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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】情報収集システム及び方法、移動体
(51)【国際特許分類】
   H04W 84/18 20090101AFI20240307BHJP
   H04W 4/38 20180101ALI20240307BHJP
   H04W 4/40 20180101ALI20240307BHJP
【FI】
H04W84/18 110
H04W4/38
H04W4/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020119327
(22)【出願日】2020-07-10
(65)【公開番号】P2022016059
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】木全 崇
(72)【発明者】
【氏名】寺西 裕一
(72)【発明者】
【氏名】河合 栄治
(72)【発明者】
【氏名】原井 洋明
(72)【発明者】
【氏名】中西 徹洋
【審査官】新井 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-107148(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217379(WO,A1)
【文献】特開2003-317193(JP,A)
【文献】国際公開第2020/111133(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
H03J 9/00 - 9/06
H04B 7/24 - 7/26
H04Q 9/00 - 9/16
H04W 4/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の移動体によって取得された情報を中央制御局で収集する情報収集システムにおいて、
情報を取得する位置と、情報を取得する時間と、に関する少なくとも1以上の識別子が予め付与され、当該識別子に応じた位置および時間となった場合に情報を取得する複数の移動体と、
上記移動体から上記情報を受信可能な固定基地局と、
上記固定基地局から有線通信又は無線通信によって上記情報を収集する中央制御局と、を備え、
上記複数の移動体は、一方の移動体が保有する識別子である保有識別子のリストを他方の移動体へ送受信することにより、他方の移動体が保有していない非保有識別子を特定し、特定された上記非保有識別子に応じた情報を一方の移動体から他方の移動体へ送信することで、上記移動体が保有する情報の少なくとも一部を互いに共有し、
更に上記複数の移動体の少なくとも1つの移動体は、上記共有した情報を上記固定基地局を介して上記中央制御局へ情報を送信すること
を特徴とする情報収集システム。
【請求項2】
上記複数の移動体は、発生イベントに関する識別子が更に付与され、当該識別子に対応したイベントが発生した状態となった場合に上記情報を取得すること
を特徴とする請求項1記載の情報収集システム。
【請求項3】
上記複数の移動体は、情報の要求主体の識別子を更に付与され、当該識別子に応じて上記情報を取得すること
を特徴とする請求項1又は2記載の情報収集システム。
【請求項4】
上記複数の移動体は、上記中央制御局から上記識別子を含む情報の収集命令を受信することにより、当該識別子が付与されること
を特徴とする請求項1~3のうち何れか1項記載の情報収集システム。
【請求項5】
収集命令として位置、時間、イベントに関する識別子のいずれか1以上又は全ての条件を指定すること
を特徴とする請求項1~3のうち何れか1項記載の情報収集システム。
【請求項6】
複数の移動体によって取得された情報を中央制御局で収集する情報収集方法において、
情報を取得する位置と、情報を取得する時間と、に関する少なくとも1以上の識別子が予め付与され、当該識別子に応じた位置および時間となった場合に情報を取得する複数の移動体から上記情報を固定基地局へ送信し、上記固定基地局により受信された上記情報を 中央制御局に有線通信又は無線通信により収集する上で、
上記複数の移動体により、一方の移動体が保有する識別子である保有識別子のリストを他方の移動体へ送受信することにより、他方の移動体が保有していない非保有識別子を特定し、特定された上記非保有識別子に応じた情報を一方の移動体から他方の移動体へ送信することで、上記移動体が保有する情報の少なくとも一部を互いに共有し、
更に上記複数の移動体の少なくとも1つの移動体により、上記共有した情報を上記固定基地局を介して上記中央制御局へ情報を送信すること
