(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】吸着および電気脱着による分離方法、電気吸着および/または電気ろ過装置、および、システム
(51)【国際特許分類】
B01D 15/20 20060101AFI20240306BHJP
B01D 63/08 20060101ALI20240306BHJP
B01D 35/06 20060101ALI20240306BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B01D15/20
B01D63/08
B01D35/06 Z
B01D39/16 C
(21)【出願番号】P 2022525042
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(86)【国際出願番号】 EP2020080533
(87)【国際公開番号】W WO2021084080
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-10-07
(32)【優先日】2019-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516205317
【氏名又は名称】アイスリー メンブレイン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】I3 Membrane GmbH
【住所又は居所原語表記】Theodorstr.41P,22761 Hamburg Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】ブリンケ-ザイフェルト,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】フィードラー,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,フロリアン
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-301879(JP,A)
【文献】特表2001-524491(JP,A)
【文献】特表2002-537106(JP,A)
【文献】特開平03-056148(JP,A)
【文献】特開2017-018949(JP,A)
【文献】特表2020-506796(JP,A)
【文献】特開2004-264045(JP,A)
【文献】特表2014-504549(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0231272(US,A1)
【文献】特開平10-212570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D15/00-15/42
B01D53/22,61/00-71/82
C02F 1/44
B01D35/06,43/00,57/00-57/02
B01D39/00-41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.平坦かつ多孔性の第1の金属製被覆部を少なくとも第1の側に備える、化学的に帯電されたポリマー膜を提供するステップと、
b.前記帯電されたポリマー膜を少なくとも第1の流体に対して、第1の容積部で接触させるステップと、
c.前記帯電されたポリマー膜および対向電極を少なくとも第1および/または少なくとも第2の流体に対して、前記第1の容積部で接触させるステップと、
d.前記帯電されたポリマー膜の前記第1の金属製被覆部と前記対向電極との間に、前記ポリマー膜の電荷とは反対の極性に第1の直流電圧を印加するステップと、を含
み、
前記帯電されたポリマー膜は、アニオンまたはカチオン交換ポリマー膜である、吸着および電気脱着による分離方法
。
【請求項2】
前記第1の流体は、前記ステップbの開始と前記ステップdの開始との間で少なくとも部分的に前記第1の容積部から除去され、および/または前記第1の流体は、前記ステップbと前記ステップcの開始との間で少なくとも部分的に前記ポリマー膜を透過される方法であって、前記第1の流体の少なくとも10%および/若しくは前記第1の流体の少なくとも5mlが除去されまたは透過され、並びに/または前記ステップbおよび/若しくは前記ステップdは、少なくとも1秒間実行される、ことを特徴とする請求項
1に記載の吸着および電気脱着による分離方法。
【請求項3】
ステップbの前および/または間に、前記第1の直流電圧とは反対の極性の第2の直流電圧を、前記第1の金属製被覆部と、前記第1の流体に接触している前記対向電極と、の間に印加する、ことを特徴とする請求項1
または2に記載の吸着および電気脱着による分離方法。
【請求項4】
前記第1および/または第2の直流電圧の大きさは、10mVから3Vの範囲にある、請求項
3記載の吸着および電気脱着による分離方法。
【請求項5】
前記対向電極は、前記第1の側に対向する第2の側にある、平坦かつ多孔性の第2の金属製被覆部であって、前記第1および第2の平坦な金属製被覆部は、互いに前記ポリマー膜により絶縁されているか、または、前記対向電極は、絶縁性かつ透過性のスペーサを介して配置された透過性の電極である、請求項1から
4のいずれか一項に記載の吸着および電気脱着による分離方法。
【請求項6】
前記第1の金属製被覆部を備える前記ポリマー膜の多孔度は、初期バブルポイント孔および/若しくは平均孔径を基準にして、被覆しないポリマー膜に対して0.1%~10%小さく、並びに/または、前記第1の金属製被覆部の厚さは、5~200nmの範囲であり、並びに/または前記被覆しないポリマー膜の孔径は、0.01μm超であり、並びに/または、前記ポリマー膜は、多孔性の通路を有する、請求項1から
5のいずれか一項に記載の吸着および電気脱着による分離方法。
【請求項7】
前記帯電されたポリマー膜は、1ml膜容積当たり少なくとも25mgのリゾチームまたはアルブミンの結合能力を有する、請求項1から
6のいずれか一項に記載の吸着および電気脱着による分離方法。
【請求項8】
少なくとも第1の側に平坦かつ多孔性の第1の金属製被覆部を備える、化学的に帯電されたポリマー膜と、前記第1の金属製被覆部の接点並びに/または対向電極と、を含
み、
前記帯電されたポリマー膜は、アニオンまたはカチオン交換ポリマー膜である、電気吸着および/または電気ろ過装置。
