(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】抗体精製
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20240306BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20240306BHJP
C07K 1/18 20060101ALI20240306BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K1/22
C07K1/18
C12N15/13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019031207
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2022-02-21
(32)【優先日】2018-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593141953
【氏名又は名称】ファイザー・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100133927
【氏名又は名称】四本 能尚
(74)【代理人】
【識別番号】100137040
【氏名又は名称】宮澤 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100147186
【氏名又は名称】佐藤 眞紀
(74)【代理人】
【識別番号】100174447
【氏名又は名称】龍田 美幸
(74)【代理人】
【識別番号】100185960
【氏名又は名称】池田 理愛
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー イスクラ
(72)【発明者】
【氏名】アシュレイ マーガレット サクラモ
【審査官】大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/024896(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/166629(WO,A1)
【文献】Prep. Biochem. Biotechnol.,2016年,46(3),pp.215-221
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重特異性抗体を精製する方法であって、
A)ロード緩衝液中の抗体調製物を、ヒドロキシアパタイト(HA)樹脂上にロードするステップであって、
抗体調製物は、I)目的のインタクトな二重特異性抗体;およびII)目的のインタクトな二重特異性抗体からの分解産物であり、目的のインタクトな二重特異性抗体の質量とは1%未満異なる質量を有する目的の二重特異性抗体のクリップ型バージョン
を含む、ステップ;
B)ロードされたHA樹脂を
10から50mMの濃度のリン酸イオンを含む洗浄緩衝液で洗浄するステップ、ならびに
C)
40から100mMの濃度のリン酸イオンを含む溶出緩衝液を用いてHA樹脂から目的のインタクトな二重特異性抗体を溶出させるステップであって、イオンの濃度は、
洗浄緩衝液よりも増加している、
ステップ
を含む方法であって、
ここでロード緩衝液、洗浄緩衝液、および溶出緩衝液のうち少なくとも一つの緩衝液のpHは7.0と8.0の間であり、
さらにここで二重特異性抗体が抗BCMAアームおよび抗CD3アームを含む抗BCMA/抗CD3二重特異性抗体であり
かつIgG2アイソタイプであり、
(a)該抗CD3アームが、i)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH領域)および配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL領域);またはii)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖、のうち少なくとも1つを含み、
(b)該抗BCMAアームが、i)配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むVL領域;またはiv)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖、
のうち少なくとも1つを含
み、
ここで、該クリップ型バージョンが、抗CD3重鎖のペプチド結合における切断を含み、ここで該切断は、抗CD3アームの、抗CD3重鎖可変領域および/または抗CD3重鎖の「RG」配列中のアミノ酸RとGとの間で生じるものである、
方法。
【請求項2】
二重特異性抗体を精製する請求項1に記載の方法であって、抗体調製物中のクリップ型二重特異性抗体の分子対インタクトな二重特異性抗体の分子の比は1:50から1:5の間であるステップを含む方法。
【請求項3】
二重特異性抗体を精製する請求項
1または2に記載の方法であって、更に、HA樹脂から溶出された精製された画分を収集するステップであって、精製された画分は、
目的のインタクトな二重特異性抗体を含む、ステップ
を含む方法。
【請求項4】
抗体調製物が、5g/Lと20g/Lとの間の樹脂上密度になるように、HA樹脂上にロードされる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1グラムの抗体調製物がHA樹脂上にロードされる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
抗体調製物が、少なくとも50質量%であるが95質量%未満の目的のインタクトな抗体を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
精製された画分が目的のインタクトな抗体を含み、少なくとも9 5 質量% 、9 6 質量% 、9 7 質量% 、9 8 質量% または9 9 質量% の目的のインタクトな抗体を含む、請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
精製された画分が、インタクトな二重特異性抗体およびクリップ型二重特異性抗体を含み、さらに、精製された画分中のクリップ型二重特異性抗体分子対インタクトな二重特異性抗体分子の比が1 : 1 0 0 以下である、請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
クリップ型抗体が、抗体のポリペプチド鎖中に切断されたペプチド結合を有し、切断されたペプチド結合が、抗体の重鎖中にある、請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
クリップ型抗体が、インタクトな抗体と同じ数のアミノ酸および同じアミノ酸配列を含む、請求項1から
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
クリップ型抗体が、インタクトな抗体とは異なる数のアミノ酸を含む、請求項1から
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
HA樹脂がセラミックヒドロキシアパタイト(cHA)樹脂である、請求項1から
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
リン酸イオンの濃度が、溶出の間に40mMから100mMまで増加する、請求項1から
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
抗体調製物が、i)プロテインA樹脂およびii)イオン交換樹脂のうち少なくとも1つ以上に以前にロードされそこから溶出されたタンパク質を含む、請求項1から
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
抗体が、医薬としての使用のためまたは医薬の調製における使用のために単離および/または精製される、請求項1から
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法であって、抗BCMA/抗CD3二重特異性抗体の:
(a)該抗CD3アームが、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖および配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含み、
(b)該抗BCMAアームが、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖および配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その内容の全体が参照によって本明細書に組み込まれる、2018年2月27日に出願された米国仮特許出願第62/635,943号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、抗体分解産物などの不純物から抗体を精製するための方法に関する。本明細書に開示された精製方法には、ヒドロキシアパタイト樹脂の使用が関与する。
【背景技術】
【0003】
抗体は、医学、診断、産業などの使用のための重要な生物学的分子である。例えば、抗体のサイズおよび分子の複雑さに起因して、多くの方法および試薬が抗体の組換え産生のために利用可能であるが、特に、大規模/産業規模の産生レベルで目的の組換え抗体を効率的に産生および精製することは、しばしば、依然として困難である。
【0004】
例えば、目的の組換え抗体の産生の間、時折、目的の抗体と関連する分解産物が生じ得る;この分解産物は、望ましくない不純物である。この分解産物は、目的の抗体と非常に類似したいくつかの分子特性(例えば、同一またはほぼ同一のアミノ酸配列または質量)を有し得る。目的のインタクトな抗体と抗体の分解されたバージョンとの間の分子類似性に起因して、分解された抗体からインタクトな抗体を効率的に分離することは非常に困難であり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国仮特許出願第62/635,943号
【文献】国際特許出願番号PCT/US2011/036419(WO2011/143545)
【文献】国際特許出願番号PCT/IB2011/054899(WO2012/059882)
【文献】米国特許出願第15/085,644号(米国公開第20160297885号)
【文献】米国特許出願第15/993,874号(米国公開第20180346601号)
【非特許文献】
【0006】
【文献】Sureshら、Methods in Enzymology 121:210、1986
【文献】MillsteinおよびCuello、Nature 305、537~539、1983
【文献】Gieseら、Biotechnology Progress、「Bispecific Antibody Process Development:Assembly and Purification of Knob and Hole Bispecific Antibodies」、2018年1月17日
【文献】Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版(Sambrookら、1989)Cold Spring Harbor Press
【文献】Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編、1984)
【文献】Methods in Molecular Biology、Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis編、1998)Academic Press
【文献】Animal Cell Culture(R.I.Freshney編、1987)
【文献】Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.MatherおよびP.E.Roberts、1998)Plenum Press
【文献】Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle、J.B.GriffithsおよびD.G.Newell編、1993~1998)J.Wiley and Sons
【文献】Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.)
【文献】Handbook of Experimental Immunology(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編)
【文献】Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.MillerおよびM.P.Calos編、1987)
【文献】Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubelら編、1987)
【文献】PCR:The Polymerase Chain Reaction、(Mullisら編、1994)
【文献】Current Protocols in Immunology(J.E.Coliganら編、1991)
【文献】Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons、1999)
【文献】Immunobiology(C.A.JanewayおよびP.Travers、1997)
【文献】Antibodies(P.Finch、1997)
【文献】Antibodies:a practical approach(D.Catty.編、IRL Press、1988~1989)
【文献】Monoclonal antibodies:a practical approach(P.ShepherdおよびC.Dean編、Oxford University Press、2000)
【文献】Using antibodies:a laboratory manual(E.HarlowおよびD.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press、1999)
【文献】The Antibodies(M.ZanettiおよびJ.D.Capra編、Harwood Academic Publishers、1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、不純物からの抗体の精製のための新たな改善された方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つまたは複数の不純物から目的の抗体を精製するための方法が、本明細書で提供される。
【0009】
一部の実施形態では、抗体を精製する方法であって、A)ロード緩衝液中の抗体調製物を、ヒドロキシアパタイト(HA)樹脂上にロードするステップであって、抗体調製物は、I)目的のインタクトな抗体、およびII)目的のインタクトな抗体からの分解産物であり、目的のインタクトな抗体の質量とは10%未満異なる質量を有する目的の抗体のクリップ型バージョンを含む、ステップ;ならびにB)溶出緩衝液を用いてHA樹脂から目的のインタクトな抗体を溶出させるステップを含む方法が、本明細書で提供される。
【0010】
一部の実施形態では、二重特異性抗体を精製する方法であって、A)ロード緩衝液中の抗体調製物を、ヒドロキシアパタイト(HA)樹脂上にロードするステップであって、抗体調製物は、I)目的のインタクトな二重特異性抗体;およびII)少なくとも1つの不純物種を含み、不純物種は、a)目的のインタクトな二重特異性抗体からの分解産物であり、目的のインタクトな二重特異性抗体の質量とは10%未満異なる質量を有する目的の二重特異性抗体のクリップ型バージョン;b)インタクトな二重特異性抗体の第1のアームと同じ抗原特異性を有する単一特異性抗体である第1の親抗体;c)インタクトな二重特異性抗体の第2のアームと同じ抗原特異性を有する単一特異性抗体である第2の親抗体;およびd)高分子質量種(HMMS)からなる群から選択される、ステップ;ならびにB)溶出緩衝液を用いてHA樹脂から目的のインタクトな二重特異性抗体を溶出させるステップを含む方法が、本明細書で提供される。
【0011】
一部の実施形態では、二重特異性抗体を精製する方法であって、A)ロード緩衝液中の抗体調製物を、ヒドロキシアパタイト(HA)樹脂上にロードするステップであって、I)抗体調製物は、a)目的のインタクトな二重特異性抗体、およびb)目的のインタクトな二重特異性抗体からの分解産物であり、目的のインタクトな二重特異性抗体の質量とは10%未満異なる質量を有する目的の二重特異性抗体のクリップ型バージョンを含み;II)抗体調製物中のクリップ型二重特異性抗体の分子対インタクトな二重特異性抗体の分子の比は、少なくとも1:50と1:5以下との間である、ステップ;B)溶出緩衝液を用いてHA樹脂からインタクトな二重特異性抗体を溶出させるステップを含む方法が、本明細書で提供される。一部の実施形態では、この方法は、C)HA樹脂から溶出された精製された画分を収集するステップであって、精製された画分は、インタクトな二重特異性抗体を含む、ステップをさらに含む。
