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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】電気化学プロセス
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/02 20210101AFI20240306BHJP
   C25B 11/049 20210101ALI20240306BHJP
   C25B 9/65 20210101ALI20240306BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240306BHJP
   C25B 11/087 20210101ALI20240306BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B11/049
C25B9/65
C25B11/052
C25B11/087
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020533216
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2018085843
(87)【国際公開番号】W WO2019121915
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】17382867.4
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509181611
【氏名又は名称】レプソル,エス.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エルナンデス アロンソ,マリア ドロレス
(72)【発明者】
【氏名】ルイス サンタ クイテリア,バレンティン
(72)【発明者】
【氏名】ペレス メルカデル,ジュアン
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/082801(WO,A1)
【文献】特開昭53-088686(JP,A)
【文献】特開平08-296077(JP,A)
【文献】国際公開第2012/091045(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0296173(US,A1)
【文献】国際公開第2016/097247(WO,A1)
【文献】特表2013-519893(JP,A)
【文献】特開平05-098483(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0020763(KR,A)
【文献】GABRIELLI C; ET AL,COMPARISON OF SINE WAVE AND WHITE NOISE ANALYSIS FOR ELECTROCHEMICAL IMPEDANCE MEASUREMENTS,JOURNAL OF ELECTROANALYTICAL CHEMISTRY AND INTERFACIAL ELECTROCHEMISTRY,NL,ELSEVIER,1992年09月15日,VOL:335, NR:1-2,,PAGE(S):33 - 53,http://dx.doi.org/10.1016/0022-0728(92)80230-2
【文献】The application of electrochemical impedance spectroscopy and identification procedures to the investigation of the dissolution and passivation of iron in carbonate-bicarbonate buffers at 25℃,ELECTROCHIMICA ACTA,米国,1991年01月01日
【文献】CASTRO E B; ET AL,The application of electrochemical impedance spectroscopy and identification procedures to the investigation of the dissolution and passivation of iron in carbonate-bicarbonate buffers at 25℃,ELECTROCHIMICA ACTA,英国,ELSEVIER SCIENCE PUBLISHERS,1991年,VOL:36, NR:1,,PAGE(S):117 - 126,http://dx.doi.org/10.1016/0013-4686(91)85188-D
【文献】SIXTO GIMENEZ; ET AL,CARRIER DENSITY AND INTERFACIAL KINETICS OF MESOPOROUS TIO2 IN AQUEOUS ELECTROLYTE 以下備考,JOURNAL OF ELECTROANALYTICAL CHEMISTRY,NL,ELSEVIER,2011年12月23日,VOL:668,,PAGE(S):119 - 125,http://dx.doi.org/10.1016/j.jelechem.2011.12.019,DETERMINED BY IMPEDANCE SPECTROSCOPY
【文献】MARIA ISABEL; ET AL,INVESTIGATING WATER SPLITTING WITH CAFE2O4 PHOTOCATHODES BY ELECTROCHEMICAL IMPEDANCE SPECTROSCOPY,ACS APPLIED MATERIALS & INTERFACES,米国,2016年07月28日,VOL:8, NR:33,,PAGE(S):21387 - 21397,http://dx.doi.org/10.1021/acsami.6b07465
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非振動状態で進行する非線形化学反応が発生する電気化学デバイスを動作させる方法であって、前記電気化学デバイスは、作用電極、対電極、および少なくとも1つの電解質を含み、前記方法は、前記電気化学デバイスの前記作用電極と前記対電極との間に確立される電位差に追加の外因性確率的撹乱を意図的に与えるステップを含み、こうして追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱は印加電圧に加えて供給され、前記追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱は外部から制御され、
前記追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱は、あらゆる信号内に存在する本質的で内因性のノイズよりも絶対値が高く、かつあらゆる信号内に存在する本質的で内因性のノイズとは異なっており、
前記作用電極の電位に供給される前記追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱の平均値はEonset±1Vの範囲内であり、Eonsetは電気化学反応が起こり始める電位であり、
前記外因性確率的撹乱の適用間隔は、0.001秒~5秒であり、
ただし、前記作用電極が光活性材料を含むとき、前記作用電極の前記電位に供給される前記追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱の前記平均値は前記作用電極のI-V曲線の変曲点に到達する前の点にあることを条件とする、
方法。
【請求項2】
前記追加の意図的に与えられる因性確率的撹乱は、ホワイトノイズパターン、有色ノイズパターン、およびガウスノイズパターンから選択されたノイズパターンに従う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
記外因性確率的撹乱適用間隔は、確率的撹乱シーケンスの1つのイベントの持続時間を指す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記作用電極はアノードとして機能し、これにより、その表面上で標的分子の酸化反応が起こる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記作用電極はカソードとして機能し、これにより、その表面上で標的分子の還元反応が起こる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
非振動状態で進行する非線形化学反応が発生する電気化学デバイスを動作させる方法であって、前記電気化学デバイスは、作用電極、対電極、および少なくとも1つの電解質を含み、前記方法は、前記電気化学デバイスの前記作用電極と前記対電極との間に確立される電位差に追加の外因性確率的撹乱を意図的に与えるステップを含み、こうして追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱は印加電圧に加えて供給され、前記追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱は外部から制御され、
