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特許7449187位相シフトマスクの製造方法、位相シフトマスク、および、表示装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】位相シフトマスクの製造方法、位相シフトマスク、および、表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/72 20120101AFI20240306BHJP
   G03F 1/74 20120101ALI20240306BHJP
   G03F 1/32 20120101ALI20240306BHJP
【FI】
G03F1/72
G03F1/74
G03F1/32
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020123420
(22)【出願日】2020-07-20
(65)【公開番号】P2022020120
(43)【公開日】2022-02-01
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 憲治
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-024406(JP,A)
【文献】特開平11-109605(JP,A)
【文献】特開平07-146544(JP,A)
【文献】特開2005-189492(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0028045(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に、半透光膜がパターニングされてなる半透光部を含む転写用パターンを備えた位相シフトマスクの製造方法であって、前記半透光部は、露光光の代表波長に対して所定の透過率と略180度の位相差とを有する位相シフトマスクの製造方法において、
前記半透光部の欠陥を含む所定領域に修正膜を形成する修正膜形成工程を含み、
前記修正膜は、レーザCVD法により形成された修正膜Aと、集束イオンビーム法により形成された修正膜Bとを備えた積層膜である、位相シフトマスクの製造方法。
【請求項2】
前記修正膜は、前記透明基板側から、前記修正膜Aと前記修正膜Bとが順に形成されている、請求項1に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項3】
前記修正膜Aは、クロムと酸素とを含む酸化クロム膜である、請求項1または2に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項4】
前記修正膜Bは、酸素を実質的に含まない金属膜、または炭素含有膜である、請求項1~3のいずれか1項に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項5】
前記修正膜は、前記露光光の前記代表波長に対する透過率が5%以上35%以下であり、前記露光光の前記代表波長に対する位相差が略180度である、請求項1~4のいずれか1項に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項6】
前記半透光膜は、クロムと、酸素または窒素の少なくとも一方を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項7】
前記半透光膜は、金属と、ケイ素と、酸素または窒素の少なくとも一方を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項8】
前記転写用パターンは、前記露光光を実質的に透過しない遮光部を有し、かつ、前記半透光部は、前記遮光部に挟まれて配置される、請求項1~7のいずれか1項に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項9】
前記修正膜形成工程の前に、前記欠陥を含む領域の膜を除去することで、前記透明基板を露出させる工程をさらに有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項10】
前記修正膜形成工程の後、前記修正膜の不要部分を集束イオンビームエッチングにより除去する工程をさらに有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項11】
前記位相シフトマスクは、表示装置用デバイスの製造に用いる、請求項1~10のいずれか1項に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項12】
透明基板上に、半透光膜がパターニングされてなる半透光部を含む転写用パターンを備えた位相シフトマスクであって、前記半透光部は、露光光の代表波長に対して所定の透過率と略180度の位相差とを有する位相シフトマスクにおいて、
前記半透光部の欠陥の所定領域に形成された修正膜を有し、
前記修正膜は、金属と酸素とを含み、酸素の含有量が75原子%以上95原子%以下である金属酸化膜からなる修正膜Aと、実質的に酸素を含まない金属膜、または、炭素の含有量が90原子%以上100原子%以下である炭素含有膜からなる修正膜Bとを備えた積層膜である、位相シフトマスク。
【請求項13】
前記修正膜は、前記透明基板側から、前記修正膜Aと前記修正膜Bとが順に形成されている、請求項12に記載の位相シフトマスク。
【請求項14】
前記修正膜Aは、クロムと酸素とを含む酸化クロム膜である、請求項12または13に記載の位相シフトマスク。
【請求項15】
前記修正膜は、前記露光光の前記代表波長に対する透過率が5%以上35%以下であり、前記露光光の前記代表波長に対する位相差が略180度である、請求項12~14のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項16】
前記半透光膜は、クロムと、酸素または窒素の少なくとも一方を含む、請求項12~15のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項17】
前記半透光膜は、金属と、ケイ素と、酸素または窒素の少なくとも一方を含む、請求項12~15のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項18】
前記転写用パターンは、前記露光光を実質的に透過しない遮光部を有し、かつ、前記半透光部は、前記遮光部に挟まれて配置される、請求項12~17のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項19】
