(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】曲管
(51)【国際特許分類】
F16L 11/12 20060101AFI20240306BHJP
F16L 43/00 20060101ALI20240306BHJP
F16L 9/22 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
F16L11/12 L
F16L43/00
F16L9/22
(21)【出願番号】P 2019165102
(22)【出願日】2019-09-11
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】硲 昌也
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】間宮 聡
(72)【発明者】
【氏名】竹田 誠
(72)【発明者】
【氏名】濱口 武宣
(72)【発明者】
【氏名】関根 寛幸
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-140867(JP,A)
【文献】特開2018-035827(JP,A)
【文献】特開2005-121062(JP,A)
【文献】実開平02-145386(JP,U)
【文献】実公平06-045757(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/12
F16L 43/00
F16L 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一端面が管軸方向に対して傾斜した複数の
FRPM製で呼び径が900mm以上の短管を、曲管状となるように端面どうしを突き合わせた状態で接合した曲管において、
繊維と樹脂とで形成される積層部が、少なくとも前記短管の隣り合う2つの接合部を含
む部位の管外面全体
および管内面全体に設けられており、
前記積層部の管内面側の厚みが管外面側の厚みよりも小さく、前記積層部
全体の厚みが前記短管の厚みの
0.3~1倍とされ、
前記積層部は、
ガラスマットまたはコンティニュアスマットに樹脂含浸させた布状繊維層を短管外面の最内層とし、その最内層の外側に
ガラスクロスまたはロービングクロスに樹脂含浸させた織物繊維層と前記布状繊維層とを交互に
5層以上に積層したものであることを特徴とする曲管。
【請求項2】
前記短管の厚みと前記積層部の厚みとを合計した管厚は、前記積層部が設けられる部位
の円周方向曲げ剛性または円周方向抵抗曲げモーメントのいずれかが、JDPA規格G3
004「K形ダクタイル鋳鉄管」で規定される同口径の管厚のダクタイル鋳鉄管の、JD
PA技術資料T32「農業用水用ダクタイル鉄管管路 設計と施工」に記載された曲げ強
さおよび弾性係数を用いて計算した円周方向曲げ剛性または円周方向抵抗曲げモーメント
と同等以上となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の曲管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水輸送管等に用いられる曲管に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製管(FRPで形成されたFRP管、FRP層とその間に挟まれるモルタル層で形成されたFRPM管等)や鋼管は、軽量かつ安価であり、水輸送管の分野でも広く用いられている。このような管を水輸送管として配管する際、管路の方向が変化する位置には、通常、少なくとも一端面が管軸方向に対して傾斜した複数の短管を、曲管状となるように端面どうしを突き合わせた状態で接合した曲管が使用される。
【0003】
上記のような曲管の製造方法は、通常、予め直管を管軸方向に対して所定の角度で切断して短管を複数製作しておき、これらの短管を突き合わせた状態にして接合を行う。このとき、樹脂製管の場合は、それぞれの突き合わせ部の管外面に樹脂含浸ガラス繊維等、繊維と樹脂とで形成される積層部を形成することによって接合している(例えば、特許文献1参照。)。一方、鋼管の場合は、突き合わせ部で溶接接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のような方法で製造される曲管では、例えば
