(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ステータ、ステッピングモータ、ムーブメント、時計およびステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 37/16 20060101AFI20240306BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H02K37/16 B
H02K15/02 D
H02K37/16 X
(21)【出願番号】P 2020045143
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2023-01-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸祐
(72)【発明者】
【氏名】松村 裕明
(72)【発明者】
【氏名】大村 龍弥
(72)【発明者】
【氏名】竹内 均
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-068724(JP,A)
【文献】特開2014-079044(JP,A)
【文献】特開2009-219341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 37/16
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ用貫通孔が形成され、前記ロータ用貫通孔の周囲に磁路が形成され、Fe-Ni合金からなるステータ用の磁性板材と、
前記貫通孔の周囲に設けられ、コイルによる励磁により前記貫通孔の周囲に磁極を発生させる非磁性領域を備え、
前記非磁性領域が
、前記磁性板材の一方の表面側から厚さ方向に沿って他方の表面側に向かうにつれて断面積が小さくなり、
前記磁性板材の他方の表面側に到達していない、クロムペーストの溶融凝固物からなる非磁性溶融部
と、その周囲に重量比15%以上のクロムを拡散させた領域からなり、
前記一方の表面側に露出した前記非磁性溶融部の一部に突出部を有し、前記突出部に前記磁性板材の一方の表面からの突出高さ20~60μmの平坦部を有するステータ。
【請求項2】
前記磁性板材がパーマロイから
なることを特徴とする請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
前記平坦部が
光入射により50%以上の反射光が戻る光沢を有するプレス面を備えた請求項1または請求項2に記載のステータ。
【請求項4】
前記非磁性溶融部の底部側が前記磁性板材の他方の表面に到達されておらず、前記非磁性溶融部の底部側であって前記磁性板材の他方の表面側に前記非磁性溶融部を有していない磁気結合部を有する請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のステータ。
【請求項5】
前記ロータ用貫通孔の周囲であって、前記磁性板材の前記一方の表面側に凹部が形成され、該凹部内に前記非磁性溶融部が形成された請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のステータ。
【請求項6】
前記磁性板材の前記他方の表面は、ムーブメントの地板に組み付けられた場合に前記地板に対向する地板面であり、前記磁性板材の前記一方の表面は、輪列面である、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のステータ。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のステータと、前記貫通孔に配置されたロータとを備えたステッピングモータ。
【請求項8】
請求項7に記載のステッピングモータと、前記ステッピングモータの動力を伝達する輪列を備えた時計用ムーブメント。
【請求項9】
請求項8に記載の時計用ムーブメントを備えた時計。
【請求項10】
ロータ用貫通孔が形成され、前記ロータ用貫通孔の周囲に磁路が形成され、Fe-Ni合金からなるステータ用の磁性板材と、前記貫通孔の周囲に設けられ、コイルによる励磁により前記貫通孔の周囲に磁極を発生させる非磁性領域を備え、前記非磁性領域が、前記磁性板材の一方の表面側から厚さ方向に沿って他方の表面側に向かうにつれて断面積が小さくなり、
前記磁性板材の他方の表面側に到達していない、クロムペーストの溶融凝固物からなる非磁性溶融部
と、その周囲に重量比15%以上のクロムを拡散させた領域からなり、前記一方の表面側に露出した前記非磁性溶融部の一部に突出部を有し、前記突出部に前記磁性板材の一方の表面からの突出高さ20~60μmの平坦部を有するステータの製造方法であって、
前記磁性板材の一方の表面側であって前記ロータ用貫通孔の周囲にクロムを塗布し、
前記クロムが塗布された位置に、前記一方の表面側からレーザーを照射することにより、前記一方の表面から突出する突出部を含み、前記ステータの一部を非磁性化した非磁性溶融部を形成し、
前記突出部の突出先端側を押圧機器
の先端部で押圧し、
前記押圧機器の先端部が前記磁性板材の表面に触れないように前記磁性板材の表面からの高さ方向の距離において20~60μmの位置まで前記押圧機器
の先端部で押圧し、前記突出高さ20~60μmの平坦部を形成するステータの製造方法。
【請求項11】
前記磁性板材がパーマロイから
なることを特徴とする請求項10に記載のステータの製造方法。
【請求項12】
前記平坦部を、
光入射により50%以上の反射光が戻る光沢を有するプレス面となるように形成する、請求項10または請求項11に記載のステータの製造方法。
【請求項13】
前記平坦部を形成する際に、前記突出部の突出側先端を押圧機器で押圧する場合、先端部が平面である押圧用パンチ、および前記押圧用パンチで押圧する領域の周囲を押さえるプレート部、を備えた押圧機器を用い、
前記押圧用パンチの先端部が前記磁性板材の表面に20~60μmの間隔をあけるように離間した状態となるように前記押圧用パンチにより前記突出部の突出側先端を押圧し、前記平坦部を形成する請求項10~請求項12のいずれか一項に記載のステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ、ステッピングモータ、ムーブメント、時計およびステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、時針や分針等の指針をモータ駆動装置により回転駆動するアナログ電子時計が利用されている。また、この種のアナログ電子時計ではモータ駆動装置としてステッピングモータが広く一般に用いられている。
