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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ボール弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 5/06 20060101AFI20240307BHJP
   F16K 27/06 20060101ALI20240307BHJP
   F16K 39/06 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
F16K5/06 A
F16K27/06 C
F16K39/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019141188
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021025540
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】毛利 友裕
(72)【発明者】
【氏名】平松 浩司
(72)【発明者】
【氏名】薬師神 忠幸
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-515384(JP,A)
【文献】特開2011-174598(JP,A)
【文献】実公昭46-035760(JP,Y1)
【文献】特公昭48-036537(JP,B1)
【文献】特開昭63-158368(JP,A)
【文献】特開2001-289334(JP,A)
【文献】特開2014-066324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 5/06
F16K 27/06
F16K 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体入口通路、流体出口通路およびこれらの通路と連通する上方に開口した円柱状の凹部を有する本体と、
流体連通路を有し前記本体の前記凹部に基準軸回りに回転可能に配設されたボールと、
前記ボールを基準軸回りに回転させる操作機構と、
周壁に所要の開口部が設けられ、前記ボールと前記本体との間に配設されたボールシートと、
前記ボールシート上方に設けられ、前記ボールシートを押圧するボールシート押えと、
前記凹部内周にねじ合わされ前記ボールシート押えを下方に押圧する押えねじと、
を備えており、前記ボールを前記基準軸回りに回転させることで流体入口通路と流体出口通路との連通と遮断を行うボール弁において、
前記ボールシートは、前記凹部の底の直径より大きい直径の底面を有する略円錐台形状とされ、上面の直径は、前記底面の直径よりもわずかに小さくなされていることを特徴とするボール弁。
【請求項2】
前記ボールシートの前記開口部に内嵌されているリテーナをさらに有している請求項1に記載のボール弁。
【請求項3】
前記ボールシート押えと前記押えねじの間にばね部材を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のボール弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールを回転させることで連通遮断を行うボール弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体入口通路、流体出口通路およびこれらの通路間に設けられた連通部を有する本体と、流体連通路を有し本体の連通部に基準軸回りに回転可能に配設されたボールと、周壁に所要の開口部が設けられた略円筒状をなしボールと本体との間に配設されたボールシートとを備えており、ボールを基準軸回りに回転させることで流体入口通路と流体出口通路との連通遮断を行うボール弁はよく知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-174598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載のバルブにおいて、パッキン押えねじを締め付け、ボールシート押えからボールシートに十分な荷重をかけることでシールがなされ、ボールとボールシートの間およびボールシートと本体の間から流体の漏れを防ぐことができるが、大流量を流す場合や高圧の流体を流す場合においてはシールを行うためにパッキン押えねじの締め付けを強めボールシートに大きな荷重をかける必要がある。これに伴い開閉操作に必要なトルクが大きくなったり、ボールシートに嵌入されたリテーナが変形したりする問題が生じる。
【0005】
ボールバルブの組み立ては、円柱形状の外形を有するボールシートの内部空間にボールを嵌入したのちに、ボールシートを本体に圧入することにより行われる。ボールシートの径を大きくすることでパッキン押えねじの締め付けによるボールシートにかかる荷重を小さくすることが期待されるが、ボールシートを本体に圧入することができなくなるという別の問題が発生する。
【0006】
この発明の目的は、ボールを回転させることで連通遮断を行うボール弁において、ボールが嵌入されたボールシートを本体に容易に組み立てることができ、かつ、ボールシート押えからボールにかける荷重が小さいボール弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(1)は、流体入口通路、流体出口通路およびこれらの通路と連通する上方に開口した円柱状の凹部を有する本体と、流体連通路を有し前記本体の前記連通部に基準軸回りに回転可能に配設されたボールと、前記ボールを基準軸回りに回転させる操作機構と、周壁に所要の開口部が設けられ、前記ボールと前記本体との間に配設されたボールシートと、前記ボールシート上方に設けられ、前記ボールシートを押圧するボールシート押えと、前記凹部内周にねじ合わされ前記ボールシート押えを下方に押圧する押えねじと、を備えており、前記ボールを前記基準軸回りに回転させることで流体入口通路と流体出口通路との連通と遮断を行うボール弁において、前記ボールシートは、前記凹部の底の直径より大きい直径の底面を有する略円錐台形状とされ、上面の直径は、前記底面の直径よりもわずかに小さくなされていることを特徴とするボール弁である。
