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  • 特許-高静摩擦係数の滑り止めパッド 図1
  • 特許-高静摩擦係数の滑り止めパッド 図2A
  • 特許-高静摩擦係数の滑り止めパッド 図2B
  • 特許-高静摩擦係数の滑り止めパッド 図3
  • 特許-高静摩擦係数の滑り止めパッド 図4A
  • 特許-高静摩擦係数の滑り止めパッド 図4B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】高静摩擦係数の滑り止めパッド
(51)【国際特許分類】
   B29C 44/36 20060101AFI20240306BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20240306BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B29C44/36
B29C45/00 ZAB
B29C44/00 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022201758
(22)【出願日】2022-12-19
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】111137333
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】521228802
【氏名又は名称】合泰材料科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】リン, ミンフイ
(72)【発明者】
【氏名】クン, スンイェン
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特許第7253291(JP,B2)
【文献】特開2002-201301(JP,A)
【文献】特開2011-184632(JP,A)
【文献】特開2001-261874(JP,A)
【文献】特表2009-544828(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0038606(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0076772(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00-44/60;67/20
C08J 9/00- 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項6】
測定中のそり重量を1000gとしたASTM D1894に従って測定した、0.62~2.3の他の静摩擦係数を有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の高静摩擦係数の滑り止めパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル可能な軽量の高静摩擦係数の滑り止めパッド、特に、超臨界流体を用いた射出成形により製造される高静摩擦係数の滑り止めパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ほとんどの滑り止めパッドは熱硬化性ゴムによって作られている。ゴムは重くて硬い材料なので、追加加工が必要になる。また、ゴムはリサイクル不可能であり、廃棄ゴムは長い間、環境に不可逆的な損害を与えてきた。
【0003】
世界的な廃棄物削減の流れに従い、環境保護のための廃棄物リサイクルの需要に応えるため、リサイクル不可能な熱硬化性ゴムの代わりに、熱可塑性ポリウレタン(TPU)など機械的特性のよいリサイクル可能な熱可塑性エラストマー(TPE)を用いて、滑り止めパッドを製造することが行われてきた。しかし、熱可塑性ポリウレタンによって製造された滑り止めパッドの滑り止め効果は満足のいくものではなく、まだまだ改善の余地がある。
【0004】
現在のゴム製の滑り止めパッドは重く、リサイクルには不利であり、熱可塑性ポリウレタン製の滑り止めパッドは滑り止め効果が不十分であるため、高い静摩擦係数を有するリサイクル可能な軽量の製品を製造するために処理できるポリマー材料の開発がまだ必要である。また、良好な特性を有するリサイクル可能な材料を用いて滑り止めパッドを製造し、滑り止めパッドの機能および特性を促進するために、関連する製造プロセスも改善する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】台湾特許第I729300号公報
