(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】パッカー装置および湧水圧測定方法
(51)【国際特許分類】
E21B 47/06 20120101AFI20240307BHJP
G01V 9/02 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
E21B47/06
G01V9/02
(21)【出願番号】P 2020127601
(22)【出願日】2020-07-28
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000168506
【氏名又は名称】鉱研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】平塚 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山本 肇
(72)【発明者】
【氏名】熊本 創
(72)【発明者】
【氏名】増岡 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】久我 俊充
(72)【発明者】
【氏名】森山 和義
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-021315(JP,A)
【文献】特開2012-036676(JP,A)
【文献】特開平09-025783(JP,A)
【文献】特開2008-069860(JP,A)
【文献】特開2020-094433(JP,A)
【文献】特開2019-011622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 47/06
E21B 33/00
E21B 34/00
G01V 9/02
F16K 31/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーリング孔に配管されたケーシングの先端部に設けられて、ボーリング孔先端部の湧水を前記ケーシング内に取り込むパッカー装置であって、
前記ケーシングの先端から突出するように配置される採水管と、
前記採水管の基端に接続された切替バルブと、
前記切替バルブを介して前記採水管に連結された基端流路と、
前記採水管に周設されて前記ボーリング孔先端部において拡張する前方パッカーと、
前記前方パッカーの後方で前記採水管に周設されて前記ケーシング内において拡張する後方パッカーと、
前記切替バルブから前記前方パッカー
及び前記後方パッカーに至るパッカー流路と、
を備えていることを特徴とする、パッカー装置。
【請求項2】
前記採水管は、前記前方パッカーが周設された第一管材と、前記後方パッカーが周設された第二管材とを備えており、
前記第一管材と前記第二管材は、前記前方パッカーおよび前記後方パッカーが拡張した状態で前記ケーシングに孔口側から引張力が作用した際に離隔するように連結されていて、
前記パッカー流路は、前記第一管材と前記第二管材とが離隔した際に、分断されることを特徴とする、請求項1に記載のパッカー装置。
【請求項3】
前記第一管材と前記第二管材は、接続ピンを介して接続されており、
前記接続ピンは、前記引張力が作用した際に切断されることを特徴とする、請求項2に記載のパッカー装置。
【請求項4】
ボーリング孔を削孔するとともに前記ボーリング孔にケーシングを配設する削孔工程と、
前記ボーリング孔の先端部に請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のパッカー装置を配設する装置配設工程と、
前記パッカー装置の先端から前記ボーリング孔内に流入する湧水の圧力を測定する測定工程と、
前記パッカー装置を回収する装置回収工程と、を備える湧水圧測定方法であって、
前記装置配設工程では、
前記ケーシングを後退させて前記ケーシングの先端と前記ボーリング孔の先端面との間に隙間をあける作業と、
前記ケーシングの孔口側から圧送した水の圧力により前記パッカー装置の先端部を前記ケーシングの先端から突出させる作業と、
前記水の圧力を増加させることで前記切替バルブを切り替えるとともに、前記水を前記パッカー流路に誘導して前記前方パッカーおよび前記後方パッカーを拡張させる作業と、
を行い、
前記測定工程では、前記水の圧力を減少させることで前記切替バルブを元に戻し、前記前方パッカーおよび前記後方パッカーの拡張状態を維持した状態で前記湧水を前記ケーシング内に取り込むことを特徴とする、湧水圧測定方法。
