(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ポリエステル織編物及びこれを用いたユニフォーム、並びに、当該ポリエステル織編物の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 11/00 20060101AFI20240306BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20240306BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20240306BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20240306BHJP
D04B 21/16 20060101ALI20240306BHJP
D06B 3/28 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
D06M11/00 111
D03D15/20 100
D03D15/283
D04B1/16
D04B21/16
D06B3/28
(21)【出願番号】P 2020124274
(22)【出願日】2020-07-21
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】593069897
【氏名又は名称】モリリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】山田 敏博
(72)【発明者】
【氏名】木原 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】橋田 佳雅
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-138372(JP,A)
【文献】登録実用新案第3222833(JP,U)
【文献】特開2015-214772(JP,A)
【文献】特開2019-143278(JP,A)
【文献】特開平05-339867(JP,A)
【文献】実公昭62-003427(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00 - 27/18
D04B 1/00 - 1/28
D04B 21/00 - 21/20
D06B 1/00 - 23/30
D06C 3/00 - 29/00
D06G 1/00 - 5/00
D06H 1/00 - 7/24
D06J 1/00 - 1/12
D06M 10/00 - 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原液着色繊維からなる原糸又は原綿を1色又は複数色組み合わせたポリエステル糸を一部又は全体に使用して製織又は製編してなる織編物であって、
前記ポリエステル糸の状態における昇華堅牢度性能がJIS L 0805(汚染用グレースケール)を用いた判定において、4-5級以上と評価され、
製織後又は製編後にアルカリ減量加工を施され、且つ、織編物の全体又は一部がL
*a
*b
*表色系における明度(L
*)の値が60以下の中色又は濃色であって、
JIS L 0849(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に規定する摩擦試験機II形(学振形)法よる乾摩擦及び湿摩擦の評価がいずれも4級以上であることを特徴とするポリエステル織編物。
【請求項2】
前記昇華堅牢度性能は、JIS L 0854(昇華に対する染色堅ろう度試験方法)に規定する汗試験機を使用し、前記原糸又は原綿にポリエステル白布を添付して約12.5kPaの圧力を加えた状態で、180℃±2℃の乾熱中で10分間の昇華試験を行うことを特徴とする請求項1に記載のポリエステル織編物。
【請求項3】
前記原糸又は原綿の単糸繊度は、4.444dtex以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル織編物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1つに記載のポリエステル織編物を一部又は全体に使用して縫製してなることを特徴とするユニフォーム。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか1つに記載のポリエステル織編物を製造する方法であって、
製織後又は製編後の前記ポリエステル織編物に前記アルカリ減量加工を施した後、当該ポリエステル織編物をロープ状態で洗浄する第1洗浄工程と、当該ポリエステル織編物を拡布状態で洗浄する第2洗浄工程とを有することを特徴とするポリエステル織編物の製造方法。
【請求項6】
前記第1洗浄工程において、
ジェットノズルからの洗浄液の噴射によって、ロープ状態にした前記ポリエステル織編物を循環させ、当該ポリエステル織編物どうしが洗浄液中で相互に摩擦され、
前記第2洗浄工程において、
前記第1洗浄工程後の前記ポリエステル織編物を拡布状態にして洗浄液中で洗浄することを特徴とする請求項
5に記載のポリエステル織編物の製造方法。
【請求項7】
前記第1洗浄工程において、
高温高圧下おいてジェットノズルからの洗浄液の噴射によって、ロープ状態にした前記ポリエステル織編物を循環させ、当該ポリエステル織編物どうしが高温高圧下の洗浄液中で相互に摩擦され、
前記第2洗浄工程において、
前記第1洗浄工程後の前記ポリエステル織編物を拡布状態にして洗浄剤を付与し、洗浄剤付与後の当該ポリエステル織編物を拡布状態でスチーム処理し、スチーム処理後の当該ポリエステル織編物を拡布状態にして洗浄液中で洗浄することを特徴とする請求項
5に記載のポリエステル織編物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル織編物及びこれを用いたユニフォーム、並びに、当該ポリエステル織編物の製造方法に関するものである。特に、厳しい工業洗濯において汚染堅牢度が良好であって、且つ、柔軟で着心地の良いユニフォームを構成することのできるポリエステル織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
作業着やユニフォームなどの洗濯は、一括して洗濯業者による工業洗濯で対応することが多い。特に、強力な汚れや特殊な汚れを落とすためには、厳しい条件による洗濯が必要である。
【0003】
