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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
F04B39/00 104D
F04B39/00 107F
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019181197
(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公開番号】P2021055646
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】成澤 伸之
(72)【発明者】
【氏名】梅田 憲
(72)【発明者】
【氏名】後藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
【審査官】田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-126001(JP,A)
【文献】特表2016-537559(JP,A)
【文献】特開2001-271744(JP,A)
【文献】特開平10-089253(JP,A)
【文献】特開平07-208368(JP,A)
【文献】特表2016-531228(JP,A)
【文献】特開2008-196341(JP,A)
【文献】登録実用新案第3206366(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を往復動するピストンと、
前記シリンダの端部を閉鎖するバルブプレートと、
前記ピストンを支持するコンロッドと、
前記コンロッドの端部に回転力を与えるクランクシャフトと、
前記クランクシャフトを回転可能に支持するクランクケースを有し、
前記ピストンは、
前記クランクシャフトの回転に応じて前記シリンダ内を揺動しながら往復動する揺動ピストンであって、
前記シリンダの内径の中心軸は、
前記クランクシャフトの回転中心軸に対し、オフセット量eだけずらした位置に配置されており、
前記ピストンの上面は、前記ピストンが上死点にある状態において、前記バルブプレートの前記クランクケース側の面と略平行になり、
前記オフセット量eは、前記ピストンが上死点にある状態における前記コンロッドの揺動角が、圧縮工程における前記コンロッドの揺動角の極値と絶対値が略一致するオフセット量e1に設定されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
シリンダ内を往復動するピストンと、
前記シリンダの端部を閉鎖するバルブプレートと、
前記ピストンを支持するコンロッドと、
前記コンロッドの端部に回転力を与えるクランクシャフトと、
前記クランクシャフトを回転可能に支持するクランクケースを有し、
前記ピストンは、
前記クランクシャフトの回転に応じて前記シリンダ内を揺動しながら往復動する揺動ピストンであって、
前記シリンダの内径の中心軸は、
前記クランクシャフトの回転中心軸に対し、オフセット量eだけずらした位置に配置されており、
前記ピストンの上面は、前記ピストンが上死点にある状態において、前記バルブプレートの前記クランクケース側の面と略平行になり、
前記オフセット量eは、前記ピストンが下死点にある状態における前記コンロッドの揺動角が、圧縮工程における前記コンロッドの揺動角の極値と絶対値が略一致するオフセット量e2以上であり、前記クランクシャフトの偏心量以下であることを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧縮機において、
前記クランクシャフトの回転中心とコンロッド大端部軸受の中心を結ぶ線分が前記シリンダの内径の中心軸と平行になるクランク角度において、
前記ピストンの上面、あるいは前記バルブプレートの前記クランクケース側の面は、前記シリンダの内径の中心軸に直交していないことを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の圧縮機において、
前記クランクシャフトの回転軸が前記シリンダの内径中心軸とは交差しないことを特徴とする圧縮機。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の圧縮機において、
前記ピストンは、前記コンロッドに対して固定あるいは一体化されることを特徴とする圧縮機。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の圧縮機において、
