(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】組換えヒト血清アルブミンの高発現のための遺伝子工学操作された細菌の構築
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20240306BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240306BHJP
C12N 15/14 20060101ALI20240306BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20240306BHJP
C12N 15/61 20060101ALI20240306BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C12P21/02 C ZNA
C12N1/19
C12N15/14
C12N15/53
C12N15/61
C12N15/31
(21)【出願番号】P 2022005006
(22)【出願日】2022-01-17
(62)【分割の表示】P 2019510736の分割
【原出願日】2017-05-04
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】201610289898.8
(32)【優先日】2016-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518389990
【氏名又は名称】シェンチェン、プロトゲン、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN PROTGEN LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(72)【発明者】
【氏名】グオドン、チャン
(72)【発明者】
【氏名】シン、ドウ
(72)【発明者】
【氏名】シャオボ、シオン
(72)【発明者】
【氏名】ウェンチャオ、ワン
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特許第7014774(JP,B2)
【文献】特表2007-515962(JP,A)
【文献】特表2014-525255(JP,A)
【文献】特開平06-038771(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017693(WO,A1)
【文献】Zhang, W. et al.,Enhanced Secretion of Heterologous Proteins in Pichia pastoris Following Overexpression of Saccharomyces cerevisiae Chaperone Proteins,Biotechnol. Prog.,2006年,Vol. 22,pp. 1090-1095
【文献】Guerfal, M. et al.,The HAC1 gene from Pichia pastoris: characterization and effect of its overexpression on the production of secreted, surface displayed and membrane proteins,Microbial cell factories,2010年,Vol. 9:49,pp. 1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
rHSAを高発現させる方法であって、酵母宿主細胞で(a)ヒト血清アルブミン遺伝子と、(b)1種以上のrHSA発現促進因子遺伝子を共発現させる工程を含んでなり、酵母がピキア・パストリスであり、かつ、1種以上のrHSA発現促進因子が転写アクチベーターHAC1、結合タンパク質KAR2、小胞体オキシドレダクターゼ(ERO1)およびペプチジル-プロリルシス-トランスイソメラーゼ(PPI)からなる群から選択される1種であるか、あるいは、転写アクチベーターHAC1、結合タンパク質KAR2、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)、小胞体オキシドレダクターゼ(ERO1)およびペプチジル-プロリルシス-トランスイソメラーゼ(PPI)からなる群から選択される2種以上であり、但し、1種以上のrHSA発現促進因子は
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)および転写アクチベーターHAC1の組合せではなく、また、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)およびペプチジル-プロリルシス-トランスイソメラーゼ(PPI)の組合せではない、方法。
【請求項2】
1種以上のrHSA発現促進因子がタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)と
、結合タンパク質KAR2
