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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】遺体の孔部の封止方法
(51)【国際特許分類】
   A61G 17/06 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
A61G17/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023060129
(22)【出願日】2023-04-03
(62)【分割の表示】P 2022001907の分割
【原出願日】2020-06-24
(65)【公開番号】P2023086760
(43)【公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2019152980
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500329906
【氏名又は名称】西原 梨沙
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【弁理士】
【氏名又は名称】有川 智章
(72)【発明者】
【氏名】西原 梨沙
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-182445(JP,A)
【文献】特開2007-223996(JP,A)
【文献】特開2006-311913(JP,A)
【文献】特開2007-023011(JP,A)
【文献】登録実用新案第3159483(JP,U)
【文献】国際公開第2011/163545(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺体の孔部を封止する封止方法であって、
アルコール類、エーテル類及びエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む粘液基材中に、吸水して膨張する吸水性樹脂が分散してなるゼリー状の体液漏出防止剤が収容され、上記体液漏出防止剤を絞り出す際に変形し易いように柔軟性を有する柔軟性袋体と、柔軟に変形可能なクッション体と、上記遺体に接着する接着面を有するカバー部材とを用意し、
上記柔軟性袋体を絞って上記体液漏出防止剤を上記柔軟性袋体から出して、上記クッション体の塗布面に塗布し、
上記体液漏出防止剤が塗布された上記クッション体を上記孔部に挿入し、
その後、上記クッション体を挿入した上記孔部を覆い隠すように上記カバー部材を被せ、上記カバー部材の上記接着面を上記遺体の孔部の周りに接着することを特徴とする遺体の孔部の封止方法。
【請求項2】
請求項1記載の遺体の孔部の封止方法において、
上記柔軟性袋体が柔軟なチューブであり、このチューブを絞りつぶすことで、上記体液漏出防止剤が押し出される或は絞り出されるようになっていることを特徴とする遺体の孔部の封止方法。
【請求項3】
請求項2記載の遺体の孔部の封止方法において、
先に、上記体液漏出防止剤が塗布された上記クッション体を折り曲げるか、或いは、丸めた後、上記遺体の孔部に挿入し、
その後、上記クッション体を挿入した上記孔部を覆い隠すように上記カバー部材を被せ、上記カバー部材の上記接着面を上記遺体の孔部の周りに接着することを特徴とする遺体の孔部の封止方法。
【請求項4】
請求項2記載の遺体の孔部の封止方法において、
先に、上記クッション体を上記遺体の孔部に挿入した後、
上記カバー部材を被せる前に、上記クッション体を挿入した上記孔部を覆い隠すように別のクッション体を被せ、
上記別のクッション体と上記遺体の孔部とを覆い隠すように上記カバー部材を被せ、上記カバー部材の上記接着面を上記遺体の孔部の周りに接着することを特徴とする遺体の孔部の封止方法。
【請求項5】
請求項4に記載の遺体の孔部の封止方法において、
上記孔部を覆い隠すように被せた上記別のクッション体には、上記体液漏出防止剤が塗布されていることを特徴とする遺体の孔部の封止方法。
【請求項6】
請求項2に記載の遺体の孔部の封止方法において、
上記クッション体及び上記カバー部材は、それぞれ所定の大きさに分割可能に構成され、
上記クッション体を、上記孔部の大きさに合わせて分割する一方、上記カバー部材を、分割した上記クッション体よりも一回り大きな寸法となるよう分割した後、上記クッション体の分割体と上記カバー部材の分割体とを用いて上記孔部を封止することを特徴とする遺体の孔部の封止方法。
【請求項7】
請求項3に記載の遺体の孔部の封止方法において、
上記遺体の孔部が気管切開部であることを特徴とする遺体の孔部の封止方法。
【請求項8】
請求項3に記載の遺体の孔部の封止方法において、
上記遺体の孔部がペースメーカ抜去後の孔であることを特徴とする遺体の孔部の封止方法。
【請求項9】
請求項3に記載の遺体の孔部の封止方法において、
上記遺体に巻き付け可能な巻き部材を用意し、
当該巻き部材を、上記遺体に取り付けた上記カバー部材の全域を覆うように上記遺体に巻き付けて上記孔部を隠すことを特徴とする遺体の孔部の封止方法。
【請求項10】
請求項9に記載の遺体の孔部の封止方法において、
上記巻き部材は、疑似衣装であることを特徴とする遺体の孔部の封止方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1つに記載の遺体の孔部の封止方法において、
上記体液漏出防止剤は、高吸水性ポリマーが分散し、粘度が80,000mPa・S以上200,000mPa・S以下のゼリーからなることを特徴とする遺体の孔部の封止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体の喉に開けた気管孔や人工肛門、肛門、鼻腔、口腔等の孔部から体液等が漏出するのを防止するための封止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、遺体において、寝たきり等により発生した褥瘡部や外傷部等の損傷部からの体液等の漏れ又は喉に開けた気管孔や人工肛門、肛門、鼻腔、口腔等からの体液等の漏れ、即ち遺漏が生じると、当該遺漏を起因としたウイルスや細菌等の病原菌による周囲の汚染や当該病原菌の周囲への感染、さらには、異臭の発生が問題となっていた。
【0003】
