(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】距離検知システム及び距離検知方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/14 20060101AFI20240306BHJP
B61L 23/14 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
G01B11/14 H
B61L23/14 Z
(21)【出願番号】P 2020091270
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】武田 隆史
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-178577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
B61L 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片方が移動する2つの物体の間隔が目標距離になったことを検知する距離検知システムであって、
前記2つの物体のうちの一方の物体に取り付けられ、他方の物体を撮影するカメラと、
前記2つの物体の間隔を前記目標距離にした状態で前記カメラにより撮影された映像のエッジ量に基づいて生成された閾値を予め記憶したメモリと、
前記カメラにより撮影されているライブ映像から所定時間毎にエッジ量を算出し、該エッジ量が前記閾値を超えたか否かを判定する処理を行う処理部とを備え、
前記2つの物体のうちの少なくとも片方を移動させながら前記処理を実行し、前記ライブ映像のエッジ量が前記閾値を超えたと判定されたタイミングを、前記2つの物体の間隔が前記目標距離になったタイミングとして検知
するにあたり、
前記メモリに、撮影場所又は時間の少なくとも一方に対応付けて複数の閾値を記憶させておき、
前記処理部は、前記複数の閾値のうち、前記処理の実行時の撮影場所又は時間に対応する閾値を前記ライブ映像のエッジ量と比較することを特徴とする距離検知システム。
【請求項2】
請求項1に記載の距離検知システムにおいて、
前記カメラは、前記目標距離にピントが合うように調整されていることを特徴とする距離検知システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の距離検知システムにおいて、
前記カメラは、被写界深度が所定値以下になるように調整されていることを特徴とする距離検知システム。
【請求項4】
少なくとも片方が移動する2つの物体の間隔が目標距離になったことを検知する距離検知方法であって、
前記2つの物体の間隔を前記目標距離にした状態で、一方の物体に取り付けられたカメラにより他方の物体を撮影し、その映像のエッジ量に基づいて生成された閾値をメモリに予め記憶させておき、
前記2つの物体の少なくとも片方を移動させながら、前記カメラにより撮影されているライブ映像から所定時間毎にエッジ量を算出し、該エッジ量が前記閾値を超えたか否かを判定
する処理を実行し、前記ライブ映像のエッジ量が前記閾値を超えたと判定されたタイミングを、前記2つの物体の間隔が前記目標距離になったタイミングとして検知
するにあたり、
前記メモリに、撮影場所又は時間の少なくとも一方に対応付けて複数の閾値を記憶させておき、
前記複数の閾値のうち、前記処理の実行時の撮影場所又は時間に対応する閾値を前記ライブ映像のエッジ量と比較することを特徴とする距離検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの物体の間隔が目標距離になったことを検知する距離検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道車両に設置された前方監視カメラを活用して、車両前方にある物体までの距離を検知したいという要望がある。例えば、2つの車両の編成結合(併結)を行う際に、併結する車両間の距離をカメラ映像の解析により検知することが検討されている。
【0003】
前方監視カメラを活用して距離検知を行う方法としては、例えば、併結時の相手方車両が前方監視カメラに映る位置が略一定であることに着目し、カメラ映像における相手方車両の大きさを検出して距離に換算する方法などがある。また、別の例として、一定の距離を置いて2つのカメラを設置しておき、これらのカメラ映像の視差を用いる方法などもある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄道車両の併結時に活用することを目的とした映像解析システムの場合、ある程度リアルタイムにカメラ映像の解析を実施する必要がある。上述した従来の手法でも距離の検知は可能であるが、より素早く且つ正確に距離を検知することができる新たな手法の提案が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、2つの物体の間隔が目標距離になったことを素早く且つ正確に検知することが可能な距離検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る距離検知システムは、以下のように構成される。
すなわち、少なくとも片方が移動する2つの物体の間隔が目標距離になったことを検知する距離検知システムであって、2つの物体のうちの一方の物体に取り付けられ、他方の物体を撮影するカメラと、2つの物体の間隔を目標距離にした状態でカメラにより撮影された映像のエッジ量に基づいて生成された閾値を予め記憶したメモリと、カメラにより撮影されているライブ映像から所定時間毎にエッジ量を算出し、該エッジ量が閾値を超えたか否かを判定する処理を行う処理部とを備え、2つの物体のうちの少なくとも片方を移動させながら上記の処理を実行し、ライブ映像のエッジ量が閾値を超えたと判定されたタイミングを、2つの物体の間隔が目標距離になったタイミングとして検知することを特徴とする。
【0008】
