(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】3Dプリンタ用造形材料及び造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20240306BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20240306BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240306BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240306BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20240306BHJP
【FI】
B29C64/314
B29C64/118
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y70/10
(21)【出願番号】P 2021522773
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2020020666
(87)【国際公開番号】W WO2020241615
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2019101478
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 佳明
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/093277(WO,A1)
【文献】特開2014-169521(JP,A)
【文献】国際公開第2017/131061(WO,A1)
【文献】特表2017-502862(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0129170(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ糸を含む線材と、
樹脂と、を含み、
前記樹脂は、熱可塑性樹脂である、
3Dプリンタ用造形材料。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ糸は、複数本のカーボンナノチューブ糸を束ねた糸束、または1本のカーボンナノチューブ糸である、
請求項1に記載の3Dプリンタ用造形材料。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ糸は、前記糸束であり、
前記糸束の長軸方向と直交する断面の長軸径は、7μm以上5000μm以下である、
請求項2に記載の3Dプリンタ用造形材料。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ糸は、前記1本のカーボンナノチューブ糸であり、
前記1本のカーボンナノチューブ糸の直径は、5μm以上100μm以下である、
請求項2に記載の3Dプリンタ用造形材料。
【請求項5】
3Dプリンタ用造形材料全体に対する前記線材の含有量は、20質量%以上70質量%以下である、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の3Dプリンタ用造形材料。
【請求項6】
3Dプリンタ用造形材料全体に対する前記樹脂の含有量は、30質量%以上80質量%以下である、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の3Dプリンタ用造形材料。
【請求項7】
前記線材は、撚られている、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の3Dプリンタ用造形材料。
【請求項8】
前記線材の外周の少なくとも一部は、前記樹脂で被覆されている、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の3Dプリンタ用造形材料。
【請求項9】
前記樹脂は、糸状の樹脂であり、
前記糸状の樹脂が、前記線材の外周面に沿って一方向又は複数方向に螺旋状に巻回されている、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の3Dプリンタ用造形材料。
【請求項10】
前記線材は、さらに、糸状の炭素繊維を含む、
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の3Dプリンタ用造形材料。
【請求項11】
前記線材の引張強度は、100MPa以上である、
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の3Dプリンタ用造形材料。
【請求項12】
熱溶融積層方式で印刷する3Dプリンタに用いられる、
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の3Dプリンタ用造形材料。
【請求項13】
