(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ガス処理方法、保管庫、インキュベータ、滅菌器
(51)【国際特許分類】
A61L 9/20 20060101AFI20240307BHJP
A61L 2/20 20060101ALI20240307BHJP
A61L 9/00 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
A61L9/20
A61L2/20 104
A61L2/20 102
A61L9/00 C
(21)【出願番号】P 2019234723
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敬祐
【審査官】本間 友孝
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-238123(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131124(WO,A1)
【文献】特開2006-333954(JP,A)
【文献】特開2000-166536(JP,A)
【文献】特開平03-073152(JP,A)
【文献】中国実用新案第201598282(CN,U)
【文献】中国実用新案第203034022(CN,U)
【文献】特開2004-195367(JP,A)
【文献】特開2014-237090(JP,A)
【文献】特開2018-117689(JP,A)
【文献】特開2020-188897(JP,A)
【文献】特表2017-531525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00- 9/20、2/20、
B01J 19/12、
B01D 53/00-53/96、
C12M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療器具、又は微生物が収容された閉塞空間内に存在する、
前記医療器具を滅菌処理するための薬剤、又は前記微生物由来のVOCに属する処理対象物質が空気に混在してなるガスを処理する、空間内のガス処理方法であって、
前記閉塞空間内の前記ガスを、真空紫外光を出射可能なエキシマランプを含むガス処理装置内に取り込む工程(a)と、
前記ガス処理装置内で、前記ガスに対して前記エキシマランプからの前記真空紫外光を照射してラジカルを生成し前記処理対象物質を分解する工程(b)と、
前記工程(b)が実行された処理後の前記ガスを、オゾン分解フィルタを介して前記閉塞空間内に排出する工程(c)とを有することを特徴とする、空間内のガス処理方法。
【請求項2】
前記ガス処理装置は、
前記エキシマランプを収容する筐体と、
前記筐体内に前記ガスを導入するガス導入口と、
前記エキシマランプから出射した前記真空紫外光が照射された前記ガスを前記筐体外の前記閉塞空間内に排出するガス排出口と、
前記筐体内において、前記エキシマランプと前記ガス排出口との間に配置された前記オゾン分解フィルタを備えることを特徴とする、請求項1に記載の、空間内のガス処理方法。
【請求項3】
前記筐体は、前記ガス導入口側の開口断面積と比較して、前記真空紫外光が照射される空間内の流路断面積が小さいことを特徴とする、請求項2に記載の、空間内のガス処理方法。
【請求項4】
前記ガス処理装置は、ファンと、前記ファン及び前記エキシマランプの駆動を行う電源部とを備え、
前記工程(a)は、前記ファンによって前記閉塞空間内の前記ガスを前記ガス処理装置内に取り込む工程であり、
前記工程(c)によって前記ガス処理装置から前記閉塞空間内に排出された前記ガスが、再び前記工程(a)によって前記閉塞空間内に取り込まれることで、前記工程(a)~(c)が繰り返し実行されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の、空間内のガス処理方法。
【請求項5】
前記処理対象物質が、エチレンオキサイド、及びアルデヒド類からなる群の少なくともいずれか一を含む物質であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の、空間内のガス処理方法。
【請求項6】
前記エキシマランプは、Xeを含む発光ガスが封入された発光管を有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の、空間内のガス処理方法。
【請求項7】
前記ガス処理装置は、前記閉塞空間内に設置され、
前記閉塞空間内における前記ガス処理装置の設置位置を変更しながら、前記工程(a)~(c)が実行されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の、空間内のガス処理方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の、空間内のガス処理方法を利用した、保管庫であって、
前記処理対象物質が付着した保管対象物が保管される、前記閉塞空間としての保管空間と、
前記保管空間内に設置された前記ガス処理装置とを備えたことを特徴とする、保管庫。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の、空間内のガス処理方法を利用した、インキュベータであって、
前記処理対象物質を外部に放出する培地を含む培養容器が収容される、前記閉塞空間としての培養室と、
前記培養室内に設置された前記ガス処理装置とを備えたことを特徴とする、インキュベータ。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載の、空間内のガス処理方法を利用した、滅菌器であって、
滅菌対象物が設置される、前記閉塞空間としての滅菌空間と、
前記滅菌空間内に前記処理対象物質を含む滅菌用ガスを導入する滅菌用ガス導入口と、
前記滅菌空間の外側に設置された前記ガス処理装置と、
前記ガス処理装置の一部箇所と前記滅菌空間とを連絡する、ガス導入用通気路と、
前記ガス処理装置の別の一部箇所と前記滅菌空間とを連絡する、ガス排出用通気路とを備えたことを特徴とする、滅菌器。
【請求項11】
前記ガス導入用通気路及び前記ガス排出用通気路の少なくとも一方に配置され、前記滅菌空間内の前記ガスの、前記ガス処理装置への流入可否調整が可能に構成されたバルブを備えたことを特徴とする、請求項10に記載の滅菌器。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載の、空間内のガス処理方法を利用した、滅菌器であって、
滅菌対象物が設置される、前記閉塞空間としての滅菌空間と、
前記滅菌空間内に前記処理対象物質を含む滅菌用ガスを導入する滅菌用ガス導入口と、
前記滅菌空間内に設置された前記ガス処理装置とを備えたことを特徴とする、滅菌器。
【請求項13】
前記ガス処理装置は、
前記エキシマランプを収容する筐体と、
前記筐体内にガスを導入するガス導入口と、
前記エキシマランプから放射された前記真空紫外光が照射された前記ガスを前記筐体外の前記閉塞空間内に排出するガス排出口と、
