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特許7449350大型2ストロークユニフロー掃気ガス燃料機関及び液体燃料の供給制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】大型2ストロークユニフロー掃気ガス燃料機関及び液体燃料の供給制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/10 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
F02D19/10
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022165933
(22)【出願日】2022-10-17
(65)【公開番号】P2023064711
(43)【公開日】2023-05-11
【審査請求日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】PA202170521
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】イェンスン キム
(72)【発明者】
【氏名】ラルセン スカフト ハンス
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-200831(JP,A)
【文献】特開2021-011871(JP,A)
【文献】特開2021-011869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス運転モードにおいて主燃料としてガス燃料で動作する大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関であって、前記機関は複数の機械的設計制約を有し、また前記機関は、
シリンダライナと、BDCとTDCの間を往復するように構成されるピストンと、シリンダカバーとによってそれぞれ画定される複数の燃焼室と;
前記燃焼室に掃気を導入するための掃気ポートであって、前記シリンダライナに配される掃気ポートと;
前記シリンダカバーに配され、排気弁により制御される排気ガス排出口と;
前記シリンダライナ又は前記シリンダカバーに配され、前記ピストンのBDCからTDCへの行程の最中にガス燃料を導入するように構成される1つ又は複数のガス燃料アドミッションバルブと;
点火のための前記燃焼室への液体燃料のタイムド・サプライ用に構成される1つ又は複数の液体燃料弁と;
前記機関に関連付けられるコントローラと;
を備え;
前記コントローラは前記機械的設計制約を格納しており;
前記コントローラは、ピストンのBDCからTDCへの行程中に前記ガス燃料が前記1つ又は複数のガス燃料アドミッションバルブを介して前記燃焼室に導入されるタイミング及び量を前記燃焼室ごとに個別に制御するように構成され;
前記コントローラは、各シリンダの燃焼プロセスを監視し、前記燃焼プロセスが、前記格納している前記機械的設計制約の1つ又は複数を超過させる場合を検出するように構成され;
前記コントローラは、前記燃焼プロセスが、前記格納している機械的設計制約のいずれをも超過させない場合に、第1の量の液体燃料のタイムド・サプライ用に構成され;
前記コントローラは、前記燃焼プロセスが、前記格納している1つ又は複数機械的設計制約を超過させる場合に、第2の量の液体燃料のタイムド・サプライ用に構成され、前記第2の量は前記第1の量よりも多い;
機関。
【請求項2】
前記機械的設計制約は、
・ 液体燃料の供給時期で規定される燃焼開始時期;
・ 燃焼中のシリンダ圧の所定の最大上昇率;
・ 所定の最高シリンダ圧;
・ 所定の公称プロペラ曲線に対する機関動作ポイント。
・ 所定のガバナー掃気リミッタ曲線に対する機関動作ポイント;
次の1つ又は複数である、請求項1に記載の機関。
【請求項3】
前記第1の量は予め定められた固定量であり、前記第2の量は予め定められた固定量、又は機械的設計制約を超過した度合いの関数であって好ましくは比例関数である量である、請求項1に記載の機関。
【請求項4】
前記コントローラは、前記機械的設計制約のいずれかが超過したことによって示された前記第2の量のうち、最も高い量を採用するように構成される、請求項1に記載の機関。
【請求項5】
前記コントローラは、制御対象のシリンダに供給すべき燃料量のインデックス信号を提供するガバナーを備え、前記ガバナーは、設定された又は所望のエンジン回転数と測定されたエンジン回転数との差を表す信号を受信することが好ましい、請求項1に記載の機関。
【請求項6】
前記コントローラは、前記制御対象のシリンダに供給される液体燃料量の関数として、前記制御対象のシリンダに供給されるガスの量を調整するように構成される、請求項5に記載の機関。
【請求項7】
燃焼室毎に、排気弁タイミングの個別制御を可能とする可変タイミング排気弁作動システムを備える、請求項1に記載の機関。
【請求項8】
前記少なくとも一つのコントローラは、燃焼室毎に個別に、排気弁の開閉タイミングを決定及び制御するように構成される、請求項7に記載の機関。
【請求項9】
・ 前記コントローラは、シリンダ圧を表す信号を受信して、液体燃料が供給される角度を知らされるか、又は自ら決定すると共に、これらの信号に基づいて、燃焼開始が液体燃料の供給タイミングによって規定される点火開始に先行するかどうかを判断するように構成され、好ましくはどの程度先行したかを判断するように構成され、及び/又は、
・ 前記コントローラは、前記シリンダ圧を表す信号を受信すると共に、該信号に基づいて、燃焼中のシリンダ圧の所定の最大増加率を超過したかどうかを判断するように構成され、好ましくはどの程度超過したかを判断するように構成され、及び/又は、