また、最近の傾向として作業着やユニフォームにもファッショナブルなものが多くなっている。この傾向は、事務用のユニフォームだけでなく、医療関係者や介護関係者のユニフォーム(以下、これらを纏めて「医療用ユニフォーム」という)などにも広がっている。特に、医療用ユニフォームでは、従来の白物だけではなく同形で色違いのカラーバリエーションの豊富なユニフォームや、袖・襟・胴などの部位で異なる色を組み合わせたユニフォームなどが使用され多岐に亘ることが多い。
【0004】
ファッショナブルでカラーバリエーションの豊富なユニフォームには、ポリエステル繊維の織編物が一般的に使用されている。ポリエステル繊維の織編物は、物性に優れると共に鮮やかな色に染色することができ、活動的でファッショナブルなユニフォームに適している。しかし、物性に優れたポリエステル繊維の織編物を使用した場合でも、厳しい工業洗濯においては洗濯による色移りの問題が生じることがある。一般に、色移りは、濃色のユニフォームと白色又は淡色のユニフォームを同浴中で洗濯した場合に生じやすい。
【0005】
そこで、工業洗濯においては、色別・濃度別などに仕分けしてから洗濯することが通常作業として行われている。しかし、医療用ユニフォームにおいては、治療・手術・介護などの際に付着した特殊な汚れ、又は、何らかの病原因子による汚染も考慮しなければならず、衛生上の理由から工業洗濯現場における仕分け作業にはリスクが伴うとされている。
【0006】
そこで、医療用ユニフォームの工業洗濯は、専門の洗濯業者が医療機関又は介護施設から配送された医療用ユニフォームを仕分けすることなく工業用洗濯機に投入して洗濯することが度々行われている。その場合には、洗濯浴中に様々な色のユニフォームや濃度が大きく異なるユニフォームが混在することとなり、また工業洗濯の厳しい条件によって洗濯による色移りの問題が頻繁に生じている。
【0007】
一般に、ポリエステル繊維は、織編物にした後に染色される。また、カラーバリエーションが豊富で生産ロットの小さな医療用ユニフォームにおいては、ユニフォームに縫製した後に染色が行われる場合もある。織編物での染色又は縫製品での染色には、分散染料などが使用されるが、工業洗濯による色移りを考慮して耐熱性と耐昇華性に優れた染料を揃えるには一定の限界があり、医療用ユニフォームの豊富なカラーバリエーションをカバーすることが難しい。
【0008】
そこで、染色されたポリエステル繊維よりも耐熱性と耐昇華性に優れたポリエステル繊維として、原液着色繊維(以下「原着繊維」ともいう)がある。この原着繊維は、ポリエステル繊維の場合には溶融ポリマーに顔料などの色材を加えて着色してから紡糸した繊維である。使用する顔料には、耐熱性と耐昇華性に優れたものが使用されるので染色堅牢度に優れている。この原着繊維を医療用ユニフォームに利用すれば、厳しい工業洗濯による色移りを防止できる。
【0009】
そこで、本発明者らは、これまでに下記特許文献1において、原着繊維を使用して豊富なカラーバリエーションを表現でき、且つ、耐熱性と耐昇華性に優れて工業洗濯による色移りの少ないユニフォームを生産することのできるポリエステル糸及びこれを用いた織編物、並びに、これを用いたユニフォームを提供した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、医療用ユニフォームにおいては、活動的な作業に対応できるだけでなく、柔軟で着心地の良さが要求される。一般に、物性に優れるポリエステル繊維に対しては、アルカリによって繊維表面のエステル結合を加水分解するアルカリ減量加工が施される。このアルカリ減量加工によって、ポリエステル織編物の繊維を細くして交差する糸間の接圧を下げて風合いを柔軟にし、ドレープ性などを向上させることができる。
【0012】
そこで、上記特許文献1に係るポリエステル織編物にアルカリ減量加工を施したところ、もともと高堅牢度を有する原着繊維からなるので殆どの堅牢度は低下することがない。しかし、中色又は濃色の織編物に関しては、摩擦堅牢度が低下する。この摩擦堅牢度の低下は、アルカリ減量加工に起因することは判明したが洗浄操作を施しても改善できないという問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処して、原着繊維を使用して豊富なカラーバリエーションを表現でき、且つ、アルカリ減量加工を施しても摩擦堅牢度の低下がなく、柔軟で着心地の良いユニフォームを生産することのできるポリエステル織編物及びこれを用いたユニフォーム、並びに、当該ポリエステル織編物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、アルカリ減量加工による原着繊維の摩擦堅牢度低下の原因を考察し、アルカリ減量加工後の洗浄工程を検討することにより上記目的を達成できることを見出し本発明の完成に至った。
【0015】
即ち、本発明に係るポリエステル織編物は、請求項1の記載によると、
原液着色繊維からなる原糸又は原綿を1色又は複数色組み合わせたポリエステル糸を一部又は全体に使用して製織又は製編してなる織編物であって、
前記ポリエステル糸の状態における昇華堅牢度性能がJIS L 0805(汚染用グレースケール)を用いた判定において、4-5級以上と評価され、
製織後又は製編後にアルカリ減量加工を施され、且つ、織編物の全体又は一部がL*a*b*表色系における明度(L*)の値が60以下の中色又は濃色であって、
JIS L 0849(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に規定する摩擦試験機II形(学振形)法よる乾摩擦及び湿摩擦の評価がいずれも4級以上であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、請求項2の記載によると、請求項1に記載のポリエステル織編物であって、
前記昇華堅牢度性能は、JIS L 0854(昇華に対する染色堅ろう度試験方法)に規定する汗試験機を使用し、前記原糸又は原綿にポリエステル白布を添付して約12.5kPaの圧力を加えた状態で、180℃±2℃の乾熱中で10分間の昇華試験を行うことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、請求項3の記載によると、請求項1又は2に記載のポリエステル織編物であって、
前記原糸又は原綿の単糸繊度は、4.444dtex以下であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係るユニフォームは、請求項4の記載によると、
請求項1~3のいずれか1つに記載のポリエステル織編物を一部又は全体に使用して縫製してなることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係るポリエステル織編物の製造方法は、請求項5の記載によると、
請求項1~3のいずれか1つに記載のポリエステル織編物を製造する方法であって、
