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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】可溶性の組換えタンパク質の生成
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/00 20060101AFI20240306BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240306BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240306BHJP
   C12N 15/57 20060101ALI20240306BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240306BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20240306BHJP
   C07K 1/16 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C12P21/00 C
C12P21/02 C
C12P21/02 E
C12N1/21
C12N15/57
C12N15/63 Z
C07K1/14
C07K1/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022555779
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-26
(86)【国際出願番号】 US2021022126
(87)【国際公開番号】W WO2021188379
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】16/819,775
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/990,083
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/152,954
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【微生物の受託番号】ATCC  PTA-126975
(73)【特許権者】
【識別番号】516228947
【氏名又は名称】フィナ バイオソリューションズ リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】チャン ミン-ジュ
(72)【発明者】
【氏名】オガネシアン ナタリア
(72)【発明者】
【氏名】リーズ アンドリュー
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-510290(JP,A)
【文献】特表2007-514423(JP,A)
【文献】特表2001-506489(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0280784(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、1つまたは複数のスルフィド連結を含有するタンパク質を生成する方法:
タンパク質配列をコードする発現ベクターおよびゲノムを含有する組換え細胞から該タンパク質を発現させる工程であって、該組換え細胞が、1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有し、該タンパク質のN末端がメチオニンを含有し、該発現ベクターが第1の誘導性プロモーターを含有し、かつ該タンパク質を発現させる工程が、第1の誘導剤によって第1の誘導性プロモーターを誘導することを含む、工程;
該組換え細胞の遺伝子からペプチダーゼを発現させる工程であって、該遺伝子が第2の誘導性プロモーターを含有し、該ペプチダーゼを発現させる工程が、第2の誘導剤によって第2の誘導性プロモーターを誘導することを含み、該ペプチダーゼ遺伝子が組換え細胞のゲノム中に組み込まれており、該ペプチダーゼが、発現された該タンパク質のN末端からメチオニンを除去し、かつ該第1の誘導剤および該第2の誘導剤が同じである、工程;および
該タンパク質を単離する工程。
【請求項2】
発現されるタンパク質が、破傷風毒素、破傷風毒素重鎖タンパク質、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、シュードモナスエキソプロテインA、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)トキソイド、百日咳菌(Bordetella pertusis)トキソイド、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)トキソイド、大腸菌(Escherichia coli(E. coli))易熱性毒素Bサブユニット、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)外膜複合体、インフルエンザ菌(Hemophilus influenzae)タンパク質D、フラジェリンFli C、カブトガニヘモシアニン、またはこれらの断片、誘導体、もしくは改変物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
組換え細胞が大腸菌細胞または大腸菌の派生物もしくは菌株である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
組換え細胞がgor変異を含有する大腸菌である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
組換え細胞がATCC寄託番号PTA-126975から得られるかまたはそれに由来する、請求項3記載の方法。
【請求項6】
単離する工程が、硫酸塩樹脂、ゲル樹脂、活性硫酸化樹脂、リン酸塩樹脂、ヘパリン樹脂、またはヘパリン様樹脂を含むクロマトグラフィーを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
単離されたタンパク質を、多糖、ポリマー、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールの誘導体、ペプチド、抗体もしくは抗体の一部、脂質、脂肪酸、またはこれらの組み合わせを含む化学物質とコンジュゲートまたはカップリングする工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
ペプチドが、ヒドラジド、ヒドラジン、アミノオキシ基、N末端1-アミノ2-アルコールアミノ酸、またはこれらの組み合わせを含む酸化剤によって酸化される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
タンパク質が、プロインスリン、プロインスリン様タンパク質、プロリラキシン、プロオピオメラノコルチン、プロ酵素、プロホルモン、プロアンジオテンシノーゲン、プロトリプシノーゲン、プロキモトリプシノーゲン、プロペプシノーゲン、凝固系のプロタンパク質、プロトロンビン、プロプラスミノーゲン、補体系のプロタンパク質、プロカスパーゼ、プロパシファスチン、プロエラスターゼ、プロリパーゼ、およびプロカルボキシポリペプチダーゼからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ATCC寄託番号PTA-126975から得られる、組換え細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の権利
本発明は、国立衛生研究所から授与された助成金番号1R43AI148018-01A1 FAIN: R43AI148018による米国政府の援助によってなされており、米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の参照
本願は、2021年2月24日付で出願された米国仮出願第63/152,954号;2020年3月16日付で出願された米国仮出願第62/990,083号;および2020年3月16日付で出願されかつ現在係属中の米国出願第16/819,775号の優先権を主張し、これらそれぞれの全体は参照により具体的に組み入れられる。
【0003】
発明の分野
本発明は、ペプチドおよびタンパク質などの生成物を微生物において発現させ精製するための方法および組成物に関する。特に、半生成物が組換え的に発現され、微生物の細胞質が、発現された半生成物を変更して、最終的なまたは使用可能な形態の生成物を生成する。変更は、細胞質の酸化還元状態のシフトと部位特異的な切断および/またはライゲーションとを包含する。
【背景技術】
【0004】
背景の説明
大腸菌(E. coli)は、研究および治療目的のための組換えタンパク質を生成するために広く用いられているホストである。組換えタンパク質は、大腸菌細胞質またはペリプラズムにおいて発現され得る。大腸菌における細胞質組換えタンパク質発現の1つの制限とは、大腸菌において組換えタンパク質の発現を開始するためには該タンパク質のコード配列がATGコドンで始まるべきであるということであり、これは、ホルミルメチオニンに翻訳され、次にホルミルメチオニンデホルミラーゼによってプロセシングされてN末端メチオニンになる。よって、大腸菌における組換えタンパク質発現のためには、ATGコドンが、天然のまたは成熟したタンパク質配列に付加される。組換えタンパク質の細胞内発現の間に、N末端メチオニンは通常、内在性大腸菌メチオニンアミノペプチダーゼ(MAP)によって切除される。おそらく、組換えタンパク質の過剰発現および存在するMAPの限定された量のために、たとえ隣接する残基が切断にとって最適である場合でさえ、このプロセスは組換えタンパク質にとって必ずしも有効ではない。結果として、かなりの量の組換えタンパク質が、メチオニンを最初のアミノ酸として有している可能性がある。N末端メチオニンは成熟タンパク質配列の一部ではないので、これは大多数のタンパク質にとって望ましくない。また、N末端メチオニンの存在は、タンパク質に、その機能に影響を与える構造変化もまた引き起こし得る。N末端メチオニンの有効な切断を確実にするための既存の方法は、組換えMAPによるインビトロ処置を包含する。別のアプローチは、MAPコード配列を発現ベクターに付加し、したがってMAPを組換えタンパク質と共に共発現させることである。後者のケースでは、MAPの共発現が所望の組換えタンパク質の発現を低下させ得る。どちらのアプローチも、実行するには時間とコストがかかる。したがって、組換えタンパク質発現を有意に阻害することなしにMAPが高発現された大腸菌発現株を有することが、望ましいであろう。これは、細胞質におけるその天然の配列による、増大した量の標的タンパク質の生成を可能にするであろう。
【0005】
大腸菌の細胞質において発現された組換えタンパク質は、不溶性のインクルージョンボディを形成し得る。インクルージョンボディ内のタンパク質はインビトロで再折りたたみされて可溶性タンパク質を形成し得る。これらのタンパク質は、望ましくないN末端メチオニンを含有するであろう。
【0006】
