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特許7449043無機複合材用アルミナ系連続繊維及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】無機複合材用アルミナ系連続繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 23/08 20060101AFI20240306BHJP
   D06M 23/10 20060101ALI20240306BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20240306BHJP
   C04B 35/84 20060101ALI20240306BHJP
   C04B 35/80 20060101ALI20240306BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20240306BHJP
   D06M 15/333 20060101ALI20240306BHJP
   D06M 15/347 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
D06M23/08
D06M23/10
D06M15/564
C04B35/84
C04B35/80
D06M15/53
D06M15/333
D06M15/347
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019082793
(22)【出願日】2019-04-24
(65)【公開番号】P2020180389
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-01-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)革新的構造材料「低コスト耐熱繊維製造技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000134936
【氏名又は名称】株式会社ニチビ
(74)【代理人】
【識別番号】100153752
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 裕
(72)【発明者】
【氏名】粂田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】鍋井 栄二
(72)【発明者】
【氏名】早川 敏之
(72)【発明者】
【氏名】笹原 松平
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-157632(JP,A)
【文献】特開平07-173769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00-11/84、16/00-16/00、19/00-23/18、
D06M13/00-15/715、
D06B1/00-23/30、D06C3/00-29/00、D06G1/00-5/00、
D06H1/00-7/24、D06J1/00-1/12、
C04B35/05-35/05,100、35/107、35/622-35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリオキシエチレン及び/又は水系ポリウレタンからなる群より選ばれる単独または混合物である水系有機サイジング剤と粒子径が10~200nmのジルコニア、チタニア、アルミナ、窒化ホウ素又は炭化珪素からなる群より選ばれる無機微粒子とを有し、マトリックス材と複合化したときに界面層となる被覆層を複合化前に予め備え、
前記被覆層における前記水系有機サイジング剤と前記無機微粒子の量が、アルミナ系連続繊維に対し、それぞれ0.5~5質量%、1~6質量%である無機複合材用アルミナ系連続繊維。
【請求項2】
ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリオキシエチレン及び/又は水系ポリウレタンからなる群より選ばれる単独または混合物である水系有機サイジング剤と粒子径が10~200nmのジルコニア、チタニア、アルミナ、窒化ホウ素又は炭化珪素からなる群より選ばれる無機微粒子を有する水分散液とを備える処理液にアルミナ系連続繊維を連続的に浸漬し、前記水系有機サイジング剤と前記無機微粒子をアルミナ系連続繊維に対し、それぞれ0.5~5質量%、1~6質量%付着させ、乾燥することにより、アルミナ系連続繊維に付着させた無機微粒子をサイジング剤で固定して繊維上にマトリックス材と複合化したときに界面層となる被覆層を複合化前に予め形成することを特徴とする無機複合材用アルミナ系連続繊維の製造方法。
【請求項3】
水系有機サイジング剤水性液と無機微粒子水分散液からなる処理液中の無機微粒子の濃度4.0~15質量%である請求項に記載の無機複合材用アルミナ系連続繊維の製造方法。
【請求項4】
無機微粒子水分散液を中性乃至アルカリ性とする請求項2又は3のいずれか一項に記載の無機複合材用アルミナ系連続繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系有機サイジング剤と無機微粒子からなる被覆層を有する無機複合材用アルミナ系連続繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、航空機などガスタービンエンジンの高温部材として、軽量でかつ高い耐久性が要求される部分に、無機複合材を用いることが検討されている。
無機複合材は、強化材となる無機繊維とマトリックス材とからなり、無機繊維とマトリックスとの界面に界面層が形成されており、界面層はマトリックスに生じた亀裂の進展をそらし、無機繊維への亀裂の伝播を防ぐことにより、無機複合材の強度及び靭性を高めることができる。
この界面層を形成するために、界面層となりうる被覆層を複合化する前の無機繊維に予め設けることが提案されている。
【0003】
特許文献1では、低導電性の無機繊維に導電性ポリマーを被覆し、さらに潤滑性物質を被覆する方法が提案されている。しかしながら、導電性ポリマーと潤滑性物質をそれぞれ被覆する工程を行う必要があり、また、潤滑性物質を被覆するのに電気泳動堆積(EPD)法を用いており、工程が煩雑な上に、製造コストが高いものとなる。
【0004】
特許文献2では、炭化ケイ素繊維に化学蒸着(CVD)法によって被覆層を形成する方法が提案されている。しかしながら、炭化ケイ素繊維は非常に脆いことから、被覆層を形成する前に基材を形成しており、その上から被覆層を形成しているが、それでは繊維が重なっている所では、均一な被覆層を形成することが難しいという問題がある。また、被覆層を形成する前に、繊維からサイジング剤を除去する工程が必要であり、CVDを行うための反応炉が必要であることからも、工程が煩雑な上に、製造コストが高いものとなる。
【0005】
特許文献3では、無機繊維にサイジングと耐熱性物質の被覆を同時に行う方法も提案されている。しかしながら、耐熱性物質が短繊維、ウイスカ及び粉末であり、その大きさについては何ら言及されていない。また、この特許文献3の方法では、マトリックス材とセラミックの濡れ性を改善し、複合材中に連続繊維を均一に分散させることにある。また、サイジング剤と耐熱性物質からなる処理液を超音波によって振動させる工程を含んでおり、工程が煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-156109号公報
【文献】特開2018-95508号公報
【文献】特開昭63-59473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来の無機複合材用の被覆層を有するアルミナ系連続繊維及びその製造方法における問題に鑑みなされたもので、その目的は、煩雑な工程を経ることなく、水系有機サイジング剤と無機微粒子からなる被覆層を有する無機複合材用のアルミナ系連続繊維およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、次のとおりである。
1.ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリオキシエチレン及び/又は水系ポリウレタンからなる群より選ばれる単独または混合物である水系有機サイジング剤と粒子径が10~200nmのジルコニア、チタニア、アルミナ、窒化ホウ素又は炭化珪素からなる群より選ばれる無機微粒子とを有し、マトリックス材と複合化したときに界面層となる被覆層を複合化前に予め備え、