を特徴とする情報収集方法。
【請求項7】
少なくとも情報を取得する位置と、情報を取得する時間と、に関する1以上の識別子が予め付与され、当該識別子に応じた位置および時間となった場合に情報を取得する手段を備え、
保有する識別子である保有識別子のリストを他方の移動体へ送受信することにより、他方の移動体が保有していない非保有識別子を特定し、特定された上記非保有識別子に応じた情報を他方の移動体へ送信することで、保有する情報の少なくとも一部を互いに共有すること
を特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の移動体により取得された情報を中央制御局において収集する情報収集システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両等の移動体により取得された情報の中央制御局による収集が行われている。各地域を走行する移動体により撮像された画像や、センサーにより検出されたセンサーデータを一の中央制御局に一極集中させることにより、各地域におけるより詳細な状況を一つのデータベースに纏め上げることができ、様々な用途へ活用することが可能となる。
【0003】
移動体が自ら取得した情報を中央制御局へ送信する場合、当該移動体の位置によっては公衆長距離通信が行えない環境にある場合がある。かかる場合には、複数の移動体間において自らが取得した情報を短距離通信を通じて互いに交換することで、互いの保有する情報を共有する。そして、その情報を共有した複数の移動体のうち、少なくとも一の移動体が公衆長距離通信を行うことができる位置に移動したときに、これを中央制御局へ送信する。これにより、一の移動体が公衆長距離通信を行うことができない領域に位置している場合においても、他の移動体に中央制御局への情報伝送を代替させることが可能となる。
【0004】
このような複数の移動体間における短距離通信方法としては、従来より蓄積転送型のDelay Tolerant Network(DTN)を適用する研究が盛んに行われてきた(例えば非特許文献1参照。)。これに加え、長距離無線通信と短距離無線通信とを組み合わせ、Software-Defined Networkによるアドホックネットワークの制御を行うことでこれを実現する方法も提案されている。
【0005】
しかしながら、多数の移動体がDelay Tolerant Network(DTN)に基づいて自らの判断で情報を送信すると、多数の移動体から大量かつ冗長なセンサーデータ等を含む情報が伝送されてしまうという問題点が生じる。例えば、ある特定地域における情報を収集する際において、特に画像等のような比較的容量の大きい情報を収集する場合、各移動体が同一の位置において発生している同一のイベントの画像を同時に撮像し、中央制御局に向けて一斉に送信すると、局所的に通信帯域が逼迫し、しかも中央制御局側においても各移動体から同じ情報が大量に送られることになり冗長になる。
【0006】
例えばインドの街中で牛の画像を収集する場合、牛の脇を通過した全ての移動体(車両)が類似画像を中央制御局に送信することになるが、中央制御局側においてはこれら送信される全ての類似画像は必要なく少なくとも一の画像を取得すれば足りることから、冗長な情報収集となってしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Y. Gong, Y. Xiong, Q. Zhang, Z. Zhang, W. Wang, and Z. Xu, “Anycast Routing in Delay Tolerant Networks,” in IEEE GLOBECOM ’06, 2006,pp. 1-5.
【文献】Teranishi, T. Kimata, E. Kawai, and H. Harai, “Hybrid Cellular-DTN for Vehicle Volume Data Collection in Rural Areas,” in Proc. of the 43rd Annual Computer Software and Applications Conference (COMPSAC 2019), pp. 276-284. 2019, July.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、複数の移動体により取得された情報を中央制御局において、冗長なデータを一斉に送ることなく、通信帯域の逼迫を防ぎつつ収集することが可能な情報収集システム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上述した課題を解決するために、少なくとも情報取得の位置と時間に関する1以上の識別子が予め付与され複数の移動体間において、それぞれ保有する識別子のリストを送受信することにより、一方の移動体が保有する識別子である保有識別子のリストを他方の移動体へ送受信することにより、他方の移動体が保有していない非保有識別子を特定し、特定された上記非保有識別子に応じた情報を一方の移動体から他方の移動体へ送信することで、上記移動体が保有する情報の少なくとも一部を互いに共有し、共有した情報を上記固定基地局を介して中央制御局に送信することで、中央制御局側において上記情報を収集することが可能な情報収集システム及び方法を発明した。
