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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】拡張アンカー
(51)【国際特許分類】
   F16B 13/06 20060101AFI20240306BHJP
   F16B 35/04 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
F16B13/06 B
F16B35/04 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022516065
(86)(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2020074625
(87)【国際公開番号】W WO2021047995
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】201910864034.8
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Hilti Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Feldkircherstrasse 100,9494 Schaan,Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100123342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 承平
(72)【発明者】
【氏名】チュウ シャオロン
(72)【発明者】
【氏名】フ- シンダー
(72)【発明者】
【氏名】マーク シェッファ-
(72)【発明者】
【氏名】林 成
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-024949(JP,A)
【文献】国際公開第2008/022630(WO,A1)
【文献】特開昭60-263716(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02094919(GB,A)
【文献】特開平04-140506(JP,A)
【文献】特表2009-542998(JP,A)
【文献】特開昭51-083958(JP,A)
【文献】米国特許第04403734(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 35/04
F16B 13/00- 13/14
E04B 1/38- 1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトと、スペーサスリーブと、拡張可能スリーブと、拡張部材と、
前記拡張可能スリーブと前記スペーサスリーブとの間に配置されるとともに、リング状体の形状を有する、カラーと
を含み、
前記ボルトは、前記スペーサスリーブと、前記カラーと、前記拡張可能スリーブとに順番に挿入されるとともに、前記ボルトの先端部において円錐体にねじ接続され、それにより、前記拡張部材を前記拡張可能スリーブ内に引き込んで径方向に拡張し、
前記カラーは、異なる硬度を有する第1の材料及び第2の材料によって形成され、前記第1の材料の引張強度は40Mpa~100Mpaであり、前記第2の材料は軟質で、変形可能であり、そのショアA硬度は40~120であり、
前記第1の材料は前記カラーの内側部分として形成され、且つ前記第2の材料は前記カラーの外側部分として形成される、
ことを特徴とする拡張アンカー。
【請求項2】
前記第1の材料の前記硬度は、前記第2の材料の前記硬度よりも高い、請求項1に記載の拡張アンカー。
【請求項3】
前記カラーの前記内側部分はリング状体であり、且つ前記外側部分は前記内側部分の周囲を取り囲むように形成される、請求項2に記載の拡張アンカー。
【請求項4】
前記内側部分及び前記外側部分は2段成形によって一体に成形される、請求項2に記載の拡張アンカー。
【請求項5】
前記内側部分及び前記外側部分は、圧入又は接着剤によって一体に組み付けられる、請求項2に記載の拡張アンカー。
【請求項6】
前記外側部分は、前記内側部分の外面上に配置された楔形状の突起である、請求項1~5のいずれか一項に記載の拡張アンカー。
【請求項7】
前記外側部分は、前記内側部分の外面上に配置された三角形状の突起である、請求項1~5のいずれか一項に記載の拡張アンカー。
【請求項8】
