(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】人工股関節の正しい位置合わせをチェックするための、コンピュータによって得られる方法、および前述のチェックを実施するためのシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 34/20 20160101AFI20240306BHJP
A61F 2/32 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A61B34/20
A61F2/32
(21)【出願番号】P 2021559391
(86)(22)【出願日】2020-04-06
(86)【国際出願番号】 IB2020053257
(87)【国際公開番号】W WO2020208495
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-11-08
(31)【優先権主張番号】102019000005350
(32)【優先日】2019-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】512073792
【氏名又は名称】メダクタ・インターナショナル・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100159905
【氏名又は名称】宮垣 丈晴
(74)【代理人】
【識別番号】100142882
【氏名又は名称】合路 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100158610
【氏名又は名称】吉田 新吾
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】シッカルディ,フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】ベルナルドーニ,マッシミリアーノ
(72)【発明者】
【氏名】アスカーニ,ダニエレ
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0258526(US,A1)
【文献】特開2018-079304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/20
A61F 2/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工股関節の正しい位置合わせをチェックするための、コンピュータによって得られる方法であって、
a)術前段階の患者の骨盤骨(20’)の3Dモデルを取得するステップと、
b)移植後の状態の前記骨盤骨(20’’)の少なくとも1つの2D画像を
取得するステップと、
c)前記3Dモデルの第1の傾斜に従って前記3Dモデルの画像を選択し、前記3Dモデルの前記選択された画像上で寛骨臼カップ
を表す基準要素(40)を
特定するステップと、
d)前記寛骨臼カップのエッジの投影によって与えられる楕円を規定する前記2D画像上の複数の基準点(50)を特定するステップと、
e)前記2D画像の前記複数の基準点(50)と前記3Dモデルの前記画像の前記基準要素(40)との一致を評価するために前記3Dモデルの前記選択された画像上に前記2D画像を重ね合わせ
て比較するステップと、
f)前記2D画像の前記複数の基準点(50)と前記3Dモデルの前記選択された画像の前記基準要素(40)との間の所定の重ね合わせ基準への適合値を表す信号
(10)を生成するステップと、
g)前記適合値が所定の
閾値を
下回る場合、前記3Dモデルの
変更された傾斜
に従って前記3Dモデルの別の画像を選択して前記
ステップc)から前記ステップf)を繰り返すステップと、
h)前記適合値が所定の
閾値を
上回る場合、
i)前記信号(10)に応じて、術前
段階に対して前記移植後の構成の前記骨盤骨の位置の起こり得る相違を検出
