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  • 特許-既存建物の耐震補強構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】既存建物の耐震補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240306BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240306BHJP
   E04B 1/61 20060101ALI20240306BHJP
   E04B 1/04 20060101ALI20240306BHJP
   E04B 2/56 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
E04G23/02 E
E04H9/02 321Z
E04B1/61 504B
E04B1/04 G
E04B2/56 633A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020100156
(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公開番号】P2021195727
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】池内 邦江
(72)【発明者】
【氏名】佐分利 和宏
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-089488(JP,A)
【文献】特開2005-220671(JP,A)
【文献】特開2016-50436(JP,A)
【文献】特開2009-215776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04H 9/02
E04B 1/61
E04B 1/04
E04B 2/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下階に増設される鉄筋コンクリート造の耐震補強部材の間に位置する既存スラブに貫通孔を形成し、当該貫通孔を通じて上下階の前記耐震補強部材を接合手段にて接合して耐震補強する既存建物の耐震補強構造であって、
前記既存スラブがボイドスラブであり、前記貫通孔の形成箇所が前記ボイドスラブのボイド形成箇所に設定されている既存建物の耐震補強構造。
【請求項2】
前記ボイドスラブには、当該ボイドスラブのボイド内を、上下階の前記耐震補強部材を接合する接合部位と、当該接合部位から外れた非接合部位とに仕切って、前記接合手段に含まれるグラウトの前記非接合部位への流出を防止する流出防止部材が備えられている請求項1に記載の既存建物の耐震補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下階に増設される鉄筋コンクリート造の耐震補強部材の間に位置する既存スラブに貫通孔を形成し、当該貫通孔を通じて上下階の前記耐震補強部材を接合手段にて接合して耐震補強する既存建物の耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既存建物の耐震補強構造としては、例えば、耐震補強部材の一例である耐震補強壁を、柱梁架構内における面外方向の一方側に寄せて構築された既存壁に沿って、柱梁架構内における面外方向の他方側に増打ちすることで、既存建物を耐震補強するようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-190079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存建物においては、柱梁架構内における反既存壁側(面外方向の他方側)がエレベータ室や階段室などに面していることで、耐震補強壁を柱梁架構内に増打ちし難くなっている場合があり、このような場合には、柱梁架構における既存壁側の面外方向外側に、耐震補強壁を既存壁に沿って増打ちすることがある。このように耐震補強壁を柱梁架構の面外方向外側に増打ちする場合には、耐震補強壁が下側の既存梁の梁幅から外れることから、耐震補強壁から下側の既存梁への応力の伝達を可能にするためには、下側の既存梁における既存壁側の面外方向外側に、耐震補強部材を増打ちするとともに、この耐震補強部材と耐震補強壁とを接合筋やグラウトなどの強度の確保が可能な接合手段を使用して接合する必要がある。そして、このような耐震補強部材と耐震補強壁との接合を可能にするためには、耐震補強部材と耐震補強壁との間に位置する既存スラブの一部を斫り出す必要がある。