前記外側部分は、前記内側部分の外面上に軸方向に延びるリブである、請求項1~5のいずれか一項に記載の拡張アンカー。
【請求項9】
前記第1の材料は、POM、PVC、又はABSであり、且つ前記第2の材料は、TPE、TPU、又はゴムである、請求項1~5のいずれか一項に記載の拡張アンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡張可能スリーブを有する留め具に関し、より詳細には、拡張アンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
拡張アンカーは、拡張によって保持力を与える、石工基材において使用されるように設計された留め具である。この種類の拡張アンカーは、詳細には、重量物をコンクリートなどの支持体に固定しなければならない用途に使用される。この用途には、大型機器などの取り付けが含まれる。コンクリートへの留め付けは、ねじ又はボルト及びナットを使用して2つの金属片を共締めするなどの他の留め付け用途と比較して独特である。コンクリートアンカーは、設置及び使用が極めて困難である。
【0003】
概して、拡張アンカーは、同じ基本原理で機能する。すなわち、特定のサイズの孔を開け、アンカーを挿入し、アンカーを孔から引き抜きにくくするために、アンカーを孔よりも大きく拡張させる。コンクリートアンカーは、コンクリート内の孔に挿入されて抜け出ないように設計される。
【0004】
典型的には、拡張アンカーは、ボルトと、スペーサスリーブと、カラー(首部)と、拡張可能スリーブと、拡張部材としての円錐体とを含む。ボルトは、スペーサスリーブと、カラーと、拡張可能スリーブとに順番に挿入されるとともに、ボルトの先端部において円錐体にねじ接続され、それにより、円錐体(拡張部材)をスリーブ内に引き込んでスリーブを径方向に拡張させる。
【0005】
カラーは、空回りを防止する収縮可能部として機能し、且つ予張力に等しい締付力を許容する一定の予張力下で破壊され得る。その上、収縮可能部はまた、アンカーの設置エネルギーに関係する。
【0006】
アンカーの頭部でのトルクの印加によって、円錐体が拡張可能スリーブ内に引き込まれる。次いで、これにより、スリーブがドリル孔の壁に抗して拡張する。カラー上のリブ又は突起は、トルクの印加時にスリーブ及び円錐体の回転を防止する。規定の設置トルクの印加によって、ボルトに張力が付与され、この張力は、留め付け中の構成要素を介して作用する、コンクリートにおける予圧縮力によって均衡が保たれる。カラーの変形によって、スペーサスリーブがワッシャに接触している場合のアンカースリーブにおける予圧縮力の蓄積が防止され、施工面と留め付け中の構成要素との間の隙間の閉塞が許容される。
【0007】
今日の頑丈なスリーブアンカーは、多くの場合、空回りを防止する収縮可能部を有し、且つ予張力に等しい締付力を許容する一定の予張力下で破壊され得る。その上、収縮可能部はまた、アンカーの設置エネルギーに関係する。世界中ではスリーブアンカー用に極めて多くの収縮可能部が存在するが、収縮可能部のほとんどが、1つの材料のみを使用して上記の3つの機能を果たし、その1つの材料は、3つの機能の完全なバランスをとるためにかなり制限される。
【0008】
特許文献1で説明されているように、スペーサスリーブ2と拡張可能スリーブ3との間の環状部材4は、2つのスリーブ2及び3と同じ外径を有する。この環状又はリング状部分4は、比較的軟質で、変形可能で、強靭で且つ壊れにくい材料からなる。このリングは、プラスチック材料などの、比較的軟質の変形可能な材料であるが、同時に強靭で且つ壊れにくい材料から作製される。拡張可能スリーブ3のカラー7とスペーサスリーブ2のカラー2’’との間に、図1による拡張アンカーの組立完了状態で配置された、このリング4は、以下で詳細に説明するように、拡張アンカーによって例えば壁に固定すべき対象物の平面取り付け用の高負荷用拡張アンカーの張力再調整をいつでも許容する。
【0009】
また、特許文献2で説明されているように、好ましくは、ワッシャ又はカラーは、E.P.D.Mなどの弾性エラストマー材料の成形中空体であるが、任意の形状であり、任意の非腐食性及び耐腐食性材料、例えば、弾性的に又はさもなければ十分に圧縮可能又は圧潰可能であるようにゴム、ネオプレンであり得る。例えば、カラーは、螺旋状の金属ばね又は金属メッシュのリングである可能性がある。図2で明らかなように、カラー5(E.P.D.M.などの非腐食性でもある好適な材料から作製される)は、スリーブ4とアンカー6との間に挟まれており、軸方向に圧縮された状態である。
【0010】