および小胞体オキシドレダクターゼ(ERO1
)からなる群から選択される1種以上とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1種以上のrHSA発現促進因子が、
(1)転写アクチベーターHAC1、または、
(2)転写アクチベーターHAC1並び
に結合タンパク質KAR2、小胞体オキシドレダクターゼ(ERO1)およびペプチジル-プロリルシス-トランスイソメラーゼ(PPI)からなる群から選択される1種以上
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1種、2種、3種またはそれを超えるrHSA発現促進因子遺伝子が酵母宿主細胞に導入される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ヒト血清アルブミン遺伝子がプラスミドにより酵母宿主細胞に形質転換される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
rHSA発現促進因子遺伝子が1個、2個またはそれを超えるプラスミドにより酵母宿主細胞に形質転換される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
rHSAを高発現する遺伝子工学操作された真菌であって、酵母であり、かつ、(a)ヒト血清アルブミン遺伝子と、(b)1種以上のrHSA発現促進因子遺伝子を含んでなり、酵母がピキア・パストリスであり、かつ、1種以上のrHSA発現促進因子が転写アクチベーターHAC1、結合タンパク質KAR2、小胞体オキシドレダクターゼ(ERO1)およびペプチジル-プロリルシス-トランスイソメラーゼ(PPI)からなる群から選択される1種であるか、あるいは、転写アクチベーターHAC1、結合タンパク質KAR2、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)、小胞体オキシドレダクターゼ(ERO1)およびペプチジル-プロリルシス-トランスイソメラーゼ(PPI)からなる群から選択される2種以上であり、但し、1種以上のrHSA発現促進因子は
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)および転写アクチベーターHAC1の組合せではなく、また、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)およびペプチジル-プロリルシス-トランスイソメラーゼ(PPI)の組合せではない、遺伝子工学操作された真菌。
【請求項8】
1種以上のrHSA発現促進因子がタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)と
、結合タンパク質KAR2
および小胞体オキシドレダクターゼ(ERO1
)からなる群から選択される1種以上とを含む、請求項7に記載の遺伝子工学操作された真菌。
【請求項9】
1種以上のrHSA発現促進因子が、
(1)転写アクチベーターHAC1、または、
(2)転写アクチベーターHAC1並び
に結合タンパク質KAR2、小胞体オキシドレダクターゼ(ERO1)およびペプチジル-プロリルシス-トランスイソメラーゼ(PPI)からなる群から選択される1種以上
を含む、請求項7に記載の遺伝子工学操作された真菌。
【請求項10】
1種、2種、3種またはそれを超えるrHSA発現促進因子遺伝子が遺伝子工学操作された真菌に導入されている、請求項7~9のいずれか一項に記載の遺伝子工学操作された真菌。
【請求項11】
ヒト血清アルブミン遺伝子がプラスミドにより遺伝子工学操作された真菌に形質転換された、請求項7~10のいずれか一項に記載の遺伝子工学操作された真菌。
【請求項12】
rHSA発現促進因子遺伝子が1個、2個またはそれを超えるプラスミドにより遺伝子工学操作された真菌に形質転換された、請求項7~11のいずれか一項に記載の遺伝子工学操作された真菌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト血清アルブミンの組換え生産に関し、特に、本発明は、酵母細胞でヒト血清アルブミンと1以上のヒト血清アルブミン発現促進因子を共発現させることによりヒト血清アルブミンを高生産するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト血清アルブミン(HSA)は、ヒト血中で最も豊富なタンパク質であり、全血漿タンパク質の約60%を占める。HSAは重要な生理学的機能を有し、血液の浸透圧を維持することができ、内因性および外因性物質を輸送するための重要な担体であり、重要な血液バッファー成分である。加えて、HSAはまた細胞培養培地の添加成分、医薬賦形剤などとして使用することもでき、重要な応用価値を有する。現在のところ、HSAには2つの主要な供給源があり、一つは血漿からの抽出である。中国での血漿の不足ならびにAIDSおよび肝炎などのウイルス感染のリスクのために、この方法によって得られるHSAは、巨大な市場需要を満たすことができない。もう一つは生物工学技術を用いた組換え製法である。