(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート壁部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
E04C 2/30 20060101AFI20240307BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20240307BHJP
E04B 1/80 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
E04C2/30 N
E04B1/76 500F
E04B1/80 100Q
(21)【出願番号】P 2020004635
(22)【出願日】2020-01-15
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100208269
【氏名又は名称】遠藤 雅士
(72)【発明者】
【氏名】笹原 厚
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-140697(JP,A)
【文献】実開昭57-187736(JP,U)
【文献】実開昭58-150010(JP,U)
【文献】特開平04-231538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 2/00-2/54
E04B 1/62-1/99
E04B 2/56-2/70
E04F 13/08-13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッド上に設置された外周型枠
で囲まれた空間内に
、前記ベッド面と間隔を空けて第1のワイヤーメッシュを配筋し、前記空間内に壁面材の外壁部
コンクリートを打設し
、
硬化する前の前記外壁部コンクリート面上に
、前記外周型枠
の内側面と間隔を空けて仕切枠体を載置し、
前記仕切枠体
で囲まれた空間内
の前記外壁部コンクリート上に充填断熱材を充填し、
前記充填断熱材と壁面材の壁側面部の上面に第2のワイヤーメッシュを配筋し、
前記仕切枠体と前記外周型枠との間に壁面材の壁側面部
コンクリートと、前記充填断熱材および前記壁側面部の上面を覆う壁面材の内壁部コンクリートと、を
一体的に打設することを特徴とするプレキャストコンクリート壁部材の製造方法。
【請求項2】
前記充填断熱材は、発泡モルタルからなる請求項
1に記載のプレキャストコンクリート壁部材
の製造方法。
【請求項3】
前記仕切
枠体は、ポリスチレンフォーム成形品を組み立ててなる請求項1または請求項2に記載のプレキャストコンクリート壁部材
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート壁部材およびその製造方法に係り、特に、内部に軽量の充填断熱材の層が設けられたプレキャストコンクリート壁部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の外壁面プレキャストコンクリート壁部材(以下、プレキャスト壁部材と記す。)が使用される場合、プレキャスト壁部材の室内側に断熱材を施工するのが一般的である。また、この種のプレキャスト壁部材は重量が重いため、プレキャスト壁部材の軽量化のためと壁部を構成するための部材数を減らすため、プレキャスト壁部材の内部に断熱性のある軽量な充填断熱材の層を設けることも提案されている。
【0003】
特許文献1には、プレキャスト壁部材の内部に充填断熱材の層を設けるために、型枠を使用(浮かし型枠の使用または樹脂モルタル4の二度打ち等)することによりプレキャスト壁部材内部に凹部4aを設け、凹部4aにエアーモルタル5を充填した樹脂モルタル製のプレキャストカーテンウォール板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プレキャスト壁部材の内部に外周の型枠と隔離させて浮かし型枠を設置するのは手間が掛かり、また、樹脂モルタル硬化後に浮かし型枠を撤去する手間も掛かる。