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特許7449223ムコ多糖症II型を治療するための遺伝子療法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ムコ多糖症II型を治療するための遺伝子療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20240306BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240306BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K35/76 ZNA
A61K38/46
A61K9/10
A61P43/00 121
A61P37/06
A61K31/573
A61K31/436
A61P3/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020516820
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 US2018052129
(87)【国際公開番号】W WO2019060662
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】62/561,769
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/562,179
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/573,841
(32)【優先日】2017-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502409813
【氏名又は名称】ザ・トラステイーズ・オブ・ザ・ユニバーシテイ・オブ・ペンシルベニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヒンデラー,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン,ジェームス・エム
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/187017(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/136500(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/011519(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/075119(WO,A1)
【文献】特表2013-521303(JP,A)
【文献】特表2018-500311(JP,A)
【文献】JCI insight.,2016年,Vol.1(9):e86696,pp.1-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61K 48/00
A61K 9/00
A61K 31/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の免疫抑制剤および少なくとも第2の免疫抑制剤を用いる治療的レジメンにおいてヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hIDS)欠損を治療するための複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を含む懸濁液であって、
(a)前記複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の懸濁液が、
(i)AAV9カプシドおよびベクターゲノムを含むrAAVであって、前記ベクターゲノムが、AAV5’逆位末端配列(ITR)、および発現カセット、およびAAV3’ITRを含み、前記発現カセットが、ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hIDS)の発現を導く調節配列の制御下にある前記hIDSをコードする配列番号1の配列を有する核酸配列を含み、前記調節配列が、サイトメガロウイルス最初期(CMV IE)エンハンサー、ニワトリベータアクチンプロモータ、ニワトリベータアクチンイントロン、およびウサギベータグロビンポリアデニル化(polyA)シグナル配列を含む、rAAV、ならびに
(ii)生理学的に適合する水性緩衝液を含む製剤緩衝液、ならびに任意選択の界面活性剤および賦形剤
を含み、
(b)前記少なくとも第1の免疫抑制剤が静脈内コルチコステロイドであり
(c)前記少なくとも第2の免疫抑制剤が経口コルチコステロイドであり
(d)少なくとも1つの免疫抑制剤の投与が、前記rAAVの送達の前または前記送達と同日に開始され、
(e)前記免疫抑制剤のうちの少なくとも1つの投与が、ベクター投与後少なくとも8週間継続される、前記懸濁液。
【請求項2】
請求項1に記載の少なくとも第1の免疫抑制剤および少なくとも第2の免疫抑制剤を用いる治療レジメンにおいてhIDS欠損を治療するためのrAAVを含む懸濁液であって、前記rAAVが、配列番号3のヌクレオチド(nt)2~3967を含むベクターゲノムを含む、前記懸濁液。
【請求項3】
タクロリムス、シロリムス、またはそれらの組み合わせを含むマクロライドである1つ以上の免疫抑制剤がさらに併用される、請求項1または請求項2に記載の少なくとも第1の免疫抑制剤および少なくとも第2の免疫抑制剤を用いる治療レジメンにおいてhIDS欠損を治療するためのrAAVを含む懸濁液。
【請求項4】
請求項3に記載の少なくとも第1の免疫抑制剤および少なくとも第2の免疫抑制剤を用いる治療レジメンにおいてhIDS欠損を治療するためのrAAVを含む懸濁液であって、第1の用量のマクロライドが、前記rAAVの投与前に送達される、前記懸濁液。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の少なくとも第1の免疫抑制剤および少なくとも第2の免疫抑制剤を用いる治療レジメンにおいてhIDS欠損を治療するためのrAAVを含む懸濁液であって、前記免疫抑制剤のうちの少なくとも1つの投与が、前記rAAVの投与後48週で中止される、前記懸濁液。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の少なくとも第1の免疫抑制剤および少なくとも第2の免疫抑制剤を用いる治療レジメンにおいてhIDS欠損を治療するためのrAAVを含む懸濁液であって、前記懸濁液が、6~9のpHを有し、任意選択で、前記懸濁液が、6.8~7.8のpHを有する、前記懸濁液。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の少なくとも第1の免疫抑制剤および少なくとも第2の免疫抑制剤を用いる治療レジメンにおいてhIDS欠損を治療するためのrAAVを含む懸濁液であって、前記rAAVが、
(i)約1.3x1 10 GC/g脳質量、
(ii)約1.9x10 10 GC/g脳質量、
(iii)約6.5x10 10 GC/g脳質量、
(iv)約9.4x10 10 GC/g脳質量、または
(v)約4x10 11 GC/g脳質量
の用量で髄腔内注射によって投与可能である、前記懸濁液。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の少なくとも第1の免疫抑制剤および少なくとも第2の免疫抑制剤を用いる治療レジメンにおいてhIDS欠損を治療するためのrAAVを含む懸濁液であって、前記rAAVが、約4x10 8 GC/g脳質量~約4x10 11 GC/g脳質量の用量で髄腔内注射によって投与可能である、前記懸濁液。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載の少なくとも第1の免疫抑制剤および少なくとも第2の免疫抑制剤を用いる治療レジメンにおいてhIDS欠損を治療するためのrAAVを含む懸濁液であって、前記rAAVが、1.9x10 11 GC/g脳質量~5.6x10 11 GC/g脳質量の用量で髄腔内注射によって投与可能である、前記懸濁液。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の少なくとも第1の免疫抑制剤および少なくとも第2の免疫抑制剤を用いる治療レジメンにおいてhIDS欠損を治療するためのrAAVを含む懸濁液であって、患者が初めにrAAV送達の前に静脈内コルチコステロイドを事前投与され、および/または患者がrAAV送達の後に経口コルチコステロイドを投与される、前記懸濁液。
【請求項11】
請求項3、4、または10のいずれか一項に記載の少なくとも第1の免疫抑制剤および少なくとも第2の免疫抑制剤を用いる治療レジメンにおいてhIDS欠損を治療するためのrAAVを含む懸濁液であって、タクロリムスもしくはシロリムスまたはそれらの組み合わせを含む1つ以上のマクロライドが、rAAV送達の後に送達される、前記懸濁液。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の少なくとも第1の免疫抑制剤および少なくとも第2の免疫抑制剤を用いる治療レジメンにおいてhIDS欠損を治療するためのrAAVを含む懸濁液であって、前記懸濁液が、ムコ多糖症II型(MPSII)または重度のハンター症候群に罹患している患者に投与される、前記懸濁液。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の少なくとも第1の免疫抑制剤および少なくとも第2の免疫抑制剤を用いる治療レジメンにおいてhIDS欠損を治療するためのrAAVを含む懸濁液であって、前記rAAVが、配列番号3のベクターゲノムを有する、前記懸濁液。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の少なくとも第1の免疫抑制剤および少なくとも第2の免疫抑制剤を用いる治療レジメンにおいてhIDS欠損を治療するためのrAAVを含む懸濁液であって、前記懸濁液または前記rAAVが槽内注射を介してまたは脳室内(intraventricular)注射を介して、任意選択で、脳室内(intracerebroventricular)注射を介して、任意選択で、大槽への注射を介して投与される、前記懸濁液。
【発明の詳細な説明】
【連邦政府支援研究についての記述】
【0001】
本発明は、米国国立衛生研究所(the National Institutes of Health)からの認可番号第R01DK54481号、第P40OD010939号、および第P30ES013508号の下、政府支援を受けて構築された。米国政府は、本発明において一定の権利を有することができる。
【0002】
1.導入
本発明は、ハンター症候群としても知られているムコ多糖症II型(MPSII)を治療するための遺伝子療法アプローチに関する。
【背景技術】
【0003】
ハンター症候群としても知られているMPSIIは、主に男性の、100,000人中1人~170,000人中1人に影響を与える、稀なX-連鎖劣性遺伝子疾患である。この進行性かつ破壊的な疾患は、ヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸のリソソーム異化作用に必要とされる酵素であるリソソーム酵素、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS、代替的にはI2Sと称される)の欠損に至る、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)遺伝子における変異により引き起こされる。GAG(グリコサミノグリカン)と呼ばれるこれらの偏在的な多糖は、MPSII患者の組織および器官に蓄積し、結果として、特徴的な貯蔵病変および多様な疾患続発症をもたらす。疾病率および死亡率は、この患者集団において高く、重度の表現型(神経認知悪化を特徴とする)を伴う患者では、平均年齢11.7歳で死亡することが報告されており、軽度または減弱した表現型を伴う患者では、21.7歳での死亡が報告されている。
【0004】
MPSIIを有する患者は、出生時には正常であるように見えるが、疾患の徴候および症状は、典型的には、重度形態では、18ヶ月齢~4歳で出現し、減弱した形態では、4~8歳で出現する。すべての罹患患者に共通する徴候および症状は、低身長、特徴的な顔つき、巨頭症、巨舌症、聴力喪失、肝および脾腫大、多発性骨形成性不全症(dystosis multiplex)、関節拘縮、脊椎管狭窄、ならびに手根管症候群を含む。ほとんどの患者では、頻繁な上気道および耳感染が生じ、進行性気道閉塞は、睡眠時無呼吸に至り、死亡することもあることが一般的に見出されている。心疾患は、この集団における主要な死因であり、左右室内肥大および心不全に至る弁膜機能不全を特徴とする。死亡は、一般に、閉塞性気道障害または心不全に起因する。
【0005】
疾患の重度形態では、初期発達マイルストーンは満たされることがあるが、発達遅延は、18~24ヶ月までには容易に明らかになる。一部の患者は、1年目の聴力スクリーニング試験で基準を満たすことができず、支持なしで座ることができる能力、歩行能力、話す能力を含む他のマイルストーンは、遅れている。発達の進行は、6.5歳あたりで平坦になり始める。MPSIIを有する小児の半数は、トイレトレーニングを完了することができるが、すべてではないがほとんどの小児は、疾患の進行とともに、この能力が失われることになる。
【0006】
有意な神経学的関与を伴う患者は、1歳から、多動、強情さ、および攻撃性を含む重度の行動学的障害を示し始め、神経変性がこの挙動を減弱する8~9歳まで続く。
【0007】
10歳に達する重度に罹患した患者の半数以上において、発作が報告されており、CNS関与を伴うほとんどの患者では、死亡時までに、重度の精神障害を持ち、常時の介護を必要とする。減弱した疾患を有する患者は、正常な知的機能を示すが、MRI画像は、M
PSIIを有するすべての患者において、白質病変、空洞肥大、および脳萎縮を含む全般的な脳の異常を明らかにする。
【0008】
組換えイズルスルファーゼ(エラプラーゼ(登録商標)、Shire Human Genetic Therapies)を用いる酵素補充療法(「ERT」)は、ハンター症候群のために唯一の認可された治療であり、毎週注入として投与される。しかし、現在投与されているERT用量は、血液脳関門(「BBB」)を通過せず、したがって、重度の疾患、すなわち、CNS/神経認知および行動学的関与を伴うMPSIIを有する患者における満たされてない必要性に対処することができない。この問題に対処するための現在の努力は、BBBを通過することができるように酵素を修飾することに向けられている。
【発明の概要】
【0009】
ハンター症候群としても知られているMPSIIと診断された患者(ヒト対象)のCNSへヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(「hIDS」)遺伝子を送達するための複製欠損アデノ随伴ウイルス(「AAV」)の使用が、本明細書で提供される。治療の目標は、疾患を治療するための実行可能なアプローチとしてのrAAVに基づくCNS指向遺伝子療法により、患者の欠損イズロン酸-2-スルファターゼを機能的に置換することである。療法の有効性は、(a)MPSII(ハンター症候群)を有する患者における神経認知低下の予防、ならびに(b)疾患のバイオマーカー、例えば、CSF、血清、および/または尿、および/または肝臓および脾臓容積におけるGAGレベルにおける減少、および/または酵素活性(IDSもしくはヘキソサミニダーゼ)、を評価することにより、測定することができる。乳幼児における神経認知は、Infant and Toddler Development、Third Ed.、BSID-IIIのBayleyスケールにより測定されることができる。神経認知および適応的行動学的評価(例えば、乳幼児発達のBayleyスケールおよびVineland適応行動スケールをそれぞれ用いて)が実施されることができる。
【0010】
ある実施形態では、ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hIDS)欠損を治療するための治療的レジメンが提供され、これは、併用療法を含む。併用療法は、(a)複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の懸濁液であって、懸濁液中、(i)rAAVが、AAV9カプシドと、hIDS(rAAV9.hIDS)の発現を導く調節配列の制御下にあるhIDSをコードする核酸配列を含むベクターゲノムとを有し、(ii)生理学的に適合する水性緩衝液を含む髄腔内送達に適する製剤緩衝液、ならびに任意選択の界面活性剤、および賦形剤、の懸濁液、(b)コルチコステロイド、代謝拮抗剤、T細胞阻害剤、マクロライド、または細胞分裂阻害剤のうちの少なくとも1つから選択される、少なくとも第1の免疫抑制剤、ならびに(c)コルチコステロイド、代謝拮抗剤、T細胞阻害剤、マクロライド、または細胞分裂阻害剤のうちの少なくとも1つから選択される、少なくとも第2の免疫抑制剤、の併用投与を含み、ここで、少なくとも1つの免疫抑制剤の投与は、rAAV9.hIDSベクターの送達前または送達と同日に開始され、免疫抑制剤の少なくとも1つの投与は、ベクター投与後少なくとも8週間継続される。ある実施形態では、rAAV9.hIDSは、配列番号3、配列番号11、または配列番号14から選択されるベクターゲノムを有する。ある実施形態では、患者は、初め、ベクター送達の前に、静脈内ステロイドを事前投与される。ある実施形態では、患者は、ベクター送達の後に、経口ステロイドを投与される。ある実施形態では、レジメンは、タクロリムスもしくはシロリムス、またはそれらの組み合わせを含む1つ以上のマクロライドを含む。ある実施形態では、第1の用量のマクロライドは、ベクターの投与前に送達される。ある実施形態では、免疫抑制レジメンは、AAV9.hIDSの投与後48週で中止される。ある実施形態では、懸濁液は、6~9のpH、または6.8~7.8のpHを有する。ある実施形態では、rAAV9.hIDSは、約1.9x1010GC/g脳質量の用量で髄腔
内注射により投与可能である。ある実施形態では、rAAV9.hIDSは、約6.5x1010GC/g脳質量の用量で髄腔内注射により投与可能である。
【0011】
ある実施形態では、複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を含む懸濁液の使用が提供され、このrAAVは、AAV9カプシドと、hIDS(rAAV9.hIDS)の発現を導く調節配列の制御下にあるヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hIDS)をコードする核酸配列を含むベクターゲノムとを含み、この懸濁液は、約1.3x1010ゲノムコピー(GC)/g脳質量または約6.5x1010ゲノムコピー(GC)/g脳質量の用量でrAAV9.hIDSを含む。ある実施形態では、rAAV9.hIDSは、配列番号3、配列番号11、または配列番号14から選択されるベクターゲノムを有する。ある実施形態では、使用は、2つ以上の免疫抑制剤を含む併用治療レジメン内である。ある実施形態では、2つ以上の免疫抑制剤は、コルチコステロイド、代謝拮抗剤、T細胞阻害剤、マクロライド、または細胞分裂阻害剤のうちの少なくとも1つから選択される、少なくとも第1の免疫抑制剤と、コルチコステロイド、代謝拮抗剤、T細胞阻害剤、マクロライド、または細胞分裂阻害剤のうちの少なくとも1つから選択される、少なくとも第2の免疫抑制剤と、を含む。ある実施形態では、患者は、初め、rAAV9.hIDS送達の前に、静脈内ステロイドを事前投与される。ある実施形態では、患者は、rAAV9.hIDS送達の後に、経口ステロイドを投与される。ある実施形態では、併用療法は、タクロリムスもしくはシロリムス、またはそれらの組み合わせを含む1つ以上のマクロライドを含む。ある実施形態では、ヒト患者は、ムコ多糖症II型(MPSII)または重度のハンター症候群と診断されている。
【0012】
ある実施形態では、AAV9カプシドと、hIDS(rAAV9.hIDS)の発現を導く調節配列の制御下にあるヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hIDS)をコードする核酸配列を含むベクターゲノムとを含む複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を含む水性懸濁液が提供され、この懸濁液は、1.3x1010GC/g脳質量または約6.5x1010GC/g脳質量の用量でそれらを必要とするヒトへ髄腔内注射するために製剤化される。ある実施形態では、懸濁液は、(i)コルチコステロイド、代謝拮抗剤、T細胞阻害剤、マクロライド、または細胞分裂阻害剤のうちの少なくとも1つから選択される、少なくとも第1の免疫抑制剤と、(ii)コルチコステロイド、代謝拮抗剤、T細胞阻害剤、マクロライド、または細胞分裂阻害剤のうちの少なくとも1つから選択される、少なくとも第2の免疫抑制剤とを用いる併用療法における使用のためであり、ここで、免疫抑制剤の投与は、AAVベクターの送達前または送達と同日に開始され、免疫抑制剤のうちの少なくとも1つの投与は、ベクター投与後の少なくとも8週間継続される。
【0013】
ある実施形態では、AAV9カプシド内にパッケージされたヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hIDS)をコードする異種核酸を含む複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を約1.3x1010GC/g脳質量または約6.5x1010GC/g脳質量の用量で髄腔内注射により用いてそれらを必要とする患者を治療する方法が提供される。ある実施形態では、患者は、ムコ多糖症II型(MPSII)または重度のハンター症候群と診断されている。ある実施形態では、rAAV9.hIDSは、配列番号3、(b)配列番号11、または(c)配列番号14から選択されるベクターゲノムを有する。ある実施形態では、投与される用量は、少なくとも1.3×1010GC/g脳質量、少なくとも1.9x1010GC/g脳質量、少なくとも6.5×1010GC/g脳質量、または9.4x1010GC/g脳質量、または約4x1011GC/g脳質量である。
【0014】
本発明のこれらのおよび他の態様は、本発明の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】AAV9.CB.hIDSベクターゲノムの図式表示である。IDS発現カセットは、逆位末端配列(ITR)に隣接しており、発現は、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーおよびニワトリベータアクチンプロモータ(CB7)のハイブリッドにより駆動される。トランスジーンは、ニワトリベータアクチンイントロンおよびウサギベータ-グロビンポリアデニル化(polyA)シグナルを含む。
図2A-2C】ITベクター治療後のMPSIIマウスのCNSおよび血清におけるIDS発現を提供する。MPSIIマウスは、2~3ヶ月齢で、3つの用量:3x10GC(低)、3x10GC(中)、または3x1010GC(高)のうちの1つでのAAV9.CB.hIDSのICV注射を用いて治療された。動物は、注射の3週間後に犠牲にされた。IDS活性は、CSF(図2A)、全脳ホモジェネート(図2B)、および血清(図2C)において測定された。野生型および未治療MPSIIマウスを対照として使用した。
図3】AAV9.CB.hIDSを投与されたMPSIIマウスにおけるベクターDNAの体内分布を提供する。MPSIIマウスは、3x1010GCのAAV9ベクターのICV注射を用いて治療された。注射の3週間後、動物を犠牲にし、ベクターゲノムを、Taqman PCRにより組織DNA中で定量した。
図4A-4D】MPSIIマウスにおけるITベクター送達後の末梢GAGの補正を提供する。MPSIIマウスは、2~3ヶ月齢で、3つの用量:3x10GC(低)、3x10GC(中)、または3x1010GC(高)のうちの1つでのAAV9.CB.hIDSのICV注射を用いて治療された。動物は、注射の3ヶ月後に犠牲にされた。ヘキソサミニダーゼ活性は、肝臓(図4A)および心臓(図4B)で測定された。貯蔵補正は、肝臓ではすべての用量で、心臓では中用量および高用量で見られた。GAG含有量は、肝臓(図4C)および心臓(図4D)で測定された。野生型および未治療MPSIIマウスを対照として使用した。*p<0.05、一元ANOVA、続いて、Dunnett検定。
図5A-5L】MPSIIマウスにおける脳貯蔵病変の用量依存的分解を提供する。MPSIIマウスは、2~3ヶ月齢で、3つの用量:3x10GC(低)、3x10GC(中)、または3x1010GC(高)のうちの1つでのAAV9.CB.hIDSのICV注射を用いて治療された。動物は、注射の3ヶ月後に犠牲にされ、リソソームメンブレンタンパク質LIMP2およびガングリオシドGM3のために、脳を染色した。GM3(図5A、5C、5E、5G、および5I)、およびLIMP2(5B、5D、5F、5H、および5J)についての細胞染色陽性は、各動物からの4つの脳皮質セクションにおいて、盲検レビュアにより定量化された。典型的な脳皮質セクションが示される(GM3、図5K、LIMP2、図5L)。野生型および未治療MPSIIマウスを対照として使用した。*p<0.05、一元ANOVA、続いて、Dunnett検定。
図6A-6C】ベクター治療されたMPSIIマウスにおける改善された物体認識を示す。未治療MPSIIマウスおよびWT雄同腹仔は、4~5ヶ月齢で、行動学的試験を受けた。MPSIIマウスは、2~3ヶ月齢で、3つの用量:3x10GC(低)、3x10GC(中)、または3x1010GC(高)のうちの1つでのAAV9.CB.hIDSのICV注射を用いて治療された。注射の2ヶ月後に、動物は、行動学的試験を受けた。図6Aは、Yメイズ行動を示し、図6Bは、コンテキスト恐怖条件付け(contextual fear conditioning)を示し、これらは、盲検レビュアにより注射の2ヶ月後に評価された。「Pre」は、合図なしの1.5mAのフットショックを受けた24時間後に、囲いに再度曝露された場合のフリーズ時間を示した。*p<0.05、二元ANOVA、続いて、Sidak多重比較検定。図6Cは、長期記憶を評価するために使用される新規物体認識タスクにおいて、新規または馴染みのある物体を探索して過ごした時間のパーセンテージを示す。野生型および未治療MPSIIマウスを対照として使用した。*P<0.05、多重比較のためにBonferroni補正を用いるt-検定。
図7A-7B】IT AAV9で治療されたMPSIマウスにおける酵素発現および脳貯蔵病変の補正の比較を提供する。MPSIマウスは、2~3ヶ月齢で、3つの用量:3x10GC(低)、3x10GC(中)、または3x1010GC(高)のうちの1つでのAAV9.CB.hIDUAのICV注射を用いて治療された。動物の1コホートを、ベクター注射の3週間後に犠牲にし、脳を、IDUA活性の測定のために回収した。これは、図7Aに示される。図7Bは、注射の3ヶ月後に犠牲にされた動物の第2のコホートを示し、脳は、リソソームメンブレンタンパク質LIMP2のために染色された。LIMP2についての細胞染色陽性は、4つの脳皮質セクションにおいて盲検レビュアにより定量化された。野生型および未治療MPSIIマウスを対照として使用した。*p<0.05、一元ANOVA、続いて、Dunnett検定。
図8】ICV AAV9.CB.hIDSを用いて治療されたMPSIIマウスにおけるヒトIDSに対する抗体応答を示す。MPSIIマウスは、2~3ヶ月齢で、3つの用量:3x10GC(低)、3x10GC(中)、または3x1010GC(高)のうちの1つでのAAV9.CB.hIDSのICV注射を用いて治療された。血清は、ベクター投与後の21日目または90日目に犠牲にされたマウスから剖検時に収集された。ヒトIDSに対する抗体は、間接ELISAにより評価された。点線は、未治療動物からのナイーブ血清における平均力価より上の2SDを示す。ほとんどの動物は、検出可能な抗体はまったく有さなかった(ナイーブ血清のバックグラウンドレベルにおいて)。
図9A-9D】MPSIIマウスにおける正常なオープンフィールド活動およびYメイズ挙動を示す。未治療MPSIIマウスおよびWT雄同腹仔は、4~5ヶ月齢で、行動学的試験を受けた。オープンフィールド活動は、水平方向の活動についてはXY軸ビームブレイクにより(図9A)、垂直方向の活動についてはZ軸ビームブレイクにより(図9B)、中心活動についてはパーセント中心ビームブレイクにより(図9C)、測定された。8分間のYメイズ試験セッションの間、アームエントリ総数(図9D)が記録された。
図10A-10B】製造プロセスフローダイアグラムを提供する。
図11】同軸挿入法のための任意選択の導入用ニードル(28)を含む、薬学的組成物の槽内送達のための機器(10)の描写であり、これは、10ccのベクターシリンジ(12)、10ccの充填済みフラッシュシリンジ(14)、T-コネクタ延長セット(チューブ(20)、チューブ先端のクリップ(22)、およびコネクタ(24)を含む)、22Gx5インチ脊椎ニードル(26)、および任意選択の18Gx3.5インチ導入用ニードル(28)を含む。旋回式雄型ルアーロック(16)を伴う4方向停止コックも示される。
図12A-12I】ICV AAV9で治療したイヌにおける脳炎およびトランスジーン特異的T細胞応答を示す。1歳のMPSIイヌを、GFPを発現するAAV9ベクターの単回ICVまたはIC注射で治療した。注射の12日後に死亡が見出されたI-567を除き、すべての動物は、注射の14日後に犠牲にされた。脳は、冠状断面で分割され、これは、ICV治療された動物における注射部位(矢尻)付近の全般的病変を明らかにした(図12A~12F)。全般的病変周囲の脳領域からの組織セクションは、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色された(図12Gおよび12H)。元の倍率=4x(左パネル)、および20x(右パネル)。末梢血単核性細胞は、剖検時に1匹のICV治療されたイヌ(I-565)から収集され、AAV9カプシドおよびヒトIDUAタンパク質に対するT細胞応答は、インターフェロン-γELIスポットにより測定された(図12I)。GFPトランスジーン産物に対するT細胞応答は、完全GFP配列をカバーする重複15アミノ酸ペプチドの単回プールを用いて測定された。AAV9カプシドタンパク質を含むペプチドは、3つのプールに分割された(プールA~Cと命名される)。*=陽性応答、バックグラウンド(非刺激細胞)の>3倍、および百万細胞あたり55超のスポットとして定義される。T細胞活性化のための陽性対照として役立つ、ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)を伴う、フィトヘマグルチニン(PHA)およびイオノマイシン。
図13】ICVまたはIC AAV9で治療されたイヌにおけるベクター体内分布を示すバーチャートである。注射の12日後に剖検された動物I-567を除き、イヌは、GFP発現AAV9ベクターの単回ICVまたはIC注射を用いた注射の14日後に犠牲にされた。定量的PCRにより、組織試料中のベクターゲノムを検出した。値は、二倍体細胞(GC/二倍体ゲノム)あたりのベクターゲノムコピーとして表される。海馬または大脳皮質から収集された脳試料は、ICV治療されたイヌについては注射または非注射の脳半球として示され、IC治療された動物については、これらは、それぞれ右および左の脳半球である。試料は、動物I-567の注射された大脳半球からPCRのために収集された。
図14A-14H】ICVまたはIC AAV9で治療されたイヌの脳および脊髄におけるGFP発現を示す。GFP発現は、GFP発現AAV9ベクターのICVまたはIC注射で治療されたイヌから収集された脳および脊髄試料の直接蛍光顕微鏡法により評価された。典型的なセクションが、前頭皮質、ならびに頸部、胸部、および腰部レベルで収集された脊髄前角からの試料について示される。元の倍率=10x。
図15A-15Q】リソソーム酵素β-グルクロニダーゼ(GUSB)を発現するICV AAV9で治療されたMPS VIIイヌにおける安定なトランスジーン発現および脳炎の不在を示す。GUSBの遺伝的欠損を有する6週齢のイヌ(MPS VIIのモデル)は、GUSB発現AAV9ベクターの単回ICV注射で治療された。GUSB酵素活性は、注射時ならびに注射後7日目および21日目で収集したCSF試料中で測定された(図15A)。イヌは、注射の3週間後に犠牲にされた。注射部位周囲の脳領域の目視および顕微鏡による評価を実施した(図15B~15D)。元の倍率=4x(中央パネル)、および10x(右パネル)。GUSB活性は、活性GUSBにより分解された場合に赤色産物を生じる基質を用いて、脳および脊髄セクションにおいて検出された(図15E~15N)。典型的なセクションが、大脳皮質、小脳、ならびに頸部、胸部、および腰部レベルで収集された脊髄前角の試料について示される。元の倍率=4x(皮質および小脳)、ならびに10x(脊髄)。未治療MPS VIIイヌ、正常なイヌ、およびICV AAV9で治療されたMPS VIIイヌから収集された大脳皮質のセクションは、MPS VIIイヌの脳において病理学的に蓄積している、ガングリオシドGM3のために染色された(図15O~15Q)。元の倍率=4x。
図16A-16B】非ヒト霊長類(NHP)における腰部髄腔内注射後のコントラスト分布を示す。成体カニクイザルは、5mLのイオヘキソール180中に希釈されたAAV9ベクターの腰部穿刺による髄腔内注射を受けた。脊髄に沿ったコントラスト分布は、蛍光透視法により評価された。胸部および頸部領域の典型的なイメージが示される。コントラスト材料(矢尻)は、すべての動物において、注射の10分以内に脊髄の全長に沿って可視化できた。
図17】髄腔内AAV9で治療されたNHPにおけるベクター体内分布を示すバーチャートである。5mLのイオヘキソール180中に希釈されたAAV9ベクターの腰部穿刺による髄腔内注射の14日後に、NHPは犠牲にされた。注射後10分間、2匹の動物をトレンデレンブルグ位で配置した。定量的PCRにより、組織試料中のベクターゲノムを検出した。値は、二倍体細胞(GC/二倍体ゲノム)あたりのベクターゲノムコピーとして表される。
図18A-18H】髄腔内AAV9で治療したNHPの脳および脊髄におけるGFP発現を示す。GFP発現は、AAV9ベクターの髄腔内注射で治療されたNHPから収集された脳および脊髄試料の直接蛍光顕微鏡法により評価された。ベクターは、腰部穿刺により投与された。注射後10分間、2匹の動物をトレンデレンブルグ位で配置した。典型的なセクションが、前頭皮質、ならびに頸部、胸部、および腰部レベルで収集された脊髄前角からの試料について示される。いくつかのNHP組織における自己蛍光材料の存在に起因して、GFPシグナルからの自己蛍光を区別するために、赤色チャネルイメージが捕らえられた。自動蛍光イメージがマゼンタ色で重ね合わされる。元の倍率=4x(皮質)、および10x(脊髄)。
図19A-19B】MPSIにおける高められたCSFスペルミンを示す。MPSIイヌ(n=15)および正常な対照(n=15)からのCSF試料において、ハイスループットLC/MSおよびGC/MS代謝物スクリーンが実施された。上位100位の示差的に検出された代謝物のヒートマップ(ANOVA)が示される(図19A)。MPSIコホートにおいて最も若い動物(28日齢)は、アスタリスクにより示される。スペルミン濃度は、MPSIを有する6人の乳幼児および2人の正常な乳幼児からのCSF試料において定量的アイソトープ希釈LC/MSアッセイにより測定された(図19B)。
図20A-20J】MPSIニューロンにおけるスペルミン依存的な異常な神経突起成長を示す。E18野生型またはMPSIマウス胚から回収された皮質ニューロンは、プレーティングの24時間後に、スペルミン(50ng/mL)またはスペルミンシンターゼ阻害剤APCHAで治療された。フェーズコントラストイメージが、プレーティングの96時間後に捕らえられた(図20A~20D)。神経突起の数、長さ、および分岐化は、治療状態あたりデュプリケート培養から無作為に選択された45~65個のニューロンについて、盲検レビュアにより、定量された(図20E&20H、20G&20J、および20F&20I)。***p<0.0001(ANOVA、続いて、Dunnett検定)。
図21A-21K】遺伝子療法後のMPSIイヌにおけるCSFスペルミンレベルおよび脳GAP43発現の正常化を示す。5匹のMPSIイヌは、1ヶ月齢で、イヌIDUAを発現するAAV9ベクターの髄腔内注射を用いて治療された。2匹のイヌ(I-549、I-552)は、一部のMPSIイヌにおいてIDUAに対して誘導される抗体応答を予防するために、出生後1日目に、肝臓指向遺伝子療法によりIDUAに対して寛容化された。髄腔内ベクター注射の6ヶ月後、IDUA活性は、脳組織において測定された(図21A)。脳貯蔵病変は、リソソームメンブレンタンパク質LIMP2についての染色により評価された(図21B~21H)。GAP43は、ウェスタンブロットにより脳皮質試料において測定され(図21I)、デンシトメトリーによりβ-アクチンに対して定量化された(図21J)。CSFスペルミンは、アイソトープ希釈LC/MSにより犠牲時に測定された(図21K)。未治療MPSIイヌ(n=3)および正常なイヌ(n=2)は、対照として役立った。*p<0.05(Kruskal-Wallis検定、続いて、Dunn検定)。
図22A-22B】MPSIにおけるCNS指向遺伝子療法の評価のためのCSFバイオマーカーとしてのスペルミンの使用を示す。出生時にヒトIDUAに対して寛容化された6匹のMPSIイヌは、1ヶ月齢で、ヒトIDUAを発現する髄腔内AAV9で治療された(1012GC/kg、n=2、1011GC/kg、n=2、1010GC/kg、n=2)。CSFスペルミンレベルは、治療の6ヶ月後に測定された(図22A)。3匹のMPSIネコは、フェリンIDUAを発現する髄腔内AAV9で治療された(1012GC/kg)。CSFスペルミンは、治療の6ヶ月後に定量された(図22B)。未治療MPSIイヌ(n=3)および正常なイヌ(n=2)は、対照として役立った。
図23】ランダムフォレスト分析により同定された代謝物についての平均減少正確性を示す。
図24】MPSIイヌ脳試料におけるポリアミン合成経路における酵素の発現を示す。
図25】MPS VIIイヌCSFにおけるスペルミン濃度を示す。
図26A-26C】WTニューロン成長に対するAPCHA治療の影響はないことを示す。
図27】様々な用量(3e8、3x10GC、3e9、3x10GC、3e10、3x1010GC)のICV AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGを用いて治療されたMPSIIマウス(IDSγ/-)におけるMPSII関連の病理学的知見の用量依存的減少を示す。累積病理学的スコアが、評価され、y軸上にプロットされた。ヘテロマウス(IDSγ/+)は、対照として役立った。結果は、ICV AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGで治療されたMPSIIマウスにおけるMPSII関連の病理学的知見の用量依存的減少を実証した。
図28】実施例9において記載されているアカゲザル(Rhesus Macaques)におけるCSF髄液細胞増加を示す。白血球細胞(白血球、y軸)は、様々な日(x軸、0日目、7日目、14日目、21日目、30日目、45日目、60日目、および90日目)において収集されたCSF試料において計数された。ダイヤモンドは、AAV9.CB7.hIDSでの治療を伴わないRA2198からのデータを表す。四角形、三角形、およびxは、それぞれ5x1013GCのAAV9.CB7.hIDSで治療されたRA1399、RA2203、およびRA2231からのデータを表す。*、円形、および+は、それぞれ1.7x1013GCのAAV9.CB7.hIDSで治療されたRA1358、RA1356、およびRA2197からのデータを表す。
図29】実施例9で記載されるような60日目のNHPの血清において発達した抗hIDS抗体を測定するELISA結果を示す。希釈はx軸としてプロットされ、光学密度(OD)はy軸としてプロットされた。ダイヤモンドは、AAV9.CB7.hIDSでの治療を伴わないRA2198からのデータを表す。四角形は、1.7x1013GCのAAV9.CB7.hIDSで治療されたRA2197からのデータを表し、一方で、三角形およびxは、5x1013GCのAAV9.CB7.hIDSでそれぞれ治療されたRA2203およびRA2231のデータを表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
髄腔内注射により必要とするヒト対象に投与可能である薬学的組成物が本明細書では提供される。ある実施形態では、本明細書に記載のrAAV.hIDSを含有する薬学的組成物の使用は、髄腔内注射によりそれを必要とするヒト対象に投与可能である医薬を調製する際に使用される。ヒト対象(患者)は、ムコ多糖症II型(MPSII)または重度のハンター症候群と以前診断されていた場合がある。
【0017】
効力は、インビトロ細胞培養アッセイにより、例えば、本明細書の実施例5Gで記載されているインビトロ効力アッセイにより測定可能であり、ここで、HEK293またはHuh7細胞は、細胞あたり既知の多様性のrAAVGCを用いて形質導入され、上清は、4MU-イズロニド(iduronide)酵素アッセイを用いて、形質導入の72時間後にIDS活性についてアッセイされる。
【0018】
そのようなrAAV.hIDSベクター調製物は、CNSにおけるhIDS発現の治療的レベルに到達するために、髄腔内/槽内注射により小児または成人ヒト対象に投与されることができる。治療の候補となる患者は、重度または減弱したMPSII疾患を有する小児および成人患者である。重度の疾患は、平均より低い少なくとも1標準偏差の発達指数(DQ)(BSID-III)を伴うか、または連続的な試験において1超の標準偏差の低下という病歴証拠文書を伴う、初期段階の神経認知欠損として定義される。
【0019】
ハンター症候群を有する患者のための、治療的に有効な髄腔内/槽内用量のrAAV.hIDSは、約1x1011~7.0x1014GC(一定用量)の範囲であり、10~1011GC/g患者の脳質量と等価である。代替的には、以下の治療的に有効な一定用量が、示された年齢群の患者に投与されることができる。
【0020】
ある実施形態では、MPSII患者に投与される用量は、1.3×1010GC/g脳質量である。ある実施形態では、MPSII患者に投与される用量は、6.5×1010GC/g脳質量である。ある実施形態では、MPSII患者に投与される用量は、1.9×1010GC/g脳質量である。ある実施形態では、MPSII患者に投与される用量は、9.4×1010GC/g脳質量である。
【0021】
ある実施形態では、MPSII患者に投与される用量は、1.3×10GC/g脳質
量である。ある実施形態では、MPSII患者に投与される用量は、1.3×1011GC/g脳質量である。ある実施形態では、MPSII患者に投与される用量は、1.8×1011GC/g脳質量である。ある実施形態では、MPSII患者に投与される用量は、2.15×1011GC/g脳質量である。ある実施形態では、MPSII患者に投与される用量は、5.5×1011GC/g脳質量である。
【0022】
ある実施形態では、小児の発達初期に生じる比較的急速な脳成長のために、IC投与されるAAV9.hIDSの総用量は、異なる年齢層にわたって推定される脳質量に依存する。研究対象の年齢による脳質量については、例えば、(AS Dekaban、Ann
Neurol、1978 Oct;4(4):345-56を参照されたい。
【0023】
治療の目標は、疾患を治療するための実行可能なアプローチとしてのrAAVに基づくCNS指向遺伝子療法により、患者の欠損イズロン酸-2-スルファターゼを機能的に置換することである。療法の有効性は、(a)MPSII(ハンター症候群)を有する患者における神経認知低下の予防、ならびに(b)疾患のバイオマーカー、例えば、CSF、血清、および/または尿、および/または肝臓および脾臓容積におけるGAGレベルにおける減少、および/または酵素活性(IDSもしくはヘキソサミニダーゼ)、を評価することにより、測定することができる。乳幼児における神経認知は、Infant and
Toddler Development、Third Ed.、BSID-IIIのBayleyスケールにより測定されることができる。神経認知および適応的行動学的評価(例えば、乳幼児発達のBayleyスケールおよびVineland適応行動スケールをそれぞれ用いて)が実施されることができる。
【0024】
治療前に、MPSII患者は、hIDS遺伝子を送達するために使用されるrAAVベクターのカプシドに対する中和抗体(Nab)について評価されることができる。そのようなNabは、形質導入効率を妨害し、治療有効性を低下させ得る。ベースライン血清Nab力価≦1:5を有するMPSII患者は、rAAV.hIDS遺伝子療法プロトコルを用いる治療のための良好な候補である。血清Nab>1:5の力価を有するMPSII患者の治療は、rAAV.hIDSベクター送達での治療の前および/または治療中に、組み合わせ療法、例えば、免疫抑制剤での一時的な併用治療を必要としてもよい。場合により、免疫抑制併用療法は、AAVベクターカプシドおよび/または製剤の他の構成成分に対する中和抗体の事前アセスメントを伴うことなく、予防的手段として使用されてもよい。ある実施形態では、事前の免疫抑制療法は、特に、実質的にIDS活性レベルを有さない患者において、hIDSトランスジーン産物に対する潜在的な有害免疫反応を予防するために望ましいものであり得、トランスジーン産物は、「外来」として見なされてもよい。動物において観察されたものと同様の反応は、ヒト対象において生じない可能性もあるが、予防的措置として、免疫抑制療法が、rAAV-hIDSのすべてのレシピエントについて推奨される。
【0025】
hIDSの全身送達が伴うCNSへのrAAV.hIDSの遺伝子療法送達の組み合わせは、本発明の方法に包含される。全身送達は、イズルスルファーゼのERT注入(例えば、エラプラーゼ(登録商標)を用いて)を用いて、または肝臓に対する向性を有するrAAV.hIDS(例えば、AAV8カプシドを有するrAAV.hIDS)を用いるさらなる遺伝子療法を用いて、成し遂げることができる。
【0026】
ある実施形態では、CNSにおいて治療的濃度のhIDSを発現させるために、患者が乳幼児、小児、および/または成人である場合、患者は、hIDSに対して患者を寛容化するために肝臓に指向された注射によりAAV.hIDSを投与され、患者は引き続き髄腔内注射によりAAV.hIDSを投与される。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「髄腔内送達」または「髄腔内投与」は、脊柱管への注射による、より具体的には、脳脊髄液(CSF)へ到達するようにクモ膜下腔空間内への注射による、薬物の投与経路を指す。髄腔内送達は、腰部穿刺、脳室内、後頭下/槽内、および/またはC1-2穿刺を含んでもよい。例えば、材料は、腰部穿刺により、クモ膜下腔空間にわたって拡散させるために導入されてもよい。別の実施例では、注射は、大槽内にされてもよい。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「槽内送達」または「槽内投与」は、大槽小脳延髄の脳脊髄液への直接的な薬物の投与経路、より具体的には、後頭下穿刺による、または大槽内への直接注射による、永久的に配置されたチューブによる、薬物の投与経路を指す。
