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  • 特許-肌質を改善するための組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】肌質を改善するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/175 20160101AFI20240306BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 31/7004 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 31/7016 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 31/047 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240306BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20240306BHJP
【FI】
A23L33/175
A61K31/198
A61K31/7004
A61K31/7016
A61K31/047
A61P17/16
A61P43/00 121
A23L33/125
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019171843
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021045110
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000151966
【氏名又は名称】株式会社桃谷順天館
(73)【特許権者】
【識別番号】516140476
【氏名又は名称】AuB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】松田 達也
(72)【発明者】
【氏名】杉野 哲造
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】冨士川 凛太郎
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-269035(JP,A)
【文献】国際公開第2019/164670(WO,A1)
【文献】特開2010-155838(JP,A)
【文献】国際公開第2007/052740(WO,A1)
【文献】特開2015-168668(JP,A)
【文献】特表2002-511860(JP,A)
【文献】特開2018-164453(JP,A)
【文献】特開昭60-098964(JP,A)
【文献】特開2006-282648(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103549394(CN,A)
【文献】国際公開第2016/146430(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/175
A61K 31/198
A61K 31/7004
A61K 31/7016
A61K 31/047
A61P 17/16
A61P 43/00
A23L 33/125
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリンイノシトール及びラムノースを含む、肌の水分量及び/又は肌の弾力のいずれか又はその両方を改善するための経口摂取用組成物。
【請求項2】
サプリメントである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記セリンが、1日あたり10~500mg摂取されるように配合され、前記イノシトールが、1日あたり200~10,000mg摂取されるように配合され、及び前記ラムノースが、1日あたり1~500mg摂取されるように配合された、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
肌の弾力を改善するための、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
セリンイノシトールラムノースを含む、腸内細菌叢中の細菌の存在割合を変化させるための経口摂取用組成物であって、
前記腸内細菌叢中の細菌が、エクオール産生菌であるAdlercreutzia equolifaciens、及びSlackia equolifaciensのいずれか又はその両方であり、