して、術前の構成に対する前記寛骨臼カップの移植後の前傾および傾斜を示す数値(11)を得るステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記3Dモデルの前記画像と前記2D画像との前記重ね合わせは、それぞれ、前記寛骨臼カップの中心対称軸(40a)を、前記寛骨臼カップの前記楕円の前記投影によって与えられる前記楕円の中心を通る軸(50a)に位置合わせすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定の適合値が所定の誤差閾値を超える場合に、前記3Dモデルの前記傾斜を変更するステップを含み、前記適合値は、前記3Dモデルの前記寛骨臼カップ(40)と前記寛骨臼カップの前記2Dの投影によって与えられる前記楕円(50)との間の完全な重ね合わせおよび一致で生じる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記3Dモデルの前記画像の前記基準要素(40)と前記2D画像の前記複数の基準点(50)との重ね合わせおよび一致に応じて、前記術前の状態に対して前記寛骨臼カップの起こり得る移植後の前傾および傾斜を検出するステップと、前記骨盤骨のそのような回転を示す数値(11)を返すステップと、を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記骨盤骨の前記3Dモデルの検出が、術前の蛍光透視法または断層撮影法によって生じる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法に従って人工股関節の正しい位置合わせをチェックするためのシステム(100)であって、
術前段階の患者の骨盤骨(20’)の3Dモデルを
取得するように適合された第1の検出装置(1)と、
移植後の状態の前記骨盤骨(20’’)の少なくとも1つの2D画像を
取得するように適合された第2の検出装置(2)と、
第1の傾斜に従って選択された前記3Dモデルの画像と前記2D画像を取得および処理するように構成された処理ユニット(3)であって、
選択された前記3Dモデルの前記画像上
で寛骨臼カップを表す基準要素(40)を特定するように構成された第1の特定モジュール(4)と、
前記寛骨臼カップのエッジの投影によって与えられる楕円を規定する前記2D画像上の複数の基準点(50)を特定するように構成された第2の特定モジュール(5)と、
前記3Dモデルの前記選択された画像上に前記2D画像を重ね合わせ
て比較する、すなわち、前記2D画像の前記複数の基準点(50)と前記3Dモデルの前記画像の前記基準要素(40)とを重ね合わせて比較するように構成された
、前記第1の特定モジュール(4)および前記第2の特定モジュール(5)に接続された重ね合わせ
および比較モジュール(6
、7)と、
前記2D画像の前記複数の基準点と前記3Dモデルの前記画像の前記基準要素との間の所定の重ね合わせ基準への適合の値を表す信号
(10)を生成するように構成された
生成モジュール(8)と、
前記信号(10)に応じて、術前
段階に対して
前記移植後の構成における前記骨盤骨の
位置の起こり得る
相違を検出
して、術前の構成に対する前記寛骨臼カップの移植後の前傾および傾斜を示す数値(11)を得るように構成された検出モジュール(9)と、を備える処理ユニット(
3)と、を備えるシステム。
【請求項7】
前記第1の検出装置(1)が、術前の蛍光透視法または断層撮影法によって前記患者の前記骨盤骨(20’)の3Dモデルを検出する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記処理ユニット(3)が、前記3Dモデルの第1の傾斜に従って前記3Dモデルの画像を選択するように適合された選択モジュール(4’)を備える、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記第1の特定モジュール(4)における前記基準要素(40)が寛骨臼カップによって表される、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記第2の特定モジュール(5)における前記複数の基準点が、前記寛骨臼カップのエッジの投影によって与えられる楕円(50)によって表される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記重ね合わせモジュール(6)が、前記第1の特定モジュール(4)および前記第2の特定モジュール(5)から、前記複数の基準点および前記基準要素がそれぞれ特定された前記2D画像および前記3D画像を受信し、前記2D画像を前記3Dモデルの前記選択された前記画像と重ね合わせるように構成される、請求項6から10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記チェックモジュール(7)は、前記重ね合わせモジュール(6)から、前記重ね合わされた2Dおよび3D画像を受け取り、前記2D画像の前記複数の基準点と前記3Dモデルの前記選択された前記画像の前記基準要素との正しい重ね合わせおよび一致をチェックするように構成される、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記チェックモジュール(7)が、寛骨臼カップの中心対称軸(40a)と、前記寛骨臼カップの投影によって与えられた楕円の中心を通る軸(50a)との間の位置合わせが所定の重ね合わせ基準に対する所定の適合値に近いことをチェックするように構成される、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
