IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-シール付き転がり軸受 図1
  • 特許-シール付き転がり軸受 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】シール付き転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/06 20060101AFI20240306BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20240306BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20240306BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20240306BHJP
【FI】
F16C19/06
F16C33/80
F16J15/447
F16J15/3204 201
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020052562
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152379
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】川口 隼人
(72)【発明者】
【氏名】和久田 貴裕
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-242033(JP,A)
【文献】実開平02-121625(JP,U)
【文献】実開昭49-124444(JP,U)
【文献】特開2002-213465(JP,A)
【文献】特開2018-54024(JP,A)
【文献】特開2019-19894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00
-19/56
F16C 33/30
-33/66
F16C 33/80
F16J 15/40
-15/453
F16J 15/54
-15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪(2)と外輪(3)間に、転動体設置領域(8)を封止するシール部材(6)を配置し、さらに、前記転動体設置領域(8)の両側にそれぞれ設けられた前記シール部材(6)の外側に、軸受幅の中に納まるサイズのスリンガ(7)を内輪(8)で支持して設け、そのスリンガ(7)で、外部の飛散泥水等の軸受内部への入り込みを防ぐようにしたシール付き転がり軸受であって、
前記スリンガ(7)を、内径側と外径側が内向きに屈曲したものにして内径側屈曲部(7b)を前記内輪(2)の外周に圧入し、外径側屈曲部(7c)と前記外輪(3)の内径面との間に、軸受の軸方向経路長さがスリンガ(7)の素材厚み(t)よりも長いラビリンス部(9)を形成し、
前記シール部材(6)が芯金(6a)に補強されたゴムシールであり、そのゴムシールは、外側面に軸受の軸方向に突出するサイドリップ(6b)を有し、そのサイドリップ(6b)は、先端が前記スリンガ(7)の外径側屈曲部(7c)の内側に入り込んでおり、そのサイドリップ(6b)と前記スリンガ(7)の主体部(7a)の内側面との間にラビリンス部(11)が形成されており、
前記サイドリップ(6b)に型抜きテーパ(α、β)が付され、そのサイドリップ(6b)の内径側の面と外径側の面が軸受の軸心と平行な基準線(L1、L2)に対して前記サイドリップ(6b)がその突出する方向に先細りするように相反する向きに傾いており、
外径側の前記型抜きテーパ(α)の面の傾き角が、内径側の前記型抜きテーパ(β)の面の傾き角よりも小さいシール付き転がり軸受。
【請求項2】
前記シール部材(6)が、前記サイドリップ(6b)を径方向に位置を変えて複数備える請求項1に記載のシール付き転がり軸受。
【請求項3】
前記スリンガ(7)がプレス成形品である請求項1または2に記載のシール付き転がり軸受。
【請求項4】
前記スリンガ(7)が冷間圧延材で形成された請求項1~3の何れか1項に記載のシール付き転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車のエンジン補機プーリ用深溝玉軸受などとして利用するシール付き転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
