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特許7449355農業用固着剤、農業用散布液及び栽培方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】農業用固着剤、農業用散布液及び栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/24 20060101AFI20240306BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20240306BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A01N25/24
A01N25/04 102
A01P3/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022193232
(22)【出願日】2022-12-02
(65)【公開番号】P2023083255
(43)【公開日】2023-06-15
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2021197131
(32)【優先日】2021-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591023642
【氏名又は名称】中越パルプ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095740
【弁理士】
【氏名又は名称】開口 宗昭
(74)【代理人】
【識別番号】100225141
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 安司
(72)【発明者】
【氏名】坪井 国雄
(72)【発明者】
【氏名】林 優衣
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-047539(JP,A)
【文献】特開2012-224565(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110859191(CN,A)
【文献】特公昭46-042800(JP,B1)
【文献】特開2005-170892(JP,A)
【文献】国際公開第1997/046092(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0272132(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/00
A01N 43/00
A01P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノオーダーの繊維幅を有し、化学修飾されていない多糖類の微細状繊維である農業用固着成分を含有する液体形態の農業用固着剤であって、
前記ナノオーダーの繊維幅を有する繊維は、3~1000nmの繊維幅を有するナノ繊維である、
液体形態の農業用固着剤。
【請求項2】
ナノオーダーの繊維幅を有し、化学修飾されていない多糖類の微細状繊維である農業用固着成分を含有する液体形態の農業用固着剤であって、
前記ナノオーダーの繊維幅を有する繊維は、3~1000nmの繊維幅を有するナノ繊維であり、
固着率が23.3%以上である、液体形態の農業用固着剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の液体形態の農業用固着剤と、
農薬製剤及び水を含有する農業用散布液であって、
前記農薬製剤の剤形が水和剤、水溶剤、乳剤、液剤、油剤のいずれかである農業用散布液。
【請求項4】
前記農薬製剤に含まれる粒径が100μm以下である、請求項3に記載の農業用散布液。
【請求項5】
固着率が15%以上である請求項3に記載の農業用散布液。
【請求項6】
固着率が15%以上である請求項4に記載の農業用散布液。
【請求項7】
液状態固着率が8.48%以上である請求項3に記載の農業用散布液。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の液体形態の農業用固着剤を用いた園芸作物及び/又は農作物の栽培方法。
【請求項9】
請求項3に記載の農業用散布液を用いた園芸作物及び/又は農作物の栽培方法。
【請求項10】
各農薬の使用量を低減するための、請求項1又は請求項2に記載の液体形態の農業用固着剤の使用方法。
【請求項11】
農業用散布液の残存率比が1.30~6.05であるための、請求項1又は請求項2に記載の液体形態の農業用固着剤の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用固着剤、農業用散布液及び栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本全国で激しい雨や集中的に長く降り続く雨の件数が増加している。
このような雨は、散布した農薬製剤を流出・流失させてしまうことや、防除作業ができなくなる等の悪影響がある。農薬製剤を流出・流失させてしまうと、病害虫による農作物の被害が大きくなることや、流出された農薬製剤が土壌に流出することによる環境被害も考えられる。
また、農薬製剤を流出・流失させてしまうと、農作物に使用する農薬製剤の量が多くなるおそれがあり、コストや安全面に悪影響を与える。
【0003】
一方、一般的に、植物の葉や茎の表皮面は、液体を反発する成分や撥水性を発現する微細構造を有している。
このような植物の表皮面は、散布した農薬製剤中の農薬活性成分が、上記表皮面に付着せず、十分な効果を示さない場合や、付着させることができたとしても、植物表皮面から剥離離脱してしまい、効果の持続性が問題となる場合がある。
【0004】