信号(10)を生成するための前記モジュール(8)が、前記所定の適合値に関連するデータを受信し、前記複数の基準点と前記基準要素との正しい重ね合わせおよび一致がある場合に前記適合値を表す信号を生成するように構成される、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記検出モジュール(9)は、前記信号(10)を受信するように構成され、前記術前の状態に対して移植後の構成において起こり得る前記骨盤骨(20’’)の前傾および傾斜が検出されると、術前の構成に対する前記移植後の前記骨盤骨(20’’)の前傾およびの傾斜を示す数値(11)を返す、請求項14に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工股関節の正しい位置合わせをチェックするための、コンピュータによって得られる方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、人工股関節の正しい位置合わせをチェックするためのシステムに関する。
【0003】
具体的には、この方法は、術中または術後の状況で人工股関節の正しい位置合わせをチェックするために使用される。
【0004】
具体的には、寛骨臼カップ内に挿入される大腿骨頭および大腿骨ステムの挿入を含む、人工股関節の移植を受けて、骨盤骨に対する脚の位置は、患者の自然な解剖学的構造にもはや対応しない変位または傾斜を被る可能性がある。
【0005】
具体的には、大腿骨頭とステムとの間の相互位置に応じて、脚の伸延または短縮、および患者の矢状軸に対する脚自体の横方向の変位(またはオフセット)があり得る。
【0006】
寛骨臼カップの正しい位置をチェックする上で重要な他の2つのパラメータは、寛骨臼カップの傾斜と前傾である。傾斜と前傾の観点から寛骨臼カップの位置が正しくないと、1)カップ自体からの大腿骨頭の関節離断が生じて股関節脱臼を引き起こす可能性があり、2)大腿骨頭が寛骨臼カップに収容されるプラスチックインサートに過負荷をかけて人工股関節の早期故障につながるほどの摩耗を引き起こす可能性があり、3)周囲の軟組織の炎症を引き起こす可能性がある。
【0007】
したがって、移植後に患者の股関節の術前の解剖学的状態を再現することが重要である。
【0008】
人工股関節を移植または交換する場合、大腿骨のオフセットと伸延並びに寛骨臼カップの傾斜と前傾の観点から、移植後の位置が術前段階で確立された値に近いかどうかを監視する必要がある。
【背景技術】
【0009】
現在、2D-2Dと呼ばれる方法論を使用して、術後の股関節と大腿骨の位置が術前段階で特定された設定と同じようであることをチェックしている。この方法論は、x線検査または蛍光透視で得られる2つの二次元画像の比較に基づいている。
【0010】
患者の術前のx線検査が実行され、水平軸と垂直軸(デカルト座標系)がこの画像上に定義され、この画像は、(垂直軸に対する)伸延および(水平軸に対する)オフセット並びに(水平軸に対する)寛骨臼カップの傾斜および前傾の観点から大腿骨の変位を規定するための基準として機能することになる。続いて、術前の画像(通常は骨基準)と移植後の画像(通常は寛骨臼カップのエッジによって与えられる楕円)で種々の基準点が特定されて選択される。
【0011】
基準点が特定されると、選択された点を基準として、術前と移植後の画像が重ね合わされる。
【0012】
位置合わせされた位置を使用して、脚の長さの変化と横方向のオフセットの変化とを推定できる。ユーザが手動で印を付けた寛骨臼カップのエッジによって規定される楕円は、画像スケール、インプラントサイズ、およびカメラに対するカップの向きを決定する。
【0013】
楕円のアスペクト比は、寛骨臼カップの前傾を計算するために使用される。楕円の向きは、カップの傾きを計算するために使用される。定められた楕円のサイズと直径は、大腿骨の変位をピクセルからミリメートルに変換するためのスケール基準として使用される。
【0014】
最初に、2つの画像は、骨盤骨に関連する部分に焦点を合わせて重ね合わされる。
【0015】
ユーザは、術前の骨盤骨の画像が術後の骨盤骨の画像と位置合わせされるように、術前の骨盤骨の画像を変位させる。先に規定された水平基準線と骨盤アライメントの回転とから、術後の画像において水平基準線を計算できる。
