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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】テロメアを伸長するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/185 20060101AFI20240307BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240307BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240307BHJP
【FI】
A61K36/185
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A23L33/105
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021546936
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2020035121
(87)【国際公開番号】W WO2021054373
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2019171916
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年2月7日に発行されたANTIOXIDANTS,(2020),9,[2],Article.144<DOI:10.3390/ANTIOX9020144>に公表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年4月1日に発行されたEUR.J.TRANSL.MYOL.,(2020),30,[1],p.058-061に公表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年4月27日に発行された大里研究所「FPP(パパイヤ発酵食品)のご紹介」に公表
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509233644
【氏名又は名称】株式会社大里インターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】林 幸泰
(72)【発明者】
【氏名】ファイス ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】ロゴッツィ マリアントニア
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特許第6401792(JP,B2)
【文献】特開2006-075086(JP,A)
【文献】国際公開第2016/093104(WO,A1)
【文献】Cancers(Basel),2019年01月,11, [1],Article.118,<doi:10.3390/cancers11010118>
【文献】Expert Rev. Clin. Pharmacol.,2018年,11, [6],p.545-547
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パパイヤ発酵食品のみを有効成分として含有し、前記パパイヤ発酵食品は、FPP Fermented Papaya Preparation(登録商標)、又はImmun’Age(登録商標)のパパイヤ発酵食品である、テロメアを伸長するための組成物。
【請求項2】
前記パパイヤ発酵食品が、パパイヤの酵母発酵食品である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記パパイヤ発酵食品の100g中、91.2gの炭水化物を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
加齢によるテロメア短縮を抑制する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
テロメラーゼ活性を向上させる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
生殖細胞又は幹細胞におけるテロメラーゼ活性を向上させる、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
医薬組成物又は食品組成物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
パパイヤ発酵食品の用量が、体重70kgの成人に対して0.5~30g/日である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パパイヤ発酵食品を有効成分として含有する、テロメアを伸長するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カリカパパイヤ(Carica papaya Linn)の未熟果を糖と共に食用酵母菌で発酵させることにより製造されるパパイヤ発酵食品(Fermented Papaya Preparation;FPP)は、唾液と混ぜ合わせることにより水と混ぜ合わせる場合に比べ、マルトースとマルトトリオースが増加するものである。
【0003】
FPPの経口摂取により、オリゴ糖が増加し腸内環境を整える働きが期待され、2型糖尿病患者の血糖値の上昇抑制、エネルギー代謝の向上、並びに、免疫を高めることによる創傷の治癒促進も期待されている(特許文献1~3)。FPPはまた、抗酸化特性を有し、加齢に伴う諸症状に対する効果を得られることで知られている(非特許文献1)。
【0004】
FPPは、アミノ酸と糖質に富み、免疫系に働きかけ良い活性酸素種(ROS)の産生を促進し、悪いROSを消去し、抗酸化剤として作用することが報告されており、加えて、2型糖尿病患者の「呼吸バースト」機能を改善することができる(特許文献4、5)。また、FPPは特に創傷部のマクロファージの応答に続いて血管新生応答に作用することにより、糖尿病性創傷転帰を改善する可能性があることも報告されている(非特許文献2)。
【0005】
本発明者らは、B16メラノーマ細胞を接種した正常免疫能マウスモデル(C57BL/6J)を用い、メラノーマの予防と治療におけるFPP(登録商標、大里研究所)経口摂取の効果を調査した結果、FPPは腫瘍のサイズをコントロールし、これは血中のROSレベルの低下及び天然の抗酸化物質(GSH及びSOD-1)の血漿レベルの上昇と一致したことが分かった(非特許文献3)。また、FPPを摂取したマウスではいずれも転移が起こらなかった。非特許文献3の結果は、FPPが生体の自然な抗酸化システムを活性化することで、その結果腫瘍の増殖の予防及び抑制に寄与し得る可能性を強く示唆するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-041478号公報
【文献】国際公開2016-027334号
【文献】国際公開2016-027333号
【文献】国際公開2016-027334号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Aruoma O.I.ら、Applications and bioefficacy of thefunctional food supplement fermented papaya preparation. Toxicology 278: 6-16,2010.
