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特許7449053熱伝導性樹脂及び熱伝導性樹脂の製造方法
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  • 特許-熱伝導性樹脂及び熱伝導性樹脂の製造方法 図1
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  • 特許-熱伝導性樹脂及び熱伝導性樹脂の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂及び熱伝導性樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240306BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20240306BHJP
   C08K 7/08 20060101ALI20240306BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240306BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20240306BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240306BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240306BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20240306BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240306BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K9/02
C08K7/08
C08K3/22
C08L33/06
C08L63/00 C
C08L83/04
C08J5/06 CFC
H05K7/20 F
H01L23/36 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019153823
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2021031602
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】熊野 圭司
(72)【発明者】
【氏名】岡部 隆彦
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-137293(JP,A)
【文献】特開昭62-198197(JP,A)
【文献】特開2003-183498(JP,A)
【文献】特開2008-050555(JP,A)
【文献】特開平08-283456(JP,A)
【文献】特開2014-109024(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135517(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/158942(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08J
H05K
H01L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、
前記樹脂よりも熱伝導率の高い酸化物系無機粒子と、
前記樹脂中に含まれ、前記酸化物系無機粒子で被覆されたアルミナ繊維とからなり、
前記アルミナ繊維同士が前記酸化物系無機粒子を介して接触していることを特徴とする熱伝導性樹脂であって、
前記熱伝導性樹脂中の前記アルミナ繊維の含有量は20重量%以上であり、
前記酸化物系無機粒子で被覆されたアルミナ繊維は、酸化物系無機粒子を含む無機ゾル分散液に、アルミナ繊維を浸漬し、乾燥させる工程により得られる、熱伝導性樹脂。
【請求項2】
前記酸化物系無機粒子がアルミナ粒子である請求項1に記載の熱伝導性樹脂。
【請求項3】
前記酸化物系無機粒子の平均粒子径が500nm以下である請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂。
【請求項4】
前記樹脂がシリコーン樹脂、アクリル樹脂、又はエポキシ樹脂である請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂。
【請求項5】
前記アルミナ繊維が、アルミナ含有量85重量%以上でα-アルミナ率が50重量%以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂。
【請求項6】
熱源と、放熱部材と、前記熱源と前記放熱部材との間に配置された請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂と、からなることを特徴とする放熱構造体。
【請求項7】
酸化物系無機粒子を含む無機ゾル分散液にアルミナ繊維を浸漬し、乾燥することによって前記酸化物系無機粒子で前記アルミナ繊維を被覆し、
