(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】自動車用の合わせガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20240306BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20240306BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C03C27/12 R
C03C27/12 N
B32B17/10
B60J1/00 J
(21)【出願番号】P 2019219979
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】小川 良平
(72)【発明者】
【氏名】小川 永史
(72)【発明者】
【氏名】朝岡 尚志
【審査官】菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026770(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181180(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/156030(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143582(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B32B 17/10
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲した外側ガラス板と、
前記外側ガラス板と対向配置され、前記外側ガラス板よりも小さい、湾曲した内側パネルと、
前記外側ガラス板と内側パネルとの間に配置され、機能層を含む中間膜と、
を備え、
前記内側パネルの少なくとも一部は、前記外側ガラス板の周縁よりも内側に配置されて
おり、
前記外側ガラス板において、前記外側ガラス板と前記内側パネルとが対向している領域の少なくとも一部における湾曲は、前記外側ガラス板と前記内側パネルとが対向していない領域の湾曲よりも小さい、
自動車用の合わせガラス。
【請求項2】
前記内側パネルは、前記外側ガラス板とは異なる形状の外形を有している、請求項1に記載の自動車用の合わせガラス。
【請求項3】
前記外側ガラス板において前記内側
パネルと対向する対向領域の水平方向の曲率半径をRx(mm)、前記外側ガラス板の上下方向の曲率半径をRy(mm)としたとき、1/Rx*1/Ry*10
6
を曲率指標と規定すると、前記曲率指標が2.4以下である、請求項1
または2に記載の自動車用の合わせガラス。
【請求項4】
前記対向領域における曲率指標が、1.3以下である、請求項
3に記載の自動車用の合わせガラス。
【請求項5】
前記Rxが、200~200,000mmであり、
前記Ryが、1,700~5,000mmである、請求項
3または4に記載の自動車用の合わせガラス。
【請求項6】
自動車に取り付けられたとき、少なくとも1つの車外側へ湾曲する凸部を有している、請求項1から
5のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【請求項7】
前記機能層は、調光フィルムである、請求項1から
6のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【請求項8】
前記調光フィルムは、PDLCタイプまたはSPDタイプである、請求項
7に記載の自動車用の合わせガラス。
【請求項9】
前記調光フィルムに電圧を印加するための端子が、前記内側
パネルの下端部に配置されている、請求項7または8に記載の自動車用の合わせガラス。
【請求項10】
前記中間膜は、複数のシート材によって形成され、
前記複数のシート材は隙間を空けて配置されている、請求項1から
9のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【請求項11】
前記内側パネルは、ガラス板により形成されている、請求項1から
10のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【請求項12】
前記外側ガラス板は、車外からの光を透過する窓領域と、前記窓領域を囲み、車外からの光の透過を遮蔽する遮蔽層が積層された遮蔽領域と、を備え、
前記窓領域を覆うように、前記内側パネルが取り付けられている、請求項1から
11のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【請求項13】
リアガラス、リアクォータガラス、またはサイドガラスである、請求項1から
12のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【請求項14】
前記外側ガラス板の厚みは、1.6~4mmであり、
前記内側パネルの厚みは、0.3~2.3mmである、請求項1から
13のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【請求項15】
前記中間膜は、一対
の接着層を備え、
前記一対の接着層の間に、前記機能層が配置されている、請求項1から
14のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウインドシールドを除く、サイドガラス等の自動車用ガラスを合わせガラスによって構成することが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、合わせガラスは、湾曲した2枚のガラス板を用いるものであるため、これらを合わせる際に、間に挟まれた中間膜に皺が発生したり、空気が混入し泡が生じるおそれがある。また、このような問題は、ガラス板だけでなく、例えば、湾曲した樹脂製のパネルを少なくとも1つ用いる場合でも生じ得る問題である。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、湾曲した2枚のガラス板またはパネルを用いる場合、間に挟まれた中間膜に皺が生じたり、泡が混入するのを抑制することができる、自動車用の合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.湾曲した外側ガラス板と、
前記外側ガラス板と対向配置され、前記外側ガラス板よりも小さい、湾曲した内側パネルと、
前記外側ガラス板と内側パネルとの間に配置され、機能層を含む中間膜と、
を備え、
前記内側パネルの少なくとも一部は、前記外側ガラス板の周縁よりも内側に配置されている、自動車用の合わせガラス。
【0006】
項2.前記外側ガラス板において前記内側ガラス板と対向する対向領域の水平方向の曲率半径をRx(mm)、前記外側ガラス板の上下方向の曲率半径をRy(mm)としたとき、1/Rx*1/Ry*10-6を曲率指標と規定すると、前記曲率指標が2.4以下である、項1に記載の自動車用の合わせガラス。
【0007】
項3.前記対向領域における曲率指標が、1.3以下である、項2に記載の自動車用の合わせガラス。
【0008】
項4.前記Rxが、200~200,000mmであり、
前記Ryが、1,700~5,000mmである、項2または3に記載の自動車用の合わせガラス。
【0009】
項5.自動車に取り付けられたとき、少なくとも1つの車外側へ湾曲する凸部を有している、項1から4のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【0010】
項6.前記機能層は、調光フィルムである、項1から5のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【0011】
項7.前記調光フィルムは、PDLCタイプまたはSPDタイプである、項6に記載の自動車用の合わせガラス。
【0012】
項8.前記調光フィルムに電圧を印加するための端子が、前記内側ガラス板の下端部に配置されている、項6または7に記載の自動車用の合わせガラス。
【0013】
項9.前記中間膜は、複数のシート材によって形成され、
前記複数のシート材は隙間を空けて配置されている、項1から8のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【0014】
項10.前記内側パネルは、ガラス板により形成されている、項1から9のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【0015】
項11.前記外側ガラス板は、車外からの光を透過する窓領域と、前記窓領域を囲み、車外からの光の透過を遮蔽する遮蔽層が積層された遮蔽領域と、を備え、
前記窓領域を覆うように、前記内側パネルが取り付けられている、項1から10のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【0016】
項12.自動車のリアガラス、リアクォータガラス、またはサイドガラスである、項1から11のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【0017】
項13.前記外側ガラス板の厚みは、1.6~4mmであり、
前記内側パネルの厚みは、0.3~2.3mmである、項1から12のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【0018】
項14.前記中間膜は、一対の前記接着層を備え、
