(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】電気化学測定用の試薬組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
G01N 27/327 20060101AFI20240307BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
G01N27/327 353R
G01N27/416 338
(21)【出願番号】P 2019235706
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000216162
【氏名又は名称】天野エンザイム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】井戸 宏樹
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-528573(JP,A)
【文献】特開2013-083634(JP,A)
【文献】特表2007-509355(JP,A)
【文献】特表2007-523326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/327
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加電圧条件が260mV以上である電気化学測定に使用される酸化還元試薬組成物であって、
酸化還元酵素と、
トルイジンブルー、アズールA又はアズールCとルテニウム錯体の組合せからなるメディエータと、
を含む、電気化学測定用の酸化還元試薬組成物。
【請求項2】
酸化還元酵素が、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、ピロロキノリンキノン(PQQ)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される酵素である、請求項1に記載の酸化還元試薬組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸化還元試薬組成物を用いて試料中のグルコースを
印加電圧条件が260mV以上で測定することを特徴とする、グルコース測定法。
【請求項4】
測定の際の印加電圧条件が260mV~350mVである、請求項3に記載のグルコース測定法。
【請求項5】
酸化還元酵素と、フェノチアジン骨格を持つ化合物とルテニウム錯体の組合せからなるメディエータと、を含む酸化還元試薬組成物を用い、測定の際の印加電圧条件が260mV以上であること、を特徴とする電気化学測定法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学測定用の試薬組成物に関する。詳しくは、酸化還元酵素と電子伝達物質(メディエータ)を含み、例えば血中のグルコース量の測定/定量に利用される試薬組成物及びその用途(グルコース測定法やグルコースセンサ等)に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者は年々増加しており、糖尿病患者、特にインスリン依存性の患者は血糖値を日常的に監視し血糖をコントロールする必要がある。近年、酵素を用いてリアルタイムで簡便にかつ正確に測定できる自己血糖測定器で糖尿病患者の血糖値をチェック出来るようになった。自己血糖測定器を構成する電気化学的バイオセンサには各種グルコース酸化酵素が利用されている。グルコース酸化酵素を用いたグルコース定量法の原理は、グルコースが酵素によって酸化されたときに同時に当該酸化酵素の補酵素が還元されることを利用したものであり、具体的には還元された補酵素もしくは電子伝達物質(メディエータ)の吸光度を測定する方法(比色法)と酸化還元反応によって生じた電流を測定する方法(電極法)に大別される。尚、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)やグルコースオキシダーゼ(GO)などの酸化還元酵素を利用したグルコースセンサ(電気化学的バイオセンサ)では、一般に、電気絶縁性の基板上に作用極と対極を有する電極系を形成し、その上に酵素とメディエータとを含む試薬層が配置される構成をとる(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
