(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液、導電性高分子およびその製造方法、並びに電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20240307BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20240307BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20240307BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20240307BHJP
C08L 79/02 20060101ALI20240307BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20240307BHJP
C08G 73/02 20060101ALI20240307BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20240307BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240307BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240307BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20240307BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K5/05
C08K5/42
C08L65/00
C08L79/02
C08G61/12
C08G73/02
H01B1/12 F
H01B1/12 E
H01B1/12 G
H01B13/00 Z
H01G9/15
H01G9/028 G
H01G9/00 290H
(21)【出願番号】P 2020031504
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078064
【氏名又は名称】三輪 鐵雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115901
【氏名又は名称】三輪 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鶴元 雄平
(72)【発明者】
【氏名】関 恵実
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-001677(JP,A)
【文献】特開2014-031433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子の製造に使用される酸化剤兼ドーパント溶液であって、
以下の(a)および(b)
(a)有機スルホン酸第二鉄、
(b)下記一般式(1)で表されるアルキレングリコールモノアルキルエーテル
を含有し、
上記溶液における上記(a)の含有量が20~70質量%であり、
上記溶液における上記(b)の含有量が1~30質量%であることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【化1】
〔上記一般式(1)中、nは1または2であり、n=1のとき、R
1は炭素数1~4の炭化水素基であり、かつR
2は炭素数3~5の炭化水素基であるか、またはR
1は炭素数3もしくは4の炭化水素基であり、かつR
2は炭素数2~5の炭化水素基で、n=2のとき、R
1は炭素数1~4の炭化水素基であり、かつR
2は炭素数2~5の炭化水素基である。〕
【請求項2】
有機スルホン酸第二鉄として、パラトルエンスルホン酸第二鉄またはナフタレンスルホン酸第二鉄を含有する請求項1に記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項3】
請求項1または2に記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、チオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、およびアニリンまたはその誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを酸化重合してなるものであることを特徴とする導電性高分子。
【請求項4】
請求項1または2に記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液の存在下で、チオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、およびアニリンまたはその誘導
体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを酸化重合して導電性高分子を得ることを特徴とする導電性高分子の製造方法。
【請求項5】
固体電解質を含有する電解コンデンサであって、
請求項3に記載の導電性高分子を、上記固体電解質として有することを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項6】
固体電解質を含有する電解コンデンサを製造する方法であって、
請求項4に記載の導電性高分子の製造方法によって製造された導電性高分子を、上記固体電解質として用いることを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れた電解コンデンサおよびその製造方法、上記電解コンデンサを構成し得る導電性高分子およびその製造方法、並びに上記導電性高分子を製造するための酸化剤兼ドーパント溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、その高い導電性により、例えば、アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどの電解質(固体電解質)として用いられている。
【0003】
この用途における導電性高分子としては、例えば、チオフェンまたはその誘導体などを化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られたものが用いられている。
【0004】
上記チオフェンまたはその誘導体などの化学酸化重合を行う際のドーパントとしては、主として有機スルホン酸が用いられ、酸化剤としては、遷移金属が用いられ、その中でも第二鉄が適しているといわれている。そして、通常、有機スルホン酸の第二鉄塩がチオフェンまたはその誘導体などの化学酸化重合にあたって酸化剤兼ドーパントとして用いられている(例えば特許文献1~3)。
【0005】
また、導電性高分子を製造するための酸化剤兼ドーパント溶液を改良することで、電解コンデンサの各種特性を高める技術も検討されている。例えば、特許文献4には、有機スルホン酸第二鉄と共に、ジアルキルエーテルまたはその誘導体を用いることで、酸化剤兼ドーパント溶液の粘度の増大を抑制しつつ高濃度化を可能として、これを用いて製造される導電性高分子を有する電解コンデンサのESR(等価直列抵抗)を低くしたり、静電容量を大きくしたりできることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-138136号公報
【文献】特開2003-160647号公報
【文献】特開2004-265927号公報
【文献】特開2012-1677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電解コンデンサにおいては、高温環境下に置かれる用途への適用が広がっており、それを受けて、耐熱性を高めるための技術の開発が求められている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐熱性に優れた電解コンデンサおよびその製造方法、上記電解コンデンサを構成し得る導電性高分子およびその製造方法、並びに上記導電性高分子を製造するための酸化剤兼ドーパント溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液(以下、「酸化剤兼ドーパント溶液」という場合がある)は、以下の(a)および(b)
(a)有機スルホン酸第二鉄、
(b)下記一般式(1)で表されるアルキレングリコールモノアルキルエーテル
を含有し、上記(b)の含有量が1~30質量%であることを特徴とするものである。
【0010】
【0011】
上記一般式(1)中、nは1または2であり、n=1のとき、R1は炭素数1~4の炭化水素基であり、かつR2は炭素数3~5の炭化水素基であるか、またはR1は炭素数3もしくは4の炭化水素基であり、かつR2は炭素数2~5の炭化水素基で、n=2のとき、R1は炭素数1~4の炭化水素基であり、かつR2は炭素数2~5の炭化水素基である。