存在割合の変化が、腸内細菌叢の細菌数に対するAdlercreutzia equolifaciens、及びSlackia equolifaciensのいずれか又はその両方の存在割合の増加である、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌質を改善するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化粧品に利用されていた成分であるコエンザイムQ10を経口摂取することにより、美容の観点から、肌に有益な効果があることが見いだされた。コエンザイムQ10を配合した化粧品及び食品を用いて、体の内側と外側から美容をケアする内外美容が注目されている。
【0003】
セリンは、化粧品分野では保湿剤として利用される。サプリメントの分野では、セリンは、一時的な睡眠の不具合に対して有効であることが知られている(特許文献1)。
【0004】
イノシトールは、化粧品分野では保湿剤として利用されている。サプリメントの分野では、イノシトールは、1日あたり500~2000mgの摂取により、脂肪肝、肝硬変、高コレステロール血症、動脈硬化症になどに有効であることが知られており、また、10g以上の大量摂取により、パニック症候群又は強迫性障害に有効であることが示唆されている(非特許文献1及び非特許文献2)。
【0005】
ラムノースは、化粧品分野では保湿剤、細胞賦活剤として利用されている。サプリメントの分野では、ラムノースは、ブドウ糖を含む単糖と異なり、自然界に僅かにしか存在しない単糖である。そのような糖類又はその誘導体は、一般に、希少糖と称されている。
【0006】
希少糖であるD-プシコース(D-psicose)には、血糖上昇抑制作用又は抗肥満作用が知られており、D-タガトース(D-tagatose)には、抗齲蝕作用が知られている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-070343号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Palatnik Aら、J Clin Psychopharmacol. 2001 Jun; 21(3): 335-9
【文献】Nestler JEら、N Engl J Med. 1999 Apr 29; 340(17): 1314-20
【文献】徳田 雅明、外科と代謝・栄養49巻6号 2015年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の1つの目的は、肌質を改善するための新規組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、エクオール産生菌であるAdlercreutzia equolifaciens、及びSlackia equolifaciensの腸内での存在割合を増加させることで、肌質の改善が奏され得ることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、本発明は、システイン、シスチン、セリン、アルギニン、アスパラギン酸及びグリシンからなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸;アドニトール、アラビノース、エリスリトール、ガラクトース、ラクチトール、メレチトース、トレハロース、リボース、ソルボース、キシロース、イノシトール、ソルビトール及びフルクトースからなる群より選択される少なくとも1種の第1の糖類;及び、ラムノース及びキシルロースからなる群より選択される少なくとも1種の第2の糖類を含む、肌質を改善するための組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本試験サプリメントの摂取前(0日目)及び摂取後1カ月に実施した女性ボランティア12名の肌の水分量(μS)についての箱ひげ図である。
図2図2は、本試験サプリメントの摂取前(0日目)及び摂取後1カ月に実施した女性ボランティア12名の肌の弾力(戻り率)についての箱ひげ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において「アミノ酸」は、アミノ基(-NH)及びカルボキシル基(-COOH)を官能基に有する有機化合物である。アミノ酸は、カルボキシル基が結合している炭素(α炭素)にアミノ基も結合しているα-アミノ酸であり、RCH(NH)COOHという構造を有する。R(側鎖とも称される)が、水素(H)であるグリシン以外のアミノ酸には、D型、L型の光学異性体が存在する。1つの実施形態において、アミノ酸は、D型のアミノ酸である。1つの実施形態において、アミノ酸は、L型のアミノ酸である。アミノ酸は、好ましくは、L型である。アミノ酸は、限定するものではないが、固体又は液体であってよく、遊離形態、塩形態又は水和物形態であってよい。後述するアミノ酸を含み、アミノ酸は、公知の方法に従って製造することができ、また、商業的に入手可能である。