前記追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱は、あらゆる信号内に存在する本質的で内因性のノイズよりも絶対値が高く、かつあらゆる信号内に存在する本質的で内因性のノイズとは異なっており、
前記外因性確率的撹乱の適用間隔は、0.001秒~5秒であり、
前記作用電極の電位に供給される前記追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱の平均値はEonset±0.2Vの範囲内であり、前記作用電極は光活性材料を含む、
方法。
【請求項7】
前記意図的に与えられる追加の外因性確率的撹乱は、ホワイトノイズパターン、有色ノイズパターン、およびガウスノイズパターンから選択されたノイズパターンに従う、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
記外因性確率的撹乱適用間隔は、確率的撹乱シーケンスの1つのイベントの持続時間を指す、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
非振動状態で進行する非線形化学反応が発生する電気化学デバイスを動作させる方法であって、前記電気化学デバイスは、作用電極、対電極、および少なくとも1つの電解質を含み、前記方法は、前記電気化学デバイスの前記作用電極と前記対電極との間に確立される電位差に追加の外因性確率的撹乱を意図的に与えるステップを含み、こうして追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱は印加電圧に加えて供給され、前記追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱は外部から制御され、
前記追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱は、あらゆる信号内に存在する本質的で内因性のノイズよりも絶対値が高く、かつあらゆる信号内に存在する本質的で内因性のノイズとは異なっており、
前記外因性確率的撹乱の適用間隔は、0.001秒~5秒であり、
前記作用電極の電位に供給される前記追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱の平均値はEonset±1Vの範囲内であり、
前記作用電極は光活性材料を含まない、
方法。
【請求項10】
前記意図的に与えられる追加の外因性確率的撹乱は、ホワイトノイズパターン、有色ノイズパターン、およびガウスノイズパターンから選択されたノイズパターンに従う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
記外因性確率的撹乱適用間隔は、確率的撹乱シーケンスの1つのイベントの持続時間を指す、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
非振動状態で進行する非線形化学反応の誘発または改善のための触媒として、請求項1に記載の電気化学デバイスの作用電極の電位に供給される、したがって前記作用電極の印加電圧に加えて供給される、追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱の使用であって、前記作用電極の前記電位に供給される前記追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱の前記平均値はEonset±1Vの範囲内であり、前記Eonsetは電気化学反応が起こり始める電位であり、
ただし、前記作用電極が光活性材料を含むとき、前記作用電極の前記電位に供給される前記追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱の前記平均値は前記作用電極の前記I-V曲線の変曲点に到達する前の点にあることを条件とする、使用。
【請求項13】
非振動状態で進行する非線形化学反応の誘発または改善のための触媒として、請求項1に記載の電気化学デバイスの作用電極の電位に、したがって前記作用電極の印加電圧に加えて供給される、追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱の使用であって、前記作用電極の前記電位に供給される前記追加の意図的に与えられる外因性確率的撹乱の前記平均値はEonset±0.2Vの範囲内であり、前記作用電極は光活性材料を含む、使用。
【請求項14】
非振動状態で進行する前記非線形化学反応は、水素発生反応(HER)触媒およびCO還元触媒から選択された電気触媒を含む電気化学デバイス内で発生する、請求項12又は13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2017年12月19日に出願された欧州特許出願第EP17382867.4号の利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、非振動状態で進行する非線形電気化学反応を誘発または改善するために電気化学デバイスを動作させる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
振動化学反応では、いくつかの反応物質および生成物の濃度は、周期的または準周期的に時間とともに変化する。これらの振動は、反応の非平衡性およびその非線形動力学の結果である。振動反応のプロトタイプは、触媒が酸化還元(還元酸化)振動を示すBelousov-Zhabotinsky反応である。反応が与えられると、周期または振幅などのその振動特性は、様々な反応物質の濃度によって制御される。
【0004】
非線形化学システムの動的挙動の注目すべき態様は、触媒濃度または温度など、反応の制御パラメータに適用される確率的変動に対するそれらの応答である。この現象の興味深い例は、感光性のBelousov-Zhabotinsky振動反応で観察されるノイズ誘発効果である(非特許文献1)。この研究で、Perez-Mercaderらは、決定論的振動および周期外力の不存在下で、十分に高い振幅の光照射下で確率的変動によって分岐点の近傍でシステムが摂動されたときに振動が現れることを観察した。ノイズ誘発振動の周波数分布がノイズ相関関数の性質によって強い影響を受けることも見いだされ、非線形化学反応に適用された確率摂動がノイズ相関に依存する方法で反応定数を修正できるという議論を証明した。
【0005】
電気化学デバイスでは、電気化学反応は、電解液に浸漬された電極の表面で発生し、電解液中に溶解した種から電極へ(酸化反応)または電極から電解液中の種へ(還元反応)の電子の移動を伴う。これらの電子移動反応には、不均一表面反応で発生するもの、すなわち電極との間の拡散、電極表面への吸着、表面拡散、他の種との反応、および電極表面からの脱離と同様のさらなる基本ステップが先行、付随、または後に続く場合がある。電子移動ステップのため、電気化学反応の速度は電極の静電位に依存する。
【0006】
光電気化学(PEC)アプローチは、照射(たとえば太陽放射)の下で活性化される、電気化学セル内の半導体電極の利用に基づいている。半導体のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光子の吸収は、価電子から伝導帯への電子の励起につながる。半導体材料のこの特性は、太陽エネルギーを電気エネルギーに変換するために光起電力デバイスでうまく使用されてきた。光触媒反応では、電子正孔対は酸化還元反応を促進するために直ちに使用されるが、問題は、電子正孔対が高速再結合に悩まされることである。光電気触媒反応では、酸化還元反応は空間的に分離しており、電気的に接続された2つの電極上で発生し、電子と正孔との間の再結合の数を減少させる。化学エネルギーへの光変換の収量を増加させるために、電位差が適用され得る。バイアス電圧を有するPECシステムは、電荷再結合の減少のみならず、対象の反応が発生するのに必要な追加のエネルギーを供給するという利点も有する。PECシステムは、どの電極が光吸収光電極になるか、すなわちアノード、カソード、または両方に応じて、異なる構成を有することができる。
【0007】
Marc T.M.Koperによって非特許文献2で報告されたように、たとえば振動状態にあるときに、非平衡電気化学システムには非線形性が存在する。
【0008】
一般に電気化学ノイズ(EN)と呼ばれる、腐食電極の電流および電位の自発的な変動もまた、様々な環境での腐食および抑制のメカニズムをより良く理解するために、過去20年間にわたって広く研究されてきた。腐食において観察される電気化学ノイズの主な原因は、部分ファラデー電流、吸着または脱離プロセス、特に孔食の開始などの現象に起因する可能性があり、これらのすべてはランダムな特性を有する。これらの場合、変動が自発的に発生し、これらはいずれの場合も外部からシステム内に導入されていないことは、注目に値する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Journal of Physical Chemistry A,2013,Vol.117,13999-14005
