(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】走行システム及び走行路
(51)【国際特許分類】
G05D 1/244 20240101AFI20240306BHJP
A63H 18/16 20060101ALI20240306BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240306BHJP
【FI】
G05D1/244
A63H18/16 A
G05D1/43
(21)【出願番号】P 2023143189
(22)【出願日】2023-09-04
【審査請求日】2024-01-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501041894
【氏名又は名称】チームラボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】服部 弘平
(72)【発明者】
【氏名】金村 杏美
(72)【発明者】
【氏名】種本 雅
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-56610(JP,A)
【文献】特開平8-76845(JP,A)
【文献】特開2016-9382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
G05D 1/244
A63H 18/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行路及び前記走行路上を走行する走行装置を備えるシステムであって、
前記走行路は、
鏡面と、
前記鏡面上に設けられ可視領域外における特定波長の光を遮断するフィルムと、
前記フィルム上に設けられ前記特定波長の光を反射する誘導線を含み、
前記走行装置は、
前記特定波長の光を照射して前記誘導線を検知するセンサと、
前記センサの検知情報に基づいて前記誘導線に沿って走行する走行制御手段を含む、
システム。
【請求項2】
前記誘導線は、前記特定波長の光を受けて別波長の光を放出するものであり、
前記センサは、前記別波長の光を検知する
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記誘導線は蛍光顔料を含有する
請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記フィルムは可視領域の光を透過する透明又は半透明のフィルムである
請求項1から請求項3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
走行装置の走行させるための走行路であって、
鏡面と、
前記鏡面上に設けられ可視領域外における特定波長の光を遮断するフィルムと、
前記フィルム上に設けられ、前記特定波長の光を反射する、前記走行装置の走行を誘導するための誘導線を含む
走行路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律走行可能な走行装置とこの走行装置をガイドする走行路を備えるシステムに関する。また、本発明は、この走行路そのものにも関連する。
【背景技術】
【0002】
従来から、走行面に描かれた軌道に沿って自律走行する走行玩具が知られている(例えば特許文献1)。特許文献1に記載の走行玩具は、走行面に描かれた軌道を検知するためのフォトセンサ(光学センサ)を備えており、このフォトセンサによって走行面からの反射光に基づいて軌道を光学的に検出するように構成されている。また、特許文献1において、走行面上の軌道は、例えばマジックで描いたラインであってもよいし、走行面上に貼付されたテープで等であってもよいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本願出願人は、鏡面上に誘導線を引き、その誘導線によって走行装置を自動的に走行させるシステムを制作することを検討している。このように、走行装置に鏡面上を走行させることで、鑑賞者にはあたかも走行装置が宙に浮いているかのように視認させることができると考えられる。
【0005】