【0008】
従来のボール弁のボールシートの外形は、円柱形状であり、ボールシートの側面には、流体入口通路および流体出口通路と連なる開口部が備えられ、ボールシートの内部には、ボールを収納する球形の空間が備えられ、ボールシートの軸上方向には、ステムが嵌入する孔が備えられている。ボールシートの軸方向中央部付近の肉厚は、他の場所に比べて薄く、弾性変形が起こりやすくなっている。
【0009】
ボールシートは、合成樹脂材料から形成されており、より具体的には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、超高分子量ポリエチレン等から形成されることが好ましいとされる。従来のボール弁では、肉厚の薄いボールシートの軸方向中央部付近は、面圧が低くなり、ボールシートの軸方向中央部付近から流体が漏れ出やすくなる。
【0010】
本発明(1)のボール弁では、ボールシートは、本体の凹部の底の直径より大きい直径の底面を有する略円錐台形状とされ、上面の直径は、前記底面の直径よりもわずかに小さくなされている。この構造により、ボールが嵌入したボールシートを本体にはめ込む際に、嵌めこむことができないという問題は起こらない。さらに、ボールシートの軸方向中央部付近の弾性変形が少なく抑えられ、ボールとボールシートおよびボールシートと本体との間の面圧の低下が抑えられるので、ボールとボールシートおよびボールシートと本体との間から流体が漏れ出にくくなると推測される。
【0011】
本発明(2)は、前記ボールシートの前記開口部に内嵌されているリテーナをさらに有している本発明(1)のボール弁である。
【0012】
本発明(2)では、ボールシートの開口部に内嵌されているリテーナがさらに備えられている。リテーナはステンレス鋼製であることが耐腐食性や強度の観点から好ましい。このリテーナによって、ボールシートの変形が抑制され、流体通路となる開口が確保される。
【0013】
従来のボール弁においては、ボールシートとボールおよびボールシートと本体との間からの流体の漏出を防止するために、高圧流体を流す際には過剰な上方からの荷重をかけなければならず、このリテーナまで変形してしまい、動作不良につながる危険性があった。本発明のボール弁では、過剰な上方からの荷重をかける必要がなくなるので、リテーナが変形することがなくなる。
【0014】
本発明(3)は、前記ボールシート押えと前記押えねじの間にばね部材を有することを特徴とする本発明(1)または(2)のボール弁である。
【0015】
本発明(3)では、ばね部材を有しているので、上方からの荷重がこのばね部材の反発力によって、ボールシートに対する上方からの負荷を維持し続けることができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明のボール弁によると、ボールが嵌入されたボールシートを本体に容易に組み立てることができ、かつ、ボールシートとボールおよびボールシートと本体との間の接触面圧の場所的分布を均一化して、高圧の流体を流しても、ボールシートとボールとの間からの流体の漏れ出しを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明によるボール弁の1実施例の外観を示す。
図2】この発明によるボール弁の、ボールシート、ボールおよびステムの拡大図を示す。
図3】この発明によるボール弁に用いられるボールシートの部分斜視図を示す
図4】従前のボール弁および本発明のボール弁のボールシートと本体との間の面圧を示す。
図5】従前のボール弁および本発明のボール弁のボールシートとボールとの間の面圧を示す。
図6】従前のボール弁および本発明のボール弁の皿バネ荷重とシール圧力との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。以下の説明において、上下は、図の上下をいうものとする。この「上下」は便宜的なもので、設置に際しては、上下が逆になったり、水平になったりすることもある。
【0019】
図1は、本発明の実施例のボール弁1を示す。ボール弁1は、流体入口通路11および流体出口通路12を有し、流体入口通路11および流体出口通路12を連通する凹部13を有する本体10を備えている。流体入口通路11および流体出口通路12には、それぞれに継手部14が取り付けられている。
【0020】
凹部13には、流体を遮断連通するためのボール20が納められ、ボール20には、流体の通路となる流体連通路21が形成されている。ボール20と本体10との間には、合成樹脂材料であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のボールシート40が配置されている。このボールシート40に上方から圧縮荷重をかけることによって、流体の漏出が防止される。
【0021】
ボールシート40の2か所の出入り口の開口部には、金属製の略円環状のリテーナ50が配置されている。リテーナ50は、ボールシート40が変形し通路を塞ぐことを防ぐものであり、ステンレス鋼製とした。ボール20の上方には、ボール20と連なるステム22が形成され、このステム22の上端部は、操作機構30のハンドル31と連結されている。ハンドル31を回転することによって、ボール20は回転し、流体の連通遮断が行われるが、操作機構はこのような手動のものに限らず、電機や空圧によって回転させるものでも良い。
【0022】