これに対応するために、遺体表面の傷口(損傷部)から血液や体液が漏出するのを防止するパッチを遺体表面に貼ることが知られている。例えば、特許文献1のパッチは、粘着剤層を有する透明フィルム層と肌色フィルム層とを透明剥離シートを介して密着させた多層構造体からなるプラスチックフィルムと、該プラスチックフィルムの粘着剤層側を覆う剥離紙とにより構成され、粘着剤面には、高さ1mm以上の突条の円形に延びる周回バンクが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-311913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、パッチの周回バンクが壁となって遺漏する体液等が周回バンクの外側に溢れ出るのを阻止しているだけであり、体液等が多量に遺漏する場合や、遺体の表面が複雑な凸凹形状である場合等においては、体液等の外部への漏出を確実に防止できないおそれがある。
【0006】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、遺体の体液等の外部への漏出を効果的に防止できる、遺体の孔部の封止方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、吸水性樹脂が分散してなる体液漏出防止剤、クッション体及びカバー部材の3つを用いて、体液等が遺体の孔部から外部に漏出しないよう工夫を凝らしたことを特徴とする。
【0008】
具体的には、遺体の孔部を封止する封止方法を対象とし、次のような対策を講じた。
【0009】
すなわち、第1の発明では、アルコール類、エーテル類及びエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む粘液基材中に、吸水して膨張する吸水性樹脂が分散してなるゼリー状の体液漏出防止剤が収容され、上記体液漏出防止剤を絞り出す際に変形し易いように柔軟性を有する柔軟性袋体と、柔軟に変形可能なクッション体と、上記遺体に接着する接着面を有するカバー部材とを用意し、上記柔軟性袋体を絞って上記体液漏出防止剤を上記柔軟性袋体から出して、上記クッション体の塗布面に塗布し、上記体液漏出防止剤が塗布された上記クッション体を上記孔部に挿入し、その後、上記クッション体を挿入した上記孔部を覆い隠すように上記カバー部材を被せ、上記カバー部材の上記接着面を上記遺体の孔部の周りに接着することを特徴とする。
【0010】
また、遺体の孔部とは、直接喉に開けた流動食用の孔や気管孔、腹腔鏡手術等のために腹部に開けた孔や管を通して直接腸に栄養を注入するために腹部に開けた孔、またはペースメーカを抜いた孔、カテーテル抜去痕や人工肛門用の開口孔等のように人体に開けた孔、体液が漏出する可能性のある遺体の孔部分、例えば口腔、鼻腔、咽喉部、耳孔、肛門、女性の膣等を含む。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、上記柔軟性袋体が柔軟なチューブであり、このチューブを絞りつぶすことで、上記体液漏出防止剤が押し出される或は絞り出されるようになっていることを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、先に、上記体液漏出防止剤が塗布された上記クッション体を折り曲げるか、或いは、丸めた後、上記遺体の孔部に挿入し、その後、上記クッション体を挿入した上記孔部を覆い隠すように上記カバー部材を被せ、上記カバー部材の上記接着面を上記遺体の孔部の周りに接着することを特徴とする。
【0013】
第4の発明は、第2の発明において、先に、上記クッション体を上記遺体の孔部に挿入した後、上記カバー部材を被せる前に、上記クッション体を挿入した上記孔部を覆い隠すように別のクッション体を被せ、上記別のクッション体と上記遺体の孔部とを覆い隠すように上記カバー部材を被せ、上記カバー部材の上記接着面を上記遺体の孔部の周りに接着することを特徴とする。
【0014】
第5の発明は、第4の発明において、上記孔部を覆い隠すように被せた上記別のクッション体には、上記体液漏出防止剤が塗布されていることを特徴とする。
【0015】
第6の発明は、第2の発明において、上記クッション体及び上記カバー部材は、それぞれ所定の大きさに分割可能に構成され、上記クッション体を、上記孔部の大きさに合わせて分割する一方、上記カバー部材を、分割した上記クッション体よりも一回り大きな寸法となるよう分割した後、上記クッション体の分割体と上記カバー部材の分割体とを用いて上記孔部を封止することを特徴とする。
【0016】
第7の発明は、第3の発明において、上記遺体の孔部が気管切開部であることを特徴とする。
【0017】
第8の発明は、第3の発明において、上記遺体の孔部がペースメーカ抜去後の孔であることを特徴とする。
【0018】
第9の発明は、第3の発明において、上記遺体に巻き付け可能な巻き部材を用意し、当該巻き部材を、上記遺体に取り付けた上記カバー部材の全域を覆うように上記遺体に巻き付けて上記孔部を隠すことを特徴とする。
【0019】
第10の発明は、第9の発明において、上記巻き部材は、疑似衣装であることを特徴とする。
【0020】
第11の発明は、第1から第10のいずれか1つの発明において、上記体液漏出防止剤は、高吸水性ポリマーが分散し、粘度が80,000mPa・S以上200,000mPa・S以下のゼリーからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によると、吸水性樹脂が分散してなる体液漏出防止剤、クッション体及びカバー部材の3つを使用して遺体の孔部を封止するようにしたので、孔部から漏出する体液等を体液漏出防止剤が吸収するとともに、体液漏出防止剤が塗布されたクッション体をカバー部材が覆うことによって体液が外部に漏れ出ることを確実に防止することができるようになり、単にシート等で覆い隠す方法に比べて遺体の孔部を確実に封止することができる。
【0022】
また、遺体の孔部に当てた体液漏出防止剤が孔部から漏出する体液等を吸収して膨張するだけでなく、孔部の形状に対応するクッション体が体液漏出防止剤を覆うとともに、さらにこのクッション体をカバー部材が覆った状態になるので、体液等が遺体の外部へ漏れ出るのを確実に防止することができる。
【0023】
また、体液漏出防止剤をクッション体に塗布した後、遺体の孔部にクッション体を当てるので、体液漏出防止剤をクッション体からはみ出ないように塗布することができる。
【0024】
また、体液漏出防止剤が塗布されたクッション体が遺体の孔部に対応した大きさで当該孔部を塞ぐようになるので、遺体の孔部とクッション体との間における遺体の体液等が通過する隙間を無くすことができる。
【0025】
