(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ダイカストアルミニウム合金、アルミニウム合金ダイカスト材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20240306BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20240306BHJP
C22F 1/043 20060101ALI20240306BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
C22C21/00 N
C22C21/06
C22F1/043
C22F1/00 602
C22F1/00 611
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 650F
C22F1/00 651Z
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
(21)【出願番号】P 2022511481
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2020015329
(87)【国際公開番号】W WO2021199428
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】507073859
【氏名又は名称】日軽エムシーアルミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】堀川 宏
(72)【発明者】
【氏名】深谷 勝己
(72)【発明者】
【氏名】多田 大介
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-189055(JP,A)
【文献】特開2004-269937(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108866396(CN,A)
【文献】特開2006-063420(JP,A)
【文献】特開平08-134577(JP,A)
【文献】特開2010-144253(JP,A)
【文献】特開平09-272957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
C22F 1/00
C22F 1/04-1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金の全体質量を基準として、
Si:
10質量%以上かつ
11質量%以下、
Fe:0.3質量%以上かつ1.0質量%以下、
Mg:0.15質量%以上かつ0.35質量%以下を含み、
残部がAlと不可避的不純物からなり、
アルミニウム合金の全体質量を基準として、
Sr:0.005質量%以上かつ0.040質量%以下、
Na:0.002質量%以上かつ0.020質量%以下、
K:0.002質量%以上かつ0.020質量%以下、
Be:0.005質量%以上かつ0.050質量%以下、
Ca:0.005質量%以上かつ0.050質量%以下、
Ba:0.005質量%以上かつ0.050質量%以下の群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含み、
([Na]/2+[K]/2+[Be]/5+[Ca]/5+[Sr]/5+[Ba]/5)/([P]/5)>3.5であ
ること、
を特徴とするダイカストアルミニウム合金。
【請求項2】
アルミニウム合金の全体質量を基準として、
Si:9.5質量%以上かつ12質量%以下、
Fe:0.3質量%以上かつ1.0質量%以下、
Mg:0.15質量%以上かつ0.35質量%以下を含み、
残部がAlと不可避的不純物からなり、
アルミニウム合金の全体質量を基準として、
Sr:0.005質量%以上かつ0.040質量%以下、
Na:0.002質量%以上かつ0.020質量%以下、
K:0.002質量%以上かつ0.020質量%以下、
Be:0.005質量%以上かつ0.050質量%以下、
Ca:0.005質量%以上かつ
0.020質量%以下、
Ba:0.005質量%以上かつ0.050質量%以下の群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含み、