【請求項9】
前記対向電極は、前記第1の側に対向する第2の側にある平坦かつ多孔性の第2の金属製被覆部、または、前記対向電極は、絶縁性かつ透過性のスペーサを介して配置された透過性電極である、請求項
8に記載の電気吸着および/または電気ろ過装置。
【請求項10】
前記ポリマー膜の多孔度は、初期バブルポイント孔および/若しくは平均孔径を基準にして、被覆しないポリマー膜に対して0.1%~10%小さく、並びに/または、前記第1の金属製被覆部の厚さは、5~200nmの範囲であり、並びに前記被覆しないポリマー膜の孔径は、0.01μm~15μmである、請求項
8または
9に記載の電気吸着および/または電気ろ過装置。
【請求項11】
前記金属製被覆部と前記対向電極との間に直流電圧を印加するための装置を含み、前記直流電圧は、前記ポリマー膜の電荷とは反対の極性に印加される、請求項
8から
10のいずれか一項に記載の電気吸着および/または電気ろ過装置。
【請求項12】
前記電気吸着および/または電気ろ過装置は、シリンジアタッチメントおよび/またはシリンジアタッチメントフィルタとして構成されており、前記シリンジアタッチメントを通って移動する液体は、前記ポリマー膜を通して導かれるように構成されている、または、前記ポリマー膜を通り抜けるように構成されている、請求項
8から
11のいずれか一項に記載の電気吸着および/または電気ろ過装置。
【請求項13】
請求項
8から
12のいずれか一項に記載の電気吸着および/または電気ろ過装置と、前記電気吸着および/または電気ろ過装置のポリマー膜を収容するための収容装置と、前記電気吸着および/または電気ろ過装置の前記収容装置に収容された前記ポリマー膜および対向電極を前記第1の流体に接触させるための装置と、から成るシステムであって、前記直流電圧を前記金属被覆部と前記対向電極との間に印加するための装置を有し、前記対向電極は、前記電気吸着および/または電気ろ過装置の一部または前記収容装置の一部である、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
膜、特にポリマー膜は、通常、物質、生体分子、ウィルスおよびバクテリアを機械的に保持するために使用される。保持率は孔径により決定され、流量は膜マトリクスにおける多孔度、すなわち細孔の割合により決定される。
【背景技術】
【0002】
ポリマー膜から、いわゆるクロマトグラフィー膜が開発された。この膜は、機械的な保持特性の他に、帯電物質の吸着につながる付加的な特性を有する。この膜は、表面の特定のコンディショニングを有するか、または物質の組み込みによってクロマトグラフィー特性が形成される。
【0003】
特許文献1には、正に帯電された膜が記載されている。例えば、ポリ芳香族、ポリスルホン、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、フルオロポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、酢酸セルロースまたは硝酸セルロースからなる多孔性膜マトリックスの表面の電荷は、それらをポリマー構造により架橋することによって行われ、このポリマー構造には、例えば四級アンモニウム基などの正に帯電されたカチオン性基が結合されている。これらは、共有結合を介して膜のポリマー構造に結合される。そして、このいわゆるクロマトグラフィー膜は正電荷を有し、この正電荷は、ろ過する溶液のpH値に関係なく正を維持する。そして、この正に帯電した表面によって、例えアルブミン(BSA)のような負に帯電した生体分子を吸着結合することができる。特許文献1には、25mg/ml(ml膜容積)以上のBSAをベースに結合能力を達成することができると記載されている。
【0004】
結合能力は、吸着された物質量を求めることによって決定することができる。これは例えば、膜によるろ過と、膜を通過する前後の濃度決定と、膜を通る流量の決定とによって行うことができる。
【0005】
濃度は、種々の既知の形式で決定することができる。濃度は、例えば測光的に決定することができる。
【0006】
そのために、190から1100nmの間の波長範囲、1nmの解像度、吸着:0.001%および/または透過:0.1%の測光的解像度を備えるUV/VIS分光光度計、例えばAqualytic型式XD7000を使用することができる。
【0007】
例えば、微細毛細管を介し測定セル(キュベット)を通して案内されるろ過液のインライン測定を、方法実行中に実施することができ、これにより、供給されたタンパク質がどれだけの期間、完全に保持されるか、すなわちろ過液にタンパク質が含まれていないことを検証することができる。濃度が既知の溶液が供給され、膜を通る流速を決定できる場合、これにより、ブレークスルーが発生する前に膜が吸着することのできる量が決定される。膜容積に関連するこの量は、とりわけ結合能力である。
【0008】
特許文献2には、負に帯電された膜が記載されている。例えば、ポリ芳香族、ポリスルホン、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、フルオロポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、酢酸セルロースまたは硝酸セルロースからなる多孔性膜マトリックスの表面の電荷は、それらをポリマー構造により架橋することによって行われ、このポリマー構造は、例えばヒドロキシル基などの、結合している負に帯電されたアニオン性基を有する。これらは、共有結合を介して膜のポリマー構造に結合される。そして、このいわゆるクロマトグラフィー膜は負電荷を有し、この負電荷は、ろ過する溶液のpH値に関係なく正を維持する。そして負電荷によって、正に帯電された物質またはタンパク質を結合することができる。特許文献2は、25mg/ml以上のリゾチームの結合能力を記載する。
【0009】
特許文献3には、2つの膜層から成り、それらの間にシリコンナノ粒子が所定の量で結合され配置されている膜構造が記載されている。2つの膜層は、正または負に、あるいは正と別の負に帯電することができる。所定の量に結合されたシリコン粒子も電荷を有することができる。
【0010】