道路状況や気候などが自動車にとって過酷な新興国などの市場では、自動車が水没走行やエンジンルームの高圧洗浄がなされるなど、非常に厳しい環境下で使用される。
【0003】
そのため、首記のエンジン補機プーリ用軸受には、高いシール性能が求められる。その要求に応える軸受として、下記特許文献1、2などに示されるシール付き転がり軸受が知られている。
【0004】
特許文献1のシール付き転がり軸受(転がり軸受の密封装置)は、外輪回転の軸受であって、内輪と外輪間に、転動体の設置空間を封止するシール部材を設置し、さらに、そのシール部材の外側に、軸受幅の中に納まるサイズのスリンガを内輪で支持して設け、そのスリンガで、外部の飛散泥水が軸受の内部に入り込むことを防ぐようにしている。
【0005】
また、先端(突端)側が外輪に近づく方向に傾斜したサイドリップをシール部材の外側面に設け、そのサイドリップの先端とスリンガの内側面との間に泥水等を流入し難くするラビリンス部を形成してシール性を向上させている。
【0006】
特許文献2のシール付き転がり軸受(転がり軸受の密封装置)は、特許文献1の軸受と同様に、シール部材とスリンガを併設しているが、ラビリンス部を形成する代りにシール部材を2重に配置しており、この点が、特許文献1の軸受と相違する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-145018号公報
【文献】実開平4-50724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の軸受は、スリンガの径方向外端の縁を外輪の内径面に対面させているが、この構造では、スリンガの径方向外端と外輪との間に形成される隙間(これは泥水等の浸入経路となる)の軸受軸心方向の長さ(経路長)がスリンガの素材厚み分しか確保されないため、シール性を向上するのに限界がある。
【0009】
そこで、特許文献1の軸受は、シール部材にサイドリップを設け、そのサイドリップとスリンガとの間にラビリンス部を作り出すことで泥水等を通り難くする浸入抑制箇所の数を増やしている。
【0010】
しかしながら、サイドリップがスリンガとの間に作り出しているラビリンス部は1箇所のみであるため、スリンガと外輪との間の隙間から流入した泥水などがラビリンス部からスリンガの内側に浸入してスリンガとシール部材の間の空間に溜まり、滞留した泥水などが、シール部材によるシール部から転動体の設置空間に浸み込む可能性があり、シールの信頼性が充分でない。
【0011】
特許文献2の軸受は、シール部材を2重に配置しているので、シール性は特許文献1の軸受よりも優れると思われるが、シール部材を2重にしたことで部品数が増加し、軸受幅の不可避の増加も避けられず、コストアップの抑制や軸受の小型化の要求に応えられない。
【0012】
なお、特許文献1の軸受は、シール部材の外側面に設けるサイドリップを、先端側が外輪に近づく方向に傾斜させているので、ゴムで形成されるシール部材を金型で成形した際の離型が難しく、シール部材の成形性も良くない。
【0013】
この発明は、シール付き転がり軸受を、スリンガと外輪との間に従来の軸受よりも泥水等の流入が起こり難い浸入抑制箇所が形成され、部品数の増加や軸受幅の増加も招かないものにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題の解決を解決するため、この発明においては、内輪と外輪間に、転動体設置領域を封止するシール部材(シール又はシールド)を配置し、さらに、前記転動体設置領域の両側にそれぞれ設けられた前記シール部材の外側に、軸受幅の中に納まるサイズのスリンガを内輪で支持して設け、そのスリンガで、外部の飛散泥水等の軸受内部への入り込みを防ぐようにしたシール付き転がり軸受を改善の対象にして、
前記スリンガを、内径側と外径側が内向きに屈曲したものにして内径側屈曲部を前記内輪の外周に圧入し、外径側屈曲部と前記外輪の内径面との間に、軸受の軸方向経路長さがスリンガの素材厚みよりも長いラビリンス部を形成した。
【0015】
このシール付き転がり軸受の好ましい形態を以下に列挙する。