【0010】
第1発明に係る情報収集システムは、複数の移動体によって取得された情報を中央制御局で収集する情報収集システムにおいて、情報を取得する位置と、情報を取得する時間と、に関する少なくとも1以上の識別子が予め付与され、当該識別子に応じた位置および時間となった場合に情報を取得する複数の移動体と、上記移動体から上記情報を受信可能な固定基地局と、上記固定基地局から有線通信又は無線通信によって上記情報を収集する中央制御局と、を備え、上記複数の移動体は、一方の移動体が保有する識別子である保有識別子のリストを他方の移動体へ送受信することにより、他方の移動体が保有していない非保有識別子を特定し、特定された上記非保有識別子に応じた情報を一方の移動体から他方の移動体へ送信することで、上記移動体が保有する情報の少なくとも一部を互いに共有し、更に上記複数の移動体の少なくとも1つの移動体は、上記共有した情報を上記固定基地局を介して上記中央制御局へ情報を送信することを特徴とする。
【0011】
第2発明に係る情報収集システムは、第1発明において、上記複数の移動体は、発生イベントに関する識別子が更に付与され、当該識別子に対応したイベントが発生した状態となった場合に上記情報を取得することを特徴とする。
【0012】
第3発明に係る情報収集システムは、第1発明又は第2発明において、上記複数の移動体は、情報の要求主体の識別子を更に付与され、当該識別子に応じて上記情報を取得することを特徴とする。
【0013】
第4発明に係る情報収集システムは、第1発明~第3発明の何れかにおいて、上記複数の移動体は、上記中央制御局から上記識別子を含む情報の収集命令を受信することにより、当該識別子が付与されることを特徴とする。
【0014】
第5発明に係る情報収集システムは、第1発明~第3発明の何れかにおいて、収集命令として位置、時間、イベントに関する識別子のいずれか1以上又は全ての条件を指定することを特徴とする。
【0015】
第6発明に係る情報収集方法は、複数の移動体によって取得された情報を中央制御局で収集する情報収集方法において、情報を取得する位置と、情報を取得する時間と、に関する少なくとも1以上の識別子が予め付与され、当該識別子に応じた位置および時間となった場合に情報を取得する複数の移動体から上記情報を固定基地局へ送信し、上記固定基地局により受信された上記情報を中央制御局に有線通信又は無線通信により収集する上で、上記複数の移動体により、一方の移動体が保有する識別子である保有識別子のリストを他方の移動体へ送受信することにより、他方の移動体が保有していない非保有識別子を特定し、特定された上記非保有識別子に応じた情報を一方の移動体から他方の移動体へ送信することで、上記移動体が保有する情報の少なくとも一部を互いに共有し、更に上記複数の移動体の少なくとも1つの移動体により、上記共有した情報を上記固定基地局を介して上記中央制御局へ情報を送信することを特徴とする。
【0016】
第7発明に係る移動体は、少なくとも情報を取得する位置と、情報を取得する時間と、に関する1以上の識別子が予め付与され、当該識別子に応じた位置および時間となった場合に情報を取得する手段を備え、保有する識別子である保有識別子のリストを他方の移動体へ送受信することにより、他方の移動体が保有していない非保有識別子を特定し、特定された上記非保有識別子に応じた情報を他方の移動体へ送信することで、保有する情報の少なくとも一部を互いに共有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上述した構成からなる本発明によれば、移動体は、自機と他機との間で保有するSTIのリストからなるSTVを送受信することにより、他機が保有すると共に自機が保有していない非保有識別子を特定し、非保有識別子に応じたSTIに対応する情報を他機から受信することで、保有する情報の少なくとも一部又は全部を互いに共有することができる。
【0018】