【発明の概要】
【0006】
このような欠点を克服するために、本発明の1つの目的は、高い静摩擦係数を有するリサイクル可能な軽量化された滑り止めパッドを提供することである。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、表面層と発泡内層とを備え、発泡内層が表面層によって覆われている高静摩擦係数の滑り止めパッドを提供し;高静摩擦係数の滑り止めパッドは、標準方法ASTM D1894に従って測定される静摩擦係数が、0.58~1.4であり;高静摩擦係数の滑り止めパッドは、以下のステップを含む方法によって製造される。
(1)熱可塑性エーテルエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタンまたはそれらの組み合わせからなるポリマー材料を提供するステップ;ここで、ポリマー材料は300%以上の破断伸びを有し、熱可塑性エーテルエステルエラストマーは230℃において20グラム/10分(g/10分)以下のメルトフローインデックスおよび30D~45DのショアD硬さを有し、熱可塑性ポリウレタンは205℃において25g/10分以下のメルトフローインデックスおよび60A~95AのショアA硬さを有する;
(2)ポリマー材料を溶融して溶融ポリマー材料を得るステップ;
(3)溶融ポリマー材料に超臨界流体を添加して混合物を得、この混合物を混合(compound)して超臨界流体ブレンドを得るステップ;および
(4)超臨界流体ブレンドを射出成形して高静摩擦係数の滑り止めパッドを得るステップ。
【0008】
本発明は、ポリマー材料として、メルトフローインデックス、ショア硬さ、破断伸びを特定範囲に有する熱可塑性エーテルエステルエラストマーおよび/または熱可塑性ポリウレタンを選択またはリサイクルして再利用し、そのポリマー材料と超臨界流体の射出成形技術とを組み合わせることにより、未発泡表面層と特定の割合の開気孔を有する発泡内層とを備える構造を有する滑り止めパッドを得ることに成功し、得られる滑り止めパッドはリサイクル性、軽量性および高静摩擦係数を有している。熱可塑性エーテルエステルエラストマーおよび熱可塑性ポリウレタンはリサイクル可能な材料であり、未発泡表面層は空気透過性が高く、空気透過性フィルムに相当し、高静摩擦係数の滑り止めパッドの外部の空気が未発泡表面層を通過して発泡内層へ入り、発泡内層内部の空気は未発泡表面層を通って高静摩擦係数の滑り止めパッドの外部へ出ることができる。したがって、高静摩擦係数の滑り止めパッドに荷重がかかると、発泡内層の開気孔の微細発泡構造が圧縮されてこの構造に微細な歪みが生じ、発泡内層の開気孔内の空気が絞られて高静摩擦係数の滑り止めパッドの外に出て、高静摩擦係数の滑り止めパッドの表面と下地との間に吸着のような効果が生じることになる。この微細な歪みおよび吸着のような効果により、滑り止めパッドの静摩擦係数を高めることができる。特定の割合の開気孔を有する発泡内層により、本発明の高静摩擦係数の滑り止めパッドは軽量化も達成している。また、滑り止めパッドの発泡には超臨界流体を用いた射出成形技術が用いられ、ペンタンなどの高揮発性化学発泡剤は不要である。したがって、有害物質が発生せず、火災安全や汚染の心配もなく、さらに幅広い応用が可能な製品である。
【0009】
所望の空気透過性ポリマー材料は、特定の温度でのメルトフローインデックスおよびショア硬さおよび破断伸びを有する材料を選択することによって得ることができ、または、混合によって製造され、それによって本発明の高い静摩擦係数の滑り止めパッドが得られることを理解されたい。
【0010】
いくつかの実施形態において、表面層は実質的に気孔を有さない。いくつかの実施形態において、表面層は顕微鏡下で実質的に気孔を有さない。いくつかの実施形態において、表面層は気孔を有さない。いくつかの実施形態において、表面層は顕微鏡下で気孔を有さない。
【0011】
いくつかの実施形態において、表面層は、50μm~600μmの厚さを有する空気透過性表面層である。いくつかの実施形態において、表面層は、60μm~550μm、70μm~500μm、80μm~450μm、90μm~400μm、100μm~350μm、150μm~300μm、または200μm~250μmの厚さを有していてもよい。いくつかの実施形態において、表面層は、50μm~100μmの厚さを有する。
【0012】
