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特許7449237病理組織検体梱包素材及び組織切片のコンタミネーション防止用袋
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】病理組織検体梱包素材及び組織切片のコンタミネーション防止用袋
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20240306BHJP
   G01N 1/30 20060101ALI20240306BHJP
   G01N 1/04 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
G01N1/28 J
G01N1/30
G01N1/04 G
G01N1/04 J
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020559298
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2019048574
(87)【国際公開番号】W WO2020122149
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2018231806
(32)【優先日】2018-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019026443
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502224124
【氏名又は名称】公益財団法人佐々木研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】岩屋 啓一
(72)【発明者】
【氏名】相馬 正義
(72)【発明者】
【氏名】上田 圭司
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-506674(JP,A)
【文献】実開平08-000658(JP,U)
【文献】中国実用新案第202515687(CN,U)
【文献】実開昭60-075301(JP,U)
【文献】特開2018-105712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の3つの評価項目の条件を満たす、組織切片梱包用素材。
網目平均径:5 μm以
品耐性:耐薬品性試験(JIS A 5209:2014)により測定した場合に目視にて少なくとも溶解、劣化又は変色の著しい変化な
核細胞の通過度:200~600倍の高倍視野における10視野中に認める細胞が2個以下
【請求項2】
さらに、以下の3つの評価項目の条件を満たす、請求項1に記載の組織切片梱包用素材。
厚み:100 μm以下
透水性:透水係数が10 -3 以上
保水性:保水率が200%未満
【請求項3】
100℃から400℃の熱をかけると素材が溶解して素材同士が接着する、請求項1又は2に記載の素材。
【請求項4】
素材の網目平均径が1μmから5μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の素材。
【請求項5】
素材の網目平均径が1μmから2μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の素材。
【請求項6】
組織切片が病理組織切片である請求項1~5のいずれか一項に記載の素材。
【請求項7】
組織切片のコンタミネーション防止用袋であって、少なくとも一部が開口した第1区画室と、前記第1区画室の内部空間よりも小さい内部空間を有するとともに少なくとも一部が開口し組織切片を配置するための第2区画室と、前記第1区画室と前記第2区画室とを連結する連結部とを有し、前記第1区画室の開口部と前記第2区画室の開口部とは対向しており、前記第2区画室を前記第1区画室に向けて折り返したときに、前記第2区画室が前記第1区画室に収容され、請求項1~6のいずれか1項に記載の素材で作製された、前記コンタミネーション防止用袋。
【請求項8】
1~5μmの網目平均径を有する素材で作製された、請求項に記載の袋。
【請求項9】
前記第1区画室及び第2区画室が、いずれも矩形である請求項7又は8に記載の袋。
【請求項10】
前記第1区画室、第2区画室及び連結部が、1枚のシートにより形成されている、請求項7~9のいずれか一項に記載の袋。
【請求項11】
前記第2区画室に重り装着部が設けられた、請求項7~10のいずれか一項に記載の袋。
【請求項12】
