(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート耐震壁の接合構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240307BHJP
E04B 1/21 20060101ALI20240307BHJP
E04B 2/56 20060101ALI20240307BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240307BHJP
E04B 1/61 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
E04H9/02 321E
E04B1/21 Z
E04B2/56 604C
E04B2/56 611D
E04B2/56 621R
E04B2/56 622D
E04B2/56 622R
E04B1/58 603
E04B1/61 502K
E04B2/56 643A
E04B2/56 622B
(21)【出願番号】P 2019220247
(22)【出願日】2019-12-05
【審査請求日】2022-09-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】田畑 卓
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英之
(72)【発明者】
【氏名】牧田 敏郎
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123644(JP,A)
【文献】特開2000-310057(JP,A)
【文献】特開2016-216900(JP,A)
【文献】特開2000-328652(JP,A)
【文献】特開昭51-136318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 1/21
E04B 2/56
E04B 1/58
E04B 1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向の側端面に、高さ方向に沿って一部が外部に突出した柱接合筋が配筋されたプレキャスト柱部材と、
隣接して立設された前記プレキャスト柱部材間に、前記プレキャスト柱部材と所定の隙間をあけて設置され、幅方向の側端面に、前記柱接合筋と対向して、高さ方向に所定間隔をあけて一部が外部に突出した壁接合筋が配筋されたプレキャスト耐震壁と、
前記プレキャスト柱部材、前記プレキャスト耐震壁の上下に敷設された床スラブと、
前記プレキャスト耐震壁の上下に設置された梁と、
を備え、
前記梁は、梁成が前記床スラブのスラブ厚と略等しく、
梁幅が前記プレキャスト柱部材の柱幅と略等しく、梁断面内に、端部が前記プレキャスト柱部材を貫通する梁主筋がスターラップ筋に囲まれるように配筋され、
前記床スラブと前記梁とは、前記プレキャスト耐震壁の上下で同じ設置高さとなり、
前記プレキャスト耐震壁は、前記隙間を塞ぐ充填材を介して前記壁接合筋と前記柱接合筋との間に継手が形成されて前記プレキャスト柱部材に接合されたことを特徴とするプレキャストコンクリート耐震壁の接合構造。
【請求項2】
前記プレキャスト耐震壁は、壁面が平面をなすように複数枚で構成され、隣接するプレキャスト耐震壁間に所定の隙間をあけて設置される際、前記壁接合筋が前記隣接するプレキャスト耐震壁間の隙間位置で対向するように配筋され、前記隙間を塞ぐ充填材を介して互いの壁接合筋間に継手が形成されて前記隣接するプレキャスト耐震壁が接合されたことを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート耐震壁の接合構造。
【請求項3】
前記壁接合筋および前記柱接合筋は、略U字の突出部を有し、前記突出部は、他の突出部とループ接合を形成することを特徴とする請求項1
または請求項2に記載のプレキャストコンクリート耐震壁の接合構造。
【請求項4】
前記壁接合筋および前記柱接合筋は、孔あき鋼板ジベルまたはナットを備える突出部を有し、前記突出部は、他の突出部と継手を形成することを特徴とする請求項1
