(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ソナー用信号マルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
G01S 7/52 20060101AFI20240306BHJP
G01S 7/521 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
G01S7/52 V
G01S7/521 B
(21)【出願番号】P 2021526412
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2019081527
(87)【国際公開番号】W WO2020099655
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-07
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511148123
【氏名又は名称】タレス
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コルベル フィリップ
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-121847(JP,A)
【文献】特開2013-208295(JP,A)
【文献】特開2012-008830(JP,A)
【文献】米国特許第6069842(US,A)
【文献】Manoj G et al.,Design, Simulation and Comparison of Mixing Schemes for DC, AC and Bidirectional Data through Coaxial Cable,Procedia Computer Science,vol.93,Elsevier,2016年08月12日,p.578-584
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72- 1/82
G01S 3/80- 3/86
G01S 5/18- 5/30
G01S 7/52- 7/64
G01S 15/00-15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソナーであって、第一の部分(201)と、第二の部分(202)であって、前記第二の部分を機械的に支持し、前記ソナーの前記2つの部分が、
-それによって前記第一の部分が電源を前記第二の部分に送信する、電源供給信号(210、220)と呼ばれる一方向信号、
-前記第一の部分によって前記第二の部分へと、それらが音波の形態で発信されるようにするために送信される、送波信号(211、221)と呼ばれるアナログ一方向信号、及び
-前記2つの部分間で交換される通信データを搬送する双方向信号(212、222)
を含む信号を交換できるように構成された電気キャリアケーブルにより連結された第二の部分と、を含むソナーにおいて、
-前記第一の部分は、前記電源供給信号、前記送波信号、及び前記通信データを搬送する信号が前記電気キャリアケーブル上で同時に異なる周波数バンドで送信されるように構成される信号結合手段(213)を含み、
-前記第二の部分は、前記電気キャリアケーブル上で送信された前記信号の各々の回復を可能にする分離手段(223)と、1つ又は複数の発信音響トランスデューサ(Tr)と、前記1つ又は複数の発信音響トランスデューサのためのチューニング/マッチング手段(L1)と、を含む
ことを特徴とするソナー。
【請求項2】
前記結合手段は、前記送波信号を前記電源供給信号と連結するように構成されるコンポーネント(TR1、C1)を含む、請求項1に記載のソナー。
【請求項3】
送波信号を前記電源供給信号と連結するように構成される前記コンポーネントは、前記送波信号の電圧を上げて、これらを電源供給信号と結合するように構成された変圧器(TR1)を含む、請求項2に記載のソナー。
【請求項4】
前記結合手段は、前記電気キャリアケーブル(203)への前記信号の伝播を案内するように構成されたコンポーネント(L2、311)を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のソナー。
【請求項5】
前記電気キャリアケーブル(203)への前記信号の伝播を案内するように構成された前記コンポーネントは、
-前記電源供給信号(210)と前記送波信号(211)を通過させ、前記通信データを搬送する前記信号(212)の伝播を制限するように構成されたインダクタ(L2)であって、一方の側の前記電気キャリアケーブルと反対側の前記送波信号を生成するための要素(TX)及び前記電源供給信号を生成するための要素(A1)との間に接続されるインダクタ(L2)と、