【請求項5】
前記装置回収工程では、水の圧力により坑口側から圧送された接続部材を前記パッカー装置の基端部に接続し、前記接続部材から延設されたワイヤーを巻き取ることにより前記パッカー装置を回収することを特徴とする、請求項4に記載の湧水圧測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル工事において湧水圧の測定に使用するパッカー装置および湧水圧測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事では、切羽前方の地質や湧水区間の状況を事前に把握することが、地山の安定性確保や工事の安全管理のうえで重要である。切羽前方の地質や地下水状況(水理特性等)の探査方法として、水平調査ボーリングを行う場合がある。
水平調査ボーリングにより地下水圧を測定する場合には、ボーリング孔先端の湧水区間の近傍においてパッカーを拡張することで他の区間と区切り、パッカーにより区切られた湧水区間における湧水を測定する。
このような地下水圧測定方法として、例えば、特許文献1に開示された方法がある。特許文献1の地下水圧測定方法では、先端にパッカーを有する管材を、基端側に継ぎ足されたロッドにより押し込むことで所定の位置に配設した後、パッカーを拡張させている。
ところが、削孔距離が百メートル以上の中長距離の調査ボーリングでは、パッカー挿入時のロッドの継ぎ足し作業や、パッカー回収時のロッドの取り外し作業に手間がかかり、切羽前方の湧水区間の水圧を迅速に測定することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ボーリング孔の削孔距離に限定されることなく簡易に設置および回収できるパッカー装置と、このパッカー装置を利用することで切羽前方の湧水区間の水圧を迅速に測定して、速やかにトンネル施工を再開できる湧水圧測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明のパッカー装置は、ボーリング孔に配管された削孔ロッド(ケーシング)の先端部に設けられて、ボーリング孔先端部の湧水を前記ケーシング内に取り込むものであって、前記ケーシングの先端から突出するように配置される採水管と、前記採水管の基端に接続された切替バルブと、前記切替バルブを介して前記採水管に連結された基端流路と、前記採水管に周設されて前記ボーリング孔先端部において拡張する前方パッカーと、前記前方パッカーの後方で前記採水管に周設されて前記ケーシング内において拡張する後方パッカーと、前記切替バルブから前記前方パッカー及び前記後方パッカーに至るパッカー流路とを備えるものである。
前記採水管は、前記前方パッカーが周設された第一管材と、前記後方パッカーが周設された第二管材とを備えており、前記第一管材と前記第二管材は、前記前方パッカーおよび前記後方パッカーが拡張した状態で前記ケーシングに孔口側から引張力が作用した際に離隔するように連結されているのが望ましい。前記パッカー流路は、前記第一管材と前記第二管材とが離隔した際に分断されるように構成しておく。
前記第一管材と前記第二管材は、前記引張力が作用した際に切断される接続ピンを介して接続されているのが望ましい。
【0006】
また、本発明の湧水圧測定方法は、ボーリング孔を削孔するとともに前記ボーリング孔にケーシングを配設する削孔工程と、前記ボーリング孔の先端部に前記パッカー装置を配設する装置配設工程と、前記パッカー装置の先端から前記ボーリング孔内に流入する湧水の圧力を測定する測定工程と、前記パッカー装置を回収する装置回収工程とを備えるものである。前記装置配設工程では、前記ケーシングを後退させて前記ケーシングの先端と前記ボーリング孔の先端面との間に隙間をあける作業と、前記ケーシングの孔口側から圧送した水の圧力により前記パッカー装置の先端部を前記ケーシングの先端から突出させる作業と、前記水の圧力を増加させることで前記切替バルブを切り替えるとともに、前記水を前記パッカー流路に誘導して前記前方パッカーおよび前記後方パッカーを拡張させる作業とを行う。また、前記測定工程では、前記水の圧力を減少させることで前記切替バルブを元に戻し、前記前方パッカーおよび前記後方パッカーの拡張状態を維持した状態で前記湧水を前記ケーシング内に取り込む。