前記修正膜の透過率の変動量は、10%ポイント以下である、請求項12~18のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項20】
前記修正膜のi線およびh線における透過率の差は、20%ポイント以下である、請求項12~19のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項21】
前記位相シフトマスクは、表示装置用デバイスの製造に用いる、請求項12~20のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項22】
請求項1~11のいずれか1項に記載の製造方法による位相シフトマスク、または請求項12~21のいずれか1項に記載の位相シフトマスクを用意する工程と、
露光装置を用いて、前記位相シフトマスクを露光し、前記転写用パターンを被転写体上に転写する工程と、を含む表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相シフトマスクの製造方法、位相シフトマスク、および、表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路に用いられるフォトマスクとして、減衰型(またはハーフトーン型)の位相シフトマスクが知られている。この位相シフトマスクは、バイナリマスクの遮光部に相当する部分を、低い透過率と180度の位相シフト量をもつハーフトーン膜によって形成したものである。
【0003】
このような位相シフトマスクのもつ位相シフタ部に欠陥が生じた場合、特許文献1には、FIB(集束イオンビーム、Focused Ion Beam)装置による修正膜を堆積することで、欠陥を修正する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、レーザCVD(Chemical Vapor Deposition)法による修正膜を堆積することで、欠陥を修正する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、レーザCVD法を用いて、互いに組成が異なる第1膜と第2膜とを積層し、欠陥を修正する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-65091号公報
【文献】特開2010-198006号公報
【文献】特開2020-24406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法では、アパーチャ径と膜厚を制御することで、修正膜の透過率および位相差を制御している。しかしながら、得られる修正膜の透過率は5%未満と低く、5%以上の透過率を有する修正膜を形成することは困難である。
【0008】
特許文献2の方法は、レーザCVDによる欠陥修正手法であり、多階調フォトマスクを修正対象としている。この手法では、位相シフト作用を有し、かつ、所望の透過率の修正膜を形成することは困難である。
【0009】
特許文献3では、組成の異なる膜をそれぞれレーザCVD法によって形成し、位相シフトマスクの欠陥を修正する手法を提案している。しかしながら、レーザCVD法による修正膜の形成では、修正膜の膜厚を均一に制御することが困難である。
【0010】
本発明は、位相シフトマスクの欠陥を修正するために、所望の透過率および位相差をもった修正膜を形成し、さらに、修正膜の光学特性の面内均一性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、
透明基板上に、半透光膜がパターニングされてなる半透光部を含む転写用パターンを備えた位相シフトマスクの製造方法であって、前記半透光部は、露光光の代表波長に対して所定の透過率と略180度の位相差とを有する位相シフトマスクの製造方法において、
前記半透光部の欠陥を含む所定領域に修正膜を形成する修正膜形成工程を含み、
前記修正膜は、レーザCVD法により形成された修正膜Aと、集束イオンビーム法により形成された修正膜Bとを備えた積層膜である、位相シフトマスクの製造方法である。
【0012】
本発明の第2の態様は、
前記修正膜は、前記透明基板側から、前記修正膜Aと前記修正膜Bとが順に形成されている、上記第1の態様に記載の位相シフトマスクの製造方法である。
【0013】
本発明の第3の態様は、
前記修正膜Aは、クロムと酸素とを含む酸化クロム膜である、上記第1または第2の態様に記載の位相シフトマスクの製造方法である。
【0014】
本発明の第4の態様は、
前記修正膜Bは、酸素を実質的に含まない金属膜、または炭素含有膜である、上記第1~第3のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクの製造方法である。
【0015】
本発明の第5の態様は、
前記修正膜は、前記露光光の前記代表波長に対する透過率が5%以上35%以下であり、前記露光光の前記代表波長に対する位相差が略180度である、上記第1~第4のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクの製造方法である。
【0016】
本発明の第6の態様は、
前記半透光膜は、クロムと、酸素または窒素の少なくとも一方を含む、上記第1~第5のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクの製造方法である。
【0017】
本発明の第7の態様は、
前記半透光膜は、金属と、ケイ素と、酸素または窒素の少なくとも一方を含む、上記第1~第5のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクの製造方法である。
【0018】
本発明の第8の態様は、
前記転写用パターンは、前記露光光を実質的に透過しない遮光部を有し、かつ、前記半透光部は、前記遮光部に挟まれて配置される、上記第1~第7のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクの製造方法である。
【0019】
本発明の第9の態様は、
前記修正膜形成工程の前に、前記欠陥を含む領域の膜を除去することで、前記透明基板を露出させる工程をさらに有する、上記第1~第8のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクの製造方法である。
【0020】
本発明の第10の態様は、
前記修正膜形成工程の後、前記修正膜の不要部分を集束イオンビームエッチングにより除去する工程をさらに有する、上記第1~第9のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクの製造方法である。