そこで、特許文献1には、植物表皮面への農薬活性成分の付着性を向上させることを目的として、農薬に展着剤を混ぜることで、農薬活性成分の湿潤、浸透、固着等の諸性質を強め、薬効を増加させることが行われている。また、展着剤として、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、リグニンスルホン酸塩、ナフチルメタンスルホン酸塩等が利用できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-1404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの展着剤は、農薬製剤の表面張力を下げ、植物に対する付着性あるいは拡展性を向上させる性質を有するため有益である。
しかしながら、これらの展着剤は水に非常に馴染みやすい性質を有するため、降雨等による流失を抑えることは難しい。
【0007】
また、植物の表皮面に、各々の植物の種類に応じた必要な量の農薬活性成分をより少ない農薬量を用いて固着させることが可能な農業用固着剤及び農業用散布液が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、降雨などによる農薬活性成分の流出・流失を防ぎ及び植物の種類に応じた農薬活性成分の固着性を有し、かつ、環境及び人体に無害な農業用固着剤及び農業用散布液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、サステイナブル原料であるセルロースナノファイバーに農薬活性成分を保持させ、これを植物等に散布することで植物に農薬活性成分を固着させること及びその農薬活性成分が水の影響を受けても長時間固着させることができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、セルロースナノファイバー等の多糖の微細状繊維を含有する農業用固着剤である。
また、前記農業用固着剤、農薬製剤及び水を含有する農業用散布液である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、降雨などによる農薬活性成分の流出・流失を防ぎ及び植物の種類に応じた農薬活性成分の固着性を有し、かつ、環境及び人体に無害な農業用固着剤及び農業用散布液とすることができる農業用固着剤及び農業用散布液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】農薬活性成分固着率の違いを表す図である。
図2】含浸時間を30秒と6時間とした残存率試験の結果を表す図である。
図3】実施例7、8と比較例5、6における農薬活性成分の残存率を基板の接触角毎に表す図である。
図4】実施例7、実施例9、実施例10、比較例5、比較例7及び比較例8における農薬活性成分の残存率を農薬製剤毎に表す図である。
図5】実施例18及び実施例19、比較例14及び比較例15における残存試験(染色)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る農業用固着剤及び農業用散布液について、それぞれ詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は、発明の理解を助けるためのものであり、本発明を限定するものではない。
なお、以下の実施形態の説明に用いられる図面において、同一の参照符号は、同一部分又は相当部分を表わす。本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0014】
(用語の定義)
本明細書における「CNF」との用語は、平均繊維幅3~200nmであり、平均繊維長0.1μm以上のセルロース繊維のことをいい、平均繊維幅3~4nmのいわゆるシングルセルロースナノファイバー、およびシングルセルロースナノファイバーが、いくつか集合し複数層となっている平均繊維幅10~200nmのシングルセルロースナノファイバー集合体を包含する。また、セルロース繊維の長さ方向に枝分かれのないものだけではなく、枝分かれしているものも存在する。さらに、繊維幅10μm以上の繊維が含まれていても噴霧などの散布上問題なければ利用できる。
【0015】
本明細書における「農業用固着成分」との用語は、セルロース、キチン、キトサン、コラーゲン及びゼラチン等の多糖類の微細状繊維のことをいい、微細状繊維とは、マイクロオーダーの繊維幅を有する繊維及び/又はナノオーダーの繊維幅を有する繊維のことである。なお、「マイクロオーダーの繊維幅を有する繊維」及び「ナノオーダーの繊維幅を有する繊維」については後述する。
【0016】
本明細書における「農業用固着剤」との用語は、前記農業用固着成分を含有する農業用途に用いる固着剤のことである。ここで、農業用固着剤の形態は、固体若しくは液体である。また、農業用固着剤中には、農業用固着成分の他に成分を含んでいてもよい。さらに、「固着」とは、農業用固着成分に農薬、界面活性剤その他の薬剤を固着させること、及び、農業用固着成分自体を植物の表皮面に固着させることができることをいう。なお、他の成分としては、例えば多価の陽イオンを含む液等が上げられる。これらを用いることでファイバーが凝集して粒子状になる場合もあるが、凝集せずファイバー形態を維持した状態で存在出来れば利用上問題とならない。
本明細書における「農業用散布液」との用語は、農業用固着剤と農薬製剤、pH調整剤、肥料、界面活性剤、防腐剤等の農業用途に用いる剤を混合して液体状に調製したもののことをいう。
【0017】
(マイクロオーダーの繊維幅を有するマイクロ繊維)
マイクロ繊維の繊維幅は、通常1~100μmであり、好ましくは、1~50μmである。
また、マイクロ繊維の繊維長は、通常500μm~10mmであり、好ましくは、500μm~5mmであり、さらに好ましくは1mm以下である。
【0018】
本明細書に記載のマイクロ繊維の繊維幅及び繊維長は、顕微鏡を用いて任意の10本を選択し、それらの測定値を平均して得られた値を用いている。なお、マイクロ繊維の繊維幅及び繊維長は繊維の幹部分を測定しているが、マイクロ繊維が繊維の幹部分として単独で存在している場合と、マイクロ繊維が繊維の幹部分とその繊維の幹部分より枝分かれした極細な分岐した繊維で存在している場合であっても、さらに極細な多数の分岐した繊維とから構成されて存在している場合であっても、繊維の幹部分の繊維幅及び繊維長の測定値として用いている。