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリレート-スチレン-アクリロニトリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリアセタール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の3Dプリンタ用造形材料。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の3Dプリンタ用造形材料を
加熱することで溶融物とし、前記溶融物を冷却し固化することで得られる、造形物
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンタ用造形材料及び造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
立体造形技術として、熱溶融積層方式、光造形方式及びインクジェット方式等が知られている。中でも熱溶融積層方式は、樹脂を含むフィラメントを熱で溶融し、溶融物を繰り返し積層させて造形する方式である。この熱溶融積層方式で用いられるフィラメントについて様々な開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、未溶融の繊維強化複合フィラメントの繊維複合フィラメント供給部等を備える部品の積層造形用の3Dプリンタが開示されている。特許文献1に記載の繊維強化複合フィラメントは、フィラメントのマトリックス材内に延在する1つ又は複数の非弾性軸方向繊維ストランドを含んでいる。特許文献1には、軸方向繊維ストランド材として、炭素繊維、アラミド繊維、及び繊維ガラスが例示されている。
特許文献2には、熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントが開示されている。この熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントは、熱可塑性を有するマトリックス樹脂と、この熱可塑性を有するマトリックス樹脂中に分散された機能性ナノフィラーを含む機能性樹脂組成物によって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-531020号公報
【文献】特開2016-28887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の、繊維ストランド(例えば炭素繊維)を含む造形材料から得られる造形物は、強度に優れるものの、屈曲性が不十分であり、柔軟性に劣る傾向がある。一方、特許文献2に記載の、ナノフィラーを含む造形材料から得られる造形物は、強度に劣る傾向がある。
3Dプリンタにおいては、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形物を得ることが求められている。
本発明の目的は、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形物を得ることのできる3Dプリンタ用造形材料、及び当該3Dプリンタ用造形材料を用いて製造された造形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、カーボンナノチューブ糸を含む線材と、樹脂と、を含み、前記樹脂は、熱可塑性樹脂である3Dプリンタ用造形材料が提供される。
【0007】
本発明の一態様に係る3Dプリンタ用造形材料において、前記カーボンナノチューブ糸は、複数本のカーボンナノチューブ糸を束ねた糸束、または1本のカーボンナノチューブ糸であることが好ましい。
【0008】
本発明の一態様に係る3Dプリンタ用造形材料において、前記カーボンナノチューブ糸は、前記糸束であり、
前記糸束の長軸方向と直交する断面の長軸径は、7μm以上5000μm以下であることが好ましい。
【0009】
本発明の一態様に係る3Dプリンタ用造形材料において、前記カーボンナノチューブ糸は、前記1本のカーボンナノチューブ糸であり、前記1本のカーボンナノチューブ糸の直径は、5μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の一態様に係る3Dプリンタ用造形材料において、3Dプリンタ用造形材料全体に対する前記線材の含有量は、20質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の一態様に係る3Dプリンタ用造形材料において、3Dプリンタ用造形材料全体に対する前記樹脂の含有量は、30質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の一態様に係る3Dプリンタ用造形材料において、前記線材は、撚られていることが好ましい。
【0013】
本発明の一態様に係る3Dプリンタ用造形材料において、前記線材の外周の少なくとも一部は、前記樹脂で被覆されていることが好ましい。
【0014】
本発明の一態様に係る3Dプリンタ用造形材料において、前記樹脂は、糸状の樹脂であり、前記糸状の樹脂が、前記線材の外周面に沿って一方向又は複数方向に螺旋状に巻回されていることが好ましい。
【0015】
本発明の一態様に係る3Dプリンタ用造形材料において、前記線材は、さらに、糸状の炭素繊維を含むことが好ましい。