前記被覆層における前記水系有機サイジング剤と前記無機微粒子の量が、アルミナ系連続繊維に対し、それぞれ0.5~5質量%、1~6質量%である無機複合材用アルミナ系連続繊維。
ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリオキシエチレン及び/又は水系ポリウレタンからなる群より選ばれる単独または混合物である水系有機サイジング剤と粒子径が10~200nmのジルコニア、チタニア、アルミナ、窒化ホウ素又は炭化珪素からなる群より選ばれる無機微粒子を有する水分散液とを備える処理液にアルミナ系連続繊維を連続的に浸漬し、前記水系有機サイジング剤と前記無機微粒子をアルミナ系連続繊維に対し、それぞれ0.5~5質量%、1~6質量%付着させ、乾燥することにより、アルミナ系連続繊維に付着させた無機微粒子をサイジング剤で固定して繊維上にマトリックス材と複合化したときに界面層となる被覆層を複合化前に予め形成することを特徴とする無機複合材用アルミナ系連続繊維の製造方法。
.水系有機サイジング剤水性液と無機微粒子水分散液からなる処理液中の無機微粒子の濃度4.0~15質量%である前記に記載の無機複合材用アルミナ系連続繊維の製造方法。
.無機微粒子水分散液を中性乃至アルカリ性とする前記2又は3のいずれかに記載の無機複合材用アルミナ系連続繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、無機マトリックス材と複合されたときにマトリックスとアルミナ系連続繊維との界面に無機微粒子の界面層となる、水系有機サイジング剤と無機微粒子からなる被覆層を有するアルミナ系連続繊維を提供することができる。
また、本発明の製造方法では、サイジング剤と無機微粒子の被覆を同時に行うことができ、アルミナ系連続繊維への被覆層の形成には煩雑な工程を必要としない。
加えて、連続繊維の状態で浸漬方式にて被覆層を形成することにより、アルミナ系連続繊維表面に均一な被覆層を形成することができる。
そのため、織物の状態で被覆層を形成するより、アルミナ系連続繊維に均一に被覆層を形成することができ、さらに織物等の状態で被覆層を形成する工程が省略可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】参考例の未処理の被覆のないアルミナ系連続繊維のSEM(走査型電子顕微鏡)写真(倍率6000倍)である。
図2】実施例1で得られた被覆層の有るアルミナ系連続繊維のSEM写真である。
図3】実施例1で得られた被覆層の有るアルミナ系連続繊維を1000℃で加熱したときの有機サイジング剤が熱分解して除去されたアルミナ系連続繊維のSEM写真である。
図4】比較例1で得られた被覆層の有るアルミナ系連続繊維のSEM写真である。
図5】比較例1で得られた被覆層の有るアルミナ系連続繊維を1000℃で加熱したときの有機サイジング剤が除去されたアルミナ系連続繊維のSEM写真である。
図6】比較例2で得られた無機微粒子のみで被覆したアルミナ系連続繊維のSEM写真である。
図7】比較例2で得られた無機微粒子のみで被覆したアルミナ系連続繊維を1000℃で加熱したときのアルミナ系連続繊維のSEM写真である。
図8】比較例3で得られた有機サイジング剤のみで被覆したアルミナ系連続繊維を1000℃で加熱したときの有機サイジング剤が除去されたアルミナ系連続繊維のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の無機複合材用アルミナ系連続繊維は、水系有機サイジング剤と無機微粒子からなる被覆層を有するアルミナ系連続繊維である。
本発明において、水系有機サイジング剤は、特に限定されるものではないが、水溶性または水分散性であり、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリオキシエチレン、水系ポリウレタン等の単独または混合物が挙げられる。