【0016】
これに続いて、ユーザは2つの2D画像(術前と移植後)の大腿骨部分の重ね合わせに移る。大腿骨の外転が変化した可能性があり、これは骨盤の回転値と大腿骨アライメントを使用したアルゴリズムによって評価される。
【0017】
全ての入力が提供された後、転子の傾斜間の角度を計算することを含む数式によって、脚の長さの変化、横方向のオフセットの変化、および寛骨臼カップの向きを計算することが可能である。
【0018】
前傾と傾斜の観点から寛骨臼カップの向きを推定するには、水平基準線と楕円軸の間の角度を測定して別の数式を適用することにより、ユーザが前もって移植後の2D画像で取り出した楕円が使用される。
【0019】
既知の2D-2D法で評価された、寛骨臼カップの前傾度について得られた値は、正確ではない。前傾が計算される基準は、外科医による推定であり、骨構造によって規定される平面ではないからである。
【0020】
したがって、得られた値は、患者の問題を引き起こし得るプロテーゼの位置決めの問題につながる可能性のある近似誤差の影響を受ける。
【発明の概要】
【0021】
本発明の目的は、従来技術に見られる欠点のない、人工股関節の正しい位置合わせをチェックするための、コンピュータによって得られる方法を提案することである。
【0022】
したがって、本発明の目的は、移植が完了したときに重大になり得る誤差範囲を回避するために、寛骨臼カップの前傾および傾斜に関連するより正確な且つ精密な値を与える、人工股関節の正しい位置合わせをチェックするための、コンピュータによって得られる方法を提案することである。
【0023】
本発明の別の目的は、術前のものに近く且つ可能な限り最高の正確さおよび精密さで前傾値および傾斜値を返すことができる、人工股関節の正しい位置合わせをチェックするためのシステムを提供することである。
【0024】
これらおよび追加の目的および利点は、添付の特許請求の範囲に記載されているものによる、人工股関節の正しい位置合わせをチェックするための、コンピュータによって得られる方法によって達成される。
【0025】
概要
本発明の第1の態様は、人工股関節の正しい位置合わせをチェックするための、コンピュータによって得られる方法を提供し、当該方法は、術前段階の患者の骨盤骨の3Dモデルを検出するステップと、移植後の状態の骨盤骨の少なくとも1つの2D画像を検出するステップと、3Dモデルの第1の傾斜に従って3Dモデルの画像を選択して基準要素の前記3D画像上で基準要素を検出するステップと、2D画像上の複数の基準点を特定するステップと、3Dモデルの選択された画像に2D画像を重ね合わせるステップと、2D画像の複数の基準点と3Dモデルの前記画像の基準要素との正しい重ね合わせおよび一致をチェックするステップと、2D画像の複数の基準点と3Dモデルの画像の基準要素との間の所定の重ね合わせ基準への適合の値を表す信号を生成するステップと、を含む。所定の適合値が所定の誤差閾値を超えている場合、3Dモデルの傾斜を変更して上記手順を繰り返す。前記所定の適合値が所定の誤差閾値を下回る場合、特定された3Dモデルの画像は正しく、3Dモデルの寛骨臼カップと2Dでの寛骨臼カップの投影によって与えられる楕円との間の重ね合わせおよび一致は完璧であり、ユーザは、2D画像の複数の基準点と3Dモデルの画像の基準要素との重ね合わせおよび一致に応じて、術前の状態に対して術後の構成における骨盤骨の位置の起こり得る差異の検出に進むことができる。
【0026】
また、この方法では、2D画像上の複数の基準点が寛骨臼カップのエッジの投影によって与えられる楕円で表され、3Dモデルの画像上の基準要素が寛骨臼カップで表される必要がある。
【0027】
2D画像と3Dモデルの画像との重ね合わせは、寛骨臼カップの中心対称軸を、寛骨臼カップの投影によって与えられる楕円の中心を通過する軸に位置合わせすることを含む。
【0028】
この方法は、さらに、この所定の適合値が所定の誤差閾値を超える場合に、3Dモデルの傾斜を変更するステップを含む。この適合値は、3Dモデルの寛骨臼カップと寛骨臼カップの2D投影によって与えられる楕円との間の完璧な重ね合わせおよび一致で発生する。
【0029】
この方法は、さらに、2D画像の複数の基準点と3Dモデルの画像の基準要素との重ね合わせおよび一致に応じて、術前の状態に対して移植後の寛骨臼カップの起こり得る前傾および傾斜を検出するステップを含む。
【0030】
好ましくは、骨盤骨の3Dモデルの検出は、術前断層撮影法を使用して実行される。
【0031】