前記ガス導入口側及び前記ガス排出口側に設けられ、前記滅菌空間内の前記ガスの、前記筐体内への流入可否調整が可能に構成されたシャッターとを備えたことを特徴とする、請求項12に記載の滅菌器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス処理方法に関し、特に閉塞空間内に存在するガスを処理する方法に関する。また、本発明は、この方法を利用した、保管庫、インキュベータ、及び滅菌器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療器具は常に滅菌した状態で保管することが要求されている。このような医療機器を保管するための収容室(保管庫)としては、例えば、下記特許文献1に開示された構造が知られている。
【0003】
特許文献1に開示された保管庫は、保管庫内の空気を強制循環させるための空気循環経路を有する。この空気循環経路内には、殺菌用の紫外光ランプと、アセトアルデヒド又はホルムアルデヒドの分解特性を示す光触媒反応のための光触媒プレートとが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医療器具の滅菌方法は、世界的に規格化されている。滅菌方法としては、大きく分けて、加熱による方法と、ホルムアルデヒド、オルトフタルアルデヒド、グルタルアルデヒド、EOG(エチレン・オキサイド・ガス)、過酸化水素、又は過酢酸といった滅菌用物質を用いる方法とが知られている。このうち、前者の方法は、医療器具が加熱を行うことができる場合に限られる。例えば、内視鏡を構成するファイバ部分のように、医療器具に樹脂が含まれている場合には、当該箇所が熱で変形するため、熱殺菌が利用できない。このような場合には、通常、滅菌用物質を用いた方法が行われる。
【0006】
上述した滅菌用物質のうち、過酸化水素は対象物を酸化するおそれがあることから、滅菌対象物が極めて制限される。よって、滅菌用物質としては、ホルムアルデヒド、エチレンオキサイドといった物質が一般的に用いられる。ただし、ホルムアルデヒドは、発がん性が高いため、近年では、ホルムアルデヒドよりはEOGの利用が薦められている(一般社団法人日本医療機器学会編「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2015」参照)。
【0007】
具体的には、滅菌器内でEOGを導入して医療器具に対して滅菌処理を行った後、医療器具に付着したEOGを除去すべく、エアレーションを行って滅菌器内のEOGを排出する。その後、滅菌処理が行われた医療器具が、保管庫内に保管される。
【0008】
しかしながら、エチレンオキサイドは残留性があり、医療器具内に微量に付着することまでを回避するのは極めて難しい。この結果、保管庫内で保管している間、付着していたエチレンオキサイドが揮発して(EOGとして)保管庫内に放出される。このため、作業員が、保管庫から医療器具を取り出そうとして保管庫の扉を開くと、保管庫内に存在するEOGを吸い込む危険がある。エチレンオキサイドは、ホルムアルデヒドに比べると発がん性は低いとされているが、人体に対しては依然として有害な物質であるとされている。
【0009】
特許文献1に記載された保管庫では、保管対象物自身の殺菌と共に、光触媒反応を生じさせるために紫外光ランプが設けられている。特許文献1には、エチレンオキサイドの記載はされていないが、アセトアルデヒドやホルムアルデヒドを、光触媒反応によって分解することが記載されている。アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドは、エチレンオキサイドと同様、揮発性が高い物質であり、VOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)に属する。
【0010】
しかしながら、特許文献1のように、光触媒を用いてVOCを分解しようとすると、VOCの分解効率は極めて低くなる。その理由としては、分解すべきVOCを含む気体が光触媒に接触して初めて分解され、紫外光ランプと光触媒の間の空間を流れる気体に含まれるVOCは分解されないためである。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑み、閉塞空間内にVOCに属する処理対象物質を含むガスが存在する場合において、従来よりも高い分解効率でVOCを処理することのできるガス処理方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このようなガス処理方法を利用して、閉塞空間内に存在するVOCに属する処理対象物質を含むガスから、処理対象物質を高効率で分解することのできる、保管庫、インキュベータ、及び滅菌器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、閉塞空間内に存在する、VOCに属する処理対象物質が空気に混在してなるガスを処理する、空間内のガス処理方法であって、
前記閉塞空間内の前記ガスを、真空紫外光を出射可能なエキシマランプを含むガス処理装置内に取り込む工程(a)と、
前記ガス処理装置内で、前記ガスに対して前記エキシマランプからの前記真空紫外光を照射してラジカルを生成し前記処理対象物質を分解する工程(b)と、
前記工程(b)が実行された処理後の前記ガスを、オゾン分解フィルタを介して前記閉塞空間内に排出する工程(c)とを有することを特徴とする。
【0013】
上記方法によれば、閉塞空間内のガスに真空紫外光が照射されることで生成されるラジカルによって処理対象物質が分解される。このため、光触媒反応を用いてVOC分解を行う従来の方法とは異なり、分解させるために特定の場所にガスを接触させる必要がない。この結果、従来の構成よりも、VOC分解効率が高められる。
【0014】
工程(b)において、閉塞空間内のガスに含まれる水分及び酸素に対して、真空紫外光が照射されることで、以下の(1)式及び(2)式に記載の反応が生じる。なお、下記式において、O(1D)は、励起状態のO原子を指し、O(3P)は基底状態のO原子を指す。また、hν(λ)は、波長λの光が吸収されていることを示す。
O2 + hν(λ) → O(1D) + O(3P) ‥‥(1)
O(1D) + H2O → ・OH + ・OH ‥‥(2)
【0015】
この(2)式によって得られるヒドロキシラジカル(・OH)は、極めて反応性が高いため、処理対象物質を高効率に分解する。
【0016】
ただし、上記(1)式で生成されたO(3P)は、閉塞空間内の空気中の酸素(O2)と反応すると、下記(6)式に従ってオゾン(O3)を生成する。
O(3P) + O2 → O3 ‥‥(6)
【0017】
例えば、上記方法が、医療器具が保管される保管庫に利用される場合、オゾンが医療器具に接触すると医療器具を劣化させる懸念がある。かかる観点から、工程(c)において、処理後のガスがオゾン分解フィルタを介して閉塞空間内に排気される。すなわち、上記方法によれば、工程(b)によって閉塞空間内のガスに含まれるVOCに属する処理対象物質が分解され、更に、工程(c)によって、工程(b)の実行により副次的に生成されたオゾンが分解される。