製織後又は製編後の前記ポリエステル織編物に前記アルカリ減量加工を施した後、当該ポリエステル織編物をロープ状態で洗浄する第1洗浄工程と、当該ポリエステル織編物を拡布状態で洗浄する第2洗浄工程とを有することを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、請求項6の記載によると、請求項5に記載のポリエステル織編物の製造方法であって、
前記第1洗浄工程において、
ジェットノズルからの洗浄液の噴射によって、ロープ状態にした前記ポリエステル織編物を循環させ、当該ポリエステル織編物どうしが洗浄液中で相互に摩擦され、
前記第2洗浄工程において、
前記第1洗浄工程後の前記ポリエステル織編物を拡布状態にして洗浄液中で洗浄することを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、請求項7の記載によると、請求項5に記載のポリエステル織編物の製造方法であって、
前記第1洗浄工程において、
高温高圧下おいてジェットノズルからの洗浄液の噴射によって、ロープ状態にした前記ポリエステル織編物を循環させ、当該ポリエステル織編物どうしが高温高圧下の洗浄液中で相互に摩擦され、
前記第2洗浄工程において、
前記第1洗浄工程後の前記ポリエステル織編物を拡布状態にして洗浄剤を付与し、洗浄剤付与後の当該ポリエステル織編物を拡布状態でスチーム処理し、スチーム処理後の当該ポリエステル織編物を拡布状態にして洗浄液中で洗浄することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
上記構成によれば、本発明に係るポリエステル織編物は、原液着色繊維からなる原糸又は原綿を1色又は複数色組み合わせたポリエステル糸を一部又は全体に使用して製織又は製編する。このポリエステル糸の状態における昇華堅牢度性能がJIS L 0805(汚染用グレースケール)を用いた判定において、4-5級以上と評価される。
【0024】
また、このポリエステル織編物は、製織後又は製編後にアルカリ減量加工を施されている。更に、このポリエステル織編物は、織編物の全体又は一部がL*a*b*表色系における明度(L*)の値が60以下の中色又は濃色である。更に、このポリエステル織編物は、JIS L 0849(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に規定する摩擦試験機II形(学振形)法よる乾摩擦及び湿摩擦の評価がいずれも4級以上である。
【0025】
このことにより、原着繊維を使用して豊富なカラーバリエーションを表現でき、且つ、アルカリ減量加工を施しても摩擦堅牢度の低下がなく、柔軟で着心地の良いユニフォームを生産することのできるポリエステル織編物を提供することができる。
【0026】
また、上記構成によれば、昇華堅牢度性能は、JIS L 0854(昇華に対する染色堅ろう度試験方法)に規定する汗試験機を使用し、原糸又は原綿にポリエステル白布を添付して約12.5kPaの圧力を加えた状態で、180℃±2℃の乾熱中で10分間の昇華試験を行うことにより確認する。このことにより、上記効果をより具体的に発揮することができる。
【0027】
また、上記構成によれば、原糸又は原綿の単糸繊度は、4.444dtex以下であってもよい。このことにより、原着繊維を使用して豊富なカラーバリエーションを表現でき、且つ、耐熱性と耐昇華性に優れて工業洗濯による色移りの少ないユニフォームを提供することができ、上記効果をより具体的に発揮することができる。
【0029】
また、上記構成によれば、本発明に係るユニフォームは、請求項1~3のいずれか1つに記載のポリエステル織編物を一部又は全体に使用して縫製してなる。このことにより、豊富なカラーバリエーションを表現でき、且つ、アルカリ減量加工を施しても摩擦堅牢度の低下がなく、柔軟で着心地の良いユニフォームを提供することができる。更に、医療用ユニフォームにおいては、工業洗濯の際の仕分け作業が不要となって洗濯作業が軽減されると共に、作業者への感染リスクが低減される。
【0030】
また、上記構成によれば、本発明に係るポリエステル織編物の製造方法は、請求項1~3のいずれか1つに記載のポリエステル織編物を製造する方法である。この方法においては、製織後又は製編後のポリエステル織編物にアルカリ減量加工を施した後、第1洗浄工程と第2洗浄工程との2段階の洗浄工程を有する。第1洗浄工程においては、ポリエステル織編物をロープ状態で洗浄する。次に、第2洗浄工程においては、ポリエステル織編物を拡布状態で洗浄する。
【0031】
このことにより、アルカリ減量加工を施しても摩擦堅牢度が低下することがなく、豊富なカラーバリエーションを表現でき、且つ、アルカリ減量加工を施しても摩擦堅牢度の低下がなく、柔軟で着心地の良いユニフォームを構成することのできるポリエステル織編物の製造方法を提供することができる。
【0032】
また、上記構成によれば、第1洗浄工程においては、ジェットノズルからの洗浄液の噴射によってロープ状態にしたポリエステル織編物を循環させるようにしてもよい。これにより、循環するポリエステル織編物どうしが洗浄液中で相互に摩擦される。また、第2洗浄工程においては、第1洗浄工程後のポリエステル織編物を拡布状態にして洗浄液中で洗浄するようにしてもよい。これらのことにより、上記効果をより具体的に発揮することができる。
【0033】
また、上記構成によれば、第1洗浄工程においては、高温高圧下おいてジェットノズルからの洗浄液の噴射によってロープ状態にした前記ポリエステル織編物を循環させるようにしてもよい。これにより、循環するポリエステル織編物どうしが高温高圧下の洗浄液中で相互に摩擦される。また、第2洗浄工程においては、第1洗浄工程後のポリエステル織編物を拡布状態にして洗浄剤を付与する。次に、洗浄剤付与後のポリエステル織編物を拡布状態でスチーム処理する。次に、スチーム処理後のポリエステル織編物を拡布状態にして洗浄液中で洗浄するようにしてもよい。これらのことにより、上記効果をより具体的かつ効果的に発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係るポリエステル織編物及びこれを用いたユニフォーム、並びに、当該ポリエステル織編物の製造方法を実施形態により説明する。本実施形態は、医療用ユニフォームを例にして説明するが、本発明は下記の実施形態にのみ限定されるものではない。
【0035】
≪ポリエステル糸≫
本実施形態に係るポリエステル織編物は、ポリエステル糸を製織又は製編したものであり、このポリエステル糸を構成するポリエステル繊維は、長繊維であっても短繊維であってもよい。ポリエステル繊維が長繊維の場合には、マルチフィラメント糸を構成する。ポリエステル繊維が短繊維の場合には、紡績糸を構成する。また、ポリエステル繊維に使用するポリマー(ポリエステル樹脂)の種類については、特に限定するものではなく、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、その他の樹脂であってもよい。