【文献】Aruoma,O.I.ら、Diabetes as a risk factor to cancer: Functional roleof fermented papaya preparation as phytonutraceutical adjunct in the treatmentof diabetes and cancer. Mutat. Res./Fundam. Mol. Mech. Mutagen. 2014, 768, 60-68
【文献】Logozzi Mら、Oral Administration of Fermented Papaya (FPP) Controls the Growth ofa Murine Melanoma through the In Vivo Induction of a Natural AntioxidantResponse. Cancers (Basel). 2019 Jan 20;11(1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、パパイヤ発酵食品の新たな用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、マウスに対するFPPの経口投与の結果、血漿中の総抗酸化能及びテロメラーゼ活性が向上し、幹細胞及び生殖細胞でのテロメアの長さも増加したことが分かった。
【0010】
すなわち、本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
パパイヤ発酵食品を有効成分として含有する、テロメアを伸長するための組成物。
[2]
加齢によるテロメア短縮を抑制する、[1]に記載の組成物。
[3]
テロメラーゼ活性を向上させる、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]
生殖細胞又は幹細胞におけるテロメラーゼ活性を向上させる、[3]に記載の組成物。
[5]
細胞老化を抑制する、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]
個体の老化を抑制する、[5]に記載の組成物。
[7]
医薬組成物又は食品組成物である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]
パパイヤ発酵食品の用量が、体重70kgの成人に対して0.5~30g/日である、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9]
パパイヤ発酵食品の有効量を、これを必要とする患者に投与することを含む、テロメアを伸長するための方法。
[10]
加齢によるテロメア短縮を抑制する、[9]の方法。
[11]
テロメラーゼ活性を向上させる、[9]の方法。
[12]
生殖細胞又は幹細胞におけるテロメラーゼ活性を向上させる、[11]に記載の方法。
[13]
細胞老化を抑制する、[9]の方法。
[14]
個体老化を抑制する、[9]の方法。
[15]
テロメアを伸長するための食品組成物又は医薬組成物における、パパイヤ発酵食品の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物によれば、テロメアを伸長することができ、日常的な摂取により抗老化効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1のマウス血漿中の総抗酸化能(A)及びテロメラーゼ活性(B)の結果を示す図である。
図2】実施例1のマウス骨髄(A)及び卵巣(B)から採取した細胞のテロメアの長さを計測した結果を示す図である。
図3】実施例2のマウス血漿中のテロメラーゼ活性の結果を示す図である。
図4】実施例2のマウス血漿中の総抗酸化能の結果を示す図である。
図5】実施例2のマウス血漿中のグルタチオンの結果を示す図である。
図6】実施例3のET-FPP群のマウスのテロメラーゼ活性の結果を示す図である(**p<0.005)。
図7】実施例3のET-FPP群のマウス骨髄(A)及び卵巣(B)から採取した細胞のテロメアの長さを計測した結果を示す図である(****p<0.0001)。