前記第1区画室及び/又は第2区画室の一部にヒートシール部を設けた、請求項7~11のいずれか一項に記載の袋。
【請求項13】
請求項12のいずれか1項に記載の袋を用いて、組織切片を固定液又は溶媒に浸漬することを特徴とする組織切片の浸漬方法。
【請求項14】
請求項12のいずれか1項に記載の袋を用いて、組織切片を固定液又は溶媒に浸漬することを特徴とする組織切片のコンタミネーション防止方法。
【請求項15】
組織切片を梱包するための、請求項1~6のいずれか1項に記載の素材の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の透過を防止する病理組織検体梱包素材、及びホルマリン固定パラフィン包埋ブロック作製過程における、組織切片のコンタミネーション防止用袋(μ-filter sheet pocket(μSP))に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム解読の技術革新には目覚ましいものがあり、ゲノム解析技術は飛躍的に向上している。技術革新により、minor mutationやゲノムの多様性が、新たな遺伝子異常とともに発見された。この様な詳細なゲノム解析技術に対応するための測定対象として、標本内に他からの細胞がひとつでも混入することは厳に許すべきではない。病理組織標本過程において、組織レベルでの混入を防止する種々の対策が長年にわたり繰り返し行われてきたが、細胞ひとつのレベルでの混入防止対策としては十分ではない。
【0003】
実際に、ゲノム医療行為として行われている遺伝子パネル検査では、病理組織標本から抽出されたDNAに対してContEst(Cibulskis et al, 2011)プログラムが実施され、コンタミネーションが約5 %の症例に検出された。この様な症例では、遺伝子異常を検出する解析プログラムが十分に働かず、検出感度が低くなる。また、コンタミネーションが検出された検体では、偽陽性の遺伝子異常が多数検出され、正確な遺伝子異常の把握が極めて困難であった。その結果、遺伝子異常に対応する分子標的薬を適応する判断が難しくなる。従って、病理組織標本作成過程において、他検体から混入する細胞1個のレベルで防止する対策が早急に必要である。
【0004】
この対策については、細線維の技術を利用した医療製品として、緊急使用に適用可能な透析膜が知られている(非特許文献1)。また、polyvinylidene fluoride(PVDF)膜、polyestersulfone (PES)膜、そしてcellulse acetate (CA)を抗菌物質と組み合わせることにより、抗菌フィルター膜が開発されている(非特許文献2)
【0005】
他方、ゲノム医療及び再生医療において、質・量ともに十分な蛋白質あるいは核酸を担保したバイオマテリアルを収集するためには、種々の細胞を集め、あるいはブロックするシートの開発が必要である。このようなシートには、従来、親水性のPVDF膜やニトロセルロース膜を応用することが多かった。細胞を保持しつつ溶液を通す素材の開発は、組織工学の分野で試みられており、例えば、人工気管支を構成するための足場となる素材の開発が行われ、細胞の保持と素材の水の透過性が検討されている(非特許文献3)。
細胞の透過を防止し、かつ各種溶液を通す素材は、病理組織標本作製の際に必要となるが、これまで、この課題を克服する技術又は情報は存在しなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Namekawa K. et al., Biomaterials Science 2, 674-679 (2014)
【文献】Woo-Jin J et al., J. Microbiol. Biotechnol. 18(11),1836-1840(2008)
【文献】Crowley C. et al., Biomaterials 83 (2016) 283-293
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のナイロンメッシュ袋は、組織レベルの漏出を防ぐことが可能であったが、細胞レベルでの漏出(コンタミネーション)を防ぐことができなかった。上記のことから、細胞の透過を防止し、かつ各種溶液を通す素材の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、所定の2部屋の区画室を有し、所定の網目平均径を有するμSPを用いることにより、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)下記の6つの評価項目のうち少なくとも3つの項目の条件を満たす、組織切片梱包用素材。
網目平均径:5 μm以下
厚み:100 μm以下