【0036】
本実施形態に使用するポリエステル糸は、原着繊維からなる。原着繊維は、上述のように、溶融ポリマーに顔料などの色材を加えて着色してから紡糸した繊維である。すなわち、本実施形態において使用するポリエステル繊維は、紡糸後に原糸又は原綿の状態、製織後又は製編後、或いは、縫製後のいずれかの段階で染色されたものではない。従って、紡糸の段階で顔料を含有するので、極度に細い繊維を製造することが難しい。
【0037】
また、原着繊維に使用する顔料は、耐熱性と耐昇華性に優れたものを超微粒子にして用いる。本発明者らは、各種の顔料について、単糸繊度と物性を考慮しながら顔料の粒径とポリマーへの添加量などを種々検討し、本実施形態に使用できる着色されたポリエステル繊維を選定した。
【0038】
一方、本実施形態に使用するポリエステル糸を構成する原糸(長繊維の場合)又は原綿(短繊維の場合)の単糸繊度は、特に限定するものではないが、活動的でファッショナブルなデザインの医療用ユニフォームを構成するためには、ある程度細い繊維が好ましい。例えば、製織後又は製編後にアルカリ減量加工を施すことを考慮して4.444dtex(デシテックス)以下の単糸繊度であることが好ましい。
【0039】
原糸又は原綿の段階では着色せず、その後に染料(単分子)で染色する場合には、4.444dtexよりも細い単糸繊度の糸を製造することも可能である。しかし、本実施形態においては高堅牢度を有する原着繊維(顔料使用)を使用するので、安定した品質の原糸又は原綿を製造するための単糸繊度には限界がある。特に、原糸(長繊維)の場合には、4.444dtex以下の単糸繊度であることが好ましい。一方、品質が安定しやすい原綿(短繊維)の場合には、2.222dtex(デシテックス)以下の単糸繊度であってもよい。更に、1.666dtex以下の単糸繊度であってもよい。
【0040】
本実施形態に使用する原着繊維の選定は、ポリエステル糸の状態における昇華堅牢度性能で評価した。本発明者らは、上記特許文献1において、医療用ユニフォームの工業洗濯の際に色移りを起こさないポリエステル糸の条件として、独自の昇華堅牢度試験法を見出した(詳細は後述する)。
【0041】
また、カラーバリエーションの豊富な医療用ユニフォームを製造するためには、ポリエステル織編物を構成するポリエステル糸に豊富なカラーバリエーションが必要となる。本実施形態においては、原着繊維を1色又は複数色組み合わせたポリエステル糸を使用し、これを製織又は製編してポリエステル織編物とする。原着繊維を1色使用したポリエステル糸の場合には、溶融ポリマー段階から特定色に配合した顔料を混合して所定の色相・彩度・明度を有する原糸又は原綿を紡糸する。この場合には、単一色の原糸又は原綿を使用するので、長繊維の場合であっても短繊維の場合であっても、原糸又は原綿と同じ色相・彩度・明度を有するポリエステル糸が得られる。
【0042】
また、原着繊維を複数色組み合わせたポリエステル糸の場合には、異なる色の原糸又は原綿を準備し、これらを混合して所定の色相・彩度・明度を有するポリエステル糸を得る。ポリエステル繊維が長繊維の場合には、選定した複数色の原糸を合撚により組み合わせて所定の色相・彩度・明度を有するポリエステル長繊維糸を得る。なお、特殊な方法ではあるが、紡糸段階で異なる色の長繊維を混合する紡糸混繊という方法もある。一方、ポリエステル繊維が短繊維の場合には、選定した複数色の原綿を混合紡糸(以下「混紡」という)により組み合わせて所定の色相・彩度・明度を有するポリエステル短繊維糸を得る。このように複数色の原糸を合撚又は原綿を混紡したポリエステル糸は、1色に染色された糸と同様に均一色と認識できる。
【0043】
合撚及び混紡の方法については、特に限定するものではなく、ポリエステル繊維で通常に行われる方法で行うようにすればよい。なお、原糸又は原綿を組み合わせて製造するポリエステル糸の太さ(繊度又は番手)は、特に限定するものではなく、最終製品である医療用ユニフォームの企画に合わせて構成すればよい。また、ポリエステル糸を製造する際に、ポリウレタン糸などの伸縮糸を複合してストレッチ糸としてもよい。
【0044】
≪ポリエステル織編物≫
次に、このようにして製造したポリエステル糸を製織又は製編して本実施形態に係るポリエステル織編物を製造する。なお、製織する織物の織組織又は製編する編物の編組織は、特に限定するものではなく、最終製品である医療用ユニフォームの企画に合わせて構成すればよい。製織又は製編されたポリエステル織編物は、通常の工程に従って糊抜き・精練・ヒートセットなどの準備工程を経て通常の織編物として完成する。なお、本実施形態においては、原着繊維であり染色は行わない。また、本実施形態においては、その後、アルカリ減量加工を施す(後述する)。
【0045】
この段階及び後述するアルカリ減量加工後におけるポリエステル織編物は、L*a*b*表色系における明度(L*)の値が60以下の中色又は濃色の織編物である。特に、明度(L*)の値が30以下の濃色においても、良好な効果を発揮するという特徴を有する。なお、ポリエステル織編物の全体が中色又は濃色のものだけではなく、ボーダー柄やチェック柄など一部が中色又は濃色であって、白色又は淡色の部分を含むものであってもよい。このように、本実施形態は、ポリエステル織編物の全体又は一部が中色又は濃色であることにより、工業洗濯による色移りが発生することを防止することを目的とする。
【0046】
なお、この段階におけるポリエステル織編物の各種堅牢度は4級以上と非常に良好なものであり、耐光堅牢度(JIS L 0842)、洗濯堅牢度(JIS L 0844)、汗堅牢度(JIS L 0848)、摩擦堅牢度(JIS L 0849;II型)はもちろん、工業洗濯(後述する)においても、良好なものである。なお、この段階の摩擦堅牢度は、アルカリ減量加工を施されていないので、非常に良好なものである。
【0047】
≪アルカリ減量加工≫
本実施形態においては、上述の準備工程後のポリエステル織編物にアルカリ減量加工を施す。アルカリ減量加工とは、ポリエステル繊維の表面をアルカリ濃厚溶液で加水分解させ、繊維本来の剛直感をなくし、さらに減量化に伴う糸細りで交差する糸間の接圧を下げて風合いを柔軟にし、ドレープ性などを向上させる加工である。通常のポリエステル織編物に一般に行われている加工法であるが、本実施形態においても柔軟で着心地の良い医療用ユニフォームを提供するために採用する。
【0048】