【0005】
しなしながら、既存スラブには、スラブ荷重を支持する小梁を省くために軽量のボイドスラブが採用されている場合がある。このような場合において、耐震補強部材と耐震補強壁との間に位置する既存スラブの一部を大きく斫り出すと、既存梁に支持されている既存スラブの被支持部での断面欠損が大きくなり、支保工の大規模化などを招くことになる。その結果、施工の難易度が高くなり、工期の長期化やコストの高騰などを招くことになる。
【0006】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、既存スラブがボイドスラブである場合においても、工期の長期化やコストの高騰などを招くことなく、既存建物の耐震補強を適正に行えるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1特徴構成は、
上下階に増設される鉄筋コンクリート造の耐震補強部材の間に位置する既存スラブに貫通孔を形成し、当該貫通孔を通じて上下階の前記耐震補強部材を接合手段にて接合して耐震補強する既存建物の耐震補強構造であって、
前記既存スラブがボイドスラブであり、前記貫通孔の形成箇所が前記ボイドスラブのボイド形成箇所に設定されている点にある。
【0008】
本構成によると、ボイドスラブを挟んだ上下階に耐震補強部材を増設する場合には、ボイドスラブにおけるボイド形成箇所を有効利用して、複数のボイド形成箇所に、上下階の耐震補強部材の接合を可能にする貫通孔を形成することから、例えば、非ボイド形成箇所に貫通孔を形成する場合に比較して、ボイドスラブにおける断面欠損を小さくすることができる。これにより、ボイドスラブの断面欠損が大きくなることによる支保工の大規模化などに起因して、施工の難易度が高くなるのを防止することができる。
そして、上下階の耐震補強部材を、各貫通孔を通じて接合筋やグラウトなどの強度の確保が可能な接合手段にて接合することにより、上階の耐震補強部材から下階の耐震補強部材への応力の伝達を可能にすることができる。
その結果、既存スラブを挟んだ上下階に耐震補強部材を増設して既存建物の耐震補強を行う場合において、既存スラブに、スラブ荷重を支持する小梁を省くためにボイドスラブが採用されていたとしても、施工の難易度が高くなることに起因した工期の長期化やコストの高騰などを招くことなく、既存建物の耐震補強を適正に行うことができる。
【0009】
本発明の第2特徴構成は、
前記ボイドスラブには、当該ボイドスラブのボイド内を、上下階の前記耐震補強部材を接合する接合部位と、当該接合部位から外れた非接合部位とに仕切って、前記接合手段に含まれるグラウトの前記非接合部位への流出を防止する流出防止部材が備えられている点にある。
【0010】
本構成によると、上下階の耐震補強部材を接合するグラウトを、ボイドスラブにおけるボイド内の接合部位と貫通孔とに無駄なく確実に充填することができる。
その結果、コストの削減などをより効果的に図りながら、上階の耐震補強部材から下階の耐震補強部材への応力の伝達をより良好に行える、より適正な耐震補強を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】既存建物の耐震補強構造を示す面内方向視の垂直断面図
図2】既存建物の耐震補強構造を示す面外方向視の垂直断面図
図3】ボイドスラブを挟んだ上下階の耐震補強壁の接合構造を示す要部の垂直断面図
図4】ボイドスラブを挟んだ上下階の耐震補強壁の接合構造を示す要部の水平断面図
図5】グラウトの流出を防止する内栓(流出防止部材)を備えた別実施形態を示す要部の垂直断面図
図6】グラウトの流出を防止する角パイプ(流出防止部材)を備えた別実施形態を示す要部の垂直断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明に係る既存建物の耐震補強構造を、鉄骨鉄筋コンクリート造の既存建物に適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
尚、本発明に係る既存建物の耐震補強構造は、鉄骨鉄筋コンクリート造の既存建物に限らず、鉄筋コンクリート造の既存建物などにも適用することができる。
【0013】
図1~2には既存建物の一部が示されており、この既存建物には、既存の柱梁架構に含まれる上下の既存梁1と、柱梁架構内に構築された既存壁2と、各既存梁1における面外方向(図1における矢印Xの方向)の一方側(図1では既存梁1の左側)に接合された上下の第1既存スラブ3と、各既存梁1における面外方向の他方側(図1では既存梁1の右側)に接合された上下の第2既存スラブ4とが備えられている。