・ 前記コントローラは、前記シリンダ圧を表す信号を受信すると共に、該信号に基づいて、所定の最大シリンダ圧力レベルを超過したかどうかを判断するように構成され、好ましくはどの程度超過したかを判断するように構成され、及び/又は、
・ 前記コントローラは、機関速度を表す信号と燃料インデックスを表す信号とを受信すると共に、これらの信号に基づいて、機関動作ポイントが公称プロペラ曲線から逸脱しているかどうかを判断するように構成され、好ましくはどの程度逸脱しているかを判断するように構成され、及び/又は、
・ 前記コントローラは、掃気圧を表す信号を受信すると共に、該信号に基づいて、前記機関動作ポイントが所定のガバナー掃気圧リミッタ曲線から逸脱しているかどうかを判断するように構成され、好ましくはどの程度逸脱したかを判断するように構成される、
請求項2に記載の機関。
【請求項10】
前記コントローラは、前記1つ又は複数の液体燃料弁の作動による点火のタイミングを、好ましくはTDC又はその近傍で制御するように構成される、請求項1に記載の機関。
【請求項11】
前記第2の量は、前記第1の量に所定量を加えるか又は所定の比率によって増加させたものに等しく、又は以前に適用された第2の量に所定量を加えるか又は所定の比率によって増加させたものに等しい、請求項1に記載の機関。
【請求項12】
前記液体燃料は好ましくは燃料油である、請求項1に記載の機関。
【請求項13】
燃焼室内の圧力を表す信号を生成する圧力センサを備え、前記圧力センサは好ましくはシリンダカバーに配置される、請求項1に記載の機関。
【請求項14】
複数の燃焼室を有する大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関をガス運転モードで動作させる方法であって、前記燃焼室内には燃焼の前にある空燃比の混合気が存在し、前記機関は複数の機械的設計制約を有し、前記方法は、
前記機械的設計制約を格納することと;
ピストンのBDCからTDCへの行程中にガス燃料が前記1つ又は複数のガス燃料アドミッションバルブを介して前記燃焼室に導入されるタイミング及び量を前記燃焼室ごとに個別に制御することと;
各シリンダの燃焼プロセスを監視し、前記燃焼プロセスが、前記格納している前記機械的設計制約の1つ又は複数を超過させる場合を検出することと;
前記燃焼プロセスが、前記格納している機械的設計制約のいずれをも超過させない場合に、第1の量の液体燃料のタイムド・サプライを提供することと;
前記燃焼プロセスが、前記格納している1つ又は複数機械的設計制約を超過させる場合に、第2の量の液体燃料のタイムド・サプライを提供することと;
を含み、前記第2の量は前記第1の量よりも多い、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ガス燃料を使用する大型2ストローク内燃機関に関し、特に、ピストンが下死点(BDC)から上死点(TDC)に向かう途中に燃料弁から導入されるガス燃料によって運転される、クロスヘッド式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関に関する。
【背景】
【0002】
クロスヘッド式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関は、例えば大型船舶の推進システムや、発電プラントの一次原動機として用いられる。この大型2ストロークディーゼル機関のサイズは巨大である。サイズが巨大であることだけが理由ではないが、この大型2ストロークディーゼル機関は、他の内燃機関とは異なる構造を有する。例えば、排気弁の重量は400kgに達することもあり、ピストンの直径も100cmに達することがある。運転中における燃焼室の最大圧力は、典型的には数百barにもなる。このような高い圧力レベルとピストンサイズから生まれる力は莫大なものである。
【0003】
大型2ストロークターボ過給式内燃機関には、シリンダライナの長手方向中央付近又はシリンダカバーに配される燃料弁から導入されるガス燃料で運転されるタイプのものがある。このタイプのエンジンにおいて、ガス燃料は、ピストンの(下死点から上死点への)上昇ストロークの途中であって、排気弁が閉じるかなり前に、シリンダ内に導入される。エンジンは、燃焼室内においてガス燃料と掃気との混合物を圧縮し、圧縮された混合気を上死点(TDC)又はその付近で同期着火手段(例えば液体燃料噴射)によって点火する。
【0004】
大型2ストロークターボ過給式内燃機関において、ピストンが上死点又はその付近でガス燃料を噴射する場合、燃焼室内の圧縮圧力はほぼ最大になっている。それに比べると、シリンダライナ又はシリンダカバーに配される燃料弁(ガスアドミッションバルブ)を用いる上記のタイプのガス導入は、燃焼室の圧力が比較的低い時にガス燃料を噴射するため、かなり低い燃料噴射圧力を用いることができるという利点を有する。TDC又はその付近でガス燃料を噴射するタイプのエンジンの場合、既にほぼ最大圧力となっている燃焼室の圧力よりも、更に十分に高い燃料噴射圧力を実現しなければならない。このような極めて高い圧力でガス燃料を扱うことができる燃料システムは、高価かつ複雑である。その理由には、ガス燃料の揮発性や高圧下の挙動があり、それによって燃料システムの鋼部材の中に(又はそれらを通じて)拡散していくことがある。
【0005】
このため、圧縮ストロークの途中にガス燃料を噴射するエンジンの燃料供給システムは、ピストンがTDC付近にあるときの高圧下でガス燃料を噴射するエンジンのものに比べて、コストがずっと低い。
【0006】