([Na]/2+[K]/2+[Be]/5+[Ca]/5+[Sr]/5+[Ba]/5)/([P]/5)>3.5であ
ること、
を特徴とするダイカストアルミニウム合金。
【請求項3】
アルミニウム合金の全体質量を基準として、
Si:9.5質量%以上かつ12質量%以下、
Fe:0.3質量%以上かつ1.0質量%以下、
Mg:0.15質量%以上かつ0.35質量%以下を含み、
残部がAlと不可避的不純物からなり、
アルミニウム合金の全体質量を基準として、
Sr:0.005質量%以上かつ0.040質量%以下、
Na:0.002質量%以上かつ0.020質量%以下、
K:0.002質量%以上かつ0.020質量%以下、
Be:0.005質量%以上かつ0.050質量%以下、
Ca:0.005質量%以上かつ0.050質量%以下、
Ba:0.005質量%以上かつ0.050質量%以下の群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含み、
([Na]/2+[K]/2+[Be]/5+[Ca]/5+[Sr]/5+[Ba]/5)/([P]/5)>3.5であり、
ヒートシンク又は放熱性を必要とする器具もしくは容器に用いられること、
を特徴とするダイカストアルミニウム合金。
【請求項4】
Mn、Ti及びZrのいずれも含まないこと、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載のダイカストアルミニウム合金。
【請求項5】
前記Feの含有量が0.4質量%以上かつ0.8質量%以下であること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載のダイカストアルミニウム合金。
【請求項6】
前記Mgの含有量が0.2質量%以上かつ0.3質量%以下であること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載のダイカストアルミニウム合金。
【請求項7】
前記Srの含有量が0.010質量%以上かつ0.030質量%以下であること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載のダイカストアルミニウム合金。
【請求項8】
請求項1~3のうちのいずれか1項に記載のダイカストアルミニウム合金からなり、
耐力が130MPa以上であり、
熱伝導率が170W/m・K以上であること、
を特徴とするアルミニウム合金ダイカスト材。
【請求項9】
前記耐力が140MPa以上であり、前記熱伝導率が180W/m・K以上であること、
を特徴とする請求項8に記載のアルミニウム合金ダイカスト材。
【請求項10】
伸びが5%以上であること、
を特徴とする請求項8に記載のアルミニウム合金ダイカスト材。
【請求項11】
請求項1~3のうちのいずれか1項に記載のアルミニウム合金をダイカスト法によって成形し、
100℃/秒以上の冷却速度で200℃以下の温度まで冷却した後、
溶体化処理を行わずに、200~240℃で1~6時間の条件において時効処理を行うこと、
を特徴とするアルミニウム合金ダイカスト材の製造方法。
【請求項12】
前記時効処理の条件が200~220℃で4~6時間であること、
を特徴とする請求項11に記載のアルミニウム合金ダイカスト材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金材料の技術分野に属し、熱伝導性及び鋳造性に優れたダイカストアルミニウム合金に関するものであり、特に大型ヒートシンクならびに放熱性を必要とする器具・容器用のダイカストアルミニウム合金、アルミニウム合金ダイカスト材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の電動化や電機・電子機器の高性能化、また通信速度向上が求められおり、それらの実現のため多くの半導体やモータが使用されている。半導体やモータの能力を上げることで発生する熱量は増加するが、これらの性能を保証するためには発生する熱を除去する必要がある。そのために、ヒートシンクや容器自体の熱伝導性の向上が望まれている。特に5G基地局の建設に伴い、通信設備の基地局施設用ヒートシンクの生産量が増加している。基地局施設用ヒートシンクの生産には、電気及び熱を伝導しやすく、大型成形が可能なアルミニウム合金の提供が必要とされている。
【0003】