あるいは、浮かし型枠を使用する代わりに樹脂モルタルを2度打ちする場合は、2度打ちの手間および型枠の設置と撤去の手間が掛かる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、内部に充填断熱材が充填されたプレキャスト壁部材と、このプレキャスト壁部材を容易に製造できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のプレキャストコンクリート壁部材の製造方法は、ベッド上に設置された外周型枠で囲まれた空間内に、前記ベッド面と間隔を空けて第1のワイヤーメッシュを配筋し、前記空間内に壁面材の外壁部コンクリートを打設し、硬化する前の前記外壁部コンクリート面上に、前記外周型枠の内側面と間隔を空けて仕切枠体を載置し、前記仕切枠体で囲まれた空間内の前記外壁部コンクリート上に充填断熱材を充填し、前記充填断熱材と壁面材の壁側面部の上面に第2のワイヤーメッシュを配筋し、前記仕切枠体と前記外周型枠との間に壁面材の壁側面部コンクリートと、前記充填断熱材および前記壁側面部の上面を覆う壁面材の内壁部コンクリートと、を一体的に打設することを特徴とする。
【0011】
この製造方法において、前記充填断熱材は、発泡モルタルからなることが好ましい。
【0012】
また、この製造方法において、前記仕切枠体は、ポリスチレンフォーム成形品を組み立ててなることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、内部に軽量の充填断熱材が設けられたプレキャスト壁部材を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係るプレキャスト壁部材(完成品)の正面図、(b)は、(a)のIb-Ib断面線で示した底断面図、(c)は、(a)のIc-Ic断面線で示した側断面図。
【
図2】(a)は、本発明の第1実施形態に係るプレキャスト壁部材の製造時の下部ワイヤーメッシュ筋、ダボ筋の配筋、第1層(外壁部)の打設および仕切枠体の載置工程を、(b)は、第2層(充填断熱材)の充填工程を、(c)は、上部ワイヤーメッシュ筋の配筋工程を、(d)は、第3層(内壁部、壁側面)の打設工程を示した各断面図。
【
図3】(a)は、本発明の第2実施形態に係るプレキャスト壁部材(完成品)の正面図、(b)は、(a)のIIIb-IIIb断面線で示した底断面図、(c)は、(a)のIIIc-IIIc断面線で示した側断面図。
【
図4】(a)は、本発明の第2実施形態に係るプレキャスト壁部材の製造時の下部ワイヤーメッシュ筋、ダボ筋の配筋、第1層(外壁部)の打設および工程、(b)は、仕切枠体の載置工程、(c)は、第2層(充填断熱材)の充填工程、(d)は、第3層(壁側面)の打設工程を示した各断面図。
【
図5】(a)は、本発明の変形例に係るプレキャスト壁部材(完成品)の底断面図、(b)は、他の変形例に係る底断面図、(c)、(d)は、さらに他の変形例に係る底断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のプレキャスト壁部材およびプレキャスト壁部材の製造方法について、以下、添付図面を参照して説明する。なお、同一の構成要素には、同一の符号を付し、説明は省略する。なお、以下の説明ではプレキャスト壁部材の製造時の横置き姿勢を基準にして平面、上面、側面、底面等を記載し、設定した基準の状態と異なる場合はその旨を表記する。
【0016】
[第1実施形態]
図1(a)~(c)は、本発明の第1実施形態に係るプレキャスト壁部材1を示している。プレキャスト壁部材1は、仕切枠体10を使用して部材内の所定範囲に充填断熱材11が充填された仕切枠体10プレキャストコンクリート版製品であり、建築物の外壁カーテンウォールとして使用されるものである。
【0017】
(プレキャスト壁部材1の構成要素)
【0018】
2回の打設によって打ち分けられる壁面材12,13は、仕切枠体10および充填断熱材11の周囲を覆ってプレキャスト壁部材1の外形を形成している。壁面材12,13は、本実施形態では、比重約1.0の軽量モルタルからなり、ALC部材より重量があり、高強度に設定されている。壁面材12は、プレキャスト壁部材1の底面(外壁部)を約60mmの厚さで形成され、壁面材13は、プレキャスト壁部材1の周壁(壁側面部)および上面(内壁部)が、それぞれ約100mm、約60mmの厚さで形成されている。
【0019】
仕切枠体10は、
図1(a)~(c)に示すように、内部の充填断熱材の4周を囲むように、正面視して□形状に接合された枠体である。この仕切枠体10は、プレキャスト壁部材1の製造時に、すでに打設された壁面材12上に載置される、埋設型枠として機能する大きさの異なる2組の枠体からなり、型枠としての仕切枠体10で区画された内部空間に流動性を有する未固化状態の充填断熱材11が充填される。本実施形態では、仕切枠体10は、50mm×80mmの長方形断面のスタイロフォーム(登録商標)等のポリスチレンフォームの棒状部材が、大きさの異なる2組の区画(