生物工学技術によって組換え生産されたヒト血清アルブミンは、組換えヒト血清アルブミン(rHSA)と呼ばれる。この場合、酵母によりrHSAを発現させる技術が最も広く研究され、完成している。米国特許第5,683,893号には、酵母でのrHSA発現を増強するためにピキア(Pichia)アルコールオキシダーゼ(AOX)プロモーターを変異させる方法が開示されている。2005年4月29日出願の中国特許出願第200510068171.9号には、rHSA酵母株の構築および発酵の方法が開示され、その発現レベルは10g/L培地上清に達し得る。しかしながら、上記の方法はなお低いrHSA発現、長い発酵時間および低い生産効率という欠点を持ち、従って、より生産性の高い遺伝子工学操作株を構築するための新たな方法を見つけることが必要である。
【0003】
ピキア属は、核生物のタンパク質に対して翻訳後修飾を有し、従って、外来タンパク質は発現後に適切に折り畳まれ、組み立てられ、細胞外に分泌され得る。一方、ピキア属は、高密度発酵に関して、単一の炭素源としてメタノールを効果的に利用することができる。従って、ピキア属は、外来タンパク質の発現に広く使用されている。しかしながら、ピキア属は一般に、長い発酵サイクル、高い生産コストを有し、汚染およびタンパク質分解を受けやすい。よって、発酵時間の短縮とコストの軽減がこの発現系の研究のホットスポットとなっている。
【0004】
酵母の小胞体(ER)は、本来の立体配座へのタンパク質の折りたたみとグリコシル化およびリン酸化などの翻訳後修飾の重要なサイトである。小胞体に多数の折り畳まれてないタンパク質が存在すると、アンフォールディングタンパク質応答(UPR)が誘導され、これが次に分子シャペロンおよび折りたたみ酵素の下流発現、ならびに小胞体関連タンパク質分解経路を活性化する。自己調節機構として、UPRは酵母成長および分泌タンパク質の発現に重要な役割を果たす(Graham Whyteside, et al. FEBS Letters 2011; 585: 1037-1041)。転写アクチベーターHAC1は、酵母UPRのレギュレーターとして働き、対象タンパク質の発現および分泌の補助に重要な役割を果たす結合タンパク質KAR2、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)、小胞体オキシドレダクチン-1(ERO1)、およびペプチジル-プロリルシス-トランスイソメラーゼ(PPI)などの、UPRに関連する一連のタンパク質の発現を調節する。2013年3月22日出願の中国特許出願第201310095971.4号には、対象タンパク質の発現レベルを増強するためにPDIをアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)α-グルコシダーゼと共発現させる方法が開示されている。2007年5月16日出願の中国特許出願第200780026864.9号には、メタノール資化酵母オガタエア・ミヌータ(Ogataea minuta)のHAC1の発現を増強する方法が開示され、得られた遺伝子工学操作株は高タンパク質分泌能を有する。Tiziana Lodiらは、クルイベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)におけるrHSAの分泌に寄与することを報告している(Tiziana Lodi. et al. AEM 2005; 71: 4359-4363)。さらに、ピキア属でのKAR2との共発現は、ヒト単鎖抗体フラグメント(A33scFv)の発現を倍加させた(Leonardo M. Damasceno, et al. Appl Microbiol Biotechnol, 2007; 74: 381-389)。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、組換えヒト血清アルブミンを高発現させる方法であって、酵母宿主細胞で(a)ヒト血清アルブミン遺伝子と(b)1以上のrHSA発現促進因子遺伝子を共発現させる工程を含んでなる方法を提供する。
【0006】
外因性のヒト血清アルブミン遺伝子とrHSA発現促進因子遺伝子が酵母宿主細胞に導入されると、rHSAの発現レベルが著しく増強される。
【0007】
本発明はまた、組換えヒト血清アルブミンを高発現させるための遺伝子工学操作された真菌であって、酵母であり、(a)ヒト血清アルブミン遺伝子と(b)1以上のrHSA発現促進因子遺伝子を含んでなる遺伝子工学操作された真菌も提供する。
【0008】
いくつかの実施形態では、酵母はピキア属であり、好ましくは、酵母はピキア・パストリス(Pichia pastoris)である。
【0009】
いくつかの実施形態では、rHSA発現促進因子は、転写アクチベーターHAC1、結合タンパク質KAR2、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)、小胞体オキシドレダクターゼ(ERO1)、およびペプチジル-プロリルシス-トランスイソメラーゼ(PPI)からなる群から選択される。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態では、以下の組合せが酵母宿主細胞で共発現される:
rHSAとERO1;
rHSAとPDI;
rHSAとPDIとHAC1;
rHSAとPPIとKAR2;または
rHSAとPDIとPPIとHAC1。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明のヒト血清アルブミン遺伝子は、プラスミドにより酵母宿主細胞に形質転換され得、rHSA発現促進因子遺伝子は1、2またはそれを超えるプラスミドにより酵母宿主細胞に形質転換され得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子工学操作された真菌内の宿主ゲノムにおいて元のrHSA発現促進因子遺伝子を不活化する必要はなく、従って、得られた遺伝子工学操作された真菌は、宿主細胞内に移入されたHSA遺伝子およびrHSA発現促進因子遺伝子と元のrHSA発現促進因子遺伝子の両方を含むことができる。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明の遺伝子工学操作された真菌はrHSAを高発現することができ、共発現株におけるrHSAの発現レベルは18.2g/L発酵上清まで著しく増大し、これはrHSAの大規模工業生産の確かな基盤を築くものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、HSAをコードするDNA配列を示す。
【
図2】
図2は、
図1に示されるDNA配列によりコードされるHSAのアミノ酸配列を示す。
【
図3】
図3は、ピキアERO1をコードするDNA配列を示す。
【
図4】
図4は、
図3に示されるDNA配列によりコードされるERO1のアミノ酸配列を示す。
【
図5】
図5は、ピキアHAC1をコードするDNA配列を示す。
【
図6】
図6は、
図5に示されるDNA配列によりコードされるHAC1のアミノ酸配列を示す。
【
図7】
図7は、ピキアPDIをコードするDNA配列を示す。
【
図8】
図8は、
図7に示されるDNA配列によりコードされるPDIのアミノ酸配列を示す。
【
図9】
図9は、ピキアPPIをコードするDNA配列を示す。
【
図10】
図10は、
図9に示されるDNA配列によりコードされるPPIのアミノ酸配列を示す。
【
図11】
図11は、ピキアKAR2をコードするDNA配列を示す。
【
図12】
図12は、
図11に示されるDNA配列によりコードされるKAR2のアミノ酸配列を示す。
【
図14】
図14は、pPICZα-ERO1ピキア発現ベクターを示す。
【
図15】
図15は、pPIC6-HAC1ピキア発現ベクターを示す。
【
図16】
図16は、pPICZα-PDIピキア発現ベクターを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
用語「rHSA発現促進因子」は、本明細書で使用する場合、rHSAの発現を促進し得る種々のタンパク質因子を指し、その供給源は特定の種に限定されない。具体的には、分子シャペロン活性を有するタンパク質、例えば、KAR2;折りたたみ酵素、例えば、PDI;および転写レギュレーター、例えば、HAC1などが含まれる。
【0016】
本発明に特に好適な特定のrHSA発現促進因子としては、転写アクチベーターHAC1、結合タンパク質KAR2、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)、小胞体オキシドレダクターゼ(ERO1)、およびペプチジル-プロリルシス-トランスイソメラーゼ(PPI)などが含まれる。
【0017】
「rHSA発現促進因子」の供給源は、特定の種に限定されない。例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のrHSA発現促進因子,例えば、PDIがピキア属で十分に機能し得る。
【0018】
当業者ならば、「rHSA発現促進因子」がまた、上記発現促進因子に比べてアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸残基の置換、付加または欠失を有し、かつ、実質的に類似の生物学的機能を有するタンパク質または活性フラグメントも含むことを認識するであろう。それにはまた、これらのタンパク質またはそれらの活性フラグメントを含有する修飾産物、融合タンパク質および複合体も含まれる。
【0019】
好ましくは、rHSA発現促進因子は、宿主細胞に由来する。例えば、ピキア由来のrHSA発現促進因子は、発現のためにピキア宿主細胞に好ましく導入される。
【0020】
当業者ならば、異なるタイプの促進因子の異なる組合せは異なる技術的効果を生み得ることを認識するであろう。例えば、転写レギュレーターHAC1と折りたたみ酵素PDIの同時付加はPDI単独よりも良好なrHSA発現をもたらす。
【0021】
rHSA発現促進因子は、単独でまたは組み合わせて導入され得る。
【0022】