-前記通信データを搬送する前記信号を通過させ、前記電源供給信号と前記送波信号の伝播を制限するように構成されたフィルタ(311)であって、前記電気キャリアケーブルと前記通信データを搬送する前記信号の発生器(310)との間に接続されたフィルタ(311)と、
を含む、請求項4に記載のソナー。
【請求項6】
前記分離手段(223)は、前記電源供給信号を前記電気キャリアケーブル(203)により搬送されるその他の信号から分離し、前記1つ又は複数の音響トランスデューサの前記チューニング/マッチングに寄与するように構成される、請求項1~5のいずれか1項に記載のソナー。
【請求項7】
前記電源供給信号を前記その他の信号から分離し、前記1つ又は複数の音響トランスデューサの前記チューニング/マッチングを行うように構成される
インダクタ(L1)は、前記1つ又は複数の音響トランスデューサと並列に取り付けられ、前記電気キャリアケーブル(203)と、直列に取り付けられるコンデンサ(C2)との間に接続され、前記電源供給信号は前記コンデンサの端子において回復される、請求項6に記載のソナー。
【請求項8】
前記電源供給信号を前記その他の信号から分離し、前記1つ又は複数の音響トランスデューサの前記チューニング/マッチングを行うように構成される
インダクタ(L1)は、前記電源供給信号(220)を通過させ、前記通信データを搬送する前記信号(222)と前記送波信号(221)の伝播を制限するように構成される、請求項6又は7に記載のソナー。
【請求項9】
前記分離手段(223)は、
-前記送波信号(221)を通過させ、前記通信データを搬送する前記信号(222)の伝播を制限するように構成されたインダクタ(L3)であって、前記電気キャリアケーブル(203)と前記1つ又は複数の発信音響トランスデューサ(Tr)との間に接続されるインダクタ(L3)と、
-前記通信データを搬送する前記信号を通過させ、前記電源供給信号(211)と前記送波信号の伝播を制限するように構成されたフィルタ(320)であって、前記電気キャリアケーブルと、前記通信データを搬送する前記信号を変調/復調するための素子(321)との間に接続されたフィルタ(320)と、
を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のソナー。
【請求項10】
前記通信データを搬送する前記信号はゼロ平均変調により変調される、請求項1~9のいずれか1項に記載のソナー。
【請求項11】
前記通信データを搬送する前記信号
は直交周波数分割多重化
により変調される、請求項1~10のいずれか1項に記載のソナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SONAR(SOund NAvigation and Rangingの略)機器の分野に関し、より詳しくは、信号交換を確実にする役割を担うケーブルによって相互に連結される2つの部分から構成されるソナーを扱う。
【背景技術】
【0002】
ソナーとは、水中での音の伝播特性を利用して水中の物体を検出し、その位置を特定する装置である。これらは特に、防衛分野において潜水艦又は水雷の検出のために使用される。
【0003】
ソナーは多くの場合、次の2つの部分で構成される:
-水上部分と呼ばれ、一般に船舶等の水上艇又は航空機に搭載される第一の部分。水上部分は、水中への投入が意図されていないことを意味すると理解されている。これは、潜水艦等の潜水艇での使用に適合しないわけではない。この部分は少なくとも、ソナーの水中部分により発せられたパワー信号と、水中部分への電源供給を可能にする信号の生成を行う。また、これは潜水部分との通信データの交換に必要な電子機器も含む。有利な点として、水中部分により取得された信号を、発信源の検出のために分析するのに必要なデジタル電子機器を有することもできる。
-水中に沈められて水中でソナー信号を送信することが意図されることから水中部分と呼ばれる第二の部分。この部分は主として、水中信号の送受信を可能にする音響トランスデューサで構成される。これはまた、水中信号の取得、そのデジタル化、及び水上部分へのその送信に必要な電子機器も含む。
【0004】
図1は、ヘリコプタに搭載された場合の、海中物体検出のための2部式ソナーの例を示す。ソナーの水上部分はヘリコプタ101の内部に位置付けられ、水中部分102は海中の、数百メートルに達し得る水深の位置にある。2つの部分は、電気キャリアケーブル103により連結される。このケーブルは、ヘリコプタに搭載されたウィンチに巻き付けられ、それによってソナーの水中部分を昇降させたり、ある位置に保持したりすることができる。ケーブル103は外装を有し、すなわち、その構造は水中部分の重量と自重に耐えられるように強化される。ケーブル長さは、数百メートルに達する可能性がある。例として、Thales社はSonar Flashと呼ばれるソナーを開発しており、その機器の水中部分は水上部分に700メートルを超える同軸ケーブルにより連結されている。