ここで、カメラは、目標距離にピントが合うように調整されていることが望ましい。また、カメラは、被写界深度が所定値以下になるように調整されていることが望ましい。
【0009】
なお、メモリに、撮影場所又は時間の少なくとも一方に対応付けた複数の閾値を記憶させておき、処理部は、複数の閾値のうち、処理の実行時の撮影場所又は時間に対応する閾値をライブ映像のエッジ量と比較するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、2つの物体の間隔が目標距離になったことを素早く且つ正確に検知することが可能な距離検知システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る距離検知システムの概要を示す図である。
【
図2】
図1の距離検知システムが備えるカメラの構成例を示す図である。
【
図3】
図1の距離検知システムの運用例を説明する図である。
【
図4】被写界深度の調整について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る距離検知システムについて、図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る距離検知システムの概要を示してある。また、
図2には、
図1の距離検知システムが備えるカメラ10の構成例を示してある。以下では、2つの鉄道車両A,Bがあり、停車中の車両Aに向かって車両Bをゆっくりと移動させていき、車両間の間隔が目標距離になるまで近づけた後に編成結合(併結)する場合を例にして説明する。
【0013】
図1の距離検知システムでは、車両Aに、カメラ10と、車両管理装置20とを搭載してある。カメラ10は、車両Aの前方方向を撮影する前方監視カメラであり、車両Bの併結作業を行う場合には、車両Aに向かって近づいてくる車両Bを撮影することになる。車両管理装置20は、列車内のLAN(Local Area Network)回線を介してカメラ10と接続されており、カメラ10による検知結果に従って運転士に対する警報を発する装置である。
【0014】
カメラ10は、レンズ11と、撮像センサ12と、信号処理部13と、CPU(Central Processing Unit)ボード14と、コーデック部15と、通信インタフェース16とを備えている。
【0015】
レンズ11は、被写体(本例では、車両B)の光学像を撮像センサ12の撮像面に結像させるものである。本例では、レンズ11として、装置構成の簡易化などを考慮して固定焦点レンズを使用しているが、可変焦点レンズの使用を否定するものではない。
【0016】
撮像センサ12は、撮像面に結像した被写体の光学像を電気信号に変換する素子である。撮像センサ12としては、CCD(Charge-Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの種々の受光素子を使用することができる。
【0017】
信号処理部13は、撮像センサ12から出力される映像信号に対して各種の信号処理を施し、CPUボード14及びコーデック部15に出力する。また、信号処理部13は、CPUボード14から得られる処理結果(後述の距離検知信号)もコーデック部15に出力する。
【0018】
CPUボード14は、車両間の間隔が目標距離(固定値)になったことを検知する距離検知処理部であり、その機能を実現するためのプロセッサやメモリ等のハードウェアが搭載されている。距離検知処理では、信号処理部13から入力される映像信号のエッジ量を算出し、メモリに記憶されている閾値を超えたか否かを判定する。そして、エッジ量が閾値を超えたと判定された場合に、車両間の間隔が目標距離になったことを示す距離検知信号を出力する。
【0019】
コーデック部15は、撮像センサ12から出力される映像信号の圧縮(符号化)などを行う。コーデック部15から出力される映像データは、通信インタフェース16を通じてカメラ外の機器(本例では、車両管理装置20)へ伝送される。また、コーデック部15は、CPUボード14から距離検知信号が出力された場合には、その距離検知信号を映像データに付加して出力する。
【0020】
以下、本例の距離検知システムの運用について説明する。
(1)事前学習(判定用データの設定)
まず、車両Aに併結する車両Bを、車両Aから目標距離の位置に停める。次に、車両Bにピントが合うように(つまり、目標距離でピントが合うように)カメラ10のフォーカスを調整する。次に、この状態でカメラ10により車両Bを試験的に撮影する。その後、CPUボード14(距離検知処理部)にて、目標距離に停まっている車両Bを映した試験映像からエッジ量を算出し、判定マージンを持たせるための調整(許容量分を差し引く等)を施して、距離検知用の閾値としてメモリに記憶させる。
【0021】
なお、併結する際の許容範囲内で車両Bを前後に移動させ、許容範囲の上限及び下限の各位置で車両Bを試験的に撮影し、それぞれの試験映像から算出された2種類のエッジ量に基づいて距離検知用の閾値を決定し、メモリに記憶させるようにしてもよい。この場合、距離検知用の閾値としては、2種類のエッジ量のうちの大きい方又は小さい方のいずれかを用いてもよく、これらの平均値を用いてもよく、その他の演算により算出された値を用いてもよい。
【0022】
(2)リアルタイム判定
実際の運用時(併結作業の実施時)に、停車中の車両Aに向かって車両Bをゆっくりと移動させていく。その際に、CPUボード14(距離検知処理部)にて、カメラ10により撮影されたライブ映像(リアルタイム映像)から1フレーム毎にエッジ量を算出し、メモリに記憶されている距離検知用の閾値と比較する。そして、ライブ映像から算出したエッジ量が閾値を超えた場合に、車両間の間隔が目標距離になったと判定する。これにより、ライブ映像のピントが車両Bに合ったタイミングで、車両間の間隔が目標距離になったことが検知され、距離検知信号が出力されることになる。
【0023】