また、体液漏出防止剤を出して該孔部に当てて、その後、体液漏出防止剤に向けてクッション体を当てるので、孔部の必要な部分に必要な量だけ体液漏出防止剤を当てることができる。また、体液漏出防止剤が孔部に直接接触するので、当該孔部から漏れ出る体液を体液漏出防止剤が直接吸収し易くなり、遺体から漏出する体液を素早く吸収することができる。
【0026】
また、カバー部材の中央部分にクッション体が貼り付いているので、カバー部材に対してクッション体をずれない状態にしながらカバー部材を遺体に取り付けることができる。また、接着フィルムの外周部分が遺体における孔部周りに密着するので、カバー部材と遺体との間の隙間を無くして孔部を確実かつ簡単に封止することができる。
【0027】
また、クッション体及びカバー部材を孔部の大きさや形状に対応させることができるので、クッション体及びカバー部材をそれぞれ必要最小限の量だけ使用することができる。
【0028】
また、遺体の孔部を覆うためのクッション体が予めカバー部材と一体になっているので、作業者によるクッション体とカバー部材とを一体にする作業が無くなり、孔部の封止作業を簡単に行うことができる。
【0029】
また、遺体の孔部の処理を行った領域が巻き部材により見えなくなるので、遺体の処理後における見た目を良くすることができる。
【0030】
また、疑似衣装によって孔部を違和感なく隠すことができる。
【0031】
また、孔部が複雑な形状であっても、包帯によってクッション体及びカバー部材が遺体に密着するようになるので、該孔部からの体液の漏出を確実に封止できる。
【0032】
また、遺体の孔部に当てたクッション体に向けて体液漏出防止剤を流すので、体液漏出防止剤を孔部以外に拡げてしまったり、或いは、体液漏出防止剤が孔部の奥側に入り込んでしまうのを防止することができる。
【0033】
また、高吸収性ポリマーが分散していて、かつ粘度が80,000mPa・S以上かつ200,000mPa・S以下であるから、体液漏出防止剤が垂れることを防止でき、かつ体液漏出防止剤が柔軟性袋体から出難くなることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】遺体の損傷部の一例として臀部の褥瘡部を示す概略図である。
図2A】本発明の実施形態1に係る遺体の損傷部又は孔部の封止方法にて遺体の臀部の褥瘡部を封止する際に用いる体液漏出防止剤が収容された柔軟性袋体の概略図である。
図2B】本発明の実施形態1に係る遺体の損傷部又は孔部の封止方法にて遺体の臀部の褥瘡部を封止する際に用いるクッション体の概略図である。
図2C】本発明の実施形態1に係る遺体の損傷部又は孔部の封止方法にて遺体の臀部の褥瘡部を封止する際に用いる貼付けシートの概略図である。
図3】実施形態1に係る方法を実施している状態を示す概略図であり、クッション体に体液漏出防止剤を塗布している状態を示す図である。
図4】実施形態1に係る方法を実施している状態を示す概略図であり、体液漏出防止剤を塗布したクッション体を遺体の褥瘡部に当てている状態を示す図である。
図5】実施形態1に係る方法を実施している状態を示す概略図であり、貼付けシートの剥離紙を剥がして接着面を露出させた状態を示す図である。
図6】実施形態1に係る方法を実施している状態を示す概略図であり、遺体の褥瘡部に被せたクッション体を覆うように貼付けシートを被せた状態を示す図である。
図7A】本発明の実施形態2の図2A相当図である。
図7B】本発明の実施形態2の図2B相当図である。
図7C】本発明の実施形態2の貼付けシートの平面図である。
図8A】本発明の実施形態2に係る遺体の損傷部又は孔部の封止方法にて遺体の喉に開けた孔部を封止する手順を示す概略図であり、クッション体に体液漏出防止剤を塗布している状態を示す図である。
図8B図8Aの後、体液漏出防止剤を塗布したクッション体を丸めるとともに喉の孔部に挿入している状態を示す図である。
図8C図8Bの後、体液漏出防止剤を塗布したクッション体及び貼付けシートを喉の孔部に当てている状態を示す図である。
図8D図8Cの後、伊達襟を遺体に巻きつけるとともに遺体に衣装を着させてクッション体及び貼付けシートが当てられた部分を隠している状態を示す図である。
図9A】本発明の実施形態3に係る遺体の損傷部又は孔部の封止方法にて遺体の頸部にできた外傷部を封止する手順を示す概略図であり、頸部にできた外傷部の封止作業を行う直前の状態を示す図である。
図9B図9Aの後、遺体の外傷部をクッション体及び貼付けシートで封止した直後の状態を示す図である。
図9C図9Bの後、伊達襟を遺体に巻きつけて外傷部の封止部分を隠した状態を示す図である。
図10A】本発明の実施形態4に係る遺体の損傷部又は孔部の封止方法にて遺体に形成されているペースメーカ抜去孔を封止する手順を示す概略図であり、体液漏出防止剤を塗布したクッション体を丸めてペースメーカ抜去孔に挿入する直前の状態を示す図である。
図10B図10Aの後、ペースメーカ抜去孔を縫って塞いだ直後の状態を示す図である。
図10C図10Bの後、縫合されたペースメーカ抜去孔に体液漏出防止剤が塗布されたクッション体を当てている状態を示す図である。
図10D図10Cの後、クッション体に貼付けシートを被せている状態を示す図である。
図11A】本発明の実施形態5に係る遺体の損傷部又は孔部の封止方法にて遺体の踵の外傷部を封止する手順を示す概略図であり、体液漏出防止剤が塗布されたクッション体を遺体の踵の外傷部に当てる直前の状態を示す図である。
図11B図11Aの後、クッション体に貼付けシートを被せている状態を示す図である。
図11C図11Bの後、包帯を踵に巻きつけて外傷部を隠した状態を示す図である。
図12A】本発明の実施形態6に係る遺体の損傷部又は孔部の封止方法にて遺体の咽喉部を封止する手順を示す概略図であり、遺体の咽喉部に柔軟性袋体の開口部を挿入するとともに当該袋体から体液漏出防止剤を絞り出している状態を示す図である。
図12B図12Aの後、丸めたクッション体を咽喉部に挿入した直後の状態を示す図である。
図12C図12Bの後、クッション体に貼付けシートを被せている状態を示す図である。
図13A】本発明の実施形態7に係る遺体の損傷部又は孔部の封止方法にて遺体の乳房にできたガン(乳がん損傷部)を封止する手順を示す概略図であり、乳がん損傷部の封止作業を行う直前の状態を示す図である。
図13B図13Aの後、クッション体を乳がん損傷部に当てて被せた状態を示す図である。
図13C図13Bの後、クッション体に更に別のクッション体を重ねている状態を示す図である。
図13D図13Cの後、重ねたクッション体に貼付けシートを被せるとともに遺体に貼り付けている状態を示す図である。