薬品耐性:目視にて少なくとも溶解、劣化又は変色の著しい変化なし
透水性:透水係数が10-3以上
保水性:保水率が200%未満
有核細胞の通過度:200~600倍の高倍視野における10視野中に認める細胞が2個以下
(2)100℃から400℃の熱をかけると素材が溶解して素材同士が接着する、(1)に記載の素材。
(3)素材の網目平均径が1μmから5 μmである、(1)に記載の素材。
(4)組織切片が病理組織切片である(1)に記載の素材。
(5)組織切片のコンタミネーション防止用袋であって、少なくとも一部が開口した第1区画室と、前記第1区画室の内部空間よりも小さい内部空間を有するとともに少なくとも一部が開口し組織切片を配置するための第2区画室と、前記第1区画室と前記第2区画室とを連結する連結部とを有し、前記第1区画室の開口部と前記第2区画室の開口部とは対向しており、前記第2区画室を前記第1区画室に向けて折り返したときに、前記第2区画室が前記第1区画室に収容される、前記コンタミネーション防止用袋。
(6)細胞を通さない網目平均径を有する素材で作製された、(5)に記載の袋。
(7)(1)~(4)のいずれか1項に記載の素材で作製された、(5)に記載の袋。
(8)前記第1区画室及び第2区画室が、いずれも矩形である(5)に記載の袋。
(9)前記第1区画室、第2区画室及び連結部が、1枚のシートにより形成されている、(5)に記載の袋。
(10)前記第2区画室に重り装着部が設けられた、(5)に記載の袋。
(11)前記第1区画室及び/又は第2区画室の一部にヒートシール部を設けた、(5)に記載の袋。
(12)(5)~(11)のいずれか1項に記載の袋を用いて、組織切片を固定液又は溶媒に浸漬することを特徴とする組織切片の浸漬方法。
(13)(5)~(11)のいずれか1項に記載の袋を用いて、組織切片を固定液又は溶媒に浸漬することを特徴とする組織切片のコンタミネーション防止方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、細胞の透過を防止しかつ各種溶媒を通す病理組織検体梱包用素材が提供される。本発明の素材を用いることにより、細胞レベルでのコンタミネーションを防止することが可能となった。
また、従来のナイロンメッシュ袋は、組織レベルの漏出を防いだが、本発明により、細胞断片を含む細胞レベルでのコンタミネーションを防止することが可能となった。本発明の袋を用いることにより、組織切片、例えばゲノム医療に供する材料の質の向上を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のμSPの模式図である。
図2】本発明のμSPを展開したときの平面図である。
図3】本発明のμSPの第2区画室に組織切片を収容したことを示す図である。
図4】本発明のμSPの第1区画室に組織切片を収容する様子を示す図である。
図5】ヒートシール部及び重り収容部を設けた本発明のμSPの模式図である。
図6】ヒートシール部及び重り収容部を設けた本発明のμSPを展開したときの平面図である。
図7】ヒートシール部及び重り収容部を設けた本発明のμSPの第2区画室に組織切片を収容し、重り収容部に重りを収容したことを示す模式図である。
図8】試験フィルタアッセンブリの作り方を示す図である。
図9】本発明のμSPの実物を示す図である。
図10】通過試験にてカウントした細胞像を示す図である。
図11】本発明のμSPを用いて細胞のコンタミネーションの有無を調べた結果を示す図である。
図12】ヒートシール部及び重り収容部を設けた実物のμSPにおいて、第2区画室に組織切片を収容し、重り収容部に重りを収容したことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.病理組織梱包用素材
本発明の第1の態様として、本発明は、主としてゲノム医療を支える質の高い病理組織標本を作製するための、病理組織梱包用素材を提供する。
本発明においては、細胞を通過させず、かつ各種溶液を容易に通過する素材のスクリーニングを行い、医療及びバイオ分野で使用可能な素材を見出した。
【0013】
従来のナイロンメッシュ袋は、組織レベルの漏出を防ぐことが可能であったが、細胞レベルでの漏出(コンタミネーション)を防ぐことができなかった。
本発明により、細胞断片を含む細胞レベルでのコンタミネーションを防止することが可能となった。本発明の素材により作製された袋を用いることにより、組織切片、例えばゲノム医療に供する材料の質の向上を担保することができる。
【0014】
素材は、熱溶着(ヒートシール)により容易に加工され、有機溶媒を使わずに病理組織又はカセットを包み込む形状に加工することができる。
本発明のスクリーニング法は、病理検査室におけるコンタミネーション防止対策として使用する素材の検証に用いられる。