これに対し、特許文献1には、Siを13wt%以上80wt%以下含有し、低熱膨張でありかつ高熱伝導率を有するAl-Si合金が開示されている。低熱膨張の材料を得るためには、Siを多量に含有する組成が必要であるが、Siの含有量が多くなると融点が上昇するため、鋳造困難とされていた。そのため、特許文献1では当該合金を300~800K/secの速度で急冷し、ダイカストしている。
【0004】
また、特許文献2には、Si:4.0~14.0wt%、Fe:0.2~1.0wt%を含み、熱伝導性に優れたヒートシンク用アルミニウム合金材料が開示されている。合金中のSi量を増加させると熱伝導率が低下するため、当該問題を解決するために、特許文献2では合金中の成分の含有量が最適化されている。しかし、特許文献2の表1に示された発明例には、Si含有量が6.0、9.0、13.0wt%の発明例だけが開示されており、Siの含有量はそれ以上最適化されていない。したがって、ヒートシンク用アルミニウム合金材料の熱伝導性及び鋳造性には、依然として改善の余地がある。
【0005】
更に、特許文献3には、8mass%(以下%)<Si<11%、0.2%<Mg<0.3%、0.3%<Fe<0.7%、0.15%<Mn<0.35%、1<Fe+Mn×2、0.005%<Sr<0.020%、Cu<0.2%、Zn<0.2%を含有するアルミニウム合金部材が開示されている。当該合金部材は、鋳造後、200℃<T<250℃で0.1~1時間保持され、室温における引張耐力は200MPa以上であるが、熱伝導率は145W/m・K以上に過ぎない。従って、その熱伝導性には依然として改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-288526号公報
【文献】特開2002-105571号公報
【文献】特開2013-204087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、熱伝導性及び鋳造性により優れた、大型ヒートシンクならびに放熱性を必要とする器具・容器用のダイカストアルミニウム合金、アルミニウム合金ダイカスト材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルミニウム合金の全体質量を基準として、Si:9.5質量%以上かつ12質量%以下、 Fe:0.3質量%以上かつ1.0質量%以下、Mg:0.15質量%以上かつ0.35質量%以下を含み、残部がAlと不可避的不純物からなること、を特徴とするダイカストアルミニウム合金に関するものである。
【0009】
本発明のダイカストアルミニウム合金は、アルミニウム合金の全体質量を基準として、
Sr:0.005質量%以上かつ0.040質量%以下、
Na:0.002質量%以上かつ0.020質量%以下、
K:0.002質量%以上かつ0.020質量%以下、
Be:0.005質量%以上かつ0.050質量%以下、
Ca:0.005質量%以上かつ0.050質量%以下、
Ba:0.005質量%以上かつ0.050質量%以下の群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含み、
([Na]/2+[K]/2+[Be]/5+[Ca]/5+[Sr]/5+[Ba]/5)/([P]/5)>3.5であること、が好ましい。
【0010】
また、本発明のダイカストアルミニウム合金は、Mn、Ti及びZrのいずれをも含まないことが好ましい。
【0011】
好ましい実施形態において、本発明のダイカストアルミニウム合金は、Siの含有量が10質量%以上かつ11質量%以下であり、Feの含有量が0.4質量%以上かつ0.8質量%以下であり、Mgの含有量が0.2質量%以上かつ0.3質量%以下であり、Srの含有量が0.010質量%以上かつ0.030質量%以下またはCaの含有量が0.005質量%以上かつ0.020質量%以下である。
【0012】
具体的な実施形態において、本発明のダイカストアルミニウム合金は、ヒートシンクならびに放熱性を必要とする器具・容器用であり、特に大型ヒートシンクに用いることが可能である。
【0013】
また、本発明は、本発明のダイカストアルミニウム合金で構成されたアルミニウム合金ダイカスト材を提供する。本発明のアルミニウム合金ダイカスト材は、耐力が130MPa以上であり、熱伝導率が170W/m・K以上であり、好ましくは耐力が140MPa以上であり、熱伝導率が180W/m・K以上であり、伸びが5%以上である。
【0014】