このような共有動作を行った後、この共有した情報を固定基地局を介して中央制御局へ送ることができる。この移動体から中央制御局へ送られる情報は、既に自機と他機との間で互いに共有化を図っている。この共有化のプロセスでは、自機と他機との間で、他機が保有すると共に自機が保有していない情報を送受信するものであり、自機と他機との間で既に保有する同一のSTIの条件の下で取得された情報の交換は行わない。
【0019】
このため、移動体において自機と他機との情報の共有化プロセスにおいて通信量を低減することができることは勿論であり、これに加えて中央制御局に対して、各移動体から互いに同一の冗長な情報がそれぞれ送られることを防止することができる。
【0020】
特に本発明によれば、少なくとも一の移動体から中央制御局に対して、共有化した情報が送られればよいことから、冗長な情報が各移動体から一斉に送られることがなく、通信帯域の逼迫を防ぐこともできる。これに加えて、同一条件の情報が通信網を専有してしまい、大事なメッセージが送受信される機会を失って送信完了が遅延する状況や、消失してしまう状況を防止でき、システム全体の性能を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明を適用した情報収集システムの全体構成を示す図である。
図2図2は、移動体のブロック構成を示す図である。
図3図3は、本発明を適用した情報収集システムの動作について説明するための図である。
図4図4は、情報の共有化のプロセスについて説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した情報収集システムについて、図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0023】
図1は、本発明を適用した情報収集システム1の全体構成を示す図である。情報収集システム1は、複数の移動体2と、この移動体2との間で無線通信により通信が可能な固定基地局3と、この固定基地局3との間で有線通信又は無線通信が可能な中央制御局4とを備えている。
【0024】
移動体2は、移動可能なあらゆる手段により構成され、例えば車両、ドローン等の無人航空機、電車等で構成されるが、これに限定されるものではなく、スマートフォンやウェアラブル端末を保持する歩行者も含まれる。以下の例では、移動体2として車両を適用する場合について説明する。
【0025】
移動体2は、図2に示すような情報取得部21と、情報取得部21に接続されたデータ生成部22と、データ生成部22に接続された条件判定部23及びDTN転送部25と、中央制御部4より付与された識別子を保存する命令保存部24と、DTN転送部25に接続された短距離無線通信部28とを備えている。DTN転送部25は、バッファ26とSTV保持部27とを有している。移動体2は、更に位置情報取得部30と、時計31が条件判定部23に接続されている。
【0026】
情報取得部21は、移動体2の外部にある様々な情報を取得する。この情報取得部21は、例えば外部の状況を撮像可能なカメラ、外部における物体を検知するためのセンサー、更には外部の交通状況を検知するためのセンサー等で構成されている。即ち、情報取得部21により取得される情報の例としては、静止画像、動画像、物体(人間や車両、建築構造物)、イベント、車間距離、交通状況等様々な情報であるがこれに限定されるものではない。情報取得部21は、接続されたデータ生成部22を介して情報の取得の指示が送信されてきた場合に、指示を受けた情報を取得する。情報取得部21は、指示を受けて外部から取得した情報をデータ生成部22へ出力する。
【0027】
データ生成部22は、条件判定部23を介して送られてくる中央制御部4から送信される収集命令によって指定されたデータを収集し、転送できるような配布形式へ変換する生成命令に基づいて、情報取得部21に対して情報の取得の指示を送信する。またデータ生成部22は、情報取得部21により取得された情報を受け付ける。データ生成部22は、情報取得部21により受け付けた情報について、実際に転送ができるような配布形式へ加工を施し、これをDTN転送部25へと出力する。
【0028】