【文献】Journal of the Chemical Society,Faraday Transactions,1998,Vol.94(10),13
【発明の概要】
【0010】
本発明の第1の態様では、非振動状態で進行する非線形電気化学反応を誘発または改善するために電気化学デバイスを動作させる方法が提供され、電気化学デバイスは、作用電極、対電極、および少なくとも1つの電解質を含み、本方法は、電気化学デバイスの電位差に外因性確率的撹乱を意図的に供給するステップを含み、その結果、非振動状態で進行する非線形化学反応が誘発されるか、または電気化学デバイスで行われる非振動状態で進行する非線形電気化学反応の挙動が改善される。
【0011】
外因性確率的撹乱は、電位差に対して意図的に供給され、これはあらゆる信号内に存在する本質的で内因性のノイズよりも絶対値が高く、あらゆる信号内に存在する本質的で内因性のノイズとは異なる。本出願の文脈で、「外因性撹乱」という表現は、制御され得ない本質的で内因性の撹乱とは異なる撹乱を指す。したがって、本明細書で意図的に供給される外因性確率的撹乱は印加された電位に依存せず、これは各パルスにおいて未知でランダムな大きさであるため、外部から制御されるが、選択された値(平均値)を中心として決定(制御)された分布に従っており、選択された値(平均値)は反応のEonsetの値の付近である。あらゆる電気化学システム内に存在する本質的で内因性のノイズ信号は、制御され得ない未知でランダムな大きさを示す。
【0012】
本出願人が知る限り、非振動電気化学システムの電位差への、より具体的には光が電流電圧関係の役割も果たす非振動光電気化学システムの電位差への外因性確率的撹乱の意図的な適用は、従来技術では開示されていない。
【0013】
確率共鳴またはコヒーレンス共鳴など、ノイズによって誘発される現象は、振動システムでのみ開示されており、非線形化学システムを含む純粋な散逸システムでは明らかに予想されていない。
【0014】
驚くべきことに、電気化学反応の電位差への外因性確率的撹乱の導入は電流強度の増加を招くことが観察された。このため、電気化学デバイスの電位差に外因性確率的撹乱が適用されると、外因性確率的撹乱の不存在下で同じ大きさの電位差が電気化学デバイスに供給されるときに得られる電流強度よりも大きい電流強度が得られる。したがって、アノード反応の特定の場合、得られたより大きな電流強度の結果として、同じ時間にわたって電気化学デバイスの電位差に外因性確率的撹乱が供給されないときの標的分子の酸化度と比較して、同じ時間の後の標的分子の酸化度がより高くなる。あるいは、標的反応が標的分子の還元であるとき、同じ時間にわたって電気化学デバイスの電位差に外因性確率的撹乱が供給されないときの標的分子の還元度と比較して、同じ時間の後の標的分子の還元度がより高くなる。言い換えると、意図的に供給される外因性確率的撹乱の不存在下では、電位差への外因性確率的撹乱が意図的に供給される信号と比較して、同じ時間の後に同じ酸化度または還元度に到達するために、著しく大きい電位差が印加されなければならない。
【0015】
したがって、電位差に対して意図的に供給される外因性確率的撹乱の存在下で、より高い電荷Q(Q=I×t)が実現されることが観察された。
【0016】
本発明の第2の態様は、非振動状態で進行する非線形電気化学反応を誘発または改善するための電気化学デバイスであって、本デバイスは、
i)第1の電気活性材料を含む作用電極と、
ii)第2の電気活性材料を含み、第1の電極から離隔して配置されている、対電極と、
iii)少なくとも1つの電解質と、
iv)電気化学デバイスの電位差に外因性確率的撹乱を供給する手段と、
を含み、
使用時に、非振動状態で進行する非線形化学反応が誘発されるように、電気化学デバイスの電位差に外因性確率的撹乱が供給される、電気化学デバイスである。
【0017】
本発明の文脈で、「外因性確率的撹乱」という表現およびその変形は、本明細書では、「ノイズのある撹乱」または「ノイズ」とも表記され、これはあらゆる信号内に存在する本質的で内因性のノイズとは明確に区別できる。したがって、本明細書で呼ばれる外因性確率的撹乱は、電気化学システムの電位差に意図的に供給される付加的なノイズである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下の添付図面を参照して、本開示の非限定例が以下に記載される。
【0019】
図1】UV照射下での0.5MのNaOH中の実施例1のTiO光アノードのサイクリックボルタンメトリーを示す。以下のクロノアンペロメトリー実験で適用されたいくつかのEWE平均値は、明確さのために矢印で示されている。
図2】同じ標準偏差(σ=0.2)およびノイズ適用間隔(Δt=1秒)で、異なるμ(EWE)について、ガウスホワイトノイズの存在下でクロノアンペロメトリーテストに沿って記録されたアノード電流強度平均値(I>0)であって、電位差への外因性確率的撹乱(ノイズのある電位差)が供給される段階(黒い棒線)および電位差への確率的撹乱がない(ノイズのない電位差)段階(パターン付き棒線)の両方について推定されたアノード電流強度平均値(I>0)を示す。
図3】3つの異なるノイズ信号適用間隔:a)Δt=0.01秒;b)Δt=0.1秒;c)Δt=1秒について同じ平均値(EWE=-0.80V対Ag/AgCl)および標準偏差(σ=0.2V)を有するガウスホワイトノイズの存在下でクロノアンペロメトリーテスト中に得られた制御パラメータ信号(左)および対応する電流強度(右)のプロファイルの拡大図を示す。
図4】3つの異なるΔt:a)Δt=0.01秒;b)Δt=0.1秒;c)Δt=1秒について同じ平均値m(EWE=-0.80V対Ag/AgCl)および標準偏差(σ=0.2V)を有するガウスホワイトノイズの存在下でのクロノアンペロメトリーテストの制御パラメータ値(左、EWE)および対応するモニタ対象信号(右、電流強度)の分布を示すヒストグラムを示す。
図5】3つの異なるΔt:a)Δt=0.01秒;b)Δt=0.1秒;c)Δt=1秒について固定平均値μ(EWE=-0.80V対Ag/AgCl)および標準偏差(σ=0.2V)を有するガウスホワイトノイズの存在下でのクロノアンペロメトリーテストにおける蓄積電荷(Q,mC=mA×s)の推定のための曲線の積分を示す電流強度プロファイルの拡大図を示す。
図6】メチレンブルー(0.005g/L)の存在下での0.1MのKSO中のTiO光アノードのUV照射下のサイクリックボルタンメトリーを示す。矢印は、クロノアンペロメトリーテストで適用されたEWE値を示す。
図7】供給される外因性確率的撹乱の不存在下の異なる反応条件でのメチレンブルー濃度(%)の変化を示す:a)UV;b)UV+TiO;c)TiO+EWE(-0.2V対Ag/AgCl);d)UV+TiO+EWE(-0.2V対Ag/AgCl);e)UV+TiO+EWE(+0.4V対Ag/AgCl);f)UV+TiO+EWE(+0.8V対Ag/AgCl)。
図8】UV照射下でTiO光電極上での酸化中のメチレンブルー濃度(%)の変化を示しており、供給される外因性確率的撹乱の不存在下で作用電極電位EWE=-0.2V対Ag/AgClを適用した場合(星印)、供給される外因性確率的撹乱の不存在下でEWE=0.8V対Ag/AgClを適用した場合(丸印)、およびμ(EWE)=0.2V、σ=0.3、Δt=1秒でEWE値にガウスホワイトノイズを適用した場合(四角印)である。
図9】供給される外因性確率的撹乱の不存在下(白線)およびガウスホワイトノイズの存在下(黒線)の両方の作用電極電位(a)および電流強度(b)変化を示す。
図10】供給される外因性確率的撹乱の不存在下でのEWE=0.8V対Ag/AgClでの反応およびμ(EWE)=-0.2V対Ag/AgClでのガウスホワイトノイズの存在下の反応の両方の作用電極電位(a)および電流強度(b)を示す。
図11】ある期間にわたる蓄積電荷の推定のためのI-t曲線の積分(1mC=1mA×s)を示す。3時間の実験中に蓄積されたアノード電流(I>0)の推定が示され、I-t曲線の下の面積で表される:a)供給される外因性確率的撹乱の不存在下でEWE=-0.2V対Ag/AgCl;b)μ(EWE)=-0.2V対Ag/AgClにおけるガウスホワイトノイズの存在下で、挿入図は曲線の下の積分面積の詳細を示す;c)供給される外因性確率的撹乱の不存在下でEWE=0.8V対Ag/AgCl。
図12】異なるタイプの供給される外因性確率的撹乱および対応する記録済み電流強度信号によって変更されたEWE信号のプロファイル:a)コンスタントホワイトノイズ(振幅=0.3)、b)ピンクノイズ(振幅=0.8)を示す。破線は、供給される外因性確率的撹乱の不存在下でのプロファイルを表す。
図13】UV照射下でTiO光電極上での酸化中のメチレンブルー濃度(%)の変化を示しており、μ(EWE=0.2V対Ag/AgCl、σ=0.3、Δt=1秒でEWEのガウスホワイトノイズ(四角印で表す);μ(EWE)=0.2V対Ag/AgCl、振幅=0.3、Δt=1秒でコンスタントホワイトノイズ(星印で表す);およびμ(EWE)=0.2V対Ag/AgCl、振幅=0.8、Δt=1秒でピンクノイズ(丸印で表す)を適用し場合のメチレンブルー濃度(%)の変化を示す。