しかし、圧縮ストロークの途中にガス燃料を噴射する場合、ピストンは、ガス燃料と掃気の混合物を圧縮することになるが、これには異常早期着火(プレイグニッション)の危険性を伴う。また、TDC付近で燃料を噴射する機関に比べ、燃焼過程の制御が難しい。プレイグニッションの他にも、苛酷燃焼(燃焼時の圧力上昇率が高すぎる)や設計最高圧力の超過が代表的な課題である。
【0007】
JP2020200831は、大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気予混合内燃機関を開示している。この機関は複数の燃焼室と、 少なくとも1つのコントローラとを備え、前記コントローラは、燃焼開始時における平均圧縮空気過剰率及びバルク圧縮温度を決定すると共に、
・ 前記決定した平均圧縮空気過剰率が圧縮空気過剰率下閾値を下回る場合、圧縮空気過剰率を上げるための方策を実行すること;
・ 前記決定した平均圧縮空気過剰率が圧縮空気過剰率上閾値を上回る場合、圧縮空気過剰率を下げるための方策を実行すること;
・ 前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度下閾値を下回る場合、バルク圧縮温度を上げるための少なくとも一つの方策を実行することと;
・ 前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度上閾値を上回る場合、バルク圧縮温度を下げるための少なくとも一つの方策を実行することと;
を遂行するように構成される。
【0008】
予混合機関では、圧縮比が選択されるため、圧縮そのものが燃焼のトリガーとならないため、タイムド・イグニッションシステム(timed ignition system,着火燃料噴射のタイミング及び/又は期間を制御する着火システム)が必要となる。タイムド・イグニッションシステムは、液体燃料、例えば燃料油(パイロット油)の噴射を基本とし、時には点火プラグと組み合わせて使用される。タイミングは一般的にTDC又はその近辺で、動作条件に応じて調整されるのが普通である。このタイプの機関は、運転モードによっては、BDCからTDCまでのピストンストローク中に比較的低い圧力で導入されるガス燃料を主燃料として運転される。すなわち、機関に供給されるエネルギーの主要部分はそのようなガス燃料により供給される。一方、ガス燃料に比較すると、液体燃料は少量しか用いられず、機関に供給されるエネルギー量に比較的小さな寄与しかしない。液体燃料の目的はタイミング調節型点火にある。
【0009】
従って、このような大型の2ストロークターボ過給式内燃機関において、上記に示した望ましくない燃焼現象の発生リスクを克服するか、少なくとも低減するために、燃焼室内の状態に対する制御を改善する必要性がある。
【0010】
上記に示した望ましくない燃焼現象の発生リスクを低減する既知の方法は、噴射する液体燃料の量を増加させることである。しかし通常、多くの量の液体燃料を使用することは、望ましくない排出物(エミッション)の増大をもたらす。このため一般に、使用する液体燃料の量はなるべく少なくすることが望まれる。上記に示された望ましくない燃焼現象を回避するために必要な液体燃料の量を決定する既知の方法は、決定された空燃比に基づく関数である。しかし、空燃比を正確に決定することは困難であり、通常は安全マージンを使用する必要がある。その結果、使用される液体燃料供給量は本来必要な量より多くなり、それによって必要以上のエミッションを生じることになる。
【発明の概要】
【0011】
上述の課題を解決するか又は少なくとも緩和する、エンジン及び方法を提供することが目的の一つである。
【0012】
上述の課題やその他の課題が、独立請求項に記載の特徴により解決される。より具体的な実装形態は、従属請求項や発明の詳細な説明、図面から明らかになるだろう。
【0013】
第1の捉え方によれば、ガス運転モードにおいて主燃料としてガス燃料で動作する大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関であって、複数の機械設計制約を有する機関が提供される。この機関は、
シリンダライナと、BDCとTDCの間を往復するように構成されるピストンと、シリンダカバーとによってそれぞれ画定される複数の燃焼室と;
前記燃焼室に掃気を導入するための掃気ポートであって、前記シリンダライナに配される掃気ポートと;
前記シリンダカバーに配され、排気弁により制御される排気ガス排出口と;
前記シリンダライナ又は前記シリンダカバーに配され、前記往復ピストンのBDCからTDCへの行程の最中にガス燃料を導入するように構成される1つ又は複数のガス燃料アドミッションバルブと;
点火のための前記燃焼室への液体燃料のタイムド・サプライ用(すなわちタイミング及び/又は期間を制御して燃料を供給する用途)に構成される1つ又は複数の液体燃料弁と;
前記機関に関連付けられる少なくとも一つのコントローラとを備え;
前記少なくとも1つのコントローラは、前記ピストンのBDCからTDCへの行程中に前記ガス燃料が前記1つ又は複数のガス燃料アドミッションバルブを介して前記燃焼室に導入されるタイミング及び量を前記燃焼室ごとに個別に制御するように構成され;
前記少なくとも1つのコントローラは、各シリンダの燃焼プロセスを監視し、前記燃焼プロセスが前記機械的設計制約の1つ又は複数を超過させる場合を検出するように構成され;
前記少なくとも1つのコントローラは、前記燃焼プロセスが前記所定の機械的設計制約を超過させない場合に、第1の量の液体燃料のタイムド・サプライ用に構成され;
前記少なくとも1つのコントローラは、前記燃焼プロセスが1つ又は複数の所定の機械的設計制約を超過させる場合に、第2の量の液体燃料のタイムド・サプライ用に構成される。前記第2の量は前記第1の量よりも多い。
