(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ポリイミンイミド、ワニス、フィルム及びその製造方法、並びに積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 12/08 20060101AFI20240306BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240306BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240306BHJP
B32B 27/42 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C08G12/08
C08G73/10
C08J5/18 CEZ
B32B27/42
(21)【出願番号】P 2019202256
(22)【出願日】2019-11-07
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】天野 達
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-185066(JP,A)
【文献】特開昭53-082897(JP,A)
【文献】特開平03-220234(JP,A)
【文献】特開平10-168148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G,C08J,B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミンと、溶媒とを含むワニスであり、
前記ポリイミンが、ジアルデヒドとジアミンとの反応物であり、
前記ジアルデヒドが、
イソフタルアルデヒドであり、
前記ジアミンが、芳香族基
(ただし、F又はフッ素化アルキル基を有する場合を除く)の3個以上が2価の連結基
(ただし、C(CF
3
)
2
を除く)を介して結合した構造を有する芳香族ジアミンを含
み、
前記溶媒が、トルエン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド及びγ-ブチロラクトンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、
ワニス。
【請求項2】
前記芳香族ジアミンが、下記式(3)で表される化合物である請求項
1に記載の
ワニス。
H
2N-R
5-L
1-R
6-(L
3-R
8)
n-L
2-R
7-NH
2 (3)
(式中、nは0~2の整数を示し、R
5、R
6、R
7及びR
8はそれぞれ独立に、フェニレン基を示し、L
1、L
2及びL
3はそれぞれ独立に、2価の連結基
(ただし、C(CF
3
)
2
を除く)を示し、nが2以上のとき、n個のL
3及びn個のR
8はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項3】
前記2価の連結基が、-O-又は炭素原子数1~4のアルキレン基である請求項1
又は2に記載の
ワニス。
【請求項4】
前記芳香族ジアミンが、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1~
3のいずれか一項に記載の
ワニス。
【請求項5】
前記ポリイミンの重量平均分子量が30000以上である請求項1~
4のいずれか一項に記載の
ワニス。
【請求項6】
ジアルデヒドとジアミンと酸無水物との反応物であり、
前記ジアルデヒドが、水酸基を有さない芳香族ジアルデヒドであり、
前記ジアミンが、芳香族基
(ただし、F又はフッ素化アルキル基を有する場合を除く)の3個以上が2価の連結基
(ただし、C(CF
3
)
2
を除く)を介して結合した構造を有する芳香族ジアミンを含み、
前記酸無水物が、芳香族酸無水物及び脂環式酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、ポリイミンイミド。
【請求項7】
前記芳香族ジアルデヒドが、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項
6に記載のポリイミンイミド。
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~8のアルキル基又は炭素原子数1~8のアルコキシ基を示す。)
【請求項8】
前記芳香族ジアルデヒドが、イソフタルアルデヒド及びテレフタルアルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項
6又は
7に記載のポリイミンイミド。
【請求項9】
前記芳香族ジアミンが、下記式(3)で表される化合物である請求項
6~
8のいずれか一項に記載のポリイミンイミド。
H
2N-R
5-L
1-R
6-(L
3-R
8)
n-L
2-R
7-NH
2 (3)
(式中、nは0~2の整数を示し、R
5、R
6、R
7及びR
8はそれぞれ独立に、フェニレン基を示し、L
1、L
2及びL
3はそれぞれ独立に、2価の連結基
(ただし、C(CF
3
)
2
を除く)を示し、nが2以上のとき、n個のL
3及びn個のR
8はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項10】
前記2価の連結基が、-O-又は炭素原子数1~4のアルキレン基である請求項
6~
9のいずれか一項に記載のポリイミンイミド。
【請求項11】
前記芳香族ジアミンが、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項
6~
10のいずれか一項に記載のポリイミンイミド。
【請求項12】
前記芳香族酸無水物が、フッ素原子を有する請求項
6~
11のいずれか一項に記載のポリイミンイミド。
【請求項13】
前記芳香族酸無水物が、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物である請求項
6~
12のいずれか一項に記載のポリイミンイミド。
【請求項14】
重量平均分子量が30000以上である請求項
6~
13のいずれか一項に記載のポリイミンイミド。
【請求項15】
請求項
6~
14のいずれか一項に記載のポリイミンイミドと、溶媒とを含むワニス。
【請求項16】
前記溶媒が、トルエン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド及びγ-ブチロラクトンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項15に記載のワニス。
【請求項17】
前記溶媒がトルエンを含む請求項
1~5、15、16のいずれか一項に記載のワニス。
【請求項18】
請求項
6~
14のいずれか一項に記載のポリイミンイミドを含むフィルム。
【請求項19】
請求項
1~5、15~17
のいずれか一項に記載のワニスからなる膜を製膜し、前記膜を乾燥する、フィルムの製造方法。
【請求項20】
請求項
18に記載のフィルムと、基材とが積層された、積層体。
【請求項21】
請求項
18に記載のフィルムと基材とを熱圧着する、積層体の製造方法。