1)前記シール部材が芯金に補強されたゴムシールであり、そのゴムシールは、外側面に軸受の軸方向に突出するサイドリップを有し、そのサイドリップは、先端が前記スリンガの外径側屈曲部の内側に入り込んでおり、そのサイドリップと前記スリンガの主体部の内側面との間にラビリンス部が形成されたもの。
2)前記サイドリップに型抜きテーパが付され、そのサイドリップの内径側の面と外径側の面が軸受の軸心と平行な基準線に対して相反する向きに傾いているもの。
3)前記シール部材が、前記サイドリップを径方向に位置を変えて複数備えたもの。
4)前記スリンガがプレス成形品であるもの。
5)前記スリンガが冷間圧延材で形成されたもの。
【発明の効果】
【0016】
この発明のシール付き転がり軸受は、スリンガの外径側を内向きに屈曲させてその外径側屈曲部と外輪の内径面との間に軸受の軸方向経路長さがスリンガの素材厚みよりも長いラビリンス部を作り出したので、そのラビリンス部における泥水等の流入抵抗が既述の特許文献1に記載された軸受よりも大きくなる。
【0017】
また、前記外径側屈曲部の先端を外輪の内径面に形成される環状突起(シール嵌め込み溝を作り出すための突起)に近づけてその先端と環状突起との間に前記スリンガの外径側屈曲部と外輪の内径面との間に作り出したラビリンス部よりも通路面積の小さなラビリンス部を形成することができ、これ等によってシール性が向上する。
【0018】
また、シール部材は軸受の片側に各1個あればよく、部品数の増加が無い。軸受の片側におけるシール部材の設置数を各1個とすることで軸受幅の増加が抑えられ、前記特許文献2の軸受に比べてコンパクト化が図れる。
【0019】
前記1)の形態のシール付き転がり軸受は、ゴムシールに設けたサイドリップがスリンガの外径側屈曲部の内側に入り込んでいることによって外部からの泥水等の浸入経路が蛇行し、その蛇行により浸入経路の経路長がより増加し、浸入した泥水等の流れも複雑になってシール性がさらに良くなる。
【0020】
前記サイドリップを同一シール部材に複数設けた前記3)の形態のものは、泥水等の浸入抑制箇所の数が増加し、そのために、シール性がより高まる。
【0021】
また、サイドリップに型抜きテーパを付した前記2)の形態のものは、金型の離型が円滑になってゴムシールの射出成形が容易になる。
【0022】
このほか、前記4)、5)のスリンガを用いたものは、スリンガの量産性に優れ、製造コストの上昇が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明のシール付き転がり軸受の一例の要部を示す断面図である。
図2図1のシール付き転がり軸受のスリンガとシール部材に設けたサイドリップの位置関係を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面の図1及び図2に基づいて、この発明のシール付き転がり軸受の実施の形態を説明する。
【0025】
図1に示すように、例示のシール付き転がり軸受1は、両面シール型の深溝玉軸受であって、内輪2と、外輪3と、内外輪間に介在される転動体4と、その転動体4を保持する保持器5と、2個のシール部材6と、2個のスリンガ7を組み合わせたものになっている。
【0026】
シール部材6は、内輪2と外輪3間の転動体設置領域8の両側にそれぞれ1個設けられている。例示のシール部材6は、補強用の芯金6aを含んだゴムシールであって、回転する外輪3に取付けられている。このゴムシールの外側面には、周方向に連続したサイドリップ6bが軸受の軸方向に突出して設けられている。
【0027】
例示のシール部材6には、そのサイドリップ6bが径方向に位置をずらして複数設けられているが、サイドリップ6bの設置数は特に限定されない。
【0028】
スリンガ7は、各シール部材6の外側に設置されている。図示のスリンガ7は、冷間圧延材をプレス成形して作られたものであって、主体部7aが平板状をなし、内径側と外径側は、主体部7aの内端と外端から内向きに屈曲して転動体設置領域8側に延びている。
【0029】
このスリンガ7の内径側屈曲部7bと外径側屈曲部7cは、軸受の軸心と平行な円環状のストレート部となっており、固定配置にして使用される内輪2の外周に内径側屈曲部7bが圧入されてスリンガ7が内輪2に保持されている。
【0030】
一方、外径側屈曲部7cは、外輪3の内径面に可及的に近接した位置にあって、その外径側屈曲部7cの外径面と外輪3の内径面との間に軸受の軸方向経路長さがスリンガ7の素材厚みt(図2参照)よりも長いラビリンス部9が形成されている。