図14】本発明の実施形態8に係る要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0036】
(実施形態1)
図1から図6に基づいて、本発明の実施形態1に係る遺体の損傷部又は孔部の封止方法及びそれに用いる用品を説明する。
【0037】
実施形態1では、遺体Sの臀部Dの床ずれT1を封止する場合を示しており、体液漏出防止剤1と、該体液漏出防止剤1を収容する柔軟性袋体2と、遺体Sの床ずれT1を覆うクッション体4と、遺体Sに取り付け可能な貼付けシート5(カバー部材)とを用いて封止作業を行う。体液漏出防止剤1は、アルコール類、エーテル類及びエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む粘液基材中に、吸水性樹脂が分散してなるゼリー状のものであって、詳細な成分は後で説明する。
【0038】
図2に示すように、柔軟性袋体2は、周囲が密封され、任意の位置で破ることが可能なプラスチック等からなり、柔軟性を有し密閉性に優れた矩形状の非透水性の袋体からなる。例えば、100mm×100mmの矩形状で、内部に100gの体液漏出防止剤1が収容されている。図3に示すように、柔軟性袋体2の切り口2aを起点にして柔軟性袋体2の外周部分の一部を破って開口部3を形成する。開口部3が体液漏出防止剤1の出口として機能し、内部に収容された体液漏出防止剤1を開口部3から出すことができるようになっている。なお、切り口2aは、柔軟性袋体2を部分的に破りやすくなるように切れ目として設けられていればよく、どの部分に設けられていてもよい。
【0039】
クッション体4は、例えば、150mm×150mm×1mmの矩形状で、発泡ウレタン、ポリオレフィンフォーム、合成樹脂製スポンジ、ゴムスポンジ、不織布、ガーゼ等の透水性素材からなり、遺体の表面の凸凹に対応して柔軟に変形可能になっている。また、水分や体液等を吸収した体液漏出防止剤1が遺体Sの表面とクッション体4との間で膨張して遺体Sの表面とクッション体4との間の隙間を埋めることで、体液の外部への漏出を効果的に防止している。詳述すると、体液漏出防止剤1は、遺体から漏出する体液等の水分を吸収して膨張するので、例えば、遺体の体表面に凹凸があり、クッション体4の表面との間にわずかな隙間があっても、膨張した体液漏出防止剤1がこれらの隙間を埋めるようになるので、体液の外部への漏出を確実に防止できる。更に、体液漏出防止剤1がクッション体4に浸入して膨らむことで、体液の外部への漏出を確実に防止できる。
【0040】
貼付けシート5は、例えば、200mm×200mm×0.1mmの矩形状をなし、接着面6aを有するプラスチック製の非透水性の接着フィルム6と、接着フィルム6の接着面6aを覆う剥離紙7を有する。剥離紙7は、平面視で十文字に延びるミシン目7aが設けられ、このミシン目7aに沿って剥がし易くなっている。また、十文字に沿って貼付けシート5を切断すれば、半分の大きさ或いは四分の一の大きさで貼付けシート5を使用することもできる。接着フィルム6は肌色からなり、目立たないようになっている。
【0041】
次に、図1に示すように、遺体Sの損傷部Tの一例である臀部Dに生じた床ずれ(褥瘡部)T1を封止する封止方法について説明する。
【0042】
図1乃至図2Cに示すように、遺体Sの損傷部T又は孔部Uを封止する代表的な用品として、体液漏出防止剤1が収容された柔軟性袋体2と、遺体Sの床ずれT1を覆うクッション体4と、クッション体4よりも一回り大きく、剥離紙7及び一面に接着面6aを有する接着フィルム6を有する貼付けシート5とを用意する。これらの用品は、1つのパッケージ(図示省略)に収納されていることが好ましい。
【0043】
図2及び図3に示すように、柔軟性袋体2の一部を、切り口2aを起点にして切り裂く或いは手で引き破いて開口部3を形成し、その後、当該開口部3から柔軟性袋体2内の体液漏出防止剤1を押し出す或いは絞り出す等してクッション体4の塗布面4aに塗布する。
【0044】
そして図4に示すように、体液漏出防止剤1が塗布された塗布面4aを遺体Sの床ずれT1に向くようにした後、床ずれT1に体液漏出防止剤1が付着するようにクッション体4を被せる。
【0045】
次に図5に示すように、貼付けシート5から剥離紙7を剥がす。そして、図6に示すように、接着フィルム6の接着面6aをクッション体4の背面4b側から遺体Sに被せて、クッション体4の背面4bに接着するとともに、クッション体4よりも外周方向にはみ出た接着面6aを、遺体Sの表面における床ずれT1周りに貼り付け、床ずれT1を封止する。
【0046】
実施形態1では、床ずれT1から漏出する体液を体液漏出防止剤1が吸収して膨張するので、床ずれT1を体液漏出防止剤1が覆い隠すとともに、体液漏出防止剤1が遺体Sの表面とクッション体4の塗布面4aとの間に対応するように膨張して遺体Sの表面とクッション体4との間の隙間を埋めるので、体液等が貼付けシート5よりも外側に漏れ出るのを防止できる。
【0047】
また、体液漏出防止剤1は高吸収性ポリマーが分散したゼリーからなるので、遺体Sの床ずれT1が様々な方向に向いている場合であっても、クッション体4の塗布面4aに塗布した体液漏出防止剤1が垂れることがなくなり、遺体Sの床ずれT1に当てて体液の漏れを封止することができる。
【0048】
特に、遺体Sの床ずれT1の大きさや形状、床ずれT1等の表面の凸凹に応じて、体液漏出防止剤1が塗布されたクッション体4を床ずれT1に被せて貼付けシート5を貼り付ければよいので、誰でも容易に作業でき、体液等の漏出を確実に防止できる。
【0049】
また、作業する人が、遺体Sの床ずれT1の状態を見て体液が多く漏出しそうな部位かどうか等を予測して、クッション体4に塗布する体液漏出防止剤1を柔軟性袋体2から適度に調整して出せばよいので、作業を効率的に実行できる。また、遺体Sの床ずれT1に体液漏出防止剤1を直接塗布する或いは挿入してもよい。
【0050】
遺体Sの床ずれT1の領域が狭い場合には、クッション体4及び貼付けシート5をハサミ等の道具を使って適度な大きさに切断して使用すればよい。また、床ずれT1が大きい場合には、複数のクッション体4及び貼付けシート5を使用して、床ずれT1を覆うように貼り被せればよい。
【0051】
次に、体液漏出防止剤1の各成分の詳細を下記に説明する。
【0052】