また、無機微粒子は、特に限定されるものではないが、アルミナ系連続繊維と反応しにくい無機微粒子であることが好ましく、具体的にはジルコニア、チタニア、アルミナ、窒化ホウ素、炭化珪素等の微粒子が挙げられ、特に好ましいものとしてジルコニア微粒子が挙げられる。
【0012】
本発明おいて、アルミナ系連続繊維の被覆層における無機微粒子は、アルミナ系連続繊維を補強材として取り扱う上で被覆層表面の滑らかさを確保するために、その粒子径が10~200nmであることが好ましい。
アルミナ系連続繊維の被覆層における水系有機サイジング剤の量、すなわち繊維への付着量は、アルミナ系連続繊維に対し、0.5~5質量%であることが好ましい。水系有機サイジング剤量が0.5質量%未満では、無機微粒子の固定保持が困難となり脱落が生じやすくなり、5質量%を超えると、マトリックス材との複合化の際の加熱による完全除去が困難となる。
また、アルミナ系連続繊維の被覆層における無機微粒子の量である繊維への付着量は、アルミナ系連続繊維に対し、1~6質量%であることが好ましい。無機微粒子量が1質量%未満では、マトリックス材と複合したときに形成される界面層としての機能を発揮させるには不十分であり、6質量%を超えると、無機微粒子を水系有機サイジング剤で覆い固定することが不十分となり、界面層が均一とならず、また、被覆されたアルミナ系連続繊維が硬くなることから、巻取り操作や複合材の基材の形成への加工が困難となる。
【0013】
本発明の無機複合材用アルミナ系連続繊維は、マトリックス材と複合したときに、アルミナ系連続繊維の被覆層では、水系有機サイジング剤が複合化の過程での1000~1300℃の高温加熱で熱分解して除去され、無機微粒子が残存して、アルミナ系連続繊維とマトリックスとの界面に無機微粒子からなる界面層を形成する。
無機複合材における無機微粒子からなる界面層は、アルミナ系繊維とマトリックスとが密着するのを阻止して、補強材であるアルミナ系繊維へのマトリックスの直接の接触による繊維の損傷を軽減し、結果として無機複合材としての強度を向上させ、例えば複合材が長尺の複合材であれば引張強度を高めるものである。
【0014】
本発明の無機複合材用アルミナ系連続繊維は、次のようにして製造することができる。
すなわち、水系有機サイジング剤と粒子径が10~200nmの無機微粒子水分散液からなる処理液にアルミナ系連続繊維を連続的に浸漬し、有機サイジング剤と無機微粒子をアルミナ系連続繊維に対し付着させ、乾燥することにより、アルミナ系連続繊維へのサイジングと無機微粒子の被覆を同時に行い、アルミナ系連続繊維に付着させた無機微粒子をサイジング剤で固定して繊維表面に被覆層を形成し、本発明の無機複合材用アルミナ系連続繊維を製造とするものである。
本発明においては、無機複合材用とするための補強材の繊維として、アルミナ系連続繊維を用いるが、このアルミナ系連続繊維は、任意の単糸数の糸状として適用され、糸条の全繊度、単糸数については特に制限はない。
【0015】
水系有機サイジング剤と無機微粒子水分散液からなる処理液には、水系有機サイジング剤として、例えば、前記のポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリオキシエチレン、水系ポリウレタン等の単独または混合物を用い、通常のサイジングにおけると同様の状態で用い、また、水系有機サイジング剤は水溶性または水分散性であればよいが、好ましくは水分散性で液状のものが用いられる。
また、無機微粒子水分散液として、具体的にはジルコニア、チタニア、アルミナ、窒化ホウ素、炭化珪素等の微粒子、特に好ましくはジルコニア微粒子を含む水分散液を用い、両者を混合して作成した処理液である。なお、前記無機微粒子水分散液は、含まれる微粒子が分散状態にあることから無機微粒子懸濁液とも称されるものである。
【0016】
本発明おいて処理液に用いる無機微粒子水分散液は、含まれる無機微粒子の粒子径が10~200nmであることが好ましい。無機微粒子の粒子径が10nm未満では、処理液中に均一分散させることも均一にアルミナ系繊維上に付着被覆させることも困難であり、200nmを超えると、処理液を作成する際に沈殿し、均一にアルミナ系繊維上に付着被覆させることも困難である。