【0012】
一部の実施形態では、抗体を精製する方法であって、A)ロード緩衝液中の抗体調製物を、ヒドロキシアパタイト(HA)樹脂上にロードするステップであって、I)抗体調製物は、a)目的のインタクトな抗体およびb)目的のインタクトな抗体からの分解産物であり、目的のインタクトな抗体の質量とは10%未満異なる質量を有する目的の抗体のクリップ型バージョンを含み;II)抗体のクリップ型バージョンは、抗体調製物の少なくとも1質量%、2質量%、3質量%、4質量%、5質量%、6質量%、7質量%、8質量%、9質量%、10質量%、15質量%または20質量%を構成する、ステップ;B)溶出緩衝液を用いてHA樹脂からインタクトな抗体を溶出させるステップ、ならびにC)HA樹脂から溶出された精製された画分を収集するステップであって、精製された画分は、インタクトな抗体を含み、1質量%、2質量%、3質量%、4質量%、5質量%、6質量%、7質量%、8質量%、9質量%、10質量%、15質量%または20質量%未満のクリップ型抗体を含み、精製された画分は、抗体調製物よりも低い質量%のクリップ型抗体を含む、ステップを含む方法が、本明細書で提供される。
【0013】
一部の実施形態では、溶出緩衝液を用いてHA樹脂から目的の抗体を溶出させるステップが関与する本明細書で提供される方法では、この溶出緩衝液は、イオンを含む。緩衝液中のイオンの濃度は、溶出の間に増加してもよい。HA樹脂周囲の緩衝液中のイオンの濃度は、溶出の間に増加してもよい。
【0014】
一部の実施形態では、抗体が関与する本明細書で提供される方法では、この抗体は、ヘテロダイマー性二重特異性抗体である。
【0015】
一部の実施形態では、HA樹脂から溶出された精製された画分を収集するステップであって、精製された画分が目的のインタクトな抗体を含むステップが関与する本明細書で提供される方法では、この精製された画分は、少なくとも80質量%、90質量%、95質量%、96質量%、97質量%、98質量%または99質量%の目的のインタクトな抗体を含む。
【0016】
一部の実施形態では、インタクトな二重特異性抗体およびクリップ型二重特異性抗体を含む精製された画分が関与する本明細書で提供される方法では、精製された画分中のクリップ型二重特異性抗体分子対インタクトな二重特異性抗体分子の比は、1:400、1:200、1:100または1:50以下である。
【0017】
一部の実施形態では、抗CD3抗体であるまたは抗CD3アームを含む二重特異性抗体である目的の抗体が関与する本明細書で提供される方法では、この抗体は、i)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むVH領域;ii)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖;iii)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むVL領域;またはiv)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖、のうち少なくとも1つを含む。
【0018】
一部の実施形態では、二重特異性抗体が関与する本明細書で提供される方法では、この二重特異性抗体は、i)抗BCMAアームおよび抗CD3アームを含む抗BCMA/抗CD3二重特異性抗体、またはii)抗FLT3アームおよび抗CD3アームを含む抗FLT3/抗CD3二重特異性抗体である。
【0019】
一部の実施形態では、抗BCMAアームを含む二重特異性抗体が関与する本明細書で提供される方法では、この抗BCMAアームは、i)配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むVH領域;ii)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む重鎖;iii)配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むVL領域;またはiv)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖、のうち少なくとも1つを含む。
【0020】
一部の実施形態では、抗FLT3アームを含む二重特異性抗体が関与する本明細書で提供される方法では、この抗FLT3アームは、i)配列番号9に示されるアミノ酸配列を含むVH領域;ii)配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む重鎖;iii)配列番号9に示されるアミノ酸配列を含むVH領域および配列番号11に示されるアミノ酸配列を含むVL領域;またはiv)配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖、のうち少なくとも1つを含む。
【0021】
一部の実施形態では、抗体調製物をHA樹脂上にロードするステップが関与する本明細書で提供される方法では、この抗体調製物は、2、3、4または5g/Lと8、9、10、12、15または20g/Lとの間の樹脂上密度になるように、HA樹脂上にロードされる。
【0022】
一部の実施形態では、抗体調製物をHA樹脂上にロードするステップが関与する本明細書で提供される方法では、少なくとも1、5、10、50、100、500、1000または5000グラムの抗体調製物が、HA樹脂上にロードされる。
【0023】
一部の実施形態では、抗体調製物が関与する本明細書で提供される方法では、この抗体調製物は、少なくとも50質量%、60質量%、70質量%または80質量%であるが90質量%、95質量%、97質量%、98質量%または99質量%未満の目的のインタクトな抗体を含む。
【0024】
一部の実施形態では、クリップ型抗体が関与する本明細書で提供される方法では、このクリップ型抗体は、インタクトな抗体の質量とは0.1%、0.5%、1%または2%未満異なる質量を有する。一部の実施形態では、クリップ型抗体が関与する本明細書で提供される方法では、このクリップ型抗体は、インタクトな抗体の質量よりも約5ダルトンと100ダルトンとの間だけ大きい質量を有する。一部の実施形態では、クリップ型抗体が関与する本明細書で提供される方法では、このクリップ型抗体は、インタクトな抗体の質量よりも約18ダルトン大きい質量を有する。
【0025】
一部の実施形態では、クリップ型抗体が関与する本明細書で提供される方法では、このクリップ型抗体は、抗体のポリペプチド鎖中に切断されたペプチド結合を有し、切断されたペプチド結合は、抗体の重鎖中にある。一部の実施形態では、クリップ型抗体が関与する本明細書で提供される方法では、このクリップ型抗体は、抗体のポリペプチド鎖中に切断されたペプチド結合を有し、切断されたペプチド結合は、抗体の軽鎖中にある。
【0026】
一部の実施形態では、クリップ型抗体が関与する本明細書で提供される方法では、このクリップ型抗体は、インタクトな抗体と同じ数のアミノ酸および同じアミノ酸配列を含む。あるいは、一部の実施形態では、このクリップ型抗体は、インタクトな抗体とは異なる数のアミノ酸を含む。
【0027】
一部の実施形態では、CD3に特異的に結合するVHおよびVLドメインを含む目的の抗体が関与する本明細書で提供される方法では、対応するクリップ型抗体は、CD3に特異的に結合するVHドメイン中に切断されたペプチド結合を含む。
【0028】
一部の実施形態では、HA樹脂が関与する本明細書で提供される方法では、このHA樹脂はセラミックヒドロキシアパタイト(cHA)樹脂である。
【0029】
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法では、抗体調製物をHA樹脂上にロードするステップの後であるがインタクトな二重特異性抗体を樹脂から溶出させるステップの前に、HA樹脂は、リン酸イオンを含む洗浄緩衝液で洗浄される。この洗浄緩衝液は、約5、10、15、20mMと30、40または50mMとの間の濃度でリン酸イオンを含んでいてもよい。
【0030】
一部の実施形態では、イオンを含む溶出緩衝液が関与する本明細書で提供される方法では、このイオンはリン酸である。一部の実施形態では、溶出の間のリン酸イオンの濃度は、約30、40または50mMから約60、70、80、100、150または200mMまで増加し得る。
【0031】
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法では、ロード緩衝液、洗浄緩衝液および溶出緩衝液のうち少なくとも1つのpHは、約pH7.0および8.0である、または約pH7.0と8.0との間である。
【0032】
一部の実施形態では、抗体調製物が関与する本明細書で提供される方法では、この抗体調製物は、i)プロテインA樹脂およびii)イオン交換樹脂のうち少なくとも1つ上に以前にロードされそこから溶出されたタンパク質を含む。この抗体調製物は、i)プロテインA樹脂およびii)イオン交換樹脂の両方上に以前にロードされそこから溶出されたタンパク質を含んでいてもよい。
【0033】
一部の実施形態では、本明細書に記載される方法を使用して調製された抗体は、医薬としての使用のためまたは医薬の調製における使用のために単離および/または精製される。
【0034】
一部の実施形態では、本明細書に記載される方法を使用して調製された抗体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本明細書で提供される方法に従って精製され得る二重特異性抗体を調製する方法の模式図を示す。
【
図2】例示的なi)インタクトな二重特異性抗体(左側のパネル)およびii)二重特異性抗体のクリップ型バージョン(右側のパネル)の模式図を示し、このクリップ型二重特異性抗体は、インタクトな二重特異性抗体と共に抗体調製物中に存在し得る不純物である。
【
図3】HA樹脂からの溶出を介した、複数の異なる不純物からの目的の抗BCMA/抗CD3二重特異性抗体(「POI」)の分離を示すクロマトグラムを示す。
【
図4】
図3のクロマトグラムに示されるHAクロマトグラフィー実行に従ってHA樹脂から溶出された異なる画分中の異なるタンパク質種(目的の抗体および種々の不純物を含む)の相対的な量を示すグラフを示す。
【
図5】HA樹脂からの溶出を介した、複数の異なる不純物からの目的の抗BCMA/抗CD3二重特異性抗体(「POI」)の分離を示すクロマトグラムを示す。
【
図6】
図5のクロマトグラムに示されるHAクロマトグラフィー実行に従ってHA樹脂から溶出された異なる画分中の異なるタンパク質種(目的の抗体および種々の不純物を含む)の相対的な量を示すグラフを示し、このとき、目的の抗BCMA/抗CD3二重特異性抗体は、HA樹脂からの溶出を介して、複数の異なる不純物から分離される。
【
図7】HAクロマトグラフィー実行に従ってHA樹脂から溶出された異なる画分中の異なるタンパク質種(目的の抗体および種々の不純物を含む)の相対的な量を示すグラフを示し、このとき、目的の抗FLT3/抗CD3二重特異性抗体は、HA樹脂からの溶出を介して、複数の異なる不純物から分離される。
【発明を実施するための形態】
【0036】
1つまたは複数の不純物から目的の抗体を精製するための方法が、本明細書で提供される。本明細書で提供される方法には、不純物から目的の抗体を分離するためのヒドロキシアパタイト樹脂の使用が関与する。一部の実施形態では、この目的の抗体は二重特異性抗体である。一部の実施形態では、不純物は、目的の抗体と関連する抗体である(即ち、目的の抗体と類似または同じアミノ酸配列(複数可)を有する)が、目的の抗体と比較して1つまたは複数の方法で改変され、目的の抗体とは異なる質量を有する。抗体不純物種の質量は、目的の抗体の質量と非常に類似していてもよい。例えば、一部の実施形態では、抗体不純物種の質量は、目的の抗体の質量とは5%、2%、1%、0.5%、0.2%、0.1%、0.05%、0.02%または0.01%未満異なる。本明細書で提供される方法は、1つまたは複数の不純物からの目的の抗体の大規模精製のために使用してもよい。
【0037】
定義
特に定義しない限り、本明細書で使用される当該分野の全ての用語、表記法および他の科学用語または用語法は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味を有することを意図する。一部の例では、一般に理解される意味を有する用語は、明確さのためおよび/またはすぐに参照できるように本明細書で定義され、本明細書にかかる定義を含めることは、当該分野で一般的に理解される定義にまつわる実質的な差異を表すとかならずしも解釈すべきではない。
【0038】
以下の用語は、特に示さない限り、以下の意味を有すると理解するものとする:
「抗体」は、免疫グロブリン分子の可変領域中に位置する少なくとも1つの抗原認識部位を介して、標的、例えば、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、ポリペプチドなどに特異的に結合することが可能な免疫グロブリン分子である。本明細書で使用する場合、この用語は、インタクトなポリクローナルまたはモノクローナル抗体だけでなく、その断片(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv)、単鎖(ScFv)およびドメイン抗体(例えば、サメおよびラクダ科動物(camelid)抗体を含む)、ディアボディ(diabody)、および抗体を含む融合タンパク質、ならびに抗原認識部位を含む免疫グロブリン分子の任意の他の改変された立体配置もまた包含する。用語「抗体」は、単一特異性、二重特異性および多特異性抗体を含む。抗体は、任意のクラス、例えば、IgG、IgAまたはIgM(またはそれらのサブクラス)の抗体を含み、抗体は、任意の特定のクラスのものである必要はない。その重鎖の定常領域の抗体アミノ酸配列に依存して、免疫グロブリンは、異なるクラスに割当てられ得る。5つの主要なクラスの免疫グロブリン:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMが存在し、これらのうちいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2へとさらに分割され得る。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常領域は、それぞれ、アルファ、デルタ、イプシロン、ガンマおよびミューと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元立体配置は、周知である。
【0039】
本明細書で使用する場合、用語「重鎖」、「軽鎖」、「可変領域」または「可変ドメイン」、「フレームワーク領域」、「定常ドメイン」などは、免疫学の分野におけるそれらの通常の意味を有し、天然に存在する免疫グロブリン中のドメインおよび組換え結合タンパク質(例えば、ヒト化抗体、二重特異性抗体、単鎖抗体、キメラ抗体など)の対応するドメインを指す。天然に存在する免疫グロブリンの基礎的な構造単位は、約150,000Daの糖タンパク質として通常発現される、2つの軽鎖および2つの重鎖を有するテトラマーである。各鎖のアミノ末端(N末端)部分は、抗原認識を主に担う、約100~110またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端(C末端)部分は、定常領域を規定する。各軽鎖は、軽鎖可変ドメイン(VL)および軽鎖定常ドメイン(CL)から構成される。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)、ならびにCH1、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを有する重鎖定常領域から構成される。IgG分子の可変領域は、抗原と接触する残基を含む、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域、および構造をおおまかに維持し、CDRループの位置決めを決定する、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる非CDRセグメント(ある特定のフレームワーク残基もまた、抗原を接触し得るが)を含む。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端へと以下の構造で配置された、3つのCDRおよび4つのFRを含む:n-FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4-c。免疫グロブリン分子は、任意の型(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)およびクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスのものであり得る。