図8】実施例3のLT-FPP群のマウスのテロメラーゼ活性の結果を示す図である(*p<0.05)。
図9】実施例3のLT-FPP群のマウス骨髄(A)及び卵巣(B)から採取した細胞のテロメアの長さを計測した結果を示す図である(*p<0.05、***p<0.0005)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係る組成物は、パパイヤ発酵食品を有効成分として含有する、テロメアを伸長するための組成物である。
【0014】
本発明の組成物は、パパイヤ発酵食品(FPP)を有効成分として含有する。FPPは、上述のように、カリカパパイヤ(Carica papaya Linn)の未熟果を糖と共に食用酵母菌で発酵させることにより製造されるパパイヤ由来の発酵製品である。
【0015】
FPPは、大里研究所により開発され、株式会社大里ラボラトリーが製造し、株式会社大里インターナショナルが販売するものであることが好ましい(特許文献1、非特許文献8)。当該FPPは、「FPP Fermented Papaya Preparation」(登録商標)、又は「Immun’Age」(登録商標)として入手できる。当該FPPは、ISO9001:2015、ISO14001:2015、ISO22000:2005の認証を受け、欧米で最も厳しい食品安全規格であるFSSC22000をJIA国内第一号で取得した工場で生産されており品質面、環境面及び安全面で保証がされている。
【0016】
FPPの製造方法は、例えば特許文献1に記載されている。一例として、ハワイ州で栽培されたカリカパパイヤを約10ヶ月間食用酵母で発酵させることによって製造される。FPPは、日本食品分析センターによる分析では、FPP100g中91.2gが炭水化物であり、他に少量のタンパク質(0.3g)、脂質(0.1g未満)、カリウム(14.9mg)及び水分(8.5g)が含まれている(ロットNo.091;2014年5月27日付け分析試験成績書)。
【0017】
テロメアは、末端小粒ともいい、真核生物の染色体の末端部にある特徴的な繰り返し配列(反復配列)を持つDNAと様々なタンパク質からなる構造を有し、染色体末端を保護する役割を担っている。テロメアはその特異な構造により、DNAの分解や修復から染色体を保護し、物理的及び遺伝的な安定性を保つことができる。テロメアを欠いた染色体は、細胞によって異常なDNA末端と見なされ、酵素による分解や、修復機構による染色体末端どうしの異常な融合が起こる。このような染色体の不安定化は細胞死や発癌の原因となる。また、分裂ができない状態又は染色体が不安定な状態の内皮細胞が、動脈硬化等の加齢による脳・心の血管障害、生活習慣病を誘発する可能性があることが示唆されている。
【0018】
テロメアの伸長はテロメラーゼ(TE)によって行われる。テロメラーゼ(TE)は、染色体末端のテロメアにDNAの反復配列を付加する酵素である。DNA複製のたびにテロメアは短縮するが、テロメラーゼの役割はその完全性を維持することである。テロメラーゼがない細胞では、細胞分裂ごとにテロメアの短縮が進み、やがてヘイフリック限界(分裂回数の限界)と呼ばれる細胞分裂の停止が起き、細胞老化と呼ばれる状態になる。テロメラーゼはヒトの体細胞では発現していないか、弱い活性しか持たない。そのため、ヒトの体細胞を取り出して培養すると、テロメアの短縮が起こる。テロメラーゼ活性とテロメアの長さは現在、老化の分子的特徴と考えられている。また、テロメラーゼは、ヒトでは生殖細胞、幹細胞、ガン細胞などでの活性が認められ、それらの細胞が分裂を継続できる性質に関与している。そのため、テロメラーゼの活性を抑制することによる癌治療、活性を高めることによる細胞分裂寿命の延長の両方から注目されている。
【0019】
テロメア短縮による細胞の老化が、個体の老化の原因となることが示唆されているが、その関連性の解明に至っていない。しかしながら、テロメア短縮の抑制は、細胞寿命の延長、ひいては個体の老化の遅延、寿命の延長につながると期待されている。また、テロメア短縮による細胞の老化が、癌や生活習慣病を誘発する可能性があることから、テロメア短縮の抑制は癌、脳・心の血管障害、生活習慣病の予防につながると期待されている。