体液漏出防止剤は、アルコール類、エーテル類及びエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む粘液基材中に、吸水性樹脂が分散してなるゼリー状からなるものであるものが好ましい。更に、カルボキシビニルポリマー、イオン性多糖類、ポリアクリル酸部分中和物の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0053】
(アルコール類)
アルコール類としては、体液漏出防止剤1の使用温度(例えば0℃以上40℃以下)で液状である親水性を有する各種のものを採用することができる。特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール、グリセリン等が挙げられる。このうちでは、吸水性樹脂の分散状態の安定性の点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類やグリセリンが好ましく、とりわけ取り扱いが容易であるエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びグリセリンが好ましい。
【0054】
(エーテル類及びエステル類)
エーテル類及びエステル類としては、上記使用温度で液状である親水性の化合物であれば使用できるが、特にポリオキシエチレンジメチルエーテル及びポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種を好適に用いることができる。ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルとしては、一般式R1COO(CH2CH2O)nCOR2で表され、R1及びR2は炭素数17以下のアルキル基が好ましい。ここで、R1及びR2は同一でも異なっていてもよい。ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルとしては、例えばジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレンジメチルエーテルが好ましい。また、エーテル類及びエステル類の重合度は、上記使用温度で液状となる重合度であればよく、特に限定されるものではない。
【0055】
(カルボキシビニルポリマー)
分散安定剤としてカルボキシビニルポリマーを含有することは好ましい。カルボキシビニルポリマーとしては、例えば、α,β-不飽和カルボン酸類と架橋剤であるエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物とを含む重合性材料を重合することで得られるα,β-不飽和カルボン酸類の架橋物が挙げられる。
【0056】
上述の重合性材料において用いられるα,β-不飽和カルボン酸類は、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸及びフマル酸等を挙げることができる。
【0057】
エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリオールの2置換以上のアクリル酸エステル類、ポリオールの2置換以上のアリルエーテル類、フタル酸ジアリル、リン酸トリアリル、メタクリル酸アリル、テトラアリルオキシエタン、トリアリルシアヌレート、アジピン酸ジビニル、クロトン酸ビニル、1,5-ヘキサジエン及びジビニルベンゼン等を挙げることができる。ここで、アクリル酸エステル類及びアリルエーテル類を形成するためのポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、サッカロース及びソルビトール等を挙げることができる。
【0058】
カルボキシビニルポリマーは、ラジカル重合開始剤の存在下において、不活性溶媒中で所定の重合性材料、例えば上述の重合性材料を重合させることで製造することができ、水分散性を有する。
【0059】
(吸水性樹脂)
吸水性樹脂としては、各種のものを採用することができ、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸塩重合体の架橋物、澱粉-アクリル酸塩グラフト共重合体の加水分解生成物の架橋物、ビニルアルコール-アクリル酸塩共重合体の架橋物、無水マレイン酸グラフトポリビニルアルコールの架橋物、架橋イソブチレン-無水マレイン酸共重合体、及び酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体のケン化物等が挙げられる。このうち、大量の液体を吸収して水不溶性ゼリー状物を形成することができ、多少の荷重をかけても吸収した液体を分子内に安定に保持可能なアクリル酸塩重合体の架橋物を用いるのが好ましい。
【0060】
アクリル酸塩の具体例としては、例えば、アクリル酸リチウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸アンモニウム等が挙げられる。これらのアクリル酸塩の中では、アクリル酸ナトリウム及びアクリル酸カリウムが好ましく、アクリル酸ナトリウムがより好ましい。
【0061】
吸水性樹脂の含有量は、10~60質量%であることが好ましい。吸水性樹脂の含有量が10質量%未満の場合、吸水性が不足して漏出を防止することができなくなる可能性がある。逆に、吸水性樹脂の含有量が60質量%を超える場合、流動性が悪化し体腔内に滑らかに装填できなくなる可能性がある。
【0062】
(イオン性多糖類)
イオン性多糖類を含有することで、粘度の経年変化を防止する及び消臭性能を発揮できる等の効果があり、加えてもよい。具体的なイオン性多糖類としては、硫酸基またはカルボキシル基等の陰イオンを有する多糖類、例えば、κ-カラギーナン、キサンタンガムを含むことが好ましい。
【0063】
(ポリアクリル酸部分中和物)
ポリアクリル酸部分中和物を含有することで良好な流動性を得られるので、加えてもよい。ポリアクリル酸部分中和物(非架橋型)としては、アクリル酸及びその塩を重合する際に、極度な低分子量体や極度な高分子量体が生成しないように重合度をコントロールしたものが好ましく用いられる。ポリアクリル酸部分中和物の粒子形状について、球状、破砕状等は特に問わないが、球状であることが好ましい。このようなポリアクリル酸部分中和物は、代表的な製造方法である逆相懸濁重合法や水溶液重合法等の他、各種の重合方法で製造することができる。また、必要に応じて粉砕、造粒または分級等することで調製することができ、水溶性を有する。
【0064】