【0029】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」は、MPSIIの症状の1つ以上を緩和または治療するために十分な酵素の量を標的細胞に送達し、発現させる、AAV.hIDS組成物の量を指す。「治療」は、MPSII症候群のうちの1つの症状の悪化の予防、および可能であればそれらの症状のうちの1つ以上の逆転を含み得る。例えば、治療的に有効な量のrAAV.hIDSは、MPSIIを有する患者において神経認知機能を改善する量である。このような神経認知機能の改善は、乳幼児発達のBayleyスケールを用いて、対象の神経認知発達指数(DQ)を評価することにより測定されてもよい。神経認知機能の改善は、例えば、Wechsler略式知能スケール(WASI)(IQ)、Bayley乳幼児発達スケール、Hopkins言語学習検査(記憶)、および/または可変注意力検査(TOVA)を含むがこれらに限定されない当該分野において知られている方法を用いて、対象の知能指数(IQ)を評価することにより、測定されてもよい。別の実施形態では、治療有効量のrAAV.hIDSは、尿および/または脳脊髄液および/または血清および/または他の組織における、病原性GAG、ヘパラン硫酸、および/またはヘキソサミニダーゼ濃度を減少させる量である。さらに他の実施形態では、角膜薄濁の補正が観察されてもよく、中枢神経系(CNS)における病変の補正が観察され、および/または血管周囲および/または髄膜gag貯蔵の逆転が観察される。
【0030】
ある実施形態では、治療有効性は、血漿(総GAG、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、I2S活性)、CSF(総GAG、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、I2S活性)、および尿(総GAG、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸)中のバイオマーカー、認知および適応機能の神経発達学的パラメータ、乳幼児発達のBayleyスケール、3rd Edition(BSID-III)または小児用Kaufmanアセスメント群、2nd Edition(KABC-II)、および/またはVineland適応行動スケール、3rd Edition、包括的対談形態(VABS-III)のうちの1つ以上を用いて決定されてもよい。場合により、ウイルス排出(shedding)は、AAV9.hIDSデオキシリボ核酸(DNA)に対する定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりCSF、血漿、および尿におけるベクター濃度によりモニターされてもよい。ある実施形態では、治療有効性は、免疫原性測定、CSFおよび血清におけるAAV9に対する中和抗体力価、およびI2Sに対する結合抗体力価、酵素結合免疫スポット(ELIスポット)アッセイ、AAV9およびI2Sに対するT細胞応答、フローサイトメトリー、AAV-およびI2S-特異的調節T細胞、脳の磁気共鳴画像法(MRIにより評価されるCNS構造的異常さ、腹部MRIおよび超音波により評価される肝臓および脾臓容量、聴覚脳幹応答(ABR)試験により測定される聴覚能力変化、IV ERT(エラプラーゼ(登録商標))を一時的に中止している対象における血漿および尿の総GAG、ヘパラン硫酸、およびデルマタン硫酸、のうちの1つ以上によりモニターされてもよい。
【0031】
「治療有効量」は、ヒト患者ではなく動物モデルに基づいて決定されてもよい。適切なマウスモデルの実施例は、本明細書に記載されている。
【0032】
本明細書で使用される場合、「機能的ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ」は、MPSIIまたは関連する症候群を伴うことなくヒトにおいて正常に機能するヒトイズロン酸-2-スルファターゼ酵素を指す。逆に、MPSIIまたは関連する症候群を引き起こすヒトイズロン酸-2-スルファターゼ酵素バリアントは、非機能的であると考えられる。一実施形態では、機能的ヒトイズロン酸-2-スルファターゼは、Wilsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87(21):8531-8535(1990)により記載されている野生型ヒトイズロン酸-2-スルファターゼのアミノ酸配列を有し、NCBI参照配列NP_000193.1、配列番号2(550アミノ酸)において再生され、このプレプロタンパク質は、シグナルペプチド(アミノ酸1~25)、プロペプチド(アミノ酸26~33)、ならびにアミノ酸34~455(42kDaの鎖)およびアミノ酸456~550(14kDaの鎖)からなる成熟ペプチドを含む。また、UniProtKB/Swiss-Prot(P22304.1)を参照されたい。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「NAb力価」は、その標的化されたエピトープ(例えば、AAV)の生理学的効果を中和する中和抗体(例えば、抗-AAV Nab)がどれほど産生されるかの尺度を指す。抗-AAV NAb力価は、例えば、Calcedo、R.ら、Worldwide Epidemiology of Neutralizing Antibodies to Adeno-Associated Viruses.Journal of Infectious Diseases、2009.199(3):p.381-390において記載されているように測定されてもよく、この文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
本明細書で使用される場合、「発現カセット」は、IDS遺伝子、プロモータを含む核酸分子を指し、それらのための他の調節配列を含んでもよく、そのカセットは、遺伝子要素(例えば、プラスミド)によりパッケージング宿主細胞に送達されてもよく、ウイルスベクターのカプシド(例えば、ウイルス粒子)へパッケージされる。典型的に、ウイルスベクターを産生するためのそのような発現カセットは、ウイルスゲノムのパッケージングシグナルに隣接する本明細書に記載のIDSコーディング配列、および本明細書に記載のものなどの他の発現制御配列を含有する。
【0035】
省略形「sc」は、自己相補性を指す。「自己相補的なAAV」は、組換えAAV核酸配列が保有するコーディング領域が、分子内二本鎖DNA鋳型を形成するように設計される構築物を指す。感染時には、第2の鎖の細胞介在合成を待つのではなく、scAAVの2つの相補的な片割れが会合して、即時の複製および転写に備えのある1つの二本鎖DNA(dsDNA)ユニットを形成する。例えば、D M McCartyら、「Self-complementary recombinant adeno-associated virus(scAAV) vectors promote efficient transduction independently of DNA synthesis」、Gene Therapy、(August 2001)、Vol 8、Number 16、Pages 1248-1254を参照されたい。自己相補的なAAVは、例えば、米国特許第6,596,535号、第7,125,717号、および第7,456,683号に記載されており、その各々が参照によりそのすべてが本明細書に組み込まれる。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「作動可能に連結した」は、目的の遺伝子に連続している発現制御配列と、目的の遺伝子に対してイントランスに作用するか、または目的の遺伝子を制御する距離で作用する発現制御配列との両方を指す。
【0037】
タンパク質または核酸を参照して使用される場合、用語「異種性」は、タンパク質または核酸が、天然における互いの関係と同じ関係で見出されない、2つ以上の配列または下
位配列を含むことを示す。例えば、新規の機能的核酸を作製するために配置された関連のない遺伝子からの2つ以上の配列を有する核酸は、典型的に、組換えにより産生される。例えば、一実施形態では、核酸は、異なる遺伝子からコーディング配列の発現を導くように配置された1つの遺伝子からのプロモータを有する。故に、コーディング配列に関しては、プロモータは、異種性である。
【0038】
「複製欠損ウイルス」または「ウイルスベクター」は、合成または人工ウイルス粒子を指し、ここで、目的の遺伝子を含有する発現カセットは、ウイルスカプシドまたはエンベロープ中にパッケージされ、ウイルスカプシドまたはエンベロープ内にパッケージされた任意のウイルスゲノム配列は、複製欠損である、すなわち、それらは、後代ビリオンを産生することができないが、標的細胞に感染する能力を保持することができる。一実施形態では、ウイルスベクターのゲノムは、複製に必要とされる酵素をコードする遺伝子を含まないが(ゲノムは、人工ゲノムの増幅およびパッケージングに必要とされるシグナルに隣接する目的のトランスジーンのみを含有する「ガットレス(gutless)」であるように操作されることができる)、これらの遺伝子は、産生中に供給されてもよい。したがって、それは、後代ビリオンによる複製および感染が、複製に必要とされるウイルス酵素の存在下以外で生じることができないために、遺伝子療法における使用のために安全であると考えられる。
【0039】
本明細書で使用される場合、「組換えAAV9ウイルス粒子」は、所望の遺伝子産物のための発現カセットを含む異種核酸分子がパッケージングされているカプシドであるAAV9カプシドを有するヌクレアーゼ耐性粒子(NRP)を指す。そのような発現カセットは、典型的に、発現制御配列に作動可能に連結している遺伝子配列に隣接するAAV5’および/または3’逆位末端リピート配列を含有する。発現カセットのこれらのおよび他の適切な要素は、以下により詳細に記載されており、代替的には、トランスジーンゲノム配列として本明細書で参照され得る。これは、「フル(full)」AAVカプシドとして参照され得る。そのようなrAAVウイルス粒子は、それが発現カセットにより保有される所望の遺伝子産物を発現可能な宿主細胞にトランスジーンを送達する場合、「薬理学的に活性のある」と称される。
【0040】
多くの場合では、rAAV粒子は、「DNase耐性」として参照される。しかし、このエンドヌクレアーゼ(DNase)に加えて、他のエンド-およびエキソ-ヌクレアーゼが、汚染核酸を除去するために本明細書に記載の精製工程において使用されてもよい。そのようなヌクレアーゼは、一本鎖DNAおよび/または二本鎖DNA、およびRNAを分解するために選択されてもよい。そのような工程は、単一ヌクレアーゼ、または異なる標的に指向されたヌクレアーゼの混合物を含有してもよく、エンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼであってもよい。
【0041】
用語「ヌクレアーゼ耐性」は、AAVカプシドが、宿主細胞にトランスジーンを送達するように設計された発現カセットの周りで完全に構築されていることを示し、産生プロセスから存在し得る汚染核酸を除去するために設計されたヌクレアーゼインキュベーション工程の間の分解(消化)からこれらのパッケージされたゲノム配列を保護する。
【0042】
本明細書で使用される場合、「ベクターゲノム」は、AAVカプシド(例えば、AAV9)内にパッケージされた核酸配列を指す。一般に、AAVのために、AAV ITRは、トランスジーン産物(例えば、hIDS)をコードする核酸配列およびその調節配列を含む発現カセットのパッケージングを可能とするために存在する。以下の実施例では、発現カセットは、その5’最末端およびその3’最末端でAAV ITRと隣接している。適切には、組換えAAV(rAAV)のベクターゲノムは、複製不能rAAVを供給するために、AAV cap遺伝子をコードするAAV配列を欠失しており、AAV rep
遺伝子産物をコードするAAV配列を欠失している。
【0043】
本明細書で使用される場合、「AAV9カプシド」は、参照により本明細書に組み込まれるGenBankアクセッション:AAS99264のアミノ酸配列を有するAAV9を指し、AAV vp1カプシドタンパク質は、配列番号13で再産生される。このコード配列からのいくつかのバリエーションは、本発明により包含され、GenBankアクセッション:AAS99264、配列番号13、およびUS7906111(同様にWO2005/033321)の参照アミノ酸配列と約99%同一性を有する配列を含み得る(すなわち、参照配列から約1%未満のバリエーション)。そのようなAAVは、例えば、天然単離物(例えば、hu31もしくはhu32)、またはAAV9カプシドとアラインされた任意の他のAAVカプシドの対応する位置から「募集された(recruited)」代替的な残基から選択されるアミノ酸置換を含むがこれらに限定されない、アミノ酸置換、欠失、もしくは付加を有するAAV9のバリアント、例えば、US9,102,949、US8,927,514、US2015/349911、およびWO2016/049230A1に記載されているものなど、を含み得る。しかし、他の実施形態では、AAV9、または上記の参照配列に少なくとも約95%の同一性を有するAAV9カプシドの他のバリアントが選択されてもよい。例えば、米国公開特許出願第2015/0079038号を参照されたい。カプシド、それ故にコーディング配列を産生する方法、ならびにrAAVウイルスベクターの産生方法が記載されている。例えば、Gaoら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.100(10)、6081-6086(2003)およびUS 2013/0045186A1を参照されたい。
【0044】
用語「AAV9中間体」または「AAV9ベクター中間体」は、カプシド中にパッケージされた所望のゲノム配列を欠失している構築されたrAAVカプシドを指す。これらは、「エンプティ(empty)」カプシドと称されてもよい。そのようなカプシドは、発現カセットの検出可能なゲノム配列をまったく含有しなくてもよく、または遺伝子産物の発現を達成するには不十分な部分的にパッケージされたゲノム配列のみを含有してもよい。これらのエンプティカプシドは、宿主細胞に目的の遺伝子を移入するために非機能的である。
【0045】
用語「a」または「an」は、1つ以上を指す。したがって、用語「a」(または「an」)、「1つ以上(one or more)」、および「少なくとも1つ(at least one)」は、本明細書では互換的に使用される。
【0046】
用語「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、および「含んでいる(comprising)」は、排他的ではなく包括的に解釈されるべきである。用語「構成する(consist)」、「構成している(consisting)」、およびその変形は、包括的ではなく排他的に解釈されるべきである。本明細書の様々な実施形態は、「含む(comprising)」という言葉を用いて示されているが、他の状況では、関連する実施形態は、「からなる(consisting of)」または「本質的にからなる(consisting essentially of)」という言葉を用いて解釈および記載されるべきことも意図される。
【0047】
用語「約」は、別記されない限り、±10%以内およびそれを含むバリエーションを包含する。
【0048】
本明細書中他のことが定義されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、当業者により一般的に理解されているもの、および本願で使用されている多数の用語に対して当業者に一般的な手引きを提供している公開文書への参照により一般的に理解されているものと同じ意味を有する。
【0049】
MPSIIと診断された患者(ヒト対象)のCNSへhIDS遺伝子を送達するための複製欠損AAVの使用が提供される。hIDS遺伝子(「rAAV.hIDS」)を送達するために使用される組換えAAV(「rAAV」)ベクターは、CNSに対して向性を有し(例えば、AAV9カプシドを有するrAAV)、hIDSトランスジーンは、特異的発現制御要素、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーおよびニワトリベータアクチンプロモータ(CB7)のハイブリッドにより制御される。ある実施形態では、生理学的に適合する水性緩衝液、界面活性剤、および任意選択の賦形剤を含む製剤緩衝液中のrAAV.hIDSベクターの懸濁液を含む、髄腔内、槽内、および全身投与のために適切な薬学的組成物が、提供される。rAAV懸濁液はさらに、以下の点で特徴付けられる。
(i)rAAVゲノムコピー(GC)力価は、少なくとも1.0x1013GC/mLである、
(ii)rAAVエンプティ/フル粒子比は、SDS-PAGE分析により測定されるように(実施例5Dを参照されたい)、0.01~0.05(エンプティカプシドを95%~99%含まない)、他の実施形態では、本明細書で提供されるrAAV9.hIDSは、エンプティカプシドを少なくとも約80%、少なくとも約85%、または少なくとも約90%含まない、および/または
(iii)少なくとも約4x10GC/g脳質量~約4x1011GC/g脳質量の用量のrAAV懸濁液は、効力を有する。
【0050】
ある実施形態では、投与される用量は、少なくとも1.3×1010GC/g脳質量、少なくとも1.9x1010GC/g脳質量、少なくとも6.5×1010GC/g脳質量、または9.4x1010GC/g脳質量、または約4x1011GC/g脳質量である。
【0051】
ある実施形態では、投与された用量は、免疫抑制を伴う、または伴うことなく、1.9x1011GC/脳質量~5.6x1011GC/g脳質量である。ある実施形態では、免疫抑制は、-21日目~20日目であり、シロリムスである。
【0052】
効力は、インビトロ細胞培養アッセイにより、例えば、実施例5Gで記載されているインビトロ効力アッセイにより測定可能であり、ここでHEK293細胞は、細胞あたり既知の多様性のrAAVGCを用いて形質導入され、上清は、形質導入の72時間後にIDS活性についてアッセイされる。hIDSの機能(活性)および/または効力は、適切なインビトロアッセイにおいて、例えば、蛍光発生基質、4-メチルウンベリフェリルアルファ-L-イズロン酸-2サルフェートを消化するためのhIDSの能力を測定する、4MU-イズロン酸酵素アッセイを用いて測定されてもよい。特異的活性は、記載された条件下で測定された場合、>7,500pmol/分/μgである。www.RnDSystems.com.の活性アッセイプロトコルを参照されたい。本明細書に記載のものを含む、酵素活性を測定する他の適切な方法が記載されている[例えば、Kakkis、E.D.ら(1994).Protein Expression Purif.5:225-232;Rome、L.H.ら、(1979).Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76:2331-2334]。活性は、記載されている方法、例えば、E.Oussorenら、Mol Genet MeTab.2013 Aug;109(4):377-81.doi:10.1016/j.ymgme.2013.05.016.Epub 2013 Jun 4を用いて評価されてもよい。治療のための候補となる患者は、MPSII(ハンター症候群)および/またはMPSIIに関連する症状を有する小児および成人患者である。
【0053】
治療の目標は、疾患を治療するための実行可能なアプローチとしてのrAAVに基づく
CNS指向遺伝子療法により、患者の欠損イズロン酸-2-スルファターゼを機能的に置換することである。本明細書に記載のrAAVベクターから発現されるとき、CSF、血清、ニューロン、または他の組織中で検出される少なくとも約2%の発現レベルは、治療的効果を提供してもよい。しかし、より高い発現レベルが成し遂げられ得る。そのような発現レベルは、正常な機能的ヒトIDSレベルの2%~約100%であり得る。ある実施形態では、正常な発現レベルより高いレベルが、CSF、血清、または他の組織中で検出され得る。
【0054】
療法の有効性は、(a)MPSII(ハンター症候群)を有する患者における神経認知低下の予防、ならびに(b)疾患のバイオマーカー、例えば、CSF、血清、および/または尿、および/または肝臓および脾臓容積におけるGAGレベルにおける減少、および/または酵素活性を評価することにより、測定することができる。乳幼児における神経認知は、Infant and Toddler Development、Third Ed.、BSID-IIIのBayleyスケールにより測定されることができる。神経認知および適応的行動学的評価(例えば、乳幼児発達のBayleyスケールおよびVineland適応行動スケールをそれぞれ用いて)が実施されることができる。
【0055】
hIDSの全身送達が伴うCNSへのrAAV.hIDSの遺伝子療法送達の組み合わせは、特定の実施形態に包含される。全身送達は、ERT(例えば、エラプラーゼ(登録商標)を用いて)を用いて、または肝臓に対する向性を有するrAAV.hIDS(例えば、AAV8カプシドを有するrAAV.hIDS)を用いるさらなる遺伝子療法を用いて、成し遂げることができる。
【0056】
特定の実施形態は、rAAV.hIDS薬学的組成物の製造および特徴付けも提供する(実施例4、下記)。
【0057】
5.1.AAV.hIDS構築物および製剤
5.1.1.発現カセット
配列番号1のヌクレオチド配列を有することを特徴とするhIDS遺伝子(CCDS14685.1)を含有する発現カセットを含むAAVベクターが提供される。この配列は、Genbank NP000193.1をコードする公開された遺伝子配列であり、本明細書には配列番号2として含まれている。別の実施形態では、発現カセットは、配列番号1に少なくとも約75%同一なヌクレオチド配列を有することを特徴とするhIDS遺伝子を含有し、機能的ヒトイズロン酸-2-スルファターゼをコードする。別の実施形態では、発現カセットは、配列番号1に少なくとも約80%同一なヌクレオチド配列を有することを特徴とするhIDS遺伝子を含有し、機能的ヒトイズロン酸-2-スルファターゼをコードする。別の実施形態では、配列は、配列番号1に少なくとも約85%同一であるか、または配列番号1に少なくとも約90%同一であり、機能的ヒトイズロン酸-2-スルファターゼをコードする。一実施形態では、配列は、配列番号1に少なくとも約95%同一であるか、配列番号1に少なくとも約97%同一であるか、または配列番号1に少なくとも約99%同一であり、機能的ヒトイズロン酸-2-スルファターゼをコードする。一実施形態では、配列は、配列番号1に少なくとも約77%同一である。別の実施形態では、発現カセットは、配列番号11のnt1937~nt3589としても示されている、配列番号8のnt1177~nt2829のhIDSコーディング配列を含有する。別の実施形態では、発現カセットは、配列番号8のnt1177~nt2829(配列番号11のnt1937~nt3589としても示されている)に少なくとも約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97%、約98%、または約99%同一であるhIDSコーディング配列を含有する。
【0058】
別の実施形態では、機能的ヒトイズロン酸-2-スルファターゼは、リーダー(シグナ
ル)ペプチドに対応するプレプロタンパク質配列番号2の初めの25アミノ酸のすべてまたは一部が異種性リーダーペプチドで置換されている合成アミノ酸配列を含んでもよい。例えば、インターロイキン-2(IL-2)またはオンコスタチンからのリーダーペプチドなどのこのリーダーペプチドは、循環へのその分泌経路を通して細胞からの酵素の輸送を改善することができる。適切なリーダーペプチドは、必須ではないが、好ましくは、ヒト起源である。適切なリーダーペプチドは、参照により本明細書に組み込まれる、proline.bic.nus.edu.sg/spdb/zhang270.htmから選択されてもよく、または選択されたタンパク質においてリーダー(シグナル)ペプチドを決定するための様々なコンピュータプログラムを用いて決定されてもよい。限定はされないが、そのような配列は、約15~約50のアミノ酸長、または約19~約28のアミノ酸長であってもよく、または必要に応じてそれより長くても短くてもよい。加えて、IDS酵素の酵素活性を評価するのに有用であるものとして、少なくとも1つのインビトロアッセイが記載されている[例えば、Deanら、Clinical Chemistry、2006 Apr;52(4):643-649を参照されたい]。プレプロタンパク質(配列番号2のアミノ酸1~25)のすべてまたは一部の除去に加えて、プロタンパク質(配列番号2のアミノ酸26~33)のすべてまたは一部が除去されてもよく、場合により、異種成熟ペプチドと置換されてもよい。
【0059】
別の実施形態では、配列番号5(GenBank:AB448737.1のCDS)のnt3423~nt4547のヌクレオチド配列を有することにより特徴付けられるSUMF1遺伝子をさらに含有する発現カセットを含むAAVベクターが提供される。この配列は、NCBI参照配列:NP_877437.2をコードする公開された遺伝子配列であり、これはまた、配列番号7および配列番号10として本明細書に包含されている。幾つかの研究は、IDSなどのスルファターゼの発現は、IDSの翻訳後修飾に必要とされるスルファターゼ修飾因子、SUMF1の利用可能性により制限され得ることを示唆している(Fraldiら、Biochemical J、2007:403:305-312)。別の実施形態では、発現カセットは、配列番号5のnt3423~nt4547に少なくとも約80%同一なヌクレオチド配列を有することを特徴とするSUMF1遺伝子を含有し、機能的ヒトSUMF1をコードする。別の実施形態では、配列は、配列番号5のnt3423~nt4547に少なくとも約85%同一であるか、または配列番号5のnt3423~nt4547に少なくとも約90%同一であり、機能的ヒトSUMF1をコードする。一実施形態では、配列は、配列番号5のnt3423~nt4547に少なくとも約95%、約97%、または約99%同一であり、機能的ヒトSUMF1をコードする。一実施形態では、配列は、配列番号5のnt3423~nt4547に少なくとも約76.6%同一である。別の実施形態では、発現カセットは、配列番号8のnt3423~nt4553のhSUMF1コーディング配列を含有する。別の実施形態では、発現カセットは、配列番号8のnt3423~nt4553と少なくとも約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97%、約98%、または約99%同一なhSUMF1コーディング配列を含有する。
【0060】
一実施形態では、hIDSコーディング配列およびhSUMF1コーディング配列を含有する発現カセットを含むAAVベクターが提供される。別の実施形態では、hIDSコーディング配列およびhSUMF1コーディング配列は、内部リボソーム進入部位(IRES)に連結している。さらなる一実施形態では、IRESは、配列番号5のnt2830~nt3422または配列番号8のnt2830~nt3422の配列を有する。別の実施形態では、発現カセットは、hIDSコーディング配列、IRES、およびhSUMF1コーディング配列を含む、配列番号5のnt1177~nt4547または配列番号8のnt1177~nt4553を含有する。
【0061】
配列に関しての同一性または類似性は、本明細書では、最大パーセント配列アイデンテ
ィティを達成するように配列をアラインし、必要に応じてギャップを導入した後の、本明細書で提供されるペプチドおよびポリペプチド領域と同一(すなわち、同じ残基)または同様(すなわち、共通の側鎖特性に基づく同じ群からのアミノ酸残基、下記を参照されたい)である候補配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。同一性パーセント(%)は、それらのヌクレオチドまたはアミノ酸配列をそれぞれ比較することにより決定されるような、2つのポリヌクレオチド間または2つのポリペプチド間の関係の尺度である。一般に、比較される2つの配列は、配列間に最大の相関を提供するようにアラインされる。2つの配列のアライメントが調べられ、2つの配列間の正確なアミノ酸またはヌクレオチド対応を与える位置の数が決定され、アライメントの全長で除算され、それに100を掛けることにより、同一性%の数字を得る。この同一性%の数字は、比較されるべき配列の全長にわたって決定されてもよく、これは、同じまたは非常に同様の長さの配列に特に適切であり、かつ高度に相同であり、またはこの同一性%の数字は、より短い定義された長さにわたって決定されてもよく、これは、長さが等しくない配列により適切であり、もしくはより低いレベルの相同性を有する。多数のアルゴリズム、およびそれらに基づくコンピュータプログラムが存在し、それらは、文献で使用されるために入手可能であり、および/またはアライメントおよびパーセントアイデンティティを実行するために公的または商業的に入手可能である。アルゴリズムまたはプログラムの選択は、本発明を限定しない。
【0062】
適切なアライメントプログラムの例は、例えば、Unix下の、次いで、Bioeditプログラムにインポートされる、ソフトウェアCLUSTALW(Hall、T.A.1999、BioEdit:a user-friendly biological sequence alignment editor and analysis program for Windows 95/98/NT.Nucl.Acids.Symp.Ser.41:95-98);EMBL-EBIから入手可能なClustal
Omega(Sievers、Fabianら、「Fast、scalable generation of high-quality protein multiple sequence alignments using Clustal Omega.」Molecular systems biology 7.1(2011):539およびGoujon、Mickaelら、「A new bioinformatics analysis tools framework at EMBL-EBI.」Nucleic acids research 38.suppl 2(2010):W695-W699);Wisconsin配列分析パッケージ、バージョン9.1(Devereux J.ら、Nucleic Acids Res.、12:387-395、1984、Genetics Computer Group、Madison、Wis.、USAから入手可能)を含む。プログラムBESTFITおよびGAPは、2つのポリヌクレオチド間の同一性%および2つのポリペプチド配列間の同一性%を決定するために使用されてもよい。
【0063】
配列間の同一性および/または類似性を決定するための他のプログラムは、例えば、the National Center for Biotechnology Information(NCB)、Bethesda、Md.、USAから入手可能で、NCBIのホームページwww.ncbi.nlm.nih.govを通じてアクセス可能であるプログラムのBLASTファミリー、GCG配列アライメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)を含む。アミノ酸配列を比較するためのALIGNプログラムを利用する場合、PAM120残基重量表、ギャップ長さペナルティ12、およびギャップペナルティ4を用いることができる、ならびにFASTA(Pearson W.R.およびLipman D.J.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85:2444-2448、1988、Wisconsin配列分析パッケージの一部として入手可能)。SeqWebソフトウェア(GCG Wi
sconsinパッケージに対するウェブに基づくインターフェース:Gapプログラム)。
【0064】
いくつかの実施形態では、カセットは、組換えアデノ随伴ウイルスから発現されるように設計され、ベクターゲノムはまたAAV逆位末端配列(ITR)を含有する。一実施形態では、rAAVは、シュードタイプであり、すなわち、AAVカプシドは、ITRを提供するAAVのものとは異なるAAV起源からのものである。一実施形態では、AAV血清型2のITRが使用される。しかし、他の適切な起源からのITRが選択されてもよい。場合により、AAVは、自己相補的なAAVであり得る。
【0065】
本明細書に記載の発現カセットは、AAV5’逆位末端配列(ITR)およびAAV3’ITRを利用した。しかし、これらの要素の他の構造も適切であり得る。D配列および最終的な分解部位(trs)が欠失している、ΔITRと称される5’ITRの短縮バージョンが記載されている。他の実施形態では、全長AAV5’および/または3’ITRが使用される。シュードタイプAAVが産生されるべきとき、発現中のITRは、カプシドのAAV起源とは異なる起源から選択される。例えば、AAV2 ITRは、CNSまたはCNS内の組織もしくは細胞を標的とするための特定の効率を有するAAVカプシドとともに用いるために選択されてもよい。一実施形態では、AAV2からのITR配列、またはその欠失型バージョン(ΔITR)が、利便性のため、および規制承認を加速させるために使用される。しかし、他のAAV起源からのITRが選択されてもよい。ITRの起源がAAV2からであり、AAVカプシドが別のAAV起源からのものである場合、得られたベクターは、シュードタイプであると称され得る。しかし、AAV ITRの他の起源が利用されてもよい。
【0066】
一実施形態では、発現カセットは、脳脊髄液および脳を含む中枢神経系(CNS)における発現および分泌のために設計される。特に所望の一実施形態では、発現カセットは、CNSおよび肝臓の両方での発現のために有用であり、それにより、MPSIIの全身およびCNS関連の効果の両方の治療が可能となる。例えば、本発明者らは、特定の構成的プロモータ(例えば、CMV)が、髄腔内に投与された場合に、所望のレベルで発現を駆動せず、それにより、最適以下のhIDS発現レベルをもたらすことを観察した。しかし、ニワトリベータアクチンプロモータは、髄腔内送達および全身送達の両方において良好に発現を駆動する。故に、これは、特に望ましいプロモータである。他のプロモータが選択されてもよいが、同じものを含有する発現カセットが、ニワトリベータアクチンプロモータを用いる場合の利点のすべてを有さなくてもよい。様々なニワトリベータアクチンプロモータが、単独で、または様々なエンハンサー要素、CBhプロモータ[SJ Grayら、Hu Gene Ther、2011 Sep;22(9):1143-1153)と組み合わせて記載されている(例えば、CB7は、サイトメガロウイルスエンハンサー要素を伴うニワトリベータアクチンプロモータ、CAGプロモータであり、それは、プロモータ、ニワトリベータアクチンの第1のエクソンおよび第1のイントロン、ならびにウサギベータ-グロビン遺伝子のスプライスアクセプタを含む)。
【0067】
組織特異的であるプロモータの例は、とりわけ、肝臓および他の組織のために周知である(アルブミン、Miyatakeら、(1997)J.Virol.、71:5124-32;B型肝炎ウイルスコアプロモータ、Sandigら、(1996)Gene Ther.、3:1002-9;アルファフェトタンパク質(AFP)、Arbuthnotら、(1996)Hum.Gene Ther.、7:1503-14)、骨オステオカルシン(Steinら、(1997)Mol.Biol.Rep.、24:185-96);骨シアロタンパク質(Chenら、(1996)J.Bone Miner.Res.、11:654-64)、リンパ球(CD2、Hansalら、(1998)J.Immunol.、161:1063-8;免疫グロブリン重鎖;T細胞受容体鎖)、ニュ
ーロン、例えば、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモータ(Andersenら、(1993)Cell.Mol.Neurobiol.、13:503-15)、神経フィラメント軽鎖遺伝子(Piccioliら、(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、88:5611-5)、およびニューロン特異的vgf遺伝子(Piccioliら、(1995)Neuron、15:373-84)。代替的には、調節可能なプロモータが選択されてもよい。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、WO2011/126808B2を参照されたい。
【0068】
一実施形態では、発現カセットは、1つ以上の発現エンハンサーを含む。一実施形態では、発現カセットは、2つ以上の発現エンハンサーを含有する。これらのエンハンサーは、同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、エンハンサーは、アルファmic/bikエンハンサー、またはCMVエンハンサーを含んでもよい。このエンハンサーは、互いに隣接して位置する2つのコピーにて存在してもよい。代替的には、エンハンサーの二重コピーは、1つ以上の配列により分断され得る。さらに別の実施形態では、発現カセットはさらに、イントロン、例えば、ニワトリベータアクチンイントロン、ヒトβ-グロブリンイントロン、および/または商業的に入手可能なPromega(登録商標)イントロンを含有する。他の適切なイントロンは、当該分野において周知のもの、例えば、WO2011/126808に記載されているものなどを含む。
【0069】
さらに、発現カセットは、適切なポリアデニル化シグナルとともに提供される。一実施形態では、ポリA配列は、ウサギグロブリンポリAである。例えば、WO2014/151341を参照されたい。代替的には、別のポリA、例えば、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化配列、SV40ポリA、SV50ポリA、または合成ポリA。さらなる他の慣用的な調節要素は、さらに、または場合により、発現カセットを含んでもよい。
【0070】
一例示的なrAAV.hIDSベクターゲノムは、配列番号3のnt2~nt3967、配列番号5のnt11~nt4964、配列番号8のnt11~nt4964、配列番号11のnt2~nt3967、または配列番号14のnt2~nt3965に示される。
【0071】
5.1.2.rAAV.hIDSウイルス粒子の産生
一実施形態では、AAVカプシドを有し、かつそこにパッケージされたAAV逆位末端配列、遺伝子の発現を制御する調節配列の制御下にあるヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hIDS)遺伝子を有する組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子が提供され、ここで、このhIDS遺伝子は、配列番号1に示される配列(図1)を有するか、または機能的ヒトイズロン酸-2-スルファターゼをコードするそれらに少なくとも約95%同一な配列を有する。一実施形態では、hIDS発現カセットは、AAV5’ITRおよびAAV3’ITRに隣接している。別の実施形態では、AAVは、一本鎖AAVである。
【0072】
髄腔内および/または槽内送達のために、AAV9は、特に望ましい。場合により、本明細書に記載のようなrAAV9.hIDSベクターは、肝臓を特異的に標的とするように設計されたベクターとともに同時投与されてもよい。肝臓向性を有する多数のrAAVベクターのいずれかが使用されることができる。AAVの例は、rAAVのカプシドのための供給源として選択されてもよく、例えば、rh10、AAVrh64R1、AAVrh64R2、rh8[例えば、米国公開特許出願第2007-0036760-A1号、米国公開特許出願第2009-0197338-A1号、EP1310571を参照されたい]を含む。WO2003/042397(AAV7および他の類人猿AAV)、米国特許第7790449号および米国特許第7282199号(AAV8)、WO2005/033321、およびUS7,906,111(AAV9)、およびWO2006/1
10689]、ならびにrh10[WO2003/042397]、AAV3B;AAVdj[US2010/0047174]も参照されたい。特に望ましい1つのrAAVは、AAV2/8.TBG.hIDS.co.である。
【0073】
多くの場合では、rAAV粒子は、DNase耐性として参照される。しかし、このエンドヌクレアーゼ(DNase)に加えて、他のエンド-およびエキソ-ヌクレアーゼが、汚染核酸を除去するために本明細書に記載の精製工程において使用されてもよい。そのようなヌクレアーゼは、一本鎖DNAおよび/または二本鎖DNA、およびRNAを分解するために選択されてもよい。そのような工程は、単一ヌクレアーゼ、または異なる標的に指向されたヌクレアーゼの混合物を含有してもよく、エンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼであってもよい。
【0074】
AAVに基づくベクターを調製する方法が知られている。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国公開特許出願第2007/0036760号(2007年2月15日)を参照されたい。AAV9のAAVカプシドの使用は、本明細書に記載の組成物および方法のために特に十分に適する。AAV9の配列およびAAV9カプシドに基づきベクターを産生する方法は、US7,906,111、US2015/0315612、WO2012/112832に記載されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。しかし、他のAAVカプシドが選択または産生されてもよい。例えば、AAV8の配列およびAAV8カプシドに基づきベクターを産生する方法は、米国特許第7,282,199B2号、第7,790,449号、および第8,318,480号に記載されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。このような多数のAAVの配列は、上記で引用された米国特許第7,282,199B2号、第7,790,449号、第8,318,480号、および米国特許第7,906,111号で提供されており、および/またはGenBankから入手可能である。AAVカプシドのいずれかの配列は、合成により、または様々な分子生物学および遺伝子工学技法を用いることにより、容易に産生することができる。適切な産生技法は、当業者によく知られている。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press(Cold Spring Harbor、NY)を参照されたい。代替的には、ペプチド(例えば、CDR)をコードするオリゴヌクレオチドまたはペプチドそれ自体は、例えば、周知の固相ペプチド合成方法により、合成的に産生されることができる(Merrifield、(1962)J.Am.Chem.Soc.、85:2149;StewartおよびYoung、Solid Phase Peptide Synthesis(Freeman、San Francisco、1969)pp.27-62)。これらのおよび他の適切な産生方法は、当業者の知識の範囲内であり、本発明を限定するものではない。
【0075】
本明細書に記載の組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)は、周知の技法を用いて産生されてもよい。例えば、WO2003/042397;WO2005/033321、WO2006/110689;US7588772 B2を参照されたい。このような方法は、AAVカプシドをコードする核酸配列、機能的rep遺伝子、最低限でもAAV逆位末端配列(ITR)およびトランスジーンからなる発現カセット、ならびに発現カセットをAAVカプシドタンパク質にパッケージングするのを許可する十分なヘルパー機能、を含有する宿主細胞を培養することを含む。
【0076】
エンプティおよびフル粒子含有量を算出するために、選択された試料(例えば、本明細書の実施例では、イオジキサノール勾配-精製された調製物、ここで、GCの数=粒子の数)についてのVP3バンド容量が、ロードされたGC粒子に対してプロットされる。得られた直線等式(y=mx+c)を用いて、試験品目ピークのバンド容量中の粒子の数を算出する。次いで、ロードした20μLあたりの粒子の数(pt)に50を掛けて、粒子
(pt)/mLを得る。Pt/mLをGC/mLで除算して、ゲノムコピーに対する粒子の比(pt/GC)を得る。Pt/mL~GC/mLは、エンプティpt/mLを与える。エンプティpt/mLをpt/mLで除算して、次いで、x100をすることにより、エンプティ粒子のパーセンテージを得る。
【0077】
一般に、エンプティカプシドおよびパッケージされたゲノムを伴うAAVベクター粒子のためのアッセイ方法は、当該分野において周知である。例えば、Grimmら、Gene Therapy(1999)6:1322-1330;Sommerら、Molec.Ther.(2003)7:122-128を参照されたい。変性したカプシドについて試験するために、方法は、例えば、緩衝液中3~8%のTris-アセテートを含有する勾配ゲルなどの3つのカプシドタンパク質を分離可能な任意のゲルからなるSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に処理済みAAVストックを供すること、次いで、試料材料が分離するまでゲルをランさせること、ナイロンまたはニトロセルロースメンブレン、好ましくは、ナイロンにゲルをブロットすることを含む。抗-AAVカプシド抗体は、次いで、変性したカプシドタンパク質、好ましくは、抗-AAVカプシドモノクローナル抗体、最も好ましくは、B1抗-AAV-2モノクローナル抗体に結合する主要な抗体として使用される(Wobusら、J.Virol.(2000)74:9281-9293)。次いで、一次抗体に結合し、一次抗体、より好ましくは、抗体に共有結合した検出分子を含有する抗-IgG抗体、最も好ましくは、西洋ワサビペルオキシダーゼに共有結合したヒツジ抗-マウスIgG抗体との結合を検出するための手段を含む、二次抗体が使用される。一次および二次抗体との間の結合を半定量的に測定するために、結合を検出するための方法、好ましくは、放射性アイソトープ放射、電磁放射、または発色変化を検出可能な検出方法、最も好ましくは、化学発光検出キットが使用される。例えば、SDS-PAGEのために、カラムフラクションからの試料が、採集され、還元剤(例えば、DTT)を含有するSDS-PAGEロード用緩衝液中で加熱され、カプシドタンパク質は、プレキャスト勾配ポリアクリルアミドゲル(例えば、Novex)上で分解され得る。SilverXpress(Invitrogen、CA)を製造元の指示に従って用いて、銀染色を実施してもよく、または他の適切な染色方法、すなわち、SYPROルビーもしくはクーマシー染色を実施してもよい。一実施形態では、カラムフラクション中のAAVベクターゲノム(vg)の濃度は、定量的リアルタイムPCR(Q-PCR)により測定されることができる。試料は希釈され、DNaseI(または別の適切なヌクレアーゼ)で消化されて、外因性DNAが除去される。ヌクレアーゼの不活化後、試料はさらに希釈され、プライマーおよびプライマー間のDNA配列に特異的なTaqMan(商標)蛍光発生プローブを用いて増幅される。規定レベルの蛍光(閾値サイクル、Ct)に到達するのに必要とされるサイクル数は、Applied Biosystems Prism 7700配列検出システム上で各試料について測定される。AAVベクター中に含有されるものと同一の配列を含有するプラスミドDNAを利用して、Q-PCR反応における標準曲線を作成する。試料から得られたサイクル閾値(Ct)値を用いて、プラスミド標準曲線のCt値に対してそれを正規化することにより、ベクターゲノム力価を決定した。デジタルPCRに基づくエンドポイントアッセイも使用されることができる。