【請求項22】
請求項19に記載のフィルムの製造方法によりフィルムを製造し、前記フィルムと基材とを熱圧着する、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミン、ポリイミンイミド、ワニス、フィルム及びその製造方法、並びに積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチレンビスサリチルアルデヒド等の芳香族ジアルデヒドとジアミンとの反応により得られるポリイミンは、その構造から、高耐熱、高弾性率等が求められる各種高分子工業材料への適用が期待される。しかし、前記の反応により生成するポリイミンは、その結晶性の高さから、溶剤溶解性が乏しいため作業性が悪く、高分子量化が困難である。
【0003】
ポリイミンの高分子量化のため、ポリイミンの合成に際してフェノール、クレゾール等の特定の溶剤を使用する方法が知られている(非特許文献1)。しかし、この方法は、使用する溶剤の毒性、刺激性が強く、ポリイミンを工業的に製造するのには適さない。また、生成するポリイミンの分子量も充分ではない。
ジアルデヒドに脂肪族ジアルデヒドを使用することで、高分子量を有するポリイミンが得られることが知られている。しかし、脂肪族ジアルデヒドを使用すると、ポリイミンの耐熱性が著しく低下してしまい、工業材料として使用できない。
【0004】
特許文献1には、2,6-ジホルミルフェノール構造の芳香族ジアルデヒドと、芳香族ジアミンとを、アミド系溶剤及びフェノール系溶剤から選ばれた溶剤の存在下で脱水縮合して数平均重合度が2~20である芳香族ポリイミンオリゴマーの溶液を得て、この溶液を製膜し、加熱脱水処理して芳香族ポリイミンのフィルムを得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】有機合成化学 第41巻 第10号(1983) 第972-984頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法において、ジアルデヒドとジアミンとの反応により生成するのは低分子量のオリゴマーであり、そのままではポリイミンとしての性能が得られない。ポリイミンとしての性能を得るためには、高温で長時間処理する必要がある。さらに、得られるフィルムは熱可塑性が無く、金属箔等の基材に熱圧着することができない。また、得られる芳香族ポリイミンが水酸基を有することで、誘電特性(比誘電率、誘電正接)に劣り、用途が制限される。
ジアルデヒド及びジアミンとともに酸無水物を反応させて得られるポリイミンイミドにも同様の問題がある。
【0008】
本発明は、高分子量のものを容易に製造でき、高分子量であっても溶剤溶解性を示すポリイミン及びポリイミンイミド、これらを用いたワニス、フィルム及びその製造方法、並びに積層体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]ジアルデヒドとジアミンとの反応物であり、
前記ジアルデヒドが、水酸基を有さない芳香族ジアルデヒドであり、
前記ジアミンが、芳香族基の3個以上が2価の連結基を介して結合した構造を有する芳香族ジアミンを含む、ポリイミン。
[2]前記芳香族ジアルデヒドが、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[1]のポリイミン。
【0010】
【0011】
(式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~8のアルキル基又は炭素原子数1~8のアルコキシ基を示す。)
[3]前記芳香族ジアルデヒドが、イソフタルアルデヒド及びテレフタルアルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[1]又は[2]のポリイミン。
[4]前記芳香族ジアミンが、下記式(3)で表される化合物である前記[1]~[3]のいずれかのポリイミン。
H2N-R5-L1-R6-(L3-R8)n-L2-R7-NH2 (3)
(式中、nは0~2の整数を示し、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ独立に、フェニレン基を示し、L1、L2及びL3はそれぞれ独立に、2価の連結基を示し、nが2以上のとき、n個のL3及びn個のR8はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
[5]前記2価の連結基が、-O-又は炭素原子数1~4のアルキレン基である前記[1]~[4]のいずれかのポリイミン。
[6]前記芳香族ジアミンが、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[1]~[5]のいずれかのポリイミン。
[7]重量平均分子量が30000以上である前記[1]~[6]のいずれかのポリイミン。
[8]ジアルデヒドとジアミンと酸無水物との反応物であり、
前記ジアルデヒドが、水酸基を有さない芳香族ジアルデヒドであり、
前記ジアミンが、芳香族基の3個以上が2価の連結基を介して結合した構造を有する芳香族ジアミンを含み、
前記酸無水物が、芳香族酸無水物及び脂環式酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、ポリイミンイミド。
[9]前記芳香族ジアルデヒドが、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[8]のポリイミンイミド。
【0012】
【0013】
(式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~8のアルキル基又は炭素原子数1~8のアルコキシ基を示す。)
[10]前記芳香族ジアルデヒドが、イソフタルアルデヒド及びテレフタルアルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[8]又は[9]のポリイミンイミド。
[11]前記芳香族ジアミンが、下記式(3)で表される化合物である前記[8]~[10]のいずれかのポリイミンイミド。
H2N-R5-L1-R6-(L3-R8)n-L2-R7-NH2 (3)
(式中、nは0~2の整数を示し、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ独立に、フェニレン基を示し、L1、L2及びL3はそれぞれ独立に、2価の連結基を示し、nが2以上のとき、n個のL3及びn個のR8はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
[12]前記2価の連結基が、-O-又は炭素原子数1~4のアルキレン基である前記[8]~[11]のいずれかのポリイミンイミド。
[13]前記芳香族ジアミンが、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[8]~[12]のいずれかのポリイミンイミド。
[14]前記芳香族酸無水物が、フッ素原子を有する前記[8]~[13]のいずれかのポリイミンイミド。