これまで、既存のカラー又は収縮可能部は、これらの3つの機能を果たすために1つの材料のみで作られていた。しかしながら、1つのみの材料は、その特性が限られているので、欠点がある。これらの3つの機能は、材料の異なる特性又は異なる範囲の同じ特性に関係する。例えば、収縮機能は、一定の圧力でのその部分の破壊を必要とし、この圧力は小さくなく、そのため、より軟質の材料を使用する場合には、その部分を一定の負荷では破壊することができないか、又はより高い負荷に対処するためにその部分の幾何学形状を変更する必要があるが、幾何学形状は、孔に結合するアンカーの予備空間にも制限される。そのため、機能を果たすために、より硬質の材料が必要となる。しかし、その一方で、より硬質の材料もまた、空回り及び設置機能に影響を及ぼす。空回り機能に関しては、設計のほとんどは、直径が穿孔よりも大きい部分の周囲にいくつかのリブ又は突起を有し且つ穿孔に対してより多くの接触面を得るので、リブ又は突起は、トルク付与中にアンカーが空回りするのを防止することができる。より硬質の材料を使用する場合には、直径が大きすぎて接触面が多すぎると、アンカーを穿孔内に事前に組み付けることはほとんどできず、材料がより硬質であることはより脆いことも意味するので、直径が小さすぎて接触面が少なすぎると、設置又は組み付け中に、穿孔の基材が、リブ又は突起を容易に削り、空回り防止機能をもたらさない可能性があるという理由から、接触面及び直径を慎重に設計する必要がある。そのため、より軟質で且つ延性のある材料が、空回り防止及び設置機能のために有利である。
【0011】
よって、上記の機能のバランスをとることでうまく機能するように、拡張可能スリーブを備えた改良された留め具を有することが有利であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】英国特許第2094919号明細書
【文献】英国特許第20190164号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
よって、本発明の主な目的は、収縮機能と空回り防止機能と設置機能の3つの機能の完全なバランスをとることができ、重量物にも使用できる、穿孔内に定着させるための拡張アンカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、一形態として、
拡張アンカーであって、
ボルトと、スペーサスリーブと、拡張可能スリーブと、拡張部材と、
スペーサスリーブと拡張可能スリーブとの間に配置されるとともに、リング状体の形状を有する、カラーと
を含み、
ボルトは、スペーサスリーブと、カラーと、拡張可能スリーブとに順番に挿入されるとともに、ボルトの先端部において拡張部材にねじ接続され、それにより、拡張部材を拡張可能スリーブ内に引き込んで径方向に拡張し、
前記カラーは、異なる硬度を有する第1の材料及び第2の材料によって形成される、
拡張アンカー
を提供する。
【0015】
好ましくは、第1の材料の引張強度は、40Mpa~100Mpaであり、且つ第2の材料のショアA硬度は、40~120である。好ましくは、第1の材料の引張強度は、60Mpa~70Mpaであり、且つ第2の材料のショアA硬度は、70~90である。
【0016】
別の形態では、本発明は、拡張アンカーを提供し、第1の材料はカラーの内側部分を形成し、且つ第2の材料はカラーの外側部分を形成する。第1の材料及び第2の材料は、2段成形によって一体に成形される。
【0017】
更に別の形態では、第1の材料は、内側リング体として成形され、且つ第2の材料は、リブ又は突起としてリング体の外面上に成形される。
【0018】
更に別の形態では、本発明は、拡張アンカーであって、第1の材料は内側リング体を形成し、且つ第2の材料は、外面上に突起を備えた外側リングを形成し、外側リングの内径は、内側リング体の外径に実質的に等しく、且つ外側リング体は、圧入によって又は接着剤によって内側リング体に組み付けられる、拡張アンカーを提供する。
【0019】
好ましくは、外面上のリブ又は突起は、楔形状を有する。
【0020】
本発明による拡張アンカーは、異なる硬度を有する2つの材料、すなわち、収縮機能を維持するためにより硬質の材料を有する内側部分と、その一方で、空回り防止機能及び設置機能を維持するためにより軟質の材料を有する外側部分とによって形成されると都合がよい。より硬質の材料によって形成された内側部分は、十分な一定の高いトルクに達するまで壊れない。外側部分のより軟質の材料は、穿孔に挿入して穿孔の内面に接触させたときに変形するように、より良好な弾性及び可撓性を有する。それゆえ、より軟質のリブ又は突起は、トルク付与中にアンカーが空回りするのを非常に良好に防止することができる。また、より軟質の外側部分又は突起として、アンカーを穿孔内に容易に設置し、穿孔の基材によって突起が削られて空回り防止機能がなくなるリスクを低減することができる。