図1(a))を形成するように、組み立てられて枠体が形成されている。
【0020】
充填断熱材11は、プレキャスト壁部材1の断熱効果を高める役割を果たし、仕切枠体10および壁面材12,13で区画された厚さ約80mmの層として区画内に充填され固化する。充填断熱材11は、本実施形態では、比重約0.5の気泡モルタルが用いられている。
【0021】
メッシュ筋14は、プレキャスト壁部材1の底面側に配筋され、メッシュ筋15は、プレキャスト壁部材1の上面側に配筋される補強鉄筋である。メッシュ筋14,15は、壁面材12,13内に配筋される、鉄筋径φ6、目合い150mm×150mmのワイヤーメッシュが用いられている。
【0022】
ダボ筋16は、メッシュ筋14とメッシュ筋15との離隔を一定に保つために、プレキャスト壁部材1の厚さ方向に配筋される略コ字状の補助鉄筋である。ダボ筋16は、ダボ効果により、水平方向のせん断力等も負担する。
【0023】
ファスナー打込み金物17、18は、プレキャスト壁部材1を建築物に取り付けるためにプレキャスト壁部材1の建築物屋内側の上側及び下側に設けられているプレキャスト壁部材の取付金物である。
【0024】
位置決め筋19は、仕切枠体10にプレキャスト壁部材1の側面外側から当接することにより、仕切枠体10を壁面材12上の所定の位置に載置させる、略L字状の鉄筋である。
【0025】
(プレキャスト壁部材1の構造)
プレキャスト壁部材1は、底面(製造時)が外壁部としての壁面材12で構成され、壁面材12上に埋設型枠として機能した仕切枠体10が配置され、仕切枠体10で区画された内部空間に充填され固化した充填断熱材11が位置している。仕切枠体10の側面、上面および充填断熱材11の上面は、内壁部としての壁面材13に覆われている。壁面材12には、メッシュ筋14が配筋され、壁面材13には、メッシュ筋15が配筋され、メッシュ筋14とメッシュ筋15とは、ダボ筋16によって接合されている。
【0026】
(プレキャスト壁部材1の製造方法)
以下、
図2(a)~(d)を参照して、プレキャスト壁部材1の製造方法を説明する。
【0027】
まず、
図2(a)に示すように、ベッド20上に平面視矩形状の外周型枠21を載置し、外周型枠21内部にメッシュ筋14、ダボ筋16および位置決め筋19を所定のかぶり厚を確保して配筋する。配筋後、第1層の壁面材12を所定の厚さで打設し、壁面材12上に仕切枠体所定の内部空間を区画するように、仕切枠体10を位置決め筋19と当接させることにより外周型枠21と所定の間隔を確保して載置する。なお、仕切枠体10は軽量なので、壁面材12が硬化する前に仕切枠体10壁面材12の所定位置に載置することができ、仕切枠体10を壁面材12に接着、固定できる。
【0028】
次に、
図2(b)に示すように、埋設型枠としての仕切枠体10の天端まで第2層(充填断熱材11)を充填する。その後、
図2(c)に示すように、外周型枠21内にメッシュ筋をダボ筋16の上端(天端)と結線して配筋する。最後に、
図2(d)に示すように、外周型枠21と仕切枠体10との間および十分な強度が得られた充填断熱材11の上方から外周型枠21の天端まで第3層(内壁部)の壁面材13を打設する。壁面材13が硬化した後、プレキャスト壁部材1を外周型枠21から脱型してプレキャスト壁部材1の製造が完了する。
【0029】
本実施形態によると、仕切枠体10を壁面材12に載置した後、仕切枠体10で囲まれた範囲に充填断熱材11を充填し、充填断熱材11の上面及び仕切枠体10の外周の範囲に壁面材13を打設してプレキャスト壁部材1を製造することができるので、浮かし型枠を使用する場合などに比べてプレキャスト壁部材1を容易に製造することができる。また、仕切枠体10を壁面材12の硬化前に載置でき、仕切枠体10をプレキャスト壁部材1内に存置させるので、プレキャスト壁部材1の製造時間を短縮することができる。
【0030】
[第2実施形態]
図3(a)~(c)は、本発明の第2実施形態に係るプレキャスト壁部材2を示している。プレキャスト壁部材2は、外壁部を構成する面上に充填断熱材11を充填するために仕切枠体10Aを使用したプレキャスト壁部材である。
【0031】
(プレキャスト壁部材2の構成要素)