または請求項2に記載のプレキャストコンクリート耐震壁の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート耐震壁を備えた建築物の構築における接合構造に係り、特に、耐震壁と柱、耐震壁の上下に設けられた梁の接合等の施工を合理化させたプレキャストコンクリート耐震壁の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート耐震壁を備えた建築物において、耐震壁をプレキャストコンクリート部材(以下、プレキャスト部材と記す。)で構成する場合には、柱スパンの中央および端部等を分割位置としたプレキャスト部材同士を接合する壁接合部を設ける場合がある。この分割位置でプレキャスト部材を接合する際には、耐震壁の横筋や耐震壁の上下にある梁主筋を接合するために、壁接合部に600~800mm程度の現場コンクリート打設部分が設けられるのが一般的である。このため、壁接合部では、鉄筋の溶接作業や継手作業および型枠の組み立てや解体作業が生じ、複数の職種による施工手間がかかり、作業効率が良いとは言えない。
【0003】
非特許文献1には、耐震壁の柱-壁鉛直接合部にループ鉛直接合筋を使用したプレキャスト連層耐震壁が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】宮原貴昭、吉松賢二、松崎浩、岩淵一徳、「プレキャスト連層耐震壁の柱-壁鉛直接合部に関する実験的研究(その2)架構実験」日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)、C-2、構造IV、1997年9月、第213~214頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載の接合構造では、壁接合部の上下に架構される梁の接合部の合理化については考慮されておらず、梁の主筋を接合するために柱-壁間または壁-壁間の接合部において依然として、幅広の後打ち接合部が必要となり、その部分の型枠工事や機械式継手等による鉄筋接合作業が必要となる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、柱-壁間および壁-壁間の接合部の施工の合理化を図ることができるプレキャストコンクリート耐震壁の接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、幅方向の側端面に、高さ方向に沿って一部が外部に突出した柱接合筋が配筋されたプレキャスト柱部材と、隣接して立設された前記プレキャスト柱部材間に、前記プレキャスト柱部材と所定の隙間をあけて設置され、幅方向の側端面に、前記柱接合筋と対向して、高さ方向に所定間隔をあけて一部が外部に突出した壁接合筋が配筋されたプレキャスト耐震壁と、前記プレキャスト柱部材、前記プレキャスト耐震壁の上下に敷設された床スラブと、前記プレキャスト耐震壁の上下に設置された梁とを備え、前記梁は、梁成が前記床スラブのスラブ厚と略等しく、梁幅が前記プレキャスト柱部材の柱幅と略等しく、梁断面内に、端部が前記プレキャスト柱部材を貫通する梁主筋がスターラップ筋に囲まれるように配筋され、前記床スラブと前記梁とは、前記プレキャスト耐震壁の上下で同じ設置高さとなり、前記プレキャスト耐震壁は、前記隙間を塞ぐ充填材を介して前記壁接合筋と前記柱接合筋との間に継手が形成されて前記プレキャスト柱部材に接合されたことを特徴とする。
【0008】
前記プレキャスト耐震壁は、壁面が平面をなすように複数枚で構成され、隣接するプレキャスト耐震壁間に所定の隙間をあけて設置される際、前記壁接合筋が前記隣接するプレキャスト耐震壁間の隙間位置で対向するように配筋され、前記隙間を塞ぐ充填材を介して互いの壁接合筋間に継手が形成されて前記隣接するプレキャスト耐震壁が接合されることが好ましい。
【0010】
前記壁接合筋および前記柱接合筋は、略U字の突出部を有し、前記突出部は、他の突出部とループ接合を形成することが好ましい。
【0011】
前記壁接合筋および前記柱接合筋は、孔あき鋼板ジベルまたはナットを備える突出部を有し、前記突出部は、他の突出部と継手を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、柱-壁間および壁-壁間の接合部の施工の合理化とともに壁の上下の梁主筋の接合部の合理化、および型枠の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係るプレキャスト耐震壁の接合構造の正面図、(b)は、(a)のIb-Ib断面線で示した側面断面図。
【
図2】
図1(a)のIb-Ib断面線で示した拡大側面断面図。
【
図3】(a)は、本発明の第1実施形態に係るプレキャスト耐震壁の接合構造の直交梁の設置工程を示す正面図、(b)は、(a)のIIIb-IIIb断面線で示した側面図。
