(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】穴あけ工具とそのボディ
(51)【国際特許分類】
B23B 51/06 20060101AFI20240307BHJP
B23B 51/00 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
B23B51/06 E
B23B51/00 L
(21)【出願番号】P 2023138760
(22)【出願日】2023-08-29
【審査請求日】2023-08-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】森 一樹
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特許第7205656(JP,B1)
【文献】特開昭63-216611(JP,A)
【文献】特開2004-154883(JP,A)
【文献】特表2016-514625(JP,A)
【文献】米国特許第10814406(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00-51/14;
B23C 5/28;
B23D 77/00-77/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クーラント流路と切りくず排出溝を有し、切削時、中心軸まわりに回転する穴あけ工具のボディであって、
前記クーラント流路は、
前記中心軸に垂直な横断面にて、一対の直線部を含む長円形状であり、
前記中心軸に垂直な横断面にて、前記切りくず排出溝を除いた中実部には、切削時に当該切りくず排出溝を通って排出される切りくずまたはクーラントから作用する力を受ける前溝壁面から回転方向後方側へ離れた位置であって、かつ、前記横断面にて
、当該ボディの
うち前記切りくず排出溝と干渉していない心棒の部分からなる芯部よりも径方向外側となる位置に配置され
、
前記中心軸に垂直な横断面にて、前記前溝壁面から見て、前記中実部における周方向中心よりも回転方向後方側へ離れた位置に配置され、
前記中心軸に垂直な横断面にて、長円形状である前記クーラント流路は、回転方向後方かつ径方向外側に向かい、径方向に対して傾斜した状態で配置されている、穴あけ工具のボディ。
【請求項2】
前記中心軸に垂直な横断面にて、前記クーラント流路は、その一部が前記芯部に接す
る位置に配置されている、請求項
1に記載の穴あけ工具のボディ。
【請求項3】
クーラント流路と切りくず排出溝を有し、切削時、中心軸まわりに回転する穴あけ工具のボディであって、
前記中心軸に垂直な横断面にて、前記クーラント流路は、回転方向前方側の前方壁部と、中心軸側の軸壁部と、回転方向後方側の後方壁部と、径方向外側の外周壁部とで形成され、
前記軸壁部と前記外周壁部は、当該クーラント流路の内側に向かって張り出す凸曲面で構成され
、
前記中心軸に垂直な横断面にて、前記切りくず排出溝を除いた中実部には、切削時に当該切りくず排出溝を通って排出される切りくずまたはクーラントから作用する力を受ける前溝壁面から回転方向後方側へ離れた位置であって、かつ、前記横断面にて当該ボディのうち前記切りくず排出溝と干渉していない心棒の部分からなる芯部よりも径方向外側となる位置に前記クーラント流路が配置され、
前記中心軸に垂直な横断面にて、前記前溝壁面から見て、前記中実部における周方向中心よりも回転方向後方側へ離れた位置に配置され、
前記中心軸に垂直な横断面にて、
前記クーラント流路は、回転方向後方かつ径方向外側に向かい、径方向に対して傾斜した状態で配置されている
、穴あけ工具のボディ。
【請求項4】
前記外周壁部の曲率が、前記軸壁部の曲率よりも大きい、請求項
3に記載の穴あけ工具のボディ。
【請求項5】
前記クーラント流路は、前記中心軸から前記外周壁部までの距離が、前記前方壁部側の端部における前方距離よりも、前記後方壁部側の端部における後方距離が長くなる形状である、請求項
3に記載の穴あけ工具のボディ。
【請求項6】
前記軸壁部の少なくとも一部が、前記中心軸の同心円に沿った円弧形状である、請求項
3に記載の穴あけ工具のボディ。
【請求項7】
当該クーラント流路の回転方向後方側における前記中実部と前記切りくず排出溝との間に位置する後溝壁面に対し、前記クーラント流路が0.4mm以上離れている、請求項
1に記載の穴あけ工具のボディ。
【請求項8】
