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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】逆免疫抑制
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240306BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240306BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N5/0783
C12N15/12 ZNA
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021547320
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2020053648
(87)【国際公開番号】W WO2020165283
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】19156745.2
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521355751
【氏名又は名称】セリーセル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】ハマー,ルドルフ
(72)【発明者】
【氏名】ヘニグ,ステフェン
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/048614(WO,A1)
【文献】特表2011-500008(JP,A)
【文献】特表2018-518975(JP,A)
【文献】Protein Cell,2018年,Vol.9, No.3,p.254-266
【文献】Clinical Cancer Research,2015年,Vol.21, No.5,p.1019-1027
【文献】Blood,2009年,Vol.114, No.3,p.535-546
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/10
C12N 5/0783
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍特異的T細胞の調製物を生成するための方法であって、以下の工程:
- 腫瘍T細胞の単離の工程において、患者から取得された腫瘍サンプルから制御性T細胞を単離する工程;
- 腫瘍T細胞のシーケンシングの工程において、前記制御性T細胞から腫瘍浸潤性T細胞受容体をコードする複数の核酸配列を取得して、腫瘍TCR配列のセットを得る工程;
- 前記患者から取得される非腫瘍組織サンプルから、複数の非腫瘍組織のT細胞受容体配列を取得して、非腫瘍組織TCR配列のセットを得る工程;
- 配列選択の工程において、腫瘍TCR配列の前記セットから腫瘍浸潤性制御性T細胞受容体(tiTreg TCR)をコードする1つ又は複数の核酸配列を選択し、1つ又は複数の選択されたtiTreg TCR配列を得る工程;
- 患者の単離サンプルから取得されたレシピエントT細胞を提供する工程であり、前記レシピエントT細胞は制御性T細胞ではない、前記工程;及び
- 遺伝子導入工程において、前記レシピエントT細胞で作動可能なプロモーター配列の制御下で前記選択されたtiTreg TCRをコードする核酸を前記レシピエントT細胞に導入し、それにより腫瘍特異的T細胞の調製物を得る工程、
を含み、
前記配列選択の工程は、以下の工程:
- アラインメント工程において、腫瘍TCR配列のセットをアラインメントし、前記複数の非腫瘍組織のT細胞受容体配列をアラインメントする工程;
- 前記アラインメント工程においてアラインメントされた腫瘍TCR配列を複数の腫瘍サンプルのクロノタイプに分類する工程であり、非腫瘍組織のT細胞受容体配列を複数の非腫瘍組織のクロノタイプに分類する工程であり、特定のクロノタイプ内に含まれる配列は、同一の配列を示し、
配列の比較は、CDR3配列トラクトに関して実行され、かつ特定のクロノタイプは、同一のCDR3配列を示す、前記工程;
- 各クロノタイプに関連する腫瘍TCR配列の数を決定し、各クロノタイプに関連する非腫瘍組織のT細胞受容体配列の数を決定し、それにより、前記クロノタイプのそれぞれについてのクロノタイプの頻度を得る工程;及び
- 前記複数の腫瘍サンプルのクロノタイプから腫瘍特異的なクロノタイプを選択する工程であり、
前記腫瘍特異的なクロノタイプは、前記複数の腫瘍サンプルのクロノタイプの最も頻度の高い100個のクロノタイプのうちの1つである、及び
前記腫瘍特異的なクロノタイプは、非腫瘍組織のTCR配列のセット内で<20%の頻度を示すか、又は存在しないかである、及び
腫瘍浸潤性制御性T細胞受容体(tiTreg TCR)をコードする核酸配列は、
a. クロノタイプがtiTreg(CD4 CD25 high CD127 low 又はCD4 FOXP3 )集団及びtiTconv(CD4 CD25 low CD127 又はCD4 FOXP3 )集団の両方に存在する場合、又は
b. 単一細胞発現分析により、腫瘍浸潤性CD4 細胞の間でFOXP3発現細胞及びFOXP3陰性細胞を検出する場合、
腫瘍TCR配列の前記セットから選択される、前記工程、
を含む、前記方法。
【請求項2】
腫瘍T細胞の単離の工程において、CD4の発現、及び
- CD25の発現及びCD127の低発現(CD4CD25CD127low)及び/又は
- FOXP3の発現(CD4FOXP3)、
を特徴とするT細胞が単離される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記配列選択の工程は、前記腫瘍TCR配列を、データベースからの腫瘍由来の制御性T細胞受容体配列である参照TCR配列のセットに対して比較することをさらに含む
請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
配列選択の工程の前に、核酸配列がアミノ酸配列に翻訳され、腫瘍TCR配列の比較がアミノ酸配列に基づいて実行される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
- 前記患者から取得される血液サンプルから、複数の血液T細胞受容体配列を取得し、血液TCR配列のセットを得る工程;
- 前記複数の血液T細胞受容体配列をアラインメントする工程;
- 血液T細胞受容体配列を複数の血液クロノタイプに分類する工程であり、特定のクロノタイプ内に含まれるT細胞受容体配列は、実質的に同一又は同一の配列を示す、前記工程;
- 各クロノタイプに関連する血液T細胞受容体配列の数を決定し、それにより、前記クロノタイプのそれぞれについてのクロノタイプの頻度を得る工程;
- 前記複数の腫瘍サンプルのクロノタイプから腫瘍特異的なクロノタイプを選択する工程であり、前記腫瘍特異的なクロノタイプは、血液TCR配列のセット内で<20%頻度を示すか、又は存在しないかである、前記工程、
をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
T細胞受容体配列を取得することは、以下の工程:
a. 前記腫瘍サンプル、非腫瘍組織サンプル、及び血液サンプルからT細胞を単離し、単離したT細胞から核酸を単離する工程、及び
b. T細胞受容体核酸配列を特異的に増幅する核酸増幅反応を行う工程、
を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
核酸増幅反応は、細胞受容体のアルファ鎖又はベータ鎖のCDR3領域をコードする配列を特異的に増幅する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
レシピエントT細胞は、細胞傷害性T細胞及びヘルパーT細胞を含む群から選択され、記方法は、以下の工程:
a. 患者から得られたサンプルからヘルパーT細胞を選択し、濃縮されたヘルパーT細胞調製物を生成する工程、又は
b. 患者から得られたサンプルから細胞傷害性T細胞を選択し、濃縮された細胞傷害性T細胞調製物を生成する工程、
及び前記濃縮されたT細胞調製物を遺伝子導入工程に供する工程、
を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記レシピエントT細胞は、記患者のリンパ球調製物からのCD8T細胞及びCD4制御性T細胞の枯渇によって調製されている、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
遺伝子導入工程の前に導入遺伝子生成工程があり、前記選択されたtiTreg TCRをコードする核酸は、プロモーター配列の制御下にあり、
a. 前記腫瘍サンプルから得られる複数の制御性T細胞を単一細胞に分離すること;
b. 前記複数の細胞から複数の完全なTCR配列セットを取得し、各TCR配列セットは、完全なTCRα及びTCRβのポリペプチド配列を含むこと;
c. 選択されたtiTreg TCR配列を完全なTCR配列セットに割り当てて、完全なtiTreg TCR配列セットを得ること;
d. 前の工程で決定した前記完全なtiTreg TCR配列セットの完全なTCRα及びTCRβのポリペプチド配列をコードする配列を、遺伝子発現コンストラクトに挿入すること、
によって生成される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年2月12日に出願された欧州公開特許第19156745.2号の優先権の利益を主張し、これは参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は、腫瘍の免疫回避に対抗する腫瘍特異的T細胞を生成するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年のがん治療の免疫療法の大きな進歩と同時に、腫瘍エスケープによって引き起こされる治療の失敗はますます重要な問題になっている。腫瘍エスケープの主要なメカニズムは、CD8T細胞(細胞傷害性Tリンパ球、CTL:cytotoxic T-lymphocyte)の活性により説明できることが示されている。CTLの初期の腫瘍破壊活性は患者にとって有益であるが、腫瘍の除去が不完全な状況では、CTLの活性により、免疫編集と呼ばれるプロセスで腫瘍細胞から同族抗原が選択的に失われ、腫瘍エスケープが促進される可能性がある。