【0013】
本明細書において「システイン」は、側鎖(R)にチオールメチル基(-CHSH)を有するアミノ酸又はその塩である。
本明細書において「シスチン」は、2分子のシステインがジスルフィド結合(S-S)を介して結合した構造を有するアミノ酸又はその塩である。シスチンは、3,3’-ジチオビス(2-アミノプロピオン酸とも称される。
本明細書において「セリン」は、側鎖(R)にヒドロキシメチル基(-CHOH)を有するアミノ酸又はその塩である。セリンは、2-アミノ-3-ヒドロキシプロピオン酸とも称される。セリンは、化粧品分野において保湿剤として利用されている。
【0014】
本明細書において「アルギニン」は、側鎖(R)にsec-ブチル基(-CHNHC(NH)を有するアミノ酸又はその塩である。アルギニンは、5-グアニジノ-2-アミノペンタン酸とも称される。アルギニンは、化粧品分野において保湿剤として利用されている。
本明細書において「アスパラギン酸」は、側鎖(R)にカルボキシメチル基(-CHCOOH)を有するアミノ酸又はその塩である。アスパラギン酸は、2-アミノブタン二酸とも称される。アスパラギン酸は、化粧品分野において保湿剤として利用されている。
本明細書において「グリシン」は、側鎖(R)に-Hを有するアミノ酸又はその塩である。グリシンは、アミノ酢酸とも称される。グリシンは、化粧品分野において保湿剤として利用されている。
【0015】
本明細書において「少なくとも1種のアミノ酸」は、システイン、シスチン、セリン、アルギニン、アスパラギン酸及びグリシンからなる群より選択される少なくとも1種を意味する。1つの実施形態において、少なくとも1種のアミノ酸は、システイン、シスチン、セリン、アルギニン、アスパラギン酸及びグリシンからなる群より選択される1種、2種、3種又は4種以上のアミノ酸を含む。1つの実施形態において、少なくとも1種のアミノ酸は、セリン、アルギニン、アスパラギン酸及びグリシンからなる群より選択される少なくとも1種を含む。1つの実施形態において、少なくとも1種のアミノ酸は、少なくともセリン及びシステインのいずれか一方又はその両方を含む。1つの実施形態において、少なくとも1種のアミノ酸は、少なくともセリンを含む。
【0016】
本明細書において「糖類」は、カルボニル基が還元され、ヒドロキシル基を有する糖アルコールを含む。幾つかの糖類には、D体、L体のエナンチオマーが存在することが知られている。糖類は、特に限定されず、D体又はL体である。1つの実施形態において、糖類は、D体である。1つの実施形態において、糖類は、L体である。他の実施形態において、糖類は、L体とD体の混合物である。糖類は、限定するものではないが、固体又は液体であってよく、遊離形態、塩形態又は水和物形態であってよい。糖類は、公知の方法に従って製造することができ、また、商業的に入手可能である。
【0017】
本明細書において「アドニトール」は、化学式C12を有するペントールアルコールである。
本明細書において「アラビノース」は、化学式C10を有する5炭糖である。
本明細書において「エリスリトール」は、化学式C10を有する糖アルコールである。エリストリトールは、化粧品分野において保湿剤として利用されている。
本明細書において「ガラクトース」は、化学式C12を有する6炭糖である。
本明細書において「ラクチトール」は、化学式C122411を有する糖アルコールである。
【0018】
本明細書において「メレチトース」は、化学式C183216を有する三糖類である。
本明細書において「トレハロース」は、化学式C122211を有する二糖類である。トレハロースは、化粧品分野において保湿剤として利用されている。
本明細書において「リボース」は、化学式C10を有する五単糖である。
本明細書において「ソルボース」は、化学式C12を有する六炭糖である。
本明細書において「キシロース」は、化学式C10を有する五単糖である。
【0019】
本明細書において「イノシトール」は、化学式C12を有し、シクロヘキサンを構成する各炭化水素の1つの水素原子がヒドロキシル基に置換された構造の分子である。イノシトールは、甘味があり、食品分野では甘味料として利用されている。また、イノシトールは、化粧品分野において保湿剤として利用されている。