前記酸化物系無機粒子で被覆した前記アルミナ繊維と、樹脂材料とを混合して、成形することにより熱伝導性樹脂を得る、熱伝導性樹脂の製造方法であって、
前記熱伝導性樹脂中の前記アルミナ繊維の含有量は20重量%以上である、熱伝導性樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂及び放熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体は、通電のための導体と、絶縁材料とを含んで構成される。近年半導体の高出力化によって発熱量が増大しているため、半導体から発せられる熱をいかに放散させるかが重要な課題となっている。
【0003】
特許文献1には、基材樹脂とセラミック繊維とを含有する樹脂組成物が記載されている。
この組成物に含まれるセラミック繊維は、α化率10%以上のアルミナ70~99重量%と、無機バインダ成分30~1重量%とを含有することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-120814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、セラミック繊維としてのアルミナ繊維を得る方法として、δアルミナを主成分とし、無機バインダとしてシリカを含有するアルミナ繊維を大気下で温度1400℃で5時間加熱し、アルミナ繊維中のδアルミナのα化を進行させることが記載されている。
このようにして得られるセラミック繊維はαアルミナを95重量%、シリカを5重量%含有すると記載されている。
すなわち、無機バインダ成分としてのシリカはアルミナ繊維の結晶中に取り込まれる成分であり、アルミナ繊維を被覆する成分ではない。
【0006】
特許文献1に記載されたようなアルミナ繊維が基材樹脂中に含有されてなる樹脂組成物では、アルミナ繊維が熱伝導を担う伝熱パスとして機能することが期待される。
しかし、アルミナ繊維同士の接触が点接触であり、アルミナ繊維の間には熱伝導率の低い樹脂が存在することから、効率的な熱伝導が達成できないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、熱伝導性に優れた熱伝導性樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の熱伝導性樹脂は、樹脂と、上記樹脂中に含まれるアルミナ繊維と、上記アルミナ繊維を被覆する、上記樹脂よりも熱伝導率の高い酸化物系無機粒子と、からなり、上記アルミナ繊維同士が上記酸化物系無機粒子を介して接触していることを特徴とする。
【0009】
本発明の熱伝導性樹脂では、アルミナ繊維を使用している。
そして、酸化物系無機粒子がアルミナ繊維を被覆している。
当該酸化物系無機粒子は、無機バインダに含まれる成分であり、酸化物系無機粒子の熱伝導率は樹脂よりも高くなっている。
また、アルミナ繊維同士が酸化物系無機粒子を介して接触している。
そのため、酸化物系無機粒子でアルミナ繊維を被覆し、酸化物系無機粒子で被覆されたアルミナ繊維同士の接触面積を増大させることによって、アルミナ繊維同士の熱伝導性が向上し、熱伝導性に優れた熱伝導性樹脂を提供することができる。
【0010】
本発明の熱伝導性樹脂では、上記酸化物系無機粒子がアルミナ粒子であることが好ましい。
アルミナ粒子は熱伝導率の高い酸化物系無機粒子であり、アルミナ粒子を使用することによって、より高い熱伝導率を有する熱伝導性樹脂とすることができる。
また、アルミナ粒子の熱膨張係数はアルミナ繊維の熱膨張係数と近いので、冷熱衝撃によりアルミナ繊維とアルミナ粒子の結合が解けることも防止される。
【0011】
本発明の熱伝導性樹脂では、上記酸化物系無機粒子の平均粒子径が500nm以下であることが好ましい。
この範囲であれば、酸化物系無機粒子の平均粒子径がアルミナ繊維の繊維径よりも十分に小さいので、アルミナ繊維の表面を被覆しやすい。
【0012】
本発明の熱伝導性樹脂では、上記樹脂がシリコーン樹脂、アクリル樹脂、又はエポキシ樹脂であることが好ましい。
これらの樹脂は耐熱性が高く、絶縁性にも優れるので好ましい。
【0013】
本発明の熱伝導性樹脂では、上記アルミナ繊維が、アルミナ含有量85重量%以上でα-アルミナ率が50重量%以上であることが好ましい。
【0014】
アルミナ繊維自体が、アルミナ含有量85重量%以上でα-アルミナ率が50重量%以上のアルミナ繊維となっていると、シリカ分の多いムライト組成のアルミナ繊維等と比べて熱伝導率の高い組成の繊維であるので、アルミナ繊維の組成の観点からも高い熱伝導率を有する熱伝導性樹脂とすることができる。
【0015】
本発明の放熱構造体は、熱源と、放熱部材と、上記熱源と上記放熱部材との間に配置された本発明の熱伝導性樹脂と、からなることを特徴とする。
当該構造であると、熱源からの熱を熱伝導性樹脂を介して放熱部材に好適に熱伝導させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、アルミナ繊維同士が酸化物系無機粒子を介して接触している態様を示す模式図である。