前記一対の接着層の間に、前記機能層が配置されている、項1から13のいずれかに記載の自動車用の合わせガラス。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る合わせガラスによれば、重量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る自動車用合わせガラスをリアガラスに適用した一実施形態を示す平面図である。
【
図3】
図1のリアガラスの他の例を示す平面図である。
【
図4】
図1のリアガラスの他の例を示す平面図である。
【
図5】本発明に係る自動車用合わせガラスをサイドガラスに適用した例を示す平面図である。
【
図7】実施例に係るリアガラスの外側ガラス板におけるRxの分布を示す図である。
【
図8】実施例に係るリアガラスの外側ガラス板における曲率指標の分布を示す図である。
【
図9】実施例に係るサイドガラスの外側ガラス板における曲率指標の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の自動車用の合わせガラスをリアガラスに適用した場合の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は本実施形態に係るリアガラスの平面図、
図2は
図1の断面図である。なお、説明の便宜のため、
図1の上下方向を「上下」、「垂直」、「縦」と、
図1の左右方向を「左右」と称することとする。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係るリアガラスは、矩形状の外側ガラス板1と、この外側ガラス板1の車内側の面に対向配置される内側ガラス板2と、これら外側ガラス板1と内側ガラス板2との間に配置される中間膜3とを備えている。以下、各構成要素について説明する。
【0023】
<1.外側ガラス板>
外側ガラス板1は、公知のガラス板を用いることができ、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラスやグリーンガラス、またはUVグリーンガラスで形成することもできる。但し、外側ガラス板1は、自動車が使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現する必要がある。例えば、外側ガラス板1により必要な日射吸収率を確保し、内側ガラス板2により可視光線透過率が安全規格を満たすように調整することができる。以下に、クリアガラス、熱線吸収ガラス、及びソーダ石灰系ガラスの一例を示す。
【0024】
(クリアガラス)
SiO2:70~73質量%
Al2O3:0.6~2.4質量%
CaO:7~12質量%
MgO:1.0~4.5質量%
R2O:13~15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.08~0.14質量%
【0025】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3)の比率を0.4~1.3質量%とし、CeO2の比率を0~2質量%とし、TiO2の比率を0~0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl2O3)をT-Fe2O3、CeO2およびTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0026】
(ソーダ石灰系ガラス)
SiO2:65~80質量%
Al2O3:0~5質量%
CaO:5~15質量%
MgO:2質量%以上
NaO:10~18質量%
K2O:0~5質量%
MgO+CaO:5~15質量%
Na2O+K2O:10~20質量%
SO3:0.05~0.3質量%
B2O3:0~5質量%
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.02~0.03質量%
【0027】
図1に示すように、外側ガラス板1は、上辺11、下辺12、一対の側辺13を有する略矩形状に形成されている。各側辺13は、上辺11の両端から下方にいくにしたがって両側に広がるように延びる第1部位131と、この第1部位131の下端から外側ガラス板1の左右方向の中心側に向かうように斜め下方に延びる第2部位132と、で構成されている。そして、両第2部位132の下端同士を繋ぐように、下辺12が概ね水平方向に延びている。また、下辺12は、上辺11よりもやや短く形成されている。
【0028】
図2に示すように、外側ガラス板1は、下辺12の両端よりも水平方向に外側に位置する一対の側部領域101と、これら側部領域101の間に配置される中央領域102と、を備えている。中央領域102は、車外側へ向かって凸となるように上下方向及び水平方向に沿って三次元的に湾曲している。また、側部領域101も同様に、上下方向及び水平方向に沿って三次元的に湾曲しているが、特に、中央領域102よりも水平方向の曲率半径が小さくなっている。