【0021】
本発明の第11の態様は、
前記位相シフトマスクは、表示装置用デバイスの製造に用いる、上記第1~第10のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクの製造方法である。
【0022】
本発明の第12の態様は、
透明基板上に、半透光膜がパターニングされてなる半透光部を含む転写用パターンを備えた位相シフトマスクであって、前記半透光部は、露光光の代表波長に対して所定の透過率と略180度の位相差とを有する位相シフトマスクにおいて、
前記半透光部の欠陥の所定領域に形成された修正膜を有し、
前記修正膜は、金属と酸素とを含み、酸素の含有量が75at%以上95at%以下である金属酸化膜からなる修正膜Aと、実質的に酸素を含まない金属膜、または炭素含有膜からなる修正膜Bとを備えた積層膜である、位相シフトマスクである。
【0023】
本発明の第13の態様は、
前記修正膜は、前記透明基板側から、前記修正膜Aと前記修正膜Bとが順に形成されている、上記第12の態様に記載の位相シフトマスクである。
【0024】
本発明の第14の態様は、
前記修正膜Aは、クロムと酸素とを含む酸化クロム膜である、上記第12または第13の態様に記載の位相シフトマスクである。
【0025】
本発明の第15の態様は、
前記修正膜は、前記露光光の前記代表波長に対する透過率が5%以上35%以下であり、前記露光光の前記代表波長に対する位相差が略180度である、上記第12~第14のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクである。
【0026】
本発明の第16の態様は、
前記半透光膜は、クロムと、酸素または窒素の少なくとも一方を含む、上記第12~第15のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクである。
【0027】
本発明の第17の態様は、
前記半透光膜は、金属と、ケイ素と、酸素または窒素の少なくとも一方を含む、上記第12~第15のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクである。
【0028】
本発明の第18の態様は、
前記転写用パターンは、前記露光光を実質的に透過しない遮光部を有し、かつ、前記半透光部は、前記遮光部に挟まれて配置される、上記第12~第17のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクである。
【0029】
本発明の第19の態様は、
前記修正膜の透過率の変動量は、10%ポイント以下である、上記第12~第18のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクである。
【0030】
本発明の第20の態様は、
前記修正膜のi線およびh線における透過率の差は、20%ポイント以下である、上記第12~第19のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクである。
【0031】
本発明の第21の態様は、
前記位相シフトマスクは、表示装置用デバイスの製造に用いる、上記第12~第20のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクである。
【0032】
本発明の第22の態様は、
上記第1~第11のいずれか1つの態様に記載の製造方法による位相シフトマスク、または上記第12~第21のいずれか1つの態様に記載の位相シフトマスクを用意する工程と、
露光装置を用いて、前記位相シフトマスクを露光し、前記転写用パターンを被転写体上に転写する工程と、を含む表示装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によると、位相シフトマスクの欠陥を修正するために、所望の透過率および位相差をもった修正膜を形成し、さらに、修正膜の光学特性の面内均一性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の第1実施形態に係る転写用パターン10を模式的に示す説明図である。図1(a)は、正常なパターンを示す図であり、図1(b)は、白欠陥20が生じた場合を示す図であり、図1(c)は、修正膜A(4a)を形成する工程を示す図であり、図1(d)は、修正膜B(4b)を形成する工程を示す図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る転写用パターン10´を模式的に示す説明図である。図2(a)は、正常なパターンを示す図であり、図2(b)は、白欠陥20が生じた場合を示す図であり、図2(c)は、白欠陥20を含む領域にある膜を除去する工程を示す図であり、図2(d)は、修正膜A(4a)を形成する工程を示す図であり、図2(e)は、修正膜B(4b)を形成する工程を示す図であり、図2(f)は、補充膜を形成する工程を示す図である。
図3】本発明の第3実施形態に係る転写用パターン10´を模式的に示す説明図である。図3(a)は、正常なパターンを示す図であり、図3(b)は、白欠陥20が生じた場合を示す図であり、図3(c)は、白欠陥20を含む領域にある膜を除去する工程を示す図であり、図3(d)は、修正膜A(4a)を形成する工程を示す図であり、図3(e)は、修正膜B(4b)を形成する工程を示す図であり、図3(f)は、補充膜を形成する工程を示す図である。
図4図4は、本発明の第1実施形態に係る修正膜4の光学特性(i線に対する)の一例を示すグラフである。
図5図5(a)は、レーザCVD法により形成された修正膜A(4a)のi線に対する透過率の面内分布の一例を示すグラフである。図5(b)はFIB法により形成された修正膜B(4b)のi線に対する透過率の面内分布の一例を示すグラフである。図5(c)は、修正膜A(4a)と修正膜B(4b)とが積層された修正膜4のi線に対する透過率の面内分布の一例を示すグラフである。
図6図6(a)は、レーザCVD法により形成された修正膜A(4a)のi線およびh線に対する透過率の面内分布の一例を示すグラフである。図6(b)はFIB法により形成された修正膜B(4b)のi線およびh線に対する透過率の面内分布の一例を示すグラフである。図6(c)は、修正膜A(4a)と修正膜B(4b)とが積層された修正膜4のi線およびh線に対する透過率の面内分布の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態に係る位相シフトマスクについて説明する。
【0036】