図2図2は、本発明の熱伝導性樹脂の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図3図3は、放熱構造体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【0017】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明の熱伝導性樹脂及び放熱構造体について詳述する。
本発明の熱伝導性樹脂は、樹脂と、上記樹脂中に含まれるアルミナ繊維と、上記アルミナ繊維を被覆する、上記樹脂よりも熱伝導率の高い酸化物系無機粒子と、からなり、上記アルミナ繊維同士が上記酸化物系無機粒子を介して接触していることを特徴とする。
【0018】
図1は、アルミナ繊維同士が酸化物系無機粒子を介して接触している態様を示す模式図である。
図1には、アルミナ繊維30がそれぞれ酸化物系無機粒子40で被覆されており、2本のアルミナ繊維30が酸化物系無機粒子40を介して接触している様子を示している。
アルミナ繊維30間には酸化物系無機粒子40が存在しているため、アルミナ繊維同士の接触面積が増大し、アルミナ繊維同士の熱伝導性が向上する。
【0019】
図2は、本発明の熱伝導性樹脂の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2に示す熱伝導性樹脂10は、樹脂20と、樹脂20に含まれるアルミナ繊維30と、アルミナ繊維30を被覆する酸化物系無機粒子40とからなる。
アルミナ繊維30及び酸化物系無機粒子40は、樹脂20のマトリックス中に存在している。
【0020】
樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂からなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい
これらの中では、シリコーン樹脂、アクリル樹脂又はエポキシ樹脂であることが好ましい。
シリコーン樹脂、アクリル樹脂又はエポキシ樹脂は絶縁性が高いため熱伝導性樹脂を半導体素子等に接触させて使用する場合に絶縁性を確保することができるため好ましい。
【0021】
アルミナ繊維は、平均繊維径1μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましい。また、平均繊維径30μm以下であることが好ましい。
アルミナ繊維の平均繊維径は、熱伝導性樹脂の電子顕微鏡写真を倍率1500倍程度で撮影して、得られた写真から10本以上の繊維の径を測定して、その平均値として定める。
アルミナ繊維の平均繊維径が1μm以上であると、アルミナ繊維による伝熱量が多くなり、アルミナ繊維を使用することによる熱伝導性向上効果が好適に発揮される。
【0022】
アルミナ繊維の平均繊維長は100μm以上であることが好ましく、400μm以上であることがより好ましい。
また、アルミナ繊維の平均繊維長は5000μm以下であることが好ましい。
【0023】
アルミナ繊維のアスペクト比は、100より大きく1000以下であることが好ましい。
アルミナ繊維のアスペクト比が上記範囲であると、熱が繊維部分の長い距離を連続して流れ、その間に熱伝導率の低い樹脂部分が介在しないためにより高い熱伝導率を有する熱伝導性樹脂とすることができる。
アルミナ繊維のアスペクト比は(アルミナ繊維の平均繊維長/平均繊維径)で求めることができる。
【0024】
アルミナ繊維は、アルミナ含有量85重量%以上でα-アルミナ率が50重量%以上であるアルミナ繊維であることが好ましい。
このようなアルミナ繊維は、熱伝導率の高い組成の繊維であるので、熱伝導性樹脂の熱伝導率を向上させることができる。
また、アルミナ繊維は、シリカ-アルミナ繊維であってもよく、ムライト組成のシリカ-アルミナ繊維であってもよい。
【0025】
アルミナ繊維中のアルミナ含有量は、蛍光X線分析法により以下の手順でアルミナ繊維に含まれる元素の定量分析を行ってAl含有量を求め、Al含有量からAl換算での重量比率を算出することによって求めることができる。
まず試料を乳鉢で十分に粉砕し、有機バインダ(Chemplex Industries Inc Spectro Blend 44μm)を加え、よく混合する。その後、加圧することでペレット状に成形する。ペレットのサイズは例えば直径約13mm、厚み約5mmとする。
それを蛍光X線測定装置(株式会社リガク社製ZSX Primus II)により測定する。
本装置のX線管はRhであり、定格最大出力は4kWである。また、分析領域は10mmφである。
【0026】
また、アルミナ繊維中のα-アルミナ率は以下のように測定する。
<α-アルミナ率の測定方法>
αアルミナ[大明化学工業(株)製 タイミクロン TM-DA]を標準物質として粉末X線回折(XRD)スペクトルを測定し、αアルミナの特徴ピークである2θ=43.0~43.5°のピーク強度(h0)を測定する。これに対して、測定条件を同一にして測定対象のXRDスペクトルを測定し、2θ=43.0~43.5°のピーク強度(h)を測定する。標準物質のピーク強度(h0)がαアルミナ100重量%であるとして、h/h0で計算される値をα-アルミナ率とする。
【0027】
また、アルミナ繊維のα-アルミナ率は80重量%以上であることが好ましく、99重量%以下であることが好ましい。