しかしながら、このような鏡面を利用したシステムにおいて、特許文献1に開示された走行装置のようにフォトセンサを搭載して誘導線を検知する場合、鏡面にて反射した光がフォトセンサの受光素子にそのまま入射することから、フォトセンサが誘導線を誤検知しやすくなるという課題がある。つまり、フォトセンサの投光素子から出射した光が鏡面において反射して強い光エネルギーを維持したまま受光素子に入射したり、外乱光が鏡面で反射して受光素子に入射したりし易くなるため、走行装置のフォトセンサによって鏡面上の誘導線を正確に検知することが難しくなる。
【0006】
また、鏡面上に直接油性マーカー等で誘導線を描くこととすると、走行装置の移動経路を変更したり誘導線を撤去しようとした場合に、鏡面上の誘導線を綺麗に消さなければならず手間がかかるという課題がある。なお、鏡面上にテープ等を貼付して誘導線を形成する場合も同様であり、走行装置の経路変更や誘導線の撤去時に、鏡面上からテープを除去する手間がある。このため、鏡面上に直接誘導線を形成することは好ましくないといえる。
【0007】
さらに、鏡面を利用したシステムにおいて、特許文献1に開示されたように走行装置の誘導線を油性マーカー等で描くこととすると、この誘導線が視覚的に目立つものとなるため、走行装置が宙に浮いているような印象を鑑賞者に与えにくくなり、システム全体の美観が損なわれるという課題がある。また、誘導線を油性マーカー等で描いた場合、鑑賞者は走行装置の移動経路を予測しやすくなるため、鑑賞者に驚きを与えることが難しくなる。
【0008】
そこで、本発明は、走行装置が鏡面上を自律走行するシステムにおいて、上記した課題の少なくとも1つを解決することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面は、走行システム100に関する。本発明に係る走行システム100は、走行路10と、この上を走行する走行装置20を備える。走行路10は、鏡面11と、フィルム12と、誘導線13を含む。鏡面11は、光を反射する平面状の部材である。なお、鏡面11としてはハーフミラーを採用することもできる。フィルム12は、鏡面11上に設けられており、可視領域(約380~800nm)外における特定波長の光を遮断する。なお、光の「遮断」とは、光を吸収したり拡散したりすることにより光の透過を阻止することを意味し、また光の透過を完全に阻止する場合だけでなく、光エネルギーの一部を減衰させることも含む。このため、鏡面11上のフィルム12が貼付された領域において、特定波長の光は、フィルム12によって遮断されて鏡面11に達しないか、又は鏡面11で反射したとしてもフィルム12は殆ど透過しないことになる。なお、フィルム12は、鏡面11全体に貼付されていることが好ましいが、これに限られず少なくとも走行装置20の移動経路付近において鏡面11上に貼付されていればよい。誘導線13は、フィルム12上に設けられており、特定波長の光を反射するように構成されている。つまり、フィルム12上に設けられた誘導線13に対して特定波長の光を照射すると、この光は誘導線13のみで反射し、フィルム12が貼付された領域では殆ど反射しないことになる。なお、ここにいう「特定波長の光を反射する」とは、特定波長の成分を含む光を受けて何らかの波長の光を放出することを広義に意味する。具体的には、ここにいう「反射」とは、特定波長の光をそのまま反射する場合に限らず、特定波長の光を吸収して別の波長の光を放出する場合や、自然光等のように異なる波長の成分が含まれる光の中から特定波長の光のみを反射する場合を含む。一方で、走行装置20は、センサ27と、走行制御手段21~26を含む。センサ27は、特定波長の光を照射して鏡面11上の誘導線13を検知する。なお、センサ27から照射される光には、少なくとも特定波長の成分が含まれていればよく、その他に他の波長成分が含まれていてもよい。走行制御手段21~26は、センサ27の検知情報に基づいて誘導線13に沿って走行するための各種要素を含む。
【0010】
上記構成のように、鏡面11上に特定波長の光を遮断(吸収又は拡散など)するフィルム12を貼付し、その更に上に特定波長の光を反射する誘導線13を設けることで、走行装置20が鏡面11上を走行する場合でも、走行装置20のセンサ27が誘導線13を誤検知することを抑制できる。また、本発明では、鏡面11に誘導線13を直接形成するのではなく、鏡面11上にフィルム12を設け、その上に誘導線13を形成することにしている。このため、フィルム12を剥がすことで誘導線13の変更や撤去を簡単に行うことができる。
【0011】