【0078】
一態様では、広域スペクトルセリンプロテアーゼ、例えば、プロテアーゼK(例えば、Qiagenから商業的に入手可能なもの)を利用する最適化されたq-PCR方法が使用される。より具体的には、最適化されたqPCRゲノム力価アッセイは、DNaseI消化の後に、試料をプロテアーゼK緩衝液で希釈し、プロテアーゼKで処理し、続いて、熱失活させることを除き、標準的なアッセイと同様である。適切には、試料は、試料サイズと等しい量のプロテアーゼK緩衝液で希釈される。プロテアーゼK緩衝液は、2倍以上に濃縮されてもよい。典型的に、プロテアーゼK治療は、約0.2mg/mLであるが、0.1mg/mL~約1mg/mLで変動し得る。処理工程は、一般に、約55℃で約15分間、実施されるが、より低い温度(例えば、約37℃~約50℃)でより長時間(例
えば、約20分間~約30分間)、またはより高い温度(例えば、最高約60℃)でより短時間(例えば、約5~10分間)実施されてもよい。同様に、熱失活は、一般に、約95℃で約15分間であるが、温度を下げてもよく(例えば、約70~約90℃)、時間を延ばしてもよい(例えば、約20分間~約30分間)。次いで、試料は希釈され(例えば、1000倍)、標準アッセイで記載されるように、TaqMan分析に供される。
【0079】
追加的に、または代替的には、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)が使用されてもよい。例えば、ddPCRによる一本鎖および自己相補的なAAVベクターゲノム力価を測定するための方法が記載されている。例えば、M.Lockら、Hu Gene
Therapy Methods,Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014 Feb 14を参照されたい。
【0080】
簡潔に言うと、パッケージされたゲノム配列を有するrAAV9粒子をゲノム欠損AAV9中間体から分離するための方法は、組換えAAV9ウイルス粒子およびAAV9カプシド中間体を含む懸濁液を高性能液体クロマトグラフィーに供することを含み、ここで、AAV9ウイルス粒子およびAAV9中間体は、pH10.2で平衡化された強力アニオン交換樹脂に結合され、約260および約280で紫外吸光度のために溶出液をモニタリングしながら、塩勾配に供される。rAAV9のためには最適未満であるが、pHは、約10.0~10.4の範囲であってもよい。この方法では、AAV9フルカプシドは、A260/A280の比が感染ポイントに到達した場合に溶出するフラクションから回収される。一実施例では、アフィニティクロマトグラフィー工程のために、ダイアフィルトレーションされた産物を、AAV2/9血清型を効率的に捕らえるCapture Select(商標)Poros-AAV2/9アフィニティ樹脂(Life Technologies)に適用してもよい。これらのイオン条件下、残留細胞DNAおよびタンパク質の有意なパーセンテージは、カラムの中を流れ、AAV粒子は効率的に捕らえられる。
【0081】
rAAV.hIDSベクターは、図11に示されるフローダイアグラムに示されるように製造されることができ、これは、下記のセクション5.4および実施例4により詳細に記載される。
【0082】
5.1.3.rAAV.hIDSの薬学的製剤
rAAV9.hIDS製剤は、食塩水、界面活性剤、および生理学的に適合する塩、または塩の混合物を含有する水性溶液中に懸濁された有効量のAAV.hIDSベクターを含有する懸濁液である。適切には、製剤は、生理学的に許容されるpH、例えば、pH6~9、またはpH6.5~7.5、pH7.0~7.7、またはpH7.2~7.8の範囲に調整される。脳脊髄液のpHは約7.28~約7.32であるので、髄腔内送達のためには、この範囲内のpHが望ましく、静脈内送達のためには、6.8~約7.2のpHが望ましい可能性がある。しかし、より広範囲にある他のpH、およびこれらの下位範囲が、他の送達経路のために選択されてもよい。
【0083】
適切な界面活性剤、または界面活性剤の組み合わせが、非毒性である非イオン性界面活性剤のうちから選択されてもよい。一実施形態では、例えば、中性pHを有し、平均分子量8400を有するポロキサマー188としても知られているPluronic(登録商標)F68[BASF]などの、一級ヒドロキシル基末端の二機能的ブロックコポリマー界面活性剤が選択される。他の界面活性剤および他のポロキサマー、すなわち、ポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2つの親水性鎖に隣接するポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中心疎水性鎖からなる非イオン性トリブロックコポリマー、SOLUTOL HS 15(マクロゴール-15ヒドロキシステアラート)、LABRASOL(ポリオキシカプリン酸グリセリド)、ポリオキシ10オレイルエー
テル、TWEEN(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)、エタノール、およびポリエチレングリコールが選択されてもよい。一実施形態では、製剤は、ポロキサマーを含有する。これらのコポリマーは一般に、文字「P」(ポロキサマーについて)に続いて、3桁数字を用いて命名され、初めの2桁数字x100は、ポリオキシプロピレンコアのおおよその分子質量を与えるものであり、最後の数字x10は、ポリオキシエチレン含有量のパーセンテージを与えるものである。一実施形態では、ポロキサマー188が選択される。界面活性剤は、懸濁液の最高約0.0005%~約0.001%の量で存在してもよい。
【0084】
一実施形態では、製剤は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、M.Lockら、Hu Gene Therapy Methods、Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014 Feb 14により記載されているようなoqPCRまたはデジタルドロップレットPCR(ddPCR)により測定されるように、例えば、少なくとも約1x10GC/mL~3x1013GC/mLの濃度を含有してもよい。
【0085】
一実施形態では、本明細書に記載の緩衝溶液中にrAAVを含有する凍結された組成物が凍結された形態で提供される。場合により、1つ以上の界面活性剤(例えば、Pluronic F68)、安定化剤、または防腐剤が、この組成物中に存在する。適切には、使用のために、組成物は解凍され、適切な希釈剤、例えば、滅菌食塩水または緩衝化食塩水を用いて所望の用量に滴定される。
【0086】
一実施例では、製剤は、例えば、水中に塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、デキストロース、硫酸マグネシウム(例えば、硫酸マグネシウム・7HO)、塩化カリウム、塩化カルシウム(例えば、塩化カルシウム・2HO)、二塩基性リン酸ナトリウム、およびそれらの混合物のうちの1つ以上を含む、緩衝化食塩水溶液を含有することができる。適切には、髄腔内送達のためには、モル浸透圧濃度は、脳脊髄液と適合する範囲内(例えば、約275~約290)である、例えば、http://emedicine.medscape.com/article/2093316-overviewを参照されたい。場合により、髄腔内送達のために、商業的に入手可能な希釈剤は、懸濁化剤として使用されてもよく、または別の懸濁化剤および他の任意選択の賦形剤との組み合わせで使用されてもよい。例えば、Elliotts B(登録商標)溶液[Lukare Medical]を参照されたい。他の実施形態では、製剤は、1つ以上の浸透促進剤を含有してもよい。適切な浸透促進剤の例は、例えば、マンニトール、グリココール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、またはEDTAを含んでもよい。
【0087】
ある実施形態では、製剤(場合により、凍結された)中に懸濁された濃縮されたベクターを含むキットが提供され、任意選択で希釈緩衝液、ならびに髄腔内投与のために必要とされるデバイス、および他の構成成分が提供される。別の実施形態では、キットは、さらに、または代替的に、静脈内送達のための構成成分を含み得る。一実施形態では、キットは、注射を可能とするために十分な緩衝液を提供する。そのような緩衝液は、約1:1~1:5、またはそれ以上の希釈の濃縮されたベクターを可能とし得る。他の実施形態では、より大量またはより少量の緩衝液または滅菌水が、治療する医師により、用量滴定および他の調整を可能とするために含まれる。さらに他の実施形態では、デバイスの1つ以上の構成成分がキット中に含まれる。
【0088】
5.2.遺伝子療法プロトコル
5.2.1 標的患者集団
本明細書では、本明細書に記載の治療有効量のrAAV.hIDSをそれを必要とする患者へ送達することを含む、ムコ多糖症II型を治療するための方法が提供される。特に、本明細書では、本明細書に記載の治療有効量のrAAV.hIDSをそれを必要とする患者へ送達することを含む、MPSIIと診断された患者における神経認知低下を予防、治療、および/または緩和するための方法が提供される。本明細書に記載のrAAV.hIDSベクターの「治療有効量」は、以下の段落のうちのいずれか1つにおいて同定される症状のうち1つ以上を補正することができる。
【0089】
治療のための候補となる患者は、MPSII(ハンター症候群)および/またはMPSIIに関連する症状を有する小児および成人患者である。MPSIIは、軽度/減弱した表現型または重度の表現型として特徴付けられる。重度の表現型(神経認知悪化を特徴とする)を伴う患者は平均11.7歳で死亡し、軽度または減弱した表現型を伴う患者は21.7歳で死亡する。患者の大部分(3分の2)は、この疾患の重度の形態を有する。MPSIIを有する患者は、出生時には正常であるように見えるが、疾患の徴候および症状は、典型的には、重度形態では、18ヶ月齢~4歳で出現し、減弱した形態では、4~8歳で出現する。すべての罹患患者に共通する徴候および症状は、低身長、特徴的な顔つき、巨頭症、巨舌症、聴力喪失、肝および脾腫大、多発性骨形成性不全症、関節拘縮、脊椎管狭窄、ならびに手根管症候群を含む。ほとんどの患者では、頻繁な上気道および耳感染が生じ、進行性気道閉塞は、睡眠時無呼吸に至り、死亡することもあることが一般的に見出されている。心疾患は、この集団における主要な死因であり、左右室内肥大および心不全に至る弁膜機能不全を特徴とする。死亡は、一般に、閉塞性気道障害または心不全に起因する。
【0090】
MPSIIの重度形態では、初期発達マイルストーンは満たされることがあるが、発達遅延は、18~24ヶ月までには容易に明らかになる。一部の患者は、1年目の聴力スクリーニング試験で基準を満たすことができず、支持なしで座ることができる能力、歩行能力、話す能力を含む他のマイルストーンは、遅れている。発達の進行は、3~5歳で平坦になり始め、6.5歳ごろに退行が始まることが報告されている。MPSIIを有する小児の約50%は、トイレトレーニングを完了することができるが、すべてではないがほとんどでは、疾患の進行とともに、この能力が失われることになる。
【0091】
有意な神経学的関与を伴う患者は、1歳から、多動、強情さ、および攻撃性を含む重度の行動学的障害を示し始め、これらは、神経変性がこの挙動を減弱する8~9歳まで続く。
【0092】
10歳に達する重度に罹患した患者の半数以上において、発作が報告されており、CNS関与を伴うほとんどの患者では、死亡時までに、重度の精神障害を持ち、常時の介護を必要とする。減弱した疾患を有する患者は、正常な知的機能を示すが、MRI画像は、MPSIIを有するすべての患者において、白質病変、空洞肥大、および脳萎縮を含む全般的な脳の異常を明らかにする。
【0093】
本発明の組成物は、軽症~最悪のアナフィキラシーに及び得る組換え酵素に対する免疫応答に関連する長期間の酵素補充療法(ERT)の合併症、ならびに局所および全身感染などの生涯に続く接触部周辺の合併症を回避する。ERTと対照的に、本発明の組成物は、生涯継続される毎週の注射を必要としない。理論に拘束されたくないが、本明細書に記載の治療的方法は、CNS画分外で治療効力を提供する、連続的で高い循環IDSレベルを提供する、高い形質導入効率を伴うベクターにより提供される効率的な長期間の遺伝子移入を提供することにより、MPSII障害に関連する中枢神経系表現型を少なくとも補正するために有用であると考えられている。加えて、本明細書では、CNSへのAAV介
在送達の前にタンパク質形態またはAAV-hIDS形態で酵素を直接全身送達することを含む様々な経路により、活性のある耐性を提供するための方法、および酵素に対する抗体形成を予防するための方法が提供される。
【0094】
いくつかの実施形態では、重度のMPSIIと診断された患者は、本明細書に記載の方法に従って治療される。いくつかの実施形態では、減弱したMPSIIと診断された患者は、本明細書に記載の方法に従って治療される。いくつかの実施形態では、初期神経認知欠損を有するMPSIIを伴う小児対象は、本明細書に記載の方法に従って治療される。ある実施形態では、ハンター症候群と診断され、かつ神経認知欠損を有するか、または神経認知欠損を発症する危険性のある2歳以上の患者は、本明細書に記載の方法に従って治療される。ある実施形態では、重度のハンター症候群と相関することが知られている主要な転位または欠失の存在を有する2歳以上の患者は、本明細書に記載の方法に従って治療される。
【0095】
ある実施形態では、新生児(3ヶ月齢またはそれより若い)が、本明細書に記載の方法に従って治療される。ある実施形態では、3ヶ月齢~9ヶ月齢である乳児が、本明細書に記載の方法に従って治療される。ある実施形態では、9ヶ月齢~36ヶ月齢の小児が、本明細書に記載の方法に従って治療される。ある実施形態では、3歳~12歳の小児が、本明細書に記載の方法に従って治療される。ある実施形態では、12歳~18歳の小児が、本明細書に記載の方法に従って治療される。ある実施形態では、18歳以上の成人が、本明細書に記載の方法に従って治療される。
【0096】
適切には、治療のために選ばれた患者は、以下の特徴のうちの1つ以上を有する人を含み得る。血清、血漿、線維芽細胞、または白血球中で測定されるような欠失または減少したIDS酵素活性により確証されるMPSII診断文書、他の神経学的または精神医学的因子のいずれかにより説明できないならば、以下のいずれかで規定される、MPSIIに起因する初期神経認知欠損の証拠文書。平均より低い少なくとも1標準偏差のDQ(BSID-III)、または連続的な試験において1超の標準偏差の低下という病歴証拠文書。代替的には、尿、血清、CSF、または遺伝子検査におけるGAG増大が使用されてもよい。治療の前に、対象、例えば、乳幼児は、好ましくは、MPSII患者、すなわち、hIDSをコードする遺伝子における変異を有する患者を同定するために遺伝子同定を受ける。治療前に、MPSII患者は、hIDS遺伝子を送達するために使用されるAAV血清型に対する中和抗体(Nab)について評価されることができる。そのようなNabは、形質導入効率を妨害し、治療有効性を低下させ得る。ベースライン血清Nab力価≦1:5を有するMPSII患者は、rAAV.hIDS遺伝子療法プロトコルを用いる治療のための良好な候補である。血清Nab>1:5の力価を有するMPSII患者の治療は、rAAV.hIDSベクター送達での治療の前および/または治療中に、組み合わせ療法、例えば、免疫抑制剤での一時的な併用治療を必要としてもよい。場合により、免疫抑制併用療法は、AAVベクターカプシドおよび/または製剤の他の構成成分に対する中和抗体の事前アセスメントを伴うことなく、予防的手段として使用されてもよい。事前の免疫抑制療法は、特に、実質的にIDUA活性レベルを有さない患者において、hIDSトランスジーン産物に対する潜在的な有害免疫反応を予防するために望ましいものであり得、トランスジーン産物は、「外来」として見なされてもよい。以下に記載される、マウス、イヌ、およびNHPにおける非臨床的研究の結果は、hIDSに対する免疫応答および神経炎症の発達に一致する。同様の反応は、ヒト対象において生じない可能性もあるが、予防的措置として、免疫抑制療法が、rAAV-hIDSのすべてのレシピエントについて推奨される。
【0097】
そのような併用療法のための免疫抑制剤は、グルココルチコイド、ステロイド、代謝拮抗剤、T細胞阻害剤、マクロライド(例えば、ラパマイシンもしくはラパログ)、および
アルキル化剤を含む細胞分裂阻害剤、代謝拮抗剤、細胞傷害性抗生物質、抗体、イムノフィリンに活性のある物質を含むが、これらに限定されない。免疫抑制剤は、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、プラチナ化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、メトトレキサート、レフルノミド(Arava)、シクロホスファミド、クロラムブシル(Leukeran)、クロロキン(例えば、ヒドロキシクロロキン)、硫酸キニーネ、メフロキン、アトバコンおよびプログアニルの組み合わせ、スルファサラジン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体-(CD25-)またはCD3-指向抗体、抗-IL-2抗体、アバタセプト(Orencia)、アダリムマブ(Humira)、アナキンラ(Kineret)、セルトリズマブ(Cimzia)、エタネルセプト(Enbrel)、ゴリムマブ(Simponi)、インフリキシマブ(Remicade)、リツキシマブ(Rituxan)、トシリズマブ(Actemra)、およびトファシチニブ(Xeljanz)、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子-アルファ)結合剤、およびこれらの薬物の組み合わせを含み得る。ある実施形態では、免疫抑制療法は、遺伝子療法投与の0、1、2、7日前、またはそれ以前に開始されてもよい。そのような療法は、同日における2つ以上の薬物の併用投与を含むことができる。一実施形態では、2つ以上の薬物は、例えば、1つ以上のコルチコステロイド(例えば、プレドネリゾン、またはプレドニゾン)、および場合により、MMFおよび/またはカルシニュリン阻害剤(例えば、タクロリムス、またはシロリムス(すなわち、ラパマイシン))であり得る。一実施形態では、2つ以上の薬物は、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)および/またはシロリムスである。別の実施形態では、2つ以上の薬物は、例えば、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、タクロリムス、および/またはシロリムスであり得る。ある実施形態では、薬物は、ベクター送達前の0~15日間のMMFおよびタクロリムスであり、MMFを用いて約8週間維持し、および/またはフォローアップアポイントメントを通してタクロリムスを用いる。これらの薬物のうちの1つ以上が、同じ用量または調整された用量で、遺伝子療法投与後に継続されてもよい。ある実施形態では、患者は、初めに、用量をロードするためにIVステロイド(例えば、メチルプレドニゾロン)を投与され、続いて、経口ステロイド(例えば、プレドニゾロン)を投与され、これは、患者が12週までにステロイドなしとなるように徐々に減少される。コルチコステロイド治療は、タクロリムス(24週間)および/またはシロリムス(12週間)により補足され、さらにMMFで補足されることができる。タクロリムスおよびシロリムスの両方を用いる場合、各用量は、約4ng/mL~約8ng/mlの血液中レベル、または約8ng/mL~16ng/mLのトラフレベルを維持するように調整された低用量である必要がある。ある実施形態では、これらの剤の1つのみが使用される場合、タクロリムスおよび/またはシロリムスについての総用量は、約16ng/mL~約24ng/mLの範囲であり得る。剤の1つのみが使用されるならば、ラベル用量(より高い用量)が使用されるべきである、例えば、タクロリムス、0.15~0.20mg/kg/日、12時間毎に2分割用量として投与される、およびシロリムス、1mg/m/日、負荷用量は、3mg/mである必要がある。MMFがレジメンに加えられるならば、タクロリムスおよび/またはシロリムスについての用量は、作用機序が異なるので、維持されることができる。これらのおよび他の療法は、約-14日目~-1日目から開始して(例えば、-2日目、0日目など)、必要に応じて、約~最高約1週間(7日)、または最高約60日間、または最高約12週間、または約16週間、または最高約24週間、または最高約48週間、またはそれ以上継続され得る。ある実施形態では、タクロリムスを含まないレジメンが選択される。
【0098】
ある実施形態では、患者は、以下のように免疫抑制を受ける:コルチコステロイド:メチルプレドニゾロン10mg/kgIV、1日目に1回、事前投与、および2日目に0.5mg/kg/日で経口プレドニゾン開始、徐々に量を減らし、12週までに中止する、
タクロリムス:1mgのBIDを経口により、2日目から24週目まで、24~32週目の8週間にわたって、徐々に量を減らす、シロリムス:(-2日目に負荷用量、次いで、シロリムス0.5mg/m2/日を、48週目まで、BIDで分割投与。ある実施形態では、IS療法は、AAV9.hIDSの投与後48週で中止される。
【0099】
理論に拘束されたくないが、免疫抑制併用療法は、以下のうちの1つ以上を実施する:AAVおよび/またはトランスジーンに対するアネルギーまたは免疫寛容を誘導する、有効性を最適化するために免疫応答を遮断する、トランスジーンに対する新生の免疫応答を最小限にする、トランスジーンに対する既存の免疫応答の影響を最小限にする、AAVに対する既存の免疫応答の影響を最小限にする、免疫介在毒性を予防する、TG発現細胞の破壊を最小限にする、NHPにおける軸索障害/DRG神経毒性を軽減する。
【0100】
ある実施形態では、以下の特徴のうちの1つ以上を有する患者は、彼らの担当医の裁量によって治療から排除されてもよい。
●調査者または医療用モニタのいずれかの判断において研究結果の解釈を混乱させ得る、MPSIIに起因しないいずれかの神経認知欠損を有する。
●調査者の判断において、対象を危険な状況に置く可能性があるか、調査製品の評価または対象安全性または研究結果の解釈を妨害し得る、いずれかの状態(例えば、任意の病歴、任意の現在の疾患の証拠、身体検査における任意の知見、または任意の検査異常値)を有する。
●神経精神医学的状態の診断。
●蛍光画像法に対しての禁忌を含む、髄腔内/脳内治療投与に対するいずれかの禁忌を有する。
●MRIに対していずれかの禁忌を有する。
●登録時に急性水頭症を有する。
●どちらが長期であってもよいが、スクリーニング前の4週間以内に調査製品を用いた任意の他の臨床的研究に現在登録されているか、または、その臨床的研究で使用された調査製品の5半減期以内である。
●造血幹細胞移植(HSCT)を受けている。
●スクリーニング前の6ヶ月以内に髄腔内投与によりイズルスルファーゼを受けた。
●任意の時点で髄腔内イズルスルファーゼを受け、調査者および/または医療用モニタの判断では、対象を危険な状況に置く可能性のある、髄腔内投与に関連すると考えられる有意な有害効果(AE)を経験した。
【0101】
他の実施形態では、治療にあたる医師は、これらの身体的特徴(病歴)のうちの1つ以上の存在が本明細書に提供されるような治療を妨害するべきものでないことを決定することができる。
【0102】
5.2.2.投薬量&投与経路
患者への投与に適切な薬学的組成物は、生理学的に適合する水性緩衝液、界面活性剤、および任意選択の賦形剤を含む製剤緩衝液中のrAAV.hIDSベクターの懸濁液を含む。ある実施形態では本明細書に記載の薬学的組成物は、髄腔内に投与される。他の実施形態では、本明細書に記載の薬学的組成物は、大槽内に投与される。他の実施形態では、本明細書に記載の薬学的組成物は、静脈内に投与される。ある実施形態では、薬学的組成物は、20分間(±5分間)にわたって注入により末梢静脈を介して送達される。しかし、この時間は、必要に応じて、または所望により、調整されてもよい。しかし、さらに他の投与経路が選択されてもよい。代替的または追加的に、投与経路は、所望される場合、組み合わされてもよい。
【0103】
rAAVの単回投与は効果的であると期待されているが、投与は、繰り返されてもよい
(特に、新生児の治療では、例えば、1年に4回、半年に1回、1年に1回、または必要に応じて他の回数)。場合により、注入/注射に耐えることのできる対象の年齢および能力を考慮して、治療有効量の初期用量が、分割された注入/注射セッションで投与されてもよい。しかし、安心感および治療的結果の両方の観点で患者に利点を与える、治療的用量全量の注射を毎週繰り返す必要はない。
【0104】
いくつかの実施形態では、rAAV懸濁液は、少なくとも1.0x1013GC/mLであるrAAVゲノムコピー(GC)力価を有する。ある実施形態では、rAAV懸濁液中のrAAVのエンプティ/フル粒子比は、0.01~0.05(95%~99%がエンプティカプシド不含)である。いくつかの実施形態では、それらを必要とするMPSII患者は、少なくとも約4x10GC/g脳質量~約4x1011GC/g脳質量の用量のrAAV懸濁液を投与される。
【0105】
以下の治療的に有効な一定用量のrAAV.hIDSが、示された年齢群のMPSII患者に投与されることができる。
●新生児:約1x1011~約3x1014GC、
●3~9ヶ月:約6x1012~約3x1014GC、
●9ヶ月~6歳:約6x1012~約3x1014GC、
●3~6歳:約1.2x1013~約6x1014GC、
●6~12歳:約1.2x1013~約6x1014GC、
●12歳以上:約1.4x1013~約7.0x1014GC、
●18歳以上(成人):約1.4x1013~約7.0x1014GC。
【0106】
他の実施形態では、以下の治療的に有効な一定用量が、以下の年齢群のMPS患者に投与される。
●新生児:約3.8x1012~約1.9x1014GC、
●3~9ヶ月:約6x1012~約3x1014GC、
●9~36ヶ月:約1013~約5x1013GC、
●6~12歳:約1.2x1013~約6x1014GC、
●12歳以上:約1.4x1013~約7.0x1014GC、
●18歳以上(成人):約1.4x1013~約7.0x1014GC。
【0107】
ある実施形態では、これらの範囲の1つ以上が、任意の年齢の患者のために使用される。ある実施形態では、一定用量の2.6×1012ゲノムコピー(GC)(2.0×10GC/g脳質量)が、6歳以上の患者に投与される。ある実施形態では、一定用量の1.3×1013GC(1.0×1010GC/g脳質量)が、6歳以上の患者に投与される。いくつかの実施形態では、12歳以上のMPSII患者(18歳以上を含む)に投与される用量は、1.4×1013ゲノムコピー(GC)(1.1×1010GC/g脳質量)である。いくつかの実施形態では、12歳以上のMPSII患者(18歳以上を含む)に投与される用量は、7×1013GC)5.6×1010GC/g脳質量)である。なおさらなる一実施形態では、MPSII患者に投与される用量は、少なくとも約4x10GC/g脳質量~約4x1011GC/g脳質量である。ある実施形態では、MPSII新生児に投与される用量は、約1.4x1011~約1.4x1014GCの範囲であり;3~9ヶ月の幼児に投与される用量は、約2.4x1011~約2.4x1014GCの範囲であり;9~36ヶ月齢のMPSII小児に投与される用量は、約4x1011~4x1014GCの範囲であり;3~12歳のMPSII小児に投与される用量は、約4.8x1011~約4.8x1014GCの範囲であり;12歳以上の小児および成人に投与される用量は、約5.6x1011~約5.6x1014GCの範囲である。
【0108】
ある実施形態では、少なくとも約4x10GC/g脳質量~約4x1011GC/g
脳質量の用量のrAAV懸濁液は、効力を有する。ある実施形態では、投与される用量は、少なくとも1.3×1010GC/g脳質量、少なくとも1.9x1010GC/g脳質量、少なくとも6.5×1010GC/g脳質量、または9.4x1010GC/g脳質量、または約4x1011GC/g脳質量である。ある実施形態では、MPSII患者に投与される用量は、1.3×1010GC/g脳質量である。ある実施形態では、MPSII患者に投与される用量は、6.5×1010GC/g脳質量である。ある実施形態では、MPSII患者に投与される用量は、1.9×1010GC/g脳質量である。ある実施形態では、MPSII患者に投与される用量は、9.4×1010GC/g脳質量である。
【0109】
ある実施形態では、小児の発達初期に生じる比較的急速な脳成長のために、IC投与されるAAV9.hIDSの総用量は、異なる年齢層にわたって推定される脳質量に依存する。研究対象の年齢による脳質量については例えば、(AS Dekaban、Ann Neurol、1978 Oct;4(4):345-56を参照されたい。
【表1】
【0110】
これらの用量の送達に適切な容量および濃度は、当業者により決定されることができる。例えば、約1μL~150mLの容量が選択されてもよいが、より高容量が、成人のために選択されてもよい。典型的に、新生児幼児のためには、適切な容量は、約0.5mL~約10mL、より年齢の高い乳幼児のためには、約0.5mL~約15mLが選択されてもよい。幼児のためには、約0.5mL~約20mLの容量が選択されてもよい。小児のためには、最高約30mLの容量が選択されてもよい。プレティーンおよびティーン世代のためには、最高約50mLの容量が選択されてもよい。さらに他の実施形態では、患者は、選択された約5mL~約15mL、または約7.5mL~約10mLの容量で髄腔内投与を受けることができる。他の適切な容量および投薬量が決定されてもよい。任意の副作用に対する治療的利益のバランスをとるために、投薬量を調整してもよく、そのような投薬量は、組換えベクターが利用されるための治療用途に応じて変化し得る。
【0111】
5.2.3.有効性モニタリング
本明細書で記載される療法の有効性は、(a)MPSII(ハンター症候群)を有する患者における神経認知低下の予防、ならびに(b)疾患のバイオマーカー、例えば、CSF、血清、および/または尿、および/または肝臓および脾臓容積におけるGAGレベルにおける減少、および/または酵素活性を評価することにより、測定することができる。神経認知は、例えば、Hurler対象のためのBayleyの乳幼児発達スケールにより測定されるような、またはHurler-Scheie対象のためのWechsler略式知能スケール(WASI)により測定されるような、知能指数(IQ)を測定することにより、測定されることができる。例えば、乳幼児発達のBayleyスケール(BSID-III)を使用して発達指数(DQ)を評価することにより、Hopkins言語学習検査を用いて、および/または可変注意力検査(TOVA)を用いて記憶を評価することにより、神経認知発達および機能の他の適切な測定が利用されてもよい。適応行動ス
ケール、視覚処理力、細かい運動、コミュニケーション、社会性、日常生活力、ならびに感情的および行動学的健康度などの他の神経心理学的機能がモニターされる。容量測定を獲得するための脳の磁気共鳴画像法(MRI)、拡散テンソル撮像法(DTI)、および休息状態データ、エコー写真による正中神経断面領域、脊髄圧縮における改善、安全性、肝臓の大きさおよび脾臓の大きさも実施される。
【0112】
場合により、有効性の他の測定は、バイオマーカー(例えば、本明細書に記載のポリアミン)および臨床的結果の評価を含み得る。尿は、総GAG含有量、クレアチニンに対するGAGの濃度、およびMPSII特異的pGAGについて評価される。血清および/または血漿は、IDS活性、抗-IDS抗体、pGAG、およびヘパリン共同因子II-トロンビン複合体の濃度、および炎症マーカーについて評価される。CSFは、IDUA活性、抗-IDS抗体、ヘキソサミニダーゼ(hex)活性、ならびにpGAG(例えば、ヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸)について評価される。ベクター(例えば、AAV9)に対する中和抗体および抗-IDS抗体に対する結合抗体の存在が、CSFおよび血清中で評価されてもよい。ベクターカプシド(例えば、AAV9)およびhIDSトランスジーン産物に対するT細胞応答が、ELISPOTアッセイにより評価されてもよい。CSF、血清、および尿中のIDS発現の薬物動態ならびにベクター濃度(AAV9 DNAに対するPCR)もモニターされてもよい。
【0113】
hIDSの全身送達が伴うCNSへのrAAV.hIDSの遺伝子療法送達の組み合わせは、本発明の方法に包含される。全身送達は、ERT(例えば、エラプラーゼ(登録商標)(イズルスルファーゼ)を用いて)を用いて、または肝臓に対する向性を有するrAAV.hIDS(例えば、AAV8カプシドを有するrAAV.hIDS)を用いるさらなる遺伝子療法を用いて、成し遂げることができる。
【0114】
全身送達に関連する臨床的有効性のさらなる測定は、例えば、整形外科的測定、例えば、骨塩密度、骨塩含有量、骨幾何および骨強度、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)により測定される骨密度、身長(立位身長/年齢により横たわった状態での長さについてのZスコア)、骨代謝のマーカー。血清オステオカルシン(OCN)および骨特異的アルカリホスファターゼ(BSAP)、I型コラーゲンのカルボキシ末端テロペプチド(ICTP)およびI型コラーゲンのカルボキシ末端テロペプチドα1鎖(CTX)の測定、柔軟性および筋力。6分間歩行研究を含むBiodexおよび理学療法評価(Biodex III等速性力試験システムを用いて、各参加者についての膝および肘の力を評価する)、活動的な関節可動域(ROM)、小児健康アセスメント問診表/健康アセスメント問診表(CHAQ/HAQ)障害指標スコア、個人の心肺運動をモニターするための電気筋運動記録(EMG)および/または酸素利用:運動中のピーク酸素取込み(VOピーク)、無呼吸/低呼吸指標(AHI)、努力性肺活量(FVC)、左心室質量(LVM)を含んでもよい。
【0115】
ある実施形態では、患者においてMPSIIを診断および/または治療する方法、または治療をモニタリングする方法が提供される。方法は、本明細書で提供されるように、MPSIIを有する疑いのあるヒト患者から脳脊髄液または血漿試料を採取すること、試料中のスペルミン濃度レベルを検出すること、1ng/mLを超えるスペルミン濃度を有する患者においてMPSIIから選択されるムコ多糖症を有する患者を診断すること、および有効量のヒトIDSを診断された患者に送達すること、を含む。
【0116】
別の態様では、方法は、MPSII療法をモニタリングおよび調整することを含む。
【0117】
このような方法は、MPSIIのための療法を受けているヒト患者から脳脊髄液または血漿試料を採取すること、質量分析を実施することにより試料中のスペルミン濃度レベル
を検出すること、MPSII治療的の投与レベルを調整することを含む。例えば、「正常な」ヒトスペルミン濃度は、脳脊髄液中、約1ng/mL~2ng/mL、またはそれ未満である。しかし、未治療のMPSIIを有する患者は、2ng/mL~最高約100ng/mLを超えるスペルミン濃度レベルを有し得る。患者が、正常なレベルに近づいているレベルを有するならば、任意の併用薬の投与量は減少されることができる。逆に、患者が、所望のMPSIIレベルより高いレベルを有するならば、より高い用量、またはさらなる療法、例えば、ERTを患者に提供することができる。
【0118】
スペルミン濃度は、適切なアッセイを用いて測定することができる。例えば、J Sanchez-Lopezら、「Underivatives polyamine analysis is plant samples by ion pair liquid chromatography coupled with electrospray tandem mass spectrometry」、Plant Physiology and Biochemistry、47(2009):592-598、オンライン入手可能、2009年2月28日;MR Hakkinenら、「Analysis of underivatized polyamines by reversed phase liquid chromatography with electrospray tandem mass spectrometry 」、J Pharm Biomec Analysis、44(2007):625-634に記載されているアッセイ、定量的アイソトープ希釈液体クロマトグラフィー(LC)/質量分析(MS)アッセイ。他の適切なアッセイが用いられてもよい。
【0119】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療的有効性は、初期神経認知欠損を有するMPSIIを有する小児対象において投与後52週目で神経認知を評価することにより、測定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療的有効性は、MPSII患者における神経認知に対するCSFグリコサミノグリカン(GAG)の関係を評価することにより、測定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療的有効性は、磁気共鳴画像法(MRI)、例えば、灰白質および白質ならびにCSF心室の容量即測定分析により測定されるような、MPSII患者におけるCNSに対する身体変化に対する治療薬の効果を評価することにより、測定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療的有効性は、MPSII患者の脳脊髄液(CSF)、血清、および尿中のバイオマーカー(例えば、GAG、HS)に対する治療薬の薬力学的効果を評価することにより、測定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療的有効性は、MPSII患者の生活の質(QOL)に対する治療薬の影響を評価することにより、測定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療的有効性は、MPSII患者の運動機能に対する治療薬の影響を評価することにより、測定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療的有効性は、MPSII患者の成長および発達マイルストーンに対する治療薬の効果を評価することにより、測定される。
【0120】
本明細書に記載のrAAVベクターから発現されるとき、CSF、血清、または他の組織中で検出されるような少なくとも約2%のhIDSの発現レベルは、治療的効果を提供してもよい。しかし、より高い発現レベルが成し遂げられ得る。そのような発現レベルは、正常な機能的ヒトIDSレベルの2%~約100%であり得る。ある実施形態では、正常な発現レベルより高いレベルが、CSF、血清、または他の組織中で検出され得る。
【0121】
ある実施形態では、本明細書に記載のMPSIIおよび/またはそれらの症状を治療、予防、および/または緩和する方法は、乳幼児発達のBayleyスケールを用いて評価されるように、治療された患者における神経認知発達指数(DQ)の有意な増大をもたらす。ある実施形態では、本明細書に記載のMPSIIおよび/またはそれらの症状を治療、予防、および/または緩和する方法は、ハンター症候群を有する患者において、未治療
/自然経過対照データに対して、治療された患者において15ポイント以下のDQの低下をもたらす。
【0122】
ある実施形態では、本明細書に記載のMPSIIおよび/またはそれらの症状を治療、予防、および/または緩和する方法は、機能的ヒトIDSレベルの有意な増大をもたらす。ある実施形態では、本明細書に記載のMPSIIおよび/またはそれらの症状を治療、予防、および/または緩和する方法は、患者の血清、尿および/または脳脊髄液(CSF)の試料中で測定されるように、GAGレベルの有意な減少をもたらす。
【0123】
5.3.組み合わせ療法
hIDSの全身送達が伴うCNSへのrAAV.hIDSの遺伝子療法送達の組み合わせは、本発明の特定の実施形態に包含される。全身送達は、ERT(例えば、エラプラーゼ(登録商標)を用いて)を用いて、または肝臓に対する向性を有するrAAV.hIDS(例えば、AAV8カプシドを有するrAAV.hIDS)を用いるさらなる遺伝子療法を用いて、成し遂げることができる。
【0124】
ある実施形態では、rAAV9.hIDSの髄腔内投与は、例えば、肝臓へ向けられた、第2のAAV.hIDS注射と共投与される。そのような場合では、ベクターは、同じであり得る。例えば、ベクターは、同じカプシドおよび/または同じベクターゲノム配列を有し得る。代替的には、ベクターは異なっていてもよい。例えば、ベクターストックの各々は、異なる調節配列(例えば、各々、異なる組織特異的プロモータを有する)、例えば、肝臓特異的プロモータ、およびCNS特異的プロモータを有するように設計されることができる。追加的に、または代替的には、ベクターストックの各々は、異なるカプシドを有してもよい。例えば、肝臓に指向されたベクターストックは、とりわけ、AAV8、AAVrh64R1、AAVrh64R2、rh8、rh10、AAV3B、またはAAVdjから選択されるカプシドを有してもよい。そのようなレジメンでは、各ベクターストックの用量は、髄腔内に送達されるベクター全量が、約1x10GC~x1x1014GCの範囲内であるように、調整されることができ、他の実施形態では、両方の経路により送達される合わせたベクターは、1x1011GC~1x1016GCの範囲である。代替的には、各ベクターは、約10GC~約1012GC/ベクターの量で送達されてもよい。そのような用量は、実質的に同時に、または異なる時点で、例えば、約1日~約12週間の間隔をあけて、または約3日~約30日の間隔をあけて、または他の適切な時点で、投与されてもよい。
【0125】
いくつかの実施形態では、治療のための方法は、以下を含む。(a)MPSIIおよび/またはハンター症候群の症状を有する患者に、トランスジーン特異的耐性を誘導するために十分な量のhIDS酵素または肝臓指向性rAAV-hIDUAを投与すること、ならびに(b)rAAV.hIDSを患者のCNSへ投与すること、ここで、rAAV.hIDSは患者において治療的レベルのhIDSの発現を導く。
【0126】
さらなる実施形態では、トランスジーン特異的耐性を誘導するためにhIDS酵素または肝臓-指向rAAV-hIDSの有効量を用いてMPSIIおよび/またはハンター症候群に関連する症状を有する患者を寛容化し、続いて、患者にhIDSのrAAV介在送達を行うことを含む、MPSIIおよび/またはハンター症候群に関連する症状を有するヒト患者を治療する方法が提供される。ある実施形態では、例えば、患者が4週齢未満(新生児期)または乳幼児である場合、CNSにおいて治療的濃度のhIDSを発現させるために、患者は、hIDSに対して患者を寛容化するために肝臓に指向された注射によりrAAV.hIDSを投与され、患者が乳幼児、小児、および/または成人である場合、患者は引き続き髄腔内注射によりrAAV.hIDSを投与される。
【0127】
一実施例では、MPSII患者は、生後約2週間以内、例えば、約0~約14日以内、または約1日~12日以内、または約3日目~約10日目、または約5日目~約8日目に、すなわち、患者は、新生児期乳児である時期に、患者にhIDSを送達することにより、寛容化される。他の実施形態では、より年齢の高い乳幼児が選択されてもよい。寛容化用量のhIDSは、rAAVにより送達され得る。しかし、別の実施形態では、用量は、酵素(酵素補充療法)の直接送達により送達される。組換えhIDSを産生する方法は、文献に記載されている。
【0128】
追加的に、エラプラーゼ(登録商標)(イズルスルファーゼ)として商業的に生産された組換えhIDSは、全身送達のために有用であり得る。現在では好ましいものではないが、酵素は、「ネイキッド(naked)」DNA、RNA、または別の適切なベクターにより送達されてもよい。一実施形態では、酵素は、患者の静脈内および/または髄腔内に送達される。別の実施形態では、別の投与経路が使用される(例えば、筋内、皮下など)。一実施形態では、寛容化のために選択されたMPSII患者は、寛容化用量を開始する前にいずれの検出可能な量のhIDSを発現することができない。組換えヒトIDS酵素が送達される場合、静脈内rhIDS注射は、約0.5mg/kg体重からなり得る。代替的には、より高いまたはより低い用量が選択される。同様に、ベクターから発現される場合、より低い発現タンパク質レベルが送達され得る。一実施形態では、寛容化のために送達されるhIDSの量は、治療有効量よりも少ない。しかし、他の用量が選択されてもよい。
【0129】
典型的に、寛容化用量の投与後に、例えば、寛容化用量後約3日~約6ヶ月以内、より好ましくは、寛容化用量後の約7日~約1ヶ月以内に、治療的用量が、対象に送達される。しかし、これらの範囲内の他の時点が選択されてもよく、より長いまたはより短い待機期間であってもよい。
【0130】
代替として、免疫抑制療法は、ベクター投与の前、その間、および/またはその後に、ベクターに加えて実施され得る。免疫抑制療法は、上記したように、プレドニゾロン、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、およびタクロリムス、またはシロリムスを含むことができる。下記のタクロリムスを含まないレジメンが好ましいことがある。
【0131】
5.4.製造
一実施形態は、本明細書に記載の(実施例4、下記)、rAAV.hIDS薬学的組成物の製造を提供する。説明的な製造プロセスは、図10Aおよび10Bに提供される。rAAV.hIDSベクターは、図10Aおよび10Bに示されるフローダイアグラムにおいて示されるように製造されることができる。簡潔にいうと、細胞は、適切な細胞培養(例えば、HEK293)細胞において製造される。本明細書に記載の遺伝子療法ベクターを製造するための方法は、当該分野においてよく知られている方法、例えば、遺伝子療法ベクターの産生のために使用されるプラスミドDNAの産生、ベクターの産生、およびベクターの精製を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子療法ベクターは、AAVベクターであり、産生されたプラスミドは、AAVゲノムおよび目的の遺伝子をコードするAAVシス-プラスミド、AAV repおよびcap遺伝子を含有するAAVトランス-プラスミド、およびアデノウイルスヘルパープラスミドである。ベクター産生プロセスは、細胞培養の開始、細胞の継代、細胞の播種、プラスミドDNAを用いた細胞のトランスフェクション、トランスフェクション後の血清不含培地への培地交換、ベクター含有細胞および培養培地の回収などの方法工程を含むことができる。回収されたベクター含有細胞および培養培地は、本明細書では粗細胞回収物と称される。
【0132】
粗細胞回収物は、その後、ベクター回収物の濃縮、ベクター回収物のダイアフィルトレーション、ベクター回収物の顕微溶液化、ベクター回収物のヌクレアーゼ消化、顕微溶液