グルコースセンサを用いた測定手法として、電流応答を時間の関数としてモニターするクロノアンペロメトリーと、電荷(電荷は電流の積分値)応答を時間の関数としてモニターするクロノクーロメトリーの2種類が知られている。現在の主流はクロノアンペロメトリーである。フェリシアン化合物やルテニウム化合物など、様々なメディエータがあるが(例えば特許文献2を参照)、安価であることに加えその優れた溶解性から、フェリシアン化合物が最もよく使われている。新たなメディエータも開発されており、特許文献3には、干渉物質の影響が少ないメディエータとして、チオニン又は特定のチオニン誘導体(3-アミノ-7-(2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキサンアミド)-5-フェノチアジニウム)とルテニウム錯体の組合せが示されている。
【0004】
一方、クロノクーロメトリーは少量のメディエータで測定が可能であり、メディエータの非酵素的な変換も少なく、更にはセンサキャピラリー内の反応はグルコースを完全に消費するまで行なわれるため、クロノアンペロメトリーと比較して測定誤差が少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2005/043146号パンフレット
【文献】国際公開第2003/025558号パンフレット
【文献】特許第5947901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
試料中(特に血中)のグルコース量をより正確に測定すること、即ち電気化学測定の定量性の向上(高精度化)のニーズは依然として高い。本発明は、当該ニーズに応えるべく、定量性に優れ、且つ干渉物質の影響が少ない測定を可能にするメディエータを見出し、より実用的な電気化学測定系を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み検討する中、本発明者らは、トルイジンブルー、アズールA又はアズールCとルテニウム錯体の組合せに着眼し、そのメディエータとしての特性を詳細に調べた。当該組合せからなるメディエータは、上掲の特許文献3では測定に十分な電流値が得られず、実質的に利用できないことが示されている。しかしながら、本発明者らの検討の結果、印加電圧を高く設定することにより、上記組合せのメディエータであっても十分な電流値が得られ、定量性にも優れることが判明した。また、試料中の干渉物質の影響も少なく、高精度での測定が可能であった。
以上の成果に基づき、次の発明が提供される。
[1]酸化還元酵素と、
トルイジンブルー、アズールA又はアズールCとルテニウム錯体の組合せからなるメディエータと、
を含む、電気化学測定用の酸化還元試薬組成物。
[2]酸化還元酵素が、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、ピロロキノリンキノン(PQQ)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される酵素である、[1]に記載の酸化還元試薬組成物。
[3][1]又は[2]に記載の酸化還元試薬組成物を用いて試料中のグルコースを測定することを特徴とする、グルコース測定法。
[4]測定の際の印加電圧条件が260mV以上である、[3]に記載のグルコース測定法。
[5]測定の際の印加電圧条件が260mV~350mVである、[3]に記載のグルコース測定法。
[6][1]又は[2]に記載の酸化還元試薬組成物が作用電極上コートされた構成のグルコースセンサ。
[7]測定の際の印加電圧条件が260mV以上である、[6]に記載にグルコースセンサ。
[8]測定の際の印加電圧条件が260mV~350mVである、[6]に記載にグルコースセンサ。
[9]酸化還元酵素と、フェノチアジン骨格を持つ化合物とルテニウム錯体の組合せからなるメディエータと、を含む酸化還元試薬組成物を用い、測定の際の印加電圧条件が260mV以上であること、を特徴とする電気化学測定法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】トルイジンブルーO(1mM)(A)、アズール A(5mM)(B)又はアズール C(10mM)(C)と塩化ヘキサアンミンルテニウム(III)(100mM)の組合せをメディエータとしたグルコース定量の結果。
【
図2】トルイジンブルーO(1mM)と塩化ヘキサアンミンルテニウム(III)(100mM)の組合せをメディエータとしたときの印加電圧0.2V、0.3V、0.35Vでのグルコース定量の結果。
【
図3】トルイジンブルーO(1mM)と塩化ヘキサアンミンルテニウム(III)(100mM)の組合せをメディエータとしたときの印加電圧0.2V~0.35Vでのグルコース定量の結果。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.酸化還元試薬組成物