第2の態様では、本発明は、人工股関節の正しい位置合わせをチェックするためのシステムを含み、当該システムは、術前の患者の骨盤骨の3Dモデルを検出するように適合された第1の検出装置と、移植後の状態における骨盤骨の少なくとも1つの2D画像を検出するように適合された第2の検出装置と、第1の傾斜に従って選択された3Dモデルの画像および2D画像を取得および処理するように構成された処理ユニットであって、3Dモデルの画像上の基準要素を特定するように構成された第1の特定モジュールと、2D画像上の複数の基準点を特定するように構成された第2の特定モジュールと、3Dモデルの選択された画像上に2D画像を重ね合わせるように構成された重ね合わせモジュールと、2D画像の複数の基準点と3Dモデルの選択された画像の基準要素との正しい重ね合わせおよび一致をチェックするように構成されたチェックモジュールと、2D画像の複数の基準点と3Dモデルの画像の基準要素との間の所定の重ね合わせ基準への適合の値を表す信号を生成するように構成された信号生成モジュールと、2D画像の複数の基準点と3Dモデルの選択された画像の基準要素との重ね合わせおよび一致に応じて、術前の状態に対して移植後の構成における骨盤骨の位置の違いを検出するように構成された検出モジュールと、を備える処理ユニットと、を備える。
【0032】
システムの第1の検出装置は、術前断層撮影法を使用して患者の骨盤骨の3Dモデルを検出するように構成される。
【0033】
処理ユニットはまた、3Dモデルの初期傾斜に従って3Dモデルの画像を選択するための選択モジュールを備える。
【0034】
第1の特定モジュールでは、基準要素は、好ましくは、寛骨臼カップによって表される。
【0035】
第2の特定モジュールでは、基準点は、好ましくは、寛骨臼カップのエッジの投影によって与えられる楕円によって表される。
【0036】
重ね合わせモジュールは、第1および第2の特定モジュールから、複数の基準点および基準要素がそれぞれ特定された2D画像および3D画像を受け取り、2D画像を3Dモデルの選択された画像と重ね合わせるように構成される。
【0037】
チェックモジュールは、重ね合わせモジュールから、重ね合わされた2D画像および3D画像を受け取り、2D画像の複数の基準点と3Dモデルの選択された画像の基準要素との正しい重ね合わせおよび一致をチェックするように構成される。
【0038】
チェックモジュールは、寛骨臼カップの中心対称軸と、寛骨臼カップの投影によって与えられる楕円の中心を通る軸との間の位置合わせが、所定の重ね合わせ基準に適合する所定の値に近いことをチェックするように構成される。
【0039】
信号生成モジュールは、所定の適合値に関連するデータを受信し、基準点と基準要素との正しい重ね合わせおよび一致がある場合の適合値を表す信号を生成するように構成される。
【0040】
検出モジュールは、信号生成モジュールから信号を受信し、術前の状態に対して移植後の構成における寛骨臼カップの起こり得る前傾および傾斜を検出した後、術前の構成に対する移植後の寛骨臼カップの前傾と傾斜の指標となる数値を返すように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
説明およびクレームされているように、人工股関節の正しい位置合わせをチェックするための、コンピュータによって得られる方法およびシステムはまた、例示的であり且つ網羅的ではないことを意図する以下の図に示されている。
【
図1】大腿骨および股関節に結合された、本発明による、人工股関節の正しい位置合わせをチェックするための、コンピュータによって得られる方法のブロック図である。
【
図2】術前の状態の股関節と大腿骨の骨構造の2D画像である。
【
図3】ユーザが水平および垂直の基準をマークした
図2の画像である。
【
図5】移植後の構成における患者の股関節と大腿骨の骨構造の2D画像である。
【
図6】ユーザがいくつかの基準点を特定した移植後の2D画像である。
【
図7】
図2と
図5の2つの2D画像を重ね合わせたものであり、骨盤骨に関連する上部が位置合わせされている。
【
図8】
図2と
図5の2つの2D画像を重ね合わわせものであり、大腿骨に関連する下部が位置合わせされている。
【
図9】股関節の骨構造の、3Dモデルの選択された画像である。
【
図10】
図9の選択された3D画像と
図5の2D画像との重ね合わせである。
【
図11】
図10と同じ画像であり、寛骨臼カップの軸であって、2D画像の寛骨臼カップの楕円の投影によって規定される中心を通過する軸に重ねられた3Dモデルの選択された画像において見える寛骨臼カップの軸がマークされている。
【