この例に挙げられた製品は、生体分子を分離するために用いられる。例えばウィルスをタンパク質から分離することができる。ここで、獲得されるタンパク質の等電点に相当する、ろ過される溶液のpH値が選択される。この溶液を、タンパク質が機械的に保持されないよう細孔が十分に大きい(例えば0.2μm、0.4μm、または0.8μm)、正に帯電された膜を介してろ過すると、タンパク質は、等電点においては電荷を有しないのでこの膜を通過する。そして、調整されたpH値において負の電荷を有する他のすべての物質、例えばウィルスが吸着的に結合される。このクロマトグラフィー特性によってタンパク質が精製される。
【0011】
生体分子も、正または負に帯電された膜を介して濃縮することができる。ここで目標分子は吸着的に結合され、これにより溶液から分離される。
【0012】
さらなるステップでは、pH値の変更により、または目標分子が吸着された後に膜を通してポンピングされる、高濃度食塩溶液を介して、目標分子が再び脱着される。これは、ステップごとに発生することがある。したがって溶液の塩含有量をステップごとに増加させることができる。これにより、まず弱電荷の物質が最初に、膜の結合点から塩イオンによって押し出される。強電荷の別の物質は、膜の結合点から解離するために比較的高い塩濃度を必要とする。同様に、OH-またはH+イオンの濃度を示すpH値もステップごとに変更して、種々の電荷強度の、吸着された分子をステップごとに分離するために使用することができる。pH値を変更することにより、または高濃度の塩分子(例えば1モルのNaCl溶液)を添加することにより、多数の帯電イオンが目標分子を結合個所から押し出す。
【0013】
クロマトグラフィー膜は、機械的保持に加え、更なる吸着特性の利点の他に、ある程度の欠点も有する。したがって吸着された物質は、結合された帯電分子が有する結合力を上回る化学物質が添加された場合にだけ、再び脱着することがでる。このことは通常、pH値の大きな変更、または高濃度食塩溶液の添加によって行われる。イオン濃度およびイオン強度によって、結合された分子が塩イオンまたは水素イオンないし水酸化物イオンにより置換される。この後に洗浄が必要であり、これによりpH値変化または高塩分を洗い流し、膜のクロマトグラフィー特性を再び使用できるようにする。加えて、得られた目標分子の溶液も、中和し、および/またはそれらの塩含有物を除去しなければならない。例えば脆弱な生体分子のような目標分子は、pH値の大きな変化または高塩分濃度によって損傷を受けることがある。これも、クロマトグラフィー膜法を制限する。膜の吸着的結合力が大きければ、それだけ脱着媒体のイオン含有量も大きくなければならない。しかしながら、過度に強い酸およびアルカリまたは塩分濃度は、分離すべき生体分子の損傷を増大させる。
【0014】
さらなる欠点は、回収後にはブレークスルーまたは終了まで結合能力が固定されていることである。目標分子の溶液の濃度が既知でない場合、目標分子のブレークスルーを回避するために、UV/VIS分光光度法またはろ過液の導電率測定のような付加的な測定法が必要である。
【0015】
金属膜に電圧を印加することも公知である。しかしこれに関して、構成に応じたフィルタ作用を達成あるいはサポートするために、アクティブ平面を介して電圧を一定に確実に印加しなければならない。さらに、例えば特許文献4または特許文献5から公知のように、金属被覆ポリマー膜に電圧を印加する。特許文献6からも公知のように、金属膜を薄い金属により被覆する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】国際公開第00/50161号
【文献】国際公開第00/50160号
【文献】オーストラリア特許出願公告第2014277783号
【文献】欧州特許出願公開第3115099号
【文献】国際公開第2018/122315号
【文献】欧州特許出願公開第0860888号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、分子を簡単かつ確実に吸着し、膜にクロマトグラフ的に結合された被吸着目標分子の脱着を簡素化し、できるだけ酸、アルカリ、または塩のような高イオン含有物質の添加なしで可能にすることである。付加的な課題は、吸着プロセス中および/またはその制御中に、膜の現在および/または残りの結合能力を表すことのできる、容易に測定可能な値を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
実施形態の吸着および電気脱着による分離方法は、a.平坦かつ多孔性の第1の金属製被覆部を少なくとも第1の側に備える、化学的に帯電されたポリマー膜を提供するステップと、b.前記帯電されたポリマー膜を少なくとも第1の流体に対して、第1の容積部で接触させるステップと、c.前記帯電されたポリマー膜および対向電極を少なくとも第1および/または少なくとも第2の流体に対して、前記第1の容積部で接触させるステップと、d.前記帯電されたポリマー膜の前記第1の金属製被覆部と前記対向電極との間に、前記ポリマー膜の電荷とは反対の極性に第1の直流電圧を印加するステップと、を含み、前記帯電されたポリマー膜は、アニオンまたはカチオン交換ポリマー膜である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】純粋に例示的かつ概略的に本発明の方法フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上記の課題は本発明によれば、特に化学的に帯電された膜において吸着を行い、脱着を物理的、電磁的、および/または電界の形成により行うことによって解決される。これは特に、薄い金属層を、特に化学的に、正または負に帯電された膜の片側または両側に被覆することによって実現される。このように帯電された膜は、とりわけ電圧の印加なしで電荷を有する。金属層は、これが多孔性を変化させないか、またはほとんど変化させない程度に薄いが、この層の連続導電能力を保証する程度に厚い。好適には、酸化されないか、またはほとんど酸化されない金属、例えば金、プラチナ、パラジウムが使用される。
【0021】
金属層は、直流電圧によって帯電することのできる電極として用いられる。印加される直流電圧の高さは、好適には形成された電界により吸着的に結合された分子の完全な脱着が達成されるように選択される。
【0022】
我々はこの課題を、方法的には特に、以下のステップを含む、吸着および電極脱着による分離方法によって解決する。
【0023】