【0018】
オゾン分解フィルタは、ガス処理装置から排気されるガスが通過できるように配置されていればよい。一例として、オゾン分解フィルタを、ガス処理装置内に配置することも可能である。
【0019】
より詳細には、前記ガス処理装置は、
前記エキシマランプを収容する筐体と、
前記筐体内に前記ガスを導入するガス導入口と、
前記エキシマランプから出射した前記真空紫外光が照射された前記ガスを前記筐体外の前記閉塞空間内に排出するガス排出口と、
前記筐体内において、前記エキシマランプと前記ガス排出口との間に配置された前記オゾン分解フィルタを備えるものとしても構わない。
【0020】
前記筐体は、前記ガス導入口側の開口断面積と比較して、前記真空紫外光が照射される空間内の流路断面積が小さいものとしても構わない。
【0021】
真空紫外光は、酸素に対する吸収量が大きい。このため、真空紫外光が照射される空間の開口断面積、すなわちガス流路径が大きすぎると、真空紫外光が照射されずに筐体外へ排出されるガスの流量が多くなってしまい、処理対象物質の分解速度が低下してしまうおそれがある。上記のように、真空紫外光が照射される空間の開口断面積を、ガス導入口側の開口断面積よりも小さくした筐体を含むガス処理装置によって工程(a)及び(b)を実行することで、筐体内に導入されたガスに対して真空紫外光が照射される割合が高められる。これにより、ラジカル生成量が増加し、ガス中の処理対象物質の分解効率が高められる。
【0022】
前記ガス処理装置は、ファンと、前記ファン及び前記エキシマランプの駆動を行う電源部とを備え、
前記工程(a)は、前記ファンによって前記閉塞空間内の前記ガスを前記ガス処理装置内に取り込む工程であり、
前記工程(c)によって前記ガス処理装置から前記閉塞空間内に排出された前記ガスが、再び前記工程(a)によって前記閉塞空間内に取り込まれることで、前記工程(a)~(c)が繰り返し実行されるものとしても構わない。
【0023】
上記方法によれば、閉塞空間内のガスに対して、繰り返しガス処理装置から紫外光が照射されるため、閉塞空間内のガスに含まれる処理対象物質の分解効率が更に高められる。
【0024】
前記処理対象物質は、エチレンオキサイド、及びアルデヒド類からなる群の少なくともいずれか一を含む物質であるものとしても構わない。
【0025】
上記の物質は、いずれもVOCに属し、且つ、人体に対する影響度が高いとされている物質である。閉塞空間内にこれらの物質を含むガスが存在する場合であっても、上記の方法によれば、ラジカルによる分解処理によって、これらの物質の濃度を大きく低下させることができる。
【0026】
なお、本明細書において、「アルデヒド類」とは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フタルアルデヒド、グルタルアルデヒド等、アルデヒド基(ホルミル基ともいう。)を有する物質を指す。
【0027】
前記エキシマランプは、Xeを含む発光ガスが封入された発光管を有するものとしても構わない。この場合、エキシマランプからは、主たる発光波長が172nmの真空紫外光が発せられる。
【0028】
前記ガス処理装置は、前記閉塞空間内に設置され、
前記閉塞空間内における前記ガス処理装置の設置位置を変更しながら、前記工程(a)~(c)が実行されるものとしても構わない。
【0029】
上記によれば、ガス処理装置が閉塞空間の容積に比べて小型であっても、閉塞空間内を移動させながら工程(a)~(c)が実行されることで、閉塞空間内のガスに含まれる処理対象物質の濃度を効率的に低下させることができる。
【0030】
上記のガス処理方法は、保管庫に利用することが可能である。
【0031】
すなわち、本発明は、上述した空間内のガス処理方法を利用した保管庫であって、
前記処理対象物質が付着した保管対象物が保管される、前記閉塞空間としての保管空間と、
前記保管空間内に設置された前記ガス処理装置とを備えたことを特徴とする。
【0032】
保管庫には、例えば滅菌処理後の医療器具などが保管される。「発明が解決しようとする課題」の項で上述したように、滅菌処理後の医療器具には微量の、処理対象物質としてのVOCが不可避的に付着するため、保管中にこの物質が揮発して保管庫内のガスに含まれることが想定される。しかし、本発明に係る保管庫によれば、保管庫内のガスに含まれる処理対象物質が分解されるため、保管庫内の処理対象物質の濃度が低下する。この結果、作業員が保管庫内に保管されている医療器具を取り出すべく扉を開いた場合に、作業員が人体に影響を及ぼすおそれのある処理対象物質を所定濃度以上含有するガスを吸い込むリスクが抑制される。
【0033】
この処理対象物質としてのVOCには、上述したアセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、エチレンオキサイドの他、オルトフタルアルデヒド、グルタルアルデヒドなどが含まれる。
【0034】
ところで、上記のガス処理方法は、保管庫に限らず、閉塞空間内においてガスに処理対象物質が含有され得る装置に適用できる。
【0035】
例えば、インキュベータは、温度や湿度を培養に適した値に保持しながら細胞や微生物を培養するための装置である。細胞や微生物によっては、培養中にアセトアルデヒドやホルムアルデヒドなどのVOCに属する気体を放出する場合がある。この場合、インキュベータ内のガスにはVOCが含まれることになる。つまり、同様に、培養容器を取り出すべくインキュベータの扉を開くと、作業空間内にVOCを含むガスが流出し、作業員が吸い込むおそれがある。
【0036】
しかし、上述した空間内のガス処理方法を利用したインキュベータによれば、細胞や微生物を培養中であっても、インキュベータ内のガスに含まれるVOCを分解できるため、インキュベータ内の処理対象物質の濃度が低下する。この結果、作業員が培養容器を取り出すべく扉を開いた場合に、作業員が人体に影響を及ぼすおそれのある処理対象物質を所定濃度以上含有するガスを吸い込むリスクが抑制される。
【0037】
すなわち、本発明は、上述した空間内のガス処理方法を利用した、インキュベータであって、
前記処理対象物質を外部に放出する培地を含む培養容器が収容される、前記閉塞空間としての培養室と、
前記培養室内に設置された前記ガス処理装置とを備えたことを特徴とする。
【0038】
また、滅菌器は、主として医療器具に対して、微生物が生育できないような環境にするための処置を行う装置である。具体的には、滅菌対象物となる医療器具を密閉空間内に収容した状態で、EOGなどの滅菌用ガスが所定の時間にわたって導入される。その後、装置内のガスがエアレーションにより排出される。なお、滅菌用ガスとしては、ホルムアルデヒドガスも利用可能である。
【0039】
しかし、上述したように、エチレンオキサイドは残留性があるため、エアレーションを長時間実行したとしても、医療器具に付着したエチレンオキサイドを完全に除去することは難しい。なおこの事情は、滅菌用ガスとしてホルムアルデヒドガスを採用した場合においても同様である。このため、滅菌処理後の医療器具を取り出すべく、作業員が滅菌器の扉を開くと、滅菌器内に存在する、エチレンオキサイドやホルムアルデヒドなどのVOCを含むガスが作業空間内に流出し、作業員が吸い込むおそれがある。