本実施形態におけるアルカリ減量加工の処方及び装置は、特に限定するものではなく、通常のポリエステル織編物に採用されている方法を採用すればよい。一般に、ポリエステル織編物の減量加工には、アルカリとして水酸化ナトリウムを使用し、求める減量率に合わせて水酸化ナトリウムの使用量を定量的に決めることができる。また、装置に関してもパッド・スチーム法などの連続減量加工機や液流染色機を使用する液流減量加工機などを使用すればよい。
【0049】
また、本実施形態におけるアルカリ減量加工の減量率は、原糸又は原綿の単糸繊度、糸規格、織物規格、求める柔軟性などによって適宜選定すればよい。一般に、柔軟でドレープ性に優れたポリエステル織編物を得るには、5重量%以上の減量率であることが好ましく、10重量%以上の減量率であることがより好ましい。なお、減量率の上限は、一般的に30重量%程度とされている。なお、アルカリ減量加工後におけるポリエステル織編物は、L*a*b*表色系における明度(L*)の値が60以下の中色又は濃色の織編物である。
【0050】
準備工程後のポリエステル織編物にアルカリ減量加工を施したところ、もともと高堅牢度を有する原着繊維からなるので殆どの堅牢度は低下することがない。しかし、本実施形態においては、色移りの防止を目的の1つとしているので中色又は濃色のポリエステル織編物である。これらの中色又は濃色のポリエステル織編物に関しては、摩擦堅牢度が低下することが分かった。アルカリ減量加工のポリエステル織編物は、通常工程として洗浄操作が行われる。しかし、アルカリ減量加工に起因する摩擦堅牢度の低下は、通常の洗浄操作を施しても改善できなかった。
【0051】
本発明者らは、アルカリ減量加工による原着繊維の摩擦堅牢度低下の原因を次のように考察した。アルカリ減量加工によってポリエステル繊維の表面が加水分解して糸細りすることにより、本来は原着繊維の中に埋没していた顔料が繊維表面に一部露出した。顔料は、染料とは異なり色剤分子が凝集或いは結晶化したものであり、水や有機溶剤にも溶解しないことから、一部が繊維表面に露出しても色移りせず堅牢度も良好である。
【0052】
ところが、摩擦堅牢度試験のように表面に露出した顔料を試験布で摩耗することにより、顔料の一部が脱落して試験布を汚染すると考えられる。しかし、アルカリ減量加工後の洗浄操作においては、洗浄剤を使用してオープンソーパーで洗浄しているが摩擦堅牢度の低下は向上しなかった。
【0053】
≪洗浄工程≫
そこで、本発明者らは、アルカリ減量加工後の洗浄操作について再検討することとした。上述のように、本発明者らの考えでは、アルカリ減量加工によって繊維表面に露出した顔料の一部が、摩擦試験において試験布で摩耗されて脱落し、試験布を汚染すると考えた。そうであれば、洗浄操作で繊維表面に露出した顔料を予め削り落としてしまえば、洗浄操作後の摩擦堅牢度は向上するものと考えた。
【0054】
そこで、工業的な繊維加工操作として、アルカリ減量加工後のポリエステル織編物をロープ状態で洗浄することとした。洗浄液中で湿潤した状態のポリエステル織編物をロープ状態で洗浄すれば、ポリエステル織編物どうしが洗浄液中で相互に摩擦されて繊維表面に露出した顔料を削り落とすことができる。具体的には、洗浄剤を使用して高圧液流染色機で高温高圧の洗浄操作を行った。しかし、それでも摩擦堅牢度の低下は向上しなかった。
【0055】
本発明者らは、その原因について更に考察した。通常、染料で染色された織編物であれば、洗浄液中でロープ状態の洗浄をしても、繊維に染着せずに織編物上に付着している染料を除去することができる。更に、還元洗浄して染着していない染料を脱色除去することもできる。しかし、本実施形態においては、摩耗されて織編物上に付着しているのは顔料である。削り落とされたものであっても顔料は、染料(単分子)とは異なり色剤分子が凝集或いは結晶化したものである。これらの顔料は、還元洗浄で脱色することもできず、水に不溶であるだけでなく洗浄剤(界面活性剤)を使用しても分散しにくい。従って、洗浄液中でロープ状態の洗浄をしても、脱落した顔料を除去できない。
【0056】
そこで、本発明者らは、ロープ状態の洗浄で繊維表面に露出した顔料は脱落しているものと考えている。従って、繊維表面から脱落し織編物上に付着している顔料を洗浄できる方法について検討した。その結果、次のような2段の洗浄工程を採用することにより、摩擦堅牢度の低下を向上させることができた。まず、第1洗浄工程においては、アルカリ減量加工を施したポリエステル織編物をロープ状態で洗浄する。次に、第2洗浄工程においては、第1洗浄工程後のポリエステル織編物を拡布状態で洗浄する。これらの洗浄工程について、以下に説明する。
【0057】
(1)第1洗浄工程
第1洗浄工程においては、アルカリ減量加工を施したポリエステル織編物をロープ状態で洗浄する。この工程においては、洗浄液中で湿潤した状態のポリエステル織編物をロープ状態で洗浄することにより、ポリエステル織編物どうしが洗浄液中で相互に摩擦されて繊維表面に露出した顔料を削り落とすことを目的とする。
【0058】
工業的な繊維加工操作において、織編物をロープ状態で洗浄する装置は各種存在する。本実施形態において、第1洗浄工程で使用する洗浄装置は、特に限定するものではないが、例えば、ウインス染色機や液流染色機などを使用することができる。特に、ジェットノズルからの洗浄液の噴射によってロープ状態にした織編物を循環させる液流染色機は、ポリエステル織編物どうしを洗浄液中で相互に摩擦するには有効である。更に、洗浄液の温度を100℃以上に上げることのできる高圧液流染色機を使用することもできる。
【0059】
第1洗浄工程においては、洗浄液中に洗浄剤(界面活性剤)を使用するが、洗浄剤の種類は特に限定するものではなく、一般にポリエステル織編物の洗浄操作に使用するものを洗浄温度に合わせて適宜選定すればよい。また、第1洗浄工程における洗浄温度は、特に限定するものではないが、一般のポリエステル織編物の洗浄温度と同程度でよい。
【0060】
なお、本実施形態においては、繊維表面に露出した顔料を除去する目的から、ポリエステル繊維のガラス転移温度以上であることが好ましい。一般のポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、そのガラス転移温度は69℃である。よって、70℃以上の温度で洗浄することが好ましい。また、高圧液流染色機を使用して高温高圧下で洗浄する場合には、105~130℃の温度範囲で洗浄することが好ましい。なお、洗浄時間も特に限定するものではないが、例えば、30~120分程度であってもよい。
【0061】
なお、ロープ状態で洗浄した後に、同一装置を使用してロープ状態で水洗し、ポリエステル織編物から削り落とされた顔料を除去する。なお、高圧液流染色機を使用した場合には、ジェットノズルからの水洗水の噴射によってロープ状態にしたポリエステル織編物を循環させて水洗する。しかし、第1洗浄工程の洗浄操作及び水洗操作によっては、ポリエステル織編物上に付着している顔料を十分に除去することができない。