図14】シミュレートされた太陽光の下での0.5MのHSO中のSi系光カソードのサイクリックボルタンメトリーを示す。クロノアンペロメトリーテストで適用された3つの異なるEWE値は、矢印で示されている。
図15】a)ガウスホワイトノイズ(σ=0.3、Δt=1秒);b)コンスタントホワイトノイズ(振幅=0.3、Δt=1秒);およびc)ピンクノイズ(振幅=0.8、Δt=1秒)について、供給される外因性確率的撹乱中(黒い棒線)および供給される外因性確率的撹乱段階の不存在下(パターン付き棒線)の両方での、クロノアンペロメトリーテストに沿って記録されたカソード電流強度平均値(I<0)を示している。
図16】0.5MのNaOH中のPt電極のサイクリックボルタンメトリーを示す。クロノアンペロメトリーテストで適用された3つの異なるEWE値は、矢印で示されている。
図17】a)ガウスホワイトノイズ(σ=0.3、Δt=1秒);b)コンスタントホワイトノイズ(振幅=0.3、Δt=1秒);およびc)ピンクノイズ(振幅=0.8、Δt=1秒)について、供給される外因性確率的撹乱中(黒い棒線)および供給される外因性確率的撹乱段階の不存在下(パターン付き棒線)の両方での、クロノアンペロメトリーテストに沿って記録されたアノード電流強度平均値(I>0)を示している。
図18】電極(左)および光電極(右)のI-V曲線のプロファイルの概略図を示す。
図19】異なる条件でのPt上での酸化の間のメチレンブルー濃度(%)の変化を示す:a)供給される外因性確率的撹乱の不存在下でのEWE=1.0V対Ag/AgCl(丸印);b)供給される外因性確率的撹乱の不存在下でのEWE=0.6V対Ag/AgCl(星印);およびc)EWEへのガウスホワイトノイズの導入、μ(EWE)=0.6V対Ag/AgCl、σ=0.3、Δt=1秒。
【発明を実施するための形態】
【0020】
確率的撹乱(ノイズ)はランダム信号なので、様々なパラメトリックおよび統計的特性によって記述され得る。ノイズの数学モデルはいわゆる確率過程であり、これは一連のランダムイベントとして定義される。パワースペクトル密度(周波数スペクトルのパワーおよび分布、PSD)は、様々なタイプのノイズを区別するために使用され得る特性の1つである。PSDが平坦ではない場合には、ノイズは「有色(カラード;colored)」(相関)であると言われる。一方、ホワイトノイズは、2つの異なる時間におけるその信号値が無相関であるという事実によって特徴付けられる、無限のランダム信号(確率過程)である。結果的に、周波数帯域全体にわたるそのパワースペクトル密度(PSD)は一定であり、したがってそのグラフは平坦である。これは、信号がすべての周波数を含み、これらはすべて同じ一定のパワーを示すことを意味する。言い換えると、ホワイトノイズは無相関信号であり、つまり、時間軸において、信号は、互いに何の相関もない値を取る。PSDの形状に応じて、異なるタイプの有色ノイズが定義される。
【0021】
本発明の文脈では、パルスとノイズとを区別することは重要である。パルスは固定振幅を有し、有限時間(有限値または確定関数)によって分離されるが、ランダム信号(ノイズ)の場合、特性が全く異なる(無相関値またはランダム相関)。外因性確率的撹乱信号(ノイズのある信号)の場合、エネルギーを緩和または散逸させる時間をシステムに与えず、確率的撹乱は最低量のエネルギーを使用してシステムの励起を維持する。
【0022】
加えて、振動状態で進行する化学反応と非振動状態で進行する化学反応との違いを考慮に入れるべきである。すべての既知の化学振動子の反応メカニズムは、少なくとも3つの共通の特徴を有する。第一に、振動が発生している間、化学混合物は平衡からほど遠く、そのエネルギーが振動する「サイドショー(sideshow)」を駆動するエネルギー放出反応が発生する。第二に、エネルギー放出反応は少なくとも2つの異なる経路を辿ることができ、反応は、1つの経路から別の経路に周期的に切り替わる。第三に、これらの経路のうちの1つは、特定の中間体を生成し、別の経路はそれを消費し、この中間体の濃度は、1つの経路から別の経路に切り替わる「トリガ」として機能する。前記中間体の濃度が低いとき、反応は生成経路を辿り、比較的高い濃度の中間体となる。中間体の濃度が高いとき、反応は消費経路に切り替わり、中間体の濃度は低下する。最終的に、反応は生成経路に戻る。反応は、1つの経路から別の経路に繰り返し切り替わる。
【0023】
非振動状態で進行する化学反応は散逸システムであり、システム変数は調和関数に従わず(これらは「緩和振動」に対応する)、システムは平衡状態から離れている。
【0024】
本明細書で使用される際に、用語「ノイズのある電位」は、パワースペクトル密度がノイズのタイプ(確率的撹乱)に依存する、平均値の周りで変動する電位の一連のランダム値を指す。
【0025】
電気化学反応は、電極間の電流と印加電圧との間の非線形関係によって証明されるように、非線形ダイナミクスを呈する。
【0026】
電気化学システムは、たとえば、3電極システムのセル電圧または作用電極電位を変更することによって、平衡状態から離れて容易に駆動され得る。電極動力学は、電位に対する電流の依存の決定に関係する。
【0027】
具体的には、光電気化学システムでは、I-V曲線は、異なる領域が記述され得るシグモイド形状を有し、Eonset近傍の第1の領域は活性化によって制御され、中間領域は混合制御によって支配され、印加された電位が高いほど測定される電流強度も高くなり、最後の領域は拡散によって制御され、電流はもはや電位に依存しない。
【0028】
本明細書で使用される際に、用語「散逸状態」は、熱力学的平衡から外れて動作し、エネルギーおよび物質を環境と交換するシステムを指す。
【0029】
本明細書で使用される際に、用語「非振動状態」は、変数が周期的反復関数に従わないシステムの状態を指す。
【0030】
本明細書で使用される際に、用語「ガウスノイズパターン」は、ガウス関数によって記述されるノイズ信号を指す。言い換えると、ガウスノイズはガウス確率密度関数を有するノイズであり、ガウス確率変数zの確率密度関数pは以下の式によって与えられる。
ここで、μは平均値を表し、sはノイズ信号の標準偏差を表す。
【0031】
上述のように、本発明は、非振動状態で進行しながら化学動力学の性質に基づいて非線形化学反応の望ましい挙動を選択的に誘発または改善するために電気化学デバイスを動作させる方法に関し、本方法は、電気化学デバイスの電位差に外因性確率的撹乱を供給し、それにより、非線形化学反応が非振動状態で進行しているときに特定の効果が確率信号によって非線形化学反応において誘発または改善されるステップを含む。
【0032】
システムがEonsetの周辺で動作しているがEWEはEonset以下であり、本発明に従って電位差に外因性確率的撹乱を供給するとき、システムは、外因性確率的撹乱の不存在下での無電流強度状態(したがって反応は発生しない)から、供給される外因性確率的撹乱の存在下での反応の誘発に移行する。システムがEonsetよりも上で動作しているとき、反応は供給される外因性確率的撹乱の不存在下で起こるが、外因性確率的撹乱が供給されると、望ましい挙動が誘発または改善される。望ましい挙動の例は、反応の効率、反応生成物の分布などである。
【0033】
本発明は、非振動状態で進行する非線形化学反応を誘発または改善するために電気化学デバイスを動作させる方法を提供し、電気化学デバイスは、作用電極、対電極、および少なくとも1つの電解質を含み、本方法は、電気化学デバイスの電位差に外因性確率的撹乱を意図的に供給するステップを含む。電気化学デバイスの構成のいくつかの例によれば、これは少なくとも作用電極および対電極、ならびに少なくとも1つの電解質を含み、本方法は、電気化学デバイスの電位差に外因性確率的撹乱(外因性で制御可能なノイズ信号)を供給し、それにより非振動状態で進行する非線形化学反応が誘発されるステップを含む。
【0034】
いくつかの例によれば、電気化学デバイスは、少なくとも作用電極、対電極、および基準電極、ならびに少なくとも1つの電解質を含み、本方法は、基準電極に対する作用電極の電位に外因性確率的撹乱を意図的に与えることによって、電気化学デバイスの電位差に外因性確率的撹乱を供給し、それにより非振動状態で進行する非線形化学反応が誘発されるステップを含む。
【0035】
本発明の電気化学デバイスを動作させるプロセスによれば、印加電圧に外因性確率的撹乱を導入することによって、このような外因性確率的撹乱の不存在下では電流が得られない電圧で電流強度が測定されることが、予想外に観察された。この効果は電極開始電位(Eonset)の周囲で特に関係があり、外因性確率的撹乱の不存在下(ノイズなし)で得られた電流強度値と供給される外因性確率的撹乱の存在下(ノイズあり)期間で得られた電流強度値との比率がEonsetの近傍においてより著しいことを意味している。現象(電気化学反応)が発生し始める電位が、電流開始電位(Eonset)である。この増大は、通常は電気化学実験で干渉と見なされる二重層充電電流(容量電流)に起因し得る。それにもかかわらず、定量化実験は、観察された電流の増加は電極の性能の改善に変換されることを証明した。このため、いくつかの例によれば、本発明の電気化学デバイスを動作させる方法によって電位差に意図的に供給される外因性確率的撹乱は、-1V≦Eonset≦+1Vの範囲内、好ましくは-0.5V≦Eonset≦+0.5Vの範囲内、より好ましくは-0.2V≦Eonset≦+0.2Vの範囲内、特に好ましくは-0.04V≦Eonset≦+0.04Vの範囲内である。