本明細書において「ソルビトール」は、化学式C14を有する糖アルコールであり、ソルビット又はグルシトールとも称される。ソルビトールは、化粧品分野において保湿剤として利用されている。
本明細書において「フルクトース」は、化学式C12を有する六炭糖である。
本明細書において「ラムノース」は、化学式C12を有し、L-マンノースの6位のヒドロキシル基が水素原子で置換された構造を有する6炭糖である。ラムノースは、化粧品分野において保湿剤として利用されている。
本明細書において「キシルロース」は、化学式C10を有する5炭糖である。
【0020】
本明細書において「第1の糖類」は、アドニトール、アラビノース、エリスリトール、ガラクトース、ラクチトール、メレチトース、トレハロース、リボース、ソルボース、キシロース、イノシトール、ソルビトール及びフルクトースからなる群より選択される少なくとも1種の糖類を意味する。1つの実施形態において、第1の糖類は、アドニトール、アラビノース、エリスリトール、ガラクトース、ラクチトール、メレチトース、トレハロース、リボース、ソルボース、キシロース、イノシトール、ソルビトール及びフルクトースからなる群より選択される1種、2種、3種又は4種以上の糖類を含む。1つの実施形態において、第1の糖類は、エリスリトール、トレハロース、イノシトール、及びソルビトールからなる群より選択される少なくとも1種の糖類を含む。1つの実施形態において、第1の糖類は、少なくともイノシトールを含む。
【0021】
本明細書において「第2の糖類」は、ラムノース及びキシルロースからなる群より選択される少なくとも第2の糖類を意味する。1つの実施形態において、第2の糖類は、少なくともラムノース及びキシルロースのいずれか一方を含む。1つの実施形態において、第2の糖類は、少なくともラムノースを含む。
【0022】
本明細書において「組成物」は、前記少なくとも1種のアミノ酸、前記少なくとも1種の第1の糖類、及び前記少なくとも1種の第2の糖類を含む、経口摂取可能な物を意味する。組成物は、限定するものではないが、香料、甘味料、ゲル化剤、賦形剤、その他の基材を含んでもよい。組成物は、さまざまな形態であってよい。組成物の形態は、限定するものではないが、錠剤、粉末剤、顆粒剤、ゼリー、サプリメント又は飲料品であってよい。組成物は、公知の方法を用いて製造することができる。前記組成物は、限定するものではないが、前記少なくとも1種のアミノ酸の粉末、前記少なくとも1種の第1の糖類の粉末、及び前記少なくとも1種の第2の糖類の粉末を混合することにより製造することができる。
【0023】
本明細書において「肌質の改善」は、対象が、前記組成物を1カ月間毎日経口摂取することにより、前記対象の肌の特性が、当該組成物の摂取前(0日目)と比べて、美容の観点から改善又は向上することを意味する。肌の特性は、例えば、肌の水分量及び肌の弾力のいずれか一方又はその両方を含む。1つの実施形態において、肌質の改善は、肌の弾力の向上を含む。1つの実施形態において、肌質の改善は、肌の水分量の向上を含む。1つの実施形態において、肌質の改善は、肌の弾力の向上及び肌の水分量の向上を含む。肌の水分量は、例えば、SKICON-0101(IBS社)を用いて測定される。肌の弾力は、例えば、Cutometer MPA580(Courage+Khazaka社)を用いて測定される。
【0024】
1つの実施形態において、肌の水分量の改善は、前記組成物の摂取前(0日目)の肌の水分量と比べて、1ヶ月摂取後の肌の水分量が、有意に増加する程度である。1つの実施形態において、肌の弾力の向上は、前記組成物の摂取前(0日目)の肌の水分量と比べて、1ヶ月摂取後の肌の水分量が、有意に増加する程度である。有意差は、例えば、対応のあるt検定の片側検定により、示される。
【0025】
本発明において「サプリメント」は、前記少なくとも1種のアミノ酸、前記少なくとも1種の第1の糖類、及び前記少なくとも1種の第2の糖類を、対象が1カ月間毎日経口摂取することによって前記対象において肌質の改善が期待される量で含む、経口摂取可能な物を意味する。サプリメントは、限定するものではないが、香料、甘味料、ゲル化剤、賦形剤、その他の基材を含んでもよい。サプリメントの形態は、限定するものではないが、錠剤、粉末剤、顆粒剤、又はゼリーであってよい。サプリメントは、公知の方法を用いて製造することができる。前記サプリメントは、限定するものではないが、前記少なくとも1種のアミノ酸の粉末、前記少なくとも1種の第1の糖類の粉末、及び前記少なくとも1種の第2の糖類の粉末を混合することにより製造することができる。
【0026】