本発明に用いられる細胞は、ホルマリン等により固定した細胞であるが、これに限らず、生きた細胞又は組織を用いることもできる。
【0015】
本発明の素材により梱包される対象は、病理組織標本の対象となりうる組織切片である。「組織切片」とは、採取された組織切片そのものでもよく、病理組織標本としてスライドグラス上に搭載したものでもよく、ウェル等を備えたプレートに組織切片を入れたカセットであってもよく、体腔液より集められたセルブロックでもよく、特に限定されるものではない。
【0016】
また本発明において、本発明の素材は用途に応じて種々の適用範囲に使用することができる。例えば、パラフィン浸透処理時、脱脂・再固定作業時、又は保存時において本発明の素材を使用することができ、さらには、セルブロック又は脆弱な腫瘍組織が外部へ拡散するのを防ぐ場合にも使用することができる。素材が使用される袋のデザインや大きさは特に限定されるものではなく、多様である。
【0017】
本発明において使用する素材は、ナイロン製、ポリエステル製、4フッ化エチレン樹脂製(PTEF)、不織布(細繊維シート)製、又はこれらの組合せの複合合成シートなどが挙げられる。
本発明の素材は、各種試験により以下の性質を有するものである。
【0018】
網目平均径:5 μm以下
厚み:100 μm以下
薬品耐性:目視にて少なくとも溶解、劣化又は変色の著しい変化なし
透水性:透水係数が10-3以上
保水性:保水率が200%未満
有核細胞の通過度:200~600倍の高倍視野における10視野中に認める細胞が2個以下
【0019】
具体的には、本発明の素材は以下の性質を有するものである。
(1)網目平均径
本発明の素材の網目構造は、細胞を通さない限り限定されるものではない。網目の隙間の大きさ(網目平均)は、カタログ値を参照するものとするが、簡易的に偏光顕微鏡にて測定確認する。網目平均径は5μm以下であり、1~5μm、好ましくは1μmである。
【0020】
(2)厚み:100 μm以下
本発明の素材の厚みは、病理組織ブロックの作業工程で妨げない限り限定されるのではない。厚さはカタログ値を参照するものとするが、袋加工の折り曲げや折り返し、そして熱溶着を妨げない100 μm以下が好ましい。
【0021】
(3)薬品耐性
薬品耐性は、耐薬品性試験(JIS A 5209:2014)により測定することができる。具体的には以下の通りである。
100%エタノール及び100%キシレンを蓋つきの容器に入れる。試料を半分に切断した後、一方の試料の全体を試験溶液に浸漬し、他方の試料は比較対照とする。
蓋で覆って常温で約8時間保持する。その後試料を水洗及び乾燥させた後、目視で確認する。目視での確認は、薬品による溶解、脆性破壊、劣化(色・艶など)などの著しい変化を指標とする。
確認の結果、目視にて少なくとも溶解、劣化又は変色において明らかな変化なしであれば、ブロック作成過程における有機溶媒に耐えうる梱包素材と判断する。
【0022】
(4)透水性
透水性は、変水位透水試験(JIS A 1218)変法により測定することができる。その範囲は以下の通りである。
そして、透水係数が少なくとも10-3であること、例えば10-3以上であれば、ブロック作成過程における各種溶媒の速やかな交換が可能であると判断する。
【0023】
(5)保水性
保水性は、一般不織布試験方法(JIS 1913:2019)により測定することができる。その内容は以下の通りである。
試料から100mm×100mmの試験片を3枚採取し、その質量を1mgまで測定する。適切な大きさの容器に水を入れ、試験片を15分以上浸漬する。次に、ピンセットで試験片を水中から取り出して1分間以上水をしたたり落とした後、その質量を1mgまで測定する。
【0024】
次の式によって保水率を算出し、さらにその平均値を求め、JIS Z 8401の規則B(四捨五入法)によって小数点以下1けたを計算する。
m=(m2-m1)/m1×100
m:保水率
m1:試験片の標準状態での質量(mg)
m2:試験片を湿潤し、水をしたたり落とした後の質量(mg)
そして、保水率200%未満であれば、各種溶媒の吸収量が標本作製作業に支障がないと判断する。
【0025】
(6)有核細胞の通過度
有核細胞の通過度は、精密ろ過膜エレメント及びモジュールの細菌捕捉性能の試験方法(JISK3835:1990)の準用により測定することができる。
1000μlマイクロチップ及び200μlマイクロチップの先端を切り落として太い筒と細い筒を作成し、太い筒と細い筒との間にシートを挟んで試験フィルターアセンブリを作製する。これをパラフィルムにて梱包し、ろ過液回収用の1.5mlチューブに装着する。
【0026】