【0016】
本発明の一態様に係る3Dプリンタ用造形材料において、前記線材の引張強度は、100MPa以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様に係る3Dプリンタ用造形材料において、熱溶融積層方式で印刷する3Dプリンタに用いられることが好ましい。
【0018】
本発明の一態様に係る3Dプリンタ用造形材料において、前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリレート-スチレン-アクリロニトリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリアセタール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る3Dプリンタ用造形材料を用いて製造された造形物が提供される。
【0020】
本発明の一態様によれば、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形物を得ることのできる3Dプリンタ用造形材料、及び当該3Dプリンタ用造形材料を用いて製造された造形物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態に係る3Dプリンタ用造形材料の斜視図。
【
図2】第2実施形態に係る3Dプリンタ用造形材料の斜視図。
【
図3】第3実施形態に係る3Dプリンタ用造形材料の斜視図。
【
図4】第4実施形態に係る3Dプリンタ用造形材料の側面図。
【
図5】第5実施形態に係る3Dプリンタ用造形材料の側面図。
【
図6】第6実施形態に係る造形物の製造に用いられる熱溶融積層方式の3Dプリンタの概略図。
【
図7】
図6の熱溶融積層方式の3Dプリンタに設置されるカートリッジの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の説明では、3Dプリンタ用造形材料を「造形材料」と称することがある。また、カーボンナノチューブを「CNT」と称することがあり、カーボンナノチューブ糸を「CNT糸」と称することがある。
本明細書において、造形材料は、通常、熱溶融積層方式の3Dプリンタに用いられる。造形材料の形状は、3Dプリンタに用いることができる形状であれば特に限定されないが、通常は、線状である。線状の造形材料は、例えば、ボビン等の巻芯に巻き付けられて用いられる。
【0023】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、第1実施形態に係る造形材料10の斜視図である。
本実施形態の造形材料10は、1本のCNT糸1を含む線材2と、樹脂4と、を含む。樹脂4は、熱可塑性樹脂である。線材2は、造形材料10の長さ方向に沿って配置されており、線材2の外周は樹脂4で被覆されている。第1実施形態では、線材2が、1本のCNT糸で構成されており、
図1には、線材2として、1本のCNT糸1が示されている。
【0024】
本実施形態の造形材料10は、樹脂4と共に、CNT糸1を含む線材2を有している。本実施形態の造形材料10を3Dプリンタに適用することにより、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形物を得ることができる。その理由は以下のように考えられる。
特許文献1のように、炭素繊維を樹脂中に含む造形材料が知られている。炭素繊維を含む造形材料から得られる造形物は、炭素繊維の長さ方向に対する強度が高いが、炭素繊維の径方向(つまり造形物の厚さ方向)に対する強度が低くなる傾向がある。また、炭素繊維を含む造形物は、屈曲性が不十分であり、柔軟性に劣る傾向がある。
これに対し、本実施形態の造形材料10から得られる造形物は、炭素繊維に比べ、柔軟性に優れ、かつ適度な強度を有するCNT糸1を含んでいる。そのため、本実施形態の造形材料10から得られる造形物は、CNT糸1の長さ方向に対する強度と、CNT糸1の径方向(つまり造形物の厚さ方向)に対する強度とをバランスよく保持でき、造形物全体の強度を高めることができると考えられる。さらに、本実施形態の造形材料10から得られる造形物は、CNT糸1を含むことで、炭素繊維を含む造形物に比べ、柔軟性に優れたものとなる。
一方、特許文献2のように、CNTを分散剤として樹脂中に分散させた造形材料が知られている。このような造形材料から得られる造形物は、強度が実質、樹脂の強度になるため、CNT糸を含む造形物に比べ、強度に劣る傾向がある。強度を高めるために、樹脂中へのCNTの量を増やすことも考えられるが、その場合、樹脂とCNTとの相溶性が低下するといった問題が生じる。
以上のことから、本実施形態の造形材料10によれば、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形物を得ることができる。本実施形態のように、CNTを「糸」として樹脂中に含ませた造形材料は従来にない構成である。
本実施形態の造形材料10は、熱溶融積層方式で印刷する3Dプリンタに好適に用いることができる。
【0025】