ステッピングモータは、ロータ用貫通孔及びロータの停止位置を決める位置決め部(内ノッチ)を有するステータと、ロータ用貫通孔内に回転可能に配設されたロータと、ステータに設けられたコイルとを有している。
【0003】
通常、ステッピングモータでは、ロータ用貫通孔周りの2か所(180度間隔)において、幅を狭くした幅狭部を設け、磁束を飽和させやすくした一体型のステータが用いられている。この構造によって、ロータを駆動させる漏洩磁束が得やすくなる。
【0004】
さらに、ロータ用貫通孔の周囲に設けられた磁路の一部に、非磁性材料であるCrの溶融凝固部からなるCr拡散領域を形成し、当該領域の透磁率を低減させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1の技術では、まず、Fe-Ni合金板に対し打ち抜き加工を行い、ロータ用貫通孔と該貫通孔の周囲に配置された磁路と幅狭部を有するステータ素材を形成する。
次に、ステータ素材の一部に溶融拡散用のクロム材を配置し、当該クロム材にレーザーを照射して磁路の内部にクロムを溶融拡散させ、幅狭部に非磁性領域であるクロム拡散領域を形成する。なお、幅狭部の幅は、例えば0.1mm程度である。また、クロムを溶融させるため、レーザーによる加熱温度は、クロムの融点以上、例えば1900℃を上回る温度に設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術によると、ステータ表面に溶融拡散用のクロム材を配置し、レーザーを照射するため、レーザー照射面には溶融拡散に起因し、微細な突起(ドロス)が生じる。この突起の存在によってステータの総厚が大きくなるため、ステータの突起と、ステータの上側に設置される輪列が干渉し、運針異常を引き起こすおそれがある。なお、突起を設ける位置をステータの反対側(下側)の面とすることも可能であるが、その場合はステータを支持する地板と突起の干渉が問題となり、ステータを安定支持できなくなるおそれがある。
ステータと輪列との干渉を防ぐため、突起を除去するための加工を施すことも考えられるが、微細な突起を除去するには相当の手間とコストがかかるので現実的ではない問題がある。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑み、レーザーによる溶融処理に伴って生じた突起と輪列との干渉の問題を解消し、突起に影響されることなく組み立てができるステータ、ステッピングモータ、ムーブメント、時計およびステータの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
「1」前記課題を解決するため、本発明の一形態に係るステータは、ロータ用貫通孔が形成され、前記ロータ用貫通孔の周囲に磁路が形成され、Fe-Ni合金からなるステータ用の磁性板材と、前記貫通孔の周囲に設けられ、コイルによる励磁により前記貫通孔の周囲に磁極を発生させる非磁性領域を備え、前記非磁性領域が、前記磁性板材の一方の表面側から厚さ方向に沿って他方の表面側に向かうにつれて断面積が小さくなり、前記磁性板材の他方の表面側に到達していない、クロムペーストの溶融凝固物からなる非磁性溶融部と、その周囲に重量比15%以上のクロムを拡散させた領域からなり、前記一方の表面側に露出した前記非磁性溶融部の一部に突出部を有し、前記突出部に前記磁性板材の一方の表面からの突出高さ20~60μmの平坦部を有することを特徴とする。
【0009】
本形態では、非磁性溶融部を有するが、磁性板材の一方の表面側に突出させた非磁性溶融部における突出部の高さを60μm以下の平坦部とするため、ステータを時計のムーブメントに組み付けた場合、隣接する輪列との干渉を回避できる。また、ステータの反対側の面に非磁性溶融部の突出部を設けることもできるが、この場合は、隣接する地板との干渉を回避でき、地板によるステータの安定支持が可能となる。従って、ステータを時計のムーブメントに組み込む場合、非磁性溶融部の突出部の存在に影響されることなく適用ができる。
磁路の一部に非磁性溶融部を設けることにより、当該領域で消費される磁束を大幅に低減でき、ロータ駆動のための漏洩磁束を効率よく確保できる。また、磁気ポテンシャルの損失を防止することができ、ロータを磁気的に停止(静止)・保持させるための保持力を高めることができる。
【0010】
「2」前記一形態のステータでは、前記磁性板材がパーマロイからなる構成にできる。
「3」前記一形態のステータでは、前記平坦部に光入射により50%以上の反射光が戻る光沢を有するプレス面を備えた構成とすることができる。
【0011】
本形態では、光沢を有するプレス面の存在が平坦部を有することの確証となる。例えば、プレスにより確実に平坦部を形成できたか否かを光沢を有するプレス面の存在確認により確認できる。このため、検査工程などで光沢を有するプレス面を光学的に観察することで、平坦部を形成できたか否か検査可能となり、突出部を備えた非磁性溶融部を有するステータの良品検査を簡単かつ確実になし得る。
【0012】
「4」前記一形態のステータでは、前記非磁性溶融部の底部側が前記磁性板材の他方の表面に到達されておらず、前記非磁性溶融部の底部側であって前記磁性板材の他方の表面側に前記非磁性溶融部を有していない磁気結合部を有する構成を採用できる。
【0013】
本形態では、非磁性溶融部を設けた領域が非磁性溶融部とそれに隣接する磁気結合部で連続一体化されているので、非磁性溶融部を設けた部分に機械的に弱い部分を有していない。よって、非磁性溶融部を設けた領域に強度的に弱い部分を有しないステータを提供できる。
非磁性溶融部の底部側に磁気結合部を有するので磁気結合部の存在により磁気的に安定したステータを提供できる。また、前記磁性板材の一方の表面側から厚さ方向に沿って他方の表面側に向かうにつれて断面積が小さくなる非磁性溶融部を有する構造であれば、非磁性溶融部の底部側の窄まった部分において磁気的な近接効果が生じ、磁気的安定性を高めたステータを提供できる。
【0014】
「5」前記一形態のステータでは、前記ロータ用貫通孔の周囲であって、前記磁性板材の前記一方の表面側に凹部が形成され、該凹部内に前記非磁性溶融部が形成された構成を採用できる。