前記装置回収工程では、水の圧力により孔口側から圧送された接続部材を前記パッカー装置の基端部に接続し、前記接続部材から延設されたワイヤーを巻き取ることにより前記パッカー装置を回収するのが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ボーリング孔の削孔距離に限定されることなく、簡易にパッカー装置の設置および回収が可能となり、また、切羽前方の湧水区間の水圧を迅速に測定して、速やかにトンネル施工を再開できるようになる。
本発明のパッカー装置およびこのパッカー装置を利用した湧水圧測定方法によれば、ケーシング内の水圧の調整のみで、パッカー装置の送り込み、パッカーの拡張および湧水の取り込みが可能となる。そのため、パッカー装置用の押込みロッドを用いる必要がなく、所定位置における湧水圧の測定を迅速に実施できる。
また、第一管材と第二管材とが連結された採水管を採用した場合には、ケーシングを引っ張ることでパッカー流路が分断され、分断されたパッカー流路から前方パッカー内および後方パッカー内から水が排水されて、前方パッカーおよび後方パッカーが収縮する。すなわち、ケーシングに引張力を作用させるのみでパッカーが収縮して、パッカー装置の回収が可能になるため、簡易に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るパッカー装置を示す断面図である。
【
図2】本実施形態のパッカー装置を利用した湧水圧測定方法を示すフローチャートである。
【
図3】湧水圧測定方法の削孔工程の概要を示す断面図である。
【
図4】湧水圧測定方法の装置配設工程を示すフローチャートである。
【
図5】装置配設工程の概要を示す断面図であって、(a)はロッド後退作業、(b)は装置圧送作業である。
【
図6】(a)および(b)は装置配設工程のパッカー拡張作業の概要を示す断面図である。
【
図7】湧水圧測定方法の測定工程の概要を示す断面図である。
【
図8】湧水圧測定方法の装置回収工程を示すフローチャートである。
【
図9】(a)および(b)は装置回収工程の第二ロッド後退作業の概要を示す断面図である。
【
図10】
図9に続く装置回収工程の概要を示す断面図であって、(a)はオーバーショット取付作業、(b)は装置引抜作業である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、湧水が予想されるトンネル工事において、事前に地山Gの湧水状況を把握することを目的として、パッカー装置1を利用して切羽前方の湧水圧を測定する湧水圧測定方法について説明する。
図1は、本実施形態のパッカー装置1を示す断面図である。
図1に示すように、パッカー装置1は、採水管2、切替バルブ3、基端流路4、前方パッカー5、後方パッカー6、パッカー流路7および嵌合部材8を備えている。パッカー装置1は、湧水圧を測定する際にケーシング(
図5の削孔ロッド9)内に挿入され、ケーシングの坑口側からケーシング内に送り込まれた水の圧力によってケーシングの先端(ボーリング孔の先端)に送り込まれる。
【0010】
採水管2は、管本体20と、管本体20に周設された第一管材21および第二管材22とを備えている。管本体20は、湧水を集水して後方(孔口側)へ輸送する流路として機能する管材からなる。管本体20は、複数の管材を連結することにより形成されていてもよいし、一本の管材により構成されていてもよい。管本体20の先端には、ストッパー23が形成されている。ストッパー23は、管本体20の外径を拡径する部分であって、管本体20の先端に固定された筒状部材からなる。
第一管材21および第二管材22は、採水管2を構成する管本体20に周設されている。すなわち、管本体20は、第一管材21および第二管材22に挿入されている。第一管材21は管本体20の先端部に配設されていて、第二管材22は第一管材21の後端(孔口側の端部)に、連結されている。
【0011】
第一管材21は、管本体20に対して摺動可能である。第一管材21の先端部の内径は、管本体20の外径と同等で、第一管材21の外径は、ストッパー23の外径以上である。また、第一管材21の後部の内径は、管本体20の外径よりも大きく、管本体20の外面と第一管材21の後部の内面との間には、環状の隙間が形成されている。管本体20と第一管材21との間に形成された隙間21aは、前方パッカー5に水(流体)を誘導するためのパッカー流路7の一部を構成する。
第一管材21の外周面には、前方パッカー5を設置するための凹部21bが形成されている。凹部21bは、第一管材21の周方向に連続する溝である。凹部21bの底部には、隙間21aに通じる挿通孔21cが形成されている。隙間21aを介して圧送された水(流体)は、挿通孔21cを通じて凹部21bに設けられた前方パッカー5に供給される。