【0040】
これに対し、上述した空間内のガス処理方法を利用した滅菌器によれば、滅菌器内のガスにVOCが含まれていても、ガス処理装置によってVOCを分解できるため、滅菌器内のVOC(処理対象物質)の濃度が低下する。この結果、作業員が医療器具を取り出すべく扉を開いた場合に、作業員が人体に影響を及ぼすおそれのある処理対象物質を所定濃度以上含有するガスを吸い込むリスクが抑制される。
【0041】
すなわち、本発明は、上述した空間内のガス処理方法を利用した、滅菌器であって、
滅菌対象物が設置される、前記閉塞空間としての滅菌空間と、
前記滅菌空間内に前記処理対象物質を含む滅菌用ガスを導入する滅菌用ガス導入口と、
前記滅菌空間内に設置された前記ガス処理装置とを備えたことを特徴とする。
【0042】
この構成の場合、ガス処理装置は滅菌器内に設置される。この場合、滅菌処理時に導入される滅菌用ガスがオゾン分解フィルタに付着しないようにするのが好ましい。
【0043】
具体的には、前記ガス処理装置は、
前記エキシマランプを収容する筐体と、
前記筐体内にガスを導入するガス導入口と、
前記エキシマランプから放射された前記真空紫外光が照射された前記ガスを前記筐体外の前記閉塞空間内に排出するガス排出口と、
前記ガス導入口側及び前記ガス排出口側に設けられ、前記滅菌空間内の前記ガスの、前記筐体内への流入可否調整が可能に構成されたシャッターとを備えるものとすることができる。
【0044】
また、ガス処理装置は滅菌器外に設置され、滅菌器とガス処理装置とが配管で連絡される構成としても構わない。
【0045】
すなわち、本発明は、上述した空間内のガス処理方法を利用した、滅菌器であって、
滅菌対象物が設置される、前記閉塞空間としての滅菌空間と、
前記滅菌空間内に前記処理対象物質を含む滅菌用ガスを導入する滅菌用ガス導入口と、
前記滅菌空間の外側に設置された前記ガス処理装置と、
前記ガス処理装置の一部箇所と前記滅菌空間とを連絡する、ガス導入用通気路と、
前記ガス処理装置の別の一部箇所と前記滅菌空間とを連絡する、ガス排出用通気路とを備えたことを特徴とする。
【0046】
この場合においても、滅菌処理時に導入される滅菌用ガスがオゾン分解フィルタに付着しないようにするのが好ましい。具体的には、前記滅菌器は、前記ガス導入用通気路及び前記ガス排出用通気路の少なくとも一方に配置され、前記滅菌空間内の前記ガスの、前記ガス処理装置への流入可否調整が可能に構成されたバルブを備えることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、閉塞空間内にVOCに属する処理対象物質を含むガスが存在する場合であっても、従来よりも高い分解効率でVOCを処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】本発明の第一実施形態における保管庫の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図2】ガス処理装置の一実施例を模式的に示す平面図である。
【
図3】エキシマランプを、方向d1に直交する平面で切断したときの模式的な断面図である。
【
図4】Xeを含む発光ガスが封入されたエキシマランプから出射される紫外光L1の発光スペクトルと、酸素(O
2)の吸収スペクトルとを重ねて表示したグラフである。
【
図5】別の構成例のエキシマランプを、方向d1に直交する平面で切断したときの模式的な断面図である。
【
図6】別の構成例のエキシマランプを、方向d1に直交する平面で切断したときの模式的な断面図である。
【
図7】本発明の第二実施形態におけるインキュベータの構成を模式的に示す平面図である。
【
図8A】本発明の第三実施形態における滅菌器の構成を模式的に示す平面図である。
【
図8B】本発明の第三実施形態における滅菌器の構成を模式的に示す平面図である。
【
図8C】本発明の第三実施形態における滅菌器の構成を模式的に示す平面図である。
【
図9A】本発明の第三実施形態における滅菌器の別の構成を模式的に示す平面図である。
【
図9B】本発明の第三実施形態における滅菌器の別の構成を模式的に示す平面図である。
【
図10】検証1で用いられた保管庫の模式的な図面である。
【
図12】検証2で用いられたインキュベータの模式的な図面である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明に係る空間内のガス処理方法、保管庫、インキュベータ、及び滅菌器の各実施形態につき、適宜図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比は必ずしも一致していない。また、各図面間においても、寸法比は必ずしも一致していない。
【0050】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態における保管庫の構成を模式的に示すブロック図である。保管庫1は、閉塞空間としての保管空間2を備え、この保管空間2内に、例えば医療器具などの保管対象物6を保管するための装置である。保管庫1は、保管空間2内に保管対象物6を収納したり、あるいは保管されている保管対象物6を保管庫1外に取り出すために開放される開閉扉4を備えている。
【0051】
保管庫1は、外壁3に覆われてなる保管空間2内にガス処理装置10を備えている。このガス処理装置10は、保管空間2内のガスG1を取り込み、このガスG1に対して後述の処理を行った後、同じ保管空間2内に排気する(ガスG2)。
【0052】
例えば、滅菌処理後の医療機器が保管対象物6として保管庫1内に保管されると、保管対象物6に付着している、エチレンオキサイドなどの、VOCに属する処理対象物質を含むガスGzが、保管中に保管空間2内に放出される。また、保管庫1内に、ホルマリンにより安定化された病理組織などのサンプルが保管対象物6として保管庫1内に保管されると、このサンプルからホルムアルデヒドを含むガスGzが、保管中に保管空間2内に放出される。すなわち、保管空間2内のガスG1は、このような処理対象物質を含む空気によって構成される。
【0053】
図2は、ガス処理装置10の一実施例を模式的に示す平面図である。ガス処理装置10は、筐体11と、筐体11内に収容されたエキシマランプ20と、オゾン分解フィルタ17と、ファン18とを備える。また、筐体11は、ガス処理装置10の外側からガスG1をガス処理装置10内に導入するためのガス導入口12と、ガス処理装置10の外にガスG2を排出するためのガス排出口13を備える。
【0054】
エキシマランプ20は、ガスG1の流れる方向d1を長手方向とする発光管を有する。
図3は、エキシマランプ20を、方向d1に直交する平面で切断したときの模式的な断面図である。