【0015】
凹部内に非磁性溶融部を設けるならば、レーザー照射により加熱溶融させて非磁性溶融部を形成する場合、溶融部分が凹部の内部に収まり易いので、非磁性溶融部が凹部内に確実に納まった構造を得やすい。
【0017】
磁性板材がパーマロイからなることで透磁率の高い磁性板材とすることができ、非磁性溶融部を利用し、容易に漏れ磁界を利用することができる。非磁性溶融部にクロムを含むことで、レーザー照射によるクロムの溶融拡散を利用し、目的の非磁性溶融部を得ることができる。
【0018】
「6」前記一形態のステータにおいて、前記磁性板材の前記他方の表面は、ムーブメントの地板に組み付けられた場合に前記地板に対向する地板面であり、前記磁性板材の前記一方の表面は、輪列面である、構成を採用できる。
非磁性溶融部の突出部をステータの輪列側の面に設ける場合は、60μm以下の高さの突出部であるならば、輪列との干渉をなくすることができる。非磁性溶融部の突出部をステータの地板側の面に設ける場合は、60μm以下の高さの突出部であるならば、地板との干渉をなくすることができ、地板によりステータを安定的支持できる。
【0019】
「7」本発明の一形態に係るステッピングモータは、前記ステータと、前記貫通孔に配置されたロータとを備えた構成を採用できる。
「8」本発明の一形態に係る時計用ムーブメントは、前記ステッピングモータと、前記ステッピングモータの動力を伝達する輪列を備えた構成を採用できる。
「9」本発明の一形態に係る時計は、前記時計用ムーブメントを備えた構成を採用できる。
【0020】
「10」」本発明の一形態に係るステータの製造方法は、ロータ用貫通孔が形成され、前記ロータ用貫通孔の周囲に磁路が形成され、Fe-Ni合金からなるステータ用の磁性板材と、前記貫通孔の周囲に設けられ、コイルによる励磁により前記貫通孔の周囲に磁極を発生させる非磁性領域を備え、前記非磁性領域が、前記磁性板材の一方の表面側から厚さ方向に沿って他方の表面側に向かうにつれて断面積が小さくなり、前記磁性板材の他方の表面側に到達していない、クロムペーストの溶融凝固物からなる非磁性溶融部と、その周囲に重量比15%以上のクロムを拡散させた領域からなり、前記一方の表面側に露出した前記非磁性溶融部の一部に突出部を有し、前記突出部に前記磁性板材の一方の表面からの突出高さ20~60μmの平坦部を有するステータの製造方法であって、前記磁性板材の一方の表面側であって前記ロータ用貫通孔の周囲にクロムを塗布し、 前記クロムが塗布された位置に、前記一方の表面側からレーザーを照射することにより、前記一方の表面から突出する突出部を含み、前記ステータの一部を非磁性化した非磁性溶融部を形成し、前記突出部の突出先端側を押圧機器で押圧し、前記押圧機器が前記磁性板材の表面に触れないように前記磁性板材の表面からの高さ方向の距離において20~60μmの位置まで前記押圧機器で押圧し、前記突出高さ20~60μmの平坦部を形成することを特徴とする。
【0021】
レーザー加工による非磁性溶融部の形成後に突出部の先端側を押圧機器で押圧することにより、磁性板材の表面からの突出高さを60μm以下に抑えたステータを得ることができる。
このステータであれば、非磁性溶融部の突出部をステータの輪列側の面に設ける場合、60μm以下の高さの突出部を有するが、輪列との干渉をなくすることができる。非磁性溶融部の突出部をステータの地板側の面に設ける場合、60μm以下の高さの突出部を有するが、地板との干渉をなくすることができ、地板によりステータを安定的支持できる。
【0022】
「11」本発明の一形態に係るステータの製造方法では、前記磁性板材がパーマロイからなることが好ましい。
「12」本発明の一形態に係るステータの製造方法では、前記平坦部を、光入射により50%以上の反射光が戻る光沢を有するプレス面となるように形成することが好ましい。
【0023】
光沢を有するプレス面を有するステータであれば、プレス面の存在が平坦部を有することの確証となる。例えば、プレスにより確実に平坦部を形成できたか否かについて、光沢を有するプレス面の存在確認により確認できる。このため、検査工程などで光沢を有するプレス面を光学的に観察することで、平坦部を形成できたか否か検査可能となり、突出部を備えた非磁性溶融部を有するステータの良品検査を簡単かつ確実になし得る。
【0024】
「13」本発明の一形態に係るステータの製造方法では、前記平坦部を形成する際に、前記突出部の突出側先端を押圧機器で押圧する場合、先端部が平面である押圧用パンチ、および前記押圧用パンチで押圧する領域の周囲を押さえるプレート部、を備えた押圧機器を用い、
前記押圧用パンチの先端部が前記磁性板材の表面に20~60μmの間隔をあけるように離間した状態となるように前記押圧用パンチにより前記突出部の突出側先端を押圧し、前記平坦部を形成することが望ましい。
【0025】
突出部周囲の材料平坦部を金型のプレート部で押さえながら、パンチ高さ調整機構を備えたパンチ先端の平面部で突出部付近のみを押圧する金型構造とすることで、押圧加工後の突出部高さを精度良く制御することができる。
【発明の効果】
【0026】
本形態によれば、非磁性溶融部を有するが、磁性板材の一方の表面側に突出させた非磁性溶融部における突出部の高さを60μm以下の平坦部とするため、時計のムーブメントに組み付ける場合、隣接する輪列との干渉を回避できるステータを提供できる。
また、ステータの反対側の面に非磁性溶融部の突出部を設けることもできるが、この場合は、隣接する地板との干渉を回避でき、地板によるステータの安定支持が可能となる。
従って、時計のムーブメントにステータを組み込む場合、突出部の存在に影響されることなく適用ができるステータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1実施形態に係るステータ、ステッピングモータ、時計用ムーブメントを備えた時計を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係るステッピングモータの概略構成例を示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係るステータの正面模式図である。
【
図4】第1実施形態に係るステッピングモータの正面模式図である。
【
図6】同ステータの要部においてプレス加工前の状態を示す断面図である。
【
図7】第1実施形態に係るステータの製造方法の一例を示す図である。