具体的な実施形態において、本発明のアルミニウム合金ダイカスト材は、ヒートシンクならびに放熱性を必要とする器具・容器用である。
【0015】
また、本発明は、ダイカスト法によって本発明のアルミニウム合金を成形し、100℃/秒以上の冷却速度で200℃以下の温度まで冷却した後、溶体化処理を行わずに、200~240℃で1~6時間の条件において時効処理を行うアルミニウムダイカスト材の製造方法も提供する。
【0016】
好ましい実施形態において、時効処理の条件は、200~220℃で4~6時間である。
【0017】
更に、本発明は、本発明のダイカストアルミニウム合金で構成され、又は本発明のアルミニウム合金ダイカスト材の製造方法で製造されたヒートシンクならびに放熱性を必要とする器具・容器も提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の提供するダイカストアルミニウム合金、又は本発明の製造方法で製造されたアルミニウム合金ダイカスト材は、より優れた熱伝導性及び鋳造性を有し、熱伝導性及び鋳造性により優れた大型ヒートシンクならびに放熱性を必要とする器具・容器の製造に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明のダイカストアルミニウム合金のミクロ組織を示す顕微鏡写真(2000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のダイカストアルミニウム合金、アルミニウム合金ダイカスト材及びその製造方法についての代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。また、本発明において、ある元素を含まないことは、意図的にある元素を加えないことを指し、不純物として含む場合を排除しない。また、含有量の範囲である「A~B」、「A以上B以下」は、いずれもA及びB自身に示される含有量も含むことを示す。
【0021】
1.ダイカストアルミニウム合金
本発明のダイカストアルミニウム合金は、アルミニウム合金の全体質量を基準として、Si:9.5質量%以上かつ12質量%以下、Fe:0.3質量%以上かつ1.0質量%以下、Mg:0.15質量%以上かつ0.35質量%以下を含み、残部がAlと不可避的不純物からなっている。以下、各成分について詳細に説明する。
【0022】
(1)必須の添加元素
Si:9.5~12質量%
Siは鋳造性を向上させる作用を有する。ヒートシンクや大型容器のような複雑な形状や薄肉部を有するものを鋳造する場合は、鋳造性の観点から合金にSiを9.5質量%以上添加することが必要になる。Siは、また、鋳物の機械的強度、耐摩耗性、防振性を向上させる作用を有する。しかし、Siの増加に伴って合金の熱伝導率と伸展性が低下し、Siの量が12質量%以上を超えると、熱伝導率は大幅に低下し、ヒートシンクならびに放熱性を必要とする器具・容器としての所望の放熱特性を満たすことができず、切削性も悪くなるので、12質量%以下であることが望ましい。従って、Siの含有量は9.5質量%以上かつ12質量%以下であり、好ましくは10質量%以上かつ11質量%以下であり、さらに好ましくは10.5質量%以上かつ11質量%以下である。
【0023】
Fe:0.3~1.0質量%
Feはアルミニウム合金の機械的強度を向上させると共に、ダイカスト法で鋳造する場合には、金型の焼き付きを防止する作用がある。この効果は、Feが0.3質量%以上含まれると顕著になる。しかし、Feを1.0質量%以上添加しても、その効果がより向上することを望むことができない。また、Feの増加に伴って熱伝導率と伸展性が低下する。従って、Feの含有量は0.3質量%以上かつ1.0質量%以下であり、好ましくは0.4質量%以上かつ0.8質量%以下であり、さらに好ましくは0.6質量%以上かつ0.7質量%以下である。
【0024】
Mg:0.15~0.35質量%
Mgは、時効処理の際に、母相中のSiとMg-Si系化合物を形成して析出し、母相中のSi固溶量を低下させ、熱伝導率が向上する。さらに、Mgの添加によって機械的強度が向上する。この効果は、 Mgを0.15質量%以上とすることで顕著になるが、一方でMgを0.35質量%以上添加すると熱伝導率が顕著に低下する。従って、Mgの含有量は0.15質量%以上かつ0.35質量%以下であり、好ましくは0.2質量%以上かつ0.3質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以上かつ0.25質量%以下である。