本発明の第1実施形態に係る位相シフトマスクは、透明基板上に、半透光膜がパターニングされてなる半透光部を含む転写用パターンを備える。該半透光部は、露光光の代表波長に対して所定の透過率と略180度の位相差とを有する。半透光部は、ひとつまたは複数の半透光膜がパターニングされて形成されている。半透光膜は、露光光の位相を所望量シフトする膜である。半透光部の幅は、例えば、3μm以下である。本実施形態における位相シフトマスクは、透明基板上の少なくとも半透光膜が一部パターニングされたフォトマスク中間体であってもよい。
【0037】
転写用パターンは、例えば、透明基板が露出してなる透光部、および、透明基板上に半透光膜が形成されてなる半透光部を含むことができる。転写用パターンは、透光部および半透光部に加え、さらに、透明基板上に形成された遮光膜をパターニングしてなる、露光光を実質的に透過しない遮光部を有するものが例として挙げられるが、さらに追加的な膜パターンを有するものであってもよい。なお、本明細書において、露光光を実質的に透過しないとは、光学濃度OD(Optical Density)値が2以上であることを意味する。
【0038】
本発明の第1実施形態に係る位相シフトマスクは、例えば、表示装置(FPD)用デバイスの製造に用いることができる。このような位相シフトマスクは、半導体装置製造用のフォトマスクと比べて、一般にサイズが大きく(例えば、主表面の一辺が300~2000mm程度の四角形、厚みが5~20mm程度)、重量がある上、そのサイズが多様である。なお、本明細書において、「A~B」とは、「A以上B以下」の数値範囲であることを意味する。
【0039】
半透光膜の材料としては、例えば、Cr(クロム)と、O(酸素)またはN(窒素)の少なくとも一方を含むクロム系材料を用いることができる。具体的には、CrO、CrN、CrON等が例示される。また、Mo(モリブデン)等の金属と、Si(ケイ素)と、OまたはNの少なくとも一方を含む金属シリサイド系材料を用いることもできる。具体的には、MoSiN、MoSiON、MoSiO等が例示される。Moに代えて、Zr(ジルコニウム)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、又は、Ti(チタン)が用いられてもよい。半透光膜は、ウェットエッチング可能なものが好ましい。
【0040】
また、遮光膜の材料は、例えば、Cr又はその化合物(酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、又は酸化窒化炭化物)であってもよく、又は、Mo、W、Ta、Tiを含む金属のシリサイド、又は、該シリサイドの上記化合物であってもよい。遮光膜は、ウェットエッチングが可能であるものが好ましい。また、遮光膜は、半透光膜と同じエッチング剤でエッチング可能なものであってもよい。これに代えて、遮光膜は、半透光膜の材料に対してエッチング選択性をもつ材料からなるものであってもよい。すなわち、遮光膜は、半透光膜のエッチング剤に対して耐性をもち、また、遮光膜のエッチング剤に対して、半透光膜は耐性をもつことができる。
【0041】
透明基板としては、位相シフトマスクの露光に使用する露光光の波長に対して充分な透明性を有するものであれば特に制限されない。例えば、石英、その他各種のガラス基板(ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス等)を用いることができるが、石英基板が特に好適である。充分な透明性とは、露光光の透過率が90%以上であることをいう。
【0042】
転写用パターンが有する半透光部(半透光膜)は、露光光の代表波長に対して透過率Tmを有する。透過率Tmは、例えば、5~35%であり、好ましくは、5~30%であり、より好ましくは、9~27%である。特に、透過率Tmが9~25%の場合、本発明の効果が顕著である。なお、本明細書において、透過率は、透明基板の透過率を100%としたときのものである。
【0043】
露光光としては、例えば、300~500nmの波長域をもつ光を使用することができる。表示装置製造用の露光装置の光源としては、例えば、i線、h線、g線のいずれかまたはその複数を含む光源(例えば、高圧水銀ランプ)が好適に利用できる。露光光の代表波長は、上記波長域に含まれるいずれかの波長とすることができる。本明細書においては、特記しない限り、i線(365nm)を代表波長の一例として用いる。また、パターンの微細化が進み、露光光の波長域の重心を短波長側にずらすことが望まれる場合には、上記波長域より短波長側の波長域(例えば、250~400nm)をもつ光を露光光とすることもでき、例えば、313nm、334nm、365nmのうち2つ以上を含む短波長側の波長域の光を露光光に適用することができる。この場合の代表波長は、該波長域に含まれるいずれかの波長とすることができ、例えば334nmとすることができる。
【0044】
転写用パターンが有する半透光部(半透光膜)は、露光光の代表波長に対して位相差φmを有する。位相差φmは、略180度であることが好ましい。本明細書において、略180度とは、160~200度を意味し、好ましくは、170~190度である。また、半透光部は、露光光に含まれる主な波長(例えば、i線、h線、g線)のすべてに対して、略180度の位相差をもつことが好ましい。
【0045】
上述のような転写用パターンに欠陥が生じた場合、欠陥を修正する必要がある。本実施形態の位相シフトマスクの製造方法は、転写用パターンが有する半透光部の欠陥(半透光膜の欠陥)を含む所定領域に修正膜を形成する修正膜形成工程を含む。
【0046】
図1(a)に、本実施形態に係る位相シフトマスクの、正常なパターン部分を示す。図1(a)において、転写用パターン10の平面図を上部に、断面図を下部に示す。以下、図1(b)~図1(d)についても同様である。本実施形態に係る転写用パターン10は、透明基板1が露出した透光部11、および、透明基板1上に、位相シフト作用のある半透光膜2が形成された半透光部12を有する。
【0047】
図1(a)においては、転写用パターン10として、いわゆるラインアンドスペースパターンを例示しているが、転写用パターン10は、ラインアンドスペースパターンに限定されない。例えば、ホールパターンやドットパターン等も本実施形態に係る転写用パターン10に含まれる。
【0048】
修正膜形成工程では、半透光膜2に生じた欠陥を特定し、これを修正の対象とする。あるべき半透光膜2が欠落した白欠陥20に対しては、修正膜4を形成する領域を決定する。また、必要に応じて、白欠陥20を含む領域における不要な膜(例えば、残存する半透光膜2)や異物を除去し、透明基板1を露出させる工程を行ってもよい。これにより、修正膜4を形成する領域の形状を整えた後、修正膜4を形成することができる。不要な膜の除去は、例えば、レーザによる蒸散(Laser Zap)等を用いて行うことができる。なお、本明細書においては、白欠陥20は、必要な半透光膜2が厚さ方向に完全に欠落することにより透明基板1が露出してしまう欠陥だけではなく、必要な半透光膜2が厚さ方向に一部欠損し、透過率が所望の値よりも高くなってしまう欠陥も含む。