本発明の第1の局面は、電気化学測定に使用される(即ち、電気化学測定用)酸化還元試薬組成物に関する。本発明の酸化還元試薬組成物は、例えば、グルコースの測定に使用される。本発明の酸化還元試薬組成物は酸化還元酵素とメディエータを含有する。酸化還元酵素は酸化還元反応を触媒する。本発明の酸化還元試薬組成物を利用したグルコース測定法では、酸化還元酵素とメディエータ間の電子の受け渡しを利用して試料中のグルコース量を測定する。一方、本発明の酸化還元試薬組成物の用途はグルコース量の測定に限られず、例えば、試料中のコレステロール、乳酸塩、クレアチニン、過酸化水素、アルコール、アミノ酸、アミノ酸塩(グルタミン酸塩)、無機物質等の測定にも本発明を利用可能である。
【0010】
目的の測定(典型的にはグルコースの測定)に適した酵素であれば酸化還元酵素は特に限定されない。グルコースの測定の場合、例えば、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、「FAD-GDH」と略称する)(例えば、国際公開第2004/058958号パンフレット、国際公開第2007/139013号パンフレット、国際公開第2009/119728号パンフレット、特許第6084981号、国際公開第2006/101239号パンフレット等を参照)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、ピロロキノリンキノン(PQQ)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(例えば、特開2000-350588号公報、特開2001-197888号公報、特開2001-346587号公報等を参照)及びグルコースオキシダーゼを酸化還元酵素として採用できる。好ましくは、酵素反応性や基質特異性の点等で有利なFAD-GDHが用いられる。グルコース以外の測定では、例えば、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、コレステロールオキシダーゼ、コレステロールエステラーゼ、乳酸オキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ又はビリルビンオキシダーゼなどの酸化還元酵素を採用できる。
【0011】
メディエータには、フェノチアジン骨格を持つ化合物(例えば、3-アミノ-7-(2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキサンアミド)-5-フェノチアジニウム、アズールC((7-アミノ-3-フェノチアジニリデン)-メチルアンモニウム)、アズールA(N’,N’-ジメチルフェノチアジン-5-イウム-3,7-ジアミン)、メチレンブルー、トルイジンブルー((7-アミノ-8-メチル-フェノチアジン-3-イリデン)-ジメチル-アンモニウム)など)とルテニウム錯体の組合せ、好ましくはトルイジンブルー((7-アミノ-8-メチル-フェノチアジン-3-イリデン)-ジメチル-アンモニウム)、アズールA(N’,N’-ジメチルフェノチアジン-5-イウム-3,7-ジアミン)又はアズールC((7-アミノ-3-フェノチアジニリデン)-メチルアンモニウム)とルテニウム錯体の組合せが用いられる。トルイジンブルー、アズールA及びアズールCはいずれもチアニン誘導体である。ルテニウム錯体は特に限定されないが、例えば、塩化ヘキサアンミンルテニウム(III)(Ru(NH3)6Cl3)、[Ru(2,2’,2’’-ターピリジン)(1,10-フェナントロリン)(OH2)]2+、trans-[Ru(2,2’-ビピリジン)2(OH2)(OH)]2+、[(2,2’-ビピリジン)2(OH)RuORu(OH)(2,2’bpy)2]4+、[Ru(4,4’-ビピリジン)(NH3)5]2+等が用いられる。
【0012】
本発明の酸化還元試薬組成物に、酸化還元酵素とメディエータに加え、脂肪酸(カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、オクタン酸、ノナン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキドン酸等)、第4級アンモニウム塩(エシルトリメチルアンモニウム、ミリスチルトリメチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム等)、水溶性高分子(ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ペルフルオロスルホン酸、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸セルロース、ポリアミド等)、血清アルブミン、タンパク質、界面活性剤(Triton X-100、ドデシル硫酸ナトリウム、ペルフルオロオクタンスルホン酸、ステアリン酸ナトリウム等)、増粘剤(NatrosolTM、DEAE-デキストラン塩酸塩等)、糖類、糖アルコール、無機塩類等を含有させてもよい。
【0013】