図5に示すように、短管51a、51b、51cを接合する積層部52は、それぞれの接合部の周辺に形成されており、隣り合う接合部どうしの間に積層部52が形成されていない部分がある。したがって、このような曲管は、積層部が形成されている接合部周辺部分がその他の部分よりも強度が高いものとなっている。
【0006】
しかしながら、特に、樹脂製曲管の場合は、用途によって、隣り合う接合部どうしの間の部分にも高い強度が必要とされる場合がある。一方、鋼製曲管の場合は、全面に耐食性を要求されることが多い。
【0007】
そこで、本発明は、複数の短管の接合によって製造され、少なくとも隣り合う2つの接合部を含む管軸方向の所定部位で高い強度を有し、かつ耐食性のある曲管を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、少なくとも一端面が管軸方向に対して傾斜した複数の短管を、曲管状となるように端面どうしを突き合わせた状態で接合した曲管において、繊維と樹脂とで形成される積層部が、少なくとも前記短管の隣り合う2つの接合部を含む管軸方向の所定部位の管外面全体に設けられており、前記積層部の厚みが前記短管の厚みの0.3~3倍とされている構成を採用した。ここで、曲管とは樹脂製曲管や鋼製曲管を含み、短管とは樹脂製短管や鋼製短管を含むものとする(以下同じ)。
【0009】
すなわち、曲管全体の表面のうち、少なくとも隣り合う2つの接合部を含む管軸方向の所定部位の管外面全体に、繊維と樹脂とで形成されて補強材となる積層部を短管の厚みの0.3~3倍の厚みで設けることにより、その所定部位の全体で高い強度が得られ、鋼製曲管の場合には耐食性も向上するようにしたのである。そして、この場合、前記積層部の厚みを前記短管の厚みの0.3~1倍とすれば、必要な強度と耐食性を確保しつつ、製造コストを抑えることができる。
【0010】
ここで、前記積層部が、少なくとも前記所定部位の管外面全体および管内面全体に設けられており、前記積層部全体の厚みが前記短管の厚みの0.3~3倍とされているものとすれば、積層部を管外面のみに設けたものと比べて、同等の強度を確保したまま、水密性の向上を図れるうえ、管内の水流に対する抵抗が小さくなって効率的に水を輸送できるようになる。この場合には、輸送水量を確保するため、前記積層部の管内面側の厚みは、管外面側の厚みよりも小さく形成することが望ましい。そして、この場合も、前記積層部全体の厚みを前記短管の厚みの0.3~1倍とすることにより、必要な強度と耐食性を確保しつつ、製造コストを抑えることができる。
【0011】
また、前記短管の厚みと前記積層部の厚みとを合計した管厚は、前記所定部位の円周方向曲げ剛性または円周方向抵抗曲げモーメントのいずれかが、同口径のダクタイル鋳鉄管と同等以上となるように設定されていることが望ましい。言い換えれば、前記所定部位については、円周方向曲げ剛性または円周方向抵抗曲げモーメントのいずれかは同口径のダクタイル鋳鉄管と同等以上の性能が得られるように、短管の厚みと積層部の厚みのバランスを設計することが望ましい。
【0012】
そして、前記積層部は、マットまたはスダレ材に樹脂含浸させた布状繊維層を最内層とし、その最内層の上にクロス状に織られた織布体に樹脂含浸させた織物繊維層と前記布状繊維層とを交互に積層したものとすることができる。ここで、スダレ材とは、複数の強化繊維束を一方向に対して平行かつ略等間隔に並べ、連結糸により各束を結束させつつ当該一方向に対して垂直方向に連結させてなる繊維シートのことをいう。また、織物繊維層は、編物に樹脂含浸させたものを含むものとする(以下同じ)。
【発明の効果】
【0013】
本発明の曲管は、上述したように、少なくとも隣り合う2つの接合部を含む管軸方向の所定部位の管外面全体に、繊維と樹脂とで形成される積層部を、基体となる短管の厚みの0.3~3倍の厚みで設けることにより、その所定部位の全体で高い強度が得られ、鋼製曲管の場合には耐食性も向上するようにしたものであるから、接合部の周辺のみに積層部を有する従来のものよりも広い用途で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】
図3の積層部の構成を説明する模式的な拡大縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1乃至
図4に基づき、本発明の実施形態を説明する。
図1および