【0005】
したがって、電気キャリアケーブルは、ソナーの水中部分を固定する役割を果たし、電気信号を送信するための媒体として機能する。一般に、3種類の信号がソナーの2つの部分間で送信される:
-高パワーアナログ信号である送波信号。これらの信号は水上部分により生成され、水中部分の音響トランスデューサにより発せられることが意図される。例として、Sonar Flashの場合、発せられる信号は2500Vrmsの交流電圧で10kWのパワーを有する。
-ソナーの水中部分のために確実に電源供給する電源供給信号。この信号は一般に、直流信号又は低周波数交流信号(50Hz~400Hz)である。
-ソナーの2つの部分間の通信データの送信を可能にし、特に、1つの方向には水中部分のための管理及び制御/コマンドデータを送信し、もう1つの方向にはソナーの水中部分の状態に関する情報とデジタル化された取得信号を送信する双方向信号。
【0006】
例えばSonar Flash等の最新技術のヘリコプタウィンチ式ソナーは、様々な信号の送信媒体として同軸電気キャリアケーブルを使用する。これらはケーブル上で連続的に送信され、ケーブルはそれゆえ、異なる機能間で時分割される。しかしながら、このような時分割多重化は、信号の各々、特に電源供給信号のカットオフの原因となる。すると、信号の連続性の確保専用の機器、例えば電源供給信号のためのエネルギー貯蔵装置(バッテリ)を水中部分に実装しなければならない。能動的電源切替素子、例えばパワーリレイもまた水中部分に実装しなければならず、これは不信頼性の根源となる。これらはすべて、水中部分の重量と体積及びしたがって、電気キャリアケーブルの直径並びに全体的な体積と重量に跳ね返る。そこで、水中部分を軽量化・小型化し、それと同時にその信頼性を改善できる解決策を有することが好ましい。
【0007】
さらに、通信データを搬送する信号の平均ビットレートは、それに割り当てられる時分割リソースに応じて限定される。コンポーネントの小型化と信号処理のための計算パワーの増大における進化により、ソナーはますます多くのセンサを備えつつある。すると、搬送されるデータ量の点での要求事項も相応に増大する。したがって、この信号の平均ビットレートを高めることを可能にする解決策を見つけなければならない。
【0008】
したがって、発生する問題は3つからなり、すなわち、装置の軽量化、その信頼性の向上、及び通信データを搬送する信号に割り当てられるビットレートの増大である。
【0009】
通信データを搬送する信号のビットレートを増大させるために、単独の送信線の代わりに、信号の各種類につき1つの複数の送信線をケーブル内に並列に有することが可能であろう。それによって、水中部分の電源切替及びエネルギー貯蔵装置を排除することが可能となるであろう。しかしながら、送信線の数を増やすことによって、ケーブルの断面積とその重量が増し、その結果、ケーブル内でその全長にわたり繰り込む必要のあるドラムの嵩の問題とケーブル及びドラムにかかる機械的応力の問題とが生じるであろう。したがって、この解決策は、特にソナーがヘリコプタに搭載される場合、適当でない。
【0010】
発生した問題に対処しながら、先行技術により生じる問題を解決するために、本発明は全ての信号(電源供給、発信、及び通信データ)を、異なる信号を結合することによって連続的且つ同時に送信することを提案するものであり、各種類の信号はそれ自体に固有の周波数バンドを使用する。このような結合は先行技術では考えられておらず、その理由は、特性が大きく異なる異種信号、すなわち、例えば水中部分により発せられることになる、数千ボルトにも及び得る電圧と数十キロワットのパワーを持つ信号のような高パワー信号を、通信データを搬送する信号のようなより低パワーの信号と同一の媒体上で送信することになるからである。これらの信号は、そのパワーの違い及びその周波数バンドの違いにより、ソナーで使用されるコンポーネントに制約が加わり、これは大幅に相違し、必ずしも両立するとはかぎらない。
【0011】
電気キャリアケーブル上で送信される異なる信号を混合するために、本発明は、一方で信号結合手段、他方で信号分離手段を実装することを提案する。このような装置の、ソナーの第二の部分の重量と体積を縮小するように最適化された実践的な実装例が
図3に示され、詳しく説明される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
そのために、本発明はソナーに関し、これは第一の部分と、第二の部分であって、第二の部分を機械的に支持し、ソナーの2つの部分が信号を交換できるように構成された電気キャリアケーブルにより連結された第二の部分と、を含む。送信される信号は、
-それによって第一の部分が電源を第二の部分に送信する、電源供給信号と呼ばれる一方向信号、