【0020】
本明細書においてテロメアを伸長すること(テロメアの伸長)は、テロメアの長さを増加すること(テロメア増長)と、テロメアの長さの短縮(テロメア短縮)を抑制することの両方を含む。テロメア増長は、例えばテロメラーゼ活性の向上によってテロメアの長さを伸ばすことを含む。FPPは、後述のイン・ビボの実施例によって生殖細胞及び幹細胞においてテロメラーゼ活性を向上させることが証明されており、生殖細胞及び幹細胞の寿命を延ばすこと、また、生殖寿命(生殖できる期間)の延長も予測される。
【0021】
テロメア短縮は、例えば細胞分裂に起因するテロメアの長さの減少を含み、テロメア短縮が抑制された場合、テロメア短縮が抑えられ、特に加齢によるテロメア短縮が抑制され、テロメア短縮が抑制されない通常の細胞に比べてテロメアの長さが長い。テロメア短縮が細胞の老化が繋がるため、テロメア短縮の抑制は細胞老化を抑制できる。そのため、テロメア短縮が抑制されない通常の細胞に比べて細胞の寿命が長い。そのため、個体の老化も抑制され、個体の寿命を延ばし得る。
【0022】
テロメアの長さの測定は、既知の方法によって行うことができる。例えば、実施例3に記載のフローサイトメトリー用の、Telomere PNA Kit/FITC(Dako-Agilent、Santa Clara、CA、USA)を使用することによって測定することができる。
【0023】
テロメラーゼ活性の測定は、既知の方法によって行うことができる。例えば、実施例3に記載のELISAキット(Elabsciences(登録商標)、Houston、TX、USA)を用いた比色サンドイッチ-ELISAアッセイによって測定することができる。
【0024】
本実施形態における組成物は、医薬組成物であっても食品組成物であってもよい。上述したように、パパイヤ発酵食品の大部分は炭水化物であり、他に少量のタンパク質が含まれているため、安全性が非常に高い。そのため、パパイヤ発酵食品の使用量は特に限定されず、例えば、体重70kgの成人に対して0.5~30g/日であればよく、好ましくは1~20g/日、さらに好ましくは3~15g/日又は9g~30g/日、最も好ましくは3~9g/日、6~9g/日又は9~15g/日である。
【0025】
本実施形態における組成物は、年齢を問わずいつでも摂取することができるが、テロメアの伸長の観点から、若年層及び中年層で摂取するのがより効果的である。例えば、13歳~60歳、13歳~50歳、13歳~40歳、13歳~30歳、13歳~25際、又は13歳~20歳の間に摂取し始めるのが好ましく、例えば、13歳、15歳、18歳、20歳から摂取することが好ましい。安全の観点から1歳未満の幼児、3歳未満の幼児又は5歳未満の幼児は、医師又は薬剤師の助言又は処方に基づいて摂取することが好ましい。また、摂取期間はテロメアの伸長の観点から、1ヵ月以上、2ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上、3年以上、5年以上、10年以上、15年以上、20年以上、25年以上、30年以上、35年以上、40年以上、又は45年以上が好ましい。
【0026】
パパイヤ発酵食品は、経口摂取に適するよう顆粒剤、散剤、細粒剤など種々の形態に適宜調製することができ、パパイヤ発酵食品を有効成分として含むほか、調製に際し、添加剤、例えば賦形剤、結合剤、滑沢剤など適宜加えることができる。
【0027】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0028】
<実施例1>
老化研究に適したマウスモデル(C57BL/6J、雌)を、摂取群及び対照群にそれぞれ15匹ずつ用いた。摂取群には、水道水に溶かしたFPP(登録商標、大里研究所、日本)(3g FPP/500mL)を生後4週間から10ヶ月間毎日与え、自由摂取させた。対照群には、水道水のみを与えた。FPP水溶液及び水道水は毎日新しいものに交換した。
【0029】