なお、本明細書において、強度とは機械的強度を意味する。強度は、例えば、線材の引張強度[MPa]を測定することで判定することができる。また、本明細書において、柔軟性は、例えば、線材に対し、曲げ試験を実施することで判定することができる。
線材の引張強度の測定方法及び曲げ試験の実施方法は、実施例の項で記載する。
【0026】
次に、本実施形態の造形材料10の構成について説明する。
以下の説明において、「CNT糸」の表記は、特に断りがない限り、「1本のCNT糸」を意味し、「糸束」もしくは「CNT糸の糸束」の表記は、特に断りがない限り、「複数本のCNT糸を束ねた糸束」を意味する。
【0027】
<線材>
本実施形態において、線材2は、1本のCNT糸1を含んでいる。
線材2全体に対するCNT糸1の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
線材2全体に対するCNT糸1の含有量が70質量%以上であると、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形材料及び造形物が得られ易くなる。
【0028】
1本のCNT糸1の直径は、好ましくは5μm以上100μm以下、より好ましくは7μm以上75μm以下、さらに好ましくは10μm以上50μm以下である。
前記CNT糸1の直径が5μm以上であると、線材2の強度が高まり易くなる。
前記CNT糸1の直径が100μm以下であると、線材2の柔軟性が向上し易くなる。
なお、CNT糸1の断面が、円形状ではない(例えば楕円形状等)場合、CNT糸1の直径は、断面の幅の中で最も長い幅とする。
線材2が、1本のCNT糸1で構成される場合、線材2の直径は1本のCNT糸の直径と同義である。
【0029】
・CNT糸の製造方法
CNT糸は、例えば、CNTフォレスト(CNTを、基板に対して垂直方向に配向するよう、基板上に複数成長させた成長体のことであり、「アレイ」と称される場合もある)の端部から、CNTをシート状に引出し、引き出したCNTシートを束ねた後、必要に応じて、CNTの束を撚ることにより得られる。なお、CNTフォレストから引出されるCNTシートの幅を変更することにより、CNT糸の直径を調整することができる。
この他、CNTの分散液から、紡糸をすること等によっても、CNT糸を得ることができる。紡糸によるCNT糸の製造は、例えば、米国公開公報US2013/0251619(国際公開第2012/070537号公報)に開示されている方法により行うことができる。
【0030】
線材2の外周の少なくとも一部は、樹脂4で被覆されていることが好ましい。これにより、造形材料10が溶融され堆積される際に、樹脂4が線材2の間に充填され易くなり、隣接する造形材料中の樹脂同士が接合し易くなる。
線材2は、樹脂同士を接合し易くする観点から、
図1に示すように、線材2の外周全体が樹脂4で被覆されていることがより好ましい。
【0031】
造形材料10全体に対する線材2の含有量は、好ましくは20質量%以上70質量%以下、より好ましくは25質量%以上65質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上60質量%以下である。
線材2の含有量が20質量%以上であると、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形物が得られ易くなる。
線材2の含有量が70質量%以下であると、造形材料10中に占める樹脂4の割合が確保されるので、造形材料が溶融され堆積される際に、隣接する造形材料中の樹脂同士が接合し易くなる。
【0032】
・引張強度
線材2の引張強度は、引張・圧縮試験機(エイ・アンド・デイ社製、RTG-1225)を用いて測定することができる。
線材2の引張強度は、好ましくは100MPa以上、より好ましくは500MPa以上である。上限値は特に限定されないが、製造適性の観点から、20000MPa以下であることが好ましい。線材2の引張強度が100MPa以上であると、強度に優れた造形物が得られ易くなる。測定方法の詳細は実施例の項に記載する。
【0033】
<樹脂>
樹脂4は、熱可塑性樹脂である。
熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリレート-スチレン-アクリロニトリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリアセタール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-(α-オレフィン)共重合体樹脂、プロピレン-(α-オレフィン)共重合体樹脂、及び環状ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
ポリ乳酸樹脂としては、例えば、ポリL-乳酸及びポリD-乳酸等が挙げられる。
ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、及びポリブチレンナフタレート樹脂等が挙げられる。
ポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン6,6、ナイロン12、及び変性ポリアミド等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