第一管材21の基端部の外面には、段差21dが形成されており、段差21dよりも基端側に挿入部21eが形成されている。すなわち、挿入部21eは、第一管材21の後端に形成された縮径部分である。
【0012】
第二管材22は、管本体20に固定された筒状部材である。第二管材22の外面には段差22aが形成されていて、第二管材22の先端部(第二管材先端部22b)の外径がその他の部分の外径よりも小さくなっている。段差22aよりも前方の第二管材先端部22b(縮径部分)には、収容部22cが形成されている。収容部22cの内径は、第一管材21の挿入部21eの外径と同等であり、挿入部21eを収容部22cに挿入することで、互いに嵌合する。収容部22cには、内側(挿入部21e側)に突出する接続ピン24が固定されている。第一管材21と第二管材22は、接続ピン24を介して連結されている。接続ピン24は、例えば、樹脂材料や、挿入部21eと収容部22cとの境界面において弱部(例えば切欠き)が形成された金属材料からなり、第一管材21と第二管材22との間に引き離す力が作用した際に挿入部21eと収容部22cとの境界面において破断するように構成されている。
第二管材22の外周面には、後方パッカー6を設置するための凹部22dが形成されている。凹部22dは、段差22aよりも後方の一般部22eにおいて、周方向に連続するように形成された溝である。
第二管材22の一般部22eの内部には、バルブ収容空間22fが形成されている。バルブ収容空間22fには、管本体20の基端部が入り込んでいる。バルブ収容空間22fは、管本体20の外径よりも大きな幅の空洞であり、バルブ収容空間22fには、切替バルブ3が収容されている。また、バルブ収容空間22fの基端側には、基端流路4が連通している。
第二管材22には、バルブ収容空間22fから凹部22dに至る第一流路22gと、凹部22dから収容部22cに至る第二流路22hとが形成されている。第一流路22gおよび第二流路22hは、パッカー流路7の一部を構成する。
【0013】
切替バルブ3は、第二管材22のバルブ収容空間22fに設けられている。切替バルブ3は、採水管2の基端と基端流路4との間に介設されている。切替バルブ3は、管本体20の外径と同等の外径を有した前部31と、前部31の後方に設けられていて、前部31よりも大きな外径を有した後部32と、前部31に装着されたバネ材33とを備えている。切替バルブ3には、基端面に開口する流路34が形成されている。前部31の外周面には、流路34に通じる開口部35が形成されている。すなわち、流路34は、開口部35を介してバルブ収容空間22fに通じている。
切替バルブ3は、バルブ収容空間22fの内部において、前後(
図1において左右)に摺動可能である。バネ材33は、前部31と後部32との段差部分に係止されていて、切替バルブ3はバネ材33により後方に付勢されている。切替バルブ3は、通常時においては、バルブ収容空間22fの後端面に当接しており、基端流路4と流路34とが連通した状態となっている。このとき、バルブ収容空間22fに面する第一流路22gの開口部は、切替バルブ3(後部32)の外周面により遮蔽された状態となる。一方、切替バルブ3が前方に移動し、後部32の後端が第一流路22gの開口部よりも前側に移動すると、第一流路22gの開口部が露出して第一流路22gと基端流路4とが連通した状態となる。
【0014】
基端流路4は、第二管材22の後部(孔口側端部)に形成されていて、切替バルブ3を介して採水管2(管本体20)に連通している。基端流路4の前部分(採水管2側の部分)41は、バルブ収容空間22fに面して開口しており、基端流路4の後部分42(採水管2と反対側の部分)は前部分41の後端から二つに分岐されて第二管材22の外周面に開口している。すなわち、本実施形態の基端流路4は、断面視T字状に形成されており、前部分41の中心軸が採水管2の中心軸と同軸になるように配置されていて、後部分42の中心軸は前部分41の中心軸と交差(直交)している。
【0015】
前方パッカー5は、第一管材21(採水管2)の凹部21bに周設されている。前方パッカー5は、第一管材21の周方向に連続した環状部材であって、ゴムなどの収縮性を有した材料により構成されている。本実施形態の前方パッカー5は、前後(