経口摂取10ヶ月後、血液を採取し、マウスを屠殺したのち、脛骨の骨髄及び卵巣を採取した。マウス血漿中の総抗酸化能及びテロメラーゼ活性、並びに骨髄幹細胞及び卵巣胚細胞(生殖細胞)のテロメアの長さの確認実験を行った。血液から血漿を分離し、各血漿サンプルについてPAOアッセイキットを用いて抗酸化能を測定し、テロメラーゼELISAキットを用いてテロメラーゼ活性を測定した。骨髄から幹細胞を分離するために生理食塩水を用い、卵巣から生殖細胞を分離するためにトリプシン/EDTA溶液を用いて、それぞれ細胞懸濁液を作成し、セルストレーナーで処置した。骨髄及び卵巣のそれぞれの単一細胞懸濁液に対して、Telomere PNA Kit/FITCを用い、フローサイトメトリー分析(FACS;登録商標)によってテロメアの長さを測定した。それぞれのキットの使用に際して、指示書とおりに行った。
【0030】
各測定値について、15匹マウスの平均値を算出した。総抗酸化能の結果は図1の(A)に示し、テロメラーゼ活性の結果は図1の(B)に示した。図1から、試験終了時、FPPを摂取したマウスは摂取していない対照マウスに比べて、血漿中の総抗酸化能は約2倍であり、テロメラーゼ活性は約3倍であったことが分かった。
【0031】
骨髄幹細胞のテロメアの長さの測定結果は図2の(A)、卵巣胚細胞のテロメアの長さの測定結果は図2の(B)にそれぞれ示した。図2から、試験終了時(10ヶ月)、FPPを摂取したマウスは摂取していない対照マウスに比べて、幹細胞及び生殖細胞の両方の細胞においてテロメアの長さが約3倍になったことが分かった。
【0032】
これらの結果から、FPPは抗酸化反応を誘導し、テロメラーゼ活性を向上させ、テロメアの長さを増加させることができることが分かった。このことは、FPPは老化に関する生物学的指標の明らかな改善をもたらすこと、そして老化を予防し得ることが示唆されている。また、FPPは生殖期間を引き延ばすであろうと予測できる。さらに、上記作成した骨髄及び卵巣のそれぞれの単一細胞懸濁液を用いて、細胞数を数えた結果、FPPを摂取したマウスは摂取していない対照マウスに比べて、両方器官における細胞数が約2倍となった。
【0033】
<実施例2>
生後10ヶ月の雌のC57BL/6Jマウス(ヒトの約50歳相当)30匹に、実施例1と同様の条件で20ヶ月になるまで、FPPの水溶液を毎日経口摂取させた。対照群は、水道水のみを与えた。
【0034】
経口摂取10ヶ月後(20ケ月齢)、血液を採取した。マウス血漿中のテロメラーゼ活性、総抗酸化能及び総グルタチオンの確認実験を行った。テロメラーゼ活性及び総抗酸化能の測定は、実施例1と同様に行った。総グルタチオンの測定はGlutathione Colorimetric Detection kit(Thermofisher Scientific)を用いて、指示書とおりに行った。
【0035】
各測定値について、30匹マウスの平均値を算出した。テロメラーゼ活性の結果は図3、総抗酸化能の結果は図4、総グルタチオンの結果は図5にそれぞれ示した。図3~5から、試験終了時、FPPを摂取したマウスは摂取していない対照マウスに比べて、血漿中のテロメラーゼ活性、総抗酸化能及び総グルタチオンは約3倍であったことが分かった。高齢のマウスにおいても抗老化効果があることを裏付けられた。すなわち、FPPは若齢時から摂取しても老齢から摂取しても、抗老化効果が期待できることが示唆されている。
【0036】
<実施例3>
(実験材料)
性別に依存しない骨髄及び性別に依存する卵巣の両方から利用可能な細胞を得るために、雌マウス(C57BL/6J)を用いた。すべての実験は、イタリア国立衛生研究所(イタリア、ローマ)の倫理委員会によって承認され、イタリアの法律(法律26/2014)に従って実施された。40匹のC57BL/6J雌マウス(16~20g、4週齢)をチャールズ・リバー・ラボラトリーズ(Charles River Laboratories Italia s.r.l.、 Calco、Lecco、イタリア)から購入し、イタリア国立衛生研究所の動物施設に収容した。マウスには10時間明期及び14時間暗期を与え、マウスの食餌(Mucedola、Settimo Milanese(MI)、Italy)及び水を自由に摂取させた。
