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  • 特許-電気車の再粘着制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】電気車の再粘着制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
B60L15/20 Y
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020153280
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2022047390
(43)【公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】中島 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】牧島 信吾
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-117474(JP,A)
【文献】特開2001-025110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気車の動輪が空転滑走したとき、動輪に伝達されるトルクを絞って空転滑走状態から粘着状態に戻すように制御する電気車の制御装置であって、
動輪の空転滑走を検知する空転滑走検知部と、動輪に伝達されるトルクの変更を指令する再粘着制御部とを有し、
前記再粘着制御部は、動輪の空転滑走が検知されたときのトルクまたは動輪に発生する接線力を推定したものに、再粘着トルク係数を掛けた、空転滑走時のトルクより小さいものを再粘着トルクとし、
動輪の空転滑走が検知されたときのトルクまたは動輪に発生する接線力を推定したものに、保持トルク係数を掛けた、前記再粘着トルクより絶対値の大きいものを保持トルクとし、
前記再粘着制御部が、第1の保持時間だけ前記再粘着トルクへの変更を指令し、引き続き、第2の保持時間だけ前記保持トルクへの変更を指令する再粘着操作をし、その後、前記保持トルクから前記空転滑走時のトルクに戻る過程で動輪の空転滑走が再度検知されると、再粘着操作を繰り返すように構成されるものにおいて、
前記再粘着制御部は、前記再粘着トルクから前記保持トルクへトルク指令を引き上げるに、動輪の空転滑走が連続して検知される連続空転状態において、空転検知の回数が多くなるほど前記再粘着トルク係数を小さくし、初回の空転検知時にのみ前記保持トルクの算出を行い、連続空転が検知されている間は、前記保持トルクの更新を行わないことを特徴とする電気車の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気車の制御装置であって、
前記再粘着制御部は、前記保持トルクから前記空転滑走時のトルクに戻る過程で動輪の空転滑走が検知された場合には、前記保持トルクの算出を行い、その後、連続空転が検知された場合には、前記保持トルクの更新を行わないことを特徴とする電気車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気車の動輪が空転滑走したとき、動輪に伝達されるトルクを絞って空転滑走状態から粘着状態に戻るように制御する電気車の再粘着制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の再粘着制御装置として、動輪の空転滑走を検知する空転滑走検知部と、動輪に伝達されるトルクの変更を指示する再粘着制御部とを有するものが従来から知られている(たとえば、特許文献1参照)。ここで、動輪の空転滑走が検知されたときのトルクに、再粘着トルク係数を掛けた、空転滑走時のトルクより小さいものを再粘着トルク並びに保持トルク係数を掛けた、再粘着トルクより絶対値の大きいものを保持トルクとし、際粘着制御部は、動輪の空転滑走が検知されると、第1の保持期間だけ再粘着トルクへの変更を指令し、引き続き、第2の保持時間だけ保持トルクへの変更を指令する再粘着操作をし、その後、保持トルクから空転滑走時のトルクに戻す過程で動輪の空転滑走が再度検知されると、再粘着操作を繰り返すようにしている。この場合、再粘着トルク係数は、通常、空転検知時のトルクより小さいトルクとする必要があるため、1より小さい値とされ、また、保持トルク係数は、再粘着トルク係数より大きな値で、保持トルクが空転滑走しない範囲でできるだけ高い値となるような値に設定される。