当該ボディの外周面に対し、前記クーラント流路が0.4mm以上離れている、請求項
1に記載の穴あけ工具のボディ。
【請求項9】
前記軸壁部は、当該ボディの外周面と前記中心軸との距離Dに対し、前記外周面から0.35D以上離れた点を通る、請求項
3に記載の穴あけ工具のボディ。
【請求項10】
前記クーラント流路が2本一対の流路で構成されている、請求項1から
9のいずれか一項に記載の穴あけ工具のボディ。
【請求項11】
前記クーラント流路の開口端が、当該ボディの外周面に形成されている、請求項
10に記載の穴あけ工具のボディ。
【請求項12】
請求項
11に記載のボディを備えた穴あけ工具。
【請求項13】
請求項
12に記載の穴あけ工具であって、前記ボディの先端部に取り付けられるヘッドが着脱可能である、ヘッド交換式の穴あけ工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴あけ工具とそのボディに関する。
【背景技術】
【0002】
穴あけ工具として用いられるドリルには、刃先を冷却することおよび切りくず排出を促すことを目的に、クーラントを供給するためのクーラント流路がボディに設けられたものがある。従来のクーラント流路は、工具先端側の切れ刃近傍や切りくず排出溝(フルート)の内部、あるいはボディ側面に、穴あけ工具で加工可能な断面丸形として設けられていることがある。ただ、クーラント流路の断面形状を丸形状とする場合、クーラント穴を大きくすると剛性を確保することが難しくなることから、冷却性能が制限されてしまうことがあった。
【0003】
このような問題に対処するべく、クーラント流路の断面形状を非円形たとえば楕円形状にしたドリルが提案されている(たとえば特許文献1参照)。ここでは、楕円形状のクーラント流路の出口を工具先端側の切れ刃近傍に開口させ、切れ刃全体にクーラントを供給することで冷却効率を向上させるという対策が行われている。
【0004】
また、クーラント流路の形状を、工具の基端部から先端部へ向かう経路の途中で円形状から本体部の軸断面における径方向よりも円周方向に長い非円形状へと変化させた工具が提案されてもいる(たとえば特許文献2参照)。上記のようにクーラント流路の断面形状を非円形としたドリルや工具は他にも提案されている(特許文献3~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-154883号公報
【文献】特許第7205656号公報
【文献】特開2011-020256号公報
【文献】特表2016-514625号公報
【文献】国際公開第2023/058950号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、工具の剛性、クーラント供給量、切りくずの排出性能、刃先寿命の向上といった点からすると、従来の穴あけ工具にはとくにクーラント流路の形状や流路位置に関してまだ改良の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は、クーラント流路の形状および流路の位置を工夫することでドリルの剛性を損なうことなくクーラント供給量を増加させ、さらには切りくず排出性と刃先寿命の向上に寄与するようにした穴あけ工具とそのボディを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するべく、本発明者は、上記のごとき問題を念頭におきつつクーラント流路やその周辺の構造に着目して種々検討した。楕円形状すなわち長軸と短軸に線対称な放物線2組が繋がった形状は放物線における頂点を4点有していて、切削加工時に受ける外力がこれら4点に集中していわば応力集中部となることから、どうしても剛性が低下してしまうと考えられる。また、穴あけ工具でクーラント流路を加工するとすれば、任意の位置において当該クーラント流路を滑らかに曲げるといったことは困難であるため、剛性を確保するにはクーラント流路を十分に大きくすることができず、クーラントの供給量が少なくなってしまう。また、そもそも、クーラント流路の開口端が切れ刃の近傍に配置すると、ドリル先端部が中空となって剛性の低下を招くといった点も問題である。これらに着目し、検討を進めた結果、本発明者は課題の解決に結びつく知見を得るに至った。
【0009】
本発明はかかる知見に基づき想到したものであって、その一態様は、クーラント流路と切りくず排出溝を有し、切削時、中心軸まわりに回転する穴あけ工具のボディであって、
クーラント流路は、