図2は第1実施形態の曲管(樹脂製曲管)を示す。この曲管は、農業用水を輸送する農水管として使用されるもので、端面どうしを突き合わせた状態で接合された3つの樹脂製の短管1a、1b、1cと、これらの各短管1a、1b、1cを接合するために設けられる積層部2とからなる。
【0016】
前記各短管1a、1b、1cは、いずれも樹脂製の直管を管軸方向に対して同じ角度で切断して製作したもので、厚みは同じである。その素材となる樹脂製の直管には、強化プラスチック複合管協会規格 FRPM K-112に記載のフィラメントワインディング成形法で形成されたFRPM管が用いられている。また、各短管1a、1b、1cのうち、両側の短管1a、1cは一端面のみが管軸方向に対して傾斜しており、中央の短管1bは両端面が管軸方向に対して傾斜している。そして、各短管1a、1b、1cが曲管状となるように端面どうしを突き合わされた状態で接合され、両側の短管1a、1cの他端が接続管を介して農水管の直線部を構成する樹脂製直管に接続されるようになっている(図示省略)。
【0017】
前記積層部2は、各短管1a、1b、1cの2つの接合部を含む管軸方向の所定部位となる管中央部の管外面全体に設けられて、短管1a、1b、1cどうしを接合している。この積層部2は、繊維の方向性がランダムな布状体であるガラスマットに樹脂含浸させた布状繊維層と、クロス状に織られた織布体であるガラスクロスに樹脂含浸させた織物繊維層とを積層したもので、ガラスマットおよびガラスクロスに含浸させる樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂が使用されている。
【0018】
ここで、
図1に示した例では積層部2が一体に設けられているが、積層部2は管中央部の全長にわたって連続するように設けられていればよく、複数の積層部が互いに隣接するものと一部で重なり合っている形態や、端面どうしを突き合わされている形態であってもよい。
【0019】
積層部2の厚みT2は、短管1b(短管1a、1c)の厚みT1の0.3~3倍とされている。そして、その条件の範囲で、管中央部の円周方向曲げ剛性または円周方向抵抗曲げモーメントのいずれかが、同口径のダクタイル鋳鉄管と同等以上となるように、短管1a、1b、1cの厚みT1と積層部2の厚みT2とを合計した管厚が設定されている。
【0020】
この曲管は、上述のように、管中央部の管外面全体に、繊維と樹脂とで形成される積層部2を短管1a、1b、1cの厚みT1の0.3~3倍の厚みT2で設けたものであるから、管中央部の全体で高い強度が得られる。そして、短管1a、1b、1cの厚みT1と積層部2の厚みT2のバランスを適切に設計することにより、円周方向曲げ剛性または円周方向抵抗曲げモーメントのいずれかについて、管中央部を同口径のダクタイル鋳鉄管と同等以上の性能が得られるようにすることができる。したがって、短管どうしの接合部の周辺のみに積層部を有する従来のものに比べて、広い用途で使用できる。
【0021】
図3および
図4は第2実施形態を示す。この第2実施形態は、第1実施形態をベースとし、管中央部の管外面全体および管内面全体に積層部2、3を設けて、短管1a、1b、1cどうしを接合したものである。
【0022】
積層部2、3の厚みT2、T3は、管内面側の厚みT3が管外面側の厚みT2よりも小さく、かつ管外面側の厚みT2と管内面側の厚みT3の合計(積層部全体の厚みT2+T3)が短管1b(短管1a、1c)の厚みT1の0.3~3倍とされている。これにより、輸送水量を確保しながら、第1実施形態と同等の強度を確保できるようになっている。そして、第1実施形態と同様、短管1a、1b、1cの厚みT1と積層部2、3の厚みT2、T3とを合計した管厚は、管中央部の円周方向曲げ剛性または円周方向抵抗曲げモーメントのいずれかが、同口径のダクタイル鋳鉄管と同等以上となるように設定されている。
【0023】
ここで、積層部2、3の具体的な構成は、
図4に示すように、管外面側と管内面側のいずれでも、最内層として、繊維の方向性がランダムな布状体であるガラスマットに樹脂含浸させた布状繊維層Mを2層重ねて設け、その最内層の上にクロス状に織られた織布体であるガラスクロスに樹脂含浸させた織物繊維層Cと前記の布状繊維層Mとを交互に積層している。その織物繊維層Cと布状繊維層Mの重ね合わせ層は、管外面側で5層、管内面側で3層設けられている。
【0024】