いくつかの実施形態において、通気性表面層の構造が摩耗して破れ、発泡内層が露出すると、その瞬間に、高静摩擦係数の滑り止めパッドによって荷重が支持されたときに微小歪みおよび吸引様効果が依然として発生するので、高静摩擦係数の滑り止めパッドは静摩擦係数を維持することができる。
【0013】
いくつかの実施形態において、発泡内層は複数の気孔を備え、気孔は複数の閉気孔と複数の開気孔とを備え、開気孔は10%~75%の割合であってもよい。いくつかの実施形態において、開気孔は、15%~65%、20%~60%、25%~55%、30%~50%、35%~45%、または35%~40%の割合であってもよい。
【0014】
いくつかの実施形態において、発泡内層に備えられる気孔(すなわち、閉気孔および開気孔)は、50μm~400μm、または100μm~350μm、または150μm~300μm、または200μm~250μmという長径を有する。本発明において、気孔は不定形であり、気孔の長径は、気孔の最も長い内径を示す。本発明において、高静摩擦係数の滑り止めパッドの発泡内層に備えられる気孔は、空気で満たされており、「閉気孔」という用語は、単一の核生成点から形成される気孔を示し、「開気孔」という用語は、閉気孔間に1以上の貫通孔が形成された2以上の閉気孔により形成される気孔を示す。
【0015】
いくつかの実施形態において、熱可塑性エーテルエステルエラストマーは、以下の式(I)および式(II)によって表されるモノマーを含んでいる。
【化1】
【化2】
ここで、式(I)によって表されるモノマーは10重量%(wt%)~45wt%の量を有し、式(II)によって表されるモノマーは55wt%~90wt%の量を有し、nは3~35の整数である。
【0016】
いくつかの実施形態において、式(II)におけるnは、4、5、6、7、8、9、10、20または30であってもよい。
【0017】
いくつかの実施形態において、ポリマー材料は、熱可塑性エーテルエステルエラストマー100wt%であってもよい。いくつかの実施形態において、ポリマー材料は、熱可塑性ポリウレタンの100wt%であってもよい。いくつかの実施形態において、ポリマー材料は、熱可塑性エーテルエステルエラストマーと熱可塑性ポリウレタンとの組み合わせからなり、熱可塑性ポリウレタンは、組み合わせにおいて発泡促進剤として使用されてもよい。
【0018】
いくつかの実施形態において、ポリマー材料は、熱可塑性エーテルエステルエラストマーと熱可塑性ポリウレタンとの組み合わせからなり、ポリマー材料の総重量を基準にして、熱可塑性エーテルエステルエラストマーは10重量%以上~90重量%以下の量であり、熱可塑性ポリウレタンは10重量%以上~90重量%以下の量である。いくつかの実施形態において、ポリマー材料は、熱可塑性エーテルエステルエラストマーと熱可塑性ポリウレタンとの組み合わせからなり、ポリマー材料の総重量を基準にして、熱可塑性エーテルエステルエラストマーは20重量%以上~80重量%以下の量であり、熱可塑性ポリウレタンは20重量%以上~80重量%以下の量である。いくつかの実施形態において、ポリマー材料は、熱可塑性エーテルエステルエラストマーと熱可塑性ポリウレタンとの組み合わせからなり、ポリマー材料の総重量を基準にして、熱可塑性エーテルエステルエラストマーは30重量%以上~70重量%以下の量であり、熱可塑性ポリウレタンは30重量%以上~70重量%以下の量である。いくつかの実施形態において、ポリマー材料は、熱可塑性エーテルエステルエラストマーと熱可塑性ポリウレタンとの組み合わせからなり、ポリマー材料の総重量を基準にして、熱可塑性エーテルエステルエラストマーは40重量%以上~60重量%以下の量であり、熱可塑性ポリウレタンは40重量%以上~60重量%以下の量である。いくつかの実施形態において、ポリマー材料は、熱可塑性エーテルエステルエラストマーと熱可塑性ポリウレタンとの組み合わせからなり、ポリマー材料の総重量を基準にして、熱可塑性エーテルエステルエラストマーは50重量%の量であり、熱可塑性ポリウレタンは50重量%の量である。
【0019】
いくつかの実施形態において、ポリマー材料は、1つ以上の添加剤をさらに含み、添加剤は、粘着剤、シリカまたはタルクなどの加工助剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン化合物、潤滑剤、充填剤、難燃剤、難燃剤添加剤、離型剤、帯電防止剤、過酸化物等の分子修飾剤、金属不活性化剤、有機または無機核剤、中和剤、制酸剤、防腐剤、蛍光増白剤、有機または無機顔料、難燃性または熱安定性を与える有機または無機化合物等である。
【0020】
いくつかの実施形態において、ポリマー材料は、300%~600%、または400%~500%の破断伸びを有する。