a. 少なくともポリマー膜の第1の側に金属製で平坦かつ多孔性の第1の被覆部を備える、特に化学的に、帯電されたポリマー膜を、特に作用電極として提供し、対向電極を、特に平坦かつ多孔性の第2の被覆部として膜の他方の側に提供するステップ、または対向電極を膜に関係なく提供するステップ、
b.I 金属製で平坦かつ多孔性の被覆部と対向電極とを備える、帯電されたポリマー膜を、少なくとも1つの第1の流体と接触させるステップ、特に膜に少なくとも1つの第1の流体を通流させるステップであって、前記少なくとも1つの第1の流体は、膜の帯電された表面(内側および/または外側)において、付加的な電圧を作用電極にもたらすことなく、または膜電荷の電荷に等しく接続された電圧を吸着過程のサポートのために印加しながら吸着するための、特に少なくとも2つの異なる物質、特に生体分子が帯電された溶液である、ステップ、
b.II 少なくとも1つの帯電された物質を膜において、特に溶液のフィルタリング中に、帯電された膜の特にある程度の、特に所定の、結合能力および/または結合能力の所定の割合が吸着のために使用されるまで、特に吸着するステップ、
c. 帯電されたポリマー膜の金属製被覆部(作用電極)と対向電極との間に直流電圧を印加するステップ、特に直流電圧はポリマー膜の電荷とは反対の極性に印加される、ステップ、
d. 膜を少なくも1つの第1の流体および/または、特に吸着のための生体分子を含まない第2の流体と接触させる、特に膜に通流させるステップ。特に対向電極も、膜と接触している流体と接触させる。
e. 電圧を特に制御、特に上昇させるステップであって、前記電圧は、規定のように、特に時間的に順次連続したステップ毎に、特に異なる電荷強度を有する少なくとも2つの異なる物質、特に生体分子を脱着させるために膜の電荷とは反対の極性である、ステップ。
【0024】
容積部は、例えば容器とすることができる。流体は、特に液体および/または特に溶剤であり、その中に少なくとも一つの溶解された物質、特に分子を含む。第1の液体は、例えばタンパク質またはペプチドまたは核酸を含む溶液とすることができる。
【0025】
さらなる流体は、特に液体および/または特に溶剤、特に純粋溶剤である。特に第1の流体が第1の容積部から除去され、および/または膜が第1の容積部から除去され、および/または第1の流体と膜が互いに分離される。ここで除去は、特に第1の流体の排出および/または流体の洗浄によって行われる。したがって、第1の流体を完全に除去することは不要であり、この場合、残留物は許容可能であるが、洗い流すこともできる。
【0026】
しかし第1の流体とさらなる流体を混合すること、または置換することもできる。好適には、さらなる流体が第1の容積部に、第1の流体の排出および場合により洗浄の後に充填され、および/または膜が第1の容積部から第2の容積部に移行され、第2の容積部にはさらなる流体が充填されており、および/または充填される。
【0027】
特にステップb、特にb.Iおよび/またはb.IIでは、第1の流体に含まれる少なくとも1つの物質の吸着が行われる。このことは、完全に行う必要はないが、完全に行うことができる。一部分の吸着で十分である。ここで吸着は、特に膜の電荷に基づいて、および/または膜の電荷と付加的に印加される電圧とに基づいて行われている。
【0028】
ステップc,dおよび/またはeでは、ステップbでの吸収物、特に少なくとも1つの物質が特に部分的または完全に脱着される。ここで脱着は、第2の流体へ、または第1と第2の流体の混合物へ行われる。
【0029】
ここでステップdおよび/またはeは、少なくとも、帯電されたポリマー膜が金属製で平坦かつ多孔性の被覆部と接触している間にも、および対向電極が第1の流体および/またはさらなる流体と、特に第1および/または第2の容積部で接触している間にも行われる。ステップdおよび/またはeは、ステップcの前にすでに開始することもできる。
【0030】
以前に吸着的に結合された生体分子を脱着するために、膜が特に化学的に、正に帯電されている(チャージされている)場合には、直流電圧が、特に、膜と結合された金属製の被覆部に、作用電極として負の電圧が供給されるように印加される。このことは、例えば作用電極を電圧源の負極と、対向電極を電圧源の正極と接続することによって行われる。膜が特に化学的に、負に帯電されている(チャージされている)場合には、直流電圧が、特に、膜と結合された金属製の被覆部に作用電極として正の電圧が供給されるように印加される。このことは、例えば作用電極を電圧源の正極と、対向電極を電圧源の負極と接続することによって行われる。
【0031】
特に、この方法は、帯電分子をクロマトグラフィックに分離するための方法、特にイオン交換クロマトグラフ法または略してイオンクロマトグラフ法である。ここで生体分子は、主にその電荷に基づいて分離される。目的は、個々の生体分子を電荷に応じた分離によって、より良く分離することおよび/または決定すること(分析)、または特定の生体分子を物質として溶液から獲得することである。ここで、獲得された同じ電荷の生体分子は、特に濃縮される。例えば第1の流体に含まれる少なくとも1種の帯電物質が第1の流体から獲得され、第2の流体に移行され、および/または第1および/または第2の流体で濃縮される。
【0032】
膜の両側の金属被覆部、すなわち間にポリマー膜が配置された金属製の第1と第2の被覆部では、第1の被覆部を作用電極として、第2の被覆部を対向電極として使用することができる。
【0033】
有利には、第1の流体がステップbで、特にb.Iおよび/またはb.IIで、作用電極から対向電極に流れるように本方法は実施され、および/または装置は構成されており、この場合、作用電極は上流に、対向電極は下流にある。
【0034】
有利には、第1の流体がステップc,dおよび/またはeで、作用電極から対向電極に流れるように本方法は特に実施され、および/または装置は構成されている。膜が特に化学的に、正に帯電(チャージ)されている場合、直流電圧がステップbで、特にb.Iおよび/またはb.IIで、作用電極に正の直流電圧が供給されるように印加される。このことは特に、吸着過程が実行されている限り行われる。正に帯電された膜による吸着過程は、作用電極に電圧供給しなくても実行することができるが、付加的な電圧によって増強することができる。
【0035】