命令保存部24は、STI(Spatial-Temporal-Identifier)と呼ばれる識別子が中央制御局4から各移動体2へ予め付与された、あるいは、中央制御部4より都度付与されたSTIを保存する。命令保存部24により保存されるSTIは、RID(Request ID)、SID(Spatial ID)、TID(Temporal ID)の3種類により構成される。なお、この命令保存部24により保存されるものは一のSTIのみならず、STIの集合が保存されるものであってもよい。また、収集命令として位置、時間、イベントに関する識別子のいずれか1以上又は全ての条件を指定するものであってもよい。即ち、上述したSID、TID、EIDの何れか1以上又は全ての条件を、上述した収集命令を介して指定するようにしてもよい。例えば、東京23区内における、明日一日のデータを50m区切りで、車両関係のイベントを収集せよという、収集命令を配信する場合、SIDを介して東京23区内という位置条件を、TIDを介して明日一日という時間条件を、EIDを介して、車両関係のイベント、というイベント条件を指定し、これを各移動体2に対して配信することができる。このようにして、全ての、又は一部のSID、TID、EIDの条件を一斉に配信した後、更に必要に応じて個々の識別子の条件を限定し、更新するようにしてもよい。
【0029】
ここでRIDは、アプリケーション要求IDであり、例えば、情報の要求主体が指定される識別子である。このRIDは、情報の要求主体毎に対してそれぞれ個別のIDとして割り当てられる。このRIDを介して情報の要求主体を区別することが可能となる。
RIDは、アプリケーション毎にSID、TIDの定義が異なる可能性があり、それらを区別するために利用される。例えば、SIDが後述するようにグリッド状に割り当てられるアプリケーションがあれば、市町村単位で割り当てられるアプリケーションもあり得る。このため、各アプリケーション間において同一位置においてRIDの番号が重複する可能性も生じるため、それを回避するためにRIDを通じて区別する。
【0030】
SIDは、いわゆる空間IDであり、情報ものである。このSIDは、例えば地域を表すであってもよく、都道府県レベルの広範囲から、市区町村レベルの中範囲、更には番地レベルの狭い範囲で指定されるものであってもよい。またSIDは、xy座標系で割り振られたグリッド上の各位置を通じて指定されるものであってもよく、例えばGPS(Global Positioning System)を通じて指定される位置座標で特定されるものであってもよい。また、SIDは、論理的な地図情報であってもよい。例えば、SIDを国道1号線の区間に番号を振って特定する識別子で構成してもよい。SIDは、さらに進行方向の情報を含んでもよい。SIDは、例えば、国道1号線の上り方向か下り方向を特定するものであったり、車両の向きや角度を含む識別子として構成してもよい。またSIDは、取得した情報に関する空間的な情報として、例えばカメラの高さやカメラの撮像範囲(Field of View)のような情報を含めてもよい。更に走行している移動体2の位置する標高をSIDとして構成してもよい。このようなSIDを予め保有しておくことにより、移動体2がSIDにおいて指定された位置に到達した場合に、初めて情報を取得する。一方、移動体2がSIDにおいて指定された位置以外にある場合、情報を取得しないように制御する。このような車両の向きに関する情報も含まれるSIDをSTIに含めることにより、交通事故等を中央制御局4へアップロードする場合、その事故現場を単一の方向のみならず、複数方向からの撮像した画像を得ることができ、交通事故の原因を好適に把握することができる。
【0031】
TIDは、情報の取得時刻を表す識別子である。このTIDは、週単位、日単位、時間単位、分単位、秒単位のいかなる単位で指定されるものであってもよく、また時刻で指定されるものであってもよい。更にこのTIDは、一つの時点で構成されていてもよいし、予め指定された期間(例えば、9時00分から10時00分等)であってもよい。このようなTIDを予め保有しておくことにより、移動体2がTIDにおいて指定された時間に到達した場合に、初めて情報を取得する。一方、移動体2がTIDにおいて指定された時間以外にある場合、情報を取得しないように制御する。
【0032】
なお、RIDは、STIにおいて、SID、TIDの条件が同一であっても、要求主体毎にそれぞれ情報を取得することができる。またSID、TIDの条件が同一であっても、要求主体によっては情報の取得をあえて行わないように動作させることもできる。例えば、要求者が、A社であるとした時に、A社と契約関係にない車両から情報が取得されてしまうのを防止することができる。
【0033】
命令保存部24において保存されるSTIでは、少なくともSID、TIDにより構成されていればよく、RIDが含められていなくてもよい。RIDを省略する場合には、デフォルトの要求者を用いるようにしてもよい。
【0034】