図3に示すように、エキシマランプ20は、円筒形状を呈し外側に位置する管体(ここでは、「外側管21」と称する。)と、外側管21の内側において外側管21と同軸上に配置されており、外側管21よりも内径が小さい円筒形状を呈した管体(ここでは、「内側管22」と称する。)とからなる発光管を有する。いずれの発光管(21,22)も、合成石英ガラスなどの誘電体からなる。
【0055】
外側管21と内側管22とは方向d1に係る端部において封止されており(不図示)、両者の間には方向d1から見たときに円環形状を呈する発光空間が形成される。この発光空間内には、放電によってエキシマ分子を形成する発光ガス23Gが封入されている。発光ガス23Gのより詳細な一例としては、キセノン(Xe)とネオン(Ne)を所定の比率で混在させたガスからなり、更に酸素や水素を微量に含むものとしても構わない。
【0056】
本実施形態のエキシマランプ20は、外側管21の外壁面上に配設された第一電極24aと、内側管22の内壁面上に配設された第二電極24bとを有する。第一電極24aは、メッシュ形状又は線形状を呈する。また、第二電極24bは膜形状を呈する。なお、第二電極24bについても、第一電極24aと同様にメッシュ形状又は線形状であっても構わない。
【0057】
なお、
図2に示す例では、エキシマランプ20は、発光管(21,22)の方向d1に係る端部にベース部25を有する。このベース部25は、ステアタイト、フォルステライト、サイアロン、アルミナなどのセラミックス材料(無機材料)からなり、発光管(21,22)の端部を固定する機能を有している。ベース部25に設けられた孔部又はベース部25の外縁を通じて、各電極(24a,24b)に接続される不図示の給電線が配設されている。
【0058】
エキシマランプ20においては、不図示の点灯電源から給電線を介して両電極(24a,24b)の間に例えば50kHz~5MHz程度の高周波の交流電圧が印加されると、発光ガス23Gに対して発光管(21,22)を介して前記電圧が印加される。このとき、発光ガス23Gが封入されている放電空間内で放電プラズマが生じ、発光ガス23Gの原子が励起されてエキシマ状態となり、この原子が基底状態に移行する際にエキシマ発光を生じる。発光ガス23Gとして、上述したキセノン(Xe)を含むガスを用いた場合には、このエキシマ発光は、172nm近傍にピーク波長を有する紫外光L1となる。
【0059】
なお、発光ガス23Gとして利用する物質を異ならせることで、紫外光L1の波長を変えることができる。例えば、発光ガス23Gとしては、ArBr(ピーク波長165nm近傍)、ArCl(ピーク波長175nm近傍)、F2(ピーク波長153nm近傍)など、真空紫外光を発する材料が利用できる。ここでは、エキシマランプ20に封入されている発光ガス23Gが、Xeを含むガスである場合について説明する。
【0060】
図4は、Xeを含む発光ガスが封入されたエキシマランプ20から出射される紫外光L1の発光スペクトルと、酸素(O
2)の吸収スペクトルとを重ねて表示したグラフである。
図4において、横軸は波長を示し、左縦軸はエキシマランプの光強度の相対値を示し、右縦軸は酸素(O
2)の吸収係数を示す。
【0061】
発光ガス23GとしてXeを含むガスを用いる場合、
図4に示されるように、エキシマランプ20から出射される紫外光L1は、主たる発光波長が160nm以上180nm未満の波長帯λ
1の範囲内である。
図4に示すように、この波長帯λ
1の光は酸素(O
2)による吸収量が大きい。
【0062】
保管庫1内において、ガス処理装置10の運転を開始すると、保管空間2内のガスG1がガス導入口12から筐体11内に取り込まれる(工程(a)に対応)。なお、
図2に示すガス処理装置10は、当該ガス処理装置10内に取り込むガスG1の流量を高める目的で、ファン18が設けられている。このファン18は、エキシマランプ20への給電と共に、不図示の電源部によって運転制御されるものとしても構わない。
【0063】
上述したように、ガスG1は、保管対象物6から放出されたエチレンオキサイドなどのVOCに属する処理対象物質を含む空気である。このガスG1が、ガス処理装置10内に通流すると、エキシマランプ20からの波長帯λ1の紫外光L1が照射される。この紫外光L1は、酸素(O2)に吸収されると、「課題を解決するための手段」の項で上述した(1)式及び(2)式に記載の反応が生じる。以下、同式を転載する。
O2 + hν(λ) → O(1D) + O(3P) ‥‥(1)
O(1D) + H2O → ・OH + ・OH ‥‥(2)
【0064】
エチレンオキサイド(EO:以下ここでは「C2H4O」と記載する。)は、酸素ラジカル(O(1D)やO(3P))、又はヒドロキシラジカル(・OH)によって分解される。分解は、例えば下記式に従って進行し、中間生成物として、メタノール(CH3OH)又はホルムアルデヒド(HCHO)に変換される。
C2H4O + ・O → ・OH + Oxiranyl (C2H3O) ‥‥(3a)
C2H4O + ・OH → H2O + Oxiranyl (C2H3O) ‥‥(3b)
Oxiranyl (C2H3O) → CO + ・CH3 ・・・(3c)
・CH3 + O2 → CH3O2 ‥‥(3d)
CH3O2 + ・O → CH3O・ + O2 ‥‥(3e)
CH3O2 + ・OH → CH3OH + O2 ‥‥(3f)
CH3O・ + O2 → HCHO + H2O ‥‥(3g)
【0065】
エチレンオキサイド(C2H4O)が分解されて生成されたメタノール(CH3OH)は、更に、ヒドロキシラジカル(・OH)によって、以下のように分解反応が進行し、ホルムアルデヒド(HCHO)と水に分解される。
CH3OH + ・OH → ・CH2OH + H2O ‥‥(4a)
CH3OH + ・OH → CH3O・ + H2O ‥‥(4b)
・CH2OH + O2 → HCHO + H2O ‥‥(4c)
CH3O・ + O2 → HCHO + H2O ‥‥(3g)
【0066】
また、エチレンオキサイド(C2H4O)が分解されて生成されたホルムアルデヒド(HCHO)は、更にヒドロキシラジカル(・OH)によって、以下のように分解反応が進行し、二酸化炭素と水に分解される。
HCHO + ・OH → ・CHO + H2O ‥‥(5a)
・CHO + ・O2 → CO + ・HO2 ‥‥(5b)
CO + ・OH → CO2 + ・H ‥‥(5c)
【0067】
なお、水素ラジカル(・H)は、下記式(5d)に従ってヒドロペルオキシルラジカル(・HO2)に変換される。ヒドロペルオキシルラジカル(・HO2)は、下記式(5e)に従ってヒドロキシラジカル(・OH)に変換されてエチレンオキサイドやホルムアルデヒド等のVOCの分解反応に利用される他、・HO2単独でもVOCの分解反応に利用される。
・H + O2 →・HO2 ‥‥(5d)
・HO2 + O3 →・OH + 2O2 ‥‥(5e)
【0068】
すなわち、保管空間2内のガスG1に対してエキシマランプ20から出射された紫外光L1が照射されると、まず、上述した式(1)又は(2)に従ってラジカルが生成されると共に、このラジカルがガスG1に含まれるエチレンオキサイドを分解する(工程(b)に対応)。この結果、ガス排出口13から排出されるガスG2に含有されるエチレンオキサイドの濃度が低下する。