すなわち、本発明におけるマイクロ繊維は、繊維の幹部分からの枝分かれ構造の有無に関わらず、繊維の幹部分の繊維幅及び繊維長を測定する。また、前記繊維幅及び繊維長の範囲にあるマイクロ繊維は、繊維の幹部分からの枝分かれ構造の有無に関わらず、マイクロ繊維として利用することができる。
【0019】
(ナノオーダーの繊維幅を有するナノ繊維)
ナノ繊維の繊維幅は、通常3~1000nmであり、好ましくは、3~500nmであり、より好ましくは、3~200nmである。
また、ナノ繊維の繊維長は、通常200nm~2000μmであり、好ましくは、1~1000μmであり、より好ましくは、5~500μmである。
【0020】
本明細書に記載のナノ繊維の繊維幅及び繊維長は、顕微鏡を用いて任意の10本を選択し、それらの測定値を平均して得られた値を用いている。なお、ナノ繊維の繊維幅及び繊維長は繊維の幹部分を測定しているが、ナノ繊維が繊維の幹部分として単独で存在している場合と、ナノ繊維が繊維の幹部分とその繊維の幹部分より枝分かれした極細な分岐した繊維で存在している場合であっても、さらに極細な多数の分岐した繊維とから構成されて存在している場合であっても、繊維の幹部分の繊維幅及び繊維長の測定値として用いている。
すなわち、本発明におけるナノ繊維は、繊維の幹部分からの枝分かれ構造の有無に関わらず、繊維の幹部分の繊維幅及び繊維長を測定する。また、前記繊維幅及び繊維長の範囲にあるナノ繊維は、繊維の幹部分からの枝分かれ構造の有無に関わらず、ナノ繊維として利用することができる。
【0021】
(多糖類の微細状繊維である農業用固着成分を含有する農業用固着剤)
本願発明に用いる多糖類の微細状繊維について説明する。
多糖類の微細状繊維の製造方法としては、特許第6867613号公報に記載の微細状繊維の製造方法や特許第6704551号公報に記載の天然高分子としてセルロースを用いたセルロースナノファイバー及びセルロースナノクリスタル水溶液の調製方法や両公報に記載の他の原料等を由来成分とする微細状繊維の製造方法を参照することができる。
また、本願発明に用いることのできる多糖類の微細状繊維として、特許第6245779号公報に記載の誘導体化CNFの製造方法によって、得られる誘導体化CNFを用いることもできる。
【0022】
多糖類の微細状繊維の原料は1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。また原料の多糖としてはα-セルロース含有率60%~99質量%のパルプを用いるのが好ましい。α-セルロース含有率60質量%以上の純度であれば繊維径及び繊維長さが調整しやすく、α-セルロース含有率60質量%未満のものを用いた場合に比べ、熱安定性が高く、着色抑制効果が良好で腐敗も生じ難い。一方、99質量%以上のものを用いた場合、繊維をナノレベルに解繊することが困難になる。
【0023】
また、本発明においては、植物残渣等を多糖類の微細状繊維の原料として使用することができる。植物残渣の例としては、竹の皮、ぶどう・りんご・みかん、さつまいも等の皮、茶かす、コーヒーかす、稲わら・麦わら・もみ殻、パンダ等の動物の糞などが挙げられる。例えば竹の皮を用いた場合は鳥インフルエンザに対する不活化なども期待されるなど、対象の農業基材に対して追加的な効果を付与することも可能となる。
【0024】
特許第6704551号の0018段落に記載のACC法(水中対向衝突法)により、平均繊維幅3~200nmであり、平均繊維長0.1μm以上であるCNFが得られる。前記平均繊維幅と前記平均繊維長の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等の顕微鏡を適宜選択し、CNFを観察・測定し、得られた写真から任意の10本を選択し、これをそれぞれ平均化することにより求める。なお、蛍光増幅を利用する蛍光顕微鏡観察する方法を採用してもよい。
【0025】
本発明の農業用固着剤は、農薬活性成分、防腐剤、界面活性剤のその他の薬剤を固着させた多糖類の微細状繊維を植物の表皮面に散布等することで、多糖類の微細状繊維を介して植物の表皮面に、農薬活性成分等を固着させることが可能となる。
また、本発明の農業用固着剤は、種々の農薬活性成分等の薬剤を含有する農薬製剤を農業用固着成分の固着対象物として使用することができる。なお、本発明において用いることのできる農薬活性成分及び農薬製剤については後述する。
【0026】
(農業用固着剤、農薬製剤及び水を含有する農業用散布液)
本発明の農業用散布液は、前記農業用固着剤と、農薬製剤と、水とを含有したものである。なお、水以外の溶媒を加えてもよい。また、必要に応じてキレート剤、pH調節剤、無機塩類、増粘剤、防腐剤、消泡剤、殺菌剤、保湿材、植物栄養剤、ビタミン剤、酵素剤、ケイ酸剤及び肥料等の添加剤を加えてもよい。
【0027】
農薬製剤中に含有する農薬活性成分としては、「農薬ハンドブック2021年版」(社団法人日本植物防疫協会、2020年9月)に記載のフェノキシ酸系除草剤、ジフェニルエーテル系除草剤、カーバメート系除草剤、酸アミド系除草剤、尿素系除草剤、スルホニル尿素系除草剤、トリアジン系除草剤、ダイアジン系除草剤、ダイアゾール系除草剤、ビピリジリウム系除草剤、ジニトロアニリン系除草剤、芳香族カルボン酸系除草剤、脂肪酸系除草剤、有機リン系除草剤、アミノ酸系除草剤等の除草剤;銅殺菌剤、無機殺菌剤、有機硫黄殺菌剤、有機塩素系殺菌剤、有機リン系殺菌剤、ベンゾイミダゾール系殺菌剤、ジカルボキシイミド系殺菌剤、酸アミド系殺菌剤、エルゴステロール生合成阻害剤、抗生物質殺菌剤等の殺菌剤;有機リン系殺虫剤、カーバメート系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤、ネライストキシン系殺虫剤、昆虫成長制御剤等の殺虫剤が挙げられる。
【0028】