[15]前記芳香族酸無水物が、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物である前記[8]~[14]のいずれかのポリイミンイミド。
[16]重量平均分子量が30000以上である前記[8]~[15]のいずれかのポリイミンイミド。
[17]前記[1]~[7]のいずれかのポリイミン又は前記[8]~[16]のいずれかのポリイミンイミドと、溶媒とを含むワニス。
[18]前記溶媒がトルエンを含む前記[17]のワニス。
[19]前記[1]~[7]のいずれかのポリイミン又は前記[8]~[16]のいずれかのポリイミンイミドを含むフィルム。
[20]前記[17]又は[18]のワニスからなる膜を製膜し、前記膜を乾燥する、フィルムの製造方法。
[21]前記[19]のフィルムと、基材とが積層された、積層体。
[22]前記[19]のフィルムと基材とを熱圧着する、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高分子量のものを容易に製造でき、高分子量であっても溶剤溶解性を示すポリイミン及びポリイミンイミド、これらを用いたワニス、フィルム及びその製造方法、並びに積層体及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、「芳香族ジアルデヒド」は、芳香環を有するジアルデヒドである。
「芳香族ジアミン」は、芳香環を有するジアミンである。
「酸無水物」は、酸無水物基(-C(=O)-O-C(=O)-)を有する化合物である。
「芳香族酸無水物」は、芳香環を有する酸無水物である。
「脂環式酸無水物」は、脂環構造を有する酸無水物(ただし芳香族酸無水物を除く。)である。
ポリイミン及びポリイミンイミドの重量平均分子量(以下、「Mw」ともいう。)及び数平均分子量(以下、「Mn」ともいう。)はそれぞれ、ゲル浸透クロマトグラフ分析(以下、「GPC」ともいう。)により測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0016】
(ポリイミン)
本発明のポリイミンは、ジアルデヒドとジアミンとの反応物である。
前記ジアルデヒドは、水酸基を有さない芳香族ジアルデヒドである。
前記ジアミンは、芳香族基の3個以上が2価の連結基を介して結合した構造(以下、「構造A」ともいう。)を有する芳香族ジアミンを含む。
前記ジアミンは、必要に応じて、構造Aを有する芳香族ジアミン以外の他のジアミンをさらに含むことができる。
【0017】
<水酸基を有さない芳香族ジアルデヒド>
芳香族ジアルデヒドが有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環等が挙げられる。芳香環は、ハロゲン原子、炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基、炭素原子数1~8のフルオロアルキル基等の置換基を有していてもよい。
芳香族ジアルデヒドが有する芳香環は1個でもよく2個以上でもよい。2個以上の芳香環を有する場合、各芳香環は、直接結合していてもよく、連結基を介して結合していてもよい。連結基としては、例えば炭素原子数1~4のアルキレン基、炭素原子数1~4のフルオロアルキレン基、スルホニル基、-O-が挙げられる。
芳香族ジアルデヒドが有する2個のホルミル基はそれぞれ、芳香環に結合していることが好ましい。
【0018】
芳香族ジアルデヒドとしては、水酸基を有さないものであればよく、ポリイミン化した際の溶剤溶解性、耐熱性の点では、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0019】
【0020】
式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~8のアルキル基又は炭素原子数1~8のアルコキシ基を示す。
ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
アルキル基及びアルコキシ基はそれぞれ直鎖状でも分岐状でもよい。アルキル基及びアルコキシ基それぞれの炭素原子数は1~6が好ましい。
式(1)~(2)中、2つのホルミル基の結合位置は特に限定されない。例えば式(1)において、2つのホルミル基の結合位置は、メタ位、パラ位、オルソ位のいずれであってもよい。式(2)中、2つのホルミル基は、同じベンゼン環に結合していてもよく、異なるベンゼン環に結合していてもよい。
【0021】
芳香族ジアルデヒドの具体例としては、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、オルソフタルアルデヒド、ナフタレンジアルデヒド、それらのハロゲン付加物が挙げられる。これらの芳香族ジアルデヒドは1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
芳香族ジアルデヒドとしては、比較的安価な点から、イソフタルアルデヒド及びテレフタルアルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0022】
<構造Aを有する芳香族ジアミン>
芳香族ジアミンが有する構造Aは、芳香族基の3個以上が2価の連結基を介して結合した構造である。
芳香族基は、1個以上の芳香環から構成される。芳香族基が2個以上の芳香環から構成される場合、各芳香環は単結合により結合する。芳香族基の具体例としては、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフタレン基が挙げられる。フェニレン基としては、耐熱性の点から、p-フェニレン基が特に好ましい。ビフェニレン基としては、耐熱性の点から、4,4’-ビフェニレン基が特に好ましい。
芳香族基は、炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基、水酸基等の置換基を有していてもよい。
構造Aを構成する芳香族基の数は、3個以上であり、その上限は、例えば6である。構造A中の3個以上の芳香族基は同一でも異なってもよい。
2価の連結基としては、例えば-O-、炭素原子数1~4のアルキレン基が挙げられる。炭素原子数1~4のアルキレン基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、例えば-CH2-、-C(CH3)2-が挙げられる。
構造A中の2価の連結基の数は、(芳香族基の数-1)個である。構造A中の(芳香族基の数-1)個の2価の連結基は同一でも異なってもよい。
芳香族ジアミンが有する2個のアミノ基はそれぞれ、溶剤溶解性の点から、構造Aの両端に位置する芳香族基に結合していることが好ましい。
芳香族ジアミンは、誘電特性の点から、水酸基を有さないことが好ましい。
【0023】
構造Aを有する芳香族ジアミンの具体例としては、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノベンズアミド)ビヒドロキシビフェニル、2,5-(4-アミノフェノキシ)-2-フェニルベンゼン等が挙げられる。これらの芳香族ジアミンは1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