より精度を高める方法として、空転検知時のトルク指令に代えてレールと車輪の間の接線力を推定して、空転検知時の推定した接線力に再粘着トルク係数や保持トルク係数を乗じたものとすることも知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記従来例のものでは、再粘着トルク係数(言い換えると、トルクの引き下げ量)や保持トルク係数をどの程度に設定すれば、再粘着状態に戻せるかの把握が困難であるという問題がある。この場合、例えば、再粘着トルク係数が小さすぎると、動輪の再粘着ができない一方で、再粘着トルク係数が大きすぎると、加速性や乗り心地の悪化を招く。従来では、電気車毎に再粘着トルク係数や保持トルク係数は経験を元に試行錯誤して調整しており、大変な時間と労力が必要であった。
【0004】
特許文献2では、動輪の空転滑走状態から粘着状態に戻るまでの再粘着時間を計測し、この再粘着時間を複数回測定したときの値が第1の保持時間と同等になるように再粘着トルク係数の補正を行う。また、第2の保持時間内で動輪の空転滑走が再度検知られると、このときの第1の保持時間経過度から経過時間を計測し、この計測した経過時間内にて動輪の空転滑走が再度検知されない範囲で再粘着トルク係数の補正を行うことにより、経験を基に試行錯誤して調整することなしに、再粘着トルク係数及び保持トルク係数を最適に自動調整することができ、結果として走行状態において動輪が空転していると判断されると、可及的に再粘着が実現でき、加速度低下や乗り心地悪化を最低限に抑えることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-325307号公報
【文献】特開2018-117474号公報
【0006】
【文献】「速度センサレスベクトル制御・外乱オブザーバによる空転再粘着制御の実車両への適用とその評価」電気学会論文誌D、Vol.124(2004)、No.9、pp.909-916
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先行技術文献に開示されている技術は、再粘着トルクの引き下げ不足により再粘着が失敗する連続空転が発生した場合には、再粘着トルク引き下げ量を大きくすることで粘着状態となるように制御を行っている。
【0008】
しかし、連続空転が発生した場合には、空転滑走を検知する度に保持トルクの修正を行う。そのため、連続空転が発生した場合には、保持トルクが小さくなり、加速不良が生じる問題があった。
【0009】
上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、動輪の空転滑走状態から粘着状態となる際に、保持トルクまでトルクを上昇させている最中に、再度、動輪の空転滑走状態となる連続空転が発生した場合に、加速不良を生じないように保持トルクを制御する電気車の再粘着制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、電気車の動輪が空転滑走したとき、動輪に伝達されるトルクを絞って空転滑走状態から粘着状態に戻すように制御する本発明の電気車の制御装置は、動輪の空転滑走を検知する空転滑走検知部と、動輪に伝達されるトルクの変更を指令する再粘着制御部とを有し、前記再粘着制御部は、動輪の空転滑走が検知されたときのトルクまたは動輪に発生する接線力を推定したものに、再粘着トルク係数を掛けた、空転滑走時のトルクより小さいものを再粘着トルクとし、動輪の空転滑走が検知されたときのトルクまたは動輪に発生する接線力を推定したものに、保持トルク係数を掛けた、前記再粘着トルクより絶対値の大きいものを保持トルクとし、前記再粘着制御部が、第1の保持時間だけ前記再粘着トルクへの変更を指令し、引き続き、第2の保持時間だけ前記保持トルクへの変更を指令する再粘着操作をし、その後、前記保持トルクから前記空転滑走時のトルクに戻る過程で動輪の空転滑走が再度検知されると、再粘着操作を繰り返すように構成されるものにおいて、前記再粘着制御部は、前記再粘着トルクから前記保持トルクへトルク指令を引き上げるに、動輪の空転滑走が連続して検知される連続空転状態において、空転検知の回数が多くなるほど前記再粘着トルク係数を小さくし、初回の空転検知時にのみ前記保持トルクの算出を行い、連続空転が検知されている間は、前記保持トルクの更新を行わないことを特徴とする。
【0011】