【0036】
本発明の方法のいくつかの例によれば、外因性確率的撹乱の適用間隔は、0.001秒から5秒、好ましくは0.01秒から3秒、より好ましくは0.05秒から1.5秒である。特定の実施形態は、0.01秒から3秒、あるいは0.01秒から1.5秒の外因性確率的撹乱の適用間隔に関する。
【0037】
電気化学システムの電位差に供給される外因性確率的撹乱は、非振動システム内の活性化エネルギーを減少させることも観察されており、これは電気化学反応において何らかの方法で触媒として作用する。したがって、本発明の態様によれば、非振動状態で進行する非線形電気化学反応を誘発または改善するための、電位差(ノイズのある電位差)に供給される外因性確率的撹乱の触媒としての使用が提供される。
【0038】
観察された効果は、他の電気化学および光電気化学プロセスでも意味があると予想される。
【0039】
本発明のいくつかの例によれば、本方法は、
i)非振動状態で進行する非線形化学反応を誘発するために必要とされる電気化学デバイスに供給されるノイズのない電位差(すなわち電位差に意図的に供給される外因性確率的撹乱の不存在下の電位差)を特定し、こうして第1の電流強度を取得する、ステップと、
ii)ノイズのある電位差を電気化学デバイスに供給(すなわち外因性確率的撹乱を電位差に供給)し、こうして第2の電流強度を取得する、ステップと、
をさらに含み、
これらのステップは、ii)で供給されるノイズのある電位差が、i)で先に特定された第1の電位差よりも低くなり、ii)で取得された電流強度が、i)で取得された第1の電流強度よりも大きくなるように行われ、これによって非振動状態で進行する非線形化学反応が誘発される。
【0040】
本発明の文脈において、「より低いノイズのある電位差」は、「絶対値がより小さい」電位差に外因性確率的撹乱を意図的に供給することから生じる電位差を指し、一方で「より大きいノイズのある電位差」は、「絶対値がより高い」電位差に外因性確率的撹乱を意図的に供給することから生じる電位差を指す。
【0041】
本発明の文脈において、ノイズのある電位差を電気化学デバイスに供給することは、基準電極に対して作用電極に供給される電位差に外因性確率的撹乱が意図的に供給されることを意味し、作用電極と対電極との間で電流が測定され、作用電極がアノードであるときに対電極はカソードとして機能し、他方では、作用電極がカソードであるときに対電極はアノードとして機能する。あるいは、2電極システムが使用されるとき、2つの電極間で電位差および電流が確立される。
【0042】
本発明のいくつかの例によれば、意図的に供給される外因性確率的撹乱は、コンスタント(一定の)ホワイトノイズパターン、有色ノイズパターン、またはガウスノイズパターンに従ってもよい。いくつかの特定の例によれば意図的に供給される外因性確率的撹乱は、コンスタントホワイトノイズパターン、ピンクノイズパターン、またはガウスホワイトノイズパターンに従ってもよい。
【0043】
本発明のいくつかの例では、作用電極はアノードとして機能し、これにより、その表面上で標的分子の酸化反応が起こる。
【0044】
あるいは、いくつかの他の例では、作用電極はカソードとして機能し、これにより、その表面上で標的分子の還元反応が起こる。
【0045】
いくつかの好適な例によれば、動作の方法は、光電極の光触媒特性も利用するために、照射下で行われる。
【0046】
いくつかの例では、光電極は、金属、金属酸化物もしくは金属水酸化物、金属窒化物、金属リン化物、または導電性ポリマーから選択され得る、光電活性材料製、半導体製の光電気触媒層を含む。これらの場合、電子正孔対の形態の電荷キャリアが照射下の半導体内で生成され、生成された少数キャリアは半導体-電解質の界面に到達し、そこで酸化還元反応に関与する。
【0047】
いくつかの他の例では、光電極は、照射下で電荷キャリアを生成できる光活性材、および電気触媒を少なくとも含む、異なる構成要素を含む。電気触媒は、当業者にとって明確な選択である光電気化学デバイスの内部で実行される反応に応じて選択され得る。
【0048】
光電極は、前面から、前面と対向する裏面まで延在する。このため、本発明のいくつかの例によれば、光電極は、使用時に、電気化学セルの少なくとも1つの電解質にも接触するその前面を入射光が照射するか、あるいは、入射光がその裏面を照射し且つその前面が電気化学セルの少なくとも1つの電解質と接触するように、配置されている。
【0049】
いくつかの例では、電気触媒は、水を水素に還元できる水素発生反応(HER)触媒、またはCOをCO、CH、HCOOH、およびCなどの生成物に還元できるCO還元触媒から選択された触媒から作製されていてもよい。別の場合には、たとえば水溶液中の硝酸塩および亜硝酸塩など、他の触媒が予測され得る。
【0050】
いくつかの例によれば、電気触媒は、酸素発生反応(OER)触媒から選択された触媒から作製されていてもよい。OER触媒は、水を酸素に酸化することができる。これらの触媒の例は、ニッケル(Ni)、鉄-ニッケル合金(Ni-Fe)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、イリジウム(Ir)、タンタル(Ta)、ルテニウム(Ru)、およびその合金、水酸化物、酸化物を含み得る。別の場合には、たとえば水溶液中の汚染物質の電気酸化のための触媒など、他の触媒が予測され得る。
【0051】
いずれの場合も、電気触媒の選択は、電気化学セル内で実行される反応、すなわち還元または酸化される標的分子に依存し得る。大まかに言えば、光電極が光アノードである場合には、たとえば水を酸素に酸化することができるOER触媒などの優れた酸素発生体が望ましい。光電極が光カソードである場合には、水を水素に還元できる電気触媒(HER触媒)が望ましい。あるいは、COがギ酸に還元されるとき、Sn系電気触媒など、COを貴重な生成物に還元できる電気触媒が望ましい。
【0052】
一般に、望ましい酸化または還元反応に適した電気触媒を提供することを目的とする。電気触媒は、活性表面積を拡大し、こうして電解質との接触面での電子移動を増大させるために、金属メッシュまたはフォームとして、直接電極の表面に、保護コーティングに、またはより多孔質で導電性の基板上に、いくつかの方法で堆積され得る。
【0053】
別の実施形態では、光電気化学デバイス内で実行されると予想される反応に応じて、支持電解質は、式Mの塩を含んでもよく、ここでMはリチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、およびストロンチウムから選択されてもよく、Yは、水酸化物イオン、またはハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、硝酸塩、塩素酸塩、およびリン酸塩から選択される鉱酸に由来する対イオンのいずれかであり得る。これらの場合のうちのいくつかでは、電解質は、NaOH、KOH、HSO、KCl、HCl、KClO、HPO、NaHCO、NaCOCH、KHCO、KCO、KHPO、KSO、およびNaSOから選択され得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、入射光は、自然太陽光、または半導体、光活性材料の吸収範囲を含む任意のタイプの放射源であり得る。これは、太陽スペクトルの中心範囲内の波長を有する実質的に任意の放射源を意味する。一般に、300~1100nm領域の波長を含む入射光が使用され得る。
【0055】
本発明の第2の態様のいくつかの例によれば、非振動状態で進行する非線形電気化学反応を誘発または改善するための電気化学デバイスが提供され、本デバイスは、
i)第1の電気活性材料を含む作用電極と、
ii)第2の電気活性材料を含み、作用電極から離隔して配置されている、対電極と、
iii)基準電極と、
iv)少なくとも1つの電解質と、
v)電気化学デバイスの電位差(ノイズのある電位差)に外因性確率的撹乱を意図的に供給する手段と、
を含み、
使用時に、作用電極の電圧に外因性確率的撹乱を意図的に与えることによって、外因性確率的撹乱が電気化学デバイスの電位差に意図的に供給され、それは、非振動状態で進行する非線形化学反応が誘発または改善されるように、基準電極に対する電位差に外因性確率的撹乱を供給することから生じる。
【0056】
本発明の電気化学デバイスに関して、いくつかの例によれば、作用電極は第1の区画に閉じ込められ、対電極は第2の区画に閉じ込められ、電気化学セルは電解質流を含み得る。
【0057】
したがって、作用電極がアノードとして機能し、対電極がカソードとして機能するこれらの例によれば、
i)作用電極はアノード区画に閉じ込められ、作用電極は、アノードとして機能するアノード材料を含むアノード支持フレーム、流体分配フレーム、および1つ以上のアノードガスケットを含み、