条件判定部23は、このようなSTIが保存された命令保存部24に対して都度アクセスし、移動体2の現在位置と現在時刻等を照らし合わせ、実際にSTIを構成する識別子としてのRID、SID、TIDの条件を満たしているかを確認する。移動体2の現在位置は、例えば位置情報取得部30を通じて取得するようにしてもよく、現在時刻は、移動体2内に設置された時計31から取得する。その結果、これらRID、SID、TIDの条件を全て満たす場合には、情報取得を行うべく、条件判定部23は、データ生成部22に対して生成命令を送る。一方、これらRID、SID、TIDの条件の何れか一つでも満たさない場合には、条件判定部23は、データ生成部22に対して生成命令を送ることなくそのまま動作を継続させる。これにより、RID、SID、TIDの条件を全て満たす場合のみ、情報取得部21を介して情報の取得が行われ、これらの条件が全て満たさない場合には、情報取得部21を介した情報の取得は行われない。STIがSID、TIDのみで構成されている場合、SID、TIDの条件を全て満たす場合のみ、情報取得部21を介して情報の取得が行われ、これらの条件が全て満たさない場合には、情報取得部21を介した情報の取得は行われない。
【0035】
DTN転送部25におけるバッファ26は、データ生成部22において生成されたデータを一時的に蓄積する。またDTN転送部25におけるSTV保持部は、命令保存部24において保存されているSTIのリストからなるSTV(Spatial-Temporal-Vector)を保持する。DTN転送部25は、後述するように、他の移動体2との間で、それぞれ保有するSTIのリストからなるSTVを送受信するための制御を行う。
【0036】
短距離無線通信部28は、他の移動体2又は固定基地局3との間で無線通信を行うためのアンテナや通信に必要な各種処理を行うための回路等で構成される。
【0037】
固定基地局3は、各地域における路肩等に配置されてなるゲートウェイ局であり、各移動体2において取得された情報を短距離無線通信部28を介して受信する。固定基地局3は、受信した情報を中央制御局4へ有線通信で送信する場合には、インターネット等の図示しない公衆通信網を介して送信する。また固定基地局3は、受信した情報を無線通信を通じて送信してもよいことは勿論である。
【0038】
なお固定基地局3は、移動体2との間で無線通信により通信する場合に限定されるものではなく、有線通信により通信するものであってもよい。例えば、移動体2が、EV(Electric Vehicle)等のような充電可能な車両である場合、充電器の充電ケーブルを介して固定基地局3と有線通信を行うようにしてもよい。
【0039】
中央制御局4は、固定基地局3から送信されてくる情報を受信してこれを蓄積するサーバである。中央制御局4は、サーバ以外に、各移動体2と無線通信を行い、また固定基地局3と無線通信又は有線通信を行う通信機としての機能も備え、この通信機は車両に搭載されるものであってもよいし、固定型とされていてもよい。固定基地局3では、既に多数の移動体2からの情報が送られ、当該情報が中央制御局4へ送られる。このため、中央制御局4は、各移動体2において取得された情報を一箇所に収集することができる。中央制御局4は、このような情報を一極集中させることで、移動体2により取得された、各地域、各時間帯におけるより詳細な状況を示す情報を一つのデータベースに纏め上げることができ、様々な用途へ活用することが可能となる。
【0040】
中央制御局4は、上述した識別子(RID、SID、TID)を生成した上で各移動体2に配布する。移動体2毎に統一された識別子を配布することで、バッファの容量削減に効果的である。中央制御局2は、各移動体2が保有するルールに基づいて、識別子を生成するようにしてもよい。通信インフラが整備されていない地域(例えば、高山地域の谷となる場所や砂漠の中や新興国等)においても、事前に記憶される識別子の生成ルールに基づいて識別子を作成することができる。このため、通信インフラが整っていない環境においても、本発明の識別子を適用することが可能となるためである。特に後述するイベント情報識別子(EID)をSTIに含める場合において効果的である。中央制御局4は、情報の収集を行う場合、移動体2や固定基地局3に対して、情報の収集命令を配信する。この情報の収集命令には、上述したRID、SID、TIDからなるSTIが含められる場合もある。各移動体2は、この情報の収集命令を受信し、これに含まれるSTIが付与されることになる。中央制御局4は、この収集命令を生成し、これを管理する役割を担う。ちなみに、中央制御局4は、この収集命令を移動体2に配信する場合、無線通信を通じて行う。この無線通信は、例えばモバイル公衆通信網や衛星通信等を用いた、いわゆる長距離無線通信で行うようにしてもよい。中央制御局4は、各移動体2の現在位置をそれぞれ通知する機能を備えてもよい。また中央制御局4は、各移動体2に対して付与すべきSTIを生成し、これを移動体2に対して予め配信しておく。このとき、STIの生成ルールを事前に移動体2側へ配布してもよい。すなわち、移動体2側でSTIを生成する際に必要なルールを事前配布し、或いは製造時や通信可能状態時に更新しておく。これにより、移動体2間で必要とした情報を中央制御局4へ配信することも可能となる。