ステップc,dおよび/またはeの間、および/または脱着のために、膜が特に化学的に正に帯電(チャージ)されている場合には、作用電極に負の電圧が供給される。このことは、種々の生体分子をその電荷に応じて順次脱着するために、例えばステップ毎に-10mVから-3Vまでで行うことができ、これによって特に別の第2の流体に、または第2の流体の異なる容積部に分離する。ただし、-3Vの電圧を作用電極に直ちに印加することもでき、これにより吸着されたすべての生体分子が短期間で脱着される。
【0036】
膜が特に化学的に負に帯電(チャージ)されている場合、直流電圧は、ステップbで、特にb.Iおよび/またはb.IIで、特に作用電極(膜と結合されている金属製の被覆部)に負の直流電圧が供給されるように印加される。このことは特に、吸着過程が実行されている限り行われる。特に化学的に負に帯電(チャージ)された膜による吸着過程は、作用電極に電圧供給しなくても実行することができるが、付加的な電圧によって増強することができる。
【0037】
ステップc,dおよび/またはeおよび/または脱着の間に、作用電極には正の電圧が供給される。このことは、種々の生体分子をその電荷に応じて順次脱着するために、例えばステップ毎に-10mVから-3Vまでで行うことができ、これによって特に別の第2の流体に、または第2の流体の別の容積部に分離する。ただし、+3Vの電圧を作用電極に直ちに印加することもでき、これにより吸着されたすべての生体分子が短期間で脱着される。
【0038】
被覆部は、ポリマー膜と特に物質的に結合しており、および/またはこれに直接取り付けられている。これは例えば、蒸着またはマグネトロンスパッタリングによって行うことができる。金属層の厚さは、典型的には20nm~50nm厚であるが、5nm~200nmであっても良い。
【0039】
特に、金属製で平坦かつ多孔性の被覆部を備える、特に化学的に帯電されたポリマー膜は、アニオンまたはカチオン交換ポリマー膜である。
【0040】
特に第1の流体は、ステップbの開始とステップcの開始との間で膜を通して案内される(ろ過される)。ろ過速度は、例えば0.01ml/(cm
2
*min*bar)と40ml/(cm
2
*min*bar)の間とすることができる。特に少なくとも1秒間、ろ過され、および/またはステップbおよび/またはステップdは、それぞれ少なくとも1秒、特に少なくとも30秒の長さで実行される。
【0041】
膜が、特に化学的に正に帯電(チャージ)されている場合に、特に、流体がまず通過する(上流の)作用電極(膜と結合されている金属製の被覆部)に正の直流電圧が供給されるように直流電圧を印加することの利点は、帯電(チャージ)膜の結合能力を、膜の電荷と同じ方向のこの電圧によって向上させることができることである。
【0042】
膜が、特に化学的に負に帯電(チャージ)されている場合に、特に、流体がまず通過する(上流の)作用電極(膜と結合されている金属製の被覆部)に負の直流電圧が供給されるように直流電圧を印加することの利点は、帯電(チャージ)膜の結合能力を、膜の帯電と同じ方向のこの電圧によって向上させることができることである。
【0043】
好適には、第1および/または第2の直流電圧の大きさは、流体が電気分解されない範囲であり、特に少なくとも10mV、特に10mVから3Vの範囲の大きさである。これは、特に水性流体において有利である。しかし50Vまでの比較的に高い電圧を、短時間、特に最大3秒間、および/または少なくとも10msの間、印可することもできる。
【0044】
好適には対向電極は、第1の側に対向する第2の側にある、平坦かつ多孔性のさらなる金属製被覆部であって、平坦な金属製被覆部は互いにポリマー膜により絶縁されている、さらなる金属製被覆部によって形成されるか、または絶縁性で透過性のスペーサを間に挟んで配置された透過性の電極、特に金属メッシュによって形成される。これにより、特に電流の測定および/または制御の際に、外部の影響を最小化することができ、再現可能に形成することのできる規定の安定した配置を創出することができる。
【0045】
好適には被覆のために、酸化されないまたは非常に僅かしか酸化されない金属が使用される。したがって、金、プラチナまたはパラジウムのような金属が使用される。
【0046】
好適には、金属製被覆部を備えるポリマー膜の多孔性は、初期バブルポイント孔および/または平均孔径を基準にして、被覆しないポリマー膜に対して0.01%~10%、特に0.01~1%小さく、および/または金属製被覆部の厚さは、1~100nmであり、および/または被覆しないポリマー膜の孔径は、特に0.01μm~15μmの範囲である。これにより、信頼性のある金属被覆が可能になり、物理的な膜特性の変化も比較的小さく一定するようになる。
【0047】
金属は、特に希金属、特に金、銀および/またはプラチナである。
【0048】
有利には、金属製被覆部を備えるポリマー膜は、多孔性の通路を有する。これら通路は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドなどで作製されたポリマー膜のためにスポンジ状にすることができる。すなわち、細孔はトンネル状の通路ではなく、膜は内部に孔状の構造を有し、および/または通路の壁面積は、同じ通路幅を備えるトンネル状の通路よりも、少なくとも係数100だけ、特に少なくとも係数1000だけ大きい。特に膜の内部にある細孔は、少なくとも部分的に、特に部分的にだけ、金属製の被覆部により被覆されている。これにより、活性表面積が高まる。
【0049】
有利には、特に化学的に帯電された膜は、膜容積1ml当たり少なくとも25mgのリゾチームまたはアルブミン、特にBSAの結合能力を有する。このことは、金属被覆部を備える膜が片側または両側で、それぞれ前記分子のそのような量を吸着できると理解すべきである。膜容積とは、膜の有する容積であり、幕内に存在する細孔の容積はこの容積の一部であり、減算されない。例えば、シリンジフィルターに取り付けられるような円形膜の直径は25mm、厚さは0.15mmである。したがってこれは、73.6mm3の膜容積を有する。有利にはこの結合能力は、特に、pH3~pH10の間の全pH値にわたって得られる。
【0050】
上記の課題は、ポリマー膜の少なくとも片側に平坦かつ多孔性の金属製被覆部を備える、特に化学的に帯電されたポリマー膜と、作用電極として金属製被覆部の接点とを含む吸着および/またはろ過装置、特に電気吸着および/または電気ろ過装置によっても解決される。さらにこの装置は、対向電極を有する。特に装置は、金属製の第2の被覆部の接点を、膜の第1の被覆部に対向する側に対向電極として有する。