10%ホルマリン溶液内に細胞を入れて細胞懸濁液を調製する。
10%ホルマリン細胞懸濁液600μlを試験フィルターアセンブリに満たす。自然ろ過でろ液を1.5mlチューブに回収する。スライドガラスに100%エタノールを滴下後速やかにろ液15μlを滴下する。自然乾燥後、パパニコロウ染色にて発色させる。シートの目を通過した赤血球と有核細胞の数を、高倍、例えば200倍から600倍、好ましくは400倍の10視野にてカウントする。
そして、有核細胞の通過度:顕微鏡の対物レンズが400倍の高視野で10か所を観察し、有核細胞の合計の数が2個以下であれば、梱包素材として適当な範囲と判断する。
【0027】
上記の特性項目のうち、少なくとも3つの項目に記載の条件を満たすシートを、本発明において採用することができるが、4項目~5項目に該当するシートが好ましく、全項目に該当するシートがさらに好ましい。
また本発明の素材に100℃から400℃の熱をかけると(素材を100℃から400℃に熱すると)、素材が溶解して素材同士が接着する。
【0028】
上記素材のシートは、組織切片を包むことができる限り形状等に特に限定はなく、矩形、円形等いずれでもよい。さらに、一重のみならず、二重、三重に重ねることもできる。二重以上に重ねる場合は、シートの大きさを段階的に変えたものを使用することができる。二重、三重に重ねることにより、組織切片への細胞のコンタミネーションをより効果的に防止することができる。
【0029】
2.コンタミネーション防止用袋
本発明の第2の態様として、本発明は、組織切片のコンタミネーション防止用袋を提供する。本発明のコンタミネーション防止用袋を「μ-filter sheet pocket」と称し、本明細書において「μSP」という。
本発明のμSPは、少なくとも一部が開口した第1区画室と、前記第1区画室の内部空間よりも小さい内部空間を有するとともに少なくとも一部が開口した第2区画室と、前記第1区画室と前記第2区画室とを連結する連結部とを有する。
前記第2区画室は、その内部空間に組織切片を配置するための区画室である。
前記第1区画室の開口部と前記第2区画室の開口部とは対向しており、前記第2区画室を前記第1区画室に向けて折り返したときに、前記第2区画室が前記第1区画室に収容される。
【0030】
本発明の一態様のμSPを図1に示す。
図1において、本発明のμSP1は、第1区画室10、第2区画室20、及び第1区画室10と第2区画室20とを連結する連結部30により構成される。
図1において、第1区画室10及び第2区画室20の形状はいずれも矩形であり、その一部が開口している。但し、第1区画室10及び第2区画室20の形状は特に限定されるものではなく、矩形のほか、円形、楕円形のいずれでもよい。
【0031】
本発明においては、例えば、第1区画室10の一辺が開口部50a、及び第2区画室20の一辺が開口部50bを形成する。そして、開口部50aと開口部50bとは対向し向き合っている。
連結部30は、第1区画室10の開口部50aから第2区画室20の開口部50bまでの間を連結する領域であり、組織切片を収容した第2区画室を包み込むために所定の長さを有する。
【0032】
第2区画室20の内部空間(スペース)は、第1区画室10の内部空間よりも小さくなっており、後述するように第2区画室20を折りたたんだときに、当該畳まれた区画室20が第1区画室10の内部空間に収容されるようになっている。
また、図1において、本発明のμSP1には、第1区画室10の開口部50a部分に、はみ出し部40を形成させることができる。
【0033】
図2は、図1に示すμSP1を展開したときの平面図である。言い換えると、図2に示すように、平面図の形状の1枚のシートでできた原素材(μ-filter sheet)を、所定の位置で山折り及び谷折りすることにより図1に示すμSP1を作製することができる。
【0034】
ここで、第1区画室10、第2区画室20、及び連結部30の大きさ又は長さはパラフィン包埋組織切片作製用カセットを収容し袋の口を封入できる限り特に限定するものではないが、例えば第2区画室20は、展開したときの長辺が好ましくは150mm~160mmであり、短辺が70mm~95mm(好ましくはスタンダードタイプで70mm~75mm、キングサイズで90mm~95mm)である。第1区画室10は、第2区画室20が収まり開口部を封入できるように長さを調節すればよい。例えば第1区画は展開したときの長辺(I1+I2+I3)が170mm~180mm(袋となったときの長辺が70mm~75mm)であり、短辺が90mm~115mm(好ましくはスタンダードタイプで90mm~95mm、キングサイズで110mm~115mm)である。また、連結部30は、展開したときの長辺が好ましくは75mm~85mmである。