アクリル酸塩の具体例としては、特開2012-224614号公報に示されるものが適用可能であって詳細な説明は省略するが、例えば、アクリル酸リチウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸アンモニウム等が挙げられる。これらのアクリル酸塩の中では、アクリル酸ナトリウム及びアクリル酸カリウムが好ましく、アクリル酸ナトリウムがより好ましい。
【0065】
(体液漏出防止剤1の粘度,pH)
体液漏出防止剤の粘度は、通常、80,000~200,000mPa・Sが好ましく、90,000~180,000mPa・Sがより好ましい。体液漏出防止剤の粘度が80,000mPa・S未満の場合には、クッション体4の塗布面4aに塗布した際に垂れてしまう可能性がある。逆に、粘度が200,000mPa・Sを超えると流動性が悪化して、柔軟性袋体2から出し難くなる可能性がある。
【0066】
体液漏出防止剤1のpHは、通常、6~9が好ましい。pHが6よりも低くなると、粘性が不足し、粘度の有効な範囲を外れる可能性がある。逆に、pHが9より高くなると、粘度が変動して不安定となる可能性がある。pHは体液漏出防止剤1の粘度を適正な値にするバロメーターとして使われる。
【0067】
体液漏出防止剤1のpHを適正な値に維持するための中和剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、トリエタノールアミン等が用いられる。この中和剤は、最終的に、体液漏出防止剤1のpHを調整できればよいものであり、粘液基材を調製する際に添加してもよく、粘液基材に吸水性樹脂やポリアクリル酸部分中和物を混合分散した後に添加しpHを調整するようにしてもよい。或いは、粘液基材を調製する場合及び体液漏出防止剤1を調製する場合の両方に添加してもよい。
【0068】
(体液漏出防止剤1の製造方法)
体液漏出防止剤1の製造方法としては、例えば、アルコール類、エーテル類及びエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種、カルボキシビニルポリマー、吸水性樹脂を一括で混合する方法、アルコール類、エーテル類及びエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種とカルボキシビニルポリマーとを混合して、吸水性樹脂を混合分散する方法等が挙げられる。
【0069】
ポリアクリル酸部分中和物を加える場合には、予めアルコール類、エーテル類及びエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種とカルボキシビニルポリマーを含む粘液基材に吸水性樹脂を分散し、次いでポリアクリル酸部分中和物を混合分散する方法、予めアルコール類、エーテル類及びエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種とカルボキシビニルポリマーを含む粘液基材にポリアクリル酸部分中和物を分散し、次いで吸水性樹脂を混合分散する方法等が挙げられる。
【0070】
イオン性多糖類を加える場合には、粘液基材に吸水性樹脂を分散し、イオン性多糖類を混合分散する方法、予めアルコール類、エーテル類及びエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種とカルボキシビニルポリマーを含む粘液基材にイオン性多糖類を分散し、次いで吸水性樹脂を混合分散する方法等が挙げられる。
【0071】
(実施形態2)
図7A乃至図8Dに基づいて、実施形態2を説明する。実施形態2では実施形態1と異なる部分のみ説明し、共通部分は省略する。
【0072】
実施形態2では、図7Aに示すように、体液漏出防止剤1がチューブ本体21(柔軟性袋体)に収容され、当該チューブ本体21を使用するとともに、図7B及び図7Cに示す実施形態1と同様なクッション体4及び貼付けシート5を使用して封止作業を行う。例えば、300gの体液漏出防止剤1が収容された150mmの長さのチューブ本体21を使用する。そして、実施形態2では、遺体Sの喉Bの気管Fに開けた孔部U(以下、気管切開孔U1と称す)を封止する場合を示す。
【0073】
具体的には、図8Aに示すように、チューブ本体21のキャップ22を外して開口部23から体液漏出防止剤1を絞り出すことで、体液漏出防止剤1を必要な量だけクッション体4の塗布面4aに塗布する。その後、体液漏出防止剤1を塗布したクッション体4を塗布面4aが内側になるようにして丸めるとともに遺体Sの喉Bに開けられた気管切開孔U1に挿入する。しかる後、図8Cに示すように、体液漏出防止剤1を塗布したクッション体4を塗布面4aが気管切開孔U1に当たるようにして当該気管切開孔U1を覆うように被せる。そして、このクッション体4の上に、当該クッション体4よりも一回り大きい貼付けシート5(カバー部材)の接着フィルム6をクッション体4の外側及び気管切開孔U1の外周部分に貼り付ける。そして、図8Dに示すように、例えば伊達襟8a(巻き部材)を遺体Sに取り付けた貼付けシート5の全域を覆うように遺体Sの頸回りに巻き付け、その後、衣装Wを遺体Sに着せる。
【0074】
このようにすることで、遺体Sの喉Bに開けた気管切開孔U1から体液などが外部に漏れ出るのを確実に防止できる。また、封止する処置を行った喉Bの気管切開孔U1を伊達襟8aで隠すことによって、気管切開孔U1の処理を行った領域が伊達襟8aにより見えなくなるので、遺体Sの処理後における見た目を良くすることができる。
【0075】
なお、実施形態2では、体液漏出防止剤1を塗布したクッション体4を丸めて使用したが、折り曲げて使用しても良く、また、切断により適当な大きさに分けて使用しても良い。
【0076】
また、実施形態2では、体液漏出防止剤1を塗布したクッション体4を丸めて、気管切開孔U1に挿入した後、さらに体液漏出防止剤1を塗布したクッション体4を気管切開孔U1に当てるといったように、体液漏出防止剤1を塗布したクッション体4を2つ使用するので、体液の漏出を確実に防止できる。なお、遺体Sの気管切開孔U1から漏出する体液が少ない場合、気管切開孔U1にクッション体4を丸めて挿入した後、体液漏出防止剤1を塗布していない別のクッション体4を気管切開孔U1に挿入したクッション体4に当てるようにしても良い。また、遺体Sの気管切開孔U1から漏出する体液がさらに少ない場合、簡易的な処置方法として、気管切開孔U1にクッション体4を丸めて挿入した後、別のクッション体4を気管切開孔U1に挿入したクッション体4に当てずに貼付けシート5の接着フィルム6を貼り付けて気管切開孔U1を封止するようにしてもよい。
【0077】
(実施形態2の変形例1)