【
図8】第1実施形態に係るステータについて、プレス打ち抜き加工前のフープ材を示す平面図である。
【
図9】第2実施形態に係るステータに用いる磁性板材の要部を示す断面図である。
【
図10】同磁性板材に形成した凹部を示す平面図である。
【
図11】第2実施形態に係るステータの要部を示す断面図である。
【
図12】第1実施形態に係るステータの製造例について要部断面を示す写真である。
【
図13】同ステータの製造例についてプレス加工前の要部断面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係る時計、時計用ムーブメント、ステッピングモータ、ステータの一例を挙げ、図面を参照しながら説明する。また、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更し表示している場合がある。
【0029】
「時計、時計用ムーブメント、ステッピングモータ、ステータの第1実施形態」
図1は、第1実施形態に係るステッピングモータ、時計用ムーブメントを用いた時計1を示すブロック図である。本実施形態では、時計の一例としてアナログ電子時計を例示し説明する。
図1に示すように、時計1は、電池2、発振回路3、分周回路4、制御回路5、パルス駆動回路6、ステッピングモータ7、およびアナログ時計部8を備える。
また、アナログ時計部8は、輪列11、時針12、分針13、秒針14、カレンダ表示部15、時計ケース81、および時計用ムーブメント82(以下、ムーブメント82という)を備える。なお、本実施形態では、時針12、分針13、秒針14、カレンダ表示部15のうち1つを特定しない場合、指針と記載する。
【0030】
発振回路3、分周回路4、制御回路5、パルス駆動回路6、およびステッピングモータ7、および輪列11は、ムーブメント82の構成要素である。ステッピングモータ7、および輪列11が備えられるモジュールを機構モジュールと呼称できる。
一般に、時計1の時間基準などの装置からなる時計の機械体をムーブメントと称する。電子式のものをモジュールと呼ぶことがある。時計としての完成状態では、ムーブメントに、例えば、文字板、指針が取り付けられ、時計ケースの中に収容される。
【0031】
電池2は、例えばリチウム電池、いわゆるボタン電池である。なお、電池2は、太陽電池と、太陽電池によって発電された電力を蓄電する蓄電池であってもよい。電池2は、電力を制御回路5に供給する。
【0032】
発振回路3は、例えば水晶の圧電現象を利用し、その機械的共振から所定の周波数を発振するために用いられる受動素子である。ここで、所定の周波数は、例えば32[kHz]である。
分周回路4は、発振回路3が出力した所定の周波数の信号を所望の周波数に分周し、分周した信号を制御回路5に出力する。
【0033】
制御回路5は、分周回路4が出力する分周された信号を用いて計時を行い、経時した結果に基づいて、駆動パルスを生成する。なお、制御回路5は、指針を正転方向に運針させる場合、正転用の駆動パルスを生成する。制御回路5は、指針を逆転方向に運針させる場合、逆転用の駆動パルスを生成する。制御回路5は、生成した駆動パルスをパルス駆動回路6に出力する。
パルス駆動回路6は、制御回路5が出力する駆動指示に応じて、指針それぞれに対して駆動パルスを生成する。パルス駆動回路6は、生成した駆動パルスをステッピングモータ7に出力する。
【0034】
ステッピングモータ7は、パルス駆動回路6が出力する駆動パルスに応じて指針(時針12、分針13、秒針14、カレンダ表示部15)を運針させる。
図1に示す例では、例えば、時針12、分針13、秒針14、およびカレンダ表示部15のそれぞれに1つステッピングモータ7を備えている。
【0035】
時針12、分針13、秒針14、カレンダ表示部15それぞれは、ステッピングモータ7によって運針される。
時針12は、パルス駆動回路6がステッピングモータ7を駆動することによって12時間で1回転する。分針13は、パルス駆動回路6がステッピングモータ7を駆動することによって60分間で1回転する。秒針14は、パルス駆動回路6がステッピングモータ7を駆動することによって60秒間で1回転する。カレンダ表示部15は、例えば日付を表示する指針であり、パルス駆動回路6がステッピングモータ7を駆動することによって24時間で1回転する。
【0036】
次に、本実施形態に係るステッピングモータ7の概略構成について説明する。
図2は、本実施形態に係るステッピングモータ7の概略構成を示す斜視図である。
図2に示すようにステッピングモータ7は、ステータ201、ロータ202、磁心208、コイル209、およびネジ220を備える。
図3に示すようにステータ201は、アーム型のヨークを構成するための細長い磁性板材201Aによって構成され、磁性板材201Aの長さ方向両端側には取付片201B、201Cが形成されている。
ステータ201の長さ方向途中部分には、ロータ用貫通孔203が形成され、取付片201B、201Cにはネジ孔218a、ネジ孔218bが形成されている。
ロータ202は、ロータ用貫通孔203に回転可能に配置されている。
コイル209は、磁心208の周囲に巻回されている。
また、ステッピングモータ7をアナログ電子時計に用いる場合、ステータ201と磁心208は、ネジ220によってムーブメント82の地板51に固着され、互いに磁気的に接合される。なお、本実施形態では磁気的接合のためネジ固定としたが、磁気的接合できればネジ固定に限らない。
【0037】
ここで、
図3を用いてステータ201について更に説明する。
図3は、本実施形態に係るステータ201の正面模式図である。
図3において、ステータ201の長手方向をy軸方向、短手方向をx軸方向とする。
図3に示すステータ201は、後述するモータ用ステータの製造方法によって製造される。
図3に示すように、ロータ用貫通孔203には、切り欠き部204、205が形成されている。また、ステータ201には、ロータ用貫通孔203のX軸方向両端側に位置するように幅狭部210、211が形成されている。
ステータ201を構成する磁性板材201Aは、例えばFe-Ni(鉄-ニッケル)合金などの高透磁率材料により構成される板材によって形成されている。また、幅狭部210、211は、非磁性領域である。非磁性領域の詳細構造については後に詳述する。
【0038】