本実施形態において、造形材料10全体に対する樹脂4の含有量は、好ましくは30質量%以上80質量%以下、より好ましくは35質量%以上75質量%以下、さらに好ましくは40質量%以上70質量%以下である。
樹脂4の含有量が30質量%以上であると、造形材料10が溶融され堆積される際に、隣接する造形材料中の樹脂同士が接合し易くなる。
樹脂4の含有量が80質量%以下であると、造形材料10中に占める線材2の割合が確保されるので、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形物が得られ易くなる。
【0035】
本実施形態において、造形材料10中における線材2と樹脂4との体積比(線材/樹脂)は、好ましくは10/90以上80/20以下、より好ましくは30/70以上70/30以下である。
造形材料10中における線材2と樹脂4との体積比(線材/樹脂)が10/90以上80/20以下であると、強度と柔軟性とのバランスのとれた造形物が得られ易くなる。
【0036】
本実施形態において、造形材料10の長軸方向と直交する断面の長軸径は、好ましくは6μm以上200μm以下、より好ましくは10μm以上150μm以下、さらに好ましくは20μm以上100μm以下である。
「断面の長軸径」とは、断面を横切る直線を引いた場合に、断面によって切り取られる線分の最大長さとする。「断面の長軸径」の定義は以下同様である。
造形材料10の長軸方向と直交する断面の長軸径が6μm以上であると、取扱い性が向上する。
造形材料10の長軸方向と直交する断面の長軸径が200μm以下であると、造形材料10中に占める線材2の割合が確保されるので、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形物が得られ易くなる。
【0037】
造形材料10は、CNT糸1及び樹脂4以外のその他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、添加剤、有機フィラー、無機フィラー、熱可塑性樹脂以外の樹脂、及び強化繊維(例えば、炭素繊維、ガラス繊維、及びケブラー繊維等)等が挙げられる。添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、可塑剤、柔軟剤、表面調整剤、熱安定化剤、及び着色剤等が挙げられる。
造形材料10がCNT糸1及び樹脂4以外のその他の成分を含む場合、造形材料10全体に対するその他の成分の含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0038】
〔第1実施形態の造形材料の製造方法〕
例えば、線材2が1本のCNT糸1で構成される場合、造形材料は、以下のようにして製造される。
まず、1本のCNT糸1を準備する。CNT糸1は、前述の方法で製造したものでもよいし、市販品でもよい。
次に、CNT糸1の外周(好ましくは外周全体)に樹脂を被覆する。CNT糸1の外周への樹脂の被覆方法は特に限定されないが、例えば、樹脂を含む溶液をCNT糸1の外周に塗布もしくは滴下する方法、及び樹脂を含む溶液にCNT糸1を浸漬させる方法等が挙げられる。
また、CNT糸1の外周への樹脂の被覆としては、例えば、CNT糸1の外周に樹脂を押出製膜する方法、及び樹脂をシート状に成形してCNT糸1の外周に巻き付け溶融する方法等が挙げられる。押出製膜で用いる押出機としては、例えば、単軸押出機、及び二軸押出機等が挙げられる。
CNT糸1の外周への樹脂の被覆は、電線を被覆する方法として公知の手段(例えば電線被覆装置等)を用いて行うこともできる。
また、前述の「CNT糸1の製造方法」において、CNTフォレストの端部から、CNTをシート状に引出す工程、引き出したCNTシートを束ねる工程、及び捻りを加えながらCNTの束を撚る工程のいずれかの工程において、樹脂を含む溶液をCNTに対して滴下することによりCNTに対して樹脂を噴霧してもよい。この方法によっても、CNT糸1の外周に樹脂を被覆することができる。
また、CNT糸と樹脂との相溶性を考慮し、CNT糸及び樹脂と相溶性が良好な樹脂を、予めCNT糸にコーティングしたうえで、上記「CNT糸1の外周への樹脂の被覆方法」を実施することが好ましい。
【0039】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
第2実施形態に係る造形材料10Aは、線材2に代えて、線材20を用いた点以外は、第1実施形態に係る造形材料10と同様である。
図2は、第2実施形態に係る造形材料10Aの斜視図である。
造形材料10Aは、CNT糸の糸束を含む線材20と、樹脂4とを含む。第2実施形態では、線材20がCNT糸1を4本束ねた糸束で構成されており、
図2には、4本のCNT糸からなる糸束が、造形材料10Aの長さ方向に沿って略平行に配置された状態が示されている。
【0040】
第2実施形態において、線材20は、4本のCNT糸1を束ねた糸束を含む線材であるが、CNT糸1の本数は、2本以上であれば特に限定されない。ただし、線材20の引張強度(好ましくは100MPa以上)を確保できるように、CNT糸の本数を調整することが好ましい。
線材20において、複数あるCNT糸は、同一の直径であっても、互いに異なる直径であってもよい。