例えば、本発明のいくつかの実施形態では、rHSA発現促進因子(ERO1、HAC1、KAR2、PDI、PPIなどを含む)は、宿主細胞に単独で導入され、rHSAと共発現され、発現を著しく増強する。例えば、PDIとrHSAの共発現は、rHSAの発現レベルに、発現促進因子が使用されない場合の発現レベルに比べて160%の増強をもたらす。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態では、rHSA発現促進因子は、対で宿主細胞に導入され得る。例えば、PDIとHAC1の組合せは、rHSAの発現レベルに、発現促進因子が使用されない場合の発現レベルに比べて2倍近くの増強をもたらした。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態では、3以上のrHSA発現促進因子が宿主細胞に導入され得る。例えば、本発明の特定の実施形態では、rHSAは、宿主細胞で3つの発現促進因子PDI、PPIおよびHAC1とともに共発現され、rHSAの発現レベルを著しく増強する。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明者は、ピキアGS115株のERO1、HAC1、KAR2、PDI、およびPPI遺伝子を遺伝子工学技術によりクローニングし、誘導発現ベクターを構築した。これらのタンパク質とrHSAの共発現により、高発現および高効率を有する遺伝子工学操作された酵母真菌を得るために多様な組合せがスクリーニングされた。
【実施例】
【0026】
1.HSAのクローニングおよび発現ベクターの構築
発現ベクターpPIC9K(Invitrogenから購入)は、外来タンパク質分泌および発現させるために使用できる酵母α-因子シグナルペプチドを保持している。以下のプライマーをGenBankによって公開されているNM_000477.5の配列に従って設計した:(酵素切断部位に下線が施されている)
HSAフォワード:CCGCTCGAGAAAAGAGACGCTCACAAGAGTGAGGT(配列番号1)
HSAリバース:CCGGAATTCTTATAAGCCTAAGGCAGCTTGACTTGC(配列番号2)
【0027】
ヒト肝臓cDNAライブラリーを、特定の条件下でポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行うために鋳型として使用した:94℃で3分変性;94℃で30秒変性、55℃で30秒アニーリング、72℃で2分伸長、合計30サイクル;対で、72℃で10分伸長。得られたPCR産物をXhoIおよびEcoRIで酵素消化し、pPIC9Kベクターに挿入してベクターpPIC9K-HSAを得、構造を
図13に示す。HSA DNA配列をシーケンシングにより確認し、結果を
図1に示す。対応するアミノ酸配列を
図2に示す。
【0028】
2.rHSA酵母分泌および発現株の構築およびスクリーニング
本発明では、ピキアGS115(Invitrogenから購入)を宿主株として使用し、pPIC9K-HSAベクターをSalI消化により線状化し、GS115株に電気形質転換した。適格な調製および電気形質転換のための方法は文献を参照した(James M. Cregg, Pichia Protocols, 第2版)。挿入配列はGS115染色体のHIS4遺伝子座に組み込まれ、形質転換株に対し、2mg/mLジェネティシン(G418)を含有するYPD(酵母抽出物ペプトンデキストロース)固体培地を用いた抗生物質富化スクリーニングを行い、rHSAを分泌可能な酵母株GS115-rHSAを得た。
【0029】
3.ピキアERO1遺伝子のクローニングおよびベクター構築
ピキアERO1遺伝子のDNA配列をNCBIデータベースから取得し、遺伝子増幅のために以下のプライマーを設計した:(酵素切断部位に下線が施されている)
EROフォワード:CGGTTCGAAAGCATGAACCCTCAAATCCCTTT(配列番号3)
EROリバース:GCTGGCGGCCGCTTACAAGTCTACTCTATATGTGG(配列番号4)
【0030】
ピキアGS115株のゲノミクスを鋳型として用い、ERO1遺伝子をPCRにより得、SnaBIおよびNotIの両方で酵素消化し、発現ベクターpPICZα(Invitrogenから購入)に挿入してベクターpPICZα-ERO1を得、構造を
図14に示す。
図3に示されるように、ERO1 DNA配列をシーケンシングにより確認した。対応するアミノ酸配列を
図4に示す。
【0031】
4.ピキアHAC1遺伝子のクローニングおよびベクター構築
ピキアHAC1遺伝子のDNA配列をNCBIデータベースから取得し、遺伝子増幅のために以下のプライマーを設計した:(酵素切断部位に下線が施されている)
HACフォワード:CGGTTCGAAACGATGCCCGTAGATTCTTCT(配列番号5)
HACリバース:GCTGGCGGCCGCCTATTCCTGGAAGAATACAAAGTC(配列番号6)
【0032】
酵母RNA抽出および逆転写の方法は文献を参照した(J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第3版)。ピキアGS115のcDNAを鋳型として用い、HAC1遺伝子をPCRにより得、SnaBIおよびNotIの両方で酵素消化し、発現ベクターpPIC6(Invitrogenから購入)に挿入してベクターpPIC6-HAC1を得、構造を
