ質量分析部)
5a キャピラリーカラム
6 キャリアガス導入路
7 パージガス導入路
11 第一流路
12 第二流路
V1 三方バルブ(第一流路変更部)
V2 二方ソレノイドバルブ(第二流路変更部)
V3 三方ソレノイドバルブ(第三流路変更部)
V4 三方ソレノイドバルブ(第四流路変更部)