本発明に係る走行システム100において、誘導線13は、特定波長の光を受けて別波長の光を放出するものであることが好ましい。例えば、誘導線13は、蛍光顔料を含有するものを採用すればよい。蛍光顔料を含有する誘導線13は、特定の波長の光エネルギーを吸収して、そのエネルギーとは別の波長(特定の波長より長い波長)の光を放射する。具体的には、誘導線13に含有させる蛍光顔料には、紫外光を吸収して可視光を放出するものを用いればよい。これにより、走行装置20のセンサ27によって誘導線13を検出しやすくなる。特に、誘導線13の蛍光顔料として粉体色が白色に近いものを用いれば、鏡面11上に誘導線13を描いた場合でも、鑑賞者にとっては誘導線13が目につきにくいものとなる。これにより、誘導線13を油性マーカー等で描いた場合などと比較し、システム全体の美観が損なわれず、ひいては走行装置20が宙に浮いているような印象を鑑賞者に与えやすくなる。
【0012】
本発明に係る走行システム100において、フィルム12は、可視光領域の光を透過する透明又は半透明のフィルムであることが好ましい。こにより、鏡面11にフィルム12を貼付した場合でも、このフィルム12によって鏡面11の美観が損なわれることを回避できる。
【0013】
本発明の第2の側面は、走行装置20の走行させるための走行路10に関する。走行路10は、前述したように、鏡面11と、この鏡面11上に設けられ可視領域外における特定波長の光を遮断するフィルム12と、このフィルム12上に設けられ特定波長の光を反射することで走行装置20の走行を誘導するための誘導線13を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、走行装置が鏡面上を自律走行するシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、走行路の鏡面上を自律走行する走行装置の例を示した模式図である。
【
図3】
図3は、走行路の構成要素を示した分解斜視図である。
【
図4】
図4は、走行装置の構成要素の例を示したブロック図である。
【
図5】
図5は、走行装置のセンサによって走行路の誘導線を検知する仕組みを模式的に表した断面図である。
【
図6】
図6は、走行装置の制御装置の構成要素の例を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下に説明する形態に限定されるものではなく、以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
【0017】
図1は、走行路10の鏡面上を走行装置20が走行する様子を示している。なお、
図1は、走行装置20を中心に走行路10の一部を抽出して示しており、通常の場合この走行路10は走行装置20の前後左右に亘って広がっている。
図1に示されるように、本実施形態に係る走行装置20は、半球形状のカバー30によって略全体が覆われている。また、走行路10の走行面は鏡張りとなっており、この鏡面には半球形状の走行装置20が映り込む。従って、走行装置20の実物と走行路10に映り込んだその鏡像をあわせて視認すると、鑑賞者には略球形状の物体が宙に浮かんでいるように見える。なお、走行装置20は、カバー30の内部に発光素子を備えており、この発光素子から放出された光がカバー30を透過する。このため、暗闇の中でも走行路10上を走行する走行装置20を視認することができる。
【0018】
また、
図1及び
図2に示されるように、走行路10には、目立ちにくい塗料やテープにて誘導線13が形成されている。詳しくは後述するが、走行装置20は、センサによってこの誘導線13を検知し、この誘導線13に沿って走行するように自律制御を行う。このため、走行装置20が鏡面上を走行することも相俟って、走行装置20の走行経路が予測しにくくなるため、鑑賞者の興味を惹きつけることができる。
【0019】
まず、
図2及び
図3を参照して、走行路10の構成例について説明する。
図2及び
図3に示されるように、走行路10は、鏡面11と、フィルム12と、誘導線13を含み、この順に上層に向かって重ね合わされている。すなわち、鏡面11の上にフィルム12が貼付され、このフィルム12の上に誘導線13が形成されている。なお、図示は省略するが、走行路10は、鏡面11のさらに下層に、この鏡面11を支持するための基台(金属製、プラスチック製品、木製など)を備えていてもよい。
【0020】