【
図4】(a)は、本発明の第1実施形態に係るプレキャスト耐震壁の接合構造の耐震壁の設置時の正面図、(b)は、梁および床スラブの配筋後の正面図、(c)は、梁および床スラブにコンクリートを打設した後の正面図。
【
図5】(a)は、本発明の第2実施形態に係るプレキャスト耐震壁の接合構造の正面図、(b)は、(a)のVb-Vb断面線で示した側面断面図。
【
図6】(a)は、本発明の第2実施形態に係るプレキャスト耐震壁の接合構造の直交梁の設置工程を示す正面図、(b)は、(a)のVIb-VIb断面線で示した側面図。
【
図7】(a)は、本発明の第2実施形態に係るプレキャスト耐震壁の接合構造の耐震壁の設置時の正面図、(b)は、梁および床スラブの配筋後の正面図、(c)は、梁および床スラブにコンクリートを打設した後の正面図。
【
図8】(a)は、プレキャスト耐震壁の変形例の壁-壁接合部の平面断面図、(b)は、壁-柱接合部の平面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のプレキャストコンクリート耐震壁の接合構造について、以下、添付図面を参照して説明する。なお、同一の構成要素は、同一の符号を付し、説明は省略する。
【0015】
[第1実施形態]
図1(a)、(b)は、本発明の第1実施形態に係るプレキャストコンクリート耐震壁の接合構造1(以下、接合構造1とする。)を示している。接合構造1は、耐震壁を構成するプレキャスト耐震壁10(以下、耐震壁10とする。)と、所定の柱スパンで隣接して立設されたプレキャスト柱部材20(以下、柱部材20とする。)と、耐震壁10の上下に設けられた梁30と、梁30と平面視で直交する直交梁40と、梁30および直交梁40に四方を囲まれた床スラブ50と、が接合された構造からなる。
図2に示すように、梁30の梁成aが床スラブ50のスラブ厚bに略等しく設置高さも同じである点が接合構造1の特徴である。
【0016】
(接合構造1の構成要素)
図1(a)に示すように、耐震壁10には、両側端面に全高にわたって略U字状のループ接合筋11が高さ方向に約250mmピッチで壁体本体12の端面13からループ状部分を含んだ部分(突出部)が外部に突出するように配筋されている。ループ接合筋11には、本実施形態では、D13の異形鉄筋が使用され、U字部分は、約150mmのRを形成している。壁接合筋であるループ接合筋11は、他の耐震壁10または柱部材20に設けられたループ接合筋11(21)とあき重ね継手を形成する。ループ接合筋11は、壁体本体12の内部で重ね継手やあき重ね継手等で横筋(図示せず)と一体になるように配筋されている。なお、
図4(a)に示すように、柱部材20に対向する側の端面13の上端付近(柱上面25の上側に配置される部分)には、ループ接合筋11の代わりに、直線状の部分(突出部)が外部に突出するように接合筋16が配筋されている。
【0017】
耐震壁10の上端には、縦筋14が壁体本体12から上方に向けて突出している。縦筋14には、本実施形態では、D16の異形鉄筋が使用されている。
図1(b)に示すように、縦筋14の下端には、壁体本体12の下端に設けられた公知の機械式継手15が装着されている。縦筋14の突出長は、機械式継手15の継手長に梁30の梁成を加算した長さに等しい。
【0018】
図1(a)に示したように、柱部材20には、耐震壁10同様に両側端面に全高にわたって略U字状のループ接合筋21が高さ方向に約250mmピッチで柱体本体22の端面23からループ状部分を含んだ部分(突出部)が外部に突出するように配筋されている。ループ接合筋21には、本実施形態では、D13の異形鉄筋が使用され、U字部分は、約150mmのRを形成している。柱接合筋であるループ接合筋21は、柱体本体22の内部で十分な定着長を確保し、柱体本体22のコンクリートに定着されている。
【0019】
図3(b)に示すように、柱部材20の上端の柱上面25には、柱主筋24が柱体本体22から上方に向けて突出している。柱主筋24には、本実施形態では、D29の異形鉄筋が使用されている。柱主筋24の下端には、柱体本体22の下端に設けられた公知の機械式継手(図示せず)が装着されている。柱上面25に直交梁40が載置された後、機械式継手(図示せず)等で直交梁40の下端梁主筋44と柱部材20をはさんで反対側の直交梁40の下端梁主筋44を接合する。その後、この柱梁接合部には帯筋が配筋され、後述する上端梁主筋42を通しコンクリートを打設し一体化される。
【0020】