1つの実施形態において、前記組成物又はサプリメントは、1日あたり摂取量が、前記少なくとも1種のアミノ酸について10~500mg、前記少なくとも1種の第1の糖類について200~10,000mg、及び前記少なくとも1種の第2の糖類について1~500mgとなるように配合されている。1つの実施形態において、前記組成物又はサプリメントは、1日あたり摂取量が、前記少なくとも1種のアミノ酸について20~300mg、好ましくは50~200mg、より好ましくは80~150mg、前記少なくとも1種の第1の糖類について500~7,500mg、好ましくは1,000~5,000、より好ましくは1,500~2,500mg、及び前記少なくとも1種の第2の糖類について2~250mg、好ましくは5~100mg、より好ましくは5~50mgとなるように配合されている。
【0027】
1つの実施形態において、前記組成物又はサプリメントは、前記少なくとも1種のアミノ酸、前記少なくとも1種の第1の糖類、及び前記少なくとも1種の第2の糖類が、1~50:20~1000:1となるように配合されている。1つの実施形態において、前記組成物又はサプリメントは、前記少なくとも1種のアミノ酸、前記少なくとも1種の第1の糖類、及び前記少なくとも1種の第2の糖類が、2~30:50~750:1、好ましくは5~20:100~500:1、より好ましくは8~15:150~250:1となるように配合されている。
【0028】
1つの実施形態において、対象が、前記組成物又はサプリメントを1カ月間毎日経口摂取することにより、前記対象の腸内細菌叢の細菌数に対する、Adlercreutzia equolifaciens、及びSlackia equolifaciensのいずれか又はその両方の存在割合を有意に増加させるための、組成物又はサプリメントである。
【0029】
他の態様において、本発明は、システイン、シスチン、セリン、アルギニン、アスパラギン酸及びグリシンからなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸;アドニトール、アラビノース、エリスリトール、ガラクトース、ラクチトール、メレチトース、トレハロース、リボース、ソルボース、キシロース、イノシトール、ソルビトール及びフルクトースからなる群より選択される少なくとも1種の第1の糖類;及びラムノース及びキシルロースからなる群より選択される少なくとも1種の第2の糖類を含む、腸内細菌叢中の細菌の存在割合を変化させるための組成物を提供する。
【0030】
他の態様において、本発明は、前記組成物又はサプリメントを対象に経口投与することを含む、前記対象において肌質を改善するための方法を提供する。他の態様において、本発明は、前記組成物又はサプリメントを対象に経口投与することを含む、前記対象の腸内細菌叢の細菌数に対する、Adlercreutzia equolifaciens、及びSlackia equolifaciensいずれか又はその両方の存在割合を増加させる方法を提供する。
【0031】
本発明の実施形態は、例えば、以下に記載されるものであってよいが、これらに限定されない:
[項1] システイン、シスチン、セリン、アルギニン、アスパラギン酸及びグリシンからなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸;アドニトール、アラビノース、エリスリトール、ガラクトース、ラクチトール、メレチトース、トレハロース、リボース、ソルボース、キシロース、イノシトール、ソルビトール及びフルクトースからなる群より選択される少なくとも1種の第1の糖類;及びラムノース及びキシルロースからなる群より選択される少なくとも1種の第2の糖類を含む、肌質を改善するための組成物。
[項2] 前記少なくとも1種のアミノ酸が、セリン、アルギニン、アスパラギン酸及びグリシンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1に記載の組成物。
[項3] 前記少なくとも1種のアミノ酸が、少なくともセリン及びシステインのいずれか一方又はその両方を含む、項1又は項2に記載の組成物。
【0032】
[項4] 前記第1の糖類が、エリスリトール、トレハロース、イノシトール及びソルビトールからなる群より選択される少なくとも1種の糖類を含む、項1~項3のいずれか一項に記載の組成物。
[項5] 前記第1の糖類が、少なくともイノシトールを含む、項1~項4のいずれか一項に記載の組成物。
[項6] 前記第2の糖類が、少なくともラムノースを含む、項1~項5のいずれか一項に記載の組成物。
[項7] 前記少なくとも1種のアミノ酸が少なくともセリンを含み、第1の糖類が少なくともイノシトールを含み、及び第2の糖類が少なくともラムノースを含む、項1~項6のいずれか一項に記載の組成物。