ステッピングモータ7を時計に用いる場合、ステータ201の各サイズの一例を以下に記載する。ロータ用貫通孔203の穴径は、約1.5~2mmである。幅狭部210、211の一番細い箇所の幅は、約0.1mm~0.2mmである。ステータ201の厚みは、約0.5mm±0.1mmである。長手方向の長さは、約10mmである。
【0039】
次に、
図4を用いて本実施形態に係るステッピングモータ7の概要について説明する。
図4は、本実施形態に係るステッピングモータ7の正面模式図である。
図4に示すステッピングモータ7は、ロータ用貫通孔203、ステータ201、ロータ202、磁心208、コイル209、および幅狭部210、211を備えている。
【0040】
なお、ステータ201には、ロータ用貫通孔203の周囲に磁路Rが形成されている。ロータ202は、ロータ用貫通孔203内に回転可能に配設された2極のロータである。磁心208は、ステータ201と接合されている。コイル209は、磁心208に巻回されている。
【0041】
なお、幅狭部210、211は、ロータ202の安定位置確保のためロータ用貫通孔203に設けられる切り欠き部204、205に干渉しない部分に設けられている。コイル209は、第1端子OUT1、第2端子OUT2を有している。
【0042】
ロータ用貫通孔203は、輪郭が円形とされた貫通孔の対向部分に複数(
図4の例では2つ)の半月状の切り欠き部(内ノッチ)204、205を一体形成した円孔形状に構成されている。これら切り欠き部204、205は、ロータ202の停止位置または静止安定位置を決めるための位置決め部として構成されている。例えば、切り欠き部(内ノッチ)204は、ロータが所定位置になると、そのポテンシャルエネルギーが低くなり、ロータの位置を安定させる作用をもたらす。
【0043】
ロータ202は、2極(S極及びN極)に着磁されている。
コイル209が励磁されていない状態では、ロータ202は、
図4に示すように前記位置決め部に対応する位置、換言すれば、ロータ202の磁極軸Aが、切り欠き部204、205を結ぶ線分と直交するような位置(角度θ
0位置)に安定して停止(静止)している。
【0044】
ロータ用貫通孔203の周囲に設けられた磁路Rの一部(
図4の例では2箇所)に、非磁性領域の幅狭部210、211が形成されている。ここで、ステータ201における幅狭部の断面の幅を断面幅tとし、磁路に沿った方向の幅をギャップ幅wとする。幅狭部210、211は、断面幅tとギャップ幅wとにより画定された領域に形成されている。
以下の説明では、ステータ201において、幅狭部211の外周を点a1、幅狭部211内を点b1、幅狭部211の近傍且つ磁路Rの外周と内周との間を点cと定義する。
【0045】
次に、本実施形態に係るステッピングモータ7の動作を、
図4を参照して説明する。
まずパルス駆動回路6から駆動パルス信号をコイル209の端子OUT1、OUT2間に供給して(例えば、第1端子OUT1側を正極、第2端子OUT2側を負極)、
図4の矢印方向に電流iを流すと、ステータ201には破線矢印方向に磁束が発生する。
【0046】
本実施形態では、非磁性領域である幅狭部210、211が形成されており、非磁性領域の磁気抵抗は増大している。そのため、従来の「幅狭部」に相当する領域を磁気飽和させる必要がなく、容易に漏洩磁束を確保でき、その後、ステータ201に生じた磁極とロータ202の磁極との相互作用によって、ロータ202は
図4の矢印方向に180度回転し、磁極軸が角度θ
1位置で安定的に停止(静止)する。
なお、ステッピングモータ7を回転駆動することによって通常動作(本発明の各実施の形態はアナログ電子時計であるため運針動作)を行わせるための回転方向(
図4では反時計回り方向)を正方向とし、その逆(時計回り方向)を逆方向としている。
【0047】
次に、パルス駆動回路6から、逆極性の駆動パルスをコイル209の端子OUT1、OUT2に供給して(駆動とは逆極性となるように、第1端子OUT1側を負極、第2端子OUT2側を正極)、
図4の反矢印方向に電流を流すと、ステータ201には反破線矢印方向に磁束が発生する。
その後、前述と同様に、非磁性領域である幅狭部210、211が形成されていることから、容易に漏洩磁束を確保でき、ステータ201に生じた磁極とロータ202の磁極との相互作用によって、ロータ202は前記と同一方向(正方向)に180度回転し、磁極軸が角度θ0位置で安定的に停止(静止)する。
【0048】
以後、このように、コイル209に対して極性の異なる信号(交番信号)を供給することによって、前記動作が繰り返し行われて、ロータ202を180度ずつ矢印方向に連続的に回転させることができる。
【0049】
このように、ロータ用貫通孔203の周囲に形成されている磁路Rの一部に非磁性領域である幅狭部210、211が形成されているため、当該領域で消費される磁束を大幅に低減でき、ロータ202を駆動させる漏洩磁束を効率よく確保できる。
また、従来では「幅狭部」とされていた箇所に、非磁性領域である幅狭部210、211を形成して低透磁率化することにより、ロータ202自体から発せられる磁束についても当該領域での消費が抑制される。その結果、磁気ポテンシャルの損失を防止することができ、ロータ202を磁気的に停止(静止)・保持させるための保持力を高めることができる。
【0050】
また、従来では「幅狭部」とされていた箇所にOUT1側(負極)の磁束で飽和させて回転させた後、OUT2側(正極)で回転させるにはOUT1側(負極)の際に生じた残留磁束を打ち消す必要があった。しかしながら、本実施形態によれば、当該領域での残留磁束が大幅に低減されているため、残留磁束打ち消しに要する時間が不要となり、回転を収束させるまでの時間を短縮できる。このため、本実施形態によれば、高速運針を行う際の動作安定性を維持することができ、駆動周波数を上げることができる。
【0051】
図5は非磁性領域を有する幅狭部210、211の一例構造を示す部分断面図である。ステータ201を構成する磁性板材201Aの一方の表面201a側(
図5では上面側;一例として輪列面)から磁性板材201Aの厚さ方向に沿って他方の表面201b側(
図5では下面側:一例として地板面)に向かうにつれて断面積が徐々に小さくなる非磁性溶融部206が形成されている。この非磁性溶融部206とその周囲に15%以上のクロムが拡散した領域を含めて非磁性領域が構成されている。
この非磁性溶融部206の底部206aは下窄まり形状を有するが、底部206aは他方の表面201bには到達されていない。このため、