【0051】
有利には装置は、第3の電極を基準電極として有する。
【0052】
被覆部、対向電極、および電圧の印加に関しては、上記の実施形態が当てはまり、特に装置は、電圧の対応の印加のために構成されており、特に装置は、本方法を実施するために構成されており、そのために特に相応に構成された制御部を有し、この制御部は、特に、電極(金属製被覆部により形成された作用電極でもある)と対向電極との間の電圧を制御、および/または第1および/または第2の流体の流れを制御するように構成されている。
【0053】
有利には対向電極は、第1の側に対向する第2の側にある金属製で平坦かつ多孔性のさらなる被覆部により形成されるか、または絶縁性かつ透過性のスペーサを間に挟んで配置された、特に金属製メッシュにより形成された透過性電極により形成される。
【0054】
好適には、金属製被覆部を備えるポリマー膜の多孔度は、初期バブルポイント孔および/または平均孔径を基準にして、被覆しないポリマー膜に対して0.01%~20%、特に0.01~1%小さく、および/または金属製被覆部の厚さは、5~100nmであり、および/または被覆しないポリマー膜の孔径は、特に0.01μm~15μmの範囲である。
【0055】
有利には吸着および/またはろ過装置は、対向電極の存在の下で作用電極(金属製被覆部)に直流電圧を印加するための装置を有する。
【0056】
特に化学的に帯電(チャージ)された膜の吸着をサポートするために、作用電極での直流電圧は、膜の電荷と同じ方向に向けられる。電圧が同じ方向に向けられるのは、特に、電圧によって吸着能力および/またはゼータ電位がゼロから離れる方向に変化および/または増大される場合、および/または膜が特に化学的に、負に帯電されている場合において作用電極または金属製被覆部がマイナス極と接続されている場合、および膜が特に化学的に、正に帯電されている場合において作用電極または金属製被覆部がプラス極に接続されている場合である。
【0057】
特に化学的に帯電(チャージ)された膜の分子を脱着するために、作用電極での直流電圧は、膜の電荷とは反対の極性に向けられる。電圧が反対の極性に向けられるのは、特に、電圧によって吸着能力および/またはゼータ電位がゼロの方向に変化および/または増大される場合、および/または膜が負に帯電されている場合において作用電極が電圧源のプラス極と接続されている場合、および膜が正に帯電されている場合において作用電極がマイナス極に接続されている場合である。ここでそれぞれ他方の電極は、特に対向電極と接続される。
【0058】
特に、シリンジアタッチメントまたはシリンジアタッチメントフィルタの形態の電気吸着および/または電気ろ過装置が好ましい。ここで膜の吸着能力は、電圧の印加なしでも特に有利に発生する。吸着後に、アタッチメントを、電圧の印加により、吸着された分子を脱着しながら放電することができる。
【0059】
金属により片側または両側が被覆された膜は、有利には通常のポリマー膜と同じように処理加工することができる。これは、平坦な膜としてのシリンジアタッチメントフィルタでも、プリーツ状の(折り畳まれた)膜としてのカプセルでも処理加工することができる。
【0060】
この場合、電圧を供給するために、作用電極は特に接触接続され、ワイヤまたは薄い金属箔のような装置を介して接点が外に導かれる。膜の対向する側にある第2の被覆部であるか、または別の個所に取り付けられる(取り付けられた)対向電極でも有利には同じことが行われる。
【0061】
このような有利な構造により、外部から電圧が供給される(供給可能な)2つの接点を備えるシリンジアタッチメントフィルタまたはカプセルを作製することができる。
【0062】
上記の課題はまた、吸着および/またはろ過装置と、吸着および/またはろ過装置の金属被覆部を備えるポリマー膜を収容するための収容装置による脱着、並びに吸着および/またはろ過装置の金属被覆部を備える収容されたポリマー膜と対向電極とを第1の流体に接触させるための装置を有する、直流電圧を金属被覆部と対向電極との間に印加するための装置とから成るシステムによって解決され、ここで対向電極は、吸着および/またはろ過装置の構成部分であるか、または収容装置の構成部分である。特に流体により膜を洗浄するための手段を有するこのような装置により、簡単かつ確実に脱着が実行される。特にこの装置は、流体中の少なくとも1つの濃度を測定するための手段も有する。
【0063】
上記の課題はまた、平坦かつ多孔性の金属製被覆部を、膜を基準にしてポリマー膜の少なくとも第1の側に備える帯電ポリマー膜によって解決され、それらの被覆部には、本装置または本方法に関連して記述した全ての有利な構成が対応して当てはまる。
【0064】
金属層(電極)は、特にマグネトロンスパッタリングまたは金属蒸着によって膜の上側および/または下側に直接取り付けられる。膜の片側にだけ金属層を設け、必要な対向電極を、膜に依存せずに近傍に配置することも可能である。第1が作用電極、第2が対向電極、そして第3が対向電極である3つの電極を備える配置体を実現することも可能である。
【0065】
本発明は、クロマトグラフィックな特性を有する、特に化学的に、正及び負に帯電された膜に関する。この膜は、好適には帯電された生体分子のクロマトグラフな分離に用いられる。通例、このような化学的に帯電された膜はポリアミドから作製することができるが、他の重合体から作製することもできる。標準的な膜は、典型的には0.2μm~0.8μmの範囲の孔径を有するが、0.01μmから10μmの間の孔径を有することもできる。
【0066】
比較的大きな結合能力を達成する可能性は、典型的には2から10膜のマルチ膜積層体(Pall社,Acrodisc)を使用すること、および/または吸着を増強する電圧を使用することである。
【0067】
特に、化学的に両側で金属が被覆された膜であって、両側が互いに絶縁されており、作用電極(AE)として特に上流側の被覆部、対向電極(GE)として特に下流側の被覆部を備える、膜クロマトグラフィー法としてのこの方法では、以下のとおりである。
【0068】
膜は、特に孔径が0.05~1μm、典型的厚さが100~150μm(10~200μmの範囲)の、例えばPESまたはPAのような多孔性ポリマーから成る。
【0069】