【0029】
外側ガラス板1は、主として、外部からの障害に対する耐久性、耐衝撃性が必要であり、自動車のウインドシールドとしては、小石などの飛来物に対する耐衝撃性能が必要である。他方、厚みが大きいほど重量が増し好ましくない。この観点から、外側ガラス板1の厚みは1.6~4.0mmとすることが好ましく、1.8~2.8mmとすることがさらに好ましく、1.8~2.3mmとすることが特に好ましい。何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0030】
<2.内側ガラス板>
内側ガラス板2は、外側ガラス板1よりも小さい矩形状に形成され、外側ガラス板1の中央領域102の内側の面と対向するように配置される。より詳細には、内側ガラス板2は、上辺21、下辺22、及び一対の側辺23を有しており、4つの角部は円弧状に形成されている。また、下辺23には矩形状の切り欠き231が形成されている。
【0031】
図2に示すように、内側ガラス板2は、外側ガラス板1の中央領域102に沿うように湾曲している。すなわち、内側ガラス板2の外面と、外側ガラス板1の中央領域102の内面は、概ね同じ形状となるように車外側へ凸となるように湾曲しており、これらの間に後述する中間膜3が配置されている。
【0032】
内側ガラス板2の厚みは、外側ガラス板1と同等にすることができるが、例えば、合わせガラスの軽量化のため、外側ガラス板1よりも厚みを小さくすることができる。具体的には、ガラスの強度を考慮すると、0.3~2.3mmであることが好ましく、0.8~2.0mmであることが好ましく、1.0~1.6mmであることが特に好ましい。また、内側ガラス板2は、外側ガラス板1と同様の材料で形成することができる。
【0033】
また、このリアガラスは、後に詳述するように車外側に凸となるように湾曲しているが、その場合の厚みの測定位置は、合わせガラスの左右方向の中央を上下方向に延びる中央線の上下2箇所である。測定機器は、特には限定されないが、例えば、株式会社テクロック製のSM-112のようなシックネスゲージを用いることができる。測定時には、平らな面に合わせガラスの湾曲面が載るように配置し、上記シックネスゲージで合わせガラスの端部を挟持して測定する。
【0034】
<3.中間膜>
図2に示すように、中間膜3は、内側ガラス板2と同じ大きさに形成されており、外側ガラス板1に接着される透明の第1接着層31と、内側ガラス板2に接着される透明の第2接着層32と、これら両接着層31,32の間に配置される透明の機能層33と、を備えている。
【0035】
第1接着層31及び第2接着層32は、融着により各ガラス板1,2に接着されるものであれば、特には限定されないが、例えば、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)などによって形成することができる。一般に、ポリビニルアセタール樹脂の硬度は、(a)出発物質であるポリビニルアルコールの重合度、(b)アセタール化度、(c)可塑剤の種類、(d)可塑剤の添加割合などにより制御することができる。
【0036】
各ガラス板1,2への接着前の第1接着層31及び第2接着層32には、機能層33と接着する際、あるいは各ガラス板1,2と接着する際に、空気を容易に押し出すために、その表面にエンボス加工を行うことがある。
【0037】
第1接着層31及び第2接着層32の厚みは、特には限定されないが、例えば、0.05~2.0mmであることが好ましく、0.1~1.0mmであることがさらに好ましく、0.1~0.4mmであることが特に好ましい。但し、両接着層31,32の厚みは同じであっても、相違していてもよい。また、各接着層31,32にエンボスが形成される場合には、エンボスの深さを考慮して、厚みを設定する必要がある。
【0038】
また、両接着層31,32の厚みの合計は、0.76mm以上であることが好ましい。これは、ウインドシールドにおいて、例えば、JIS R3211,R3212で規定するような耐貫通性能等を確保するためである。また、機能層33を、積層した複数のフィルムで構成することもできる。その際は、接着層31,32を3層以上使用することもある。この場合も、接着層31,32の合計厚みの合計は0.76mm以上であることが好ましい。
【0039】
機能層33としては、用途に応じて、種々の機能を有するフィルムを用いることができる。例えば、公知の遮熱フィルム、発熱フィルム、投影フィルム、発光フィルム、アンテナ用フィルム、調光フィルムなどを用いることができる。また、これらのうちの複数を積層し、機能層33とすることもできる。
【0040】