【0031】
また、外径側屈曲部7cの先端は、外輪3の内径面に形成された環状突起3aに可及的に近づけてあり、環状突起3aと外径側屈曲部7cの先端との間にラビリンス部9よりも通路面積の小さなラビリンス部10が形成されている。
【0032】
環状突起3aは、外輪3の内径部にシール部材6の基端部を支持するためのシール嵌め込み溝3bを作り出す目的で設けられた突起である。
【0033】
シール部材6に設けられたサイドリップ6bは、先端側がスリンガ7の外径側屈曲部7cの内側に寸法B(図2参照)入り込んでおり、そのサイドリップ6bの先端とスリンガ7の主体部7aの内側面との間にもラビリンス部11が形成されている。
【0034】
サイドリップ6bの先端側をスリンガ7の外径側屈曲部7cの内側に入り込ませると、サイドリップ6bとスリンガ7の外径側屈曲部7cが、寸法B相当量オーバラップする状況が作り出され、外部からの泥水等の浸入経路(ラビリンス部10からシール部材6のメインリップ6cが内輪2に摺接する部位に至る間の経路)が蛇行し、その蛇行により浸入経路の経路長が増加し、浸入した泥水等の流れも複雑になる。
【0035】
また、スリンガ7の主体部7aとの間にラビリンス部11が形成されて浸入抑制箇所の数も増える。そのために、シール性がさらに良くなる。
【0036】
ラビリンス部11の図2における通路幅Cは、スリンガ7の外径側屈曲部7cの軸受軸方向寸法をAとすると、C=(A-B)となる。図はラビリンス部11の通路幅Cを誇張して示している。その通路幅Cは、サイドリップ6bがスリンガの主体部7aに接触することによる回転トルクの上昇を抑えるために、軸受内部の隙間や組立誤差を考慮した上で、C≧0に設定して主体部7aに対するサイドリップ6bの接触を防止する。
【0037】
シール部材6のサイドリップ6bは、図に示すように、型抜きテーパα、βの付されたものがよい。型抜きテーパα、βは、軸受の軸心と平行な基準線L1、L2に対するサイドリップ6bの外径側の面と内径側の面の傾き角である。その型抜きテーパα、βを付与したサイドリップ6bは、外径側の面と内径側の面が相反する向きに傾く。
【0038】
外径側の面の傾き角(テーパα)は、その外径側の面上に流れ落ちた泥水等の面上での流下速度を低下させるために、内径側の面の傾き角(テーパβ)よりも小さくするのが好ましい。テーパαの好ましい値は5°以下である。
【0039】
また、テーパβは、15°以上、より好ましくは20°以上にするのがよい。その設定により、外径側の面上を流れてサイドリップ6bの先端に至った泥水等は内径側の面を伝ってサイドリップ6bの根本側に流れ、サイドリップ6bの先端からの真下への滴り落ちが抑制される。これに加え、テーパβが大きいと、一度シール部材6とスリンガ7との間に入った泥水が遠心力で排出され易くなる。
【0040】
その型抜きテーパα、βを付すと、ゴムシールのシール部材6を射出成形するときの金型の離型が円滑になされ、シール部材6(ゴムシール)の製造が容易になる。
【0041】
ゴムシールのシール部材6に設けるサイドリップ6bは、図示したように、1個のゴムシールに対して径方向に位置を異ならせて複数設けるのがよい。
【0042】
サイドリップ6bの設置数が多くなるほど浸入抑制箇所の数が増えてシール性の向上効果が高まる。
【0043】
なお、例示のシール部材6はゴムシールであるが、そのシール部材6は、シールド軸受に採用される硬質樹脂や金属製のシールドを用いてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 シール付き転がり軸受
2 内輪
3 外輪
3a 環状突起
3b シール嵌め込み溝
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
6a 芯金
6b サイドリップ
6c メインリップ
7 スリンガ
7a 主体部
7b 内径側屈曲部
7c 外径側屈曲部
8 転動体設置領域
9、10、11 ラビリンス部
A スリンガの外径側屈曲部の軸受軸方向寸法
B サイドリップ先端側のスリンガ外径側屈曲部の内側への入り込み寸法
C サイドリップの先端とスリンガの主体部との間に形成されるラビリンス部の通路幅
t スリンガの素材厚み
α、β 型抜きテーパ
L1、L2 型抜きテーパの基準線
図1
図2