また、前記再粘着制御部は、前記保持トルクから前記空転滑走時のトルクに戻る過程で動輪の空転滑走が検知された場合には、前記保持トルクの算出を行い、その後、連続空転が検知された場合には、前記保持トルクの更新を行わないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上によれば、連続空転が発生した場合に、保持トルクを大きくすることが出来、加速不良が発生しなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の電気車の主制御を備える鉄道車両の構成を説明する図である。
図2】空転滑走再粘着制御器の挙動の一例を示す図である。
図3】連続空転が発生した場合の一例を示す図である。
図4】連続空転が発生し、保持トルクを更新しない場合の一例を示す図である。
図5】連続空転が発生し再粘着後、再度空転が発生した場合の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、電気車を、誘導電動機を主電動機とするインバータ制御式の鉄道車両とし、4台の主電動機を1台の主制御装置(例えばVVVFインバータ)で駆動するものを例に本発明の電気車の制御装置の実施形態を説明する。なお、各種電動機に対して個別の制御装置を用いる場合もあるが、基本的な制御自体は共通するため、これ以上の説明は省略する。
【0015】
図1を参照して、ERは、インバータ制御式の鉄道車両(動力車)であり、鉄道車両ERは主幹制御器1と、4台の主電動機2の駆動を制御する1台の主制御装置3とを備え、主制御装置3は、再粘着制御器31と、電動機制御器32と、動輪の回転速度を推定する回転速度推定器33と、架線4aからパンタグラフ4bを介して供給される電力を所定電力に変換する電力変換回路34とを有する。主幹制御器1は、運転士の操作に基づき鉄道車両を加速または減速するための元トルク指令Tref0を再粘着制御器31に出力する。例えば、鉄道車両ERを加速する場合を例に説明すると、再粘着制御器31は、通常、元トルク指令Tref0をそのままトルク指令値Trefとして電動機制御器32に出力する。そして、電動機制御器32は、主電動機2の発生トルクがトルク指令値Trefと同一となるような電圧指令を生成し、電力変換回路34によって電圧指令と等価な電圧が主電動機2に印加され、図示省略の歯車装置を介して、レール5上を転動する動輪6にトルクが伝達される。
【0016】
回転速度推定器33は、電力変換回路34の出力電圧・電流等から主電動機2の回転速度を推定する。なお、回転速度推定器33の代わりに主電動機2に回転速度センサを設ける場合もある。そして、再粘着制御器31からのトルク指令値Trefがそのときの粘着係数に対応したトルクよりも大きくなると、動輪6に空転が発生して車両速度よりも車輪周速度が急激に増加する。このとき、再粘着制御器31は、回転速度推定器33で演算された主電動機2の回転速度の微分値が閾値を超えた際に、動輪6に空転が発生していると判断する。本実施形態では、再粘着制御器31が再粘着制御部及び空転滑走検知部としての役割を果たす。なお、動輪6の空転検知方法は主電動機2の回転速度の微分値から検知する方法の他に、複数の主電動機2の回転速度の差から検知する手法等様々な方法があるが、本実施形態では、空転検知の手法は問わない。
【0017】
走行状態において動輪6が空転していると判断されると、空転再粘着制御が行われる。すなわち、図2に示すように、動輪6の速度を減速させて再粘着するためにトルク指令値Trefを再粘着トルクTau_c_limまで絞り込み、再粘着に必要と見込まれる第1の保持時間(引き下げ時間)T1だけ保持する。そして、空転しない範囲でできる限り大きな保持トルクTau_c_mu_cを第2の保持時間T2の間維持する。第2の保持時間T2の間に再び空転が検知されると、再びトルク指令値Trefを再粘着トルクTau_c_limまで絞るか、第2の保持時間T2を経過した場合は徐々にトルク指令値Trefを大きくし、再び空転が検知された際に同様の動作を繰り返す。再粘着トルクTau_c_lim及び保持トルクTau_c_mu_cは、一般に、空転検知時のトルク指令値Trefに再粘着トルク係数を乗じたものとされる。再粘着トルク係数は、空転検知時のトルクより小さいトルクとする必要があるため、1より小さい値となり、また、保持トルクは、空転検知時のトルクもしくは推定接線力に保持トルク係数を乗じたものであり、再粘着トルク係数より大きな値として、保持トルクが空転しない範囲でできるだけ高い値となるような値である。
【0018】
