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特許7449520ラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を有効成分として含む幹細胞機能調節用組成物
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  • 特許-ラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を有効成分として含む幹細胞機能調節用組成物 図1a
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を有効成分として含む幹細胞機能調節用組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20240307BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20240307BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N5/074
C12N1/20 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022551698
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-13
(86)【国際出願番号】 KR2021002511
(87)【国際公開番号】W WO2021177680
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】10-2020-0027386
(32)【優先日】2020-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516348577
【氏名又は名称】エムディー ヘルスケア インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MD HEALTHCARE INC.
(73)【特許権者】
【識別番号】520493430
【氏名又は名称】忠北大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】CHUNGBUK NATIONAL UNIVERSITY INDUSTRY-ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ユン-クン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ユン シン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ダ ヒョン
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/106099(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/172598(WO,A1)
【文献】特表2018-529720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌由来細胞外小胞(extracellular vesicles)を有効成分として含む、幹細胞機能調節用組成物であって、
前記ラクトバチルス属細菌がラクトバチルス・パラカゼイであり、
前記幹細胞機能調節が幹細胞の増殖速度を調節するものであり、
前記幹細胞が、扁桃(tonsil)由来の幹細胞である、幹細胞機能調節用組成物。
【請求項2】
前記ラクトバチルス属細菌が、ヒトの体内に由来することを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞機能調節用組成物。
【請求項3】
前記幹細胞が、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)であることを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞機能調節用組成物。
【請求項4】
前記組成物が、幹細胞の増殖(proliferation)を促進させることを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞機能調節用組成物。
【請求項5】
前記細胞外小胞の濃度が、10~1000μg/mlであることを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞機能調節用組成物。
【請求項6】
前記細胞外小胞の平均直径が10~200nmであることを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞機能調節用組成物。
【請求項7】
前記細胞外小胞が、ラクトバチルス属細菌から自然的または人工的に分泌されることを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞機能調節用組成物。
【請求項8】
幹細胞機能調節方法であって、幹細胞培養液にラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を処理する段階を含み、
前記ラクトバチルス属細菌がラクトバチルス・パラカゼイであり、
前記幹細胞機能調節が幹細胞の増殖速度を調節するものであり、
前記幹細胞が、扁桃由来の幹細胞である、幹細胞機能調節方法。
【請求項9】
前記培養液が、DMEM培地、DMEM/F12培地、M199/F12混合物、MEM-アルファ培地、MCDB131培地、IMEM培地、PCM培地及びMSC拡張培地からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項に記載の幹細胞機能調節方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス(Lactobacillus)属由来細胞外小胞(Extracellular vesicles;EVs)を有効成分として含む幹細胞機能調節用組成物及びそれを用いた幹細胞機能調節方法などに関する。