大腸菌細胞質は還元的な環境を有し、ジスルフィド結合を含有する組換えタンパク質は通常、細胞内で発現されるときには不溶性である。対照的に、大腸菌のペリプラズムは酸化的な環境を有する。よって、適切な折りたたみおよび可溶性を確実にするために、ジスルフィド結合を含有する多くの組換えタンパク質はペリプラズムに分泌される。組換えタンパク質をペリプラズムへと導くシグナルペプチドは分泌プロセスの間に切り取られ、天然のアミノ酸配列を有するタンパク質の生成をもたらす。しかしながら、タンパク質をペリプラズムに導く移行メカニズムは制限された能力を有し、そのため、組換えタンパク質のペリプラズム発現レベルは通常は低い。他方で、大腸菌細胞質における発現は、細胞培養物1リットルあたり数グラムの組換えタンパク質をもたらし得る。よって、可溶性の、適切に折りたたまれたジスルフィド結合タンパク質を、細胞質において発現できることが望ましいであろう。さらに、これらのタンパク質がN末端メチオニンなしで生成され得る場合が望ましいであろう。
【0007】
gor-/trx-変異を有するOrigami(登録商標)(EMDMillipore)、Shuffle(登録商標)(New England Bio)などの市販の大腸菌株は、ジスルフィド結合を含有する可溶性の細胞内タンパク質を生成できるが、これらの細胞株は欠陥があり(cripped)、高密度までは成長せず、このことは、生成収量を制限する。したがって、これらの株は実験材料を作出するためには好適であるが、それらの低い成長レベルのために、商業的に使用することが困難になっている。したがって、N末端メチオニンを含有しない、適切に折りたたまれた、ジスルフィド結合した細胞内タンパク質を高レベルで発現する菌株の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、現行の戦略および設計に関連する問題および不利益を克服し、組換えペプチドおよびタンパク質を生成するための新たな組成物および方法を提供する。
【0009】
本発明の1つの態様は、以下の工程を含む、細菌において組換えペプチドおよびタンパク質を生成する方法に関する:プロモーターを包含するタンパク質配列をコードする発現ベクターを含有する細菌においてタンパク質を発現させる工程であって、該細菌は、プロモーターの制御下の遺伝子も含有し、これはホストのゲノム中に組み込まれており、その遺伝子によって発現されたポリペプチドは、細胞質における組換えタンパク質の発現、折りたたみ、または可溶性を容易化する、工程、および、タンパク質を単離する工程。
【0010】
本発明の別の態様は、以下の工程を含む、細菌において組換えペプチドおよびタンパク質を生成する方法に関する:プロモーターを包含するタンパク質配列をコードする発現ベクターを含有する細菌においてタンパク質を発現させる工程であって、該細菌は、ペプチダーゼ遺伝子も発現し、これはホスト細胞のゲノム中に組み込まれており、ここで、ペプチダーゼが、発現されたタンパク質に作用するように、およびタンパク質のN末端部分からホルミルメチオニン基を除去するように、ペプチダーゼ発現がプロモーターの制御下にある、工程;ならびに、タンパク質を単離する工程。N末端メチオニンを除去するペプチダーゼはメチオニンアミノペプチダーゼ(MAP)と称され得る。好ましくは、組み込まれた遺伝子はリボソーム結合部位、開始コドン、ならびに発現エンハンサーおよび/またはリプレッサー領域を含有する。好ましくは、組換え細胞は、1つのみのジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性または2つののみジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有する。好ましくは、組換え細胞は大腸菌細胞または大腸菌の派生物もしくは菌株であり、好ましくは、発現される組換えタンパク質は、破傷風毒素、破傷風毒素重鎖タンパク質、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、シュードモナスエキソプロテインA、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)トキソイド、百日咳菌(Bordetella pertusis)トキソイド、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)トキソイド、大腸菌(Escherichia coli)易熱性毒素Bサブユニット、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)外膜複合体、インフルエンザ菌(Hemophilus influenzae)タンパク質D、フラジェリンFli C、サイトカイン、一本鎖抗体、ラクダ科(camelids)、ナノボディ、ならびにこれらの断片、誘導体、および改変物を含む。また、好ましくは、組換えタンパク質はプレタンパク質プロリラキシン、インスリン、およびインスリン様ファミリーのメンバーであり得る。好ましくは、組み込まれる遺伝子および/または発現ベクターは、ペプチダーゼのための誘導性プロモーターを含有する。発現させる工程は、第1の誘導剤によって誘導性プロモーターを誘導することを含み、第2の誘導剤によって誘導可能であり得る組換えペプチドまたはタンパク質をコードする発現ベクターを含有する。好ましくは、第1のおよび第2の誘導剤は同じであるが、異なっていてもよい。好ましくは、第1の組み込まれる遺伝子または発現ベクターは第2の誘導性プロモーターを含有し、ペプチダーゼを発現させる工程は、第1の誘導剤によって第2の誘導性プロモーターを誘導することを含む。好ましくは、単離する工程はクロマトグラフィーを含み、クロマトグラフィーは硫酸塩樹脂、ゲル樹脂、活性硫酸化樹脂、リン酸塩樹脂、ヘパリン樹脂、またはヘパリン様樹脂を含む。好ましくは、発現され単離されたタンパク質は、ポリエチレングリコールおよび/またはポリエチレングリコールの誘導体と、あるいは、ポリマー、例えば多糖、ペプチド、抗体もしくは抗体の一部、脂質、脂肪酸、低分子、ハプテン、またはこれらの組み合わせとコンジュゲートされる。
【0011】
本発明の別の態様は、以下の工程を含む、可溶性のまたは不溶性のペプチドを生成する方法に関する:ペプチドのN末端にホルミルメチオニン基を有するペプチドを、該ペプチドをコードする発現ベクターを含有する組換え細胞から発現させる工程、および、発現されたペプチドに作用しかつ該ペプチドのN末端からホルミルメチオニン基を除去するペプチダーゼを、組換え細胞の組み込まれた遺伝子から発現させる工程;ならびに、該ペプチドを単離する工程。
【0012】
本発明の別の態様は、以下の工程を含む、ペプチドを生成する方法に関する:ペプチドのN末端にホルミルメチオニン基を有するペプチドを、該ペプチドをコードする発現ベクターを含有する組換え細胞から発現させる工程であって、組換え細胞が、1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有し、発現ベクターが、ペプチドのコード領域に機能的に連結されたプロモーターを含有し、該1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性が、該1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有さない組換え細胞と比較してより酸化的な状態への、細胞質の酸化還元状態のシフトをもたらす、工程、および、発現されたペプチドに作用しかつ該ペプチドのN末端からホルミルメチオニン基を除去するペプチダーゼを、組換え細胞の組み込まれた遺伝子から発現させる工程;ならびに、該ペプチドを単離する工程。好ましくは、発現ベクターはリボソーム結合部位、開始コドン、および発現エンハンサー/リプレッサー領域を含有する。好ましくは、組換え細胞は、1つのみのジスルフィドレダクターゼ酵素または2つのみのジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有する。好ましくは、1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素は、オキシドレダクターゼ、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、チオレドキシンレダクターゼ、またはグルタチオンレダクターゼのうちの1つまたは複数を含む。好ましくは、組換え細胞は大腸菌細胞または大腸菌の派生物もしくは菌株であり、ペプチドまたはタンパク質は破傷風毒素、破傷風毒素重鎖タンパク質、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、シュードモナスエキソプロテインA、緑膿菌トキソイド、百日咳菌トキソイド、ウェルシュ菌トキソイド、ボツリヌス症毒素、大腸菌易熱性毒素Bサブユニット、髄膜炎菌外膜複合体、インフルエンザ菌タンパク質D、フラジェリンFli C、サイトカイン、一本鎖抗体、ラクダ科、ナノボディ、ならびにこれらの断片、誘導体、および改変物を含む。好ましくは、プロモーターは誘導性プロモーターであり、発現させる工程は、誘導剤によって誘導性プロモーターを誘導することを含む。
【0013】
好ましくは、単離する工程はクロマトグラフィーを含み、クロマトグラフィーは硫酸塩樹脂、ゲル樹脂、活性硫酸化樹脂、リン酸塩樹脂、ヘパリン樹脂、またはヘパリン様樹脂を含む。好ましくは、単離されたペプチドは、ポリエチレングリコール(PEG)および/またはPEGの誘導体とコンジュゲートされるか、あるいは、ポリマー、例えば多糖、ペプチド、抗体もしくは抗体の一部、脂質、脂肪酸、低分子、ハプテン、またはこれらの組み合わせにカップリングされる。
【0014】
本発明の別の態様は、gor変異を含有する大腸菌細胞株に関する。好ましくは、細胞株は、ATCC寄託番号PTA-126975から得られるかまたはそれに由来する細胞を含む。
【0015】
本発明の別の態様は、以下の工程を含む、タンパク質を生成する方法に関する:組換え的に操作されたプロテアーゼ遺伝子を含有する組換え細胞においてプレタンパク質を発現させる工程。好ましくは、プロテアーゼ遺伝子および/またはプレタンパク質遺伝子はプロモーターおよび/または翻訳誘導配列を含有する。プロモーターは同じでも異なっていてもよく、翻訳誘導配列は、存在する場合には、遺伝子間で同じでも異なっていてもよい。好ましくはプレタンパク質の発現後に、プロテアーゼ遺伝子の発現が、プレタンパク質が切断されてタンパク質を形成するように誘導され;タンパク質が回収される。好ましくは、プレタンパク質は、プロインスリン、プロインスリン様タンパク質、プロリラキシン、プロオピオメラノコルチン、プロ酵素、プロホルモン、プロアンジオテンシノーゲン、プロトリプシノーゲン、プロキモトリプシノーゲン、プロペプシノーゲン、凝固系のプロタンパク質、プロトロンビン、プロプラスミノーゲン、補体系のプロタンパク質、プロカスパーゼ、プロパシファスチン、プロエラスターゼ、プロリパーゼ、プロカルボキシポリペプチダーゼ、切断可能なリーダー配列を含有するタンパク質、切断可能なタグ配列、切断可能な追加のNまたはC末端アミノ酸(例えばMet)を含有するタンパク質からなる群より選択される。好ましくは、プロテアーゼ遺伝子は組換え細胞のゲノム中に組み込まれている。また好ましくは、メチオニンアミノペプチダーゼ遺伝子が組換え細胞のゲノム中に組み込まれており、ここでメチオニンアミノペプチダーゼ遺伝子の発現がプレタンパク質またはタンパク質からN末端メチオニンを除去する。メチオニンアミノペプチダーゼ遺伝子の発現は好ましくは誘導因子配列の制御下にあり、メチオニンアミノペプチダーゼの誘導因子配列およびプレタンパク質の翻訳誘導配列は同じでも異なっていてもよい。また好ましくは、組換え細胞は1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有し、これはgor変異を有する大腸菌であり得る。