中心軸に垂直な横断面にて、一対の直線部を含む長円形状であり、
中心軸に垂直な横断面にて、切りくず排出溝を除いた中実部には、切削時に当該切りくず排出溝を通って排出される切りくずまたはクーラントから作用する力を受ける前溝壁面から回転方向後方側へ離れた位置であって、かつ、横断面にて当該ボディの芯部よりも径方向外側となる位置に配置されている、穴あけ工具のボディである。
【0010】
上記のごとき穴あけ工具のボディにおいては、ボディの芯部よりも径方向外側にクーラント流路が配置されていることから、芯部の厚みないしは太さを確保して工具の剛性を得ることができる。また、クーラント流路が、前溝壁面から回転方向後方側へ離れた位置に配置されていることから、穴あけ加工時に前溝壁面から回転方向後方側へと作用する外力の影響で当該クーラント流路が変形するのを抑制することができる。さらには、クーラント流路が、一対の直線部を含む長円形状であることから、応力が集中する箇所を少なくし、当該クーラント流路が変形するのをさらに相乗的に抑制することが可能となっている。
【0011】
上記のごとき穴あけ工具のボディにおいて、クーラント流路は、中心軸に垂直な横断面にて、前溝壁面から見て、中実部における周方向中心よりも回転方向後方側へ離れた位置に配置されていてもよい。
【0012】
上記のごとき穴あけ工具のボディにおいて、芯部は、切りくず排出溝と干渉していない、当該ボディの心棒の部分であってもよい。
【0013】
上記のごとき穴あけ工具のボディの中心軸に垂直な横断面にて、クーラント流路は、その一部が芯部に接する程度に近接した位置に配置されていてもよい。
【0014】
上記のごとき穴あけ工具のボディの中心軸に垂直な横断面にて、長円形状であるクーラント流路は、回転方向後方かつ径方向外側に向かい傾斜した状態で配置されていてもよい。
【0015】
本発明の別の一態様は、クーラント流路と切りくず排出溝を有し、切削時、中心軸まわりに回転する穴あけ工具のボディであって、
中心軸に垂直な横断面にて、クーラント流路は、回転方向前方側の前方壁部と、中心軸側の軸壁部と、回転方向後方側の後方壁部と、径方向外側の外周壁部とで形成され、
軸壁部と外周壁部は、当該クーラント流路の内側に向かって張り出す凸曲面で構成されている、穴あけ工具のボディである。
【0016】
上記のごとき穴あけ工具のボディの中心軸に垂直な横断面にて、切りくず排出溝を除いた中実部には、切削時に当該切りくず排出溝を通って排出される切りくずまたはクーラントから作用する力を受ける前溝壁面から回転方向後方側へ離れた位置であって、かつ、横断面にて当該ボディの芯部よりも径方向外側となる位置にクーラント流路が配置されていてもよい。
【0017】
上記のごとき穴あけ工具のボディにおいて、外周壁部の曲率が、軸壁部の曲率よりも大きくてもよい。
【0018】
上記のごとき穴あけ工具のボディにおいて、クーラント流路は、中心軸から外周壁部までの距離が、前方壁部側の端部における前方距離よりも、後方壁部側の端部における後方距離が長くなる形状であってもよい。
【0019】
上記のごとき穴あけ工具のボディにおいて、軸壁部の少なくとも一部が、中心軸の同心円に沿った円弧形状であってもよい。
【0020】
上記のごとき穴あけ工具のボディにおいて、当該クーラント流路の回転方向後方側における中実部と切りくず排出溝との間に位置する後溝壁面に対し、クーラント流路が0.4mm以上離れていてもよい。
【0021】
上記のごとき穴あけ工具のボディにおいて、当該ボディの外周面に対し、クーラント流路が0.4mm以上離れていてもよい。
【0022】
上記のごとき穴あけ工具のボディにおいて、軸壁部は、当該ボディの外周面と中心軸との距離Dに対し、外周面から0.35D以上離れた点を通っていてもよい。
【0023】
上記のごとき穴あけ工具のボディにおいて、クーラント流路が2本一対の流路で構成されていてもよい。
【0024】
上記のごとき穴あけ工具のボディにおいて、クーラント流路の開口端が、当該ボディの外周面に形成されていてもよい。
【0025】
本発明の一態様に係る穴あけ工具は、上記のごときボディを備えたものである。
【0026】
本発明の一態様に係るヘッド交換式の穴あけ工具は、上記のごとき穴あけ工具であって、ボディの先端部に取り付けられるヘッドが着脱可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係るヘッド交換式ドリル(穴あけ工具)の一例を示す斜視図である。
【