【0035】
図2において、第1区画室10を形成する領域の任意の位置x-y1で谷折りし、第2区画室20を形成する領域の任意の位置x-yで谷折りする。谷折りしたときの区画室の長手方向側面には、適当な幅の接着しろ60を設けてその部分を接着することにより、第1区画室10、第2区画室20において、開口部50a、50b以外の辺が閉じた状態となり、袋状の空間を形成する。
【0036】
また本発明のμSP1においては、第1区画室の谷折り位置x-y1から開口部50aまでの距離lと、谷折り位置x-y1から左辺までの距離lとは等距離でもよいが(l=l)、任意の長さlの分長くとることができる。そして、x-yの位置で山折りすることにより、第1区画室10にはみ出し領域40を形成することができる。
本発明のμSP1を用いて、組織切片70を第2区画室20に収容する態様を以下に説明する。
【0037】
図3は、組織切片70を第2区画室20に収容した態様を示す図である。ここでいう「組織切片」とは、採取された組織切片や体腔液から集めた細胞集塊そのものでもよく、迅速病理組織標本としてOCTコンパンドに包埋したものでもよく、ウェル等を備えたプレートに細胞集塊あるいは組織切片を入れたカセットであってもよく、特に限定されるものではない。
第2区画室20の開口部50bから第2区画室20の内部空間に組織切片70を挿入した後、組織切片70を谷折りして数回折り畳んで、組織切片を包み込む。組織切片70を包み込んだ第2区画室20を、第1区画室10の内部空間にスライドさせて収納する。
【0038】
図4において、Aは、第2区画室20を第1区画室10の開口部50aから内部空間にスライドさせる態様を示しており、Bは、第1区画室10設けたはみ出し部40で蓋をするときの態様を示す。はみ出し部40を設けると、第1区画室10の内部空間に第2区画室20を収納した後に、はみ出し部を反対側に折り返すことにより、蓋として機能することができる。従って、はみ出し部40で内側に折りたたみ、さらにステープラー等などによって第1区画室10の開口部50aをしっかり閉じることができる。
【0039】
また、本発明の別の態様の袋を図5図7に示す。
図5は、第2区画室に重り装着部80及びヒートシール部90を設けた図であり、図6図5の展開図である。図7は、組織切片70を第2区画室に収容し、重り収容部80に重り81を収容した図である。
【0040】
重り装着部は、折り返した側縁部を本体に熱溶着することにより袋状にして、重りがその内部に収容されるようにすることができる。重りとしては、ステンレススチール、真鍮などが使用され、重さは、1g~100g、好ましくは4.5g~5.5gである。重りの形状は収容部の袋からはみ出さない限り特に限定されるものではないが、細長い矩形状のもの、あるいは細長い円柱状のものが採用される。
【0041】
ヒートシール部90は、第1区画室の一部、第2区画室の一部、又はこれらの両方に設けることができ、第1区画室の場合ははみ出し部40の角部、第2区画室の場合は第2区画室の右辺の角部とすることができる。図5図7ではヒートシール部90の境界を破線(---)で示し、ヒートシール部を三角形の形状としてあるが、三角形に限定されるものではなく形状は任意である。
ヒートシール部90は、該当部分に接着剤を使用せず同質の熱可塑性樹脂シート同士を熱融着する。ヒートシール部を設けることにより、キシレン等の溶媒に浸しても耐えうる構造を獲得する効果が得られる。
【0042】
本発明においては、「1.病理組織梱包用素材」の項で説明した素材のものを使用することができる。
例えば、本発明において使用するμSPの素材は、ナイロン製、ポリエステル製、ポリフルオロエチレン製、又はこれらの組合せの複合合成シートなどが挙げられる。
本発明のμSPの網目構造は、細胞を通さない限り限定されるものではなく、網目の隙間の大きさは1μm~5μmである。
【0043】
このようにして、本発明のμSPに収容した組織切片を、所定の固定液あるいは溶媒に浸漬することにより、サンプルが他の細胞によるコンタミネーションを引き起こすことなく浸透することができる。浸透は、本発明のμSPに収容した組織切片を浸漬してそのまま放置するか、適宜撹拌すればよい。固定液あるいは溶媒の交換は任意であり、1回でもよく2回以上でもよい。
【実施例
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
試験フィルタアセンブリは以下の通り作製した(図8)。
1000μlマイクロチップ1個、200μlチップ2個を用意し、ハサミでカットして、1000μlマイクロチップ2.5cm(ア)と、その残りの先端部分(イ)、200μlチップ2cm(ウ)、200μlチップ3cm(エ)を用意した。なお、1000μlの先端部分(イ)はシートの厚さ調整に用いた。
