(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】天井落下防止構造
(51)【国際特許分類】
E04B 9/18 20060101AFI20240306BHJP
E04B 9/24 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
E04B9/18 H
E04B9/24 C
(21)【出願番号】P 2019234457
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000177139
【氏名又は名称】三洋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 貴浩
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-152506(JP,A)
【文献】特開2014-070470(JP,A)
【文献】特開2016-169492(JP,A)
【文献】特開平5-230930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 9/00- 9/36
E04F 13/00-13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁部に、向き合う状態に壁躯体部が形成され、天井部に、天井下地を形成する吊り部材が配置された天井構造において、
中央部に、前記吊り部材に吊り下げられる支持部が立設され、左右部に、それぞれフランジ状の保持部が形成された断面逆T字状の天井バー材
を有し、
前記吊り部材の下端部には、鉤状の係合片部が内向きに設けられた逆U字状の支持具が形成され、前記支持具の弾性作用により、前記係合片部を前記天井バー材の前記支持部の下部に挟持係合させて、前記天井バー材を支持し、
前記吊り部材に吊り下げられ、互いに平行に配設された前記天井バー材の内、隣り合う前記天井バー材の各前記保持部の上部に、両端部がそれぞれ載置される
長方形状の天井板材
を有する吊り天井であって、
前記天井板材を、長辺部1000mm~2500mm、短辺部200mm~500mmの範囲とし、
前記天井板材の下側に張設される線
材を有し、
前記線材の一端部を前記壁躯体部の一方に取り付け、その他端部を前記壁躯体部の他方に取り付けて
張力を確保し、
前記線材を前記天井板材の
両端部の近傍の下側にそれぞれ配設し、
また、前記線材を、前記天井バー材と平行な方向で、且つ前記天井板材の長辺部と交差する方向に配置し、
さらに、前記線材を、前記天井板材の下側で、両者が接触しない程度の20mm~100mmの隙間を設けて配置し、
天井部の揺れの際、前記天井板材が前記天井バー材の保持部から外れて脱落した場合、当該天井板材を前記線材により受けて保持し、前記天井板材の落下を防止することを特徴とする天井落下防止構造。
【請求項2】
前記天井板
材を、長辺部の長さ1800mm、短辺部の長さ300mmとし、当該短辺部を、前記天井バー材の保持部の上部に配置することを特徴とする請求項1
に記載の天井落下防止構造。
【請求項3】
前記線材として、金属製のワイヤー又は非金属製のロープを用いることを特徴とする請求項1
又は2に記載の天井落下防止構造。
【請求項4】
前記壁躯体部にアンカー等の定着具を止着し、当該定着具に前記線材の端部を固定することを特徴とする請求項1乃至
3の何れかに記載の天井落下防止構造。
【請求項5】
前記定着具と前記線材との間に、張力調整具を介在させ、前記線材の張力を調整することを特徴とする請求項
4に記載の天井落下防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の天井部に配置した天井板材の落下を防止する、天井落下防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の天井部に天井材を取り付けた天井構造において、その天井材の落下を防止する落下防止構造、及びその施工方法等が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には
図8に示すように、天井材80の落下を防止する天井材落下防止構造、及び施工方法が開示されている。これは、天井材に一対の孔82,83を形成し、一方の孔82に落下防止用線材84を通すとともに、落下防止用線材84の一端を天井材の上方の支持部材86に取り付け、他方の孔83を介して垂下させた施工用線材を用いて落下防止用線材84の他端側を下方から他方の孔83に通し、張力を付与した状態で落下防止用線材84の他端を支持部材87に取り付けるもので、これにより劇場などにおいて実質的に足場を組むことなく、天井材の落下を防止できるというものである。