化された中間体の濾過、クロマトグラフィーによる粗精製、超遠心分離による粗精製、タンジェンシャルフロー濾過によるバッファー交換、および/またはバルクベクターを調製するための製剤化および濾過などの方法工程に供され得る。
【0133】
2工程の高塩濃度でのアフィニティクロマトグラフィー精製、続いて、アニオン交換樹脂クロマトグラフィーを用いて、ベクター薬物製品を精製し、エンプティカプシドを除去する。これらの方法は、2016年12月9日に出願された国際特許出願第PCT/US2016/065970号、およびその優先権書類、2016年4月13日に出願された米国特許出願第62/322,071号、および2015年12月11日に出願された「Scalable Purification Method for AAV9」という題名の第62/226,357号により詳細が記載されており、それらは、参照により本明細書に組み込まれる。AAV8のための精製方法、2016年12月9日に出願された国際特許出願第PCT/US2016/065976号、およびその優先権文書、2016年4月13日に出願された米国特許出願第62/322,098号、および2015年12月11日に出願された第62/266,341号、ならびにrh10については、2016年12月9日に出願された国際特許出願第PCT/US16/66013号、およびその優先権文書、2016年4月13日に出願された米国特許出願第62/322,055号、および2015年12月11日に出願された「Scalable Purification Method for AAVrh10」という題名の第62/266,347号、ならびにAAV1については、2016年12月9日に出願された国際特許出願第PCT/US2016/065974号、およびその優先権文書、2016年4月13日に出願された米国特許出願第62/322,083号、および2015年12月11日に出願された「Scalable Purification Method for AAV1」という第62/26,351号にあり、それらは参照によりそのすべてが本明細書に組み込まれる。
【0134】
5.5.脳脊髄液への薬学的組成物の送達のための機器および方法
一態様では、本明細書で提供されるベクターは、このセクションで提供されるか、実施例および図11にさらに記載される方法および/またはデバイスにより髄腔内に投与されてもよい。代替的には、他のデバイスおよび方法が選択されてもよい。方法は、脊椎ニードルを患者の大槽内に前進させる工程、1本の可撓性チューブを脊椎ニードルの近位ハブに連結し、バルブの出口ポートを可撓性チューブの近位端に連結する工程と、その前進および連結工程の後、患者の脳脊髄液を用いてチューブをセルフプライム可能とした後、一定量の等張溶液を含有する第1の容器をバルブのフラッシュ入口ポートに連結し、その後、一定量の薬学的組成物を含有する第2の容器をバルブのベクター入口ポートに連結する工程と、を含む。第1および第2容器をバルブに連結した後、流体流れのための通路は、ベクター入口ポートとバルブの出口ポートとの間に開かれ、薬学的組成物は脊椎ニードルを通して患者に注射され、薬学的組成物の注射後、流体流れのための通路は、フラッシュ入口ポートとバルブの出口ポートを通って開かれ、等張溶液は、薬学的組成物を患者にフラッシュするために脊椎ニードル中に注射される。
【0135】
別の態様では、薬学的組成物の槽内送達のためのデバイスが提供される。デバイスは、一定量の薬学的組成物を含有する第1の容器、等張溶液を含有する第2の容器、および脊椎ニードルを含み、それを通して、薬学的組成物は、患者の大槽内の脳脊髄液中へデバイスから直接放出され得る。デバイスはさらに、第1の容器に相互連結した第1の入口ポート、第2の容器に相互連結した第2の入口ポート、脊椎ニードルに相互連結した出口ポート、ならびに脊椎ニードルを通る薬学的組成物および等張溶液の流れを制御するためのルアーロックを有するバルブを含む。
【0136】
本明細書で使用される場合、コンピュータ断層撮影(CT)という用語は、軸に沿って
作成された一連の平面断面からコンピュータにより身体構造の三次元画像が構築されるX線撮影法を指す。
【0137】
図11に示されるような機器または医療用デバイス10は、バルブ16により相互連結した1つ以上の容器12および14を含む。容器12および14は、それぞれ、薬学的組成物、薬物、ベクター、または同様の物質の新鮮なソース、および食塩水などの等張溶液の新鮮なソースを提供する。容器12および14は、患者への流体の注射を可能とする医療用デバイスの任意の形態であり得る。
【0138】
例として、各容器12および14は、シリンジ、カニューレなどの形態で提供されてもよい。例えば、説明された実施形態では、容器12は、一定量の薬学的組成物を含有する別個のシリンジとして提供され、本明細書では「ベクターシリンジ」と称される。単なる例示目的として、容器12は、約10ccの薬学的組成物などを含有してもよい。
【0139】
同様に、容器14は、一定量の食塩水溶液を含有する別個のシリンジ、カニューレなどの形態で提供されてもよく、「フラッシュシリンジ」と称される。単なる例示目的として、容器14は、約10ccの食塩水溶液を含有してもよい。
【0140】
代替として、容器12および14は、シリンジではない形態で提供されてもよく、単回デバイスに一体化されてもよく、例えば、一体化された医療用注射デバイスは、一対の別個のチャンバーを有し、一方は薬学的組成物用であり、他方は食塩水溶液用である。また、チャンバーまたは容器のサイズは、所望の量の流体を含有するために必要に応じて提供されてもよい。
【0141】
説明された実施形態では、バルブ16は、旋回式雄型ルアーロック18を有する4方向停止コックとして提供される。バルブ16は、容器12および14(すなわち、説明された実施形態では、ベクターシリンジおよびフラッシュシリンジ)に相互連結し、旋回式雄型ルアーロックは、容器12および14の各々に対して開閉されるようにバルブ16を通る通路を可能とする。このように、バルブ16を通る通路は、ベクターシリンジおよびフラッシュシリンジの両方に対して閉じられてもよく、またはベクターシリンジおよびフラッシュシリンジの選択された一方に対して開放されてもよい。4方向停止コックの代替として、バルブは、3方向停止コックまたは流体制御デバイスであってもよい。
【0142】
説明された実施形態では、バルブ16は、1本の延長チューブ20などの流体用導管の一端に連結される。チューブ20は、所望の長さまたは内部容量に基づいて選択され得る。単なる例示であるが、チューブは、約6~7インチの長さであり得る。
【0143】
説明された実施形態では、チューブ12の逆端22は、T-コネクタ延長セット24に連結され、これは次に脊椎ニードル26に連結される。例示として、ニードル26は、5インチの22または25ゲージの脊椎ニードルであり得る。加えて、一選択肢として、脊椎ニードル26は、3.5インチ、18ゲージの導入用ニードルなどの導入用ニードル28に連結され得る。
【0144】
使用において、脊椎ニードル26および/または任意選択の導入用ニードル28は、患者内を大槽に向かって前進させることができる。ニードル前進の後、ニードル26および/または28および関連のある軟組織(例えば、傍脊柱筋群、骨、脳幹、および脊髄)の視覚化を可能にするコンピュータ断層撮影(CT)画像が得られてもよい。正確なニードル配置が、ニードルハブ中の脳脊髄液(CSF)の観察および大槽内のニードル先端の視覚化により、確認される。その後、比較的短い延長チューブ20は、挿入された脊椎ニードル26に取り付けられてもよく、次いで、4方向停止コック16が、チューブ20の逆
端に取り付けられてもよい。
【0145】
上記のアセンブリは、患者のCSFを用いて「セルフプライム」することができる。その後、充填済み通常の食塩水フラッシュシリンジ14は、4方向停止コック16のフラッシュ入口ポートに取り付けられ、次いで、薬学的組成物を含有するベクターシリンジ12は、4方向停止コック16のベクター入口ポートに取り付けられる。その後、停止コック16の出力ポートは、ベクターシリンジ12に対して開放され、ベクターシリンジの内容物は、バルブ16および組み立てられた機器を通って患者内に一定期間にわたってゆっくりと注射されてもよい。単なる例示を目的としているが、この期間は、おおよそ1~2分間および/または任意の他の所望時間であり得る。
【0146】
ベクターシリンジ12の内容物が注射された後、停止コック16およびニードルアセンブリが、取り付けられた充填済みフラッシュシリンジ14を用いて所望の量の通常の食塩水をフラッシュできるように、停止コック16上の旋回式ロック18は、第2の位置に回される。単なる例示を目的としているが、1~2ccの通常の食塩水が用いられてもよい、しかしより大量またはより少量が必要に応じて使用されてもよい。通常の食塩水は確実に薬学的組成物のすべてまたは大部分を組み立てられたデバイスを通して患者内に注射するように強いるので、薬学的組成物はほとんどまたはまったく組み立てられたデバイス中に残らない。
【0147】
組み立てられたデバイスが食塩水をフラッシュした後、ニードル(複数可)、延長チューブ、停止コック、およびシリンジを含むそのすべての組み立てられたデバイスは、ゆっくりと対象から取り出され、バイオハザード廃棄物入れまたは硬質容器(ニードル(複数可)のため)へ廃棄するために手術トレイへ置かれる。
【0148】
スクリーニングプロセスは、最終的に槽内(IC)手順を導き得る主な調査者により着手されることができる。主な調査者は、対象(または指定された介護者)が十分に情報を得ることができるように、プロセス、手順、投与手順そのもの、およびすべての潜在的な安全性危険性を記載することができる。病歴、併用薬、身体検査、バイタルサイン、心電図(ECG)、およびラボ検査結果が、得られてもよく、または実施されてもよく、IC手順のための対象適格性のスクリーニングアセスメントにおいて使用するために神経放射線科医、神経外科医、および麻酔科標榜医へ提供される。
【0149】
適格性を吟味するために十分な時間を可能とするために、以下の手順が、第1のスクリーニングビジット~研究ビジット前の最大1週間の間の任意の時点で実施されてもよい。例えば、「0日目」では、ガドリニウム(すなわち、eGFR>30mL/分/1.73m)を伴うおよび伴わない頭部/頸部磁気共鳴画像法(MRI)が得られてもよい。頭部/頸部MRIに加えて、調査者は、屈曲/延伸研究による首のさらなるいずれかの評価が必要かどうかを決定してもよい。MRIプロトコルは、T1、T2、DTI、FLAIR、およびCINEプロトコル画像を含み得る。
【0150】
加えて、頭部/頸部MRA/MRVは、CSF流れの十分な評価、およびCSF空間内のコミュニケーションの起こり得る妨害または欠失の同定を可能とする、制度プロトコルにより得られてもよい(すなわち、硬膜間/硬膜内処置の履歴を有する対象は、排除されてもよく、またはさらに試験(例えば、放射性ヌクレオチドシステルノグラフィ)を必要とし得る)。
【0151】
神経放射線科医、神経外科医、および麻酔科標榜医は、入手可能な情報(スキャン、病歴、身体検査、ラボなど)に基づき、最終的に議論し、IC手順のために各対象の適格性を決定する。MPS対象の特別な生理的必要性を考慮した、気道、首(短くなった/太く
なった)、および頭部運動範囲(首屈曲の程度)の詳細なアセスメントを提供する、麻酔処置前評価が、「-28日目」~「1日目」に得られてもよい。
【0152】
IC手順の前に、CTスイートは、以下の機器および医薬が存在することを確認する。
成人腰部穿刺(LP)キット(協会によって供給される)、
BD(Becton Dickinson)22または25ゲージx3~7インチの脊椎ニードル(Quincke bevel)、
(脊椎ニードルの導入のために)介入者の裁量で使用される、同軸導入用ニードル、
旋回式(スピン)雄型ルアーロックを伴う4方向小口径停止コック、
雌型ルアーロックアダプタを伴うT-コネクタ延長セット(チューブ)、おおよその長さ6.7インチ、
髄腔内投与のためのOmnipaque180(イオヘキソール)、
静脈内(IV)投与のためのヨウ素化コントラスト、
注射用の1%のリドカイン溶液(成人LPキット中で供給されていない場合)、
充填済み10cc通常食塩水(滅菌)フラッシュシリンジ、
放射線不透過性マーカー(複数可)、
手術準備用機器/カミソリ、
挿管された対象の正確な位置を可能とするための枕/支持、
気管内挿管用機器、全身麻酔機械、および機械式通風装置、
術中神経生理学的モニタリング(IONM)機器(および必要とされる人員)、ならびに
ベクターを含有する10ccのシリンジ、別の薬務マニュアルに従って、調整され、CT/手術室(OR)スイートに輸送される。
【0153】
手順のためのインフォームドコンセントを確認し、診療記録および/または研究ファイル内で文書化をする。制度上必要条件であるため、放射線科および麻酔科のスタッフから手順についての同意を別個に得る。対象は、制度ガイドラインに従って、適切な病院治療室内に配置された静脈内アクセス(例えば、2つのIVアクセス部位)を有する。静脈内流体は、麻酔医の裁量で投与される。麻酔医の裁量および制度ガイドラインに従って、対象は、領域または手術/CT処置スイートを有する適切な患者治療室において、全身麻酔の投与とともに、気管内挿管を導入され、気管内挿管を受けてもよい。
【0154】
腰部穿刺が実施され、初め、5ccの脳脊髄液(CSF)を除去し、引き続いて、大槽の視覚化を補助するためにコントラスト(Omnipaque180)が髄腔内に注射される。適切な対象位置付け工作を実施して、コントラストの大槽への核酸を促進することができる。
【0155】
術中神経生理学的モニタリング(IONM)機器が、対象に取り付けられる。対象は、うつ伏せまたは横向き臥位で、CTスキャナ台上に配置される。輸送および位置付けの間、対象の安全性を確実なものとするために、十分な人数のスタッフが存在する必要がある。適切であると考えられるならば、対象は、処置前評価の間安全であると判定される程度まで首を屈曲させる様式で、位置付けられてもよく、位置付けられた後、通常の神経生理学的モニターシグナルが記録される。
【0156】
以下のスタッフが、存在するか、施設内に存在することが確認され得る:手順を実施する介入者/神経外科医、麻酔科標榜医および呼吸器系技師(複数可)、看護師および医師アシスタント、CT(またはOR)技師、神経生理学的技師、および施設内コーディネーター。正確な対象、手順、部位、位置付け、および室内で必要なすべての機器の存在を確認するために、医療施設認定合同機構(Joint Commission)/病院プロトコルに従って、「タイムアウト」が完了され得る。施設内リーダー調査者は、次いで、
スタッフに彼らが対象準備に進むことができるかを確認することができる。
【0157】
頭蓋底下の対象の皮膚は、適切に剃られる。CTスカウト画像が実施され、続いて、介入者が、標的位置をローカライズし、脈管構造を画像化することが必要と考える場合には、IVコントラストを用いる手順前プラニングCTが実施される。標的部位(大槽)が同定され、ニードル軌道が計画され、制度ガイドラインに従って滅菌技法を用いて、皮膚は準備され、布を掛けられる。介入者により指示される場合、放射線不透過性マーカーが、標的皮膚位置に配置される。マーカーされた皮膚は、1%のリドカインを用いて湿潤により麻酔をかけられる。次いで、22Gまたは25Gの脊椎ニードルは大槽に向かって前進されるが、同軸導入用ニードルを使用する選択肢もある。
【0158】
ニードル前進の後、協会の機器を用いて実行可能な最も薄いCTスライス厚さ(理想的には≦2.5mm)を用いて、CT画像が得られる。ニードルおよび関連する軟組織(例えば、傍脊柱筋群、骨、脳幹、および脊髄)の十分な視覚化を可能にするのに可能な最も少ない放射線量を用いる連続的CT画像が、得られる。正確なニードル配置が、ニードルハブ中のCSFの観察および大槽内のニードル先端の視覚化により、確認される。
【0159】
介入者は、ベクターシリンジが、滅菌野に近接しているが、滅菌野の外側に位置付けられていることを確認する。ベクターシリンジ中の薬学的組成物を取り扱う前またはそれを投与する前に、滅菌野内の処置を補助するスタッフは、グローブ、マスク、および保護用メガネを装着する。
【0160】
延長チューブは、挿入された脊椎ニードルに取り付けられ、これは次いで、4方向停止コックに取り付けられる。一旦、この機器が対象のCSFで「セルフプライム」されると、10ccの充填済みの通常食塩水フラッシュシリンジが、4方向停止コックのフラッシュ入口ポートに取り付けられる。次いで、ベクターシリンジが介入者に提供され、4方向停止コック上のベクター入口ポートに取り付けられる。
【0161】
停止コックの旋回式ロックを第1の位置に配置することにより、停止コックの出口ポートが、ベクターシリンジに対して開放された後、注射の間、シリンジのプランジャーに過度の力を加えないように気を付けながら、ベクターシリンジの内容物はゆっくりと(おおよそ1~2分間)注射される。ベクターシリンジの内容物が注射された後、停止コックおよびニードルアセンブリが、取り付けられた充填済みフラッシュシリンジを用いて1~2ccの通常の食塩水をフラッシュできるように、停止コックの旋回式ロックは、第2の位置に回される。
【0162】
用意ができたら、次いで、介入者は自分が対象から機器を取り出すことをスタッフに警告する。単一の動作で、ニードル、延長チューブ、停止コック、およびシリンジは、ゆっくりと対象から取り出され、バイオハザード廃棄物入れまたは硬質容器(ニードルのため)へ廃棄するために手術トレイへ置かれる。
【0163】
調査者により指示されるように、ニードル挿入部位は、出血またはCSF漏出の徴候について調べられ、治療される。指示されるように、ガーゼ、手術用テープ、および/またはTegaderm手当用品を用いて、部位は手当される。次いで、対象は、CTスキャナから取り出され、ストレッチャー上に仰向けで配置される。輸送および位置付けの間、対象の安全性を確実なものとするために、十分な人数のスタッフが存在する。
【0164】
麻酔を中止し、対象は、麻酔後ケアのための制度ガイドラインに従ってケアされる。神経生理学的モニターが対象から取り除かれる。対象が横たわっているストレッチャーの頭側は、回復中、若干上昇させる必要がある(約30度)。制度ガイドラインに従って、対
象は適切な麻酔後治療室に輸送される。対象が、十分に意識を回復し、安定な状態となった後、対象は、プロトコル指定の評価のために適切なフロア/ユニットに入院する。神経学的評価は、プロトコルに従って実施され、主要な調査者は、病院および研究スタッフとの共同で対象ケアを監督する。
【0165】
一実施形態では、本明細書で提供される組成物の送達のための方法は、脊椎ニードルを患者の大槽内に前進させる工程、1本の可撓性チューブを脊椎ニードルの近位ハブに連結し、可撓性チューブの近位端にバルブの出力ポートを連結する工程、そのような前進および連結工程の後、患者の脳脊髄液を用いてチューブをセルフプライム可能とした後、一定量の等張溶液を含有する第1の容器をバルブのフラッシュ入口ポートに連結し、その後、一定量の薬学的組成物を含有する第2の容器をバルブのベクター入口ポートに連結する工程、そのような第1および第2の容器をバルブに連結した後、バルブのベクター入口ポートと出口ポートとの間の流体流れのための通路を開放し、脊椎ニードルを通じて薬学的組成物を患者に注射する工程、薬学的組成物を注射した後、バルブのフラッシュ入口ポートおよび出口ポートを通る流体流れのための通路を開放し、等張溶液を脊椎ニードルに注射して、薬学的組成物を患者内にフラッシュする工程、を含む。ある実施形態では、方法はさらに、チューブおよびバルブを脊椎ニードルのハブに連結する前に、大槽内における脊椎ニードルの遠位先端の正確な配置を確認することを含む。ある実施形態では、確認工程は、コンピュータ断層撮影(CT)画像法を用いて、大槽内で脊椎ニードルの遠位端を視覚化することを含む。ある実施形態では、確認工程は、脊椎ニードルのハブにおいて患者の脳脊髄液の存在を観察することを含む。
【0166】
上記の方法では、バルブは、フラッシュ入口ポートを通る流れを同時に遮断しながら、ベクター入口ポートから出口ポートへの流れを許可する第1の位置に旋回するように適合され、またベクター入口ポートを通る流れを同時に遮断しながら、フラッシュ入口ポートから出口ポートへの流れを許可する第2の位置に旋回するように適合された旋回式ルアーロックを伴う停止コックであり得、ここで、旋回式ルアーロックは、薬学的組成物が患者に注射されるときに前述の第1の位置に位置付けられ、薬学的組成物が等張溶液によりその患者内へフラッシュされるときに前述の第2の位置へ位置付けられる。ある実施形態では、等張溶液を脊椎ニードル内へ注射して、薬学的組成物を患者内にフラッシュした後、脊椎ニードルは、患者から、チューブ、バルブ、ならびにアセンブリとしてそれに連結された第1および第2の容器とともに引き抜かれる。ある実施形態では、バルブは、旋回式雄ルアーロックを有する4方向停止コックである。ある実施形態では、第1および第2の容器は、別個のシリンジである。ある実施形態では、T-コネクタは、脊椎ニードルのハブに位置し、チューブを脊椎ニードルに相互連結する。場合により、脊椎ニードルは、脊椎ニードルの遠位端に導入用ニードルを含む。脊椎ニードルは、5インチの22または24ゲージの脊椎ニードルであり得る。ある実施形態では、導入用ニードルは3.5インチ、18ゲージの導入用ニードルである。
【0167】
ある態様では、方法は、最低限、一定量の薬学的組成物を含有するための第1の容器、等張溶液を含有する第2の容器、患者の大槽内の脳脊髄液へデバイスから直接薬学的組成物が放出され得る脊椎ニードル、ならびに第1の容器と相互連結した第1の入口ポートと、第2の容器に相互連結した第2の入口ポートと、脊椎ニードルに相互連結した出口ポートと、脊椎ニードルを通る薬学的組成物および等張溶液の流れを制御するためのルアーロックとを有するバルブ、からなるデバイスを利用する。ある実施形態では、バルブは、第1の入口ポートから出口ポートへの流れを許可しながら、同時に第2の入口ポートを通る流れを遮断する第1の位置に旋回するように適合され、また第2の入口ポートから出口ポートへの流れを許可しながら、同時に第1の入口ポートを通る流れを遮断する第2の位置に旋回するように適合された旋回式ルアーロックを伴う停止コックである。場合により、バルブは、旋回式雄型ルアーロックを伴う4方向停止コックである。ある実施形態では、
第1および第2の容器は、別個のシリンジである。ある実施形態では、脊椎ニードルは、1本の可撓性チューブによりバルブと相互連結している。T-コネクタは、チューブを脊椎ニードルに相互連結させることができる。ある実施形態では、脊椎ニードルは、5インチ、22または24ゲージの脊椎ニードルである。ある実施形態では、デバイスはさらに、脊椎ニードルの遠位端に連結した導入用ニードルを含む。場合により、導入用ニードルは3.5インチ、18ゲージの導入用ニードルである。
【0168】
この方法およびこのデバイスは、それぞれ、場合により、本明細書で提供される組成物の髄腔内送達のために使用されてもよい。代替的には、他の方法およびデバイスが、そのような髄腔内送達のために使用されてもよい。
【0169】
以下の実施例は単に説明的なものであり、本明細書に記載の発明を限定するものではない。
【実施例
【0170】
実施例1:ヒト対象の治療のためのプロトコル
この実施例は、MPSII、すなわち、ハンター症候群を有する患者のための遺伝子療法治療に関する。この実施例では、野生型hIDS酵素をコードする修飾されたhIDS遺伝子を発現する、遺伝子療法ベクター、AAV9.CB.hIDS、複製欠損アデノ随伴ウイルスベクター9(AAV9)が、MPSII患者の中枢神経系(CNS)へ投与される。AAVベクターの用量は、全身麻酔下でCNSに直接注射される。治療の有効性は、本明細書に記載されるように、バイオマーカー、例えば、対象のCSFまたは血清における病原性GAGおよび/またはヘパリン硫酸(HS)濃度の減少を含む、神経認知発達および/またはサロゲートマーカーの臨床的測定を用いて評価される。
【0171】
A.遺伝子療法ベクター
遺伝子療法ベクターは、ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)を発現する血清型9の非複製組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであり、この実施例ではAAV9.CB.IDSとして称される(図1を参照されたい)。AAV9血清型は、IC投与後にCNS中のhIDS産物の効率的な発現を可能とする。
【0172】
IDS発現カセットは、逆位末端配列(ITR)に隣接しており、発現は、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーおよびニワトリベータアクチンプロモータ(CB7)のハイブリッドにより駆動される。トランスジーンは、ニワトリベータアクチンイントロンおよびウサギベータ-グロビンポリアデニル化(polyA)シグナルを含む。
【0173】
ベクターは、製剤緩衝液(Elliots B溶液、0.001%のPluronic
F68)中に懸濁される。構築物は、M.Lockら、Human Gene Ther,21:1259-1271(2010)において以前記載されたように、AAV9カプシド中にパッケージされ、精製され、力価測定された。製造プロセスは、以下の実施例4でより詳細に記載される。
【0174】
ベクター産生:
一連のベクターが作製された。1つのプラスミドは、コドン最適化されたIDS配列(配列番号11のnt1177~nt2829)を含有する。他の2つは、CB7プロモータ(CB6)の短縮バージョンを用いて、SUMF1[配列番号7および配列番号10]と呼ばれる第2のタンパク質を発現した。産生されたベクターゲノム、AAV.CB7.CI.hIDSco.RBGは、配列番号11のnt2~nt3967の配列を有し、AAV.CB6.hIDSco.IRES.hSUMF1coは、配列番号8のnt11~nt4964の配列を有する。プラスミドは、コドン最適化およびhIDS配列の合成に
より構築され、次いで、得られた構築物は、プラスミドpENN.AAV.CB7.CI.RBGまたはpENN.AAV.CB6.CI.RBG、CB7またはCB6、CI、およびRBG発現要素を含有するAAV2 ITRが隣接する発現カセットにクローニングされて、前述のベクターゲノムを得る。
【0175】
ナイーブヒトIDS cDNAを含有するなおさらなるプラスミドが作製された、これらのプラスミドは、本明細書では、pAAV.CB7.CI.hIDS.RBGおよびpAAV.CB6.CI.hIDS.IRES.SUMF1.RBGと称される。これらのプラスミドに由来するベクターゲノム[配列番号3のnt2~nt3967および配列番号5のnt11~nt4964]は、AAV2由来のITR隣接のhIDS発現カセットを伴う一本鎖DNAゲノムである。トランスジーンカセットからの発現は、CB7またはCB6プロモータ、CMV最初期エンハンサー(C4)およびニワトリベータアクチンプロモータの間のハイブリッドにより駆動され、一方で、このプロモータからの転写は、ニワトリベータアクチンイントロン(CI)の存在により高められる。発現カセットのためのポリAシグナルは、RBGポリAである。プラスミドは、hIDS配列の合成により構築され、次いで、得られた構築物は、プラスミドpENN.AAV.CB7.CI.RBGまたはpENN.AAV.CB6.CI.RBG、またはCB7、CI、およびRBG発現要素を含有するAAV2 ITR隣接の発現カセットにクローニングされて、前述のベクターゲノムを得る。
【0176】
配列要素の記載:
逆位末端配列(ITR):AAV ITR(GenBank # NC001401)は、両端が同一であるが、逆方向である配列である。AAVおよびアデノウイルスヘルパー機能がトランスで提供される場合、AAV2 ITR配列は、ベクターDNA複製の起源およびベクターゲノムのパッケージングシグナルの両方として機能する。したがって、ITR配列は、ベクターゲノムの複製およびパッケージングのために必要とされるシス配列のみを表す。
【0177】
CMV最初期エンハンサー(382bp、C4、GenBank # K03104.1)。この要素は、ベクターゲノムプラスミド中に存在する。
【0178】
ニワトリベータアクチンプロモータ(282bp、CB、GenBank # X00182.1)を用いて、高レベルのhIDS発現を駆動させる。
【0179】
ニワトリベータアクチンイントロン:ニワトリベータアクチン遺伝子(GenBank
# X00182.1)からの973bpのイントロンは、ベクター発現カセット中に存在する。イントロンは転写されるが、その両端のいずれかにある配列と合わせて、スプライシングにより成熟メッセンジャーRNA(mRNA)から除去される。発現カセットにおけるイントロンの存在は、核から細胞質へのmRNA輸送を促進し、それにより、翻訳のためのmRNAの一定レベルの蓄積を高めることが示されている。これは、遺伝子発現レベルの増大を意図した遺伝子ベクターにおいて共通の特徴である。この要素は、ベクターゲノムおよびプラスミドの両方に存在する。
【0180】
イズロン酸-2-スルファターゼコーディング配列:hIDS配列は、合成された[配列番号1]。コードされたタンパク質は、本明細書の初めの方に記載されている、550アミノ酸[配列番号2、Genbank NP_000193、UnitProtKB/Swiss-Prot(P22304.1)]である。配列番号:1および2を参照されたい。コドン最適化されたhIDSコーディング配列は、配列番号8のnt3423~nt4553、および配列番号11のnt1937~nt3589に示されている。
【0181】
ポリアデニル化シグナル:127bpのウサギベータ-グロビンポリアデニル化シグナル(GenBank #V00882.1)は、抗体mRNAの効率的なポリアデニル化のためのシス配列を提供する。この要素は、転写終止、初期転写物の3’での特異的消化事象、および長いポリアデニルテイル付加のためのシグナルとして機能する。この要素は、ベクターゲノムおよびプラスミドの両方に存在する。
【0182】
B.投与および投与経路
4ヶ月齢以上~5歳未満の年齢の患者は、2.6x1012GC(2.0x10GG/g脳質量)(低用量)~1.3x1014GC(1.0x1011GC/g脳質量(高用量))の範囲のrAAV9.CB7.hIDSの単回髄腔内/槽内用量を受ける。患者は、1.3×1010GC/g脳質量の用量または6.5×1010GC/g脳質量の用量を用いて治療されることができる。
【0183】
ある実施形態では、AAV9.hIDSは、後頭下投与経路により大槽(IC)内へ注入により投与される。ニードルのICへの挿入は、CTガイダンスにより実施される。全身麻酔および気管内挿管は、手順の間に必要とされる。スクリーニングの間の頭部/頸部MRIを用いて、適切な解剖学的構造が示される。
【0184】
ある実施形態では、腰部穿刺が実施され、初め、5ccのCSFを除去し、引き続いて、大槽の視覚化を補助するためにコントラストがIT注射される。CT(コントラストあり)を利用して、ニードル挿入およびrAAV9.CB7.hIDUAの後頭下空間への投与をガイドする。
【0185】
以下の治療的に有効な一定用量が、示された年齢群の患者に投与される。
●新生児:約1x1011~約3x1014GC、
●3~9ヶ月:約6x1012~約3x1014GC、
●9ヶ月~6歳:約6x1012~約3x1014GC、
●3~6歳:約1.2x1013~約6x1014GC、
●6~12歳:約1.2x1013~約6x1014GC、
●12歳以上:約1.4x1013~約7.0x1014GC、
●18歳以上(成人):約1.4x1013~約7.0x1014GC。
【0186】
他の実施形態では、以下の治療的に有効な一定用量が、以下の年齢群のMPS患者に投与される。
●新生児:約3.8x1012~約1.9x1014GC、
●3~9ヶ月:約6x1012~約3x1014GC、
●9~36ヶ月:約1013~約5x1013GC、
●6~12歳:約1.2x1013~約6x1014GC、
●12歳以上:約1.4x1013~約7.0x1014GC、
●18歳以上(成人):約1.4x1013~約7.0x1014GC。
【0187】
本明細書で議論されるように、エンプティカプシドが、患者に投与されるrAAV9.CB7.hIDSの用量から確実に除去されるように、エンプティカプシドは、ベクター精製プロセス中、塩化セシウム勾配超遠心分離、またはイオン交換クロマトグラフィーによりベクター粒子から分離される。
【0188】
免疫抑制療法は、ベクターに加えて、投与されてもよい。免疫抑制療法は、-2日目に一回のコルチコステロイド(メチルプレドニゾロン10mg/kg静脈内[IV]と、-1日目に0.5mg/kg/日で開始し、徐々に量を減らし、16週目までに中止する、経口プレドニゾンと、-2日目~24週目の経口によるタクロリムス(0.2mg/kg
/日と、およびシロリムス(1日1回[QD]-2日目~48週目ビジットまで)とを含む。説明的なシロリムス用量は、(-2日目に6mgのPO、次いで、-1日目~48週目ビジットまで2mgのQD)を含んでもよい。シロリムス用量調整は、16~24ng/mL内の血中トラフ濃度を維持するために実施されることができる。調整は、より短期間またはより長期間薬物を送達することを含む、レジメン中の他の薬物に対しても実施されてもよい。ほとんどの対象では、用量調整は、式:新規用量=現在の用量x(標的濃度/現在の濃度)、に基づくことができる。対象は、濃度モニタリングを伴うさらなる投薬量調整前の少なくとも7~14日間、新規維持用量を継続してもよい。場合により、患者は、静脈内酵素補充療法(ERT、例えば、ALDURAZYME(商標)[ラロニダーゼ]、ならびに任意の支持的手段(例えば、身体療法)の安定なレジメンを維持することを許可されることができる。患者は、任意の有害事象についてモニターされる。重大な有害事象は、「Hy’s Law」事象と呼ばれる、ALT約3×ULNおよびビリルビン約2xULN(>35%直接)と定義される、高ビリルビン血症を伴う起こり得る薬物誘導肝障害を含み得る。
【0189】
いくつかの実施形態では、免疫抑制療法レジメンは、以下のとおりである。
コルチコステロイド
ベクター投与の朝(1日目、投与前)、患者は、少なくとも30分間にわたってメチルプレドニゾロン10mg/kgIV(最大500mg)を受ける。メチルプレドニゾロンは、rAAV9.CB7.hIDUAの腰部穿刺および髄腔内(IC)注射の前に投与される。アセトアミノフェンおよび抗ヒスタミンを用いる前投薬は任意である。
【0190】
12週目までにプレドニゾンを中止することを目標に、2日目に、経口プレドニゾンを開始する。プレドニゾンの用量は以下の通りである。2日目~2週目の終わりまで:0.5mg/kg/日、3週目および4週目:0.35mg/kg/日、5~8週目:0.2mg/kg/日、9~12週目:0.1mg/kg。
【0191】
プレドニゾンは、12週目後に中止される。プレドニゾンの正確な用量は、次に高い臨床的に実際的な用量へ調整されることができる。
【0192】
シロリムス:ベクター投与の2日前に(-2日目):4時間毎x3用量のシロリムス1mg/mの負荷用量が投与される。-1日目~:シロリムス0.5mg/m/日、標的血液レベル4~8ng/mlでの1日2回投与に分割される。シロリムスは、48週目ビジットの後に中止される。
【0193】
タクロリムス:タクロリムスは、2日目(rAAV9.CB7.hIDUA投与の後日)に1mgの1日2回用量で開始され、24週間で血液レベル4~8ng/mLに到達するように調整される。24週目のビジットで開始。タクロリムスは、8週間にわたって徐々に減らされる。24週目で、用量は、おおよそ50%まで減少される。28週目で、用量は、おおよそ50%までさらに減少される。タクロリムスは、32週目で中止される。
【0194】
C.患者下位集団
適切な患者は、以下の年齢の男性および女性対象を含む。
●新生児、
●3~9ヶ月齢、
●9~36ヶ月齢、
●3~12歳、
●12歳以上、
●18歳以上(成人)。
【0195】
D.臨床目的の測定
主要な臨床的目的は、MPSII欠損に関連する神経認知低下を予防すること、および/または場合によりそれを逆転することを含む。臨床的目的は、例えば、Infant and Toddler Development、Third Edition、BSID-IIIのBayleyスケールにより測定されるような、神経認知を測定することにより決定されてもよい。他の適切な測定は、例えば、Vineland適応行動スケール、Second Edition(VABS-II)により測定されるような適応行動学的評価、および例えば、Infant Toddler Quality of Life Questionnaire(商標)(ITQOL)により測定されるような生活の質の測定である。
【0196】
二次エンドポイントは、バイオマーカーおよび臨床的結果の評価を含む。場合により、聴力が、二次エンドポイントとして評価されてもよい。尿は、総GAG含有量およびヘパラン硫酸について評価される。血清は、IDS活性、抗-IDS抗体、GAG、およびヘパリン共同因子II-トロンビン複合体の濃度について評価される。CSFは、GAG、IDS活性、抗-IDS抗体、およびヘパリン硫酸について評価される。抗-IDS抗体の存在が評価され、CSFおよび血清中のIDS発現の薬物動態学も評価される。灰白質および白質およびCSF室の容量分析も、MRIにより実施される。
【0197】
実施例2:ムコ多糖症II型のマウスモデルにおける研究-CSFへのアデノ随伴ウイルスベクターの送達は、ムコ多糖症II型マウスにおける中枢神経系疾患を減弱化する。
A.脳脊髄液へのAAV9送達は、CNS疾患を補正する。
ムコ多糖症II型(MPSII)は、典型的には、小児初期に骨および関節の変形、心疾患および呼吸器系疾患、ならびに発達遅延を表す、X連鎖性リソソーム貯蔵障害である。欠損酵素、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)の全身送達は、MPSIIの多くの症状を改善するが、酵素は血液脳関門を通過しないので、中枢神経系(CNS)疾患の進行を予防するための効果的な方法が現在は存在しない。MPSIIのマウスモデルを用いて、IDS遺伝子のAAV血清型9ベクター介在送達は、CNSにおける連続的なIDS発現を達成するための一手段として評価された。IDSノックアウトマウスは、3つのベクター用量(低-3x10、中-3x10、高-3x1010のゲノムコピー)のうちの1つの脳側室への単回注射を受け、ベクター体内分布およびIDS発現のアセスメント(群あたりn=7~8マウス)のためにベクター投与の3週間後に犠牲にされ、疾患進行に対する遺伝子移入の影響を評価するために(群n=7~8マウス)ベクター投与の3ヶ月後に犠牲にされた。IDS活性は、脳脊髄液中で検出可能であり、低用量コホートでは野生型レベルの15%に到達し、最高用量では通常の268%に到達した。脳酵素活性は、低用量コホートにおける通常の2.7%~高用量コホートにおける32%の範囲であった。ガングリオシドGM3についての染色による脳貯蔵病変の定量化は、それぞれ、低-、中-、および高-用量コホートにおいて35%、46%、および86%の減少を伴う用量依存的補正を示した。治療されたマウスはまた、新規物体認識試験において認知機能の改善を実証した。これらの知見は、髄腔内AAV介在遺伝子移入が、CNSへの持続した酵素送達のためのプラットフォームとして役立つことを示し、MPSIIを有する患者のためにこの重大で満たされていない必要性に対処する。
【0198】
B.AAV9.CB.hIDSの薬理学的および神経行動学的効果
MPSIIのノックアウトマウスモデル(IDS-ノックアウト、IDSy/-)は、IDS遺伝子のエクソン4および5をネオマイシン耐性遺伝子で置換することにより、作製された(Garciaら、2007、J Inherit Metab Dis、30:924-34を参照されたい)。モデルは、検出可能な酵素活性をまったく示さず、MPSII患者において見出されるものと同様の組織学的貯蔵病変を発症する。IDS-ノックアウトマウスは、骨格異常を含むMPSIIの臨床的特徴のうちの多くを示す。いく
つかの研究は異常さを示しているが(Muenzerら、2001、Acta Paediatr Suppl、91(439):99-9)、マウスの神経行動学的表現型は広範囲には評価されておらず、したがって、MPSIIのための治療としてのAAV9.CB.hIDSの効果を研究するための関連モデルである。実際、これは、この集団における臨床試験を支持するMPSIIにおける酵素補充療法の効果を評価するために使用されたのと同じノックアウトマウスモデルである。このMPSIIマウスモデルにおいて実施された以下の研究は、治療的活性のあるAAV9.CB.hIDSを確立した。
【0199】
C.材料および方法
ベクター。ヒトIDUAおよびIDS cDNAを、ニワトリベータアクチンプロモータ、CMVエンハンサー、イントロン、およびウサギベータグロビンポリアデニル化配列を含有する発現構築物中にクローニングした。発現構築物は、AAV2逆位末端配列に隣接した。AAV9ベクターは、以前記載されたように(Lockら、(2010).Hum Gene Ther 21:1259-71)、HEK293細胞のトリプルトランスフェクションおよびイオジキサノール精製により、これらの構築物から産生された。
【0200】
動物手順。すべての動物プロトコルは、the Institutional Animal Care and Use Committee of the University of Pennsylvaniaにより認可された。IDSノックアウトマウスは、Jackson Laboratory(ストック番号:024744)から得られ、ハウス内で繁殖された。コロニーからの野生型C57BL/6雄は、対照として役立った。2~3ヶ月齢で、動物は、イソフルランで麻酔され、滅菌リン酸化緩衝化食塩水中に希釈された5μLのベクターをICV注射された。剖検時に、CSFを、ポリエチレンチューブに連結された32ゲージのニードルを用いて後頭下穿刺により収集した。最終的な血清試料を心臓穿刺により収集した。動物は、ケタミン/キシラジン麻酔下で大量失血させることにより、安楽死させた。頚椎脱臼により、死亡が確認された。脳、心臓、肺、肝臓、および脾臓が、ドライアイス上で収集された。組織学実験のために、脳は、LIMP2免疫組織化学のために固定された前方半分と、GM3免疫組織化学のために固定された後方半分とに分割された。マウスの2つのコホートを、行動実験のために使用した。遺伝子欠失が学習および記憶に影響するかを決定するために、野生型およびIDS KOマウスの最初のコホートを、一連の手順において試験した。低、中、または高用量のベクター用量のAAV9.CB.hIDS(それぞれ、3x10、3x10、または3x1010ゲノムコピー(GC))で治療されたマウスの第2のコホートを用いて、行動欠損を救助するための戦略としてのIT送達の実行可能性を調査した。
【0201】
行動手順:すべての行動手順は、遺伝子型および治療群に対して盲検の操作者により実施された。
【0202】
オープンフィールド活動:オープンフィールドにおける自発的活動が、光ビーム活動システム(PAS)-オープンフィールド(San Diego Instruments)を用いて測定された。単一の10分間トライアルの間、マウスは個別に、アリーナに配置された。一般的な運動および飼育活動を評価するために、平方向および垂直方向のビームブレイクが収集された。
【0203】
Yメイズ:標準的なY形状メイズ(San Diego Instruments)を用いて、短期記憶を評価した。アームエントリの順序および数が、8分間トライアルの間に記録された。自発的変更(SA)は、以前に入れたアームを即時に引き戻すことなく、メイズのすべての3本のアームへの連続的エントリとして、定義された。アームエントリの総数(AE)は、運動活動の尺度として収集された。自発的変更パーセントは、%SA=(SA/(AE-2)*100)として算出された。
【0204】
コンテキスト恐怖条件付け:条件付け実験を、Abelら、Cell.1997 Mar 7;88(5):615-26により記載されているように実施した。訓練日に、マウスに、独自の条件付けチャンバー(Med Associates)を300秒間探索させた。シグナルなしの1.5mAの連続的なフットショックが、248~250秒間、加えられる。チャンバーにおいてさらなる30秒後、マウスは、各自のホームケージへ戻された。24時間後、訓練が行われるのと同じチャンバー内で、連続5分間、空間的コンテキストの回想が評価された。フリーズ行動をスコア付けするために使用されるソフトウェアを用いて、記憶が評価された(Freezescan、CleverSystems)。訓練セッションの2.5分間の刺激前時期におけるフリーズパーセントが、チャンバーに再度曝露された際のフリーズパーセントと比較される。フリーズにおける増大は、学習が存在したことを示す。
【0205】
新規物体認識:実験機器は、白色の床上にある灰色の長方形アリーナ(60cmx50cmx26cm)および2つの独特な物体:3.8x3.8x15cmの金属バーおよび直径3.2cmx15cmのPVCパイプから構成された。機器に曝露される前に、マウスは、5日間、1~2分間/日、ハンドリングされた。5日間の慣らし期間の間、マウスは、5分間/日、何もないアリーナを探索することを許可された。訓練期間の間、マウスは、15分間、2つの同じ物体を探索して、親しみを構築させた。24時間後の回想期間では、マウスは、この時点では馴染みのある1つの物体と1つの新規物体とを有するアリーナに戻された。マウスは、優先的に新規物体を探索するだろう。新規物に対する優先度の低下は、馴染みのある物体の回想の失敗を示唆し、故に、学習欠損を示唆する。すべてのセッションが記録され、物体を探索するのに過ごした時間が、オープンソースイメージ分析プログラム(Patelら、Front Behav Neurosci.2014
Oct 8;8:349)を用いてスコア付けされた。
【0206】
酵素およびGAGアッセイ。GAG、Hex、およびIDUAアッセイを、以前に記載されているように実施した(Hindererら(2015).Mol Ther 23:1298-307)。IDS活性は、10μL試料を、0.1Mの酢酸ナトリウムおよび0.01Mの酢酸鉛、pH5.0中に溶解した20μLの1.25mMの4-メチルウンベリフェリルα-L-イドピラノシドウロン酸2-サルフェート(Santa Cruz Biotechnology)とともにインキュベートすることにより、測定された。37℃で2時間インキュベートした後、45μLのMcIlvain緩衝液(0.4Mのリン酸ナトリウム、0.2Mのクエン酸ナトリウム、pH4.5)および5μLの組換えヒトイズロニダーゼ(Aldurazyme、0.58mg/mL、Genzyme)を反応混合液へ加え、一晩37℃でインキュベートした。混合液をグリシン緩衝液、pH10.9で希釈し、放出された4-MUを蛍光(励起365nm、発光450nm)により定量化し、遊離4-MUの標準希釈液と比較した。
【0207】
組織学。脳は、LIMP2免疫組織化学のために固定された前方半分と、GM3免疫組織化学のために固定された後方半分とに分割された。LIMP2およびGM3免疫組織化学を、以前に記載されているように実施した(Hindererら(2015).Mol
Ther 23:1298-307)。LIMP2およびGM3についての細胞染色陽性の数が、盲検レビュアにより各動物からの4つの脳セクションにおいて定量化された。
【0208】
ベクター体内分布。ベクター体内分布分析のための組織を素早く解剖し、ドライアイス上で凍結した。分析時まで、試料を-80℃で貯蔵した。記載されているように、QIAmp DNAミニキットを使用して、DNAを組織から単離し、ベクターゲノムをTaqMan PCRにより定量した(Wangら、(2011).Hum.Gene Ther.22:1389-1401)。
【0209】