【0041】
CNT糸からなる糸束(本実施形態では4本のCNT糸からなる糸束)の長軸方向と直交する断面の長軸径は、好ましくは7μm以上5000μm以下、より好ましくは20μm以上3000μm以下、さらに好ましくは50μm以上1000μm以下である。
糸束の長軸方向と直交する断面の長軸径が7μm以上であると、線材20の強度が高まり易くなる。
糸束の長軸方向と直交する断面の長軸径が5000μm以下であると、線材20の柔軟性が向上し易くなる。
なお、CNT糸からなる糸束の長軸径とは、糸束の長軸方向と直交する方向の断面において、その断面の輪郭線上の任意の2点間の距離の最大値である。
【0042】
第2実施形態において、造形材料10Aの長軸方向と直交する断面の長軸径は、好ましくは10μm以上5100μm以下、より好ましくは25μm以上3100μm以下、さらに好ましくは55μm以上1100μm以下である。
造形材料10Aの長軸方向と直交する断面の長軸径が10μm以上であると、取扱い性が向上する。
造形材料10Aの長軸方向と直交する断面の長軸径が5100μm以下であると、造形材料10A中に占める線材20の割合が確保されるので、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形物が得られ易くなる。
【0043】
第2実施形態において、線材20全体に対するCNT糸からなる糸束の含有量、造形材料10A全体に対する線材20の含有量、線材20の引張強度、造形材料10A全体に対する樹脂4の含有量、及び造形材料10A中における線材20と樹脂4との体積比(線材/樹脂)は、それぞれ、第1実施形態における、線材2全体に対するCNT糸1の含有量、造形材料10全体に対する線材2の含有量、線材2の引張強度、造形材料10全体に対する樹脂4の含有量、及び造形材料10中における線材2と樹脂4との体積比(線材/樹脂)の範囲と同様であり、好ましい範囲も同様である。
後述する第3実施形態~第5実施形態においても同様である。
【0044】
第2実施形態の造形材料10Aによれば、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形物を得ることができる。また、第2実施形態の造形材料10Aは、線材20としてCNT糸からなる糸束を含むことにより、3Dプリンタのノズル径に合わせた直径調整が容易となる。
【0045】
〔第2実施形態の造形材料の製造方法〕
例えば、
図2に示す造形材料10Aは、以下のようにして製造される。
まず、CNT糸1を4本準備し、これらのCNT糸1を束ねて糸束とする。次に、第1実施形態の造形材料の製造方法で記載した「CNT糸1の外周への樹脂の被覆方法」により、糸束の外周に樹脂を被覆する。
【0046】
〔第3実施形態〕
本発明の第3実施形態について、第2実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
第3実施形態に係る造形材料10Bは、線材20に代えて、線材20Aを用いた点以外は、第2実施形態に係る造形材料10Aと同様である。
図3は、第3実施形態に係る造形材料10Bの斜視図である。
造形材料10Bは、複数のCNT糸からなる糸束を含む線材20Aと、樹脂4と、を含む。第3実施形態では、線材20AがCNT糸1を3本束ねた糸束で構成されており、かつ3本のCNT糸が互いに撚り合わされている。
図3には、3本のCNT糸からなる糸束(撚糸)が、造形材料10Bの長さ方向に沿って配置された状態が示されている。なお、撚り方は、
図3に示す撚り方に限定されない。
【0047】
線材20Aにおいて、複数あるCNT糸は、同一の直径であっても、互いに異なる直径であってもよい。
【0048】
第3実施形態において、CNT糸1を3本束ね、かつ3本のCNT糸が互いに撚り合わされた糸束(線材20A)の長軸方向と直交する断面の長軸径は、第2実施形態における前記断面の長軸径の範囲と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0049】
第3実施形態の造形材料10Bによれば、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形物を得ることができる。また、第3実施形態の造形材料10Bは、線材20Aとして、CNT糸1を3本束ね、かつ3本のCNT糸が互いに撚り合わされた糸束(撚糸)を含むことにより、3Dプリンタのノズル径に合わせた直径調整が容易となる。
【0050】
〔第3実施形態の造形材料の製造方法〕
例えば、
図3に示す造形材料10Bは、以下のようにして製造される。
まず、CNT糸1を3本準備し、これらのCNT糸1を束ねて糸束とし、その後、3本のCNT糸を互いに撚り合わせる。次に、第1実施形態の造形材料の製造方法で記載した「CNT糸1の外周への樹脂の被覆方法」により、前記糸束(撚糸)の外周に樹脂を被覆する。
【0051】
〔第4実施形態〕
本発明の第4実施形態について、第2実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
第4実施形態の造形材料は、樹脂が糸状の樹脂である点以外は第2実施形態に係る造形材料10Aと同様である。