【0004】
CD8T細胞がそれらの腫瘍標的細胞を特異的に排除する一方で、CD4制御性T細胞(Treg:regulatory T-cell)はその逆の働きを示す。それらの免疫抑制活性を通して、Tregは、これらのTregの同族抗原を持つ腫瘍細胞に増殖のアドバンテージを提供する。実際、Tregは進行中の腫瘍全体に存在し、その数は腫瘍のサイズと相関していることが多い。これは、Tregによって認識される特定の腫瘍抗原の継続的な存在を示している。
【0005】
腫瘍及び腫瘍由来転移におけるTregの特異的抗原の持続性を考えると、Tregの同族T細胞受容体(Treg TCR:T-cell receptors of Treg)は、腫瘍エスケープに対抗する免疫療法の開発のために採用できる主要な腫瘍特異的認識要素を構成し得ることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この背景に基づいて、本発明の根底にある問題は、T細胞媒介性腫瘍エスケープを克服するがんの治療のための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この問題の解決は、独立請求項の主題によって提供され、特定の実施形態は、従属請求項及び以下の説明で論じられている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の方法の一実施形態のフローチャートを示す。
図2図2は、本発明の方法の原理を示したフローチャートを示す。
図3-1】図3は、ある腫瘍患者(V84/13)のTCRβシーケンシング実行の結果を示す。各行は、固有の種類のT細胞(クロノタイプ)に見られる1つの固有のβTCR/CDR3に対応している。左から右の列は:a. その型のT細胞の相対頻度、b. シーケンシングリードの数で与えられる頻度、c. VセグメントID、d. JセグメントID、e. CDR3ペプチド、f. 完全なCDR3をカバーする核酸配列としてのシーケンシングされた領域、を示す。
図3-2】図3は、ある腫瘍患者(V84/13)のTCRβシーケンシング実行の結果を示す。各行は、固有の種類のT細胞(クロノタイプ)に見られる1つの固有のβTCR/CDR3に対応している。左から右の列は:a. その型のT細胞の相対頻度、b. シーケンシングリードの数で与えられる頻度、c. VセグメントID、d. JセグメントID、e. CDR3ペプチド、f. 完全なCDR3をカバーする核酸配列としてのシーケンシングされた領域、を示す。
図3-3】図3は、ある腫瘍患者(V84/13)のTCRβシーケンシング実行の結果を示す。各行は、固有の種類のT細胞(クロノタイプ)に見られる1つの固有のβTCR/CDR3に対応している。左から右の列は:a. その型のT細胞の相対頻度、b. シーケンシングリードの数で与えられる頻度、c. VセグメントID、d. JセグメントID、e. CDR3ペプチド、f. 完全なCDR3をカバーする核酸配列としてのシーケンシングされた領域、を示す。
図4-1】図4は、患者における誘導型腫瘍特異的Treg TCR配列の割り当てを示す。すべてのサンプルは1人の患者由来のものである。この表は、上位30のCD4TILクロノタイプのそれぞれのCDR3βペプチド、Vセグメント及びJセグメントを示す。選別は、TIL CD4クロノタイプ(列F)に関するものである。列Iの濃い灰色の網掛けの数字は、隣接する非腫瘍組織と比較して、腫瘍内の固有のクロノタイプの5倍以上の濃縮よって決定されるとおりの腫瘍特異性を示している。Tconv及びTregマーカーによる選別は、それぞれ列G及びHに示されている。10×分析は列Jに示されている。選別により、行10及び26で誘導型Tregクロノタイプが同定される。これらのクロノタイプは、制御性T細胞画分と従来のT細胞画分の重複を示している。Tregの特性評価とTCRのα/βペアリングを一度に含む10×分析により、行10と26のクロノタイプの誘導型Tregの性質が確認される。さらに、10×分析では、行25のクロノタイプが天然のTregとして同定される。行21のクロノタイプは、10×分析でいずれのFOXP3シグナルが示されなかったため、従来のTh細胞と解釈することができる。列D、E、F、G、及びHに示されている頻度値は、クラスのすべての配列に対する配列のパーセントで示されている。一例として、非腫瘍CD4細胞の中で配列番号37に割り当てられたCDR3ペプチドの頻度は0.2%である。
図4-2】図4は、患者における誘導型腫瘍特異的Treg TCR配列の割り当てを示す。すべてのサンプルは1人の患者由来のものである。この表は、上位30のCD4TILクロノタイプのそれぞれのCDR3βペプチド、Vセグメント及びJセグメントを示す。選別は、TIL CD4クロノタイプ(列F)に関するものである。列Iの濃い灰色の網掛けの数字は、隣接する非腫瘍組織と比較して、腫瘍内の固有のクロノタイプの5倍以上の濃縮よって決定されるとおりの腫瘍特異性を示している。Tconv及びTregマーカーによる選別は、それぞれ列G及びHに示されている。10×分析は列Jに示されている。選別により、行10及び26で誘導型Tregクロノタイプが同定される。これらのクロノタイプは、制御性T細胞画分と従来のT細胞画分の重複を示している。Tregの特性評価とTCRのα/βペアリングを一度に含む10×分析により、行10と26のクロノタイプの誘導型Tregの性質が確認される。さらに、10×分析では、行25のクロノタイプが天然のTregとして同定される。行21のクロノタイプは、10×分析でいずれのFOXP3シグナルが示されなかったため、従来のTh細胞と解釈することができる。列D、E、F、G、及びHに示されている頻度値は、クラスのすべての配列に対する配列のパーセントで示されている。一例として、非腫瘍CD4細胞の中で配列番号37に割り当てられたCDR3ペプチドの頻度は0.2%である。
図5-1】図5は、図4と同じ患者で誘導型腫瘍特異的TregTCR配列の割り当てを示す。すべてのサンプルは1人の患者からのものである。この表は、Tregマーカーを用いた細胞ソーティングによって濃縮されたTOP20の腫瘍特異的TIL TregクロノタイプのそれぞれのCDR3βペプチド、Vセグメント及びJセグメントを示している。表は列Gに関して選別されている。10×分析の結果は列Iに示され、細胞を天然及び誘導制御性T細胞又は不特定のCD4T細胞に分類される。10×分析には、Tregの特性評価とTCRのα/βペアリングが一度に含まれる。
図5-2】図5は、図4と同じ患者で誘導型腫瘍特異的TregTCR配列の割り当てを示す。すべてのサンプルは1人の患者からのものである。この表は、Tregマーカーを用いた細胞ソーティングによって濃縮されたTOP20の腫瘍特異的TIL TregクロノタイプのそれぞれのCDR3βペプチド、Vセグメント及びJセグメントを示している。表は列Gに関して選別されている。10×分析の結果は列Iに示され、細胞を天然及び誘導制御性T細胞又は不特定のCD4T細胞に分類される。10×分析には、Tregの特性評価とTCRのα/βペアリングが一度に含まれる。
図6-1】図6は、誘導型腫瘍特異的Treg TCR配列の割り当ての別の例を示している。サンプル(血液、腫瘍、非腫瘍)は、図4及び図5のデータの基となったサンプルを提供した患者とは別の患者から入手した。TIL(CD4)と非腫瘍から選択されたT細胞クローンとの間の比率は、腫瘍特異性を示す>5である値でフィルタリングされる。クロノタイプ(行1及び16)は腫瘍内で有意な頻度のものであり、10×Genomics単一細胞シーケンシングテクノロジーを使用したFOXP3発現分析によって誘導Tregとして検出されたことは明らかである。さらに、上位20のTILクロノタイプの中に、10×Genomics分析によって同定された3つの天然Treg(行13、15、17)が存在した。TregクローンIDは、同じCDR3領域を共有するFOXP3陽性細胞とFOXP3陰性細胞を持つ誘導Tregクローンのグループを示す。これらのクローンの場合、10×Genomics分析はT細胞受容体の両方の鎖を提供した。
図6-2】図6は、誘導型腫瘍特異的Treg TCR配列の割り当ての別の例を示している。サンプル(血液、腫瘍、非腫瘍)は、図4及び図5のデータの基となったサンプルを提供した患者とは別の患者から入手した。TIL(CD4)と非腫瘍から選択されたT細胞クローンとの間の比率は、腫瘍特異性を示す>5である値でフィルタリングされる。クロノタイプ(行1及び16)は腫瘍内で有意な頻度のものであり、10×Genomics単一細胞シーケンシングテクノロジーを使用したFOXP3発現分析によって誘導Tregとして検出されたことは明らかである。さらに、上位20のTILクロノタイプの中に、10×Genomics分析によって同定された3つの天然Treg(行13、15、17)が存在した。TregクローンIDは、同じCDR3領域を共有するFOXP3陽性細胞とFOXP3陰性細胞を持つ誘導Tregクローンのグループを示す。これらのクローンの場合、10×Genomics分析はT細胞受容体の両方の鎖を提供した。
図7図7は、図4に示した誘導又は天然のTregの3つの例の完全なT細胞受容体CDR3配列(ベータ鎖及びアルファ鎖)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の概要
本発明の根底にある基本的な概念は、細胞傷害性T細胞及び他の免疫応答の阻害を媒介する腫瘍に存在する制御性T細胞が、重要な情報をそれらのT細胞受容体の形で提供することができ、腫瘍特異的抗原を認識するという現実である。この概念の潜在力は、少なくとも2つの方法の治療ツールと変化することができる:
- 第1に、腫瘍特異的Treg TCRをコードする遺伝情報を単離し、抗腫瘍能を持つT細胞のサブセットに、特にTh1細胞に導入すること。このような概念を、本明細書では「逆免疫抑制」と呼ぶことにする。自己免疫のリスクを回避するために、形質導入には腫瘍特異的Treg TCRを選択する必要がある。
- 第2に、腫瘍特異的Treg TCRは、同族抗原ペプチド-MHCを見つけるためのプローブとして使用でき、これは、腫瘍エスケープに対抗するための二重特異性抗体又は二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE(登録商標)(Amgen Corp.))関連の免疫療法の開発に道を開く。
【0010】
本発明によって提供されるとおり、腫瘍特異的Treg TCRの選択は、免疫療法的アプローチについて明らかな利点を示す。腫瘍の特異性を達成するために、2つの選択工程が組み合わせで採用される:
- Treg TCRの頻度は、腫瘍組織と非腫瘍組織との間で比較される。これにより、担がん組織細胞の自己反応性Treg TCR及び担がん器官の感染に関連するTreg TCRを排除するであろう。
- Treg TCRは、天然型Treg細胞からではなく、誘導型Treg細胞から選択される。誘導型Treg TCRは、腫瘍特異的ヘルパーT細胞に由来するため、免疫療法の適用に安全であると期待される。
【0011】
本発明によって提供される腫瘍特異的T細胞の調製物は、腫瘍微小環境における抗原提示細胞との相互作用を通じて、又はより直接的にMHCクラスIIの提示が可能な悪性細胞との相互作用を通じてベータ-2-ミクログロブリンの機能の損失を有する腫瘍においてさえ抗腫瘍活性を示す。
【0012】
用語と定義
特に定義されていない限り、本明細書で使用されているすべての技術用語及び科学用語は、当業者(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術、及び生化学における)が一般的に理解しているものと同じ意味を持つ。標準的な技術が、分子、遺伝子、及び生化学的手法(一般的には、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2編.(1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.及びAusubelら,Short Protocols in Molecular Biology (1999) 第4編,John Wiley & Sons,Inc.を参照)及び化学的手法に使用される。
【0013】
本明細書の文脈における「実質的に同一」という用語は、実質的に同一であると言われる配列に関して≧98%の同一性を示す配列に関する。「実質的に同一」の配列という用語は、これらに限定されないが、同じ物理的配列又はその同一のコピーのシーケンシングイベントに由来する配列に使用され、シーケンシングプロセス中の方法的なエラー又はミスリードが、配列に人為的エラーを導入している。
【0014】
本明細書の文脈における「核酸配列の翻訳」という用語は、核酸配列の既知のリーディングフレーム及び遺伝コードに基づく核酸配列に対するアミノ酸(ポリペプチド)配列の割り当てに関する。それは、リボソームによって行われる細胞内の翻訳の生物学的行為とは関係がない。
【0015】
本明細書の文脈における用語「CDR3」は、TCR複合体の可変相補性決定領域3(complementarity determining region 3)に関連する。CDR3のサイズは、Vβ、又はVα又はVγ又はVδセグメントの保存されたシステインからJβ又はJα、Jγ又はJδセグメントの保存されたフェニルアラニンの位置までのアミノ酸(AA)及びそれぞれのヌクレオチドの総数によって特徴付けられる。
【0016】
本明細書の文脈における「腫瘍サンプル」という用語は、患者の腫瘍から得られたサンプル又はサンプルのプールを指す。腫瘍サンプルはまた、転移又は転移の集合を含むか、又はそれらからなり得る。
【0017】
本明細書の文脈における「非腫瘍組織サンプル」という用語は、腫瘍の起源組織又は転移の場合のその位置と同等又は同一の非腫瘍組織から得られたサンプル又はサンプルのプールを指す。そのような非腫瘍組織サンプルの有利な供給源は、患者の腫瘍に近接した組織である。
【0018】
本明細書において、「陽性」という用語は、マーカーの発現の文脈で使用される場合、蛍光標識抗体によってアッセイされる抗原の発現を指し、「陽性」とされる構造(例えば、細胞)上の標識の蛍光は、同じ標的に特異的に結合しないアイソタイプが一致する蛍光標識抗体で染色した場合と比較して、蛍光強度の中央値が少なくとも30%高く(≧30%)、特に≧50%又は≧80%である。マーカーのこのような発現は、例えばCD4のようにマーカーの名前の後に上付き文字「プラス」()で表示される。本明細書において「発現」という言葉が「遺伝子発現」又は「マーカー又は生体分子の発現」の文脈で使用され、かつ「発現」のさらなる修飾が言及されない場合、これは上記で定義されるとおり「陽性発現」を意味する。
【0019】
本明細書において、「陰性」という用語は、マーカーの発現の文脈で使用される場合、蛍光標識抗体によってアッセイされた抗原の発現を指し、蛍光強度の中央値が、同じ標的に特異的に結合しないアイソタイプの一致の抗体の蛍光強度の中央値よりも、30%未満、特に15%未満高い。マーカーのこのような発現は、例えばCD127のように、マーカーの名前の後に上付き文字の「マイナス」()で表示される。
【0020】
マーカーの高発現、例えばCD25の高発現は、細胞あたりのより低い蛍光強度を特徴とする他の集団と比較して細胞あたりの最も高い蛍光強度を示すFACSによって検出された明確に区別可能な細胞集団におけるそのようなマーカーの発現レベルを指す。高発現は、例えばCD25highのように、マーカー名の後に上付き文字で「high」又は「hi」と表示される。「高く発現されている」という用語は、同じ特性に関している。
【0021】
マーカーの低発現、例えばCD127の低発現は、細胞あたりの蛍光強度がより高いことを特徴とする他の集団と比較して、細胞あたりの蛍光強度が最も低いことを示すFACSによって検出された明確に区別可能な細胞集団におけるそのようなマーカーの発現レベルを指す。低発現は、例えばCD127lowのようにマーカーの名前の後に上付き文字「low」又は「lo」で表示される。「低く発現されている」という用語は、同じ特性に関している。
【0022】
マーカーの発現は、蛍光顕微鏡、フローサイトメトリー、FACS、ELISPOT、ELISA、又はマルチプレックス分析などの技術を介してアッセイすることができる。
【0023】
本明細書の文脈における「クロノタイプ(clonotype)」という用語は、TCRの可変領域に関して実質的に同一の核酸配列を示すT細胞受容体核酸配列を含むか、又はTCRの可変領域に関して実質的に同一のアミノ酸配列を示すT細胞受容体アミノ酸配列を含むT細胞の群を指す。TCRの可変領域に関して実質的に同一のアミノ酸配列を示すクロノタイプは、クラスタ型と呼ばれることもある。
【0024】
発明の詳細な説明
本発明は、腫瘍特異的T細胞の調製物を生成する方法に関する。この方法は、以下の工程を含む:
- サンプル収集の工程:腫瘍に浸潤したT細胞を含む腫瘍サンプルが患者から得られる。本発明を定義する目的のために、患者からサンプルを取得する実際の工程は、必ずしもこの方法の一部である必要はない。しかしながら、サンプルが患者特異的であり、本明細書に開示される一般的な方法は、その腫瘍に存在する特定の制御性T細胞によって媒介される免疫抑制を逆転することによって1つの特定の腫瘍を標的とするT細胞の調製物を提供する方法であることが重要である。
- 腫瘍T細胞の単離の工程:制御性T細胞は腫瘍サンプルから単離され、これにより腫瘍浸潤性Treg(tiTreg:infiltrating Treg)細胞の調製物を生成する。組織からT細胞調製物を生成するための方法が当技術分野で知られている(GentleMACS(登録商標)及びMicroBeads、MiltenyiBiotec)。
- 腫瘍T細胞のシーケンシングの工程:腫瘍浸潤性T細胞受容体をコードする複数の核酸配列が、前の工程で得られた制御性T細胞から得られ、これにより腫瘍TCR配列のセットが得られる。理想的には、この配列のセットは、サンプルに含まれる各T細胞を代表する。腫瘍T細胞由来の核酸は、クロノタイプ決定(clonotyping)のための短鎖CDR3配列トラクト及びレシピエントT細胞に導入される導入遺伝子TCR発現カセットを構築するための完全なTCRアルファ鎖及びベータ鎖のその後の生成の両方についての後続の決定に十分である必要がある。
- 配列選択の工程:腫瘍浸潤性制御性T細胞受容体(tiTreg TCR:tumour-infiltrating T regulatory T cell receptor)をコードする1つ又は複数の核酸配列が選択され、1つ又は複数の選択されたtiTreg TCR配列が得られる。選択されたtiTreg TCR配列は、腫瘍に特異的である。どのtiTreg TCR配列がこの特異性を持っているかを決定するためのさまざまな方法が存在し、これは、次に限定されないが、腫瘍特異性の指標として、かつデータベースとの腫瘍由来の制御性T細胞受容体配列の比較のために、腫瘍と非腫瘍(特に:腫瘍部位に隣接する非腫瘍組織)との間のクロノタイプの頻度の比率によって定量的に決定されるような腫瘍に固有の制御性T細胞のクローンの好ましい局在化を使用する方法を含む。
- レシピエントT細胞:制御性T細胞ではないレシピエントT細胞が患者から得られる。この場合も、本発明を定義する目的のためには、患者から細胞を取得する実際の工程は、必ずしもこの方法の一部である必要はない。ほとんどの実施形態において、レシピエントT細胞は、ナイーブT細胞の割合が少ないヘルパー細胞であり、それらの大部分は、末梢血T細胞レパートリーを代表するセントラル記憶及びエフェクター記憶の表現型を示す。特定の実施形態において、レシピエント細胞としての濃縮されたナイーブCD4T細胞の使用は有利であり得る。