構造Aを有する芳香族ジアミンとしては、ポリイミンの耐熱性、誘電特性の点では、下記式(3)で表される化合物が好ましい。
H2N-R5-L1-R6-(L3-R8)n-L2-R7-NH2 (3)
式中、nは0~2の整数を示し、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ独立に、フェニレン基を示し、L1、L2及びL3はそれぞれ独立に、2価の連結基を示し、nが2以上のとき、n個のL3及びn個のR8はそれぞれ同一でも異なってもよい。
nが0の場合、R6とL2とが直接結合する。nとしては、0又は1が好ましい。
R5、R6、R7及びR8のフェニレン基は、p-フェニレン基又はm-フェニレン基が好ましい。R5及びR7は、耐熱性の点から、p-フェニレン基が特に好ましい。
L1、L2及びL3の2価の連結基としては、前記と同様のものが挙げられる。L1及びL2は、-O-が好ましい。
【0025】
構造Aを有する芳香族ジアミンとしては、ポリイミンの耐熱性、誘電特性の点では、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
【0026】
全てのジアミンのうち構造Aを有する芳香族ジアミンの割合は、50モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。構造Aを有する芳香族ジアミンの割合が前記下限値以上であれば、ポリイミンを高分子量化しやすい。また、ポリイミンの溶剤溶解性、耐熱性がより優れる。構造Aを有する芳香族ジアミンの割合は、100モル%であってもよい。
【0027】
<他のジアミン>
他のジアミンとしては、例えば、シリコーンジアミン、構造Aを有さない芳香族ジアミン、脂環式ジアミン、脂肪族ジアミンが挙げられる。
シリコーンジアミンとしては、両末端型アミノ変性シリコーンオイル(例えば、東レダウコーニング株式会社製「BY16-853U」)等が挙げられる。
構造Aを有さない芳香族ジアミンとしては、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノトルエン、ジアミノナフタレン、フェニレンジアミン、キシレンジアミン等が挙げられる。
脂環式ジアミンとしては、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ノルボルナンジアミン等が挙げられる。
脂肪族ジアミンとしては、ヘキサンジアミン、プロパンジアミン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンジアミン等が挙げられる。
【0028】
他のジアミンとしては、シリコーンジアミンが好ましい。シリコーンジアミンは、ポリイミンの吸水率の低減、伸びや難燃性の向上に寄与する。また、シリコーンジアミンは、芳香族ジアミンでない場合でも、ポリイミンの耐熱性を低下させにくい。
【0029】
全てのジアミンのうち他のジアミンの割合は、50モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、0モル%であってもよい。
【0030】
ポリイミンのMwは、20000以上が好ましく、30000以上がより好ましく、40000以上がさらに好ましい。Mwが前記下限値以上であれば、ポリイミンの製膜性、耐熱性、誘電特性がより優れる。
ポリイミンのMwは、溶剤溶解性、溶液粘度の点では、120000以下が好ましく、80000以下がより好ましく、60000以下がさらに好ましい。
ポリイミンのMwは、ジアルデヒドとジアミンのモル比等によって調整できる。
【0031】
ポリイミンのガラス転移温度は、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。ガラス転移温度が前記下限値以上であれば、耐熱性が充分に高く、高機能電子材料としての有用性が優れる。ガラス転移温度は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0032】
ポリイミンの10GHz測定時の誘電正接は、0.007以下が好ましく、0.004以下がより好ましい。誘電正接が前記上限値以下であれば、誘電特性が充分に低く、高機能電子材料としての有用性が優れる。誘電正接は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0033】
<ポリイミンの製造方法>
本発明のポリイミンは、前記したジアルデヒドとジアミンとを反応(重縮合)させることにより製造できる。
【0034】
ジアルデヒドとジアミンとのモル比(ジアルデヒド/ジアミン)は、0.85~1.15が好ましく、0.95~1.05がより好ましい。モル比が高すぎたり低すぎたりすると、反応せずに残留するジアルデヒド又はジアミンの量が多くなり好ましくない。また、高分子量体が得られにくくなり、ポリイミンの性能が不充分になるおそれがある。
【0035】
ジアルデヒドとジアミンとの反応は、生成されるポリイミンが高分子量となりやすい点から、溶媒(反応溶媒)の存在下で行うことが好ましい。
反応溶媒としては、例えばトルエン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトンが挙げられるが、本発明のポリイミンが溶ける溶剤であれば、上記溶媒に限定しなくてもよい。反応溶媒は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。反応溶媒としては、比較的安価であり、イミン化反応時の脱水が容易である点から、トルエン、N-メチル-2-ピロリドンが好ましい。
反応溶媒の使用量は、例えば、ジアルデヒドとジアミンの総量100質量部に対し、100~10000質量部である。
【0036】
反応温度は、-20~200℃が好ましく、80~180℃がより好ましい。反応温度が高すぎると、イミン化が急激に進行してしまい、部分的にゲル化が起こるおそれがある。反応温度が低すぎると、反応で副生する水が除去しきれず、反応の進行が遅くなり、生産性が悪い。
反応時間は、例えば1~30時間である。
【0037】
<作用効果>
以上説明した本発明のポリイミンにあっては、ジアミンとして構造Aを有する芳香族ジアミンを用いているので、高分子量であっても溶剤溶解性に優れる。そのため、ポリイミンを合成する際に、容易に高分子量化できる。
溶剤溶解性に優れる理由としては、構造Aによってポリイミンの結晶性が低下していることが考えられる。すなわち、構造Aは、3個以上の芳香族基が、直接ではなく2価の連結基を介して結合していることで、直線性が低いので、ポリイミンの分子構造の直線性を低くしてポリイミンの結晶性を低下させていると考えられる。特に、構造Aの両端の芳香族基にアミノ基が結合している場合は、芳香族ジアミンにおけるアミノ基間の間隔が広いので、ポリイミンにおけるイミン結合間の間隔を広くしてポリイミンの結晶性を低下させていると考えられる。
また、本発明のポリイミンにあっては、ジアルデヒドとして芳香族ジアルデヒドを用いているので、耐熱性に優れる。また、芳香族ジアルデヒドが水酸基を有さないので、低吸水性、低誘電率、低誘電正接である。
【0038】