図12】横方向のオフセット、脚の伸延、傾斜、および前傾の特徴的な数値を返すスクリーンショットの例である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
添付の図に関して、参照番号100は、人工股関節の正しい位置合わせをチェックするためのシステムを示す。
【0043】
図1の代表的な図を考慮すると、システム100は、術前段階の患者の骨盤骨20’の3Dモデル20(
図9)を検出するように適合された第1の検出装置1を備える。言い換えれば、手術前の患者の骨を視覚化するために、好ましくは断層撮影法によって、骨盤骨の三次元モデルが検出される。
【0044】
システム100はさらに、移植後の状態の骨盤骨20’’の少なくとも1つの2D画像30(
図5)を検出するように適合された第2の検出装置2を備える。言い換えれば、移植後の骨盤および大腿骨領域を視覚化するために、好ましくは元の位置の一時的なインプラント60を用いて、骨盤および大腿骨領域の一連の2DX線撮影が行われる。
【0045】
システム100はさらに、2D画像(
図5)および第1の傾斜に従って選択された3Dモデルの画像を取得および処理するように構成された処理ユニット3を備える。
【0046】
実際には、処理ユニット3は、3Dモデルの第1の傾斜に従って3Dモデルの画像を選択するように設計された選択モジュール4’を備える。言い換えると、3Dモデルは、移植後の2D画像に近い画像が得られるまで回転される。
【0047】
処理ユニット3はまた、3Dモデルの画像上の基準要素を特定するように構成された第1の特定モジュール4を備える。この基準要素は寛骨臼カップ40である(
図9)。
【0048】
処理ユニット3はまた、2D画像上の複数の基準点50を特定するように構成された第2の特定モジュール5を備える。これらの基準点50は、好ましくは、寛骨臼カップのエッジの投影によって与えられる楕円によって表される。
【0049】
処理ユニット3に含まれる重ね合わせモジュール6は、3Dモデルの選択された画像上に2D画像を重ね合わせるように構成される(
図10)。
【0050】
詳細には、重ね合わせモジュール6は、第1の特定モジュール4および第2の特定モジュール5から、複数の基準点50および基準要素40がそれぞれ特定された2D画像および3D画像を受け取り、2D画像を3Dモデルの選択された画像に重ね合わせるように構成される。
【0051】
システム100はさらに、処理ユニット3の内部に、2D画像の複数の基準点と3Dモデルの選択された画像の基準要素との正しい重ね合わせおよび一致をチェックするように構成されたチェックモジュール7を含む。
【0052】
チェックモジュール7は、重ね合わせモジュール6から、重ね合わされた2D画像および3D画像を受け取り、2D画像の複数の基準点40と3Dモデルの選択された画像の基準要素50との正しい重ね合わせおよび一致をチェックするように構成される。
【0053】
詳細には、チェックモジュール7は、寛骨臼カップの投影によって与えられる楕円の中心を通る軸50aと寛骨臼カップの中心対称軸40aとの間の位置合わせおよび重ね合わせが所定の重ね合わせ基準への所定の適合の値に近いことをチェックするように構成される(
図11)。
【0054】
処理ユニット3は、さらに、2D画像の複数の基準点と3Dモデルの画像の基準要素との重ね合わせおよび一致に応じて、術前の状態に対して移植後の構成における骨盤骨の位置の起こり得る差異を検出するように構成された検出モジュール9を備える。詳細には、検出モジュール9は、2D画像の複数の基準点と3Dモデルの選択された画像の基準要素との重ね合わせおよび一致に応じて、術前の状態に対して移植後の構成において起こり得る骨盤骨の前傾および傾斜を検出するように構成される。言い換えれば、2D画像と3Dモデルの選択された画像との重ね合わせに続いて、移植後の位置における寛骨臼カップのエッジの投影と術前の位置における寛骨臼カップの投影との正しい重ね合わせの結果として、術前の位置に対して寛骨臼カップの前傾と傾斜の実際の程度と値を評価することが可能である。
【0055】
最後に、システム100はまた、処理ユニット3内に、2D画像の複数の基準点と3Dモデルの画像の基準要素との間の所定の重ね合わせ基準への適合の値を表す信号を生成するように構成された信号生成モジュール8を備える。言い換えれば、適合値は、所定の重ね合わせ基準に対して予め定められている。2つの画像の重ね合わせ、特に3Dモデルの選択された画像の寛骨臼カップと2D画像の寛骨臼カップの楕円のエッジの投影との重ね合わせが所定の誤差範囲内で一致しない場合、次に、以下に説明するように、手順を繰り返す必要があり、3Dモデルの選択された画像は、寛骨臼カップのエッジの投影に関して当該画像を2D画像により近い位置に回転させるために、選択モジュール4’を使用して変更される必要がある。