遮熱フィルムは、車内の温度上昇を抑制するため、赤外線を反射する公知の赤外線反射フィルムを採用したり、あるいは吸収するように構成されたフィルムを採用することができる。このような遮熱フィルムは、中間膜3の厚み方向において、外側ガラス板1側に配置されることが好ましい。すなわち、第1接着層31を第2接着層32よりも薄くすればよい。また、このように機能層33を遮熱フィルムとするほか、遮熱機能を持たせるには、例えば、第1接着層31及び第2接着層32の少なくとも1つを遮熱性のPVBで形成することもできる。
【0041】
発熱フィルムは、曇りを除去したり、解氷するためのものであり、電圧を印加することにより熱を発するものである。このような発熱フィルムは、例えば、複数の細線を基材フィルムにより支持したものや、薄い透明導電膜を基材に成膜したものなどが使用できる。基材フィルムは、透明のフィルムであればよく、その材料は特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ナイロン等で形成することができる。
【0042】
投影フィルムは、ヘッドアップディスプレイ装置(以下、HUDという)から照射される光によって情報が投影されるものである。投影フィルムは、例えば、両接着層31,32とは屈折率が相違し、光を反射するフィルムであれば、特には限定されないが、例えば、偏光を制御できるフィルムであって、p偏光反射フィルム、ホログラムフィルム、散乱反射系の透明スクリーン、散乱透過系の透明スクリーン、散乱反射系の調光フィルム、散乱透過系の調光フィルム、HUD用の増反射フィルムとすることができるム。投影フィルムの大きさは特には限定されないが、情報が投影される領域よりも大きいことが好ましい。
【0043】
発光フィルムは、LED等が内蔵され、所定の文字、図形などを示す光が発光されるものである。
【0044】
アンテナ用フィルムは、発熱フィルムと同様に、上述した基材フィルムにFM,AM,DTV,DAB等のアンテナを配置したフィルムである。
【0045】
調光フィルムは、種々のものが提案されているが、例えば、通電の有無によってフィルムのヘイズ率を制御し、透明状態と不透明状態を作り出すものとすることができる。すなわち、プライバシー性を付与することが可能な機能性フィルムである。例えば、液晶を利用したPDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)タイプやSPD(Suspended Particle Device)タイプ、エレクトロクロミックタイプ、サーモクロミックタイプなど、公知のものを用いることができる。例えば、PDLCタイプの調光フィルムは、液晶層と、この液晶層を挟む一対の透明導電膜と、各透明導電膜の外面に配置されるPETフィルムとで構成することができる。液晶層は、透明なポリマーフィルム及び液晶が封入されることによって形成された液晶カプセルを有している。そして、例えば、PDLCタイプの液晶調光フィルムには、
図1に示すように、内側ガラス板2の切り欠き221から下辺22及び一方の側辺23に沿って延びる一対のL字状の電極335が取り付けられている。また、内側ガラス板2の切り欠き231には、車内の電源に接続される一対のハーネス338が取り付けられており、各ハーネス338に、切り欠き231から露出する電極335がそれぞれ接続されている。そして、ハーネス338、各電極335、及び透明導電膜を介して液晶層に電圧が印加されると、調光が行われ、例えば、調光フィルムが不透明になる。なお、電極335の形態は特には限定されず、適宜変更可能である。また、ハーネス338を取り付ける位置も特には限定されない。したがって、内側ガラス板2に形成される切り欠き221の位置は、ハーネスの取り付け位置によって適宜変更することができる。あるいは、切り欠きを設けず、ハーネスを電極335に取り付けることもできる。
【0046】
なお、以上は機能層33の例であり、これらに限定されるものではない。
【0047】
以上のような機能層33を構成するフィルムの厚みは、特には、限定されないが、例えば、0.01~2.0mmとすることが好ましく、0.03~0.6mmであることがさらに好ましい。このように、フィルムの周縁の端面の厚みの上限は、2.0mmであることが好ましい。機能層は、中間膜の全体に亘って配置されてもよいし、中間膜の一部に配置されてもよい。例えば、中間膜の一部に機能層が配置される場合、フィルムの端面の厚みが大きいと、機能層33は両接着層31,32よりも小さいため、中間膜3に段差が生じ、この段差によって、中間膜3を両ガラス板1,2の間に挟んだときに、空気が含まれ、泡が生じるおそれがある。したがって、機能層33の厚みは、上記のように設定することが好ましい。
【0048】