【0040】
「二重特異性」または「二重-特異性」は、2つの異なる抗原結合部位を有するハイブリッド抗体である。二重特異性抗体の2つの抗原結合部位は、同じまたは異なるタンパク質標的上に存在し得る2つの異なるエピトープに結合する。
【0041】
「インタクトな」抗体とは、組換え抗体の予測されたペプチド結合およびアミノ酸(即ち、抗体のポリペプチド(複数可)をコードする核酸配列(複数可)に基づいて予測される)の全てを含む組換え抗体を指す。対照的に、「クリップ型」抗体とは、対応する「インタクトな」抗体と比較して少なくとも1つのペプチド結合を欠く、対応する「インタクトな」抗体のバージョンを指す。「目的の抗体」に対する本明細書の言及は、文脈が他を明確に示さない限り、目的のインタクトな抗体を一般に指す。
【0042】
「約」ある値またはパラメーターに対する本明細書の言及は、その値またはパラメーター自体に関する実施形態、ならびにそのパラメーターについて述べられた数値を10%下回り得るまたは上回り得る値またはパラメーターを含む。例えば、「約5mg」に対する言及は、5mgを含み、4.5mgと5.5mgとの間の任意の値もまた含む。
【0043】
方法
本明細書で提供される方法は、1つまたは複数の不純物から目的の抗体を精製するために使用され得る。本明細書で提供される方法では、目的の抗体および1つまたは複数の不純物分子を含む抗体調製物(本明細書で「出発サンプル」とも呼ばれる)は、目的の抗体および任意選択により1つまたは複数の不純物分子に結合するヒドロキシアパタイト(HA)樹脂上にロードされる。次いで、このHA樹脂は、任意のゆるく結合した不純物を除去するために洗浄される(一部の実施形態では、全ての不純物分子がHA樹脂を通って流れ得、HA樹脂には結合しない)。次に、目的の抗体は、漸増するリン酸イオン濃度の勾配を介して、樹脂上に典型的には導入されるリン酸溶出緩衝液を使用してHA樹脂から溶出される。HA樹脂からの目的の抗体の溶出は、目的の抗体を含み、出発サンプル中に目的の抗体と共に存在した不純物をわずかに含む(または全く含まない)精製されたサンプルを生じる。HA樹脂からの目的の抗体の溶出の間に、HA樹脂に結合した任意の不純物分子もまた、漸増するリン酸イオン濃度の勾配の間のいくつかのポイントにおいて溶出し得る。しかし、目的の抗体が溶出プロセスの間に不純物分子から効率的に分離され得るように、不純物分子は、目的の抗体の溶出の条件とは十分に異なる条件下でHA樹脂から溶出する。上の方法ステップならびに関連する材料およびステップについてのさらなる詳細は、以下に提供される。
【0044】
ヒドロキシアパタイト樹脂
種々のヒドロキシアパタイト樹脂が市販されており、任意の入手可能な形態の材料が、本明細書で提供される方法で使用され得る。ヒドロキシアパタイトは、結晶形態にあってもよい。ヒドロキシアパタイトは、粒子を形成するように集塊化され、安定な多孔性セラミック塊へと高温で焼結してもよい。
【0045】
一部の実施形態では、本明細書で提供されるHA樹脂は、セラミックヒドロキシアパタイト(cHA)樹脂である。「セラミックヒドロキシアパタイト」/「cHA」とは、球状のマクロ多孔性セラミックへと高温で焼結された、式Ca10(PO4)6(OH)2の不溶性ヒドロキシル化リン酸カルシウムを指す。本明細書で使用する場合、「セラミックヒドロキシアパタイト」/「cHA」は、I型およびII型のセラミックヒドロキシアパタイトを包含するがこれらに限定されず、特に明記しない限り、任意の適切な粒子サイズもまた包含する。本明細書で提供される方法で使用され得る典型的なcHA粒子サイズには、例えば、直径が1~100μmの間または1~1000μmの間、例えば、20μm、40μmまたは80μmの粒子サイズが含まれる。本明細書で提供される方法で使用され得る例示的なcHA樹脂には、CHT(商標)I型およびII型樹脂(Bio-Rad)が含まれる。「HA樹脂」などに対する本明細書の任意の言及は、cHA樹脂を包含する。
【0046】
典型的には、本明細書で提供される方法では、このHA樹脂は、1つまたは複数のクロマトグラフィーカラム中で提供される。カラム特性、例えば、カラムの直径、長さおよび充填密度は、特定の精製計画の要求(即ち、精製されるタンパク質の量)、ならびにカラムにおいて使用されるHA樹脂に関する要因、例えば、そのポアサイズ、粒子サイズ、圧縮性、ロード能および動的結合能を含む種々の要因に基づいて選択され得る。さらに、本明細書で提供される方法は、クロマトグラフィーカラム中のHA樹脂に関して頻繁に記載される;しかし、この樹脂についての他の適切な関連の立体配置は排除されない。また、「HAカラム」などに対する本明細書の言及は、HA樹脂が充填されたクロマトグラフィーカラムを指す。
【0047】
タンパク質ロードの前にHAカラムを平衡化する
一部の実施形態では、目的の抗体を含むサンプルをHAカラム上にロードするステップの前に、本明細書で提供される方法は、1つまたは複数の平衡化緩衝液(複数可)を用いてカラムを事前平衡化するステップを含み得る。これらの平衡化緩衝液は、例えば、方法の開始時にHA樹脂がきれいであることを確実にするため(即ち、樹脂が、樹脂に既に結合した不純物を有さないことを確実にするため)、および/またはHA樹脂を取り囲む溶液が、樹脂上にロードされるサンプルと適合性であることを確実にするために、カラム上に導入され得る。
【0048】
一部の実施形態では、平衡化緩衝液は、例えばリン酸ナトリウムを含むリン酸緩衝液であり、緩衝液中のリン酸イオンの濃度は、約100~500mMである。かかる平衡化緩衝液は、本明細書で「高リン酸平衡化緩衝液」などとも呼ばれ得る。例えば、ある実施形態では、高リン酸平衡化緩衝液は、約250~450mMのリン酸イオンを含み得;他の実施形態では、約200、250、300、350、400または450mMのリン酸イオンを含み得る。この平衡化緩衝液は、HA樹脂上に既に存在する任意の混入物/不純物(即ち、目的のタンパク質を含むサンプルが樹脂上にロードされる前に存在する;かかる不純物は、例えば、HA樹脂が精製方法のために以前に使用され、以前の使用の後に樹脂が完全には浄化されなかった場合に存在し得る)を溶出させるために、緩衝液中に比較的高い濃度のリン酸イオンを含む。高リン酸平衡化緩衝液は、約6.0~9.0のpHを有し得る。例えば、ある実施形態では、高リン酸平衡化緩衝液は、約7.0~8.0のpHを有し得;他の実施形態では、約7.0、7.5または8.0のpHを有し得る。一実施形態では、高リン酸平衡化緩衝液は、約400mMのリン酸イオンを含み、約7.5のpHを有する。一部の実施形態では、高リン酸平衡化緩衝液は、本明細書で「平衡化緩衝液1」とも呼ばれ得る。
【0049】
一部の実施形態では、平衡化緩衝液は、例えばリン酸ナトリウムを含むリン酸緩衝液であり、緩衝液中のリン酸イオンの濃度は、約1~20mMである。かかる平衡化緩衝液は、本明細書で「低リン酸平衡化緩衝液」などとも呼ばれ得る。例えば、ある実施形態では、低リン酸平衡化緩衝液は、約1~10mMのリン酸イオンを含み得;他の実施形態では、約1、2、3、4、5または10mMのリン酸イオンを含み得る。この平衡化緩衝液は、目的のタンパク質が樹脂に結合するのに資する条件をHA樹脂の周囲に生成するために、緩衝液中に比較的低い濃度のリン酸イオンを含む。低リン酸平衡化緩衝液は、約1~50mMの濃度でHEPESをさらに含んでいてもよい。例えば、ある実施形態では、低リン酸平衡化緩衝液は、約2~30mMのHEPESを含み得;他の実施形態では、約5、10、15、20または25mMのHEPESを含み得る。低リン酸平衡化緩衝液は、約6.0~9.0のpHを有し得る。例えば、ある実施形態では、低リン酸平衡化緩衝液は、約7.0~8.0のpHを有し得;他の実施形態では、約7.0、7.5または8.0のpHを有し得る。一実施形態では、低リン酸平衡化緩衝液は、約2mMのリン酸イオン、20mMのHEPESを含み、約7.5のpHを有する。一部の実施形態では、低リン酸平衡化緩衝液は、本明細書で「平衡化緩衝液2」とも呼ばれ得る。しかし、重要なことに、本明細書で提供される方法を用いる場合、低リン酸平衡化緩衝液は、この方法の間の高リン酸平衡化緩衝液の事前の使用を伴わずに、樹脂を事前平衡化するために使用され得る。
【0050】
目的の抗体を含むサンプルをHAカラムにロードする
HAカラムがタンパク質ロードに備えた状態になると、目的の抗体および不純物を含むサンプルがHAカラム上にロードされる。サンプルがその中でHAカラム上にロードされる緩衝液は、本明細書で「ロード緩衝液」と呼ばれ得る。一部の実施形態では、目的の抗体を含むサンプルが本明細書で提供される方法での使用のために最初に取得される場合、このサンプルは既に、サンプルをHAカラム上にロードするのに適切なロード緩衝液中にある。しかし、他の実施形態では、このサンプルがカラム上へのロードのために適切な緩衝液中にあるようにサンプルの緩衝液条件を改変するために、サンプルをHAカラム上にロードする前に、サンプルは処理(例えば、希釈、濃縮または緩衝液交換)され得る。例えば、本明細書で提供される方法を用いる場合、ロード緩衝液は、HA樹脂への目的の抗体の結合を妨害する高い濃度のリン酸イオンを有することができない。従って、目的の抗体を含む初期サンプルが高い濃度のリン酸イオンを含む場合、そのサンプルは、サンプル中のリン酸イオンの濃度が、HA樹脂への目的の抗体の結合を可能にする適切に低い濃度まで低減されるまで、例えば、希釈または緩衝液交換される必要がある。
【0051】
一部の実施形態では、ロード緩衝液は、約10mM以下のリン酸イオンを含む。例えば、一部の実施形態では、ロード緩衝液は、約10mM、5mM、4mM、3mM、2mMまたは1mM未満のリン酸イオンを含む。一部の実施形態では、ロード緩衝液は、0mMのリン酸イオンを含む。ロード緩衝液は、種々の他の塩または緩衝液成分(例えば、Tris、グリシン)を含んでいてもよい。ロード緩衝液は、約6.0~9.0のpHを有し得る。例えば、ある実施形態では、ロード緩衝液は、約7.0~8.0のpHを有し得;他の実施形態では、約7.0、7.5または8.0のpHを有し得る。
【0052】
一部の実施形態では、目的の抗体を含むサンプルは、少なくとも1g/L、2g/L、3g/L、4g/L、5g/L、6g/L、7g/L、8g/L、9g/L、10g/L、12g/L、15g/L、20g/L、25g/Lまたは30g/Lの樹脂上密度になるように、HA樹脂上にロードされ得る。一部の実施形態では、目的の抗体を含むサンプルは、少なくとも1g/L、2g/L、3g/L、4g/L、5g/L、6g/L、7g/L、8g/L、9g/L、10g/L、12g/L、15g/L、20g/Lまたは25g/Lと2g/L、3g/L、4g/L、5g/L、6g/L、7g/L、8g/L、9g/L、10g/L、12g/L、15g/L、20g/L、25g/Lまたは30g/L以下との間の樹脂上密度になるように、HA樹脂上にロードされ得、ここで、2番目の値は、最初の値よりも大きい。
【0053】
HAカラムを洗浄する
目的の抗体および不純物を含むサンプルをHAカラム上にロードするステップの後であるが、目的の抗体の溶出の前に、本明細書で提供される方法は、例えば、非特異的に固定化された不純物を除去するため、または溶出ステップのためにカラムを他の方法で準備もしくは平衡化するために、ロードされたカラムを1つまたは複数の洗浄緩衝液(複数可)で洗浄するさらなるステップを含んでいてもよい。任意の洗浄緩衝液の特性は、当業者によって決定され得る。一実施形態では、この洗浄緩衝液は、例えばリン酸ナトリウムを含むリン酸緩衝液であり、緩衝液中のリン酸イオンの濃度は、約5~50mMである。例えば、ある実施形態では、洗浄緩衝液は、約10~40mMのリン酸イオンを含み得;他の実施形態では、約10、20、30、40または50mMのリン酸イオンを含んでいてもよい。洗浄緩衝液は、約1~50mMの濃度でHEPESをさらに含み得る。例えば、ある実施形態では、洗浄緩衝液は、約2~30mMのHEPESを含み得;他の実施形態では、約5、10、15、20または25mMのHEPESを含み得る。洗浄緩衝液は、約6.0~9.0のpHを有し得る。例えば、ある実施形態では、洗浄緩衝液は、約7.0~8.0のpHを有し得;他の実施形態では、約7.0、7.5または8.0のpHを有し得る。一実施形態では、洗浄緩衝液は、約40mMのリン酸イオン、20mMのHEPESを含み、約7.5のpHを有する。
【0054】
HAカラムから目的の抗体を溶出させる
本明細書で提供される方法は、HA樹脂から結合した目的の抗体を溶出させるステップを含む。結合した目的の抗体は、1つまたは複数の溶出緩衝液によって溶出される。典型的には、この溶出緩衝液は、1種または複数種の塩またはイオンを含み、この塩またはイオンの濃度は、溶出の間に増加する。
【0055】
一部の実施形態では、本明細書で提供される溶出緩衝液は、リン酸イオンを含む。溶出緩衝液中のリン酸イオンの濃度は、溶出の間に、約20mMの初期濃度から約200mMまで増加してもよい。例えば、ある実施形態では、溶出緩衝液中のリン酸イオンの濃度は、溶出の間に、約40mMの初期濃度から約80mMまで、または約40mMから約100mMまで増加する。溶出緩衝液中のリン酸イオンの濃度を増加させる具体的な様式および速度は、目的の抗体に適切なように、そしてこれもまたHA樹脂に結合した不純物分子の型を考慮に入れて、決定され得る。例えば、溶出緩衝液中のリン酸イオンの濃度は、漸進的/浅い直線勾配で上昇され得る。浅い勾配の使用は、類似であるが異なる条件下でHA樹脂から溶出する1つまたは複数の分子の効率的な分離を可能にし得る。あるいは、一部の実施形態では、溶出緩衝液中のリン酸イオンの濃度は、急な勾配で上昇され得、または段階的に上昇され得る。溶出緩衝液は、約1~50mMの濃度でHEPESをさらに含んでいてもよい。例えば、ある実施形態では、溶出緩衝液は、約2~30mMのHEPESを含み得;他の実施形態では、約5、10、15、20または25mMのHEPESを含み得る。溶出緩衝液は、約6.0~9.0のpHを有し得る。例えば、ある実施形態では、溶出緩衝液は、約7.0~8.0のpHを有し得;他の実施形態では、約7.0、7.5または8.0のpHを有し得る。一実施形態では、溶出緩衝液は、約40~80mMの(勾配にわたって漸増する)リン酸イオン、20mMのHEPESを含み、約7.5のpHを有する。
【0056】
HA樹脂との使用に適切な溶出緩衝液の特性(例えば、緩衝液組成、pH、濃度、イオン強度など);任意の必要なステップまたは溶出緩衝液の特性における勾配変化;使用される溶出緩衝液のカラム容量数;流速などが含まれるがこれらに限定されない溶出条件は、HAカラムからの目的の抗体の溶出ならびに不純物分子からの目的の抗体の分離を最適化するために決定され得る。
【0057】
溶出後、目的の抗体を含む1つまたは複数のピーク画分は、任意選択により個々にまたは別々に収集され、任意選択によりプールされ、pHが任意選択により調整され、任意選択により濾過され、次いで、所望によるさらなる処理の前に、任意選択により貯蔵される。収集のためのピーク画分は、A280における紫外線を使用し、紫外線シグナルが所望の量を超えて上昇したときおよび/または溶出条件中の所望のポイントにおいて収集を開始する同定など、任意の適切な手段によって、同定され得る。
【0058】
HA樹脂から溶出された、目的の抗体を含む材料は、任意選択により、本明細書で「精製された画分」などと呼ばれ得る。この精製された画分は、HA樹脂から溶出された単一の画分由来の材料を含み得、または一緒にプールされたHA樹脂から溶出された複数の画分の組み合わせであり得る。典型的には、この精製された画分は、高い量の目的の抗体を収集するが低い量の不純物分子を収集する間で調和するように、調製される。例えば、目的の抗体がHA樹脂から溶出する条件と不純物分子の種がHA樹脂から溶出する条件との間には少なくとも部分的な重複が存在し得るので、これらの競合するゴールはしばしば調和させなければならない。
【0059】
本明細書で提供される方法のための緩衝液(例えば、平衡化緩衝液、ロード緩衝液、洗浄緩衝液または溶出緩衝液)のいずれかは、さらなるまたは代替的な適切な成分、例えば、アセテート、サクシネート、MES、ACES、MOPSO、PIPES、BES、TAPSO、AMPSO、TRICINE、EPPS、ビシン、DIPSO、HEPPSO、イミダゾール、Tris、Bis-tris、TAPS、アルギニン、グリシン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)または他の界面活性剤などもまた含み得る。