【0041】
なお、本発明によれば、この取得した情報を中央制御局4へ送信することは必須ではなく、共有した情報を移動体2間において互いに保持した状態で終了するものであってもよい。
【0042】
次に、本発明を適用した情報収集システム1の動作について説明をする。
【0043】
図3に示すように各移動体2a、2bは、自身の移動目的の下、移動を続ける。移動体2a、2bは、この移動の過程において、自身の現在位置と現在時刻を随時取得する。そして、各移動体2内における条件判定部23により、命令保存部24に格納されているSTIを読み出し、実際にSTIを構成する識別子としてのRID、SID、TIDの条件を満たしているかを確認する。その結果、これらRID、SID、TIDの条件を全て満たす場合には、情報取得を行うべく、条件判定部23により、データ生成部22に対して生成命令を送る。一方、これらRID、SID、TIDの条件の何れか一つでも満たさない場合には、特に条件判定部23からデータ生成部22に対して生成命令を送ることなく各移動体2a、2bは移動を継続させる。
【0044】
このような各移動体2a、2bの移動に基づいて、条件判定部23による条件判定を各位置、各時刻につき条件成立の可否判断を随時実行する。仮に条件判定部23により、データ生成部22に対して生成命令が送られた場合、当該データ生成部22は、情報取得部21に対して情報の取得の指示を送信する。この情報の取得に指示は、実際にいかなる情報を取得するのか、詳細を指定される場合もある。
【0045】
情報取得部21は、データ生成部から送信される情報の取得の指示が送信されてきた場合に、車両に設けられるカメラやセンサー等から情報を取得する。情報取得部21により取得された情報は、データ生成部22へ出力され、転送ができるような配布形式へ加工が施された上で、バッファ26へ送られる。バッファ26は、データ生成部22から情報が送られる都度、加工が施された情報を蓄積する。
【0046】
以上より、各移動体3は、移動の過程でSTIの条件に合致する都度、情報を取得し、収集した情報を自身のバッファ26に順次蓄積する。その結果、各移動体3内には、STIの条件に合致する情報がだんだん蓄積されてくることになる。
【0047】
このような移動体2による移動と情報の取得を繰り返す過程で、複数の移動体2が近接する場合には、互いに近距離無線通信を通じて互いの保有する情報を送受信することで保有情報の共有化を図る。
【0048】
この情報の共有化のプロセスでは、図4に示すように、移動体2aと移動体2bが互いに近接して近距離無線通信を行う場合、移動体2aは、STIとして(r0,s2,t1)、(r0,s3,t0)が付与され、当該STIをリスト化したSTVを保有しているものとする。移動体2bは、STIとして(r0,s2,t0)、(r0,s3,t0) 、(r0,s0,t0)が付与され、当該STIをリスト化したSTVを保有しているものとする。この保有している識別子を、保有識別子ともいう。また移動体2aは、自身の保有するSTIに基づいて、情報D1、D2を取得して自身のバッファ26に蓄積している。移動体2bも自身の保有するSTIに基づいて、情報D3、D4、D5を取得して自身のバッファ26に蓄積している。
【0049】
このような状況の下、先ずは移動体2a、2b間において互いの保有するSTVを送受信する。移動体2bは、ステップS11に示すように、自身のSTVとしてSTI(r0,s2,t0)、(r0,s3,t0) 、(r0,s0,t0)をリスト化したデータを移動体2aに送信する。この移動体2aは、移動体2bからSTVを受信することで、移動体2bが保有しているSTIが何であるかを判別することができる。
【0050】
次に移動体2aにおけるDTN転送部25は、自機が保有しているSTIと、移動体2b(他機)が保有しているSTIを互いに照合する。DTN転送部25は、移動体2a(自機)が保有していなくて、移動体2b(他機)が保有している非保有識別子を特定する。図4の例において、移動体2aにとっての非保有識別子は、(r0,s2,t0)、 (r0,s0,t0)であることから、DTN転送部25は、当該非保有識別子に基づいて取得された情報のリクエストを移動体2bへ送信する(ステップS12)。
【0051】
次にステップS13に移行し、移動体2bは、このリクエストを受けて、この非保有識別子は、(r0,s2,t0)、 (r0,s0,t0)の条件を満たす情報としてD3、D5を移動体2aに送信する。これにより移動体2aは、保有する情報はD1~D3、D5となる。