前記シリンダの内径の中心軸は鉛直方向を向いた配置であることを特徴とする圧縮機。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の圧縮機において、
前記バルブプレートの前記クランクケース側の面をシリンダ内周面の中心軸に対して傾斜させることを特徴とする圧縮機。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の圧縮機において、
前記シリンダの内径の中心軸をコンロッド大端部軸受の中心とピストン外周球面の中心を結んだ線分に対して傾斜させて配置したことを特徴とする圧縮機。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の圧縮機において、
前記ピストンは、前記シリンダの内周面に接するリップリングを備えることを特徴とする圧縮機。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の圧縮機において、
前記ピストンは、前記シリンダの内周面に接するピストンリングを備えることを特徴とする圧縮機。
【請求項11】
請求項10に記載の圧縮機において、
前記ピストンと前記コンロッドはネジで締結されることを特徴とする圧縮機。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の圧縮機において、
前記クランクシャフトに固定した圧縮機プーリと、
電動機に固定した電動機プーリと、
前記圧縮機プーリと前記電動機プーリとの間で動力を伝達する伝動ベルトとを有することを特徴とする圧縮機。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の圧縮機において、
前記ピストンは、前記シリンダの内周面に接するピストンリングを備えており、
前記ピストンリングは、前記ピストンの揺動運動の中心点と、前記コンロッドの大端部軸受中心を結ぶ直線と直交する平面に対し、傾斜していることを特徴とする圧縮機。
【請求項14】
請求項13に記載の圧縮機において、
前記ピストンリングは、前記コンロッドの大端部軸受中心を結ぶ直線と直交する平面に対し、前記クランクシャフトの回転方向とは逆方向に傾斜していることを特徴とする圧縮機。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の圧縮機において、
前記ピストンの上面は、前記ピストンが上死点にある状態において、前記バルブプレートの前記クランクケース側の面に向けた凸形状となっていることを特徴とする圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体を圧縮する往復動圧縮機においては、たとえば特許文献1および特許文献2に示されるように、シリンダの中心軸をクランクシャフトの回転中心に対してあるオフセット量だけずらして配置する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実用新案登録第3174674号
【文献】特開2004-92638
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および特許文献2の技術を適用し、シリンダのオフセット配置を行うと、上死点における揺動角がゼロではなくなるため隙間容積が増大し、圧縮機の体積効率が悪化するという致命的な問題がある。
【0005】
特許文献1は、その図13に示されるように、ガス圧縮作用面の平面中心(特許文献1の図6におけるF)とコンロッド大端部軸受の中心を結ぶ線分、すなわちコンロッドの長手方向軸が、シリンダの内径中心軸と平行になるクランク角度において、ピストン上面とバルブプレートのクランクケース側の面が平行になるように構成することで隙間容積低減を行っている。
【0006】
しかし、図13は上死点ではない。そのため図13においてピストン上面とバルブプレートのクランクケース側の面が平行になっても、図13の状態から、上死点の状態に移行すると、ピストン上面とバルブプレートのクランクケース側の面は干渉する可能性があり、また隙間容積低減の効果も十分ではない。
【0007】
また、特許文献2の図6は、後述するクランク角度が0度の場合を示しており、その場合に、ピストン上面とバルブプレートのクランクケース側の面が平行になるようにしている。このような構成では、特許文献2は、特許文献1と同様に、上死点の状態に移行すると、ピストン上面とバルブプレートのクランクケース側の面は干渉する可能性があり、また隙間容積低減の効果も十分ではない。
【0008】