【0016】
本発明の別の態様は、メチオニンアミノペプチダーゼ遺伝子およびプロテアーゼ遺伝子を含有する組換え細胞株に関し、これらの両方が組み込まされている。好ましくは、細胞は、1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性をさらに含有し、これはgor変異に寄与し得る。
【0017】
[本発明1001]
以下の工程を含む、1つまたは複数のスルフィド連結を含有するタンパク質を生成する方法:
タンパク質配列をコードする発現ベクターおよびゲノムを含有する組換え細胞から該タンパク質を発現させる工程であって、該組換え細胞が、1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有し、該タンパク質のN末端がメチオニンを含有する、工程;
該組換え細胞の遺伝子からペプチダーゼを発現させる工程であって、ペプチダーゼが、発現された該タンパク質のN末端からメチオニンを除去する、工程;および
該タンパク質を単離する工程。
[本発明1002]
発現されるタンパク質が、破傷風毒素、破傷風毒素重鎖タンパク質、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、シュードモナスエキソプロテインA、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)トキソイド、百日咳菌(Bordetella pertusis)トキソイド、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)トキソイド、大腸菌(Escherichia coli(E. coli))易熱性毒素Bサブユニット、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)外膜複合体、インフルエンザ菌(Hemophilus influenzae)タンパク質D、フラジェリンFli C、カブトガニヘモシアニン、またはこれらの断片、誘導体、もしくは改変物を含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
組換え細胞が、1つのみのジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有する、本発明1001の方法。
[本発明1004]
複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性、本発明1001の方法。
[本発明1005]
組換え細胞が大腸菌細胞または大腸菌の派生物もしくは菌株である、本発明1001の方法。
[本発明1006]
組換え細胞がATCC寄託番号PTA-126975から得られるかまたはそれに由来する、本発明1005の方法。
[本発明1007]
ペプチダーゼがメチオニンアミノペプチダーゼを含む、本発明1001の方法。
[本発明1008]
発現ベクターがリボソーム結合部位、開始コドン、および/または発現エンハンサー領域を含有する、本発明1001の方法。
[本発明1009]
発現ベクターが第1の誘導性プロモーターを含有し、タンパク質を発現させる工程が、第1の誘導剤によって第1の誘導性プロモーターを誘導することを含む、本発明1001の方法。
[本発明1010]
遺伝子が第2の誘導性プロモーターを含有し、ペプチダーゼを発現させる工程が、第2の誘導剤によって第2の誘導性プロモーターを誘導することを含む、本発明1001の方法。
[本発明1011]
発現ベクターが第1の誘導性プロモーターを含有し、タンパク質を発現させる工程が、第1の誘導剤によって第1の誘導性プロモーターを誘導することを含み、遺伝子が第2の誘導性プロモーターを含有し、ペプチダーゼを発現させる工程が、第2の誘導剤によって第2の誘導性プロモーターを誘導することを含み、第1の誘導剤および第2の誘導剤が同じである、本発明1001の方法。
[本発明1012]
ペプチダーゼ遺伝子が組換え細胞のゲノム中に組み込まれている、本発明1001の方法。
[本発明1013]
単離する工程がクロマトグラフィーを含む、本発明1001の方法。
[本発明1014]
クロマトグラフィーが、硫酸塩樹脂、ゲル樹脂、活性硫酸化樹脂、リン酸塩樹脂、ヘパリン樹脂、またはヘパリン様樹脂を含む、本発明1012の方法。
[本発明1015]
単離されたタンパク質を化学物質とコンジュゲートまたはカップリングする工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1016]
化学物質が、多糖、ポリマー、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールの誘導体、ペプチド、抗体もしくは抗体の一部、脂質、脂肪酸、またはこれらの組み合わせを含む、本発明1014の方法。
[本発明1017]
以下の工程を含む、ペプチドを生成する方法:
ペプチダーゼ酵素をコードする遺伝子を含有する組換え細胞においてペプチドを発現させる工程であって、
ペプチダーゼ酵素をコードする遺伝子が組換え細胞のゲノム中に組み込まれており、
組換え細胞が、1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有し、
該1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性が、該1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有さない組換え細胞と比較してより酸化的な状態への、細胞質の酸化還元状態のシフトをもたらし、かつ
ペプチドがN末端メチオニンを含有する、工程;
N末端メチオニンを該ペプチドから除去するペプチダーゼ酵素を発現させる工程;および
該ペプチドを単離する工程。
[本発明1018]
ペプチドが、破傷風毒素、破傷風毒素重鎖タンパク質、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、シュードモナスエキソプロテインA、緑膿菌トキソイド、百日咳菌トキソイド、ウェルシュ菌トキソイド、大腸菌易熱性毒素Bサブユニット、髄膜炎菌外膜複合体、インフルエンザ菌タンパク質D、フラジェリンFli C、カブトガニヘモシアニン、またはこれらの断片、誘導体、もしくは改変物を含む、本発明1016の方法。
[本発明1019]
組換え細胞が、1つのみのジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有する、本発明1016の方法。
[本発明1020]
組換え細胞が2つ以上のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有する、本発明1016の方法。
[本発明1021]
1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素が、オキシドレダクターゼ、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、チオレドキシンレダクターゼ、またはグルタチオンレダクターゼのうちの1つまたは複数を含む、本発明1016の方法。
[本発明1022]
組換え細胞が大腸菌細胞または大腸菌の派生物もしくは菌株である、本発明1016の方法。
[本発明1023]
ペプチドをコードする遺伝子が第1の誘導性プロモーターを含有し、かつ/または、ペプチダーゼ酵素をコードする遺伝子が第2の誘導性プロモーターを含有する、本発明1016の方法。
[本発明1024]
ペプチドをコードする遺伝子が第1の誘導性プロモーターを含有し、ペプチダーゼ酵素をコードする遺伝子が第2の誘導性プロモーターを含有し、第1のおよび第2の誘導性プロモーターが同じである、本発明1016の方法。
[本発明1025]
単離する工程がクロマトグラフィーを含む、本発明1016の方法。
[本発明1026]
クロマトグラフィーが、硫酸塩樹脂、ゲル樹脂、活性硫酸化樹脂、リン酸塩樹脂、ヘパリン樹脂、またはヘパリン様樹脂を含む、本発明1024の方法。
[本発明1027]
単離されたペプチドを化学物質とコンジュゲートまたはカップリングする工程をさらに含む、本発明1016の方法。
[本発明1028]
化学物質が、多糖、ポリマー、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールの誘導体、ペプチド、抗体もしくは抗体の一部、脂質、脂肪酸、またはこれらの組み合わせを含む、本発明1026の方法。
[本発明1029]
ペプチドが酸化剤によって酸化される、本発明1016の方法。
[本発明1030]
酸化剤がヒドラジド、ヒドラジン、アミノオキシ基、N末端1-アミノ2-アルコールアミノ酸、またはこれらの組み合わせを含む、本発明1028の方法。
[本発明1031]
以下の工程を含む、ジスルフィド結合を含有するペプチドを生成する方法:
ペプチダーゼ酵素をコードする遺伝子を含有する組換え細胞においてペプチドを発現させる工程であって、
ペプチドが発現ベクター内でコードされており、
ペプチダーゼ酵素をコードする遺伝子が組換え細胞のゲノム中に組み込まれており、
組換え細胞が、1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有し、
組換え細胞が大腸菌であり、かつ
ペプチドがN末端メチオニンを含有する、工程;
N末端メチオニンを該ペプチドから除去するペプチダーゼ酵素を発現させる工程;および
組換え細胞の細胞質内から該ペプチドを単離する工程であって、単離されるペプチドが可溶性である、工程。
[本発明1032]
ATCC寄託番号PTA-126975から得られるかまたはそれに由来する組換え細胞。
[本発明1033]
以下の工程を含む、タンパク質を生成する方法:
翻訳誘導配列を含有する組換え的に操作されたプロテアーゼ遺伝子を含有する組換え細胞においてプレタンパク質を発現させる工程;
該プレタンパク質が切断されてタンパク質を形成するように、プロテアーゼ遺伝子の発現を誘導する工程;および
該タンパク質を回収する工程。
[本発明1034]
プレタンパク質が、プロインスリン、プロインスリン様タンパク質、プロリラキシン、プロオピオメラノコルチン、プロ酵素、プロホルモン、プロアンジオテンシノーゲン、プロトリプシノーゲン、プロキモトリプシノーゲン、プロペプシノーゲン、凝固系のプロタンパク質、プロトロンビン、プロプラスミノーゲン、補体系のプロタンパク質、プロカスパーゼ、プロパシファスチン、プロエラスターゼ、プロリパーゼ、およびプロカルボキシポリペプチダーゼからなる群より選択される、本発明1033の方法。
[本発明1035]
プロテアーゼ遺伝子が組換え細胞のゲノム中に組み込まれている、本発明1033の方法。
[本発明1036]
メチオニンアミノペプチダーゼ遺伝子が組換え細胞のゲノム中に組み込まれている、本発明1033の方法。
[本発明1037]
メチオニンアミノペプチダーゼ遺伝子の発現が前記プレタンパク質または前記タンパク質からN末端メチオニンを除去する、本発明1036の方法。
[本発明1038]
メチオニンアミノペプチダーゼ遺伝子の発現が誘導因子配列の制御下にある、本発明1037の方法。