【0021】
いくつかの実施形態において、熱可塑性エーテルエステルエラストマーは、5g/10分~20g/10分、または5g/10分~18g/10分、または5g/10分~15.5g/10分の230℃におけるメルトフローインデックスを有する。
【0022】
いくつかの実施形態において、熱可塑性エーテルエステルエラストマーは、30D~40DのショアD硬さを有する。
【0023】
いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリウレタンは、5g/10分~25g/10分、または10g/10分~25g/10分、または15g/10分~25g/10分の205℃におけるメルトフローインデックスを有する。
【0024】
いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリウレタンは、60A~95A、または70A~90A、または80A~90AのショアA硬さを有する。
【0025】
いくつかの実施形態において、ステップ(3)において添加される超臨界流体は、窒素の超臨界流体である。窒素の臨界条件、すなわち、窒素の臨界温度-147℃(126.2Kに相当)よりも高い温度、および窒素の臨界圧力3.4MPa(34バールに相当)よりも高い圧力で、窒素の超臨界流体が形成される。いくつかの実施形態において、ステップ(3)において添加される超臨界流体は、二酸化炭素の超臨界流体である。二酸化炭素の臨界条件、すなわち、二酸化炭素の臨界温度31℃(304.1Kに相当)よりも高い温度、および二酸化炭素の臨界圧力7.38MPa(73.8バールに相当)よりも高い圧力で、二酸化炭素の超臨界流体が形成される。いくつかの実施形態において、ステップ(3)は、190℃~230℃の温度および127バールの圧力で実施される。
【0026】
いくつかの実施形態において、ステップ(4)は金型内で行われ、金型内の通気の遅延時間(delayed venting time)は0.0秒(sec)~0.8secである。
【0027】
いくつかの実施形態において、製造方法は、高静摩擦係数の滑り止めパッドを金型内で冷却するステップ(5)をさらに含む。いくつかの実施形態において、製造方法は、高静摩擦係数を有する滑り止めパッドを冷却するステップ(5)をさらに含む。
【0028】
いくつかの実施形態において、高静摩擦係数の滑り止めパッドは、縦型射出成形機または横型射出成形機によって製造される。いくつかの実施形態において、高静摩擦係数の滑り止めパッドは、縦型射出成形機によって製造される。
【0029】
いくつかの実施形態において、高静摩擦係数の滑り止めパッドは、標準方法ASTM D1894に従って、測定中に標準重量200グラム(g)のソリ重量を使用して測定される0.58~1.4、または0.70~1.35の静摩擦係数を有する。測定中に200gの標準的なソリ重量を使用して標準方法ASTM D1894に従って測定された静摩擦係数は、本発明において「200gのソリ重量における静摩擦係数」としても特定される。いくつかの実施形態において、高静摩擦係数の滑り止めパッドは、測定中のソリ重量が1000gであるASTM D1894によって測定される0.62~2.3、または0.70~2.27の他の静摩擦係数を有する。測定中に1000gのソリ重量を使用するASTM D1894に従って測定される静摩擦係数は、本発明において「1000gのソリ重量における静摩擦係数」としても特定される。
【0030】
いくつかの実施形態において、高静摩擦係数の滑り止めパッドは、0.35g/cm~0.85g/cm、または0.4g/cm~0.8g/cm、または0.45g/cm~0.7g/cm、または0.5g/cm~0.6g/cmの平均密度を有している。
【0031】
いくつかの実施形態において、高静摩擦係数の滑り止めパッドは、300mm以下、または250mm以下、または200mm以下の耐摩耗性を有する。
【0032】
いくつかの実施形態において、高静摩擦係数の滑り止めパッドは、標準方法ASTM D1894に従って測定される0.58~1.4の静摩擦係数および0.35g/cm~0.85g/cmの平均密度を有している。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施形態において使用される縦型射出成形機の概略図である。
図2A】本発明の高静摩擦係数の滑り止めパッドの実施形態の模式図である。
図2B図1Aの滑り止めパッド部分的な拡大模式図である。
図3】本発明の高静摩擦係数の滑り止めパッドの比較例を示す模式図である。