【0002】
本出願は、2020年3月4日付で出願された大韓民国特許出願第10-2020-0027386号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示されたすべての内容は、本出願に援用される。
【背景技術】
【0003】
近年、古細菌、バクテリア、ウイルスをはじめて酵母及びカビなどの真核生物に至るまで、微生物は、人体の内外で様々な生態学的地位(eclolgical niche)を獲得し、ヒトと共生関係を維持している。人体中に存在する微生物の数は、ヒトの全細胞数の10倍以上であり、微生物が保有する遺伝子の数もヒトの遺伝体の数百倍に達する。これらの微生物は、人体内で栄養素の吸収と代謝、免疫系と神経系の成熟と発達、様々な疾患の発生と予防に影響を及ぼすなど、人体との相互作用を通じて主な機能を行うという事実が知られてきた。このように、ヒトは、人体細胞と遺伝体の他にも共生している数多くの微生物の細胞と遺伝子の特性を合わせた超有機体(super-organism)で、人体に自然的に存在するすべての微生物群の集合体をマイクロバイオーム(microbiome)という。
【0004】
ヒトマイクロバイオームは、個人、家族、人種、性別、年齢、食習慣、地域、生活様式などの多様な原因によってダイナミックに変化する。しかし、各個人の微生物群集を構成する微生物種(species)の多様性とは異なり、マイクロバイオームをなす主な機能性遺伝子(core microbiome)は、個体特性と環境条件の差異にも相当部分を共有していることが明らかになった。
【0005】
したがって、ヒト由来の成体幹細胞でもマイクロバイオームの作用を受け、幹細胞の固有の特性である幹細胞能に変化を引き起こすことがある。成体幹細胞を活用する様々な幹細胞の研究が盛んに行われており、成体幹細胞を用いた細胞治療剤の開発のためには、幹細胞に影響を及ぼすマイクロバイオームを確認する過程が必要である。実際、一般的な細胞に対して多様なマイクロバイオームから分泌される物質である細胞外小胞に対する多角的な研究が持続しているが、明確な指標物質として確立されたものは、全くないのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述したような従来技術上の問題を解決するために案出されたもので、本発明の目的は、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌由来細胞外小胞(extracellular vesicles)を有効成分として含む、幹細胞の機能調節用組成物を提供する。
【0007】
本発明の他の目的は、幹細胞培養液にラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を処理する段階を含む、幹細胞機能調節方法を提供することである。
【0008】
しかし、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は、以下の記載から本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が明確に理解できるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記のような本発明の目的を達成するため、本発明は、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌由来細胞外小胞(extracellular vesicles)を有効成分として含む、幹細胞の機能調節用組成物を提供する。
【0010】
本発明の一具現例において、前記ラクトバチルス属細菌は、例えば、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)などでもよいが、種に制限はない。
【0011】
本発明の他の具現例において、前記ラクトバチルス属細菌は、ヒトの体内に由来するものであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0012】
本発明の一具現例において、前記幹細胞は、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0013】
本発明の他の具現例において、前記幹細胞は、扁桃(tonsil)由来の幹細胞であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0014】
本発明のさらに他の具現例において、前記組成物は、幹細胞の増殖(prolifeeration)を促進させるものであってもよい。
【0015】
本発明のさらに他の具現例において、前記細胞外小胞の濃度は、10~1000μg/mlであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0016】
本発明のさらに他の具現例において、前記細胞外小胞は、平均直径が10~200nmであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0017】
本発明のさらに他の具現例において、前記細胞外小胞は、ゼータ電位が-60~30mVであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0018】
本発明のさらに他の具現例において、前記細胞外小胞は、ラクトバチルス属細菌から自然または人工的に分泌されるものであってもよい。
【0019】
また、本発明は、幹細胞培養液にラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を処理する段階を含む、幹細胞機能調節方法を提供する。
【0020】
