(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】液化水素貯留方法および液化水素貯留システム
(51)【国際特許分類】
F17C 13/00 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
F17C13/00 302D
(21)【出願番号】P 2020082361
(22)【出願日】2020-05-08
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上地 拓摩
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴裕
【審査官】田中 一正
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-057787(JP,A)
【文献】特開昭59-054900(JP,A)
【文献】実開昭58-063498(JP,U)
【文献】特開2000-170997(JP,A)
【文献】実開平06-030600(JP,U)
【文献】特開2017-207085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化水素タンクに液化水素を貯留するための液化水素貯留方法であって、
前記液化水素タンクに液化窒素を導入して、前記液化水素タンク内を予め冷却し、前記液化水素タンク内の酸素を除去する酸素除去工程と、
酸素が除去された前記液化水素タンクに前記液化水素を導入する液化水素導入工程と、を含
む、液化水素貯留方法。
【請求項2】
前記液化水素導入工程において、前記液化水素を導入する前に、前記液化水素を気化させた低温ガスを導入する、請求項1に記載の液化水素貯留方法。
【請求項3】
前記低温ガスの温度は、前記酸素除去工程終了時の温度を含む所定範囲内の温度である、請求項
2に記載の液化水素貯留方法。
【請求項4】
前記液化窒素は、前記液化水素タンクの下部から導入する、請求項
1から3の何れかに記載の液化水素貯留方法。
【請求項5】
液化水素タンクに液化水素を貯留するための液化水素貯留システムであって、
前記液化水素タンク内を予め冷却し、前記液化水素タンク内の酸素を除去するために前記液化水素タンク内に液化窒素を導入する液化窒素導入部と、
前記液化水素タンク内に導入された前記液化窒素を除去するために前記液化水素タンク内に前記液化水素を気化させた低温ガスを導入する低温ガス導入部と、
前記液化水素を導入する液化水素導入部と、を備えた、液化水素貯留システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化水素タンクに液化水素を貯留するための液化水素貯留方法および液化水素貯留システムに関する。
【背景技術】
【0002】
液化水素タンクに液化水素を導入する場合には、まず、液化水素タンク内の酸素および水分を除去する工程が必要である。この工程は、液化水素タンク内の酸素濃度を、可燃性の液化水素の燃焼条件よりも十分に下げること、および、液化水素タンク内が、液化水素が導入されることにより低温になった際、液化水素タンクに設けられる各種バルブ、または計器類等に残留水蒸気が凝結し、機能不全を生じないように、液化水素タンク内の露点を十分下げることを目的としている。
【0003】
従来は、酸素および水分除去の工程の後、液化水素タンクに液化水素を導入しているが、液化水素の導入時において、液化水素タンク内は常温であるため、常温の液化水素タンク内に直接液化水素を導入すると、液化水素の貯留時に液化水素タンクに局部的な熱収縮による亀裂または変形等が生じる恐れがある。このような低温タンクの亀裂または変形等の問題に関し、例えば下記特許文献1には、低温タンクのクールダウン方法として、液化ガスの気化熱で低温タンクを冷却し、気化したガスを排出する工程を設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような方法を液化水素タンクへの液化水素の導入に適用しても、液化水素の導入開始後も液化水素タンクが十分に冷却されるまでは、液化水素を液化水素タンク内に貯留することができず、外部に排出され、消費されてしまう。
【0006】
特に、液化水素タンクの容量を大きくしようとすると、液化水素タンク内の冷却のために消費される液化水素の量が増大する。液化水素は、流通量が少なく、単価が高いため、液化水素によって液化水素タンクを冷却する従来の態様は、コストの低減を図ることができない。また、このような液化水素は、可燃性であるため、大気放出量を抑制することが望ましい。
【0007】
そこで本発明は、液化水素タンク内を液化水素が貯留される温度まで冷却する際に、液化水素が気化により消費される量を低減することができる液化水素貯留方法および液化水素貯留システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態に係る液化水素貯留方法は、液化水素タンクに液化水素を貯留するための液化水素貯留方法であって、窒素を用いて前記液化水素タンク内の酸素を除去する酸素除去工程と、酸素が除去された前記液化水素タンクに前記液化水素を導入する液化水素導入工程と、を含み、前記液化水素タンクに前記液化水素を導入する前に、前記液化水素タンク内を予め冷却する。