【0028】
熱伝導性樹脂中のアルミナ繊維の含有量は特に限定されないが、20重量%以上であることが好ましい。
アルミナ繊維の含有割合を20重量%以上とすることにより、熱伝導性フィラーとしてアルミナ繊維を配合する効果がより好適に発揮され、より高い熱伝導率を有する熱伝導性樹脂とすることができる。アルミナ繊維の含有割合が45重量%以上であることがより好ましい。
また、アルミナ繊維の含有割合が90重量%以下であることが好ましく、80重量%以下であることがより好ましい。
【0029】
また、熱伝導性樹脂中の樹脂とアルミナ繊維の重量比率が、樹脂:アルミナ繊維=8:2~1:9であることが好ましい。
アルミナ繊維の割合が2/10未満であると熱伝導性が不足することがあり、樹脂の割合が1/10未満であると成形が困難になることがある。
【0030】
酸化物系無機粒子は、アルミナ繊維を被覆する粒子であり、熱伝導性樹脂を構成する樹脂よりも熱伝導率の高い物質からなる粒子である。
酸化物系無機粒子の熱伝導率は熱伝導性樹脂を構成する樹脂の熱伝導率よりも高ければ特に限定されるものではないが、例えば1W/m・K以上であることが好ましい。
【0031】
酸化物系無機粒子としては、アルミナ粒子、シリカ粒子、チタニア粒子等が好ましい。また、これらの粒子は、それぞれ無機ゾル分散液に由来する粒子であることが好ましく、それぞれアルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル等に由来する粒子であることが好ましい。
熱伝導樹脂の製造過程において無機ゾル分散液にアルミナ繊維を浸漬し、乾燥することによって酸化物系無機粒子でアルミナ繊維を被覆することができる。
【0032】
酸化物系無機粒子の平均粒子径は特に限定されるものではないが、500nm以下であることが好ましい。
酸化物系無機粒子の平均粒子径がこの範囲であれば、酸化物系無機粒子の平均粒子径がアルミナ繊維の繊維径よりも十分に小さいので、アルミナ繊維の表面を被覆しやすい。
また、酸化物系無機粒子の平均粒子径は5nm以上であることが好ましい。
酸化物系無機粒子の平均粒子径は、SEM像において観察される酸化物系無機粒子の円相当径として求めることができる。
【0033】
熱伝導性樹脂中の酸化物系無機粒子の割合は特に限定されないが、0.1~5重量%であることが好ましい。
また、アルミナ繊維と酸化物系無機粒子の重量比率が、アルミナ繊維:酸化物系無機粒子=99.5:0.5~95:5であることが好ましい。
酸化物系無機粒子の割合が多すぎると熱伝導性を発揮させるためのアルミナ繊維の割合が少なくなり、熱伝導性樹脂の熱伝導性が高くならない可能性がある。
【0034】
本発明の熱伝導性樹脂では、樹脂中において、図1に示すようにアルミナ繊維同士が酸化物系無機粒子を介して接触している。
アルミナ繊維同士が酸化物系無機粒子を介して接触しているかは、SEMによる画像観察及びSEM-EDX観察による元素マッピングにより確認することができる。
なお、本発明の熱伝導性樹脂は、アルミナ繊維同士が酸化物系無機粒子を介して接触している部分を有していればよい。本発明の熱伝導性樹脂はすべてのアルミナ繊維同士が酸化物系無機粒子を介して接触していることを要件とするものではなく、一部のアルミナ繊維同士が直接接している部分を有していてもよい。
【0035】
また、熱伝導性樹脂には樹脂とアルミナ繊維と酸化物系無機粒子のほかに、アルミナ繊維以外の無機繊維や、アルミナ繊維を被覆していない無機フィラーが含まれていてもよい。
アルミナ繊維以外の無機繊維としては、シリカ繊維、ジルコニア繊維、チタニア繊維、生体溶解性繊維等が挙げられる。
無機フィラーとしては、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、シリカ及びアルミナからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
また、これらの無機粒子は、熱伝導率が高い材料であるので熱伝導性樹脂中に配合することによって熱伝導性樹脂の熱伝導性を高めることができる。
また、これらの無機粒子は、電気伝導性の低い材料であるため、これらの無機粒子を使用することにより熱伝導性樹脂の絶縁性を高めることができる。
アルミナ繊維以外の無機繊維や無機フィラーの割合は、熱伝導性樹脂中において30重量%以下であることが好ましい。
【0036】
熱伝導性樹脂の厚みは、500μm以上、10mm以下であることが好ましい。
また、1mm以上であることがより好ましく、3mm以下であることがより好ましい。
熱伝導性樹脂に絶縁性が求められる場合はある程度の厚さ(500μm以上)を有することが好ましい。
また、金属材料に比べると熱伝導性樹脂は熱伝導率が低いので、熱伝導性樹脂の厚さが厚すぎる(例えば10mmを超える)と、熱伝導性樹脂を使用することによる全体の熱伝導性の低下が生じることがある。
【0037】
熱伝導性樹脂は、その熱伝導率が1W/m・Kを超えることが好ましく、3W/m・K以上であることがより好ましい。
熱伝導性樹脂の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により測定することできる。
【0038】
本発明の熱伝導性樹脂は、以下の手順で製造することができる。