【0049】
一方、黒欠陥、すなわち異物の付着や、パターニング工程で除去されるべき遮光膜が残留した半透光部12等、余剰欠陥をもつ半透光部12に対して修正を施す場合には、余剰物を、上記同様の手段によって除去し、透明基板1を露出させた状態で、修正膜4を形成すればよい。
【0050】
図1(a)は、透明基板1上に形成された位相シフト作用のある半透光膜2がパターニングされてなる半透光部12を含む転写用パターン10を示す。半透光部12は露光光の代表波長の光に対する透過率Tmと、位相差φmとを有する。
【0051】
転写用パターン10に、白欠陥20が生じた場合を図1(b)に示す。この白欠陥20は、あるべき半透光膜2が欠落した白欠陥20であってもよいし、余剰欠陥をもつ半透光部12の余剰物を除去して形成された、人為的な白欠陥20であってもよい。修正膜形成工程では、この白欠陥20を含む領域に修正膜4を形成する。
【0052】
修正膜4は、修正膜A(4a)と、修正膜B(4b)とを備えた積層膜である。本実施形態では、透明基板1側から、修正膜A(4a)と修正膜B(4b)とが順に形成されている場合について説明する。なお、修正膜4は、本発明の作用効果を妨げない範囲で、さらに追加的な膜を有していてもよい。
【0053】
(修正膜A)
図1(c)は、修正膜A(4a)を形成する工程を示す。修正膜A(4a)は、レーザCVD法により形成される。
【0054】
修正膜A(4a)の膜原料としては、金属カルボニル第6族元素であるCr(CO)(ヘキサカルボニルクロム)、Mo(CO)(ヘキサカルボニルモリブデン)、W(CO)(ヘキサカルボニルタングステン)等を使用することができる。このうち、Cr(CO)を膜原料として用いると、洗浄等に対する耐薬性に優れるため、好ましい。本実施形態では、Cr(CO)を膜原料とする場合について説明する。
【0055】
本実施形態のレーザCVD法において、照射するレーザとしては、紫外域のレーザが好適に用いられる。レーザ照射域に原料ガスを導入し、光CVDまたは熱CVDの少なくともいずれか一方の作用により、修正膜A(4a)を堆積する。例えば、波長355nmのNd YAGレーザ等を用いることができる。キャリアガスとしては、Ar(アルゴン)を使用できるが、Nが含まれていてもよい。
【0056】
修正膜A(4a)は、金属とOとを含む金属酸化膜であり、Oの含有量は75%以上95%以下である。本明細書においては、膜成分の含有量(%)は原子%を意味し、at%とも記載することがある。修正膜A(4a)は、CrとOとを含むか、MoとOとを含むか、W(タングステン)とOとを含むもののいずれかであることが好ましい。本実施形態では、修正膜A(4a)が、CrとOとを含む酸化クロム膜である場合について説明する。この場合、洗浄等に対する耐薬性を向上させることができる。なお、修正膜A(4a)は、さらにNまたはC(炭素)の少なくとも一方を含有していてもよい。
【0057】
修正膜A(4a)において、Crの含有量は、5~35%が好ましく、より好ましくは、10~30%、特に好ましくは、15~25%である。また、Oの含有量は、75~95%が好ましく、より好ましくは、80~90%である。また、Cの含有量は、10%以下が好ましく、より好ましくは、5%以下である。
【0058】
修正膜A(4a)は、修正膜B(4b)との積層によって形成される修正膜4が、露光光の代表波長に対して略180度の位相差φrをもつために適切な位相差φ1をもつ。位相差φ1は、例えば、95~160度であり、好ましくは、105~150度である。
【0059】
修正膜A(4a)は、修正膜B(4b)との積層によって形成される修正膜4が、露光光の代表波長に対して所望の透過率Trをもつために適切な透過率T1をもつ。透過率T1は、例えば、50~65%であり、好ましくは、53~62%である。
【0060】
上記の光学特性を達成するために、修正膜A(4a)の膜厚は、50~210nmが好ましく、より好ましくは、70~190nmとすることができる。
【0061】
(修正膜B)
図1(d)は、修正膜A(4a)上に修正膜B(4b)を形成する工程を示す。修正膜B(4b)は、FIB法により形成される。
【0062】
修正膜B(4b)をFIB法によって形成するための原料ガスとしては、例えば、ピレン(C1610)、フェナントレン(C1410)、またはスチレン(C)等の炭化水素化合物を含むガス、W(CO)、WF、またはWCl等のWを含むガス、TMOSと呼ばれるオルトケイ酸テトラメチル(Si(OCH:Tetramethoxysilane)と酸素との混合ガス、DMG(hfac)と呼ばれるジメチルゴールドヘキサフルオロアセチルアセトネート(CAu:Dimethyl gold hexafluoro acetylacetonate)、(MeCp)PtMeガスと呼ばれる(トリメチル)メチルシクロペンタジエニル白金(IV)(Methylcyclopentadientyl trimethyl platinum)、Cu(hfac)TMVSと呼ばれるトリメチルビニルシリルヘキサフルオロアセチルアセトナト酸塩銅(Copper(+1) hexafluoro acethylacetonate trimethylvinylsilane)を用いることができる。本実施形態では、ピレンを原料ガスとする場合について説明する。
【0063】
修正膜B(4b)を形成するためのFIB装置としては、公知のものを用いることができる。イオン源としては、例えば、Ga(ガリウム)を用いることができる。
【0064】
修正膜B(4b)は、実質的に酸素を含まない金属膜、または炭素含有膜である。なお、本明細書において、実質的に酸素を含まないとは、Oの含有量が5%未満であることを意味する。
【0065】
修正膜B(4b)が炭素含有膜である場合、Cの含有量は、90~100%であることが好ましい。これにより、耐薬性を向上させることができる。なお、修正膜B(4b)は、C以外の元素(例えば、Ga、Si、W、Pt、Au等)を含んでいてもよい。
【0066】
修正膜B(4b)が金属膜である場合、例えば、MoまたはCrを含んだ膜とすることができる。Moを含んだ膜の原料ガスとしては、MoF、Mo(CO)、MoCl等が例示される。Crを含んだ膜の原料ガスとしては、Cr(C等が例示される。
【0067】
修正膜B(4b)は、修正膜A(4a)との積層によって形成される修正膜4が、露光光の代表波長に対して略180度の位相差φrをもつために適切な位相差φ2をもつ。位相差φ2は、例えば、13~90度であり、好ましくは、18~78度である。