【0009】
上記方法によれば、液化水素タンクに液化水素を導入する前に液化水素タンク内が予め冷却される。このため、液化水素タンクに液化水素を導入する際、液化水素タンクを冷却するために消費される液化水素の量が低減する。したがって、液化水素タンク内を液化水素が貯留される温度まで冷却する際に、液化水素が気化により消費される量を低減することができる。
【0010】
本発明の他の態様に係る液化水素貯留システムは、液化水素タンクに液化水素を貯留するための液化水素貯留システムであって、前記液化水素タンク内の酸素を除去するために前記液化水素タンク内に液化窒素を導入する液化窒素導入部と、前記液化水素タンク内に導入された前記液化窒素を除去するために前記液化水素タンク内に前記液化水素を気化させた低温ガスを導入する低温ガス導入部と、前記液化水素を導入する液化水素導入部と、を備えている。
【0011】
上記構成によれば、液化水素タンク内の酸素を除去するために液化窒素が導入されることにより、液化水素タンク内を液化窒素で冷却しながら、液化水素タンク内の酸素が除去される。したがって、液化水素を導入する前に、液化水素タンク内が予め冷却されるため、液化水素を導入する際に、液化水素が気化により消費されることが抑制される。さらに、液化窒素を導入することにより酸素が除去された後、液化水素を導入する前に、酸素除去の際に気化した窒素が、低温ガスで除去される。これにより、窒素の除去に液化水素を使用する必要がなくなるため、液化水素の消費を抑えることができる。したがって、液化水素タンク内を液化水素が貯留される温度まで冷却する際に、液化水素が気化により消費される量を低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液化水素の消費を抑制しつつ液化水素タンクに液化水素を適切に導入することができる液化水素貯留方法および液化水素貯留システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る液化水素貯留システムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1のシステムにおける液化水素導入方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、
図2のフローチャートに従って液化水素タンクに導入される冷媒および液化水素タンクから排出されるガスの流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら一実施の形態について説明する。なお、全ての図を通じて、同一のまたは対応する要素には同一の符号を付して重複する詳細な説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態に係る液化水素貯留システムの概略構成を示す図である。
図1に示すように、液化水素貯留システム(以下、貯留システム)100は、液化水素タンク1の内部空間13に液化水素(以下では、LH
2と表記する場合がある)を貯留するシステムである。貯留システム100は、液化水素を内部空間13に充填する前に、液化水素タンク1の内部空間13に存在する酸素および水分を除去し、内部空間13を冷却する機能を有している。
【0016】
液化水素タンク1は、断熱性を高めるため、二重殻構造を有している。液化水素タンク1は、外槽11と、外槽11に収容されて内部空間13を形成する内槽12とを有している。一例として、液化水素タンク1(外槽11)は球状に形成され、内槽12も球状に形成される。外槽11の内面と内槽12の外面との間には、槽間空間14が形成される。槽間空間14は、真空状態に維持され、内部空間13を液化水素タンク1の外部に対して真空断熱する。
【0017】
外槽11および内槽12は、いずれも耐圧壁で構成されている。例えば、外槽11は、大気圧と槽間空間14の圧力との間の差圧に耐えるために内槽12よりも耐圧性能が高く構成されている。ただし、内槽12が外槽11よりも耐圧性能が高く構成されていてもよい。槽間空間14には、外槽11の内面と内槽12の外面とに架け渡される複数のロッド(図示せず)が設けられていてもよい。
【0018】
貯留システム100は、液化水素タンク1に液化水素(LH2)を導入する液化水素導入部2を備えている。液化水素導入部2は、外部から液化水素を引き込む第1引込口21と、液化水素タンク1内において、引き込んだ液化水素を吐出する第1吐出口22と、それらを繋ぐ液化水素導入配管23を備えている。第1吐出口22は、液化水素タンク1の内部空間13の上部に設けられる。液化水素導入配管23には、液化水素の流通または不通を切り替える第1開閉弁24が設けられる。
【0019】