【0069】
このガス処理装置10は、処理後のガスG2を保管空間2内に排出するため、この排出されたガスが、再び処理対象のガスG1としてガス処理装置10内に導入される。この結果、紫外光L1の照射が繰り返し実行されることで、上記(1)~(5c)の反応が進行し、保管空間2内のガスG1に含まれるエチレンオキサイドの濃度を大きく低下できる。
【0070】
なお、保管対象物6から放出されるVOCがホルムアルデヒドである場合であっても、上記(5a)~(5c)の反応によってガス処理装置10内で分解される。
【0071】
ところで、(1)式で生成されたO(3P)は、ガスG1に含まれる酸素(O2)と反応して、「課題を解決するための手段」の項で上述した(6)式に従ってオゾン(O3)を生成する。以下、(6)式を転載する。
O(3P) + O2 → O3 ‥‥(6)
【0072】
オゾン(O3)は、ラジカルよりは反応性が低いため、ガスG2に含まれた状態でガス排出口13から保管空間2内に排出される可能性がある。オゾン(O3)も、人体に対して影響があるとされている物質であるため、万一、保管空間2内のガスG1にオゾン(O3)が含まれた状態で開閉扉4が開放されると、作業員がオゾン(O3)を含むガスG1を吸引するおそれがある。
【0073】
かかる観点から、
図2に示すように、ガス処理装置10は、ガス排出口13よりも上流側(エキシマランプ20に近い側)にオゾン分解フィルタ17を備えている。すなわち、エキシマランプ20からの紫外光L1が照射された後のガスG2は、オゾン分解フィルタ17を介して、保管空間2内に排出される(工程(c)に対応)。
【0074】
オゾン分解フィルタ17は、例えばアルミニウム、ステンレス、セラミックスなどの金属製のハニカム構造体からなる基材に触媒を担持した構造のものを採用することができる。触媒としては、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)などの貴金属触媒や、二酸化マンガン(MnO2)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ニッケル(NiO)など金属酸化物を利用することができる。
【0075】
かかる構成によれば、紫外光L1が照射されることで生成されたラジカルについては、エチレンオキサイドを初めとするVOCの分解反応に寄与すると共に、副次的に生成されたオゾンについては、オゾン分解フィルタ17によって除去することができる。
【0076】
ところで、
図4に示すように、200nm未満の波長域の紫外光は、酸素に対する吸収が大きいため、紫外光L1が照射される領域の流路断面積が大きすぎると、紫外光L1が照射されずにそのままガス処理装置10から排気されるガスG1の量が多くなるおそれがある。一方、ガス導入口12及びガス排出口13の開口断面積をあまりに小さくすると、ガス処理装置10内を通流するガスG1の流量が少なくなる。いずれの場合でも、保管空間2内のガスG1に含まれる、エチレンオキサイドを初めとするVOCの濃度を低下させる速度が遅くなる可能性がある。
【0077】
かかる観点から、
図2に示すガス処理装置10のように、ガスG1が通流する領域において、紫外光L1が照射される領域の流路断面積を、ガス導入口12やガス排出口13の開口断面積よりも小さく設定するのが好適である。ただし、本発明は、ガス導入口12やガス排出口13の開口断面積と、紫外光L1が照射される領域の流路断面積とがほぼ同等である場合を排除するものではない。以下の各実施形態においても同様である。
【0078】
(別構成例)
ガス処理装置10の別構成例について説明する。なお、いずれの構成例も、後述する各実施形態に対しても適用可能である。
【0079】
〈1〉
図2の例では、ガス処理装置10がファン18を備える場合について説明したが、保管空間2内のガスG1をガス処理装置10内に取り込むための流れを生じさせることができる場合には、ガス処理装置10側に必ずしもファン18を備えなくても構わない。
【0080】
〈2〉
図2の例では、オゾン分解フィルタ17が、筐体11内に搭載されている場合について説明した。しかし、紫外光L1が照射された後のガスG2が、オゾン分解フィルタ17を通過する構成であれば、必ずしもオゾン分解フィルタ17が筐体11内に設置されていなくても構わない。例えば、筐体11のガス排出口13の外側にオゾン分解フィルタ17が設置されていても構わない。
【0081】
〈3〉エキシマランプ20は、
図3の形状には限定されず、
図5や
図6に示す構造のものを用いても構わない。
図5は、いわゆる「一重管構造」を呈したエキシマランプ20を、方向d1に直交する平面で切断したときの模式的な断面図である。
図5に示すエキシマランプ20は、
図3に示すエキシマランプ20とは異なり、1つの発光管21を有している。発光管21は、長手方向、すなわち方向d1に係る端部において封止されており(不図示)、内側の空間内に発光ガス23Gが封入される。そして、発光管21の内側(内部)には第二電極24bが配設され、発光管21の外壁面には、網目形状又は線形状の第一電極24aが配設される。
【0082】
図6は、いわゆる「扁平管構造」を呈したエキシマランプ20を、
図3にならって模式的に図示した断面図である。
図6に示すエキシマランプ20は、長手方向、すなわち方向d1から見たときに矩形状を呈した1つの発光管21を有する。そして、エキシマランプ20は、発光管21の一方の外表面に配置された第一電極24aと、発光管21の外表面であって第一電極24aと対向する位置に配置された第二電極24bとを有する。第一電極24a及び第二電極24bは、発光管21内で発生した紫外光L1が発光管21の外側に出射することへの妨げにならないよう、いずれもメッシュ形状(網目形状)又は線形状を呈している。
【0083】
なお、エキシマランプ20を方向d1に直交する平面で切断したときの形状については、
図3及び
図5に示す円形や、
図6に示す長方形には限定されず、種々の形状が採用され得る。
【0084】
[第二実施形態]
図7は、本発明の第二実施形態におけるインキュベータの構成を模式的に示す平面図である。インキュベータ40は、温度や湿度を培養に適した値に保持しながら細胞や微生物を培養するための装置であり、不図示の温度・湿度調整器を有している。インキュベータ40は、外壁43に覆われてなる閉塞空間としての培養室42を備え、培養室42内には培養容器46を載置するための棚板45が設けられている。インキュベータ40は、培養室42内に培養容器46を載置したり、あるいは、培養容器46を培養室42から取り出すために開放される、不図示の開閉扉を備えている。
【0085】
培養容器46は、細胞や微生物を培養する培地が収容された容器であり、例えばシャーレなどで構成される。培養容器46で培養される細胞や微生物によっては、培養中にアセトアルデヒドやホルムアルデヒドなどのVOCに属する処理対象物質を含むガスGzを放出する場合がある。
【0086】
すなわち、培養室42内のガスG1は、このような処理対象物質を含む空気によって構成される。