図1(a)および(b)に示すように、梁30は、耐震壁10の上下に設けられる。梁30は、現場にて梁主筋31およびスターラップ筋32を配筋された後、コンクリート61を打設されることにより形成される現場打ちの梁である。
図2に示すように、梁30は、梁成aを床スラブ50のスラブ厚bと等しく
、床スラブ50と設置高さを同じくし、好ましくは梁幅cを梁成aよりも大きくする(
併せて本実施形態では柱幅と略等しい梁幅と
している)ことにより、床スラブ50と一体的に形成されている。
必要な梁断面積に応じて設定された梁幅cとなるように、梁30と床スラブ50との境界にラス網33を設けること
ができる。これにより、梁30と床スラブ50において、異なる設計強度のコンクリートを打設することもできる。例えば、梁30には設計強度36N/mm
2のコンクリートが、床スラブ50には設計強度24N/mm
2のコンクリートを打設することができる。なお、建築物の条件によっては、梁幅cを梁成aよりも大きくしなくてもよい場合もある。
【0021】
図1(a)および
図4各図に示すように、直交梁40は、平面視で梁30と直交方向に設けられる、梁体本体43の上面からスターラップ筋41の上部が突出した公知のハーフプレキャストの梁である。直交梁40は、床スラブ50のスラブ厚bに相当する部分にコンクリート61を打設した後には梁成≧梁幅となる構造梁である。上端梁主筋42は、直交梁40が柱部材20,20間に掛け渡された後にスターラップ筋41の上端内側に配筋される。
【0022】
床スラブ50は、本実施形態では、スラブ厚300mmの現場打ちのスラブである。床スラブ50のスラブ厚bは梁30の梁成aと等しく梁30と同一高さに設けられているので、床スラブ50と梁30とは型枠を共有でき、容易に配筋することができるので、施工効率が向上する。なお、床の型枠には、公知のハーフプレキャスト板やデッキプレート等を使用することもできる。
【0023】
(接合構造1の構成)
接合構造1について、
図1各図および
図2を参照して説明する。耐震壁10-1は、耐震壁10-2と接合部J1を介して接合され、耐震壁となる平面視直線状の壁を構成している。接合部J1は、耐震壁10-1と耐震壁10-2とが所定の間隔を空けて近接して設けられ、その所定の間隔内で耐震壁10-1のループ接合筋11と耐震壁10-2のループ接合筋11とが正面視で対向して一部が互いにオーバーラップする(重ね合わせられる)ように設置され、耐震壁10-1の端面13と耐震壁10-2の端面13との間にグラウト材60を充填されることにより形成されている。
【0024】
耐震壁10-1,10-2は、それぞれ柱部材20-1,20-2と接合部J2を介して接合されている。接合部J2は、耐震壁10と柱部材20とが同様に所定の間隔を空けて近接して設けられ、その所定の間隔内で耐震壁10のループ継手筋11と柱部材20のループ接合筋21が正面視で対向して一部が互いにオーバーラップするように設置され、耐震壁10の端面13と柱部材20の端面23との間にグラウト材60を充填されることにより形成されている。
【0025】
本発明において、梁30は、耐震壁10-1,10-2の上下に設けられている。梁成aが床スラブ50のスラブ厚bと等しく、梁30と床スラブ50とは同一高さに設けられているので、梁30は、外観上、床スラブ50に含まれるように構成されている。直交梁40は、長軸方向端部が柱部材20上端の柱上面25に載置され、上部に上端梁主筋42、床スラブ50のスラブ筋(図示しない)を配筋され、コンクリート61が打設されることにより、柱部材20、床スラブ50と一体的に形成される。このように、耐震壁10、柱部材20、梁30、直交梁40、床スラブ50が構築されることにより接合構造1が構成されている。なお、本実施形態において、接合部J1、J2における壁と壁、柱と壁の間の所定の間隔は100mmである。所定の間隔は100mm~200mm程度が好ましい。
【0026】
(接合構造1の施工方法)
まず、
図3(a)、(b)に示すように、任意の階の床面F上において、ループ接合筋21が耐震壁10の端面13と対向する位置にくるように所定の位置に柱部材20を設置した後、柱部材20,20間に直交梁40を掛け渡す。直交梁40は、柱部材20のループ接合筋21が設けられていない面に掛け渡される。
【0027】
次に、
図4(a)に示すように、柱部材20のループ接合筋21に一方のループ接合筋11が対向するように耐震壁10-1を下階の縦筋14上に建て込む。その後、耐震壁10-2の一方のループ接合筋11を耐震壁10-1の他方のループ接合筋11に対向させ、耐震壁10-2の他方のループ接合筋11を柱部材20-2の一方のループ接合筋21に対向するように、耐震壁10-2を下階の縦筋14上に建て込む。