図1において左右)に形成された係合部が第一管材21に係合することで固定されているが、前方パッカー5の固定方法は限定されるものではなく、例えば、加硫接着、接着剤、ネジ等により固定することもできる。前方パッカー5は、パッカー流路7(第一流路22g、第二流路22hおよび隙間21a)を介して圧送された水(流体)により第一管材21の外側に向けて拡張する。通常時の前方パッカー5は、外面が第一管材21の外面から突出することがないように、凹部21bに収まっている。一方、水により前方パッカー5が拡張すると、第一管材21の外周面よりも外側に突出する。前方パッカー5は、ボーリング孔BHの先端部において拡張することで、ボーリング孔BHの内壁に密着する。
【0016】
後方パッカー6は、前方パッカー5の後方で、第二管材22(採水管2)の凹部22dに周設されている。後方パッカー6は、第二管材22の周方向に連続した環状部材であって、ゴムなどの収縮性を有した材料により構成されている。本実施形態の後方パッカー6は、前後(
図1において左右)に形成された係合部が第二管材22に係合することで固定されているが、後方パッカー6の固定方法は限定されるものではなく、例えば、加硫接着、接着剤、ネジ等により固定することもできる。後方パッカー6は、第一流路22gを介して圧送された水により第二管材22の外側に向けて拡張する。通常時の後方パッカー6は、外面が第二管材22の外面から突出することがないように、凹部22dに収まっている。一方、水によって後方パッカー6が拡張すると、第二管材22の外周面よりも外側に突出する。後方パッカー6は、ケーシング(削孔ロッド9)内において拡張することでケーシングの内面に密着する。
【0017】
パッカー流路7は、切替バルブ3から後方パッカー6及び前方パッカー5に至る流路である。本実施形態のパッカー流路7は、第二管材22の周壁の内部に形成された第一流路22gおよび第二流路22hと、管本体20と第一管材21との隙間21aとにより構成されている。すなわち、パッカー流路7は、バルブ収容空間22fから後方パッカー6に至る第一流路22g、並びに、後方パッカー6から前方パッカー5に至る第二流路22hおよび隙間21aにより構成されている。このように、パッカー流路7は、基端流路4に取り込まれた水を、後方パッカー6に誘導した後、後方パッカー6内の水を前方パッカー5に誘導する。
【0018】
嵌合部材8は、パッカー装置1の基端に形成された回収用の部材である。本実施形態の嵌合部材8は、オーバーショットと嵌合するワンタッチジョイント式である。
【0019】
図面を参照して、パッカー装置1を利用した湧水圧測定方法について説明する。湧水圧測定方法は、例えば、トンネルの切羽から水平ボーリングを行い、ボーリング孔内の湧水圧を確認することで、切羽前方での地山状況を確認する場合に使用する。
図2は、本実施形態の湧水圧測定方法のフローチャートである。本実施形態の湧水圧測定方法は、
図2に示すように、削孔工程S1、装置配設工程S2,測定工程S3および装置回収工程S4を備えている。
【0020】
図3は、削孔工程S1の概要を示す断面図である。
図3に示すように、削孔工程S1は、地山Gを削孔してボーリング孔BHを形成するとともに、当該ボーリング孔BHに削孔ロッド(ケーシング)9を配設する工程である。本実施形態の削孔ロッド9の先端には、削孔ビット91が固定されている。削孔ビット91は、削孔ロッド9の先端に固定された環状のビットである。削孔ビット91の内径は、削孔ロッド9の内径よりも小さく、削孔ビット91は削孔ロッド9の内側に突出している。削孔工程S1では、削孔ビット91の内空部に図示しないインナービットを取り付けた状態で行う。ボーリング孔BHの削孔では、削孔ロッド9を図示しないボーリングマシンの動力により中心軸を中心に打撃しながら回転させることで、削孔ビット91およびインナービットにより地山Gを全断面切削する。本実施形態のボーリング孔BHは、略水平(基端側よりも先端側が高い状態も含む)に形成する。尚、ボーリング孔BHの削孔方向は略水平方向に限定されるものではなく、例えば下向き、上向き、縦向き(鉛直方向)に削孔してもよい。所定の長さ(深さ)のボーリング孔BHを形成したら、インナービットを回収する。
【0021】
装置配設工程S2は、ボーリング孔BHの先端部にパッカー装置1を配設する工程である。
図4に装置配設工程S2の作業内容を示す。本実施形態の装置配設工程S2は、第一ロッド後退作業S21と、装置圧送作業S22と、パッカー拡張作業S23とを備えている。
図5(a)は、第一ロッド後退作業S21の概要を示す断面図である。第一ロッド後退作業S21では、