[本発明1039]
メチオニンアミノペプチダーゼの誘導因子配列およびプレタンパク質の翻訳誘導配列が異なる、本発明1038の方法。
[本発明1040]
メチオニンアミノペプチダーゼの誘導因子配列およびプレタンパク質の翻訳誘導配列が同じである、本発明1038の方法。
[本発明1041]
組換え細胞が、1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有する、本発明1033の方法。
[本発明1042]
組換え細胞が、gor変異を含有する大腸菌である、本発明1041の方法。
[本発明1043]
両方が組み込まれているメチオニンアミノペプチダーゼ遺伝子およびプロテアーゼ遺伝子を含有する、組換え細胞株。
[本発明1044]
1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有する、本発明1043の組換え細胞。
[本発明1045]
gor変異を含有する、本発明1044の組換え細胞。
[本発明1046]
以下の工程を含む、ペプチドを生成する方法:
組換え細胞においてペプチドを発現させる工程であって、発現されたペプチドがN末端メチオニンを含有し、該組換え細胞が、ペプチダーゼをコードする遺伝子を含有する、工程;
N末端メチオニンが、該発現されたペプチドから切断されるように、ペプチダーゼ遺伝子を発現させる工程;および
ペプチドを単離する工程、
タンパク質を回収する工程。
[本発明1047]
ペプチドが、組換え細胞のゲノム中に組み込まれている別の遺伝子から発現される、本発明1046の方法。
[本発明1048]
ペプチダーゼ遺伝子が組換え細胞のゲノム中に組み込まれている、本発明1046の方法。
[本発明1049]
ペプチダーゼがメチオニンアミノペプチダーゼである、本発明1046の方法。
[本発明1050]
組換え細胞が大腸菌細胞である、本発明1046の方法。
本発明の他の態様および利点は、部分的には、以降の記載において示され、部分的には、この記載から自明であり得るか、または本発明の実施から学ばれ得る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の説明
大腸菌において、タンパク質は典型的に、対応するATGコドンが翻訳の開始に必要であるため、N末端にメチオニンを有して発現される。よって、細胞内で発現されるタンパク質は、(天然の配列がメチオニンで始まっていない限り)天然のアミノ酸配列の一部ではないN末端メチオニンを含有している。MAPによるN末端メチオニンの除去はタンパク質の機能および安定性にとって重要であり得る。内在性メチオニンアミノペプチダーゼ(MAP)は、新たに合成されたタンパク質のN末端メチオニンを、典型的には60~70%まで切断できる。しかしながら、高発現された組換えタンパク質では、内在性MAPの活性のレベルが、所望の量のN末端メチオニンを除去するには十分ではない可能性がある。N末端メチオニンを除去することは、大腸菌において細胞内組換えタンパク質を生成する上で重大な関心事であろう。したがって、所望でないN末端Metを効率的に切断できる大腸菌株が非常に望ましいであろう。
【0019】
細胞内で発現される組換えタンパク質の可溶性および適切な折りたたみは大腸菌発現系の懸念材料である。大腸菌細胞質は、ジスルフィド結合形成に好都合ではない還元的な環境を有している。結果として、ジスルフィド結合を含有する組換えタンパク質は通常、細胞内で発現されるときには不溶性である。これらの不溶性のタンパク質の精製は困難で、高価で、時間がかかり得る。特に商業的な使用のための組換えタンパク質の生成にとっては、高い細胞密度が好ましい。
【0020】
N末端ホルミルメチオニンもまた有効に除去する大量の適切に構成された組換えタンパク質を発現するように遺伝子操作され、微生物が、驚くべきことに開発された。これらの微生物は、ジスルフィド結合を含有する可溶性の組換えタンパク質を細胞質において発現するようにかつN末端メチオニンを除去するように遺伝子操作される。これらの微生物は、タンパク質のN末端にメチオニンをもたない、ジスルフィド結合を含有する大量の適切に折りたたまれた細胞内組換えタンパク質を生成する。
【0021】
好ましくは、微生物は、細菌のゲノム中に組み入れられた1つまたは複数のメチオニンアミノペプチダーゼ(MAP)遺伝子を含有する。N末端メチオニンを除去するペプチダーゼは、大腸菌MAP、酵母MAP、およびヒトMAP、ならびにこれらの変異体を包含するが、これらに限定されず、これらの全てが利用可能である。誘導性プロモーターの制御下のMAPのコード配列が、好ましくはゲノムの破壊を防止するような様式で細菌ゲノム中に挿入された。誘導性プロモーターを有することにより、選択された時間における、好ましくは、過剰発現された組換えタンパク質からホルミルメチオニンを有効に除去するためにより多くのMAPが必要とされたときのみの、追加のMAPの発現の開始が可能になる。MAP遺伝子のプロモーターは、組換えタンパク質に用いられるプロモーターと同じでも異なっていてもよい。1つの例では、tacプロモーターがMAP遺伝子および組換えタンパク質の両方のためのラクトース/IPTG誘導性プロモーターとして利用された。そのため、MAPおよび組換えタンパク質の発現が同時に誘導され得る。MAPの発現のためおよび組換えタンパク質の発現のための誘導性プロモーターの異なる組み合わせが、それぞれの発現のタイミングを制御するために用いられ得る。
【0022】
ゲノム中への追加のMAPの組み入れは特に望ましい。なぜなら、作出される安定な細菌発現株を、所望でないf-Metがインビボで切断される組換えタンパク質の細胞内生成のために用いられ得るからである。以前には、所望でないN末端メチオニンの除去は、精製されたMAPを用いる翻訳後のインビトロ消化によって、または組換えタンパク質と同じベクター内のもしくは追加のベクターを用いるMAPの共発現によって、行われてきた。プロセスは長くかつ複雑である。f-Metを需要時にインビボで切断し得る細胞株を用いることによって、これらの微生物はタンパク質発現および精製プロセスを大幅に単純化する。
【0023】
MAPは、隣接するアミノ酸についての特定の必須要件により、N末端メチオニンを切断する。少なくとも1つの追加のMAPの使用は、N末端メチオニンなしの細胞内タンパク質のより効率的な生成を可能にし得る。複数のMAPが挿入される場合には、それらは同じまたは異なるMAP遺伝子であり得る。これらのMAP遺伝子の転写は同じまたは異なる誘導性プロモーター下であり得る。これらのプロモーターは、組換えタンパク質を発現させるために用いられるプロモーターと同じでも異なっていてもよい。N末端メチオニンをもたない細胞内発現される組換えタンパク質の生成のタイミングおよび量を制御するために、誘導性プロモーターの組み合わせが用いられ得る。
【0024】
ジスルフィド結合を含有する、可溶性の、適切に折りたたまれた細胞内組換えタンパク質を発現することができる大腸菌株が、記載されている(米国特許第10,597,664号および第10,093,704号を参照されたい)。そのような株の例は大腸菌(BL21 Gor-)である。BL21Gor-は、ジスルフィド結合を高レベルで含有する、可溶性の、適切に折りたたまれた細胞内組換えタンパク質、例えば、遺伝学的に無毒化されたジフテリア毒素のワクチン担体タンパク質CRM197を発現させるために用いられている。これらの細胞において発現されたCRM197のおよそ60%はN末端メチオニンを含有した。プロモーター制御下の追加のMAP遺伝子の、そのような株への挿入は、ジスルフィド結合を含有しかつN末端メチオニンをもたない、可溶性の、適切に折りたたまれた細胞内組換えタンパク質の生成を可能にする。そのような株の例は大腸菌(BL21 Gor/Met)株である。この株は、細胞培養物1リットルあたり数グラムの量で、ジスルフィド結合を有しN末端メチオニンを有さない可溶性タンパク質を細胞内で生成し得る。BL21 Gor/Met細胞で発現されたCRM197は非常に低レベルのN末端メチオニンを含有した。さらに、大腸菌ゲノムへの誘導性メチオニンアミノペプチダーゼ遺伝子の組み入れは、CRM197発現レベルに有意には影響しなかった。
【0025】
MAP遺伝子は相同組換えによってゲノム中に挿入されたが、挿入を容易化するためのいくつかの他の選択肢が利用可能である。Gor/Met細胞株の作出に用いられるアプローチは遺伝子挿入の一例である。Gor/Met細胞では、BL21 Gor-細胞のGor座位にMAP遺伝子を挿入するためにredリコンビナーゼ系が用いられた。MAP遺伝子は、PCRを用いてBL21ゲノムから切り出され、Tacプロモーターの制御下、かつ2つの短いフリッパーゼ認識標的(FRT)配列に隣接したクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子の下流に置かれた。MAPおよびCAT遺伝子は一緒になって移入遺伝子カセットを形成した。元のGor座位の上流および下流の隣接配列の各50塩基が、それぞれ、移入カセット上流および下流にPCRによって付加された。最終的なPCR生成物は、既にRedリコンビナーゼによって形質転換されていたBL21 Gor-細胞株に形質転換するために用いられた。細胞におけるredリコンビナーゼの発現は、Gor座位に隣接する配列と移入カセットとの相同組換えを容易化した。クロラムフェニコールに耐性である細菌コロニーは、移入カセット挿入が成功したことを確認された。確認された細菌は続いて、フリッパーゼ遺伝子によって形質転換され、その発現は、CAT遺伝子に隣接するFRT配列を認識して該遺伝子を切り取り、挿入されたMAPをそのままにした。したがって、Gor/Met細胞株は、ゲノムの他の箇所を乱すことなしにGor座位に位置付けられたMAP遺伝子を有する。
【0026】
大腸菌ホスト細胞からCRM197などの大量のタンパク質を生成するために、タンパク質のN末端に存在するf-Metが細胞質において酵素的に除去される。生成量は典型的に、細菌細胞培養物1Lあたりのmgとして定量される。タンパク質生成は、25mg/Lもしくはそれ以上、50mg/Lもしくはそれ以上、100mg/Lもしくはそれ以上、200mg/Lもしくはそれ以上、300mg/Lもしくはそれ以上、400mg/Lもしくはそれ以上、500mg/Lもしくはそれ以上、600mg/Lもしくはそれ以上、700mg/Lもしくはそれ以上、800mg/Lもしくはそれ以上、900mg/Lもしくはそれ以上、1,000mg/Lもしくはそれ以上、1,500mg/Lもしくはそれ以上、または2,000mg/Lもしくはそれ以上を達成した。発現されるタンパク質は、所望に応じて、全長のおよび/または短縮されたタンパク質の両方、ならびに該タンパク質の改変されたアミノ酸配列を包含する。改変は、保存的アミノ酸欠失、置換、および/または付加のうちの1つまたは複数を包含する。保存的改変とは、分子の機能的な活性および/または免疫原性を維持するものであるが、該活性および/または免疫原性は増大または減少し得る。保存的な改変の例は、アミノ酸改変(例えば、単一の、二重の、および別様に短いアミノ酸の付加、欠失、および/もしくは置換)、活性なもしくは機能的な配列の外側の改変、ワクチンを形成する際のコンジュゲートのためにアクセス可能である残基、血清型バリエーションを原因とする改変、免疫原性を増大させるかもしくはコンジュゲート効率を増大させる改変、ヘパリンへの結合を実質的には変更しない改変、適切な折りたたみもしくは3次元構造を維持する改変、および/または、防御免疫を提供するタンパク質もしくはタンパク質の一部の免疫原性を有意には変更しない改変を包含するが、これらに限定されない。