【0062】
(2)第2洗浄工程
第2洗浄工程においては、第1洗浄工程後のポリエステル織編物を拡布状態で洗浄する。この工程においては、第1洗浄工程で削り落とされてポリエステル織編物上に付着している顔料を洗浄除去することを目的とする。
【0063】
工業的な繊維加工操作において、織編物を拡布状態で洗浄する装置は各種存在する。本実施形態において、第2洗浄工程で使用する洗浄装置は、特に限定するものではないが、例えば、オープンソーパーなどを使用することができる。このオープンソーパーは、織編物を拡布状態で連続的に洗浄する装置であって、織編物を送るためのロールが付いた数個から十数個の洗浄槽と同数のマングルからなる。各洗浄槽は個々に区切られており、第2洗浄工程においては、前半の各槽を洗浄槽として使用し、後半の各槽を水洗槽として使用することもできる。洗浄槽から次の洗浄槽や水洗槽に移動する際には、織編物はマングルで絞られるのでポリエステル織編物上に付着している顔料の洗浄効率が向上する。
【0064】
なお、各洗浄槽の前に拡布状態の織編物に薬剤を付与し、拡布状態のまま蒸熱(スチーム処理)するパッド・スチーマー(パッダーとスチームボックスの組合せ)を備えたオープンソーパーを使用するようにしてもよい。この場合には、パッダーで拡布状態のポリエステル織編物に洗浄剤(界面活性剤)を付与し、スチームボックスで拡布状態のポリエステル織編物を蒸熱する。スチームボックスは、常圧でよく100℃で蒸熱する。次に、連続した洗浄槽で洗浄と水洗を行う。洗浄剤を付与したポリエステル織編物を蒸熱することにより、ポリエステル織編物に付着した顔料の洗浄効率が向上し、その後にポリエステル織編物を各洗浄槽で洗浄と水洗を行うことにより、顔料の洗浄効率が更に向上する。また、各洗浄槽のマングルで絞ることにより、顔料の除去効率が向上するものと思われる。
【0065】
第2洗浄工程において使用する洗浄剤の種類は特に限定するものではなく、一般にポリエステル織編物の洗浄操作に使用するものを洗浄温度や蒸熱温度に合わせて適宜選定すればよい。また、第2洗浄工程における各洗浄槽の洗浄温度は、特に限定するものではないが、例えば、90℃前後であることが好ましい。なお、蒸熱時間や洗浄時間も特に限定するものではないが、例えば、100℃で10~30分程度の蒸熱をすることが好ましい。
【0066】
≪摩擦堅牢度≫
このように、第1洗浄工程に続いて第2洗浄工程を行うことにより、第1洗浄工程で十分に除去できなかったポリエステル織編物上に付着している顔料を効率よく除去することができる。その結果、本実施形態に係る中色又は濃色のポリエステル織編物は、JIS L 0849(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に規定する摩擦試験機II形(学振形)法よる乾摩擦及び湿摩擦の評価がいずれも4級以上となり、他の堅牢度と合わせて医療用ユニフォームとして良好な物性を有するものとなる。
【0067】
≪医療用ユニフォーム≫
次に、このようにして製造した織編物を縫製して医療用ユニフォームを製造する。なお、製造するユニフォームのデザインや縫製法などは、特に限定するものではない。
【0068】
次に、本実施形態に係るポリエステル織編物の製造方法、特に洗浄工程について各実施例により説明する。なお、本発明は、下記の実施例にのみ限定するものではない。
【実施例1】
【0069】
本実施例1においては、長繊維のポリエステル原着繊維の原糸を使用して、ポリエステル長繊維織物の製造(特に洗浄工程)と評価(特に摩擦堅牢度)について説明する。
【0070】
≪ポリエステル長繊維糸≫
本実施例1においては、最終織物の3色の目的色(ロイヤルブルー、ターコイズブルー、ダークネイビー)に合わせて顔料を配合した紡糸用マスターバッチを使用し、167dtex/48filament(単糸繊度3.48dtex)の3種類の原着繊維からなるポリエステル長繊維糸を紡糸した。
【0071】
次に、得られた3種類のポリエステル長繊維糸の昇華堅牢度性能を評価した。本発明者らは、上記特許文献1において、医療用ユニフォームの工業洗濯の際に色移りを起こさないポリエステル糸の条件として、以下に示す昇華堅牢度試験法を見出した。
【0072】
まず、ポリエステル糸の状態で昇華堅牢度試験を行う。本実施例1においては、試験対象として3種類のポリエステル長繊維糸を評価した。昇華堅牢度試験には、JIS L 0854(昇華に対する染色堅ろう度試験方法)に規定する汗試験機を使用する。この試験機に所定量のポリエステル糸にポリエステル白布を添付した複合試験片をステンレス鋼板に挟み、約12.5kPaの圧力を加えた状態で固定する。この状態の試験機を複合試験片が垂直方向に保持される状態で、180℃±2℃の乾燥機中に入れ、10分間乾熱処理する。乾燥処理後、直ちに複合試験片を取り出し、ポリエステル糸とポリエステル白布とを分けて広げ、放冷する。
【0073】
昇華試験の評価は、ポリエステル糸に添付したポリエステル白布への汚染の度合いで評価する。具体的には、JIS L 0805(汚染用グレースケール)を用いて汚染度を判定する。本実施形態においては、汚染度が4-5級以上のものを使用する。なお、ポリエステル糸の昇華試験における変退色の度合いを評価するようにしてもよい。本発明者らは、この昇華試験法と評価基準が実際の医療用ユニフォームの工業洗濯による色移りと良好な相関関係にあることを見出した。測定した3種類のポリエステル長繊維糸の昇華堅牢度性能を表1に示す。
【0074】
≪ポリエステル長繊維織物≫
次に、3種類のポリエステル長繊維糸をそれぞれ使用して製織し、3種類のポリエステル長繊維織物を製造した。なお、各織物の織組織は四つ綾(2/2右綾)の斜文織物とし、織密度は経糸121本/インチ、緯糸107本/インチとした。
【0075】
この3種類のポリエステル長繊維織物は、通常の方法で精練リラックスを行い、親水性柔軟剤を付与して本実施例1の各ポリエステル長繊維織物(アルカリ減量加工前)を得た。得られた各ポリエステル長繊維織物の色相・彩度・明度をL*a*b*表色系における明度(L*)及び色度(a*、b*)の各値で表1に示す。
【0076】
【0077】
表1において、3種類のポリエステル長繊維織物のL*値は、いずれも60以下であった。No.1(ロイヤルブルー)のL*値は、22.6であり濃色の織物であった。No.2(ターコイズブルー)のL*値は、40.6であり中色の織物であった。No.3(ダークネイビー)のL*値は、20.3であり濃色の織物であった。また、これらのポリエステル長繊維織物に使用した3種類のポリエステル長繊維糸の昇華堅牢度性能は、いずれも4-5級以上と良好であった。