【0028】
耐震壁10-1,10-2を建て込んだ後、接合部J1,J2に簡易な型枠(図示せず)を設置し、柱部材20-1、耐震壁10-1,10-2、柱部材20-2上に、梁30の梁主筋31およびスターラップ筋32を配筋し、
図4(b)に示す状態になる。ここで梁主筋31は、柱スパン内の任意の位置で機械式継手または重ね継手とすることができる。合わせて、上端梁主筋42を柱部材20上および直交梁40のスターラップ筋41の上端内側に配筋する。また、床スラブ50のスラブ筋を配筋する。これに並行して、直交梁40と柱部材20の柱梁接合部に帯筋の配筋と型枠を設置する。
【0029】
配筋後、梁30と床スラブ50との境界にラス網33(
図2に示す)を設け、柱部材20-1と耐震壁10-1との間、耐震壁10-1,10-2間、耐震壁10-2と柱部材20-2との間をグラウト材60等の充填材で塞ぐようにして部材間を接合する。充填材の硬化後、スラブ用と梁用と柱梁仕口接合部用のコンクリート61をそれぞれ打設することにより梁30、床スラブ50を形成し、
図4(c)に示すように、接合構造1が完成する。充填材としては、モルタルグラウト、高流動コンクリートの他、耐震壁と柱部材間、耐震壁間の隙間に確実に充填でき、壁部材、柱部材の強度と同等強度を発現可能材料であれば、各種の充填材料を使用できることは言うまでもない。なお、接合部J1,J2に高流動コンクリート等のコンクリートを打設する場合には、梁30のコンクリート打設と同時に行ってもよい。
【0030】
本実施形態では、直交梁40を構造梁とし、梁30の梁幅cを柱部材20の柱幅と略等しい程度に大きくし、梁30の梁成aを床スラブ50のスラブ厚bと略等しくしている。また、梁30と床スラブ50との設置高さを同じにしているので、梁30の主筋31の継手のために接合部J1およびJ2の上部を大きくする必要がない。また、床スラブ50と梁30との型枠工事を同時に並行して行うことができ、配筋工事についても同時に並行して行うことができる。また、柱-壁間および壁-壁間の接合部J1,J2は、壁接合筋、柱接合筋を使用することにより、通常のプレキャスト部材間の接合部に比べて小さくすることができる。従って、工期の短縮ができ、梁構築の作業効率が向上し、柱-壁間および壁-壁間の接合部の施工の合理化ができる。
【0031】
[第2実施形態]
図5(a)、(b)は、本発明の第2実施形態に係るプレキャストコンクリート耐震壁の接合構造2(以下、接合構造2とする。)を示している。接合構造2は、梁30と平面視で直交する直交梁40Aが異なり、梁30と直交梁40Aとの接合部分が異なる以外は、接合構造1と同じ構造である。接合構造1は、直交梁40を柱梁接合部で梁主筋を接続しコンクリートを打設するプレキャスト梁部材を用いた構造であったが、接合構造2は、直交梁として柱梁仕口一体型のプレキャスト梁部材を用いた構造である。
図6(a)、(b)に示すように、直交梁40Aは、柱梁交差部45を含んだプレキャスト梁部材であり、柱スパンの途中で長軸方向端部を他の直交梁と接合される。梁30は、
図5(a)に示すように、直交梁40Aと機械式継手70で接合される。
【0032】
(接合構造2の構成要素)
図6(a)、(b)に示すように、直交梁40Aは、柱部材20の断面と等しい断面の柱梁交差部45を梁体本体43Aの中央に有するプレキャスト梁部材である。柱梁交差部45は主筋挿通孔46を有し、主筋挿通孔46に柱部材20の柱主筋24が挿通され、直交梁40Aは柱部材20に載置され、主筋挿通孔46にグラウト材を充填されて接合される。柱梁交差部45は、平面視で、梁長軸方向に直交する方向の側面47に、ループ接合筋48が配筋されており、直交梁40Aが柱部材20に載置される時、ループ接合筋48とループ接合筋21とが柱主筋24の軸方向に平行に並ぶ。直交梁40Aは、側面47から突出する梁主筋49を有する。
【0033】
(接合構造2の構成)
接合構造2について、
図5および
図6各図を参照して説明する。接合部J1の構造は接合構造1と同様である。接合部J2Aは、ループ接合筋11のうちの上側に設けられているものがループ接合筋21の代わりにループ接合筋48と正面視で対向して一部が互いに重ね合わせられるように設置されている点が接合部J2と異なる。また、直交梁40Aは、柱部材20に載置され、梁主筋49が梁主筋31と公知の機械式継手70により梁30に接合され、隣接する直交梁と柱スパンの途中で接合されている点が異なっている。