【0004】
特許文献2に記載の天井落下防止構造は、強化繊維と塗料とを備えてなる補強塗膜層を、天井の室内側表面で複数の天井面構成材に跨るように形成し、また補強塗膜層は、天井面構成材の表面に繊維強化塗料を塗布することで形成され、さらに補強塗膜層は、帯状に形成され、格子状に配列されており、天井下地材に吊下げ固定されるものであり、これにより天井面構成材が天井下地材から離反し難いというものである。
【0005】
また、特許文献3に記載の天井落下防止装置は、天井の天井裏空間の床躯体から天井開口を通って天井面の下方まで延びる束材と、これら束材に支持されて天井開口を塞ぐキャップと、天井の天井面に沿って束材間に架設された受け材とを備え、これにより、地震時に揺れが天井に加わっても、天井材の落下が防止できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-124556号公報
【文献】特開2015-63853号公報
【文献】特開2015-25280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、前記特許文献1の施工方法は、天井材に孔を形成し、また天井材の上方の支持部材に落下防止用線材を通すなど、天井材の上側及び下側に工事が及ぶため作業が複雑であり、また天井材の配置後或いは既存の天井に対して施工するのは困難である、という問題がある。
【0008】
特許文献2の天井落下防止構造は、天井面構成材の表面に繊維強化塗料を塗布する等、作業の足場等の設置或いは塗布等の作業負荷が大きく、施工も大変であり、また特許文献3の落下防止装置は、床躯体から天井開口を通って天井面の下方に延びる束材を取り付ける作業が必要となり、この作業は天井材の敷設後は面倒であるという問題がある。
【0009】
また、所謂システム天井等、一種の吊り天井は、例えば、天井躯体から吊り下げられた吊り部材に野縁材を取り付け、この野縁材のフランジ部に天井板材の端部を載置して天井板材を配置したものがある。この場合、天井板材は前記フランジ部に載置してあるだけなので、天井の揺れ等により天井板材が野縁材から脱落し、落下する危険性もある。このように、前記吊り天井は地震等の揺れに対して弱く、このため、比較的簡易にまた天井板材の敷設後であっても施工が可能な、天井板材の落下防止手段が望まれていた。
【0010】
本発明は前記問題点を解決するためになされたものであり、天井板材を簡易且つ効果的に保持してその落下等を防止し、施工性、経済性にも優れた天井落下防止構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の技術的課題を解決するため、本発明に係る天井落下防止構造は
図1,4等に示すように、壁部に、向き合う状態に壁躯体部6が形成され、天井部に、天井下地を形成する吊り部材8が配置された天井構造において、中央部に、前記吊り部材8に吊り下げられる支持部20が立設され、左右部に、それぞれフランジ状の保持部18が形成された断面逆T字状の天井バー材10と、前記吊り部材8に吊り下げられ、互いに平行に配設された前記天井バー材10の内、隣り合う前記天井バー材10の各前記保持部18の上部に、両端部56がそれぞれ載置される矩形状の天井板材4と、各前記天井板材4の下側に張設される線材12(12x)と、を有し、前記線材12の一端部を前記壁躯体部6の一方に取り付け、その他端部を前記壁躯体部6の他方に取り付けて、当該線材12を各前記天井板材4の下側にそれぞれ2本又は3本以上配設し、天井部の揺れの際、前記天井板材4が前記天井バー材10の保持部18から外れて脱落した場合、当該天井板材4を前記線材12により受けて保持し、前記天井板材4の落下を防止する構成である。
【0012】
本発明に係る天井落下防止構造は、前記線材12(12x)を、前記天井バー材10と平行な方向又は/及び前記天井バー材10と交差する方向に配設した構成である。
また、本発明に係る天井落下防止構造は、前記天井板材4の両端部56の近傍の下側に、それぞれ前記線材12を配置した構成である。
【0013】
また、本発明に係る天井落下防止構造は、前記天井板材4を長方形状に形成し、その短辺部を前記天井バー材10の保持部18の上部に配置する構成である。
【0014】
本発明に係る天井落下防止構造は、前記線材12は、互いに平行な方向又は互いに交差する方向に配置する構成である。