【0056】
言い換えると、近似値が所定の適合値以下になるように、寛骨臼カップのエッジが2Dの寛骨臼カップの投影によって与えられた楕円と一致するまで、3Dモデルは回転される。
【0057】
重ね合わせた画像が特定の誤差範囲内で一致すると、特定の許容誤差範囲内、例えば1mm内で、基準点と基準要素の正しい重ね合わせおよび一致がある。この時点で、この適合値を表す適合信号と、術前の状態に対する移植後の寛骨臼カップの傾斜および前傾に関する数値11とが返される。
【0058】
後者の手順は、信号10を受信するように構成され且つ術前の状態に対して移植後の構成における寛骨臼カップの起こり得る前傾および傾斜を検出した検出モジュール9によって作動され、術前の構成に対する寛骨臼カップの移植後の前傾および傾斜を示す数値11を返す。
【0059】
詳細には、本発明が関係するこれまでに説明したシステムを使用して、本発明がまた関係する人工股関節の正しい位置合わせをチェックするための、コンピュータによって得られる方法を実施する。
【0060】
このチェック方法は、オフセット(または横方向の変位)と脚の伸延パラメータをチェックする第1のステップを含む。これらのパラメータは、よく知られている2D/2D法を適用して評価される。
【0061】
2つの2D画像が撮影される。すなわち、第1の術前画像(
図2)、つまり、手術前でインプラントが内部にない患者の画像、および、寛骨臼カップと大腿骨ステム60を配置してそれらをソフトウェアに提供した後の移植後の画像(
図5)である。ユーザは、最初に術前画像(インプラントなし)を操作して、任意の基準システム80を選択する(
図3)。互いに90度の一対の軸からなるこの基準システム80(デカルト軸に非常に類似したシステム)は、外科医によって選択され、適切な基準点によって、例えば、軸の1つを骨構造に位置合わせすることによって、外科医の経験に基づいて患者の術前画像上に外科医によって配置される。いずれにせよ、基準システムは外科医の経験と好みに基づいて選択される。
【0062】
画像には特徴的なポイントがある(
図4)。すなわち、股関節の回転中心、大転子、小転子、および「ティアドロップ(teardrop)」(寛骨臼カップの側面の骨構造)である。
【0063】
次に、ユーザはインプラントを持つ患者の画像の処理に進む。すなわち、寛骨臼カップの楕円を特定するために3つのポイント70が選択される(
図6)(3つのポイントは寛骨臼カップのエッジに沿って取られる)。これにより、寛骨臼カップの位置とサイズが特定される。
【0064】
ソフトウェアは、2つの画像がスケールレベルで互換性があることをチェックする。互換性がない場合、ソフトウェアは画像上で処理を行いそれらに互換性を持たせる(したがって、同じスケールが得られる)。
【0065】
この時点で、ソフトウェアは患者の術前画像を2つの部分に分割する。すなわち、骨盤を含む部分と大腿骨を含む部分である。
【0066】
次に、画像が重ね合わされる。背景には、患者の移植後の画像があり、その上に患者の術前画像が重ねられる。
【0067】
ユーザはまず、骨盤を含む手術を受けた患者の画像の一部と骨盤との重ね合わせに取り組む(
図7)。正しい重ね合わせが見つかる(ソフトウェアがこの手順を実行し、視覚的に結果に満足できない場合、外科医は修正できる)。次に、ユーザは大腿骨を含む患者の術前画像の部分の重ね合わせに進む(ソフトウェアがこの手順を実行し、視覚的に結果に満足できない場合、外科医は修正できる)(
図8)。
【0068】
この時点で、ソフトウェアはオフセットを計算する、つまり、画像を一致させるためにどの程度画像が並進または回転されたかをチェックして計算する。
【0069】
術前の位置に対する移植後の位置の骨盤骨の前傾および傾斜を評価するために、2D画像と、適切に選択された3Dモデルの画像との重ね合わせを使用するので、代わりに、本発明が関連する2D3D法と呼ばれる方法を適用する必要がある。
【0070】
この方法は、術前患者の骨盤骨20’’の3Dモデルを検出するステップと、移植後の状態の骨盤骨20’’の少なくとも1つの2D画像を検出するステップとを含む。
【0071】
3Dモデルは、好ましくは、術前断層撮影法を使用して検出される。
【0072】
最初の検査は、好ましくは、暫定的なステムと大腿骨頭を使用して実行され、その後、暫定的なインプラントの位置が患者の術前の解剖学的構造に対応することが確認されたら、それらは最終的なプロテーゼと交換される必要がある。
【0073】