図4は、第4実施形態に係る造形材料10Cの側面図である。
造形材料10Cは、第2実施形態の線材20と、糸状の樹脂4Aと、を含む。第4実施形態では、糸状の樹脂4Aが線材20の外周面に沿って一方向に螺旋状に巻回されている。すなわち、線材20は、糸状の樹脂4Aによって外周全体が被覆されている。
【0052】
第4実施形態において、線材20に対する糸状の樹脂4Aの螺旋回数、螺旋角度及び螺旋方向は特に限定されない。
図4に示すように、線材20は、外周全体が糸状の樹脂4Aで被覆されていることが好ましいが、外周の一部が糸状の樹脂4Aで被覆されていてもよい。
第4実施形態において、CNT糸からなる糸束の長軸方向と直交する断面の長軸径は、第2実施形態における前記断面の長軸径の範囲と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0053】
第4実施形態の造形材料10Cによれば、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形物を得ることができる。第4実施形態の造形材料10Cは、線材20の外周が糸状の樹脂4Aで被覆されることにより、3Dプリンタのノズル径に合わせた直径調整が容易となる。
【0054】
〔第4実施形態の造形材料の製造方法〕
例えば、
図4に示す造形材料10Cは、以下のようにして製造される。
まず、第2実施形態の線材20を得た後、公知の方法で、糸状の樹脂4Aを、線材20の外周面に沿って一方向に螺旋状に巻回することで造形材料10Cを得る。なお、樹脂4Aを線材20に巻回する際、必要に応じて、接着剤等を用いてもよい。また、糸状の樹脂4Aを線材20に巻回した後、加熱処理を行ってもよい。
【0055】
〔第5実施形態〕
本発明の第5実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明については、その説明を省略する。
図5は、第5実施形態に係る造形材料10Dの側面図である。
第5実施形態の造形材料10Dは、第1実施形態で用いた1本のCNT糸1を含む線材2と、1本の糸状の樹脂4Bと、を含み、かつ線材2と樹脂4Bとが互いに撚り合わされている。なお、線材2の本数及び樹脂4Bの本数は、それぞれ限定されない。
【0056】
第5実施形態の造形材料10Dによれば、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形物を得ることができる。また、第5実施形態の造形材料10Dは、線材2と糸状の樹脂4Bとを撚り合わせることにより、3Dプリンタのノズル径に合わせた直径調整が容易となる。
【0057】
〔第5実施形態の造形材料の製造方法〕
例えば、
図5に示す造形材料10Dは、以下のようにして製造される。
まず、第1実施形態の線材2と、糸状の樹脂4Bとを準備する。次に、線材2と糸状の樹脂4Bとを互いに撚り合わせる。
【0058】
〔第6実施形態〕
本実施形態に係る造形物は、前述の実施形態に係る造形材料のいずれかを用いて製造された造形物である。
したがって、本実施形態の造形物によれば、強度と柔軟性とを兼ね備えている。
【0059】
本実施形態の造形物の製造方法について、
図6、7を参照して説明する。
本実施形態では、第1実施形態の造形材料10を用いて造形物を製造する場合について説明する。
図6は、熱溶解積層方式の3Dプリンタ100の概略図である。
図7は、
図6の3Dプリンタ100に設置されるカートリッジ200の概略図である。
3Dプリンタ100は、造形材料10の溶融物が堆積される台14と、造形ヘッド12と、造形材料10を搬送する2つの一対の搬送ローラ18A,18Bと、カートリッジ設置部(不図示)とを備えている。
造形ヘッド12には、造形材料10中の樹脂を溶融して押し出すノズル26と、造形ヘッド12内に設置され、ノズル26の上流側で造形材料10を加熱するヒーター16とを備えている。また、ノズル26の開口部には、造形材料10の堆積中に、造形材料10を必要に応じて切断するカッター22が設けられている。
カートリッジ設置部(不図示)には、カートリッジ200が設置される。
図7に示すように、カートリッジ200は、巻芯としてのボビン201と、ボビン201に巻き付けられた造形材料10とを備えている。
巻芯としてのボビンの形状及びサイズは特に限定されないが、造形材料の長さ及び3Dプリンタの形状に合わせたボビンを適宜選択することが好ましい。また、
図7では、1つのカートリッジを図示したが、カートリッジの数は1つに限定されず、2つ以上であってもよい。
【0060】
造形物は以下のようにして製造される。
カートリッジ設置部(不図示)に設置されたカートリッジ200から、造形材料10は、搬送ローラ18Bによって、造形ヘッド12へ搬送され、その後、造形ヘッド内を通り、搬送ローラ18Aによって、ノズル26まで搬送される。
造形材料10は、造形ヘッド12内でヒーター16によって加熱され、溶融物となり、ノズル26から押し出される。ノズル26から押し出された溶融物は、台14上に堆積される。台14上に一層目の溶融物が堆積されたところで、造形材料10は、必要に応じてカッター22で切断される。この動作を繰り返し行うことによって、二層目の溶融物、三層目の溶融物が順次堆積される。台14上に堆積された複数層からなる溶融物24は、空冷等によって冷却され固化される。このようにして造形物が製造される。