【0037】
(実験方法)
マウスを2つのFPP摂取群(処置群)に分けた。FPP早期処置群(ET-FPP)は、6週齢のマウスに10ヶ月間毎日FPPを投与した(6週齢~51週齢)。FPP後期処置群(LT-FPP)は、51週齢のマウスに10カ月間毎日FPPを投与した(51週齢~96週齢)。マウスの年齢とヒトの年齢とを対比すると、6週齢~51週齢(早期処置群)のマウスは、13歳~41歳のヒトに相当し、51週齢~96週齢(後期処置群)のマウスは、41歳~63歳のヒトに相当する。
【0038】
2つの処置群のマウスには、3gのFPP(登録商標、大里研究所)を500mLの水道水に溶かした(6g/L)水溶液を、6mg/マウス/日に相当する1mLを10ヶ月間、毎日与えた。対照群のマウスには、水道水のみを与えた。
【0039】
(テロメラーゼ活性の測定)
マウステロメラーゼ活性(テロメラーゼ濃度)は、比色サンドイッチ-ELISAアッセイによって測定した。マウスTE(テロメラーゼ)ELISAキット(Elabsciences(登録商標)、Houston、TX、USA)を用いて、屠殺直前のマウスの血漿試料で行った。光学密度(OD)は450±2nmで測定した。
【0040】
(マウスからの骨髄幹細胞の採取)
対照群、ET-FPP及びLT-FPPマウスを屠殺した直後に、マウスの後肢の脛骨及び大腿骨の両方から骨髄を得た。次いで、骨髄を生理食塩水(NaCl)中に置き、5mLシリンジプランジャーの平滑末端で破壊した。Falcon(登録商標)100μmセルストレーナー(Corning、NY、USA)を用いて骨髄幹細胞を単離し、骨髄から均一な単一細胞懸濁液を得た。単一細胞懸濁液をPBSで2回洗浄し、直ちにテロメアの長さの測定に用いた。
【0041】
(マウスからの卵巣胚細胞の採取)
対照群、ET-FPP及びLT-FPPマウスを屠殺した直後に、卵巣を切開し、1%のトリプシン及び0.1μMのEDTAを含む生理食塩水(NaCl)中に置き、カッターで残りの生殖系から分離し、5mlシリンジプランジャーの平滑末端で破壊した。Falcon(登録商標)100μm細胞濾過器(Corning、NY、USA)を用いて卵巣胚細胞を単離し、結合組織及び破片を沈降させて、卵巣組織から均一な単細胞懸濁液を得た。単一細胞懸濁液をPBSで2回洗浄し、直ちにテロメアの長さの測定に用いた。
【0042】
(テロメアの長さの測定)
上記の屠殺直後に得られた対照群、ET-FPP及びLT-FPPマウスの骨髄幹細胞及び卵巣胚細胞(生殖細胞)におけるテロメアの検出を行った。そのために、フローサイトメトリー用のテロメアPNAキット/FITC(Dako-Agilent、Santa Clara、CA、USA)を使用した。このキットは、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション及びフルオレセイン結合ペプチド核酸(PNA)プローブを用いて、有核造血細胞におけるテロメアの検出を可能にする。なお、PNAはテロメアで反復する6ヌクレオチドの配列(TTAGGG)を認識し、当該反復配列とハイブリダイゼーションする。結果は、488nmで励起する光源を用いたフローサイトメトリーによって評価した。
【0043】
(統計解析)
結果は平均値±標準誤差(SE)として報告し、計算はGraphPad Prismソフトウェア(San Diego、CA、USA)を用いて行った。スチューデントt検定を適用して結果を分析した。統計的有意性はp<0.05とした。
【0044】
(結果)
ET-FPPの結果
対照群及びET-FPPのC57BL/6J雌マウス由来の血漿試料中のテロメラーゼ(TE)濃度の測定結果を図6に示す。水道水を飲んでいる対照群のマウスと比較して、FPP(登録商標)で毎日処置したマウスのテロメラーゼ濃度の増加が確認された。具体的には、ET-FPPマウスは、対照群と比べて1.6倍高い(p<0.005)TE濃度を有した(ET-FPP:88.5±4.5ng/mL、対照群:55.9±6.6ng/mL)。
【0045】