本発明の目的は、ピストンとバルブプレートとの干渉を防ぎ、隙間容積の増大を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の好ましい一例は、シリンダ内を往復動するピストンと、前記シリンダの端部を閉鎖するバルブプレートと、前記ピストンを支持するコンロッドと、前記コンロッドの端部に回転力を与えるクランクシャフトと、前記クランクシャフトを回転可能に支持するクランクケースを有し、
前記ピストンは、前記クランクシャフトの回転に応じて前記シリンダ内を揺動しながら往復動する揺動ピストンであって、
前記シリンダの内径の中心軸は、前記クランクシャフトの回転中心軸に対し、オフセット量eだけずらした位置に配置されており、
前記ピストンの上面は、前記ピストンが上死点にある状態において、前記バルブプレートの前記クランクケース側の面と略平行になり、
前記オフセット量eは、前記ピストンが上死点にある状態における前記コンロッドの揺動角が、圧縮工程における前記コンロッドの揺動角の極値と絶対値が略一致するオフセット量e1に設定されている圧縮機である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ピストンとバルブプレートの干渉を防ぎ、隙間容積の増大を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1における圧縮機全体の構成例を示す図である。
図2】実施例1における圧縮機本体の内部構成を示す図である。
図3A】リップリングを用いた揺動ピストン構造を示す図である。
図3B】ピストンリングを用いた揺動ピストン構造を示す図である。
図3C】実施例1におけるピストンリングを用いた揺動ピストン構造を示す図である。
図3D】実施例1における揺動ピストン構造を示す図である。
図4】実施例1における揺動ピストンの動作を示す図である。
図5A】上死点におけるピストン33の状態を示す圧縮機本体の内部構成図である。
図5B】バルブプレートの下面を傾斜させる変形例を示す図である。
図5C】シリンダ内周面の中心軸を傾斜させた状態で配置した圧縮機本体の内部構成を示す図である。
図6】一般的な往復動圧縮機における揺動角・シリンダ内圧とクランク角度の関係を示す図である。
図7】実施例1における圧縮機のシリンダオフセット量とブローバイ量の関係を示す図である。
図8A】実施例2におけるピストン・コンロッドの構成を示す図である。
図8B】比較のための実施例1におけるピストン・コンロッドの構成を示す図である。
図9】実施例3におけるピストンの構成を示す図である。
図10A】実施例3におけるピストンの上面右端が最高点にある場合を示す図である。
図10B】実施例3におけるピストンが上死点にある場合を示す図である。
図10C】実施例3におけるピストンの上面左端が最高点にある場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、実施例1における圧縮機の概略図を示す。また、図2図1における圧縮機本体1の内部構造を示す。
【0014】
図1に示す圧縮機は、圧縮機本体1と、それを駆動する電動機2と、圧縮機本体1が吐出す流体を貯留するためのタンク3からなっている。圧縮機本体1は流体を圧縮するものであり、その内部構造は図2に示すように、クランクシャフトを回転可能に支持するクランクケース21と、クランクケース21から鉛直方向に突出するひとつのシリンダ22と、このシリンダ22の上部を閉鎖するバルブプレート26と、シリンダヘッド23と、クランクケース21の中央に回転可能に支持されたクランクシャフト24とを有している。
【0015】
圧縮機本体1は、クランクケース21内のクランクシャフト24が回転することで、コンロッド32の端部に回転力を与え、シリンダ22内に設置されたピストン33が鉛直方向に往復動し、その結果としてシリンダ外部から流体を吸引し圧縮して吐出する。
【0016】
なお、図1および図2では説明簡略化のため、圧縮機形状はピストン・シリンダを1対しか持たない1気筒1段圧縮機としているが、クランクシャフトに対して直列あるいは放射状に複数のピストン・シリンダを有する圧縮機もある。
【0017】
圧縮機本体1は、クランクシャフト24を電動機2の回転軸と平行に配置した状態でタンク3上に配置して固定されており、クランクシャフト24には圧縮機プーリ4が、電動機軸には電動機プーリ5が固定されている。圧縮機本体1に付設された圧縮機プーリ4は羽根を有しており、その回転にともない冷却風を圧縮機本体1に向けて発生させることで、圧縮機本体1の放熱を促す。
【0018】