- 遺伝子導入の工程:レシピエントT細胞で作動可能なプロモーター配列の制御下にある選択されたtiTreg TCRをコードする核酸は、レシピエントT細胞に導入され、それにより、本発明による腫瘍特異的T細胞の調製物が得られる。本発明の目的のために、導入遺伝子の導入の最も実行可能な方法は、ウイルスDNA導入としても知られる形質導入であると考えられている。多くの技術で機能することが実証されており、いくつかの試験済み遺伝子導入ビヒクル、すなわちレトロウイルス、特にレンチウイルス遺伝子導入が臨床使用に利用可能である(Vossら、Adoptive Immunotherapy:Methods and Protocols,1,2,3 Science and Business Media,2005を参照)。非ウイルス/プラスミドDNA導入によるトランスフェクションが代替手段となり得る。
【0025】
単離された制御性T細胞からT細胞受容体をコードする複数の核酸配列を取得することは、該細胞のT細胞受容体レパートリーを分析することに等しい。言い換えれば、どのTCR配列がそのT細胞集団に、どのくらいの量で存在するか(TCR配列の総数の中での相対的な発生率はどれくらいか)について推定が行われる。
【0026】
腫瘍T細胞シーケンシング工程の前に、例えばCD4抗体を介しての選択によって、CD4細胞が腫瘍サンプルから単離されたT細胞から分離されるか、又は腫瘍から分離された腫瘍浸潤性T細胞が、最初からCD4細胞に限定される。腫瘍T細胞のシーケンシング工程では、CD4T細胞に由来するT細胞受容体をコードする配列のみ又はそれを主にシーケンシングが行われる。
【0027】
Tregを分析するためのT細胞の選別の非限定的な選択肢には以下を含む:a)細胞表面マーカーCD4CD25CD127low/-を使用すること、b)CD4及び細胞内FoxP3染色を使用すること、c)表面マーカーCD4CTLA4high又はCD4CD39highを使用すること。非Tregの従来型CD4T細胞(Tconv:conventional CD4 T cell)の細胞の選別には、表面マーカーCD4CD25CD127highを使用して、TregとTconvとのTCRレパートリーの可能な重複を決定することができる。分離されたT細胞サブセットは、DNA抽出のために選択され、α-及び/又はβ-TCR/CDR3 NGS配列分析が行われる。
【0028】
特定の実施形態では、CD4及びCD25の発現、及びCD127の低発現(CD4CD25CD127low)及び/又はCD4とFOXP3との両方の発現(CD4FOXP3+)によって特徴付けられるT細胞が、腫瘍T細胞の単離の工程で単離され、続いて排他的にシーケンシングされる。特定の実施形態では、制御性T細胞の表現型を有するT細胞は、限定されないが、CTLA-4、TIM3、GITR、LAG-3、CD69、TGF-β、IL-10を含む当技術分野で既知のマーカーによって特徴付けられ、特にCD4及びCD25の発現によって特徴付けられる(Masonら、J.Immunol.2015,195(5)2030-2037)。
【0029】
特定の実施形態では、配列選択の工程には、前記腫瘍TCR配列を互いに比較し、それによって任意の個々の配列の相対的発生率(頻度)を決定し、かつ腫瘍及び非腫瘍の組織又は血液におけるそれらの発生率に基づいて配列を選択することを含む。この情報は、TCR媒介性免疫学的平衡の全体に対する特定の配列の寄与、及びT細胞の重要な集団の代表である可能性を、それらが局所的腫瘍組織内に存在する抗原に特異的である可能性が高いという観点で、決定するのに有用である。腫瘍特異的クロノタイプは、非腫瘍組織CD4TCR配列のセット内で、存在しないか、又は<20%、<15%、<10%、又は<5%の頻度を示すかである。逆に、腫瘍内の特定のクロノタイプの頻度と非腫瘍組織内の同じクロノタイプの頻度の間の比率が≧5の場合、腫瘍特異性を示す。
【0030】
特定の実施形態では、配列選択工程には、前記腫瘍TCR配列を、同じ患者の非腫瘍組織サンプルから得られるT細胞から得られたTCR配列のセット(特に、CD4T細胞、より特にCD4CD25T細胞、さらにより特にCD4CD25CD127low及び/又はCD4FOXP3T細胞)と比較することを含む。これらの2つの部位又はサンプル間で特定のTCR配列の有病率を比較することにより、TCR配列又はTCR配列のセットが腫瘍に特異的であるか、又は組織特異的自己免疫及び/又は感染症の場合のように腫瘍環境の外側に存在するTCR配列を代表するかどうかを決定することが可能である。本発明は、腫瘍特異的制御性TCR配列を非腫瘍制御性TCR配列から区別する方法に依存し、後者は、がん治療として免疫刺激の文脈において導入遺伝子TCR配列として単離及び使用される場合、潜在的に有害であるが、前者は、抗腫瘍反応を導く能力を持つ。
【0031】
腫瘍由来Treg TCR配列を血液CD4細胞由来のものと比較することにより、遍在性の全身的に存在するクロノタイプなどのさらなる情報を得ることができる。
【0032】
特定の実施形態では、配列選択の工程には、前記腫瘍TCR配列を参照TCR配列のセットと比較することを含む。おそらく、本明細書に開示される本発明の反復的な実行は、患者間で共通の腫瘍及び非腫瘍のTCR配列のデータベースの作成を可能にする豊富なTCR情報をもたらし、第2の生物学的サンプルへの参照なしに利用者が腫瘍特異的TCR配列を同定することを可能にする。
【0033】
腫瘍における高い発生率(頻度)を特徴とする、及び/又は腫瘍TCR配列のセットに固有である配列が選択される。
【0034】
特定の実施形態では、配列選択の工程の前に、核酸配列がアミノ酸配列に翻訳され、腫瘍TCR配列の比較がアミノ酸配列に基づいて行われる。当業者は、本明細書に開示されるシーケンシング及び比較の工程のいずれもが、核酸配列レベルで実行できるが、アミノ酸配列レベルでも(多くの場合、第2の工程にて)実行できることを認識している。サンプルから配列を取得することはほとんど常に核酸レベルで実行されるが、配列アラインメント及び比較は、核酸配列の特定の違いがポリペプチドの違いをもたらさない可能性があるため、アミノ酸レベルで実行することもあり、これは、抗原又はMHC認識の目的のためであり、生物学的レベルで操作可能な実体である。
【0035】
特定の実施形態では、配列選択の工程は以下の工程を含む:
- アラインメントの工程において、腫瘍TCR配列のセットをアラインメントする工程、
- 前記アラインメントの工程でアラインメントされた腫瘍TCR配列を、複数の腫瘍サンプルのクロノタイプに分類する工程であり、特定のクロノタイプに含まれる配列は、実質的に同一の配列又は同一の配列を示す、前記工程、
- 各クロノタイプに関連する腫瘍TCR配列の数を決定し、それにより、前記クロノタイプのそれぞれについてのこのセット内のクロノタイプの頻度を得る工程、
- 前記複数の腫瘍サンプルのクロノタイプから腫瘍特異的なクロノタイプを選択する工程であり、前記腫瘍特異的なクロノタイプは、前記複数の腫瘍サンプルのクロノタイプのうち、最も頻度の高い100個のクロノタイプのうちの1つ、特に最も高い50個、20個、10個、又は5個のみのうちの1つである、前記工程。
【0036】
特に、第1のT細胞受容体の核酸配列は、第2のT細胞受容体の核酸配列と、両方の配列が1つ以下の塩基対位置で異なる場合、実質的に同一である。
【0037】
特定の実施形態において、第1のT細胞受容体の核酸配列は、第2のT細胞受容体の核酸配列と、両方の配列が1つの塩基対以下で異なり、かつ第1のT細胞受容体の核酸配列がそれぞれのサンプル、特に腫瘍サンプルにて、第2のT細胞受容体核酸配列と比較して少なくとも20倍の頻度を示す場合、実質的に同一である。結果として、第1及び第2のT細胞受容体の核酸配列は、ともに同じクロノタイプに割り当てられる。
【0038】
同様に、第1のT細胞受容体のアミノ酸配列は、第2のT細胞受容体のアミノ酸配列と、両方のアミノ酸配列が1つ又は2つ以下の位置で互いに異なる場合、実質的に同一である。上記のT細胞受容体のアミノ酸配列は、TCRα/βのアルファ鎖及び/又はベータ鎖内、あるいはTCRγ/δのガンマ鎖又はデルタ鎖内に含まれ得る。
【0039】
クロノタイプの頻度は、頻度が決定される配列のセット内のTCR核酸配列によって同定されるT細胞の相対的又は絶対的な頻度の尺度である。
【0040】
特に、所与のサンプルにおけるクロノタイプの頻度は、前記サンプル内のTCR核酸配列によって同定されるT細胞の相対的又は絶対的頻度の尺度である。
【0041】
特定の実施形態において、上記の複数のT細胞受容体の核酸配列は、ヒトT細胞受容体、特にTCRα/β又はTCRγ/δを形成するポリペプチド鎖の1つをコードする核酸配列内に含まれる。特定の実施形態において、上記の複数のT細胞受容体の核酸配列は、非コーディング核酸配列を含まない。非コーディング配列とは、機能しないTCRタンパク質の配列をもたらす終止コドン又はフレームシフトを伴うクロノタイプを指す。
【0042】
特定の実施形態において、腫瘍特異的T細胞受容体の核酸配列は、30ヌクレオチド~110ヌクレオチドの長さを特徴とする。
【0043】
特定の実施形態において、腫瘍特異的T細胞受容体の核酸配列は、ヒトT細胞受容体を形成するポリペプチド鎖(アルファ、ベータ、ガンマ及びデルタ)のいずれか1つに含まれる固有のアミノ酸配列をコードし、前記固有のアミノ酸配列は、特定のクロノタイプ又はクラスタ型でのみ生じ、他のいずれのクロノタイプ又はクラスタ型では生じない。
【0044】
特定の実施形態では、配列の比較は、CDR3配列トラクトに関して行われ、特定のクロノタイプのすべてのメンバーは、同一のCDR3配列を示す。
【0045】
特定の実施形態では、この方法は、非腫瘍配列のセットの取得及び同定を可能にする以下の工程をさらに含む:
- 非腫瘍組織サンプルが、前記患者から得られる工程(前に説明したように、必ずしも本明細書で請求されるとおりこの方法の技術的部分である必要はなく、このサンプルは前もって得られていてもよい);
- 核酸調製物が、核酸単離工程で非腫瘍サンプルから単離される工程;
- 複数の非腫瘍組織T細胞受容体の配列が、非腫瘍組織サンプルから得られ、これにより、非腫瘍組織TCR配列のセットが生成される工程;