前記農薬製剤の剤型としては、水和剤(水に懸濁させて使用する粉末状の水和剤、顆粒状の水和剤、微粒子状の個体有効成分を水中に分散させた製剤でそのまま使用または水で希釈して使用する液体製剤(フロアブル)及び懸濁液と乳濁液を混合させ、水に不溶な微粒子成分と液体有効成分を水中に分散させたサスポエマルション等)、水溶剤、乳剤、液剤、油剤等、溶媒を用いて使用する剤型であればいずれでもよい。
前記水和剤中の粒径は、特に制限されないが、1700μm以下、好ましくは、300μm以下、より好ましくは、100μm以下であることが好ましい。粒径が小さいほど多糖類の微細状繊維表面に固着しやすく担持効果が高くなる。
【0029】
農業用散布液を調製する方法は特に限定されないが、多糖類の微細状繊維を含む分散液と農薬製剤と混合することが好ましい。なお、多糖類の微細状繊維を含む分散液をその使用の際に溶媒(通常水)で所定濃度に希釈して用いてもよい。
また、農薬製剤の希釈液の水量については、使用する各種農薬製剤の取扱説明書等の記載に従って適宜設定すればよい。
さらに、農業用散布液中の多糖類の微細状繊維の含有率は、特に制限されることなく使用することができるが、0.001質量%以上10質量%以下が好ましい。多糖類の微細状繊維の含有率があまりにも少ない場合には、多糖類の微細状繊維による効果が低減するからである。また、10質量%以上であると、農業用散布液が高粘度となり、噴霧性が低下し、均質な散布が困難となるからである。
【0030】
(農業用固着剤及び農業用散布液の使用方法)
本発明の農業用固着剤及び/又は農業用散布液の使用方法は、公知の噴霧器等を用いて対象とする野菜・果樹・花卉等の園芸作物や、食用作物、工芸作物、飼料作物及び緑肥作物等を含む農作物全般に噴霧・散布する。
また、本発明の農業用固着剤の使用方法は、農業用固着剤を対象とする前記園芸作物・農作物等に散布した後に、重ねて農薬製剤を散布する。或いは農薬製剤を対象とする前記園芸作物・農作物等に散布した後に、重ねて本発明の農業用固着剤を散布する等の方法がある。このとき、地上での散布以外に、有人の航空機、ヘリコプターや無人ラジコンヘリコプターを使用しての空中から散布してもよい。
【0031】
(農業用固着剤及び農業用散布液を用いた園芸作物及び/又は農作物の栽培方法)
本発明の農業用固着剤及び/又は農業用散布液を用いた園芸作物及び/又は農作物の栽培方法は、公知の噴霧器等を用いて対象とする野菜・果樹・花卉等の園芸作物や、食用作物、工芸作物、飼料作物及び緑肥作物等を含む農作物全般に噴霧・散布する。
また、本発明の農業用固着剤及び/又は農業用散布液を用いた園芸作物及び/又は農作物の栽培方法は、農業用固着剤を対象とする前記園芸作物・農作物等に散布した後に、重ねて農薬製剤を散布する。
或いは、農薬製剤を対象とする前記園芸作物・農作物等に散布した後に、重ねて本発明の農業用固着剤を散布する等の方法がある。このとき、地上での散布以外に、有人の航空機、ヘリコプターや無人ラジコンヘリコプターを使用しての空中から散布してもよい。
【0032】
(園芸作物及び/又は農作物)
本発明における農業用固着剤及び農業用散布液は、あらゆる種類の野菜・果樹・花弁等の園芸作物や食用作物、工芸作物、飼料作物及び緑肥作物を含む農作物全般を対象として用いることができる。あえて園芸作物・農作物の例示をするならば、レタス、ハーブ、キャベツ、春菊、コマツナ、白菜、ほうれん草、ネギ、たまねぎ等などの葉菜類、アスパラガスなどの茎菜類、唐辛子、ピーマン、パプリカ、メロン、ゴーヤ、スイカ、カボチャ、ブルーベリー、イチゴ、ナス、トマト、きゅうりなどの果菜類、ブロッコリー、カリフラワー、フキノトウ等の花菜類、モヤシ、枝豆、豆苗、各種スプラウト等の豆類、ブドウ、リンゴ、モモ、ミカンなどの果樹、レンコン、ニンジン、大根、ショウガなどの根菜類、キク、ユリ、バラ等の花卉類、稲、麦などの穀類、じゃがいもなどのいも類、ヒヤシンス、クロッカス、チューリップ、カサブランカなどの球根類、ススキ、フウチソウ、カレックスなどのグラス類、クワ、チャ、コーヒー、タバコ、ソルガム、トウモロコシなどの植物、綿、大麻(あさ)、ケナフの繊維用、い草等の畳用、こうぞ、みつまた、とろろあおい等の和紙用、なたね、紅花、ひまわり、ごま、えごま、オリーブ等の油脂用、さとうきび、てんさい、甘草(ステビア)等の甘味糖料用、サツマイモ、ジャガイモ、トウモロコシ、こんにゃくいも等のデンプン・糊用、茶、葉たばこ等の嗜好用、ラベンダー、ジャスミンなどの香料、漆、ハゼなどの樹脂類、藍、紅花、レッドキャベツなどの染料用、除虫菊、はっか、おたねにんじん、大麦若葉、ウコン、ケールなどの薬用の各種用途に用いる工芸作物等を例示することができる。
【0033】
(農業用固着剤の固着率及び残存率)
本願発明の農業用固着剤は、後述する固着率、及び残存率という数値から、農業用固着剤を評価することができる。農業用固着剤の固着率が意味するところは、植物の表皮面へ農業用固着剤を散布し、一定期間自然に経過した後、その植物の表皮面に農業用固着剤がどの程度固着しているかを示す指標である。この指標により、農業用固着剤がある植物に対し、使用した農業用固着剤がどの程度の割合で固着されるかが示されると推察される。なお、固着率は、植物の葉等の向きや、植物の葉が風の影響を受けることを想定したものである。
一方、農業用固着剤の残存率が意味するところは、植物の表皮面へ農業用固着剤を散布した後、一定期間水に晒した後、その植物の表皮面に農業用固着剤がどの程度残存しているかを示す指標である。この指標により、農業用固着剤がある植物に対し、使用した農業用固着剤が水に晒された後に、どの程度の割合で残存しているかが示されると推察される。なお、残存率は、植物の葉等が雨の影響を受けることを想定したものである。
【0034】
(農業用散布液の固着率、液状態固着率及び残存率)
本願発明の農業用散布液は、後述する固着率、液状態固着率及び残存率という数値から、農業用散布液を評価することができる。
農業用散布液の固着率が意味するところは、植物の表皮面へ農業用散布液を散布した後、一定期間自然に経過した後、その植物の表皮面に農業用散布液がどの程度固着しているかを示す指標である。