図5において底部206aの下方側には磁性板材201Aを構成する高透磁率材料によって構成される磁気結合部201cが形成されている。
【0052】
図5に示すように非磁性溶融部206の上部側には磁性板材201Aの表面201aから上方に露出し、突出する突出部206cが形成され、この突出部206cの上面側には平坦部206dが形成されている。表面201aから突出している突出部206cの突出高さは、60μm以下、例えば、20μm~60μm程度に形成されている。平坦部206dは磁性板材201Aの表面201aとほぼ平行であり、光沢を有するプレス面から形成されている。
図5に示す非磁性溶融部206は、後に説明する製造方法において詳述するように
図6に示す断面形状の非磁性溶融部207をプレスにより押圧して押し潰すことにより形成されている。
図6に示す非磁性溶融部207は、以下に説明する製造方法により、磁性板材201Aの表面側に形成したクロムペーストにレーザーを照射し、クロムペーストを溶融させてクロムを磁性板材201A側に拡散溶融させ、溶融部分を凝固させることで形成したものである。
【0053】
<非磁性溶融部を有するステータの製造方法>
以下に、ステータ201の製造方法の一例に関し、
図7を用いて説明する。
図7は、本実施形態に係るステータ201の製造方法の一例を示す工程説明図である。
【0054】
(第1製造工程 1stプレス(ガイド穴作成))
第1製造工程では、プレス加工装置302を備えた製造システム300を使用する。
図7において、符号301は、プレス前のフープ材310が巻き取られている加工前の巻回体を示す。符号303は、プレス後のフープ材が巻き取られている加工後の巻回体を示す。符号310は、プレス後のフープ材を示す。なお、
図7において、フープ材310の長手方向をx軸方向とし、短手方向をy軸方向とする。また、フープ材310の短手方向の幅は、例えば16.5mmである。
【0055】
プレス加工装置302は、フープ材の状態の磁性板材(38パーマロイなどの板材)に対して、幅方向両端部に位置決め用のガイド穴312、313を所定間隔で間欠的に複数連続形成する。プレス後、製造システム300は、プレス後のフープ材を巻き取り、巻回体303を得ることができる。
【0056】
(第2製造工程 非磁性領域作成)
第2製造工程では、製造システム300が、クロム(Cr)をペースト塗布するペースト塗布装置322、乾燥装置323、レーザー照射装置324、および洗浄装置325を備えている。また、符号321は、第1製造工程でプレス後のフープ材が巻き取られた巻回体を示す。符号326は、非磁性領域が作成された後のフープ材310が巻き取られた巻回体を示す。
【0057】
ペースト塗布装置322は、フープ材に対して、y軸方向の所望位置に、x軸方向に沿って連続的にクロムをペースト塗布する(塗布工程)。ペースト塗布装置322は、例えば、クロムをバインダーや溶剤と混ぜてペースト化し、それをディスペンスする。すなわち、ペースト塗布装置322は、ディスペンザーである。なお、y軸方向の所望位置とは、
図3に示したステータ201における非磁性領域である幅狭部210、211を作成する領域である。なお、ペースト塗布装置322は、ガイド穴の位置を基準とした所望位置にクロムペーストをライン状あるいは間欠ライン状にペースト塗布する。なお、クロムペーストの塗布厚は、一例として100~150μmである。乾燥装置323は、塗布されたクロムペーストを乾燥させる。この乾燥処理によりクロムペースト中の溶剤が揮発しクロムペースト層の定着がなされる。
【0058】
次に、レーザー照射装置324は、クロムペーストを塗布した領域(符号331)にレーザーを照射する(レーザー加工工程)。なお、レーザーは、放電深度が深いファイバーレーザーが好ましい。これにより、塗布したクロムペースト中のクロムが充分に母材(パーマロイ母材)側に溶け込む。そして、塗布したクロムと、パーマロイ母材との間で拡散溶融が生じ、パーマロイ母材内部にクロム重量比が15%以上となる領域が形成される。クロム重量比が15%以上となる領域は、磁性板材を構成する高透磁率材料を低透磁率化する場合の目安であり、この領域が実質的な非磁性領域となる。
レーザー照射によって、クロムペーストの塗布領域は、パーマロイ材及びクロムの融点以上、1900℃以上に加熱される。レーザーの入射側の口径は、0.3~0.5mm程度である。また、レーザー照射装置324が、x軸方向に例えば25μm程度の間隔でレーザーを照射することが好ましい。これにより、レーザー照射によりパーマロイ母材(フープ材)に負荷される熱を低減できる。
【0059】
クロムペーストを塗布した領域にレーザーを照射し、クロムペーストを溶融させてクロムを磁性板材201A側に拡散溶融させ、溶融部分を凝固させることで
図6に示す断面形状の非磁性溶融部207が形成される。非磁性溶融部207の断面は一例として
図6に示す卵型をなす。
この非磁性溶融部207の底部207aは下窄まり形状を有するが、底部207aは磁性板材201Aの他方の表面201bには到達されていない。このため、
図6において底部207aの下方側には磁性板材201Aを構成する高透磁率材料によって構成される磁気結合部201cが形成されている。
図6に示すように非磁性溶融部207の上部側には磁性板材201Aの表面201aから上方に突出する半球形状の突出部207cが形成される。この突出部207cの突出高さは、一例として100μm前後である。
【0060】
洗浄装置325は、溶剤を用いて洗浄することで、塗布したクロムペーストのうち、不要な箇所を除去する。符号310Aは、レーザー照射、洗浄後のフープ材を示す平面図である。フープ材310Aにおいて、符号331は、非磁性領域を示している。非磁性領域のy軸方向の幅は、約0.3~0.5mmである。このように、第2製造工程によって、フープ材に対してx軸方向に連続した直線状の非磁性領域が、y軸方向の所定位置に形成される。また、フープ材310Aの洗浄にかかる時間は、一例として5分間である。
洗浄後、製造システム300は、非磁性領域形成後のフープ材310Aを巻き取り、巻回体326とする。
【0061】
(第3製造工程 2ndプレス(仕上げ))
第3製造工程では、製造システム300が、押圧加工装置であるプレス装置(押圧機器)340とプレス打抜装置342を備えている。また、符号341は、先の第2製造工程後のフープ材310Aが巻き取られた巻回体を示す。符号343は、第3製造工程を経たプレス後のフープ材が巻き取られた巻回体を示す。