- 複数の非腫瘍組織T細胞受容体の配列が、アラインメントされる工程;
- 非腫瘍組織T細胞受容体の配列が、複数の非腫瘍組織のクロノタイプに分類される工程。特定のクロノタイプに分類されたT細胞受容体の配列は、実質的に同一又は同一の配列を示す;
- 各クロノタイプに関連する非腫瘍組織T細胞受容体の配列の数が決定され、それにより、クロノタイプのそれぞれについてのセット内のクロノタイプの頻度が得られる工程;
- 腫瘍特異的クロノタイプが、複数の腫瘍サンプルのクロノタイプから選択される工程。腫瘍特異的クロノタイプは、非腫瘍組織TCR配列のセット内で、存在しないか、又は<20%、<15%、<10%、又は<5%の頻度を示すかである。
【0046】
特定の実施形態では、T細胞受容体の配列を取得することは、以下の工程を含む:
- 腫瘍サンプル、非腫瘍組織サンプル、及び血液サンプルからT細胞を単離し、単離したT細胞から核酸を単離する工程、及び
- T細胞受容体の核酸配列を特異的に増幅する核酸増幅反応を行う工程。
【0047】
TCR配列を得るための方法は、当技術分野で知られている。米国特許出願第2015/337368号としても公開されている国際特許出願第2014/096394号は(両方とも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、本実施例で使用される方法を示している。別のシステムは、Adaptive Biotechnologies社から「ImmunoSEQ」の商品名で世界的に入手可能である。
【0048】
特定の実施形態では、核酸増幅反応は、ヒトT細胞受容体の鎖のCDR3領域、特にヒトT細胞受容体のアルファ鎖又はベータ鎖のCDR3領域をコードする配列を特異的に増幅する。
【0049】
tiTreg配列を選択する工程では、個々のアルファ鎖及びベータ鎖に対して関連する完全なT細胞受容体の組成についての知識は必要ないが、レシピエント細胞に導入するための機能性TCRエンコード発現ベクターの再構築にはこの知識が必要である。これを達成するために、いくつかの戦略を採用することができる。
【0050】
現在実施されている手段は、このプロセスにおいてTCR配列を2回取得するものである:最初に、腫瘍サンプルから取得したT細胞の第1の部分が、CRD配列トラクトに関してのみシーケンシングされる。これにより、クロノタイプの決定することができる。非腫瘍サンプルも同様にシーケンシングされる。
【0051】
次いで、第2のシーケンシング工程において、腫瘍サンプルから得られたT細胞の第2の部分が単一の細胞に分離され、個別にシーケンシングされる。このシーケンシングのラウンド(工程)は、任意の1つの単一細胞で発現する完全なTCRポリペプチド鎖に関する情報を提供し、遺伝子導入工程で採用される導入システムに導入するためのそれぞれの発現ベクターの構築を可能にする。採用できる技術の1つは、米国特許第9,644,204号、第9,975,122号、第10,053,723号及び第10,071,377号に記載されている10×genomics Inc.による10×シーケンシングであり、これらはすべて参照により本明細書に組み込まれる。
【0052】
特定の実施形態では、レシピエントT細胞は、細胞傷害性T細胞及びヘルパーT細胞を含む群から選択される。本明細書では、この方法は、患者から得られたサンプルからのヘルパーT細胞を選択する工程を含み、濃縮ヘルパーT細胞調製物を生成する。レシピエントT細胞は、特に患者のリンパ球調製物からのCD8T細胞及びCD4制御性T細胞の枯渇によって調製される。
【0053】
特定の実施形態において、レシピエントT細胞(制御性細胞ではない)は、例えばCD8及びCD25の陰性選択によって同じ患者のPBMCから単離されるCD3CD4CD8CD25と記載されるヘルパーT細胞の濃縮画分に属する。
【0054】
特定の実施形態において、レシピエントT細胞は、CD8陰性及びCD127陽性の選択によって同じ患者のPBMCから単離される、CD3CD4CD8CD127と記載されるヘルパーT細胞の濃縮画分の一部である。
【0055】
濃縮されたT細胞調製物は、遺伝子導入の工程に供される。
【0056】
あるいは、細胞傷害性T細胞は、患者から得られたサンプルから選択され、濃縮された細胞傷害性T細胞調製物を生成する。
【0057】
本明細書の文脈における「非腫瘍組織サンプル」という用語は、腫瘍が発生した組織と同じ種類の組織から得られたサンプル又はサンプルのプールを指す。非腫瘍組織の供給源の1つの非限定的な例は、患者の腫瘍に近接した組織である。
【0058】
特に、非腫瘍組織のT細胞受容体のアミノ酸配列は、腫瘍から得られたT細胞受容体のアミノ酸配列が複数の腫瘍サンプルのクロノタイプに分類されるのと同じ様式で、複数の非腫瘍組織のクロノタイプに分類され、特に、腫瘍サンプルで同定されたクロノタイプを非腫瘍組織のクロノタイプに再割り当てすることを可能にする。
【0059】
特に、あるクロノタイプが、このクロノタイプ内に含まれる複数のT細胞受容体アミノ酸配列のうちのT細胞受容体アミノ酸配列のいずれか1つが非腫瘍クロノタイプに含まれるT細胞受容体アミノ酸配列と実質的に同一又は同一である場合、非腫瘍のクロノタイプに割り当てることができる。
【0060】
特に、腫瘍で同定されるクロノタイプが、以下のような場合には非腫瘍のクロノタイプに割り当てることができる:
a)このクロノタイプ内に含まれる複数のT細胞受容体核酸配列のうちのT細胞受容体核酸配列のいずれか1つが、非腫瘍クロノタイプ内に含まれるT細胞受容体核酸配列と実質的に同一である場合、及び/又は
b)このクロノタイプに含まれる複数のT細胞受容体核酸配列のうちのT細胞受容体核酸配列によってコードされるT細胞受容体アミノ酸配列が、非腫瘍サンプルのクロノタイプに含まれるT細胞受容体核酸配列によってコードされるT細胞受容体アミノ酸配列と同一である場合。
【0061】
特定の実施形態では、非腫瘍サンプルは、腫瘍と同じ種類の組織の非腫瘍組織のサンプル、特に腫瘍に隣接する非腫瘍組織のサンプルである。このような非腫瘍組織は、超音波検査、X線撮影、CT、又は免疫染色などの一般的な手法で同定することができる。
【0062】
本明細書の文脈における「血液サンプル」又は「血液からのサンプル」という用語は、患者の血液からのサンプル又は血液から得られたサンプルのプールを指す。
【0063】
特定の実施形態において、血液サンプルから得られたT細胞受容体アミノ酸配列は、腫瘍から得られたT細胞受容体アミノ酸配列を複数の腫瘍サンプルのクロノタイプに分類するのと同じ様式で、複数の血液サンプルのクロノタイプに分類され、特に腫瘍サンプルのクロノタイプを血液サンプルのクロノタイプに割り当てることができる。
【0064】
特に、腫瘍特異的クロノタイプは、このクロノタイプ内に含まれる複数のT細胞受容体アミノ酸配列のうちのT細胞受容体アミノ酸配列のいずれか1つが血液サンプルのクロノタイプに含まれるT細胞受容体のアミノ酸配列と実質的に同一又は同一の配列を示す場合、血液サンプルのクロノタイプに割り当てることができる。
【0065】
特定の実施形態において、選択された腫瘍特異的クロノタイプは、ヒトサイトメガロウイルス又はエプスタインバーウイルスなどのウイルスに反応性である既知のクロノタイプに割り当てることができない。
【0066】
そのような割り当ては、選択された腫瘍特異的クロノタイプ内に含まれる腫瘍特異的T細胞受容体核酸配列が、ヒトサイトメガロウイルス又はエプスタインバーウイルスなどのウイルスに反応性である既知のクロノタイプの核酸配列と比較される、バイオインフォマティクス法によって実施され得る。
【0067】
特に、以下の場合に、選択された腫瘍特異的クロノタイプは、ヒトサイトメガロウイルス又はエプスタインバーウイルスなどのウイルスに反応性であることが知られているクロノタイプに割り当てることができない:
a)このクロノタイプに含まれる複数のT細胞核酸配列のT細胞受容体核酸配列のいずれも、既知のクロノタイプに含まれるT細胞受容体核酸配列と実質的に同一でない場合、
b)このクロノタイプに含まれる複数のT細胞受容体核酸配列のT細胞受容体核酸配列によってコードされるT細胞受容体アミノ酸配列のいずれも、既知のクロノタイプに含まれるT細胞受容体核酸配列によってコードされるT細胞受容体アミノ酸配列と同一でない場合、又は
c)このクロノタイプに含まれる複数のT細胞アミノ酸配列のT細胞受容体アミノ酸配列のいずれも、既知のクロノタイプに含まれるT細胞受容体アミノ酸配列と実質的に同一又は同一でない場合。
【0068】
特定の実施形態において、核酸の単離工程は、以下の工程を含む:
a. 前記腫瘍サンプルからT細胞を単離し、前記単離されたT細胞から核酸を単離する工程、及び/又は
b.T細胞受容体核酸配列を特異的に増幅する核酸増幅反応を行う工程。
【0069】
特定の実施形態において、腫瘍特異的T細胞受容体核酸配列は、ヒトT細胞受容体の鎖のCDR3領域、特にヒトT細胞受容体のアルファ鎖又はベータ鎖のCDR3領域をコードするか、又は腫瘍特異的T細胞受容体アミノ酸配列は、ヒトT細胞受容体の鎖のCDR3領域、特にヒトT細胞受容体のアルファ鎖又はベータ鎖のCDR3領域内に含まれている。
【0070】
特定の実施形態において、腫瘍特異的核酸配列は、RNA内に含まれ、特に、ヒトT細胞受容体のアルファ鎖又はベータ鎖のCDR3領域内に含まれるアミノ酸配列をコードする。
【0071】
特定の実施形態において、腫瘍特異的核酸配列は、RNA内に含まれ、特に、ヒトT細胞受容体のアルファ鎖及びベータ鎖の両方のCDR3領域内に含まれるアミノ酸配列をコードする。
【0072】
特定の実施形態において、腫瘍特異的核酸配列は、RNA内に含まれ、特に、ヒトT細胞受容体のアルファ鎖又はベータ鎖のアミノ酸配列の長く伸びる鎖をコードする。
【0073】
特に、本発明の腫瘍特異的Treg TCR形質導入化T細胞の調製物の腫瘍反応性は、以下によって確認することができる:
- 本発明の上記のTreg TCR形質導入化腫瘍特異的T細胞の調製物の少なくともアリコートを、MHCクラスII分子の発現を刺激するインターフェロンガンマを用いて前処理又は未処理された患者の自己腫瘍の細胞懸濁液(「標的細胞懸濁液」)と、又は患者の自己抗原提示細胞を伴う自己腫瘍の溶解物と共培養すること、及び