さらに、貯留システム100は、液化水素タンク1に液化水素を気化させた低温ガス(低温の水素ガス。以下ではGH2と表記する場合がある)を導入する低温ガス導入部3を備えている。低温ガス導入部3は、第1引込口21から引き込んだ液化水素を気化させる気化器25を備えている。本実施の形態において、気化器25で生成された低温ガスは、第1吐出口22から液化水素タンク1内に吐出される。これに代えて、低温ガス専用の吐出口が設けられてもよい。気化器25と第1吐出口22とは、低温ガス導入配管26により接続されている。低温ガス導入配管26には、低温ガスの流通または不通を切り替える第2開閉弁27が設けられる。
【0020】
さらに、貯留システム100は、液化水素タンク1に液化窒素(以下、LN2と表記する場合がある)を導入する液化窒素導入部4を備えている。液化窒素導入部4は、外部から液化窒素を引き込む第2引込口28と、液化水素タンク1内において、引き込んだ液化窒素を吐出する第2吐出口29と、それらを繋ぐ液化窒素導入配管30とを備えている。第2吐出口29は、液化水素タンク1の内部空間13の下部に設けられる。液化窒素導入配管30には、液化窒素の流通または不通を切り替える第3開閉弁31が設けられる。
【0021】
さらに、貯留システム100は、後述する酸素除去工程において、液化水素タンク1から酸素および窒素ガス(GN2)を排出(排気)するための第1排出配管32を備えている。第1排出配管32は、一端部が液化水素タンク1の内部空間13の上部に位置し、他端部が外部に位置するように、配設される。第1排出配管32には、第1排出配管32内の酸素濃度を計測する第1計測器(O2センサ)33が設けられる。
【0022】
さらに、貯留システム100は、後述する低温ガス導入工程において、液化水素タンク1から窒素ガス(GN2)を排出(排気)するための第2排出配管34を備えている。第2排出配管34は、一端部が液化水素タンク1の内部空間13の下部に位置し、他端部が外部に位置するように、配設される。第2排出配管34には、第2排出配管34内の水素ガス濃度を計測する第2計測器(H2センサ)35が設けられる。
【0023】
さらに、貯留システム100は、後述する液化水素導入工程において、液化水素タンク1から水素ガス(GH2)を排出(排気)するための第3排出配管36を備えている。第3排出配管36は、一端部が液化水素タンク1の内部空間13の下部に位置し、他端部が外部に位置するように、配設される。なお、図示していないが、各排出配管32,34,36のそれぞれにも開閉弁が設けられる。また、第2排出配管34と第3排出配管36とは、一部の経路が共通の経路となる配管構造としてもよいし、互いに共通の配管としてもよい。
【0024】
さらに、貯留システム100は、制御器5を備えている。制御器5は、各計測器33,35における計測結果を取得し、その結果に基づいて、各開閉弁24,27,31(および各排出配管32,34,36の各開閉弁)の開閉制御を行う。制御器5は、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリおよびI/Oインターフェース等を有する処理回路として構成される。
【0025】
図2は、
図1のシステムにおける液化水素導入方法を示すフローチャートである。また、
図3は、
図2のフローチャートに従って液化水素タンクに導入される冷媒および液化水素タンクから排出されるガスの流れを示す図である。
図3においては、
図1に示す貯留システム100の各構成のうち、各工程(後述するステップS1,S3,S5)において導入される冷媒および排出ガスの流通箇所以外の構成は図示を省略している。
【0026】
本実施の形態における液化水素の貯留方法の開始時点において、液化水素タンク1の内部空間13は、常温で、空気(酸素、窒素および水蒸気等)が存在している。また、事前に、内部空間13の露点温度が所定値になるように、内部空間13の圧力が調整される。
【0027】
まず、窒素を用いて液化水素タンク1内の酸素を除去する酸素除去工程が行われる(ステップS1)。酸素除去工程においては、液化窒素導入部4から液化窒素(LN2)が導入されることにより、液化水素タンク1内の酸素(O2)および水分が除去(パージ)される。制御器5は、第1開閉弁24および第2開閉弁27を閉弁した状態で、第3開閉弁31を開弁し、液化窒素導入配管30から液化水素タンク1の内部空間13に液化窒素を導入する。
【0028】
酸素除去ステップにおいて液化窒素が導入されることにより、液化水素タンク1の内部空間13を液化窒素で冷却しながら、液化水素タンク1の内部空間13の酸素が除去される。内部空間13の下部から導入された液化窒素および内部空間13を冷却することにより気化した低温の窒素ガスは、内部空間13内の残存空気(常温の酸素および窒素)より比重が大きいため、内部空間13の底部から溜まっていき、残存空気を上方へ押し上げる。そのため、内部空間13の上部に設けられた第1排出配管32から残存空気が排出され、効率的な酸素除去が行われる。
【0029】