【0021】
本発明は、その目的及び利点と併せて、添付の図面と併せて以下の好ましい実施例の説明を参照することにより最もよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例による、拡張可能スリーブを有する拡張アンカーの概略斜視図である。
図2a】本発明の実施例による、拡張アンカーのカラーの概略図である。
図2b】本発明の実施例による、図2aの拡張アンカーのカラーの断面図である。
図3a】本発明の他の実施例による、拡張アンカーのカラーの概略図である。
図3b】本発明の他の実施例による、図3aの拡張アンカーのカラーの断面図である。
図4a】本発明の別の実施例による、拡張アンカーのカラーの概略図である。
図4b】本発明の別の実施例による、図4aの拡張アンカーのカラーの断面図である。
図5a】本発明の更に別の実施例による、拡張アンカーのカラーの概略図である。
図5b】本発明の更に別の実施例による、図5aの拡張アンカーのカラーの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付の図面に関連して以下に述べる詳細な説明は、本発明の現在好ましい実施例の説明を意図しており、本発明が実施され得る唯一の形態を示すことを意図していない。同一又は同等の機能が、本発明の範囲及び趣旨に包含されることを意図した様々な実施例によって実現され得ることを理解すべきである。図面では、全体を通して、類似の数字が類似の部材を示すために使用されている。更には、用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、又はそれらの他の任意の変化形は非排他的な包含を意図しており、それにより、部材又はステップのリストを含むモジュール、回路、装置構成要素、構造及び方法ステップが、これらの部材のみを含むわけではなく、明示的に列挙されていない、又はそのようなモジュール、回路、装置構成要素、若しくはステップに本質的ではない、他の部材又はステップを含み得る。「~を含む(comprises...a)」を伴う部材又はステップは、更なる制約なしで、その部材又はステップを含む追加の同一の部材又はステップの存在を排除しない。
【0024】
ここで図1を参照すると、本発明の実施例による拡張アンカー10の概略組立斜視図が示されている。拡張アンカーは、ボルト1と、ワッシャ2と、スペーサスリーブ3と、カラー(首部)4と、拡張可能スリーブ5と、拡張部材6とからなる。ボルト1とスペーサスリーブ3と拡張可能スリーブ5は全て、軸方向に延びる。カラー4を除く拡張アンカーの全ての部分は、金属、好ましくは鋼で作製される。
【0025】
ボルト1は、スペーサスリーブ3と、カラー4と、拡張可能スリーブ5とに順番に挿入されるとともに、ボルト1の先端部11において拡張部材6にねじ接続される。先端部11には、拡張部材6の通路孔内に配置された内側雌ねじを用いてねじ接続できる外側雄ねじが設けられる。ボルト1は、部材を留め付けるための設置端部又は先端部11と反対側の後端部12に六角頭部8及びワッシャ2を有する。当技術分野では、様々な種類の拡張アンカーが使用される。図2は、当接手段が、アンカーロッド上に配置されるとともに、異なる用途向けに、トルクの印加を可能にするような形状、例えば、六角頭部又は皿頭部とされる、拡張アンカーのいくつかの代替例を図示している。確かに、トルクを印加するために使用されるねじロッドへの任意の種類の当接部を本明細書で使用することができ、この当接部は、特別な専門用語又は用語の選択によって限定されるものではない。個々の特徴、これらに関係する方法若しくは機能、又はこれらの組み合わせは、特許性のある発明であり得る。
【0026】
図1に示すように、拡張アンカーを使用して対象物30がコンクリート上に固定されるときに、通常まず必要な孔の深さを最小限に抑えるために正確な直径のメトリックビットを使用して穿孔20を開け、次いで、吹出バルブ又は圧縮空気を用いて穿孔屑を除去する。次に、ハンマーを使用して、ワッシャ2が被留め付け物30に接触するまでアンカーを対象物30に貫通させてドリル孔内に打ち込む。最終的に、トルクレンチを使用して、規定の設置トルクを印加する。軽負荷用拡張アンカーには、トルクレンチを使用する必要のないものもある。
【0027】