本発明の一具現例において、前記培養液は、DMEM培地、DMEM/F12培地、M199/F12混合物、MEM-アルファ培地、MCDB131培地、IMEM培地、PCM培地及びMSC拡張培地からなる群から選ばれるものであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0021】
本発明の他の具現例において、前記方法は、幹細胞の増殖速度を調節するものであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌由来細胞外小胞(extracellular vesicles)を有効成分として含む幹細胞機能調節用組成物及び前記細胞外小胞を幹細胞培養液に処理する段階を含む幹細胞機能調節方法などに関し、本発明による組成物または方法を用いれば、幹細胞の増殖能を大きく向上させることができる効果がある。また、前記細胞外小胞は、ヒトの扁桃組織に共生するラクトバチルス属菌株から自然的に分泌されたもので、化学的薬物の処理による幹細胞の増殖促進と比較してひとにやさしく天然的な物質といえる。したがって、幹細胞としての価値を失った老化した幹細胞を最小限の毒性及び副作用で増殖を促進し、多様な研究分野に活用できるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1a及び図1bは、ラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞の形状及びサイズを示す図で、図1aは、ラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を透過電子顕微鏡で観察した写真であり、図1bは、小胞の平均粒子のサイズをグラフで示す図である。
図2図2は、幹細胞培養用培地であるDMEMにおいてラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞のゼータ電位(zeta potential)を測定してグラフで示した図である。
図3図3は、幹細胞にラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞をそれぞれ100、200、300、400及び500μg/mlの濃度で処理した後、同時間帯に増殖程度を比較するために光学顕微鏡で観察した写真である。
図4図4は、幹細胞にラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞をそれぞれ100、200、300、400及び500μg/mlの濃度で処理した後、42時間の間、3時間ごとに増殖程度を測定してグラフで示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[発明を実施するための最良の形態]
本発明者らは、幹細胞に影響を及ぼすマイクロバイオーム細胞外小胞を見つけるために努力した結果、ヒト扁桃組織由来幹細胞の増殖及び幹細胞能に影響を及ぼすラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を確認し、本発明を完成した。
【0025】
それで、本発明は、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌由来細胞外小胞(extracellular vesicles)を有効成分として含む、幹細胞機能調節用組成物を提供しうる。
【0026】
本明細書で使用される用語の「細胞外小胞」とは、様々な細菌から分泌されるナノ(nano)サイズの膜からなる構造物を意味する。ラクトバチルスのようなグラム陽性菌(gram-positive bacteria)由来小胞は、タンパク質と核酸の他にも細菌の細胞壁構成成分であるペプチドグリカン(peptidoglycan)、リポテイコ酸(lipoteichoic acid)、及び小胞内に多様な低分子化合物を有している。
【0027】
前記ラクトバチルス属細菌の種(species)には制限がない。例えば、ラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)、ラクトバチルス・プランタルム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ラムノサス(L.rhamnosus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidophilus)、ラクトバチルス・アミロボラス(L.amylovorus)、ラクトバチルス・カゼイ(L.casei)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・クリスパタス(L.crispatus)、ラクトバチルス・デルブルエッキイー亜種ラクティス(L.Delbrueckii subsp. Lactis)、ラクトバチルス・ブルガリクス(L.bulgaricus)、ラクトバチルス・ファーメンタム(L.fermentum)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(L.helveticus)、ラクトバチルス・ガリナラム(L.gallinarum)、ラクトバチルス・ガセリ(L.gasseri)、ラクトバチルス・ジョンソニー(L.johnsonii)、ラクトバチルス・ロイテリ(L.reuteri)、ラクトバチルス・サリバリウス(L.salivarius)、ラクトバチルス・アリメンタリウス(L.alimentarius)、ラクトバチルス・クルヴァトゥス(L.curvatus)、ラクトバチルス・カゼイ亜種カゼイ(L.casei subsp.casei)、ラクトバチルス・サケ(L.sake)などが本発明の範囲に含まれてもよい。
【0028】
本発明の前記ラクトバチルス属細菌は、ヒトの体内に由来するものであってもよく、好ましくは、幹細胞が由来した組織と同じ組織に由来するラクトバチルス菌株であってもよい。例えば、ヒト扁桃組織由来の間葉系幹細胞の機能調節のためにヒトの扁桃に共生するラクトバチルス菌株を分離し、これから分泌された細胞外小胞を分離するか、または前記分離したラクトバチルス菌株を培養して人工的に分離した細胞外小胞を使用してもよい。しかし、ラクトバチルス菌の由来は、上述した特定組織の由来に制限されるものではない。