図3(a)~(c)に示すように、仕切枠体10Aは、本実施形態では、高さ約100mmであり、仕切枠体10Aの天端は露出している。
【0032】
壁面材13Aは、外周型枠21Aと仕切枠体10Aとの間に外周型枠21Aの天端まで約100mmの高さで打設され、プレキャスト壁部材2の側面を形成する。
【0033】
メッシュ筋15A,15Bは、ワイヤーメッシュ筋であり、ダボ筋16の上端に、充填断熱材11内および壁面材13A内にそれぞれ配筋される。
【0034】
(プレキャスト壁部材2の構造)
プレキャスト壁部材2は、底面(外壁部)が壁面材12で構成され、壁面材12上に仕切枠体10Aが載置され、仕切枠体10Aで区画された範囲内に充填され固化した充填断熱材11が設けられている。仕切枠体10Aの外側面は、壁側部となる壁面材13Aに覆われている。仕切枠体10Aの上面(内壁側)および充填断熱材11の上面は、外部に露出している。
【0035】
(プレキャスト壁部材2の製造方法)
以下、
図4(a)~(d)を参照して、プレキャスト壁部材2の製造方法を説明する。まず、
図4(a)に示すように、ベッド20上に平面視矩形状の外周型枠21Aを載置し、外周型枠21A内部にメッシュ筋14、ダボ筋16および位置決め筋19を所定のかぶり厚を確保できるように配筋する。配筋後、外壁部となる壁面材12を所定の厚さで打設する。次に、
図4(b)に示すように、壁面材12上に仕切枠体10Aを位置決め筋19と当接させることにより外周型枠21Aと所定の間隔を確保して平面視ロ字状に載置する。
図4(c)に示すように、外周型枠21A内にメッシュ筋15Aをダボ筋16の上端と結線して配筋する。配筋後、仕切枠体10A内に仕切枠体10Aの天端まで充填断熱材11を充填する。最後に、
図4(d)に示すように、外周型枠21Aと仕切枠体10Aとの間に外周型枠21Aの天端まで、壁側面部となる壁面材13Aを打設する。壁面材13Aが硬化した後、プレキャスト壁部材2を外周型枠21Aから脱型してプレキャスト壁部材2の製造が完了する。
【0036】
本実施形態によると、仕切枠体10Aを壁面材12に載置した後、仕切枠体10Aで囲まれた範囲に充填断熱材11を充填し固化させ、壁面材13Aを打設してプレキャスト壁部材2を製造することができるので、浮かし型枠を使用する場合などに比べてプレキャスト壁部材2を容易に製造することができる。また、壁面材13Aを仕切枠体10Aと外周型枠21Aとの間に打設してプレキャスト壁部材2を製造するので、壁面材13を充填断熱材11の上面にも打設するプレキャスト壁部材1を製造するよりも製造時間を短縮することができる。
【0037】
[変形例]
上記の各実施形態において、仕切枠体10,10Aの断面形状は矩形状であったが、プレキャスト壁部材の構造的な理由や製造上の理由などにより、
図5(a)、(b)に示すような、台形状の断面を有する仕切枠体10a,10b等を使用してプレキャスト壁部材3,4を製造してもよい。また、仕切枠体を壁面材12によりしっかりと固定させるために、
図5(c)、(d)に示すような、下部が凹凸状の断面を有する仕切枠体10c,10d,10e等を使用してプレキャスト壁部材5,6を製造してもよい。さらに、接合された埋設型枠の平面視での配置を、2組の矩形状ではなくて単一あるいは3組以上の矩形状としてもよいし、接合された埋設型枠の平面視での形状を矩形状ではなく台形状等にしてもよい。
【0038】
また、上記の各実施形態において、壁面材12,13,13Aには、メッシュ筋が配筋されていたが、メッシュ筋に代えて、耐アルカリ性ガラス繊維等の補強繊維をモルタルに混合して繊維補強モルタルとしてもよいし、メッシュ筋と補強繊維とを併用して補強材としてもよい。
【0039】
上記の各実施形態では、仕切枠体10のみが存置型枠であったが、外周型枠21,21Aも存置型枠であってもよい。また、上記の各実施形態では、仕切枠体10は、ポリスチレンフォームであったが、発泡無機モルタルの型枠や木製型枠や耐水性を有する紙製型枠等を使用してもよい。
【0040】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1,2,3,4,5,6 プレキャストコンクリート壁部材
10,10A,10a,10b,10c,10d 仕切枠体
11 充填断熱材
12,13,13A 壁面材
14,15,15A,15B メッシュ筋
16 ダボ筋
17,18 ファスナー打込み金物
19 位置決め筋
20 ベッド
21,21A 外周型枠