- 標的細胞懸濁液の存在下で前記T細胞調製物によって産生されるインターフェロンガンマ又はTNFアルファの量を決定すること、及び/又は前記標的細胞懸濁液の存在下で前記T細胞調製物中のT細胞活性化マーカーのレベルを決定すること、特に、OX40、CD107a、CD137、CD154、LAG3、PD-1、B7-H4、PD-1、CD39;ブチロフィリンのメンバー、ブチロフィリン様タンパク質及び/又はCD69のレベルを決定すること。
【0074】
一実施形態では、本発明の方法は、以下の工程によって腫瘍特異的T細胞の調製を提供する:
- CD4T細胞が、患者から得られた腫瘍サンプルから単離され、単離された腫瘍浸潤(TIL)CD4T細胞の代表的なセットのT細胞受容体配列が決定され、かつ腫瘍浸潤(TIL)CD4T細胞のクロノタイプに分類され、すべてのTIL CD4細胞間の各クロノタイプの頻度が決定される工程。
- 同様に、CD4T細胞が、同じ患者から得られた非腫瘍サンプルから単離され、単離された非腫瘍CD4T細胞の代表的なセットのT細胞受容体配列が決定され、かつクロノタイプに分類され、すべての非腫瘍CD4細胞間の各クロノタイプの頻度が決定される工程。
- T細胞受容体配列が、腫瘍浸潤CD4制御性(CD25CD127lo及び/又はFOXP3)T細胞の代表的なセットについて決定される工程。この場合も、クロノタイプの分布とクロノタイプの頻度(TIL CD4制御性細胞のセットのために決定されたすべてのTCR配列間のクロノタイプの発生)が決定される。
- T細胞受容体配列が、腫瘍浸潤CD4従来型(CD25CD127及び/又はFOXP3)細胞の代表的なセットについて決定される工程。この場合も、クロノタイプの分布及びクロノタイプの頻度(TIL CD4従来型細胞のセットのために決定されたすべてのTCR配列間のクロノタイプの発生)が決定される。
- 選択の工程では、腫瘍浸潤性制御性T細胞受容体(tiTreg TCR:tumour-infiltrating T regulatory T cell receptor)をコードする1つ又は複数のTCR配列が選択され、1つ又は複数の選択されたtiTreg TCR配列が生成される工程。クロノタイプの選択は、以下の基準を適用して行うことができる:TIL CD4細胞間のクロノタイプの頻度が、非腫瘍CD4細胞間のクロノタイプの頻度よりも有意に高く(特定の実施形態では、少なくとも5倍高い)、かつ前記クロノタイプは誘導型Tregとして特徴付けられ、すなわち、これはtiTreg(CD4CD25highCD127low又はCD4FOXP3)画分とtiTconv(CD4CD25lowCD127又はCD4FOXP3)画分のとの間のTCRsafe分析において重複を示し、及び/又は10×Genomix単一細胞分析が、FOXP3発現細胞及びFOXP3陰性細胞の両方のクロノタイプに属するTIL CD4細胞で検出される。
- 遺伝子導入工程では、前の工程で選択したtiTreg TCRをコードする1つ又は複数の核酸発現ベクターが、レシピエントT細胞で操作可能なプロモーター配列の制御下でレシピエントT細胞に導入され、それにより腫瘍特異的T細胞の調製物が得られる工程。
【0075】
特定の実施形態では、遺伝子導入工程の前に導入遺伝子生成工程があり、プロモーター配列の制御下にある前記選択されたtiTreg TCRをコードする核酸が、以下によって生成される:
a. 前記腫瘍サンプルから得られた複数の制御性T細胞を単一の細胞に分離すること。
c. 複数の完全なTCR配列のセットを取得すること。各TCR配列のセットは、前記複数の細胞から完全なTCRα及びTCRβのポリペプチド配列を含む。
d. 選択されたtiTreg TCR配列を完全なTCR配列のセットに割り当てて、完全なtiTreg TCR配列のセットを得ること。
e. 前工程で決定した前記完全なtiTreg TCR配列のセットの完全なTCRα及びTCRβのポリペプチド配列をコードする配列を、遺伝子発現コンストラクトに挿入すること。
【0076】
本発明の別の態様は、本発明の方法によって得られるT細胞の調製物、特に、がんの治療、又はその再発の予防に使用するための調製物に関する。
【0077】
本発明のさらに別の態様は、本発明の上記の態様及び実施形態に記載されたとおりの同定及び単離された腫瘍特異的Treg TCRを採用することにより、腫瘍特異的新生抗原を同定する方法に関する。これらの新生抗原は、腫瘍ワクチンとして、あるいは腫瘍エスケープに対抗するための二重特異性抗体又は二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE(登録商標)(Amgen Corp.))関連の免疫療法の開発に採用することができる。
【0078】
抗腫瘍T細胞応答の主な標的は、腫瘍特異的な体細胞変異に起因するいわゆる新生抗原である。それらは、生検又は外科的切除材料に由来する腫瘍細胞のゲノムDNA及びRNAを使用した全エクソーム及びトランスクリプトームシーケンシングによって同定される。比較のために、腫瘍隣接の正常組織又は末梢血リンパ球からの対応する核酸も同様にシーケンシングされる。次に、新生抗原候補、特に、KRAS、NRAS、TP53、PIK3CA、EGFR、BRAFなどの一般的な発癌性ドライバー遺伝子に変異がある候補を、インビトロでTreg TCR形質導入T細胞による認識について試験する。変異した新生抗原に加えて、腫瘍型特異的ながん生殖細胞系列抗原、又は腫瘍細胞にて(代替リーディングフレームにおいて)過剰発現又は異常に発現した抗原などの候補の腫瘍関連抗原(TAA:tumour-associated antigen)は、トランスクリプトームシーケンシングによっても同定することができ、かつTreg TCR形質導入化T細胞による認識について試験することができる。変異によって交換されたアミノ酸を含有する新生抗原に由来するペプチドと、候補TAAの完全なアミノ酸配列にわたって長く重複するペプチドライブラリーの両方が合成され、自己又はHLA適合抗原提示細胞にパルスされ、IFN-γ-Elispotアッセイ、ELISA、又は同等の試験などの機能アッセイを介してTreg TCR形質導入化T細胞による認識について試験される。
【0079】
したがって、一実施形態では、本発明は、腫瘍特異的T細胞応答を誘発する新生抗原の能力を決定するための方法に関する。この方法は、以下の工程を含む:
- 新生抗原の候補オリゴペプチド又は新生抗原ポリペプチドを、患者由来の抗原提示細胞、又は患者のHLAレパートリーを代表するHLA分子を提示する抗原提示細胞株と接触させる工程;又は
- 腫瘍限定的発現を有する変異していない抗原に由来する候補オリゴペプチド又はポリペプチドを、患者由来の抗原提示細胞、又は患者のHLAレパートリーを代表するHLA分子を提示する抗原提示細胞株と接触させる工程;
- 前記抗原提示細胞を、本発明の第1の態様にしたがって同定される腫瘍特異的TCR配列を発現するT細胞(非Treg TC)と接触させる工程、及び
- 腫瘍抗原候補を提示する抗原提示細胞と形質導入化T細胞との相互作用が前記T細胞の活性化につながるかどうかを決定する工程。活性化が記録される場合、新生抗原候補には新生抗原のステータスが割り当てられる。同様に、このtiTregトランスジェニックT細胞によって認識される腫瘍限定的発現を伴う変異していない抗原候補には、腫瘍関連抗原が割り当てられる。
【0080】
本発明はさらに、バイオマーカーとしての腫瘍特異的制御性TCR配列の使用を提供する。
【0081】
Treg TCRのヌクレオチド配列は、新しいエフェクターT細胞に形質導入する目的で合成され、発現ベクターに(非限定的な例として、レトロウイルス発現ベクターにより)導入され得る。α鎖及びβ鎖の配列は、コドン最適化配列として(又はアミノ酸レベルで異なることがない患者に見られるTCR配列とは有意に異なる核酸配列として)設計することができ、それらに末梢血リンパ球などのエクスビボ材料のハイスループットシーケンシングによって簡単に認識及び定量化できる固有の配列特徴を与えることができる。Treg TCR形質導入化T細胞を患者に養子移入した後、該Treg TCR配列を治療後のさまざまな時点でモニターすることができ、治療を受けた患者の臨床経過と関連付けることができる。
【0082】
本発明は、以下の実施例及び図によってさらに説明され、そこから、さらなる実施形態及び利点を引き出すことができる。これらの実施例は、本発明を説明することを意図しているが、その範囲を限定することを意図していない。
【実施例
【0083】
さまざまな組織の取り扱いと処理及び細胞選別
a)腫瘍サンプルは、腫瘍組織から採取された1つのサンプル又は複製サンプルのセットとしてのいずれかで定義される。実際には、TCRを分析するための材料は、次のいずれかによって取得される:
i.)別個の生検又は1つの生検の異なる領域を選択すること。これは免疫組織化学的染色が貢献し、特にTreg細胞はCD4、FOXP3、CD25、CD45RA、HLA-DR、CTLA4、CD39などのTregマーカーで免疫組織学的に染色され、そして染色された領域がDNA抽出のために選択される。
ii.)腫瘍組織の溶解(例えば、TCR分析の開始点としての単一細胞懸濁液の調製のためのビーズに基づく技術によって)。Tregを分析するためのT細胞選別にはいくつかの選択肢がある。これらには、a)細胞表面マーカーCD4CD25CD127low/-の使用、b)CD4及び細胞内FOXP3染色の使用、c)表面マーカーCD4CTLA4high又はCD4CD39highの使用が含まれる。
【0084】