抗-hIDS抗体についてのELISA。ポリスチレンELISAプレートは、pH5.8に滴定されたPBS中の組換えヒトIDS(R&D Systems)5μg/mLを用いて一晩コーティングされた。プレートは洗浄され、中性PBS中の2%のウシ血清アルブミン中で1時間ブロッキングされた。次いで、プレートは、PBS中の1:1000に希釈された血清試料とともにインキュベートされた。結合された抗体は、2%のBSAを伴うPBS中の1:10,000に希釈されたHRPコンジュゲートヤギ抗-マウス抗体(Abcam)を用いて検出された。アッセイは、テトラメチルベンジジン基質を用いて発展され、450nmでの吸光度を測定する前に、2Nの硫酸を用いて停止された。力価は、恣意的に1:10,000の力価を割り当てた、陽性血清試料の連続希釈により作成された標準曲線から決定された。
【0210】
統計。治療されたマウスおよび未治療マウスにおける組織GAG含有量、Hex活性、および脳貯蔵病変は、一元ANOVA、続いて、Dunnettの多重比較検定を用いて比較された。オープンフィールドおよびYメイズデータは、Studentのt-検定を用いて分析された。二元ANOVAおよびDunnettの事後(post-hoc)分析を、恐怖条件付けデータに適用して、トライアルおよび遺伝子型効果を評価した。新規物体認識試験のために、各群についてt-検定を用いて、次いで、多重比較のためにBonferroni補正を用いて、馴染みのある物体を探索する時間に対する新規物体を探索する時間を比較した。
【0211】
雄IDS-ノックアウトマウスの年齢を適合させた4つの群と、野生型同腹仔の1つの群(群あたり8匹のマウス(n=8))とは、2~3ヶ月齢で以下の治療を受けた。
●群1:未治療
●群2:脳室内AAV9.CB.hIDS低用量3x10GC(1.875x10GC/g脳質量)
●群3:脳室内AAV9.CB.hIDS中用量3x10GC(1.875x1010GC/g脳質量)
●群4:脳室内AAV9.CB.hIDS高用量3x1010GC(1.875x1011GC/g脳質量)
●群5:未治療の野生型同腹仔
【0212】
D.結果:
2~3ヶ月齢の雄IDSy/-マウスは、ニワトリベータアクチンプロモータおよびサイトメガロウイルスエンハンサー(AAV9.CB.hIDS)からのヒトIDSを発現するAAV9ベクターの脳室内(ICV)注射を用いて治療された。最初のコホートでは、マウスは、3つのベクター用量[3x10、3x10、または3x1010ゲノムコピー(GC)]のうちの1つを用いて治療され、ベクター体内分布およびIDS発現のアセスメントのために、ベクター投与の3週間後に犠牲にされた。未治療IDSy/-マウスおよび野生型雄同腹仔は、対照として役立った。体内分布分析のために、組織を回収した。高用量群におけるベクター体内分布の分析は、宿主二倍体ゲノムあたり平均1つのベクターゲノムを伴う、効率的な脳標的化を実証した(図3)。CSFへのAAV送達の以前の研究と一致して、宿主二倍体ゲノムあたり1つ以上のベクターゲノムを伴う、末梢部へのベクター漏出および効率的な肝臓標的化も存在する(図3)。脳組織、CSF、および血清はすべて、IDS活性における用量-依存性増大を示し、高用量群では野生型レベルに到達したか、またはそれを超えた(図2A~2C)。ヒトIDSに対する抗体は、中-および高-用量コホートにおける何匹かの動物の血清中で検出されたが、これは、循環酵素活性に有意に影響を与えたようには見えなかった(図8)。
【0213】
IDS遺伝子のIT AAV9介在送達の治療的潜在性を評価するために、IDSy/
マウスのさらなるコホートを、等価ベクター用量を用いて治療し、次いで、その後の時点で、疾患進行に対する遺伝子移入の影響を評価した。ベクター投与の2ヶ月後に、マウスを行動学的および神経認知試験に供した。治療の3か月後に、動物を犠牲にし、疾患活性の組織学的および生化学的アセスメントのために組織を回収した。
【0214】
高レベルの血清酵素活性と一致して、GAG貯蔵は、肝臓において減少し、心臓においてGAG貯蔵の正常化に向かう有意でない傾向が存在した(図4A~4B)。加えて、GAG貯蔵の設定において上方制御される、リソソーム酵素ヘキソサミニダーゼ(Hex)の活性は、両組織において正常化された(図4C~4D)。これらのデータは、AAV9.CB.hIDSの髄腔内投与後の潜在的な全身治療的活性を示す。
【0215】
未治療MPSIIマウスの脳は、リソソームメンブレンタンパク質LIMP2の蓄積、およびGM3を含むガングリオシドの二次貯蔵を含む、ニューロンにおけるリソソーム貯蔵の明確な組織学的証拠を示す(図5L)。治療されたマウスは、LIMP2およびGM3染色の両方により、ニューロンの貯蔵病変事象における用量依存的減少を実証した(図5A~5L)。このデータに基づいて、1.875x10GC/gの低用量は、これが、GM3およびLIMP2貯蔵病変の両方でマウスが有意な(おおよそ50%)減少を示した最低用量であったので、マウスにおける最小の効果的用量(MED)であると推定される。MPSIIマウスにおける他の研究は、幅広い投薬量の臨床的候補を評価し、1.3x10GC/g脳質量の最小の効果的用量(MED)を同定した。評価された最低用量を表すMEDの選択は、I2S活性レベルにおける用量依存的変化ならびにバイオマーカー、組織病理学、および神経行動学的機能を含むMPSIIのCNSおよび末梢特徴に基づいた。
【0216】
行動学的試験は、ベクター投与の2ヶ月後、マウスが4~5ヶ月齢に到達したときに、実施された。包括的な一連の試験を実施して、全般的な行動ならびに短期および長期記憶を評価した。IDSy/-マウスは、オープンフィールドアリーナにおいて正常な探索活動を示した(図9A~9C)。Yメイズにおける自発的変更(図9D)は、短期作用記憶を評価するために使用された。IDSy/-マウスは、野生型同腹仔と同様のアームエントリの数、および等価な自発的変更を有し、インタクトな短期記憶を実証した。長期記憶は、古典的なコンテキスト恐怖条件付け(FC)および新規物体認識(NOR)を用いて、評価された。FCでは、特異的コンテキストを伴う嫌忌的刺激の共同により、コンテキストに再度曝露させた場合のフリーズ行動を引き起こす。すべてのマウスは、学習が生じたことを実証する、試験の回想期の間のフリーズ時間パーセントにおいて増大を示したが、IDSy/-マウスは、野生型同腹仔に対して減少したフリージングを示した(図6A)。治療効果は、正常および未治療IDSy/-マウスの間の小さな差異に起因して評価することが困難だったが、治療された動物では、コンテキスト恐怖条件付けにおける明確な改善は存在しなかった(図6B)。NORでは、マウスは、一対の同様の物体を探索することを許可される。訓練の24時間後、今では馴染みのある1つの物体が、1つの新規物体と交換される。マウスは、新規物体を探索するという生来の傾向を有し、新規物体を探索しないということは、馴染みのある物体の認識の欠如を実証し、記憶欠損であることを示す。野生型マウスは、新規物体についての優先度を実証したが、IDSy/-マウスは、優先度を示さなかった。注目すべきことには、髄腔内AAV9遺伝子療法は、IDSy/-マウスにおいて観察された長期間のNOR欠損を救済した(図6C)。物体識別は、すべての治療されたIDSy/-マウスにおいて改善されたようにみえ、すべての群は、馴染みのある物体と比較して新規物体を探索する時間のパーセンテージがより大きい傾向を示した。研究は、投与群の間の行動学的欠損の救済の相対的程度を比較するためには十分強力なものではなかったが、新規物体についての優先度は、中用量コホートにおいてのみ統計的に有意であった(図6A~6C)。
【0217】
マウス疾患モデルにおけるIT AAV送達の評価の1つの欠点は、わずか0.4gの脳質量および40μLのCSF容量を有する非常に小さいマウスCNSは、3,500倍大きなヒト脳におけるベクター拡散および分泌された酵素の正確なモデルにはなることができないことである。関連するリソソーム貯蔵疾患ムコ多糖症I型(MPSI)の以前の研究では、本発明者らは、この問題に対処するために天然に存在する大型疾患モデルを利用した。[Hindererら、Mol Therapy:the Journal of the Am Soc Gen Therapy、2014:22:2018-2027;Hindererら、Mol Therapy:the Journal of the Am Soc Gen Therapy、2015:23:1298-1307]。それぞれ、30gおよび72gの平均脳質量を有する、MPSIネコおよびイヌは、ヒト脳における広範囲のベクターおよび酵素送達を成し遂げるための難解な問題に対処するための、はるかにより現実的なモデルとなった。これらのモデルにおいて実施された研究は、MPSIのための IT AAV9送達の有効性の重大な証拠を提供した[Hindererら、Mol療法:the Journal of the Am Soc Gen Therapy、2014:22:2018-2027;Hindererら、Mol Therapy:the Journal of the Am Soc Gen
Therapy、2015:23:1298-1307]。この同じアプローチをMPSIIで用いて同様の有効性が可能であるかどうかを決定するために、本発明者らは、MPSIIにおける酵素発現の効率および交差補正を調べるために、MPSIマウスにおける並行用量範囲の研究を実施した。MPSIマウスは、IDSの代わりにα-L-イズロニダーゼ(IDUA)トランスジーンを用いることを除き、IDSy/-マウスのために用いられたものと同一のベクターで治療された。MPSII研究と同様に、MPSIマウスは、2~3ヶ月齢で、3x10、3x10、または3x1010GC(群あたりn=8)の用量を用いて治療され、脳酵素活性の測定のために治療の21日後に犠牲にされ、組織学的分析のために治療の3ヶ月後に犠牲にされた。IDUAの発現が、絶対的な酵素活性および野生型発現レベルに対する酵素活性の両方において、IDSと比較して幾分より効率的であるようにみえたが、IDSy/-マウスにおいて観察されたものと同様の用量応答が脳酵素発現において存在した(図7A)。治療は、最低のベクター用量においてMPSIマウスにおいて控えめにより効率的であるようにみえたが、脳貯蔵病変の補正は、2つの疾患モデル間で同様であった(図7A~7B)。併せて、これらの結果は、MPSIIのためのIT AAV9介在遺伝子移入が、MPSIにおいて観察されたものとほとんど同様の効率で脳貯蔵病変の補正を生じることを示唆し、またこのアプローチはマウスからスケールアップされた場合になお効果的であることを示唆している。しかし、MPSIと比較して若干より高いベクター用量は、脳におけるより効率的でない酵素発現に打ち勝つためには、MPSIIにおいて必須であるかもしれない。
【0218】
本研究では、MPSIIマウスにおけるヒトIDS遺伝子を有するAAV9ベクターのIT送達は、CNSにおける治療的レベルの発現および脳貯蔵病変の分解をもたらした。機能的改善は、未治療対照と比較して治療されたマウスにおけるより大きな新規物体識別により、示された。神経認知欠損は、これまでIDSy/-マウスにおいて十分に特徴付けられていない。これらの知見は、IDSy/-マウスが、オープンフィールドにおいて正常な探索活動を有し、ならびに野生型同腹仔と同様のYメイズにおけるアームエントリを有することを実証している。これらの移動運動評価は、正常な探索を必要とする他の類の行動を考察する際に重要である。IDSy/-マウスは、対照と比較してYメイズにおける同様の自発的変更により実証される、インタクトな短期作用記憶を有することが見出された。対照的に、Higuchiら、[Mol Genet and Metabolism、2012:107:122-128]は、32週齢のIDSy/-マウスにおける自発的変更の減少およびアームエントリの増大を報告した。異なるYメイズ結果は、試験時の異なる年齢に起因し、MPSIIの進行性性質を強調し得る。本発明者らは、長期記憶の2つの形態に対するIDS欠損の影響を評価した。軽度の欠損は、IDSy/-
ウスにおけるコンテキスト恐怖条件付けにおいて同定された。IDSy/-マウスは、それらが嫌忌的刺激を受けたコンテキストを回想することができたが、それらは、野生型同腹仔と比較して有意に減少したフリーズ応答を示した。AAV9のIT送達を受けたIDSy/-マウスは、注射されていないマウスと同様のフリーズ応答を示した。したがって、回復は検出されなかった。長期記憶欠損もまた、新規物体認識において見出された。NORでは、IDSy/-マウスは、馴染みのある物体に対して新規物体への優先度を示さなかった。ベクター治療されたマウスは、未治療IDSy/-マウスにおいてみられたNOR欠損の回復を実証した。群あたり8匹の動物を伴って、研究は、行動学的エンドポイントの用量応答を評価するために十分には強力でなかったが、物体識別は、中用量コホートにおいてのみ統計的に有意であった。2つの種類の長期記憶の回復に異なる影響を与えるAAV9のIT送達の能力は、各タスクのために必要とされる異なるニューロン基質に起因し得る。コンテキスト恐怖条件付けは、嗅周野嗅内野(perienteorhinal)皮質を必要とするNORと逆で、海馬依存的タスクである[Oliveiraら、Post-training reversible inactivation of
the hippocampus enhances novel object recognition memory.Learning&memory(Cold Spring Harbor、NY)2010;17:155-160;Abelら、Cell 1997;88:615-626]。
【0219】
MPSIの大型動物モデルにおいて以前示されているように[Hindererら、Mol Therapy:the Journal of the Am Soc Gen
Therapy、2014:22:2018-2027;Hindererら、Mol
Therapy:the Journal of the Am Soc Gen Therapy、2015:23:1298-1307]、MPSIIおよびMPSIのマウスモデルにおけるAAV9送達の効率の比較は、酵素発現および組織補正が2つの疾患の間で同様であったことを示し、これは、MPSIIのためのIT AAV送達が、はるかに大きな脳サイズおよびCSF容量の文脈において広範な疾患補正をもたらすのに十分に効率的であるという証拠を提供した。興味深いことに、欠損酵素の発現は、MPSIと比較してMPSIIにおいて幾分より低い効率性であった。これは、発現構築物における制御要素は同一であるが、これらの特定のベクターの発現効率の単なる産物であった可能性があった。幾つかの研究は、IDSなどのスルファターゼの発現は、IDSの翻訳後修飾に必要とされるスルファターゼ修飾因子、SUMF1の利用可能性により制限され得ることを示唆している[Fraldiら、Biochemical J、2007:403:305-312を参照されたい。しかし、IDSおよびSUMF1の同時発現を評価するパイロット実験は、より活性のあるIDS発現を実証しなかった(データは示されていない)。それにも関わらず、貯蔵病変の補正は、MPSIマウスとほぼ同じくらいMPSIIマウスにおいて効率的であり、これは、遺伝子移入が、MPSIおよびMPSII患者の両方について同様に効果的であるはずであることを示したが、後者の場合、控えめにより高いベクター用量が、最適な結果のために必須であり得る。
【0220】
CNS遺伝子移入に加えて、治療されたMPSIIマウスでは有意な肝臓形質導入および末梢酵素発現が存在し、これは、MPSIIにおけるIT AAV9送達の起こり得る全身利点を示す。これは、様々な他の種におけるAAV送達の研究と一致する[Passiniら、Hu Gene Therapy、2014;25:619-630;Hindererら、Molecular Therapy- Methods & Clinical Development 2014;1;;Hindererら、Molecular therapy:the journal of the American
Society of Gene Therapy 2014;22:2018-2027;Hindererら、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Thera
py 2015;23:1298-1307;Gurdaら、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy 2015;Higuchiら、cited above;Haurigotら、J Clin Invest、2013:123:3254-3271;Grayら、Gene Therapy、2013:20:450-459]。顕著にIT AAVベクター送達後の肝臓形質導入は、種間で実質的に変動するので、ヒトが有意な末梢発現を示すかどうかはまだ明確ではない。
【0221】
この研究は、IT AAV9送達が脳への効果的なIDS遺伝子移入を到達し、MPSIIのCNS兆候を解決することを実証し、このアプローチを臨床へと進めることを支持する。
【0222】
これらのデータは、AAV9.CB.hIDSがMPSIIマウスにおける神経認知欠損を改善することができるという予備的な証拠を提供する。
【0223】
実施例3:非ヒト霊長類研究
成体雄アカゲザルにおけるAAV9.CB.hIDSの安全性および効果を評価するために、非ヒト霊長類(NHP)における研究を実施する。研究の目的は、髄腔内(IT)AAV9.CB.hIDSの局所的、急性、および慢性毒性を評価すること、およびベクターの体内分布を画定することである。総数21匹の雄サルが、AAV9.CB.hIDS(5.6x1011または1.875x1011GC/g脳質量)の2用量のうちの1つのAAV9.CB.hIDSのIT注射を用いて、またはビヒクル対照希釈剤を用いて、治療される。低用量は、MPSIIマウスにおけるMEDよりもおおよそ100倍多く(1.875x10GC/gのMED)、MPSIIマウスにおいて統計的に有意な組織学的改善および認知機能を反映すると考えられる神経行動学的変化をもたらす最低用量に対応する。より高い用量(おおよそ300XMED)は、ベクターが製剤化され得る最大濃度であり、CSFに安全に投与可能である注射容量(<10%CSF容量)を維持するための要件により制限される。注射手順の間、動物は、全身麻酔下で維持される。脊椎ニードルは、後頭下空間内へ配置され、配置は、蛍光透視法により確認され、用量は、全容量1mLで投与される。血清およびCSFは、注射後の0日目、3日目、7日目、14日目、21日目、および30日目、およびその後毎月、臨床的病理学評価について収集される。注射後の14日目、90日目、および180日目に、各用量群からの3匹の雄サル(1時点あたり総6匹)が、病理学および体内分布のために犠牲にされる。ビヒクル治療された動物は、対照として役立つ。すべての動物からの組織について、十分な組織病理学が実施され、ベクター体内分布の分析は、高用量コホートについて実施される。DNA抽出および定量的PCRによるベクターゲノムの検出は、以前記載されたように実施される(Chenら、2013、Hum Gene Ther Clin Dev、24(4):154-160を参照されたい)。このアッセイは、DNA1μgあたり20ベクターゲノムコピーより多い感受性を有し、スパイク対照は、個々の試料における反応効率を確認するために含まれる。体内分布、生化学、および免疫原性データは、14日目、3ヶ月、および6ヶ月で収集される。
【0224】
免疫抑制(MMFおよびシロリムス/ラパマイシン)と組み合わせた1.8x1011または5.5x1011rAAV9.CB8.hIDSベクターを投与されたアカゲザルの研究では、以下が観察された。投与手順に関連したAEは存在せず、臨床的一般的観察、体重変化、器官重量、CBC、血清化学、または凝固パラメータに対するベクターに関連する異常さも存在しなかった。IS手順は、幾つかの炎症パラメータの増大に伴う腸の徴候、およびベクター投与に関連しない貧血を引き起こした。hIDSに対する液性免疫応答は、ISにより予防され、他の動物における最小限の(バックグラウンドに近い)応答に対して、存在しないか、または軽減された。IS動物においてhIDSに対するT細
胞応答は存在せず、LD群のみにおいてAAV9に対して最小限~中程度の応答であった。60日目のMMFの引き抜き後に、免疫応答のリバウンドは見られなかった。高用量および低用量群の両方は、最小限~軽度の脊髄白質後索および坐骨神経の軸索障害を有した。白質後索および三叉神経節に突出する後根神経節における、単核性細胞湿潤を用いた最小限~軽度のニューロン細胞体の変性。高いベクターコピー数の存在に関わらず、脳または脊髄内に炎症は見られなかった。高レベルのAAVベクターゲノムは、脳、脊髄、および後根神経節にわたって検出された。有意なベクター体内分布は、末梢、特に、肝臓においても見出された。
【0225】
実施例4:rAAV9.CB7.hIDSベクターの製造
AAV9.CB7.hIDSは、(i)hIDSベクターゲノムプラスミドと、(ii)AAV rep2およびcap9野生型遺伝子を含有する、pAAV29と称されるAAVヘルパープラスミドと、(iii)pAdΔF6(Kan)と称されるヘルパーアデノウイルスプラスミドとを用いて、ヒトHEK293 MCB細胞のトリプルプラスミドトランスフェクションにより産生される。
【0226】
プラスミドpAAV.CB7.CI.hIDS.RGBのクローニングは、上記の実施例1に記載されているとおりである。このプラスミドに由来するベクターゲノムは、AAV2由来ITRに隣接するhIDS発現カセットを伴う一本鎖DNAゲノムである。トランスジーンカセットからの発現はまた、CB7プロモータ、サイトメガロウイルス(CMV)最初期エンハンサー(C4)およびニワトリベータアクチンプロモータの間のハイブリッドにより駆動され、一方で、このプロモータからの転写は、ニワトリベータアクチンイントロン(CI)の存在により高められる。発現カセットのためのポリAシグナルは、ウサギベータ-グロビン(RBG)ポリAである。プラスミドは、コドン最適化およびhIDS配列[配列番号8のnt1177~nt2829、および配列番号11のnt1937~nt3589]の合成により構築され、得られた構築物は、次いで、プラスミドpENN.AAV.CB7.CI.RBG(p1044)、CB7、CI、およびRBG発現要素を含有するAAV2 ITR隣接の発現カセットをクローニングされて、pAAV.CB7.CI.hIDS.RBGを得た。
【0227】
シスプラスミドpAAV.CB7CIhIDS.RGB.KanRのクローニング:ベクターゲノムは、PacI制限酵素を用いてこのプラスミドから切り出され、カナマイシン耐性遺伝子を含有するpKSSに基づくプラスミド骨格(p2017)にクローニングされた。最終的なベクターゲノムプラスミドは、pAAV.CB7.CI.hIDS.RBG.KanRである。
【0228】
AAV2/9ヘルパープラスミドpAAV29KanRGXRep2:AAV2/9ヘルパープラスミドpAAV29KanRGXRep2は、4つの野生型AAV2 repタンパク質、およびAAV9に由来する3つの野生型AAV VPカプシドタンパク質をコードする。キメラパッケージング構築物を作製するために、初めに、野生型AAV2 repおよびcap遺伝子を含有するプラスミドp5E18からのAAV2 cap遺伝子が取り出され、肝臓DNAから増幅されたAAV9 cap遺伝子のPCR断片と置換された。得られたプラスミドには、識別子pAAV2-9(p0008)が与えられた。発現を正常に駆動するAAV p5プロモータは、repの5’末端およびcapの3’末端からこの構築物中に移動される。この配置は、プロモータとrep遺伝子との間の空間(すなわち、プラスミド骨格)をもたらし、rep発現を下方制御し、ベクター産生を支持する能力を増大するように役立つ。p5E18のプラスミド骨格は、pBluescriptKS由来である。AAV2/9ヘルパープラスミドpAAV29KanRGXRep2は、4つの野生型AAV2 repタンパク質、AAV9に由来する3つの野生型AAV VPカプシドタンパク質、およびカナマイシン耐性をコードする。
【0229】
pAdDeltaF6(Kan)アデノウイルスヘルパープラスミドは、15,770bpの大きさである。プラスミドは、AAV複製のために重要であるアデノウイルスゲノムの領域、すなわち、E2A、E4、およびVA RNA(アデノウイルスE1機能は、293細胞により提供される)を含有するが、他のアデノウイルス複製または構造的遺伝子は含有しない。プラスミドは、アデノウイルス逆位末端配列などの複製のために重大なシス要素を含有しておらず、したがって、感染性のアデノウイルスが産生することは予想されない。それは、Ad5(pBHG10、pBR322に基づくプラスミド)のE1、E3欠失分子クローンに由来した。必須でないアデノウイルス遺伝子の発現を除去し、32Kb~12kbのアデノウイルスDNAの量を軽減するために、欠失は、Ad5 DNA中に導入された。最終的に、アンピシリン耐性遺伝子は、カナマイシン耐性遺伝子により置換されて、pAdΔF6(Kan)を得た。AAVベクター産生に必須であるE2、E4、およびVAIアデノウイルス遺伝子の機能的要素は、このプラスミド中に依然としてある。アデノウイルスE1の必須遺伝子機能は、HEK293細胞により供給される。DNAプラスミド配列決定は、Qiagenゲノムサービスにより実施され、参照配列pAdDeltaF6(Kan)p1707FH-Qの以下の重要な機能的要素と100%の相同性を明らかにした。E4 ORF6 3692~2808bp、E2A DNA結合タンパク質11784~10194bp、VA RNA領域12426~13378bp。
【0230】
製造プロセスを要約するフローダイアグラムは、図10A~10Bに提供される。
【0231】
細胞播種:適任のヒト胚腎臓293細胞株を産生プロセスのために用いる。細胞は、Corning T-フラスコおよびCS-10を用いて5x10~5x1010細胞まで増殖され、これによりBDSロットあたりのベクター産生のために最高50個のHS-36を播種するために十分な細胞量が産生される。細胞は、10%のガンマ照射したUS-起源のウシ胎児血清(FBS)を補足したDulbecco改変Eagle培地(DMEM)からなる培地中で培養される。細胞は、足場依存的であり、細胞の解離は、TrypLEセレクト、動物製品不含の細胞解離用試薬を用いて成し遂げられる。細胞播種は、滅菌、単回使用の使い捨てバイオプロセス用バックおよびチューブセットを用いて成し遂げられる。細胞は、5%(±0.5%)のCO大気中、37℃(±2℃)で維持される。細胞培養培地は、新鮮な血清不含DMEM培地と交換され、最適化されたPEIに基づくトランスフェクションを用いて3つの産生用プラスミドでトランスフェクトされる。産生プロセスで使用されるすべてのプラスミドは、cGMP製造のうちの最も顕著な特徴、トレーサビリティ、文書管理、および材料分離を利用して、CMO品質システムおよびインフラストラクチャーのコンテキストにおいて産生される。
【0232】
十分なDNAプラスミドトランスフェクション複合体は、最高50個のHS-36(BDSバッチあたり)をトランスフェクトするためにBSC中で調製される。初めに、7.5mgのpAAV.CB7.CI.hIDS.RBG.KanRベクターゲノムプラスミド、150mgのpAdDeltaF6(Kan)、75mgのpAAV29KanRGXRep2 AAVヘルパープラスミド、およびGMPグレードPEI(PEIPro、PolyPlusトランスフェクションSA)を含有するDNA/PEI混合物が、調製される。このプラスミド比は、小規模最適化研究においてAAV産生のために最適となるように決定された。よく混合した後、溶液を室温で25分間、静置させておき、次いで、血清不含培地を加えて、反応をクエンチし、次いで、HS-36に加える。トランスフェクション混合物は、HS-36の36層の間で一様にされ、細胞は、5%(±0.5%)COの大気中、37℃(±2℃)で5日間インキュベートされる。
【0233】
細胞培地回収:トランスフェクトされた細胞および培地は、ユニットからの培地を無菌
的に排出することにより、使い捨てバイオプロセスバッグを用いて各HS-36から回収される。培地の回収後、約80リットルの容量にMgClを補足して、最終濃度2mM(ベンゾナーゼのための共同因子)とし、ベンゾナーゼヌクレアーゼ(Cat#:1.016797.0001、Merck Group)を加えて、最終濃度25ユニット/mlとした。産物(使い捨てバイオプロセスバッグ中)をインキュベータで37℃で2時間インキュベートして、トランスフェクション手順の結果としての回収物中に存在する残留細胞およびプラスミドDNAの酵素消化のために十分な時間を与える。この工程は、最終的なベクター中の残留DNAの量を最小限にするために、実施される。インキュベーション期間の後、NaClを加えて、最終濃度500mMとし、濾過およびダウンストリームタンジェンシャルフロー濾過の間の産物の回収を補助する。
【0234】
分類:蠕動ポンプにより駆動される滅菌、閉鎖チューブおよびバッグセットとして連続的に連結されたデプスフィルタカプセル(1.2μm/0.22um)を用いて、細胞および細胞破片を産物から取り除く。分類は、ダウンストリームフィルタおよびクロマトグラフィーカラムが汚損から保護されることを保証するものであり、生物汚染度減少濾過は、一連のフィルタの最後に、アップストリーム産生プロセスの間に潜在的に導入された任意の生物汚染が、ダウンストリーム精製の前に除去されることを確実にするものである。回収材料は、Sartorius Sartoguard PESカプセルフィルタ(1.2/0.22μm)(Sartorius Stedim Biotech Inc.)を通過する。
【0235】
大規模タンジェンシャルフロー濾過:浄化された産物の容量減少(10倍)は、カスタム製の滅菌、閉鎖バイオプロセシングチューブ、バッグおよびメンブレンセットを用いるタンジェンシャルフロー濾過(TFF)により成し遂げられる。TFFの原理は、圧力下で、溶液を適切な多孔性のメンブレン(100kDa)に対して平行に流すことである。圧力差異は、メンブレン孔よりも大きな分子は保持しながら、より小さな分子をメンブレンに通し、かつ廃水流れへと効果的に駆り立てる。溶液を再循環させることにより、平行方向の流れは、メンブレン表面を洗い流し、メンブレン孔の汚損を防止する。適切なメンブレン孔サイズおよび表面領域を選択することにより、所望の分子を保持および濃縮しながら、液体試料の容量を急速に減少することができる。TFF適用におけるダイアフィルトレーションは、液体がメンブレンを通って廃水流へと通過するのと同じ速度で、新鮮な緩衝液を再循環用試料に加えることを含む。ダイアフィルトレーションの容量増大に伴って、小分子の増大された量が、再循環試料から除去される。これは、清浄化された産物の控えめな精製をもたらすだけでなく、続くアフィニティカラムクロマトグラフィー工程と適合する緩衝液の交換を成し遂げる。したがって、本発明者らは、次いで、20mMのTris、pH7.5、および400mMのNaClからなる4容量の緩衝液を用いてダイアフィルトレーションされる濃縮のために、100kDaのPESメンブレンを利用する。ダイアフィルトレーションされた産物は、一晩4℃で貯蔵され、次いで、任意の沈殿した材料を除去するために、さらに1.2μm/0.22umのデプスフィルタカプセルを用いて清浄化される。
【0236】
アフィニティクロマトグラフィー:ダイアフィルトレーションされた産物を、AAV2/9血清型を効率的に捕らえるCapture Select(商標)Poros-AAV2/9アフィニティ樹脂(Life Technologies)に適用する。これらのイオン条件下、残留細胞DNAおよびタンパク質の有意なパーセンテージは、カラムの中を流れ、AAV粒子は効率的に捕らえられる。適用後、カラムを洗浄して、さらなるフィード不純物を除去し、その後、低いpH溶出工程(400mMのNaCl、20mMのクエン酸ナトリウム、pH2.5)が続き、これは、1/10の容量の中和緩衝液(ビストリスプロパン、200mM、pH10.2)中へ収集することにより即時に中和される。
【0237】
アニオン交換クロマトグラフィー:エンプティAAV粒子を含むプロセス内不純物のさらなる減少を成し遂げるために、Poros-AAV2/9溶出プールは、50倍に希釈され(20mMのビストリス-プロパン、0.001%のプルロニック(Pluronic)F68、pH 10.2)、CIMultus Q monolithマトリックスへ結合可能なように、イオン強度を弱める(BIA分離)。低塩ウォッシュ後、ベクター産物は、60CVのNaCl直線塩勾配(10~180mMのNaCl)を用いて溶出される。この浅い塩勾配は、ベクターゲノムを伴わないカプシド粒子(エンプティ粒子)をベクターゲノムを含有する粒子(フル粒子)から効果的に分離し、フルカプシドに富む調製物をもたらす。フラクションは、1/100容量の0.1%のプルロニックF68および1/27容量のビストリス、pH6.3を含有するチューブに収集されて、それぞれチューブへの非特異的結合と、高いPhへの曝露時間を最小限にする。適切なピークフラクションを収集し、ピーク面積を評価し、おおよそのベクター収率の決定についての以前のデータと比較する。
【0238】
BDSを産生するための最終的な製剤化および滅菌濾過:100kDaのメンブレンを用いるプールされたAEXフラクションに対してTFFが使用され、最終的な製剤を得る。これは、4容量の製剤緩衝液(Elliots B溶液、0.001%のプルロニックF68)を用いるダイアフィルトレーションにより成し遂げられ、濃縮されて、BDSを得、それにより、アニオン交換クロマトグラフィーからのピーク面積は、≧5x1013GC/mlの力価を達成するための濃度因子を推定するために以前のデータと比較される。試料は、BDS試験(下記のセクションに記載される)のために除かれる。濾過された精製されたバルクは、滅菌ポリプロピレンチューブ中で貯蔵され、最終充填物を放出するまで隔離された場所で≦-60℃で凍結される。予備的な安定性研究は、我々の提案した製剤緩衝液の凍結および解凍後にDPは活性を失っていないことを示す。-80℃での長期貯蔵後の安定性を評価するために、さらなる研究を行う。
【0239】
最終充填物:凍結されたBDSは、解凍され、プールされ、最終的な製剤緩衝液を用いて標的力価まで希釈され、0.22umのフィルタ(Millipore、Billerica、MA)を通して最終的に濾過され、West Pharmaceuticalの「使用準備済みの(Ready-to-Use)」(予め滅菌された)2mLのガラスバイアルおよび13mmのストッパーへ充填され、バイアルあたり≧0.6ml~≦2.0mLの充填容量で密封された。個別にラベルされたバイアルは、以下の仕様に従ってラベルされる。ラベルされたバイアルは、≦-60℃で貯蔵される。
【0240】
ベクター(薬物製品)は、単回固定濃度でバイアルに入れられ、唯一の変数は、バイアルあたりの容量である。より低い用量濃度を成し遂げるために、薬物製品は、Elliots B溶液、0.001%のプルロニックF68で希釈される。高用量ベクターは、希釈することなく直接用いられるが、低用量ベクターは、製剤緩衝液中で1:5希釈される必要があり、これは、投与時に薬剤師により実施される。
【0241】
実施例5:ベクターの試験
血清型アイデンティティ、エンプティ粒子含有量、およびトランスジーン産物同一性を含む特徴付けアッセイが実施される。アッセイの記載は以下に示される。
【0242】
A.ベクターゲノムアイデンティティ:DNA配列決定
ウイルスベクターゲノムDNAを単離し、配列を、プライマーウォーキングを用いる2倍配列決定包括度により決定した。配列アライメントを実施し、期待される配列と比較する。B.ベクターカプシドアイデンティティ:VP3のAAVカプシド質量分析
【0243】
ベクターのAAV2/9血清型の確定は、質量分析(MS)によるVP3カプシドタンパク質のペプチドの分析に基づくアッセイにより成し遂げられる。方法は、SDS-PAGEゲルから切り出されたVP3タンパク質バンドの複数酵素消化(トリプシン、キモトリプシン、およびエンドプロテアーゼGlu-C)、続いて、カプシドタンパク質配列に対するQ-Exactive Orbitrap質量分析でのUPLC-MS/MSの特徴付けを含む。宿主タンパク質産物のサブトラクションを可能とし、質量分析からカプシドペプチド配列を導く、タンデム質量分析(MS)方法が、開発された。
【0244】
C.ゲノムコピー(GC)力価
oqPCRに基づくゲノムコピー力価が、一定範囲の連続希釈にわたって決定され、同種プラスミド標準(pAAV.CB7.CI.hIDS.RBG.KanR)と比較される。oqPCRアッセイは、DNase IおよびプロテアーゼKを用いる連続的消化、続いて、qPCR分析を利用して、カプシドに封入されたベクターゲノムコピーを測定することができる。DNA検出は、RBGポリA領域を標的化する配列特異的プライマーをこの同じ領域にハイブリダイズする蛍光標識されたプローブと組み合わせて用いて達成される。プラスミドDNA標準曲線との比較は、PCR後のいずれの試料操作を必要することなく、力価決定を可能とする。多数の標準、確認用試料、および対照(バックグラウンドおよびDNA汚染についての)が、アッセイに導入された。アッセイは、感受性、検出限界、定性範囲、ならびにアッセイ内およびアッセイ間正確性を含むアッセイパラメータを構築および画定することにより、定性される。内部AAV9参照ロットが構築され、定性研究を実施するために使用される。本研究者らの以前の経験では、本明細書に記載の最適化されたqPCRアッセイにより得られた力価は、一般に、前臨床的データを作成するのに使用された我々の標準的なqPCR技法により成し遂げられたものよりも2.5倍高いことが示唆されていることに注目されたい。
【0245】
D.エンプティ対フルの粒子比
薬物製品の全粒子含有量は、SDS-PAGE分析により決定される。イオジキサノール勾配にて精製された参照ベクター調製は、様々な方法(分析用超遠心分離、電子顕微鏡法、および260/280nmでの吸光度)により分析され、(フル)粒子を含有するゲノムを>95%含有する調製物を構築した。この参照材料は、周知のゲノムコピー数(故に拡張すると、粒子数)まで連続希釈され、各希釈液は、同様の連続希釈の薬物製品とともに、SDS PAGEゲル上でランされる。参照材料および薬物製品VP3タンパク質バンドの両方のピーク面積容量は、デンシトメトリーにより測定され、参照材料の容量は、粒子数に対してプロットされる。薬物製品の総粒子濃度は、この曲線からの外挿により決定され、次いで、ゲノムコピー(GC)力価が除算されて、エンプティ粒子力価を得る。エンプティ対フル粒子比は、GC力価に対するエンプティ粒子力価の比である。
【0246】
E.感染力価
感染ユニット(IU)アッセイを用いて、RC32細胞(rep2発現HeLa細胞)におけるベクターの生産的取込みおよび複製を測定する。96-ウェルエンドポイントフォーマットは、以前公開されたものと同様のものを利用した。簡潔に言うと、RC32細胞は、rAAVの各希釈において12レプリケートを伴う、連続希釈のrAAV9.CB.hIDS、および均一希釈のAd5により同時感染される。感染の72時間後、細胞を溶解し、qPCRを実施して、インプットにわたってrAAVベクター増幅を検出する。エンドポイント希釈TCID50算出(Spearman-Karber)は、IU/mlとして表される複製的力価を測定するために実施される。「感染性」値は、細胞と接触することになる粒子、受容体結合、内部移行、核への輸送、およびゲノム複製に依存的であるので、それらは、アッセイ幾何学、ならびに使用される細胞株における適切な受容体の存在、および結合後経路により影響を受ける。受容体および結合後経路は、不死化細胞株において通常は維持されず、故に、感染性アッセイ力価は、存在する「感染性」粒子の
数の絶対的尺度ではない。しかし、カプシドに封入されたGC対「感染ユニット」の比(GC/IU比として記載される)は、ロットからロットへの産物一貫性の尺度として使用されることができる。
【0247】
GC/IU比は、産物一貫性の尺度である。oqPCR力価(GC/ml)を感染室(IU/ml)で割って、算出されたGC/IU比を得る。
【0248】
F.複製コンピテントAAV(rcAAV)アッセイ
試料は、産生プロセス間で潜在的に生じ得る複製コンピテントAAV2/9(rcAAV)の存在のために分析される。細胞に基づく増幅およびパッセージ、続いて、リアルタイムqPCRによるrcAAV DNAの検出(cap 9標的)からなる3パッセージアッセイが、開発された。細胞に基づく構成成分は、試験試料および野生型ヒトアデノウイルス型5(Ad5)の希釈を伴うHEK293細胞(P1)の単層を接種することからなる。1010GCのベクター産物は、試験した産物の最大量である。アデノウイルスの存在に起因して、複製コンピテントAAVは細胞培養にて増幅する。2日目の後、細胞可溶化物が産生され、Ad5は熱不活性化される。次いで、清浄化された可溶化液を、第2ラウンドの細胞(P2)へ移して、感受性を高める(Ad5の存在下で再び)。2日目の後、細胞可溶化物が産生され、Ad5は熱不活性化される。次いで、清浄化された可溶化液を、第3ラウンドの細胞(P3)へ移して、感受性を最大限にする(Ad5の存在下で再び)。2日目の後、細胞は溶解されて、DNAを放出し、次いで、これをqPCRに供して、AAV9 cap配列を検出する。Ad5依存的様式でのAAV9 cap配列の増幅は、rcAAVの存在を示す。AAV2 repおよびAAV9 cap遺伝子を含有するAAV2/9サロゲート陽性対照の使用により、アッセイの検出限界(LOD)が測定可能となり(0.1、1、10、および100IU)、連続希釈のrAAV9.CB.hIDSベクター(1x1010、1x10、1x10、1x10GC)を用いて、試験試料中に存在するrcAAVのおおよそのレベルが定量化されることができる。
【0249】
G.インビトロ効力
qPCRGC力価を遺伝子発現に関連付けるために、インビトロバイオアッセイは、HEK293(ヒト胚腎臓)細胞を細胞あたり既知の多様性のGCを用いて形質導入し、次いで、形質導入の72時間後にIDS活性についての上清をアッセイすることにより、実施される。IDS活性は、0.1mLの水中に希釈された試料を0.1mLの100mmol/l 4MU-イズロン酸-2-サルフェートとともに37℃で1~3時間インキュベートすることにより、測定される。2mLの290mmol/lのグリシン、180mmol/lのクエン酸ナトリウム、pH10.9の添加により、反応を停止させ、遊離した4MUは、蛍光を4MUの標準的な希釈液と比較することにより、定量化される。より高い活性のある前臨床的および毒性ベクター調製物に対する比較により、産物活性の解釈が可能となる。
【0250】
H.総タンパク質、カプシドタンパク質、タンパク質純度決定、およびカプシドタンパク質比
ベクター試料は、初め、ビシンコニン酸(BCA)アッセイを用いて、ウシ血清アルブミン(BSA)タンパク質標準曲線に対する総タンパク質について定量化される。等価部分の試料とキット中で提供されるMicro-BCA試薬とを混合することにより、決定がなされる。同じ手順は、BSA標準の希釈にも適用される。混合物は60℃でインキュベートされ、吸光度は562nmで測定される。標準曲線は、4-パラメータフィットを用いて、既知濃度の標準的な吸光度から作成される。未知の試料は、4-パラメータ回帰に従って、定量化される。
【0251】
AAV純度の半定量的決定を提供するために、試料は、次いで、ゲノム力価について正
規化され、5x10GCが、還元条件下でのSDS-ポリアクリルアミド(SDS-PAGE)ゲルにて分離される。ゲルは、次いで、SYPROルビー色素を用いて染色される。任意の不純物バンドは、レーンあたり25、50、および100ngのタンパク質の同時に電気泳動されたBSA標準との比較により、デンシトメトリーにより定量化される。これらの量は、総AAVタンパク質試料の1%、2%、および4%を表す。3つのAAV特異的タンパク質VP1、VP2、およびVP3に加えて出現する染色されたバンドは、タンパク質不純物と考えられる。すべての不純物バンドは、参照タンパク質と比較され、不純物質量パーセントおよびおおよその分子量が報告される。SDS-PAGEゲルも用いられて、VP1、VP2、およびVP3タンパク質を定量化し、それらの比を決定する。
【0252】
実施例6:MPSIIバイオマーカー
本研究では、MPSIイヌからのCSF試料の代謝物プロファイリングが実施され、これは、CSFメタボロームにおける実質的な疾患に関連する変更を明らかにした。最も著しい差異は、正常な対照と比較されたスペルミンレベルにおいて30倍を超える上昇であった。この知見は、MPSI患者試料およびMPSIのネコモデルにおいて確認され、MPSIIにおいても見出されることが期待される。スペルミンはHSに結合し、スペルミンの細胞取込みは、この相互作用に依存的である[M.Beltingら、Proteoglycan involvement in polyamine uptake.Biochemical Journal 338、317-323(1999);J.E.Welchら、T.H.Van Kuppevelt、M.Belting、Single chain fragment anti-heparan sulfate antibody targets the polyamine transport system and attenuates polyamine-dependent cell proliferation.International journal of oncology 32、749-756(2008)、オンライン公開EpubApr]。グリピカン-1などの細胞表面プロテオグリカンは、それらのHS部分を通してスペルミンに結合することができ、グリピカンタンパク質のエンドサイトーシスの後、HS鎖の細胞内切断は、結合スペルミンを細胞へ放出する(Beltingら、K.Ding、Sら、The Journal of biological chemistry 276、46779-46791(2001)、オンライン公開Epub Dec 14)。故に、インタクトなHSリサイクルは、スペルミン取込みのために必須である。MPSIでは、細胞外スペルミン蓄積が、不十分なHSリサイクルに起因するこの取込み機序の阻害を通して、またMPSにおいて蓄積する細胞外GAGへのスペルミンの単結合を通して、生じることがあり、スペルミン結合の平衡を好ましい細胞外分布へと転じる。さらなる研究は、MPSI CSFにおけるスペルミン蓄積に対するこれらの機序の相対的貢献に対処する必要がある。
【0253】
本発明者らは、スペルミン合成の阻害剤が、MPSニューロンにおいて過剰な神経突起成長を遮断し、神経突起成長が、患者CSFにおいて見出されたものと同様のスペルミン濃度によりWTニューロンにおいて誘導され得るということを見出した。MPSIのイヌモデルにおける遺伝子療法は、スペルミン蓄積を逆転させ、GAP43の発現を正常化し、同じ経路がインビボで影響を受けたことを示唆している。本発明者らは、利用可能な阻害剤が血液脳関門を通過せず、出生時からの慢性直接CNS投与が我々の動物モデルでは実行可能ではないために、インビボでのスペルミン合成阻害の影響を直接評価することができなかった。本発明者らのインビトロ知見は、MPSIにおける異常な神経突起成長におけるスペルミンのための役割を支持するものであるが、スペルミン合成の阻害は、表現型を完全には逆転せず、正常なニューロンへのスペルミン添加は、MPSIニューロンのレベルまで神経突起成長を増大させなかったことに留意することが重要である。スペルミン変調の効果は、比較的単期間の治療により制限されてもよい。スペルミン蓄積がMPS
Iにおける神経突起伸展成長に寄与する単一の調整因子ではないことも起こり得る。顕著には、HSを通じる多くの神経栄養性因子結合は、受容体を修飾し、細胞外マトリックスにおけるHSとの相互作用は、神経突起成長に影響し得る[D.Van Vactor、D.P.Wall、K.G.Johnson、Heparan sulfate proteoglycans and the emergence of neuronal