プレス装置340はダイ340Aとパンチ340B、及びストリッパプレート(プレート部)340Dを有する。パンチ340Bの下端面は平滑面にされている。
ダイ340Aの上面には水平な平滑面からなる受け面340bが形成されている。プレス装置340は、パンチ340Bを上昇させてダイ340Aの上面中央にフープ材310Aを設置できるように構成されている。フープ材310Aを設置した状態でストリッパプレート340D及びパンチ340Bを下降させると、まずストリッパプレート340Dが材料上面に接して突出部周囲を押さえたのち、パンチ340Bの先端部をフープ材310Aの上面に押し付けることができる。非磁性溶融部207の突出部207cはパンチ340Bの先端平面により潰される。
【0062】
ここで、パンチ340Bにおいて先端部の停止位置は、(磁性板材201Aの厚さ)+(20~60)μm程度に調整可能である。
パンチ先端部の停止位置を上述の範囲としておくならば、先のレーザー照射により形成した非磁性溶融部207の突出部207c(突出高さ約100μm)の上部側を確実に潰すことができる。非磁性溶融部207の突出部207cを潰すことにより、
図5に示す形状の非磁性溶融部206を形成することができる。また、上述のパンチ340Bを用いて潰した結果として、突出部207cの突出高さを60μm以下、例えば、20~60μm程度の突出部206cに確実に加工できる。
なお、一般的なパンチを有するプレス加工装置において加工可能な精度として±5μm程度の精度は容易に確保できるので、この精度を維持しつつ20~60μm程度の高さの突出部206cを作製できる。
【0063】
なお、パンチ340B先端部とストリッパプレート(プレート部)340Dに段差を設けないようにパンチ高さを設定した場合は、非磁性溶融部207の突出部207cを完全に根本部分から全部押し潰すこととなる。この場合、突出部207cが横に逃げながら潰れるおそれがあること、突出部207cが部分的に破損するおそれがあること、突出部207cが損壊して破片となり、周囲に飛び散るおそれがあること、などが考えられる。パンチ340Bやダイ340Aの周囲に破片が付着すると、プレス加工に伴いフープ材310Aの一部に打痕を与えるおそれがあり、不良品のステータを生産するおそれがある。仮に、破片を付着させたままステータを時計のムーブメントに組み込むと、破片が時計のムーブメントの内部に侵入するおそれがあり、時計の動作に支障を来すおそれがある。
押圧部範囲のみパンチを分割する金型構造にして非磁性溶融部207の突出部207cを部分的に潰すことで、突出部207cの破損や損壊を防止し、破片が生じないようにプレス加工することが好ましい。押圧部範囲のみパンチ構造とすることにより、突出部207cをプレス加工する場合に、横方向に流動する体積分も考慮した厚み方向の空間を確保しつつ押圧できることとなり、プレス加工に伴う不良品発生防止効果を奏する。
【0064】
以上により、
図5に示すように、磁性板材201Aの一方の表面201a側から他方の表面201b側に向かうにつれて断面積が徐々に小さくなる非磁性溶融部206を形成できる。また、非磁性溶融部206の上部側に表面201aからの突出高さ60μm以下の突出部206cを形成でき、磁気結合部201cを形成できる。
なお、パーマロイ等によって構成される磁性板材201Aの母材の硬度に対し、クロムを溶融拡散させて生成した非磁性溶融部206の硬度は若干低くなる。このため、パンチ340Bでプレス加工を行い、突出部207cを潰す場合、母材側の変形量を少なくし、主に非磁性溶融部207の突出部207cを潰して突出高さの低い突出部206cを形成できる。
【0065】
以上説明のステータ201は、先に説明した通り、ステッピングモータ7をアナログ電子時計に用いる場合、
図2に示すようにステータ201と磁心208は、ネジ220によってムーブメント82の地板51に固着され、互いに接合される。
ステータ201に形成した突出部207cの突出高さが仮に100μm程度ある場合、ステータ201の上側に設置される輪列と干渉し、運針異常を引き起こすおそれがある。また、レーザー照射の方向を調節することで突出部207cを設ける位置をステータの反対側(下側)の面とすることも可能であるが、その場合はステータ201を支持する地板51と突出部207cの干渉が問題となり、ステータ201を安定支持できなくなるおそれがある。
これらに対し、突出部206cの高さを60μm以下、例えば、20~60μm程度にできるならば、輪列との干渉を引き起こすことがなく、地板51との干渉も引き起こすことがないステータ201を提供できる。
【0066】
また、パンチ340Bの押圧面を鏡面あるいは微鏡面など、平均粗さの小さい平滑面、あるいは、研削加工仕上げ程度の平滑面としておくならば、パンチ340Bにて潰して形成した平坦部206dに関し、光沢を有するプレス面とすることができる。
この平坦部206dは、光沢を有するので検査工程において平坦部206dの存在を光学的に確認することができる。例えば、光学カメラなどの撮影装置で光学検査する場合、光沢位置の存在を確認することで、パンチ340Bによるプレス加工が確実に行われたか否か、正確に検査できる。
光学検査の場合、例えば検査光を照射し、50%以上の反射光が戻る場合、より好ましくは80%以上の反射光が戻る場合は光沢を有するプレス面があると確認できる。
【0067】
プレス装置340の後段側に設けられているプレス打抜装置342は、フープ材310Aのガイド穴312、313の位置を基準とし、
図8に示すように例えばクロム重量比15%以上となった箇所(溶融拡散領域)をステータ201の幅狭部210、211となるように、プレス打ち抜きを行う。
図8は、本実施形態に係るステータ201のプレス打ち抜き前のフープ材310Aを示す平面図である。なお、
図7に示すステータ201’は、第4製造工程による磁性焼鈍前のステータである。
図8において、符号201’’は、ステータ201’のプレス打ち抜きを行う位置を示している。なお、プレス打ち抜きは、非磁性領域の一部を打ち抜き、ステッピングモータ7用のロータ202を囲む形状に加工する。すなわち、第3製造工程によって、ロータ用貫通孔203も同時に形成することができる。
これにより、幅狭部と、それ以外の箇所とで、クロム重量比が異なるステータ201’の外形が完成する。
【0068】