【0025】
(2)任意の添加元素
Sr:0.005~0.040質量%
Srは、共晶Siに対する改良効果を有し、熱伝導率を向上させる元素である。また、時効熱処理時に機械的性質が向上する。このとき、鋳物の要求特性によっては熱処理を不要としてもよい。しかし、0.04質量%を超えて含有すると、溶湯の脱ガス能が低下する上に脆いAl-Sr系化合物が形成されて靱性が低下するため、0.040質量%以下とする。Srの含有量は、0.005質量%以上かつ0.040質量%以下であり、好ましくは0.010質量%以上かつ0.030質量%以下であり、さらに好ましくは0.010質量%以上かつ0.020質量%以下である。
【0026】
Na:0.002~0.020質量%
Naは、共晶Siに対する改良效果を有し、熱伝導率を向上させる元素である。特に、Naは、合金中の含有量が0.002質量%以上かつ0.020質量%以下であり、好ましくは0.002質量%以上かつ0.010質量%以下であり、さらに好ましくは0.005質量%以上かつ0.010質量%以下であるとき、上記効果をよりよく発揮することができる。
【0027】
K:0.002~0.020質量%
Kは、共晶Siに対する改良效果を有し、熱伝導率を向上させる元素である。特に、Kは、合金中の含有量が0.002質量%以上かつ0.020質量%以下であり、好ましくは0.002質量%以上かつ0.010質量%以下であり、さらに好ましくは0.005質量%以上かつ0.010質量%以下であるとき、上記効果をよりよく発揮することができる。
【0028】
Be:0.005~0.050質量%
Beは、共晶Siに対する改良效果を有し、熱伝導率を向上させる元素である。特に、Beは、合金中の含有量が0.002質量%以上かつ0.050質量%以下であり、好ましくは0.005質量%以上かつ0.050質量%以下であり、さらに好ましくは0.005質量%以上かつ0.010質量%以下であるとき、上記効果をよりよく発揮することができる。
【0029】
Ca:0.005~0.050質量%
Caは、共晶Siに対する改良效果を有し、熱伝導率を向上させる元素である。特に、Caは、合金中の含有量が0.002質量%以上かつ0.050質量%以下であり、好ましくは0.005質量%以上かつ0.050質量%以下であり、さらに好ましくは0.005質量%以上かつ0.020質量%以下であり、一層好ましくは0.010質量%以上かつ0.020質量%以下であるとき、上記効果をよりよく発揮することができる。
【0030】
Ba:0.005~0.050質量%
Baは共晶Siに対する改良效果を有し、熱伝導率を向上させる元素でもある。特に、Baは、合金中の含有量が0.002質量%以上かつ0.050質量%以下であり、好ましくは0.005質量%以上かつ0.050質量%以下であり、さらに好ましくは0.005質量%以上かつ0.010質量%以下であるとき、上記効果をよりよく発揮することができる。
【0031】
(3)微量元素の割合
上記Sr、Na、K、Be、Ca及びBaは、いずれも本発明のダイカストアルミニウム合金において必要に応じて添加される微量元素である。また、Pは、これらの元素の効果を阻害する元素である。他の元素とPとの含有量の割合を、([Na]/2+[K]/2+[Be]/5+[Ca]/5+[Sr]/5+[Ba]/5)/([P]/5)>3.5を満たすことにより、共晶Siを改良することでき、これによって、熱伝導率が向上する。当該割合は、好ましくは5より大きく、さらに好ましくは6より大きく、一層好ましくは7より大きい。当該割合が3.5より小さいと、上記効果は低下する。
【0032】
(4)不可避的不純物
本発明のダイカストアルミニウム合金は、上記合金成分の他、不可避的不純物も含んでも良いが、必要に応じて他の特性改善、たとえば、強度向上、耐食性改善などのために添加される成分を含んでも良い。この成分の例として、たとえば、Cu、Mo、Zn、Ni、Co、Mn、Zr、Cr、Ti、Sn、Inなどが挙げられるが、これらの成分は熱伝導率を低下させる恐れがあるので、不可避的不純物の含有量を総量として0.15質量%以下とする必要がある。
【0033】
2.アルミニウム合金ダイカスト材の製造方法
以下、本発明のアルミニウム合金ダイカスト材の製造方法に関して、特徴的な内容について詳細に説明する。
【0034】
(1)溶体化処理