2.酸化還元試薬組成物の用途
この局面ではまず、本発明の酸化還元試薬組成物を用いた電気化学測定法が提供される。本発明の酸化還元試薬組成物を用いれば、実用性の高い(特に、定量性、測定精度が高い)反応系を構築できる。本発明の電気化学測定法の一つであるグルコース測定法では、酸化還元試薬組成物を構成する酸化還元酵素とメディエータ間の電子の受け渡しを利用して試料中のグルコース量を測定する。この反応系が利用できる各種用途に本発明を適用可能である。本発明のグルコース測定法では電気化学的手法が用いられることになる。具体的には、例えば、クロノアンペロメトリー、クロノクーロメトリー又はサイクリックボルタンメトリー法によって試料中のグルコース量が測定される。測定方法は公知のものを採用できる。測定の際の電圧印加条件は260mV以上とする。このように比較的高い電圧を印加することにより、定量性に優れ、且つ試料中の干渉物質(例えば尿酸、アスコルビン酸、アセトアミノフェン、イブプロフェン、イコデキストリン、ビリルビン、L-DOPA、コレステロール、マルトーゼ、クレアチニン、メチルドーパ、ドーパミン、Pralidoxime Iodide(PAM)、EDTA、サリチル酸塩、ガラクトース、トルブタミド、ゲンチジン酸、トラザミド、グルタチオン、トリグリセライド、ヘモグロビン、ヘパリン、キシロース)の影響を受けにくい測定が可能となる。印加電圧の上限値は測定に支障がない限り特に限定されないが、印加電圧が高すぎると干渉物質の影響を受けやすくなるため、干渉物質の影響が少ない範囲に印加電圧を設定することが好ましい。印加電圧の上限値は例えば700mVである。好ましくは印加電圧を260mV~500mV、更に好ましくは印加電圧を260mV~400mV、より好ましくは印加電圧を260mV~350mVとし、干渉物質の影響の更なる低減及び定量性の更なる向上を図る。
【0014】
ステップ状の電位を印加し、時間に対する電流応答を測定するのがクロノアンペロメトリーである。一方、クロノクーロメトリーは電流量を時間積分して電荷量として測定する手法である。電荷量は電子供与体の物質量に比例するので、クロノクーロメトリーによれば絶対量の測定が可能になる。
【0015】
クロノアンペロメトリーでは基質(グルコース)に酵素を反応させて一旦メディエータに電子を蓄えた後、電荷を印加して、還元されたメディエータ量を測定することにより、基質であるグルコースの濃度を求める。そのため、メディエータ量は基質量に対して大過剰に添加しておく必要がある。一方、クロノクーロメトリーでは常に電荷を印加しながら測定を行うため、グルコースと酵素により還元されたメディエータは常時、電極に電子を受け渡すと同時に酸化される。従って、酵素反応と拡散速度に影響されない量として一定量以上のメディエータが添加されていれば反応速度は一定になるため、クロノアンペロメトリーよりも少ないメディエータ量で測定が可能となる。
【0016】
本発明の酸化還元試薬組成物は、典型的には、血糖値の測定(自己血糖測定(SMBG)及び持続血糖測定(CGM))に利用されるが、その測定原理が適用可能なものであれば、これに限定されない。例えば、血液以外の体液(例えば涙、唾液、細胞間質液、尿等)に含まれるグルコースの測定、食品(調味料や飲料など)中のグルコース濃度の測定などにも利用可能である。また、発酵食品(例えば食酢)又は発酵飲料(例えばビールや酒)の製造工程において発酵度を調べるために本発明の酸化還元試薬組成物を利用してもよい。また、グルコース以外の成分(コレステロール、乳酸塩、クレアチニン、過酸化水素、アルコール、アミノ酸、アミノ酸塩(グルタミン酸塩)、又は無機物質など)の測定にも利用可能である。
【0017】
本発明の酸化還元試薬組成物を利用してグルコースセンサを構成することが可能である。即ち、本発明は、本発明の還元試薬組成物を含むグルコースセンサも提供する。本発明のグルコースセンサの典型的な構造では、絶縁性基板上に作用電極及び対極を備えた電極系が形成され、その上に本発明の酸化還元試薬組成物を含む試薬層が形成される。より詳細には、通常、作用電極上に試薬層がコートされる。作用電極と対極が向き合うように構成される、対面型のグルコースセンサにも本発明を適用可能である。一方、参照電極も備えた測定系を用いることにしてもよい。このような、いわゆる3電極系の測定系を用いれば、参照電極の電位を基準として作用電極の電位を表すことが可能となる。各電極の材料は特に限定されない。作用電極及び対極の電極材料の例を示せば、金(Au)、カーボン(C)、白金(Pt)、チタン(Ti)である。尚、グルコースセンサの構成、グルコースセンサを利用した電気化学的測定法については、例えば、「バイオ電気化学の実際-バイオセンサ・バイオ電池の実用展開-(2007年3月発行、シーエムシー出版)」や「生物と化学 Vol.44, No.3, 2006, 192-197(編集・発行:公益社団法人日本農芸化学会)」に詳しい。