【0034】
なお、以上に述べた、各種鉄筋の径、配筋ピッチ、梁成、梁幅、スラブ厚等の各部寸法は本実施形態で示した数値に限られず、それぞれの建築物に必要とされる強度等に応じて適宜設定することができる。
【0035】
(接合構造2の施工方法)
まず、
図6(a)、(b)に示すように、任意の階の床面F上において、ループ接合筋21が耐震壁10の端面13と対向する位置にくるように所定の位置に柱部材20-1,20-2を設置する。その後、直交梁40Aは、柱部材20-1,20-2のループ接合筋21が設けられていない面に梁長手方向がくるように柱部材20-1,20-2の柱上面25上にそれぞれ載置される。
【0036】
次に、
図7(a)に示すように、柱部材20-1のループ接合筋21に一方のループ接合筋11が対向するように耐震壁10-1を下階の縦筋14上に建て込む。その後、耐震壁10-2の一方のループ接合筋11を耐震壁10-1の他方のループ接合筋11に対向させ、耐震壁10-2の他方のループ接合筋11を柱部材20-2の一方のループ接合筋21に対向するように、耐震壁10-2を下階の縦筋14上に建て込む。
【0037】
耐震壁10-1,10-2を建て込んだ後、接合部J1,J2Aに簡易な型枠(図示せず)を設置し、
図7(b)に示すように、耐震壁10-1,10-2上に、梁30の梁主筋31およびスターラップ筋32を配筋する。梁主筋31の両端部に、機械式継手70を介して直交梁40Aの梁主筋49を接合する。梁主筋31は、柱スパン内の任意の位置で機械式継手または重ね継手とすることができる。また、床スラブ50の図示しないスラブ筋を配筋する。
【0038】
配筋後、梁30と床スラブ50との境界にラス網33を設け、柱部材20-1と耐震壁10-1との間、耐震壁10-1,10-2間、耐震壁10-2と柱部材20-2との間を、グラウト材60等の充填材で塞ぐ。充填材の硬化後、コンクリート61を打設することにより梁30、床スラブ50を形成し、
図7(c)に示すように、接合構造2が完成する。なお、充填材としては、上述のように、グラウト材60の代わりに各種のコンクリートを用いることができる。また、高流動コンクリート等のコンクリートを用いた場合には、接合部J1,J2Aと同時に梁30のコンクリートを打設してもよい。
【0039】
[変形例]
上記の各実施形態において、壁体本体は、略直方体であったが、
図8(a)、(b)に示すように、壁体本体の幅方向の側端面に、高さ方向に沿って凹部17が形成されていてもよい。凹部17が形成されていることにより、耐震壁同士の接合部や耐震壁と柱部材との接合部に型枠を設置する必要がなくなり、作業効率が向上する。
【0040】
上記の各実施形態において、柱部材間には2つの耐震壁が設けられていたが、柱部材間には1つの耐震壁だけが設けられていてもよく、3つ以上の耐震壁が設けられていてもよい。
【0041】
上記の各実施形態において、梁30の梁幅は、柱部材20の柱幅に略等しかったが、柱部材20の柱幅より小さくてもよいし、柱部材20の柱幅より大きくてもよい。
【0042】
上記の各実施形態において、直交梁は、柱梁仕口接続型や柱梁仕口一体型のプレキャスト梁部材を使用していたが、建物荷重を支持できるものであれば梁中央接続型や梁端部接続型のプレキャスト梁部材を使用してもよいし、現場打ちのRC梁であってもよい。
【0043】
上記の各実施形態において、壁接合筋および柱接合筋には、ループ接合筋が配筋されていたが、ループ接合筋の代わりに先端にナットを取り付けられた鉄筋棒や特開2018-123644の
図1,3等に示すような孔あき鋼板ジベル等を使用してもよい。また、ループ接合筋のループ部分や孔あき鋼板ジベルの円孔に鉄筋棒を挿入することで、接合部のせん断強度を向上させることができる。
【0044】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1,2 接合構造
10 耐震壁
11,21,48 ループ接合筋
12 壁体本体
13,23 端面
14 縦筋
15,70 機械式継手
16 接合筋
17 凹部
20 柱部材
22 柱体本体
24 柱主筋
25,25A 柱上面
30 梁
31 梁主筋
32,41 スターラップ筋
40,40A 直交梁
42 上端梁主筋
43,43A 梁体本体
44 下端梁主筋
45 柱梁交差部
46 主筋挿通孔
47 側面
49 梁主筋
50 床スラブ
60 グラウト材
61 コンクリート