【0015】
本発明に係る天井落下防止構造は、前記線材12として、金属製のワイヤー又は非金属製のロープを用いる構成である。
【0016】
本発明に係る天井落下防止構造は、前記壁躯体部6にアンカー等の定着具14を止着し、当該定着具14に前記線材12の端部を固定する構成である。
【0017】
本発明に係る天井落下防止構造は、前記定着具14と前記線材12との間に張力調整具64を介在させ、前記線材12の張力を調整する構成である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る天井落下防止構造によれば、線材の一端部を壁躯体部の一方に取り付け、その他端部を壁躯体部の他方に取り付けて、線材を各天井板材の下側にそれぞれ2本又は3本以上配設し、天井部の揺れの際、天井板材が天井バー材の保持部から外れて脱落した場合、天井板材を線材により受けて保持し、天井板材の落下を防止する構成としたから、脱落する天井板材を簡易且つ効果的に保持してその落下等を防止し、また施工性及び経済性にも優れるという効果を奏する。
【0019】
本発明に係る天井落下防止構造によれば、天井板材の両端部の近傍の下側に、それぞれ線材を配置し、また天井板材を長方形状に形成し、その短辺部を天井バー材の保持部の上部に配置するようにしたから、線材により天井板材の保持が正確かつ安定して行えるという効果がある。
【0020】
本発明に係る天井落下防止構造によれば、壁躯体部にアンカー等の定着具を止着し、定着具に線材の端部を固定し、また定着具と線材との間に張力調整具を介在させ、線材の張力を調整するようにしたから、線材の取り付け及び線材の張力の調整が良好に行えるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施の形態に係る天井落下防止構造の側面(一部)を示す図である。
【
図2】実施の形態に係る天井バー材を示す図である。
【
図3】壁躯体部にワイヤーを接続した例を示す図である。
【
図4】壁躯体部にワイヤーを接続した他の例を示す図である。
【
図5】実施の形態に係り、天井落下防止構造におけるワイヤーの配設形態の平面を示す図である。
【
図6】実施の形態に係り、(a)は天井が揺れ天井板材が天井バー材から脱落する状態を示す図、(b)は脱落した天井板材をワイヤーで受け止め落下を防止する状態を示す図である。
【
図7】実施の形態に係り、天井落下防止構造における他のワイヤーの配設形態の平面を示す図である。
【
図8】従来例に係る天井材落下防止構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1及び
図5等は、実施の形態に係り、建物の天井部2に配置された天井板材4の天井落下防止構造を示すものである。この天井板材4に係る天井落下防止構造は、所謂システム天井にも有効に採用することができる。システム天井は、吊り天井の一種であり、例えば、天井板材4及び天井の照明等の設備を下地に組み込み、これらを並べて配置する。
【0023】
この実施の形態に係る建物の室内は、向い合う状態で両側に壁躯体部6が形成され、上方の天井部2には天井下地3が形成されている。天井下地3としては、吊り部材8及び天井バー材10(野縁材)等が配置され、天井バー材10に天井板材4が取り付けられる。天井バー材10は、野縁材の一種であり天井板材4を配置するための枠組みを形成する。
【0024】
他に、吊り部材8に野縁受け材を取り付け、この野縁受け材にクリップ等を用いて天井バー材10を取り付ける形態等も採用できる。また、天井部2には、必要により天井板材4と並べて照明具5等を配置してもよい。
天井板材4は矩形状(長方形又は正方形)の板材である。照明具5の平面は、天井板材4と同様に矩形状をなし、LEDライト等が用いられている。
【0025】
さらにこの実施の形態では、壁躯体部6間に張設される線材としてのワイヤー12(ワイヤロープ)を用いる。このワイヤー12は、鋼線をより合わせてつくった綱状の線材からなる。線材としてはワイヤー12の他に、天井板材4を受け支えることができる材料、例えば金属線、針金、ケーブル、ピアノ線、或いは非金属製のロープ、ザイル等の使用も可能である。
【0026】
建物の壁躯体部6は、例えばコンクリート構造体で構成されているが、他に鋼材(H形鋼、溝形鋼、角鋼等)或いは木質材等で構成される場合もある。要は、ワイヤー12を壁躯体部6に取り付けて張設が可能な強度が得られるものであれば、どのような壁躯体部6であってもよい。ここでは、壁躯体部6に定着具14としてのアンカー14を打ち込み、これにワイヤー12を取り付けている。