鏡面11は、光(具体的には可視光)を反射する一般的な鏡を利用することができる。例えば、鏡面11としては、ステンレス等の金属の表面を鏡面研磨した研磨式のものや、ガラスやアクリル板等の透明板の片面に銀やアルミなどの反射率の高い金属を蒸着した蒸着式のものを採用することができる。また、鏡面11としては、光の反射率が80~100%の一般的な鏡の他、光の反射率が80%未満で光の透過率が10~50%のハーフミラーを用いることもできる。なお、入射光を100%とした場合に、反射率、透過率、吸収率の和が100%となる。一般的なハーフミラーは、反射率20~40%、透過率20~40%程度であり、残りが吸収率となる。
【0021】
フィルム12は、鏡面11の上に貼付される透明なフィルムである。なお、フィルム12は、必ずしも鏡面11全体に貼付されている必要はなく、走行装置20の移動経路付近、より具体的には走行装置20のセンサから出射される光が当たる範囲において鏡面11上に貼付されていればよい。フィルム12は、可視光を透過するが、可視領域外における特定波長の光を遮断(吸収又は拡散等)する性質を持つ。具体的には、フィルム12としては、一般的な紫外光カットフィルムを用いることが好ましい。紫外光カットフィルムは、可視光を透過しつつ、紫外光(波長380nm以下の光)を遮断することにより、紫外光がフィルムを透過することを抑制できる。紫外光カットフィルムの構造は特に限定されないが、例えば紫外光吸収剤を含有する粘着層によって透明なプラスチックフィルムを貼り合わせて積層したものを用いることができる。このように、フィルム12として透明なものを用いることで、鏡面11上にフィルム12を貼付した場合でも走行路10の美観が損われることはない。
【0022】
誘導線13は、フィルム12に形成される線であり、走行装置20によって検知される。誘導線13は、フィルム12によって遮断される波長の光を反射するものであることが好ましい。例えばフィルム12として紫外光を遮断するものを用いる場合、誘導線13は少なくとも紫外光を反射するもの用いればよい。具体的には、誘導線13には、紫外光を受けて励起状態となり基底状態に戻る際に可視光を放出する性質(フォトルミネッセンス)を持つ蛍光顔料を含有させればよい。蛍光顔料としては、粉体色は白色であり、発光色は青、黄色、緑、赤、橙等の有色であるものを用いることが特に好ましい。なお、「白色」とは、CIE-L*a*b*表色系におけるL*値が60以上、特に80以上の色であり、「有色」とは白色以外の色である。誘導線13は、このような蛍光顔料を含む塗料を塗布することによってフィルム12上に描くことができる。または、誘導線13は、このような蛍光顔料を含むテープをフィルム12上に貼付することによって形成することもできる。特に粉体色が白色の蛍光顔料を利用して誘導線13を形成することで、紫外光(ブラックライト)を当てない限り鏡面11上の誘導線13が目立たなくなる。従って、この誘導線13によっても走行路10の美観が損われることはない。
【0023】
次に、
図4から
図6を参照して、走行装置20の構成例について説明する。
図4に示されるように、走行装置20は、制御装置21と2つのモータ22,23を備える。各モータ22,23は、この電子基板等を介して制御装置21に電気的に接続されており、この制御装置21による制御を受ける。各モータ22,23には、それぞれ独立して車輪24,25が取り付けられている。バッテリ(不図示)から電力を供給して各モータ22,23を駆動させることで車輪24,25が回転し、これらの車輪24,25が走行路10の路面に接することで走行装置20は推進力を得る。本実施形態において、走行装置20は、後輪駆動方式を採用しているため、各モータ22,23は走行装置20のシャーシの後方に搭載されている。図示した例では、走行装置20の進行方向を基準として、第1モータ22が右側の第1車輪24を回転させるものとなり、第2モータ23が左側の第2車輪25を回転させるものとなる。なお、走行装置20は後輪駆動方式に限らず、前輪駆動方式としてもよい。
【0024】
各モータ22,23としては、公知のものを採用することができる。具体的には、各モータ22,23は、ステータ及びロータを含む回転部と、この回転部で得られた回転力を外部に出力するための出力軸(シャフト)を備える。また、各車輪24,25も、公知のものを採用することができる。具体的には、各車輪24,25は、金属製又はプラスチック製のホイール部材と、このホイール部材の外周に取り付けられた摩擦力の高いゴム製のタイヤ部材を備える。なお、タイヤ部材は、消耗品であることから、ホイール部材から取り外して適宜交換することが可能である。本実施形態では、各車輪24,25のホイール部材が、各モータ22,23の出力軸に直接固定されている。なお、ホイール部材と出力軸は、両者の間に生じる摩擦力で固定されていてもよいし、接着剤や溶接等の公知の固定手法を採用することとしてもよい。ただし、モータの出力軸と車輪のホイール部材は、ギアやシャフト等の中間部品を介在させることによって連動させることも可能である。