【0078】
次に、3種類のポリエステル長繊維織物について、医療用ユニフォームに対して行われている代表的な工業洗濯試験を行った。まず、各織物から10cm×20cmの試料を採取し、同じ大きさのポリエステル白布と短辺どうしを縫い合わせて複合試験片とした。洗濯試験機には、小型回転ポッド式染色試験機(ミニカラー;株式会社テクサム技研製)を使用し、浴比1:8、回転数45回/分、80℃で40分間洗濯処理した。
【0079】
洗濯処理後の複合試験片を十分に水洗し、脱水して自然乾燥した後、試料の変退色とポリエステル白布の汚染を昇華試験と同様にして評価した。なお、使用した工業洗濯の処方は、代表的な2種類を採用した。工業洗濯試験Iは、漂白剤を併用しない洗濯法であり、工業洗濯試験IIは、漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)を併用した洗濯法とした。各洗濯法の洗濯浴処方を表2に示す。
【0080】
【0081】
3種類のポリエステル長繊維織物について、2種類の工業洗濯試験の評価結果を表3に示す。また、この段階(アルカリ減量加工前)の各ポリエステル長繊維織物について、一般の染色堅牢度を測定した。測定した染色堅牢度は、耐光堅牢度(JIS L 0842)、洗濯堅牢度(JIS L 0844)、汗堅牢度(JIS L 0848)、摩擦堅牢度(JIS L 0849;II型)であった。3種類のポリエステル長繊維織物の各染色堅牢度の評価結果を表3に示す。
【0082】
【0083】
表3において、この段階(アルカリ減量加工前)の各ポリエステル長繊維織物の各種堅牢度は4級以上と非常に良好なものであった。また、表3において、2種類の工業洗濯試験の結果も良好なものであった。なお、この段階の摩擦堅牢度は、アルカリ減量加工を施されていないので、非常に良好なものであった。
【0084】
≪アルカリ減量加工≫
次に、3種類のポリエステル長繊維織物のアルカリ減量加工を行った。本実施例1においては、高圧液流染色機を使用して表4に示す条件でアルカリ減量加工を行った。アルカリ減量加工後の各ポリエステル長繊維織物は、60℃で湯洗した後、酸中和して水洗し乾燥した。その後、親水性柔軟剤を付与して本実施例1の各ポリエステル長繊維織物(アルカリ減量加工後)を得た。また、各ポリエステル長繊維織物の減量率を表4に示す。
【0085】
【0086】
表4において、アルカリ減量加工後の各ポリエステル長繊維織物の減量率は、いずれも10~11重量%程度であり、風合いが柔軟になりドレープ性が向上した。
【0087】
次に、アルカリ減量加工後の3種類のポリエステル長繊維織物に対する2種類の工業洗濯試験及び一般の染色堅牢度を評価し、その評価結果を表5に示す。
【0088】
【0089】
表5において、アルカリ減量加工を施すことにより、各ポリエステル長繊維織物の摩擦堅牢度が大きく低下した。なお、その他の各種堅牢度及び工業洗濯試験の結果は低下することなく、アルカリ減量加工後においても良好なものであった。
【0090】
≪洗浄工程≫
(1)第1洗浄工程
本実施例1においては、高圧液流染色機を使用して表6に示す条件でアルカリ減量加工後の各ポリエステル長繊維織物をロープ状態で洗浄した。
【0091】
【0092】
洗浄後の各ポリエステル長繊維織物は、同一の高圧液流染色機を使用して2回水洗し乾燥した。その後、親水性柔軟剤を付与して第1洗浄工程後の各ポリエステル長繊維織物を得た。
【0093】
次に、第1洗浄工程後の3種類のポリエステル長繊維織物に対する摩擦堅牢度を評価し、その評価結果を表7に示す。
【0094】
【0095】
表7において、第1洗浄工程後の摩擦堅牢度は、湿摩擦において若干の向上は見られたが良好な結果は得られなかった。第1洗浄工程において、高圧液流染色機を使用して高温高圧下でポリエステル長繊維織物をロープ状態で洗浄することにより、繊維表面に露出した顔料を削り落とす効果は認められると思われる。しかし、織編物上に付着した削り落とされた顔料を除去する効果は認められなかった。
【0096】
(2)第2洗浄工程
本実施例1においては、パッド・スチーマーを備えたオープンソーパーを使用して第1洗浄工程後の各ポリエステル長繊維織物を拡布状態で洗浄した。まず、パッダーで拡布状態のポリエステル長繊維織物に洗浄剤2g/Lを付与し、スチームボックスで拡布状態のポリエステル長繊維織物を100℃で20分間蒸熱した。次に、連動する10槽オープンソーパーにおいて90℃で40m/分のスピードで走行洗浄した。その後、連動するシリンダー乾燥機で乾燥し、親水性柔軟剤を付与して第2洗浄工程後の各ポリエステル長繊維織物を得た。
【0097】
次に、第2洗浄工程後の3種類のポリエステル長繊維織物に対する摩擦堅牢度を評価し、その評価結果を表8に示す。
【0098】
【0099】
表8において、第2洗浄工程後の摩擦堅牢度は、大きく向上し良好な結果が得られた。このように、第1洗浄工程に続いて第2洗浄工程を行うことにより、第1洗浄工程で十分に除去できなかったポリエステル長繊維織物上に付着している顔料を良好に除去することができた。その結果、本実施例1に係る中色又は濃色のポリエステル長繊維織物は、JIS L 0849に規定する摩擦試験機II形(学振形)法よる乾摩擦及び湿摩擦の評価がいずれも4級以上となり、他の堅牢度と合わせて医療用ユニフォームとして良好な物性を有するものとなった。
【実施例2】
【0100】
本実施例2においては、短繊維のポリエステル原着繊維の原綿を使用して、ポリエステル短繊維織物の製造(特に洗浄工程)と評価(特に摩擦堅牢度)について説明する。
【0101】
≪ポリエステル短繊維糸≫
本実施例2においては、最終織物の3色の目的色(ネイビーブルー、ターコイズブルー、バーガンディ)に合わせて顔料を配合した紡糸用マスターバッチを使用し、単糸繊度1.666dtexの3種類の原綿(原着短繊維)を紡糸した。この原綿を空気精紡法により28番手単糸の3種類のポリエステル短繊維糸を製造した。
【0102】
次に、得られた3種類のポリエステル短繊維糸の昇華堅牢度性能を評価した。昇華堅牢度性能を評価方法は、上記実施例1と同様である。本実施形態においては、汚染度が4-5級以上のものを使用する。測定した3種類のポリエステル短繊維糸の昇華堅牢度性能を表9に示す。
【0103】
≪ポリエステル短繊維織物≫
次に、3種類のポリエステル短繊維糸をそれぞれ使用して製織し、3種類のポリエステル短繊維織物を製造した。なお、各織物の織組織は平織物(ポプリン)とし、織密度は経糸120本/インチ、緯糸64本/インチとした。
【0104】