【0061】
〔実施形態の変形〕
本発明は前述の実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【0062】
前述の造形材料に関する実施形態において、線材は、造形材料の柔軟性を損なわない範囲で、CNT糸以外の他の繊維を含んでもよい。他の繊維としては、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、及びガラス繊維等が挙げられる。繊維の形状は特に限定されないが、糸状であることが好ましい。
中でも、線材は、柔軟性を保持しつつ、強度をより高める観点から、CNT糸と共に、糸状の炭素繊維を含むことが好ましい。この場合、CNT糸と糸状の炭素繊維とは、互いに撚り合わされた撚糸であってもよいし、略平行に束ねられた糸束であってもよいし、合糸であってもよい。糸状の炭素繊維の本数は、線材の柔軟性を損なわない範囲において選択されることが好ましい。
【0063】
例えば、第1実施形態の造形材料は、第2実施形態と同様に、線材を2本以上含んでいてもよい。その場合、造形材料に含まれる2本以上の線材は、互いに径方向に離間して存在してもよい。
例えば、第2実施形態において、線材に含まれる複数のCNT糸は、互いに撚糸であっても、合糸であっても、組紐であってもよい。
例えば、第3実施形態において、線材に含まれる複数のCNT糸は、撚り合わされていない糸束であっても、合糸であっても、組紐であってもよい。
例えば、第4実施形態において、線材の外周面に沿って一方向に螺旋状に巻回されている糸状の樹脂は、線材の外周面に沿って複数方向に螺旋状に巻回されていてもよい。糸状の樹脂が複数方向に螺旋状に巻回されている態様としては、例えば、組紐構造等が挙げられる。
例えば、第5実施形態の造形材料は、線材と、糸状の樹脂と、必要に応じて他の繊維とを含んで形成された組紐であってもよい。
【0064】
前述の造形材料に関するいずれかの実施形態においては、線材に含まれるCNT糸の本数、CNT糸の撚りの有無、撚り方、撚りの回数、撚りの角度、螺旋回数、螺旋角度、及び螺旋方向等は任意に選択することができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。
【0066】
〔実施例1〕
シリコンウエハ上に形成されたマルチウォールCNTフォレストを準備した。CNTフォレストの側面からCNTをリボン状に引き出し、このリボン状のCNTに撚りを加えることにより、線材として、1本のCNT糸を得た。CNT糸の長軸径は26.4μmであった。
【0067】
〔実施例2〕
シリコンウエハ上に形成されたマルチウォールCNTフォレストを準備した。CNTフォレストの側面からCNTをリボン状に引き出し、このリボン状のCNTに撚りを加えることにより、1本のCNT糸を得た。このCNT糸を16本撚り合わせて、線材として、CNT糸からなる糸束を得た。16本のCNT糸からなる糸束(撚糸)の長軸径は112.3μmであった。
【0068】
〔比較例1〕
糸状の炭素繊維(東レ社製:直径7μm×1000本)を準備した。
次に、直径が約30μmとなるよう繊維を引き裂き、これを比較例1の線材とした。引き裂いた炭素繊維の本数を数えたところ、本数は24本であった。
【0069】
〔評価〕
実施例1~2及び比較例1の線材をカッターで長さ4cmに切断し、測定長さが1cmとなるよう、線材の両端各1.5cmを接着剤(東亞合成製、アロンアルフアEXTRA4020)で台紙に固定し試験片を作製した。この試験片を用いて、引張試験及び曲げ試験を行った。結果を表1に示す。
【0070】
<引張試験>
各試験片に対して、以下の条件で線材が破断したときの引張強度を測定した。評価基準を以下に示す。
【0071】
-条件-
・引張・圧縮試験機(エイ・アンド・デイ社製、RTG-1225)
・引張速度…1mm/分
・測定環境…23℃、50%RH
【0072】
-基準-
A…500MPa以上
B…100MPa以上500MPa未満
C…100MPa未満
【0073】
<曲げ試験>
各試験片に対して、台紙に固定した線材の両端部を手で持ち、線材を90度折り曲げた際の状態を評価した。評価基準を以下に示す。
【0074】
-基準-
A…破断していない
B…一部が破断している
C…完全に破断している
【0075】
【0076】
実施例1及び実施例2の線材は、引張強度に優れていた。さらに、実施例1及び実施例2の線材は、曲げ試験の結果から、比較例1の線材に比べ、柔軟性に優れていた。
したがって、実施例1及び実施例2の線材と、熱可塑性樹脂とを用いて造形材料を作製し、その作製した造形材料を熱溶融積層方式の3Dプリンタに適用することにより、強度と柔軟性とを兼ね備えた造形物を製造することができる。
【符号の説明】
【0077】
1…CNT糸、2,20,20A…線材、4,4A,4B…樹脂、10,10A,10B,10C,10D…造形材料、12…造形ヘッド、14…台、16…ヒーター、18A,18B…一対の搬送ローラ、22…カッター、24…溶融物、26…ノズル、100…3Dプリンタ、200…カートリッジ、201…ボビン。