図4A】本発明の実施例4において得られた高静摩擦係数の滑り止めパッドの発泡内層の断面のSEM写真であり、倍率は100倍である。
図4B】本発明の実施例4において得られた高静摩擦係数の滑り止めパッドの表面層の外面のSEM写真であり、倍率は100倍である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の他の目的、利点および新規な特徴は、添付の図面と合わせて考慮すると、以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【0035】
(高静摩擦係数の滑り止めパッドの製造)
本発明の高静摩擦係数の滑り止めパッドは、図1に示す縦型の射出成形機10を用いて製造されるが、一般的な横型の射出成形機を用いて製造することもできる。射出成形機10は、第1スクリューバレル11、導入部12、第2スクリューバレル13、射出機14および金型15を備えている。金型15の大きさは、200mm×200mm×20mmである。
【0036】
まず、熱可塑性エーテルエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタン、またはこれらの組み合わせからなるポリマー材料が提供される。破断伸びが300%以上であるポリマー材料、230℃におけるメルトフローインデックスが20g/10分以下、ショアD硬さが30D~45Dの熱可塑性エーテルエステルエラストマー、205℃におけるメルトフローインデックスが25g/10分以下、ショアA硬さが60A~95Aの熱可塑性ポリウレタンが製造用に選ばれた。
【0037】
表1に示すように、ポリマー材料1,2は熱可塑性エーテルエステルエラストマー(TEEE)、ポリマー材料3,4は熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリマー材料5,6は熱可塑性エーテルエステルエラストマーと熱可塑性ポリウレタンとの組合せであった。
【0038】
ポリマー材料1~6の特性は、以下の通りに試験された。その結果を以下の表1に示す。
A1. 230℃におけるメルトフローインデックス(MI):標準方法ISO1133に従って試験された。
A2. 205℃におけるメルトフローインデックス(MI):標準方法DIN-53735に従って試験された。
A3. ショアA硬さ(Shore A):標準方法ISO868に従って試験された。
A4. ショアD硬さ(Shore D):標準方法ISO868に従って試験された。
A5. 熱可塑性エーテルエステルエラストマーの破断伸び:標準方法ISO527に従って試験された。
A6. 熱可塑性ポリウレタンの破断伸び:標準方法DIN-53504に従って試験された。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例1~30の高静摩擦係数の滑り止めパッドを以下の通りに製造した。図1に示すように、表2Aおよび表2Bに示される量のポリマー材料1~6がそれぞれ供給ホッパー110から第1スクリューバレル11に供給された。第1スクリューバレル11の圧力は127バール、温度は190℃~230℃にそれぞれ設定された。第1スクリューバレル11において、溶融ポリマー材料を得るためにポリマー材料が溶融され、この溶融ポリマー材料が第2スクリューバレル13に導入された。第2スクリューバレル13の圧力は145バール~165バール、温度は190℃~230℃にそれぞれ設定された。導入部12は第2スクリューバレル13の前段に設定され、導入部12の圧力は200バール、温度は190℃~230℃(窒素の超臨界温度(-147℃)より高い温度)に設定された。窒素超臨界流体が、導入部12を経由して第2スクリューバレル13内の溶融ポリマー材料に添加されて混合物が得られ、その後、超臨界流体ブレンドを得るために、この混合物が混合された。
【0041】
第2スクリューバレル13の端部に配置された射出機14は、注射器状の装置であり、注射器の後端が35バール~40バール(窒素の超臨界圧(34バール)よりも高い圧力)の圧力で加圧された。滑り止めパッドを得るために、超臨界流体ブレンドが、第2スクリューバレル13の端部から注入器14の前部に導入され、超臨界流体ブレンドが射出成形用金型15に射出された。表2Aおよび表2Bにおいて、ブレンド量は、金型15に導入した超臨界流体ブレンドの重量を指し(かつ、表3A~表3Cに示す滑り止めパッドの平均密度は、調整されたブレンド量により算出され)、型内圧力は、超臨界流体ブレンドを注入する前の金型15の圧力を指し、射出温度(temp.)および速度は、射出機14から金型15に超臨界流体ブレンドを射出する温度および速度をそれぞれ指している。比較例1~6については、各ポリマー材料1~6が、反圧をかけずに直接金型15に射出され、窒素超臨界流体が添加あるいは合されず、それによって、未発泡構造である滑り止めパッドが得られた。