【0027】
図2に示すように、天井バー材10は、断面が逆T字状であり、中央部には基部16が立設形成され、基部16の下端の左右部には、それぞれフランジ状の保持部18,18が水平状に形成されている。基部16の上部には、断面矩形状の支持部20が左右に膨出した状態で形成されている。天井バー材10は、例えば2000mm~4000mmの長尺材である。
【0028】
天井バー材10は鋼板を屈曲成型したもので、詳しくは、断面逆T字状の第一の部材22と比較的平坦な第二の部材24からなる。第一の部材22の基部16の上部の支持部20は、上片部、左右の側片部、及びこれら側片部からそれぞれ内側に屈曲形成される下片部26,26からなる。
これら両下片部26は中央部で突き当り、さらにそれぞれ下方に屈曲し、そのまま延設して基部16を形成する。さらに、基部16の下端部において、それぞれ外向きに屈曲して第一のフランジ部28,28を形成している。
【0029】
第二の部材24は、平坦な底面部30の左右部をそれぞれ内側に向け、半円を描く状態で略180度屈曲し、それぞれ内向きに平面部32,32を形成し、両平面部32,32間に隙間部34を設けた形状である。第二の部材24は、底面部30と両平面部32,32とにより第二のフランジ部36,36を形成する。
【0030】
これにより、天井バー材10の保持部18,18は、第二の部材24の底面部30と左右の平面部32,32との間に、第一の部材22の第一のフランジ部28,28を嵌め込み、第一のフランジ部28,28を第二のフランジ部36,36で覆う形態である。
天井バー材10は、第一のフランジ部を第二のフランジ部で覆うことで、天井バー材10の保持部18,18の強度が補強され、天井板材4の載置強度が増す。
【0031】
吊り部材8は、天井躯体から吊り下げられた長尺状の吊りボルト40と、その下端部に取り付けられた支持具42からなる。この支持具42は、上部には固定部44が設けられ、下部には天井バー材10を支持する係合片部46,46が形成されている。
支持具42は逆U字状であり、下端部の左右部から、それぞれ鉤状の係合片部46,46が内向きに設けられ、これら係合片部46同士間には隙間部48が形成されている。支持具42は、弾性機能を有し、これにより係合片部46,46同士の隙間部48の間隔は弾性力の範囲で拡縮可能である。
【0032】
吊りボルト40の下端部に、支持具42を取り付ける。吊りボルト40の下部のネジ溝が刻設されたネジ部50を、支持具42の固定部44に設けた孔部に差し込み、併せて吊りボルト40のネジ部50にナット54,54を締結し、支持具42の固定部44に吊りボルト40を固定する。
【0033】
天井板材4は矩形状の材料として、ここでは例えば長方形状の天井板材4を用いる。天井板材4の材料は、不燃材、木質材、或いは軽金属材等の硬質材を用いる。天井板材4の寸法は、長方形の場合、例えば長辺部1000mm~2500mm、短辺部200mm~500mmの範囲のものを用いる。ここでは、天井板材4として、長辺部1800mm、短辺部300mmのものを用いている。
【0034】
さて、この天井板材4に係る天井落下防止構造の天井下地は、主に吊り部材8、及び天井バー材10等により構成される。建物の上部の天井躯体に、吊り部材8の吊りボルト40を取り付ける。吊りボルト40は、所定の間隔をおいて列状に取り付ける。
吊りボルト40は複数列配置し、隣り合う列同士の間隔は、例えば天井板材4の長辺方向の長さ(ここでは1800mm)と同程度とする。
【0035】
天井バー材10は、吊り部材8の下端部の支持具42に固定し、吊り部材8に吊り下げられた状態で配置する。天井バー材10の取り付けの際には、支持具42の下側に天井バー材10を配置し、支持具42の弾性作用により左右の係合片部46,46同士の隙間部48を拡げ、そのまま天井バー材10の支持部20の下部の箇所に挟む状態で配置する。
【0036】
そして、支持具42の弾性作用により両係合片部46,46を閉じて、支持具42の係合片部46,46を天井バー材10の支持部20の下部に挟持係合させる。これにより、支持具42の係合片部46,46が、天井バー材10の支持部20の下片部26,26の下部に係合し、支持具42により天井バー材10が支持される。
【0037】
天井バー材10の他の部位についても、該当する箇所の吊り部材8の支持具42により、同様にして天井バー材10を挟持係合し支持させる。天井バー材10を複数の列状に配置し、隣り合う列の天井バー材10同士の間隔を天井板材4の幅程度に配置すると、これら天井バー材10の保持部18により天井板材4の枠組みが形成される。