【0033】
[項8] サプリメントである、項1~項7のいずれか一項に記載の組成物。
[項9] 前記少なくとも1種のアミノ酸が、1日あたり10~500mg摂取されるように配合され、前記少なくとも1種の第1の糖類が、1日あたり200~10,000mg摂取されるように配合され、及び前記少なくとも1種の第2の糖類が、1日あたり1~500mg摂取されるように配合された、項1~項8のいずれか一項に記載の組成物。
[項10] 前記肌質が、肌の水分量及び/又は肌の弾力のいずれか又はその両方である、項1~項9のいずれか一項に記載の組成物。
[項11] 前記肌質が、肌の弾力である、項10に記載の組成物。
【0034】
[項12] システイン、シスチン、セリン、アルギニン、アスパラギン酸及びグリシンからなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸;アドニトール、アラビノース、エリスリトール、ガラクトース、ラクチトール、メレチトース、トレハロース、リボース、ソルボース、キシロース、イノシトール、ソルビトール及びフルクトースからなる群より選択される少なくとも1種の第1の糖類;及びラムノース及びキシルロースからなる群より選択される少なくとも1種の第2の糖類を含む、腸内細菌叢中の細菌の存在割合を変化させるための組成物。
[項13] 前記腸内細菌叢中の細菌が、エクオール産生菌であるAdlercreutzia equolifaciens、及びSlackia equolifaciensのいずれか又はその両方であり、存在割合の変化が、腸内細菌叢の細菌数に対するAdlercreutzia equolifaciens、及びSlackia equolifaciensのいずれか又はその両方の存在割合の増加である、項12記載の組成物。
【0035】
[項14] 前記少なくとも1種のアミノ酸が、セリン、アルギニン、アスパラギン酸及びグリシンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項12又は項13に記載の組成物。
[項15] 前記少なくとも1種のアミノ酸が、少なくともセリン及びシステインのいずれか一方又はその両方を含む、項12~項14のいずれか一項に記載の組成物。
【0036】
[項16] 前記第1の糖類が、エリスリトール、トレハロース、イノシトール及びソルビトールからなる群より選択される少なくとも1種の糖類を含む、項12~項15のいずれか一項に記載の組成物。
[項17] 前記第1の糖類が、少なくともイノシトールを含む、項12~項16のいずれか一項に記載の組成物。
[項18] 前記第2の糖類が、少なくともラムノースを含む、項12~項17のいずれか一項に記載の組成物。
[項19] 前記少なくとも1種のアミノ酸が少なくともセリンを含み、第1の糖類が少なくともイノシトールを含み、及び第2の糖類が少なくともラムノースを含む、項12~項18のいずれか一項に記載の組成物。
【0037】
[項20] サプリメントである、項12~項19のいずれか一項に記載の組成物。
[項21] 前記少なくとも1種のアミノ酸が、1日あたり10~500mg摂取されるように配合され、前記少なくとも1種の第1の糖類が、1日あたり200~10,000mg摂取されるように配合され、及び前記少なくとも1種の第2の糖類が、1日あたり1~500mg摂取されるように配合された、項12~項20のいずれか一項に記載の組成物。
[項22] 肌質を改善するための組成物である、項12~項21のいずれか一項に記載のお組成物。
[項23] 前記肌質が、肌の水分量及び/又は肌の弾力のいずれか又はその両方である、項22に記載の組成物。
[項24] 前記肌質が、肌の弾力である、項23に記載の組成物。
【実施例
【0038】
以下、具体的な実施例を記載するが、それらは本発明の好ましい実施形態を示すものであり、添付する特許請求の範囲に記載の発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
化粧品分野で保湿剤として用いられている成分であって、食品分野でも使用されている成分を組合せて組成物を製造し、その組成物を経口摂取することによって、肌質、具体的には肌の水分量に変化があるかを調べた。
【0040】
(1)サプリメントの製造
化粧品分野で保湿剤として用いられ、食品分野でも使用されている成分として、イノシトール、ラムノース、及びセリンを用いることとした。これらの3種類の成分を組合せて、以下のサプリメント(顆粒剤)を公知の方法に従って製造した。製造したサプリメントにおける原材料および配合量を、表1に示す。