図2】ボディの先端部からヘッドを取り外した状態のヘッド交換式ドリルを示す斜視図である。
【
図3】ボディの中心軸に垂直な方向から見たヘッド交換式ドリルを示す図(側面図)である。
【
図4】
図3中のIV-IV線におけるボディの横断面図である。
【
図5】クーラント流路の形態の一例を示す概観図である。
【
図6】ボディの横断面における構成をより詳細に示した図である。
【
図7】断面形状を一対の直線部を含むトラックのような長円形状としたクーラント流路における応力集中部について説明する図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態におけるヘッド交換式ドリルの側面図である。
【
図9】
図8中のIX-IX線におけるボディの横断面図である。
【
図10】第2の実施形態におけるクーラント流路の形態の一例を示す概観図である。
【
図11】第1の長円形状C1について説明するボディの横断面図である。
【
図12】第2の長円形状C2について説明するボディの横断面図である。
【
図13】前方壁部が円弧状である場合、当該円弧を含む仮想円VCの中心点と中心軸との距離が所定値である構造について説明する図である。
【
図14】ボディの剛性が低下してしまうのを抑止したクーラント流路の構造の他の例を説明する図である。
【
図15】楕円形状のクーラント流路を参考として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る穴あけ工具とそのボディの好適な実施形態について詳細に説明する(
図1等参照)。
【0029】
本発明に係る穴あけ工具は、クーラント流路50と切りくず排出溝30を有し、切削時、被削材(図示省略)に対して中心軸10Aまわりに相対回転するボディ10を有する工具である。以下では、穴あけ工具の一例としてヘッド交換式ドリル1に本発明を適用した場合について説明するが、これは好適な一例にすぎず、ヘッド交換式ドリル1以外の穴あけ工具にも本発明を適用可能であることはいうまでもない。
【0030】
ヘッド交換式ドリル1は、ボディ10の先端部10tに装着可能な切削用のヘッド20を備えている(
図1、
図2参照)。ヘッド交換式ドリル1のボディ10の基端部10bはその外周部16がたとえば円柱形に形成されていて、マシニングセンターやフライス盤などの切削装置に着脱可能となっている。ボディ10の先端部10t側の外周には、切りくずを排出するための切りくず排出溝(フルートとも呼ばれる)30が溝状に彫り込まれて螺旋状に形成されている(
図1、
図3等参照)。本実施形態では、2本の螺旋状の切りくず排出溝30を、中心軸10Aを中心に軸対称となるように配置している(
図5等参照)。本実施形態のヘッド交換式ドリル1の切削時における回転方向は、ボディ10の先端部10t側から後端部10b側を見た断面図である
図6(
図3のIV-IV線における断面図)において反時計回りの方向である(以下、ドリル回転方向ともいう)。
【0031】
ボディ10の内部には、ヘッド20に向けクーラントを供給するためのクーラント流路50が設けられている(
図4等参照)。本実施形態では、2本で一対の螺旋状の流路を、中心軸10Aを中心に軸対称となるように配置してクーラント流路50を構成している(
図6等参照)。これらクーラント流路50は、ヘッド交換式ドリル1の剛性を損なうことなくクーラント供給量を増加させ、かつ、切りくず排出性とヘッド20の刃先寿命の向上に寄与するように、その形状や流路位置が設定されている。
【0032】
[第1の実施形態]
本実施形態のヘッド交換式ドリル1におけるクーラント流路50は、中心軸10Aに垂直な横断面にて、一対の対向する直線部50Sを含む(
図6、
図7参照)、トラックのような長円形状(別言すれば、長い非円形状)となっている(
図4、
図6等参照)。クーラント流路の断面形状が楕円形状である場合、穴あけ加工時に作用する応力が集中しやすい部分が放物線における頂点をとなる計4か所になるのに対し(
図15中、丸印で示す4か所)、本実施形態のごとく断面形状を一対の直線部50Sを含むトラックのような長円形状とした場合、応力が集中しやすい部分を2か所に減らすことができる(
図7参照)。
【0033】
中心軸10Aに垂直な横断面における、切りくず排出溝30を除いた部分(本明細書では「中実部」といい、図中では符号40で示す)の前溝壁面41は、ヘッド交換式ドリル1による穴あけ加工時、切りくず排出溝30を通って排出される切りくずまたはクーラントから力が作用する力の作用面Fとなる(