酸素の除去が完了した状態(酸素濃度が所定の第1基準値未満となった状態)で、内部空間13は、導入された液化窒素がその内部空間13との熱交換(冷却)によって気化することによって生じた低温の窒素ガス(GN2)雰囲気となる。この際、内部空間13の温度は、窒素の沸点よりある程度高い第1予冷温度(例えば約-180℃)となる。
【0030】
制御器5は、第1計測器33で計測される酸素濃度(O2濃度)が第1基準値未満となったかどうかを判定する(ステップS2)。第1基準値は、内部空間13における酸素濃度が液化水素の燃焼条件よりも十分に低いときの値に設定される。なお、第1基準値を設定するための燃焼条件は、内部空間13において予め設定された露点温度に応じて定められる。
【0031】
第1計測器33で計測される酸素濃度が第1基準値未満となった場合(ステップS2でYes)、次の工程に遷移する。次の工程は、液化水素タンク1の内部空間13における低温の窒素ガスを除去する窒素除去工程である。窒素除去工程においては、液化水素(LH2)を気化させた低温ガス(低温水素ガス:GH2)が低温ガス導入部3から液化水素タンク1内に導入されることにより、液化水素タンク1の内部空間13の窒素ガス(GN2)が除去(パージ)される(ステップS3)。
【0032】
制御器5は、酸素除去工程における状態から第3開閉弁31を閉弁する一方、第2開閉弁27を開弁し、低温ガス導入配管26から液化水素タンク1の内部空間13に低温ガスを導入する。気化器25は、第1引込口21から導入された液化水素(LH2)を気化し、所定温度の低温ガス(GH2)として生成する。
【0033】
低温ガスの温度は、酸素除去工程終了時の温度(本実施の形態においては-180℃)を含む所定範囲内の温度である。例えば、低温ガスの温度は、-180±10℃に設定される。これにより、酸素除去時の温度とその後の窒素除去時の温度との差が小さくなるため、液化水素タンク1内の冷却状態を維持しつつ窒素の液化または固化を防止することができる。
【0034】
低温ガスは、内部空間13の上部に設けられた第1吐出口22から噴霧される。内部空間13の上部から導入された低温ガス(GH2)は、内部空間13内の残存窒素(GN2)より比重が小さいため、内部空間13の上部に溜まっていき、残存窒素を下方へ押し下げる。そのため、内部空間13の下部に設けられた第2排出配管34から残存窒素が排出され、効率的な窒素除去が行われる。
【0035】
窒素の除去が完了した状態(水素濃度が所定の第2基準値より高くなった状態)で、内部空間13は、その内部空間13に導入された低温ガス(GH2)雰囲気となる。この際、内部空間13の温度は、低温ガスの導入温度と同等あるいはこれよりある程度高い第2予冷温度(例えば約-180℃~-160℃)となる。
【0036】
制御器5は、第2計測器35で計測される水素濃度(H2濃度)が第2基準値より高くなったかどうかを判定する(ステップS4)。第2基準値は、内部空間13における窒素濃度が十分に低いときの値に設定される。
【0037】
第2計測器35で計測される水素濃度が第2基準値より高くなった場合(ステップS4でYes)、次の工程に遷移する。次の工程は、酸素および窒素が除去された液化水素タンク1の内部空間13に液化水素(LH2)を導入する液化水素導入工程である。液化水素導入工程においては、液化水素(液化水素:LH2)が液化水素導入部2から液化水素タンク1内に導入されることにより、液化水素タンク1の内部空間13の低温ガス(GH2)を除去しつつ、内部空間13に液化水素が貯留される(ステップS5)。
【0038】
制御器5は、窒素除去工程における状態から第2開閉弁27を閉弁する一方、第1開閉弁24を開弁し、液化水素導入配管23から液化水素タンク1の内部空間13に液化水素(LH2)を導入する。
【0039】
液化水素は、内部空間13の上部に設けられた第1吐出口22から噴霧される。内部空間13の上部から導入された液化水素(LH2)は、内部空間13内を、液化水素が貯留可能な温度(液化水素の沸点の温度、すなわち、-252.6℃)近傍の液化水素貯留温度までさらに冷却する。前工程の残存ガス(GH2)は、第3排出配管36から排出される。
【0040】
内部空間13が、液化水素が貯留可能な温度近傍まで冷却されることにより、液化水素が気化することなく内部空間13内に貯留される。
【0041】
上記方法によれば、液化水素タンク1に液化水素を導入する前に、液化水素タンク1内が予め冷却される。このため、液化水素タンク1に液化水素を導入する際、液化水素タンク1を冷却するために消費される液化水素の量が低減する。したがって、液化水素タンク1内を液化水素が貯留される温度まで冷却する際に、液化水素が気化により消費される量を低減することができる。また、上記方法によれば、液化水素タンク1内が段階的に冷却されるため、液化水素タンク1の局部的な熱収縮をより生じ難くさせることができる。
【0042】
また、上記方法によれば、酸素除去工程において、液化窒素により液化水素タンク1内が予め冷却されるため、液化水素を導入する際に、液化水素が気化により消費されることが抑制される。液化水素タンク1内を、常温から液化窒素の沸点に近い第1予冷温度まで冷却するために、液化窒素を用いることで、常温から第1予冷温度までの冷却に液化水素または低温ガスを用いる場合に比べて、冷却効率(冷媒の製造コストを含む)をより高くすることができる。