connectivity.Current opinion in neurobiology 16、40-51(2006);オンライン公開Epub Feb(10.1016/j.conb.2006.01.011)]。したがって、スペルミン蓄積は、MPSIにおける異常な神経突起成長を促進する幾つかの因子のうちの1つであり得る。
【0254】
スクリーニングした15個のMPSIイヌCSF試料のうち、ただ1つのみが、スペルミン濃度の正常な範囲内に含まれた。28日齢で、これは、研究に含まれた最も若い動物であった。この知見は、スペルミン蓄積が年齢依存的であり得ることを示す。さらなる研究は、MPS患者において長期的にCSFスペルミンレベルを評価する必要がある。ほとんどの患者が発達遅延の開始前に1~2年の正常な発達を経験するため、スペルミンがMPS患者において年齢に従って増大するならば、これは、認知低下の動力学を説明することができる。
【0255】
ニューロン成長を変更する代謝物の蓄積を誘引するためのHS代謝障害の潜在性は、MPSIにおける酵素欠損および異常な神経突起成長表現型との間の新規関連性を指摘することができ、これは、これらの障害に関連する認知機能不全を説明することができる。これらの知見はまた、CSFスペルミンが、MPSIのための新規CNS指向療法の薬力学を評価するための非侵襲性バイオマーカーとして有用であることを示す。
【0256】
材料および方法:
実験設計:この研究は、初めに、健康な対照からの試料と比較してMPSI患者CSF試料において有意に異なるレベルで存在した代謝物を検出するように設計された。MPSIHを有する小児および健康な対照からのCSF試料の限られた入手可能性に起因して、初期スクリーンは、ヒト試料における候補バイオマーカーを実質的に評価することを目的として、より多数のものが入手可能であるMPSIイヌからのCSF試料を用いて実施された。個々の未治療MPSIイヌからの総数15個のCSF試料が、分析のために入手可能であり、さらなる15個の試料が、健康な対照から得られた。予測的代謝物スクリーンにおけるMPSIイヌCSFにおけるスペルミン増大を同定した後、スペルミンは、遺伝子療法で治療されたMPSIイヌおよびネコの以前の研究からのCSF試料ならびに患者試料において回顧的に測定された。これらの分析のために各群に含まれた対象の数は、試料入手可能性により制限され、統計的考察に基づいておらず、したがって、幾つかの場合では、数は、統計的比較のために不十分である。インビトロ神経突起成長の研究のために、各状態について定量された細胞の数は、細胞あたりの分枝長さ、神経突起数、または神経突起の数における20%差異を検出するために状態あたり>30細胞が必要とされたということを示したパイロット実験に基づいた。細胞がプレーティングされ、指定の薬物で治療された後、ウェルは、コード化され、細胞画像の獲得、および神経突起長さおよび分岐化の手動定量化が、盲検レビュアにより実施された。同様の結果を伴う異なる基質[チャンバースライド(Sigma S6815)ではなくポリ-L-リジン(Sigma)コーティングされた組織培養プレート]を用いて、野生型およびMPSマウスニューロンの比較が繰り返された。同様の結果を伴う両方の基質を用いて、スペルミン付加を伴うおよび伴わない野生型ニューロンの比較を4回実施した。
【0257】
CSF代謝物プロファイリング:CSF代謝物プロファイリングを、Metabolonにより実施した。
【0258】
プロセシング時まで、試料を-80℃で貯蔵した。MicroLab STAR(登録商標)システム(Hamilton Company)を用いて、試料を調製した。QC目的のための抽出プロセスにおける第1の工程の前にリカバリー標準を加えた。メタノールを用いて、2分間の激しい攪拌下、続いて、遠心分離により、タンパク質が沈殿した。得られた抽出物を5つのフラクションに分割した:陽性イオンモードエレクトロスプレーイオン化を伴う逆相(RP)UPLC-MS/MSによる分析のための1つと、陰イオンモードエレクトロスプレーイオン化を伴うRP/UPLC-MS/MSによる分析のための1つと、陰イオンモードエレクトロスプレーイオン化を伴う親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)/UPLC-MS/MSによる分析のための1つと、GC-MSによる分析のための1つと、バックアップのために保存された1つの試料。有機溶媒を除去するために、試料は、TurboVap(登録商標)(Zymark)上に一時的に置かれた。LCのために、試料は、分析用に調製する前に、一晩窒素下で貯蔵された。GCのために、各試料は、分析用に調製する前に、真空下で一晩乾燥された。
【0259】
プラットフォームのLC/MS部分は、熱エレクトロスプレーイオン化(HESI-II)ソースおよび35,000質量分解で操作されるOrbitrap質量分析がインターフェース接続された、Waters ACQUITY超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC)およびThermo Scientific Q-Exactive高分解度/正確性質量分析計に基づいた。試料抽出物は次いで乾燥され、LC/MS方法の各々に適合する溶媒中で復元された。各復元用溶媒は、注射およびクロマトグラフィー一貫性を確実なものとするために、固定濃度の一連の標準を含有した。RPクロマトグラフィーのために、1つのアリコートは、最適化された条件にて酸性陽性イオンを用いて分析され、他方は、塩基性陰イオン最適化条件を用いた。各方法は、別個の専用カラム(Waters UPLC BEH C18-2.1x100 mm、1.7 μm)を利用した。酸性条件下で復元された抽出物は、0.1%のギ酸を含有する水およびメタノールを用いて勾配溶出された。塩基性抽出物は、同様に、メタノールおよび水を用いて溶出されたが、6.5mMの重炭酸アンモニウムを伴った。第3のアリコートは、10mMのギ酸アンモニウムを伴う水およびアセトニトリルからなる勾配を用いるHILICカラム(Waters UPLC BEH Amide 2.1x150mm、1.7μm)からの溶出後の陰イオン化により分析された。MS分析は、MSと動的排除を用いるデータ依存的MSnスキャンの間で変更された。スキャン範囲は、方法ごとに若干異なったが、80~1000m/zの範囲であった。
【0260】
GC-MSによる分析のために定められた試料を、真空下で最低18時間乾燥し、その後、ビストリメチル-シリルトリフルオロアセトアミドを用いて乾燥窒素下で誘導体化した。誘導体化された試料は、キャリアガスとしてヘリウムを用いて、60°~340℃の温度で、17.5分間、5%のジフェニル/95%のジメチルポリシロキサン融合シリカカラム(20mx0.18mm ID、0.18umのフィルム厚)上で分離された。試料は、電子衝撃イオン化(EI)を用い、かつユニット質量分解能で操作される、Thermo-Finnigan Trace DSQ高速スキャンシングル四重極質量分析計上で分析された。スキャン範囲は、50~750m/zであった。
【0261】
幾つかの種類の対照は、実験試料と共同して分析され:各実験試料の小容量を採用することにより産生されるプールされたマトリックス試料は、データセットにわたって技術的レプリケートとして役立ち、抽出された水試料は、プロセスブランクとして役立ち、内因性化合物の測定に干渉しないように慎重に選択されたQC標準のカクテルは、各分析試料にスパイクされ、器具性能をモニタリング可能とし、クロマトグラフィーアラインメントを補助する。器具変動性は、質量分析計に注入する前に各試料に加えられる標準について、中央値相対的標準偏差(RSD)を算出することにより、決定される。全体的プロセス
変動性は、プールされたマトリックス試料の100%に存在するすべての内因性代謝物(すなわち、非器具性標準)について、中央値RSDを算出することにより、決定される。実験試料は、注射間で等しく配置されたQC試料を用いるプラットフォームランにわたって、無作為化された。
【0262】
代謝物は、実験試料中のイオン特徴を化学的標準的エントリの参照ライブラリと自動化比較することにより、同定され、これは、保持時間、分子量(m/z)、好ましい付加物、およびソース内断片、ならびに関連するMSスペクトルを含み、Metabolonで開発されたソフトウェアを用いる定量制御のために視覚的に精査することにより補助された。既知の化学的エントリの同定は、精製された標準のメタボロミクスライブラリーエントリとの比較に基づいた。ピークは、曲線下面積の測定を用いて定量された。各試料中の各代謝物についての生面積カウントは、各ランデイ(run-day)についての中央値による器具インターデイ(inter-day)チューニング差異から得られたバリエーションについて補正するために正規化され、したがって、各ランについて中央値を1.0に設定した。これは、試料間のバリエーションを保存したが、広く異なる生ピーク面積の代謝物を同様の図画スケールで比較することを可能にした。欠測値は、正規化後の観察された最小値に起因した。
【0263】
定量的MSアッセイ:CSF試料(50μL)を、スペルミン-d8内部標準(IsoSciences)と混合した。試料は、4倍過多のメタノールと混合してタンパクを除き、12,000xg、4℃で遠心分離した。上清を窒素流下で乾燥し、次いで、50μLの水中で再懸濁した。5μLのアリコートをLC-MS分析に供した。Xbridge(登録商標)C18カラム(3.5μm、150×2.1mm)を装着したWaters
ACQUITY UPLCシステム(Waters Corp.、Milford、MA、USA)を用いて、LC分離を実施した。流速は、0.15mL/分であり、溶媒Aは、0.1%のギ酸であり、溶媒Bは、98/2のアセトニトリル/HO(v/v)および0.1%のギ酸であった。溶出条件は以下の通りであった。0分にて2%のB、2分にて2%のB、5分にて60%のB、10分にて80%のB、11分にて98%のB、16分にて98%のB、17分にて2%のB、22分にて2%のB、35℃のカラム温度を伴う。Finnigan TSQ Quantum Ultra分析計(Thermo Fisher、San Jose、CA)を用いて、以下のパラメータを用いて、陽性イオンモードでMS/MS分析を行った:スプレー電圧4000V、キャピラリー温度270℃、シース気体圧35任意単位、イオンスイープ気体圧2任意単位、補助気体圧10任意単位、蒸発器温度200℃、チューブレンズオフセット50、キャピラリーオフセット35、およびスキマーオフセット0。以下の移行がモニターされた。スキャン幅0.002m/z、およびスキャン時間0.15sを用いる、203.1/112.1(スペルミン)、211.1/120.1(スペルミン-d8)。
【0264】
動物手順:すべての動物プロトコルは、the Institutional Animal Care and Use Committee of the University of Pennsylvaniaにより認可された。CSF代謝物スクリーニングのために、試料は、3~26ヶ月齢の正常なイヌ、および1~18ヶ月齢のMPSIイヌにおいて、後頭下穿刺により収集された。MPSIイヌおよびネコにおける遺伝子移入研究を、以前に記載されているように実施した(20、22)。CSF試料は、ベクター投与の6~8ヶ月後に収集された。マウス皮質ニューロン実験のために、主要な皮質ニューロン培養は、E18 IDUA-/-またはIDUA+/+胚から調製された。
【0265】
患者試料:インフォームドコンセントは、各対象の親または法的後見人から得られた。プロトコルは、the Institutional Review Board of
the University of Minnesotaにより認可された。CSF
は、腰部穿刺により収集された。すべてのMPSI患者は、ハンター症候群の診断を受けており、試料収集前に酵素補充療法または造血幹細胞移植を受けていなかった。MPSI患者は、6~26ヶ月齢であった。健康な対照は、36および48ヶ月齢であった。
【0266】
統計的分析:ランダムフォレスト分析およびヒートマップ作成は、MetaboAnalyst 3.0を用いて実施された[R.G.Kalb、Development 120、3063-3071(1994);J.Zhongら、Journal of neurochemistry 64、531-539(1995)D.Van Vactor、D.P.Wら、Current opinion in neurobiology 16、40-51(2006);オンライン公開Epub Feb(10.1016/j.conb.2006.01.011)。生ピークデータは、ログ変換され、正常な試料値の平均に対して正規化された。すべての他の統計的分析は、GraphPad Prism 6を用いて実施された。培養されたニューロン分枝の長さ、神経突起の数、および分岐を、ANOVA、続いて、Dunnett検定により比較した。CSFスペルミンおよび皮質GAP43は、Kruskal-Wallis検定、続いて、Dunn検定により比較された。
【0267】
GAP43ウェスタン:Qiagen Tissuelyserを30Hzで5分間使用して、前頭皮質の試料を、0.2%のトリトンX-100中で均質化した。試料を、4℃での遠心分離により清澄化した。タンパク質濃度は、BCAアッセイにより上清中で測定された。試料は、DTT(Thermo Fisher Scientific)を伴うNuPAGE LDS緩衝液中で、70℃で1時間インキュベートされ、MOPS緩衝液中のビストリス4~12%のポリアクリルアミドゲル上で分離された。タンパク質は、PVDFメンブレンにトランスファーされ、5%の無脂肪乾燥ミルク中で1時間ブロッキングされた。メンブレンは、5%の無脂肪乾燥ミルク中で1μg/mLに希釈されたウサギポリクローナル抗-GAP43抗体(Abcam)、続いて、5%の無脂肪乾燥ミルク中で1:10,000に希釈されたHRPコンジュゲートしたポリクローナル抗ウサギ抗体(Thermo Fisher Scientific)を用いてプローブ化された。SuperSignal West Pico基質(Thermo Fisher Scientific)を用いて、バンドは検出された。Image Lab 5.1(Bio-Rad)を用いて、デンシトメトリーを実施した。
【0268】
神経突起成長アッセイ:18日目に、胚皮質ニューロンは、上記したように回収され、チャンバースライド(Sigma S6815)またはポリ-L-リジン(Sigma)コーティングされた組織培養プレート上に、B27(Gibco)により補足された血清不含神経基礎培地(Gibco)中、100,000細胞/mLの濃度でプレーティングされた。プレーティングの24時間後に(1日目)、デュプリケートでウェルに治療を適用した。定量化のための位相差画像は、Nikon Eclipse Tiにおいて20X、600msの手動露光、および高位相での1.70xのゲインを用いて撮影された。治療条件に対して盲検の個人が、1ウェルあたり10~20枚の画像を獲得し、それらをコード化した。盲検レビュアにより、画像はImageJ(NIH)にて8ビットフォーマットに変換され、ニューロンJにトレースされた[E.Meijeringら、Design and validation of a tool for neurite
tracing and analysis in fluorescence microscopy images.Cytometry.Part A:the journal of the International Society for Analytical Cytology 58、167-176(2004);オンライン公開Epub Apr(10.1002/cyto.a.20022)]。幾つかの直径、神経突起の数、分岐点、および分枝長さは、手動でトレースされた。ニューロンJにトレースされた画像は、画像サイズに基づく変換係数を用いてマイクロメータに変換され、
2560x1920ピクセルの画像は、0.17マイクロメータ/ピクセルの変換計数を用いてマイクロメータに変換された。
【0269】
組織学:脳組織プロセシングおよびLIMP2免疫蛍光を、以前に記載されているように実施した[C.Hindererら、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy 22、2018-2027(2014)、オンライン公開Epub Dec(10.1038/mt.2014.135)]。
【0270】
RT-PCR:3匹の正常なイヌおよび5匹のMPSイヌからの前頭皮質の試料を、剖検時に、即時にドライアイスで凍結した。RNAは、TRIzol試薬(Thermo Fisher Scientific)を用いて抽出され、DNAse I(Roche)を用いて20分間室温で処理され、RNeasyキット(Qiagen)を製造元の指示に従って用いて精製した。精製されたRNA(500ng)は、高容量cDNA合成キット(Applied Biosystems)を用いてランダムヘキサマープライマーで逆転写された。アルギナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ、スペルミンシンターゼ、スペルミジンシンターゼ、スペルミン-スペルミジンアセチルトランスフェラーゼ、およびグリセルアルデヒドホスフェートデヒドロゲナーゼについての転写が、Applied Biosystems 7500を用いるSybr green PCRにより定量化された。
【0271】
リアルタイムPCRシステム。標準曲線が、すべての個別試料からなるプールされた標準の4倍希釈を用いて、各標的遺伝子について作成された。最も高い標準は、恣意的な転写数を割り当てられ、個別試料についてのCt値は、標準曲線に基づいて転写数に変換された。値は、GAPDH対照に対して表される。
【0272】
統計的分析:ランダムフォレスト分析およびヒートマップ作成は、MetaboAnalyst3.0を用いて実施された[J.Xiaら、MetaboAnalyst 2.0-a comprehensive server for metabolomic
data analysis.Nucleic Acids Research、(2012);オンライン公開Epub May 2、2012(10.1093/nar/gks374);J.Xiaら、MetaboAnalyst:a web server for metabolomic data analysis and interpretation.Nucleic Acids Research 37、W652-W660(2009);オンライン公開Epub July 1、2009(10.1093/nar/gkp356).J.Xiaら、MetaboAnalyst 3.0-making metabolomics more meaningful.Nucleic Acids Research、(2015);オンライン公開Epub April 20、2015(10.1093/nar/gkv380)]。代謝物スクリーンにおける検出不可な値は、データセットにおいて観察された最小値に起因した。生ピークデータは、正常な試料の値の平均値に対して正規化され、ログ変換された。すべての他の統計的分析は、GraphPad Prism 6を用いて実施された。培養されたニューロン分枝の長さ、神経突起の数、および分岐を、ANOVA、続いて、Dunnett検定.により比較した。CSFスペルミンおよび皮質GAP43は、Kruskal-Wallis検定、続いて、Dunn検定により比較された。
【0273】
結果
1.代謝物プロファイリングによる高められたCSFスペルミンの同定
CSF代謝物の初期スクリーンが、MPSIのイヌモデルを用いて実施された。これらの動物は、IDUA遺伝子にスプライス部位変異を有し、MPSI患者のものと類似する
酵素発現の完全な喪失、ならびに臨床的および組織学的特徴の発達をもたらす[K.P.Menonら、Genomics 14、763-768(1992)、R.Shullら、The American journal of pathology 114、487(1984)]。CSF試料は、15匹の正常なイヌおよび15匹のMPSIイヌから収集された。CSF試料は、LCおよびGC-MSにより、代謝物の相対量について評価された。総数281個の代謝物が、質量分析によりCSF試料において積極的に同定されることができた。これらのうち、47個(17%)は、対照に対してMPSIイヌにおいて有意に高められており、88個(31%)は、対照に対して減少していた。群間で最も異なる50個の代謝物のヒートマップが図19Aに示される。同定された代謝物プロファイリングは、MPSIと正常なイヌとの間のポリアミン、スフィンゴ脂質、アセチル化アミノ酸、およびヌクレオチド代謝において差異を明示した。ランダムフォレストクラスター分析は、MPSIと正常なイヌとの間の代謝物差異に対する最大の寄与因子としてポリアミンスペルミンを同定した(図23)。平均して、スペルミンは、試料収集の時点で1ヶ月齢未満であった1匹のMPSIイヌを除いて、MPSIイヌにおいて30倍超高められていた。CSF中のスペルミンを定量的に測定するために、安定なアイソトープ希釈(SID)-LC-MS/MSアッセイが開発された。ハンター症候群を有する6匹の子犬(6~26ヶ月齢)、および2匹の健康な対照(36および48ヶ月齢)から、試料がスクリーニングされた。健康な対照の両方は、アッセイの定量限界(1ng/mL)未満のCSFスペルミンレベルを有したが、MPSI患者からのCSF試料は、定量限界を超える平均10倍であった(図19B)。MPSIH患者におけるスペルミン上昇は、スペルミン結合および取込みにおけるHSの周知の役割に一致しているようであった[M.Beltingら、Journal of Biological Chemistry
278、47181-47189(2003);M.Beltingら、Proteoglycan involvement in polyamine uptake.Biochemical Journal 338、317-323(1999);J.E.Welchら、International journal of oncology 32、749-756(2008))];正常およびMPSIイヌ脳試料は、ポリアミン合成経路における転写制御された酵素について同様のmRNA発現レベルを有したので、増大された合成は、CSFスペルミン上昇の原因とはならないようであった(図24)。スペルミン上昇が、ヘパラン硫酸貯蔵疾患の一般的な特性であるか、またはMPSIに特異的であるかを決定するために、スペルミンは、MPS VIIのイヌモデルからのCSF試料中で測定され、これは同様の上昇を示した(図25)。
【0274】
2.MPSに関連する異常な神経突起成長におけるスペルミンの役割
軸索損傷後、ニューロンは、ポリアミン合成を上方制御し、これが神経突起伸展成長を促進する[D.Caiら、Neuron 35、711-719(2002);オンライン公開Epub Aug 15;K.Dengら、The Journal of neuroscience:the official journal of the Society for Neuroscience 29、9545-9552(2009);オンライン公開Epub Jul 29;Y.Gaoら、Neuron 44、609-621(2004);オンライン公開Epub Nov 18;R.C.Schreiberら、Neuroscience 128、741-749(2004)]。したがって、本発明者らは、MPSニューロンにおいて記載された成長表現型にわたって異常な神経突起中のスペルミンの役割を評価した[Hocquemiller、S.ら、Journal of neuroscience research 88、202-213(2010)]。MPSIマウスからのE18皮質ニューロンの培養は、培養の4日後に、コロニーからの野生型マウスに由来するニューロンよりも多くの神経突起の数、分岐化、および総分枝長さを示した(図20A~20F)。APCHA、スペルミン合成の阻害剤を用いるMPSニューロンの治療は、有意に神経突起成長および分岐化を減少した。効果は、スペルミンを置換することにより逆転可能であった(図20A~20F)。同
じAPCHA濃度は、正常なニューロンの成長に影響を与えなかった(図26)。インビボで同定されたものと同様の濃度で、スペルミンを野生型ニューロン培養に加えることにより、神経突起成長および分岐化における有意な増大をもたらした(図20A~20F)。
【0275】
3.CSFスペルミンおよびGAP43発現に対する遺伝子療法の影響
GAP43、神経突起成長の中心的調整因子は、インビトロおよびインビボの両方で、MPSIIIマウスニューロンにより過剰発現されており、ニューロン培養において異常に活性化された同じ神経突起成長経路は、インビボにおいても活性がある。GAP43発現およびインビボでのスペルミン蓄積に対するIDUA欠損を評価するために、本発明者らは、未治療MPSIイヌおよびCNS指向遺伝子療法で治療されたものにおいてCSFスペルミンおよび脳GAP43レベルを測定した。本発明者らは、以前、イヌIDUA トランスジーンを有するアデノ随伴ウイルス血清型9ベクターの髄腔内注射を用いて治療された5匹のMPSIイヌについて記載した[C.Hindererら、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy 23、1298-1307(2015)、オンライン公開Epub Aug]。MPSIイヌは、正常なIDUA酵素に対する抗体を産生することができ、したがって、2匹のイヌは、そのタンパク質に対する免疫耐性を誘導するために肝臓IDUA遺伝子移入を用いて新生児期に予め治療された。寛容化された両方のイヌは、AAV9治療後に正常値を十分に上回る脳IDUA活性を示した。3匹の寛容化されていないイヌは、様々なレベルの発現を示し、1匹の動物は、正常なものよりも高いレベルに到達し、他の2匹は、正常に近い発現を示した(図21A)。CSFスペルミン減少は、脳IDUA活性に反比例し、最も低いIDUA発現を伴う2匹のイヌにおいて未治療動物に対して3倍減少し、最も高い発現を伴う動物では20倍超減少した(図21A、21B~21H、および21K)。GAP43は、MPSIイヌの前頭皮質において上方制御され、発現は、すべてのベクター治療された動物において正常化された(図21I~21J)。
【0276】
本発明者らは、さらに、一定範囲のベクター用量を用いて治療されたMPSIイヌにおいて、CSFスペルミンレベルとIDUA再構築との関係を評価した。新生児期肝臓遺伝子移入によりヒトIDUAに対して予め寛容化されたMPSIイヌは、ヒトIDUAを発現するAAV9ベクターの髄腔内注射を3用量のうちの1つ(1010、1011、1012GC/kg、用量あたりn=2)で用いて治療された[(C.Hindererら、Neonatal tolerance induction enables accurate evaluation of gene therapy for MPS
I in a canine model.Molecular Genetics and Metabolism、dx.doi.org/10.1016/j.ymgme.2016.06.006]。CSFスペルミンは、注射の6ヶ月後に上昇した(図22A)。CSFスペルミンの減少は、用量依存的であり、中および高ベクター用量の動物は、正常な範囲に到達し、一方で、CSFスペルミンは、低用量動物では部分的に減少したのみであった。IDUA欠損とCSFスペルミン蓄積との間の関連を独立的に確証するために、本発明者らは、MPSIのネコモデルにおけるCSFスペルミンレベルを評価した。本発明者らが以前に報告した遺伝子療法研究からのCSF試料を用いて、我々は、we found that未治療MPSIネコが高いCSFスペルミンを示したことを見出した(図22B)[C.Hinderer、P.Bell、B.L.Gurda、Q.Wang、J.P.Louboutin、Y.Zhu、J.Bagel、P.O’Donnell、T.Sikora、T.Ruane、P.Wang、M.E.Haskins、J.M.Wilson、Intrathecal gene therapy corrects CNS pathology in a feline model of
mucopolysaccharidosis I.Molecular thera
py:the journal of the American Society of Gene Therapy 22、2018-2027(2014);オンライン公開Epub Dec(10.1038/mt.2014.135)]。フェリンIDUAを発現するAAV9ベクターの高用量の髄腔内投与は、CSFスペルミンレベルを正常化した(図22B)。
【0277】
C.議論
本研究では、本発明者らは、MPSIイヌからのCSF試料の代謝物プロファイリングを実施し、これは、CSFメタボロームにおける本質的な疾患に関連する変更を明らかにした。最も著しい差異は、正常な対照と比較されたスペルミンレベルにおいて30倍を超える上昇であった。この知見は、MPSI患者試料およびMPSIのネコモデルおよびMPS VIIのイヌモデルにおいて確認された。スペルミンは高い親和性を伴ってHSに直接結合し、スペルミンの細胞取込みは、この相互作用に依存的である[M.Belting、S.PERSSON、L.-A.Fransson、Proteoglycan involvement in polyamine uptake.Biochemical Journal 338、317-323(1999);J.E.Welchら、International journal of oncology 32、749-756(2008)]。グリピカン-1などの細胞表面プロテオグリカンは、それらのHS部分を通してスペルミンに結合することができ、グリピカンタンパク質のエンドサイトーシスの後、HS鎖の細胞内切断は、結合スペルミンを細胞へ放出する[Beltingら、上記引用;K.Dingら、The Journal of biological chemistry 276、46779-46791(2001);オンライン公開Epub Dec 14]。故に、インタクトなHSリサイクルは、スペルミン取込みのために必須である。IDUA欠損に起因する不十分なHSリサイクルは、このスペルミン取込み機序を阻害し、細胞外スペルミン蓄積を導くことができる。代替的には、細胞外GAGは、スペルミンを隔離し、好ましい細胞外分布へと平衡を転じ得る。この研究におけるLC-MS試料調製のために利用されるメタノール除タンパク工程は、可溶性HSも沈殿し、これは、CSF中で検出されたスペルミンが非結合であり、したがって、GAG結合ではなく取込み阻害が、細胞外スペルミン蓄積に関与していることを示唆する[N.Volpi、Journal of chromatography.B、Biomedical applications 685、27-34(1996);オンライン公開Epub Oct 11]。機能的神経ネットワークの形成および維持は、神経突起成長およびシナプス形成の正確な制御に必要である。発達中、CNS環境は、神経突起形成に対して益々阻害性となり、ミエリン関連タンパク質は、成人脳における神経突起成長を大いに遮断する。神経突起成長減少に向かうこの発達的転換は、GAP43発現における減少と並行して起こる[S.M.De la Monteら、Developmental Brain Research 46、161-168(1989);オンライン公開Epub4/1/]。持続的なGAP43発現、およびMPSニューロンにより示される誇張された神経突起伸展成長は、阻害および成長促進シグナルのこの正常なバランスを妨害し、異常な連結性および認知低下をもたらす。どのようにHS貯蔵が神経突起成長におけるこの増大を導くかということは確立されていない。多数の研究が、神経突起伸展成長におけるポリアミンの関係を指摘しており、軸索損傷後、スペルミンおよびその前駆物質プトレシンおよびスペリミジンの合成のための律速酵素が高められ、ミエリンからの阻害性シグナルの存在下でさえ強化された神経突起伸展成長が可能となる[Cia(2002)、Deng(2009)、Gao(2004)、すべて上記で引用されている]。さらに、プトレシンを用いるニューロンの治療は、CSFに直接注射される場合、神経突起成長を誘導し、これは、スペルミン合成の阻害剤により遮断される効果である(Deng(2009)、上で引用した)。ポリアミンが神経突起成長に対してそれらの効果を発揮する機序は知られていない。1つの潜在的な標的は、NMDA受容体であり、その活性化は、スペルミン結合により増強される(J.Lerma、Neuron 8、343-
352(1992);オンライン公開Epub2//(http://dx.doi.org/10.1016/0896-6273(92)90300-3))。NMDAシグナリングは、神経突起伸展成長を誘導し、受容体のスペルミン感受性サブユニットは、発達中、高度に発現される[D.Georgievら、Experimental cell research 314、2603-2617(2008);オンライン公開Epub Aug 15(10.1016/j.yexcr.2008.06.009);R.G.Kalb、Regulation of motor neuron dendrite growth by NMDA receptor activation.Development 120、3063-3071(1994);J.Zhongら、Journal of neurochemistry 64、531-539(1995)。顕著に、多くの神経栄養性因子は、HS修飾受容体を通じて結合し、細胞外マトリックス中のHSとの相互作用は、神経突起成長に影響を与えることができる(D.Van
Vactorら、Current opinion in neurobiology
16、40-51(2006);オンライン公開Epub Feb]。したがって、スペルミン蓄積は、MPSIにおける異常な神経突起成長を促進する幾つかの因子の1つであり得る。スクリーンされた15個のMPSIイヌCSF試料のうち、1つのみが、スペルミン濃度の正常な範囲内に含まれた。28日齢で、これは、研究に含まれた最も若い動物であった。この研究は、ハンター症候群を有する乳幼児では6ヶ月齢までにスペルミン濃度が既に高められていると実証しているが、この知見は、スペルミン蓄積が年齢依存的であり得ることを示す。さらなる研究は、MPS患者において長期的にCSFスペルミンレベルを評価する。ほとんどの患者が発達遅延の開始前に1~2年の正常な発達を経験するため、スペルミンがMPS患者において年齢に従って増大するならば、これは、認知低下の動力学を説明する。ニューロン成長を変更する代謝物の蓄積を誘引するためのHS代謝障害の潜在性は、MPSにおける酵素欠損および異常な神経突起成長表現型との間の新規関連性を指摘し、これは、これらの障害に関連する認知機能不全を説明することができる。さらなる研究は、MPSIIなどの他のMPSにおけるスペルミン上昇を確認する。これらの知見はまた、CSFスペルミンが、MPSのための新規CNS指向療法の薬力学を評価するための非侵襲性バイオマーカーとして有用であることを示す。CNS指向療法のためのさらなる試験は、認知的エンドポイントとCSFスペルミン変化との相関関係を評価する。
【0278】
実施例7:CTガイドICV送達デバイス
A.手順前スクリーニング評価
1.プロトコルビジット1:スクリーニング
主な調査者は、対象(または指定された介護者)がインフォームドコンセントに署名する際に十分に情報を得ることができるように、槽内(IC)手順に至るまでのスクリーニングプロセス、投与手順そのもの、およびすべての潜在的な安全性危険性を記載する。
【0279】
IC手順のための対象適格性のそれらのスクリーニングアセスメントにおいて、以下のものが実施され、神経放射線科医/神経外科医/麻酔科標榜医に提供される:病歴、併用薬、身体検査、バイタルサイン、心電図(ECG)、およびラボ検査結果。
【0280】
2.インターバル:研究ビジット2に対するスクリーニング
適格性を吟味するために十分な時間を可能とするために、以下の手順が、第1のスクリーニングビジット~研究ビジット2(0日目)前の最大1週間の間の任意の時点で実施される。
●ガドリニウムを伴うおよび伴わない、頭部/頸部磁気共鳴画像法(MRI)[注意:対象は、ガドリニウムを受けるために適切な候補である候補がある(すなわち、eGFR
>30mL/分/1.73m)。]
●頭部/頸部MRIに加えて、調査者は、屈曲/延伸研究による首のさらなるいずれか
の評価のための必要性を決定する
●MRIプロトコルは、T1、T2、DTI、FLAIR、およびCINEプロトコル画像を含む
●制度プロトコルに従う、頭部/頸部MRA/MRV(注意:●硬膜間/硬膜内処置の履歴を有する対象は、排除されてもよく、またはCSF流れの十分な評価、およびCSF空間内のコミュニケーションの起こり得る妨害または欠失の同定を可能とする、さらなる試験(例えば、放射性ヌクレオチドシステルノグラフィ)を必要としてもよい。
●神経放射線科医/神経外科医、対象の手順評価ミーティング:3部門からの代表者は、入手可能なすべての情報(スキャン、病歴、身体検査、ラボなど)に基づき、IC手順のための各対象の適格性を議論するために、電話会議(またはオンライン会議)をする。すべての試みは、IC手順を先に進めるか、または対象をスクリーンから排除するかについてのコンセンサスを成し遂げるためになされる必要がある(すなわち、各メンバーは、決断事項を受け入れるための準備がある必要がある)。
●MPS対象の特別な生理的必要性を考慮した、気道、首(短くなった/太くなった)、および頭部運動範囲(首屈曲の程度)の詳細なアセスメントを用いる、-28日目~1日目の麻酔処置前評価。
【0281】
3.1日目:コンピュータ断層撮影一式&投与のためのベクター調製。IC手順の前に、CTスイートは、以下の機器および医薬が存在することを確認する:
●成人腰部穿刺(LP)キット(協会によって供給される)
●BD(Becton Dickinson)22または25ゲージx3~7インチの脊椎ニードル(Quincke bevel)
●(脊椎ニードルの導入のために)介入者の裁量で使用される、同軸導入用ニードル(例えば、18G x 3.5インチ)
●旋回式(スピン)雄型ルアーロックを伴う4方向小口径停止コック
●雌型ルアーロックアダプタを伴うT-コネクタ延長セット(チューブ)、おおよその長さ6.7インチ
●髄腔内投与のためのOmnipaque180(イオヘキソール)
●静脈内(IV)投与のためのヨウ素化コントラスト
●注射用の1%のリドカイン溶液(成人LPキット中で供給されていない場合)
●充填済み10cc通常食塩水(滅菌)フラッシュシリンジ
●放射線不透過性マーカー(複数可)
●手術準備用機器/カミソリ
●挿管された対象の正確な位置を可能とするための枕/支持
●気管内挿管用機器、全身麻酔機械、および機械式通風装置
●術中神経生理学的モニタリング(IONM)機器(および必要とされる人員)
●AAV9.hIDUAベクターを含有する10ccのシリンジ、別の薬務マニュアルに従って、調整され、CT/手術室(OR)スイートに輸送される
【0282】
4.1日目:対象準備&投与
●研究および手順のためのインフォームドコンセントを確認し、診療記録および/または研究ファイル内で文書化をする。制度上必要条件であるため、放射線科および麻酔科のスタッフからの手順についての別個の同意を得る。
●研究対象は、制度ガイドラインに従って、適切な病院治療室内に配置された静脈内アクセス(例えば、2つのIVアクセス部位)を有する。静脈内流体は、麻酔医の裁量で投与される。
●麻酔医の裁量および制度ガイドラインに従って、研究対象は、領域または手術/CT処置スイートを有する適切な患者治療室において、全身麻酔の投与とともに、気管内挿管を導入され、気管内挿管を受ける。
●腰部穿刺が実施され、初め、5ccの脳脊髄液(CSF)を除去し、引き続いて、大
槽の視覚化を補助するためにコントラスト(Omnipaque180)が髄腔内に注射される。適切な対象位置付け工作を実施して、コントラストの大槽への核酸を促進する。
●既にそうしていないならば、術中神経生理学的モニタリング(IONM)機器が、対象に取り付けられる。
●対象は、うつ伏せまたは横向き臥位で、CTスキャナ台上に配置される。
●適切であると考えられるならば、対象は、処置前評価の間安全であると判定される程度まで首を屈曲させる様式で、位置付けられ、位置付けられた後、通常の神経生理学的モニターシグナルが記録される。
●以下の研究スタッフおよび調査者(複数可)が、存在しているか、施設内に存在することが確認される:
○手順を実施する介入者/神経外科医
○麻酔科標榜医および呼吸器系技師(複数可)
○看護師および医師アシスタント
○CT(またはOR)技師
○神経生理学の技師
○研究所コーディネーター
●頭蓋底下の対象の皮膚は、適切に剃られる。
●CTスカウト画像が実施され、続いて、介入者が、標的位置をローカライズし、脈管構造を画像化することが必要と考える場合には、IVコントラストを用いる手順前プラニングCTが実施される。
●標的部位(大槽)が同定され、ニードル軌道が計画されると、制度ガイドラインに従って滅菌技法を用いて、皮膚は準備され、布を掛けられる。
●介入者により指示される場合、放射線不透過性マーカーが、標的皮膚位置に配置される。
●マーカーされた皮膚は、1%のリドカインを用いて湿潤により麻酔をかけられる。
●22Gまたは25Gの脊椎ニードルは大槽に向かって前進されるが、同軸導入用ニードルを使用する選択肢もある。
●ニードル前進の後、協会の機器を用いて実行可能な最も薄いCTスライス厚さ(理想的には≦2.5mm)を用いて、CT画像が得られる。連続的CT画像は、ニードルおよび関連する軟組織(例えば、傍脊柱筋群、骨、脳幹、および脊髄)の十分な視覚化を可能にするのに可能な最も少ない放射線量を用いる必要がある。
●正確なニードル配置が、ニードルハブ中のCSFの観察および大槽内のニードル先端の視覚化により、確認される。
●介入者は、ベクターを含有するシリンジが、滅菌野に近接しているが、滅菌野の外側に位置付けられていることを確認する。ベクターを取り扱う前またはそれを投与する前に、部門は、グローブ、マスク、および保護用メガネがあることを確認し、滅菌野の手順を補助するスタッフはそれらを装着する(滅菌野外の他のスタッフはこれらの手順を採用する必要はない)。
●短い(約6インチ)延長チューブは、挿入された脊椎ニードルに取り付けられ、これは次いで、4方向停止コックに取り付けられる。一旦、この機器が対象のCSFで「セルフプライム」されると、10ccの充填済み通常の食塩水フラッシュシリンジが、4方向停止コックに取り付けられる。
●ベクターを含有するシリンジが介入者に提供され、4方向停止コック上のポートに取り付けられる。
●ベクターを含有するシリンジに対して停止コックポートが開放されると、注射中、プランジャーへ過剰な力を適用しないように気を付けながら、シリンジ内容物が、ゆっくりと注射される(おおよそ1~2分間にわたって)。
●AAV9.hIDUAを含有するシリンジの内容物が注射されると、停止コックおよびニードルアセンブリが、取り付けられた充填済みシリンジを用いて1~2ccの通常食塩水をフラッシュできるように、停止コックが回される。
●用意ができたら、介入者は自分が対象から機器を取り出すことをスタッフに警告する。
●シリンジの動きにおいて、ニードル、延長チューブ、停止コック、およびシリンジは、ゆっくりと対象から取り出され、バイオハザード廃棄物入れまたは硬質容器(ニードルのため)へ廃棄するために手術トレイへ置かれる。
●調査者により指示されるように、ニードル挿入部位は、出血またはCSF漏出の徴候について調べられ、治療される。指示されるように、ガーゼ、手術用テープ、および/またはTegaderm手当用品を用いて、部位は手当される。
●対象は、CTスキャナから取り出され、ストレッチャー上に仰向けで配置される。
●麻酔を中止し、対象は、麻酔後ケアのための制度ガイドラインに従ってケアされる。神経生理学的モニターが研究対象から取り除かれることができる。
●対象が横たわっているストレッチャーの頭側は、回復中、若干上昇させる必要がある(約30度)。
●制度ガイドラインに従って、対象は適切な麻酔後治療室に輸送される。
●対象が、十分に意識を回復し、安定な状態となった後、対象は、プロトコル指定の評価のために適切なフロア/ユニットに入院する。神経学的評価は、プロトコルに従って実施され、主要な調査者は、病院および研究スタッフとの共同で対象ケアを監督する。
【0283】
実施例8:大型動物における髄腔内投与経路の評価
この研究の目的は、脳室内(ICV)注射、および腰部穿刺による注射を含むCSFへの投与のより慣用的な方法を評価することである。簡潔に言うと、この研究では、ICVおよびIC AAV投与がイヌにおいて比較された。ベクター投与は、非ヒト霊長類における腰部穿刺により評価され、一部の動物は、注射後にトレンデレンブルグ位置に配置され、その措置は、ベクターの頭蓋分布を促進することが示唆されている。イヌ研究では、ICVおよびICベクター投与は、脳および脊髄にわたって同様に効率的な形質導入をもたらした。しかし、トランスジーン産物に対する重度のT細胞応答に明らかに起因して、ICVコホート内の動物は脳炎を発症した。ICVコホートにおいてのみのこのトランスジーン-特異的免疫応答の発生は、トランスジーン発現の部位における注射手順からの局所的炎症の存在に関連付けられるのではないかと考えられる。非ヒト霊長類(NHP)研究では、腰椎槽へのベクター投与後の形質導入効率は、非常に大量の注射容量(総CSF容量のおおよそ40%)を用いることによる我々の以前の研究と比較して改善された。しかし、このアプローチは、IC投与よりもなお効率的でない。注射後のトレンデレンブルグでの動物の配置は、さらなる利益を提供しなかった。しかし、大量の注射容量は、ベクターの頭蓋分布を改善し得ることが見出された。
【0284】
髄腔内AAV送達の効率を最大限にするために、CSFへのベクター投与の最適経路を決定することは重要である。本発明者らは、以前、後頭下穿刺による大槽(小脳延髄槽)へのベクター注射が非ヒト霊長類において効果的なベクター分布を成し遂げたが、一方で、腰部穿刺による注射は、脊髄への実質的により低い形質導入をもたらし、脳へは実質的に分布されず、投与経路の重要性を強調する報告した[Hinderer、Molecular Therapy-Methods&Clinical Development.12/10/online 2014;1]。他者らは、一般的な臨床手順である側脳室へのベクター送達は、効果的なベクター分布をもたらすことを示唆している[Haurigotら、J Clin Invest.、Aug 2013;123(8):3254-3271]。腰部穿刺による送達は、注射後に動物をトレンデレンブルグ位に配置して、頭蓋内ベクター分布を促進することにより、改善されることができることも報告されている[Meyerら、Molecular therapy:the journal
of the American Society of Gene Therapy.Oct 31 2014]。この研究では、本発明者らは、イヌにおいて緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター遺伝子を発現するAAV9ベクターの脳室内および槽内投与
を比較した。我々は、脳室内送達がトランスジーン特異的免疫応答のさらなる危険性を有し得るが、両経路がCNSにわたる効果的な分布を成し遂げることを見出した。我々は、NHPにおける腰部穿刺によるベクター送達、および注射後のトレンデレンブルグ位に動物を配置することの影響も評価した。注射後の位置付けによる明確な効果は存在しなかったが、我々は、大量の注射容量がベクターの頭蓋分布を改善し得ることを見出した。
【0285】
A.材料および方法:
1.ベクター産生:GFPベクターは、サイトメガロウイルス最初期エンハンサーを伴うニワトリベータアクチンプロモータ、人工イントロン、強化された緑色蛍光タンパク質cDNA、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節要素、およびウサギベータグロビンポリアデニル化配列を含む発現カセットを有するAAV血清型9カプシドからなる。GUSBベクターは、サイトメガロウイルス最初期エンハンサーを伴うニワトリベータアクチンプロモータ、人工イントロン、イヌGUSB cDNA、およびウサギベータグロビンポリアデニル化配列を含む発現カセットを有するAAV血清型9カプシドからなる。以前記載されているように、ベクターは、HEK293細胞のトリプルトランスフェクションにより産生され、イオジキサノール勾配にて精製される[Lockら、Human gene therapy.Oct 2010;21(10):1259-1271]。
【0286】
2.動物実験:すべてのイヌは、ガイドライン、National Institutes of Health and USDA guidelines for the
care and use of animals in researchの下、the National Referral Center for Animal Models of Human Genetic Disease of the School of Veterinary Medicine of the University of Pennsylvania(NIH OD P40-010939)で育てられた。
【0287】
3.NHP研究:この研究は、9~12歳の6匹のカニクイザルを含んだ。動物は、注射時に、4~8kgであった。注射前に、ベクター(2x1013GC)を、5mLのOmnipaque(イオヘキソール)180対照材料中で希釈した。腰部穿刺によるベクターの注射は、以前に記載されているように実施された[Hinderer、Molecular Therapy-Methods&Clinical Development.12/10/online 2014;1]。髄腔内空間への正確な注射は、蛍光透視法により確認された。トレンデレンブルグ群の動物については、ベッドの頭側は、注射後即時に10分間30度低下された。安楽死および組織収集は、以前に記載されているように実施された[Hinderer、Molecular Therapy-Methods&Clinical Development.12/10/online 2014;1]。
【0288】
4.イヌ研究:この研究は、6匹の1歳のMPSIイヌ、および1匹の2ヶ月齢のMPS
VIIイヌを含んだ。ベースラインMRIは、注射コーディネートを計画するためにすべてのICV治療されたイヌについて実施された。槽内注射は、以前に記載されているように実施した[Hindererら、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy.Aug 2015;23(8):1298-1307]。ICV注射のために、イヌは、静脈内プロポフォールで麻酔され、気管内に挿管され、イソフルランを用いる麻酔下で維持され、定位固定フレームに配置された。皮膚は、滅菌的に準備され、注射部位にわたって切開がなされた。注射部位に単一の頭蓋穿孔をドリルで開け、そこを通して、26ゲージのニードルを予め決めた深さまで前進させた。配置は、CSFリターンにより確認された。ベクター(1mL中1.8x1013GC)は、1~2分間かけてゆ
っくりと注入された。安楽死および組織収集は、以前に記載されているように実施された[Hindererら、Molecular therapy:the journal
of the American Society of Gene Therapy.Aug 2015;23(8):1298-1307]。
【0289】
5.組織学:脳は、GFP発現の評価のために処理された[Hinderer、Molecular Therapy-Methods&Clinical Development.12/10/online 2014;1]。GUSB酵素染色およびGM3染色は、以前に記載されているように実施された[Gurdaら、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy.Oct 8 2015.]。
【0290】
6.ELISPOT:剖検時に、血液は、ヘパリン処理したチューブ中に、ベクター治療されたイヌから収集された。末梢血単核性細胞は、フィコール勾配遠心分離により単離された。AAV9カプシドペプチドおよびGFPペプチドに対するT細胞応答は、インターフェロンガンマELISPOTにより評価された。AAV9およびGFPペプチドライブラリーが、10アミノ酸の重複を用いて(Mimotopes)15-mersとして合成された。AAV9ペプチドライブラリーは、3つのプールへグループ分けされた。ペプチド1~50のプールA、ペプチド51~100のプールB、およびペプチド101~146のプールC。GFPペプチドライブラリーも、3つのプールへグループ分けされた:ホルボール12-ミリステート13-アセテートおよびイオノマイシン塩(PMA+ION)は、陽性対照として用いられた。DMSOは、陰性対照として用いられた。細胞は、ペプチドを用いて刺激され、インターフェロンガンマ分泌が記載されたように検出された。応答は、それが、百万リンパ球あたり55超のスポット形成ユニット(SFU)であり、かつDMSO陰性対照値の少なくとも3倍である場合に、陽性であるとみなされた。
【0291】
7.体内分布:剖検時に、体内分布のための組織は、即時にドライアイス上で凍結された。DNA単離およびTaqMan PCRによるベクターゲノムの定量化が、記載されたように実施された[Wangら、Human gene therapy.Nov
2011;22(11):1389-1401]。
【0292】
8.GUSB酵素アッセイ:GUSB活性は、記載されているようにCSFにおいて測定された[Gurdaら、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy.Oct 8 2015]。
【0293】
B.結果
1.イヌにおける脳室内および槽内ベクター送達の比較
リソソーム貯蔵疾患ムコ多糖症I型(MPSI)のイヌモデルを用いる我々の以前の研究は、大槽へのAAV9注射が、全脳および脊髄を効果的に標的化可能であることを実証した[Hindererら、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy.Aug 2015;23(8):1298-1307]。この研究では、我々は、成体MPSIイヌの大槽または脳側室へ投与されたGFPレポーター遺伝子を発現するAAV9ベクターの分布を比較した。3匹のイヌは、ベクター(1.8x1013ゲノムコピー)の大槽への単回1mL注射を用いて治療された。3匹のさらなるイヌは、同じベクターの脳側室への単回ベクター注射を受けた。ICV注射により治療されたイヌのために、ベースラインMRIは、注射のためのより大きな脳側室を選択し、標的コーディネートを画定するために、実施された。指定された脳室を正確に標的化するために定位固定フレームを用いて、注射が実施された。
【0294】
ICベクター注射で治療された3匹のイヌは、研究にわたって、健康であるように見えた。それらは、ベクター体内分布およびトランスジーン発現の評価のために、ベクター注射の2週間後に、安楽死させた。いずれのIC治療イヌにおいても、全般的または顕微鏡的な脳障害は観察されなかった(図12A~12F)。定量的PCRによるベクターゲノムの測定は、脳および脊髄のすべての試料領域にわたるベクター堆積を明らかにした(図13)。ベクターゲノムの分布と一致して、強固なトランスジーン発現が、大脳皮質のほとんどの領域、および脊髄にわたって検出可能であった(図14A~14H)。脊髄組織学は、胸部および腰部セグメントを好む形質導入の勾配を伴う、アルファ運動ニューロンの強力な形質導入について、明らかであった。
【0295】
初めにICV注射されたベクターを用いて治療された3匹のイヌは、手順後、健康であるようにみえた。しかし、1匹の動物(I-567)は、注射の12日後に死亡が見出された。他の2匹の動物は、指定された14日目の剖検時点まで生き抜いたが、1匹の動物(I-565)は、安楽死前に昏迷状態となり、他方(I-568)は、顔面筋の虚弱化を示し始めた。これらの臨床的知見は、有意な全般的な脳病変と相関した(図12A~12F)。すべての3匹の動物からの脳は、ニードル跡の周囲に変色を示し、死亡が見出された動物では関連する出血を伴った。組織学的評価は、注射部位の周囲の領域において重度のリンパ球性炎症を明らかにした。血管周囲リンパ球性湿潤はまた、各動物の脳にわたって観察された(図12Gおよび12H)。免疫学的毒性についてのこの証拠を考慮すると、AAV9カプシドタンパク質およびGFPトランスジーンの両方に対するT細胞応答が、剖検時にICV治療されたイヌの1匹(I-565)から収集された末梢血試料において評価された。インターフェロンガンマELISPOTは、カプシドペプチドへの応答の証拠はないが、GFPに対する強力なT細胞応答指向を示した(図12I)。これは、観察された脳炎が、トランスジーン産物に対する細胞介在免疫応答により引き起こされたことを示唆している。
【0296】
脊髄形質導入はICコホートにおいて若干大きかったが、ICV治療された動物におけるベクター分布は、IC治療された群において観察されたものと同様であった(図13)。GFP発現は、ICV治療された動物において調べられたCNS領域にわたって、観察された(図14A~14H)。
【0297】
2.NHPにおける腰部穿刺によるAAV9投与後のCNS形質導入に対するトレンデレンブルグ位の影響
本発明者らは、以前、NHPの大槽または腰椎槽へのAAV9注射を比較し、腰部経路は、脊髄の標的化のために10倍効率的でなく、脳の標的化のために100倍効果的でない[C.Hindererら、Molecular Therapy-Methods & Clinical Development.12/10/online 2014;1]。他の調査者は、その後、注射後に動物をトレンデレンブルグ位に配置することにより成し遂げられるベクターの頭蓋分布の改善を伴う、腰部穿刺によるAAV9投与を用いてより良好な形質導入を実証した[Myerら、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy.Oct 31 2014]。このアプローチでは、ベクターは、過剰容量のコントラスト材料中に希釈されて、溶液の比重を増大し、トレンデレンブルグ位にある間に重力に駆動される分布を促進した。6匹の成体カニクイザルは、L3~4の間の空間へのGFPを発現するAAV9の単回注射(2x1013ゲノムコピー)を用いて治療された。ベクターは、イオヘキソール180コントラスト材料中、最終容量5mLに希釈された。4匹の動物を、注射後すぐに、10分間、処置台の頭側を-30°の角度で配置した。10分後、CSFにおけるコントラスト分布を確証するために、蛍光画像を獲得した。顕著に、この大量の注射容量を用いると(動物の総CSF容量のおおよそ
40%)[Reiselbachら、New England Journal of Medicine.1962;267(25):1273-1278]、コントラスト材料は、トレンデレンブルグ位に配置されていない動物においてさえ、全脊椎クモ膜下腔空間に沿って、大脳基底槽へと急速に分布した(図16Aおよび16B)。PCRによるベクターゲノム分布の分析(図17)およびGFP発現(図18A~18H)は、脳および脊髄にわたっての形質導入を実証した。形質導入された細胞の数または分布に対する注射後位置の明らかな影響は存在しなかった。以前報告されたように、髄腔内AAV投与後の末梢部へのベクター漏出および肝臓形質導入が存在した[Hindererら、Molecular Therapy-Methods&Clinical Development.12/10/online 2014;1;Haurigotら、Journal
of Clinical Investigation.Aug 2013;123(8):3254-3271]。肝臓形質導入の程度は、AAV9に対する既存の中和抗体(nAb)の存在に依存した。6匹の動物のうち4匹は、検出可能なベースラインAAV9 nAbsを有さず(力価<1:5)、2匹の動物(4051および07-11)は、1:40の力価を伴う、AAV9に対する検出可能な既存の抗体を有した。以前の結果と一致して、既存の抗体は、肝臓形質導入を遮断し、結果として脾臓への増大したベクター分布をもたらした[Wangら、Human gene therapy.Nov 2011;22(11):1389-1401が、CNS形質導入に対しては影響を有さなかった;Haurigotら、Journal of Clinical Investigation.Aug 2013;123(8):3254-3271]。
【0298】
C.議論
後頭下穿刺は、臨床的実施において一般的な手順ではないので、本発明者らは、脳側室および腰椎槽を含むCSFアクセスというより慣用的な部位を評価した。ここで、本発明者らは、腰部領域からの頭蓋ベクター分布を改善するために、より高い密度を有するベクター溶液を利用する方法、および注射後にトレンデレンブルグ位を利用する方法を評価した。
【0299】
イヌ研究では、ICおよびICVベクター注射の両方は、同様に効果的なベクター分布をもたらしたが、脳炎は、ICV群においてのみ生じた。GFPトランスジーンに対するT細胞応答は、ICV治療されたイヌの1つにおいて、検出可能であったが、これは、これらの動物で観察されたリンパ球性脳炎が、トランスジーン特異的免疫応答に起因したことを示唆している。新規抗原に対するT細胞応答の誘導は、2つの要素-ナイーブT細胞によるタンパク質からのエピトープの認識と、T細胞の活性化を促進する炎症性「危険シグナル」とを必要とする。AAVは先天免疫系を活性化しないため、AAVは、トランスジーン産物に対する免疫を誘発することなく、外来性トランスジーンを発現することができると考えられ、それ故に、ナイーブリンパ球が新たに発現された抗原に出会った場合に、炎症性シグナルを回避し、免疫性ではなく耐性を促進することができる。外来性トランスジーン産物が発現されるのと同じ位置で生じる、脳実質の貫通の外傷により引き起こされる局所的炎症は、トランスジーン産物に対する免疫応答を誘導するのに必要とされる危険シグナルを提供してもよい。これは、IC注射によってではなく直接的脳注射により送達されたAAVベクターから発現された酵素に対する細胞介在の免疫応答を発展させる、MPSIイヌにおける以前の研究により支持される[Cironら、Annals of
Neurology.Aug 2006;60(2):204-213;Hindererら、Molecular therapy:the journal of the
American Society of Gene Therapy.Aug 2015;23(8):1298-1307]。そのような免疫応答についての潜在性は、内在的にも産生されるタンパク質を発現するベクターの送達についてトランスジーン産物が外来として認識されるかどうかに依存し、注射により引き起こされる炎症性応答でさえ、自身のタンパク質に対する耐性を打ち破ることができないことがある。内因性タンパク質
に対するトランスジーン産物の類似性は、GFPに対して観察されたT細胞応答の種類の不在に関与する可能性があるので、MPS VIIイヌにおけるICVベクター送達の研究における結果は、この概念を支持する。同じことが、トランスジーン産物に対して同様のタンパク質の産生を可能とするミスセンス変異を有する劣性疾患を有する患者についても当てはまることがある。したがって、免疫の危険性は、患者集団およびトランスジーン産物に応じて様々であり、幾つかの場合では、免疫抑制は、トランスジーンに対する破壊的T細胞応答を予防するために必要となり得る。現在の知見は、ICV投与経路ではなくICを用いることにより、有害な免疫応答が軽減される可能性があることを示唆している。
【0300】
NHPにおける腰部穿刺によるAAV9投与の研究は、我々がこの投与経路を用いて以前観察したものよりも、CNSにわたってより大きな形質導入を示した。この違いは、過剰容量のコントラスト材料中にベクターを希釈するために必要であった、本研究における大量の注射容量に起因するようである。以前の研究は、そのような大容量の注射(CSF容量のおおよそ40%)が、注射された材料をサルの大脳基底槽へ直接、さらには室内CSFへ駆動することができることを示した[Reiselbach、上記で引用した]。このアプローチを再現するには、患者に慣用的に投与されない非常に大量の注射容量(>60mL)が必要になることを考慮すると、このアプローチをヒトに移行するための実行可能性は不明確である。さらに、この高容量アプローチを用いてさえ、腰部穿刺による注射は、IC送達を用いた以前の結果よりも効果的ではなかった。この以前の研究では、動物は、体重によって投与され、したがって、ただ1匹の動物が、本明細書で用いられたものと等価なICベクター用量を受けた[Hindererら、Therapy-Methods&Clinical Development.12/10/online 2014;1]。その動物は、脳および脊髄において、平均して3倍高いベクター分布を有し、これは、腰椎槽へのさらに非常に大容量のベクター送達でさえ、IC送達よりも効果的でないことを示す。文献での報告と対照的に、本発明者らは、腰部ベクター注射後に動物をトレンデレンブルグ位に配置することに対してさらなる利点を見出さなかった[Meyerら、Molecular therapy:the journal of the
American Society of Gene Therapy.Oct 31
2014]。
【0301】
まとめると、これらの知見は、大槽レベルでのベクター投与を支持し、というのも、このアプローチは、腰部穿刺による投与よりも効果的なベクター分布を成し遂げ、ICV投与よりもトランスジーン産物に対する免疫危険性が低いようであるからである。大槽へのベクター送達は、前臨床的研究において使用された後頭下穿刺アプローチを用いて臨床的に実施されることができる。追加的に、側室アプローチ(C1~2穿刺)を用いる第1および第2頸椎の間のクモ膜下腔空間への注射は、大槽への注射部位の近位に投与されたベクター分布と同様のベクター分布を生じる可能性がある。C1~2アプローチは、後頭下穿刺とは異なり、それがCSFアクセスのために、特に髄腔内コントラスト投与のために広く臨床的に使用されるという、さらなる利点を有する。
【0302】
実施例9:アカゲザルにおける髄腔内注射されたAAV2/9.CB7.CI.serhIDS.RBGの非臨床的薬理学的/毒物学的研究
アカゲザルにおける、ヒトIDSをコードするベクター、AAV2/9.CB7.CI.hIDS.RBGの2つの用量の髄腔内投与の安全性を評価するために設計された研究が実施されて、ヒト投与のための最小有効用量(MED)を上回る十分な安全性マージンを得た。
【0303】
対照品目は、群1に無作為化された一匹のマカクに後頭下穿刺により投与される。試験品目は、群2~3に無作為化された6匹のアカゲザルに後頭下穿刺により投与される。群
2のサルは、高用量の5x1013ゲノムコピー(GC)(N=3)で試験品目を受け、群3のサルは、1.7x1013GC(N=3)の低用量で投与された試験品目を受ける。一般的な安全性パネルの一部として、血液および脳脊髄液が収集される。
【0304】
ベクター投与後90±3日にてこれらの研究の生前フェーズが完了した後、サルは犠牲にされ、組織は、包括的な組織病理学的検査のために回収された。リンパ球は、肝臓、脾臓、および骨髄から回収されて、剖検時にこれらの器官における細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の存在が調べられる。
【0305】
I.実験設計
A.材料
試験品目-AAV9.CB7.hIDSはまた、AAV2/9.CB7.CI.hIDS.RBGとしても知られており、AAV2/9.CB7.CI.hIDS.RBG.KanRとしても知られている。これらの命名は同義であり、互換的に使用されることができる。
【0306】
試験品目は、5.72x1013GC/mlの濃度を伴う単回ロットとして産生され、この濃度はドロップレットデジタル(dd)PCRを使用して測定される。ベクターは、産生後、注射日まで、≦-60℃で貯蔵される。注射日に、ベクターは、対照品目を用いて希釈される。希釈されると、ベクターは、注射時まで、冷蔵庫または湿った氷上で2~4℃で貯蔵される。ベクター調製は、注射日に実施される。
【0307】
対照群動物は、対照品目Elliot製剤緩衝液(EFB)を投与され、試験品目(EFB+0.001%のプルロニックF68)は投与されない。対照品目は、産生後、注射日まで、室温で貯蔵される。
【0308】
B.試験系
試験系選択についての根拠:この研究は、CNS疾患のための遺伝子療法ベクターの髄腔内(IT)送達を含む。非ヒト霊長類(NHP)におけるCNSのディメンションは、我々の臨床的標的集団の裁量の代表的モデルとして機能を果たす。この研究は、IT注射後のベクターの用量関連毒性についてのデータを提供する。
【0309】
Covance Research Products、Inc.(Alice、TX)により供給された7匹の3~10kgの体重を有する3~7歳の雄アカゲザル(Macaca mulatta)(Rhesus macaques)が使用される。
【0310】
II.一般的設計手順
7匹のアカゲザル(雄)を研究で用いる。動物を、表1に列挙されるように、3つの研究群に分ける。すべての7匹の動物は、後頭下穿刺によりIT注射を受ける。
【表2】
【0311】
動物は麻酔され、大槽内への後頭下穿刺により試験品目を投与される。
【0312】
麻酔されたサルは、処置室で準備され、蛍光透視スイートに移動され、撮影用の台上に側臥位で配置され、CSF収集および大槽への投与のために頭部灌流された。注射部位は無菌で準備される。無菌技法を用いて、21~27ゲージ、1~1.5インチのQuincke脊椎ニードル(Becton Dickinson)を、CSF流れが観察されるまで、後頭下空間へと前進させた。最大1.0mLのCSFを、投与前に、ベースライン分析のために収集する。横切られる解剖構造は、皮膚、皮下脂肪、硬膜外腔、硬膜および環椎後頭筋膜を含む。ニードルは、血液の汚染および潜在的な脳幹損傷を回避するために、より広範囲の大槽の上部空隙へ指向される。ニードル穿刺の正確な配置は、透視装置(OEC9800 C-Arm、GE)を用いる脊髄造影法により確認される。透視装置は、製造元の推奨条件に従って操作される。CSF収集の後、ルアーアクセス延長カテーテルは、脊椎ニードルに連結されて、イオヘキサール(商標名:Omnipaque 180mg/mL、General Electric Healthcare)コントラスト培地および試験または対照品の投与を促進する。1mLのイオヘキソールが、カテーテルおよび脊椎ニードルを介して投与される。ニードル配置を確認した後、試験品目を含有するシリンジ(1mLに等価な容量ならびにシリンジおよびリンカーのデッドスペース容量)は、可撓性リンカーに連結されて、20~60秒間にわたってゆっくりと注射される。ニードルは除去され、直接的圧力が穿刺部位に適用される。注射機器中に残っている残留試験品目は、収集され、≦-60℃で貯蔵される。
【0313】
動物の大槽内へ首尾よく投与することができない場合には、C1~C2の髄腔内空間(環椎-軸椎関節)への投与が、投与の代替的部位として使用され得る。投与手順は以下の通りである。動物は、側臥位で配置され、CSF収集およびC1~C2髄腔内空間への投与のために頭部灌流される。注射部位は無菌で準備される。無菌技法を用いて、21~27ゲージ、1~1.5インチのQuincke脊椎ニードル(Becton Dickinson)を、CSF流れが観察されるまで、髄腔内空間へと前進させた。最大1.0mLのCSFを、投与前に、ベースライン分析のために収集する。横切られる解剖構造は、皮膚、皮下脂肪、硬膜外腔、硬膜筋膜を含む。ニードルは、血液の汚染および脊髄頸部への潜在的な損傷を回避するために、C2脊椎上部から脊椎空間中へと挿入される。残りの手順は、大槽投与について以前に記載されたものと同様である。
【0314】
動物は、AAV9.CB7.hIDSまたは対照品目のいずれかの髄腔内注射を受ける。投与の頻度は、表3に概説されている。高用量のAAV9.CB7.hIDSは、5x1013GCであり、低用量は、1.7x1013GCである。サルあたり注射される希釈されたAAV9.CB7.hIDSまたは対照品目の総容量は、1mLである。
【0315】
III.結果
CSFにおける白血球細胞数として示されるように、CSF髄液細胞増加が、高用量治療された群(群2)では3匹のうち2匹の動物で観察され、低用量治療された群(群3)では3匹のうち1匹の動物で観察された(図28)。このような髄液細胞増加は、1匹の高用量治療された動物(RA2203)を除くすべての動物において90日目に解決された。
【0316】
加えて、脊髄後柱軸索障害が存在する(データは示されていない)。
【0317】
ある実施形態では、低用量は、1.9x1011GC/g脳重量に対応し、高用量は、9.4x1010GC/g脳重量である。ある実施形態では、高用量は、5.6x1011GC/g脳重量に対応する。他の実施形態では、低および高用量は、1.3x1010GC/g脳質量および6.5x1010GC/g脳質量にそれぞれ対応する。ある実施形態では、投与された産物の総容量は、5mLを超えない。
【0318】
抗-hIDS抗体のELISAアッセイは、上記した動物から収集された血清試料について実施された。60日目に得られた結果は、図29においてプロットされ、下記の表2に示される。CSF試料は、抗-hIDS抗体のELISAアッセイによる評価のために20倍希釈される。結果は、表3に示される。血清およびCSFの両方において、高用量のもの(群3)と比較して、減少した免疫原性が、低用量治療された群(群2)において観察された。hIDSに対する免疫原性は、治療されていない対照では観察されなかった。
【表3】
【表4】
【0319】
実施例10:免疫抑制されたアカゲザルにおける髄腔内注射されたAAV9.CB7.hIDSの非臨床的薬理学的/毒物学的研究
アカゲザルにおける、ヒトIDSをコードするベクター、AAV9.CB7.hIDSの2つの用量の髄腔内投与の安全性に対する化学的に誘導された免疫抑制(IS)の影響を評価するために設計された研究が、実施される。研究は、実施例9に記載されたものに下記の修正を加えたものである。
【0320】
対照品目を投与された動物は、実施例9のものを繰り返す。試験品目は、群1~2に無作為化された6匹のアカゲザルに後頭下穿刺により投与される。群1のサルは、高用量の5x1013ゲノムコピー(GC)(N=3)で試験品目を受け、群2のサルは、1.7x1013GC(N=3)の低用量で投与された試験品目を受ける。一般的な安全性パネルの一部として、血液および脳脊髄液が収集される。群1および2からのサルは、AAV9.CB7.hIDS投与の少なくとも2週間前に、および投与後の最大60日目までに(60日目を含む)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)を受け、投与の少なくとも2週間前、および投与後の最大90日目(90日目を含む)(+/-3日)までに、ラパマイシンを受ける。両方の免疫抑制薬についての血漿トラフレベルは、モニターされ、ミコフェノール酸(MPA、MMFの活性代謝物)について2~3.5mg/L、およびラパマイシンについて10~15μg/Lの範囲を維持するように、用量調整される。
【0321】
ベクター投与後90±3日にてこれらの研究の生前フェーズが完了した後、サルは犠牲にされ、組織は、包括的な組織病理学的検査のために回収された。リンパ球は、血液、脾臓、および骨髄から回収されて、剖検時にこれらの組織における細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の存在が調べられる。
【0322】
A.材料
試験品目、対照品目、それらの調製は、実施例9に記載されている。
【0323】
B.試験系
アカゲザル(Macaca mulatta)(Rhesus macaques)を利用し、実施例9に記載されているように保持した。6匹の動物のコホート(6匹の雄)を研究のために用いる。動物を、最小ID~最高IDの1~6の番号に割り当てる。random.orgにより、番号1~6の無作為リストを作成し、無作為化されたら、動物を以下のように割り当てる:群1は、3匹の動物に割り当てられ、群2は、3匹の動物に割りてられた。
【0324】
C.一般的設計手順
試料サイズおよび群の命名:
6匹のアカゲザルを研究に用いる。表4に列挙されるように、動物を、2つの研究群に分ける。すべての6匹の動物は、後頭下穿刺によりIT注射を受ける。
【表5】
【0325】
免疫抑制レジメンは、群1および2のすべての動物に投与される。動物の各群についての薬物組み合わせ、用量、および投与スケジュールを表5に要約する。免疫抑制に関連する日和見感染が存在する場合にはそれらを治療するために、動物は、全身性抗生剤および/または抗真菌剤を用いて治療されてもよい。
【0326】
動物は、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)およびラパマイシンの組み合わせ療法を用いて投与される。両方の免疫抑制薬は、麻酔下のサルまたは意識はあるが椅子に拘束されたサルに、経口胃フィードチューブまたは鼻腔胃フィードチューブを通して投与される。麻酔下の動物は、チューブからの胃内容物の吸引が可能であるために絶食されていない(正確な配置の確認)。免疫抑制レジメンは、試験品目の髄腔内投与の少なくとも2週間前に開始する。IS薬物の開始用量は、アカゲザルにおいて以前に記載された有効性に基づき、他の研究のためのGTPで以前使用された用量に基づき、血漿トラフレベルモニタリングに基づいて調整される。
【0327】
免疫抑制の第1日目の動物の体重を用いて、初期用量を計算する。次いで、動物は毎朝計量され、体重が+/-10%を超えて変化する場合には用量を再計算する。
【0328】
トラフレベルは、初め週2回モニターされ、60日目後(ラパマイシンのみが投与される)は週1回モニターされる。
【表6】
【0329】
c.IS薬物
ラパマイシンは、髄腔内投与前の最低14日、および研究の90日目(90日目を含む)(+/-3日)まで、0.5~4mg/kgPO、SIDの用量で投与される。開始用量は、1mg/kgである。ラパマイシン用量は、研究期間中、可能な限り10~15μg/Lに近い標的トラフレベルを維持するように算出される。標的トラフ薬物レベルが1週間以内に達成されないならば、用量は、0.25~2mg/kg用量間隔に用量設定される。安定化期間の後、トラフレベルが2つの連続する採血について低すぎる場合は、調整がなされる。それらが高すぎる場合は、即時の調整がなされる。
【0330】
MMFは、髄腔内投与前の最低14日間、および研究の60日目(60日目を含む)まで、50mg/kgPO、BIDの開始用量で、投与される。次いで、トラフレベル結果を用いて、用量を調整して、5~25mg/kgの用量間隔に用量設定する。MPAについてのトラフレベルは、可能な限り2~3.5mg/Lに近づくように維持される。安定化期間の後、トラフレベルが2つの連続する採血について低すぎる場合は、調整がなされる。それらが高すぎる場合は、即時の調整がなされる。
【0331】
d.IS薬物の製剤
MMFは、200mg/mLの濃度で、商業的に入手可能な経口溶液を用いて試験系に経口投与される。
【0332】
ラパマイシンは、以下の商業的に入手可能な製剤なうちの1つ以上を用いて、試験系に経口投与される:0.5mgのコーティング錠剤、1mgのコーティング錠剤、2mgの
コーティング錠剤。
【0333】
ピル製剤を投与する場合、錠剤は、以下のように調製される:
各ラパマイシンピルは、錠剤の外側コーティングを溶解させるために、室温水または温水(必要ならば温水を用いて溶解を加速させる)のいずれかの希釈剤中に置かれる。おおよそ10mLの水が使用される。ピルは、黄色コーティングの下側は白色である。
【0334】
外側コーティングが溶解されると、各ピルを乳鉢と乳棒を用いて細かい粉末になるまで粉砕し、均一な溶液を作成する。錠剤(複数可)を溶解するために使用される希釈剤の総容量は、研究記録に記録される。
【0335】
全混合物は、用量シリンジ中に引き込まれ、本実施例で以前記載されたように、OGまたはNGチューブを通して投与される。
【0336】
MMFおよび/またはラパマイシンの投与後、経口胃または鼻腔胃フィードチューブは、飲料水をフラッシュされる。フラッシュ容量は、研究記録に記録される。
【0337】
以下の研究を実施して、MPSIIマウスにおけるAAV9.CB7.CI.hIDSの脳室内(ICV)送達の有効性を評価し、最小有効用量を決定した。有効性は、ベクターに対する薬力学的応答の証拠(酵素的活性のあるhIDSタンパク質の産生)、およびMPSII疾患(IDS欠損)の行動学的および組織学的兆候に対する効果に基づいた。
【0338】
この研究は、化学的に免疫抑制されたアカゲザルにおいて、画像ガイド下後頭下穿刺による投与後最高90日間のヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hIDS)をコードするベクターであるAAV9.CB.hIDSの2用量レベルの安全性、体内分布、および薬理学を評価した。対照品目は、免疫抑制されていない一匹のマカクに後頭下穿刺により投与される。AAV9.CB.hIDSは、群1~2に無作為化された5匹のアカゲザルに後頭下穿刺により投与された。群1のサルは、高用量(HD)の5x1013ゲノムコピー、GC(n=3)で試験品目を受け、群2のサルは、1.7x1013GC(n=3)の低用量(LD)で投与された試験品目を受けた。血液および脳脊髄液(CSF)は、ベースライン、7、14、21、30、45、60、および90日目の一般的な安全性パネルの一部として収集された。トランスジーン産物hIDSおよびAAV9カプシドに対する液性応答、ならびにhI2S酵素活性は、同じ時点で、血清およびCSFにおいて分析された。トランスジーン産物hI2SおよびAAV9カプシドに対するT細胞応答は、ベースライン、30、60、および90日目に血液中で評価され、90日目に脾臓および骨髄で評価された。ベクターゲノムは、ベースライン、7、14、21、30、45、60、および90日目に全血およびCSF中で定量化され、ベースライン、5、30、および90日目に尿および排泄物(排出)中で定量化された。ベクター投与後90±3日にて研究の生前フェーズが完了した後、サルは犠牲にされ、組織は、さらなる評価のために回収された。ベクターゲノムの組織病理学的評価および体内分布は、中枢神経系(CNS)、末梢神経系(PNS)、および末梢器官からの組織の包括的リストにおいて実施された。
【0339】
投与手順に関連したAEは存在せず、臨床的一般的観察、体重変化、器官重量、CBC、血清化学、または凝固パラメータに対するAAV9.CB.HIDSに関連する異常さも存在しなかった。IS手順は、幾つかの炎症パラメータの増大に伴う腸の徴候、およびAAV9.CB.HIDS投与に関連しない貧血を引き起こした。LD群からの1匹の動物(RA2233)のみが、剖検日に、リンパ球性CSF髄液細胞増加(μLあたり23細胞)を有した。
【0340】
hI2Sに対する液性免疫応答は、ISにより効果的に予防され、他の動物における最小限の応答に対して、存在しないか、または軽減された。IS動物においてhI2Sに対するT細胞応答は存在せず、LD群のみにおいてAAV9に対して最小限~中程度の応答であった。60日目のMMFの引き抜き後に、免疫応答のリバウンドは見られなかった。
【0341】
ベクター投与後に軽度のAAV9 Nab応答が存在し、これは、HD動物においてよりもLD動物においてより明らかであった。ISは、LD動物のAAV9 Nab応答に対する明確な効果は有さなかったが(ISおよび非IS動物の両方において低い)、HD動物のAAV9 Nab応答の調節において効果的であるようだった。
【0342】
ISは、AAV9.CB.HIDSで治療されたHDおよびLD動物の両方においてCSF AAV9 Nab応答を完全に予防した。
【0343】
治療に関連した知見は、高用量および低用量群の両方において同様に観察され、最小限~軽度の脊髄白質後索および坐骨神経の軸索障害からなった。白質後索および三叉神経節に突出する後根神経節における、単核性細胞湿潤を用いた最小限~軽度のニューロン細胞体の変性は、一般に研究#2と同様であり、したがって、化学的に誘導された免疫抑制は、これらの知見に影響を与えなかった。
【0344】
高いベクターコピー数の存在に関わらず、脳または脊髄内に炎症は見られなかったが、これは、高度に血管新生され、中枢神経系とは異なり保護的な血液脳関門を欠失している、後根神経節の解剖学的特異性を反映しているようだ[Sapunar Dら、Dorsal root ganglion-a potential new therapeutic target for neuropathic pain.Journal
of Pain Research.2012;5:31-38.doi:10.2147/JPR.S26603.]。
【0345】
高レベルのAAVベクターゲノムは、AAV9.CB.HIDSで治療されたすべての動物の脳、脊髄、および後根神経節にわたって検出され、平均して全CNSおよび後根神経節試料にわたって低用量群では2x10GC/μgDNAおよび高用量群では3.4x10GC/μgDNAを産生した。有意なベクター体内分布はまた、末梢部、特に、肝臓において見出され、HD動物についてはCNSよりも約10高いレベルを有し、LD動物についてはCNSと等価なレベルを有した。最も形質導入されなかった器官は、眼、腎臓、睾丸、および甲状腺であり、甲状腺での54GC/μgDNA~腎臓での8,540GC/μgDNAの平均レベルを伴った。
【0346】
1匹の動物(RA2233)は、既存のAAV9 NAb(ベースライン力価1:40)を有し、それは、肝臓、眼、心臓、肺、睾丸、および甲状腺の形質導入を完全に阻害した(ゲノムコピー非検出)が、CNSおよびPNSベクター体内分布は、影響されなかった。CNS、PNS、および末梢器官におけるベクターゲノムコピーの存在に対応して、I2S活性は、血清中では1匹を除くすべての動物において、CSF中ではすべての動物において、ベースラインを超えて急激に増大し、これは、AAV9.CB.hIDSが、髄腔内治療された動物のCSFおよび血清中の両方に存在する機能的I2S酵素を発現していることを示す。
【0347】
ベクターDNAは、AAV9.CB.HIDS投与された動物から収集されたすべての血液試料中に存在し、7日目でピークとなる。ベクターDNAのレベルは経時的に低下したが、研究.の試験品目投与後の最終時点である90日目までに完全に陰性とはならなかった。
【0348】
ベクターDNAは、最も初期の時点を含めて、CSF中よりも血液中により豊富にあり、これは、CSFから血液コンパートメントへの急激な移入を示す。
【0349】
ベクターDNA排出は、ほとんどの場合胆汁クリアランスを通して生じるので、より高いゲノムコピー値が尿中よりも排泄物中で検出された。排出は、尿中(5日目まで)よりも排泄物中(30~90日目まで)でより持続した。
【0350】
実施例11:MPSIIのマウスモデルにおける脳室内AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGの有効性
I.概要
ハンター症候群、ムコ多糖症II型(MPSII)は、グリコサミノグリカン(GAG)デルマタンおよびヘパラン硫酸のリソソーム異化作用に関与する酵素イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)の欠損により引き起こされる、X連鎖性遺伝疾患である。この欠損は、未分解GAGの細胞内蓄積に至り、結果的に進行性の重度の臨床的表現型をもたらす。遺伝子療法および体細胞療法を含む、疾患のための可能な治療的戦略を同定するために、多くの試みが、最近の20~30年でなされてきた。研究は、MPSIIのマウスモデルにおいて、ヒトI2Sを発現するAAV9ベクターであるAAV9.CB7.CI.hIDS.rBGの単回脳室内(ICV)投与の短期間(21日間)体内分布、発現、および活性を評価するために、実施された。MPSIIのマウスモデルにおいて、ICV経路を通して単回用量として投与されるAAV9.CB7.CI.hIDS.rBGの最小有効用量(MED)を決定するために、注射後(pi)3か月の観察期間を伴って、さらなる研究が設計され、実施された。研究はまた、幾つかの安全性エンドポイント(トランスジーンに対する液性免疫応答および脳組織病理学の評価)を含んだ。
【0351】
AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGは、0日目に、3x10GCまたは3x10GCまたは3x1010GCの用量で(ベクターを滴定するqPCRにより決定された)、2~3ヶ月齢のC57BL/6 I2S γ/-(MPSII)マウス(16匹の雄/群)の脳室内に投与された。21日目に、群3~5からのマウス(表6)は、安楽死され、CNS I2S活性、体内分布、および抗-hI2S免疫原性の評価のために剖検された。60日目~89日目に、野生型マウスおよび未治療MPSIIマウスは、一連の神経行動学的アッセイ(オープンフィールド、Yメイズ、コンテキスト恐怖条件付け、および新規物体認識)において評価され、これらのエンドポイントでの効果および疾患状態を特徴付けた。これらの初期アッセイの結果に基づいて、残りの治療されたマウスが、長期記憶を評価した2つのアッセイ(コンテキスト恐怖条件付けおよび新規物体認識)において評価された。AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGのICV投与のおおよそ3ヶ月後、すべての残りのマウスは、安楽死され、剖検された。血清およびCSFは、I2S活性について評価され、ならびに血清は、抗-I2S抗体について評価された。肝臓および心臓は、GAG組織含有量について評価された。脳全体的リソソーム貯蔵(主要なGAG貯蔵および二次的ガングリオシド貯蔵の両方)は、LIMP2およびGM3の免疫組織学的染色により評価された。組織ヘキソサミニダーゼレベルは、MPSIIマウスおよびMPSII患者においてより高く、リソソームホメオスタシス崩壊のバイオマーカーとなり得ることが示された。故に、組織ヘキソサミニダーゼ酵素活性は、AAV9.CB7.CI.hIDS.rBG投与に二次的であるリソソーム機能のバイオマーカーとして測定された。有効性および安全性の両方を調査するために、脳の組織病理学が評価された。
【表7】
【0352】
C57BL/6 I2S γ/-(MPSII)マウスへの最高3x1010GC(ddPCR方法により5.2x1010GC)でのAAV9.CB7.CI.hIDS.rBGのICV投与は、十分寛容化されており、臨床的徴候または死亡を伴わず、CNSおよび末梢組織、特に肝臓への分布をもたらし、故に、注射されたウイルス粒子のCSFから末梢血への部分的な再分布を実証した。
【0353】
ベクター検出により証拠付けられるような脳におけるI2S遺伝子発現の証拠、ならびに注射後(pi)21日目での脳における、および注射後3ヶ月でのCSFにおけるI2S活性の用量依存性増大が存在し、最も高い用量(脳組織)では野生型に近接する酵素活性を伴い、中および高用量(CSF)では野生型に相当するそれよりも高い酵素活性を伴った。すべての用量で注射後(pi)3ヶ月でのCNSにおけるLIMP2およびGM3染色における減少により示されるように、リソソーム画分の用量依存的正常化が存在した。H&E染色された脳セクションでは、MPSIICNS表現型の指標である、両染性細胞巣材料のグリア空胞化およびニューロン蓄積の量および頻度における用量依存的減少も観察された。CNSリソソーム含有量における変化、およびH&E染色されたセクションにおける疾患関連形態の改善に対応して、長期記憶(新規物体認識、NOR)の1つの測定において改善が存在したが、他のコンテキスト恐怖条件付け(CFC)では改善が存在しなかった。NORの改善では明らかな用量応答はみられなかった。
【0354】
血清I2S活性における用量依存性増大は、注射後(pi)3ヶ月で観察され、中および高用量において野生型に相当するか、またはそれよりも高い酵素活性を伴った。血清中のI2S活性の正常化を反映して、治療されたMPSIIマウスは、肝臓および心臓におけるヘキソサミニダーゼ活性およびGAG含有量における用量依存的減少を有した。肝臓ヘキソサミニダーゼおよびGAGレベルは、肝臓ではすべての用量レベルで正常化され、心臓では中および高用量で正常化された。高度に形質導入された肝臓(二倍体ゲノムあたり1~10GC)は、おそらく、血清中のI2Sの分泌のための貯蔵器官として作用し、より高い用量では、心臓のクロス補正を行う。
【0355】
ICV投与手順それ自体に関連する変化が一部のマウスで観察されたが、脳における試験品目に関連する毒性の証拠は存在しなかった。トランスジーンに対する液性免疫応答はごくわずかであり、一部の中および高用量動物においてのみ観察されたが、これらの動物の健康または脳組織病理学に影響は与えなかった。
【0356】
結論付けると、AAV9.CB7.CI.IDS.rBGは、すべての用量レベルでMPSIIマウスにおいて十分に寛容化され、MPSIIのCNSおよび末梢パラメータの両方における改善に関連したI2Sレベル(発現および酵素活性)の用量依存性増大をもたらした。投与された最も低用量の3x108GC(5.2x10GC ddPCR法)は、この研究での最小有効用量であった。
【0357】
II.材料および方法
A.AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGとして同定された試験品目は、透明、無色の液体であり、qPCRにより測定された場合に1.18x1013GC/mLの、ddPCRにより測定された場合に2.057x1013GV/mLの力価を伴う。エンドトキシンは、<1.0EU/mLである。純度は100%である。試験品目は、≦-60℃で貯蔵された。
【0358】
B.用量製剤および分析
1.試験品目の調製:
試験品目は、滅菌リン酸緩衝化食塩水(PBS)を用いて、各用量群のために適切な濃度まで希釈された。希釈されたベクターは、湿った氷上で保管され、希釈の4時間後に動物へ注射された。
【0359】
C.試験系
ハツカネズミ(Mus musculus)C57BL/6J I2Sγ/-(MPSII表現型、N=56、雄)およびC57BL/6J I2Sγ/+(野生型表現型、N
=8、雄)は、Jackson Laboratories(ストック番号024744)から元々得られたストックから、the Translational Research Laboratories(TRL)の動物施設において繁殖された。動物は、0日目(投与日)に2~3ヶ月齢であった。
【0360】
D.実験設計
1.研究W2356
0日目に、3~5群からのすべての動物(16匹の雄/群、W2356およびW2301研究を合わせて)に、AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGをICV投与した。21日目に、マウス/3~5群からの群(8匹の雄/群、W2356研究)を安楽死させ、剖検に供し、脳、心臓、肺、肝臓、および脾臓を収集し、脳I2S活性および組織ベクター体内分布の評価のために、ドライアイス上で軽く凍結した。
【表8】
【0361】
2.研究W2301
0日目に、3~5群からのすべての動物(16匹の雄/群)に、AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGをICV投与した。注射後(pi)2~3ヶ月:群1および2からの動物(8匹のマウス/群)を、オープンフィールド活動、Yメイズ活動、コンテキスト恐怖条件付け、および新規物体認識を含む一連の神経行動学的アッセイにおいて評価し、これらのエンドポイントにおいて疾患状態(MPSII遺伝子型)の効果が存在するかを決定した。疾患の明らかな効果が観察される場合、8匹のマウス/群3~5からの群もまたそのアッセイにおいて評価され、ベクターを用いた治療が応答に対して効果を有するかどうかを決定した。