【表1】
【0041】
表1で示した原材料のうち、野菜粉末(大麦若葉、ケール、ブロッコリー、南瓜、チンゲン菜、パセリ、人参、セロリ、苦瓜、ほうれん草、桑の葉、モロヘイヤ、よもぎ及びトマトの混合物)は、本試験サプリメントの基材として配合した。また、香料、クエン酸及び甘味料は調味料として添加し、でん粉及びゲル化剤(ペクチン)は賦形剤として添加した。
【0042】
(2)摂取プロトコル
既往歴がなく、かつ、直近の1年間、美容医療を受けていない40歳~59歳までの女性ボランティアを募集した。12名の女性ボランティアが本試験に参加した。前記女性ボランティア12名に対して、本試験サプリメントを1ヶ月間、一日一包(3000mg)を夕食後30分以内に摂取するよう依頼した。
【0043】
(3)潤いに関する肌質測定
女性ボランティア12名に対して、表2に記載の潤いに関する肌質の測定を、本試験サプリメントの摂取前(0日目)及び摂取後1カ月に実施した。
【表2】
【0044】
(4)結果
12名の女性ボランティアの肌の水分量は、0日目では平均値は161.2(μS)であったのに対して、本試験サプリメント摂取後1ヶ月では平均値が208.9(μS)となり、本試験サプリメントを摂取した女性ボランティアにおける角質の水分量が有意に増加した(図1、p=0.043)。有意差検定は、対応のあるt検定の片側検定を用いた。
【0045】
実施例1の結果は、化粧品分野において保湿剤として用いられている成分を経口摂取することによって、潤いに関する肌質を改善し得ることを示した。セリンなどのアミノ酸と、並びにイノシトール及びラムノースなどの糖類との組合せを経口摂取することによって、潤いに関する肌質が改善されることは知られておらず、実施例1の結果は、驚くべきものであった。
【0046】
[実施例2]
実施例1に参加した12名のボランティアは、潤いに関する肌質の改善に加えて、肌に弾力(ハリ)が出てきたとの所感を述べた。実施例2では、同12名のボランティアに対して、本試験サプリメントの摂取前(0日目)及び摂取後1カ月に実施していた、表3に記載の弾力に関する肌質測定の結果を示す。
【表3】
【0047】
12名の女性ボランティアの肌の弾力(戻り率)は、0日目では平均値は0.408であったのに対して、本試験サプリメント摂取後1ヶ月では平均で0.439となり、本試験サプリメントを摂取した女性ボランティアにおける肌の弾力(戻り率)が有意に増加した(図2、p=0.032)。有意差検定は、対応のあるt検定の片側検定を用いた。
【0048】
実施例2の結果は、化粧品分野において保湿剤として用いられている成分を経口摂取することによって、肌の弾力(戻り率)が改善され得ることを示した。セリンなどのアミノ酸、イノシトール又はラムノースなどの糖類の経口摂取によって、肌の弾力に関する肌質が改善されることは知られておらず、実施例2の結果は、予期し得ないものであった。
【0049】
[実施例3]
本発明者らは、実施例2で示された、化粧品分野において保湿剤として用いられている成分の経口摂取による肌の弾力に関する肌質の改善が、どのような機序によって生じたかを調べた。本発明者らは、前記成分の経口摂取による肌質の改善は、経口摂取された前記成分による、腸内細菌叢の変化が1つの要因であると考え、腸内細菌叢の存在割合を分析した。
【0050】
実施例3では、便サンプルの提供依頼に従って提供された、実施例1及び2に参加した12名の女性ボランティアの各便サンプルから腸内細菌叢のDNA配列を分析し、腸内細菌叢の存在割合を算出した。具体的には、既知の方法(Gut.2016Sep;65(9):1574-5)に従って、各女性ボランティア由来の各便サンプルから、腸内細菌叢由来のDNAをそれぞれ抽出した。抽出した腸内細菌叢由来のDNAから、リボソーマルDNAのV3-V4領域を、Illumina社プロトコル(16S Sample Preparation Guide)に従って調製し、Miseq(Illumina社)を用いて、当該領域のDNA配列を分析した。
【0051】
Miseqより得られたFastqデータには、腸内細菌叢由来の種々のリボソーマルDNAのV3-V4領域のDNA配列が格納されている。Fastqデータを、遺伝子解析ソフトusearch(Bioinformatics.2010Oct1;26(19):2460-2461)を用いて解析を行った。97%以上の配列一致度を指標にクラスタリングし、各クラスターを1つのoperational taxonomic unit(OTU)とした。OTUに格納されたDNA配列に基づいて、RDP Classifier(Appl Environ Microbiol.2007Aug;73(16):5261-5267)を用い、各OTUに対して、門(Phylum)、網(Class)、科(Family)、属(Genus)に関する情報を付与し、種(Species)に関する情報が利用可能な細菌種については種に関する情報も付与した。