また、無機微粒子は、その生成の過程によっては水分散液としたときに、水分散液が酸性からアルカリ性まで呈するが、本発明における無機微粒子水分散液は、その液が中性乃至アルカリ性であることが好ましい。無機微粒子水分散液が酸性であると水系有機サイジング剤と無機微粒子水分散液と混合した際にサイジング剤によっては無機微粒子を凝集させることがあり、アルミナ系繊維の表面に均一な被覆層を形成することが困難となる。
【0017】
水系有機サイジング剤と無機微粒子水分散液からなる処理液は、処理液中の無機微粒子の濃度が好ましくは4.0~15重量%に調整する。処理液中の無機微粒子の濃度が4.0重量%未満であると、アルミナ系連続繊維を浸漬する際のアルミナ系連続繊維への無機微粒子の付着が不十分となり、15重量%を超えると、アルミナ系連続繊維への無機微粒子の付着が過剰となり、また付着が不均一となりやすくなる。
【0018】
アルミナ系連続繊維への被覆層の形成は、アルミナ系連続繊維を連続的に処理液に浸漬して、有機サイジング剤と無機微粒子をアルミナ系連続繊維に対し付着させ、乾燥することにより行われ、のち複合材用の強化材繊維として巻き取るものである。処理液への浸漬では、供給するアルミナ系連続繊維の速度、張力、時間、搾液率等を適宜調節することにより、アルミナ系繊維に有機サイジング剤と無機微粒子の所定量を被着させる。
アルミナ系連続繊維は、任意の単糸数、繊度の糸条で浸漬処理に適用され、浸漬処理に際しては、アルミナ系連続繊維の単糸間に処理液を浸透させ適宜搾液した後、乾燥し、巻き取る。
【0019】
有機サイジング剤と無機微粒子は、アルミナ系繊維に対し、それぞれ0.5~5質量%、1~6質量%付着させて、有機サイジング剤と無機微粒子とを被覆させることが好ましい。有機サイジング剤の付着量が0.5質量%未満では、無機微粒子を覆うには不十分であり、5質量%を超えると、完全に除去させることが困難になる。
また、無機微粒子の付着量が1質量%未満では、複合化したときに十分な界面層の形成ができず、6質量%を超えると、被覆されたアルミナ系連続繊維が硬くなり、巻取り操作や基材の形成への加工が困難となる。
また、処理液に含まれる有機サイジング剤によって、アルミナ系繊維へ無機微粒子を均一に被着させるとともにその脱落を防ぎ、いわゆるサイジングによって繊維のばらけを防止する効果が得られる。
【0020】
本発明による有機サイジング剤と無機微粒子の被覆層を有するアルミナ系連続繊維は、前述したように、無機複合材とするため、マトリックス材と複合化する際に、アルミナ系繊維の被覆層を介してマトリックス材が塗布等で被覆されるため、アルミナ系繊維にはマトリックス材の直接の接触がないことから、高温加熱等の複合化の条件下でも繊維強度には影響を及ぼすことがなく、無機複合材の強度向上に寄与するものである。
また、本発明によるアルミナ系連続繊維をマトリックス材で複合化した際に、アルミナ系連続繊維とマトリックスとの界面で形成された無機微粒子の界面層の存在は、無機複合材としての強度を向上させるものである。
【実施例
【0021】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、アルミナ系繊維及び繊維状複合材の引張強度の測定は、JIS R3420の方法に準拠(引張間隔100mm、引張速度30mm/min)した。
【0022】
(参考例)
アルミナ系連続繊維として、水系有機サイジング剤と無機微粒子の被覆のない、単糸数960、全繊度200tex、引張強度6.61kgf/yarnのアルミナ系連続繊維(ブランク繊維)を用い、このブランク繊維であるアルミナ系連続繊維にマトリックス材としてゾル系アルミナ前駆体を塗布した後、1000℃で加熱して複合化し、連続繊維状の無機複合材を得た。得られた繊維状複合材の引張強度を測定したところ、複合化の過程で被覆のない前記繊維がマトリックス材との直の接触により損傷を受け、表1に示すとおり、この繊維状複合材の引張強度は、2.38kgf/yarnとなり、単に引張強度でいえば、ブランク繊維であるアルミナ系連続繊維の引張強度の64%の減少であった。
本参考例の未処理の被覆のないアルミナ系連続繊維(ブランク繊維)はSEM写真で観察しても滑らかな繊維表面であった(図1参照)。
【0023】
(実施例1)