圧縮機プーリ4および電動機プーリ5には、圧縮機プーリ4および電動機プーリ5の間で動力を伝達するための伝動ベルト6が巻回されている。これにより、電動機2の回転にしたがって、電動機プーリ5、伝動ベルト6および圧縮機プーリ4を介して圧縮機本体1のクランクシャフト24が回転駆動されて、圧縮機本体1が流体を圧縮する。
【0019】
このとき、クランクシャフト24の回転方向は反時計周りであり、またクランクシャフト24の回転中心とコンロッド32の大端部軸受31の中心を結ぶ線分、すなわちクランクアームが図の真上を向いた状態を0度と定義する。このクランク角度は、クランクアームとシリンダ内径22aの中心軸が平行になる状態でもある。
【0020】
なお、図1では説明簡略化のため、圧縮機本体1は電動機2と伝動ベルト6を介して接続された構成としているが、圧縮機本体1のクランクシャフト24と電動機2の回転軸をカップリングなどの結合手段を用いて直接接合することで、両者を一体化した圧縮機もある。
【0021】
図2におけるピストン周辺構造について説明する。本図のピストン33は、ピストンがコンロッド32と一体で構成された揺動ピストン方式である。この方式では、クランクシャフト24の回転にともない、ピストン33がシリンダ22内を揺動しながら往復動する。
【0022】
この揺動ピストン方式には、主なシールリング構造として図3Aに示すようにシリンダの内周面(シリンダ内径)22aに接するリップリング36をピストン33が備えている場合と、図3Bに示すようにシリンダの内周面(シリンダ内径)22aに接するピストンリング37をピストン33が備える場合がある。ここで、図3Bの下の図のA-A断面を、図3Bの上の図に示している。揺動方向シリンダギャップ38と主軸方向のシリンダギャッップ39a、39bがピストン33とシリンダ内径22aとの間に生じる。
【0023】
各々のシールリング方式において、揺動角が大きくなるにともない以下のような問題が生じる。
【0024】
<リップリング>
リップ部分36aがシリンダ内径22aに接する際の繰り返しの折り曲げ応力が増加し、R部根元近辺に疲労破損を生じる。
【0025】
<ピストンリング>
A.リップリング36のようにピストン33のガイドをする部品がないため、ピストン33の上下端角部がシリンダ内径(シリンダ内周面)22aに干渉する危険性が生じる。干渉を回避するために下端角部に逃げを設けると、ガス荷重を受けたピストンリング37を支えるリング溝下面の面積が減少するため、揺動方向シリンダギャップ38が拡大しピストンリングがその隙間に落ち込む変形を生じる。
B.揺動方向シリンダギャップ38に対し、ピストンリングが落ち込む変形を生じる。
C.リップリングと比べ肉厚で剛性が高いため、揺動時のシリンダ内径22aに対する追従性が悪く、シール性能が低下しブローバイ損失が増加する。
【0026】
前記したようなリップリングの問題点や、ピストンリングのAからCの問題点を解決するため、本実施例では、図3Cに示すような揺動ピストンを用いる。図3Cにおいて、ピストン33はコンロッド32とは別部品で構成され、ピストン33はコンロッド32と往復動方向にネジ35で締結(固定)されている。またピストン33の外周面33aは球面になっている。ピストン33はコンロッド32と一体化されていてもよい。
【0027】
シールリングとしてはピストンリング34を用いており、ピストンリング34はピストン33に設けられたリング溝33bに対してある隙間をもって嵌合している。なお、ピストンリングおよびリング溝を用いずに図3Dのように構成してもよい。
【0028】
圧縮機本体1が摺動部の潤滑に油を使用しないオイルフリー式であるとすると、ピストン33の材質は、耐摩耗性に優れる樹脂によって構成する。これによって、ピストン外周面33aがシリンダ内周面22aと直接に摺動することが可能になる。
【0029】
また、図2におけるシリンダ内周面22aの中心軸22bの延長線は、クランクシャフト24の回転中心24aに対して反負荷側(図の右方向)へ距離eだけオフセットされている。クランクシャフト24の回転軸がシリンダ内径の中心軸とは交差しないような構成とすることで、このオフセットが生じる圧縮機本体の構成となっている。
このときのオフセット量eにおいて以下の関係式が成立している。
【0030】
【数1】
【0031】
ここでβは揺動角である。添え字のTDC、Lminは各々上死点における揺動角と圧縮工程における極小値である揺動角を表している。なお、各々の揺動角に対してオフセット量eは次式のように関係している。
【0032】
【数2】
【0033】
【数3】
【0034】
【数4】