【0052】
ある女性ボランティアの腸内細菌の細胞の総数に相当する全てのOTUのリード数の合計値を算出し、特定の細菌の数に相当するOTUのリード数を、前記合計値で除することにより、当該女性ボランティアの細菌叢における当該細菌の存在割合を算出した。同様にして、各OTUに付与された細菌の存在割合をそれぞれ算出し、当該女性ボランティアの腸内細菌叢中の各細菌の存在割合を算出した。他の女性ボランティアの腸内細菌叢中の各細菌の存在割合も、同様にして算出した。次いで、12名の女性ボランティアの腸内細菌叢中の各細菌の存在割合の平均値を算出した。
【0053】
本試験サプリメントの摂取による、肌の水分量及び肌の弾力などの肌質の改善は、腸内細菌叢において顕著に増加した菌種による影響が考えられた。そこで、12名の女性ボランティアの腸内細菌叢中の各細菌の存在割合に関して、本試験サプリメントの摂取前(0日目)と摂取後1カ月とで、その存在割合が顕著に増加した菌種を調べた。
【0054】
存在割合の平均値が3.5倍以上増加した菌種を以下の表にまとめる。
【表4】
【0055】
表4に示される菌種(1、2、4~7、9、10、12、14)の作用は報告されていない。菌種(3)Cetobacterium sp.は、ビタミンB12産生菌として知られているが、ヒトの肌に対する作用は不明である。菌種(8)Akkermansia sp.は、肥満抑制などに有用であることが知られているが、ヒトの肌に対する作用は不明である。菌種(13)Solobacterium sp.は、口臭の原因菌として知られているが、ヒトの肌に対する作用は不明である。菌種(11)Slackia equolifaciensは、エクオール産生菌として知られている。
【0056】
エクオール産生菌により産生されるエクオールと、コラーゲン産生との間に相関関係があることが知られている(International Union of Biochemistry and Molecular Biology,Inc.Volume38,Number1,January/February2012,Pages44-52)。コラーゲンが肌の弾力に関係することは公知であるから、本試験サプリメントによる肌の弾力の改善は、エクオール産生菌の存在割合が増加した結果、コラーゲン産生が増加したことが、1つの要因と考えられる。
【0057】
腸内細菌叢の菌種のうち、エクオール産生菌として知られている菌種のうち、本試験サプリメントの摂取前(0日目)と摂取後1カ月とで、その存在割合が有意に増加した菌種を調べた。その結果、Adlercreutzia equolifaciensの存在割合が有意に増加していたことが分かった(P=0.039)。有意差検定は、対応のあるt検定の片側検定を用い、P<0.05を有意水準とした。
【0058】
実施例3の結果、本試験サプリメントの経口摂取により、エクオール産生菌であるAdlercreutzia equolifaciens、及びSlackia equolifaciensの存在割合が増加するという特徴が明らかとなった。
【0059】
本発明者らは、前記2種のエクオール産生菌がエネルギー源として利用可能な栄養成分を、細菌のゲノム情報に基づいた代謝経路検索(KEGG-pathway)、及び文献情報(例えば、Hirokazu Tsuji et al.Arch Microbiol(2010)192:279-287)に基づいて調査した。その結果、前記2種のエクオール産生菌は、エネルギー源としてグルコースを利用することができず、特定のアミノ酸及び糖類をエネルギー源とすることが示唆された。2種のエクオール産生菌がエネルギー源として利用可能と推測された栄養成分を以下の表に示す:
【表5】
【0060】
本発明者らは、表5の糖類及びアミノ酸のリストから、システイン、シスチン、セリン、アルギニン、アスパラギン酸及びグリシンからなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸;アドニトール、アラビノース、エリスリトール、ガラクトース、ラクチトール、メレチトース、トレハロース、リボース、ソルボース、キシロース、イノシトール、ソルビトール及びフルクトースからなる群より選択される少なくとも1種の第1の糖類;及びラムノース及びキシルロースからなる群より選択される少なくとも1種の第2の糖類を含む、組成物によれば、肌質が改善し得ることを見出した。
図1
図2