480~540℃で1~10時間の溶体化処理を施し、その後に焼入れを行う。このような条件で溶体化処理を行うことによって、鋳造組織に見られるミクロ・マクロ的な偏析を緩和して熱伝導特性や機械的強度に関するばらつきを減少させ、母相中のMg-Si系析出物の溶体化を促進し、Fe等の遷移元素の過飽和固溶分を析出させて熱伝導率を向上させ、さらに、Si粒子を球状化して伸展性を向上させて塑性加工性を向上させることができる。
【0035】
処理温度が480℃未満、あるいは、保持時間が1時間未満では上記の効果が不十分であるが、逆に540℃を超える、あるいは、10時間を超えて保持すると局部溶融が発生して強度が低下する可能性が高まる。溶体化処理の効果をより一層得るためには、処理温度を500℃より高温にするのが好ましい。
【0036】
溶体化処理を行うと、強度、熱伝導、伸び等の特性は改善されるが、一般の高速高圧ダイカスト工程においては、空気または潤滑剤や離型剤から発生したガスが鋳造材内に巻き込まれることがある。その場合、ダイカスト後に溶体化処理を行うと、フクレ(気泡)又はゆがみが発生する。従って、通常は、高速高圧ダイカスト後に、溶体化処理を行わない。溶体化処理を行わない場合は、鋳造後200℃までは、冷却速度100℃/秒以上で冷却することが好ましい。
【0037】
(2)時効処理
200~240℃で1~6時間の時効処理を施す。当該時効処理によって、母相中に固溶しているSiとMgを、Mg-Si系化合物として析出させ、母相中に固溶しているSiとMgの量を減少させることによって合金の熱伝導率を向上させることができる。また、析出したMg-Si系化合物は合金の機械的強度を向上させる。時効条件が200℃未満又は1時間未満では、Mg-Si系化合物の析出量が比較的少ないため、熱伝導率の向上が小さい。逆に、240℃や6時間を超えると過時効になり、強度が低下する。熱処理の条件は、工業生産上の制約を考慮して選択することができるが、熱伝導率と強度のバランスを考慮すると、200~240℃で1~6時間の範囲が望ましく、好ましくは200~240℃で2~6時間の範囲であり、さらに好ましくは200~220℃で4~6時間の範囲である。
【0038】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0039】
表1及び表2に示された組成を有する各種のアルミニウム合金を用意した。具体的には、760℃で溶解して溶融金属を得て、脱ガスおよび除滓処理を施したのちに微量成分を調整した。それを、各々鋳造温度750℃、金型温度180℃にて、350tonコールドチャンバーダイカストマシン(番号:TOYO Ds-350EX)にて110×110×3mmの板材を作製した。
【0040】
【0041】
【0042】
得られたダイカスト板に対してフロー型熱処理炉(型号:旭科学 H-60)によって200℃で4時間の時効処理を施した後、各種のテストピースを作製した。また、各テストピースに対して、下記の実験方法に基づいて各特性を測定した。得られた結果を表1及び表2に示す。
【0043】
[引張試験]
AMSLER型万能試験機(島津 100kN Autograph)によって日本工業規格JIS Z2241に基づいて、引張実験を施し、0.2%耐力及び伸びを測定した。
【0044】
[熱伝導率]
レーザーフラッシュ法によって、日本工業規格JIS R 1611-1997に基づいて、熱伝導率を測定した。
【0045】
[耐焼付性]
ダイカスト板のゲート部真上の鋳肌の状態により、耐焼付性を3段階で評価した。焼付いた場合を「×」、金型の変色などがある場合を「△」、鋳肌に異常がない場合を「○」とした。
【0046】
[鋳造性]
鋳造性としては、ゲート部近傍20mm(ゲート側)部とオーバーフロー部近傍20mm(半ゲート側)部との比重差から相対気孔率が1%以上違うものを不合格とし、「×」とした。相対気孔率が1%より小さい違うものを合格とし、「○」とした。
【0047】
具体的には、相対気孔率は、以下の3つの数式(1)~(3)によって求められる。式(1)によって、上記ゲート側の部分と上記半ゲート側の部分から取得した試料の比重を算出し、式(2)によって上記試料の気孔率を算出する。その標準比重、即ち、理論比重は、気孔(鋳巣)などの鋳造欠陥を有しない鋳物を鋳造した場合の、その鋳物の比重を指す。最後に、式(3)によって相対気孔率を算出する。
比重=空気中重量/(空気中重量-水中重量)×水の比重 (1)