-第一の部分によって第二の部分へと、それらが音波の形態で発信されるようにするために送信される、送波信号と呼ばれるアナログ一方向信号、及び
-2つの部分間で交換される通信データを搬送する双方向信号
を含む。
【0013】
本発明によるソナーにおいて、第一の部分は信号結合手段を含み、これは、電源供給信号、送波信号、及び通信データを搬送する信号が電気キャリアケーブル上で同時に異なる周波数バンドで送信されるように構成される。さらに、第二の部分は、電気キャリアケーブル上で送信された信号の各々の回復を可能にする分離手段と、1つ又は複数の発信音響トランスデューサ(Tr)と、1つ又は複数の発信音響トランスデューサのためのチューニング/マッチング手段(L1)と、を含む。
【0014】
有利な点として、電気キャリアケーブルは、1つの送信線を含む。
【0015】
1つの実施形態において、結合手段は、送波信号を電源供給信号と連結するように構成されるコンポーネントを含む。これらのコンポーネントは、有利な態様として、送波信号の電圧を上げて、これを電源供給信号と結合するように構成された変圧器を含むことができる。これらはまた、信号の伝播を電気キャリアケーブルへと案内するように構成されたコンポーネントも含むことができる。1つの実施形態において、電気キャリアケーブルへと信号の伝播を案内するように構成されたコンポーネントは、
-電源供給信号と送波信号を通過させ、通信データを搬送する信号の伝播を制限するように構成されたインダクタであって、一方の側で電気キャリアケーブルと、反対側で送波信号を生成するための、及び電源供給信号を生成するための要素との間に接続される前記インダクタと、
-通信データを搬送する信号を通過させ、電源供給信号と送波信号の伝播を制限するように構成されたフィルタであって、電気キャリアケーブルと通信データを搬送する信号の発生器との間に接続された前記フィルタと、
を含む。
【0016】
有利な態様として、分離手段はインダクタを含み、これは電源供給信号を電気キャリアケーブルにより搬送されるその他の信号から分離し、1つ又は複数の音響トランスデューサのチューニング/マッチングを行うように構成される。1つの実施形態において、インダクタは、1つ又は複数の音響トランスデューサと並列に取り付けられ、電気キャリアケーブルと、直列に取り付けられるコンデンサとの間に接続され、電源供給信号は前記コンデンサの端子において回復される。
【0017】
有利な態様として、インダクタは、電源供給信号を通過させ、通信データを搬送する信号と送波信号の伝播を制限するように構成される。
【0018】
本発明によるソナーの1つの実施形態において、分離手段は、
-送波信号を通過させ、通信データを搬送する信号の伝播を制限するように構成されたインダクタであって、電気キャリアケーブルと1つ又は複数の発信音響トランスデューサとの間に接続される前記インダクタと、
-通信データを搬送する信号を通過させ、電源供給信号と送波信号の伝播を制限するように構成されたフィルタであって、電気キャリアケーブルと、通信データを搬送する信号を変調/復調するための素子との間に接続された前記フィルタと、
を含む。
【0019】
本発明によるソナーにおいて、電源供給信号は、スペクトルのうち0~400Hzの範囲の部分内に含めることができ、送波信号は、スペクトルうち1kHz~200kHzの範囲の部分内に含めることができ、通信データを搬送する信号は、スペクトルのうち200kHzより高い部分内に含めることができる。
【0020】
本発明によるソナーの1つの実施形態において、通信データを搬送する信号は、ゼロ平均変調により変調される。有利な態様として、変調は直交周波数分割多重化、すなわちOFDMを用いる。
【0021】
説明
非限定的な例として挙げられる以下の説明を読めば、また、下記のような添付の図面から、本発明はよりよく理解され、その他の特徴と利点はより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】2つの部分で構成されるヘリコプタウィンチ式ソナーの例を示す。
【
図3】本発明によるソナーの有利な実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下において、同じ参照番号が異なる図面で使用される場合、これらは同じ要素を指す。
【0024】
図2は、分離され、電気キャリアケーブル203により連結される2つの部分201及び202を含む本発明によるソナーの実施形態を示す。ソナーは、船舶、航空機、又は潜水艦等の乗り物に搭載されることが意図される、水上部分と呼ばれる第一の部分201と、水中に投入されることが意図される、水中部分と呼ばれる第二の部分202とを有する。電気キャリアケーブル203は、第二の部分202のための機械的支持機能と、2つの部分201及び202間の同一の送信線を通じた信号送信機能とを提供し、信号は以下を含む:
-電源供給信号210。この信号は、ソナーの水中部分の動作を確実にするためのものである。これは一般に直流信号であるが、数十Hzの周波数を有する交流信号と同等にできる。信号は、ソナーの水上部分201がエネルギー貯蔵手段(バッテリ)を有していればそれによって生成されることも、又はソナーが連結される外部電源から供給されることも同等にできる。
-送波信号211。これらは、ソナーの水中部分により水中で音波の形態で発せられることが意図される電気信号である。これらの信号は、高周波数(典型的に、1kHz~数百kHz)で送信される高パワー信号である。送波信号211は、数十キロワットに到達し得る高パワーを搬送する。送波信号211の電流の強度を限定するために、電圧は数千ボルトを超えることがあり得る。送波信号は、ソナーの第一の部分により生成され、次に音響トランスデューサを使用してそれらを発信するソナーの第二の部分へと送信される。並びに
-双方向通信信号212。下りリンクで(すなわち、ソナーの水上部分201から水中部分202へ)送信されるデータは基本的に、コンフィギュレーションデータに対応し、上りリンクで(すなわち、ソナーの水中部分から水上部分へ)送信されるデータは主として、ソナーの水中部分により取得、増幅、及びおそらくデジタル化される音響信号とその部分の状態に関するデータとに対応する。したがって、通信データを搬送する双方向信号の上りリンク及び下りリンクで送信されるデータ量は対称ではなく、ビットレートの需要は上りリンク上のほうが下りリンク上より大きい。ソナーの水上部分201は、通信データを搬送する信号の生成(変調、符号化)及び受信(復調、復号)に必要な電子部品を有する。上下リンクは、TDD(時分割複信(Time-Division Duplex))等の当業者の間で知られている方法によって同じスペクトルリソースを共有することも、又は各々がFDD(周波数分割複信(Frequency-Division Duplex))等の既知の方法に従って専用に割り当てられる周波数バンドを有することもできる。これらは、信号210及び211より高いキャリア周波数で送信される。
【0025】
ソナーの水上部分201はまた、ソナーの水中部分により取得された信号の分析を進めることができるようにする計算手段も有することができる。
【0026】
また、異なる信号を結合できるようにする手段213も有する。これらの手段の機能は、電源供給信号210、送波信号211、及び通信データが同時に電気キャリアケーブル203内の同じ送信媒体、この場合は同軸ケーブル等の単独の送信線を確実に使用できるようにすることであり、これらの信号の各々の生成の役割を担う機器に影響を与えない。同時に、とは、各信号が他の信号により干渉されることなく連続的に送信され得ることを意味すると理解されている。
【0027】
水中部分202は、それが第一の部分201から受信する送波信号211を水中で発せられる音波に変換し、水中で伝播する音波を受信するように構成される。このために、第二の部分はしたがって、音響トランスデューサを含み、その音響信号を送信するように構成されるものもあれば、これを取得するように構成されるものもある。音響トランスデューサは最も多くの場合、その電気的挙動がほとんど容量性である圧電素子である。音響トランスデューサのためのチューニング/マッチングアレイの実装によって、送波信号上でのパワー損失を最小化することができる。
【0028】
第二の部分202はまた、受信において動作する音響トランスデューサにより取得される信号の増幅、おそらくはそれらのデジタル化、及びソナーの水上部分201へのそれらの送信に必要な電子部品も含む。
【0029】
最後に、ソナーの水中部分202はまた、異なる信号を分離するための分離手段223も有する。これの分離手段によって、電源供給信号220、送波信号221、及び通信データ222を別々に回復することが可能となる。
【0030】
したがって、本発明による装置では最新技術の装置より柔軟な動作が可能となるがこれは、ケーブル上で送信されるべき全ての信号がその都度、明確に、中断されることなく利用可能であるからである。それゆえ、以下を含む多くの利点が提供される:
-全ての信号が同じ送信線を使用するため、電気キャリアケーブル203の直径と重量を制御できる。それゆえ、単純な同軸ケーブル又はツイステッドペアが送信線の役割を果たすことができる。
-装置は、その水中部分に電気機械的切替素子(例えば、パワーリレイ等)の実装を必要としないため、その体積、その重量、そのコストが削減され、また、信号の送信及び切替素子の同期も必要としないため、システムの信頼性が向上し、システムが単純化される。すると、水中部分から制御回路を排除できる。
-電源供給信号220の時間的連続性が確保され、すると水中部分はエネルギー貯蔵要素(バッテリ)の使用を省くことができ、それによってその体積、その重量、そのコストが削減され、その信頼性が向上する。