ii)対電極はカソード区画に閉じ込められ、対電極は、カソードとして機能するカソード材料を含むカソード支持フレーム、流体分配フレーム、および1つ以上のカソードガスケットを含み、
iii)オプションで、電気化学デバイスは、基準電極をさらに含み得る。
【0058】
一方、作用電極がカソードとして機能し、対電極がアノードとして機能するこれらの例によれば、
i)作用電極はカソード区画に閉じ込められ、作用電極は、カソードとして機能するカソード材料を含むカソード支持フレーム、流体分配フレーム、および1つ以上のカソードガスケットを含み、
ii)対電極はアノード区画に閉じ込められ、対電極は、アノードとして機能するアノード材料を含むアノード支持フレーム、流体分配フレーム、および1つ以上のアノードガスケットを含み、
iii)オプションで、電気化学デバイスは、基準電極をさらに含み得る。
【0059】
したがって、本発明のいくつかの例によれば、電気化学デバイスでは、作用電極または対電極の少なくとも1つは光活性材料を含む。好適な例によれば、作用電極は、光アノードとして機能する光触媒アノード材料を含む。
【0060】
本発明のいくつかの例によれば、電気化学デバイスにおいて、作用電極は光アノードとして機能する光触媒アノード材料を含み、カソード材料は、CO固定化電気触媒材料を有する導電性多孔質電極である。
【0061】
したがって、本発明のいくつかの例によれば、電気化学デバイスは、光アノードとして機能する光電活性アノード材料を含む作用電極と、カソードとして機能するカソード材料を含む対電極とを含み、カソード材料は、CO固定化電気触媒材料を有する導電性多孔質電極である。
【0062】
本発明の具体例では、電気化学デバイスは、
a)カソードとして機能するカソード材料を含むカソード支持フレーム、流体分配フレーム、および1つ以上のカソードガスケットを含むカソード区画と、
b)アノード電極として機能するアノード材料を含むアノード支持フレーム、流体分配フレーム、および1つ以上のアノードガスケットを含むアノード区画と、
c)カソード区画とアノード区画との間に配置されたイオン交換セパレータと、
d)電気化学デバイスの電位差に外因性確率的撹乱を意図的に供給する手段と、
を含み、
流体分配フレーム、カソードガスケット、またはアノードガスケットはそれぞれ、使用時に、入口ポートを通じてカソード区画内またはアノード区画内にカソード液またはアノード液が導入されることを可能にし、出口ポートを通じてそれぞれカソード液またはアノード液および生成物が一緒に排出されることを可能にするように、配置されている。こうして、使用時に、非振動状態で進行する非線形化学反応の誘発または改善が得られる。
【0063】
本発明のいくつかの具体例によれば、電気化学デバイスにおいて、
i)カソード材料は水素発生反応(HER)固定化電気触媒材料を有する電極であり、
ii)流体分配フレーム、カソードガスケット、またはアノードガスケットはそれぞれ、使用時に、入口ポートを通じてカソード区画内またはアノード区画内にカソード液またはアノード液が導入されることを可能にし、出口ポートを通じてそれぞれカソード液またはアノード液および生成物が一緒に排出されることを可能にするように、配置されており、
iii)アノード材料は、酸素発生反応(OER)電気触媒材料を有する電極である。こうして、使用時に、非振動状態で進行する非線形化学反応は、電気化学デバイスで誘発または改善される。
【0064】
本明細書ではいくつかの例のみが開示されているが、他の代替例、変形例、使用例、および/またはこれらの同等物も可能である。さらに、記載された例のすべての可能な組み合わせも網羅される。したがって、本開示の範囲は具体例によって限定されるべきではなく、請求項の公正な読み取りによってのみ決定されるべきである。
【0065】
実施例1
TiO上の酸素発生反応(OER)。ガウスホワイトノイズパターンに従う外因性確率的撹乱の意図的な供給。
【0066】
リニアスキャンジェネレータが設けられたBio-Logic SP-300ポテンショスタット(EC-Lab software)に接続された市販の3電極石英セル(Pine Research Instrumentation)で、光電気化学(PEC)測定を行った。電解質として0.5MのNaOH溶液(250mL)、対電極としてコイル状Pt、基準電極としてダブルジャンクション型Ag/AgCl(10%KNO充填液)を使用した。Ag/AgCl基準電極の光分解を回避するために、実験中はこれをテフロン(登録商標)テープで覆った。作用電極であるTiO系光アノード(5.2~5.3cm)をワニ口クリップに取り付け、UV光源の経路に保持した。(International Journal of Hydrogen Energy,2013,Vol.38,2979-2985)に記載されるような水熱処理でフッ素ドープ酸化スズ(FTO)上にTiOナノロッドを成長させることによって、光電極を調製した。
【0067】
放射線源として、実装されたUV LEDを使用した(385nm,Thorlabs)。以後に記載されるすべての実験で、UV LED出力をλ=385nmで約17~18mA/cmの放射強度に設定した。サーモパイル検出器(Gentec-EO)によって強度を測定した。
【0068】
同じネットワークでUV LEDコントローラおよびポテンショスタットを制御およびモニタできるようにするために、LabView(登録商標)(National Instruments)アプリケーションが開発された。さらに重要なことに、LabViewは、システムの電位に外因性確率的撹乱(ノイズ信号)を意図的に導入することを可能にした。
【0069】
この仮想装置は、光化学、電気化学、または光電気化学実験を行うことを可能にした。
【0070】
光電気化学システムに外因性確率的撹乱を導入する前に、これを徹底的に特性評価した。
【0071】
3電極構成を使用したので、このセットアップはセルの半分しか測定しないことを意味しており、それに電流を流すことでその基準電極の安定性を損なうことなく作用電極(EWE)の電位を測定できるようになった。電流は、作用電極と対電極との間に流れる。この構成により、信頼でき且つ性格に特定の反応を研究することができる。このため、これは電気化学実験で使用される最も一般的なセットアップである。一方、3電極スケールは作用電極(WE)と基準電極(RE)との間のハーフセル電圧しか表さないので、電力変換効率を計算するために3電極I-V測定を利用することはできない。
【0072】
この場合、この研究で使用された作用電極はアノード(光アノード)として機能し、水分子または酸素含有アニオンはOガスに変換された(酸化)。アノードでのこの半反応は、CO還元および水分解プロセスの両方に共通である。
アノード(酸化):2HO(I)→O(g)+4H(aq)+4e
【0073】
同じ半反応を塩基で平衡化した。
アノード(酸化):4OH(aq)→O(g)+2HO(I)+4e
【0074】
システムの予備的な電気化学特性評価:
【0075】
ボルタンメトリー実験では、電位が変化したときの電流を測定することによって得られる分析物のハーフセル反応性を調査する。我々のシステムを特性評価するために、外因性確率的撹乱の導入に先立って、電位をサイクルすることによってサイクリックボルタンメトリー(CV)を実行し、電位のスキャン中に作用電極での電流を測定することによってサイクリックボルタモグラムを取得する。UV照射下のTiO光電極のCVは図1に示され、ここで、以下に記載されるクロノアンペロメトリー実験で適用されるEWE平均値が示されている。クロノアンペロメトリーは、電流強度が時間関数として測定される電気化学的手法であり、制御パラメータは作用電極の電位である。
【0076】
図1で観察されるように、CVはシグモイド形状のパターンに従い、したがってこれは非線形化学反応に対応し、これは、曲線の中間領域に連続する直線性があるという事実にもかかわらず、直線関係を有するものとは非常に異なる式に従う。
【0077】
バンドギャップ動作電位以上のエネルギーが照射されると、水性溶液中のn型電極の少数正孔キャリアは、O/HO結合のポテンシャルよりも低い電位で、電極-電解質の界面で酸素発生反応(OER)を引き起こす。現象が発生し始める電位は、光電流開始電位(Eonset)である。光電流開始電位と対象の可逆的酸化還元電位(E)との差は、開始電圧(Vonset)である。
【0078】
電位差への外因性確率的撹乱(この例ではガウスホワイトノイズ)の適用:
【0079】
特定の外因性確率的撹乱であるガウスホワイトノイズを導入する測定を、TiO光電極で行った。以下に結果が記載される実験では、外因性確率的撹乱が導入される制御パラメータは作用電極電位(EWE,V)であり、モニタされたパラメータは結果的に得られた電流強度(I,mA)であった。0.005秒(dt)ごとにデータを記録した。
【0080】
ガウスホワイトノイズパラメータ、すなわち平均値(μ)および標準偏差(σ)は変更することができる。
【0081】
ノイズシーケンスの1つのイベントの持続時間であるノイズ適用間隔(Δt)は、考慮すべきもう1つのパラメータである。
【0082】
以下の実験パラメータを定義した:
-外因性確率的撹乱(ノイズ)のタイプ:ガウスホワイトノイズ
-総実験時間:310秒
i)第1段階:ノイズなしで5秒
ii)第2段階:ノイズありで300秒
iii)第3段階:ノイズなしで5秒
【0083】
外因性確率的撹乱(ノイズ)の適用。電気化学応答へのEWE平均値(μ)の影響:
【0084】
研究において標的のEWE範囲を選択するために、我々の光電極を特徴付けるCVに焦点を当てた。照射下の光アノードのI-V曲線の開始電位の近傍における平均EWE値(μ)を選択した(Eonset≒-0.80V対Ag/AgCl)。ガウスホワイトノイズの存在下での実験を、同一の標準偏差(σ=0.3)およびノイズ適用間隔(Δt=1秒)で、観察されたEonset近傍の様々なμ(EWE)で実行した(図2)。異なる実験からの結果の分析を容易にするために、クロノアンペロメトリーテストに沿って記録されたアノード電流強度平均値(I>0)を、外因性確率的撹乱が適用される(ノイズ)期間および外因性確率的撹乱の不存在下(ノイズなし)の両方の段階で推定した(図2)。
【0085】
ノイズなし段階(定常状態の値)に注目すると、光アノードから予測できるように、負の電位が小さくなると電流強度の増大が観察され、正の電流強度値はEWE≧Eonsetでのみ得られる。
【0086】
外因性確率的撹乱(ノイズ)の適用:電気化学応答へのノイズ適用間隔(Δt)の影響:
【0087】
固定の平均値μ(EWE=-0.80V対Ag/AgCl)および標準偏差σ=0.2Vで、ノイズ信号適用間隔の影響を調べた。制御パラメータ信号のプロファイル、および3つの異なるノイズ信号適用間隔で取得された電流強度プロファイルの拡大図が示されている:a)Δt=0.01秒;b)Δt=0.1秒;c)Δt=1秒(3参照)。
【0088】
固定の平均値μ(EWE=-0.80V対Ag/AgCl)および標準偏差σ=0.2Vでの3つの異なるΔtについて、制御パラメータ値(EWE)および対応するモニタされた信号(電流強度)の分布を示すヒストグラムが図4に示されている:a)Δt=0.01秒;b)Δt=0.1秒;c)Δt=1秒。
【0089】
WEヒストグラムに明確に反映されるように、Δtが大きくなるにつれて、より少ない数の値を考慮する必要がある。いずれの場合も、Δtが増加するにつれて電流強度ヒストグラムは対称性を失うことも明らかであり、Δt=1秒のデータは明確に右の正の電流強度値に向かってゆがんでおり、負の電流強度値の存在を最小限に抑えている。
【0090】
電流強度対時間曲線の積分から、各実験で蓄積された電荷を推定することもできる(Q,mC=mAs)。これらの積分された信号の拡大図は、固定の平均値μ(EWE=-0.80V対Ag/AgCl)および標準偏差(σ=0.2V)での、3つの異なるΔt:a)Δt=0.01秒;b)Δt=0.1秒;c)Δt=1秒について、図5に示されている。合計Qの他に、Qcharge(I>0)およびQdischarge(I<0)の値も推定されている。
【0091】
charge(酸化中に通過した電荷、I>0)をQdischarge(還元中に通過した電荷、I<0)と区別することによって、さらに進むことができる。
【0092】
【0093】
上記の表は、ミリクーロン単位のQ値を含む(mC=1mAs)。いずれの場合も、外因性確率的撹乱(ノイズ)の不存在下で、このEWEでのQ値は0である。QchargeおよびQdischargeの絶対数はΔt(0.01から1秒)とともに減少するにもかかわらず、Qdischargeに生じるより急な減少により、合計のQは増加することがわかる。
【0094】
この例では、ミリ秒(ms)から秒範囲(s)にΔtが増加することで、光アノード応答に対してプラスの効果があると結論付けることができる。
【0095】
外因性確率的撹乱(ノイズ)の適用。電気化学応答へのノイズの標準偏差(σ)の影響:
【0096】
固定の平均値μ(EWE=-0.80V対Ag/AgCI)およびノイズ適用間隔(Δt=1秒)での、0.2から0.4の範囲の、ガウスホワイトノイズの標準偏差の影響も調べた。σ=0.3で最大値が観察された。
【0097】
実施例2
TiO上のメチレンブルー(MB)の酸化。異なるパターンに従う外因性確率的撹乱の意図的な供給。
【0098】
リニアスキャンジェネレータが設けられたBio-Logic SP-300ポテンショスタットに接続された3電極石英セルで、光電気化学(PEC)測定を行った。0.1MのKSO溶液(50mL)を電解質として、コイル状Ptを対電極として、ダブルジャンクション型Ag/AgCl(10%KNO充填液)を基準電極として使用した。作用電極であるTiO系光アノード(2.2cm)をワニ口クリップに取り付け、UV光源の経路に保持した。Ag/AgCl基準電極の光分解を回避するために、実験中はこれをテフロン(登録商標)テープで覆った。0.005g/Lのメチレンブルーを電解質に加えた。
【0099】
放射線源として、実装されたUV LEDを使用した(385nm,Thorlabs)。以後に記載される照射下の実験で、UV LED出力をλ=385nmで約17~18mA/cmの放射強度に設定した。サーモパイル検出器(Gentec-EO)によって強度を測定した。
【0100】
National Instruments Spainのアドホック開発LabViewアプリケーションを介して、UV LEDコントローラおよびポテンショスタットを制御およびモニタした。さらに重要なことに、LabVIEWは、システムにノイズ信号を導入することを可能にする。
【0101】
3電極構成を使用したので、このセットアップはハーフセル反応性しか測定しないことを意味しており、それに電流を流すことでその基準電極の安定性を損なうことなく作用電極(EWE)の電位を測定できるようになった。電流は、作用電極と対電極との間に流れる。
【0102】
この場合、この研究で使用された作用電極はアノード(光アノード)として機能し、その表面で標的分子の酸化反応が起こる。
【0103】
システムを特徴付けるために、有機化合物の存在下での電解質中の光電極のサイクリックボルタンメトリーが図6に示され、矢印は、以下で記載される実験に適用されたEWE値を示す。
【0104】
電流が時間関数(dt=1秒)として測定される定電位条件下で酸化反応を行った。λ=664nmのピークを分析するUV-Vis分光法によってメチレンブルー(MB)濃度を定量化した。
【0105】
図7は、異なる条件:a)UVのみ;b)UV+TiO;c)TiO+EWE(-0.2V対Ag/AgCl);d)UV+TiO+EWE(-0.2V対Ag/AgCl);e)UV+TiO+EWE(+0.4V対Ag/AgCl);f)UV+TiO+EWE(+0.8V対Ag/AgCl)で、意図的に供給される外因性確率的撹乱(ノイズ)の不存在下でのMB酸化を示す。実験a、b、およびcは、反応のブランクとして実行した。
【0106】
図8は、EWEにガウスホワイトノイズを導入するMB酸化を示し、t=180分でμ(EWE)=-0.2V対Ag/AgCl,σ=0.3,Δt=1秒(四角印で表す)→C/C=24%(最初のMBの76%が3時間後に酸化した)。比較のため、意図的に供給される外因性確率的撹乱の不存在下での同等の結果が同じグラフに示されている(星印)。意図的に供給される外因性確率的撹乱の不存在下のEWE=0.8V対Ag/AgClでのMB酸化も含まれる(丸印で表す)→t=180分でC/C=22%(最初のMBの78%が3時間後に酸化した)。
【0107】
図9では、意図的に供給される外因性確率的撹乱の不存在下(白線)およびガウスホワイトノイズの存在下(黒線)の両方の反応条件について、経時的な作用電極電位(a)および電流強度変化(b)が示されている。電流強度の平均値が計算される。意図的に供給される外因性確率的撹乱の不存在下で、電流強度は0.3mAである。意図的に供給される外因性確率的撹乱の存在下で得られた電流強度値の場合、総平均電流強度は1.6mAであるが、平均正電流強度(アノード電流、I>0のみを考慮)は3.4である。
【0108】
作用電極電位差への外因性確率的撹乱信号の導入は電流強度の増加を招き、結果的にMB酸化度を高めることは明らかである。より高いアノード電位、たとえばEWE=0.4V対Ag/AgClでのMB分解率は、μ(EWE)=-0.2V対Ag/AgClでの意図的に供給される外因性確率的撹乱の存在下のMB分解率よりも低い。
【0109】
経時的な作用電極電位(a)および電流強度変化(b)が、両方の反応条件(点線は外因性確率的撹乱の不存在下のEWE=0.8V対Ag/AgClでの反応、直線はμ(EWE)=-0.2V対Ag/AgClでのガウスホワイトノイズの存在下の反応)について、図10に示されている。電流強度の平均値が計算される。意図的に供給される外因性確率的撹乱の不存在下で、電流強度は16mAである。外因性確率的撹乱の存在下で得られた電流強度値の場合、総平均電流強度は1.6mAであるが、平均正電流強度(アノード電流、I>0のみを考慮)は3.4である。
【0110】
いくつかの実験を250mLセルでも行った。それにもかかわらず、電極サイズは一定のまま維持されたので、効率は50mLセルよりもかなり低く、これは電極表面積対電解質体積の違いに起因する可能性がある。
【0111】