【0087】
本実施形態におけるインキュベータ40は、第一実施形態と同様にガス処理装置10を備える。これにより、培養容器46から放出されるガスGzにホルムアルデヒドが含まれる場合には、前述した(5a)~(5e)の反応によってガス処理装置10内で分解される。
【0088】
また、培養容器46から放出されるガスGzにアセトアルデヒド(CH3CHO)が含まれる場合には、以下の式に従って反応が進行し、中間生成物として、酢酸(CH3COOH)又はホルムアルデヒド(HCHO)に変換される。
CH3CHO + ・OH → CH3CO・ + H2O ‥‥(7a)
CH3CO・ + O2 → CH3COOO・ ‥‥(7b)
CH3CO・ + O2 → CO2 + CH3O・ ‥‥(7c)
CH3COOO・ + ・HO2 → CH3COOH + O3 ‥‥(7d)
CH3O・ + O2 → HCHO + ・HO2 ‥‥(7e)
【0089】
酢酸(CH3COOH)は、ヒドロキシラジカル(・OH)によって、以下のように分解反応が進行し、二酸化炭素と水に分解される。
CH3COOH + ・OH → CO2 + ・CH3 + H2O ‥‥(7f)
【0090】
また、ホルムアルデヒドは、第一実施形態において上述した、式(5a)~(5c)の反応が進行することで、二酸化炭素と水に分解される。
【0091】
よって、第一実施形態の保管庫1と同様、本実施形態のインキュベータ40においても、ガス処理装置10が内蔵されることで、閉塞空間としての培養室42内のガスG1に含まれる、アセトアルデヒドやホルムアルデヒドの濃度を低下できる。他の構成や処理方法については、第一実施形態と共通のため、説明を割愛する。
【0092】
特に、インキュベータ40の培養室42内に、培養容器46から放出されたホルムアルデヒドが存在する場合には、ホルムアルデヒド特有の臭いが問題になる場合がある。上記構成のインキュベータ40によれば、インキュベータ40内のガスG1に含まれるホルムアルデヒド濃度を大きく低下できるため、臭いの問題も解消される。この点は、実施例を参照して後述される。
【0093】
[第三実施形態]
図8A~
図8Cは、本発明の第三実施形態における滅菌器の構成を模式的に示す平面図である。滅菌器50は、医療器具などの対象物に対して、滅菌処理を行って微生物が生育できないような環境にするための処置を行う装置である。具体的な例としては、第一実施形態において保管庫1内で保管される保管対象物6としての医療器具が、本実施形態の滅菌器50で滅菌処理が施された後、滅菌器50から取り出されて移されたものとすることができる。
【0094】
滅菌器50は、閉塞空間としての滅菌空間52を備え、この滅菌空間52内に、例えば医療器具などの滅菌対象物56を保管するための装置である。滅菌空間52は、外壁53によって覆われてなる。滅菌器50は、滅菌空間52内に滅菌対象物56を載置したり、あるいは、滅菌処理後の滅菌対象物56を取り出すために開放される、不図示の開閉扉を備えている。
【0095】
滅菌器50は、EOGなどの滅菌用ガスGsを滅菌空間52内に導入するための、滅菌用ガス源58及び滅菌用ガス導入口58aを備える。また、滅菌器50は、滅菌処理後に、滅菌空間52に存在する滅菌用ガスGsを、滅菌器50の外に排出するための排気ポンプ59及び排気口59aを備える。
【0096】
図8Aに示す滅菌器50は、滅菌空間52の外側にガス処理装置10が配置されている。このガス処理装置10は、通気用の配管(54a,54b)によって滅菌空間52と連絡されている。また、配管(54a,54b)には、滅菌空間52との間における通流を制御するためのバルブ55が配設されている。
【0097】
滅菌処理時には、
図8Aに示すように、滅菌空間52内に滅菌対象物56を載置した状態で、滅菌用ガス源58から滅菌用ガスGsを導入する。滅菌用ガスGsとしては、EOGやホルムアルデヒドガスが利用される。なお、このとき、
図8Aにおけるバルブ55を閉状態としておき、滅菌用ガスGsがガス処理装置10側に流入しないように設定される。これは、滅菌用ガスGsが、オゾン分解フィルタ17に付着してオゾン分解機能を低下させることを防ぐためである。
【0098】
滅菌処理が終了した時点では、滅菌空間52内にはエチレンオキサイドやホルムアルデヒドなどのVOCを高濃度に含むガスG1が存在する。ここで、
図8Bに示すように、バルブ55が開状態とされて、ガス処理装置10の運転が開始される。これにより、滅菌空間52内のガスG1が、配管54aを介してガス処理装置10内に導入され、第一実施形態と同様に紫外光L1が照射されてVOCに属する処理対象物質が分解される。分解処理された後のガスG2は、配管54bを介して滅菌空間52内に戻される。配管54aが「ガス導入用通気路」に対応し、配管54bが「ガス排出用通気路」に対応する。
【0099】
ガス処理装置10を所定時間運転することで、滅菌空間52内のガスG1に含まれるVOCの濃度が低下する。かかる濃度が所定の基準値以下になるまでガス処理装置10の運転が継続された後、
図8Cに示すように、排気ポンプ59の運転が開始されて、排気口59aから滅菌空間52内のガスG1が滅菌器50の外に排出される。
【0100】
図9A及び
図9Bに示すように、ガス処理装置10は滅菌空間52内に配置されるものとしても構わない。この場合、
図9Bに示すように、ガス処理装置10は、ガス処理装置10の外側に存在するガスG1をガス処理装置10内に導入するかどうかを制御するための、開閉可能なシャッター(12a,13a)を備えるものとしても構わない。
【0101】
すなわち、滅菌用ガス源58から滅菌用ガスGsが導入される滅菌処理時には、
図9Aに示すように、シャッター(12a,12b)が閉状態とされる。また、滅菌処理が完了した後には、
図9Bに示すように、シャッター(12a,13a)が開状態とされて、ガス処理装置10が稼働状態とされる。これにより、
図8Aの場合と同様に、滅菌用ガスGsがオゾン分解フィルタ17に付着してオゾン分解機能が低下するのが防止できる。
【0102】
他の構成や処理方法については、第一実施形態と共通のため、説明を割愛する。
【0103】
[実施例]
以下、実施例を参照して説明する。
【0104】
(検証1)
図10は、検証1で用いられた保管庫1の模式的な図面である。保管庫1は、容積110Lの箱型の保管空間2を有し、内部にガス処理装置10が載置された。保管対象物6としては、Φ90のシャーレに、濃度37%のホルマリン液を10mL滴下したものが採用された。
【0105】
そして、ガス処理装置10を運転させながら、保管空間2内のガスG1に含まれるVOCの濃度の経時的な変化を測定した。なお、VOCの濃度は、保管空間2内に設置されたアルデヒドセンサ(理研計器株式会社製、Tiger)によって測定された値が採用された。
【0106】
本検証では、測定開始時点からガス処理装置10を常時運転させたモード(モード1)と、測定開始から60分間経過後にガス処理装置10の運転を開始させたモード(モード2)の両者で、保管空間2内のガスG1に含まれるホルムアルデヒドの濃度の経時的な変化が測定された。この結果を、