【0035】
ここでθはクランク角度、添え字のTDC、Lminは各々上死点におけるクランク角度と圧縮工程における極小値であるクランク角度を表している。rはクランク半径、Lはコンロッドの長さであり、コンロッド大端部軸受31の中心とピストン外周球面33aの中心を結ぶ線分の長さである。
【0036】
つまり(1)式~(3)式は、上死点におけるコンロッドの揺動角と、圧縮工程におけるコンロッドの揺動角の極小値(図4(D))の絶対値とが略等しくなるように、オフセット量eを決定していることを表している。ここで、略等しくなるというのは等しい場合も含む。
【0037】
図4に本実施例における圧縮機本体1のクランクシャフト24が一回転する間の状態図を模式的に示す。
【0038】
図4(A)は、クランク角度0度の場合における、コンロッド大端部軸受31の中心とピストン外周球面33aの中心33dを結んだ線分27、ピストン33の上面33c、クランクシャフト24の回転中心24aの位置関係を示す図である。この場合には、後述するように、ピストン33の上面33cは、コンロッド大端部軸受31の中心とピストン外周球面33aの中心33dを結んだ線分27に対して直交していない。
【0039】
図4(B)は、クランク角度90度の場合における、コンロッド大端部軸受31の中心とピストン外周球面33aの中心33dを結んだ線分27、ピストン33の上面33c、クランクシャフト24の回転中心24aの位置関係を示す図である。この場合には、揺動角は極大になる。
【0040】
図4(C)は、下死点における、コンロッド大端部軸受31の中心とピストン外周球面33aの中心33dを結んだ線分27、ピストン33の上面33c、クランクシャフト24の回転中心24aの位置関係を示す図である。
【0041】
図4(D)は、クランク角度270度の場合における、コンロッド大端部軸受31の中心とピストン外周球面33aの中心33dを結んだ線分27、ピストン33の上面33c、クランクシャフト24の回転中心24aの位置関係を示す図である。この場合には、揺動角は極小になる。
【0042】
図4(E)は、上死点における、コンロッド大端部軸受31の中心とピストン外周球面33aの中心33dを結んだ線分27、ピストン33の上面33c、クランクシャフト24の回転中心24aの位置関係を示す図である。
【0043】
下死点においては、クランク角度は、180度よりやや少ない角度である。
上死点においては、クランク角度は、360度よりやや少ない、355度程度の角度である。
【0044】
揺動角は、コンロッド大端部軸受31の中心とピストン外周球面33aの中心33dを結んだ線分27と、シリンダ内径の中心軸との間の角度をいう。
【0045】
また、図5Aに上死点におけるピストン33の状態を示す。図に示すとおり、ピストン33の上面33cもしくはバルブプレート26の下面は、コンロッド大端部軸受31の中心とピストン外周球面33aの中心を結んだ線分27に対して直交していない。
【0046】
このためピストン上面33cは、クランク角度0度の状態においてバルブプレート26の下面に対しても非平行である。
【0047】
ピストン33の上面33cとバルブプレート26の下面は、ピストン外周球面33aの中心点がクランクシャフトの回転中心24aから最も離れる上死点の状態において、互いに平行になるように設計されている。
【0048】
本実施例によれば、以下のようなメリットがある。
【0049】
ピストン33とバルブプレート26の干渉を防ぎ、隙間容積の増大を抑制することが可能となる。
【0050】
ピストン外周球面33aが直接にシリンダ内周面22aと摺動可能となることで、シリンダ22に対するピストン33の干渉を許容できる。また、揺動角が大きくなってもピストン33の上下端角部はシリンダ内周面22aに当たらないので、角当たりによる摩耗や摩擦損失を防止できる。
【0051】
さらに図3Dについて考えると、ピストン外周球面33aはシリンダ22の中心軸に直交する面上で常に接しているか、隙間を微小に維持することができる。これにより、ピストン外周球面33a自体が圧縮室のシールを行うことが可能となり、またそのシール性能は揺動角に影響されないという大きなメリットがある。
【0052】
ただし、組み立て作業性および後述するピストン33の熱膨張や圧縮室内圧力による潰れ変形分を考慮すると、ピストン外周球面33aとシリンダ内周面22aの間には、常温初期状態で微小な隙間を設けることが望ましい。この場合は、図3Cのようにピストンリング34を設ければ、この隙間をシールすることができる。
【0053】