また、農業用散布液の液状態固着率が意味するところは、植物の表皮面へ農業用散布液を散布した後、葉を傾けた後、その植物の表皮面に農業用散布液がどの程度固着しているかを示す指標である。前記農業用固着率と同様に、農業用散布液の固着率は、植物の葉の向きや、植物の葉が風の影響を受けることを想定したものであるが、農業用散布液の液状体固着率は、農業用散布液の固着率よりも短い期間経過後、その植物の表皮面に農業用散布液がどの程度固着しているかを示す指標である。農薬製剤の中には乾燥後の固形物がない揮発性の製剤もあるため、乾燥前の状態である液で比較した方が有効な指標となる場合がある。
これらの指標により、農業用散布液がある植物に対し、使用した農薬製剤等と農業用固着剤がどの程度の割合で固着されるかが示されると推察される。
一方、農業用散布液の残存率が意味するところは、植物の表皮面へ農業用散布液を散布した後、一定期間、水に晒した後、その植物の表皮面に農業用散布液がどの程度残存しているかを示す指標である。この指標により、農業用散布液がある植物に対し、使用した農薬製剤と農業用固着剤が、水に晒された後に、どの程度の割合で残存しているかが示されると推察される。なお、残存率は、植物の葉が雨等の影響を受けることを想定したものである。
【0035】
(農業用散布液の固着率比、液状態固着率比及び残存率比)
本願発明の農業用散布液は、前記固着率、前記液状態固着率及び前記残存率と農薬製剤の固着率、液状態固着率及び残存率から、固着率比、液状態固着率及び残存率を算出することにより、農業用散布液を評価することができる。
農業用散布液の固着率比は、前述した農業用散布液の固着率と農薬製剤等の固着率とを用いて、以下の式により算出される値である。
(農業用散布液の固着率比)=農業用散布液の固着率/農薬製剤等の固着率
また、農業用散布液の液状態固着率比は、前述した農業用散布液の液状態固着率と農薬製剤等の液状態固着率とを用いて、以下の式により算出される値である。
(農業用散布液の液状態固着率比)=農業用散布液の液状態固着率/農薬製剤等の液状態固着率
さらに、農業用散布液の残存率比は、前述した農業用散布液の残存率と農薬製剤等の残存率とを用いて、以下の式により算出される値である。
(農業用散布液の残存率比)=農業用散布液の残存率/農薬製剤等の残存率
それぞれの値が1以上であれば、農業用固着剤を農薬製剤と併用して使用することで、農薬製剤を単体で使用するよりも、農薬製剤の量を少なくしても同等の効果が得られると考えられる。
【0036】
(各農薬の使用量を低減するための農業用固着剤の使用方法)
本発明の農業用固着剤は、園芸作物及び/又は農作物の栽培時における各農薬の使用量を低減するために用いることが可能である。
ここで、本発明の「各農薬の使用量を低減する」とは、本願発明に係る農業用固着剤を用いると、植物の表皮面に農薬活性成分を固着させることで、降雨等の影響による農薬活性成分の流出・流失を防ぐことが可能となるから、本願発明に係る農業用固着剤を使用しない一般的な従来の農薬の使用状況よりも、農薬の使用液量や使用回数を低減させることが可能となるというものである。
ただし、農薬の使用については、農薬取締法第25条1項において、(i)適用作物、(ii)単位当たりの使用量の最高限度、(iii)希釈倍数の最低限度、(iv)使用時期、(v)生育期間において含有する有効成分の種類ごとの総使用回数等の基準が定められているところであるが、本発明の「各農薬の使用量を低減する」は、この基準に反して農薬を使用することを推奨するものではない。
【実施例
【0037】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
(農業用固着剤及び農業用散布液の評価)
植物葉面に見立てた樹脂基板(以下、基板という)に、農業用固着剤及び農業用散布液等を含む試料液を噴霧し、(1)残存率試験、(2)液状態固着率、及び(3)固着率試験を行った。
それぞれの試験内容について以下に記載する。
なお、上記のような試験は、定量化しやすくするため、一般的に植物葉面に見立てた基板を用いて行われるのが通例であり、本発明の実施例に付いてもそれに習って実施した。前記基板は、植物の葉面の代替として用いたものである。
植物の葉面の水に対する接触角は、概ね50~150°であることが知られている。具体的には、お茶の葉が概ね80°、稲、小麦が概ね150°等である。
【0039】
まず、本明細書における残存率、固着率、及び液状態固着率について定義する。
本明細書における「残存率」とは、試料液を基板へ噴霧し、基板へ付着した試料液中の不揮発成分残存量に対する、水に前記基板を一定期間浸漬させた後に、基板表面に残存した各試料液中の不揮発成分残存量の割合のことをいう。ここで、不揮発成分残存量とは、23℃、50%RHの環境下で12時間以上乾燥させても揮発せずに残存する量である。
【0040】
本明細書における「固着率」とは、水平面に対して角度を有する基板へ試料液を噴霧したときに、全ての噴霧液が基板に付着したと仮定した際の噴霧液中の農業用固着成分や農薬活性成分等の各成分量に対する、一定期間経過後に基板表面に残存した不揮発成分固着量の割合のことをいう。ここで、不揮発成分固着量とは、105℃の環境下で2時間以上乾燥させても揮発せずに残存する量である。
本明細書における「液状態固着率」とは、水平面上の基板へ試料液を滴下し、角度を垂直として一定時間経過後させたときに、滴下液中の農業用固着成分や農薬活性成分の各成分量に対する基板等の表面に残存した固着量の割合のことをいう。
【0041】
(残存率試験)
(i)50cc容量のガラス瓶に各試料液を調整する。試料液は、各実施例・比較例の条件に合わせ、各種農薬製剤、各種添加剤、CNF分散液を含有する農業用固着剤及び水等の溶剤を規定量ずつガラス瓶に入れ、スターラーにて30分間撹拌して調製する。
(ii)5×5cmに切断した基板を、23℃、50%RHの環境下で12時間以上乾燥させた後、基板の初期重量(a)を測定する。
次いで、基板に前記試料液を、スプレー装置を使用して噴霧し、23℃、50%RHの環境下で12時間以上乾燥させる。