【0025】
また、走行装置20は、
図4に示されるように、上記した各モータ22,23に固定された各車輪24,25(駆動輪)に加えて、走行路10の路面に接触する一又は複数の従動輪26を備える。この従動輪26は、モータ等の駆動源には接続されておらず、走行装置20の走行を補助するための車輪である。本実施形態において、従動輪26は、走行装置20のシャーシの前方の左右二箇所に配置されている。なお、走行装置20の大きさ等に応じて従動輪26の数を増減することもできる。
【0026】
また、走行装置20は、
図4に示されるように、走行路10の誘導線13を検知するためのセンサ27を備える。このセンサ27は、制御装置21に接続されており、検知情報を制御装置21に伝達する。誘導線13は、前述した通り特定波長の光を反射するものである。このため、センサ27としては、特定波長の光を誘導線13に対して投光し、その反射光を受光することで誘導線13を検知することのできる光電センサを用いればよい。具体的には、センサ27は、投光部27aと受光部27bを有する。誘導線13として蛍光顔料が用いられている場合、センサ27の投光部27aは、誘導線13の周囲に対して紫外光(ブラックライト)を照射し、受光部27bは、紫外光を受けて誘導線13の蛍光顔料から放射された可視光を受光する。受光部27bは、誘導線13の蛍光顔料から可視光を受光すると、受光部27bに対する誘導線13の相対位置などに関する情報を電気信号に変換して制御装置21に伝達する。
【0027】
図5は、センサ27の投光部27aから照射された光が受光部27bによって受光される様子を模式的に示している。走行装置20の投光部27aは、走行路10に向けて紫外光を照射する。走行路10には、前述した通り、鏡面11上にフィルム12が設けられ、このフィルム12の更に上に誘導線13が形成されている。誘導線13は、蛍光顔料を含有したものであるため、投光部27aから紫外光を受けると励起状態となり基底状態に戻る際に可視光を放出する。センサ27の受光部27bは、蛍光顔料から放出された可視光を受光することで、誘導線13の位置を検出する。一方で、投光部27aからの紫外光は、走行路10上の誘導線13以外の部位にも照射されることになる。ここで、走行路10は、鏡面11上に紫外光を遮断するフィルム12が貼付されている。このため、誘導線13以外の部位に照射された紫外光は、フィルム12に遮断されて鏡面11まで達しないか、あるいは鏡面11まで達したとしても再度フィルム12によって遮断されてその光エネルギーの殆どが減衰してしまう。このため、
図5で模試的に表したように、走行路10の誘導線13以外の部位に照射された紫外光は、センサ27の受光部27bに到達しないか、あるいは到達したとしてもセンサ27によって検知される程度の十分な光エネルギーを有しないこととなる。もし、投光部27aから照射された紫外光が鏡面11において反射してそのまま受光部27bに入射する場合、紫外光の光エネルギーが強すぎて受光部27bが誘導線13を検知できなくなったり、誘導線13の位置を誤検知することが懸念される。これに対して、本発明のように、鏡面11上に紫外光を遮断するフィルム12を貼付しておくことで、投光27aから照射された紫外光がそのまま受光部27bに入射することを避けることができる。このため、センサ27の受光部27bによって誘導線13の位置をより確実かつ正確に検知できるようになる。
【0028】
また、走行装置20は、
図4に示されるように、一又は複数の発光素子28をさらに備えていてもよい。複数の発光素子28は、電子基板等を介して制御装置21に電気的に接続されており、この制御装置21による制御を受ける。また、走行装置20のカバー30は、透明又は半透明であることから、発光素子28が発光すると、その光はカバー30を透過して外部から視認される。カバー30としては、例えば公知のポリカーボネート素材やシリコン素材を用いることができる。さらに、カバー30は、ハーフミラーによって構成されていてもよい。ハーフミラーは、その内部から外部へ向かう光を透過し、外部から内部へ向かう光は反射する。この場合、例えばシリコン部材からなるカバー30の内面にハーフミラーのフィルムを貼付すればよい。