【0043】
さらに、上記方法によれば、酸素除去工程において液化窒素が導入された後、さらに、酸素除去の際に気化した窒素が低温ガスで除去される。液化水素を導入する前に、液化水素を気化させた低温ガスを導入するため、低温ガスによる冷却後、液化水素タンク1内の冷却剤を別途除去する工程は不要となる。また、低温ガスを導入することにより、酸素除去工程で酸素を除去するために用いられる窒素を低温ガスにより除去することができる。これにより、窒素の除去に液化水素を使用する必要がなくなるため、液化水素の消費を抑えることができる。
【0044】
さらに、従来のように、液化水素タンク1内の酸素を除去するために常温の窒素を導入し、その後、液化水素を導入して窒素を除去する場合では、液化水素タンク1内に充満している窒素の一部が急速に冷却されて窒素が局部的に固化または液化する恐れがある。窒素が液化水素タンク1内で固化または液化すると、固化または液化した窒素が生じた箇所で液化水素タンク1の局部的な熱収縮が生じ易くなる。これに対し、上記方法によれば、液化水素タンク1内の酸素を除去するために液体窒素を導入するため、低温ガスが導入される段階の液化水素タンク1内には低温の窒素ガスが充満していることになる。このため、低温ガスの導入による窒素の急冷を抑制し、窒素が局部的に固化または液化することを防止することができる。
【0045】
従来方法のように、液化水素(LH2)を用いて液化水素タンク1の内部空間13を常温の状態から冷却する場合、液化水素貯留温度まで冷却するのに必要な液化水素量は、内部空間13の容積が大きくなるほど増大する。一方、本実施の形態によれば、液化水素貯留温度まで冷却するのに必要な液化水素量は、例えば従来方法の1/5程度に抑えられると考えられる。
【0046】
なお、本実施の形態においては、窒素の必要量が従来方法に対して増大するが、液化水素(LH2)の製造コストおよび維持管理コストに比べれば、窒素(特に液化窒素)の導入コストの方が低く、システム全体として低コスト化を実現することができる。
【0047】
また、液化水素タンク1が大型化すればするほど、従来方法では液化水素(GH2)の大気放出量が増大し、無視できなくなる。また、液化水素タンク1が大型化すればするほど、従来方法では上述した窒素の固化または液化の問題が顕在化する。これに対し、本実施の形態における導入態様であれば、液化水素タンク1が大型化しても、水素の大気放出量の増大を有効に抑制することができ、また、窒素の固化または液化を防止することができる。したがって、液化水素タンク1を大型化しても、液化水素の消費量の増大を抑制し、かつ、液化水素タンク1内を適切に冷却することができる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0049】
例えば、上記実施の形態においては、液化窒素導入配管30、第2排出配管34および第3排出配管36がそれぞれ別に設けられているが、これらのうちの少なくとも何れか2つを、共通化してもよい。
【0050】
また、上記実施の形態においては、窒素除去工程で導入される低温ガス(GH2)を、液化水素(LH2)を気化器25で気化して生成しているが、これに限られない。例えば、別の設備等において液化水素を冷媒として使用する場合、その設備において液化水素と冷却対象との熱交換によって生じた低温ガスを、低温ガス導入配管26から液化水素タンク1の内部空間13に導入してもよい。
【0051】
また、上記実施の形態においては、酸素濃度を計測する第1計測器33が第1排出配管32内に設けられているが、第1計測器33は、内部空間13内に設けられてもよい。同様に、上記実施の形態においては、水素ガス濃度を計測する第2計測器35が第2排出配管34内に設けられているが、第2計測器35は、内部空間13内に設けられてもよい。
【0052】
また、上記実施の形態においては、酸素除去工程において、液化窒素(LN2)を導入すること、および、窒素除去工程において(液化水素導入工程の前に)、低温ガス(GH2)を導入することの両方を実施している態様を例示したが、液化窒素の導入または低温ガスの導入の何れか一方のみを実施してもよい。
【0053】
また、上記実施の形態においては、球状の液化水素タンク1を例示したが、液化水素タンク1の形状は、円筒状、角型状等、特に限定されない。また、液化水素タンク1のタイプも、例えば、メンブレン方式、自立球方式等、特に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、液化水素タンク内を液化水素が貯留される温度まで冷却する際に、液化水素が気化により消費される量を低減するために有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 液化水素タンク
2 液化水素導入部
3 低温ガス導入部
4 液化窒素導入部
100 液化水素貯留システム