【0068】
修正膜B(4b)は、修正膜A(4a)との積層によって形成される修正膜4が、露光光の代表波長に対して所望の透過率Trをもつために適切な透過率T2をもつ。透過率T2は、例えば、10~60%であり、好ましくは、15~55%である。
【0069】
上記の光学特性を達成するために、修正膜B(4b)の膜厚は、10~60nmが好ましく、より好ましくは、20~50nmとすることができる。
【0070】
修正膜B(4b)を形成する際は、修正膜A(4a)の透過率や位相差といった光学特性の面内分布を確認した上で、修正膜4が所望の透過率および位相差を持つように、修正膜B(4b)の膜厚を調整してもよい。これにより、修正膜4の光学特性を面内で均一にすることができる。
【0071】
(積層膜)
上述の修正膜A(4a)と修正膜B(4b)とを積層することで、露光光の代表波長に対して、位相差φrと透過率Trとをもつ修正膜4を形成することができる。
【0072】
本実施形態では、修正膜4は、透明基板1側から、修正膜A(4a)と修正膜B(4b)とが順に形成されている積層膜である。修正膜B(4b)は、修正膜A(4a)よりも耐薬性に優れているため、修正膜4の耐薬性を向上させることができる。
【0073】
修正膜4の位相差φrは、半透光部12の位相差φmと同じ範囲であることが好ましい。具体的には、位相差φrは、略180度(160~200度)であり、好ましくは、170~190度である。また、修正膜4は、露光光に含まれる主な波長(例えば、i線、h線、g線)のすべてに対して、略180度の位相差をもつことが好ましい。
【0074】
修正膜4の透過率Trは、半透光部12の透過率Tmと同じ範囲であることが好ましい。具体的には、透過率Trは、例えば、5~35%であり、好ましくは、5~30%であり、より好ましくは、9~27%である。特に、透過率Trが9~25%の場合、本発明の効果が顕著である。
【0075】
図4に、修正膜4の光学特性(i線に対する)の一例を示す。図4は、縦軸を位相差、横軸を透過率とし、修正膜4における位相差と透過率との関係の一具体例を示している。図4からわかるように、修正膜4は、中透過領域(透過率が5~30%)において、略180度の位相差をもつ。したがって、転写用パターン10に欠陥が生じた場合でも、修正膜4を形成することで、光学特性を損なうことなく、中透過領域において、略180度の位相差をもつように、精緻な修正を行うことができる。
【0076】
図1(a)に示すように、本実施形態では、半透光部12が透光部11と隣接している。この場合、修正膜形成工程の後、修正膜4の不要部分をFIBエッチングにより除去する工程を行ってもよい。FIB装置は公知のものを用いることができ、アシストガスとしてXeFを用いてもよい。イオン源としては、例えば、Gaを用いることができる。修正膜4の不要部分を除去することにより、修正膜4のエッジ形状を整えることができる。
【0077】
(面内均一性)
上述したように、レーザCVD法による修正膜の形成では、修正膜の膜厚を均一に制御することが必ずしも容易ではない。したがって、レーザCVD法による修正膜を積層すると、膜厚の面内均一性がより低下し、位相差および透過率の面内均一性も低下してしまうことがある。結果的に、このマスクを用いて得られる被転写体上のパターンの精度が劣化する可能性がある。
【0078】
また、レーザCVD法では、光によるエネルギーだけではなく熱によるエネルギーも、修正膜の成長を促進する。レーザCVD法によって形成された第1膜上に、別の第2膜をレーザCVD法によって形成すると、第1膜に照射されたレーザにより熱が発生し、第2膜の成長が過剰に促進され、得られる積層修正膜の膜厚が過大となる場合がある。この積層された修正膜の膜厚が、欠陥のない正常パターン部の膜厚よりも大きくなると(つまり、修正膜の上端面が突き出た状態となると)、得られたマスクを洗浄した際に、修正膜の欠けやはがれといった不都合が生じる可能性がある。
【0079】
これに対し、本実施形態に係る修正膜4は、レーザCVD法により形成された修正膜A(4a)と、FIB法により形成された修正膜B(4b)とを備えた積層膜である。FIB法は、レーザCVD法に比べて、膜厚を制御しやすいため、修正膜A(4a)の光学特性(位相差や透過率)の面内分布に応じて、修正膜4の膜厚分布を調整することができる。その結果、修正膜4の光学特性を面内均一にすることが可能となる。また、本実施形態においては、修正膜A(4a)は、透明基板1上に形成されるため、レーザCVD法により発生した熱によって、修正膜4の膜厚が過剰になることもない。
【0080】
図5(a)は、レーザCVD法により形成された修正膜A(4a)のi線に対する透過率の面内分布の一例を示すグラフである。図5(b)はFIB法により形成された修正膜B(4b)のi線に対する透過率の面内分布の一例を示すグラフである。図5(c)は、修正膜A(4a)と修正膜B(4b)とが積層された修正膜4のi線に対する透過率の面内分布の一例を示すグラフである。図5(a)~図5(c)において、縦軸は透過率を、横軸は修正膜の幅方向の位置を示す。修正膜A(4a)、修正膜B(4b)、および修正膜4は、透明基板1上に、それぞれ略20μmの幅で形成されている。
【0081】
図5(a)~図5(c)からわかるように、修正膜4は、レーザCVD法により形成された修正膜A(4a)に比べて、透過率の変動量が小さく、面内均一性が、FIB法により形成された修正膜B(4b)と同程度に良好である。
【0082】
修正膜4の透過率の変動量は、例えば、10%ポイント以下であり、好ましくは5%ポイント以下である。本明細書において、透過率の変動量とは、修正膜4の幅方向の中央部分(修正膜4のエッジから、修正膜4の幅の10%分を除いた部分)における、透過率の最大値と最小値との差を意味する。なお、修正膜4の透過率の変動量の下限は、特に限定されないが、例えば、1%ポイント以上である。
【0083】
(波長依存性)
図6(a)は、レーザCVD法により形成された修正膜A(4a)のi線およびh線に対する透過率の面内分布の一例を示すグラフである。図6(b)はFIB法により形成された修正膜B(4b)のi線およびh線に対する透過率の面内分布の一例を示すグラフである。図6(c)は、修正膜A(4a)と修正膜B(4b)とが積層された修正膜4のi線およびh線に対する透過率の面内分布の一例を示すグラフである。図6(a)~図6(c)において、縦軸は透過率を、横軸は修正膜の幅方向の位置を示す。修正膜A(4a)、修正膜B(4b)、および修正膜4は、透明基板1上に、それぞれ略20μmの幅で形成されている。
【0084】