円錐状先細り構成の拡張部材6には、ボルト1の先端部11のねじ山が噛み合うことができるように内側にねじ山が切られた内孔が設けられる。例えば、拡張部材6は、円錐体として形成することができる。ボルトを回転させると、拡張部材6が先端部11から後端部12に向かう方向に拡張可能スリーブ5内に深く引き込まれることは明らかであろう。これにより、拡張可能スリーブ5が配置される穿孔が内部に形成された壁の周囲材料と係合する拡張可能スリーブ5の径方向の拡張がもたらされる。この径方向の拡張を容易にするために、拡張可能スリーブ5には、その周囲にわたって分配配置される長手方向スロット7が設けられ得る。
【0028】
図2a及び図2bは、本発明によるカラー4を示している。カラー4は、少なくとも2つの好適な材料からなるリング状体として設計され、スペーサスリーブ3と拡張可能スリーブ5との間に挟まれ、且つ軸方向に圧縮される。以下に詳細に説明するように、カラー4を形成するために非腐食性でもある材料は、1つの強靭で且つ壊れにくい第1の材料、例えば、POM樹脂、ABS、PA、PCを含むが、同時に、弾性プラスチック材料、TPE、又はゴムなどの、比較的軟質の変形可能な第2の材料を含むものとする。ねじ付きロッド1の直径に対するカラー4の相対寸法は、特に有利であると考えられる。好ましくは、スペーサスリーブ2と拡張可能スリーブ3との間の環状カラー4は、2つのスリーブ2及び3と同じ外径を有する。
【0029】
本発明の1つの好ましい実施例では、カラー4は、リング状体として設計される。図2a及び図2bに示すように、カラー4のリング状体は、第1の硬質材料によって形成された内側部分41と、第2の軟質材料によって形成された外側部分42とを含む。第1の材料の引張強度は、40Mpa~100Mpaであり、且つ第2の材料のショアA硬度は、40~120である。好ましくは、第1の材料の引張強度は、60Mpa~70Mpaであり、且つ第2の材料のショアA硬度は、70~90である。
【0030】
好ましくは、第1の材料及び第2の材料は、2段成形によって一体に成形され、第1の材料は、段付きリングとして内側部分41内に成形され、且つ第2の材料は、リブ又は突起43として内側部分41の外面上に成形される。上側段部の外径は、内側部分41の下側段部の外径よりも僅かに小さい。カラー4の内側部分41は、より硬度の高いリングとすることができ、その一方で、外側部分42は、リング形状の内側部分41の周方向外面上の複数のリブ又は突起43とすることができる。突起43は、図2aに示すように楔形状として設計することができる。
【0031】
代替的に、外側部分42は、いくつかのリブ又は保護部43を備えたリングとして設計することもできる。例えば、図3a及び図3bに示すように、突起43は、三角形状で設計することができる。この突起43は、より設置エネルギーと空回り防止とのバランスをとることができ、簡単な設置能力を得るために、下側部分では、小さな外径と、より少ない接触面とを有し、連続的に増大する外径及び接触面によって、端部において、依然として空回り防止機能が得られる。
【0032】
別の実施例では、図4a及び図4bに示すように、外側部分は、最も安定した空回り防止機能を有するように最も多い接触面を有する、リング状の内側部分41に沿って軸方向に延びるリブ44として設計することができる。
【0033】
更に別の実施例では、外側部分42は、螺旋形状を有するものとすることができる。外側部分の螺旋形状は、リブ又は突起としての外側部分と比較して、少ない設置エネルギーと、多くの接触面とを必要とする。
【0034】
更に別の実施例では、外側リングの内径は、内側リング体の外径に実質的に等しく、且つ外側リング体は、圧入によって又は接着剤によって内側部分41に組み付けられる。
【0035】
ここで、例えば、用意された穿孔20内に延びる段階では、ねじ回しの助けによって拡張アンカー10を回転させた場合に、円錐状の拡張部材6が拡張可能スリーブ5内に引き込まれる。この結果、拡張可能スリーブ5は、受け入れ穿孔20の円筒面に抗して作用して、拡張アンカー10をコンクリート内に保持する。次いで、ねじ回しの助けによって拡張アンカー10を回転させることが、穿孔20内の拡張アンカー10の確実な着座に達するまで続けられ得る。円錐状の拡張部材6が、穿孔20の直径によって許容される限りにおいて、拡張可能スリーブ5内に引き込まれたときに、この確実な着座に達する。次いで、拡張可能スリーブ3のセグメント9は、円錐状の拡張部材6によってセグメント9の外面の大部分が穿孔20の壁に確実に押し当てられる。コンクリート、例えば壁、天井、又は床に固定すべき対象物30を、更に、穿孔20内に確実に着座するように拡張アンカーの位置において、ロッド1又はその他に対して緩く滑らせる。