ポリイミンの溶剤溶解性が悪いと、溶剤の存在下でジアルデヒドとジアミンとを反応させてポリイミンを合成する際、生成したポリイミンが析出してしまいワニス化が出来ない。また反応が進まなくなり、高分子量化が困難である。
従来、ポリイミンの溶剤溶解性を高める手法として、前記した特許文献1のように、フェノール性水酸基を有する芳香族ジアルデヒドを用いる方法がある。しかし、ポリイミンがフェノール性水酸基を含むと、ポリイミンの吸水性が高まる。ポリマー中の水分量が増えると、誘電率及び誘電正接が高くなる。
本発明のポリイミンは、芳香族ジアルデヒドがフェノール性水酸基を有さないにもかかわらず、溶剤溶解性を示す。
【0039】
本発明のポリイミンは高分子量であっても溶剤溶解性に優れることから、本発明のポリイミンにより、高分子量のポリイミンのワニスが得られる。かかるワニスは、製膜性に優れており、ワニスを製膜し、溶媒を除去するだけで、優れた性能(耐熱性、低吸水性、低誘電率、低誘電正接等)を示すフィルムが得られる。また、このフィルムは、熱可塑性を示し、金属箔等の基材と積層可能である。
【0040】
(ポリイミンイミド)
本発明のポリイミンイミドは、ジアルデヒドとジアミンと酸無水物の反応物である。
ジアルデヒド及びジアミンはそれぞれ、好ましい態様も含めて、前記したポリイミンにおけるジアルデヒド及びジアミンと同じである。
前記酸無水物は、芳香族酸無水物及び脂環式酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
前記酸無水物は、必要に応じて、芳香族酸無水物及び脂環式酸無水物以外の他の酸無水物をさらに含むことができる。
【0041】
<芳香族酸無水物>
芳香族酸無水物が有する芳香環としては、前記した芳香族ジアルデヒドにおける芳香環と同様のものが挙げられる。
芳香族酸無水物が有する芳香環は1個でもよく2個以上でもよい。2個以上の芳香環を有する場合、各芳香環は、直接結合していてもよく、連結基を介して結合していてもよい。連結基としては、例えば炭素原子数1~4のアルキレン基、炭素原子数1~4のフルオロアルキレン基、スルホニル基、-O-が挙げられる。
芳香族酸無水物が有する酸無水物基の数は、2個が好ましい。
【0042】
芳香族酸無水物としては、例えばピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸2,3:6,7-二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)1,4-フェニレン、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物等が挙げられる。これらの芳香族酸無水物は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
芳香族酸無水物はフッ素原子を有することが好ましい。フッ素原子を有することで、低誘電化、溶剤溶解性の向上ができる。
芳香族酸無水物が有するフッ素原子は1個でもよく2個以上でもよい。
フッ素原子は、芳香環の置換基、芳香環同士を結合する連結基等に含まれてよい。
フッ素原子を有する芳香族酸無水物としては、汎用性の点では、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物が好ましい。
【0044】
<脂環式酸無水物>
脂環式酸無水物が有する脂環構造は、飽和でも不飽和でもよく、また単環式でも多環式でもよい。脂環構造としては、例えば、シクロヘキサン環、ノルボルナン環、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン環等の炭素数4~20の炭素骨格の脂環構造が挙げられる。脂環構造は、ハロゲン原子、炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基、炭素原子数1~8のフルオロアルキル基等の置換基を有していてもよい。
脂環式酸無水物が有する脂環構造は1個でもよく2個以上でもよい。2個以上の脂環構造を有する場合、各脂環構造は、直接結合していてもよく、連結基を介して結合していてもよい。連結基としては、例えば炭素原子数1~4のアルキレン基、炭素原子数1~4のフルオロアルキレン基、スルホニル基、-O-が挙げられる。
脂環式酸無水物が有する酸無水物基の数は、2個が好ましい。
【0045】
脂環式酸無水物としては、例えばビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これら脂環式酸無水物は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
全ての酸無水物のうち芳香族酸無水物及び脂環式酸無水物の合計の割合は、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましい。芳香族酸無水物及び脂環式酸無水物の合計の割合が前記下限値以上であれば、誘電特性、溶剤溶解性がより優れる。芳香族酸無水物及び脂環式酸無水物の合計の割合は、100モル%であってもよい。
【0047】
全ての酸無水物のうちフッ素原子を有する芳香族酸無水物の割合は、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましい。フッ素原子を有する芳香族酸無水物の割合が前記下限値以上であれば、誘電特性、溶剤溶解性がより優れる。フッ素原子を有する芳香族酸無水物の割合は、100モル%であってもよい。
【0048】
<他の酸無水物>
他の酸無水物としては、例えばエチレンジアミン四酢酸二無水物等の脂肪族酸無水物が挙げられる。
【0049】
ポリイミンイミドのMwは、20000以上が好ましく、30000以上がより好ましく、40000以上がさらに好ましい。Mwが前記下限値以上であれば、ポリイミンイミドの製膜性、耐熱性、誘電特性がより優れる。
ポリイミンイミドのMwは、溶剤溶解性、溶液粘度の点では、120000以下が好ましく、80000以下がより好ましく、60000以下がさらに好ましい。
ポリイミンイミドのMwは、ジアルデヒド及び酸無水物の合計とジアミンのモル比等によって調整できる。
【0050】
本発明のポリイミンイミドのガラス転移温度は、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。ガラス転移温度が前記下限値以上であれば、耐熱性が充分に高く、高機能電子材料としての有用性が優れる。
【0051】
本発明のポリイミンイミドの10GHz測定時の誘電正接は、0.007以下が好ましく、0.004以下がより好ましい。誘電正接が前記上限値以下であれば、誘電特性が充分に低く、高機能電子材料としての有用性が優れる。
【0052】
<ポリイミンイミドの製造方法>
本発明のポリイミンイミドは、前記したジアルデヒドとジアミンと酸無水物を反応させることにより製造できる。それらを反応させると、ジアルデヒドとジアミンとの反応によるイミン化と、ジアミンと酸無水物との反応によるイミド化とが進行する。
【0053】