機能層33の皺発生を防止するため、機能層33は貼り合せ時の加熱によって適度に収縮することが好ましいが、その収縮率が大きすぎると機能性に不具合が生じるため(HUD像の歪みや調光性能の低下)、例えば、130℃で30分間加熱したときに、4%以下であることが好ましい。特に、機能層33として、調光フィルムを用いる場合には、130℃で30分間加熱したときに、1%以下であることが好ましい。熱収縮率の測定は、次のように行うことができる。まず、機能層33を有するフィルムに500mm間隔で印を付け、このフィルムを基板上に固定せずに載せ、130℃に保温した電気炉に30分保持し、印の間隔の距離を測定することによって、熱収縮率を算出する。
【0049】
また、上述した機能層33の熱収縮率は、ウインドシールドの製造前のものであるが、後述するようにウインドシールドを製造した後にも、例えば、ウインドシールドを分解して得られた機能層33が、上記条件下で収縮するものであることが好ましい。
【0050】
なお、各接着層31,32及び機能層33の厚みは、例えば、以下のように測定することができる。まず、マイクロスコープ(例えば、キーエンス社製VH-5500)によってウインドシールドの断面を175倍に拡大して表示する。そして、各接着層31,32及び機能層33の厚みを目視により特定し、これを測定する。このとき、目視によるばらつきを排除するため、測定回数を5回とし、その平均値を各接着層31,32及び機能層33の厚みとする。
【0051】
各接着層31,32の大きさは、外側ガラス板1及び内側ガラス板2と同じであるが、機能層33の大きさは、両接着層31,32と同じであってもよいし、小さくすることもできる。例えば、機能層33の周縁が、内側ガラス板2の周縁よりも内側に位置する場合には、機能層33の周縁が、内側ガラス板2の周縁から10mm以上内側に配置されることが好ましい。これは、後述するように、機能層33の縁部に皺が生じると、中間膜3の縁部から水分が侵入するおそれがあるため、これを防止するためである。
【0052】
<3.ガラス板の湾曲と中間膜との関係>
上記のように、本実施形態に係るリアガラスは、車外側に凸となるように湾曲している。すなわち、形状の異なる外側ガラス板1と内側ガラス板2がともに湾曲している。ここで、本発明者が検討したところによると、外側ガラス板1及び内側ガラス板2において中間膜3を挟んでいる部分(以下、対向領域という)の曲率半径が以下の関係の場合には、両ガラス板1,2の間で、機能層33を含む中間膜3に皺が生じないことを見出した。
曲率指標Z=1/Rx*1/Ry*10
6
(1)
曲率指標Z≦2.4 (2)
但し、Rxは対向領域の水平方向の曲率半径、Ryは対向領域の上下方向の曲率半径である。
【0053】
なお、Rxは、200~200,000mmであることが好ましく、Ryは1,700~5,000mmであることが好ましい。また、曲率指標Zは、1.3以下であることがさらに好ましく、これにより、中間膜3を皺なく、両ガラス板1,2の間に配置できるとともに、泡が生じにくい。
【0054】
<4.リアガラスの製造方法>
本実施形態に係るリアガラスの製造方法は、特に限定されず、公知の合わせガラスの製造方法を採用することができる。まず、外側ガラス板1が湾曲するように曲げ加工を行う。この方法は、特には限定されないが、例えば、公知のプレス成形により行うことができる。あるいは、成形型上に外側ガラス板1を配置した後、この成形型を加熱炉を通過させて加熱する。これによって、外側ガラス板1を自重により湾曲させることができる。
【0055】
次に、内側ガラス板2を製造する。まず、所定の形状に形成された内側ガラス板2に対し、プレス成形あるいは自重による曲げ成形により湾曲した形状を形成する。但し、曲げ加工を行わないこともできる。これは、外側ガラス板1は湾曲しているものの、中央領域102では、曲率半径が大きいため、薄い内側ガラス板2であれば、個別に曲げ加工を行わなくても、後述するように、外側ガラス板1に接着することで、外側ガラス板1の湾曲に沿わせることができるからである。
【0056】
次に、中間膜3を外側ガラス板1及び内側ガラス板2の間に挟み、これをゴムバッグに入れ、減圧吸引しながら約70~110℃で予備接着する。このとき、中間膜3は、内側ガラス板2と同じ形状か、あるいはやや大きい形状とすることができる。予備接着は、これ以外の方法を用いることもできる。例えば、中間膜3を外側ガラス板1及び内側ガラス板2の間に挟み、オーブンにより45~65℃で加熱する。続いて、このリアガラスを0.45~0.55MPaでロールにより押圧する。次に、このリアガラスを、再度オーブンにより80~105℃で加熱した後、0.45~0.55MPaでロールにより再度押圧する。こうして、予備接着が完了する。
【0057】
次に、本接着を行う。予備接着がなされた合わせガラスを、オートクレーブにより、8~15気圧で、100~150℃によって、本接着を行う。具体的には、14気圧で145℃の条件で本接着を行うことができる。こうして、本実施形態に係るリアガラスが完成する。その後、必要に応じて、ハーネス338等を取り付ける。
【0058】