【0029】
本発明の前記ラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞は、自然的に分泌されたものであるか、あるいは人工的に分泌された細胞外小胞を含み、ラクトバチルス属細菌の培養液から分離されるか、またはラクトバチルス属細菌で発酵させた食品から分離されてもよい。前記細菌培養液または前記細菌添加発酵食品から細胞外小胞を分離する方法は、細胞外小胞を含むものであれば特に制限されず、例えば、培養液や発酵食品において、遠心分離、超高速遠心分離、フィルターによる濾過、ゲル濾過クロマトグラフィー、フリーフロー電気泳動、キャピラリー電気泳動などの方法及びこれらの組み合わせを用いて細胞外小胞を分離できる。また、不純物を除去するための洗浄、得られた細胞外小胞の濃縮などの過程をさらに含んでもよい。
【0030】
前記方法により分離された細胞外小胞は、平均直径が10~200nmであってもよく、好ましくは、50~150nmであってもよいが、これに制限されるものではない。また、前記細胞外小胞粒子は、-60~30mVの範囲のゼータ電位を示し、殆どの粒子は、-30~-20mVのゼータ電位を示すため、DMEMのような幹細胞培地内で安定的に分散して存在しうる。
【0031】
本明細書で使用された用語の「機能調節」とは、本発明による組成物を幹細胞に処理して幹細胞の増殖能を含むすべての幹細胞の機能に影響を及ぼす行為を意味する。特に、本発明による組成物は、幹細胞の増殖能を飛躍的に向上させる効果があり、老化して幹細胞能を喪失した場合でも増殖能が向上することを示した(実施例3参照)。したがって、前記「機能」とは、好ましくは、幹細胞の増殖能(prolifeeration)を意味し、前記「調節」とは、好ましくは、幹細胞の増殖速度を調節することを意味するが、これに制限されるものではない。
【0032】
本明細書で使用された用語の「増殖(prolifeeration)」とは、細胞数の増加を意味するものである。本発明の好ましい一具現例によれば、同量の幹細胞にラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を処理して培養する場合、成長及び増殖速度が促進されることを確認した。
【0033】
本明細書で使用された用語の「幹細胞」とは、動物の内胚葉(endoderm)、中胚葉(mesoderm)及び外胚葉(ectoderm)由来の細胞に分化できる多分化能(pluripotency)、または組織または機能において密接に関連した細胞に分化できる限定された分化能(multipotency)を有する細胞を意味する。本発明の目的に使用できる幹細胞は、制限なく含まれる。
【0034】
本発明による幹細胞機能調節用組成物が適用されてもよい幹細胞は、その種類が限定されないが、本発明の一具現例において、前記幹細胞は、扁桃、骨髄、臍帯血または脂肪組織由来の間葉系幹細胞であってもよい。前記間葉系幹細胞は、哺乳動物、例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、サル、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、レイヨウ、イヌまたはネコなどから分離したものであってもよいが、これに限定されるものではない。好ましくは、ヒトであってもよい。このような間葉系幹細胞を得る方法に対しては、当業界でよく知られている。
【0035】
本発明の他の態様として、本発明は、幹細胞培養液にラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を処理する段階を含む幹細胞機能調節方法を提供しうる。
【0036】
前記幹細胞培養液は、細胞培養用として通常用いられる公知の基本培地として、例えば、DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)培地、DMEM/F12(Dulbecco's Modified Eagle's Medium/Ham's F-12)培地、M199/F12混合物、MEM-アルファ(alpha Minimal essential Medium)培地、MCDB131培地、IMEM培地、PCM培地またはMSC拡張培地などであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0037】
これら基礎培地は、塩、ビタミン、緩衝液、エネルギー供給源、アミノ酸及び他の物質を含み、幹細胞の培養時に動物由来血清を約10%~30%程度を含み、培養しようとする細胞の成長のための汎用的な栄養分を提供する。
【0038】
幹細胞培養に使用される血清は、胎児、仔ウシ、ウマまたはヒトの血清であってもよく、好ましくは、ウシ胎児血清(fetal bovine serum;FBS)であってもよい。また、動物由来血清と類似した成分を持つ化合物、例えば、BPE(bovine pituitary extract)などを用いてもよい 。
【0039】
また、幹細胞の培養時に、抗生剤、抗真菌剤及び汚染を引き起こすマイコプラズマの成長を防ぐ試剤を添加する方が良い。抗生剤としては、ペニシリン(penicillin)、ストレプトマイシン(streptomycin)またはファンギゾン(fungizone)などの通常の細胞培養に使用される抗生剤を使用してもよい。抗真菌剤としては、アムホテリシンB、マイコプラズマ抑制剤としては、タイロシンを用いることが好ましく、ゲンタマイシン、シプロフロキサシン、アジスロマイシンなどでマイコプラズマ汚染を防止しうる。
【0040】
必要に応じて、L-グルタミンなどの酸化栄養素とピルビン酸ナトリウムなどのエネルギー代謝物質をさらに添加してもよい。
【0041】