ジアルデヒド及び酸無水物の合計とジアミンとのモル比((ジアルデヒド+酸無水物)/ジアミン)は、0.85~1.15が好ましく、0.95~1.05がより好ましい。モル比が高すぎたり低すぎたりすると、反応せずに残留するジアルデヒド及び酸無水物又はジアミンの量が多くなり好ましくない。また、高分子量体が得られにくくなり、ポリイミンイミドの性能が不充分になるおそれがある。
【0054】
ジアルデヒドと酸無水物とのモル比(ジアルデヒド/酸無水物)は、0.1~0.8が好ましく、0.2~0.6がより好ましい。モル比が高すぎたり低すぎたりすると、誘電特性と耐熱性のバランスがとれなくなるおそれがある。
【0055】
ジアルデヒドとジアミンと酸無水物との反応は、生成されるポリイミンイミドが高分子量になりやすい点から、溶媒(反応溶媒)の存在下で行うことが好ましい。
反応溶媒としては、例えばトルエン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトンが挙げられるが、本発明のポリイミンイミドが溶ける溶剤であれば、上記溶媒に限定しなくてもよい。反応溶媒は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。反応溶媒としては、比較的安価であり、イミン化及びイミド化の反応時の脱水が容易である点から、トルエン、N-メチル-2-ピロリドンが好ましい。
反応溶媒の使用量は、例えば、ジアルデヒドとジアミンと酸無水物の総量100質量部に対し、100~10000質量部である。
【0056】
反応温度は、-20~200℃が好ましく、80~180℃がより好ましい。反応温度が高すぎると、イミン化やイミド化が急激に進行してしまい、部分的にゲル化が起こるおそれがある。反応温度が低すぎると、反応で副生する水が除去しきれず、反応の進行が遅くなり、生産性が悪い。
反応時間は、例えば1~30時間である。
【0057】
<作用効果>
以上説明した本発明のポリイミンイミドにあっては、前記した本発明のポリイミンと同様に、ジアミンとして構造Aを有する芳香族ジアミンを用いているので、高分子量であっても溶剤溶解性に優れる。そのため、ポリイミンイミドを合成する際に、容易に高分子量化できる。溶剤溶解性に優れる理由としては、前記したように、構造Aによってポリイミンの結晶性が低下していることが考えられる。さらに、酸無水物がフッ素原子を有する場合には、フッ素原子の電子吸引作用によってポリイミンの分子同士のスタッキングが抑制されて、ポリイミンの結晶性がより低下すると考えられる。
また、本発明のポリイミンイミドにあっては、前記した本発明のポリイミンと同様に、ジアルデヒドとして芳香族ジアルデヒドを用いているので、耐熱性に優れる。また、芳香族ジアルデヒドが水酸基を有さないので、低吸水性、低誘電率、低誘電正接である。
また、本発明のポリイミンイミドにあっては、酸無水物として芳香族酸無水物及び脂環式酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いているので、耐熱性、誘電特性に優れる。
【0058】
本発明のポリイミンイミドは高分子量であっても溶剤溶解性に優れることから、本発明のポリイミンイミドにより、高分子量のポリイミンイミドのワニスが得られる。かかるワニスは、製膜性に優れており、ワニスを製膜し、溶媒を除去するだけで、優れた性能(耐熱性、低吸水性、低誘電率、低誘電正接等)を示すフィルムが得られる。また、このフィルムは、熱可塑性を示し、金属箔等の基材と積層可能である。
【0059】
(ワニス)
本発明のワニスは、本発明のポリイミン又はポリイミンイミドと、溶媒とを含む。
本発明のワニスは、ポリイミン及びポリイミンイミドのいずれか一方のみを含んでもよく、両方を含んでもよい。
本発明のワニスは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、他の成分をさらに含むことができる。
【0060】
溶媒としては、本発明のポリイミン又はポリイミンイミドを溶解可能であればよく、例えばトルエン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトンが挙げられるが、本発明のポリイミン又はポリイミンイミドが溶ける溶剤であれば、上記溶媒に限定しなくてもよい。溶媒は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
溶媒としては、フィルム等を製造する際の乾燥を比較的低温で行える点、比較的安価である点から、トルエンが好ましい。
【0061】
溶媒の含有量は、ワニスの固形分濃度に応じて適宜設定される。
ワニスの固形分濃度は、用途によっても異なるが、5~50質量%が好ましく、20~35質量%がより好ましい。
なお、ワニスの固形分濃度は、ワニスの総質量に対する、ワニスから溶媒を除いた質量の割合である。
【0062】
他の成分としては、例えば、無機フィラー、難燃剤、ワックス等が挙げられる。
【0063】
本発明のワニスは、例えば、溶媒の存在下で、前記芳香族ジアルデヒドと前記ジアミンとを反応させることにより、又は前記芳香族ジアルデヒドと前記ジアミンと前記酸無水物とを反応させることにより、本発明のポリイミン又はポリイミンイミドと溶媒とを含むワニスを得て、必要に応じて、得られたワニスに、さらなる溶媒、他の成分等を添加することにより製造できる。
【0064】
(フィルム)
本発明のフィルムは、本発明のポリイミン又はポリイミンイミドを含む。
本発明のフィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、他の成分をさらに含むことができる。
他の成分としては、前記と同様のものが挙げられる。
【0065】
本発明のフィルムの厚さは、特に限定されないが、例えば10~150μmである。
【0066】
本発明のフィルムは、例えば、本発明のワニスからなる膜を製膜し、前記膜を乾燥することにより製造できる。ワニスからなる膜を乾燥することで、溶媒が除去され、フィルムが形成される。
製膜方法としては、例えば、本発明のワニスを基材上に塗布する方法が挙げられる。塗布方法としては、例えばキャスト法等が挙げられる。
前記膜の乾燥時の温度は、溶媒を除去可能であればよいが、50~250℃が好ましく、70~230℃がより好ましい。
本発明のワニスを基材上に塗布して製膜した場合、基材上に本発明のフィルムが形成されるので、乾燥後、形成されたフィルムを基材から剥離して本発明のフィルムを得る。
【0067】
(積層体)
本発明の積層体は、本発明のフィルムと、基材とが積層されたものである。
本発明の積層体を構成するフィルムの数は1以上であればよい。本発明の積層体を構成するフィルムが複数である場合、各フィルムは同じでも異なってもよい。
本発明の積層体を構成する基材の数は1以上であればよい。本発明の積層体を構成する基材が複数である場合、各基材は同じでも異なってもよい。
フィルムと基材とは、直接積層されていてもよく、接着層を介して積層されていてもよい。
本発明の積層体の積層構成は、特に限定されず、例えば、基材/フィルムの2層構成、基材/フィルム/基材の3層構成、基材/接着層/フィルムの3層構成、基材/接着層/フィルム/接着層/基材の5層構成等が挙げられる。
【0068】
基材の形状、サイズ及び厚さ等は、特に限定されず、適宜設定できる。