【0027】
用いられる組換え細胞は、好ましくは大腸菌細菌であり、好ましくは、例えば、オキシドレダクターゼ、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、チオレドキシンレダクターゼ、グルタミン酸システインリアーゼ、ジスルフィドレダクターゼ、タンパク質レダクターゼ、および/またはグルタチオンレダクターゼなどの、例えば、1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ遺伝子の変異によるなど、細胞質の酸化還元状態をより酸化的な状態にシフトさせるように遺伝子操作されている大腸菌である。好ましくは、生存率を低下させることなしに細胞の細胞質の酸化還元状態を野生型と比較してより酸化的な状態にシフトさせるように、1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ遺伝子を変異させ、非機能的にまたはわずかに機能的にする。酸化的なタンパク質折りたたみは、ジスルフィド架橋部の形成および異性化を伴い、CRM197を包含する多くのタンパク質の安定性および可溶性において鍵となる役割を果たす。ジスルフィド架橋部の形成および切断は通常、チオール-ジスルフィドオキシドレダクターゼによって触媒される。これらの酵素は、CXXC酸化還元活性部位モチーフを有する、3つのαヘリックスによって囲まれた4本鎖のβシートからなる1つまたは複数のTrxフォールドを特徴とする。種々のTrxモジュールのアセンブリが、原核および真核生物に見出される様々なチオールオキシドレダクターゼを組み立てるために用いられている。細菌ペリプラズムにおいて、タンパク質は、DsbB-DsbAおよびDsbD- DsbC/DsbE/DsbGの対の組み合わせられた作用によって適当な酸化状態に保たれている。タンパク質発現系は当技術分野において周知であり、市販されている。また、ジスルフィド結合イソメラーゼDsbCの染色体コピーを構成的に発現する大腸菌発現株も好ましい。DsbCは誤って酸化されたタンパク質をその正しい形態へと修正することを促進する。細胞質DsbCはまた、ジスルフィド結合を必要としないタンパク質の折りたたみを支援できるシャペロンでもある。
【0028】
新たに発現されたタンパク質のN末端に存在するf-Metが酵素的に除去される、発現可能なタンパク質配列を含有する組換え細菌。好ましいホスト細胞は、細胞質の酸化還元状態をより酸化的な状態にシフトさせるように遺伝子操作された細胞を非限定的に包含し、これは、誘導性のMAP遺伝子を含有および発現する。好ましい細胞は、原核生物、例えば大腸菌発現系、枯草菌(Bacillus subtillis)発現および他の細菌細胞発現系である。好ましくは、細胞は、外来性のまたは非天然の配列を発現するためのタンパク質発現系を含有する。また、好ましくは、発現されるべき配列は、誘導性プロモーター(例えば、好ましくは特定の培地によって誘導可能である)、開始コドン(例えばATG)、リボソーム結合部位、および/または、リボソーム結合部位とATG開始コドンとの間のもしくは開始コドンと発現されるべき配列との間の改変配列のうちの1つまたは複数を含有する発現ベクターから構成される。好ましい改変配列またはスペーサー配列は、例えば、9超または未満(例えば7~12ヌクレオチド)であり、好ましくは9ヌクレオチドではない、いくつかのヌクレオチドを包含する。
【0029】
驚くべきことに、1つまたは複数の異なるプレタンパク質および/またはプレプロタンパク質を不活性立体構造から活性立体構造へと効果的に切断する追加のプロテアーゼを含有する組換え細胞が開発可能であるということもまた、発見されている。これらのタンパク質は一般的にチモーゲン(例えばプロ酵素)と称され、翻訳後修飾を必要とする。タンパク質前駆体はしばしば、活性なタンパク質が有害であるが発現させる必要があるときに、細胞によって用いられる。これらのタンパク質を組換え細胞に組み込むことによって、発現が安全にかつ低コストでかつ大量に達成され得る。不活性から活性への特異的切断を行うプロテアーゼを発現するプロテアーゼ遺伝子は、全て本明細書に記載される通り、細胞のゲノム中に組み込まれていてもよく、または関心対象のプロテアーゼ遺伝子を含有するベクターによって形質転換されてもよい。導入されるプロテアーゼ遺伝子は、発現および回収されるべき組換え遺伝子、ならびにメチオニンを切り取るプロテアーゼ遺伝子と共通のプロモーターの制御下に配置され得、または、プロテアーゼ遺伝子は、異なるプロモーターを有し得る。同様に、遺伝子は、発現および回収されるべき組換え遺伝子ならびにメチオニンを切り取るプロテアーゼ遺伝子とは別々にまたは基本的に同時に、誘導され得る。好ましくは、組換えタンパク質の発現が十分に行われるときには、第2のプロテアーゼが活性化され、プロタンパク質を活性な状態へとプロセシングする。これが時間およびコストの両方を節約する両方において有効であろうプレタンパク質は、プロインスリンからインスリン、プロインスリン様タンパク質からインスリン様タンパク質、プロリラキシンからリラキシン、プロオピオメラノコルチンからオピオメラノコルチン、プロ酵素から酵素、およびプロホルモンからホルモン、ならびにタンパク質からのシグナルペプチド、リーダー配列、タグなどの除去を包含するが、これらに限定されない。一般的に、導入されるプロテアーゼは切断されるべきタンパク質に特異的であろう。これにおいて効率的に生成され得る追加のタンパク質は、アンジオテンシノーゲン、トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲン、ペプシノーゲン、凝固系のタンパク質(例えば、プロトロンビン、プラスミノーゲン)、補体系のタンパク質、プロカスパーゼ、パシファスチン、プロエラスターゼ、プロリパーゼ、プロカルボキシポリペプチダーゼを包含するが、これらに限定されない。加えて、ある種の遺伝子は、タンパク質が不活性な形態で発現されることを可能にする部分(例えば、リーダーまたはタグまたは内部配列)を包含するように改変され得、これは、その遺伝子もまた細胞に導入され続いて活性化されたプロテアーゼによって切断されるときのみに、活性な形態に変換される。
【0030】
例として、関心対象の遺伝子は、別のプロモーターと共にゲノム中に挿入される。細胞は、ジスルフィド結合を有する該遺伝子を、およびメチオニンをトリミングするメチオニンペプチダーゼもまた、発現するように誘導される。トリミングされるタンパク質の好適な量が細胞質において生成されると、第2のプロモーターが誘導され、これがタンパク質をその最終的なまたは活性な形態へとプロセシングする。成長の間の、トリプシンなどの活性なタンパク質の発現は、細胞質内の沢山の必要とされるタンパク質を壊し、組換えタンパク質の発現を妨げる。このアプローチは、発現されたプロタンパク質のインビトロプロセシングの必要性を回避するであろう。
【0031】
本発明の別の態様は、誘導性プロモーターおよび/または、リボソーム結合部位とATG開始コドンとの間の改変配列を有する発現ベクターを用いて、大腸菌または別のホスト細胞において、組換えタンパク質のN末端に存在するf-metが酵素的に除去される細胞において、発現される組換えタンパク質に関する。好ましくは、発現ベクターは、ラクトース/IPTG誘導性プロモーター、好ましくはtacプロモーター、および、リボソーム結合部位とATG開始コドンとの間の配列を包含する。
【0032】
本発明の別の態様は、ヌクレオチドまたはアミノ酸の配列の発現構築を、制御領域ありまたはなしで含む。増大した発現のための(例えば、開始コドン、酵素結合部位、翻訳または転写因子結合部位)または阻害された発現のための(例えば、オペレーター)核酸認識を促進する1つまたは複数の配列を付加させることによって、制御領域はタンパク質発現を制御する。好ましくは、本発明の制御エレメントは、組換えタンパク質のコード配列の上流の開始コドンおよびそれとは異なるコード配列を有する、リボソーム結合部位を含有する。
【0033】
本発明の別の態様は、本明細書において開示される方法に従って製造され得るタンパク質およびペプチドならびにこれらの一部およびドメインに関する。タンパク質およびペプチドは、例えば、本明細書において記載および開示される方法に従って、リーダーまたはタグ配列なしにかつ商業的に有意なレベルで細胞質発現され得るタンパク質およびペプチドを含むが、これらに限定されない。好ましくは、これらのタンパク質およびペプチドは、本発明の組換え細胞における発現の際には適切な折りたたみを示す。本発明の組換え細胞は、好ましくは、1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性、好ましくは5つ未満のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性、好ましくは4つ未満のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性、および好ましくは3つ未満のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を示す。好ましくは、1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有さない組換え細胞における発現と比較して、タンパク質およびペプチドの発現は本発明の組換え細胞において増大するが、低下しないまたは有意には低下しない可能性がある。本明細書において開示される方法において発現され得るタンパク質およびペプチドは、例えば破傷風毒素、破傷風毒素重鎖タンパク質、ジフテリアトキソイド、CRM、破傷風トキソイド、シュードモナスエキソプロテインA、緑膿菌トキソイド、百日咳菌トキソイド、ウェルシュ菌トキソイド、大腸菌易熱性毒素Bサブユニット、髄膜炎菌外膜複合体、インフルエンザ菌タンパク質D、フラジェリンFli C、カブトガニヘモシアニン、ならびにこれらの断片、誘導体、および改変物を包含するが、これらに限定されない。
【0034】
本発明の別の態様は、遺伝学的に、または別の分子による化学修飾もしくはコンジュゲート(例えば、カルボジイミド、1-シアノジメチルアミノピリジニウムテトラフルオロボラート(CDAP))によって融合された、その発現されるタンパク質の一部およびドメインに関する。好ましい他の分子は、他のタンパク質、ペプチド、脂質、脂肪酸、糖、および/または多糖などだがこれらに限定されない、分子である。例えば、半減期を延長する(例えば、PEG、抗体断片、例えばFc断片)、免疫原性を刺激および/もしくは増大させる、または免疫原性を低下させるもしくは消失させる分子を包含する。
【0035】