【0060】
一部の実施形態では、本明細書で提供される緩衝液のいずれかは、約6.0~9.0のpHを有し得る。他の実施形態では、本明細書で提供される緩衝液のいずれかは、約5.0~9.0、5.5~9.0、6.5~9.0、7.0~9.0、7.5~9.0、7.0~8.0または6.5~8.5のpHを有し得る。
【0061】
「リン酸イオン」を含むと記載される本明細書で提供される緩衝液では、リン酸イオンは、任意の適切なリン酸塩、例えば、リン酸ナトリウムまたはリン酸カリウムから、緩衝液中で生成され得る。さらに、「リン酸ナトリウム」を用いて調製されると記載される本明細書で提供される溶液は、任意の適切なリン酸ナトリウム塩(例えば、一塩基性または二塩基性)を用いて調製され得る。
【0062】
目的の抗体がHAカラムから溶出された後、このHAカラムは、不純物およびカラム樹脂を分解する他の成分を除去し、それを、使用に引き続く貯蔵のために準備するために浄化してもよい。一実施形態では、このカラムは、緩衝液、例えば、約0.4Mの濃度のリン酸ナトリウムを含み、約7.5のpHのものを使用して最初に再生され、その後、浄化溶液、例えば、約1MのNaOHおよび約0.5Mのリン酸カリウムを使用する任意選択の清浄化ステップが続き、次いで、貯蔵溶液、例えば約0.1MのNaOHを使用して貯蔵のために準備される。
【0063】
抗体
本明細書で提供される方法は、1つまたは複数の不純物から目的の抗体を精製するために使用され得る。例えば、この精製された抗体は、医薬として、または医薬の調製において使用され得る。
【0064】
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法に従って精製される抗体は、本明細書で提供される任意の型の抗体である。例えば、本明細書で提供される方法に従って精製される抗体は、全長抗体または抗体断片(例えば、scFvまたはFab)であり得、単一特異性または二重特異性であり得る。典型的には、本明細書で提供される方法に従って精製される目的の抗体は、組換え抗体である。
【0065】
IgG抗体
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法に従って精製され得る抗体は、免疫グロブリンG(IgG)抗体である。当該分野で公知のように、IgG抗体は、2つの重鎖および2つの軽鎖を含み、おおまかに「Y」形状を有する。標準的なIgG分子では、2つの重鎖は同じアミノ酸配列を有し、2つの軽鎖は同じアミノ酸配列を有する。IgG抗体は、2つの「アーム」(即ち、「第1のアーム」および「第2のアーム」)を有すると記載され得、ここで、各アームは、ジスルフィド結合によって一緒に連結された1つの重鎖および1つの軽鎖を含む。標準的なIgG分子では、抗体の第1のアームは、抗体の第2のアームと同一である(それぞれ、他方のアーム中の重鎖および軽鎖と同じアミノ酸配列を有する重鎖および軽鎖を含む各アームに起因する)。重鎖のN末端領域は、重鎖可変領域(VH)を含み、軽鎖のN末端領域は、軽鎖可変領域(VL)を含む。VHおよびVL領域は、抗原に特異的に結合する抗体の部分を含む。従って、IgG抗体の各アームは、抗原に特異的に結合できる。標準的なIgG分子では、IgG抗体の第1のアームおよび第2のアームは共に、同じ抗原に結合する(両方のアームが、同じそれぞれのアミノ酸配列を有する重鎖および軽鎖を含むという事実に起因する)。標準的なIgG抗体は、同じ2つのアームを有することに基づいて、「ホモダイマー性」であると言われ得る。本明細書で提供される方法に従って精製されるIgG抗体は、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4のものであり得る。
【0066】
二重特異性IgG抗体
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法に従って精製され得る抗体は、二重特異性IgG抗体である。二重特異性IgG抗体では、抗体の2つのアームの各々は、異なる抗原に特異的に結合する。さらに、二重特異性IgG抗体の第1のアーム中の重鎖のアミノ酸配列は、同じ二重特異性IgG抗体の第2のアーム中の重鎖のアミノ酸配列とは異なり、同様に、二重特異性IgG抗体の第1のアーム中の軽鎖のアミノ酸配列は、典型的には、同じ二重特異性IgG抗体の第2のアーム中の軽鎖のアミノ酸配列とは異なる。従って、二重特異性IgG抗体は、異なる2つのアームを有することに基づいて、「ヘテロダイマー性」であると言われ得る。二重特異性IgG抗体の第1のアームは、「第1の抗原」に対して特異的であると記述され得、二重特異性IgG抗体の第2のアームは、「第2の抗原」に対して特異的であると記述され得る。一部の実施形態では、この二重特異性抗体は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4アイソタイプを有する。一部の実施形態では、この二重特異性抗体は、免疫学的に不活性なFc領域を含む。
【0067】
二重特異性IgG抗体-作製する方法
二重特異性抗体を作製するための方法は、当該分野で公知である(例えば、Sureshら、Methods in Enzymology 121:210、1986を参照のこと)。伝統的には、二重特異性抗体の組換え産生は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の共発現に基づき、2つの重鎖は異なる特異性を有した(MillsteinおよびCuello、Nature 305、537~539、1983)。
【0068】
より最近、二重特異性ヘテロダイマー性抗体を調製するために以下の一般的なステップがとられる方法が開発されている:
1)第1のホモダイマー性抗体(本明細書で「第1の親抗体」とも呼ばれる)および第2のホモダイマー性抗体(本明細書で「第2の親抗体」とも呼ばれる)が個々に発現され、精製される。この第1のホモダイマー性抗体は、調製されている二重特異性抗体の第1の標的抗原に対して特異的であり、第2のホモダイマー性抗体は、調製されている二重特異性抗体の第2の標的抗原に対して特異的である。従って、例えば、BCMAおよびCD3に対する特異性を有する二重特異性抗体を調製することが目的である場合、モノクローナル抗BCMA抗体(「第1の親抗体」)およびモノクローナル抗CD3抗体(「第2の親抗体」)は、別々に発現され、精製される。
【0069】
2)次に、精製された第1のホモダイマー性/親抗体および精製された第2のホモダイマー性/親抗体は混合され、第1の親抗体由来の第1のアームおよび第2の親抗体由来の第2のアームを含むヘテロダイマー性二重特異性抗体が形成されるように抗体アーム交換を促進する条件下で、一緒にインキュベートされる。これらの条件には、典型的には、還元性条件とその後の酸化性条件の連続が関与する。この還元性条件は、ホモダイマー性抗体の2つの重鎖を一緒に保持するジスルフィド結合の切断を促進し、それによって、第1の親抗体と第2の親抗体との間での抗体アームの交換を可能にする。次いで、引き続く酸化性条件が、新たに形成された二重特異性抗体を安定化する新たなジスルフィド架橋を形成する。二重特異性抗体を生成するためのこの一般的アプローチは、
図1に概説される。
図1には、第1の親抗体(「親抗体A」;白色)および第2の親抗体(「親抗体B」;黒色)が示され、その各々は、単一特異性ホモダイマーであり、第1のアームおよび第2のアームを含む。典型的には、第1の親抗体と第2の親抗体とは、異なる抗原に対して特異的である。次いで、第1の親抗体および第2の親抗体は一緒に混合され、親抗体A由来の第1のアームおよび親抗体B由来の第2のアームならびに両方のアームのそれぞれの特異性を含む目的の二重特異性抗体の形成を生じる還元および酸化ステップに曝露される。
【0070】
抗体重鎖のアミノ酸配列は、二重特異性抗体の形成を促進するために1つまたは複数の方法で改変してもよい。二重特異性抗体の一方のアームの重鎖は、第1のヒンジ領域中に、例えば、第1のヒンジ領域中の置換された/置き換えられたアミノ酸が、形成された二重特異性抗体の他方のアームのヒンジ領域中の対応するアミノ酸とは反対の電荷を有するようなアミノ酸改変を含み得る。これは、例えば、国際特許出願番号PCT/US2011/036419(WO2011/143545)に記載されている。別のアプローチでは、所望のヘテロマルチマー性またはヘテロダイマー性タンパク質(例えば、二重特異性抗体)の形成は、第1の免疫グロブリン様Fc領域と第2の免疫グロブリン様Fc領域(例えば、ヒンジ領域および/またはCH3領域)との間の界面を変更または操作することによって増強される。このアプローチでは、二重特異性抗体は、CH3領域を含み得、このCH3領域は、一緒に相互作用してCH3界面を形成する第1のCH3ポリペプチドおよび第2のCH3ポリペプチドを含み、このCH3界面内の1つまたは複数のアミノ酸は、ホモダイマー形成を不安定化し、ホモダイマー形成には静電気的に好ましくない。このアプローチも、国際特許出願番号PCT/US2011/036419(WO2011/143545)に記載されている。
【0071】
二重特異性抗体を調製するための上記方法および他の方法は、例えば、国際特許出願番号PCT/IB2011/054899(WO2012/059882)、PCT/US2011/036419(WO2011/143545)およびGieseら、Biotechnology Progress、「Bispecific Antibody Process Development:Assembly and Purification of Knob and Hole Bispecific Antibodies」、2018年1月17日、ならびにそれらの中で引用された参考文献にさらに記載されており、これらは各々、全ての目的のために本明細書で参照によって組み込まれる。抗体の精製のための本明細書で提供される方法は、任意の適切な方法によって調製された二重特異性抗体を精製するために使用され得る。
【0072】
二重特異性IgG抗体-特異性
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法に従って精製され得る抗体は、全長ヒト二重特異性IgG抗体であり、この二重特異性抗体の第1のアームの第1の抗体可変ドメインは、第1の抗原に結合することが可能であり、二重特異性抗体の第2のアームの第2の抗体可変ドメインは、第2の抗原に結合することが可能である。この第1の抗原および第2の抗原は、本明細書に記載される抗原の任意の特徴を有し得る。一部の実施形態では、第1の抗原は、第1の細胞型上に存在し、第2の抗原は、第2の細胞型上に存在する。
【0073】
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法に従って精製され得る抗体は、全長ヒト二重特異性IgG抗体であり、この抗体の第1の抗体可変ドメインは、ヒト免疫エフェクター細胞上に位置するエフェクター抗原に特異的に結合することによってこのヒト免疫エフェクター細胞の活性を動員することが可能であり、抗体の第2の抗体可変ドメインは、標的抗原に特異的に結合することが可能である。
【0074】
本明細書で提供される抗体が結合し得るヒト免疫エフェクター細胞は、当該分野で公知の種々の免疫エフェクター細胞のいずれかであり得る。例えば、この免疫エフェクター細胞は、T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、B細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞が含まれるがこれらに限定されない、ヒトリンパ系細胞系譜のメンバーであり得る。この免疫エフェクター細胞はまた、例えば、単球、好中球性顆粒球および樹状細胞が含まれるがこれらに限定されない、ヒト骨髄系系譜のメンバーであり得る。かかる免疫エフェクター細胞は、標的細胞に対する細胞傷害効果もしくはアポトーシス効果またはエフェクター抗原の結合による活性化の際の他の所望の効果のいずれかを有し得る。このエフェクター抗原は、ヒト免疫エフェクター細胞上で発現される抗原(例えば、タンパク質またはポリペプチド)である。本明細書で提供される抗体が結合し得るエフェクター抗原の例には、ヒトCD3(またはCD3(表面抗原分類)複合体)、CD16、NKG2D、NKp46、CD2、CD28、CD25、CD64およびCD89が含まれるがこれらに限定されない。
【0075】
この標的抗原は、疾患状態(例えば、炎症性疾患、増殖性疾患(例えば、がん)、免疫学的障害、神経学的疾患、神経変性疾患、自己免疫疾患、感染性疾患(例えば、ウイルス感染症または寄生生物感染症)、アレルギー反応、移植片対宿主病または宿主対移植片病)における標的細胞上で発現される。標的抗原は、エフェクター抗原ではない。標的抗原の例には、BCMA、EpCAM(上皮細胞接着分子)、CCR5(ケモカイン受容体5型)、CD19、HER(ヒト上皮増殖因子受容体)-2/neu、HER-3、HER-4、EGFR(上皮増殖因子受容体)、FLT3(Fms様チロシンキナーゼ3)、PSMA、CEA、MUC-1(ムチン)、MUC2、MUC3、MUC4、MUC5AC、MUC5B、MUC7、CIhCG、ルイス-Y、CD20、CD33、CD30、ガングリオシドGD3、9-O-アセチル-GD3、GM2、グロボH、フコシルGM1、ポリSA、GD2、炭酸脱水酵素(Carboanhydrase)IX(MN/CA IX)、CD44v6、Shh(ソニックヘッジホッグ)、Wue-1、形質細胞抗原、(膜結合型)IgE、MCSP(黒色腫コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、CCR8、TNF-アルファ前駆体、STEAP、メソテリン、A33抗原、PSCA(前立腺幹細胞抗原)、Ly-6;デスモグレイン4、E-カドヘリンネオエピトープ、胎児アセチルコリン受容体、CD25、CA19-9マーカー、CA-125マーカーおよびMIS(ミュラー菅阻害物質)受容体II型、sTn(シアリル化Tn抗原;TAG-72)、FAP(線維芽細胞活性化抗原)、エンドシアリン(endosialin)、EGFRvIII、LG、SASならびにCD63が含まれるがこれらに限定されない。
【0076】
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法に従って精製される抗体は、全ての目的のためにその全体が本明細書で参照によって組み込まれる、2016年3月30日出願の米国特許出願第15/085,644号(米国公開第20160297885号)または2018年5月31日出願の米国特許出願第15/993,874号(米国公開第20180346601号)に記載される任意の抗体であり得る。
【0077】
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法に従って精製される抗体は、抗体の一方のアームが表面抗原分類3(CD3)に特異的に結合する二重特異性IgG抗体であり得る。CD3についての情報は、例えば、UniProtKB ID番号P07766を介して提供される。
【0078】
一部の実施形態では、抗体の一方のアームがCD3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、CD3結合アームの重鎖のVH領域は、アミノ酸配列:EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSDYYMTWVRQAPGKGLEWVAFIRNRARGYTSDHNPSVKGRFTISRDNAKNSLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDRPSYYVLDYWGQGTTVTVSS(配列番号1)を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがCD3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、CD3結合アームの重鎖は、アミノ酸配列:EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSDYYMTWVRQAPGKGLEWVAFIRNRARGYTSDHNPSVKGRFTISRDNAKNSLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDRPSYYVLDYWGQGTTVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSNFGTQTYTCNVDHKPSNTKVDKTVERKCRVRCPRCPAPPVAGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVAVSHEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTFRVVSVLTVVHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKTKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPMLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列番号2)を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがCD3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、CD3結合アームの重鎖のVH領域は、配列番号1に示されるVH配列のCDR1、CDR2およびCDR3を含むアミノ酸配列を有する。