次いで、乾燥後の基板の重量を測定して、その値を浸漬前不揮発成分残存量(b)とする。
(iii)乾燥後の基板を、300mlの水を入れた300ml容量のビーカーに規定時間浸漬させる。
(iv)規定時間後、ビーカーから前記基板を取り出す。
次いで、この基板を23℃、50%RHの環境下で12時間以上乾燥させる。
次いで、この基板の重量を測定して、その値を浸漬後不揮発成分残存量(c)とする。
(v)((浸漬後不揮発成分残存量(c)-基板の初期重量(a))/(浸漬前不揮発成分残存量(b)-基板の初期重量(a))×100 より残存率(%)を算出する。
(vi) (i)~(v)迄の操作を少なくとも3回繰り返した時の平均値を各実施例、及び比較例の残存率とする。
【0042】
(固着率試験)
(i)50cc容量のガラス瓶に各試料液を調整する。試料液は、各実施例・比較例の条件に合わせ、各種農薬製剤、各種添加剤、CNF分散液を含有する農業用固着剤及び水等の溶剤を規定量ずつガラス瓶に入れ、スターラーにて30分間撹拌して調製する。
(ii)7×7cmに切断した基板を、105℃の乾燥器内で2時間以上乾燥させた後、デシケーター内で放冷する。
次いで、乾燥後の基板の重量を測定して、その値を初期重量(a)とする。
次いで、乾燥後の基板を垂直な壁に貼り付け、スプレーボトルに入れた試料液を5cm離れた場所から基板中心に向け3回噴霧する。
次いで、噴霧前(b)と噴霧後(c)のスプレーボトル重量を測定し、その差分を噴霧量とする。
次いで、各試料液中の各成分濃度を用いて、噴霧量に含まれる各成分量(以下、各成分の最大固着量という)を算出する。
次いで、噴霧から5分後に基板を、23℃,50%RHの環境下で液が乾くまで乾燥させた後、105℃の乾燥器内で2時間以上乾燥させる。
(iii)乾燥後の基板を、デシケーター内で放冷した後、乾燥後の基板の重量(d)を測定する。乾燥後の基板の重量(d)及び初期重量(a)との差分から、不揮発成分固着量(d-a) を求める。
(iv)((不揮発成分固着量/各成分の最大固着量))×100により固着率(%)を算出する。
(v) (i)~(iv)迄の操作を少なくとも3回繰り返した時の平均値を各実施例、及び比較例の固着率とする。
【0043】
(液状態固着率試験)
(i)50cc容量のガラス瓶に各資料液を調整する。試料液は、各実施例・比較例の条件に合わせ、各種農薬製剤、各種添加剤、CNF分散液を含有する農業用固着剤及び水等の溶剤を規定量ずつガラス瓶に入れ、スターラーに30分間攪拌して調整する。
(ii)プラスチック板を1×7cmに切断し基板とする。またはプラスチック板の上に各葉面を張り付け基板とする。その後、基板の初期重量(a)を測定する。重量測定後、ピペットを用いて基板の端から1cmの位置に、 0.03gまたは0.05gになるように試料液を滴下し、滴下後重量(b)を測定し、その差から滴下量(b-a)を算出する。その後、基板を垂直にし、30秒間静置する。30秒後、基板の落下後重量(c)を測定する。
(iii)液状態固着量を(c-a)で求める。液状態固着率(%)を液状態固着量/滴下量×100により算出する。
(iv)(i)~(iii)迄の操作を少なくとも3回繰り返した時の平均値を各実施例、及び比較例の液状態固着率とする。
【0044】
(実施例1及び実施例2)
(セルロースを農業用固着成分として用いた農業用固着剤の固着率試験)
セルロース由来成分として竹パルプを用い、ACC法(水中対向衝突法)を使用して、解繊処理を行い、ナノオーダーの繊維幅を有する微細状繊維を含む農業用固着剤(微細状繊維含量1%)を得た。次いで、得られた農業用固着剤を前記微細状繊維の含量が0.1%となるように水で希釈して、本実施例1及び2で用いる試料液とした。
得られた試料液を用いて、前記固着率試験における基板として、ポリイミドフィルム(カプトン、東レ株式会社、水の接触角70°「カプトン」は、東レ株式会社の登録商標である。)(実施例1)、及びフッ素樹脂フィルム(PTFE、アズワン株式会社、水の接触角114°)(実施例2)を用いて固着率試験を行った。試験条件及び試験結果を表1に示す。なお、以下の各表の値は、平均値(n=3)である。
【0045】
【表1】
【0046】
(実施例3及び実施例4)
(農業用散布液の固着率試験)
実施例1で用いた農業用固着剤、農薬製剤としてトリフルミゾール水和剤(商品名:「トリフミン水和剤」、日本曹達株式会社製、水和性粉末45μm以下含有、商品名:「トリフミン水和剤」中、「トリフミン」は、日本曹達株式会社の登録商標である。)と、水とを、農業用散布液中のトリフミン水和剤の含量が1.0%、及びCNFの含量が0.1%となるように混合した農業用散布液を調製し、実施例3及び実施例4で用いる試料液とした。
得られた試料液を用い、基板にポリイミドフィルム(カプトン、東レ株式会社、水の接触角70°「カプトン」は、東レ株式会社の登録商標である。)(実施例3)及びフッ素樹脂フィルム(PTFE、アズワン株式会社、水の接触角114°)(実施例4)を用いて固着率試験を行った。
なお、農薬活性成分の固着率は、実施例1及び実施例2より得られたCNFの固着率を用いて算出した値を用いた 。結果を表2に示し、図1に農薬活性成分固着率の違いを表す図を示す。
【0047】
(比較例1及び比較例2)
(農薬製剤の固着率試験)
実施例3及び実施例4において、農業用固着剤を用いなかったこと以外は、実施例3及び実施例4と同様にして、固着率試験を行った。結果を表3に示し、図1に農薬活性成分固着率の違いを表す図を示す。
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
表2~表3の結果より、本願発明に係る農業用固着剤は、植物葉面に見立てた接触角70°及び114°の基板ともに、農薬製剤中の農薬活性成分の固着率を増加させることができることが明らかとなった。
【0051】
(実施例5)
(農業用固着剤の残存率試験)
実施例1で用いた試料液を用いて、残存率試験における基板をポリイミドフィルム(カプトン、東レ株式会社、水の接触角70°「カプトン」は、東レ株式会社の登録商標である。)とし、300ml 容量ビーカーの中での浸漬時間を30秒として、残存率試験を行った。結果を表4に示す。