多くのタンパク質はN末端セリンもしくはトレオニンを含有するか、または遺伝学的にN末端セリンもしくはトレオニンを有して発現され得る。N末端セリンまたはトレオニンは選択的に活性化され、それによりこれはコンジュゲートにとって有用になり得る。N末端メチオニンの存在は、これらのアミノ酸が選択的に活性化される能力を阻止するであろう。本特許に記載される方法は、N末端メチオニンが切断されることを可能にし、このことが、タンパク質が所望のN末端アミノ酸を有して生成されることを可能にする。典型的なコンジュゲートパートナー分子は、ポリマー、例えば、細菌多糖、酵母、寄生虫、および/または他の微生物に由来する多糖、ポリエチレングリコール(PEG)、ならびにPEG誘導体および改変物、デキストラン、ならびにデキストランの誘導体、改変された断片、および誘導体を包含するが、これらに限定されない。コンジュゲートされた化合物の1つの例はPEGASYS(登録商標)(ペグインターフェロンアルファ-2a)である。デキストランなどの他のポリマーもまたタンパク質の半減期を増大させ、コンジュゲートパートナーの免疫原性を低下させる。ポリマーはランダムに連結され得るか、または、例えば、N末端セリンおよび/またはトレオニンの修飾によるなどの部位特異的なコンジュゲートによって導かれ得る。また、部位特異的なコンジュゲートのために化学基を選択的に酸化する修飾が用いられ得る。
【0036】
本発明の別の態様は、以下の工程を含む、ドメイン、断片、および/または一部を含有するペプチドを生成する方法に関する:ペプチドをコードする発現ベクターを含有する組換え細胞からペプチドを発現させる工程であって、組換え細胞は1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有し、発現ベクターはペプチドのコード領域に機能的に連結されたプロモーターを含有し、1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素は、オキシドレダクターゼ、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、チオレドキシンレダクターゼ、またはグルタチオンレダクターゼのうちの1つまたは複数を含む、工程;および、発現されたペプチドを単離する工程であって、発現されたペプチドは可溶性であり、タンパク質またはペプチドはN末端にf-Metを有して発現され、これは同じく組換え細胞内で発現されるペプチダーゼによって、除去される、工程。好ましくは、発現ベクターは、リボソーム結合部位、開始コドン、および任意で発現エンハンサー/リプレッサー領域を含有する。好ましくは、組換え細胞は、1つのみのジスルフィドレダクターゼ酵素、2つのみのジスルフィドレダクターゼ酵素、または2つ以上のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有する。好ましくは、ジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性は、1つまたは複数のジスルフィドレダクターゼ酵素の低下した活性を有さない組換え細胞と比較してより酸化的な状態への、細胞質の酸化還元状態のシフトをもたらす。好ましくは、組換え細胞は、大腸菌細胞、または大腸菌の派生物もしくは菌株である。好ましくは、発現された可溶性のペプチドは、天然に折りたたまれたタンパク質または該タンパク質のドメインを含む。プロモーターは構成的または誘導性プロモーターであり得、ここで、発現は、誘導剤によって誘導性プロモーターを誘導することを含む。好ましい誘導剤は、例えばラクトース(PLac)、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)、基質、および基質の誘導体を包含する。1つの好ましい態様では、組換え細胞のゲノムは、ペプチダーゼのコード領域を好ましくは含有する追加の遺伝子を含有し、これが好ましくは、発現ベクターから発現されたペプチドまたはタンパク質に作用して選択的に切断する。好ましくは、組換えタンパク質発現ベクターは、ゲノム中に挿入されたMAP遺伝子と同じまたは異なる誘導性プロモーターを含有する。追加の遺伝子および発現ベクター内の遺伝子は、同じ誘導剤によって一緒にまたは異なる誘導剤によって、任意でプロモーターに依存した異なる時間に、誘導され得る。好ましくは、ペプチダーゼはペプチダーゼと共発現されるペプチドに作用して切断する。好ましくは、発現されたペプチドは、例えば、デキストラン、細菌莢膜多糖、ポリエチレングリコール(PEG)、またはその断片、誘導体、もしくは改変物などのポリマーとコンジュゲートされる。好ましくは、発現されたペプチドは、例えば多糖、ペプチド、抗体もしくは抗体の一部、脂質、脂肪酸、またはこれらの組み合わせを包含するポリマーとカップリングされる。
【0037】
本発明の別の態様は、本明細書の開示に従って発現および切断されたタンパク質のコンジュゲートを含み、本明細書において開示および記載される通りその断片、ドメイン、および一部を包含する。
【0038】
本発明の別の態様は、タンパク質の融合分子を含み、これは本明細書において開示および記載される通りそれらの断片、ドメイン、および一部を包含する。
【0039】
本発明の別の態様は、タンパク質のワクチンを含み、これは本明細書において開示および記載される通りそれらの断片、ドメイン、および一部を包含する。
【0040】
以下の実施例は本発明の態様を説明するが、本発明の範囲を限定すると見なされるべきではない。
【実施例
【0041】
実施例1.細菌ゲノムの種々の座位へのMAP遺伝子の挿入。
過剰発現された細胞内組換えタンパク質のN末端メチオニンの効率的な除去を、好ましくは誘導性プロモーターと共にMAP遺伝子を大腸菌ゲノム中に挿入することによって、達成した。このやり方では、誘導因子の制御下においてMAP遺伝子を発現する永久的な細胞株が作出された。同じく誘導因子の制御下にある組換え遺伝子も細胞にクローニングされる。したがって、MAP遺伝子は、発現された組換えタンパク質からN末端メチオニンを効率的に切断するための所望の時間に発現され得る。大腸菌MAP以外の多くのMAP酵素が公知であるかまたは考案されている。他の種からのMAPは隣接するアミノ酸についての異なる選択性を有し得る。いくつかのMAPは、N末端メチオニンに隣接する嵩高くないアミノ酸についてのそれらの要件においてより低ストリンジェントであるように遺伝学的に変更されている。大腸菌ゲノム中へ誘導性プロモーターと共にこれらのMAPのうちの1つまたは複数を挿入することは、効率的にプロセシングされ得るN末端配列の範囲を拡張するであろう。
【0042】
組換え遺伝子をゲノム中に挿入することは、大腸菌ゲノム構造を破壊し得、細胞成長を損なう可能性がある。MAP遺伝子を大腸菌ゲノム中に挿入するための安全なやり方とは、遺伝子が欠失している生存可能な株を用いることと、該欠失した遺伝子をMAP遺伝子で置換することとである。このやり方において、ある遺伝子をある遺伝子で置き換えることによって、ゲノムの破壊の確率は低下し得る。大腸菌の2つの株、K12株およびB株は、遺伝子を操作するためおよび組換えタンパク質を発現させるために広く用いられている。K12およびB株を包含する大腸菌株はMAP遺伝子の挿入のためのホスト細胞として用いられ得る。
【0043】
間違った部位における挿入、例えば、必須遺伝子のオープンリーディングフレーム内のまたは制御エレメントを破壊する部位における挿入・欠失は、細菌にとって致死的であり得る。誘導性プロモーターおよびターミネーターと共にMAP遺伝子を挿入するための3つの説明的なプロトコールは以下である:
(1)既に確定した遺伝子の上流または下流のMAP遺伝子の挿入。例えば、組換えMAP遺伝子は内在性MAP遺伝子の下流に挿入され得る。大腸菌MAP遺伝子は研究されており、遺伝子構造が確定している。下流の組換え遺伝子の挿入は、他の遺伝子の発現を乱さないであろう。
(2)先に欠失させた遺伝子座位へのMAP遺伝子の挿入。Gor/Met細胞株の作出は、欠失遺伝子の部位へのMAP遺伝子の挿入の例である。BL21細胞においてGor遺伝子を欠失させることによって、Gor-細胞を作出した。BL21 Gor-細胞のGor座位へのMAP遺伝子の挿入によって、Gor/Met細胞株を作出した。
(3)非必須遺伝子の挿入/置き換え。第3の方法の例として、MAP遺伝子がBL21(DE3)細胞中のT7 RNAポリメラーゼを置き換えるように挿入される。BL21(DE3)は、T7プロモーターの制御下の組換え遺伝子を転写できる非常に活性なT7 RNAポリメラーゼを、DE3断片内でコードしている。組換え遺伝子がT5プロモーターの制御下において固有のRNAポリメラーゼによって転写されるならば、T7ポリメラーゼ遺伝子はMAP遺伝子によって置き換えられることができる。
【0044】
部位特異的変異導入技術が上述の挿入部位選択に必要である。細菌ゲノムを操作するための多くの方法が公知であり、本発明は2つの例を開示する。遺伝子の挿入/欠失のための最も普通の方法はRedリコンビニアリングである。この技術は細菌ゲノムおよび真核生物ゲノムにおける変異のために広く用いられており、関心対象の遺伝子に隣接する選択された挿入部位の上流および下流に対して相補的なDNAの短い配列を導入するためのPCRを用いることで始まる。次に、PCR生成物は、先に形質転換された温度感受性ベクターにおけるredリコンビナーゼを既に発現している大腸菌にエレクトロポレーションされる。redリコンビナーゼは、選択された部位において遺伝子を挿入する相同組換えを助ける。Redリコンビナーゼ遺伝子は温度感受性プラスミド上にあるので、Redリコンビナーゼは、細菌を42℃で成長させることによって除去され得る。
【0045】
陽性クローンの選択を向上させるために、マーカー遺伝子が導入され、その後、陽性クローンが確認された後に除去され得る。1つの方法では、フリッパーゼ認識シグナルが、挿入された遺伝子の下流にクローニングされた抗生物質遺伝子などのマーカー遺伝子に隣接するように導入される。次に、遺伝子挿入に用いられたPCR生成物はマーカー遺伝子を包含するであろう。組換えイベントが起こった後に、マーカー遺伝子は陽性クローンの選択に用いられ得る。ひとたび陽性クローンが確認されると、フリッパーゼ発現が細菌に導入されて、2つのフリッパーゼ認識部位間のマーカー遺伝子を除去する。この種の挿入は、挿入部位においてフリッパーゼ認識配列を含有する痕跡でマークされる。欠失したGor遺伝子上にMet遺伝子を挿入することによってGor/Met大腸菌株を作出するためにこの方法が用いられ、これは下の実施例2に記載されている。
【0046】
Redリコンビニアリングと組み合わせられるとき、大腸菌においてCRISPR技術を用いることができる。CRISPRによって支援されるredリコンビニアリングでは、2つのプラスミドおよび1つのオリゴが利用される。1つのプラスミドは構成的に発現されるRedリコンビナーゼおよびCas9プロテアーゼをコードする。もう1つは、挿入部位がクローニングされたCRISPRガイドRNAをコードする。これらの2つのプラスミドは2つの適合可能な複製起点を有する。オリゴは、挿入部位配列に隣接した関心対象の遺伝子を含有するように作られる。大腸菌細胞はこれらの3つのエレメントによって形質転換され、生残コロニーは、挿入された遺伝子を有するものであるはずである:Cas9プロテアーゼはCRISPRガイドRNAと結合して挿入部位を走査するであろう。ひとたび挿入部位が位置付けられると、Cas9はその二本鎖DNAを切断して、切断部位とオリゴとの間において関心対象のタンパク質により相同組換えを行うようにredリコンビナーゼを機能させることを可能にするであろう。元の配列を有するこれらのコロニーは認識され、抹消されるであろう。関心対象の遺伝子を有するもののみが生残するであろう。CRISPRによって支援されるRedリコンビニアリングは65%の成功率を有し、残りの35%は挿入部位を位置付けるためのCas9の失敗から来る。したがって、陽性クローンのスクリーニングは迅速かつ単純である。
【0047】
実施例2.N末端メチオニンなしの組換えタンパク質の細胞質発現のための遺伝子置き換えを有する大腸菌細胞株の構築