【0036】
図1に示すような穿孔20内の拡張アンカーのこの取り付け段階では、まだカラー4に圧力が加わっていない。しかしながら、拡張アンカーが穿孔に挿入されたときに、穿孔の直径があまり完全ではない、例えば、直径が若干小さい場合に、突起が十分に弾性又は可撓性を有しなければ、カラーのリブ又は突起43が削られるリスクがある。カラー4の外側部分42を形成する軟質材料は、非常に有利には、設置機能を改善し、事前の組み付けが容易である。
【0037】
図1図5を参照すると、取り付けプロセス中に、ねじ付き頭部8を締め付けることによって、カラー4は、拡張可能スリーブ3とスペーサスリーブ2との間で圧縮され、この過程で、穿孔20内での拡張可能スリーブ3の確実な着座に加えて、拡張アンカーが、変形したカラー4の箇所で穿孔20内に依然として支持されるように、カラー4の周縁が穿孔20の壁に抗して当接する程度まで変形される。このように、軟質の外側部分42は、穿孔20の円筒面に接触し得、突起43は、穿孔の内面に抗して作用し、外側部分の材料は弾性又は延性を有するので、カラー4と穿孔2の内面との摩擦が増大し、それゆえ、外側部分42は、拡張アンカーの空回りを防止することができる。拡張アンカーは、穿孔20内での確実な着座の箇所(円錐状の拡張部材5及び拡張可能スリーブ3のセグメント9)の周囲で傾斜することが防止され、さもなければ、長期的には穿孔20内での確実な着座に緩みが生じ得る。
【0038】
所定の定着値を達成した後にねじ付きロッド1に更なるトルクが印加された場合には、カラー4は、初期変形力に打ち勝った後に、カラー4の軸方向長さが変形し、収縮することさえある。頭部8にトルクが作用し続けて、初期変形力を超えた時点で、カラー4の内側部分41が破壊され、その結果、カラーが軸方向に短くなり得る。したがって、拡張アンカー10の更なる締め付けによって、頭部側へのアンカーの移動なしに又は移動を最小限に抑えてロッドに張力が付与されるようにカラー4の軸方向の圧縮が生じ、それにより、コンクリートへの損傷を最小限に抑える。
【0039】
別の実施例では、好ましくは、カラーの内側部分41は、図4の断面図に示すように、段付きリング状体である。内側部分41は、個々の直径領域又は部分43及び44からなる。上側部43は、下側部44よりも小さく、外側部分42は、上側部43に覆われるか又は囲まれる。外側部分の外径は、内側部分41の下側部44の外径よりも僅かに大きなものとすることができる。好ましくは、外側部分は、2段成形によって内側部分上に直接成形することができ、それゆえ、カラーは、2つの材料によって単一体として作製される。このカラーは、製造の際に有利であろう。代替的に、内側部分41及び外側部分は、個々に、接着剤接続によって又は圧入によって接続することができる。
【0040】
一定の限度内で変形可能又は収縮可能であるカラー4の材料からなり、用意された穿孔20内の高負荷用拡張アンカーの確実な着座に達するまで、最適な拡張量が得られる。穿孔20内での拡張アンカーの滑りによって生じる可能性のある傾斜モーメントは、固定すべき対象物30への負荷の作用時に変形したカラー4が穿孔の壁に接触する箇所に追加の支持体を提供することによって回避される。
【0041】
カラー4の機能は、拡張可能スリーブが孔の円筒面に押し付けられるまでの拡張可能スリーブの初期拡開中に、カラー4の軸方向長さを実質的に維持してアンカーが回転するのを抑制するのに十分な耐圧縮性を提供し、その後、張力が付与されるねじ付きロッドによって圧縮力が増大すると、必要に応じて、降伏するものである。したがって、場合により、様々な他の形状のカラー及びカラー状構造が使用され得る。例えば、カラー4は、略円筒形に形成された有孔金属又は硬質プラスチックの内側部分41、又は内側部分41を覆うより軟質又は可撓性の金属又はプラスチックの外側部分を含む。
【0042】
本発明の好ましい実施例の説明を図解及び説明のために提示してきたが、網羅的であること、又は本発明を開示された形に限定することを意図するものではない。当業者であれば、本発明の広義な発明概念から逸脱することなく、上記で説明した実施例を変更できることが分かるであろう。それゆえ、本発明は開示された特定の実施例に限定されないが、添付の特許請求の範囲によって規定されるような本発明の趣旨及び範囲内にある修正形態を包含すると理解されている。

図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5a
図5b