基材としては、特に限定されず、例えば金属箔等の金属基材、樹脂基材、繊維質基材、これらの2以上が積層された積層基材が挙げられる。
金属基材を構成する金属としては、例えば銅、鉄、ステンレス(SUS)、アルミニウム、アルミニウム合金(銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、ニッケル等との合金)、ニッケル、銀、金が挙げられる。
樹脂基材を構成する樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリイミド等が挙げられる。
繊維質基材としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ステンレス繊維等の無機繊維;綿、麻、紙等の天然繊維;ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の合成有機繊維が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。繊維質基材の形状としては、短繊維、ヤーン、マット、シート等が挙げられる。
【0069】
本発明の積層体は、例えば、本発明のフィルムと基材とを熱圧着することにより製造できる。
熱圧着の温度は200~300℃が好ましい。温度が低すぎるとポリイミン又はポリイミンイミドが軟化せず熱圧着が出来ない。温度が高すぎるとポリマーの熱分解が懸念される。
熱圧着の圧力は、2~20MPaが好ましく、5~15MPaがより好ましい。圧力が低すぎると圧着せず、高すぎると基材及びフィルムの破断が懸念される。
【実施例】
【0070】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0071】
(測定方法)
<ポリイミン、ポリイミンイミドの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)>
以下のGPC測定装置及びカラムを用い、標準ポリスチレン換算の値を測定した。
GPC測定装置:東ソー社製 HLC8120GPC。
カラム:東ソー社製、TSKgel G3000H+G2000H+G2000H。
【0072】
<ガラス転移温度>
得られたフィルム(ポリイミンフィルム又はポリイミンイミドフィルム)を幅3.0mm×長さ5.5mm×厚さ0.05mmに加工し、粘弾性測定装置(日立ハイテクサイエンス社製 DMA7100)を用いて2℃/分の昇温速度で30℃~300℃の範囲で測定した。
【0073】
<5%熱分解温度>
得られたフィルムを微粉砕し、示差熱熱重量同時測定装置(セイコーインスツルメンツ社製 TG/DTA6300)により、エアー雰囲気下で10℃/分の昇温速度で30℃~800℃の範囲で熱重量減量を測定し、5%熱分解温度を求めた。
【0074】
<比誘電率、誘電正接>
得られたフィルムを幅3.0mm×長さ80.0mm×厚さ0.05mmに加工し、空洞共振摂動法により、周波数10GHzにおける比誘電率及び誘電正接を求めた。
【0075】
<線膨張係数>
得られたフィルムを幅3.0mm×長さ5.0mm×厚さ0.05mmに加工し、熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製 TMA7100)を用いて2℃/分の昇温速度で30℃~300℃の範囲で測定を行い、常温線膨張係数を求めた。常温線膨張係数は、30℃での線膨張係数である。
【0076】
<吸水率>
得られたフィルムについて、JIS K 7209に準じて吸水率を測定した。
【0077】
〔ポリイミンの製造〕
(実施例1)
<イソフタルアルデヒドと2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンの反応>
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量2Lの反応容器にイソフタルアルデヒド134.1g(1.0モル)、トルエン263.4g、N-メチル-2-ピロリドン923.3gを仕込んだ。次いで、60℃まで昇温し、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン410.5g(1.0モル)を発熱に注意しながら分割添加した。次いで、160℃まで昇温し、トルエン還流下で副生する水を除去し、5時間反応させてポリイミンワニス-1を得た。GPCによるポリイミンのMwは42391、Mnは15195であった。
【0078】
(実施例2)
<イソフタルアルデヒドと1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンの反応>
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量2Lの反応容器にイソフタルアルデヒド134.1g(1.0モル)、トルエン202.2g、N-メチル-2-ピロリドン708.7gを仕込んだ。次いで、60℃まで昇温し、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン292.3g(1.0モル)を発熱に注意しながら分割添加した。次いで、160℃まで昇温し、トルエン還流下で副生する水を除去し、5時間反応させてポリイミンワニス-2を得た。GPCによるポリイミンのMwは45616、Mnは15269であった。
【0079】
(比較例1)
<イソフタルアルデヒドと4,4-ジアミノジフェニルメタンの反応>
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量2Lの反応容器にイソフタルアルデヒド134.1g(1.0モル)、N-メチル-2-ピロリドン691.6gを仕込んだ。次いで、60℃まで昇温し、4,4-ジアミノジフェニルメタン198.3g(1.0モル)を添加し反応を行ったが、反応開始30分程度で樹脂が析出し、あらゆる溶剤に不溶となりポリイミンワニスの作成が出来なかった。
なお、析出した樹脂が不溶であることを確認した溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン、トルエン、テトラヒドロフランである(以下同様。)。
【0080】
(比較例2)
<イソフタルアルデヒドと4,4-ジアミノジフェニルエーテルの反応>
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量2Lの反応容器にイソフタルアルデヒド134.1g(1.0モル)、N-メチル-2-ピロリドン691.6gを仕込んだ。次いで、60℃まで昇温し、4,4-ジアミノジフェニルエーテル200.2g(1.0モル)を添加し反応を行ったが、反応開始30分程度で樹脂が析出し、あらゆる溶剤に不溶となりポリイミンワニスの作成が出来なかった。
【0081】
(比較例3)
<テレフタルアルデヒドと4,4-ジアミノジフェニルメタンの反応>
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量2Lの反応容器にテレフタルアルデヒド134.1g(1.0モル)、N-メチル-2-ピロリドン691.6gを仕込んだ。次いで、60℃まで昇温し、4,4-ジアミノジフェニルメタン198.3g(1.0モル)を添加し反応を行ったが、反応開始30分程度で樹脂が析出し、あらゆる溶剤に不溶となりポリイミンワニスの作成が出来なかった。