図11に示す。
【0107】
なお、ガス処理装置10の運転時には、ファン18が回転することで、保管空間2内に含まれるガスG1が流量0.3m3/分でガス処理装置10に導入された。
【0108】
図11において、横軸は測定開始からの経過時間を示し、左縦軸及び右縦軸は、いずれも保管空間2内のガスG1に含まれるホルムアルデヒドの濃度を示す。なお、左縦軸と右縦軸とは、表記スケールが異なっている。
図11では、モード1については右縦軸に基づく表記がされており、モード2については左縦軸に基づく表記がされている。
【0109】
図11によれば、測定開始時点からガス処理装置10が稼働していたモード1では、測定されている0分~60分の全範囲にわたって、ホルムアルデヒドの管理濃度として推奨されている0.1ppmを大きく下回っていることが確認された。
【0110】
60分経過後にガス処理装置10の運転を開始したモード2では、ガス処理装置10の運転が開始されるまでの間は、ホルムアルデヒド濃度が上昇をし続けており、保管対象物6としてのシャーレからホルムアルデヒドガスが揮発し続けていることが確認された。また、モード2において、ガス処理装置10の運転を開始した途端、ガスG1内に含まれるホルムアルデヒドの濃度は急激に低下していることが確認された。ガス処理装置10の運転を開始する直前のホルムアルデヒドの濃度は、約35ppmという極めて高い値であったが、ガス処理装置10の運転を開始してから5分後には、ホルムアルデヒドの濃度が0.01ppm以下にまで低下した。
【0111】
この検証結果より、保管庫1内にガス処理装置10を設置して運転させることで、極めて短時間の処理によって多くのホルムアルデヒドを分解できることが示された。
【0112】
(検証2)
図12は、検証2で用いられたインキュベータ40の模式的な図面である。インキュベータ40としては、培養室42の空間容積が25Lのクールインキュベータ(CN-25C:三菱電機エンジニアリング株式会社製)が採用された。この培養室42内に、培養容器46として、Φ90のシャーレが20枚収容された。20枚のシャーレのうちの10枚(サンプル1)は、標準寒天培地上に黄色ブドウ球菌(NBRC.12732)が0.1mL塗抹されたものである。また、残りの10枚(サンプル2)は、標準寒天培地上に大腸菌(NBRC.106373)が0.1mL塗抹されたものである。これら20枚のシャーレが、培養容器46に対応する。
【0113】
なお、サンプル1では、黄色ブドウ球菌が、100~300CFU/Plateになるように加えられた。また、サンプル2では、大腸菌が、100~300CFU/Plateになるように加えられた。なお、CFUは、コロニー形成単位(Colony forming unit)である。
【0114】
実施例1では、インキュベータ40内に培養容器46と共に、ガス処理装置10が導入された(
図12)。一方、比較例1では、インキュベータ40内にはガス処理装置10が導入されなかった。そして、実施例1及び比較例1の双方において、測定開始からの経過時間に応じたVOCの濃度の経時的な変化と、培養室42内の臭いの変化が測定された。この結果を、
図13に示す。
【0115】
図13において、横軸は測定開始からの経過時間[hour]を示し、左縦軸(a)は培養室42内のガスG1に含まれるVOCの濃度を示す。また、右縦軸(b)は培養室42の臭いの強度を0~5の6段階で表記したものである。
【0116】
VOCの濃度は、検証1と同様に、培養室42内に設置されたアルデヒドセンサによって測定された値が採用された。また、臭気の強度は、六段階臭気強度表示法に基づく官能評価に基づく、評価者3名の平均値が採用された。臭気強度レベル0~5はそれぞれ、以下の表1に対応する。
【0117】
【0118】
図13のグラフ(a)によれば、ガス処理装置10が導入されている実施例1では、測定開始から30時間が経過しても、VOCの濃度が10ppmを下回っていた。これに対し、ガス処理装置10が導入されていない比較例1では、測定開始から急激にVOC濃度が上昇し、10時間後には約45ppmにまで到達した。その後、時間経過と共に、VOC濃度は低下しているものの、依然として20ppmを超える濃度を示している。
【0119】
なお、比較例1のグラフ(a)において、10時間経過後からVOC濃度が低下傾向を示しているのは、微生物の増殖の進行が落ち着いたことと、インキュベータ40に存在する微小な隙間からガスが微量に漏れ出ていることによるものと推察される。
【0120】
また、
図13のグラフ(b)によれば、比較例1のインキュベータ40は、測定開始から5時間以内には臭気強度5に達する強烈な臭いとなり、この臭い強度は30時間経過後にも持続された。これに対し、実施例1のインキュベータ40の場合、時間経過と共に臭い強度は上昇するものの、30時間経過後であっても、臭気強度は3に留まっていた。
【0121】
この検証結果より、本発明に係るインキュベータ40によれば、培養室42内のガスG1に含まれるVOCを分解する機能が確認された。また、この分解処理により、培養室42内の悪臭を抑制する作用が得られることが確認された。
【0122】
なお、実施例1と比較例1の双方において、30時間経過後の各サンプルに含まれる細菌のコロニー数を計測した結果を表2に示す。なお、いずれの値も、3枚のシャーレ上に存在する菌の数の平均値が採用された。
【0123】
【0124】
表2によれば、ガス処理装置10が導入された実施例1と、ガス処理装置10が導入されていない比較例1とでは、30時間経過後における各菌のコロニー数に有意な差が生じていない。これにより、ガス処理装置10から排出されるガスG2が培養室42内に排気されたことによって、培養中の細胞に対して悪影響が生じることはないと結論付けられる。
【0125】
[別実施形態]
第一実施形態において上述した保管庫1は、VOCに属する処理対象物質を含む気体を放出する保管対象物6が、閉塞空間としての保管空間2内に保管される態様であれば、どのような構成であっても構わない。例えば、ホルマリンにより安定化された病理組織などのサンプルが、運転席と同じ空間であるキャビン内や、トランクとキャビンが連絡されているワゴンなどの形状の自動車におけるトランク内に載置されて自動車で運搬されている場合においては、当該自動車のキャビンが保管庫1に対応する。
【符号の説明】
【0126】
1 :保管庫
2 :保管空間
3 :外壁
4 :開閉扉
6 :保管対象物
10 :ガス処理装置
11 :筐体
12 :ガス導入口
12a :シャッター
13 :ガス排出口
13a :シャッター
17 :オゾン分解フィルタ
18 :ファン
20 :エキシマランプ
21 :発光管(外側管)
22 :発光管(内側管)
23G :発光ガス
24a :第一電極
24b :第二電極
25 :ベース部
40 :インキュベータ
42 :培養室
43 :外壁
45 :棚板
46 :培養容器
50 :滅菌器
52 :滅菌空間
53 :外壁
54a :配管
54b :配管
55 :バルブ
56 :滅菌対象物
58 :滅菌用ガス源
58a :滅菌用ガス導入口
59 :排気ポンプ
59a :排気口