非Treg従来型CD4T細胞(Tconv)の細胞選別では、表面マーカーCD4CD25CD127high及び/又はCD4FOXP3を使用して、Treg及びTconvのTCRレパートリーの潜在的な重複を決定できる。Treg及びTconvの画分における固有のクロノタイプのこのような重複は、誘導型Treg形成の指標である。免疫療法のアプローチにTreg TCRを使用する場合、TCRが天然型制御性T細胞に由来するか、又は誘導型T細胞に由来するかの違いができる。誘導型TregのTCRは、腫瘍特異的ヘルパーT細胞に由来する。したがって、その使用は腫瘍特異的かつ安全(safe)なものでなければならない。一方、天然型制御性T細胞のTCRは、生物の他の部位で同族の自己抗原を認識し、自己免疫の誘導による悪影響を引き起こす可能性がある。そのような副作用は、細胞毒性ではなく炎症性のものである可能性があり、抗炎症治療を必要とする可能性がある。さらに、末梢性誘導型Treg細胞は、表面マーカーのニューロピリン1及び細胞内マーカーのヘリオスの発現がないことにより、胸腺の天然Treg細胞と区別することができる。分離されたT細胞サブセットは、DNA抽出のために選択され、α-及び/又はβ-TCR/CDR3 NGS配列分析が行われる。
【0085】
さらに、腫瘍サンプルは、細胞材料の供給源として細胞保存条件下で保存することができる。
【0086】
b)同じ患者からの非腫瘍サンプルは、再現が可能であれば、別個の組織スポットから可能な限り、腫瘍サンプルに隣接する組織/領域から選択される。組織サンプルを採取するか、又は単一細胞懸濁液を調製する。Tregを同定するためのT細胞選別にはいくつかの選択肢がある。これらには、a)細胞表面マーカーCD4CD25CD127low/-の使用、b)CD4及び細胞内FOXP3染色の使用、c)表面マーカーCD4CTLA4high又はCD4CD39highの使用が含まれる。非Treg従来型CD4T細胞(Tconv)の細胞選別には、表面マーカーCD4CD25CD127highを使用して、TregとTconvのTCR-レパートリーの潜在的な重複を判断することができる。組織サンプル又は分離されたT細胞サブセットは、DNA抽出のために選択され、α-及び/又はβ-TCR/CDR3 NGS配列分析が行われる。
【0087】
血液サンプルは同じ患者から採取される:標準的な血液学的分画により、細胞成分は全血から単離される。細胞成分は、異なるT細胞サブセットで分離されてもよい。DNA抽出後、α-及び/又はβ-TCR/CDR3 NGS配列分析が実行される。
【0088】
腫瘍特異的Treg TCRの遺伝子導入による抗腫瘍T細胞の提供
腫瘍(NSCLC)及び肺組織からのTリンパ球の細胞懸濁液の調製:
各腫瘍検体は、周囲の正常組織及び壊死領域がないように解剖される。腫瘍及び正常な肺組織からの約0.8gの立方体が、各寸法で約2~3mmの小さな塊に切断される。スライスされた腫瘍(及び非腫瘍)生検は、腫瘍解離キット(Miltenyi Biotec)を使用し、製造元の指示にしたがって、市販の機械的/酵素的組織解離システム(gentleMACS、Miltenyi Biotec)に供される。
【0089】
穏やかなMACS分離の後、細胞懸濁液を70μmストレーナーに通す。この時点で腫瘍細胞のアリコートを採取し、後で使用するために10%DMSO(Sigma-Aldrich)及び90%FCS(Life Technologies)で凍結保存する。残りの細胞懸濁液は、PBS/RPMI 1640中のPercoll(登録商標)(GE Healthcare Europe GmbH)の40%/80%のステップ勾配を使用する密度勾配遠心分離に供される。Tリンパ球を間期から採取し、完全培地(RPMI1640、Lonza)で洗浄する。続いて、100IU/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを添加した2mLのTexMACS培地(=回収培地、Miltenyi Biotec)を含む24ウェル組織培養プレートの各ウェルに0.5×10細胞/mlの濃度で細胞を配置することによりTリンパ球を培養する。プレートを5%COの加湿37℃インキュベーターに入れ、一晩培養する。
【0090】
Tリンパ球の選別
翌日、細胞を採取し、ウェルからプールする。Treg画分(CD4,CD25high,CD127low/neg)及び対応するTconv画分(CD4,CD25low/neg,CD127)を単離するために、次の抗体パネル(Miltenyi Biotec):ヒトCD3-APC-Vio770、CD4-PE-Vio770、CD25-PE、CD127-APCを使用してFACS選別のために細胞を染色する。さらに、細胞を7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD、BioLegend)を使用して染色して生存率を試験する。DNAを分離された各画分から抽出し、ライブラリ調製に利用する。
【0091】
ゲノムDNAの分離及びTCRsafe(登録商標)分析
ゲノムDNA(gDNA)を、Macherey-Nagel(デューレン、ドイツ)のNucleoSpin(登録商標)組織キットを使用して組織材料から抽出する。血液gDNAを、QIAamp(登録商標)DNA血液ミニキット(Qiagen、ヒルデン、ドイツ)又はAllPrep(登録商標)DNA/RNA/miRNAユニバーサルキット(Qiagen)のいずれかを使用して、製造元の手順にしたがって2~3mlの新しい血液から単離する。
【0092】
TCRβ鎖のCDR3領域を、CDR3領域に隣接するVセグメント及びJセグメントに特異的に結合するTCRβプライマーを使用する、TCRsafe(登録商標)法、特許権のある2段階PCR増幅手順(国際特許出願第2014/096394 A1号に開示)にしたがってNGS(Illumina MiSEQ)技術でシーケンシングする。ゲノムDNAを、NGSプロセスの出発物質として使用する。
【0093】
NGSデータからのクロノタイプ(配列クラスタ)頻度の算出
サンプルごとに、多数(>10)のペアリード(ヌクレオチド配列)をNGSによって一般的に生成する。リードペアは通常、40~80塩基が重複し、リードペアが連続した配列に統合される。次に、これらの配列は、実質的に同一のヌクレオチド配列のクラスタにアセンブルされ、クラスタあたりのリードの数がクラスタの頻度を決定する。クラスタの頻度は、このクラスタに分類されるこのサンプル内のリードのパーセンテージについての尺度である。
【0094】
クラスタリングは2つのラウンドで機能する:第1の工程では、100%のヌクレオチド配列同一性を持つすべてのリードがクラスタ配列がリード配列と同一である1クラスタとしてカウントされ、第2の工程では、複数のクラスタを相互に比較し、かつ
- 1bpを超えないミスマッチを有し、かつ
- 一方のクラスタ(クラスタA)が他方のクラスタ(クラスタB)より少なくとも20倍を超えるリードを有する、
クラスタは統合され、かつクラスタAと同一とみなされる。核酸配列クラスタは、クロノタイプと同等とみなされる。
【0095】
ヌクレオチド配列クラスタをアミノ酸配列(ペプチド)に翻訳し、表にする。各クラスタは、上記で定義されたとおりの頻度を有する1つのクロノタイプとみなされる。この頻度は、サンプル内のそれぞれのT細胞の頻度の直接的な尺度である。
【0096】
サンプル間でのTCR配列プロファイルの比較
クロノタイプのCDR3アミノ酸配列を、同一性試験手順によってサンプル間で比較した。ここではミスマッチのない配列のみが1つの同じCDR3アミノ酸配列として受け入れられる。複数のサンプル比較の結果は、1行あたり1つ又は複数のサンプルで共有される1つのTCRβ CDR3アミノ酸配列を有する表であり、各サンプルは、そのサンプルにおけるそれぞれのCDR3頻度を含有する1つの列で表される(1つのサンプルを表す図3を参照)。(同じCDR3アミノ酸配列を共有する)別個のサンプル間の比率は、それぞれの頻度の比率によって算出される。
【0097】
比較配列分析による腫瘍特異的Tregのクロノタイプの同定
例示的な一実施形態では、腫瘍特異的Tregのクロノタイプは、4桁のスコア1100によって同定される。このスコアは、表1にしたがう比較配列分析により組み合わせされる。
【0098】
【表1】
【0099】
各CDR3ペプチド配列(配列1,2,3,...)について、各サンプル(各列)に単純なバイナリスコアが与えられている。「1」は、それぞれのCDR3ペプチド配列がサンプル中に存在することを意味し、「0」は、存在しないか、又は低レベルであるかのいずれかを意味する。正確な定義は以下のとおりである。バイナリスコアは、表1に示すとおり4桁のスコアにまとめられる。スコアリングスキーマには、血液サンプルが存在しない場合(つまり列Dが「0」で埋められる場合)、又は非腫瘍サンプルが存在しない場合(つまり列Cが「0」で埋められる場合)も含まれる。列(サンプルの種類)ごとのバイナリスコアは以下のように定義される:
【0100】
A:スコア=1:配列(配列1,2,3,...)は、上位100のクロノタイプ(頻度の高いものから低いものへの選別)のうちのものであり、完全なオープンリーディングフレームを示し、つまり、終止コドン又はフレームシフトは見つからず、それ以外の場合はスコア=0である。
【0101】
B:スコア=1:配列(配列1,2,3,...)がサンプル中に存在する。BがCD4CD25CD127low/-として選択されたTCRの腫瘍内の頻度であり、かつAが腫瘍CD4サンプル中の頻度である場合に、比率B/Aは0.5より大きくなる。その他のすべての場合は、スコア=0である。
【0102】
C:スコア=0:配列(配列1,2,3,...)が、非腫瘍サンプルに存在しないか、又は腫瘍サンプルで同一と検出されるかのいずれかであるが、Cが非腫瘍CD4サンプルの頻度であり、かつAは腫瘍CD4サンプルの頻度である場合、比率はC/A≦0.2である。その他のすべての場合は、スコア=1である。
【0103】
D:スコア=0:配列(配列1,2,3,...)の頻度は、腫瘍組織(A)のそれぞれの配列の頻度よりも低い。それ以外の場合はスコア=1である。
【0104】
それぞれのTCR配列を腫瘍特異的であると同定するには、1100のスコアが必要である。表1の配列2はスコアが1100であり、腫瘍特異的T-regクロノタイプとして同定される。
【0105】
腫瘍特異的TregクロノタイプのTCRアルファ/ベータ結合シーケンシング及び完全なアルファ/ベータTregTCRの合成とクローニング