このとき、本実施例ではシリンダ内周面の中心軸22bをクランクシャフトの回転中心24aに対して反負荷側へ最適量eだけオフセット配置していることで、圧縮工程におけるピストンリング34の傾きを抑制し、シール性能の悪化を防止することが可能となる。この効果について、以下に詳細を説明する。
【0054】
図6は、一般的なクランク角度と揺動角の関係、およびクランク角度とシリンダ内圧の関係を示している。ピストンリング34のシール性能は、揺動角の絶対値が大きくなるほど悪化する。圧縮工程における揺動角の極小値βLminを小さくするためにオフセット量を増加させると、逆に上死点での揺動角βTDCは増加する傾向がある。
【0055】
ピストンリング34から漏れ出すブローバイ損失の量は、シリンダ22の内圧が高いほど多くなるため、当然揺動角が極小となるクランク角度270度(3/2π)よりも、上死点の方がシール性能に対して影響が大きい。このため、オフセット量の適正値は、これら2つの揺動角のバランスによって決定する必要がある。
【0056】
図7は、このオフセット量eとブローバイ量Qlossの関係をシミュレーションした結果を示す。図より、ブローバイ量Qlossはオフセット量e=e、すなわち(1)式が成立する条件の近傍において最小となることが分かる。このオフセット量に対して、本実施例のピストン構造を組み合わせることによってブローバイ量を最小化する、すなわちピストンリングのシール性能悪化を最大限防止することが可能となる。
【0057】
また、図5Aに示すとおり上死点においてピストン上面33cとバルブプレート26の下面が平行になるため、隙間容積を最小化することが可能となり、圧縮機本体1の理論体積効率を向上させることも可能となる。図5Aでは、シリンダ内径(シリンダ内周面)22aの中心軸は鉛直方向を向いた配置の圧縮機の構成を示す。
【0058】
本実施例では、ピストン上面33cを傾斜させることでこの状態を作り出しているが、当然図5Bのようにバルブプレート26の下面(クランクケース側の面)を傾斜させることによっても同様の状態を作り出すことができる。ピストン33の製造方法によっては、この図5Bの形状の方が加工費を低減できるメリットがある。
【0059】
さらに本実施例において、説明を簡単にするため常にシリンダ内周面22aの中心軸は図の鉛直方向を向くように描いているが、たとえば図5Cは、シリンダ内径(シリンダ内周面)22aの中心軸を傾斜させた状態で配置した圧縮機本体の内部構成を示す図である。図5Cに示した構成でも同様の効果が得られる。この状態は図5Bと比べると、バルブプレート26とシリンダヘッド23の傾斜角が低減できる分だけ外観的にもバランスが良いというメリットがある。
【0060】
なお、図7によればオフセット量eの最適値はeであるが、この点に一致させることがレイアウト上困難であるような場合には、後述するeとeから定まる(5)式の範囲とすることでブローバイ量Qlossの増加を最小限に抑制することができる。
【0061】
【数5】
ただし、eは次式が成立するオフセット量である。
【0062】
【数6】
【0063】
【数7】
【0064】
【数8】
【0065】
【数9】
【0066】
ここで、添え字のBDCは下死点を表している。すなわち、eは下死点の揺動角と圧縮工程における極小値となる揺動角(図4(D))の絶対値が略等しくなるオフセット量である。ここで、略等しくなるというのは等しい場合も含む。
【0067】
このオフセット量とすることで、クランクシャフト24が1回転する間において、圧縮工程の途中における揺動角を抑制することが可能となる。また、eは次式が成立するオフセット量である。
【0068】
【数10】
【0069】
すなわち、eはクランク半径r(クランクシャフト偏心量)に等しい。このオフセット量とすることで、クランクシャフト24が1回転する間において、シリンダ22の内圧が圧縮機の運転圧力に達する瞬間のコンロッド32をシリンダ内周面22aの中心軸に対してほぼ平行とすることができ、圧縮工程の途中における揺動角を抑制することが可能となる。
【0070】
さらに、圧縮機本体1は摺動部の潤滑に潤滑油を使用しない無給油式を想定し、ピストンを耐摩耗性に優れる樹脂によって構成するものとしている。しかし本構成は給油式にも適用可能である。この場合、シリンダ22とピストン外周球面33aの間にはねかけ給油などで潤滑油膜を介在させ、摺動面の潤滑を行うとよい。本構成では、ピストン33をたとえばコンロッド32と一体のアルミで構成することも可能となり、部品点数および組み立て工数を削減することができる。
【実施例2】
【0071】
実施例2では、実施例1に示したシリンダ22のオフセットを行わずとも、類似の効果を出すことができる構成について説明する。