図6(a)~図6(c)からわかるように、修正膜4は、レーザCVD法により形成された修正膜A(4a)に比べて、i線およびh線における透過率の差が小さく、FIB法により形成された修正膜B(4b)と同程度である。FPD用の位相シフトマスクの露光には、単一波長よりも複数の波長を含む露光光を用いることが有用である。したがって、複数の波長において、光学特性の変化が小さいことが好ましい。修正膜4は、i線およびh線における透過率の差が小さいため、FPD用の位相シフトマスクの修正に好適に用いることができる。
【0085】
修正膜4のi線およびh線における透過率の差は、例えば、20%ポイント以下であり、好ましくは10%ポイント以下である。本明細書において、i線およびh線における透過率の差とは、修正膜4の幅方向の中央部分における、i線の平均透過率とh線の平均透過率との差を意味する。なお、修正膜4のi線およびh線における透過率の差の下限は、特に限定されないが、例えば、1%ポイント以上である。
【0086】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る位相シフトマスクについて説明する。
【0087】
図2(a)に、本実施形態に係る位相シフトマスクの、正常なパターン部分を示す。本実施形態に係る位相シフトマスクは、透明基板1上に、半透光膜2と遮光膜3とがそれぞれパターニングされてなる転写用パターン10´を備えている。図2(a)において、転写用パターン10´の平面図を上部に、断面図を下部に示す。以下、図2(b)~図2(f)についても同様である。
【0088】
図2(a)に示すように、本実施形態において修正の対象となる転写用パターン10´は、透明基板1上に少なくとも遮光膜3が形成されている遮光部13と、透明基板1上に位相シフト作用をもつ半透光膜2が形成された半透光部12とを有する。転写用パターン10´は、さらに透明基板1が露出した透光部11(図示せず)を有していてもよい。遮光膜3の表層には、反射防止層が形成されていてもよい。本実施形態では、遮光部13においては、透明基板1上に遮光膜3のみが形成されている例を示しているが、遮光膜3の上または下に半透光膜2が形成されていてもよい。第3実施形態も同様である。
【0089】
図2(a)に示すように、本実施形態では、半透光部12は遮光部13に隣接し、半透光部12と遮光部13が配列する方向において挟まれて配置されている。図2(a)においては、半透光部12と透光部11とは隣接していない。
【0090】
半透光部12は、上述の第1実施形態と同様の透過率Tmと、位相差φmとを有する。遮光部13は、露光光を実質的に透過しない(OD≧2)遮光膜3からなる。
【0091】
図2(b)は、転写用パターン10´に白欠陥20が生じた場合を示す。
【0092】
図2(c)は、白欠陥20を含む領域にある膜(半透光膜2および遮光膜3)を除去することで、透明基板1を露出させる工程を示す。本工程を行うことで、修正膜4を形成するための領域(以下、修正領域21ともいう)の形状を整えることができる。
【0093】
図2(d)は、修正領域21において、露出した透明基板1の表面に、第1実施形態と同様の修正膜A(4a)を形成する工程を示す。図2(e)は、修正膜A(4a)上に、修正膜B(4b)を積層する工程を示す。修正膜A(4a)および修正膜B(4b)の光学特性、組成、および成膜方法は、第1実施形態と同様のものを適用することができる。したがって、積層膜である修正膜4も、第1実施形態と同様である。
【0094】
本実施形態では、修正領域21が、遮光部13や半透光部12と隣接している。図2(c)は、修正領域21が、遮光部13または半透光部12によって囲まれている例を示す。ここで、修正領域21の外縁を形成する半透光膜2と、修正膜A(4a)および/または修正膜B(4b)のエッジが、互いに重ならないように、修正膜4を形成する。修正膜A(4a)および/または修正膜B(4b)が、残存する半透光膜2のエッジと重なると、該重なり部分の透過率が正常な半透光膜2より低下し、設計通りのパターンが転写されない不都合が生じる可能性があるためである。
【0095】
さらに、修正領域21の外縁を形成する遮光膜3のエッジが、修正膜A(4a)、あるいは、修正膜A(4a)および修正膜B(4b)と、互いに重ならないように、修正膜4を形成している。これは、修正膜A(4a)が、残存する遮光部13のエッジと重なると、遮光膜3のエッジ部分において、遮光膜3の成分(例えば、Cr)にエネルギーが照射されることによって、不要な修正膜A(4a)の膜成長が開始し、近傍の半透光部12(修正後を含む)の透過率を変化させてしまう場合があるためである。
【0096】
このため、本実施形態に係る修正膜形成工程では、修正膜A(4a)および/または修正膜B(4b)のエッジと、透明基板1上に残存する半透光膜2および遮光膜3のエッジとが重なりを生じないように、エッジ位置を調整することが好ましい。または、図2(c)および図2(d)に示すように、修正膜A(4a)および/または修正膜B(4b)のエッジと、透明基板1上に残存する半透光膜2および遮光膜3のエッジとが、所定の離間距離だけ間隔が空くように、修正膜形成工程を行うことが好ましい。
【0097】
離間距離は、例えば、1μm以下であり、好ましくは、0.1~1μmである。この離間距離は、位相シフトマスクを露光する露光装置の解像限界より小さいため、該離間部が被転写体上に転写されることは、実質的に生じない。
【0098】
本実施形態では、図2(c)示すように、白欠陥20を含む領域の膜除去を行なったため、修正膜4の形成が完了した図2(e)に示す時点において、修正半透光部12a(半透光部12の一部または全部に修正膜4を形成した領域を意味する)の形状が、正常なパターンの形状と異なったものになっている。具体的には、修正半透光部12aの幅は、正常なパターンにおける半透光部12の幅より大きい。
【0099】
そのため、図2(f)に示すように、修正半透光部12aの幅が正常なパターンと同じ幅となるように、そのエッジ周辺に、遮光性の補充膜5を形成することが好ましい。補充膜5の形成方法は、例えばFIB法を用いてもよいし、レーザCVD法を用いてもよい。
【0100】
補充膜5は、正常なパターンにおける遮光膜3とは成膜方法が異なることに関係し、成分や成分比が異なるもの、すなわち遮光膜3と組成が異なるものとすることができる。例えば、C(炭素)を主成分とする膜とすることができる。Cの含有量は、90~100%であることが好ましい。これにより、耐薬性を向上させることができる。光学的には、補充膜5は、露光光を実質的に透過しない(OD≧2)ことが好ましい。
【0101】