図6参照)。本実施形態では、クーラント流路50を、この前溝壁面41からドリル回転方向の後方(
図6において時計回りの方向)側へ離れた位置であって、かつ、横断面にてボディ10の芯部12よりも径方向外側となる位置に配置し、力の作用面F(すなわり、前溝壁面41)から遠ざかるようにしている(
図6参照)。さらに、本実施形態では、長円形状であるクーラント流路50を、ドリル回転方向の後方かつ径方向外側に向かって傾斜した状態で配置し、とくに径方向外側の部分が力の作用面Fから遠ざかるようにしている(
図6参照)。このように、力の作用面Fとなる前溝壁面41から離れた位置にクーラント流路50を配置したことにより、穴あけ加工時に前溝壁面41から回転方向後方側へと作用する外力の影響で当該クーラント流路が変形するのを抑制することが可能となっている。また、ボディ10の芯部12よりも径方向外側にクーラント流路50を配置したことにより、芯部12の厚みないしは太さを確保し、これによってヘッド交換式ドリル1の剛性を得ることが可能となっている。なお、ボディ10の芯部12とは、どの位置における横断面においても切りくず排出溝30やクーラント流路50が入り込んでいない中実の仮想円柱部分、つまりは切りくず排出溝30やクーラント流路50と干渉していない心棒の部分のことをいう。クーラント流路50を、この芯部12よりも径方向外側であって、かつその一部が当該芯部12に接する程度に近接した位置に配置することで、芯部12の厚みないしは太さを極力確保することが可能である(
図6等参照)。
【0034】
上記のごとく、本実施形態のヘッド交換式ドリル1のボディ10においては、芯部12の外側にクーラント流路50を配置することで芯厚を確保し、当該ヘッド交換式ドリル1の剛性が確保できるようにしている。また、クーラント流路50が、中心軸10Aに垂直な横断面にて、前溝壁面41から見て中実部40における周方向中心よりも回転方向後方側へ離れた位置に配置されていることから、ドリル回転方向の力の作用面Fとなる前溝壁面41から作用する力でクーラント流路50が変形するのが抑制され、ひいては当該ヘッド交換式ドリル1の剛性の向上に資するようになっている。さらに、クーラント流路50を径方向に延び、かつ傾斜した状態の長円形状とすることでクーラント流路50の変形の抑制とクーラント流路50の断面積の増加(ひいてはクーラントの供給量の増加)を両立させている。上記のごとき構造は、とくに外径が比較的小さなヘッド交換式ドリル1に適用して好適である。
【0035】
[第2の実施形態]
本実施形態のヘッド交換式ドリル1におけるクーラント流路50は、中心軸10Aに垂直な横断面における断面形状が、前方壁部51、軸壁部52、後方壁部53、外周壁部54で形成される形状となるように形成されている(
図9参照)。
【0036】
前方壁部51は、ドリル回転方向の前方側の、略円弧状の部分である。軸壁部52は、中心軸10A寄りの、ボディ10の芯部12に沿った略円弧状の部分であり、当該クーラント流路50の内側に向かって張り出す凸曲面で構成されている。後方壁部53は、ドリル回転方向の後方側の部分である。外周壁部54は、径方向外側の、緩やかに湾曲する部分であり、当該クーラント流路50の内側に向かって張り出す凸曲面で構成されている。この外周壁部54から、前方壁部51、軸壁部52、後方壁部53までは、それぞれの境界が滑らかに繋がるようして連続的に連なっている。また、後方壁部53と外周壁部54とは、円弧状壁部55を介して滑らかに繋がっている(
図9参照)。軸壁部52は、その少なくとも一部が、中心軸10Aの同心円に沿った円弧形状となっている。また、外周壁部54は、その曲率が、軸壁部52の曲率よりも大きくなっている。
【0037】
また、クーラント流路50は、中心軸10Aに垂直な横断面における中実部40において、前溝壁面41から回転方向後方側へ離れた位置であって、かつ、横断面にて当該ボディ10の芯部12よりも径方向外側となる位置に配置されている(
図9等参照)。上述したように、前溝壁面41は、ヘッド交換式ドリル1による穴あけ加工時、切りくず排出溝30を通って排出される切りくずまたはクーラントから力が作用する力の作用面Fとなる部分である(
図11、
図12参照)。さらに、クーラント流路50は、中心軸10Aから外周壁部54までの距離が、前方壁部51側の端部における前方距離L54fよりも、後方壁部53側の端部における後方距離L54rが長くなる形状となっている(
図9参照)。