【0014】
機械的設計制約が超過していることに基づいて液体燃料の量を増やす必要性を判断することにより、予混合式大型2ストローク内燃機関において望ましくない燃焼状態を回避するための、信頼性が高く比較的複雑でないソリューションが提供される。機械的設計制約が超過するかどうかをコントローラが判断できるようにするために必要な情報は、通常、この種の機関において既に利用可能となっており、それゆえこれらの機械的設計制約が超過しているかどうかの判断は、この情報を処理するよう構成されるコントローラが用いるソフトウェアという形で比較的容易に実装可能である。
【0015】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関はタイムド・イグニッションシステムを備える。これは、(機械的)圧縮比が、圧縮そのものが燃焼のトリガーとならないようなものであるからである。タイムド・イグニッションシステムは、好ましくは液体燃料、例えば燃料油(パイロット油)の噴射を基本とし、時には点火プラグからの火花と組み合わされる。タイミングは、好ましくはTDC又はその近傍において前記コントローラによって制御され、好ましくは動作条件に従って制御されることによって調整される。
【0016】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記第1の量又は前記第2の量の液体燃料を、好ましくは機関サイクルごとに、好ましくはTDC又はその近傍で噴射するように構成される。
【0017】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記シリンダカバーにある1つ又は複数のパイロットオイル噴射弁及び/又は液体燃料噴射弁を使用して、前記第1の量又は前記第2の量をTDCに近い角度で噴射するように構成される。
【0018】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記第1の量又は前記第2の量の液体燃料を噴射する角度は、前記機関の運転条件の関数として前記コントローラによって決定される。
【0019】
前記機関はユニフロー掃気機関であり、掃気はシリンダライナの下端に配される掃気ポートから入り、機関上部の排気弁からシリンダを出る。従って、シリンダライナ内のガスの流れ方向は、シリンダライナの下部から上部に向かって概ね常に同じ方向である。
【0020】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記ガス燃料は、メタノール、LPG、LNG、エタン、アンモニアのうちのいずれか1つである。
【0021】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機械的設計制約は予め設定された機械的設計制約である。
【0022】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機械的設計制約は次の1つ又は複数である。
・ 液体燃料の供給時期で規定される燃焼開始時期。
・ 燃焼中のシリンダ圧の所定の最大上昇率。
・ 所定の最高シリンダ圧。
・ 所定の公称プロペラ曲線(nominal propeller curve)に対する機関動作ポイント。
・ 所定のガバナー掃気リミッタ曲線(governor scavenge air limiter curve)に対する機関動作ポイント。
【0023】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記第1の量は予め定められた固定量であり、前記第2の量は予め定められた固定量、又は機械的設計制約を超過した度合いの関数(好ましくは比例関数)である量である。
【0024】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記設計制約のいずれかが超過したことによって示された前記第2の量のうち、最も高い量を採用するように構成される。
【0025】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、制御対象のシリンダに供給すべき燃料量のインデックス信号を提供するガバナーを備え、前記ガバナーは、設定された又は所望のエンジン回転数と測定されたエンジン回転数との差を表す信号を受信することが好ましい。
【0026】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記制御対象のシリンダに供給される液体燃料量の関数として、前記制御対象のシリンダに供給されるガスの量を調整するように構成される。
【0027】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は、燃焼室毎に、排気弁タイミングの個別制御を可能とする可変タイミング排気弁作動システムを備える。
【0028】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記少なくとも一つのコントローラは、燃焼室毎に個別に、排気弁の開閉タイミングを決定及び制御するように構成される。
【0029】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、シリンダ圧を表す信号を受信して、液体燃料が供給される角度を知らされるか、又は自ら決定すると共に、これらの信号に基づいて、燃焼開始が液体燃料の供給タイミングによって規定される点火開始に先行するかどうかを判断するように構成され、好ましくはどの程度先行したかを判断するように構成され、及び/又は、