【0038】
天井板材4は、各隣り合う天井バー材10間に配置する。ここでは、天井板材4の長尺方向を天井バー材10と交差する方向に配置する。そして、天井板材4の一方の端部56(短辺部)を、一方の天井バー材10の保持部18に載置し、他方の端部56(短辺部)を他方の天井バー材10の保持部18に載置し、天井板材4を天井バー材10間に配置する。
【0039】
このようにして、一方の壁躯体部6から向かい合う他方の壁躯体部6まで、隣り合う天井バー材10間に天井板材4を隙間なく列状に配置する。これにより、天井バー材10間に天井板材4が一列に並んだ列状の状態で配置される。また照明具5については、天井躯体に吊り下げられ天井板材4の所定の列同士の間に並べて配置する。照明具5は、配線等の設備が必要であり天井板材4とは別途の形態で取り付ける。
【0040】
天井板材4を配置した吊り天井は、前記形態により施工は完了し、その後は何時でもこの実施の形態に係る天井落下防止構造の施工は可能である。このように、この天井落下防止構造の施工は、天井板材4の施工とは独立しているため、例えば室内を使用中であっても施工は可能である。また前記吊り天井は、施工が容易であるため、リニューアル等で天井材の張替えも容易に行え、併せて、この天井落下防止構造の施工により地震対策も容易に行える。
【0041】
また、現存する同様の形態で天井板材4が配置された天井構造であれば、後に地震対策等での補強の必要が生じた場合には、この天井構造を敢えて改装等する必要はなく、そのままこの天井落下防止構造の施工が行える。他に、体育館、ホール、一般の各種施設等であっても、同様の天井構造であれば、この天井落下防止構造の採用が可能である。また、天井板材4を保持するワイヤー12は細いものであることから、目立ちにくく天井の美観を損なうこともない。
【0042】
図3に示すように、壁躯体部6にワイヤー12を取り付ける場合、先ず壁躯体部6にアンカー14等の定着具を止着する。例えば、壁躯体部6がコンクリート構造体の場合はアンカー14を打ち込み、また鋼材等の場合はこれにボルトを締結し、それぞれこれら定着具を止着して使用する。
また、ワイヤー12は、L形金具58及びワイヤークリップ60等を用いてアンカー14等に取り付ける。L形金具58の縦片部及び横片部には、それぞれ孔部が設けられている。
【0043】
コンクリート構造等の壁躯体部6の場合、アンカー14を壁躯体部6に打ち込み、これにワイヤー12の端部を固定する。アンカー14の頭部にネジ溝が刻設されている場合、この頭部にL形金具58の孔部を嵌めてナット62を締結し、L形金具58をアンカー14に固定する。L形金具58のもう一方の孔部には、ワイヤー12を通して折り返し、2本合わせたワイヤー12をワイヤークリップ60等で固定する。
【0044】
この場合、張力調整具64としてのターンバックル64(a)を用い、ワイヤー12の張力を調整することができる。例えばターンバックル64(a)を、アンカー14とワイヤー12の端部との間、或いはワイヤー12同士の間に配置する。ターンバックル64(a)の締め付けにより、ワイヤー12の張力を調整し適切な張力が確保できる。また、ターンバックル64(a)に替え、或いはターンバックル64(a)とともにコイルバネ等の弾性材を介在させてもよい。この弾性材により、ワイヤー12の弛み等を防止することができる。
【0045】
また、張力調整具64として、
図4に示す雌ねじに雄ねじを螺入する螺子式調整具64(b)を用いることができる。これは、円筒状に形成された雌ねじ部66、これに螺入されるボルト状の雄ねじ部68、連結部69及び接続部70を有している。また、雌ねじ部66の他端部側の接続部70にはピン71が取り付けられ、雄ねじ部68の一端部の連結部69にはワイヤー12が連結されている。
【0046】
螺子式調整具64(b)は、定着具14としての定着台材72を用いて壁躯体部6に取り付けられる。この定着台材72は、平坦な固定部74及び筒状の接合部76を有している。この固定部74は、ネジ(コンクリートネジ等)によって壁躯体部6に取り付けられ、また接合部76には、螺子式調整具64(b)の接続部70がピン71により固定される。そして、工具等を用いて雄ねじ部68を回転させ、ワイヤー12の張力を調整する。
このように、張力調整具64として、ターンバックル64(a)或いは螺子式調整具64(b)等を用い、ワイヤー12を適宜な張力に調整する。張力調整具64は、ワイヤー12の一端部、又は両端部に配置する。