なお、実施形態2では、体液漏出防止剤1とクッション体4とを一緒にした状態で気管切開孔U1に挿入したが、気管切開孔U1の状態によっては、体液漏出防止剤1とクッション体4とを別々に気管切開孔U1に挿入しても良い。
【0078】
例えば、まず、チューブ本体21から体液漏出防止剤1を絞り出して気管切開孔U1に注入し、次に、クッション体4を丸めて気管切開孔U1に挿入する。しかる後、実施形態1と同様の処置、即ち、気管切開孔U1に挿入したクッション体4に体液漏出防止剤1を塗布したクッション体4を当てた後、当該クッション体4を覆うように遺体Sに貼付けシート5の接着フィルム6を貼り付ける。そして、伊達襟8aを遺体Sに取り付けた貼付けシート5の全域を覆うように遺体Sの頸回りに巻き付け、その後、衣装Wを遺体Sに着せる。
【0079】
(実施形態2の変形例2)
変形例2では、体液漏出防止剤1及びクッション体4の作業時において使用する順番を逆にした点が変形例1と異なっている。具体的には、まず、クッション体4を気管切開孔U1に挿入し、その後チューブ本体21の開口部23を気管切開孔U1に当てるとともに、チューブ本体21から体液漏出防止剤1を絞り出して気管切開孔U1に垂らす。しかる後、気管切開孔U1に挿入したクッション体4に対して体液漏出防止剤1を塗布した別のクッション体4を当てた後、当該クッション体4を覆うように貼付けシート5の接着フィルム6を遺体Sに貼り付ける。そして、伊達襟8aを遺体Sに取り付けた貼付けシート5の全域を覆うように遺体Sの頸回りに巻き付け、その後、衣装Wを遺体Sに着せる。
【0080】
このように、変形例1及び変形例2においても、遺体Sにおける喉Bの気管切開孔U1から体液などが漏れ出るのを確実に防止できる。また、封止する処置を行った遺体Sの喉Bの気管切開孔U1を伊達襟8aで隠すことによって、気管切開孔U1の処理を行った領域が伊達襟8aにより見えなくなるので、遺体Sの処理後における見た目を良くすることができる。
【0081】
(実施形態3)
図9A乃至図9Cに基づいて、実施形態3を説明する。実施形態3では実施形態2と異なる部分のみ説明し、共通部分は省略する。
【0082】
実施形態3では、図9Aに示すように、遺体Sにおける頸部Aの側部に発生している外傷部T2(以下、頸回り外傷部T2と称す)を封止する場合を示している。
【0083】
具体的には、実施形態3では、図9Bに示すように、クッション体4を頸回り外傷部T2に対応する大きさに切断した後、切断したクッション体4に体液漏出防止剤1を塗布し、しかる後、体液漏出防止剤1を塗布したクッション体4を頸回り外傷部T2に当てる。そして、このクッション体4の上に貼付けシート5の接着フィルム6をクッション体4の外側及び外傷部T2の外周部分に貼り付ける。しかる後、図9Cに示すように、伊達襟8aを遺体Sに取り付けた貼付けシート5の全域を覆うように遺体Sの頸回りに巻き付け、その後、衣装Wを遺体Sに着せる。
【0084】
このようにすることで、頸回り外傷部T2から体液などが漏れ出るのを確実に防止できる。また、封止する処置を行った頸回り外傷部T2を伊達襟8aで隠すことによって、頸回り外傷部T2の処理を行った領域が伊達襟8aにより見えなくなるので、遺体Sの処理後における見た目を良くすることができる。
【0085】
なお、本発明の実施形態3では、伊達襟8aで頸回り外傷部T2の封止領域を覆っているが、例えば、頸回り外傷部T2の領域が狭くて衣装Wだけで頸回り外傷部T2の封止領域を覆い隠せるのであれば、伊達襟8aで頸回り外傷部T2の封止領域を覆わなくても良い。
【0086】
また、上述の如き遺体Sの頸回りにおいて封止作業を行う場合には、接着フィルム6を目立たない肌色にするのが好ましい。
【0087】
(実施形態4)
図10A乃至図10Dに基づいて、実施形態4を説明する。実施形態4では実施形態1と異なる部分のみ説明し、共通部分は省略する。
【0088】
実施形態4では、図10Aに示すように、遺体Sの胸部に形成されたペースメーカ抜去孔U2を封止する場合を示している。
【0089】
具体的には、実施形態4では、体液漏出防止剤1が塗布されたクッション体4を塗布面4aが内側となるようにして丸めた後、ペースメーカ抜去孔U2に挿入する。その後、図10Bに示すように、ペースメーカ抜去孔U2の開口部分を縫合して、ペースメーカ抜去孔U2を閉じる。しかる後、図10Cに示すように、ペースメーカ抜去孔U2の縫合部分にクッション体4を当てて、その後、図10Dに示すように、貼付けシート5の接着フィルム6をクッション体4及びその外周部分の遺体Sに貼り付ける。
【0090】
このような処置を行うことにより、ペースメーカ抜去孔U2から体液などが遺体Sの外部に漏れ出るのを確実に防止することができる。
【0091】
なお、遺体Sのペースメーカ抜去孔U2から体液の漏出が多いと思われる場合には、ペースメーカ抜去孔U2の縫合部分に当てるクッション体4にも体液漏出防止剤1を塗布して使用するようにしても良い。
【0092】
また、丸めたクッション体4をペースメーカ抜去孔U2に挿入する前、又は、後において、チューブ本体21の開口部23をペースメーカ抜去孔U2に差し込むとともに体液漏出防止剤1をペースメーカ抜去孔U2内に注入するようにしても良い。
【0093】
なお、ペースメーカ抜去孔U2の開口部分が縫合済みの遺体Sの場合には、ペースメーカ抜去孔U2の縫合部分にクッション体4を当てて、その後、貼付けシート5の接着フィルム6をクッション体4及びその外周部分の遺体Sに貼り付けてペースメーカ抜去孔U2の封止を行えばよい。
【0094】
(実施形態5)
図11A乃至図11Cに基づいて、実施形態5を説明する。実施形態5では実施形態1と異なる部分のみ説明し、共通部分は省略する。
【0095】
実施形態5では、遺体Sにおける踵Nの外傷部T3(以下、踵外傷部T3と称す)を封止する場合を示している。
【0096】
具体的には、図11Aに示すように、実施形態5では、まず、体液漏出防止剤1が塗布されたクッション体4を塗布面4aが踵外傷部T3に向くようにして当該踵外傷部T3に当てる。そして、図11Bに示すように、このクッション体4の上に貼付けシート5の接着フィルム6をクッション体4の外側及び踵外傷部T3の外周部分に貼り付ける。その後、図11Cに示すように、包帯8b(巻き部材)を遺体Sに取り付けた貼付けシート5の全域を覆うように遺体Sの踵Nに巻き付ける。
【0097】
このようにすることで、踵外傷部T3から体液等が漏れ出るのを確実に防止できる。特に、踵のように立体的な形状部分では、接着フィルム6だけでなく包帯8bを踵に巻くことで、クッション体4及び貼付けシート5が遺体Sに密着するようになるので、踵外傷部T3を効果的に封止することできる。