前記コントローラは、前記シリンダ圧を表す信号を受信すると共に、該信号に基づいて、燃焼中のシリンダ圧の所定の最大増加率を超過したかどうかを判断するように構成され、好ましくはどの程度超過したかを判断するように構成され、及び/又は、
前記コントローラは、前記シリンダ圧を表す信号を受信すると共に、該信号に基づいて、所定の最大シリンダ圧力レベルを超過したかどうかを判断するように構成され、好ましくはどの程度超過したかを判断するように構成され、及び/又は、
前記コントローラは、機関速度を表す信号と燃料インデックスを表す信号とを受信すると共に、これらの信号に基づいて、機関動作ポイントが公称プロペラ曲線から逸脱しているかどうかを判断するように構成され、好ましくはどの程度逸脱しているかを判断するように構成され、及び/又は、
前記コントローラは、掃気圧を表す信号を受信すると共に、該信号に基づいて、前記機関動作ポイントが所定のガバナー掃気圧リミッタ曲線から逸脱しているかどうかを判断するように構成され、好ましくはどの程度逸脱したかを判断するように構成される。
【0030】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記1つ又は複数の液体燃料弁の作動による点火のタイミングを、好ましくはTDC又はその近傍で制御するように構成される。
【0031】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記第2の量は、前記第1の量に所定量を加えるか又は所定の比率によって増加させたものに等しく、又は以前に適用された第2の量に所定量を加えるか又は所定の比率によって増加させたものに等しい。
【0032】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記液体燃料は好ましくは燃料油である。
【0033】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は、燃焼室内の圧力を表す信号を生成する圧力センサを備える。前記圧力センサは好ましくはシリンダカバーに配置される。
【0034】
第2の側面によれば、複数の燃焼室を有する大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関をガス運転モードで動作させる方法が提供される。ここで、前記燃焼室内には燃焼の前にある空燃比の混合気が存在し、前記機関は複数の機械設計制約を有する。そして前記方法は、
前記ピストンのBDCからTDCへの行程中に前記ガス燃料が前記1つ又は複数のガス燃料アドミッションバルブを介して前記燃焼室に導入されるタイミング及び量を前記燃焼室ごとに個別に制御することと;
各シリンダの燃焼プロセスを監視し、前記燃焼プロセスが前記機械的設計制約の1つ又は複数を超過させる場合を検出することと;
前記燃焼プロセスが前記所定の機械的設計制約を超過させない場合に、第1の量の液体燃料のタイムド・サプライを提供することと;
前記燃焼プロセスが1つ又は複数の所定の機械的設計制約を超過させる場合に、第2の量の液体燃料のタイムド・サプライを提供することと;
を含む。前記第2の量は前記第1の量よりも多い。
【0035】
これらの側面及び他の側面は、以下に説明される実施例により更に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
以下、図面に示される例示的な実施形態を参照しつつ、様々な捉え方や実施形態、実装例を詳細説明する。
図1】ある例示的実施形態に従う大型2ストロークディーゼル機関の正面図である。
図2図1の大型2ストローク機関の側面図である。
図3図1の大型2ストローク機関の略図表現である。
図4図1の機関のシリンダフレーム及びシリンダライナの断面図である。シリンダカバー及び排気弁が取り付けられており、TDC及びBDCにおけるピストンも描かれている。
図5図1の機関の制御系を示す略図表現である。
【詳細説明】
【0037】
以下の詳細説明では、実施例のクロスヘッド式大型低速2ストロークターボ過給式内燃機関を参照して、内燃機関が説明される。図1図3は、ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関の実施例を描いている。このエンジンは、クランクシャフト8及びクロスヘッド9を有する。図1は正面図、図2は側面図である。図3は、図1,2のターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関を、その吸気システム及び排気システムと共に略図により表現したものである。この例において、エンジンは直列に4本のシリンダを有する。ターボ過給式大型低速2ストローク内燃機関は通常、直列に配される4本から14本のシリンダを有する。これらのシリンダはエンジンフレーム11に担持される。またこのような機関は、例えば、船舶の主機関や、発電所において発電機を動かすための据え付け型の機関として用いられることができる。機関の全出力は、例えば、1000kWから110000kWでありうる。
【0038】
この実施例におけるエンジンは、2ストロークユニフロー掃気エンジンであり、シリンダライナ1の下部領域に掃気ポート18が設けられ、シリンダライナ1の頂部中央には排気弁4が配される。掃気は、ピストンが掃気ポート18より下にある時に、掃気受け2から各シリンダライナ1の掃気ポート18へと導かれる。ガス燃料(例えばメタノール、LPG、LNG、エタン又はアンモニア)は、電子制御部60の制御下でガス燃料弁30から導入される。これは、ピストンの(BDCからTDCへの)上昇ストロークの間であって、ピストンが燃料弁30(ガスアドミッションバルブ30)を通過する前に行われる。ガス燃料は比較的低い圧力で導入され、30bar未満、好ましくは25bar、より好ましくは20bar未満で導入される。燃料弁は好ましくはシリンダライナの円周上に等間隔に分布するように配される。また好ましくは、シリンダライナの長手方向の中央付近に配される。従って、ガス燃料の導入は、圧縮圧力が比較的低い時に行われる。つまり、ピストンがTDCに達するときの圧縮圧力に比べればずっと低いときに行われるので、比較的低い圧力で導入することが可能となる。