(第4製造工程 磁性焼鈍)
第4製造工程では、製造システム300が、焼鈍炉351を備えている。
焼鈍炉351は、ステータ201’に対して高温アニール(焼鈍)処理を行う。これにより、第3製造工程のプレス加工による残留応力の除去・緩和を行う。
【0069】
製造システム300は、上記の第1製造工程から第4製造工程によって、
図3に示したステータ201を製造する。
以上の製造工程で製造したステータ201によれば、非磁性領域の形成時にレーザーの照射による熱変形を低減することができる。
【0070】
以上説明のように製造されたステータ201は、
図2を基に先に説明したようにステッピングモータ7に組み込まれ、
図1に示すように時計1のムーブメント82に組み込まれる。
本実施形態では、非磁性溶融部206を設けた領域が非磁性溶融部206とそれに隣接する磁気結合部201cで連続一体化されているので、非磁性溶融部206を設けた部分に機械的に弱い部分を有していない。よって、非磁性溶融部206を設けた領域に強度的に弱い部分を有しないステータ201を提供できる。
また、非磁性溶融部206の底部側に磁気結合部201cを有するので磁気結合部201cの存在により磁気的に安定したステータ201を提供できる。また、磁性板材201Aの一方の表面201a側から厚さ方向に沿って他方の表面201b側に向かうにつれて断面積が小さくなる非磁性溶融部206を有する構造であれば、非磁性溶融部206の底部側の窄まった部分において磁気的な近接効果が生じ、磁気的安定性を高めたステータ201を提供できる。
【0071】
「ステータの第2実施形態」
図9は、第2実施形態のステータ301を製造する場合に用いる磁性板材301Aを示すもので、この磁性板材301Aは先の第1実施形態で用いた磁性板材201Aと同等のパーマロイなどの高透磁率材料からなる。
第2実施形態の磁性板材301Aの上面には断面視三角溝型の凹部301Bが形成されている。この凹部301Bを形成する位置は、
図8に示すフープ材310Aにおいてクロムペーストを塗布する領域331に対応させて設ける。更に詳細には、
図7に示すプレス打ち抜き加工においてステータ201の幅狭部210、211を打ち抜き形成する位置に対応させて設けられる。
【0072】
図10に凹部301Bの平面視形状の一例を示す。長辺側の斜面301d、301dと短辺側の斜面301e、301eを有する三角溝型の凹部301Bが磁性板材301Aの表面側に形成されている。凹部301Bの深さは磁性板材301Aの30~40%程度が好ましい。これより深い凹部を形成すると、レーザー照射により非磁性溶融部が磁性板材の反対側の面にまで到達するおそれがある。
凹部301Bを形成した磁性板材301Aを用いて
図7に示す第1製造工程~第4製造工程を施すと、
図11に示す断面構造の非磁性溶融部306を有するステータを得ることができる。
レーザー照射によりクロムペーストを溶融させ、凹部301Bの底面側から磁性板材301Aの母材側に溶融クロムを拡散させることで、
図11に示す非磁性溶融部306を形成することができる。
【0073】
この非磁性溶融部306においても、第1実施形態の非磁性溶融部206と類似の構成とすることができる。即ち、磁性板材301Aの一方の表面301a側から他方の表面301b側に向かうにつれて断面積が徐々に小さくなる非磁性溶融部306を形成できる。また、非磁性溶融部306の上部側に突出部306cと突出高さ60μm以下の平坦部306dを形成できるとともに、磁性板材301Aにおいて非磁性溶融部306の下方側に磁気結合部301cを形成できる。
【0074】
第2実施形態の構造では、予め凹部301aを形成してからクロムペーストを塗布し、レーザー照射するので、レーザー照射により磁性板材301Aの上面側に突出する突出部の高さを凹部301aの容積に応じてできるだけ低く調整することができる。
いずれにしても、レーザー照射により磁性板材301Aの表面側に生成した突出部を潰すようにパンチでプレス加工するならば、第1実施形態と同様に、平坦部306dを有する構造の非磁性溶融部306を得ることができる。
【0075】
また、
図7に基づき説明したようにクロムペーストを塗布後、フープ材310の状態の磁性板材をレーザー照射装置324まで搬送する。ここでクロムペーストが定着不良状態であると、クロムペーストが剥離する問題がある。この点、凹部301aにクロムペーストを塗布するならば、クロムペーストの剥離を防止しながらフープ材310の状態の磁性板材をレーザー照射装置324まで確実に搬送することができる。クロムペーストの定着が充分になされていない場合、搬送途中でクロムペーストが剥離するおそれがあるが、凹部301aを設けることでクロムペーストの剥離の問題を回避できる。
【0076】
なお、
図2~
図11を基に説明した例では、ステッピングモータ7が1コイルモータであり、これに合わせたステータ201を適用する例について説明したが、ステッピングモータは1コイルモータに限られない。例えば、ステッピングモータは、2コイルモータであってもよい。
【0077】
「非磁性溶融部の断面写真」
38パーマロイからなる厚さ0.5mmの磁性板材の片面に塗布されたクロムペーストに対してレーザー照射を行い、クロムを磁性板材内部側に溶融拡散し、クロムを15重量%以上とした非磁性溶融部を形成するとともに、非磁性溶融部の突出部(高さ約100μm)をプレス装置のパンチで潰した構造(突出部高さ約20μm)の断面写真を
図12に示す。また、プレス装置で非磁性溶融部を潰す以前の構造の断面写真を
図13に示す。
図12、
図13を対比して明らかなように、プレス装置のパンチにより非磁性溶融部の突出部を潰して背の低い突出部を形成できることがわかる。また、潰して形成した突出部の上面側に平坦部を形成できることも明らかである。
【符号の説明】
【0078】
1…時計、7…ステッピングモータ、11…輪列、51…地板、82…ムーブメント、201…ステータ、201A…磁性板材、201a…表面、201b…表面、202…ロータ、203…ロータ用貫通孔、204…切り欠き部、205…切り欠き部、206、306…非磁性溶融部、201c、301c…磁気結合部、206c、306c…突出部、206d…平坦部、208…磁心、209…コイル、210、211…幅狭部、311…クロムペースト塗布領域、324…レーザー照射装置、340…プレス装置(押圧機器)、340B…パンチ、340D…ストリッパプレート(プレート部)、R…磁路。