水系有機サイジング剤としてポリウレタン水分散液、無機微粒子水分散液としてジルコニア微粒子水分散液(粒子径60~100nm、pH7.0~8.3)を用い、両者を混合してジルコニア微粒子濃度13.5質量%の処理液を調製した。参考例で示したブランク繊維のアルミナ系連続繊維(単糸数960、全繊度200tex)をこの処理液に連続的に浸漬し、アルミナ系連続繊維にポリウレタンとジルコニア微粒子を付着させ、ローラーで余分な処理液を搾液して、室温での風乾により乾燥し、巻き取ってポリウレタンとジルコニア微粒子からなる被覆層を有するアルミナ系連続繊維を得た。
得られたアルミナ系連続繊維の被覆層におけるポリウレタン量、ジルコニア微粒子量は、それぞれ繊維に対し、0.89質量%、4.41質量%であった。
なお、アルミナ系連続繊維の被覆層でのポリウレタン、ジルコニア微粒子の各量は、繊維全体に対する各付着量より求めた。
このポリウレタンとジルコニア微粒子からなる被覆層を有するアルミナ系連続繊維の引張強度は8.41kgf/yarnであり、参考例のブランク繊維に対して27%の増加であった。
【0024】
得られたアルミナ系連続繊維の被覆層が複合材において界面層として機能するかを確認するため、次の複合材の形態で評価を行った。
得られた被覆層を有するアルミナ系連続繊維に、マトリックス材としてゾル系アルミナ前駆体を塗布した後、1000℃で加熱して複合一体化し、連続繊維状の無機複合材を得た。
得られた繊維状複合材の引張強度を測定したところ、表1に示すとおり、この繊維状複合材の引張強度は、6.55kgf/yarnで、参考例のブランク繊維に対して1%の減少でしかなった。
また、表1には、参考例でのブランク繊維の引張強度を基準として、本実施例、実施例2及び比較例1~3での繊維及び繊維状複合材の引張強度との対比を示した。
本実施例で得られたアルミナ系連続繊維の被覆層は、複合材にする過程で界面層に変化し、生じた界面層が複合材中で界面層として十分機能し、繊維の損傷を低減して繊維状複合材の引張強度を向上させていることが確認された。
【0025】
本実施例1で得られた被覆層を有するアルミナ系連続繊維の表面をSEM写真で観察したところ、ジルコニア微粒子は有機サイジング剤のポリウレタンにより覆われており繊維表面の被覆面にはみられなかった(図2参照)。
被覆層中の有機サイジング剤のポリウレタンは、1000℃で加熱した際に加熱で熱分解して除去され、ポリウレタンにより覆われていたジルコニア微粒子が現れ、ジルコニア微粒子が繊維表面に均一に被着していた(図3参照)。
【0026】
(実施例2)
実施例1で得られたポリウレタンとジルコニア微粒子からなる被覆層を有するアルミナ系連続繊維(引張強度8.41kgf/yarn)に、マトリックス材として溶液系アルミナ前駆体を適用した以外は、実施例1と同様にして複合化を行い、連続繊維状の無機複合材を得た。
得られた繊維状複合材の引張強度を測定したところ、表1に示すとおり、この繊維状複合材の引張強度は、6.72kgf/yarnで、参考例のブランク繊維に対して1%の増加であり、マトリックス材が変わっても、アルミナ系連続繊維の被覆層から変化して生じた界面層が、界面層として十分機能していることが確認された。
【0027】
(比較例1)
実施例1における処理液を、ジルコニア微粒子濃度が19.5質量%の処理液に変更した以外は、実施例1と同様にして被覆層を有するアルミナ系連続繊維を得た。得られたアルミナ系連続繊維の被覆層におけるポリウレタン量、ジルコニア微粒子量は、繊維に対しそれぞれ 1.14質量%、8.13質量%であった。
このポリウレタンとジルコニア微粒子からなる被覆層を有するアルミナ系連続繊維の引張強度は、8.19kgf/yarnであり、参考例のブランク繊維に対して24%増加していた。
本比較例1で得られた多量のジルコニア微粒子を含む被覆層を有するアルミナ系連続繊維を用い、実施例1と同様にして連続繊維状の無機複合材を得た。 得られた繊維状複合材の引張強度を測定したところ、表1に示すとおり、この繊維状複合材の引張強度は、5.86kgf/yarnで、参考例のブランク繊維に対して11%の減少であった。
この複合材は、非常に硬く、手で触るとジルコニア微粒子と思われる白色粉末が脱落してしまい、取り扱いが難しいものであった。
なお、本比較例1で得られた被覆層を有するアルミナ系連続繊維の表面をSEM写真で観察したところ、有機サイジング剤のポリウレタンで被覆しきれないほどのジルコニア微粒子が存在しており、大きな塊も見られた(図4参照)。