次に、図3を参照して、再粘着トルク係数が大きすぎる場合について説明する。再粘着トルク係数が大きい場合、再粘着トルクTau_c_lim1の引き下げ量が小さいため、動輪6は再粘着することができず、空転滑走した状態となる(連続空転)。この場合、再び再粘着トルク係数を小さくすることで、再粘着トルクTau_c_lim2まで引き下げ、再粘着させることを実施する。このとき、保持トルク係数は、空転を検知する度に算出され、更新される。そのため、連続で空転を検知する回数が多くなればなるほど、保持トルク係数もそれとともに小さくなる。そのため、保持トルクTau_c_mu_c_0が小さくなり、動輪6が空転しない範囲の最大の加速が得られない。
【0019】
そこで、図4を参照して連続空転時の動作について説明する。連続空転が発生した場合、図3と同様に再粘着トルクはTau_c_lim1、Tau_c_lim2と粘着トルクの引き下げを行う。このとき、保持トルク係数は、空転を検知した初回の値(再粘着トルク係数と同時に求めた保持トルク係数)から更新せず維持する。その結果、再粘着トルクTau_c_lim2にて再粘着が行われると、トルク指令Trefは保持トルクTau_c_mu_c_0に引き上げを行う。このとき、保持トルク係数は空転を検知した初回に算出した値となっており、再粘着トルクTau_c_lim2が算出されるときと同時に算出される保持トルクより大きな値となっている。そのため、保持トルクの引き下げ過ぎを防ぐことができ、加速不良が発生しなくなる。
【0020】
さらに、図5を参照して保持トルクから空転滑走時のトルクに戻る過程で再度空転滑走が検知された場合について説明する。ここでは、連続空転は発生せず、トルク指令が保持トルクTau_mu_c_0であるときに空転滑走を検知した場合とする。
【0021】
動輪の空転滑走が発生し、再粘着トルクTau_c_lim1に引き下げられ、その後、連続空転とならず、トルク指令を保持トルクTau_c_mu_c_0に引き上げを行う。トルク指令Trefが保持トルクTau_c_mu_c_0となっている間に、空転滑走を検知し、再粘着トルクTau_c_lim3へトルク指令Trefを引き下げる。このとき、同時に保持トルク係数を算出し、更新を行う。そして、再粘着トルクTau_c_lim3の間に空転滑走を検知せず連続空転が発生しない場合には、図5の様に保持トルクTau_c_mu_c_2にトルク指令Trefの引き上げを行う。
【0022】
図5のように空転滑走を検知した後、引き下げを行った再粘着トルクにて再粘着した後、再度空転検知を行った場合に、再粘着後に空転を検知し、保持トルクの更新を行わないと、保持トルクが空転しない範囲のトルクを上回り、再粘着できなくなる。そのため、一度トルク指令Trefを保持トルクまで引き上げを行った後に、再度、空転滑走を行った場合には、保持トルク係数の更新が必要となる。
【0023】
また、図5の再粘着トルクTau_c_lim3にて再粘着を行えず連続空転が発生した場合には、さらに再粘着トルクの引き下げを行う。その際には、保持トルクの更新を行わず、その後、保持トルクまでトルク指令Trefを引き上げる際には、再粘着トルクTau_c_lim3と同時に求めた保持トルクTau_c_mu_c_2まで引き上げを行う。
【0024】
以上、説明したように、連続空転が発生した場合には、保持トルク係数を、空転を検知した初回の値から更新を行わないことにより、連続空転時に発生するトルクの引き下げすぎによる加速不良を防ぐことが可能となる。また、連続空転が発生し、粘着しトルク引き上げ時に、再度空転を検知した場合には、空転を検知したときに算出される保持トルクに更新することで、再粘着できないことを防ぐことが可能となる。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術範囲を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。上記実施形態では、運転台の主幹制御器1で元トルク指令Tref0を行うものを例に説明したが、自動運転装置等によって生成される場合にも本発明は適用可能である。
【0026】
また、上記実施形態では、鉄道車両ERを加速する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、主電動機2にブレーキ方向のトルクをかけた際は滑走制御器として動作することは広く知られており、本発明もブレーキ時の滑走・再粘着制御器としてそのまま用いることが可能である。
【符号の説明】
【0027】
ER 鉄道車両(電気車)
1 主幹制御器
2 主電動機
3 主制御装置
31 再粘着制御器(再粘着制御部及び空転滑走検知部)
32 電動機制御器
33 回転速度推定器
34 電力変換回路
4a 架線
4b パンタグラフ
5 レール
6 車輪
図1
図2
図3
図4
図5