【0052】
次にステップS14へ移行し、移動体2aは、自機が保有しており、他機(移動体2b)が保有していないSTIとしての(r0,s2,t1)を送る。このSTI(r0,s2,t1)は、移動体2bにとっては非保有識別子となる。また移動体2aは、移動体2bに対して、その非保有識別子に応じた条件を満たす情報としてD1を送信する。これにより移動体2bは、保有する情報は、D1、D3~D5となる。
【0053】
このようにして移動体2aと移動体2bは、一方の移動体2が保有する識別子である保有識別子(STI)のリストを他方の移動体2へ送受信することにより、他方の移動体2が保有していない非保有識別子を特定し、特定された非保有識別子に応じた情報を一方の移動体2から他方の移動体2へ送信することで、移動体2が保有する情報の少なくとも一部を互いに共有する。自機と他機との間で保有するSTIのリストからなるSTVを送受信することにより、他機が保有すると共に自機が保有していない非保有識別子を特定し、非保有識別子に応じたSTIの条件を満たす情報を他機から受信することで、保有する情報の少なくとも一部又は全部を互いに共有することができる。
【0054】
このような共有動作を行った後、この共有した情報を固定基地局3へ送信する。固定基地局3は、共有した情報を受信した場合には、これを中央制御局4へと転送する。これにより、中央制御局4は、共有した情報を得ることができる。ちなみに、全ての移動体2が情報を送信する必要は無く、少なくとも一の移動体2が、この共有した情報を送信することができればよい。
【0055】
この移動体2から送られる情報は、既に自機と他機との間で互いに共有化を図っている。この共有化のプロセスでは、自機と他機との間で、他機が保有すると共に自機が保有していない情報を送受信するものであり、自機と他機との間で既に保有する同一のSTIの条件の下で取得された情報の交換は行わない。
【0056】
このため、移動体2において自機と他機との情報の共有化プロセスにおいて通信量を低減することができることは勿論であり、これに加えて中央制御局4に対して、各移動体2から互いに同一の冗長な情報がそれぞれ送られることを防止することができる。
【0057】
特に本発明によれば、少なくとも一の移動体2から中央制御局4に対して、共有化した情報が送られればよいことから、冗長な情報が各移動体2から一斉に送られることがなく、通信帯域の逼迫を防ぐこともできる。これに加えて、同一条件の情報が通信網を専有してしまい、大事なメッセージが消失してしまうことも防止でき、システム全体の性能を大幅に向上させることができる。
【0058】
本発明は、移動体2の保有するバッファ26のサイズがあまり大きくない場合や収集対象のデータサイズが大きい場合であっても、データ収集の性能を維持できるという顕著な効果を奏する。また通信インフラがあまり整備されていない新興国では、一の移動体2からは固定基地局3を介して情報を送信できる一方、他の移動体2からは固定基地局3が近辺に無いため情報を送信できない場合もある。かかる場合であっても移動体2間で既に情報の共有化を行っていることから、情報を送信できない他の移動体2は、情報を送信できる位置の移動体2に自らの情報伝送を代替させることが可能となる。また新興国に限らず、建築構造物の関係で電波が届きにくい位置に移動体2がある場合、他の移動体2に自らの情報伝送を代替することができる利点もある。
【0059】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、例えば、発生イベントが指定されたイベント情報識別子(EID)をSTIに含めてもよい。このEIDは、指定されたイベントの条件を満たす場合に情報を取得するためのものである。例えば、EIDに規定されているイベントの条件が、牛がある位置、時刻に存在する、という事象が検出された場合であるものとする。かかる場合には、条件判定部23は、このEIDにおいて指定されたイベントが発生しているかを都度判定する。かかる場合には、例えばカメラにより外部を撮像し、撮影された画像を分析して牛が含まれるか否かを判定する。この判定には、必要に応じて既存のディープラーニングの技術を活用するようにしてもよい。そして、撮像した画像に牛が含まれる旨を確認した場合には、イベントの条件を満たすものとして、条件判定部23は生成命令をデータ生成部22に送信する。
【符号の説明】
【0060】
1 情報収集システム
2 移動体
3 固定基地局
4 中央制御局
21 情報取得部
22 データ生成部
23 条件判定部
24 命令保存部
25 DTN転送部
26 バッファ
27 STV保持部
28 短距離無線通信部
30 位置情報取得部
31 時計
図1
図2
図3
図4