【0098】
なお、踵外傷部T3の領域が狭い場合には、貼付けシート5の接着フィルム6を貼り付けずに包帯8bを用いて踵外傷部T3の封止領域を覆うようにしてもよい。
【0099】
(実施形態6)
図12A乃至図12Cに基づいて、実施形態6を説明する。実施形態6では実施形態2と異なる部分のみ説明し、共通部分は省略する。
【0100】
実施形態6では、遺体Sにおける咽喉部Cの空洞(以下、咽喉部の孔U3と称す)を封止する場合を示している。
【0101】
具体的には、実施形態6では、図12Aに示すように、口腔Eにチューブ本体21の開口部23を挿入した後、当該チューブ本体21から体液漏出防止剤1を咽喉部Cに向けて絞り出す。その後、図12Bに示すように、クッション体4を丸めるとともに口腔Eから咽喉部Cにかけて押し込み、その後、口腔Eを貼付けシート5で塞ぐ。
【0102】
このような処置を行うことにより、咽喉部Cから体液が漏出するのを確実に防止することができる。
【0103】
なお、実施形態6では、クッション体4を丸めた後、咽喉部Cに押し込んだが、クッション体4は、丸める代わりに折り曲げたり、或いは、適当な大きさに分離して口腔Eに挿入するようにしても良い。また、クッション体4には、体液漏出防止剤1を塗布してから口腔Eに挿入するようにしても良い。
【0104】
(実施形態7)
図13A乃至図13Dに基づいて、実施形態7を説明する。実施形態7では実施形態2と異なる部分のみ説明し、共通部分は省略する。
【0105】
実施形態7では、遺体Sにおいて発生している乳がん損傷部T4を封止する場合を示している。
【0106】
具体的には、図13Bに示すように、クッション体4を遺体Sの乳房にできた乳がん損傷部T4に対応する大きさに切断した後、切断したクッション体4に体液漏出防止剤1を塗布し、しかる後、体液漏出防止剤1を塗布したクッション体4を乳がん損傷部T4に当てる。そして、図13Cに示すように、別のクッション体4を所定の大きさ及び形状にして乳がん損傷部T4に当てたクッション体4の上にさらに重ねる。この時、別のクッション体4を複数枚重ねることで左右の乳房の形及び大きさの違いをなくすようにする。その後、図13Dに示すように、クッション体4の上から貼付けシート5の接着フィルム6を貼って乳がん損傷部T4を封止する。
【0107】
このような処置を行うことにより、乳がん損傷部T4から体液が漏出するのを防止できるだけでなく、遺体Sにおける左右の乳房の膨らみや大きさの不釣合を無くすことができる。
【0108】
(実施形態8)
図14に基づいて、実施形態8を説明する。実施形態8では実施形態1と異なる部分のみ説明し、共通部分は省略する。
【0109】
実施形態8では、貼付けシート51(カバー部材)がクッション体41に予め一体に接着されてなる複合シート9を用いて遺体Sの臀部Dの床ずれT1を封止する場合を示している。
【0110】
貼付けシート51におけるクッション体41の外周部分からはみ出した部分には、接着面61aを有する接着フィルム61が設けられ、該接着面61aには、剥離紙71が剥離可能に設けられている。
【0111】
実施形態8では、クッション体41の塗布面41aに体液漏出防止剤1を塗布した後、接着面61aの剥離紙71を剥がし、しかる後、クッション体41の塗布面41aに塗布した体液漏出防止剤1が臀部Dの床ずれT1に当たるように複合シート9を床ずれT1に被せ、その後、遺体S表面における床ずれT1の外周部分に複合シート9の接着面61aを貼り付ける。このように、臀部Dの床ずれT1を覆うためのクッション体41が予め貼付けシート51と一体になっているので、作業者によるクッション体41と貼付けシート51とを一体にする作業が無くなり、臀部Dの床ずれT1の封止作業を簡単に行うことができる。
【0112】
なお、複合シート9は、遺体Sの臀部Dの床ずれT1にだけでなく、その他の箇所の封止作業にも使用可能である。
【0113】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態では、遺体Sの損傷部Tとして、臀部Dの床ずれT1、頸回り外傷部T2、踵外傷部T3、乳がん損傷部T4をそれぞれ例として挙げるとともに、孔部Uとして喉Bの気管切開孔U1、ペースメーカ抜去孔U2、咽喉部Cの孔U3をそれぞれ例として挙げたが、その他の領域であっても本発明の封止方法を適用可能である。
【0114】
柔軟性袋体2は、内部の体液漏出防止剤1が漏れ出ないようなシール性に優れたものであり、内部の体液漏出防止剤1を押し出す或いは絞り出す等し易いように柔軟性を有するものであればよく、特に限定されるものではない。
【0115】
柔軟性袋体2は、矩形状に限られるものではなく、円形状等の他の形状でもよい。また、貼付けシート5、51は、矩形状に限られるものではなく、円形状等の他の形状でもよい。また、柔軟性袋体2、貼付けシート5、51の寸法は、上記実施形態の寸法に限られるものではなく他の寸法でもよい。
【0116】
また、柔軟性袋体2の開口部3から体液漏出防止剤1を出す際、押し出す或いは絞り出す等を想定しているが、開口部3を下に向けて垂れて出る場合には、あえて絞り出す等しなくてもよい。
【0117】
本発明の体液漏出防止剤1は、基本的に、アルコール類、エーテル類及びエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む粘液基材中に吸水性樹脂が分散してなるゼリー状のものを使用するが、本発明の体液漏出防止剤1には、上述のほかに、イオン性多糖類、ポリアクリル酸部分中和物、抗菌剤、抗カビ剤、香料、酸化防止剤、色素等の添加剤を更に含んでいてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は例えば、遺体の孔部に貼り付けて、遺体の孔部からの体液の漏出を防止する場合に使用することができる。
【符号の説明】
【0119】
1 体液漏出防止剤
2 柔軟性袋体
3 開口部
4 クッション体
4a 塗布面
5 貼付けシート(カバー部材)
6 接着フィルム
6a 接着面
7 剥離紙
8a 伊達襟(巻き部材)
8b 包帯(巻き部材)
9 複合シート
51 貼付けシート(カバー部材)
61 接着フィルム
61a 接着面
71 剥離紙
S 遺体
T 損傷部
T1 床ずれ
T2 頸回り外傷部
T3 踵外傷部
T4 乳がん損傷部
U 孔部
U1 気管切開孔
U2 ペースメーカ抜去孔
U3 咽喉部の孔
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C
図13D
図14