【0038】
本実施形態のヘッド交換式ドリル1におけるクーラント流路50は、断面形状がこれら各壁部で形成されることにより、いわば、2つの長い非円形状を外周側、ドリル回転方向後方側ともに内側に凸となる大きな曲率の円弧で滑らかに接続した形状になっている。ここでいう2つの長い非円形状とは、ひとつめが、第1の実施形態のごとき一対の対向する直線部50Sを含むトラックのような第1の長円形状C1であり(
図11参照)、ふたつめが、芯部12に沿うように同心円(またはこれに近似した曲線)上で湾曲する一対の対向する曲線を含む湾曲した第2の長円形状C2である(
図12参照)。なお、本実施形態のごときヘッド交換式ドリル1におけるクーラント流路50では、後方壁部53に直線部50Sがない状態(目視で確認できない状態)になっている(
図12参照)。これについては以下のように説明することができる。すなわち、前方壁部51、軸壁部52、後方壁部53、外周壁部54さらには円弧状壁部55を順次繋いでクーラント流路50を形づくると、クーラント流路50の外縁部分に直線が表れなくなることがあるが、その場合でも、一対の直線部50Sを有する長円形状C1がクーラント流路50の領域内に含まれた状態となることには変わりない(
図11参照)。ちなみに、ドリル径が大きい程、後方壁部53側には直線に近い部分が生じやすくなるという傾向があるが、いずれにしても、直線部50Sを含む第1の長円形状C1と、第2の長円形状C2とを大きな円弧で滑らかに接続した形にするという工夫を施すことで、ヘッド交換式ドリル1の剛性を損なうことなくクーラント供給量を増加させ、さらには切りくず排出性と刃先寿命の向上に寄与するようにしたクーラント流路50を実現することができる。なお、このような観点からすれば、直線部50Sは完全な直線である必要はなく、応力集中を適度に減じることができるものであれば、きわめて緩やかに湾曲する曲線であってもよい。
【0039】
上記のごときクーラント流路50のより具体的な構成は、剛性を損なうことなく当該クーラント流路50の断面積を確保するという観点において種々のものとすることができる。例示すれば、クーラント流路50は、ドリル回転方向の後方側における中実部40と切りくず排出溝30との間に位置する後溝壁面42に対し、0.4mm以上離れた位置に形成されていてもよい。また、クーラント流路50は、ボディ10の外周面(ここでは、ボディ10のうち、切りくず排出溝30が形成された部分の外周部分の周面をいう)14に対し、0.4mm以上離れた位置に形成されていてもよい。さらに、クーラント流路50の断面形状を形づくる軸壁部52が、ボディ10の外周面14と中心軸10Aとの距離Dに対し、外周面14から0.35D以上離れた点を通るように形成されていてもよい。
【0040】
前方壁部51が円弧状である場合、当該円弧を含む仮想円VCの中心点は、およそ0.40D(Dは、中心軸10Aから外周面14までの長さ)のピッチ円上にあってもよい(
図13参照)。仮想円の中心点が045D~0.55Dのピッチ円上にあるとボディ10の剛性が比較的低下しやすくなるのに対し(たとえば特許文献4参照)、こうした構造とすることでそのぶん剛性が低下するのを抑止することが可能となる。
【0041】
また、クーラント流路の断面形状が周方向(回転方向)に非円形の穴形状である場合、配置次第ではボディの剛性が低下してしまう場合がある(たとえば特許文献2参照)。この点を考慮し、以下のようにしてもよい。すなわち、芯部12の円弧部を一辺(この場合、軸壁部52)として有し、その反対側(外周側)に、中心軸10Aから外周面14までの長さDを100%とした場合に外周面14から35%以上(一例として、46%)離れた点を通る、中心軸10Aを中心とした円弧を一辺として有し、ドリル回転方向の前方側に位置する前方壁部51とドリル回転方向の後方側に位置する後方壁部53は共に外側に凸形状で、外周面14や切りくず排出溝30から0.4mm以上離れた位置に配置された、長い非円形状のクーラント流路50のごとき形状である(
図14参照)。
【0042】
また、本実施形態のヘッド交換式ドリル1におけるクーラント流路50は、先端部10t側におけるその開口端59が、ボディ10の外周面14に位置するように形成されている(
図8、