負に帯電された分子を膜で吸着するために、作用電極は特に正の、対向電極は負の電位に置かれる。
【0070】
正に帯電された分子を膜で吸着するために、作用電極は特に負の、対向電極は正の電位に置かれる。
【0071】
作用電極と対向電極との間に生じた電界が帯電分子に、作用電極の領域では付加的な引力相互作用を、対向電極の領域では斥力相互作用を生じさせると考えられる。
【0072】
結合能力は、複数の膜、特に2~10の膜を直列配置することにより増大することができる。
【0073】
吸着の典型的パラメータは次のとおりである。
・特に単層膜配置での膜透過流量、1から50ml/(cm2*bar*min)
・吸着のための電極と対向電極との間の有利な電位差は、負の分子の場合、+0.1~30V、特に+1~+10Vの範囲である。
・吸着のための電極と対向電極との間の有利な電位差は、正の分子の場合、-0.1~-30V、特に-1~-10Vである。
【0074】
吸着された分子の脱離および回収は、前述の電位変化だけによって行うことができ、塩添加またはpH変化は必要ない。
【0075】
以前に結合された分子の脱着および溶出は、特に第1の流体の容積部の交換ないし第1の流体の容積部の通過後に、および/または第1の流体の容積部からの吸着後に行われ、この容積部は、膜容積の10倍未満であり、これにより以下の有利な特性を達成することができる。
・迅速な回収、すなわち短いプロセス時間。
・拡散プロセスの障害的作用が小さい。
・同じ向きの電圧を印加しない場合よりも分子濃度が高い。
・ろ過液に高濃度の障害的電解質(H+、OH-、KCl、NaCl)が含まれない。
・吸着および脱着のプロセスにより、>95%の高い回収率が得られる。
・吸着および脱着のプロセスは、電位変化により、および/または電位変化だけにより、特に少なくとも10回、特に少なくとも20回繰り返すことができる。
・切替可能な膜クロマトグラフィー装置の前述の配置は、等電点の異なる分子種の分離に、次のことによって使用することができる:
・作用電極と対向電極との間の電界を直流電圧により、
・静止フェーズの引力相互作用が分子種1に対しては分子種2に対するよりも大きくなるように調節し、
・それにより分子種1に対しては分子種2に対するよりも大きな保持力が達成されるようにすることによって。
・例:IEP(等電点)<7の分子種1と、IEP>7の分子種2の場合、両側が金属化されたpH7の膜により
・作用電極(正)と対向電極(負)の間の電位差が正の場合、分子種1を結合し、分子種2を溶出することができる。
・作用電極(負)と対向電極(正)の間の電位差が負の場合、分子種2を結合し、分子種1を溶出することができる。
【0076】
吸着フェーズでは、膜面積1cm2当たりで0.001~1mAの範囲の典型的電流を作用電極と対向電極との間で、分析物および電解質の濃度、電極直流電圧、膜の種類、濃度、および流量(供給速度)に依存して測定することができる。
【0077】
脱着フェーズでは、作用電極と対向電極との間の典型的な電流は、吸着時の電流よりも大きく、特に分析物および電解質の濃度、電極直流電圧、膜の種類、濃度および流量(供給速度)に依存して、-0.01~-10mAの範囲にある。
【0078】
特に物質濃度が10E-5mol/lより大きい場合、測定された電極電流と吸着ないし脱着された単位時間当たりの分子の量(大量輸送)との間には相関がある。
【0079】
したがって、吸着ないし脱着された分子の量を記録するために、測定された電極電流を利用することができる。これにより膜電荷を、吸着フェーズでブレークスルーに至らないように、あるいは通流および/または吸着がブレークスルー前に停止されるように制御することができる。これにより脱着フェーズを、所望の回収が達成されると通流および/または脱着が停止されるように構成することができる。
【0080】
有利な構成は、
・膜の両側に0~100nmのAuが被覆されること、および/または
・膜孔径(典型的には細孔、カットオフ):1~1000nm、および/または
・多孔性:10~95%、および/または
・膜厚ないし膜容積/有効フィルタ面積(cm):0.005~0.20cm(単膜積層体からn=1~n=10の多層積層体)、および/または
・供給時物質濃度:10E-10mg/ml(エンドトキシン)~10mg/ml(タンパク質)、および/または
・有効フィルタ面積cm2当たりの供給速度:0.1~10ml(cm2*min)、および/または
・有効フィルタ面積cm2当たりの物質輸送速度:10E-11~100mg/(cm2*min)、および/または
・NaClまたはKaCl電解質濃度:0~10mmol/l、および/または
・ストークス半径d.分析分子:1~20nm、および/または
・分子質量:100~1000,000g/mol、および/または
・非帯電または正に帯電された膜およびV>0Vによる電極直流電圧(作用電極-対向電極)、および/または
・非帯電または負に帯電された膜およびV<0Vによる電極直流電圧(作用電極-対向電極)、である。
【0081】
前述の方法はさらに、電極と対向電極との間の電界の付加的作用によってポリマー膜の結合能力の増大(100%~1000%)を可能にする。
【0082】
前述の方法は、クロマトグラフィックな分離を可能にする。特に、
・膜表面で負に帯電された分子を吸着し、正に帯電された分子を膜を通して輸送することにより、正の作用電極直流電圧で正に帯電した膜上で、負に帯電された分子から正に帯電された分子を分離すること、
・膜表面で正に帯電された分子を吸着し、負に帯電された分子を膜を通して輸送することにより、正の作用電極直流電圧で正に帯電した膜上で、正に帯電された分子から負に帯電された分子を分離すること、
・直流電極電圧を反転した後にそれぞれの保持された分子種を溶出すること、
・電気的に切替可能な複数の単層膜が直列に積層される場合、または複数の個別モジュールが直列に接続される場合における分離能力(結合能力、種々の分子の分離)の向上、
・複数の膜が順次接続されている場合には、少なくとも2つ、特に各膜または膜の各グループに異なる電極直流電圧を使用する可能性、が得られる。
【0083】
前述の方法は、イオン交換に基づく従来のクロマトグラフ膜と比較して、より高い質量通過速度(単位時間当たりおよび有効膜床容積当たりの流体容積および分析分子量)を、有効電界が結合力、ひいては結合能力を拡大することによって可能にする。これによって高濃度の有効成分溶液を精製ないし分離することができる。