大腸菌細胞株BL21 Gor-の構築は米国特許第10,093,704号および第10,597,664号に記載されている。記載されている株は、タンパク質が、適切に折りたたまれたジスルフィド結合によりかつ高レベルで細胞質発現されるように、欠失したGor遺伝子と酸化的な細胞質とを有する。これらの株に対し、追加の大腸菌MAP遺伝子をGor遺伝子座位に挿入し、新たな株をGor/Met大腸菌と称した。MAP遺伝子の発現がIPTG追加のタイミングによって制御され得るように、Tacプロモーター(Lacオペレーターを有する)をMAP遺伝子の上流に付加した。これは次の通り達成された:追加の大腸菌MAP遺伝子を相同組換えによってゲノム中に挿入した。Gor/Met細胞の例では、redリコンビナーゼ系を用いて、BL21 Gor-細胞におけるGor座位へのMAP遺伝子の挿入を助けた。MAP遺伝子をBL21 Gor-ゲノムからPCR増幅し、Tacプロモーターの制御下に置いた。次に、該遺伝子を、2つの短いフリッパーゼ認識標的(FRT)配列に隣接したクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子の下流にクローニングした。MAPおよびCAT遺伝子は一緒になって移入遺伝子カセットを形成した。PCRを用いて、元のGor座位の上流および下流の隣接配列の各50塩基をそれぞれ移入カセット上流および下流に導入した。最終的なPCR生成物を用いて、Redリコンビナーゼによって先に形質転換されたBL21 Gor-細胞に形質転換した。細胞におけるRedリコンビナーゼの発現は、移入カセットの配列とのGor座位に隣接する配列の相同組換えを加速させた。クロラムフェニコールに耐性である細菌コロニーが移入カセット挿入を有することを確認した。続いて、確認された細菌を、その発現がCAT遺伝子に隣接するFRT配列を認識しかつ該遺伝子を切り取ってMAPは挿入されたままにするフリッパーゼ遺伝子で、形質転換した。したがって、Gor/Met細胞株は、ゲノムの他の箇所を乱すことなしに、Gor座位に挿入されたMAP遺伝子を有する。この細胞株は寄託株であり、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託番号PTA-126975として2021年2月9日に寄託された。Gor座位に隣接するように設計されたプライマーを用いるシーケンシングの結果により、MAP遺伝子の挿入成功を確認した。
【0048】
菌株の機能性を実証するために、いくつかの遺伝子をBL21 Gor/Met細胞において発現させ、N末端メチオニンを効率的に切断して天然のタンパク質を生成することを確認した。
【0049】
実施例3.Gor/Met大腸菌におけるCRM197の発現
CRM197は、単一アミノ酸置換G52Eを含有する、ジフテリア毒素の酵素的に不活性なかつ非毒性の形態である。DTのように、CRM197は2つのジスルフィド結合を有する。1つのジスルフィドがCys186をCys201に繋ぎ、断片Aを断片Bに連結する。第2のジスルフィド架橋部は断片B内のCys461をCys471に繋ぐ。CRM197は炭水化物-、ペプチド-、およびハプテン-タンパク質コンジュゲートの担体タンパク質として一般に用いられる。担体タンパク質として、CRM197はジフテリアトキソイドおよび他のトキソイド化されたタンパク質と比べていくつかの利点を有する。
【0050】
CRM197は、元のホストであるコリネバクテリウム(倍加時間が数分ではなく数時間である、ゆっくりと成長する細菌である)において生成されているが、収量は低く、典型的には<50mg/Lである。コリネバクテリウム株はCRM197をより高レベルで生成するように操作されている(例えば、米国特許第5,614,382号を参照されたい)。CRM197はシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)の株においてもまた高レベルで発現されている。しかしながら、BL1安全性レベルにありかつ培養および増殖が安価である株におけるCRM197の生成が有利であろう。BL21 Gor-株における可溶性の適切に折りたたまれた細胞内CRM197の発現は成功であり、発酵器細胞培養物1リットルあたり>2g CRM197であった。しかしながら、生成されたCRM197の大半はN末端f-メチオニンを有することが見出された。tacプロモーターを有するCRM197遺伝子をGor/Met大腸菌株にクローニングした(例えば、gor-株については米国特許第10,093,704号および第10,597,664号を参照されたい)。したがって、MAP遺伝子および組換えCRM197遺伝子の両方が同じtacプロモーターの制御下にあり、IPTG誘導の際に同時に発現されることができた。
【0051】
BL21 Gor-およびBL21 Gor/Met大腸菌におけるCRM197の発現を比較した。類似の収量である約2g/Lが両方の株で見出され、このことは、MAP遺伝子の共発現がCRM197の発現に有意に影響しないということを示した。BL21 Gor-およびBL21 Gor/Met株から精製されたCRM197をMALDI-TOF質量分析によって分析し、結果を表1にまとめた。ロットNO21p114はGor-株で発現され、ロットNO21p221はGor/Met株で発現された。BL21 Gor-において発現されたCRM197はN末端Metを含有していた一方、Gor/Met大腸菌において発現されたCRM197は含有しておらず、これにより、本発明において記載される方法が成功であることを実証した。
【0052】
(表1)減少しなかったCRM197(n=3、1SD)
【0053】
実施例4.Gor/Met株におけるエプスタイン・バーウイルスからのサイトカインIL10の発現。
エプスタイン・バーウイルスに由来するIL10遺伝子をクローニングし、Gor/Met大腸菌において可溶性の細胞内タンパク質として発現させた。精製を容易化するため、金属アフィニティータグをC末端上に含めた。IMACおよびイオン交換クロマトグラフィーによって精製されたIL10を質量分析に供して、N末端ペプチドの配列を決定した。トリプシンによる酵素消化後に、試料をLC-MS/MSによって分析し、該タンパク質がN末端メチオニンを有さないということを見出した。
【0054】
この手法は次のプロトコールを用いて実施した:試料をトリプシンによって消化し、Proxeon 1200 nanoLC(Proxeon Biosystems)に接続されたLTQ Orbitrap Velos(ThermoFisher Scientific、ブレーメン、ドイツ)によるLC-MS/MSによって分析した。クロマトグラフィーを、長さ15cmの75μm i.d. Self-Pack PicoFrit溶融シリカキャピラリーカラム(New Objective、ウオバーン、MA)で行った。固定相は逆相C18 Jupiterカラム(5μm、300Å)(Phenomenex、トランス、CA)であった。質量解像度を、MSモードでの親質量決定では30 000に、MS/MSモードでの断片化スペクトルの取得では7 500に設定した。LC-MS/MSランの間に得られたMS/MSスペクトルを、予想タンパク質配列に対するMascot検索に付した。カルバミドメチル(C)をFixed modifications(固定された修飾)として選択し、酸化(M)をVariable modifications(可変的な修飾)として選択した。目的は、第1のトリプシン切断に対応するペプチドを消化溶液からリトリーブすることであった。サブミットされた配列上のこのペプチドは位置13にアルギニンを包含するであろう。メチオニンがN末端に存在した場合には、結果は、アミノ酸配列1~13(MTDQCDNFPQMLR;SEQ ID NO: 1)であり、メチオニンが不在であった場合には、結果は、アミノ酸配列2~13(TDQCDNFPQMLR;SEQ ID NO: 2)であったであろう。
【0055】
(表2)
【0056】
表2の下線付きかつ太字のアミノ酸は、MascotによってMS/MSシーケンシングデータから同定された配列を特定している。これは、イオンが2~13配列(N末端にメチオニンなし)を確認したことが見出されたということと、1~13配列(N末端にメチオニンあり)のイオンは見出されなかったということとを意味する。
【0057】
2~13配列(N末端のメチオニンなし)は、MSトレース中の次のイオン:762.8m/z(+2)、508.9m/z(+3)、770.8m/z(+2)の存在と、MS/MSトレースからのそれらの対応する断片化パターンとによって確認された。3つの同定されたイオンは全てアルキル化システインを含有するが、770.8m/zのイオンは酸化メチオニンもまた含有する(サブミットされた配列上の位置11)。結論として、Gor/Metにおいて発現されたIL10はN末端メチオニンなしで生成されていた。
【0058】
実施例4.Gor/Met大腸菌における遺伝学的に無毒化された破傷風毒素(8MTT)の発現
破傷風毒素はヒトにとって最も強い毒素の1つとして公知であり、痙縮性毒素またはTeNTと称される。この毒素のLD50はおよそ2.5~3ng/kgであると測定されている。破傷風毒素は、通常は土壌中に見出される嫌気性桿菌である破傷風菌(Clostridium tetani)によって単一ポリペプチド鎖として生成され、これが翻訳後にトリプシン様プロテアーゼによって2本の鎖へと切断され、活性タンパク質を形成する。50kDaドメインの軽鎖(LC)はN末端エンドペプチダーゼを含有し、重鎖(HC)は50kDa受容体結合ドメインをC末端(HCC)に含有し、50kDa LC移行ドメインがN末端(HCN)に位置付けられる。2本の鎖は単一のジスルフィド結合によって接続されている。破傷風毒素は、重鎖のC末端ドメイン(HCC)を介してそれらの表面上のガングリオシドおよびシナプスタンパク質に結合することによって、末梢運動ニューロンに進入する。毒素は、中枢神経系の介在ニューロンの細胞体およびシナプスを通り、トランスサイトーシスして、シナプス小胞の抑制性ニューロンに進入する。抑制性ニューロンでは、重鎖の移行ドメイン(HCN)は、pHによって媒介される立体構造変化を受け、シナプス小胞の膜を介してLCを細胞質に輸送し、ここでLCは細胞のサイトゾル内に放出されて小胞の可溶性NSF結合タンパク質受容体(SNARE)である小胞関連膜タンパク質2(VAMP2)を切断する。抑制性ニューロンにおけるVAMP2切断は、神経伝達物質のエキソサイトーシスを阻止し、このことが神経筋シナプス機能の阻害因子の放出を妨げ、継続した神経筋活性化および痙性麻痺に至る。
【0059】
毒素をホルムアルデヒドによって処置することによって形成される、化学的に不活性化された破傷風トキソイド(TTxd)が、破傷風に対する有効なワクチンとして用いられる。TTxdは多糖抗原のためのコンジュゲートワクチン担体としても用いられる。担体タンパク質としてTTxdを用いるコンジュゲートワクチンは、インフルエンザ菌b型および髄膜炎菌に対するワクチンを包含する。しかしながら、TTxdは、コンジュゲートに用いられる、トキソイド化プロセスによって阻止されたアミンを多く有している。さらに、TTxdは不均質な生成物であり、クロストリジウムおよび培地混入物と共に凝集体を含有する。TTxdワクチンは、コンジュゲートワクチンでの使用のためにさらに精製される必要がある。より重要なことに、クロストリジウムからのTTの生成および精製は、時間とコストがかかる。大腸菌のような低コストのホストで生成される、遺伝学的に不活性化された均質な組換え破傷風毒素が望ましいであろう。