まず、酸化物系無機粒子を含む無機ゾル分散液にアルミナ繊維を浸漬し、乾燥することによって酸化物系無機粒子でアルミナ繊維を被覆する。
そして、酸化物系無機粒子で被覆したアルミナ繊維と、樹脂材料と、必要に応じてその他の材料を混合し、成形することによって熱伝導性樹脂を製造する。
熱伝導性樹脂の形状によって成形方法は任意に設定することができ、プレス成型、ドクターブレード法、押出成形、射出成形、シート成形、フィルム成形等の方法を使用することができる。
また、所定の形状に成形した後に切削、研磨等の機械加工を行って所望の形状にしてもよい。
熱伝導性樹脂を構成する樹脂が熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂といった硬化性の樹脂である場合は、酸化物系無機粒子で被覆したアルミナ繊維と樹脂材料とその他の材料を混合し、成形して得られた樹脂前駆体に対して熱硬化や光硬化の処理を行えばよい。
【0039】
続いて、本発明の放熱構造体について説明する。
本発明の放熱構造体は、熱源と、放熱部材と、上記熱源と上記放熱部材との間に配置された本発明の熱伝導性樹脂と、からなることを特徴とする。
【0040】
図3は、放熱構造体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図3には、熱源としての半導体素子110と放熱部材としてのヒートシンク200の間に熱伝導性樹脂10が配置された形態の放熱構造体100を示している。
この形態であると、半導体素子110から発生した熱を熱伝導性樹脂10を介してヒートシンク200に熱伝導させることができる。
【0041】
図3には、半導体素子110と熱伝導性樹脂10の間、及び、熱伝導性樹脂10とヒートシンク200の間、のそれぞれに熱伝導グリス115が配置された様子を示している。
熱伝導グリスは半導体素子と熱伝導性樹脂の間の空間、及び、熱伝導性樹脂とヒートシンクの間の空間を埋めて接触性を高めて熱伝導性を向上させるために配置されているが、熱伝導性グリスを使用することは必須ではなく、半導体素子110と熱伝導性樹脂10を直接接触させてもよく、熱伝導性樹脂10とヒートシンク200を直接接触させてもよい。
【0042】
放熱構造体の熱源としては、半導体素子の他に発光素子(LED素子等)、コンデンサ、抵抗素子、電池、モーター等が挙げられる。
また、放熱部材としては、ヒートシンク、放熱ブロック、放熱フィン、熱拡散シート、ヒートパイプ等を使用することができる。
【0043】
[実施例]
(実施例1)
アルミナ繊維(平均繊維径6μm、平均繊維長800μm、アルミナ含有量95重量%、α-アルミナ率82重量%)100重量部に対してアルミナゾル(平均粒子径30nm)をアルミナ粒子の固形分重量5重量部となるように水と共に加えて攪拌し、アルミナ繊維をアルミナ粒子で被覆してアルミナ粒子被覆アルミナ繊維を得た。
【0044】
樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER(登録商標)樹脂828、三菱ケミカル株式会社製)83.3質量部、アミン系硬化剤(jER(登録商標)キュアT、三菱ケミカル株式会社製)16.7重量部の混合物を用いた。
樹脂混合物とアルミナ粒子被覆アルミナ繊維の重量比が樹脂混合物:アルミナ粒子被覆アルミナ繊維=5:5となるように樹脂混合物とアルミナ繊維を混合、混練して、熱伝導性樹脂組成物を作製した。
熱伝導性樹脂組成物をプレス成型して厚さ5mmの樹脂シートを作製し、実施例1に係る熱伝導性樹脂を製造した。
【0045】
この樹脂シートを200mm×200mmに加工して、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(アルバック理工株式会社製TC-1200RH)を用いて熱伝導率を測定した。
実施例1に係る熱伝導性樹脂の熱伝導率は15W/m・Kであった。
また、製造した熱伝導性樹脂のSEM観察を行ったところ、アルミナ繊維同士がアルミナ粒子を介して接触していることが確認できた。
【0046】
(実施例2)
アルミナ繊維としてムライト組成のシリカ-アルミナ繊維を使用した他は実施例1と同様にして実施例2に係る熱伝導性樹脂を製造した。
実施例2に係る熱伝導性樹脂の熱伝導率は2W/m・Kであった。
【0047】
(比較例1)
実施例2において、ムライト組成のシリカ-アルミナ繊維をアルミナ粒子の被覆を行わずに使用した他は実施例2と同様にして比較例1に係る熱伝導性樹脂を製造した。
比較例1に係る熱伝導性樹脂の熱伝導率は1W/m・Kであった。
【0048】
実施例2と比較例1の対比から、アルミナ繊維同士がアルミナ粒子を介して接触しているようにすることによって、高い熱伝導率を有する熱伝導性樹脂を得ることができた。
また、アルミナ繊維としてアルミナ含有量85重量%以上でα-アルミナ率が50重量%以上であるアルミナ繊維を使用することによって、より高い熱伝導率を有する熱伝導性樹脂を得ることができた。
【符号の説明】
【0049】
10 熱伝導性樹脂
20 樹脂
30 アルミナ繊維
40 酸化物系無機粒子
100 放熱構造体
110 半導体素子(熱源)
115 熱伝導グリス
200 ヒートシンク(放熱部材)
図1
図2
図3