【0082】
〔ポリイミンイミドの製造〕
(実施例3)
<イソフタルアルデヒドと2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンと4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物の反応:イミド化率50%>
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量3Lの反応容器にトルエン343.9g、N-メチル-2-ピロリドン1205.0g、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物222.1g(0.5モル)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン410.5g(1.0モル)を仕込んだ。次いで、160℃まで昇温し、トルエン還流下で副生する水を除去し、5時間反応させた。次いで、60℃まで冷却後、イソフタルアルデヒド67.1g(0.5モル)を仕込み、160℃まで昇温し、トルエン還流下で副生する水を除去し、5時間反応させてポリイミンイミドワニス-3を得た。GPCによるポリイミンイミドのMwは47769、Mnは15887であった。
【0083】
(実施例4)
<イソフタルアルデヒドと2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンと4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物の反応:イミド化率70%>
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量3Lの反応容器にトルエン375.9g、N-メチル-2-ピロリドン1317.2g、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物310.9g(0.7モル)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン410.5g(1.0モル)を仕込んだ。次いで、160℃まで昇温し、トルエン還流下で副生する水を除去し、5時間反応させた。次いで、60℃まで冷却後、イソフタルアルデヒド40.2g(0.3モル)を仕込み、160℃まで昇温し、トルエン還流下で副生する水を除去し、5時間反応させてポリイミンイミドワニス-4を得た。GPCによるポリイミンイミドのMwは46158、Mnは15989であった。
【0084】
(実施例5)
<イソフタルアルデヒドと1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンと4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物の反応:イミド化率50%>
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量3Lの反応容器にトルエン282.6g、N-メチル-2-ピロリドン990.2g、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物222.1g(0.5モル)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン292.3g(1.0モル)を仕込んだ。次いで、160℃まで昇温し、トルエン還流下で副生する水を除去し、5時間反応させた。次いで、60℃まで冷却後、イソフタルアルデヒド67.1g(0.5モル)を仕込み、160℃まで昇温し、トルエン還流下で副生する水を除去し、5時間反応させてポリイミンイミドワニス-5を得た。GPCによるポリイミンイミドのMwは48156、Mnは15745であった。
【0085】
(実施例6)
<イソフタルアルデヒドと1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンと4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物の反応:イミド化率70%>
温度計、攪拌機、冷却管を備えた内容量3Lの反応容器にトルエン314.6g、N-メチル-2-ピロリドン1102.7g、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物310.9g(0.7モル)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン292.3g(1.0モル)を仕込んだ。次いで、160℃まで昇温し、トルエン還流下で副生する水を除去し、5時間反応させた。次いで、60℃まで冷却後、イソフタルアルデヒド40.2g(0.3モル)を仕込み、160℃まで昇温し、トルエン還流下で副生する水を除去し、5時間反応させてポリイミンイミドワニス-6を得た。GPCによるポリイミンイミドのMwは49361、Mnは15811であった。
【0086】
〔フィルムの製造〕
(実施例7)
実施例1で合成したポリイミンワニス-1をポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、「PET」ともいう。)上に塗布し、80℃のオーブンで1時間プレ乾燥させた。次いで150℃まで昇温させ、1時間乾燥してポリイミン層を形成した。ポリイミン層をPETから剥離して、厚さ0.05mmのポリイミンフィルム-1を得た。
【0087】
(実施例8)
ポリイミンワニス-1の代わりに実施例2で得たポリイミンワニス-2を用いた以外は実施例7と同様の操作を行って、ポリイミンフィルム-2を得た。
【0088】
(実施例9)
ポリイミンワニス-1の代わりに実施例3で得たポリイミンイミドワニス-3を用いた以外は実施例7と同様の操作を行って、ポリイミンイミドフィルム-3を得た。
【0089】
(実施例10)
ポリイミンワニス-1の代わりに実施例4で得たポリイミンイミドワニス-4を用いた以外は実施例7と同様の操作を行って、ポリイミンイミドフィルム-4を得た。
【0090】
(実施例11)
ポリイミンワニス-1の代わりに実施例5で得たポリイミンイミドワニス-5を用いた以外は実施例7と同様の操作を行って、ポリイミンイミドフィルム-5を得た。
【0091】
(実施例12)
ポリイミンワニス-1の代わりに実施例6で得たポリイミンイミドワニス-6を用いた以外は実施例7と同様の操作を行って、ポリイミンイミドフィルム-6を得た。
【0092】
ポリイミンフィルム-1~2、ポリイミンイミドフィルム-3~6の評価結果を表1に示す。
表1に示すとおり、ポリイミンフィルム-1~2、ポリイミンイミドフィルム-3~6は、高耐熱性、低誘電特性、低吸水性を示した。
【0093】
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のポリイミン及びポリイミンイミドは、高耐熱、低誘電特性、低吸水性を有していることから、高機能電子材料分野のみならず、接着剤等、幅広い分野で適用が可能である。