【0047】
ワイヤー12は、天井バー材10同士の間に配置した天井板材4の下側に配設する。ここでは、各列の天井板材4に対して、ワイヤー12をそれぞれ2本配設する。ワイヤー12は、天井板材4の長辺部と交差(直交)する方向に配設する。ワイヤー12を配設する位置は、天井板材4の各端部56(短辺部)の近傍の下側とし、これにより落下する天井板材4を正確に保持し受け止める。
またワイヤー12は、天井板材4の列ごとに配置するため、必要な列のみワイヤー12を配置する等、部分的な落下防止対策が可能である。
【0048】
ワイヤー12は、他に3本以上複数配置してもよい。また、通常ワイヤー12は互いに平行に配置するが、他にワイヤー12同士を途中で交差する形状に配置し、交差点の近傍を補強することもできる。ワイヤー12を増やせば、その分、天井板材4等の保持能力を高めることができる。天井板材4が比較的軽量の場合は、ワイヤー12の数を少なくし、天井板材4が重い場合にはワイヤー12の数を増やすようにしてもよい。
【0049】
ワイヤー12は、室内の壁躯体部6間に設置する。このため、ワイヤー12を取り付け支持するのは壁躯体部6のみである。したがってワイヤー12の設置工事は、壁躯体部6の近傍のみに足場(脚立、はしご等)を設け、作業を行えばよい。このため、室内に配置された物、或いは室内の一般作業等には特に影響を与えることもない。
【0050】
ワイヤー12の配置位置は、天井板材4の下側で、天井板材4との間に両者が接触しない程度の隙間(20mm~100mm、或いは50mm~200mm)を設けて配置する。他に、ワイヤー12を一部の天井板材4、或いは全部の天井板材4に密着するように配置してもよい。地震等の際における、天井板材4の揺れ等を考慮し、前記隙間を適宜な間隔に設定するようにしてもよい。
また、ワイヤー12を天井板材4に密着するように配置した場合、例えば横揺れ等で天井板材4の一方の端部が脱落し、他方の端部が天井バー材に載っている状態等では、天井板材4の傾斜が少なく、ワイヤー12での保持及び支持が安定して行われる。
【0051】
ワイヤー12は、天井板材4の両端部56の近傍の下側に配置する。これは、天井板材4の端部の近くをワイヤー12で支持し保持させ、ワイヤー12間の間隔を確保することで、ワイヤー12同士による保持を正確かつ安定して行わせるためである。
ワイヤー12は、揺れにより天井バー材10から外れて脱落、落下する天井板材4を正確に受け止めるため、天井板材4の端部56(天井バー材10の保持部18に載置)から内側に、50mm~200mmの範囲に配置することが望ましい。端部から50mmより狭いと、天井板材4の端部56がワイヤー12から外れる可能性がある。また、端部56から200mmより広いと、並べて配置したワイヤー12同士の距離が近くなり、天井板材4を保持した時バランスよく支持できない。
【0052】
天井板材4の寸法として、ワイヤー12と交差(直交)する方向の長さは、ワイヤー12による安定した保持を考慮した場合、1000mm~2000mm程度が妥当である。また天井板材4が長方形の場合、この長辺部の辺とワイヤー12とが交差するよう天井板材4を配置するのが効果的であり、ワイヤー12による保持が正確、安定して行える。
【0053】
ここでは天井板材4を、長辺部の長さ1800mm(短辺部は300mm)としており、例えばワイヤー12の1本は、天井板材4の一方の端部56(短辺部)から100mm内側寄りの位置を通過する状態で配置する。また、もう1本のワイヤー12についても、同列の天井板材4の他方の端部56(短辺部)から100mm内側寄りの位置に配置する。
【0054】
このように、ワイヤー12を2本互いに平行に、且つ天井板材4の両端部56(短辺部)の近くを通過する状態で配置する。天井板材4の端部から100mmの間隔は、天井板材4の辺の長さを1000~2000mmとした場合、その5%~10%の範囲となり、この範囲でのワイヤー12を配置するのが効果的である。
【0055】
図5は、天井部2に配置した全ての列の天井板材4の下側に、それぞれワイヤー12を2本配置した状態を示している。天井板材4の列は、天井板材4を配置する天井バー材10と同方向(平行)であり、このためワイヤー12は天井バー材10と平行に配設される。天井板材4は、天井バー材10の保持部18に載置されているのみで、特にビス等で天井バー材10に止着等はしていない。
このため、
図6(a)に示すように、地震時等で天井が揺れると、周期の異なる振動等により天井板材4が一体的に天井バー材10に衝突し、その衝撃の影響で天井バー材10が傾くなどして、天井バー材10に載置してある天井板材4が保持部18から外れて脱落し落下する。