図10等参照)。一般に、クーラント流路50の開口端59がヘッド20の切れ刃の近傍に配置されていると、ボディ10の先端部10tが中空となって剛性の低下を招く場合があるが、上記のごとき本実施形態のヘッド交換式ドリル1によれば剛性低下を回避することが可能である。さらに、クーラント流路50は、ボディ10の基端部10b側の供給口(図示省略)から始まり、ボディ10の内部で滑らかに曲がって外周面14で開口することで圧力損失を抑制し、クーラント供給量を増大できるように形成されている。
【0043】
ここまで説明したように、本実施形態では、2つの長い非円形状部分(すなわち、一方は、ドリル回転方向の後方側かつ芯部12の外側であって、外周面14や中心軸10Aから所定値以上離れた位置に配置した径方向に長い長円形状C1、もう一方は、芯部12に沿った円弧状部分(軸壁部52)を有し、その反対側に、外周面14から所定割合以上離れた点を通る、中心軸10Aを中心とした円弧状部分(外周壁部54)を有し、ドリル回転方向の前方側に位置する前方壁部51と後方側に位置する後方壁部53は共に外側に凸形状である長い長円形状C2という2つの要素)を大きな円弧で繋いだ形状のクーラント流路50とし、かつ、当該クーラント流路50を外周に向かって滑らかに曲がるような形状としたことで、剛性を損なわずに、従来構造のドリル以上(一例として、30%以上)多量のクーラントをヘッド20の刃先へ供給できるようにしている。これによれば、ヘッド交換式ドリル1の強度を維持しつつ、優れた冷却と切りくず排出性を実現することが可能である。
【0044】
上記に関し、個々の構成に照らして説明するとすれば以下のように言い換えることができる。すなわち、軸壁部52を芯部12に沿った円弧状にすることで芯部12の厚みを確保し、もってボディ10の剛性を確保しやすくしている。また、外周壁部54を、外周面14から十分に離れた円弧状部分にすることで、当該クーラント流路50の剛性を確保し、もってボディ10の剛性を確保しやすくしている。さらに、長円形状C2の部分を回転方向に延びる特徴的な非円形状とすることで、クーラント流路50の変形の抑制とクーラント流路50の断面積の増加を両立させている。さらに、クーラント流路50を、外周側、ドリル回転方向の後方側ともに内に凸の大きな曲率の円弧で滑らかに接続した形状とすることで、当該クーラント流路50の変形がさらに抑制されるようにしている。上記のごとき構造は、とくに外径が比較的大きなヘッド交換式ドリル1に適用して好適である。
【0045】
また、従来の工具あるいはそれを製造するための手法においてはクーラント流路を自由に設計することが不可能である場合があるが、反面、本発明に係るヘッド交換式ドリル1ないしはそのボディ10は、たとえば3Dプリンティングを採用することにより、自由な設計のもとに上記のごとき特徴が奏されうる流路形状や位置、態様を実現することが可能なものである。
【0046】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、クーラント流路と切りくず排出溝を有する穴あけ工具とそのボディに適用して好適である。
【符号の説明】
【0048】
1…ヘッド交換式ドリル(穴あけ工具)
10…ボディ
10A…中心軸
10b…基端部
10t…先端部
12…芯部
14…外周面
16…(基端部側の)外周部
20…ヘッド
30…切りくず排出溝
40…中実部
41…前溝壁面
42…後溝壁面
50…(ドリルボディの)クーラント流路
50S…一対の対向する直線部
51…前方壁部
52…軸壁部
53…後方壁部
54…外周壁部
55…円弧状壁部
59…開口端
C1…第1の長円形状
C2…第2の長円形状
D…外周面と中心軸との距離
F…力の作用面
L54f…前方壁部51側の端部における、中心軸10Aから外周壁部54までの前方距離
L54r…後方壁部53側の端部における、中心軸10Aから外周壁部54までの後方距離
VC…仮想円
【要約】
【課題】クーラント流路の形状および流路の位置を工夫することでドリルの剛性を損なうことなくクーラント供給量を増加させ、さらには切りくず排出性と刃先寿命の向上に寄与するようにする。
【解決手段】クーラント流路50と切りくず排出溝30を有し、切削時、中心軸まわりに回転する穴あけ工具のボディ10である。クーラント流路50は、中心軸に垂直な横断面にて、一対の直線部を含む長円形状であり、中心軸に垂直な横断面にて、切りくず排出溝30を除いた中実部40には、切削時に当該切りくず排出溝30を通って排出される切りくずまたはクーラントから作用する力を受ける前溝壁面41から回転方向後方側へ離れた位置であって、かつ、横断面にて当該ボディ10の芯部12よりも径方向外側となる位置に配置されている。
【選択図】
図6