-通信データ222の時間的連続性が確保され、これは、搬送されるデータ量及びしたがって、水中部分の音響センサの数を増大できることを意味する。
-上述の利点の全てにより、ソナーの水中部分の重量と嵩及びしたがって、その流体力学的性能のほか、電気キャリアケーブルのサイズ及びその中に繰り込む必要のあるドラムの大きさも縮小できる。
【0031】
通信データを搬送する信号は、アナログ又はデジタル信号の形態を同等にとることができる。何れの変調/符号化方式も使用できる。有利な態様として、ソナーは直接的コンポーネントを一切持たないように、ゼロ平均変調を採用する。実際に、このようなコンポーネントは電源供給信号に重畳されることになる。より有利な態様として、これはエラー補正コードを実装することによって、低い電気性能レベルが判明し、特にケーブルの長さ、その繰り込み/繰り出し状態、又はその経年劣化を通じて変化しやすいケーブル上での送信の品質を向上させる。有利な態様として、通信信号は、例えばOFDM変調等の直交周波数分割多重化方式によって変調される。実際、このような変調方式により、同じスペクトル占有幅で非常に高いビットレートを実現することができ、送信品質の向上を可能にするエラー補正コードの使用と両立する。OFDMはまた、スペクトルリソースを調整することにおいて非常に高い柔軟性を提供し、それによって両方の送信方向への周波数リソースの割当をダイナミックに調整することが可能となる。
【0032】
本発明の1つの実装例は、ソナーの各部分において、送信される信号の各々に合わせて調整されたフィルタ要素を取り付け、一方でそれらを干渉させずに結合できるようにし、他方でこれらを分離できるようにするフィルタ要素を取り付けることからなる。より具体的には、1つの実施形態によれば、これらの要素は電源供給信号のためのローパスフィルタ、送波信号のためのバンドパスフィルタ、及び通信データを搬送する信号のためのバンドパス又はハイパスフィルタとすることができる。これらのフィルタは、抵抗器、インダクタ、及びコンデンサのネットワークに基づいて設計できる。しかしながら、パワーエレクトロニクスに関して、コンポーネントは低周波数(数百キロヘルツ)で非常に高いパワーと電圧レベルに耐えられなければならず、これはかなりの体積と重量につながる。フィルタに実装されるコンポーネントの中で、インダクタが一般に体積と重量の点で最大の割合を占め、それがケーブル203及びそれに関連するドラムの寸法に反映される。さらに、これらのコンポーネントは非常に高コストである。したがって、その数は、特にソナーの水中部分において限定されなければならない。
【0033】
このために、
図3は、使用される要素の数を限定するために最適化された本発明の1つの実装によるソナーの主要要素を説明する。図示されている実施形態は、送信される信号間に存在する大きい周波数差を利用する。そのために、結合手段として機能するコンポーネントが水上部分の中に実装される。これらのコンポーネントは、電気キャリアケーブル203が信号210、211、及び212の各々周波数と最もよくマッチするインピーダンスを示すように構成され、それによってこれらの信号は電気キャリアケーブル203へと案内され、それゆえ、これらの信号がそれぞれの生成要素に戻るのが最小限とされる。同様に、水中部分に分離手段として機能するコンポーネントが実装される。これらのコンポーネントは、信号の周波数にマッチするインピーダンスを示して、電気キャリアケーブル203により搬送される各信号をその目的地へと別々に伝達するように構成される。
【0034】
図2と同様に、
図3は、船舶、航空機、又は潜水艦に搭載されることが意図される第一の水上部分201と、水中に投入されて音響信号を発生させ、それによって標的の検出を可能にすることが意図される第二の部分202と、を含み、2つの部分は、水中部分の固定と、ソナーの水上部分と水中部分との間の信号の伝送を確実にする電気キャリアケーブル203によって連結されることを示す。
【0035】
水上部分201は、送波信号を生成することが意図される発信器TXを含む。これらの信号は一般に、ごく低周波数のソナーのための1キロヘルツから高周波数ソナーのための数百キロヘルツまでの周波数バンドで変調された、数キロワットのパワーを有する。送波信号のキャリア周波数は、時間によって変化するようにすることができる。
【0036】
水中部分はまた、図中、直流源として示される電源A1と、通信データを搬送する信号を生成/受信するモデム310とも含む。モデム310はまた、上下リンク上の通信データを搬送する信号の同期も扱う。電源A1は、ソナーの一部であるか、又はソナーが連結される外部電源から発せられる直流又は交流電源とすることができる。
【0037】
水上部分201は、電源A1により送達される信号210が発信器TXにより送達される信号211及びモデム310により供給される通信データを搬送する信号212と結合されるようにする手段213を含む。