【0052】
(実施例6)
(農業用固着剤の残存率試験)
実施例5における浸漬時間を6時間としたこと以外は、実施例5と同様にして、残存率試験を行った。結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
(比較例3)
(農薬製剤の残存率試験)
農業用固着剤に代えて、実施例3で用いたトリフミン水和剤を、含量が1.0%となるように水で希釈した試料液を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、残存率試験を行った。結果を表5に示す。
【0055】
(比較例4)
(農薬製剤の残存率試験)
比較例3における浸漬時間を6時間としたこと以外は、比較例3と同様にして、残存率試験を行った。結果を表5に示す。
また、図2に実施例5、6の試料液中のCNF成分と、比較例3、4の試料液中の農薬活性成分それぞれの浸漬時間30秒と6時間の残存率試験の結果を表す図を示す。
【0056】
【表5】
【0057】
表4、5の結果より、浸漬時間が異なっていても、それぞれ同様の残存率であることが明らかとなった。
【0058】
(実施例7及び実施例8)
(農業用散布液の残存率試験)
実施例3及び実施例4で用いた試料液を用いて、基板にポリイミドフィルム(カプトン、東レ株式会社、水の接触角70°「カプトン」は、東レ株式会社の登録商標である。)(実施例7)及びフッ素樹脂フィルム(PTFE、アズワン株式会社、水の接触角114°)(実施例8)を用いて水への浸漬時間を30秒として残存率試験を行った。なお、実施例5の結果から、農業用固着成分であるCNF分の残存率は100%とし、農薬活性成分の残存率を算出した。結果を表6に示す。また、図3に実施例7、8と比較例5、6における農薬活性成分の残存率を基板の接触角毎に表す図を示す。
【0059】
(比較例5及び比較例6)
(農薬製剤の残存率試験)
実施例7及び実施例8において、農業用固着剤を用いなかったこと以外は、実施例7及び実施例8と同様にして、残存率試験を行った。
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【0062】
表6,7の結果より、本願発明に係る農業用固着剤は、植物葉面に見立てた接触角70°及び114°の基板ともに、農薬製剤中の農薬活性成分の残存率を増加させることができることが明らかとなった。また、45μm以下の大粒の農薬活性成分を含有する農薬製剤において、残存率を増加させることができることが明らかとなった。
【0063】
(実施例9)
(農業用散布液の残存率試験)
実施例1で用いた農業用固着剤と、農薬製剤としてクロロタロニル水和剤(商品名:「STダコニール1000水和剤」、住友化学株式会社製、有効成分テトラクロロインソフクロロタロニル、粉末15μm以下含有、40重量%、商品名:「STダコニール1000水和剤」中、「ダコニール」は、株式会社エス・ディー・エス バイオテックの登録商標である。)と、水とを、農業用散布液中の「STダコニール1000水和剤」の含量が1.0%、及びCNFの含量が0.1%となるように混合した農業用散布液を調製し、実施例9で用いる試料液とした。
得られた試料液を用い、基板にポリイミドフィルム(カプトン、東レ株式会社、水の接触角70°「カプトン」は、東レ株式会社の登録商標である。)を用いて残存率試験を行った。結果を表8に示す。
【0064】
(実施例10)
(農業用散布液の残存率試験)
実施例1で用いた農業用固着剤と、農薬製剤としてフェニトロチオン(商品名:「日農スミチオン乳剤」、日本農薬株式会社製、有効成分MEP、乳剤、商品名:「日農スミチオン乳剤」中、「スミチオン」は、住友化学株式会社の登録商標である。)と、水とを、農業用散布液中の日農スミチオン乳剤の含量が1.0%、及びCNFの含量が0.1%となるように混合した農業用散布液を調製し、実施例10で用いる試料液とした。
得られた試料液を用い、基板にポリイミドフィルム(カプトン、東レ株式会社、水の接触角70°「カプトン」は、東レ株式会社の登録商標である。)を用いて残存率試験を行った。結果を表8に示す。
【0065】
【表8】
【0066】
(比較例7)
(農薬製剤の残存率試験)
実施例9において、農業用固着剤を用いなかったこと以外は、実施例9と同様にして、残存率試験を行った。結果を表9に示す。
【0067】
(比較例8)
(農薬製剤の残存率試験)
実施例10において、農業用固着剤を用いなかったこと以外は、実施例10と同様にして、残存率試験を行った。結果を表9に示す。また、図4に実施例7、実施例9、実施例10、比較例5、比較例7及び比較例8における農薬活性成分の残存率を農薬製剤毎に表す図を示す。
【0068】
【表9】
【0069】
実施例9及び比較例7の結果より、本願発明に係る農業用固着剤は、15μm以下の農薬活性成分を含有する農薬製剤においても残存率を増加させることができることが明らかとなった。
また、実施例10及び比較例8の結果より、本願発明に係る農業用固着剤は、乳剤タイプの農薬製剤においても残存率を増加させることができることが明らかとなった。
【0070】
(実施例11)
実施例1で用いた農業用固着剤を液中のCNFの含量が0.1%となるように水で希釈し、実施例11で用いる試料液1とした。また、実施例3で用いたトリフミン水和剤を、含量が1.0%となるように水で希釈し、実施例11で用いる試料液2とした。
はじめに、得られた試料液1のみをポリイミドフィルム(カプトン、東レ株式会社、水の接触角70°「カプトン」は、東レ株式会社の登録商標である。)基板上に散布し、23℃、50%RHの環境下で12時間以上乾燥させた。
次いで、試料液2を同一の基板上に散布し、23℃、50%RHの環境下で12時間以上乾燥させた。
次いで、水への浸漬時間を6時間として残存率試験を行った。
なお、実施例6の結果から、農業用固着成分であるCNF分の残存率は91.7%とし、農薬活性成分の残存率を算出した。結果を表10に示す。
【0071】
(実施例12)