【0014】
図1~2に示すように、各既存梁1は、各既存スラブ3,4に対して梁せいが上側に張り出す鉄骨鉄筋コンクリート造の逆梁である。
尚、各既存梁1は、各既存スラブ3,4に対して梁せいが下側に張り出す順梁であってもよく、又、鉄筋コンクリート造であってもよい。
【0015】
各既存壁2は鉄筋コンクリート造であり、図1に示すように、各既存壁2における第1既存スラブ3側の面が、各既存梁1(柱梁架構)における第1既存スラブ3側の面と面一になるように、柱梁架構内における面外方向(図1における矢印Xの方向)の一方側(第1既存スラブ3側)に寄せて構築されている。
【0016】
図1~4に示すように、各第1既存スラブ3は床スラブであり、各第1既存スラブ3には、それらの内部にボイド3Aを形成するための複数の鋼管3Bが一方向に一定間隔を置いて配置された軽量のボイドスラブが採用されている。これにより、この既存建物においては、各第1既存スラブ3の荷重を支持する小梁を省くことによる施工の容易化などが図られている。
尚、各第1既存スラブ3には、それらの内部に複数の鋼管3Bが二方向又は多方向に一定間隔を置いて配置されたボイドスラブ、又は、複数の鋼管3Bに代えて複数の中空の立体が内部に整列配置されたボイドスラブ、などが採用されていてもよい。
【0017】
図1に示すように、既存建物には、耐震補強部材の一例である鉄筋コンクリート造の耐震補強壁5が既存壁2に沿って増打ちされている。耐震補強壁5は、各既存壁2における第2既存スラブ4側の面が、耐震補強壁5の増打ちを行ない難い階段室やエレベータ室などに面していることにより、各既存壁2における第1既存スラブ3側の面に沿って増打ちされている。
【0018】
耐震補強壁5には、複数のあと施工アンカー6によって既存壁2に接合される壁構造の上側補強体5Aと、複数のあと施工アンカー7によって既存梁1に接合される梁構造の下側補強体5Bとが一体形成されている。上側補強体5Aの内部には、鉛直方向に延びる複数の縦筋5aと、水平方向に延びる複数の横筋5bとが、格子状に備えられている。下側補強体5Bの内部には、その上下両端部において水平方向に延びる複数の梁主筋5cと、その上下中間部において水平方向に延びる複数の腹筋5dと、梁主筋5c及び腹筋5dを囲う状態で水平方向に一定間隔を置いて配置されるあばら筋5eとが備えられている。
【0019】
第1既存スラブ3には、その上下階に増設される耐震補強壁5の接合を可能にする複数の貫通孔3Cが形成されている。各貫通孔3Cの形成箇所は、上下階に増設される耐震補強壁5の間に位置する第1既存スラブ3の端部におけるボイド形成箇所に設定されている。これにより、各貫通孔3Cは、各第1既存スラブ3におけるボイド3Aの配置間隔に対応する一定間隔で各第1既存スラブ3に形成されている。各貫通孔3Cは、鋼管3Bの内径よりも小径に形成されている。
【0020】
各貫通孔3Cには、当該貫通孔3Cを通じて上下階の耐震補強壁5を接合する接合手段8が備えられている。各接合手段8には、貫通孔3Cを通じて下階の耐震補強壁5の上側補強体5Aと上階の耐震補強壁5の下側補強体5Bとにわたる4本の通し筋8Aと、第1既存スラブ3の各ボイド3A内における貫通孔3Cの形成箇所に充填されるグラウト(無収縮モルタル)8Bとが含まれている。
尚、通し筋8Aの本数や直径などは、耐震補強壁5の壁厚などに応じて種々の変更が可能である。又、第1既存スラブ3の各ボイド3Aにおけるグラウト8Bの充填量は、上下階の耐震補強壁5の間に位置する各ボイド3A内でのグラウト8Bの充填範囲が、上下階の耐震補強壁5の壁厚と同等以上になるように設定されている(図1図4参照)。
【0021】
以上の通り、本実施形態で例示した既存建物の耐震補強構造においては、第1既存スラブ3がボイドスラブであることから、この第1既存スラブ3を挟んだ上下階に耐震補強壁5を増設する場合には、第1既存スラブ3におけるボイド形成箇所を有効利用して、複数のボイド形成箇所に、上下階の耐震補強壁5の接合を可能にする貫通孔3Cが形成されている。そして、各貫通孔3Cの孔径が、ボイド3Aを形成する鋼管3Bの内径よりも小径に設定されている。
【0022】
つまり、上下階の耐震補強壁5を接合するために必要な第1既存スラブ3における断面欠損を必要最小限にすることができ、これにより、第1既存スラブ3の断面欠損が大きくなることに起因した支保工の大規模化などによって施工の難易度が高くなるのを防止することができる。
【0023】