図2(f)では、修正半透光部12aの幅が、修正前の正常な半透光部12と同一になるように補充膜5を形成している。但し、修正半透光部12aの透過率が目標値に対して過不足をもっている場合、これを目標値に近づける微調整をする目的で、修正半透光部12aの幅を、正常な半透光部12より大きく、または小さくしてもよい。すなわち、修正膜形成工程の後に、修正膜4の光学性能を検査し、検査結果を踏まえて、補充膜5の形成の寸法を加減してもよい。この場合には、形成される修正半透光部12aは、正常な半透光部12に比べて、局所的に幅が小さく、または大きくなる。
【0102】
以上により、本実施形態においても、上述の第1実施形態の場合と同様に、所定の透過率と位相差を備えた転写用パターン10´に生じる欠陥に対して、精緻な修正を行なうことができる。
【0103】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る位相シフトマスクについて説明する。
【0104】
図3(a)に、本実施形態に係る位相シフトマスクの、正常なパターン部分を示す。本実施形態に係る位相シフトマスクは、透明基板1上に、半透光膜2と遮光膜3とがそれぞれパターニングされてなる転写用パターン10´を備えている。図3(a)において、転写用パターン10´の平面図を上部に、断面図を下部に示す。以下、図3(b)~図3(f)についても同様である。
【0105】
図3(a)に示すように、本実施形態において修正の対象となる転写用パターン10´は、透明基板1上に少なくとも遮光膜3が形成されている遮光部13と、透明基板1上に位相シフト作用をもつ半透光膜2が形成された半透光部12とを有する。転写用パターン10´は、さらに透明基板1が露出した透光部11(図示せず)を有していてもよい。遮光膜3の表層には、反射防止層が形成されていてもよい。
【0106】
図3(a)に示すように、本実施形態では、半透光部12は遮光部13に隣接し、半透光部12と遮光部13が配列する方向において挟まれて配置されている。図3(a)においては、半透光部12と透光部11とは隣接していない。
【0107】
半透光部12は、上述の第1実施形態と同様の透過率Tmと、位相差φmとを有する。遮光部13は、露光光を実質的に透過しない(OD≧2)遮光膜3からなる。
【0108】
図3(b)は、転写用パターン10´に白欠陥20が生じた場合を示す。
【0109】
図3(c)は、白欠陥20が生じた半透光部12とつながる半透光膜2をすべて除去して透明基板1を露出し、修正領域22の形状を整える工程を示す。図3(c)においては、半透光膜2の除去と同時に、隣接する遮光膜3の一部も除去する場合を示す。
【0110】
図3(d)は、修正領域22において、露出した透明基板1の表面に、第1実施形態と同様の修正膜A(4a)を形成する工程を示す。図3(e)は、修正膜A(4a)上に、修正膜B(4b)を積層する工程を示す。修正膜A(4a)および修正膜B(4b)の光学特性、組成、および成膜方法は、第1実施形態と同様のものを適用することができる。したがって、積層膜である修正膜4も、第1実施形態と同様である。
【0111】
本実施形態では、欠陥の生じた半透光部12とつながる半透光膜2をすべて除去しているので、図3(e)に示すように、修正後の転写用パターン10´において、修正膜4と正常な半透光膜2が隣接しない。したがって、修正膜4と正常な半透光膜2の境界における、両膜の離間や重複が生じない。離間や重複は、寸法が大きくなると、被転写体上に転写するリスクが生じるが、本実施形態では、そのようなリスクが無い点で有利である。
【0112】
本実施形態では、図3(c)示すように、白欠陥20を含む領域の膜除去を行なったため、修正膜4の形成が完了した図3(e)に示す時点において、修正半透光部12aの形状が、正常なパターンの形状と異なったものになっている。具体的には、修正半透光部12aの幅は、正常なパターンにおける半透光部12の幅より大きい。
【0113】
そのため、図3(f)に示すように、修正半透光部12aの幅が正常なパターンと同じ幅となるように、そのエッジ周辺に、遮光性の補充膜5を形成することが好ましい。補充膜5の形成方法や組成は、第2実施形態と同様のものとすることができる。
【0114】
以上により、本実施形態においても、上述の第1実施形態の場合と同様に、所定の透過率と位相差を備えた転写用パターン10´に生じる欠陥に対して、精緻な修正を行なうことができる。
【0115】
<表示装置の製造方法>
本発明は、上述の位相シフトマスクを用いた、表示装置の製造方法を含む。この製造方法は、上述の位相シフトマスクを用意する工程と、露光装置を用いて、位相シフトマスクを露光し、転写用パターンを被転写体上に転写する工程とを含む。露光装置は、プロジェクション方式でも、プロキシミティ方式でもよい。位相シフト作用による、微細パターンを精緻に解像する高精細デバイスの製造としては、前者がより有利である。
【0116】
プロジェクション方式を用いて露光する際の光学条件としては、光学系のNAが0.08~0.15が好ましく、露光光原は、i線、h線、g線のいずれかまたはその複数を含む光源が好適に利用できる。もちろん、上記波長域より短波長側の波長域(例えば、250~400nm)をもつ光を露光光とすることもできる。
【0117】
本発明の表示装置の製造方法によれば、修正膜を2層構成として半透光部の欠陥に対する修正を行うので、困難であった高透過率の位相シフト膜とほぼおなじ光学物性をもつように修正を施すことができる。つまり、高透過率で位相シフト作用をもつ半透光膜に生じる欠陥に対して、精緻な修正を行なうことができる。
【0118】
<変形例>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0119】
例えば、上述の実施形態では、修正膜4は、透明基板1側から、修正膜A(4a)と修正膜B(4b)とが順に形成されている積層膜である場合について説明したが、修正膜4を積層する順番は、上述の実施形態に限定されない。すなわち、修正膜4は、透明基板1側から、修正膜B(4b)と修正膜A(4a)とが順に形成されている積層膜であってもよい。この場合、修正膜B(4b)を形成する際、修正膜A(4a)の膜厚分布の不均一により、修正膜A(4a)の光学特性の面内均一性が低下することを予測し、修正膜B(4b)の膜厚を予め調整することが好ましい。これにより、上述の実施形態と同様に、修正膜4の光学特性の面内分布を均一にすることができる。
【符号の説明】
【0120】
1 透明基板
2 半透光膜
3 遮光膜
4 修正膜
4a 修正膜A
4b 修正膜B
5 補充膜
10、10´ 転写用パターン
11 透光部
12 半透光部
12a 修正半透光部
13 遮光部
20 白欠陥
21、22 修正領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6