実施例12において、散布の順番を試料液2、試料液1の順に変更した以外は、実施例11と同様にして残存率試験を行った。結果を表10に示す。
【0072】
【表10】
【0073】
表10及び比較例4の結果より、農薬用製剤の前後に農業用固着剤を散布した場合であっても、残存率を増加させることができることが明らかとなった。
【0074】
(実施例13~実施例15)
(農業用散布液の液状態固着率試験)
実施例3及び実施例4で用いた試料液、実施例9で用いた試料液、及び実施例10で用いた試料液をそれぞれ実施例13~実施例15で用いる試料液とした。
得られた試料液を用い、基板にポリイミドフィルム(カプトン、東レ株式会社、水の接触角70°「カプトン」は、東レ株式会社の登録商標である。)を用いて液状態固着率試験を行った。結果を表11に示す。
【0075】
【表11】
【0076】
(比較例9~比較例11)
(農薬製剤の液状態固着率試験)
実施例13~15において、農業用固着剤を用いなかったこと以外は、実施例13~15と同様にして、液状態固着率試験を行った。結果を表12に示す。
【0077】
【表12】
【0078】
表11~表12の結果より、本願発明に係る農業用散布液は、液状態固着率を増加させることができることが明らかとなった。
【0079】
(実施例16及び実施例17)
(農業用散布液の液状態固着率試験)
実施例10で用いた試料液を実施例16で用いる試料液とした。
実施例1で用いた農業用固着剤と、農薬製剤として銅水和剤(商品名:「Zボルドー」、日本農薬株式会社製、有効成分:塩基性硫酸銅、青緑色水和性粉末45μm以下含有、商品名:「Zボルドー」中、「Zボルドー」は、日本農薬株式会社の登録商標である。)と、水とを、農業用散布液中の銅水和剤の含量が1.0%、及びCNFの含量が0.1%となるように混合した農業用散布液を調製し、実施例17で用いる試料液とした。
次いで、ススキ(イネ科)の接触角を、接触角計(DataPhysics Instruments、OCA15EC)を用いて測定した。5回の測定結果の平均は、144.5°、標準偏差は3.03であった。この結果より、ススキ葉面の接触角は140°とした。
次いで、得られた試料液を用い、基板にススキを貼り付けたものを用いて液状態固着率試験を行った。結果を表13に示す。
【0080】
【表13】
【0081】
(比較例12及び比較例13)
(農薬製剤の液状態固着率試験)
実施例16及び17において、農業用固着剤を用いなかったこと以外は、実施例16及び17と同様にして、液状態固着率試験を行った。結果を表14に示す。
【0082】
【表14】
【0083】
表13~表14の結果より、本願発明に係る農業用散布液は、接触角140°においても、液状態固着率を増加させることができることが明らかとなった。
【0084】
(農業用散布液の固着率比の算出)
実施例3及び実施例4と比較例1及び比較例2における農業用散布液の固着率及び農薬製剤の固着率の値を用いて、農業用散布液の固着率比を算出した。結果を表15に示す。
【0085】
【表15】
【0086】
(農業用散布液の液状態固着率比の算出)
実施例13~実施例17及び比較例9~比較例13における農業用散布液の液状態固着率及び農薬製剤の液状態固着率の値を用いて、農業用散布液の液状態固着率比を算出した。結果を表16に示す。
【0087】
【表16】
【0088】
(農業用散布液の残存率比の算出)
実施例7~実施例10及び比較例5~比較例8における農業用散布液の残存率及び農薬製剤の残存率の値を用いて、農業用散布液の残存率比を算出した。結果を表17に示す。
【0089】
【表17】
【0090】
表15~表17の測定結果により、農業用散布液の液状態固着率比は全て1を上回る結果となった。
これらの結果から、本願発明に係る農業用固着剤を農薬製剤と併用して使用することで、農薬製剤を単体で使用するよりも、農薬製剤の量を少なくしても同等の効果が得られることが明らかとなった。
したがって、本願発明に係る農業用固着剤は、各農薬の所定の使用量を低減するために用いることができることが明らかとなった。
【0091】
(残存試験(染色))
(実施例18及び実施例19、比較例14及び比較例15)
実施例1で用いた農業用固着剤と、染料として(Cartasol Blue KRL liq、アークロマジャパン株式会社製)と、水とを、試料液中の染料の含量が1.0%、及びCNFの含量が0.1%となるように混合した試料液を調製し、実施例18で用いる試料液とした。
実施例1で用いた農業用固着剤と、実施例18で用いた染料と、農薬製剤としてフェニトロチオン(商品名:「日農スミチオン乳剤」、日本農薬株式会社製、有効成分MEP、乳剤、商品名:「日農スミチオン乳剤」中、「スミチオン」は、住友化学株式会社の登録商標である。)と、水とを、試料液中の日農スミチオン乳剤の含量が1.0%、染料の含量が1.0%、及びCNFの含量が0.1%となるように混合した試料液を調製し、実施例19で用いる試料液とした。
実施例18及び実施例19において、農業用固着剤を用いなかったこと以外は、実施例18及び19と同様にして、比較例14、比較例15とした。
次いで、ナス葉面の接触角を実施例16及び17において測定したススキと同様の方法において測定した。5回の測定結果の平均は、135.9°であった。この結果より、ナス葉面の接触角は135°とした
次いで、プラスチック板を1×5cmに切断し、ナス葉面を張り付け基板とした。次いで、基板の初期重量(a)を測定する。重量測定後、ピペットを用いて基板に5点、0.04gになるように液を載せ、12時間以上乾燥させた。次いで、乾燥後の状態を撮影した。
次いで、20mlバイアル瓶に10mlの脱イオン水を入れ、30秒間振り混ぜた。その後、水中から引き上げ、室温で1時間乾燥させた後、写真を撮影し、染料の落ち具合を比較した。結果を図5に示す。
図5の結果により、接触角の高い面(135°)でも、農業用固着剤を加えることで水洗浄後の残存性が向上することが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5