図5(b)に示すように、削孔ロッド9を後退させて、削孔ロッド9の先端とボーリング孔BHの先端面(底)との間に隙間をあける。すなわち、ボーリング孔BHの先端部は、地山Gが露出した状態となる。
【0022】
図5(b)および
図6(a)は、装置圧送作業S22の概要を示す断面図である。装置圧送作業S22では、
図5(b)に示すように、削孔ロッド9の孔口側から圧送した水Wの圧力によりパッカー装置1を圧送する。パッカー装置1の先端部(第一管材21)は、は削孔ロッド9の先端から突出させる。パッカー装置1は、水圧により削孔ロッド9の先端部に輸送された後、
図6(a)に示すように、段差22aが削孔ビット91に係止されることで、先端部(第一管材21)が削孔ビット91の先端から突出した状態で留まる。パッカー装置1の圧送に使用した水Wは、パッカー装置1と削孔ロッド9との隙間や、パッカー装置1内(管本体20)を介してボーリング孔BHの先端部に流出した後、ボーリング孔BHと削孔ロッド9との隙間からボーリング孔BHの孔口側へ排水される。
【0023】
図6(b)は、パッカー拡張作業S23の概要を示す断面図である。パッカー拡張作業S23では、
図6(b)に示すように、前方パッカー5および後方パッカー6を拡張させる。
図6(a)に示すように、パッカー装置1が削孔ロッド9の先端に係止されたら、削孔ロッド9内に供給する水Wの水圧を増加させる。水Wの圧力を増加させると、
図6(b)に示すように、水圧により切替バルブ3が前方に移動する(切替バルブ3のポジションが切り替わる)。切替バルブ3が前方に移動すると、切替バルブ3の前部31により管本体20の後端が遮蔽されるとともに、第一流路22g(パッカー流路7)がバルブ収容空間22fに露出するため、バルブ収容空間22f内の水Wがパッカー流路7に誘導される。これにより、パッカー流路7を介して後方パッカー6および前方パッカー5に水Wが圧入される。前方パッカー5は、水圧により拡張して、ボーリング孔BHの内壁に密着する。また、後方パッカー6は水圧により拡張して、削孔ロッド9の内面に密着する。
【0024】
測定工程S3では、ボーリング孔BH内に流入する湧水W
Gをパッカー装置1(採水管2)の先端から回収して、当該湧水W
Gの圧力を測定する。
図7は、測定工程S3の概要を示す断面図である。測定工程S3では、孔口側から圧送する水Wの圧力を減少させる。水Wの圧力が湧水W
Gの圧力よりも小さくなると、採水管2内に取り込まれた湧水W
Gの圧力およびバネ材33(
図1参照)反力により切替バルブ3が元に戻る。ここで、ボーリング孔BH内では、
図7に示すように、前方パッカー5がボーリング孔BHの内壁に密着しており、ボーリング孔BHの先端部に発生した湧水W
Gが前方パッカー5の後方に流出することが防止されているため、管本体20へと湧水W
Gが誘導される。また、切替バルブ3が元の状態に戻ると、パッカー流路7の基端側(第一流路22g)が遮蔽されるため、前方パッカー5および後方パッカー6内の水Wの流出が防止され、前方パッカー5および後方パッカー6の拡張状態を維持した状態で湧水W
Gを取り込むことできる。管本体20の先端から取り込まれた湧水W
Gは、管本体20から切替バルブ3を通って、基端流路4を介して削孔ロッド9に取り込まれて、孔口へと誘導される。削孔ロッド9の孔口では、圧力計等により、湧水圧の測定を行う。
【0025】
装置回収工程S4は、パッカー装置1を回収する工程である。
図8に装置回収工程S4の手順を示す。
図8に示すように、装置回収工程S4は、第二ロッド後退作業S41と、、オーバーショット取付作業S42と、装置引抜作業S43とを備えている。
図9(a)および(b)は、第二ロッド後退作業S41の概要を示す断面図である。第二ロッド後退作業S41では、
図9(a)に示すように、削孔ロッド9を孔口側に引っ張ることで削孔ロッド9を後退させる。このとき、前方パッカー5および後方パッカー6は、拡張した状態が維持されている。後方パッカー6が削孔ロッド9に密着しているため、削孔ロッド9を後退させると、第二管材22が削孔ロッド9とともに後退する。一方、第一管材21は、前方パッカー5が拡張してボーリング孔BHの内面に密着しているため、ボーリング孔BHに固定された状態が維持される。その結果、削孔ロッド9を後退させる力(引張力)によって接続ピン24が切断されて、第一管材21と第二管材22とが離隔する。管本体20は、ストッパー23が第一管材21に接するまで第二管材22とともに後退する。第一管材21と第二管材22とが離隔すると、パッカー流路7(第二流路22hと隙間21a)とが分断される。パッカー流路7が分断されると、前方パッカー5内の水Wおよび後方パッカー6内の水Wがこの部分から流出するため、