【0042】
超臨界流体ブレンドを射出機14に導入し、金型15に超臨界流体ブレンドを注入する瞬間に減圧され、圧力は、金型15の圧力が抜かれた後に、1気圧(atm)まで減圧された。超臨界流体ブレンドから窒素ガスが急速に放出されて複数の核生成点が形成され、その後、核生成点の窒素が膨張して微小な気泡が形成された。実施例1~30(E1~E30)および比較例1~6(CE1~CE6)において、金型15の上壁および下壁に通気孔が配置された(図1では不図示)。実施例1~30(E1~E30)および比較例1~6(CE1~CE6)の射出成形において、金型15の通気孔を開けると同時に超臨界流体ブレンドが金型15内に射出されたので、金型内換気の遅延時間は0.0秒であった。最後に、滑り止めパッドが、冷却のために金型15内に放置され、それによって高静摩擦係数の滑り止めパッドが得られた。
【0043】
【表2A】
【表2B】
【0044】
(高静摩擦係数の滑り止めパッドの特性)
図2Aは、本発明の滑り止めパッド20の実施例の模式図であり、図2Bは、図2Aの二点鎖線枠内の領域を部分的に拡大した模式図である。図3は、本発明の滑り止めパッド20´の比較例を示す模式図である。図2Aおよび図2Bに示すように、高静摩擦係数の滑り止めパッド20は、表面層21と発泡内層22とを備え、発泡内層22は表面層21により覆われている。表面層21および発泡内層22は、熱可塑性エーテルエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタンまたはこれらの組み合わせからなる材料によって構成されている。上述した製造方法に従って、実施例1~30の滑り止めパッド20を製造し、実施例1~30の滑り止めパッド20の外表面および断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。実施例4において得られた高静摩擦係数の滑り止めパッド20の発泡内層22の断面の倍率100倍のSEM写真が図4Aに示される。実施例4において得られた高静摩擦係数の滑り止めパッド20の表面層21の外面の倍率100倍のSEM写真が図4Bに示される。表面層21には、気孔が存在しない。発泡内層22は、複数の気孔220,221を備え、気孔220,221は、長径が50μm~400μmである。気孔220,221は、複数の閉気孔220と複数の開気孔221とを備え、いずれかの開気孔221は、その開気孔221と他の開気孔221とを連通する少なくとも一つの貫通孔222を備える。開気孔221は、10%~75%の割合で存在する。気孔の形状は、選択されたポリマー材料と、射出機14と金型15との間の圧力差とによって影響を受ける。図2Bに示す矢印は、高静摩擦係数の滑り止めパッド20の表面層21を空気が通過することがあることを示し、したがって、高静摩擦係数の滑り止めパッド20の外部の空気が発泡内層22に入るか、発泡内層22から静摩擦係数の高い滑り止めパッド20の外部へ出ることがあることを示す。また、静摩擦係数の測定試験において、空気透過性の表面層21の内外に空気が透過し、吸着のような効果が得られる場合がある。したがって、実施例1~30の(表面層21および発泡内層22を備える構造を有する)高静摩擦係数の滑り止めパッド20は、対応する比較例1~6の(表面層21および発泡内層22を備える構造を有しない)滑り止めパッド20´よりも高い静摩擦係数を有する。しかも、図3に示すように、比較例1~6において形成された滑り止めパッド20´は、窒素超臨界流体を添加または合(compounded)していないため、表面層21および発泡内層22を有さない中実構造を有する。
【0045】
実施例1~30において得られた高静摩擦係数の滑り止めパッド20の表面層21の厚さがそれぞれ算出された。実施例1~30において得られた高静摩擦係数の滑り止めパッド20および比較例1~6において得られた滑り止めパッド20´の特性をそれぞれ試験した。その結果を以下の表3A~表3Cに示す。さらに、実施例1、5、11、15、26、30において得られた高静摩擦係数の滑り止めパッド20の表面層21を切断し、その透過性が試験された。その結果も以下の表3A~表3Cに示す。
【0046】
B1. 平均密度:標準方法ISO1183に従って試験された。平均密度は1立方センチメートル当たりのグラム数(g/cm)で表示される。