気孔率=(標準比重-試料の比重)/ 試料の比重×100 (2)
相対気孔率=|ゲート側気孔率-半ゲート側気孔率| (3)
【0048】
合金組成及び評価結果を下記表1及び表2に示す。また、ミクロ組織を示す顕微鏡写真(撮影倍率2000倍)を
図1に示す。
【0049】
表1及び表2の空欄は、対応の元素が検出値以下であることを示す。具体的に言えば、Mn、Ti、Zrに対応する空欄は、Mn、Ti、Zrの含有量が各々0.01質量%未満であることを指す。Sr、Na、K、Be、Ca、Baに対応する空欄は、Sr、Na、K、Be、Ca、Baの含有量がそれぞれ0.0005質量%未満であることを指す。空欄の元素は意図的に添加されるものではないので、含まれる可能性が低い。なお、Pに対応する空欄において、Pの含有量は0.002質量%以下である。表1及び表2の「微量元素割合」は、([Na]/2+[K]/2+[Be]/5+[Ca]/5+[Sr]/5+[Ba]/5)/([P]/5)の値を指す。
【0050】
上記表1からわかるように、本発明の実施例1~12の0.2%耐力は、いずれも140MPa以上であり、熱伝導率はいずれも180W/m・K以上である。また、
図1の実施例6では、微細に改良された共晶Siが確認できる。
【0051】
これに対して、表2または
図1に示されているように、比較例1のSi含有量は7.0質量%と低いので、その鋳造性が悪い。比較例2のSi含有量は、9.0質量%であり、依然として本発明の範囲の下限値より小さいので、その鋳造性が悪い。
【0052】
比較例3のMg含有量は、0.1質量%と低いので、その0.2%耐力は140MPa未満である。比較例4のFe含有量は0.15質量%と低いので、その耐焼付性が悪い。比較例5は、Srを含む微量元素をいずれも含まず、微量元素の割合は0に近いので、その熱伝導率は180W/m・K 未満であり、伸びも5%未満である。
【0053】
比較例6のSi含有量は13.0質量%であり、高すぎるので、伸びも切削性も悪い。比較例7もSi含有量が13.5質量%と高すぎるので、粗大な共晶Siが晶出し、伸びも切削性も悪く、熱伝導率も180W/m・K未満である。
【0054】
比較例8のMg含有量は0.5質量%と高いので、熱伝導率は180W/m・K未満である。比較例9のFe含有量は、1.2質量%と高いので、熱伝導率は180W/m・K未満である。また、針状のAl-Fe-Si系化合物が晶出し、伸びも不十分である。
【0055】
比較例10は、Mnを0.2質量%含有し、比較例11は、Tiを0.2質量%含有し、比較例12は、Zrを0.2質量%含有するので、比較例10~12の熱伝導率は、ともに180W/m・Kより低い。
【0056】
比較例13は、微量元素割合が3.5より低いので、共晶Siは表1における実施例6より大きく、熱伝導率は180W/m・K未満であり、かつ伸びも不十分である。比較例14~18も、比較例13と同様に微量元素割合は、ともに3.5より低いので、その熱伝導率はともに180W/m・K未満であり、かつ伸びが不十分である。
【0057】
比較例19はJIS-ADC1合金と同等の組成である。Mgを含まず、また、Srを含む微量元素をいずれも含まないので、その0.2%耐力は140MPa未満であり、熱伝導率も180W/m・Kより低く、伸びは5%未満である。比較例20はJIS-ADC12合金と同等の組成である。Mgを含まずに、Cuを2.5質量%含有するので、その熱伝導率は105W/m・Kと低く、伸びも不十分である。
【0058】
表1における実施例6に示された組成からなる合金に対して、表3に示された各種条件の時効処理を行い、対応するテストピースに対して0.2%耐力及び熱伝導率を測定した。その結果を表3に示す。
【0059】
【0060】
表3からわかるように、200℃で4時間、200℃で6時間、220℃で4時間、220℃で6時間、240℃で1時間、240℃で2時間の場合、0.2%耐力は、ともに140MPa以上であり、熱伝導率はともに180W/m・K以上である。
【0061】
本発明の実施方案及び具体的実施例に対して詳細に説明したが、本発明は、上記の具体的な実施方案及び応用分野に限られない。上記の具体的な実施方案は、ただ概要的、指導的なものに過ぎず、本発明を制限するものではない。当業者は、本明細書の示唆に基づき、本発明の請求項の保護範囲を越えない限りにおいて、様々な実施方式を作ることができ、これらは、いずれも本発明の保護範囲に属する。