本体10の上部には筒状の突出部16が上方に突出しており、この突出部16の内部の空間と凹部13の中に、下からボールシートと接触する円環状のボールシート押え41、皿バネ43およびボールシート押えねじ42が配置されている。
【0023】
突出部16の内面には、突出部雌ねじ16bが切られ、ボールシート押えねじ42の外面に形成されたボールシート押えねじ雄ねじ42aと螺合している。ボールシート押えねじ42を回して、上方から荷重を付加して皿バネ43を圧縮し、皿バネ43の反発力でボールシート押え41に上方から荷重を付加して、その荷重はボールシート40に伝達され、ボールシート40が上方からの荷重によって圧縮される。
【0024】
突出部16の外面には突出部雄ねじ16aが切られ、この突出部雄ねじ16aは、パネルナット15aの内面に形成されたパネルナット雌ねじ15aと螺合している。パネルナット15aと本体10の上面との間にパネル等を挟むことができる。
【0025】
図2は、拡大されたボール20、ステム22およびボールシート40を示す。ボールシート40の開口部44には、リテーナ50を収納するリテーナ収納空間45が形成され、上部には上開口部46が形成されている。ステム22の上端部には、切り欠き22aが形成され、この切り欠き22aが、ハンドル31と係合して、ハンドル31の回転によりステム22およびボール20が回転して、流体の連通遮断が行われる。図中の(2A)は、流体が連通している状態を示し、(2B)は流体が遮断されている状態を示し、(2C)は、(2A)の側面を示している。
【0026】
図2の(2C)で示すDは、ボールシート40の底面の直径で、Dは、ボールシート40の上面の直径である。本発明のボール弁では、Dは、Dよりもわずかに小さくされる。Dは、本体10の凹部13よりも大きくし、、Dは、本体10の凹部13の直径と同一となっている。このため、ボールシート40の側面と凹部13の内周面の間に隙間が存在しない。この例では、ボールシートの外形状は、円錐台形状となっているが、例えば、下端部にわずかに垂直立上り部があり、その上部分が円錐台形状となっているボールシートであっても良い。その意味で、ボールシートの形状は、略円錐台形状である。
【0027】
図3(3A)(3B)はボールシートに上方から荷重を付加した場合の面圧の分布を計算するためのモデルを示しており、(3A)はボールシートの外側、(3B)はボールシートの内側を示している。従来タイプ(上面直径27.0mm下面直径27.0mm)および新タイプ2種類(上面直径27.0mm下面直径27.2mm)(上面直径27.0mm下面直径27.5mm)の3種類に対して計算を行い、表1表2にその結果を示している。表はそれぞれのタイプに対し上方から荷重9000Nを付加したときの面圧であり各行は図3に示すP~PおよびQ~Qの位置に対応している。
【表1】
【表2】
【0028】
図4は、表1をグラフ化したものである。従来タイプの位置中(Q)の面圧が12.5MPaに対して、新タイプ(φ27-27.2)は、20.6MPaと8.1MPa高くなり、新タイプ(φ27-27.5)は、21.1MPaと8.6MPa高くなっている。
【0029】
図5は、表2をグラフ化したものである。従来タイプの位置中(P)の面圧が15.3MPaに対して、新タイプ(φ27-27.2)は、24.5MPaと9.2MPa高くなり、新タイプ(φ27-27.5)は、25.9MPaと10.6MPa高くなっている。
【0030】
図4図5からは従来タイプではボールシートの面圧にばらつきが生じていたところ、新タイプでは、ボールシートの面圧のばらつきが少なくなっていることが読み取れ、従来タイプにおいて漏れの原因となっていた面圧が低い場所をなくすことができる。
【0031】
図6は、皿バネ荷重(N)とシール圧力(MPa)の関係を示す。シール圧力は、ボール弁1の内部を密閉した状態で圧力をかけボールシートから漏れが生じた圧力であり、皿バネ荷重は皿バネ43からボールシートに係る荷重である。皿バネ荷重は皿バネ43のたわみ量とバネ定数から計算を行った。
【0032】
a1、a2およびa3は、ボールシート40の上面および下面の直径を27.0mmとした従来タイプのものであり、b1、b2およびb3は、上面の直径を27.0mm、下面の直径を27.5mmとした新タイプのものである。従来タイプと新タイプのものは、それぞれ検体数を3としている。
【0033】
同じシール圧力を得るための皿バネ荷重は、改良後の新タイプのものの方が、従来タイプのものに比べて小さい。このために、流体が漏洩しないようにするための皿バネ荷重を小さくできるので、リテーナ等の部品が変形することがなくなる。19MPaのシール圧力を得るためには、従来タイプのものは、10000N近くの荷重が必要であるが、改良後の新タイプのものでは、8000N程度でよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
この発明によるボール弁は、ボールシートとボールおよびボールシートと本体との間の接触面圧の場所的分布を均一化できることから、従来のボール弁に比べて、上方からの荷重を高くしなくとも、ボールシートとボールおよびボールシートと本体との間から流体が漏れ出すことを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0035】
1:ボール弁
10:本体
11:流体入口通路
12:流体出口通路
13:凹部
14:継手部
15:パネルナット
15a:パネルナット雌ねじ
16:突出部
16a:突出部雄ねじ
16b:突出部雌ねじ
20:ボール
21:流体連通路
22:ステム
22a:切り欠き
30:操作機構
31:ハンドル
40:ボールシート
41:ボールシート押え
42:ボールシート押えねじ
44:開口部
45:リテーナ収納空間
46:上開口部
42a:ボールシート押えねじ雄ねじ
43:皿バネ
50:リテーナ

図1
図2
図3
図4
図5
図6