図15に示す。HAC1 DNA配列をシーケンシングにより確認し、結果を
図5に示す。対応するアミノ酸配列を
図6に示す。
【0033】
5.ピキアPDI遺伝子のクローニングおよびベクター構築
ピキアPDI遺伝子のDNA配列をNCBIデータベースから取得し、遺伝子増幅のために以下のプライマーを設計した:(酵素切断部位に下線が施されている)
PDIフォワード:CGGTTCGAAACGATGCAATTCAACTGGAATATT(配列番号7)
PDIリバース:GCTGGCGGCCGCTTAAAGCTCGTCGTGAGCGTCTGC(配列番号8)
【0034】
ピキアGS115のゲノミクスを鋳型として用い、PDI遺伝子をPCRにより得、SnaBIおよびNotIの両方で酵素消化し、発現ベクターpPICZα(Invitrogenから購入)に挿入してベクターpPICZα-PDIを得、構造を
図16に示す。PDI DNA配列をシーケンシングにより確認し、結果を
図7に示す。対応するアミノ酸配列を
図8に示す。
【0035】
6.ピキアPPI遺伝子のクローニングおよびベクター構築
ピキアPPI遺伝子のDNA配列をNCBIデータベースから取得し、遺伝子増幅のために以下のプライマーを設計した:(酵素切断部位に下線が施されている)
PPIフォワード:CGGTTCGAAACGATGGAATTAACCGCATTGCGCAGC(配列番号9)
PPIリバース:GCTGGCGGCCGCTTACAACTCACCGGAGTTGGTGATC(配列番号10)
【0036】
ピキアGS115株を鋳型として用い、PPI遺伝子をPCRにより得、SnaBIおよびNotIの両方で酵素消化し、発現ベクターpPIC6(Invitrogenから購入)に挿入してベクターpPIC6-PPIを得、構造を
図17に示す。DNA配列をシーケンシングにより確認し、配列を
図9に示す。対応するアミノ酸配列
図10に示す。
【0037】
7.ピキアKAR2遺伝子のクローニングおよびベクター構築
ピキアKAR2遺伝子のDNA配列をNCBIデータベースから取得し、遺伝子増幅のために以下のプライマーを設計した:(酵素切断部位に下線が施されている)
KAR2フォワード:CGGTTCGAAACGATGCTGTCGTTAAAACCATCT(配列番号11)
KAR2リバース:GCTGGCGGCCGCCTATGATCATGATGAGTTGTAG(配列番号12)
【0038】
ピキアGS115株のゲノミクスを鋳型として用い、KAR2遺伝子をPCRにより得、SnaBIおよびNotIの両方で酵素消化し、発現ベクターpPIC6(Invitrogenから購入)に挿入してベクターpPIC6-KAR2を得、構造を
図18に示す。DNA配列をシーケンシングにより確認し、配列を
図11に示す。対応するアミノ酸配列を
図12に示す。
【0039】
8.ERO1およびrHSA共発現株の構築およびスクリーニング
rHSA分泌および発現株GS115-rHSAを原株として使用し、上記で構築したpPICZα-ERO1ベクターをSacI消化により線状化し、GS115-rHSA株に電気形質転換した。適格な調製および電気形質転換のための方法は文献を参照した(James M. Cregg, Pichia Protocols, 第2版)。挿入配列はGS115-rHSA株の染色体5’AOX部位に組み込まれた。形質転換株に対し、2mg/mLゼオシンを含有するYPD固体培地を用いた抗生物質富化スクリーニングを行い、ERO1およびrHSA共発現酵母株GS115-rHSA-ERO1を得た。
【0040】
9.HAC1およびrHSA共発現株の構築およびスクリーニング
rHSA分泌および発現株GS115-rHSAを原株として使用し、実施例4で構築されたpPIC6-HAC1ベクターをSacI消化により線状化し、GS115-rHSA株に電気形質転換した。適格な調製および電気形質転換のための方法は文献を参照した(James M. Cregg, Pichia Protocols, 第2版)。挿入配列はGS115-rHSA株の染色体5’AOX部位に組み込まれた。形質転換株に対し、1mg/mLブラストサイジンを含有するYPD固体培地を用いた抗生物質富化スクリーニングを行い、HAC1およびrHSA共発現酵母株GS115-rHSA-HAC1を得た。
【0041】
10.PDIおよびrHSA共発現株の構築およびスクリーニング
rHSA分泌および発現株GS115-rHSAを原株として使用し、上記で構築されたpPICZα-PDIベクターをSacI消化により線状化し、GS115-rHSA株に電気形質転換した。適格な調製および電気形質転換のための方法は文献を参照した(James M. Cregg, Pichia Protocols, 第2版)。挿入配列はGS115-rHSA株の染色体5’AOX部位に組み込まれた。形質転換株に対し、2mg/mLゼオシンを含有するYPD固体培地を用いた抗生物質富化スクリーニングを行い、PDIおよびrHSA共発現酵母株GS115-rHSA-PDIを得た。