B2. 開気孔率:標準方法ASTM D6226に従って試験された。
B3. 200gのソリ重量における静摩擦係数:標準方法ASTM D1894に従って、200gの標準ソリ重量を使用して試験された。
B4. ソリ重量1000gでの静摩擦係数:ASTM D1894に従って、ソリ重量を標準のソリ重量200gから1000gに変更し、ソリの重量を1000gに変更して試験された。
B5. 透過性:標準方法JIS L1099A1に従って試験された。透過性は、24時間当たりの1平方メートル当たりのグラム数(g/m/24h)で表示される。
【0047】
以上の計算および試験の結果を表3A~表3Cに示す。
【表3A】
【表3B】
【表3C】
【0048】
表3A~表3Cより、実施例1~30の滑り止めパッドは、標準方法ASTM D1894(静摩擦係数の測定に標準ソリ重量200gを使用)によって測定した静摩擦係数が、全て同じ材料を用いた対応する比較例よりも高く良好な静摩擦係数を有することが分かる。このことは、本発明の高静摩擦係数の滑り止めパッドの構造は、静摩擦係数を約1.2倍以上に高めることができ、平均密度が低いほど、滑り止め効果が高いことを示している。したがって、本発明の高静摩擦係数の滑り止めパッドは、軽量かつ良好な滑り止め効果を有するという目的を達成することができる。
【0049】
さらに、ASTM D1894において静摩擦係数の測定に用いるソリ重量を5倍(1000g)にすると、実施例1~30の高静摩擦係数の滑り止めパッドは、より優れた静摩擦係数(0.62より高い)を示すことが分かる。したがって、本発明の高静摩擦係数の滑り止めパッドにより重い負荷がかかる場合に、より大きな静摩擦係数を提供する構造である。
【0050】
透過性のデータから、本発明で用いるポリマー材料が熱可塑性エーテルエステルエラストマー(ポリマー材料1を用いた実施例1、5)、熱可塑性ポリウレタン(ポリマー材料3を用いた実施例11、15)、または、熱可塑性エーテルエステルエラストマーおよび熱可塑性ポリウレタン(ポリマー材料6を用いた実施例26、30)のいずれであっても、表面層は空気透過性を有することがわかる。このことは、本発明の滑り止めパッドの表面層を空気が通過し、高静摩擦係数の滑り止めパッドの表面に吸着のような効果を与え、それによって、滑り止めパッドの静摩擦係数を増大させることができることを示している。
【0051】
以上より、高静摩擦係数の滑り止めパッドの表面層の厚さは50μm~600μmであり、開気孔は10%~75%の割合であり、滑り止めパッド20の静摩擦係数は0.58~1.4であることが明らかである。本発明の滑り止めパッドは、高い静摩擦係数を有するので、優れた滑り止め効果を得ることができる。
【0052】
本発明の滑り止めパッドは、超臨界流体を用いた射出成形技術により製造され、化学発泡剤は使用されない。したがって、有害物質が発生せず、火災安全や汚染の心配がない。静摩擦係数の測定に用いるソリの重量を5倍にしても高い静摩擦係数(0.58以上)を有し、優れた滑り止め効果を発揮する。また、本発明の高静摩擦係数の滑り止めパッドは、平均密度を0.35g/cmに減少させるので、軽量化製品に有利である。また、本発明の滑り止めパッドは、リサイクル可能な熱可塑性エーテルエステルエラストマー樹脂および/または熱可塑性ポリウレタンを原料として製造することができ、廃棄物の削減およびリサイクルという環境上の要求にも合致している。
【要約】      (修正有)
【課題】高い静摩擦係数を有するリサイクル可能な軽量化された滑り止めパッドを提供する。
【解決手段】表面層と発泡内層とを備える高静摩擦係数の滑り止めパッドであり、標準方法ASTM D1894によって測定される静摩擦係数は0.58~1.4であり、ポリマー材料および超臨界流体から得られる超臨界流体ブレンドを射出成形することによって製造され、ポリマー材料は、熱可塑性エステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタンまたはそれらの組み合わせからなり、ポリマー材料が、300%以上の破断伸びを有し、熱可塑性エーテルエステルエラストマーが、230℃において20g/10分以下のメルトフローインデックスおよび30D~45DのショアD硬さを有し、熱可塑性ポリウレタンが、205℃において25g/10分以下のメルトフローインデックスおよび60A~95AのショアA硬さを有する。
【選択図】図2A
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B