この3種類のポリエステル短繊維織物は、通常の方法で連続糊抜き精練を行い、親水性柔軟剤を付与して本実施例2の各ポリエステル短繊維織物(アルカリ減量加工前)を得た。得られた各ポリエステル短繊維織物の色相・彩度・明度をL*a*b*表色系における明度(L*)及び色度(a*、b*)の各値で表9に示す。
【0105】
【0106】
表9において、3種類のポリエステル短繊維織物のL*値は、いずれも60以下であった。No.4(ネイビーブルー)のL*値は、25.8であり濃色の織物であった。No.5(ターコイズブルー)のL*値は、42.4であり中色の織物であった。No.6(バーガンディ)のL*値は、24.4であり濃色の織物であった。また、これらのポリエステル短繊維織物に使用した3種類のポリエステル短繊維糸の昇華堅牢度性能は、いずれも4-5級以上と良好であった。
【0107】
次に、3種類のポリエステル短繊維織物について、医療用ユニフォームに対して行われている代表的な工業洗濯試験を行った。工業洗濯試験の方法及び処方は、上記実施例1と同様である。3種類のポリエステル短繊維織物について、2種類の工業洗濯試験の評価結果を表10に示す。
【0108】
また、この段階(アルカリ減量加工前)の各ポリエステル短繊維織物について、一般の染色堅牢度を測定した。測定した染色堅牢度は、上記実施例1と同様に耐光堅牢度(JISL 0842)、洗濯堅牢度(JISL 0844)、汗堅牢度(JISL 0848)、摩擦堅牢度(JISL 0849;II型)であった。3種類のポリエステル短繊維織物の各染色堅牢度の評価結果を表10に示す。
【0109】
【0110】
表10において、この段階(アルカリ減量加工前)の各ポリエステル短繊維織物の各種堅牢度は4級以上と非常に良好なものであった。また、表10において、2種類の工業洗濯試験の結果も良好なものであった。なお、この段階の摩擦堅牢度は、アルカリ減量加工を施されていないので、非常に良好なものであった。
【0111】
≪アルカリ減量加工≫
次に、3種類のポリエステル短繊維織物のアルカリ減量加工を行った。本実施例2においては、常圧スチーマー(パッド・スチーム→連続ソーパー→シリンダー乾燥)を使用して表11に示す条件でアルカリ減量加工を行った。アルカリ減量加工後の各ポリエステル短繊維織物は、親水性柔軟剤を付与して本実施例2の各ポリエステル短繊維織物(アルカリ減量加工後)を得た。また、各ポリエステル短繊維織物の減量率を表11に示す。
【0112】
【0113】
表11において、アルカリ減量加工後の各ポリエステル短繊維織物の減量率は、いずれも11~12重量%程度であり、風合いが柔軟になりドレープ性が向上した。
【0114】
次に、アルカリ減量加工後の3種類のポリエステル短繊維織物に対する2種類の工業洗濯試験及び一般の染色堅牢度を評価し、その評価結果を表12に示す。
【0115】
【0116】
表12において、アルカリ減量加工を施すことにより、各ポリエステル短繊維織物の摩擦堅牢度が大きく低下した。なお、その他の各種堅牢度及び工業洗濯試験の結果は低下することなく、アルカリ減量加工後においても良好なものであった。
【0117】
≪洗浄工程≫
(1)第1洗浄工程
本実施例2においては、高圧液流染色機を使用して上記実施例1と同様の条件(表6参照)でアルカリ減量加工後の各ポリエステル短繊維織物をロープ状態で洗浄した。洗浄後の各ポリエステル短繊維織物は、同一の高圧液流染色機を使用して2回水洗し乾燥した。その後、親水性柔軟剤を付与して第1洗浄工程後の各ポリエステル短繊維織物を得た。
【0118】
次に、第1洗浄工程後の3種類のポリエステル短繊維織物に対する摩擦堅牢度を評価し、その評価結果を表13に示す。
【0119】
【0120】
表13において、第1洗浄工程後の摩擦堅牢度は、湿摩擦において若干の向上は見られたが良好な結果は得られなかった。第1洗浄工程において、高圧液流染色機を使用して高温高圧下でポリエステル短繊維織物をロープ状態で洗浄することにより、繊維表面に露出した顔料を削り落とす効果は認められると思われる。しかし、織編物上に付着した削り落とされた顔料を除去する効果は認められなかった。
【0121】
(2)第2洗浄工程
本実施例2においては、上記実施例1と同等に、パッド・スチーマーを備えたオープンソーパーを使用して第1洗浄工程後の各ポリエステル短繊維織物を拡布状態で洗浄した。第2洗浄工程の条件は、上記実施例1と同等である。その後、連動するシリンダー乾燥機で乾燥し、親水性柔軟剤を付与して第2洗浄工程後の各ポリエステル短繊維織物を得た。
【0122】
次に、第2洗浄工程後の3種類のポリエステル短繊維織物に対する摩擦堅牢度を評価し、その評価結果を表14に示す。
【0123】
【0124】
表14において、第2洗浄工程後の摩擦堅牢度は、大きく向上し良好な結果が得られた。このように、第1洗浄工程に続いて第2洗浄工程を行うことにより、第1洗浄工程で十分に除去できなかったポリエステル短繊維織物上に付着している顔料を良好に除去することができた。その結果、本実施例2に係る中色又は濃色のポリエステル短繊維織物は、JISL 0849に規定する摩擦試験機II形(学振形)法よる乾摩擦及び湿摩擦の評価がいずれも4級以上となり、他の堅牢度と合わせて医療用ユニフォームとして良好な物性を有するものとなった。
【0125】
これまで説明したように、本発明によれば、原着繊維を使用して豊富なカラーバリエーションを表現でき、且つ、アルカリ減量加工を施しても摩擦堅牢度の低下がなく、柔軟で着心地の良いユニフォームを生産することのできるポリエステル織編物及びこれを用いたユニフォーム、並びに、当該ポリエステル織編物の製造方法を提供することができる。
【0126】
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態及び各実施例に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記各実施例においては、原着繊維の原糸又は原綿を紡糸する際に、目的色に合わせて予め調色した顔料を配合した紡糸用マスターバッチを使用した。従って、紡糸後の原糸又は原綿を混繊又は混紡して目的色のポリエステル糸を製造するものではない。しかし、これに限定するものではなく、複数の単一色の原糸又は原綿を混繊又は混紡して目的色のポリエステル糸を製造するようにしてもよい。
(2)上記各実施例においては、ポリエステル糸を使用した織物を製造した。しかし、これに限定するものではなく、ポリエステル糸を使用した編物を製造するようにしてもよい。
(3)上記実施形態及び各実施例においては、ポリエステル織編物の用途として医療用ユニフォームについて説明した。しかし、本発明に係るポリエステル織編物の用途は、医療関係者や介護関係者が着用する医療用ユニフォームに限定するものではなく、その他の用途のユニフォームやスポーツウェア、或いは、一般用の衣料や資材として使用するようにしてもよい。