そして、第1既存スラブ3に形成した各貫通孔3Cを使用して、上下階の耐震補強壁5を、通し筋8A及びグラウト8Bからなる接合手段8にて接合することにより、上階の耐震補強壁5から下階の耐震補強壁5への応力の伝達を可能にすることができる。
【0024】
その結果、第1既存スラブ3に、スラブ荷重を支持する小梁を省くためにボイドスラブが採用されていたとしても、施工の難易度が高くなることに起因した工期の長期化やコストの高騰などを招くことなく、既存建物の耐震補強を適正に行うことができる。
【0025】
〔別実施形態〕
本発明の別実施形態について説明する。
尚、以下に説明する各別実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、上記の実施形態や他の別実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0026】
(1)上記の実施形態においては、耐震補強部材5として、既存壁2に沿って増打ちされる耐震補強壁5を例示したが、これに限らず、例えば、第1既存スラブ(ボイドスラブ)3を挟んだ上下階に新設される耐震補強壁であってもよい。
【0027】
(2)上記の実施形態においては、既存梁1が逆梁であることにより、耐震補強部材5として、壁構造の上側補強体5Aと梁構造の下側補強体5Bとが一体形成された耐震補強壁5を例示したが、これに限らず、例えば、既存梁1が順梁であれば、耐震補強部材5は、梁構造の上側補強体と壁構造の下側補強体とが一体形成された耐震補強壁であってもよい。
【0028】
(3)上記の実施形態においては、床スラブ(第1既存スラブ3)がボイドスラブであることにより、耐震補強部材5として、床スラブ(第1既存スラブ3)を挟んだ上下階に増設される耐震補強壁5を例示したが、これに限らず、例えば、屋根スラブがボイドスラブであれば、耐震補強部材5は、下階の既存壁2に沿って増打ちされる耐震補強壁5と、屋上階の既存梁1に沿って増打ちされる耐震補強部材であってもよい。
【0029】
(4)上記の実施形態においては、第1既存スラブ(ボイドスラブ)3のボイド形成箇所に貫通孔3Cを形成し、当該貫通孔3Cを通じて上下階の耐震補強壁5をグラウト8Bなどで接合するものを例示したが、これに加えて、例えば、図5に示すように、第1既存スラブ(ボイドスラブ)3に、当該第1既存スラブ3のボイド3A内を、上下階の耐震補強壁5を接合する接合部位3aと、当該接合部位3aから外れた非接合部位3bとに仕切って、グラウト8Bの非接合部位3aへの流出を防止する流出防止部材9を備えるようにしてもよい。
この別実施形態によると、上下階の耐震補強壁5を接合するグラウト8Bを、第1既存スラブ3におけるボイド3A内の接合部位3aと貫通孔3Cとに無駄なく確実に充填することができる。
その結果、コストの削減などをより効果的に図りながら、上階の耐震補強壁5から下階の耐震補強壁5への応力の伝達をより良好に行える、より適正な耐震補強を行うことができる。
尚、図5には、流出防止部材9として弾性変形可能な内栓が例示されているが、これに限らず、例えば、給気で膨らむことでボイド3A内を接合部位3aと非接合部位3bとに仕切る袋状の内栓であってもよい。
【0030】
(5)流出防止部材9としては、上記の別実施形態(4)に記載の内栓に代えて、例えば、図6に示すように、第1既存スラブ(ボイドスラブ)3のボイド形成箇所に設置されることで、前述したボイド3A内の接合部位3aを含む状態で上下階の耐震補強壁5にわたる貫通孔3Cを形成するとともに、当該貫通孔3Cからボイド3A内の非接合部位3bへのグラウト8Bの流出を防止する角パイプ、などであってもよい。
この別実施形態によると、上下階の耐震補強壁5を接合するグラウト8Bを、第1既存スラブ3における接合部位3aを含む貫通孔3Cに無駄なく確実に充填することができる。
その結果、コストの削減などを図りながら、上階の耐震補強壁5から下階の耐震補強壁5への応力の伝達をより良好に行える、より適正な耐震補強を行うことができる。
【0031】
(6)上記の実施形態においては、接合手段8として、通し筋8A及びグラウト8Bからなるものを例示したが、これに限らず、例えば、コンクリート、モルタル、薬液、鉄骨などの強度の確保が可能な各種の材料が使用されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0032】
3 既存スラブ(ボイドスラブ)
3A ボイド
3C 貫通孔
3a 接合部位
3b 非接合部位
5 耐震補強部材
8 接合手段
8B グラウト
9 流出防止部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6