なお、上記の管外面側の積層部2の構成は、第1実施形態にも適用することができる。また、積層部2、3における布状繊維層Mと織物繊維層Cの配置は任意に変更することができるが、管外面側および管内面側の最内層には、この実施形態のように水密性の確保に適した布状繊維層Mを配することが望ましい。
【0025】
この第2実施形態では、管中央部の管内面全体にも積層部3を設けたので、第1実施形態よりも良好な水密性が得られるうえ、管内の水流に対する抵抗が小さくなって効率的に水を輸送することができる。
【0026】
なお、上述した各実施形態の積層部を構成するガラスマットは他のマット(例えば、コンティニュアスマット等)に代えることができ、ガラスクロスはロービングクロス等、クロス状に織られた他の織布体に代えることができる。また、マットの代わりにスダレ材を使用することもできる。
【0027】
また、各実施形態では、3つの短管を接合した曲管に対して、各短管の2つの接合部を含む管中央部全体に積層部を設けたが、4つ以上の短管を接合した曲管については、隣り合う接合部どうしの間の部分が2つ以上となるので、そのうちで高い強度が必要とされる特定の部分のみに積層部を設けるようにすることもできる。
【0028】
次に、本発明に係る曲管の強度を計算によって確認した例について説明する。その計算方法は、上述した第2実施形態をベースとする樹脂製曲管を対象として、水門鉄管技術基準(FRP(M)水圧管編)に記載されているFRPM水圧鉄管の計算方法を基に、下記の(1)式および(2)式によって、円周方向曲げ剛性および円周方向抵抗曲げモーメントを計算するものである。なお、この計算では、管内面の積層部および管外面の最内層となる2層の布状繊維層の影響は無視している。
【0029】
【数1】
EI:円周方向曲げ剛性
E
i:各層の弾性係数
t
i:各層の厚み
d:管内面から中立軸までの距離
η
i:管内面から各層の中心までの距離
【0030】
【数2】
Mr:円周方向抵抗曲げモーメント
σ
i:各層の引張強さまたは圧縮強さ
【0031】
ここで、積層部(織物繊維層および布状繊維層)の物性値は表1に示すものを用いた。
【0032】
【0033】
そして、5種類の呼び径に対して、積層部全体の厚みが短管の厚みの0.3~3倍となる範囲で、第2実施形態の管外面の積層部における織物繊維層と布状繊維層の重ね合わせ層の層数を3段階に変化させたものを実施例とし、対応する呼び径のダクタイル鋳鉄管を比較例として、各条件で円周方向曲げ剛性および円周方向抵抗曲げモーメントを算出した。比較例の計算では、JDPA規格 G 3004「K形ダクタイル鋳鉄管」で規定されている管厚を用い、曲げ強さおよび弾性係数については、JDPA技術資料 T32「農業用水用 ダクタイル鉄管管路 設計と施工」に記載されているものを用いた。実施例の重ね合わせ層の層数を表2に、実施例および比較例の計算結果を表3および表4に示す。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
表3および表4の計算結果から、本発明の実施例の曲管は、ほとんどの条件で、円周方向曲げ剛性および円周方向抵抗曲げモーメントが同口径のダクタイル鋳鉄管と同等以上となることが確認された。
【0038】
また、実施例の曲管の強度(円周方向曲げ剛性、円周方向抵抗曲げモーメント)は、各呼び径において重ね合わせ層の層数が多いほど高くなるが、呼び径500mmの場合を除いて、標準積層(積層部の厚みが短管の厚み以下となる条件)でも十分な強度が得られている。このことから、各実施形態では積層部の厚みを短管の厚みの0.3~3倍としたが、各実施形態の積層部の厚みを短管の厚みの0.3~1倍として、必要な強度を確保しつつ、製造コストを抑えることも可能であると言える。
【0039】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0040】
例えば、各実施形態は樹脂製曲管について説明したが、本発明によれば、鋼製短管を接合した鋼製曲管については、樹脂製曲管の場合と同様の作用効果を得られるうえ、従来よりも耐食性を向上させることもできる。
【0041】
そして、本発明は、実施形態のような農水管に用いられる曲管に限らず、水輸送管等に用いられる曲管に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1a、1b、1c 短管
2 積層部(管外面側)
3 積層部(管内面側)
M 布状繊維層
C 織物繊維層