【0056】
このとき、
図6(b)に示すように、天井板材4の各列に対して、それぞれ2本のワイヤー12がその下部に配設されており、このため天井板材4が天井バー材10から外れて脱落しても下側に配置したワイヤー12に支持される。つまり、天井板材4の脱落落下直後には、天井板材4の下側に配置されている2本のワイヤー12,12に天井板材4が載る状態となって、天井板材4が保持され落下を防止する。このため、天井板材4は容易には落下しない。
【0057】
前記では、ワイヤー12を天井バー材10に対して平行な方向に配設する構造を示したが、他にワイヤー12を天井バー材10に対して交差(直交)する方向に配置することもできる。
図7は、天井バー材10に対して平行な方向に配置したワイヤー12、及び天井バー材10と直交する方向に配置したワイヤー12xを示している。
【0058】
例えば、大形の天井板材4を用いる場合、天井バー材10と平行なワイヤー12以外に、天井バー材10と直交する方向にワイヤー12xを配設するのも効果的である。この場合、天井板材4に対して、交差する二方向のワイヤー12,12xの組合せにより、天井板材4の落下がより効果的に防止される。もちろん、天井バー材10と直交する方向のみにワイヤー12xを配設し、天井板材4の落下を防止する構造を採用することもできる。
【0059】
天井バー材10と直交方向にワイヤー12xを配設する場合であっても、その配設構造、配設方法等は、ワイヤー12を天井バー材10と平行方向に配設する場合と同様である。また、天井バー材10と直交方向にワイヤー12xを配設した形態においても、天井板材4の落下を防止する機能は、ワイヤー12を天井バー材10と平行方向に配設した場合と何ら変わりはない。
【0060】
したがって、ワイヤー12、12xの配設形態としては、天井バー材10と平行に配設(天井バー材10間に列状に配置される各天井板材4の下側に配設)する形態、天井バー材10と交差(直交)する方向に配設(天井バー材10を隔てて配置される各天井板材4の下側に配設)する形態、及びこれら両形態を組み合わせ、天井バー材10と平行に配設し且つ交差(直交)する方向にも配設する形態、の3形態が有り得る。
前記ワイヤー12、12xの配設形態の何れを採用するかは、天井板材4の形状(長方形、正方形)及びその大きさ等に基づいて、適切な形態を採用すればよい。
【0061】
この実施の形態に係る天井落下防止構造では、天井板材4の下側にワイヤー12を配置した簡単な構成で、簡易に天井板材4の落下が防止でき、天井の補強が行える。この場合、例えば2本のワイヤー12により、1m2当たり5~6kgまでの重量の天井板材4を支持することが可能である。
【0062】
天井板材4の落下をワイヤー12で防止する試みは、ネット等の落下防止対応に比べて、効果は劣るものの、施工が簡単であり、かつ、ネット等とは異なり天井の美観も損なわず、また照明等を覆うことがないので施工後も明るさ等が変わらない。また、ワイヤー12は天井板材4(列状)毎に配置する構造であるため、部分的な落下防止対策が可能である等、臨機応変に対処できるという効果がある。
【0063】
従って、前記実施の形態に係る天井落下防止構造によれば、ワイヤー12を固定するのは、室内の向い合せの両壁躯体部6のみでよく、また、作業的には壁躯体部6の近くに脚立等の足場を配置し、ワイヤー12の取り付け工事を行えばよい。このため、施工が簡単であり、少人数でしかも短時間で行え、また天井部の各所に足場を設ける必要もないことから、室内への影響も少なく、また物の移動等もないことから施工作業もはかどる。また、ワイヤー12は単なる線材であるため目立ちにくく(天井板材と同色にすればさらに目立たない)、このため天井の美観を損なうこともない。
【0064】
このように、この実施の形態に係る天井落下防止構造では、天井板材の施工後に同防止構造の施工が可能であり、また、工事中も室内の状態はそのままで空ける必要がなく、オフィス等にて社員が居ながらの施工も可能である点も、好都合である。よって、この天井落下防止構造では、天井板材4の落下を防止し、併せて施工性にも優れ、また天井板材4及びワイヤー12等の配置及び設置構造が簡易であり経済性にも優れる。
【符号の説明】
【0065】
4 天井板材
6 壁躯体部
8 吊り部材
10 天井バー材
12 線材(ワイヤー)
14 定着具(アンカー等)
18 保持部
20 支持部
56 端部
64 張力調整具(ターンバックル等)