エ→ウ→イの順にチューブをしっかり挿入し(図8パネルA)、イの余分な部分を切り落とした(図8パネルBの矢印)。
【0046】
上記イの矢印部分(カットした部分)に所定素材(表1)のシート(3cm×3cm)を被せ、(ア)に挿入した。(ア)の間にシートを挿んで(イ)もしくは(ウ)を外径に組み立てて、シートを固定した。デバイスからはみ出したシートは切り落とした。
空気のトラップを防止するために、(ア)をろ過用シートの固定位置に合わせ、余分な部分を切り落とした(パネルCの矢印)。
液漏れ防止のためにパラフィルムを巻き(図8パネルD)、試験フィルタを作製した。
このように作製したフィルタを、所定の試験に使用した。
【0047】
結果を表1に示す。
【表1】
【0048】
表1に示す通り、5つの組織切片梱包用素材の候補は、網目平均径は5 μm以下、薬品耐性、そして有核細胞の通過数が2個以下である。保水率は、200%未満が、透水係数が1.0x10-3以上が望ましい。
【0049】
<実施例2>
試作袋の作製
本実施例では、少なくとも一部が開口した第1区画室と、前記第1区画室の内部空間よりも小さい内部空間を有するとともに少なくとも一部が開口した第2区画室と、前記第1区画室と前記第2区画室とを連結する連結部とを有する袋を作製した(図1)。
図2に示す型紙を作製し、第1区画室の短辺が70mmで長辺(谷折り部分の長さ)が90mm、第2区画室の短辺(谷折り部分の長さ)が70mm、長辺が75mmのμSPを作製した。第1区画室に設けるはみ出し部は短辺を30mm、長辺を90mmとした。
【0050】
このようにして実際に作製したμSPの実物像をを図9に示す。図9に示すμSPの素材はポリエチレンポリマーによる細繊維シートであり、以下の性質を有する。
網目平均径:2 μm
厚み:75 μm
薬品耐性:溶解、劣化又は変色の著しい変化なし
透水性:透水係数が6.5x10-3cm/s
保水性:保水率が112 %
有核細胞の通過度:200~600倍の高倍視野における10視野中に認める細胞が2個以下
【0051】
図9において、(A)は、カセットを第2区画室に収納した態様を示す。(B)は、カセットを包み込んだ第2区画室を第1区画室にスライドして収納した態様を示す。(C)は、蓋として折り返した見出し部を内側に折り畳み、次に両側部を内側に畳んで、ステープラーなどで開口部を固定した態様を示す。
【0052】
実際の標本作製過程におけるコンタミネーションの有無を評価するために、他細胞の混入が判りやすいように、カセット内に組織切片の代わりに海綿スポンジを装着した。このカセットをμSPで梱包し、10%ホルマリン溶液にて固定した胸水細胞懸濁液内にて一昼夜振とう混和した。その後、梱包したままのカセットを透徹処理した。透徹後、カセットごとに新しいパラフィンを容れた別々の容器を用意してスポンジを取り出してパラフィン包埋した。コントロールとして、梱包しないカセットと従来のメッシュ袋で梱包したカセットを用い、これらのカセットに上記と同様の処理を行った。完成したブロックは新しい替刃を使用して4 μmに薄切し、スライドガラスに載せてH & E染色を施行した。なお、ひとつのブロック内には海面スポンジが5個含まれ、ブロックはdeeper cutを行ってH & E染色標本を各々3つ作成した。
【0053】
結果を図10に示す。
図10に示すように、本発明のμSPを使用した場合は、使用しない場合あるいは従来のメッシュ袋と比較して、細胞のコンタミを防止することができた。本実験では、μSPを使用した場合、作成した15枚全ての標本で細胞一個の混入も認めなかった。
また、上記袋を用いて、細胞の通過試験を行い、通過試験にてカウントした細胞像を図11に示す。図11より、細繊維の素材を用いたシートは、3重にして使用すると細胞の通過をほとんど防止できることが示された。
5つの組織切片梱包用素材を用いた試作袋を使用すると標本作製に支障がないことが確認された。
<実施例3>
本実施例では、重り収容部及びヒートシール部を設けた袋を、実施例2に準じて作製した。
実際に作製した袋を図12に示す。
図12(A)は、重りと組織切片を区画室に収容した図であり、(B)は、区画室を折り畳んだ図である。ヒートシール部は、100℃から400℃の熱をかけることにより溶着させた。
【符号の説明】
【0054】
1:本発明のμSP、10:第1区画室、20:第2区画室、30:連結部、
40:はみ出し部、50a:開口部、50b:開口部、60:接着しろ、70:組織切片
80:重り装着部、81:重り、90:ヒートシール部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12