【0079】
一部の実施形態では、抗体の一方のアームがCD3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、CD3結合アームの軽鎖のVL領域は、アミノ酸配列:DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLFNVRSRKNYLAWYQQKPGQPPKLLISWASTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCKQSYDLFTFGSGTKLEIK(配列番号3)を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがCD3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、CD3結合アームの軽鎖は、アミノ酸配列:DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLFNVRSRKNYLAWYQQKPGQPPKLLISWASTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCKQSYDLFTFGSGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC(配列番号4)を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがCD3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、CD3結合アームの軽鎖のVL領域は、配列番号3に示されるVL配列のCDR1、CDR2およびCDR3を含むアミノ酸配列を有する。
【0080】
一部の実施形態では、抗体の一方のアームがCD3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、CD3結合アームの重鎖のVH領域は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有し、CD3結合アームの軽鎖のVL領域は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがCD3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、CD3結合アームの重鎖は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有し、CD3結合アームの軽鎖は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがCD3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、CD3結合アームの重鎖のVH領域は、配列番号1に示されるVH配列のCDR1、CDR2およびCDR3を含むアミノ酸配列を有し、CD3結合アームの軽鎖のVL領域は、配列番号3に示されるVL配列のCDR1、CDR2およびCDR3を含むアミノ酸配列を有する。
【0081】
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法に従って精製される抗体は、抗体の一方のアームがB細胞成熟抗原(BCMA)に特異的に結合する二重特異性IgG抗体であり得る。BCMAについての情報は、例えば、UniProtKB ID番号Q02223を介して提供される。
【0082】
一部の実施形態では、抗体の一方のアームがBCMAに特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、BCMA結合アームの重鎖のVH領域は、アミノ酸配列:EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYPMSWVRQAPGKGLEWVSAIGGSGGSLPYADIVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARYWPMDIWGQGTLVTVSS(配列番号5)を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがBCMAに特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、BCMA結合アームの重鎖は、アミノ酸配列:EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYPMSWVRQAPGKGLEWVSAIGGSGGSLPYADIVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARYWPMDIWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSNFGTQTYTCNVDHKPSNTKVDKTVERKCEVECPECPAPPVAGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVAVSHEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTFRVVSVLTVVHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKTKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCEVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPMLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列番号6)を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがBCMAに特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、BCMA結合アームの重鎖のVH領域は、配列番号5に示されるVH配列のCDR1、CDR2およびCDR3を含むアミノ酸配列を有する。
【0083】
一部の実施形態では、抗体の一方のアームがBCMAに特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、BCMA結合アームの軽鎖のVL領域は、アミノ酸配列:EIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSYLAWYQQKPGQAPRLLMYDASIRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQYQSWPLTFGQGTKVEIK(配列番号7)を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがBCMAに特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、BCMA結合アームの軽鎖は、アミノ酸配列:EIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSYLAWYQQKPGQAPRLLMYDASIRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQYQSWPLTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC(配列番号8)を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがBCMAに特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、BCMA結合アームの軽鎖のVL領域は、配列番号7に示されるVL配列のCDR1、CDR2およびCDR3を含むアミノ酸配列を有する。
【0084】
一部の実施形態では、抗体の一方のアームがBCMAに特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、BCMA結合アームの重鎖のVH領域は、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有し、BCMA結合アームの軽鎖のVL領域は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがBCMAに特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、BCMA結合アームの重鎖は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有し、BCMA結合アームの軽鎖は、配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがBCMAに特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、BCMA結合アームの重鎖のVH領域は、配列番号5に示されるVH配列のCDR1、CDR2およびCDR3を含むアミノ酸配列を有し、BCMA結合アームの軽鎖のVL領域は、配列番号7に示されるVL配列のCDR1、CDR2およびCDR3を含むアミノ酸配列を有する。
【0085】
一部の実施形態では、抗体の一方のアームがBCMAに特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、BCMA結合アームの重鎖のVH領域は、アミノ酸配列:EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYPMSWVRQAPGKGLEWVSAIGGSGGSLPYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARYWPMDIWGQGTLVTVSS(配列番号13)を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがBCMAに特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、BCMA結合アームの軽鎖のVL領域は、アミノ酸配列:EIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSTYLAWYQQKPGQAPRLLMYDASIRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQYQEWPLTFGQGTKVEIK(配列番号14)を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有するVH領域を含む抗体に対する本明細書の任意の言及では、この抗体は、配列番号13に示されるアミノ酸配列を含むVH領域を代替的に含み得る。一部の実施形態では、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有するVL領域を含む抗体に対する本明細書の任意の言及では、この抗体は、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含むVL領域を代替的に含み得る。同様に、それぞれ、配列番号13および配列番号14のVHおよびVL配列を含む抗BCMA重鎖および軽鎖もまた、本明細書に含まれる。
【0086】
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法に従って精製される抗体は、抗体の一方のアームがfms様チロシンキナーゼ3(FLT3)に特異的に結合する二重特異性IgG抗体であり得る。FLT3についての情報は、例えば、UniProtKB ID番号P36888を介して提供される。
【0087】
一部の実施形態では、抗体の一方のアームがFLT3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、FLT3結合アームの重鎖のVH領域は、アミノ酸配列:EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYAMNWVRQAPGKGLEWVSAISGGGRSTYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDLSPSDVGWGYGFDIWGQGTLVTVSS(配列番号9)を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがFLT3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、FLT3結合アームの重鎖は、アミノ酸配列:EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYAMNWVRQAPGKGLEWVSAISGGGRSTYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDLSPSDVGWGYGFDIWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSNFGTQTYTCNVDHKPSNTKVDKTVERKCEVECPECPAPPVAGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVAVSHEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTFRVVSVLTVVHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKTKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCEVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPMLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG(配列番号10)を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがFLT3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、FLT3結合アームの重鎖のVH領域は、配列番号9に示されるVH配列のCDR1、CDR2およびCDR3を含むアミノ酸配列を有する。
【0088】
一部の実施形態では、抗体の一方のアームがFLT3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、FLT3結合アームの軽鎖のVL領域は、アミノ酸配列:EIVLTQSPATLSLSPGERATLSCRASQSVSSNLAWYQQKPGQAPRLLIYDTFTRATGIPARFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAVYYCQQYGSSPPTFGQGTRLEIK(配列番号11)を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがFLT3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、FLT3結合アームの軽鎖は、アミノ酸配列:EIVLTQSPATLSLSPGERATLSCRASQSVSSNLAWYQQKPGQAPRLLIYDTFTRATGIPARFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAVYYCQQYGSSPPTFGQGTRLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC(配列番号12)を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがFLT3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、FLT3結合アームの軽鎖のVL領域は、配列番号11に示されるVL配列のCDR1、CDR2およびCDR3を含むアミノ酸配列を有する。