図11は、ある期間にわたる蓄積電荷の推定をもたらすI-t曲線の積分を示す(1mC=1mAs)。I-t曲線の下の面積で表される、3時間の実験中に蓄積されたアノード電流(I>0)の推定が示されている:a)意図的に供給される外因性確率的撹乱の不存在下でEWE=-0.2V対Ag/AgCl→Q(I>0)≒3267mC;b)μ(EWE)=-0.2V対Ag/AgClでガウスホワイトノイズの存在下で、挿入図は曲線の下の積分面積の詳細を示す→Q(I>0)≒21040mC;c)外因性確率的撹乱の不存在下でEWE=0.8V対Ag/AgCl→Q(I>0)≒173000mC。
【0112】
図12は、異なるタイプの意図的に供給される外因性確率的撹乱および対応する記録済み電流強度信号によって変更されたEWE信号のプロファイルを示す:a)コンスタントホワイトノイズ(振幅=0.3);b)ピンクノイズ(振幅=0.8)。破線は、意図的に供給される外因性確率的撹乱の不存在下でのプロファイルを表す。
【0113】
ガウスホワイトノイズの同様のプロファイルは、図10および図11に示されている。
【0114】
図13は、t=180分でμ(EWE)=-0.2V対Ag/AgCl,σ=0.3,Δt=1秒(四角印で表す)→C/C=24%(最初のMBの76%が3時間後に酸化した)のEWEにガウスホワイトノイズを導入するMB酸化;t=180分でμ(EWE)=-0.2V対Ag/AgCl,振幅=0.3,Δt=1秒(星印で表す)→C/C=8%(最初のMBの92%が3時間後に酸化した)のEWEにコンスタントホワイトノイズを導入するMB酸化;およびt=180分でμ(EWE)=-0.2V対Ag/AgCl,振幅=0.8,Δt=1秒(丸印で表す)→C/C=28%(最初のMBの72%が3時間後に酸化した)のEWEにピンクノイズを導入するMB酸化を示す。
【0115】
実施例3
Si系光電極上での水素発生反応(HER)。異なるパターンに従う外因性確率的撹乱の意図的な供給。
【0116】
リニアスキャンジェネレータが設けられたBio-Logic SP-300ポテンショスタットに接続された3電極石英セルで、光電気化学(PEC)測定を行った。0.5MのHSO溶液(50mL)を電解質として、コイル状Ptを対電極として、Ag/AgCl(飽和KCl)を基準電極として使用した。作用電極として使用されるシリコン系光電極をワニ口クリップに取り付け、光源の経路に保持した。Ag/AgCl基準電極の光分解を回避するために、実験中はこれをテフロン(登録商標)テープで覆った。
【0117】
放射源として、AM1.5Gフィルタ(太陽光、モデル16S-300)を備え、100mW/cmを提供するために適切な距離に配置された、ソーラーシミュレーターを使用した。
【0118】
この場合、この例で使用した作用電極はカソード(光カソード)として機能し、研究された条件では、水分子はHガスに還元される(還元)。光カソード調製手順は、参考文献ACS Appl.Mater.Interfaces2017,9,17932-17941に記載されている。
【0119】
システムにノイズ信号を導入できるようにするために、National Instruments Spainのアドホック開発LabViewアプリケーションを介して、ポテンショスタットを制御およびモニタした。
【0120】
3電極構成を使用したので、このセットアップはハーフセル反応性しか測定しないことを意味しており、電流を流すことでその基準電極の安定性を損なうことなく作用電極(EWE)の電位を測定できるようになった。電流は、作用電極と対電極との間に流れる。
【0121】
カソード電流は負の値で表されることを思い出してほしい。システムを特徴付けるために、電解質中の光電極のサイクリックボルタンメトリーが図14に示され、矢印は、以下で記載されるクロノアンペロメトリー実験に適用されたEWE値を示す。
【0122】
実験の合計時間はいずれの場合も310秒であった。外因性確率的撹乱の意図的な供給のない10秒の第1段階;外因性確率的撹乱の意図的な供給のある300秒の第2段階;および外因性確率的撹乱の意図的な供給のない10秒の第3段階。0.005秒(dt)ごとにデータを記録した。
【0123】
特にEonsetの周辺で、意図的に供給される外因性確率的撹乱のプラスの効果も観察された。異なる実験からの結果の分析を容易にするために、クロノアンペロメトリーテストに沿って記録されたカソード電流強度平均値(I<0)を、外因性確率的撹乱の意図的な供給の間(ノイズ段階)(黒い棒線)および外因性確率的撹乱の不存在下(ノイズなし段階)(パターン付き棒線)の両方で推定した。3つの異なるタイプの意図的に供給される外因性確率的撹乱:a)ガウスホワイトノイズ(σ=0.3,Δt=1秒);b)コンスタントホワイトノイズ(振幅=0.3,Δt=1秒);およびc)ピンクノイズ(振幅=0.8、Δt=1秒)について、3つの異なるμ(EWE)値対Ag/AgCl(μ=0.13V,0.29V,および0.45V)での結果が図15に示されている。
【0124】
実施例4
Pt電極上でのOER。異なるパターンに従う外因性確率的撹乱の意図的な供給。
【0125】
リニアスキャンジェネレータが設けられたBio-Logic SP-300ポテンショスタットに接続された3電極石英セルで、電気化学(PEC)測定を行った。0.5MのNaOH溶液(50mL)を電解質として使用した。対電極としてコイル状Ptを使用し、基準電極としてダブルジャンクション型Ag/AgCl(10%KNO充填液)を使用した。作用電極としてPtを使用した。
【0126】
本実施形態の場合、作用電極はアノードとして機能し、水分子を酸化する。
【0127】
システムに外因性確率的撹乱信号を導入できるようにするために、National Instruments Spainのアドホック開発LabViewアプリケーションを介して、ポテンショスタットを制御およびモニタした。
【0128】
3電極構成を使用したので、このセットアップはハーフセル反応性しか測定しないことを意味しており、電流を流すことでその基準電極の安定性を損なうことなく作用電極(EWE)の電位を測定できるようになった。電流は、作用電極と対電極との間に流れる。
【0129】
システムを特徴付けるために、電解質中の電極のサイクリックボルタンメトリーが図16に示され、矢印はEonsetを示す。
【0130】
実験の合計時間はいずれの場合も310であった。意図的に供給される外因性確率的撹乱のない10秒の第1段階;意図的に供給される外因性確率的撹乱のある300秒の第2段階;意図的に供給される外因性確率的撹乱のない10秒の第3段階。0.005秒(dt)ごとにデータを記録した。
【0131】
異なる実験からの結果の分析を容易にするために、クロノアンペロメトリーテストに沿って記録されたアノード電流強度平均値(I>0)を、外因性確率的撹乱の意図的な供給の間(ノイズ段階)(黒い棒線)および意図的に供給される外因性確率的撹乱の不存在下(ノイズなし段階)(パターン付き棒線)の両方で推定した。3つの異なるタイプの意図的に供給される外因性確率的撹乱:a)ガウスホワイトノイズ(σ=0.3,Δt=1秒);b)コンスタントホワイトノイズ(振幅=0.3,Δt=1秒);およびc)ピンクノイズ(振幅=0.8、Δt=1秒)について、3つの異なるμ(EWE)値対Ag/AgCl(μ=0.6V,0.9V,および1.0V)での結果が図17に示されている。
【0132】
以前の場合と同様に、意図的に供給される外因性確率的撹乱の存在下でも電流強度の増加が得られたが、この場合、Eonsetの周辺では最も妥当な結果が得られず、μ(EWE)がより高い電圧に近づくにつれて効果が増大した。
【0133】
これらの違いは、光電極のI-V曲線と比較して、電極のI-V曲線の形状が異なることに関連している可能性がある。研究での電位差間隔では、光電極ボルタンメトリーで観察されたものとは対照的に、I-V曲線には変化点がなく、Ptでは電流飽和に到達しない。
【0134】
大まかに、そして簡単に、電極(左)および光電極(右)のI-V曲線のプロファイルは、図18に示されている。
【0135】
Pt上での0.1MのKSO溶液(50mL)中のメチレンブルー(MB)の酸化の実験もまた実行した。電流が時間の関数(dt=1秒)として測定される定電位条件下で酸化反応を行った。λ=664nmのピークを分析するUV-Vis分光法によってメチレンブルー(MB)濃度を定量化した。
【0136】
図19は、異なる条件でのPt上のMB酸化を示す:a)意図的に供給される外因性確率的撹乱の不存在下でのEWE=1.0V対Ag/AgCl(丸印);b)意図的に供給される外因性確率的撹乱の不存在下でのEWE=0.6V対Ag/AgCl(星印);およびc)EWEへのガウスホワイトノイズの導入、μ(EWE)=0.6V対Ag/AgCl、σ=0.3、Δt=1秒。
【0137】
ガウスホワイトノイズの存在下では、意図的に供給される外因性確率的撹乱の不存在下におけるより高い電位での測定と比較して、210分後により高い酸化度が達成される。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12a
図12b
図13
図14
図15a
図15b
図15c
図16
図17a
図17b
図17c
図18
図19