【0039】
ピストン10はシリンダライナ1の中で、ガス燃料と掃気の混合物を圧縮する。圧縮が行われ、TDC又はその付近で着火が開始される。着火は、液体燃料弁50から液体燃料を噴射することによって開始される。液体燃料弁50は、好ましくはシリンダカバー22に配される燃焼が生じ、排気ガスが生成される。
【0040】
排気弁4が開くと、排気ガスは、シリンダ1に設けられる排気ダクトを通って排気受け3へと流れ、さらに第1の排気管19を通ってターボ過給器5のタービン6へと進む。そこから排気ガスは、第2の排気管25を通ってエコノマイザ20へ流れ、さらに出口21から大気中へと放出される。タービン6は、シャフトを介してコンプレッサ7を駆動する。コンプレッサ9には、空気取り入れ口12を通じて外気が供給される。コンプレッサ7は、圧縮された掃気を、掃気受け2に繋がっている掃気管13へと送り込む。管13の掃気は、掃気を冷却するためのインタークーラー14を通過する。
【0041】
冷却された掃気は、電気モーター17により駆動される補助ブロワ16を通る。補助ブロワ16は、ターボ過給器5のコンプレッサ7が掃気受け2に必要とされる圧力を供給することができない場合、すなわちエンジンが低負荷又は部分負荷である場合に、掃気流を圧縮する。機関の負荷が高い場合は、ターボ過給器のコンプレッサ7が、十分に圧縮された掃気を供給することができるので、補助ブロワ16は、逆止め弁15によってバイパスされる。
【0042】
コントローラ60(電子制御ユニット60、複数の電子ユニットが相互に接続されて構成されていてもよい)は、一般に、機関の動作を制御し、例えばガス燃料の導入(量及びタイミング)、液体燃料噴射(量及びタイミング)、排気弁4の開閉(タイミング及びリフト量の程度)に対する制御を超過する。前記機関は好ましくは、燃焼室毎に、排気弁タイミングの個別制御を可能とする可変タイミング排気弁作動システムを備える。コントローラ60は、燃料弁30、液体燃料弁50、排気弁アクチュエータ、角度位置センサ75、圧力センサ70に、信号線又は無線接続を介して接続されている。角度位置センサ75は、クランクシャフトの角度を検出しクランクシャフトの位置を表す信号を生成する。圧力センサ70は、好ましくはシリンダカバー22内に、代替的にはシリンダライナ1内に配され、燃焼室内の圧力を表す信号を生成する。
【0043】
図4には、クロスヘッド式大型2ストロークエンジンのために設計されたシリンダライナ1が図示されている。エンジンのサイズに応じて、シリンダライナ1は様々な大きさに作られる。典型的な大きさとしては、直径が250mmから1000mmであり、それに対応する全長が1000mmから4500mmである。
【0044】
図4には、シリンダライナ1はシリンダフレーム23に載置され、シリンダライナ1の上にはシリンダカバー22が搭載されている様子が描かれている。シリンダライナ1とシリンダカバー22とは、その間からガスの漏出が生じないように連結されている。図4において、その下死点(BDC)と上死点(TDC)におけるピストン10の様子が破線で示されている。なおもちろん、これら2つの状態が同時に生じる訳ではなく、これら2つの状態は、クランクシャフト8の回転角で180度隔てられている。シリンダライナ1には、周方向に分散配置された複数のシリンダ潤滑孔25が設けられる。これらのシリンダ潤滑孔25はシリンダ潤滑ラインに接続されている。シリンダ潤滑ラインは、ピストン10がシリンダ潤滑孔25を通過するときにシリンダ潤滑油を供給する。続いて(図示されていない)ピストンリングが、シリンダライナの走行面全体にシリンダ潤滑油を行き渡らせる。予混合機関の幾何学的圧縮比は、通常8から15の間である。
【0045】
パイロット油弁50(典型的には1気筒あたり1個以上)は、シリンダカバー22に取り付けられ、液体燃料の供給源(図示せず)に接続されている。液体燃料の噴射タイミング及び噴射量は、コントローラ60によって制御される。シリンダカバー22には、前室(プリチャンバ)が設けられていてもよい(図示されていない)。また、パイロットオイルバルブ50の先端、典型的には1つ又は複数のノズル穴を有するノズルが設けられた先端が、パイロット流体が前室に注入され霧化するように配置されている。前室は確実な点火を支援する。実施形態によっては、前室は二重前室、すなわち直列に繋がった2つの前室である。
【0046】
燃料弁30はシリンダライナ1(又はシリンダカバー22)に装備される。燃料弁30は、シリンダライナ1の内面と実質的に同じ面に位置するノズルを有する。また燃料弁30の後端はシリンダライナ1の外壁から飛び出ている。通常、各シリンダライナ1には、1つ又は2つ、場合によっては3つ又は4つもの燃料弁30が、シリンダライナ1の周方向に分散して(好ましくは周方向に等間隔に分散して)配されている。本実施例において、燃料弁30は、シリンダライナ1の長手方向のちょうど中央部に配されている。燃料弁は、ガス燃料40(例えばメタノール、LPG、LNG、エタン又はアンモニア)の加圧源に接続されている。すなわち燃料弁30に供給されるときに、燃料は気体相である。ガス燃料は、ピストン10のBDCからTDCへのストロークの間に導入されるので、ガス燃料の供給源の圧力は、シリンダライナ1内に存在する圧力より高ければよい。典型的には、20bar未満の圧力が、燃料弁30に送られるガス燃料にとって十分である。燃料弁30は、燃料弁30の開閉タイミング及び開弁時間を決定するコントローラ60に接続される。図4は、ガス燃料供給管41を通じて複数のガス燃料弁30のそれぞれの入口に接続される加圧ガス燃料源40を備えるガス燃料供給システムの略図を示している。