【0089】
一部の実施形態では、抗体の一方のアームがFLT3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、FLT3結合アームの重鎖のVH領域は、配列番号9に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有し、FLT3結合アームの軽鎖のVL領域は、配列番号11に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがFLT3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、FLT3結合アームの重鎖は、配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有し、FLT3結合アームの軽鎖は、配列番号12に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、抗体の一方のアームがFLT3に特異的に結合する二重特異性IgG抗体では、FLT3結合アームの重鎖のVH領域は、配列番号9に示されるVH配列のCDR1、CDR2およびCDR3を含むアミノ酸配列を有し、FLT3結合アームの軽鎖のVL領域は、配列番号11に示されるVL配列のCDR1、CDR2およびCDR3を含むアミノ酸配列を有する。
【0090】
一部の実施形態では、抗体の抗BCMAアームが抗BCMAアームについて上記した特徴のいずれかを有し、抗体の抗CD3アームが抗CD3アームについて上記した特徴のいずれかを有する二重特異性抗BCMA/抗CD3抗体が、本明細書で提供される。一部の実施形態では、抗体の抗FLT3アームが抗FLT3アームについて上記した特徴のいずれかを有し、抗体の抗CD3アームが抗CD3アームについて上記した特徴のいずれかを有する二重特異性抗FLT3/抗CD3抗体が、本明細書で提供される。
【0091】
上記抗原のいずれかに対して親和性を有し、および/または上記アミノ酸配列のいずれかを含む単一特異性抗体を精製する方法もまた、本明細書で提供される。例えば、配列番号1に示されるVHアミノ酸配列を含む単一特異性ホモダイマー性抗CD3抗体の精製もまた、本明細書で提供される。
【0092】
不純物
本明細書で提供される方法は、1つまたは複数の不純物から目的の抗体を精製するために使用され得る。
【0093】
不純物には、例えば、目的の抗体のクリップ型バージョン、タンパク質凝集体、および目的の二重特異性抗体の場合には、目的の二重特異性抗体の形成と関連する親単一特異性抗体が含まれる。これらの異なる不純物は、本明細書で異なる「種の不純物」、「不純物分子」などとも呼ばれ得る。
【0094】
目的の抗体のクリップ型バージョン
「目的の抗体のクリップ型バージョン」、「クリップ型抗体」などは、抗体中の1つまたは複数のポリペプチド結合が目的の対応するインタクトな抗体と比較して切断された組換え抗体を指す。対照的に、「インタクトな」抗体とは、組換え抗体の予測されたペプチド結合およびアミノ酸(即ち、抗体のポリペプチド(複数可)をコードする核酸配列(複数可)に基づいて予測される)の全てを含む組換え抗体を指す。
【0095】
このように、クリップ型抗体は、目的の抗体と関連する分解産物であるとみなされ得る。抗体中のペプチド結合の切断は、例えば、酵素(例えば、プロテアーゼ媒介性)または非酵素活性を介して生じ得る。
【0096】
一部の実施形態では、抗体のポリペプチド中のペプチド結合が切断される場合、切断後、ポリペプチド鎖の切断された部分は、抗体の残部にもはや共有結合していない場合がある;その場合、ポリペプチド鎖の切断された部分は、抗体の残部から解離し得る。これは、切断がポリペプチド鎖のNまたはC末端の近傍のペプチド結合においてである場合に最も一般に生じ、対応するインタクトな抗体と比較して1つまたは複数のアミノ酸を喪失したクリップ型抗体を生じる。これらのクリップ型抗体は、抗体からの1つまたは複数のアミノ酸の喪失に起因して、対応するインタクトな抗体よりも小さい質量を有する。
【0097】
あるいは、一部の他の実施形態では、抗体のポリペプチド中のペプチド結合が切断される場合、切断後、ポリペプチド鎖の切断された部分は、抗体の残部と(例えば、鎖内または鎖間ジスルフィド結合によって)なおも共有結合したままであり得る。この場合、抗体のペプチド結合の切断が存在する場合であっても、ポリペプチド鎖の切断された部分は、ポリペプチド鎖の切断された部分を抗体の残部に連結する残存するインタクトな共有結合(複数可)を介して、抗体の残部に係留されたままになる。この状況では、クリップ型抗体は、インタクトな抗体と比較して、同じ数のアミノ酸およびアミノ酸配列をなおも有する。さらに、少なくとも一部の実施形態では、この型のクリップ型抗体は、対応するインタクトな抗体よりもわずかに大きい質量を有し得る。質量のこの獲得は、例えば、ペプチド結合の切断の際に生じる1つまたは複数の化学反応の結果であり得る。かかる反応の間、1つまたは複数の原子(例えば、H、O)は、抗体ポリペプチド鎖の原子と反応し得、抗体鎖と共有結合して、対応するインタクトな抗体と比較して、クリップ型抗体による質量の獲得を生じる。
【0098】
「クリップ型」抗体は対応する「インタクトな」抗体から生成されるので、抗体の「クリップ型」バージョンは、抗体の対応する「インタクトな」バージョンと同じアミノ酸配列(ペプチド結合切断の結果としての抗体からのアミノ酸の喪失がない場合)またはほぼ同じアミノ酸配列(ペプチド結合切断の結果としての抗体からの1つまたは複数のアミノ酸配列の喪失がある場合)を有する。
【0099】
典型的には、抗体のクリップ型バージョンは、対応するインタクトな抗体の質量と類似の質量を有する。上記したように、一部の実施形態では、クリップ型抗体は、(例えば、クリッピングが抗体からの1つまたは複数のアミノ酸の喪失を生じる場合には)対応するインタクトな抗体よりも小さい質量を有し得る。あるいは、一部の実施形態では、クリップ型抗体は、(クリッピングが抗体からのいずれのアミノ酸の喪失も生じず、その代わりに、ペプチド結合の切断の結果として生じる1つまたは複数の反応を介した抗体による少なくとも1原子の獲得を生じる場合には)対応するインタクトな抗体よりも大きい質量を有し得る。
【0100】
一部の実施形態では、抗体のクリップ型バージョンは、目的の対応するインタクトな抗体の質量とは50%、40%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.05%、0.04%、0.03%、0.02%、0.01%以下異なる質量を有する。言い換えれば、一部の実施形態では、目的の抗体のクリップ型バージョンは、目的の対応するインタクトな抗体の質量とは50%、40%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.05%、0.04%、0.03%、0.02%または0.01%以下異なる質量を有する。
【0101】
上記したように、一部の実施形態では、目的の抗体のクリップ型バージョンは、目的の対応するインタクトな抗体よりも小さい質量を有する。例えば、一部の実施形態では、抗体のクリップ型バージョンは、目的の対応するインタクトな抗体の質量よりも、50%、40%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.05%、0.04%、0.03%、0.02%、0.01%以下小さい質量を有する。言い換えると、抗体のクリップ型バージョンが、目的の対応するインタクトな抗体の質量よりも10%以下小さい質量を有し、例えば、目的のインタクトな抗体が100,000Daの質量を有する場合、抗体のクリップ型バージョンは、それよりも10,000Da以下小さい(100,000の10%は10,000である)質量を有する-即ち、90,000Daと100,000Daとの間の質量を有する。
【0102】
これもまた上記したように、一部の実施形態では、目的の抗体のクリップ型バージョンは、目的の対応するインタクトな抗体よりも大きい質量を有する。例えば、一部の実施形態では、抗体のクリップ型バージョンは、目的の対応するインタクトな抗体の質量よりも5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.05%、0.04%、0.03%、0.02%または0.01%以下大きい質量を有する。言い換えると、抗体のクリップ型バージョンが、目的の対応するインタクトな抗体の質量よりも1%以下大きい質量を有し、例えば、目的のインタクトな抗体が、100,000Daの質量を有する場合、抗体のクリップ型バージョンは、それよりも1,000Da以下大きい(100,000の1%は1,000である)質量を有する-即ち、100,000Daと101,000Daとの間の質量を有する。
【0103】
高分子質量種(HMMS)/タンパク質凝集体
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法に適切な不純物は、「高分子質量種」(HMMS)と呼ばれる。HMMSとは、任意の高分子質量の混入物または不純物を指すが、典型的には、凝集体を形成する少なくとも2つのタンパク質の連合である。例として、HMMSは、一緒に凝集した目的の抗体の複数の分子、および/または目的の抗体を産生するために使用した宿主細胞由来のタンパク質の凝集体を含み得る。凝集体は、例えば、分子の共有結合または非共有結合を含む任意のプロセスによって生じ得る。
【0104】
親抗体
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法に適切な不純物は、「親(parent)抗体」または「親(parental)抗体」などである。この型の不純物分子は、目的の抗体が、例えば
図1に概説した2つの異なる親抗体から生成された二重特異性抗体である、本明細書で提供される方法に適切である。これらの親抗体は、単一特異性ホモダイマーである。親抗体は、例えば、i)一部の状況では、一部の親抗体分子は、別々の第1のアームおよび第2のアームへと親抗体を分離するための還元ステップの間に、第1のアームおよび第2のアームへと分離しない(従って、抗体は単一特異性ホモダイマーのままである);またはii)一部の状況では、同じ型の親抗体由来の分離された第1のアームおよび第2のアームが一緒に連結し、従って、これらは(ヘテロダイマー二重特異性抗体の形成に関与するのではなく)単一特異性ホモダイマーを形成するなどの複数の可能な機構に起因して、目的の二重特異性抗体と共に抗体調製物中に存在し得る。本明細書で使用する場合、「親抗体」とは、上記機構のいずれかによって生じるホモダイマー性分子を指す。さらに、本明細書で提供される抗体調製物は、不純物として、一方または両方の親種由来の親抗体を含み得る。
【0105】
不純物からの目的の抗体の精製
1つまたは複数の不純物から目的の抗体を精製するための方法が、本明細書で提供される。
【0106】
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法では、目的の抗体は、目的の抗体ならびに1つまたは複数の種の不純物分子を含む抗体調製物(本明細書で「出発サンプル」とも呼ばれる)中にある。本明細書で提供される方法のためのこの出発材料中で、目的の抗体は、例えば、抗体調製物中のタンパク質の少なくとも約10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、75質量%、80質量%、85質量%、90質量%または95質量%を構成し得る。次いで、本明細書で提供される方法の一部の実施形態では、精製された画分(本明細書で「精製されたサンプル」とも呼ばれる)は、HA樹脂からの溶出物として収集される。この精製された画分は、目的の抗体を含み、一部の実施形態では、1つまたは複数の不純物分子をなおも含む。一部の実施形態では、本明細書で提供される精製された画分中で、目的の抗体は、例えば、精製された画分中のタンパク質の少なくとも約20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、75質量%、80質量%、85質量%、90質量%、95質量%、96質量%、97質量%、98質量%または99質量%を構成し得る。
【0107】
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法では、出発サンプルは、少なくとも約10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、75質量%、80質量%、85質量%、90質量%または95質量%の目的の抗体であり、同じ方法における引き続く精製されたサンプルは、少なくとも約20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、75質量%、80質量%、85質量%、90質量%、95質量%、96質量%、97質量%、98質量%または99質量%の目的の抗体であり、ここで、2番目の値は、最初の値よりも大きい。
【0108】
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法では、出発サンプルは、少なくとも約0.1質量%、0.5質量%、1質量%、2質量%、3質量%、4質量%、5質量%、6質量%、7質量%、8質量%、9質量%、10質量%、15質量%、20質量%または25質量%の目的の抗体のクリップ型バージョンを含む。一部の実施形態では、本明細書で提供される方法では、精製されたサンプルは、約0.01質量%、0.05質量%、0.1質量%、0.5質量%、1質量%、2質量%、3質量%、4質量%、5質量%、6質量%、7質量%、8質量%、9質量%、10質量%、15質量%または20質量%以下の目的の抗体のクリップ型バージョンを含む。一部の実施形態では、本明細書で提供される方法では、出発サンプルは、少なくとも約0.1質量%、0.5質量%、1質量%、2質量%、3質量%、4質量%、5質量%、6質量%、7質量%、8質量%、9質量%、10質量%、15質量%、20質量%または25質量%の目的の抗体のクリップ型バージョンを含み、同じ方法における引き続く精製されたサンプルは、約0.01質量%、0.05質量%、0.1質量%、0.5質量%、1質量%、2質量%、3質量%、4質量%、5質量%、6質量%、7質量%、8質量%、9質量%、10質量%、15質量%または20質量%以下の目的の抗体のクリップ型バージョンを含み、ここで、2番目の値は、最初の値よりも小さい。
【0109】
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法では、出発サンプルは、目的のインタクトな抗体および目的の抗体のクリップ型バージョンを含み、クリップ型抗体対インタクトな抗体の比は、少なくとも約1:100、1:50、1:25、1:20、1:10、1:5、1:4または1:3である。一部の実施形態では、本明細書で提供される方法では、精製されたサンプルは、目的のインタクトな抗体および目的の抗体のクリップ型バージョンを含み、クリップ型抗体対インタクトな抗体の比は、約1:100、1:50、1:25、1:20または1:10以下である。一部の実施形態では、本明細書で提供される方法では、出発サンプルは、目的のインタクトな抗体および目的の抗体のクリップ型バージョンを含み、出発サンプル中のクリップ型抗体対インタクトな抗体の比は、少なくとも約1:100、1:50、1:25、1:20、1:10、1:5、1:4または1:3であり、同じ方法における引き続く精製されたサンプル中のクリップ型抗体対インタクトな抗体の比は、約1:200、1:100、1:50、1:25、1:20または1:10以下であり、ここで、2番目の比は、最初の比よりも小さい。一部の実施形態では、本明細書で提供される方法では、出発サンプルは、目的のインタクトな抗体および目的の抗体のクリップ型バージョンを含み、出発サンプル中のクリップ型抗体対インタクトな抗体の比は、A群における比のうち約1つ(A群の比:1:100、1:50、1:25、1:20、1:10、1:5または1:4)とB群における比のうち1つ(B群の比:1:50、1:25、1:20、1:10、1:5、1:4または1:3)との間であり、同じ方法における引き続く精製されたサンプル中のクリップ型抗体対インタクトな抗体の比は、約1:200、1:100、1:50、1:25、1:20または1:10以下であり、ここで、精製されたサンプルにおける比は、出発サンプルにおける比よりも小さい。
【0110】