【0084】
したがって本発明は多数のさらなる利点を可能にする:
・これにより、拡散作用が、純粋なイオンクロマトグラフィよりも自由表面結合部位の占有においてさほど大きな役割を果たさない、
・これにより、既存の膜細孔を、より効率的かつより多層に吸着質分子によって満たすことができる、
・これにより、1つまたは少数の積層された膜を備える膜配置が、電位制御なしの同等の構造よりも高い結合能力を達成することができる、
・これにより、結合能力が同じ場合、膜通過抵抗が小さくなる、
・これにより、特定の流量と分子濃度における膜あたりの動的結合能力が、純粋なイオン交換の場合よりも静的結合能力に近くなる、
・これにより、流量が増加し、分離時間が短縮される、
・測定電極電流(作用電極と対向電極の間)が、例えば金からなる導電率の高い金属製被覆部、特に両側の金属被覆部と、両方の被覆部を電極および対向電極として使用することとを前提とすれば、以下のパラメータに依存する:
・有効膜面積ないし膜床容積
・電極間隔
・ベース電解液濃度
・供給時の分子の濃度と有効正味電荷
・流量。
【0085】
したがって測定された電極電流は、時間当たりに吸収された帯電分子の数と相関する。したがって前述の方法での電流測定は、残余の結合能力の検知およびコントロールを可能にする。したがって後の時点でのブレークスルーに関して流入の制御が可能であり、特にそのように使用される。したがって膜の効率的かつ効果的な帯電を達成することができる。
【0086】
前述の方法は、
・塩濃度なしで(典型的には1M NaClまたはKClのオーダー)
・負に帯電した分子の場合はpH<4への、正に帯電した分子の場合はpH>10へのpHシフトなしで
帯電分子の脱着を可能にし、
・(有効成分)分子を含む得られたろ液には、イオンが含まれていない(典型的には、1mmol/lNaClまたはKClまたはそれ以下)
・(有効成分)分子を含む得られたろ液は、特に6~8の範囲で中程度のpH値を有することがある
・記載されている方法は、膜に結合した分子の集中的放出を可能にする。すなわち、溶出量は典型的には、僅かな(特に最大10個の)膜量または交換量であり、特に
・負に帯電した分子に対して正の電位から負の電位(作用-対向電極)にジャンプすることによって
・正に帯電した分子に対して負の電位から負の電位(作用-対向電極)にジャンプすることによって
・これにより以下の分離特性が達成される:
・電位切り替え後の短い保持時間
・非常に僅かな回収量
・純粋なイオンクロマトグラフィと比較して高い回収速度
・出発溶液に対する、特に1~1000倍、特に10倍以上の、ろ液の高い濃度。
・流量を増やすことにより、特に吸着の開始流量の10倍にすると、脱着を加速することができる
・脱着速度に相関する作用電極と対向電極との間の測定電流を、回収プロセスの制御に使用することができる
・前述の方法により、帯電分子の反復した吸着と脱着が、次のことにより可能になる:
・自由な膜表面を復元するために、膜の化学的再生が必要ないことによって
・元の結合能力の>90%の結合能力と、特に少なくとも10回の電位切り替えによる分子の対応する回収とが行われることによって、すなわち、吸着と脱着は、特に少なくとも10回、同じ膜上で、特に直接連続して行われた。
【0087】
例1:
市販の化学的に正に帯電された(チャージされた)膜(膜1:製造者Pall Corp.、市販名Mustang-Membran)が、電極が設けられており、市販の正にチャージされた他の製造者の膜(膜2)との比較として選択された。両方の膜はポリアミドからなり、アルブミンに対して同等の結合能力を有する。BSAの吸着と脱着について試験が実行された。
【0088】
市販の膜1は、ml膜容積当たりで60mgBSAの結合能力を達成した。40nmの金からなる金属層が両側に施与された膜2は、ml床容積当たりで100mgBSAの結合能力を達成した。相違は、異なる製造者の異なる製品により説明される。
【0089】
膜1に吸着されたBSAが、1モルの塩溶液により再び脱着された。回収率は95%から96%の間であった。
【0090】
膜2に吸着されたBSAは、膜の上側(上流)に-3Vの負の直流電圧を印加することによって脱着された。対向電極は膜の下側(下流)に存在した。回収率は95%から96%の間であった。
【0091】
例2:
同じ正にチャージされた膜(膜1:製造者Pall Corp.、市販名Mustang-Membran)に金の金属層が両側で施与され、アルブミンによる吸着および脱着について試験が実行された。その際に吸着のためa.+2Vおよびb.+3Vの直流電圧が印加された。a.+2Vによる試験の際にml当たり120mgBSAを、直流電圧b.+3Vにより161gBSA/mlを吸着できた。したがって、正の直流電圧のない膜2(例1)に対して、+2Vの直流電圧では20%、+3Vの正の直流電圧では60%多く吸着できた。これは、金属層に印加された付加的な正の直流電圧により、化学的に正に帯電された膜の結合能力を60%まで向上できたことを意味する。
【0092】
さらに電流が試験中に測定された。a.+2Vによる試験では、BSAの吸着の開始時に2mAの電流が測定された。これは、ブレークスルーまでの時間にわたり連続的に減少し、結合能力の達成時には0mAであった。b.+3Vによる試験では、BSAの吸着の開始時に8mAの電流が測定された。これは、ブレークスルーまでの時間にわたり連続的に減少し、結合能力の達成時には0mAであった。これは、結合能力のワークロードに対する測定量として電流を利用できることを意味する。BSA分子の脱着は、両方の実験(aとb)で直流電圧を-3Vに切り替えることにより行った。BSA分子の回収率は95%から96%の間であった。
【0093】
この例は、本発明により化学的に正に帯電された膜に吸着された生体分子(BSA)を、負の直流電圧の印加によって再び脱着できることを示す。
【0094】
さらに、化学的に正に帯電された膜の結合能力は、+2Vから+3Vの間の正の直流電圧の付加的な印加によって、化学的に正に帯電された膜だけを使用する場合よりも60%まで向上させることができる。
【0095】
さらに驚くことには、電極(膜上側と膜下側)間の電流は、直流電圧が膜に施与された金属層を介して給電された、化学的に正に帯電された膜の吸着中に、結合能力のワークロードおよび/または残りの結合能力に対する測定量として用いることができることが判明できた。