【0362】
群1~5からの動物(神経行動学的アッセイにおいて評価されたのと同じ動物、8匹のマウス/群)は、深く麻酔をかけられ(ケタミン-キシラジン)、血清およびCSF I2S活性および血清抗-hI2S抗体の評価のために、CSF(大槽穿刺)および血液(心臓穿刺)を収集した。次いで、マウスを安楽死させ、剖検に供し、試料を、脳組織病理学、脳リソソーム貯蔵(免疫組織化学および画像分析により評価される)、肝臓および心臓ヘキソサミニダーゼ活性、ならびに肝臓および心臓GAG含有量(組織含有量により評価される)のために収集した。
【表9】
【0363】
3.試験品目の投与
ICV経路は、最小限に侵襲的であり、マウスにおいて手術処置を必要としないので(首の皮膚および筋肉の切開が必須である大槽経路と比較して)、ICV経路を選択した。マウス活動記録を含む幾つかの神経行動学的エンドポイントを含んだので、生存手術を含まない非侵襲的な注射は好ましいものであった。マウスおよび大型動物の両方において、脳脊髄液(ICVまたは大槽)へのAAV9の単回注射は、全CNS内のニューロンを標的とすることが、本発明者らおよび他者らによって以前実証された(Dirrenら、Hum.Gene.Therapy 25、109-120(2014);Snyderら、Hum.Gene Ther 22、1129-1135(2011)、Federiciら、Gene Therapy 19、852-859(2012)、Haurigotら、J Clin Invest 123、3254-3271(2013)、Bucherら、Gene Therapy 21、522-528(2014)、Hindererら、Mol Ther:22、2018-2027(2014)、およびMol
Ther-Methods&Clin Dev 1、14051(2014)]。Haurigotらにより公開されたデータ(2013)は、別のリソソーム貯蔵疾患のコンテキストにおいてICVと大槽注射との比較を詳しく述べており、2つの投与経路が、ト
ランスジーン発現および体内分布の点で等価であることを実証している。
【0364】
容量拘束(成体マウスにおけるICV注射のために5μL)に起因して実行可能な最大用量は、マウスあたりおおよそ6x1010GCであった(qPCR滴定法)。他のMPSの治療についてGTPで得られた以前の結果に起因して、およびより大型な動物へのスケーラビリティに関する懸念に起因して、ベクターは、マウスあたり3x1010、3x10、または3x10GC(qPCR滴定法)を注射するために希釈された。ddPCR法に基づいて、実際の用量は、マウスあたり5.2x1010、5.2x10、および5.2x10GCであった。若年成体C57Bl6マウスにおける0.4gの平均脳質量を考慮すると(Biology of the laboratory mouse by the staff of the Jackson laboratory、second revised edition、Earl L.Green Editor)、これは、最大用量では脳質量1グラムあたり1.31x1011GCに等価であり、最低用量では、脳質量1グラムあたり1.31x10GCに等価である。
【0365】
ベクターは、右脳側室へICV投与された。イソフルランを用いてマウスを麻酔した。麻酔された各マウスは、後頭部の皮膚をたるませることによりしっかりと握られ、3mmの深さまで挿入されるように調整された26ゲージニードルを装着したHamiltonシリンジを用いて、自由に前方および側方へ手を動かしながら、前項(bregma)に注射された。注射方法は、マウスにおいて色素または物質Pを右脳側室に注射することにより、以前確認されたものであった。成功したかどうかは、青色色素の視覚化として、または脳脊髄液への注射後のマウスの掻痒行動(物質P投与の後)により画定された。
【0366】
F.手順、観察、および測定
動物は、病的状態/死亡について、毎日モニターされた。動物は、一般的な外観、毒性の徴候、行動における苦痛および変化について、毎日、ケージ横からの視覚的観察によりモニターされた。これらのデータは、この非GLP研究に記録されなかった。
【0367】
60日目~90日目(ベクター投与の2~3ヶ月後)に、研究W2356の群1および2からの8匹の動物は、行動学的および神経認知試験に供され、これらのエンドポイントにおける遺伝子型の効果を決定した。遺伝子型の効果が同定されたら、さらなる試験が、研究W2356群3~5からの8匹の動物を用いてなされ、治療の効果があるかどうかを決定した。すべての行動手順は、遺伝子型および群に対して盲検の操作者により実施された。
【0368】
一般的な運動(オープンフィールド活動):
オープンフィールドにおける自発的活動が、光ビーム活動システム(PAS)-オープンフィールド(San Diego Instruments)を用いて測定された。このアセスメントでは、単一の10分間トライアルの間、マウスは個別に、アリーナに配置された。一般的な運動および飼育活動を評価するために、平方向および垂直方向のビームブレイクが収集された。
【0369】
b)短期記憶(Yメイズ活性):
Yメイズ自発的変更は、げっ歯類の新規環境を探索する意欲を測定するための行動学的試験である。試験は、互いに120°の角度で3本の白色不透明のプラスチックアームを有する、Y形状のメイズで行われた。メイズの中心に導入された後、動物は、3本のアームを自由に探索することを許可される。げっ歯類は、典型的に、以前訪問したものへ戻るよりも、メイズの新規アームを探索することを好む。複数のアームエントリの経過にわたって、対象は、最近訪問したアームへ入る回数が減る傾向を示すはずである。変更のパーセンテージを算出するために、アームエントリの数および三つ組の数を記録する。エント
リは、アーム内に四肢のすべてが存在するものとして定義される。この試験は、マウスのトランスジェニック系統における認知欠損を定量し、新規化学物質の認知を認知に対するそれらの効果について評価するために、使用される。海馬、隔膜、前脳基底膜、および前頭前皮質を含む脳の多くの部分がこのタスクに関与している。この研究では、標準的なY形状メイズ(San Diego Instruments)を用い、8分間のトライアルの間のアームエントリの順番および数を記録した。自発的変更(SA)は、以前に入れたアームを即時に引き戻すことなく、メイズのすべての3本のアームへの連続的エントリとして、定義された。アームエントリの総数(AE)は、運動活動の尺度として収集された。自発的変更パーセントは、%SA=(SA/(AE-2)*100)として算出された。
【0370】
c)長期記憶(コンテキスト恐怖条件付け):
これらのタスクでは、動物は、条件付けされていない嫌忌的刺激(US)、通常はフットショックを用いる時間的関連性のために、新規環境、またはトーンなどの感情的に中立の条件付け刺激(CS)を怖がるよう学習する。同じコンテキストまたは同じCSに曝露されたとき、条件付けされた動物は、フリーズ行動を示す(Abelら、Cell 88:615-626.1997)。訓練日に、マウスに、独自の条件付けチャンバー(Med Associates Inc)を300秒間探索させた。300秒の期間のうち248~250秒間、シグナルなしの1.5mAの連続的なフットショックが加えられた。チャンバーにおいてさらなる30秒後、マウスは、各自のホームケージへ戻された。24時間後、訓練が行われるのと同じチャンバー内で、連続5分間、空間的コンテキストの回想が評価された。フリーズ行動をスコア付けするために使用されるソフトウェアを用いて、記憶が評価された(Freezescan、CleverSys Inc)。訓練セッションの2.5分間の刺激前時期(フットショックの実施前)におけるフリーズパーセントが、チャンバーに再度曝露された際のフリーズパーセントと比較される。フリージングにおける増大は、フットショックの回想(すなわち、学習が存在したこと、および動物がチャンバーとフットショックを関連付けたこと)を示す。
【0371】
d)長期記憶(新規物体認識):
新規物体認識(NOR)タスクを用いて、CNS障害のげっ歯類モデルにおける認知、特に、認知記憶を評価する。この試験は、げっ歯類が馴染みにある物体よりも新規物体を探索するのにより多くの時間を過ごす自発的傾向に基づく。新規物体を探索するという選択は、学習および認知記憶の使用を反映している。新規物体認識タスクは、一般に高さおよび容積が一致しているが、形状および外観が異なっている2つの異なる種類の物体を有するオープンフィールドアリーナにおいて実施される。慣らしの間、動物は、何もないアリーナを探索することを許可される。慣らしの24時間後、動物は、等しい距離に配置された2つの同一物体を有する馴染みのあるアリーナに曝露される。翌日、長期認知記憶を試験するために、マウスは、馴染みのある物体および新規物体が存在するオープンフィールドを探索することを許可される。各物体を探索して過ごした時間と、識別指標パーセンテージとが記録される。この研究では、実験機器は、白色床上の灰色長方形アリーナ(60cmx50cmx26cm)と、金属バー3.8x3.8x15cmおよび直径3.2cmx長さ15cmのPVCパイプである2つの独特の物体から構成された。5日間の慣らし期間の間、マウスは、1~2分間/日ハンドリングされ、5分間/日、何もないアリーナを探索することが許可された。訓練期間の間、2つの同一の物体がアリーナ中に配置され、マウスは、15分間、物体を探索することが許可された。回想期間では、マウスは、馴染みのある1つの物体と1つの新規物体とを有するアリーナに戻された。正常なマウスは、優先的に新規物体を探索する。すべてのセッションが記録され、物体を探索するのに過ごした時間が、オープンソースイメージ分析プログラム[PatelらFront Behav Neurosci 8:349(2014)]。
【0372】
I.実験室的評価
1.血清およびCSF中のI2S活性
血清およびCSF I2S活性のための血液は、注射のおおよそ3ヶ月後の剖検時に収集された。血清は血液から分離され、血清およびCSFはドライアイス上で凍結され、分析時まで-80℃で貯蔵した。I2S活性は、10μL試料を、0.1Mの酢酸ナトリウムおよび0.01Mの酢酸鉛、pH5.0中に溶解した20μLの1.25mMの4-メチルウンベリフェリル(MU)-L-イドピラノシドウロン酸2-サルフェート(Santa Cruz Biotechnology)とともにインキュベートすることにより、測定された。37℃で2時間インキュベートした後、45μLのMcIlvain緩衝液(0.4Mのリン酸ナトリウム、0.2Mのクエン酸ナトリウム、pH4.5)および5μLの組換えヒトイズロニダーゼ(Aldurazyme、0.58mg/mL、Genzyme)を反応混合液へ加え、一晩37℃でインキュベートした。混合液をグリシン緩衝液、pH10.9で希釈し、放出された4-MUを蛍光(励起365nm、発光450nm)により定量化し、遊離4-MUの標準希釈液と比較した。
【0373】
2.血清抗-I2S抗体
血清抗-hI2S抗体の測定のための血液が、研究W2356(21日目)および研究W2301の最終的な剖検エンドポイント(おおよそ3ヶ月)にて、心臓穿刺により収集された。血清は分離され、ドライアイス上で凍結され、分析時まで-80℃で貯蔵した。ポリスチレンプレートは、pH5.8に滴定されたPBS中の組換えヒトI2S(R&D
Systems)5μg/mLを用いて一晩コーティングされた。プレートは洗浄され、中性PBS中の2%のウシ血清アルブミン(BSA)中で1時間ブロッキングされた。次いで、プレートは、PBS中の1:1000に希釈された血清試料とともにインキュベートされた。結合された抗体は、2%のBSAを伴うPBS中の1:10,000に希釈された西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートヤギ抗-マウス抗体(Abcam)を用いて検出された。アッセイは、テトラメチルベンジジン基質を用いて発展され、450nmでの吸光度を測定する前に、2Nの硫酸を用いて停止された。力価は、恣意的に1:10,000の力価を割り当てた、陽性血清試料の連続希釈により作成された標準曲線から決定された。
【0374】
以前記載されたように(Bellら、2006)、QIAmp DNAミニキットを使用して、DNAを高用量群の組織から単離し、ベクターゲノムをTaqMan PCRにより定量した。総細胞DNAは、QIAamp DNAミニキット(Qiagen、Valencia、CA、USA)を用いて組織から抽出された。抽出されたDNA中のベクターゲノムの検出および定量化は、rBGポリA配列を標的とするプライマーおよびプローブを用いて、リアルタイムPCR(TaqMan Universal Master
Mix、Applied Biosystems、Foster City、CA、USA)により実施された。
フォワードプライマー:5V-TTCCCTCTGCCAAAAATTATGG-3V、配列番号16、
リバースプライマー:5V-CCTTTATTAGCCAGAAGTCAGATGCT-3V、配列番号17、
プローブ:6FAM-ACATCATGAAGCCCC-MGBNFQ、配列番号18。
【0375】
PCR条件は、それぞれ、鋳型としての100ngの総細胞DNA、300nMのプライマー、および200nMのプローブにて設定された。サイクルは、95Cで10分間、95℃で15秒間および60℃で1分間の40サイクルであった。100ngのDNAあたりの1x10ゲノムコピーの値は、1細胞あたり1ゲノムコピーを表すために算出された。
【0376】
H&E染色が、標準プロトコルに従って、注射後(pi)3ヶ月の剖検からのホルマリン固定パラフィン包埋頭側脳セクションについて実施された。脳のH&Eセクションは、委員会認定の獣医病理学者により、毒性の証拠について評価され、MPSII表現型に関連する知見の範囲が、特徴付けられた。続いて、病理学者は、治療の知識がない状態で、スライドを再調査し、グリア細胞質空胞化、ニューロン細胞質膨張、および両染性細胞巣材料の蓄積を含むMPSII表現型の組織学的兆候をスコア付けした。LIMP2およびGM3についての細胞染色陽性の数が、熟練のGTP形態学コア人材により、W2356研究からの各動物からの2-4つの脳セクションにおいて定量化された。
【0377】
GM3(凍結切片):GM3免疫染色は、一次抗体としてモノクローナル抗体DH2(Glycotech、Gaithersburg、MD)、続いて、ビオチン化二次抗-マウス抗体(Jackson Immunoresearch、West Grove、PA)を用いて、記載されたように、30μm厚の浮遊凍結セクションに対して実施され、検出は、Vectastain Elite ABCキット(Vector Labs、Burlingame、CA)を用いた。染色されたセクションをガラススライド上に移し、Fluoromount G(Electron Microscopy Sciences、Hatfield、PA)を用いてマウントした。
【0378】
LIMP2(ホルマリン固定したセクション):ホルマリン固定パラフィン包埋した脳組織からの6μmのセクションについて、LIMP2免疫染色を実施した。セクションは、エタノールおよびキシレンシリーズによって、脱パラフィン包埋され、抗原賦活化のために10mmol/Lのクエン酸緩衝液(pH6.0)中で6分間、電子レンジ中で沸騰され、PBS+0.2%のトリトン中の1%のロバ血清を用いて15分間ブロッキングされ、続いて、ブロッキング緩衝液中で希釈した一次(1時間)および標識化二次(45分間)抗体を用いて連続的インキュベーションされた。一次抗体は、ウサギ抗-LIMP2(Novus Biologicals、Littleton、CO、1:200)であり、二次抗体は、FITC-またはTRITC-標識化ロバ抗-ウサギ(Jackson
Immunoresearch)であった。
【0379】
上記のように得られた組織試料(セクションb)は、組織溶解液(Qiagen)を用いて、溶解用緩衝液(0.2%のトリトン-X100、0.9%のNaCl、pH4.0)中で均質化した。試料は、凍結解凍し、遠心分離により清澄化した。タンパク質は、BCAアッセイにより定量化した。I2S活性は、蛍光発生基質4-メチルウンベリフェリルα-L-イドピラノシドウロン酸2-サルフェート(Santa Cruz Biotechnology)を用いて測定された。ヘキソサミニダーゼ活性およびGAG濃度は、記載されたように標準手順を用いて測定された(Hindererら、2015)。
【0380】
IV.コンピュータ化されたシステム
オープンフィールドについては、データはエクセルに入力され、Graphpad Prismを用いて分析した。Yメイズについては、データはエクセルに入力され、Graphpad Prismを用いて分析した。CFCについては、Freezescan、CleverSys Incが使用された。NORについては、MATLAB実装およびユーザガイド:www.seas.upenn.edu/~molneuro/autotyping.htmlが利用された。
【0381】
V.統計的分析
治療されたマウスおよび未治療マウスにおける組織GAG含有量、Hex活性、および脳貯蔵病変は、一元ANOVA、続いて、Dunnettの多重比較検定を用いて比較された。オープンフィールドおよびYメイズデータは、Studentのt-検定を用いて
分析された。二元ANOVAおよびDunnettの事後(post-hoc)分析を、恐怖条件付けデータに適用して、トライアルおよび遺伝子型効果を評価した。新規物体認識試験のために、各群についてt-検定を用いて、次いで、多重比較のためにBonferroni補正を用いて、馴染みのある物体を探索する時間に対する新規物体を探索する時間を比較した。
【0382】
VI.結果
死亡は全く観察されなかった。ベクターを用いた治療に関連したと考えられた臨床的観察は存在しなかった。
【0383】
一般的な運動活動を評価するために、オープンフィールド試験が実施された。I2Sγ/-マウスは、野生型同腹仔と比較して、オープンフィールドアリーナにおいて正常な探索活動を示した(図9A~9C)。
【0384】
オープンフィールドアリーナにおける野生型およびI2Sγ/-(MPSII)マウスパフォーマンス(水平方向の動き)の比較が実施された(図9A)。10分間トライアルの間の自発的活動は、水平方向の動きを捕らえるXY-軸ビームブレイクに基づいて自動的に記録された。WTとMPSIIマウスとの間には、差異は見られなかった。
【0385】
オープンフィールドアリーナにおける野生型およびI2Sγ/-(MPSII)マウスパフォーマンス(垂直方向の動きまたは後退)の比較が実施された(図9B)。10分間トライアルの間の自発的活動は、マウスの後肢の後退を捕らえるZ-軸ビームブレイクに基づいて自動的に記録された。WTとMPSIIマウスとの間には、差異は見られなかった。
【0386】
オープンフィールドアリーナにおける野生型およびI2Sγ/-(MPSII)マウスパフォーマンス(中心の活動)の比較が実施された(図9C)。10分間トライアルの間の自発的活動は、不安のマーカーとして、オープンアリーナで過ごした時間を捕らえる中心ビームブレイクに基づいて自動的に記録された。WTとMPSIIマウスとの間には、有意な差異は見られなかった。
【0387】
短期記憶を評価するために、Y-メイズ活性が分析された。8分間のYメイズ試験セッションの間の野生型およびI2Sγ/-(MPSII)マウスの比較。WTとMPSIIマウスとの間には、アームエントリの総数に関して差異は見られなかった。I2Sγ/-マウスはまた、野生型同腹仔と比較して、Yメイズにおいて同様のアームエントリ数を有し、等価な自発的変更を有し、これは、疾患プロセスが短期記憶に影響しないことを示す(図9D)。
【0388】
長期記憶を評価するために、コンテキスト恐怖条件付け(FC)が実施された。コンテキスト恐怖条件付けを用いる認知に対する治療効果の評価が、野生型、未治療、および治療されたMPSIIマウスにおいて試験された。フリーズパーセントが、y軸にプロットされた(図6B)。学習前の(Pre)フリーズ行動は、各群について、条件付け(プローブ)後のフリーズ行動と比較される(図6B)。FCアッセイでは、すべてのマウス(I2Sγ/-および野生型)は、学習が生じたことを実証する、試験の回想期の間のフリーズ時間パーセントにおいて増大を示したが、I2Sγ/-マウスは、野生型同腹仔に対して減少したフリージングを示した(データは示されていない)。AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGで治療されたマウスでは、治療に関連する効果は、正常および未治療I2Sγ/-マウスの間の小さな差異に起因して評価することが困難だったが、治療された動物では、コンテキスト恐怖条件付けに応答しての明確な改善は存在しなかった(図6B)。
【0389】
長期記憶をさらに評価するために、新規物体認識が実施された。新規物体認識を用いる認知に対する治療効果の評価が、野生型、未治療、および治療されたMPSIIマウスにおいて試験された。野生型、未治療、および治療されたI2Sγ/-(MPSII)マウスについて、新規物体を探索して過ごして時間、対、馴染みのある物体を探索して過ごした時間の比較が実施された。新規物体を探索して過ごす時間の増大(馴染みのある物体を記憶していることを示す)は、治療されたマウスのすべての群においてみられたが、中用量群においてのみ統計的に有意であった(図6C)。野生型マウスは、予想通り、新規物体に対する優先度を実証したが、I2Sγ/-は優先度を示さず、これは、馴染みのある物体の記憶の欠失(長期記憶障害)を示す。髄腔内AAV9遺伝子療法は、I2Sγ/-(MPSII)マウスにおいて観察されたNOR欠損の改善をもたらしたが、明確な用量応答は伴わなかった。研究は、投与群の間の行動学的欠損の救済の相対的程度を比較するためには十分強力なものではなかったが、新規物体についての優先度は、中用量コホートにおいてのみ統計的に有意であった(図6C)。
【0390】
野生型、未治療、および治療されたMPSIIマウスにおいて、脳I2S活性(21日目)における用量依存的増大が観察された(図2B)。高用量群のみが、この初期の時点で野生型と同様のレベルを有したが、これは、発現がその最大点までにまだ到達していないためと予想された。
【0391】
野生型、未治療、および治療されたMPSIIマウスにおいて、I2S活性(90日目)における用量依存的増大が、注射後(pi)3か月の剖検時に収集されたCSF中で観察された(図2A)。本質的に、未治療I2Sγ/-(MPSII)マウスでは、I2S活性は全く検出されなかった。
【0392】
さらに、野生型、未治療、および治療されたMPSIIマウスにおいて、血清I2S活性(90日目)における用量依存的増大が、注射後(pi)3か月の剖検時に検出された(図2C)。本質的に、未治療γ/-(MPSII)マウスの血清中に、活性は本質的には全く検出されなかった。
【0393】
注射後(pi)3ヶ月にて、ヘキソサミニダーゼ活性(90日目)は、野生型、未治療、および治療されたMPSIIマウスの肝臓(図4C)および心臓(図4D)の両方において用量依存的様式で正常化された。二次的に増大された酵素活性のこの正常化は、リソソームホメオスタシスの回復を示した。
【0394】
野生型、未治療、および治療されたMPSIIマウスにおける肝臓および心臓GAG貯蔵が調査された。注射後(pi)3ヶ月にて、GAGの組織含有量が、心臓(図4B)および肝臓(図4A)の両方で用量依存的に軽減され、これは、中および高用量レベルでの野生型組織含有量に匹敵した。肝臓は、すべての用量で補正され、心臓は、中および高用量のほとんどで部分的な改善を示した。
【0395】
さらには、ヒトI2Sに対する抗体応答により表れる液性免疫原性は、ICV AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGを用いて治療されたMPSIIマウスにおいて評価された。ヒトI2Sに対する抗体は、21日目および90日目の両方において、中および高用量コホートにおいてのみ、何匹かの動物の血清中で検出された(図8)。両時点では、ほとんどの動物は、検出可能な液性免疫応答を有さなかった(対照と同様)。中用量の約3分の1の動物および動物群の約20%は、バックグラウンドを上回る抗体レベルを有した。応答は、高用量群においてより明確ではなかった。図8は、両方の剖検エンドポイントデータをまとめて示す。
【0396】
脳.において治療関連の組織病理学知見は存在しなかった。この研究において提示されるすべての顕微鏡的知見は、この種、年齢、および性別の動物についての正常なバックグラウンドであるか、疾患モデルに関連しているか、またはベクター投与手順に関連しているかを考慮された。
【0397】
細胞質空胞化に基づくスコア付けシステムが構築され、治療または表現型の知識がない状態で、すべての試験動物の引き続く再評価のために使用された。核の常軌を逸したまたは末梢的な置換を伴う大きな透明の空胞により特徴付けられる、グリアのおける細胞質空胞化は、I2Sγ/-遺伝子型の特色のある特徴であった。評価された脳領域では、空胞化の量において領域により変化が見られた。両染性細胞巣材料のニューロン蓄積は、突出しておらず、未治療I2Sγ/-マウスにおいてのみ観察された。AAV9.CB7.CI.hIDS.RBGを用いた治療は、調べたすべての脳領域において、両染性細胞巣材料のグリア空胞化およびニューロン蓄積の量および頻度を軽減した。累積病理学的スコアは、グリアおよびニューロン病変における治療関連の改善を実証している(図27)。
【0398】
野生型、未治療、および治療されたMPSIIマウスにおけるGM3およびLIMP2の免疫組織化学的染色が、実施された。未治療I2S γ/- マウスの脳は、リソソームメンブレンタンパク質LIMP2の蓄積、およびGM3を含むガングリオシドの二次貯蔵を含む、ニューロンにおけるリソソーム貯蔵の明確な組織学的証拠を示す(図5A~5J)。画像は、すべての用量でリソソーム貯蔵の減少があり、高用量群の動物では本質的にWT対照と同様であったことを実証した(図5A~5J)。GM3-およびLIMP2-陽性細胞における用量依存的減少の定量化は、野生型、未治療、および治療されたMPSIIマウスにおいて実施された。すべての用量でリソソーム貯蔵の有意な減少があり、高用量群の動物では本質的にWT対照と同様であった。治療されたマウスは、LIMP2およびGM3染色の減少により証拠付けられるように、ニューロンの貯蔵病変における用量依存的減少を実証した(図5K~5L)。
【0399】
高用量群からのMPSIIマウスにおけるAAV9.CB7.CI.hIDS.rBGの体内分布(21日目)が分析された。体内分布データは、評価された末梢組織、特に、肝臓と同様に、脳組織が形質導入された(二倍体ゲノムあたり1~10GC)ことを実証した(図3)。肝臓およびCNSにおける濃度は、1~10GC/二倍体ゲノムであり、肺における濃度は、0.1~1GC/二倍体ゲノムであり、心臓および脾臓における濃度は、0.1GC/二倍体ゲノム未満であった。
【0400】
VIII.結論
C57BL/6 I2S γ/-(MPSII)マウスへの最高3x1010GC(5.2x1010GC、ddPCR方法)でのAAV9.CB7.CI.hIDS.rBGのICV投与は、十分寛容化されており、臨床的徴候または死亡を伴わず、CNSおよび末梢組織、特に肝臓への分布をもたらし、注射されたウイルス粒子のCSFから末梢血への部分的な再分布を示した。
【0401】
ベクター検出により証拠付けられるような脳におけるI2S遺伝子発現の証拠、ならびに注射後(pi)21日目での脳における、および注射後3ヶ月でのCSFにおけるI2S活性の用量依存性増大が存在し、高用量(脳組織)では野生型に近接する酵素活性を伴い、中および高用量(CSF)では野生型に相当するそれよりも高い酵素活性を伴った。すべての用量で注射後(pi)3ヶ月でのCNSにおけるLIMP2およびGM3染色における減少により示されるように、リソソーム画分の用量依存的正常化が存在した。H&E染色された脳セクションでは、MPSIICNS表現型の指標である、両染性細胞巣材料のグリア空胞化およびニューロン蓄積の量および頻度における用量依存的減少も観察された。CNSリソソーム含有量における変化、およびH&E染色されたセクションにおけ
る疾患関連形態の改善に対応して、長期記憶(新規物体認識)の1つの測定において改善が存在したが、長期記憶の他の測定、コンテキスト恐怖条件付けでは改善が存在しなかった。NORの改善では明らかな用量応答はみられなかった。CNS機能の他の試験、オープンフィールド試験およびYメイズにおけるMPSIIマウスのパフォーマンスは、野生型マウスのものに匹敵し、したがって、ベクターで治療されたマウスは、これらのアッセイで評価されなかった。
【0402】
血清I2S活性における用量依存性増大は、注射後pi3ヶ月でも観察され、野生型に相当するか(低用量)、またはそれよりも高い酵素活性を伴った(中/高用量)。血清におけるI2S活性の正常化を反映して、MPSIIマウスは、肝臓および心臓におけるヘキソサミニダーゼ活性およびGAG含有量において用量依存的減少を有し、肝臓ヘキソサミニダーゼおよびGAGレベルは、すべての用量レベルで正常化され、心臓ヘキソサミニダーゼおよびGAG活性は、それぞれ中用量および高用量で正常化された。高度に形質導入された肝臓(二倍体ゲノムあたり1~10GC)は、おそらく、血清中のI2Sの分泌のための貯蔵器官として作用し、より高い用量では、心臓のクロス補正を行う。
【0403】
ICV投与手順それ自体に関連する変化が一部のマウスで観察されたが、脳における試験品目に関連する毒性の証拠は存在しなかった。トランスジーンに対する液性免疫応答はごくわずかであり、一部の中および高用量動物においてのみ観察されたが、これらの動物の健康または脳組織病理学に影響は与えなかった。
【0404】
結論付けると、AAV9.CB7.CI.IDS.rBGは、すべての用量レベルでMPSIIマウスにおいて十分に寛容化され、MPSIIのCNSおよび末梢パラメータの両方における改善に関連したI2Sレベルの用量依存性増大をもたらした。
【0405】
投与された最も低用量の3x108GC(5.2x10GC ddPCR)は、この研究での最小有効用量であった。
【0406】
実施例12-ヒトへの遺伝子療法ベクターの送達
AAV9.CB7.hIDS(ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ発現カセットを含有する組換えアデノ随伴ウイルス血清型9カプシド)。産物は、単回用量の槽内(IC)投与として送達される。2つの用量レベル、1.3×1010ゲノムコピー(GC)/g脳質量(用量1)、および6.5×1010GC/g脳質量(用量2)が評価され得る。投与された総用量は、研究対象の年齢に基づくそれらの推定脳サイズを説明するものである。投与される産物の総容積は、5mL未満であり得る。
【0407】
主な目的:
●重度のMPSIIを有するか、または有することが予想される小児対象に投与された単回槽内(IC)用量の後の24週間にわたってAAV9.hIDS試験製品の安全性および忍容性を評価すること。
【0408】
二次的な目的:
●AAV9.hIDS試験製品の長期間の安全性および忍容性を評価すること。
●脳脊髄液(CSF)、血漿、および尿におけるバイオマーカーに対するAAV9.hIDS試験製品の効果を評価すること。
●認知、行動学的、および適応機能の神経発達学的パラメータに対するAAV9.hIDS試験製品の効果を評価すること。
●CSF、血漿、および尿におけるベクター排出を評価すること。
【0409】
探索的な目的:
●AAV9.hIDS試験製品の免疫原性を評価すること。
●CNSに対する物理的変化に対するAAV9.hIDS試験製品の効果を探索すること。
●疾患の全身兆候に対するAAV9.hIDS試験製品の効果を探索すること。
●聴力に対するAAV9.hIDS試験製品の効果を探索すること。
●IV ERT(エラプラーゼ(登録商標))を一時的に中止している対象における血漿および尿中のバイオマーカーに対するAAV9.hIDS試験製品の効果を探索すること。
●生活の質および睡眠測定に対するAAV9.hIDS試験製品の効果を探索すること。
【0410】
これは、AAV9.hIDS試験製品の、フェーズI/II、ヒト初回、多施設、非盲検、シングルアーム用量漸増研究である。対照群は、含まれない。重度のMPSIIを有するか、または有すると予想される、おおよそ6人の小児対象は、2用量コホート、1.3×1010GC/g脳質量(用量1)または6.5×1010GC/g脳質量(用量2)に登録することができ、IC注射により投与される単回用量のAAV9.hIDS試験製品を受けることになる。安全性は、治療後の最初の24週間(主要な研究期間)の主要な焦点となり得る。主要な研究期間の完了後、対象は、AAV9.hIDS試験製品を用いた治療の後の合計104週までの間、引き続き評価される(安全性および有効性)。研究の終了時に、対象は、長期間のフォローアップ研究に参加することを誘われる。
【0411】
第1の3人の適格な対象は、用量1コホート(1.3×1010GC/g脳質量)に登録される。第1の対象にAAV9.hIDS試験製品を投与した後、安全性のために8週間の観察期間を設ける。
【0412】
潜在的な対象は、研究.のための適格性を決定するために投与の最大35日までにスクリーニングされる。適格性基準を満たすこれらの対象は、-2日目~1日目の朝に入院し(施設実務に従って)、ベースライン評価が、投与前に実施される。対象は、1日目にAAV9.hIDSの単回IC用量を受け、観察のために投与後およそ30~36時間は病院に留まる。主要な研究期間(すなわち、24週目まで)における引き続きの評価が、4週目までは毎週、ならびに8週目、12週目、16週目、20週目、および24週目に実施される。主要な研究期間の後、ビジットは、28週目、32週目、40週目、48週目、52週目、56週目、64週目、78週目、および104週目に実施される。12週目、40週目、および64週目のビジットは、家庭健康指導看護師により実施されてもよい。20週目および28週目の評価は、電話連絡による、AEおよび併用療法の評価に限定される。
【0413】
すべての対象は、初めに、動物において実施された前臨床的安全性/毒物学的研究における潜在的な免疫原性の知見に基づく研究において免疫抑制(IS)を受け、それは、コルチコステロイド(1日目に1回、前用量のメチルプレドニゾロン10mg/kg静脈内[IV]と、2日目に0.5mg/kg/日で開始し、徐々に量を減らし、12週目までに中止する経口プレドニゾン)と、タクロリムス(2日目~24週目に経口により1日2回[BID]1mg、標的血液レベル4~8ng/mLを伴い、24週目~32週目に8週間にわたって、徐々に量を減らす)と、シロリムス(-2日目に1mg/mの負荷用量、4時間毎に3用量、次いで、-1日目から、シロリムス0.5mg/m/日、BID用量で分割、48週目まで標的血液レベル4~8ng/mlを伴う)と、を含む。神経学的評価およびタクロリムス/シロリムス血液レベルモニタリングが、実施される。
【0414】
小児の発達初期に生じる比較的急速な脳成長のために、IC投与されるRGX-121の総用量は、異なる年齢層にわたって推定される脳質量に依存する。研究対象についての
年齢ごとに推定される脳質量は、公開されたデータに基づく(Dekaban Ann Neurol.1978 Oct;4(4):345-56(1978)。
【0415】
エンドポイント:
主要なエンドポイント:
●24週目までの安全性:AEおよび深刻な有害事象(SAE)
二次エンドポイント:
●104週目までの安全性:AE報告、ラボ評価、バイタルサイン、ECG、身体検査、および神経学的評価
●CSF(GAG、12S活性)、血漿(GAS、I2S活性)、および尿(GAG)におけるバイオマーカー。
●認知、行動学的、および適応機能の神経発達学的パラメータ:
○乳幼児発達のBayleyスケール、3rd Edition(BSID-III)(Bayley 2005)または小児用Kaufmanアセスメント群、2nd Edition(KABC-II)(Kaufman 2004)。
○Vineland適応行動スケール、2d Edition、包括的対談形態(VABS-II)(Sparrowら、2005
AAV9.hIDSデオキシリボ核酸(DNA)に対する定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による、CSF、血漿、および尿におけるベクター濃度。
【0416】
診査エンドポイント:
●免疫原性測定
○CSFおよび血清中の、AAV9に対する中和抗体力価およびI2Sに対する結合抗体力価
○酵素結合免疫スポット(ELIスポット)アッセイ:AAV9およびI2Sに対するT細胞応答
○フローサイトメトリー:AAV-およびI2S-特異的調節T細胞
●脳の磁気共鳴画像法(MRI)により評価されたCNS構造異常さ
●腹部のMRIおよび超音波により評価された肝臓および脾臓サイズ
●聴覚脳幹応答(ABR)試験により測定された聴力変化
●IV ERT(エラプラーゼ(登録商標))を一時的に中止している対象における、血漿および尿総GAG、ヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸
●PedsQL(バージョン4)
●睡眠スケールの全体的印象
【0417】
おおよそ6人の対象が登録される。
●用量1コホートに3人の対象。
●用量2コホートに3人の対象。
●IDMCは、さらなる対象を追加することを推奨してもよい。
【0418】
研究の総期間は、24週間の主要な安全性評価時点を伴って、投与後104週間となる。スクリーニングは最高35日となり得る。
【0419】
ある実施形態では、主要な組み入れ基準は:
●血漿、線維芽細胞、または白血球中で測定されるような酵素活性により確認される、MPSII診断の文書を有する。
●18ヶ月齢以上の男性であり、以下の基準のうちの1つを満たす:
○スクリーニング時に6歳未満、かつ、神経認知スコア試験≦77を有するが、スコアリング(BSID-IIIもしくはKABC-II)下限より上回る、または
○6歳未満であり、かつ、連続して>1の標準偏差の低下を有する、
○神経認知試験(BSID-IIIもしくはKABC-II)、または
○スクリーニング時に4歳未満であり、以下の基準の両方を満たす:
■IDSの完全な欠失、またはIDS遺伝子の大きな(すなわち、スパニング≧1エクソン)欠失/転位、および
■同じIDS変異を有する重度のMPSIIと診断された兄弟姉妹
【0420】
ある実施形態では、主要な排除基準は以下を含む。
●IC注射についての禁忌を有する。
●ISに対する禁忌を有する。
●脳室腹腔(VP)シャントを有する。
●造血幹細胞移植(HSCT)を受けている。
●髄腔内(IT)投与によるイズルスルファーゼ[エラプラーゼ(登録商標)]を受けた。
●スクリーニング前3ヶ月以内である。
●任意の時点でITイズルスルファーゼ(Elaprase(登録商標))を受け、PIの判断では、対象を危険な状況に置く可能性のある、IT投与に関連すると考えられる有意なAEを経験した。
●IVイズルスルファーゼ[エラプラーゼ(登録商標)]を受け、IVに関連すると推測されるアナフィキラシーを含む重大な過敏性反応を経験した。
●イズルスルファーゼ[エラプラーゼ(登録商標)]投与。(現在IVイズルスルファーゼの投与を受けていて、投与中断または週1回とは異なる投与レジメンが必要な場合には、医療用モニタを用いた議論が必要とされる)
【0421】
ある実施形態では、この研究に参加するために適格であるために、対象は、以下のすべての組み入れ基準を満たす必要がある。
1.対象の法的な後見人(複数可)が、研究の性質が説明された後、研究に関連する任意の手順を開始する前に、署名された書面のインフォームドコンセントを提出する意思があり、提出することが可能である。
2.18ヶ月齢以上の男性である。
3.以下の基準の1つを満たす。
a.MPSIIの診断文書を有し、かつ、4ヶ月齢以上、5歳未満であり、かつ、>55および≦77の神経認知試験スコアを有するか(BSID-IIIもしくはKABC-II)、または
b.MPSIIの診断文書を有し、≧4ヶ月および<5歳であり、かつ、連続した神経認知試験(BSID-IIIもしくはKABC-II)において≧1の標準偏差の低下を有し、>55の試験スコアを有するか、または
c.対象と同じIDS変異を有し、かつ、遺伝学者の意見ではMPSIIの重度の形態を遺伝した、重度のMPSIIを有すると相関的に診断されている
4.補助の有無に関わらず、必要とされるプロトコル試験を完了するために、十分な聴力および視力を有し、試験日に妥当な場合には、補助器具を装着することに従う
以下の排除基準のいずれかを満たす対象は、研究に参加する適格性はない。
5.以下のいずれかを含むIC注射についての禁忌を有する。
a.研究に参加する神経放射線科医/神経外科医のチーム(部門あたり1人)によるベースラインMRI試験のレビューにより、IC注射についての禁忌が示される。
b.研究に参加する神経放射線科医/神経外科医のチームによる入手可能な情報のレビューに基づき、IC注射に対する禁忌を結果としてもたらす、以前の頭部/頸部手術の経歴。
c.コンピュータ断層撮影(CT)、コントラスト物質、または全身麻酔に対して任意の禁忌を有する。
d.MRIまたはガドリニウムに対するいずれかの禁忌を有する。
6.<30mL/分/1.73mの推定の糸球体濾過速度(eGFR)を有する、プレドニゾン、タクロリムス、またはシロリムスを用いた治療を禁忌とし得る任意の状態を有する。
7.MPSIIに起因しない任意の神経認知欠損、またはPIの意見では研究結果の解釈を混同する可能性のある神経精神医学的状態の診断を有する。
8.腰部穿刺に対していずれかの禁忌を有する。
9.室内シャントを有する。
10.造血幹細胞移植(HSCT)を受けている。
11.AAVに基づく遺伝子療法製品を用いた前治療を受けた。
12.髄腔内(IT)投与によるイズルスルファーゼ[エラプラーゼ(登録商標)]を受けた。
13.イズルスルファーゼ[エラプラーゼ(登録商標)]IVを受け、IVイズルスルファーゼ投与に関連すると推測されるアナフィキラシーを含む重大な過敏性反応を経験した。現在IVイズルスルファーゼの投与を受けていて、投与中断または週1回とは異なる投与レジメンが必要な場合には、神経認知欠損医療用モニタを用いた議論が必要とされる。
14.どちらが長期であってもよいが、インフォームドコンセントフォームICF)に署名する前の、1日目の30日以内、または5半減期以内に、任意の調査製品を受けている。
15.スクリーニングの前の少なくとも3ヶ月間で完全に寛解していない、リンパ腫の任意の病歴、または皮膚の扁平上皮細胞もしくは基底細胞癌腫以外の別の癌の病歴。
16.マイクロリットル(μL)あたり<100,000の血小板数を有する。
17.対象が、Gilbert症候群の以前に知られた病歴を有さず、総ビリルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンを有さない限り、スクリーニング時にアミノトランスフェラーゼ(ALT)もしくはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)>3×ULN、または総ビリルビン>1.5×ULNを有する。
18.最大限の医学的治療にも関わらず、制御されていない高血圧(収縮期血圧[BP]>180mmHg、弛緩期BP>100mmHg)
19.ヒト免疫欠損ウイルス(HIV)もしくはB型肝炎もしくは肝炎ウイルス感染の病歴を有するか、またはB型肝炎表面抗原もしくはB型肝炎コア抗体、もしくはC型肝炎もしくはHIV抗体についてのスクリーニング試験で陽性を有する。
20.臨床部門の従業員、もしくは研究の実施に関与した任意の他の個人の一等親の家族であるか、または臨床部門の従業員もしくは研究の実施に関与した他の個人である。
21.PIの意見では対象の安全性を損なう可能性のある臨床的に有意なECG異常値を有する。
22.PIの意見では対象の安全性、または研究参加の成功、または研究結果の解釈を損なう可能性のある、重大なまたは不安的な医学的または心理学的状態を有する。
23.PIの意見において対象を危険な状況へと置く可能性のある制御されていない発作を有する。
免疫抑制療法に関連する排除基準。
24.タクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾンに対する過敏反応の病歴を有する。
25.主要な免疫欠損(例えば、一般的な不定の免疫欠損症候群)、脾摘出、または対象を易感染性とする任意の基底状態の病歴を有する。
26.スクリーニングの少なくとも12週間前に完全に解決されていない、帯状疱疹(VZV)、サイトメガロウイルス(CMV)、またはEpstein-Barrウイルス(EBV)感染を有する。
27.少なくともビジット2の8週間前に解決されていない、入院または非経口抗感染薬を用いる治療を必要とする任意の感染を有する。
28.ビジット2前の10日以内に経口抗炎症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とする
任意の活性のある感染を有する。
29.スクリーニング中に、活動性結核(TB)、またはQuantiferon-TBゴールド試験で陽性の病歴を有する。
30.ICFに署名する前の8週間以内に任意の生ワクチンを有する。
31.ICFに署名する前の8週間以内に大手術を受けたか、または研究期間中に計画された大手術を受けた。
32.登録の6ヶ月以内にアデノイド切除術または扁桃摘出術の必要性が予期される。
33.<1.3×10/μLの絶対的好中球数を有する。
34.免疫抑制療法に適切でないとPIが考える任意の状態またはラボ的異常値を有する。
【0422】
(配列表フリーテキスト)
以下の情報は、識別数字<223>の下でフリーテキストを含有する配列を提供する。
【表10-1】
【表10-2】
【表10-3】
【表10-4】
【表10-5】
【表10-6】
【0423】
本明細書で引用されたすべての刊行物、特許、特許出願、ならびに2017年10月18日に出願された米国仮特許出願第62/573,841号、2017年9月22日に出願された米国仮特許出願第62/562,179号、および2017年9月22日に出願された米国仮特許出願第62/561,769号、ならびに本明細書とともに出願された配列表は、その個々の刊行物または特許出願が具体的および個別に参照により組み込まれることが指示されているかのように、参照によりそれらのすべてが、本明細書に組み込まれる。前述した本発明は、理解を明確にするという目的のための説明および例示のために、部分的に詳細に記載されてきたが、本発明の教示を照らし合わせて、添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなく、特定の変更および修飾を本発明に加えることが可能であることが、当業者には容易に明らかであろう。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A-5J】
図5K
図5L
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図11
図12A-12F】
図12G
図12H
図12I
図13
図14A-14H】
図15A
図15B-15D】
図15E-15N】
図15O
図15P
図15Q
図16A
図16B
図17
図18A-18H】
図19A
図19B
図20A
図20B
図20C
図20D
図20E
図20F
図20G
図20H
図20I
図20J
図21A
図21B-21H】
図21I
図21J
図21K
図22A
図22B
図23
図24
図25
図26A
図26B
図26C
図27
図28
図29
【配列表】
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