一部の実施形態では、明細書で提供される方法に従って提供される出発サンプルは、少なくとも1、5、10、15、20、25、50、100、200、500、1000、2000、5000または10,000グラムの目的のインタクトな抗体を含む。一部の実施形態では、明細書で提供される方法に従って提供される精製されたサンプルは、少なくとも1、5、10、15、20、25、50、100、200、500、1000、2000、5000または10,000グラムの目的のインタクトな抗体を含む。一部の実施形態では、明細書で提供される方法に従って提供される出発サンプルは、少なくとも5、10、15、20、25、50、100、200、500、1000、2000、5000または10,000グラムの目的のインタクトな抗体を含み、同じ方法における引き続く精製されたサンプルは、少なくとも1、5、10、15、20、25、50、100、200、500、1000、2000または5000グラムの目的のインタクトな抗体を含み、ここで、最初の値は、2番目の値よりも大きい。
【0111】
さらに、出発サンプルまたは精製されたサンプル中の目的の抗体のa)量またはb)純度に関する任意の上記記載は、同じサンプルに関して総合され得る。例えば、上述のように、出発サンプルは、少なくとも約80質量%の目的の抗体を含み得る;さらに、これもまた上述のように、出発サンプルは、少なくとも約10グラムの目的の抗体を含み得る。従って、少なくとも約80質量%の目的の抗体および少なくとも10グラムの目的の抗体を含む出発サンプルなどもまた、本明細書で提供される。
【0112】
一般技術
本発明の実施は、特に示さない限り、当業者の技術範囲内である分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来技術を使用する。かかる技術は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版(Sambrookら、1989)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編、1984);Methods in Molecular Biology、Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis編、1998)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney編、1987);Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.MatherおよびP.E.Roberts、1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle、J.B.GriffithsおよびD.G.Newell編、1993~1998)J.Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.MillerおよびM.P.Calos編、1987);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubelら編、1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction、(Mullisら編、1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coliganら編、1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons、1999);Immunobiology(C.A.JanewayおよびP.Travers、1997);Antibodies(P.Finch、1997);Antibodies:a practical approach(D.Catty.編、IRL Press、1988~1989);Monoclonal antibodies:a practical approach(P.ShepherdおよびC.Dean編、Oxford University Press、2000);Using antibodies:a laboratory manual(E.HarlowおよびD.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press、1999);The Antibodies(M.ZanettiおよびJ.D.Capra編、Harwood Academic Publishers、1995)などの文献中、ならびに該当する場合には、上記参考文献の引き続く版および対応するウェブサイト中に完全に説明されている。
【0113】
以下の実施例は、例示目的のためにのみ提供され、本発明の範囲を制限することは決して意図しない。実際、本明細書に示され記載されたものに加えた本発明の種々の改変は、上述の説明から当業者に明らかになり、添付の特許請求の範囲内に入る。
【実施例】
【0114】
(実施例1)
cHA樹脂クロマトグラフィーによる抗BCMA/抗CD3二重特異性抗体の精製
目的:
この実施例では、種々の不純物から目的の全長二重特異性ヒトIgGを分離するための方法を試験した。目的の抗体は、ヘテロダイマー性二重特異性抗BCMA/抗CD3抗体であった(即ち、二重特異性抗体の一方のアームはBCMAに対して特異的であり、他方のアームはCD3に対して特異的であった)。精製の開始時に目的の二重特異性抗体と共に存在する不純物は、以下を含んだ:i)目的のインタクトな抗BCMA/抗CD3二重特異性抗体のクリップ型バージョン;ii)ホモダイマー性単一特異性抗BCMA親抗体;iii)ホモダイマー性単一特異性抗CD3抗体;およびiv)タンパク質凝集体/高分子質量種(HMMS)。
【0115】
二重特異性抗体のクリップ型バージョンは、目的のインタクトな二重特異性抗体と同じ数のアミノ酸および同じアミノ酸配列を含み、インタクトな二重特異性抗体の質量とは18ダルトン(Da)だけ異なるので、二重特異性抗体のクリップ型バージョンからの目的のインタクトな二重特異性抗体の精製は、特定の課題を提示した。具体的には、インタクトな抗BCMA/CD3二重特異性抗体の質量は148095.5Daであり、二重特異性抗体の対応するクリップ型バージョンの質量は148113.5である(質量分析によって決定した)。従って、クリップ型二重特異性抗体は、インタクトな二重特異性抗体の質量と比較して、0.1%未満(さらには0.02%未満)の、質量における差異を有する(即ち、148095Daの0.1%は148Daであり;148095Daの0.02%は29.6Daである)。言い換えれば、クリップ型二重特異性抗体の質量は、目的のインタクトな二重特異性抗体の質量の約100.01%である。従って、クリップ型二重特異性抗体の質量は、目的のインタクトな二重特異性抗体の質量と非常に類似している。
【0116】
二重特異性抗体のクリップ型バージョンは、重鎖中の56番目のアミノ酸と57番目のアミノ酸との間に、抗CD3重鎖のペプチド結合における切断を含む。抗CD3重鎖は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有し、従って、切断は、配列番号2の「RG」配列中のアミノ酸RとGとの間で生じる(「RG」は、配列番号2中に1回だけ出現する)。この切断は、インタクトな二重特異性抗体と比較して、クリップ型二重特異性抗体における1つの酸素原子および2つの水素原子の獲得(これは、18Daの質量の獲得と対応する)を生じると考えられる。また、抗CD3重鎖中に切断されたペプチド結合が存在するものの、重鎖の切断された56アミノ酸の部分(即ち、鎖の最初の56アミノ酸)は、インタクトな残留する鎖内ジスルフィド結合を介して抗体の残部に結合したままである。鎖内ジスルフィド結合は、抗CD3重鎖のC22とC98との間(即ち、配列番号2に示される配列のC22とC98との間)である。鎖内ペプチド結合による、抗体の残部への、切断された56アミノ酸の部分の存続した係留は、
図2に模式的に示される。
【0117】
図2では、左の模式図は、二重特異性抗体の抗CD3アームおよび抗BCMAアームの両方についてインタクトな重鎖および軽鎖を含む目的のインタクトな二重特異性抗体を示す(図中、長い方の鎖は抗体の重鎖を示し、短い方の鎖は軽鎖を示す)。さらに、
図2は、鎖内ジスルフィド結合(例えば、同じ軽鎖または重鎖中の異なるアミノ酸を連結する)、およびまた鎖間ジスルフィド結合(例えば、抗BCMAアームの重鎖を抗CD3アームの重鎖に連結する、または抗CD3アームの軽鎖を抗CD3アームの重鎖に連結する)を含む、種々の抗体内ジスルフィド結合もまた示す。
【0118】
種々の不純物から目的のインタクトな二重特異性抗体を精製する方法を開発する際に提示される別の課題は、比較的大量の目的の二重特異性抗体が精製される場合に、不純物から目的の二重特異性抗体を効率的に分離する方法を開発するという目的であった。例えば、この実施例に関連する作業の1つの目的は、少なくとも1グラムの二重特異性抗体が精製される方法にとって有効な、二重特異性抗体の精製のための方法を開発することであった。当該分野で公知のように、大規模でのタンパク質の精製は、例えば、クロマトグラフィーを大規模で実施する場合の異なるタンパク質間のはっきりしたクロマトグラフィー分解を得る際の困難に起因して、小規模での同じタンパク質の精製の間には存在しない(または顕著には問題にならない)多数の困難を提示する場合が多い。
【0119】
材料および方法:
この作業のための出発材料は、目的の二重特異性IgG抗BCMA/CD3抗体ならびに種々の不純物、例えば、上に示されたものを含む抗体調製物であった。この二重特異性抗体のポリペプチドのアミノ酸配列は、以下の配列番号に示される:BCMA重鎖:配列番号6;BCMA軽鎖:配列番号8;CD3重鎖:配列番号2;CD3軽鎖:配列番号4。目的の二重特異性抗体は、本明細書で以前に記載したように、2つの別々の親抗体から調製されたものであった。より具体的には、親単一特異性抗CD3および抗BCMA抗体は、プロテインAクロマトグラフィーを介して精製されており、これらの精製された親単一特異性抗CD3および抗BCMA抗体を使用して、目的の二重特異性抗BCMA/CD3抗体を生成した。次いで、生成された二重特異性抗BCMA/CD3抗体は、イオン交換クロマトグラフィーを介して精製されていた。この実施例における精製作業のための出発材料として使用される抗体調製物は、目的の二重特異性抗体および種々の残存する不純物を含むイオン交換カラムからの溶出物であり、50mMのTrisおよび60mMのグリシンのおよその濃度、pH7.5で、緩衝液/塩を有した。この抗体調製物は、85質量%を超える目的のインタクトな二重特異性抗体を含んだ;これは、約8%のクリップ型二重特異性抗体、約1%の単一特異性抗BCMA親抗体、約1%の単一特異性抗CD3親抗体および約2%のタンパク質凝集体/高分子質量種(HMMS)もまた含んだ。従って、この方法において出発材料として使用される抗体調製物は、既に比較的純粋な目的のインタクトな二重特異性抗体を含んだが、この方法の目的は、このインタクトな二重特異性抗体の純度を増加させるための方法を開発することであった。
【0120】
結果:
クリップ型二重特異性抗体、単一特異性親抗体およびタンパク質凝集体からの目的のインタクトな抗BCMA/CD3二重特異性抗体の効率的な精製を可能にする適切な樹脂および緩衝液条件を同定することを試みるために、複数の異なるクロマトグラフィー樹脂および条件を試験した。このプロセスの間に、例えば、複数の異なるイオン交換および疎水性相互作用樹脂、ならびに種々の緩衝液およびpH条件を試験した。広範な試験の後、ヒドロキシアパタイト樹脂は、クリップ型二重特異性抗体を含む種々の不純物からのインタクトな抗BCMA/CD3二重特異性抗体の効率的な精製を可能にできた唯一の同定された樹脂であった。
【0121】
図3は、セラミックヒドロキシアパタイト(「cHA」)樹脂カラムからの目的の二重特異性抗体の溶出、ならびに二重特異性抗体のクリップ型バージョン、両方の親抗体種および高分子質量タンパク質種を含む複数の異なる不純物からの目的の抗BCMA/CD3二重特異性抗体の同時発生的な分離のクロマトグラフィープロファイルを示す。
図3に示されるクロマトグラフィー実行では、cHA樹脂上にロードされた抗体調製物を、cHAカラムからのこれらの分子の溶出の位置をより明確に同定するために、余分な親抗BCMAおよび親抗CD3抗体をスパイクとして添加した(しかし、余分なインタクトなまたはクリップ型二重特異性抗体は添加しなかった)。
図3では、X軸は、左から右に、cHAカラムからの溶出物の順序を示す(即ち、左側の材料は、右側の材料よりもより早期に/より低い塩で、cHAカラムから溶出される)。典型的には、溶出物は、カラムから逐次的な画分中に収集される;従って、X軸は、cHA樹脂カラムからの溶出物画分の順序を示すともみなされ得る。Y軸は、グラフ中に別々に示される、UV吸光度(280nMでの)および伝導率の両方を示す。UV吸光度は、溶出したタンパク質の存在に対応し、伝導率は、溶出した材料中の塩濃度に対応する。従って、
図3は、cHA樹脂を通って流れる溶出緩衝液中の塩濃度が増加する際の、cHA樹脂カラムからの異なるタンパク質の溶出のプロファイルを示す。
図3のUVグラフを左から右にたどると、このグラフは、インタクトな目的の二重特異性抗BCMA/CD3抗体または種々の不純物のいずれかに対応する種々のピークおよび肩を示す。具体的には、左から右に、第1のUVピークは、第1の親抗体(「親1」;単一特異性抗BCMAホモダイマー)の溶出に対応する。次の主要ピーク(グラフ中の最も大きいピーク)の初期部分は、目的のインタクトな二重特異性抗体タンパク質(「POI」)に対応する。その同じ主要ピークの後期/尾の終わりは、二重特異性抗体のクリップ型バージョン(「クリップ」)に対応する。インタクトな二重特異性抗体とクリップ型二重特異性抗体との間では溶出プロファイルにいくらかの重複が存在するが、これら2つの抗体型は、二重特異性抗体のクリップ型バージョンからインタクトな二重特異性抗体を顕著に分離するために、十分に異なる塩条件および画分下でcHAカラムから溶出する。最後に、二重特異性抗体のクリップ型バージョンが溶出した後、cHAカラムからの最後の主要ピーク/肩は、cHAカラムからの第2の親抗体(単一特異性抗CD3ホモダイマー)ならびに高分子質量種(「HMMS」)(タンパク質凝集体とも呼ばれる)の溶出に対応する。従って、
図3のグラフは、インタクトな抗BCMA/CD3抗体が、cHA樹脂クロマトグラフィーによって、関連するクリップ型および親抗体種を含む複数の不純物から効率的に精製できることを示している。
【0122】
図4は、
図3に示されるcHA溶出プロファイルに従ってcHA樹脂カラムから逐次的に溶出した画分中に存在する異なる分子種についてのより詳細な情報を示すグラフを提供する。具体的には、
図4は、cHAカラムから溶出した異なる画分中の、i)目的のインタクトな抗BCMA/CD3二重特異性抗体タンパク質(「POI」);ii)二重特異性抗体のクリップ型バージョン;iii)第1の親抗体/単一特異性抗BCMA抗体;iv)第2の親抗体/単一特異性抗CD3抗体;およびv)高分子質量種(「HMMS」)、の相対的な量についての詳細な情報を提供する。
図4のX軸は、左から右に、cHAカラムからの溶出物の順序を示す(即ち、低い塩から高い塩へ;各データポイントは、カラムから溶出した画分を示す)。
図4のY軸は、左側に、各画分中の、i)目的のインタクトな抗BCMA/CD3二重特異性抗体タンパク質(「POI」);ii)二重特異性抗体のクリップ型バージョン;iii)第1の親抗体/単一特異性抗BCMA抗体;およびiv)第2の親抗体/単一特異性抗CD3抗体、の各々の百分率を示す。
図4のY軸は、右側に、各画分中の%HMMSを示す。
【0123】
図3のデータを生成するために使用した方法を、いずれのさらなる抗体もスパイクとして添加していない抗体調製物でも使用した;このクロマトグラフィー実行からのデータは、
図5に示される。従って、
図5中のデータは、抗BCMA/CD3二重特異性抗体の調製の間にイオン交換カラムから溶出された典型的な抗体調製物の、cHA樹脂を介した精製を反映し、この抗体調製物は、目的のインタクトな抗BCMA/CD3二重特異性抗体、ならびに二重特異性抗体のクリップ型バージョンを含む種々の不純物を主に含む。
図5では、X軸は、左から右に、cHAカラムから溶出した材料の順序を示す。Y軸は、グラフ中に別々に示される、UV吸光度(280nMでの)および伝導率の両方を示す。親1および親2のピークは、
図5では
図3よりも小さいが、それは、
図5のcHAカラム上にロードされたサンプルが、さらなる親1および親2抗体をスパイクとして添加されなかったからである(一方、
図3については、サンプルは、さらなる親1および親2抗体をスパイクとして添加した)。
【0124】