【0047】
機関にはいくつもの機械的設計制約がある。例えば次の通りである。
・ 液体燃料を供給するタイミングによって規定される意図した燃焼開始がある。もし実際の燃焼が意図した燃料開始に先行すると、設計制約が超過することになる。意図した燃料開始より着火が先行してしまう現象を「プレイグニッション(過早着火)」という。
・ 燃焼時のシリンダ圧の上昇率の既定の上限。これを超過すると苛酷燃焼(harsh combustion)と呼ばれる現象が発生する。
・ シリンダ圧の既定の上限。この圧力を超過すると、機関部品にかかる負担が設計基準を超え、摩耗や破損が進む可能性がある。
・ 所定の公称プロペラ曲線(nominal propeller curve)に対する機関動作ポイント。例えば、機関動作ポイントが所定の公称プロペラ曲線から離れすぎている現象を、ヘビーランニング(heavy running)と呼ぶ。ヘビーランニングは加速時(機関が搭載された船舶の加速時など、機関の回転速度が上昇すること)や、機関が搭載された船舶が荒天や強い向かい風に遭遇する時などに起こりうる。
・ 所定のガバナー掃気リミッタ曲線(governor scavenge air limiter curve)に対する機関動作ポイント。例えば熱帯地方のような条件下では、空燃比が必要以上に低くなり、その結果、プリイグニッションの危険性が高まる可能性がある。
【0048】
公称プロペラ曲線は、相対プロペラ出力=(相対機関速度)の関係で与えられる。
【0049】
掃気リミッタ曲線は、与えられた掃気圧で許容される最大許容燃料インデックス(ガス燃料の場合)を定義する曲線である。
【0050】
実施形態によっては、ヘビーランニングは以下の関数で判断する。

ヘビーランニング数=(ガバナーインデックス-速度)×速度

ガバナーインデックスは、スピードコントローラの相対トルク要求である。この相対トルク要求は、液体燃料とガス量に変換される。式で使用される速度は相対的な機関速度、すなわち、実際の機関速度を最大機関速度で割ったものである。(最大機関速度は、公称プロペラ曲線の最大連続定格時の機関速度に相当する。)
【0051】
実施形態によっては、コントローラ60は、前記第2の量を、ヘビーランニング数の関数として、好ましくは比例関数で決定するように構成される。
【0052】
前記機械的設計制約は、予め設定された機械的設計制約である。前記機械設計制約は、機関の設計及び開発中に決定される。また、計算、コンピュータシミュレーション、及び/又はテストベッド上での機関の試運転などのテストから導き出されることがある。
【0053】
図5は、図1の機関の制御系を示す図であり、コントローラ60が個々のシリンダ1への燃料の供給を制御する様子を示している。
【0054】
コントローラ60は、制御するシリンダに供給されるべき燃料の量についての燃料インデックスを提供するガバナーを構成する。ガバナーは、設定された又は所望の機関速度と、角度センサ75の信号から導かれた機関の測定速度との間の差を表す信号を受け取る。なお、設定された又は所望の機関速度は、機関のオペレータによって制御される外部信号から受け取られる。
【0055】
コントローラ60は、各シリンダに対して個別に燃焼プロセスを監視し、燃焼プロセスが、1つ又は複数の機械的設計制約を超過させる場合を検出するように構成される。
【0056】
コントローラ60は、燃焼プロセスが所定の機械的設計制約を超えない場合に、第1の量の液体燃料のタイムド・サプライ用に構成されると共に、燃焼プロセスが1つ又は複数の所定の機械的設計制約を超えた場合に、第2の量の液体燃料のタイムド・サプライ用に構成される。ここで前記第2の量は前記第1の量より多い。
【0057】
前記第1の量又は前記第2の量の液体燃料のタイムド・サプライ(timed supply,タイミング及び/又は期間を制御した供給)は、必要なタイムド・イグニッションシステムの一部である。というのも、機関の(機械的)圧縮比が、燃焼が圧縮自体によって引き起こされないようなものであるためである。すなわち、機関がディーゼルプロセスに従ってではなく、オットープロセスに従って動作するものであるからである。タイムド・イグニッションシステムは、液体燃料、例えば燃料油(パイロットオイル)の噴射を使用し、時には点火プラグ(図示せず)の火花の使用と組み合わせて使用する。タイミングはコントローラ60によって決定され、好ましくはTDC又はその近傍であり、好ましくは運転条件に従ってコントローラによって調整される。
【0058】
第1の量は所定の固定量とすることができるが、実施形態によっては、第1の量は、運転条件の関数としてコントローラ60によって調整されてもよい。
【0059】
第2の量は固定された所定の量である。又は、機械的設計制約をどの程度超えたかの関数である量、例えば比例関数である量である。
【0060】
コントローラ60は、前記設計制約のいずれかが超過したことによって示された前記第2の量のうち、最も高い量を採用し、液体燃料インデックスを発行するように構成される。制御は、所定の期間第2の量を維持するように構成されてもよいし、代替的に、制御が、逸脱している機械的制約がないと判断するまで、第2の量を維持するように構成されてもよい。コントローラが、単に機械的設計制約を超過したと判断するだけで、どの程度超過したかを判断しない場合、コントローラは、第2の量が所定の固定量である点火燃料インデックスを発行し、それはもちろん常に第1の量より大きいか、第1の量を増加させたものである。コントローラが、機械的設計制約をどの程度超過しているかを決定する場合、コントローラは、機械設計制約の超過の程度の関数として、第2の量についての量を計算する。第2の量は、やはり第1の量より大きいか、第1の量を増加させたものである。