<5.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(i) 内側ガラス板2が外側ガラス板1よりも小さいため、つまり、これらのガラス板1,2は両者とも湾曲しているにもかかわらず、形状が異なるため、湾曲を一致させることが難しく(いわゆるペア性の低下)、これらを合わせたときには間に挟まれる中間膜3に皺が生じるおそれがある。その結果、空気が混入して泡が発生したり、あるいは内側ガラス板2の縁部が外側ガラス板1から離間して開いてしまう可能性もある。そのため、本実施形態に係る合わせガラスでは、湾曲の大きい外側ガラス板1の周縁付近を避け、内側ガラス板2を、外側ガラス板1の周縁よりも内側に配置している。そのため、中間膜3に皺が生じたり、空気が混入して泡が発生するのを抑制することができる。
【0059】
特に、2つのガラス板1,2が重ねられている対向領域について、上記式(1)及び式(2)を充足すると、中間膜3の皺の発生を抑制することができる。すなわち、湾曲が小さい領域において外側ガラス板1と内側ガラス板2とを対向させると、その間の中間膜3に皺が生じるのを抑制することができる。
【0060】
(ii) 内側ガラス板2が外側ガラス板1よりも小さいため、合わせガラスの軽量化を図ることができる。
【0061】
<6.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜組み合わせることができる。
【0062】
<6-1>
内側ガラス板2の大きさ、形状は特には限定されない。上記実施形態では、内側ガラス板2が外側ガラス板1の周縁よりも内側に配置されているが、例えば、
図3に示すように、内側ガラス板2の周縁の一部が、外側ガラス板1の周縁と一致していてもよい。すなわち、外側ガラス板1の周縁において、湾曲の小さい部分であれば、内側ガラス板2の周縁と一致していてもよい。
【0063】
<6-2>
中間膜3の機能層33は、内側ガラス板2の全体に亘って配置されていなくてもよい。例えば、
図4(a)に示すように、内側ガラス板2の一部に配置されていてもよいし、あるいは
図4(b)に示すように、機能層33を複数のシート材で構成し、これらを隙間をあけて配置してもよい。また、機能層33は、複数の機能性フィルムを重ねて作製してもよい。例えば、調光フィルムと遮熱フィルムを重ねてよく、その間には、接着層のような中間層を設置するのが好ましい。
【0064】
<6-3>
本発明の合わせガラスは、上記のようなリアガラスのほか、リアクォータガラス、サイドガラスに適用することもできる。例えば、
図5及び
図6に示すようなサイドガラスであってもよい。
【0065】
図5及び
図6に示すように、このサイドガラスは、外側ガラス板1と、内側ガラス板2と、これらのガラス板1,2の間に配置される中間膜3と、を備えている。また、外側ガラス板1には、車外からの光の透過を遮蔽する遮蔽層4が積層されている。外側ガラス板1、内側ガラス板2、中間膜3の材料は、上記実施形態で示したのと同じにすることができる。以下、これらについて説明する。
【0066】
外側ガラス板1は、水平方向に長い矩形状に形成されている。より詳細には、外側ガラス板1は、水平方向に延びる上辺11及び下辺12と、上辺11及び下辺12の前端同士を結ぶ前辺13と、上辺11及び下辺12の後端同士を結ぶ後辺14と、で構成された外形を有している。前辺13及び後辺14は下方にいくにしたがってやや後方に延びるように傾斜している。また、下辺12は、水平な第1部位121と、第1部位121の後端から後方にいくにしたがって上方に傾斜するように延びる第2部位122とを有している。したがって、後辺14の上端は、前辺13と同じ高さであるが、下端は前辺13よりもやや高い位置にあり、全体として前辺13よりも短く形成されている。
【0067】
次に、遮蔽層4について説明する。遮蔽層4は、黒などの濃色のセラミックにより形成され、外側ガラス板1の車内側の面に積層されている。以下では、外側ガラス板1において、遮蔽層4が積層されている領域を遮蔽領域ということがある。但し、下辺12の第1部位121の上方には、遮蔽層4が積層されていない矩形状の窓領域5が形成されており、遮蔽層4は、窓領域5を囲む4つの領域41~44を有している。すなわち、窓領域5の上側において外側ガラス板1の上辺11に沿う上側領域41、窓領域5の前側において外側ガラス板1の前辺13に沿う前側領域42、窓領域5の下側において外側ガラス板1の下辺12の第1部位121に沿う下側領域43、及び窓領域5よりも後方全体に積層された後側領域44を有しており、これらが一体化されている。
【0068】
遮蔽層4を構成するセラミックは、例えば、以下の組成とすることができる。
【表1】
*1,主成分:酸化銅、酸化クロム、酸化鉄及び酸化マンガン
*2,主成分:ホウケイ酸ビスマス、ホウケイ酸亜鉛