図6は、cHA樹脂からの目的のインタクトな抗BCMA/CD3二重特異性抗体の回収、ならびにcHA樹脂からの種々の溶出した画分中のクリップ型二重特異性抗体の相対的な量についてのさらなる情報を示すグラフを提供する。X軸は、左から右に、cHAカラムからの溶出物の順序を示す(即ち、低い塩から高い塩へ;各データポイントは、カラムから溶出した画分を示す)。垂直/Y軸に沿って、3つの異なる変数が各画分についてプロットされる:変数1)(菱形):クロマトグラフィー実行においてその画分までcHAカラムから回収されたインタクトな抗BCMA/CD3二重特異性抗体(即ち、目的のタンパク質)の総量である累積のインタクトな二重特異性抗体回収(「%POI」)(言い換えれば、その画分までのおよびその画分を含む実行の間にcHAカラムから溶出された全ての材料が収集およびプールされる場合に、そのプールされた材料中のインタクトな抗BCMA/CD3二重特異性抗体の総量が測定されるのと同様);また、「%POI」値は、cHAカラム上にロードされた目的のインタクトな抗BCMA/CD3二重特異性抗体/タンパク質の回収された総量の百分率として示される(即ち、グラムの値として示されるのではなく)。変数2)(四角):各それぞれの画分中の、クリップ型二重特異性抗体であるタンパク質の%(「%クリップ」)。変数3)(三角):クロマトグラフィー実行においてその画分までcHAカラムから回収されたクリップ型二重特異性抗体の総量である累積クリップ型二重特異性抗体回収(「累積クリップ」)。さらに、
図6のグラフでは、左側のY軸は、%POIについての値を列挙し、右側のY軸は、%クリップについての値を列挙する。
【0125】
図6も、
図6中の特定の異なる画分が、
図5に示されるクロマトグラフィープロファイル中のUV吸光度における異なるポイントにどのように対応するかを示す情報を含む。従って、例えば、
図5は、cHA樹脂からのUV吸光度/タンパク質溶出の最も大きいピークが目的のタンパク質/インタクトな抗BCMA/CD3二重特異性抗体に対応することを示している。cHAカラムからのUV吸光度/タンパク質溶出のこの大きいピークの頂点は、実行の「Apex」とも呼ばれる;このApexポイントに対応するクロマトグラフィー画分ピークが、
図6上に示される。次いで、Apexピーク後の種々のポイントもまた、
図6中に示される。これらのポイントは、「90%」、「80%」、「70%」、「60%」および「50%」であり、以下のように計算される。ApexにおけるUV吸光度値を、さらなる計算のための出発点として設定する。次いで、Apex UV値の90%であるUV値を決定する。Apex UV値がクロマトグラフィー実行の間に達成された後に(即ち、ピークの尾の終わりの側で)生じる90%Apex UV値は、「90%」画分と示される;これは、本明細書で「90%ポストピークApex」画分などとも呼ばれ得る。このプロセスは、80%、70%、60%および50%値について反復される(即ち、これらの値の各々は、ピークから、尾の終わりを下った部分にあり、従って、収集された材料の量が漸増的に大きくなることに相当する)。
図6が示すように、Apex値の%が減少するにつれ、画分中の%クリップは増加する。これは、インタクトな抗BCMA/CD3二重特異性抗体よりも後期の時点で/より高い塩条件下でcHAカラムからクリップ型二重特異性抗体が溶出するプロセスと一致する。従って、Apexピークのより大きい画分が(即ち、より低い%ポストピークApex画分まで)収集される場合、より多くのクリップ型二重特異性抗体もまた、インタクトな二重特異性抗体およびクリップ型二重特異性抗体の溶出プロファイル間の部分的重複に起因して収集される。
【0126】
図6からの種々の値は、以下の表1にも提供される。表1に示されるように、本明細書で提供されるcHA精製方法によれば、例えば、cHAカラムから90%ポストピークApex溶出物が収集される場合(即ち、「90%ポストピークApex」画分までのPOI%回収)、cHAカラム上にロードされた目的のインタクトな二重特異性抗体/タンパク質の54%が回収され、この回収されたタンパク質プールは、0%のクリップ型二重特異性抗体を含む。別の例では、cHAカラムから50%ポストピークApex溶出物が収集される場合(即ち、「50%ポストピークApex」画分までのPOI%回収)、cHAカラム上にロードされた目的のインタクトな二重特異性抗体/タンパク質の74%が回収され、この回収されたタンパク質プールは、0.2%のクリップ型二重特異性抗体を含む。従って、
図6および表1に示されるように、クリップ型二重特異性抗体からの目的のインタクトな二重特異性抗体のロバストな精製が、cHA樹脂を介して効率的に達成できる。
【0127】
【0128】
図3~6に示されるcHAクロマトグラフィー結果について、cHAクロマトグラフィーを以下のように実施した。目的の二重特異性抗BCMA/CD3抗体および種々の不純物を含む抗体調製物を、cHA樹脂を含むクロマトグラフィーカラム上にロードした。このcHA樹脂は、cHA 1型、40μMビーズサイズ(Bio-Rad)であった。
図3および4に示されるクロマトグラフィー実行では、cHA樹脂に、30g/LのcHA樹脂上タンパク質密度になるように、サンプルをロードした。
図5および6に示されるクロマトグラフィー実行では、cHA樹脂に、10g/LのcHA樹脂上タンパク質密度になるように、サンプルをロードした。サンプルをcHA樹脂上にロードする前に、この樹脂を、5カラム容量の平衡化緩衝液1で、その後5カラム容量の平衡化緩衝液2で、事前平衡化した。この方法において記載される種々の緩衝液の組成は、以下の表2に列挙される。部分的に精製された目的の二重特異性抗BCMA/CD3抗体を含む抗体調製物を、およそ50mMのTrisおよび60mMのグリシンを含むロード緩衝液、pH7.5中で、cHA樹脂カラム上にロードした。抗体調製物をcHA樹脂カラム上にロードした後、カラムを、3カラム容量の洗浄緩衝液で洗浄した。次いで、目的の二重特異性抗体(即ち、インタクトな二重特異性抗体)を、20カラム容量の溶出緩衝液を使用してcHA樹脂から溶出させ、このとき、溶出緩衝液中のリン酸ナトリウム濃度は、溶出の過程にわたって、40mMから80mMまで増加した。
図3~6に示されるように、目的の二重特異性抗体と共に抗体調製物中に存在した種々の不純物もまた、溶出緩衝液に応じてcHAカラムから溶出したが、これらは、インタクトな二重特異性抗体が、インタクトな二重特異性抗体のクリップ型バージョンを含む種々の不純物から効率的に分離できるように、目的のインタクトな抗BCMA/CD3二重特異性抗体とは十分に異なる塩濃度下で溶出する。
【0129】
目的のタンパク質を上記プロトコールに従って溶出緩衝液によってcHA樹脂カラムから溶出させた後、次いで、このcHA樹脂は、5カラム容量のストリップ緩衝液によってストリップされ得、その後5カラム容量の清浄化緩衝液によって清浄化され得、その後5カラム容量の貯蔵緩衝液が続き得る。
【0130】
cHAカラムから溶出した異なる材料の上記分析の各々について、種々の画分/プール中の異なる分子種の型および量を、分析的カチオン交換(CEX)分析によって決定した。
【0131】
【0132】
(実施例2)
cHA樹脂クロマトグラフィーによる抗BCMA/抗CD3二重特異性抗体の精製-質量ローディングチャレンジ
目的:
この実施例における目的は、実施例1に記載される二重特異性抗体精製方法が、種々のcHA樹脂カラム質量ローディングチャレンジで効率的に使用できるかどうかを決定することであった。例えば、具体的な目的は、cHA樹脂カラム上での種々の質量ローディングチャレンジについて、これが、回収された精製された二重特異性抗体産物中に不純物として1%以下のクリップ型二重特異性抗体を同時に有しつつ、インプット二重特異性抗体の50%よりも多くを一貫して回収することが可能かどうかを決定することであった。
【0133】
材料および方法:
この実施例のための材料および方法は、cHA樹脂に、(異なるクロマトグラフィー実行において)8g/L、10g/Lまたは12g/LのcHA樹脂上タンパク質密度になるように抗体調製物サンプルをロードしたこと以外、実施例1と同じであった。
【0134】
結果:
これらのクロマトグラフィー実行からの結果を、以下の表3にまとめる。3つ全てのクロマトグラフィー実行では、90%ポストピークApex材料(実施例1に記載されるとおり)を収集および分析した。表3に示されるように、8g/L、10g/Lおよび12g/Lの質量チャレンジの各々について、50%を超えるロードされたインタクトな二重特異性抗体が、精製された二重特異性抗体として回収され、回収された精製された二重特異性抗体産物は、不純物として1%未満のクリップ型二重特異性抗体を含んだ。
【0135】
従って、これらの実験は、目的のインタクトな二重特異性抗体が、種々のcHA樹脂質量ローディングチャレンジにおいて、cHA樹脂クロマトグラフィーによってクリップ型二重特異性抗体から一貫して効率的に分離できることを示している。
【0136】
【0137】
(実施例3)
cHA樹脂クロマトグラフィーによる抗BCMA/抗CD3二重特異性抗体の精製-異なるpHチャレンジ
目的:
この実施例における目的は、実施例1に記載される二重特異性抗体精製方法が、異なるpH条件下で効率的に機能できるかどうかを決定することであった。
【0138】
材料および方法:
この実施例のための材料および方法は、この方法を通じて使用される緩衝液のpHが(異なるクロマトグラフィー実行において)pH7.0、pH7.5またはpH8.0であったこと以外、実施例1と同じであった。これらのクロマトグラフィー実行のために、cHA樹脂に、30g/LのcHA樹脂上タンパク質密度になるように、抗体調製物サンプルをロードした。
【0139】
結果:
これらのクロマトグラフィー実行からの結果を、以下の表4にまとめる。3つ全てのクロマトグラフィー実行では、ピークApex材料(実施例1に記載されるとおり)を収集および分析した。表4に示されるように、目的のインタクトな二重特異性抗体タンパク質が、異なる試験したpH条件の各々について首尾よく回収され、pH7.5が、目的のタンパク質の最も高い回収を生じた(これらのクロマトグラフィー実行では、精製された材料中のクリップ型二重特異性抗体の量を別々に決定することはしなかった)。
【0140】
従って、これらの実験は、目的のインタクトな二重特異性抗体が、異なるpH条件においてcHA樹脂クロマトグラフィーによって効率的に精製できることを示している。
【0141】
【0142】
(実施例4)
cHA樹脂クロマトグラフィーによる抗FLT3/抗CD3二重特異性抗体の精製
目的:
この実施例の目的は、実施例1に記載される二重特異性抗体精製方法が、実施例1で使用されたものとは異なる二重特異性抗体を用いて効率的に実施できるかどうかを決定することであり、このとき、類似の質量の関連するクリップ型二重特異性抗体を含む種々の不純物から目的のインタクトな二重特異性抗体を分離することも必要であった。この実施例では、目的の抗体は、ヘテロダイマー性二重特異性抗FLT3/抗CD3抗体であった。
【0143】
材料および方法:
この実施例で使用したヘテロダイマー性二重特異性抗FLT3/抗CD3抗体は、実施例1と同じ抗CD3重鎖および軽鎖を含んだ。この二重特異性抗体のFLT3アーム中のポリペプチドのアミノ酸配列は、以下の配列番号に示される:FLT3重鎖:配列番号10;FLT3軽鎖:配列番号12。
【0144】
この実施例における二重特異性抗体のクリップ型バージョンは、抗CD3重鎖の、実施例1に記載されるのと同じ位置に、クリップを有した。
【0145】
この実施例のための材料および方法は、上記したように、抗体調製物サンプルが二重特異性抗FLT3/抗CD3抗体を含んだこと以外、実施例1と同じであった。cHA樹脂に、10g/LのcHA樹脂上タンパク質密度になるように、抗体調製物サンプルをロードした。
【0146】
結果:
図7は、cHA樹脂からの目的のインタクトな二重特異性抗FLT3/CD3抗体の回収、ならびにcHA樹脂からの種々の溶出した画分中のクリップ型二重特異性抗体の相対的な量についての情報を提供するグラフを示す。X軸は、左から右に、cHAカラムからの溶出物の順序を示す(即ち、低い塩から高い塩へ;各データポイントは、カラムから溶出した画分を示す)。垂直/Y軸に沿って、3つの異なる変数が各画分についてプロットされる:変数1)(菱形):%POI;変数2)(四角):%クリップ;および変数3)(三角):累積クリップ、これらの各々は、
図6について実施例1に記載したように決定した。さらに、
図7のグラフでは、左側のY軸は、%POIについての値を列挙し、右側のY軸は、%クリップについての値を列挙する。
図7はまた、
図7中の特定の異なる画分が、対応するクロマトグラフィープロファイル(示さず)中のUV吸光度における異なるポイントにどのように対応するかを示す情報を含む。「Apex」、「85%」および「60%」として示されるポイントは、
図6について記載したのと同じ方法で決定した。
【0147】
図7からの種々の値もまた、以下の表5に提供される。表5に示されるように、本明細書で提供されるcHA樹脂精製方法は、例えば、精製された抗体産物中に1%未満のクリップ型二重特異性抗体を有しながらの、80%を超える目的のインタクトな二重特異性抗FLT3/CD3抗体の回収を可能にする。
【0148】
従って、
図7および表5に示されるように、クリップ型二重特異性抗体からのインタクトな二重特異性抗FLT3/CD3の精製は、cHA樹脂を介して効率的に達成できる。
【0149】
【0150】
開示された教示は、種々の適用、方法、キットおよび組成物に関連して記載されてきたが、種々の変化および改変が、本明細書の教示および以下の特許請求した発明から逸脱することなしになされ得ることが理解されよう。上述の実施例は、開示された教示をよりよく説明するために提供されるのであって、本明細書に提示された教示の範囲を限定することは意図しない。本明細書の教示は、これらの例示的な実施形態に関して記載されてきたが、当業者は、これらの例示的な実施形態の多数のバリエーションおよび改変が過度の実験なしに可能であることを容易に理解するであろう。全てのかかるバリエーションおよび改変は、本明細書の教示の範囲内である。
【0151】
特許、特許出願、論文、教科書などを含む本明細書で引用された全ての参考文献、およびそれらの中で引用された参考文献は、それらがまだ組み込まれていない範囲で、それらの全体が本明細書で参照によって組み込まれる。定義された用語、用語の用法、記載された技術などが含まれるがこれらに限定されない、組み込まれた文献および同様の資料のうち1つまたは複数が本出願とは異なるまたは本出願と矛盾する場合には、本出願が優先される。
【0152】
上述の説明および実施例は、本発明の特定の具体的な実施形態を詳述し、本発明者らが企図する最良の形態を記載している。しかし、上述がどれほど詳細にテキスト中に書かれようとも、本発明が多くの方法で実施され得ること、および本発明が添付の特許請求の範囲およびその任意の均等物に従って解釈されるべきであることが理解されよう。
【0153】
実施形態が言葉「含む」を用いて本明細書のどこに記載されようとも、「~からなる」および/または「~から本質的になる」という用語で記載される他の同様の実施形態もまた提供されることが理解される。
【0154】
本発明の態様または実施形態がマーカッシュ群または選択肢の他の群化の観点から記載される場合、本発明は、全体として列挙された群全体だけでなく、群の各メンバー個々に、および主要な群の全ての可能な下位群、群のメンバーのうち1つまたは複数が存在しない主要な群もまた包含する。本発明は、特許請求された発明中の群メンバーのいずれかのうち1つまたは複数の明示的な排除もまた想定する。
【0155】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合、定義を含む本明細書が支配する。本明細書および特許請求の範囲を通じて、単語「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などのバリエーションは、示された整数または整数の群を含むことを意味するが、任意の他の整数または整数の群を排除することを意味しないと理解される。文脈が他を要求しない限り、単数形の用語は複数を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。用語「例えば(e.g.)」または「例えば(for example)」の後の任意の例(複数可)は、網羅的でも限定的でもないことを意味する。用語「または」は、複数の選択肢の列挙との関連で使用される場合(例えば、「A、BまたはC」)、文脈が明確に他を示さない限り、これらの選択肢の任意の1つまたは複数を含むと解釈するものとする。
【0156】
例示的な方法および材料が本明細書に記載されているが、本明細書に記載されるものと類似または等価な方法および材料もまた、本発明の実施または試験において使用され得る。材料、方法および例は、例示に過ぎず、限定を意図しない。
【配列表】