【0038】
このために、この実施形態において、水上部分201は変圧器TR1を含み、その役割は、送波信号の電圧を上昇させ、それによって、電子部品の動作インピーダンスを音響トランスデューサのそれとマッチさせ、電気キャリアケーブル203の全長にわたる送信中のこれらの信号のパワー損失を限定することである。変圧器TR1の実装は厳密に必須というわけではないが、それによってソナーの第一の部分と第二の部分との間の送波信号の送信が格段に改善され、電源供給信号を送波信号と連結することが可能となる。したがって、これは、送波信号の電圧を上昇させ、それと同時に電源供給信号と送波信号の集約に寄与することから、二重の役割を有する。
【0039】
電源A1は、変圧器TR1のセカンダリを介して接続される。電源電圧を変圧器により送達される電圧に重畳させるために、コンデンサC1は電源と並列に取り付けられる。このコンデンサがなければ、変圧器により送達される電圧は電源に戻り、これによってソナーの水中部分はそれ以上電源も送波信号も受信せず、電源A1を破壊する恐れがある。したがって、電源と並列に取り付けられたコンデンサC1により、送波信号を電源供給信号と連結することが可能となる。
【0040】
通信データは、モデム310により生成/受信され、ハイパス(又はバンドパス)フィルタ311を通じて他の信号に連結される。このハイパスフィルタは、モデム310をケーブル203の入力から分離するように接続され、電源供給信号の、及び送波信号の周波数でケーブルの入力よりはるかに高いインピーダンスを有する。そのため、それによって、連結された信号、送波信号、及び電源供給信号がモデム310に戻り、電気キャリアケーブル203へと、及びしたがってソナーの水中部分202へと向かわせるのを阻止することができる。有利な態様として、ハイパスフィルタは、例えば高電圧レベルを保持するように設計されたコンポーネントを使用することによって、又はより低電圧レベルのために設計された要素を直列に結合することによって等、送波信号の高い電圧に耐えられるように設計される。
【0041】
インダクタL2は、ケーブル203と変圧器TR1との間に接続されて、送波信号と電源供給信号の結合を扱う部分を、通信データを搬送する信号の送信専用の部分から分離する。このインダクタは、通信データを搬送する信号によって使用される周波数で高いインピーダンスを有し、この信号がエミッタ及び電源に戻り、ケーブル203に、及びしたがってソナーの水中部分202に案内するのを阻止する。その後、送信される3種類の信号の電圧が重畳される。
【0042】
この実施形態において信号結合手段213はしたがって、コンデンサC1、ハイパスフィルタ311、及びインダクタL2を含む。
【0043】
電気キャリアケーブル203は、水中部分202の機械的固定と、単独の送信線を通じた結合信号の送信を確実にする。
【0044】
水中部分202は、電気キャリアケーブル203上で送信される信号を分離する手段223を含む。
図3で説明される実施形態において、これらの手段223は、ハイパスフィルタ311と同等のハイパスフィルタ320を含み、これは電源供給信号の周波数及び送波信号の周波数で高いインピーダンスを有して、送波信号の、及び電源供給信号の伝播を、低周波数を減衰させながら高周波数信号を通過させることによって制限する。ハイパスフィルタの役割は、送波信号の、及び電源供給信号の伝播を完全にブロックすることであるが、それでもこれらの信号の残留分がフィルタを通過する可能性があり、それゆえに、これらの信号の伝播を「制限する」と表現する。したがって、それによって通信データを搬送する信号を他の信号から分離することができる。有利な態様として、ソナーの第一の部分201のハイパスフィルタ311と同様に、ソナーの第二の部分202のハイパスフィルタ320は送波信号の高い電圧に耐えられるように設計される。これは電気キャリアケーブル203とモデム321との間に配置され、水上部分201のモデム310から吊り下げられ、モデム310と同期されるように構成させて、通信データを搬送する信号を生成し、受信する。モデムは、増幅器を介して受信音響トランスデューサ(図示せず)に、及び必要であればアナログ/デジタル変換器(図示せず)に連結される。
【0045】