【0029】
図6は、制御装置21を中心とした制御系を示したブロック図である。
図6に示した例において、制御装置21は、プロセッサ21a、メモリ21b、通信モジュール21c、駆動制御回路21d、センサ制御回路21e、及び発光制御回路21fを含む。プロセッサ21aの例は、公知のCPUやその他の制御回路である。プロセッサ21aは、メモリ21bに記憶されているプログラムやデータに従って所定の演算処理を行い、その演算結果をメモリ21bの作業空間に書き出しながら各種の制御処理を実行する。メモリ21bは、例えばRAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリや、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリから構成され、上記したプロセッサ21aによる演算処理に利用される。本実施形態において、プロセッサ21aは、メモリ21bに記憶されたプログラムを読み出し、このプログラムに従って、各モータ22,23を駆動させたり、各発光素子28を発光させるための処理を行う。
【0030】
通信モジュール21cは、外部の装置と無線通信するための通信機器である。通信モジュール21cは、Wi-Fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)、NFCといった公知の無線通信規格、その他の独自規格、SubGHz帯などの周波数、あるいはWLAN以外のP2MPやMesh通信によって無線通信するものであってもよい。例えば、制御装置21は、この通信モジュール21cを介して、外部のサーバ装置(不図示)と通信を行う。この場合、制御装置21は、外部のサーバ装置から受信した指示命令に基づいて、各モータ22,23を駆動状態や各発光素子28の発光状態を制御することができる。また、複数の走行装置20の制御装置21は、通信モジュール21cを介して互いに通信を行うこともできる。この場合、複数の走行装置20間で情報を共有して、各モータ22,23を駆動状態や各発光素子28の発光状態を制御することとしてもよい。例えば、複数の走行装置20間で位置情報を共有し、走行路10上で互いが衝突しないように走行速度を調整することとしてもよい。また、例えば、複数の走行装置20間で位置情報を共有し、互いの間隔に応じて各発光素子28の発光状態を変化させることとしてもよい。なお、各走行装置20は、通信モジュール21cを利用し、レーン上に配置されたNFCタグや、Bluetooth(登録商標)のビーコン等から、自己の位置情報を特定又は推定することができる。
【0031】
駆動制御回路21dは、プロセッサ21aの制御命令に基づいて、第1モータ22及び第2モータ23が所定の回転条件(回転速度、回転方向等)で駆動するように、バッテリーから電力を各モータ22,23に供給する回路である。なお、各モータ22,23の回転方向を切り替えることで、走行装置20の前進と後退を切り替えることもできる。また、この駆動制御回路21dは、第1モータ22及び第2モータ23をそれぞれ独立して制御することが可能である。
【0032】
具体的に説明すると、走行装置20を直進させるためには基本的に左右のモータ22,23の回転速度を等しくすればよい。一方、走行装置20を右側に向かって進行させるためには、シャーシの右側に設けられた第1モータ22の回転速度を、シャーシの左側に設けられた第2モータ23の回転速度よりも遅くする(第1モータ22のみ停止させてもよい)。また、シャーシの右側に設けられた第1モータ22を後退方向に回転させ、シャーシの左側に設けられた第2モータ23を前進方向に回転させることで、走行装置20を右回りに旋回させることもできる。同様に、一方、走行装置20を左側に向かって進行させるためには、シャーシの右側に設けられた第1モータ22の回転速度を、シャーシの左側に設けられた第2モータ23の回転速度よりも速くする(第2モータ23のみ停止させてもよい)。また、シャーシの右側に設けられた第1モータ22を前進方向に回転させ、シャーシの左側に設けられた第2モータ23を後退方向に回転させることで、走行装置20を左回りに旋回させることもできる。このように、各モータ22,23の回転速度と回転方向を独立に制御することで、走行装置20の進行方向を調整することができる。
【0033】