【0069】
セラミックは、スクリーン印刷法により形成することができるが、これ以外に、焼成用転写フィルムを外側ガラス板1に転写し焼成することにより作製することも可能である。スクリーン印刷を採用する場合、例えば、ポリエステルスクリーン:355メッシュ,コート厚み:20μm,テンション:20Nm,スキージ硬度:80度,取り付け角度:75°,印刷速度:300mm/sとすることができ、乾燥炉にて150℃、10分の乾燥により、セラミックを形成することができる。
【0070】
遮蔽層4は、セラミックを積層するほか、他の材料により形成することもできる。また、濃色の樹脂製の遮蔽フィルムを貼り付けることで形成することもできる。
【0071】
内側ガラス板2は、外側ガラス板1の車内側の面において、窓領域5を覆うように配置される。また、内側ガラス板2は、外側ガラス板1の上辺11、前辺13、及び下辺12の第1部位121に、それぞれ沿う上辺21、前辺23、及び下辺22を有し、さらに上辺21の後端と下辺22の後端とを結ぶ後辺24を有している。後辺24は、外側ガラス板1の下辺12の第1部位121と第2部位122との連結部分付近から上方へ延びる第1部位141と、第1部位141の上端から上方にいくにしたがってやや前方に傾斜する第2部位142とを有しており、第2部位142の上端が上辺11の後端に連結されている。
【0072】
より詳細に説明すると、内側ガラス板2の上辺21、前辺23、及び下辺22は、遮蔽層4の上側領域41、前側領域42、及び下側領域43にそれぞれ位置しており、これらは、枠部材6よりも内側にある。また、内側ガラス板2の後辺24は、遮蔽層4の後側領域44内にあるが、窓領域5の端縁に近い位置にある。したがって、後側領域44の大半は、内側ガラス板2には覆われず、露出している。
【0073】
なお、外側ガラス板1及び内側ガラス板2は、上記実施形態のリアガラスと同様に、車外側へ凸となるように湾曲している。そのため、上述した式(1)(2)を充足することで、皺のない状態で、中間膜3の両ガラス板1,2の間に配置することができる。この点は、本発明の合わせガラスをリアクォータガラスに適用した場合でも同じである。
【0074】
<6-4>
サイドガラスに設けた遮蔽層4は、リアガラスやリアクォータガラスに設けることもできる。その場合、遮蔽層の形状は特には限定されない。例えば、中間膜3に設けられる電極を隠すように、内側ガラス板1の周縁を覆うように配置することもできる。また、遮蔽層4に車載カメラ、センサ用の開口を形成することもできる。
【0075】
<6-5>
内側ガラス板2の代わりに、例えば、ポリカーボネートなどの樹脂材料で形成された内側パネルを設けることもできる。このようにすると、合わせガラスをより軽量化することができる。
【0076】
<6-6>
上述したリアガラスやサイドガラスにおける外側ガラス板1及び内側ガラス板2の形状は一例であり、適宜変更することができる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0078】
図7に示す外側ガラス板(厚みが2mm)を準備した。
図7に示す数値は、車内側の面の水平方向の曲率半径であるRxを示している。したがって、この外側ガラス板は複数の曲率半径が組み合わされることで構成されている。
図7中の数値の単位はmmであり、曲率半径が概ね左右対称に変化している。また、
図8は、
図7の外側ガラス板の車内側の面における曲率指標Zの分布を示している。
【0079】
そして、この外側ガラス板の車内側の面に、厚みが0.76mm、熱収縮率が1%の中間膜を貼り付け内側ガラス板(厚みが1.5mm)で挟んだときに、皺が生じるか否かを検討した。その結果、曲率指標Zが2.4以下の領域においては皺が生じないことが分かった。また、曲率半径Rx,Ryについても検討したところ、Rxが190mmの領域では皺が生じ、200mmの領域では皺が生じないことが分かった。したがって、Rxは200mm以上であることが好ましい。同様に、Ryが1660mmの領域では皺が生じ、1787mmの領域では皺が生じないことが分かった。したがって、Ryは1700mm以上であることが好ましいことが分かった。
【0080】
図9は、サイドガラスの外側ガラス板における曲率指標の分布である。この例では、全ての領域において、曲率指標が1.3以下であった。そして、この外側ガラス板に、上記と同様の中間膜を貼り付けたが、中間膜に皺は生じなかった。なお、中間膜における皺の発生は熱収縮率の影響を受けやすいと考えられるが、上記のようなガラス板を用いた試験では、熱収縮率が4%程度の中間膜でも同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0081】
1 外側ガラス板
2 内側ガラス板
3 中間膜
31 第1接着層
32 第2接着層
33 機能層
4 遮蔽層