対照群及びET-FPPのC57BL/6J雌マウスの骨髄及び卵巣から、上記のように単一細胞懸濁液を得た。骨髄細胞及び卵巣生殖細胞の単一細胞懸濁液を光学顕微鏡下でトリパンブルー排除法によって計数した。その結果、ET-FPPマウスにおいて、骨髄細胞及び卵巣生殖細胞は、それぞれ、対照細胞よりもほぼ4倍及び2倍多かった(データは示さず)。
【0046】
比較可能な数の骨髄細胞及び卵巣生殖細胞のテロメアの長さを、フルオレセイン結合プローブ(PNA)とのハイブリダイゼーションにより分析した。全細胞について、標準化した平均蛍光強度の平均±SEとして表される結果を図7に示す。テロメアのTTAGGG配列は平均蛍光強度の値と相関する。
【0047】
図7の結果から、ET-FPPマウスは、骨髄(A)及び卵巣(B)の両方において、対照群よりもテロメアの長さの有意な増加を示した。より具体的には、骨髄細胞のテロメアの長さは対照群の4倍であったが(ET-FPP:5020±542平均蛍光強度、対照群:1228±88平均蛍光強度)(図7(A))、卵巣胚細胞のテロメアの長さは対照群の2.7倍であった(ET-FPP:91±5平均蛍光強度、:対照群:33±3平均蛍光強度)(図7(B))。
【0048】
LT-FPPの結果
対照群及びLT-FPPのC57BL/6J雌マウス由来の血漿試料中のテロメラーゼ(TE)濃度の測定結果を図8に示す。水道水を飲んでいる対照群のマウスと比較して、FPP(登録商標)で毎日処置したマウスのテロメラーゼ濃度の増加が確認された。具体的には、LT-FPPマウスは、対照群と比べて1.6倍高い(p<0.005)TE濃度を有した(LT-FPP:124.0±9.0ng/mL、対照:92.5±6.5ng/mL)。
【0049】
対照群及びLT-FPPのC57BL/6J雌マウスの骨髄及び卵巣から、上記のように単一細胞懸濁液を得た。骨髄細胞及び卵巣生殖細胞の単一細胞懸濁液を光学顕微鏡下でトリパンブルー排除法によって計数した。その結果、LT-FPPマウスにおいて、骨髄細胞及び卵巣生殖細胞は、それぞれ、対照細胞よりもほぼ1.8倍及び2倍多かった(データは示さず)。
【0050】
比較可能な数の骨髄細胞及び卵巣生殖細胞のテロメアの長さを、フルオレセイン結合プローブ(PNA)とのハイブリダイゼーションにより分析した。全細胞について、標準化した平均蛍光強度の平均±SEとして表される結果を図9に示す。テロメアのTTAGGG配列は平均蛍光強度の値と相関する。
【0051】
図9の結果から、LT-FPPマウスは、骨髄(A)及び卵巣(B)の両方において、対照群よりもテロメアの長さの有意な増加を示した。より具体的には、骨髄細胞のテロメアの長さは対照群の2倍であったが(LT-FPP:121±6平均蛍光強度、対照群:59±9平均蛍光強度)(図9(A))、卵巣胚細胞のテロメアの長さは対照群よりは有意に長かった(LT-FPP:8.69±0.25平均蛍光強度、:対照群:7.29±0.44平均蛍光強度)(図9(B))。また、骨髄細胞及び卵巣生殖細胞における平均蛍光強度は、ET-FPPと比較して、LT-FPPにおいて有意に減少した。
【0052】
未処理(対照)マウスに対するFPP処置マウスにおける結果の増加割合(又は減少割合)を下記の表1に示す。表1にはテロメラーゼ及びテロメアの長さの他に、総抗酸化能、総グルタチオン、SOD-1及び総活性酸素種(ROS)の結果も示す。それぞれの値は、(FPP処置-対照群)/対照群(%)で得られた値である。
【表1】
【0053】
表1に示されるように、最も有益な効果は、早期処置(ET-FPP)で観察された。すなわち、生後6週からのFPPによる早期処置が最も効果的であったと結論付けることができる。ヒトにおいては、13歳からの早期の投与がより効果的であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
パパイヤ発酵食品は、高い安全性があるため、日常的な摂取により抗老化効果が期待できる。また、抗酸化効果や、生殖能向上若しくは生殖期間の延長も期待できる。食品組成物又は医薬組成物として利用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9