センサ制御回路21eは、プロセッサ21aの制御命令に基づいて、バッテリーから電力を投光部27a及び受光部27bに供給してセンサ27のオンオフを制御したり、受光部27bにより得られた情報(電気信号)をプロセッサ21aに伝達する回路である。プロセッサ21aは、受光部27bによって検知された走行路10上の誘導線13の位置情報に基づいて、第1モータ22及び第2モータ23を駆動するための制御命令を生成し、駆動制御回路21dに出力する。
【0034】
本実施形態では、センサ27からの検知情報に基づいて、走行装置20を走行路10の誘導線13に沿って走行させることとしている。従って、プロセッサ21aは、走行装置20の中心が誘導線13に沿って進むように、各モータ22,23の制御命令を生成すればよい。例えば、誘導線13の位置が走行装置20の中心と一致している場合、走行装置20をそのまま直進させればよいため、所定時間の間、第1モータ22と第2モータ23の回転速度を等しくする。一方、誘導線13の位置が走行装置20の中心よりも右寄りにある場合、走行装置20を右寄りに走行させる必要があるため、所定時間の間、第1モータ22の回転速度を第2モータ23よりも遅くする。同様に、誘導線13の位置が走行装置20の中心よりも左寄りにある場合、所定時間の間、走行装置20を左寄りに走行させる必要があるため、第1モータ22の回転速度を第2モータ23よりも速くする。なお、誘導線13の軌道が大きくカーブしている場合には、第1モータ22と第2モータ23のいずれか一方の回転方向を逆方向として走行装置20を旋回させることもできる。このように、センサ27からの検知情報に基づいて、各モータ22,23の回転速度や回転方向を調整することで、走行装置20を誘導線13の軌道に沿って走行させることができる。
【0035】
発光制御回路21fは、プロセッサ21aの制御命令に基づいて、各発光素子28が所定の発光条件(発光色、明度等)で発光するように、バッテリーから電力を各発光素子28に供給する回路である。この発光制御回路21fは、各発光素子28をそれぞれ独立して制御することが可能である。
【0036】
その他、走行装置20は、バッテリー(不図示)を備える。バッテリーは、一次電池であってもよいし、二次電池であってもよい。ただし、繰り返し充電可能とした方が運用効率が高いことから、バッテリーとしては二次電池とすることが好ましい。バッテリーの電力は、例えば制御装置21や、各モータ22,23や、センサ27、及び発光素子28に供給される。
【0037】
以上、本願明細書では、本発明の内容を表現するために、図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
【0038】
例えば、前述した実施形態では、走行装置20の走行制御手段として、2つのモータ22,23を独立して制御することにより走行装置20の進行方向を調整するという手段を採用した。ただし、走行装置20の走行制御手段はこれに限られない。例えば、駆動輪(後輪)を回転させる2つのモータの他に、一又は従動輪(前輪)の向き(ヨー角)を回動させるための操舵用モータを設け、この操舵用モータで従動輪の向きを制御することにより、走行装置20全体の進行方向を調整することも可能である。この場合、駆動輪(後輪)を回転させる2つのモータは独立制御する必要はなく、単純に同じ回転数かつ同じ回転方向とすればよい。走行装置20の進行方向は従動輪の向きによって決まることとなる。その他、走行装置20の走行制御手段は公知のものを採用することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
10…走行路 11…鏡面
12…フィルム 13…誘導線
20…走行装置 21…制御装置
21a…プロセッサ 21b…メモリ
21c…通信モジュール 21d…駆動制御回路
21e…センサ制御回路 21f…発光制御回路
22…第1モータ 23…第2モータ
24…第1車輪 25…第2車輪
26…従動輪 27…センサ
27a…投光部 27b…受光部
28…発光素子 30…カバー
100…走行システム
【要約】 (修正有)
【課題】走行装置が鏡面上を自律走行するシステムに関する。
【解決手段】走行路10及びその上を走行する走行装置20を備えるシステム100に関する。走行路10は、鏡面11と、この鏡面上に設けられ可視領域外における特定波長の光を遮断するフィルム12と、このフィルム12上に設けられ特定波長の光を反射する誘導線13を含む。走行装置20は、特定波長の光を照射して誘導線13を検知するセンサと、このセンサの検知情報に基づいて誘導線13に沿って走行する走行制御手段を含む。
【選択図】
図1