【0060】
ワクチンまたは担体タンパク質としての不活性化された組換えTTタンパク質を生成する様々な戦略が検討されている。1つは重鎖断片(TTHC)の使用である。もう1つは、遺伝学的に不活性化された破傷風毒素の使用である(米国特許出願公開第2020/03841201号)。TTHCはTTの一部であり、触媒ドメインを持っていない。TTHCサブユニットワクチンに対する中和抗体は全長トキソイドワクチン抗体よりも高性能であることが主張された。TTHCはBL21 Gor-系において高レベル(>400mg/L)で発現された(例えば、米国特許第10,597,664号および10,093,704号を参照されたい)。
【0061】
8MTTは遺伝学的に無毒化された破傷風毒素(TT)であり、8つのアミノ酸変異を有する。破傷風毒素のように、8MTTは5つのジスルフィド結合を有する。LD50は、天然のTTの五千万分の一を下回る毒性を有する。8MTTワクチン接種は、強い免疫応答のIgG抗体応答をマウスにおいて誘起し、新たな破傷風ワクチンのリード候補であり、かつ、広く用いられているCRM197に類似した、コンジュゲートワクチン担体タンパク質として用いられるための多大な能力を有する。8MTTは元はpET28発現ベクター内にクローニングされ、精製を容易化するために取り付けられたHisタグと共にBL21(DE3)細胞において発現された。発現は振盪フラスコにおいて約10mg/リットルであった。タグなしかつN末端メチオニンなしのタンパク質を生成するために、8MTT遺伝子を、tacプロモーター(lacオペレーターを有する)およびT7ターミネーターを有する発現ベクター内にサブクローニングし、次に流加発酵器においてBL21 Gor/Met細胞内で発現させた。発現されたM8TTタンパク質は可溶性であることが見出され、リットルあたり500mg超で精製され得た。アニオン交換カラム、HICカラム、およびTFFダイアフィルトレーション/濃縮の組み合わせを用いて、M8TTを99%超の純度で精製した。精製されたM8TTをMALDI-ISD(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-インソース分解)によって分析して、末端断片化を得た。ISDはN末端断片のラダーの同定を可能にする、配列がN末端メチオニンを有さず、配列の第1の残基が予想されるプロリンであるということを確認した。したがって、Gor/Met大腸菌株はN末端メチオニンなしの大量の可溶性のM8TTを効率的に発現した。
【0062】
実施例5.N末端セリンを有するCRM197変異体
N末端セリンを含有するCRM197遺伝子(CRM-Ser)をGor/Met大腸菌株にクローニングし、バイオリアクターで成長および発現させた。発酵条件のいかなる最適化もなしに、>1g/Lの可溶性CRM-Serが発現され、これにより、該タンパク質の発現が優れていることが示された。細胞を採取し、CRM-Serを精製した。実施例4に記載される通り、CRM-SerをMALDI-ISDによって分析した。ISDにより、N末端断片のラダーの同定が可能になり、かつ、配列がN末端メチオニンを有さないこと、および、配列の第1の残基が予想されたセリンであることが、確認された。したがって、Gor/Met大腸菌株は、N末端メチオニンなしの可溶性CRM-Serを大量に効率的に発現した。セリンは選択的に酸化され、コンジュゲートに用いられ得る。
【0063】
実施例6:細菌ゲノムに挿入するための可能なMAP遺伝子。
MAPによるN末端メチオニンの除去は、タンパク質の適切な機能および安定性にとって重要であり得る。固有のMAPが活性であるにもかかわらず、大腸菌において発現される組換えタンパク質の大多数はN末端のメチオニン開始コドンを有したままである。過剰発現された組換えタンパク質が生成されるときには、不十分なMAPまたはその補因子が存在する可能性がある。組換えタンパク質におけるN末端メチオニンのプロセシングを確実にするために、必要なときにメチオニン切断プロセスを容易化するため、追加のMAP遺伝子が、強い誘導性プロモーター下に挿入される。
【0064】
1.大腸菌MAP遺伝子
Gor/Met細胞は、細菌ゲノム中の、発現ベクター上の組換え遺伝子のものと同じ誘導性プロモーター下における、追加の大腸菌MAP遺伝子を挿入するための一例である。誘導されないときには、このMAP遺伝子はサイレントなままであり、細菌は追加の遺伝子発現の負荷なしに増殖する。組換えタンパク質のみが発現されるように誘導され、追加のMAPタンパク質もまた誘導されるので、MAPタンパク質は必要に応じてオンにされるように設計され得る。この系の潜在的欠点は、N末端メチオニンを有する全てのタンパク質を大腸菌MAPによって効率的に切断できるわけではないということである。大腸菌MAPは、小さいアミノ酸(G、A、S、C、P、T、V)(P1’位置)がN末端メチオニンに隣接しているときに働く。好ましくは、アミノ酸のP2’位置(P1に対してC末端のアミノ酸)はプロリンではない。N末端メチオニンの隣に嵩高いアミノ酸を有するタンパク質をプロセシングするために、異なるP1およびP2アミノ酸要件を有する他のMAP遺伝子を代わりに挿入してもよい。
【0065】
2.異なる誘導性プロモーター中のタンデムな2つの異なるMAP遺伝子
酵母遺伝子は2つのMAP遺伝子によってプロセシングされる。酵母MAP1およびMAP2は、インビボで同じ基質に対して異なる切断効率を見せる。両方のMAPは、第2の残基がVであるときにはより効率的でなく、MAP2は、第2の残基がG、C、またはTであるときにはMAP1よりも効率的でなかった。ヒトもまた、2つのMAPであるMAP1およびMAP2を有する。それらは両方とも、A、C、G、P、またはSをP1’位置に含有するタンパク質をプロセシングし得る。P1’残基がTまたはVであるときには、N末端Met除去は主としてMAP2によって触媒され、切断の程度はP2’~P5’位置の配列に依存する。P2’残基がA、G、およびPではないときには、N末端プロセシングは完全であることが予想される。A、G、またはPがP2’残基であるときには、メチオニン除去は不完全であるかまたは起こっていない。異なるMAPは異なる基質特異性を有するので、異なるまたは同じ種からの2つ以上のMAP遺伝子は、より多くの組換えタンパク質からのメチオニン除去プロセシングをカバーすることが可能である。2つのMAP遺伝子が必要に応じて異なる時間においてオンになる、または1つはオンに/1つはオフになり得るように、遺伝子転写を制御する(例えば誘導性の)プロモーターは異なってよい。
【0066】
3.後続のアミノ酸についての制約なしに全てのN末端メチオニンを切断することができる変異MAT遺伝子を挿入する。
現行のMAPは一部のタンパク質のN末端構造には不都合であり、それらのN末端メチオニンの除去を触媒しないであろう。開始メチオニンがMAPによってプロセシングされるかどうかを予測する普遍的規則は、P1’位置のアミノ酸のサイズに基づく。一般的に、アミノ残基が1.29Å以下の回転半径を有する場合には、メチオニンは切断される。ヒトMAPでは、P2’およびP5’位置に酸性残基を有する基質についてのさらによりストリンジェントな要件を有する。既存のMAPの基質特異性を拡張するために、タンパク質データベースにリスト化されたタンパク質上のN末端メチオニンの85~90%をその生成物が切断できるように大腸菌MAP遺伝子を変異させた。このMAPはその基質結合ポケットに3つの変異を有し、したがって、小さいアミノ酸のみならず嵩高いまたは酸性のアミノ酸(例えば、P2’位置のM、H、D、N、E、Q、L、I、Y、およびW)を有するタンパク質からのN末端メチオニンの除去を可能にする。これらの酵素は、P2’位置のアミノ酸残基が小さい場合にもP1’位置のアミノ酸を切断できる。このMAP遺伝子の挿入は、より幅広いN末端構造を有するタンパク質をプロセシングする。再び、この強力な変異体遺伝子発現の活性を制御するために誘導性プロモーターを付加することが有益であろう。
【0067】
実施例7:Gor/Met細胞株においてジスルフィド結合なしに生成されることができるタンパク質
N末端メチオニンなしのジスルフィド結合タンパク質を発現するためのGor/Met細胞株が開発されたが、ジスルフィド結合なしのタンパク質をGor/Met細胞においてN末端メチオニンなしで発現させることができる。これらのタンパク質は大腸菌においてMetありでも発現され得るが、必ずしもgor-でなくてもよい。そのようなタンパク質の例はスタフィロコッカスタンパク質A(SPA)であり、これは抗体精製に広く用いられる。SPAは、元は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)細菌の細胞壁に見出された42kDaタンパク質である。このタンパク質は、多くの哺乳動物種からのタンパク質に、特にIgGに結合し得る5つの相同なIg結合ドメインからなり、かつ、ほとんどの免疫グロブリンのFc領域内およびヒトVH3ファミリーのFab領域内において重鎖に結合する。SPAはいかなるジスルフィド結合も含有しない。商業的には、SPAは、以下の2つの供給源に由来する:SPAが分泌される病変を細胞壁に含有する、黄色ブドウ球菌変異体株(Sigma)、組換えタンパク質としてSPAを細胞内または細胞外で発現する、大腸菌(Sigma-Aldrich、SinoBiological、ThermoFisher、およびDeNovo Biopharma、その他)。SPA生成はピキア・パストリス(Pichia pastoris)において高レベルであり得る。SPAの大半は大腸菌の細胞内で発現される。成熟SPA配列はメチオニンではなくアラニンから始まるので、SPAが細胞内で生成されるためには、メチオニンは、N末端において該遺伝子に付加される必要があるか、または、インビトロで成熟タンパク質を放出するために切断可能な融合タンパク質のC末端において発現される必要がある。前者は成熟タンパク質の真の形態ではなく、後者は費用効果と時間効率が高くない。
【0068】
SPAの発現は、誘導性のMAP遺伝子挿入を有する本明細書において開示される細菌株において効率的である。SPAは大腸菌株において多量に発現され、Gor/Met細胞株内と同様に機能し、MAP細胞株においてもまた発現され得る。他の細胞株と比べてMAP細胞株を用いる利点とは、f-メチオニンを思いのままに切断できることである。MAP遺伝子の誘導性プロモーターは、SPAが発現されるのと同時に、またはその後いつでも、計画的に発現され得る。N末端メチオニンを除去するためのインビトロ操作は必要ではない。
【0069】
本発明の他の態様および使用は、本明細書において開示される本発明の明細書および実施を考慮すれば、当業者には明らかであろう。全ての公開公報、米国および外国の特許および特許出願を包含する本明細書において引用される全ての参照は、具体的にかつ全体的に、参照によって組み入れられる。含むという用語は、どこで用いられても、~からなるという用語、および本質的に~からなるという用語を包含することが意図される。さらに、含む、包含する、および含有するという用語は、限定を意図しない。本明細書および例は例示のみと見なされ、本発明の真の範囲および趣旨は添付の特許請求の範囲によって示されることが、意図されている。
【配列表】
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