【0042】
11.PPIおよびrHSA共発現株の構築およびスクリーニング
rHSA分泌および発現株GS115-rHSAを原株として使用し、実施例6で構築されたpPIC6-PPIベクターをPmeI消化により線状化し、GS115-rHSA株に電気形質転換した。適格な調製および電気形質転換のための方法は文献を参照した(James M. Cregg, Pichia Protocols, 第2版)。挿入配列はGS115-rHSA株の染色体5’AOX部位に組み込まれた。形質転換株に対し、1mg/mLブラストサイジンを含有するYPD固体培地を用いた抗生物質富化スクリーニングを行い、PPIおよびrHSA共発現酵母株GS115-rHSA-PPIを得た。
【0043】
12.KAR2およびrHSA共発現株の構築およびスクリーニング
rHSA分泌および発現株GS115-rHSAを原株として使用し、実施例7で構築されたpPIC6-KAR2ベクターをPmeI消化により線状化し、GS115-rHSA株に電気形質転換した。適格な調製および電気形質転換のための方法は文献を参照した(James M. Cregg, Pichia Protocols, 第2版)。挿入配列はGS115-rHSA株の染色体5’AOX部位に組み込まれた。形質転換株に対し、1mg/mLブラストサイジンを含有するYPD固体培地を用いた抗生物質富化スクリーニングを行い、KAR2およびrHSA共発現酵母株GS115-rHSA-KAR2を得た。
【0044】
13.HAC1、PDIおよびrHSA共発現株の構築およびスクリーニング
発現株GS115-rHSA-PDIを原株として使用し、上記で構築されたpPIC6-HAC1ベクターをSacI消化により線状化し、GS115-rHSA-PDI株に電気形質転換した。適格な調製および電気形質転換のための方法は文献を参照した(James M. Cregg, Pichia Protocols, 第2版)。挿入配列はGS115-rHSA-PDI株の染色体5’AOX部位に組み込まれた。形質転換株に対し、1mg/mLブラストサイジンを含有するYPD固体培地を用いた抗生物質富化スクリーニングを行い、HAC1、PDIおよびrHSA共発現酵母株GS115-rHSA-PDI-HAC1を得た。
【0045】
14.PPI、PDIおよびrHSA共発現株の構築およびスクリーニング
実施例10でスクリーニングされた発現株GS115-rHSA-PDIを原株として使用し、実施例6で構築されたpPIC6-PPIベクターをPmeI消化により線状化し、GS115-rHSA-PDI株に電気形質転換した。適格な調製および電気形質転換のための方法は文献を参照した(James M. Cregg, Pichia Protocols, 第2版)。挿入配列はGS115-rHSA-PDI株の染色体5’AOX部位に組み込まれた。形質転換株に対し、1mg/mLブラストサイジンを含有するYPD固体培地を用いた抗生物質富化スクリーニングを行い、PPI、PDIおよびrHSA共発現酵母株GS115-rHSA-PDI-PPIを得た。
【0046】
15.振盪フラスコ内でのrHSA共発現株の誘導発現
上記の実施例でスクリーニングされたGS115-rHSA-ERO1、GS115-rHSA-HAC1、GS115-rHSA-PDI、GS115-rHSA-PPI、GS115-rHSA-KAR2、GS115-rHSA-PDI-HAC1およびGS115-rHSA-PDI-PPI株の単一コロニーを個別に採取し、2mlのMGY培地(1.34%酵母窒素源ベース;1.0%グリセロール;4.0×10
-5ビオチン)に植え込み、30℃で16時間培養した。遠心分離後、葉状体を採取し、培養のために20mlのBMMY培地(1.0%酵母抽出物;2.0%ペプトン;0.1Mリン酸カリウムバッファー、pH6.0;1.34%酵母窒素源ベース;0.5%無水メタノール)に打つし、72時間発現誘導し、12時間ごとに50μlの無水メタノールを加えた。誘導の終了後、SDS-PAGE電気泳動のために培養上清を採取した(
図19)。対照株(GS115-rHSA)と比較したところ、rHSAの発現レベルは7つの共発現株の全てで向上していた。Quantity Oneソフトウエアを用いて分析を行い、発現比を表1に示す。
【0047】
【0048】
16.rHSA共発現株の発酵
GS115-rHSA株ならびに実施例15でスクリーニングされたGS115-rHSA-ERO1、GS115-rHSA-HAC1、GS115-rHSA-PDI、GS115-rHSA-PPI、GS115-rHSA-KAR2、GS115-rHSA-PDI-HAC1およびGS115-rHSA-PDI-PPI株を、5リットル発酵槽を用いて発酵させ、発酵条件はInvitrogenにより公開されている「ピキア発酵法ガイドライン」を参照した。発酵は80時間の誘導発現後に終了し、培養上清を採取してrHSAの発現レベルを分析した。結果を表2に示す。固定発酵時間が80時間であった場合、共発現株におけるrHSAの発現レベルは18.2g/L発酵上清まで著しく増大し、これはrHSAの大規模工業生産の基盤を築くものであった。
【0049】
【配列表】