3Dモデルが取得されると、モデルは特定の傾斜で配置され、3Dモデルの画像は選択されたモデルの初期傾斜で配置される。
【0074】
次に、3Dモデルの選択された画像上で基準要素40が規定されて検出される(
図9)。この基準要素は、好ましくは寛骨臼カップである。同様に、複数の基準点50が2D画像上で特定され、これらは、好ましくは、寛骨臼カップの楕円のエッジの投影によって表される(
図6)。
【0075】
次に、この方法は、3Dモデルの選択された画像に2D画像を重ね合わせ、次いで、2D画像上で特定された複数の基準点50と3Dモデルの画像上で特定された基準要素40との正しい重ね合わせおよび一致をチェックするステップを含む。
【0076】
詳細には、2D画像と3Dモデルの画像との重ね合わせは、寛骨臼カップの中心対称軸40aを、寛骨臼カップの楕円の投影によって与えられる楕円の中心を通る軸50aに位置合わせすることを含む。
【0077】
この方法はまた、2D画像の複数の基準点と3Dモデルの画像の基準要素との間の所定の重ね合わせ基準への適合の値を表す信号を生成するステップを含む。
【0078】
前記所定の適合値が所定の誤差閾値を超える場合、3Dモデルの傾斜が変更され、手順が繰り返される。
【0079】
所定の適合値は、3Dモデルの寛骨臼カップと寛骨臼カップの2D投影によって与えられる楕円との間の完全な重ね合わせおよび一致で生じる。
【0080】
3Dモデルの正しい画像が特定されると、ユーザは、3Dモデルの画像の基準要素と2D画像の複数の基準点との重ね合わせおよび一致に応じて、術前の状態に対して移植後の構成における骨盤骨の位置における起こり得る違いの検出に進むことができる。
【0081】
詳細には、位置の違いは、術前の位置と移植後の位置との間の寛骨臼カップの前傾および傾斜の変化に関連する。
【0082】
言い換えれば、患者の股関節を通過する横軸を中心に骨盤がどれだけ回転し、寛骨臼カップが(プロテーゼの挿入を受けて)患者の頭または脚に向かってどれだけ回転するかを評価する必要がある。
【0083】
位置の違いが検出されると、関連する数値11が出力され、術前段階で確立されたパラメータと適切に比較される場合、当該数値11は、一時的なインプラントが適切に挿入されて正しく配置されているかどうか、または最終的なプロテーゼを配置する前にその位置を変更する必要があるかどうかについて、外科医に指示を与える。後者の場合、一時的なインプラントの位置が変更され、2D 2Dと2D 3D部分の両方で説明されたチェック手順が繰り返される。
【0084】
言い換えれば、インプラントのない患者の骨盤の3Dモデルは、このように術前段階で生成される。これは、手術前に得られた断層撮影からそれを生成することによって行われる。この3Dモデルは、患者の骨の特性を再構築する。
【0085】
この時点で、手術を受けていない骨の三次元モデルが手術を受けた患者の2D画像に重ね合わされる。
【0086】
ソフトウェアは、患者の移植後の画像で以前に決定された楕円を、術前の状態の患者の3Dモデルの寛骨臼カップのエッジの楕円形に最も近づける重ね合わせの位置を自動的に検索して見つける。ソフトウェアはこの重ね合わせを示し、これは、必要に応じて外科医によって変更可能である。この時点で、ソフトウェアは、外科医の経験に基づいて選択された外科医によって与えられた任意の基準システムではなく、患者の実際の骨モデルに基づいて、寛骨臼カップの前傾と傾斜を計算する。
【0087】
この手順は、手術の最終ステップにおいて、すべてが順調に進んだことをチェックするためと、手術ステップそれら自体の間の両方において、実行可能である。
【0088】
実際、この第2のケースでは、最終的なインプラントを使用して移植する代わりに、テスターまたはテストインプラントが使用される。
【0089】
一時的なインプラントを使用して、計算された値がうまくいき、術前段階で期待され、事前定義されたものを反映している場合、外科医はテスターを取り外し、実際の寛骨臼カップを移植する。うまくいかない場合は、外科医はテスターの傾斜または位置を変え、第2の写真を撮り、3Dモデルとの重ね合わせを再度行い、このように値が正しいかどうかを計算してチェックする。すべてが一致し、得られた値が特定の誤差パラメータ内にある場合、最終的なプロテーゼが移植される。
【0090】
本発明は確かに、寛骨臼カップの前傾値および傾斜値に関してはるかに正確で精密なデータを取得することを可能にする。すべてがコンピュータ支援であり、これらのパラメータが評価される基準は患者自身の骨基準であり、外科医によって手動で特定された基準、したがって、すでにエラーや不正確さが含まれている基準ではないからである。