図3を参照して説明すると、車両Bが目標距離より遠い位置の場合には、符号21に示すように、車両Bにピントが合わずに車両Bの映像がぼやけてしまうので、映像から算出されるエッジ量は比較的少ない。その後、車両Bが車両Aに向かって移動するにつれてエッジ量が徐々に増加していき、符号22に示すように、車両Bが目標距離まで近づいた時点で車両Bにピントが合い、エッジ量が閾値を超えることになる。その結果、カメラ10から車両管理装置20へ距離検知信号が送信され、車両管理装置20から警報が発せられる。したがって、車両Aの運転士は、車両Bが目標距離まで近づいたことを速やかに認識することができる。これにより、車両の連結作業を安全に行うことができる。
【0024】
以上のように、本例の距離検知システムは、車両Aと車両Bの間隔を目標距離にした状態で、車両Aに取り付けられたカメラ10により車両Bを試験的に撮影し、この試験映像のエッジ量に基づいて生成された閾値を、メモリに予め記憶させてある。そして、実際の運用時に、車両Bを車両Aに向かって移動させながら、カメラ10により撮影されているライブ映像から1フレーム毎にエッジ量を算出し、該エッジ量が閾値を超えたか否かを判定し、ライブ映像のエッジ量が閾値を超えたと判定されたタイミングを、車両Aと車両Bの間隔が目標距離になったタイミングとして検知するように構成されている。
【0025】
このように、本例の距離検知システムによれば、車両間の間隔が目標距離になったことを検知するために、ライブ映像からエッジ量を算出して閾値と比較するだけでよく、従来方式のように複雑な画像処理を行う必要がない。したがって、車両間の間隔が目標距離になったことを素早く且つ正確に検知することが可能となる。
【0026】
ここで、鉄道車両の併結は、決められた場所及び時間で実行されることが想定される。そこで、撮影場所又は時間の少なくとも一方に対応付けた複数の閾値を予め用意してメモリに記憶させておき、併結を行う際の撮影場所又は時間に対応する閾値を使用するようにしてもよい。これにより、撮影場所や時間の違いによるエッジ量の変化を考慮して、車両間の間隔が目標距離になったことを検知できるようになる。なお、撮影場所や時間は、例えば、GPS(Global Positioning System)を使用して特定することが可能であるが、他の手法により特定しても構わない。
【0027】
なお、カメラ10は、被写界深度(ピントが合って見える範囲)が所定値以下になるように狭めに調整されていることが好ましい。これにより、ピントが合う距離とピントが合わない距離での映像のエッジ量の差が大きくなるので、より正確な距離検知が可能となる。本例のように本発明を鉄道車両の併結に適用する場合には、被写界深度は、少なくとも3m以下が好ましい。被写体深度はレンズの焦点距離や開放値によって調整も異なってくるため、カメラ10のレンズを含めた撮影環境に応じてエッジ量の変化で距離検出ができるように被写体深度を調整すればよい。
【0028】
被写界深度の調整は種々の手法で行うことが可能であり、その一例について
図4を参照して説明する。
図4には、レンズと被写界深度との関係などを図示してある。
被写界深度は、前方被写界深度と後方被写界深度の合計であり、以下の条件を満たすほど小さく(浅く)なる。
(1)被写体までの距離:被写体が近い。
(2)焦点距離:カメラの焦点距離が長い。
(3)F値:カメラのF値(絞り値)が小さい。
(4)許容錯乱円径:許容錯乱円径が小さい。
これら条件のうち、容易に調整できるのはF値なので、F値を調整して被写界深度が所定値以下になるようにすればよい。
【0029】
ここで、上記の説明では、映像の1フレーム毎にエッジ量を算出して閾値と比較しているが、複数フレーム毎(例えば、2フレーム毎)にエッジ量を算出して閾値と比較するようにしてもよい。すなわち、距離検知に要求される精度とカメラ映像のフレームレート(1秒あたりの画像枚数)に応じて、エッジ量の算出及び閾値との比較を何フレーム毎に実施するかを決定すればよい。
【0030】
また、上記の説明では、車両Aを停車(固定)した状態で、車両Bを移動させながら距離検知を行っているが、これとは逆に、車両Bを停車(固定)した状態で、車両Aを移動させながら距離検知を行うようにしてもよい。あるいは、車両Aと車両Bの両方を移動させながら距離検知を行うようにしてもよい。
【0031】
また、上記の説明では、カメラ10が距離検知処理部(CPUボード14)を内蔵しているが、カメラ10の外部に距離検知処理部を設けてもよい。一例として、車両管理装置20に距離検知処理部を設けてもよい。
【0032】
以上、本発明について一実施形態に基づいて説明したが、本発明はここに記載された用途に限定されるものではなく、他の用途にも広く適用できることは言うまでもない。一例として、自動車などの移動体を目標位置に停車させるために、目標位置の近くに固定物を設置しておき、移動体又は固定物にカメラを設置して相手側を撮影し、エッジ量を算出して閾値と比較するようにしてもよい。なお、撮影対象の物体の形状や構造によっては、エッジが乏しい映像しか撮影できない場合もある。この場合、撮影対象の物体の表面に、エッジを検出し易い模様などを付しておけばよい。
【0033】
また、本発明は、例えば、上記の処理に関する技術的手順を含む方法や、上記の処理をプロセッサにより実行させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【0034】
なお、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。更に、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、2つの物体の間隔が目標距離になったことを検知する距離検知システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
10:カメラ、 11:レンズ、 12:撮像センサ、 13:信号処理部、 14:CPUボード、 15:コーデック部、 16:通信インタフェース、 20:車両管理装置