このような幹細胞培養用培地に本発明によるラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を適切な濃度で処理することにより、幹細胞の増殖速度を調節できるという効果がある。
【0042】
本明細書及び請求の範囲に使用された用語や単語は、通常的であるか、または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は、自身の発明を最も最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に基づいて、本発明の技術的思想に符合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0043】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかし、下記実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものであり、下記実施例により本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例
【0044】
[実施例1:ラクトバチルス菌株の選別]
ヒトの口腔内扁桃組織にあるマイクロバイオーム(microbiome)を調査し、扁桃組織由来幹細胞に効能があるものと期待されるラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)菌株を選別した。
【0045】
[実施例2:分離した細胞外小胞の特性分析]
前記実施例1で分離したラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞の特性を分析するために透過電子顕微鏡(transmission electron microscopy)を用いて細胞外小胞粒子のサイズと形状を観察し、幹細胞培養用培地であるDMEM(Eagle's minimal essential medium)で細胞外小胞のゼータ電位(zeta potential)を測定し、粒子間の反発力や引力を分析した。
【0046】
その結果、図1a及び図1bに示すように、ラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞は、平均的に60~150nmのサイズを有していることを確認した。また、図2に示すように、ほぼすべての小胞粒子のゼータ電位は、-60~30mVの間で現れることを確認した。これらの結果は、分離された細胞外小胞が培地で凝集されず、適当に分散して安定的に存在できることを示すものである。
【0047】
[実施例3:ラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞の濃度別処理による幹細胞の増殖能促進効果の確認]
前記実施例1で分離したラクトバチルス属細菌由来の細胞外小胞を幹細胞にそれぞれ100、200、300、400及び500μg/mlの濃度で処理した後、同時間帯で幹細胞が増殖された程度を確認した。
【0048】
その結果、図3に示すように、同時間帯の扁桃由来幹細胞の増殖量を比較した結果、500μg/ml濃度のラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を処理した群で増殖が最も活発であることが確認できた。
【0049】
また、老化して増殖能が著しく低下した幹細胞にそれぞれ100、200、300、400及び500μg/mlのラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を処理した後、3時間間隔で42時間の間、細胞増殖飽和度を測定した。
【0050】
その結果、図4に示すように、対照群と比較してラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を処理した群では、すべての濃度群で幹細胞の増殖が著しく促進されることが示された。特に最高濃度である500μg/mlを処理した場合、最初の18時間の間最も早く増殖する様相を呈し、興味深いことに最も低い濃度である100μg/mlを処理した場合でも、処理後21時間が経過した後には200μg/ml以上の細胞外小胞を処理した群と比較して対等な増殖能を示した。
【0051】
前記のような結果を通じて、幹細胞を初期から早く増殖させるためには、400~500μg/ml濃度のラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞で処理することができ、100μg/ml濃度のラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を処理しても1日程度経過すると、幹細胞の増殖量が500μg/ml濃度を処理した場合と同じレベルで促進されることが分かった。
【0052】
特に、老化して幹細胞能を失い、平均以下の成長速度を示す幹細胞にラクトバチルス属細菌由来細胞外小胞を処理したときにも増殖を著しく向上させることが確認された。
【0053】
前述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態で容易に変形が可能であることが理解できるだろう。したがって、前述した実施例は、すべての面で例示的なものであり、限定的なものではないものと理解しなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌由来細胞外小胞(extracellular vesicles)を有効成分として含む幹細胞機能調節用組成物などに関し、本発明による組成物を用いると、幹細胞の増殖能を大きく向上させることができる。また、前記細胞外小胞は、ヒトの扁桃組織に共生するラクトバチルス属菌株から自然的に分泌されたもので、化学的薬物の処理による幹細胞の増殖促進と比較して人にやさしい天然物質であるため、幹細胞としての価値を失った老化した幹細胞を最小限の毒性及び副作用で増殖を促進し、多様な研究分野において活用でき、産業的利用価値が高いものと思料される。
図1a
図1b
図2
図3
図4