【0061】
コントローラ60は、制御対象のシリンダに供給される液体燃料の関数として、当該シリンダに供給すべきガスの量を調節する。これは、一般燃料インデックスを受け取り、そこから液体燃料インデックスを差し引いた合計点(summation point)で示されている。このような調節を行うのは、当該シリンダに供給されるガス燃料と液体燃料を合わせたものの燃料エネルギーが、当該シリンダに供給すべき燃料エネルギー/トルク値と一致するようにするためである。
【0062】
コントローラ60は、圧力センサ70からシリンダ圧を表す信号を受信すると共に、液体燃料を供給すべき角度を自ら決定し、これらの信号に基づいて、燃焼開始が液体燃料の供給タイミングによって規定される点火開始に先行するかどうかを判断するように構成される。好ましくは、どの程度先行したかを判断するように構成される。
【0063】
コントローラ60は、圧力センサ70からシリンダ圧を表す信号を受信すると共に、この信号に基づいて、燃焼中のシリンダ圧の所定の最大増加率を超過したかどうかを判断するように構成される。好ましくは、どの程度超過したかを判断するように構成される。
【0064】
コントローラ60は、圧力センサ70からシリンダ圧を表す信号を受信すると共に、この信号に基づいて、所定の最大シリンダ圧力レベルを超過したかどうかを判断するように構成される。好ましくはどの程度超過したかを判断するように構成される。
【0065】
コントローラ60は、角度センサ75から機関速度を表す信号を受信すると共に、燃料インデックスを知らされる。そしてコントローラ60は、これらの信号に基づいて、機関動作ポイントが公称プロペラ曲線から逸脱しているかどうかを判断するように構成される。好ましくはどの程度逸脱しているかを判断するように構成される。
【0066】
コントローラ60は、図示されない掃気センサ(例えば掃気受け2に配される掃気センサ)から掃気圧を表す信号を受信すると共に、掃気圧を表す信号を生成する。そしてコントローラ60は、この信号に基づいて、機関動作ポイントが所定のガバナー掃気圧リミッタ曲線から逸脱しているかどうかを判断するように構成される。好ましくはどの程度逸脱しているかを判断するように構成される。
【0067】
コントローラ60は、1つ又は複数の液体燃料弁50の作動による点火のタイミングを制御するように構成される。望ましい点火開始は通常TDC又はその近傍であり、運転条件に従ってコントローラ60によって調整される。
【0068】
実施形態によっては、前記第2の量は、前記第1の量に所定量を加えるか又は所定の比率によって増加させたものに等しく、又は以前に適用された第2の量に所定量を加えるか又は所定の比率によって増加させたものに等しい。
【0069】
実施形態によっては、液体燃料は燃料油である。
【0070】
ガス運転モードは、機関の幾つかの運転モードのうちの1つでありうる。ガス燃料運転モードにおいて、機関は、BDCからTDCまでのピストンストローク中に比較的低い圧力で導入されるガス燃料を主燃料として運転される。すなわち、機関に供給されるエネルギーの主要部分はそのようなガス燃料により供給される。一方、ガス燃料に比較すると、液体燃料は少量しか用いられず、機関に供給されるエネルギー量に比較的小さな寄与しかしない。液体燃料の目的はタイミング調節型点火にある。
【0071】
実施形態によっては、機関は二元燃料機関である。すなわち機関は液体燃料のみで運転されるモードを有する。
【0072】
実施形態によっては、コントローラ60は、第1の量又は第2の量の液体燃料を、好ましくは機関サイクルごとに、好ましくはTDC又はその近傍で噴射するように構成される。
【0073】
実施形態によっては、コントローラ60は、パイロットオイルシステムの1つ又は複数のパイロットオイル噴射弁50及び/又は二元燃料機関の液体燃料システムの液体燃料噴射弁を使用して、前記第1の量又は前記第2の量の液体燃料を、TDC又はTDCに近い角度で噴射するように構成される。
【0074】
実施形態によっては、前記第1の量又は前記第2の量の液体燃料を噴射する角度は、機関の運転条件の関数としてコントローラ60によって決定される。
【0075】
発明の様々な捉え方や実装形態が、いくつかの実施例と共に説明されてきた。しかし、本願の明細書や図面、特許請求の範囲を検討すれば、当業者は、特許請求の範囲に記載される発明を実施するにおいて、説明された実施例に加えて多くのバリエーションが存在することを理解し、また具現化することができるであろう。特許請求の範囲に記載される「備える」「有する」「含む」との語句は、記載されていない要素やステップが存在することを排除しない。特許請求の範囲において記載される要素の数が複数であると明示されていなくとも、当該要素が複数存在することを除外しない。特許請求の範囲に記載されるいくつかの要素の機能は、単一のプロセッサやコントローラ、その他のユニットによって遂行されてもよい。いくつかの事項が別々の従属請求項に記載されていても、これらを組み合わせて実施することを排除するものではなく、組み合わせて実施して利益を得ることができる。
【0076】
特許請求の範囲で使用されている符号は発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。
図1
図2
図3
図4
図5