【実施例】
【0018】
グルコース定量に有効なメディエータを見出すべく、以下の検討を行った。
<各種化合物とルテニウム錯体の組合せをメディエータとした測定>
1.方法
以下の器材と試薬を用い、電気化学測定によってグルコースを定量した。
(1)器材
電極:丸型カーボン電極(バイオデバイステクノロジー社製、DEP-Chip EP-PP)
ポテンショスタット:HSV110(北斗電工株式会社)
【0019】
(2)試薬
(2-1)メディエータ
トルイジンブルーO(Sigma Aldrich社)
アズールA(Combi-Blocks社)
アズールC(Alfa Aesar社)
塩化ヘキサアンミンルテニウム(III)(Sigma Aldrich社)
(2-2)酵素
A. oryzae由来FAD依存性Glucose dehydrogenase(天野エンザイム社)
尚、その他の試薬は和光純薬株式会社から購入した。
【0020】
(3)測定方法
以下の濃度になるように試薬を混合し、クロノアンペロメトリー法(0V電位から所定電位(0.2~0.35V)まで電圧を印加し、5秒後の電流値をプロット)でグルコースを定量した。
10mg/mL FAD-GDH
トルイジンブルーO(1mM)、アズールA(5mM)又はアズールC(10mM)と塩化ヘキサアンミンルテニウム(III)(100mM)の組合せからなるメディエータ
20~600mg/dL グルコース
100mMリン酸緩衝液(pH7, 50mM KCl)
【0021】
2.結果
印加電圧0.3Vでの測定結果を
図1に示す。トルイジンブルーO、アズールA及びアズールCのいずれについても、ルテニウム錯体と組合せた場合、メディエータとして良好に機能し、直線性の高いグルコース定量が可能であった。
【0022】
トルイジンブルーOとルテニウム錯体の組合せをメディエータとした場合について、印加電圧0.2V、0.3V及び0.35Vの間で定量性を比較した。
図2に示すように、印加電圧を0.3V以上にすることで、特に直線性の高いグルコース定量が可能であった。次に、印加電圧を0.2Vと0.35Vの間で細かく設定し、印加電圧と直線性の関係を更に詳細に調べた。その結果、印加電圧(電位)が0.26V以上のとき、決定係数R
2が0.9以上となり(
図3)、望ましい直線性のあるグルコース定量が可能となった。
【0023】
<干渉物質の影響の検討>
1.方法
以下の器材と試薬を用い、電気化学測定によってグルコースを定量した。
(1)器材
電極:丸型カーボン電極(バイオデバイステクノロジー社製、DEP-Chip EP-PP)
ポテンショスタット:HSV110(北斗電工株式会社)
【0024】
(2)試薬
(2-1)メディエータ
トルイジンブルーO(Sigma Aldrich社)
塩化ヘキサアンミンルテニウム(III)(Sigma Aldrich社)
フェリシアン化カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)
(2-2)酵素
A. oryzae由来FAD依存性Glucose dehydrogenase(天野エンザイム社)
尚、その他の試薬は和光純薬株式会社から購入した。
【0025】
(3)測定方法
以下の濃度になるように試薬を混合し、干渉物質(尿酸、アスコルビン酸、アセトアミノフェン)の存在下、クロノアンペロメトリー法(0V電位から所定電位(トルイジンブルーO(1mM)と塩化ヘキサアンミンルテニウム(III)(100mM)の組合せの場合は0.3V、フェリシアン化カリウムの場合は0.4V)まで電圧を印加し、5秒後の電流値をプロット)でグルコースを定量した。
10mg/mL FAD-GDH
トルイジンブルーO(1mM)と塩化ヘキサアンミンルテニウム(III)(100mM)の組合せからなるメディエータ、又はフェリシアン化カリウム(100mM)
80mg/dL グルコース
±20mg/dL 各干渉物質(尿酸、アスコルビン酸、アセトアミノフェン)
100mMリン酸緩衝液(pH7, 50mM KCl)
【0026】
2.結果
トルイジンブルーOとルテニウム錯体の組合せの場合、フェリシアン化カリウムに比較して干渉物質の影響を格段に抑えることができた(
図4)。即ち、トルイジンブルーOとルテニウム錯体の組合せをメディエータにすれば、干渉物質の影響が少ない、高精度のグルコース定量が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、定量性に優れ、且つ干渉物質の影響が少ない、グルコースの測定/定量が可能になる。グルコースセンサ及びそれを利用した自己血糖測定器等への本発明の利用、応用が期待される。
【0028】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。