【0072】
図8Aは実施例2におけるピストン・コンロッドの構成例を示す。
なお、図8Bは比較のために実施例1における同部品の構成例を示す。
【0073】
実施例1に示した構成では、圧縮機本体の部品配置や形状に設計的制約があり、シリンダ22のオフセット量を十分にとれない場合、必然的にその効果も目減りしてしまう。このような制約は、特に他製品との部品共用化などがある場合に生じやすい。
【0074】
実施例1では、ピストンリング34をピストンの中心33dとコンロッド大端部軸受31の中心を結んだ直線27に対し、直交するよう配置していた。
【0075】
これに対して本実施例では、ピストンリング34を直線27に対して直交させず、あるオフセット角度ψだけ傾くようにしている。
【0076】
これにより、クランクシャフト24が一回転する間のピストンリング34の傾き変化をψだけオフセットさせることができる。したがって、圧縮機本体の回転方向と逆方向(圧縮機本体が反時計回りであれば、時計回り)に傾斜させれば、たとえシリンダ22のオフセット量がゼロの状態であっても、圧縮工程におけるピストンリング34の傾きを低減することが可能となり、シール性能の悪化を防止できる。
【0077】
なお、シリンダ22のオフセット量eとピストンリング34のオフセット角度ψは、組み合わせて設定することが可能であり、設計的制約の許容範囲でシリンダ22をオフセットし、不足する分はピストンリング34をオフセットさせるという使い方ができる。
【0078】
ただし、各々ピストンリング34の傾き変化に与える影響が若干異なるほか、以下に記すようなメリット・デメリットがある。
【0079】
シリンダ22をオフセットした場合、ピストン33およびコンロッド32のピストン側より構成される往復動部品の往復動慣性力が最大となる上死点において、その慣性力のベクトルとクランクシャフト24のバランスウエイトの遠心力のベクトルにずれが生じる。このため、圧縮機本体回転時の振動が原理的に悪化してしまう問題がある。
【0080】
ピストンリング34をオフセットさせた場合、上記の問題は生じない。しかし一方で、ピストンリング34がコンロッド32に対して直交しなくなるため、ピストンリング34が受ける圧縮ガス荷重の一部は、ピストン33をシリンダ内周面22aに押し付けるように働くようになる。したがって、摩擦損失やピストントップ摩耗量の増加を招く。
【実施例3】
【0081】
実施例3では、実施例1に対し、さらに上死点におけるピストン33とバルブプレート26の間の隙間容積を低減可能な構成について説明する。
【0082】
図9は実施例3におけるピストン33の構成例を示す。
実施例1に示した構成では、ピストン33の上面が上死点においてバルブプレート26に対し平行となっており、一見隙間容積が最も小さいように見える。しかしこの上死点の前後の動きに着目すると、ピストン33がバルブプレート26に対して傾斜したとき、その左右角部の最高点が上死点における位置をわずかに超える高さに達する。
【0083】
したがって、ピストン33とバルブプレート26の干渉を避けるためには、この差分だけ往復動方向にあらかじめ隙間を設けておく必要がある。この差分はシリンダ22の内径サイズが大きくなるほど広くなり、結果として隙間容積の増大を招くことになる。
【0084】
そこで本実施例では、図9に示すとおり、上死点においてピストン33の上面が左右に山形に傾斜した構成、つまり上死点にある状態においてピストン33の上面がバルブプレート26のクランクケース(図は省略)側の面に向けた凸形状となっている。なお、比較のため実施例1におけるピストン33の上面外形線を33eとして破線で示している。
【0085】
図10Aは実施例3におけるピストン33の上面右端が最高点にある場合を示す図である。図10Bは実施例3におけるピストン33が上死点にある場合を示す図である。図10Cは実施例3におけるピストン33の上面左端が最高点にある場合を示す図である。
【0086】
このような形状とすることで、図10Aおよび図10Cに示すように、上死点前後においてピストン33の上面左右角部が最高点に達するタイミングでの干渉を回避し、かつ図10Bに示すように、上死点における隙間容積をさらに低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0087】
1 圧縮機本体
21 クランクケース
22 シリンダ
24 クランクシャフト
32 コンロッド
33 ピストン
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図10C