T細胞受容体の両方の鎖のペアシーケンシングは、標的特異的抗原受容体を用いるT細胞の調整された産生に不可欠な前提条件であり、ここで前記標的とは、1つ又は複数の腫瘍抗原、ウイルス又は微生物起源の抗原、自己免疫疾患などに関連する抗原であり得る。いずれのT細胞受容体の2つの鎖は異なる染色体上にコードされているため、単一細胞レベルで異なる染色体から転写されたそれぞれのRNAを相関させるには、高度なペアシーケンスアプローチが必要である。T細胞受容体の両方の鎖のペアシーケンシングを実行するための確立された技術が存在し、例えば、10×genomics社が提供する技術は、このシステムの単一細胞シーケンシングのためのchromiumコントローラーを使用することにより、あらゆる分子生物学研究所で実装できるものである。別のアプローチは、十分にプレートされた細胞アレイ及び深い並列シーケンシングとそれに続く統計分析に基づく(Howie B.ら、High-throughput pairing of T cell receptor α and β sequences.Science Translational Medicine 7,301 (2015))。
【0106】
上記の方法で腫瘍特異的と同定されたT細胞受容体のTCRβ CDR3部分は、通常最大10000個のT細胞のサンプルと、腫瘍特異的TCRβ CDR3サブ配列を含有するそれぞれのペアTCR配列の選択とを用いて、単一細胞シーケンシングを実行することによって、別の工程においてそれぞれのα鎖とペアにされるであろう。ペアTCR配列に基づいて、受容体を合成することができる。
【0107】
10×genomics技術を使用したT細胞受容体プロファイリングとTreg細胞のFOXP3遺伝子発現解析との組み合わせ
ペアにされたTCR単一細胞シーケンシングを遺伝子発現解析と組み合わせることで、T細胞のサブタイプを特徴づけ、その機能状態を解析することができる。FOXP3は、制御性T細胞の系統を定義する転写因子である。CD4 Treg細胞は、CD25の細胞表面発現が高位かつ安定的であること、CD127の発現がないこと、及びFOXP3が構成的に発現していることでエフェクター型T細胞と区別することができる(CD25high/CD127-/FOXP3)。TILの中からTregを同定するために、CD4+/CD25+/CD127 T細胞をFACSで選別し、メーカーの指示に従い、10×genomic社のChromium(商標)Single Cell V(D)J Reagentキットを用いて、ペアTCR単一細胞シーケンスとFOXP3発現解析との組み合わせに供する。シーケンシングライブラリーの作成とその後のシーケンシングのためのFOXP3(ジェンバンクアクセッション AF277993)のPCR増幅を、自社で設計したプライマー(CTTCTCCTTCTCCAGCACCA(配列番号101);GACACCATTTGCCAGCAGTG(配列番号102);TTGAGGGAGAAGACCCCAGT(配列番号103))を使用することで実現する。10×テクノロジーでは、天然型制御性T細胞と誘導型制御性T細胞の両方を検出することができる。誘導型Tregは、FOXP3発現T細胞とFOXP3陰性T細胞とからなる同一のα/β-TCRを持つ所定のクロノタイプの細胞として同定される。
【0108】
Treg細胞のα鎖とβ鎖とを合成し、自己腫瘍患者由来の新しいエフェクターT細の安定的な導入のためにレトロウイルス発現ベクターにクローニングする(次項参照)。
【0109】
単離及びクローン化された腫瘍特異的Treg TCRの遺伝子導入
これは、レトロウイルス導入システムを用いて達成される(出典 Vossら、Adoptive Immunotherapy:Methods and Protocols,1,2,3 Science and Business Media,2005)。組換えTCRトランスジェニックレトロウイルスを、Phoenix-Amphoパッケージング細胞株を使用して生産する。それらを、pMX-puro/βTCR-p2A-αTCRと呼ばれるバイシストロン性コンストラクトTCR-ベータ鎖-p2A-TCR-アルファ鎖をコードする発現ベクターで一過性にトランスフェクトする。同時トランスフェクトされるのは、ウイルス構造タンパク質とポリメラーゼ(逆転写酵素)とをコードするプラスミドpHIT60(マウスモロニー白血病ウイルス由来)、及び両種性エンベロープタンパク質をコードするpCOLT-GALV(ギボンエイプ白血病ウイルス由来)である。感染性ウイルス粒子を含有する上清は、40~48時間後に回収できる。同じ患者のPBMCに由来する濃縮CD4ヘルパーT細胞を、ウイルス上清とのインキュベーションによって感染させ、24ウェルプレートに播種し、インキュベーター(37°C、5%CO)で24時間培養する。続いて、TCRトランスジェニックT細胞を増加及び濃縮するために、前記細胞を、ピューロマイシンを補充した培地にて抗CD3/抗CD28で刺激する。濃縮は、TCR-β鎖特異的抗体を使用したフローサイトメトリーによってモニターする。十分な増加の後、T細胞をアリコートに凍結し、機能アッセイ用のエフェクターT細胞のストックを形成する。
【0110】
Treg TCR形質導入Th1細胞の腫瘍反応性の検出
Treg TCRを形質導入したTh1細胞(ウェルあたり1×10)と腫瘍細胞(ウェルあたり1×10)は、未処理か、又は200IU ml-1IFNガンマで前処理してMHCクラスII分子の発現を刺激するかして、10%の自己ヒト血清、ペニシリン、及びストレプトマイシン(ThermoFisher Scientific)を添加した200μlのRPMI1640(Lonza)で培養する。48時間後、培養上清を回収し、サイトメトリービーズアレイ(BD Biosciences)を使用してIFNガンマについて分析する。IFNガンマの細胞内レベルをフローサイトメトリーで検出するために、形質導入されたT細胞を腫瘍細胞とゴルジプラグ(Golgi-Plug)の存在下で24時間共培養する(BD Biosciences; 1:1,000)。続いて、細胞を表面抗体を使用して染色し、死んだ細胞を除外し、細胞内IFNガンマを、Cytofix/Cytopermキット及び抗IFN-γ染色(BD Biosciences)を使用して製造元の手順にしたがって検出する。
【0111】
図4~7に示すとおりの誘導型腫瘍浸潤Treg配列の同定
図4及び図5に示したデータはすべて、同じ腫瘍(NSCLC)の患者から得られたサンプルから得られたものである。
【0112】
図4の表は、TIL CD4(列F)では下降する頻度に関して選別されている。列A~Iは、国際特許出願第2014/096394A1号(米国特許出願第2015/337368 A1号としても公開されている)に開示されているTCRシーケンシング技術によって得られたデータを示す。
【0113】
各列は、特定の組織のサンプル調製物から得られたものであり、及び/又は特定のマーカーに関して選別された細胞サンプルから作られている。
- 血液(列D)は単に参照用であり、専用のマーカーについて選別なし
- 他のすべての列(E~H)は、CD4と、場合によって追加のマーカーとに関して選別される
- 列F 対 列E:クロノタイプごとの頻度の比率(列F/列E)は、列Iで与えられる比率を定義する。>5の値は、腫瘍の特異性にとって有意であるとみなされる。
- 列G 対 列H:列GではCD25low/CD127(T従来型)に、列H(Treg)ではCD25high/CD127low/-にゲート設定したマーカーCD25及びCD127を使用した古典的な選別により、天然型制御性T細胞及び/又は誘導型T細胞を同定するための方法が確立される(ここではG及びHにおける有意なTregが、誘導型Tregに期待される)。
- 列I:HSD比:TIL CD4/非腫瘍CD4
【0114】
10×Genomicsの単一細胞シーケンシング技術により、1つのcDNAライブラリからVDJペアリング(T細胞受容体、両方の鎖)と専用の遺伝子(ここではFOXP3)の遺伝子発現を同定することができる。この結果は単一細胞特異的であり、つまり、細胞ごとに配列を比較できる。このようにして、それらのFOXP3の発現パターンが異なる1つのクロノタイプ(同じTCR/VDJ)の別個の細胞を同定することができる:
a. 実質的に同じTCRを持つ、FOXP3発現のない1つ又は複数の細胞、及び1つ又は複数のFOXP3陽性T細胞が同定された場合、そのクロノタイプは誘導型とみなされる;
b. 1つ又は複数のFOXP3陽性のT細胞が同定され、かつ同じVDJクロノタイプ内の細胞が他に同定されない場合は、天然型Tregとみなされる;
c. 10×データ/FOXP3発現解析でa.又はb.をサポートしない場合、そのクロノタイプは純粋なTh細胞であり得、考慮されない。
【0115】
図4の斜線の列は、上記の基準a.を満たしている。DN00xは(DNA)-群xの略であり、β鎖及びα鎖に同じCDR3領域を持つTreg細胞及びTh細胞すべてを含む。誘導型2つのTregクローンを明確に同定することができ、これらは腫瘍特異的である。さらに、10×データでは、クローンを作成(TCRの遺伝子合成など)できるように、完全な受容体配列をもたらす。
【0116】
図5は、図4のものと同じデータセット及び患者を示すが、列Gに関して選別し、列HのHSD比が>5のフィルターを使用している。10×解析は、ゲート[CD25hi CD127lo/neg]を使用する対応するT細胞部分から誘導される。4行目及び19行目には、天然型Tregs(上記の定義を参照)を見ることができるが、上位20の他のほとんどすべてのクロノタイプは誘導型Tregsであり、そのすべてが腫瘍特異的である。
【0117】
図6は、10×データのみに基づく、別の患者のTreg解析を示す。このパターンは異なるように見えるが、前記比率と10×解析により、2つの誘導型Tregs及び3つの天然型Tregsをもたらす。
【0118】
図7は、図4の2つの誘導型及び1つの天然型Tregの計3つの例について、α/β鎖(CDR3領域のみ)の配列を示したものである。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7
【配列表】
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