このアルミナ系連続繊維を実施例1と同様に1000℃で加熱したところ、有機サイジング剤のポリウレタンが熱分解して除去され、ポリウレタンにより覆われていたジルコニア微粒子が現れたものの、多量の凝集物がみられた(図5参照)。
【0028】
(比較例2)
無機微粒子水分散液としてジルコニア微粒子水分散液(粒子径60~100nm、pH7.0~8.3、微粒子濃度3質量%)のみを処理液として用い、実施例1と同様にしてアルミナ系連続繊維をこの処理液に浸漬し、乾燥してジルコニア微粒子のみからなる被覆層を有するアルミナ系連続繊維を得た。
得られたアルミナ系連続繊維のジルコニア微粒子の被着量は繊維に対し1.15質量%であった。また、このジルコニア微粒子のみからなる被覆層を有するアルミナ系連続繊維の引張強度は6.69kgf/yarnであり、参考例のブランク繊維に対して1%増加していた。
得られたこのアルミナ系連続繊維を用い、マトリックス材として実施例2で用いたと同じ溶液系アルミナ前駆体を用いた以外は、実施例1と同様にして連続繊維状の無機複合材を得た。
得られた繊維状複合材の引張強度を測定したところ、表1に示すとおり、この繊維状複合材の引張強度は、5.86kgf/yarnで、参考例のブランク繊維に対して11%の減少であった。
本比較例2で得られたアルミナ系連続繊維の表面についてSEM写真で観察したが、繊維表面にジルコニア微粒子が付着しているものの均一ではなく、繊維全体を被覆できていなかった(図6参照)。このアルミナ系連続繊維を1000℃で加熱したところ、繊維表面にジルコニア微粒子が付着しているものの加熱前と同様に付着は均一ではなく、しかもジルコニア微粒子の付着量の減少がみられた(図7参照)。
また、得られた繊維状複合材の表面からはマトリックスの一部が大きく剥がれ落ちていることが認められた。
【0029】
(比較例3)
水系有機サイジング剤として実施例1で用いたと同じ濃度1.5質量%のポリウレタン水分散液のみを処理液として用い、実施例1で用いたと同じアルミナ系連続繊維をこの処理液に浸漬し、乾燥してポリウレタンのみ付着被覆、いわゆるポリウレタンでサイジングのアルミナ系連続繊維を得た。得られたアルミナ系連続繊維のポリウレタンの付着量は繊維に対し1.88質量%であった。
また、このポリウレタンのみ被着のアルミナ系連続繊維の引張強度は7.39kgf/yarnであり、参考例のブランク繊維に対して12%増加していた。
得られたアルミナ系連続繊維を用い、マトリックス材として実施例1で用いたと同じゾル系アルミナ前駆体を用いた以外は、実施例1と同様にして連続繊維状の無機複合材を得た。得られた繊維状複合材の引張強度を測定したところ、表1に示すとおり、この繊維状複合材の引張強度は、4.81kgf/yarnで、参考例のブランク繊維に対して27%の減少であった。
本比較例3で得られたポリウレタンのみ被着のアルミナ系連続繊維を1000℃で加熱したが、そのポリウレタンが除去されたアルミナ系連続繊維の表面はもとの滑らかなままであった( 図8参照)。
【0030】
【表1】
【0031】
(比較例4)
水系有機サイジング剤として実施例1で用いたと同じ水系ポリウレタン、無機微粒子水分散液として実施例1で用いたとは異なるジルコニア微粒子水分散液(粒子径60~100nm、pH2.5~3.8)を用い、両者を混合してジルコニア微粒子を含む処理液を調製しようとしたが、混合の際にジルコニア微粒子が凝集・沈殿してしまい、良好な処理液が得られなかった。また有機サイジング剤のポリウレタンと無機微粒子のジルコニア微粒子からなる均一な被覆層を有するアルミナ系連続繊維も得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の無機複合材用アルミナ系連続繊維は、航空機などガスタービンエンジンの高温部材として軽量でかつ高い耐久性が要求される部分に使用される無機複合材における強化材として用いられ、無機複合材の強度及び靭性を高めることが可能な連続繊維を提供することができるものである。また、本発明によれば、煩雑な工程がなく、前記無機複合材用アルミナ系連続繊維を商業的にも有利に得ることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8