この実施形態の信号分離手段223はまた、通信データを搬送する信号の周波数で高いインピーダンスを有する2つのインダクタL1及びL3と、コンデンサC2とも含む。インダクタL1は、コンデンサC2と直列に取り付けられる。電源供給信号A2は、コンデンサC2の端子で回復される。インダクタL1は、コンデンサC2を電気キャリアケーブル203から分離する。インダクタL3は、それが電気キャリアケーブル203から分離する1つ又は複数の音響トランスデューサTrと直列に取り付けられる。インダクタL1及びL3は、通信データを送信する信号の周波数で高いインピーダンスを示し、この信号の発信音響トランスデューサTrへの、及び電源供給信号A2の回復を可能にするコンポーネント、すなわちコンデンサC2への、及び必要であればダイオードD1及びコンデンサC3への伝播を防止する。実際、現実には通信データを搬送する信号は音響トランスデューサ及び電源の動作を妨害せず、L1及びL3においてこの信号の伝播を制限することによって、通信データを搬送する信号のパワーの全部をモデム321へと向けることが可能となる。さらに、インダクタL1及びL3は、モデム310のためにモデム321によって発せられた上りリンク通信を音響トランスデューサTr、すなわち電源供給信号A2の回復を可能にする部分ではなく、電気キャリアケーブルへと案内する。
【0046】
1つ又は複数の音響トランスデューサと並列に取り付けられたインダクタL1、1つ又は複数の音響トランスデューサと直列に取り付けられたインダクタL3、及び容量性素子として動作する1つ又は複数のトランスデューサは、有利な点として、ソナーにより発せられる信号の周波数に合わせて調整されたLC共振器を形成し、音響信号の発信時にパワーを損なわないようにする。したがって、インダクタL1及びL3は1つ又は複数の発信音響トランスデューサTrのためのチューニング/マッチング手段を形成する。
【0047】
さらに、インダクタL1は、送波信号の周波数で、コンデンサC2の端子において電源供給信号だけを回復できるのに十分なインピーダンスを示すように構成される。
【0048】
1つの実施形態において、1つ又は複数の発信音響トランスデューサTrと並列に取り付けられたインダクタL1の値は、送波信号の周波数での発信音響トランスデューサのインピーダンスに応じて選択されて、これは主として1つ又は複数の発信音響トランスデューサTrのチューニング/マッチングを扱う。インダクタL3の値は、L1及び1つ又は複数の発信音響トランスデューサにより形成されるLCネットワークをデチューニングしないように、L1より低く選択される。したがって、インダクタL1が果たす役割は2つあり、すなわち、それによって送波信号及び通信信号の一部をフィルタ処理することによって電源供給信号を回復できるようにすることと、それと同時に発信音響トランスデューサTrのチューニング/マッチングに貢献することとである。同じインダクタL1を使って電源供給信号をフィルタ処理し、発信に使用される音響トランスデューサのチューニング/マッチングを扱うことで、本発明のこの実施形態によるソナーの水中部分を実装するために必要なコンポーネントの数は最小限まで削減される。
【0049】
インダクタL3は、1つ又は複数の音響トランスデューサTrへの電源供給信号の伝播をブロックしないが、これらの要素は基本的に容量性であり、直流電圧を消費しない。すると、電源供給信号のパワーは主としてL1を通じてコンデンサC2(及び適当であればコンデンサC3)へと伝えられる。
【0050】
この実施形態において、信号分離手段223はしたがって、コンデンサC2と、ハイパスフィルタ320と、インダクタL1及びL3とを含む。
【0051】
図3の構成、特にインダクタL1及びL3の配置は当業者にとって自明的に明らかではないであろう。実際、2つのインダクタの寸法設定は、下記のような、一見矛盾しているように見えかねない特定の数の要求を満たさなければならない:
i.L3は、ハイパスフィルタ320をデチューニングしないように、通信データを搬送する信号によって使用される最低周波数でケーブル203の特性インピーダンスよりはるかに高いインピーダンスを有していなければならない。
ii.L3のインピーダンスは、1つ又は複数の発信音響トランスデューサにおいてパワーが失われすぎないように、送波信号の周波数で高すぎてはならない。
iii.L1のインピーダンスは、通信データを搬送する信号によって使用される最低周波数でケーブル203の特性インピーダンスよりはるかに高く、且つ送波信号の周波数でL3のそれよりはるかに高くなければならない。
iv.L1及びL3の値は、発信音響トランスデューサTrのチューニング/マッチングを行うように選択されなければならない。
【0052】
現実には、上記の制約の全てを満たすL1及びL3の値を特定することが可能であることが分かった。
【0053】
有利な点として、水中部分202は、電源供給信号をフィルタ処理するように配置されたダイオードD1とコンデンサC3を有することができる。このフィルタ処理により、L1を通過する送波信号の残留分による電源供給信号の変動の平滑化が可能となる。
【0054】
図3に示される構成では、本発明によるソナーの実装に必要な電子要素の数が最大限に限定されており、それによってそのコスト及び、とりわけソナーの水中部分202の重量と体積を縮小できる。明らかに、ソナーの第一の部分201について説明した実装とソナーの第二の部分202について説明した実装は独立しており、別々に考えることができる。