図9(b)に示すように、前方パッカー5および後方パッカー6が縮んだ状態となる。
【0026】
図10(a)はオーバーショット取付作業S42の概要を示す断面図である。オーバーショット取付作業S42では、
図10(a)に示すように、パッカー装置1の嵌合部材8にオーバーショット(接続部材)81を取り付ける。オーバーショット81の先端部はワンタッチジョイント式の嵌合部材8と篏合する形状であり、オーバーショット81の後端部にはワイヤー82が接続されている。オーバーショット81は水圧により削孔ロッド9内に送り込まれる。削孔ロッド9の先端側に送り込まれたオーバーショット81は、嵌合部材8と嵌合することで、パッカー装置1に接続される。
図10(b)は、装置引抜作業S43の概要を示す断面図である。
図10(b)に示すように、オーバーショット81をパッカー装置1に接続に接続したら、図示しないウィンチ等によりワイヤー82を巻きとることで、オーバーショット81およびパッカー装置1を回収する。
【0027】
以上、本実施形態のパッカー装置1によれば、ボーリング孔BHの削孔距離に限定されることなく、簡易にパッカー装置1の設置および回収が可能となり、また、切羽前方の湧水区間の水圧を迅速に測定して、速やかにトンネル施工を再開できるようになる。
パッカー装置1を利用した湧水圧測定方法で、削孔ロッド9内の水圧の調整のみで、パッカー装置1の送り込み、パッカー(前方パッカー5および後方パッカー6)の拡張および湧水の取り込みが可能となる。そのため、孔口からパッカー装置1に至る管材(押込みロッド)を用いる必要がなく、所定位置における湧水圧の測定を迅速に実施できる。
また、削孔ロッド9を引っ張ることで、第一管材21と第二管材22とが分断されて、前方パッカー5内および後方パッカー6内の水Wが分断されたパッカー流路7を介して排水されて、前方パッカー5および後方パッカー6が収縮する。このように、孔口側から削孔ロッド9に引張力を作用させるのみでパッカーが収縮して、パッカー装置1の回収が可能になるため、簡易に回収することができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
ストッパー23は、別部材を管本体20に固定することにより形成する場合に限定されるものではなく、例えば、管本体20の先端を加工することにより一体に形成された部分であってもよい。また、ストッパー23は、必ずしも筒状である必要はなく、間欠的に形成された突起であってもよい。
前記実施形態では、第二管材22の外面に、削孔ロッド9に係止する段差22aを有している場合について説明したが、段差22aに代えて、削孔ロッド9と係止する突起が形成されていてもよい。すなわち、第二管材22は、外径が一定の筒状部材の外面に突起が形成されていてもよい。また、第二管材22に突起が形成されている場合には、第二管材22は、突起の前後において個別の筒状部材が連設されていてもよい。
前記実施形態では、削孔ロッド9によりボーリング孔BHを形成することで、ボーリング孔BHの削孔とケーシングの設置を同時に行うものとしたが、ケーシングの設置は、ボーリング孔BHの削孔とは別に、ボーリング孔BHの形成後に行ってもよい。
パッカー流路7は、前方パッカー5と後方パッカー6に対して個別に設けられていてもよい。
前記実施形態では、基端流路4が断面視T字状の場合について説明したが、基端流路4の前部分41と後部分42の角度は限定されるものではなく、例えば、断面視Y字状に接続されていてもよい。
前記実施形態では、測定工程S3において孔口側から圧送する水Wの圧力を湧水WGの圧力よりも小さくすることで、採水管2内に取り込まれた湧水WGの圧力およびバネ材33の反力により切替バルブ3を元に戻すものとしたが、切替バルブ3は湧水WGの圧力またはバネ材33反力のいずれか一方のみで元に戻るものであってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 パッカー装置
2 採水管
20 管本体
21 第一管材
22 第二管材
23 ストッパー
24 接続ピン
3 切替バルブ
4 基端流路
5 前方パッカー
6 後方パッカー
7 パッカー流路
8 嵌合部材
9 削孔ロッド(ケーシング)
BH ボーリング孔
G 地山
W0 湧水