【0012】
また、本発明の導電性高分子は、本発明の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液を用いて、チオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、およびアニリンまたはその誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを酸化重合してなることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明の導電性高分子の製造方法は、本発明の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液の存在下で、チオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、およびアニリンまたはその誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを酸化重合して導電性高分子を得ることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の固体電解コンデンサは、本発明の導電性高分子を固体電解質として有することを特徴とするものである。
【0015】
さらに、本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、本発明の導電性高分子の製造方法によって製造された導電性高分子を、固体電解質として用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐熱性に優れた電解コンデンサおよびその製造方法、上記電解コンデンサを構成し得る導電性高分子およびその製造方法、並びに上記導電性高分子を製造するための酸化剤兼ドーパント溶液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の酸化剤兼ドーパント溶液は、(a)有機スルホン酸第二鉄と、(b)上記一般式(1)で表されるアルキレングリコールモノアルキルエーテルとを含有し、(b)成分の含有量が、1~30質量%である。
【0018】
本発明の酸化剤兼ドーパント溶液に含まれる(a)成分である有機スルホン酸第二鉄は、導電性高分子の重合の際に酸化剤として作用すると共に、形成後の導電性高分子に取り込まれてドーパントとして機能する。そして(a)成分と共に(b)成分である上記一般式(1)で表されるアルキレングリコールモノアルキルエーテルを特定の量で含有する本発明の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて得られた導電性高分子(本発明の導電性高分子)を固体電解質として使用することで、緻密な導電性高分子の形成が可能となることから、電解コンデンサの耐熱性を高めることができ、また、電解コンデンサのESRを低くすることもできる。
【0019】
有機スルホン酸第二鉄を構成する有機スルホン酸としては、例えば、ベンゼンスルホン酸またはその誘導体、ナフタレンスルホン酸またはその誘導体、アントラキノンスルホン酸またはその誘導体などの芳香族系スルホン酸;ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂、スチレンスルホン酸と非スルホン酸系モノマー(メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物またはその加水分解物など)との共重合体などの高分子スルホン酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸などの鎖状スルホン酸;などが挙げられる。
【0020】
特に芳香族系スルホン酸は、よりESRが低く、かつ静電容量が大きいなど、コンデンサ特性の優れた電解コンデンサを製造しやすい上に、単独で用いることができることなどから、有機スルホン酸第二鉄を構成するにあたっての有機スルホン酸として好ましい。そして、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸などの鎖状スルホン酸は、芳香族系スルホン酸より、酸性度が高いことから、単独で用いるより、上記芳香族系スルホン酸と併用することが好ましい。つまり、芳香族系スルホン酸は、低湿度(湿度約35%以下)下では反応が適正に進行して特性の良好な導電性高分子が得られやすいものの、高湿度(湿度約50%以上)下では反応が進み難いという性質を有している。そこで、それを鎖状スルホン酸の強い酸性度で改善して反応を適正に進行させることができるからである。
【0021】
また、ベンゼンスルホン酸またはその誘導体におけるベンゼンスルホン酸誘導体としては、例えば、トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸、エトキシベンゼンスルホン酸、プロポキシベンゼンスルホン酸、ブトキシベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸などが挙げられる。さらに、ナフタレンスルホン酸またはその誘導体におけるナフタレンスルホン酸誘導体としては、例えば、ナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、エチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などが挙げられる。また、アントラキノンスルホン酸またはその誘導体におけるアントラキノンスルホン酸誘導体としては、例えば、アントラキノンジスルホン酸、アントラキノントリスルホン酸などが挙げられる。これらの芳香族系スルホン酸の中でも、トルエンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸などが好ましく、パラトルエンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸がより好ましく、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸がさらに好ましい。
【0022】
有機スルホン酸第二鉄には、例えば、上記例示の各有機スルホン酸の第二鉄塩のうちの1種または2種以上を用いればよい。
【0023】
有機スルホン酸第二鉄は、その鉄に対する有機スルホン酸のモル比が1:3より有機スルホン酸が少ないものが好ましい。これは鉄に対する有機スルホン酸のモル比を、その化学量論的モル比である1:3より有機スルホン酸を少なくすることによって、その有機スルホン酸第二鉄の反応速度を若干低減できるからであり、鉄に対する有機スルホン酸のモル比が、1:2程度のものまでが好ましく、1:2.2程度、特に1:2.4程度のものまでがより好ましく、1:2.75程度のものまでがさらに好ましい。
【0024】
酸化剤兼ドーパント溶液における(a)成分の含有量は、導電性高分子の合成の際の酸化剤としての機能が良好に発揮できるようにすると共に、ドーパントとしての十分に作用できる量が合成される導電性高分子中に含まれ得るようにする観点から、溶液全体中、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。ただし、酸化剤兼ドーパント溶液中の(a)成分の量が多すぎると、溶液中に(a)成分を良好に溶解させることが困難になる虞がある。よって、酸化剤兼ドーパント溶液における(a)成分の含有量は、溶液全体中、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
酸化剤兼ドーパント溶液における(b)成分である上記一般式(1)で表されるアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、電解コンデンサの耐熱性を高めるための成分である。また、(b)成分の使用によって、電解コンデンサのESRも低くすることができる。
【0026】
(b)成分において、上記一般式(1)におけるnが1であって、R1は炭素数1~4の炭化水素基であり、かつR2は炭素数3~5の炭化水素基の場合、R1としては炭素数が1~4の直鎖状または分岐状のアルキル基などが挙げられ、R2としては炭素数が3~5の直鎖状または分岐状のアルキレンなどが挙げられる。また、上記一般式(1)におけるnが1であって、R1は炭素数3もしくは4の炭化水素基であり、かつR2は炭素数2~5の炭化水素基の場合、R1としては炭素数が3もしくは4の直鎖状または分岐状のアルキル基などが挙げられ、R2としては炭素数が2~5の直鎖状または分岐状のアルキレンなどが挙げられる。さらに、上記一般式(1)におけるnが2の場合、R1としては炭素数1~4の直鎖状または分岐状のアルキル基などが挙げられ、R2としては炭素数2~5の直鎖状または分岐状のアルキレンなどが挙げられる。
【0027】
上記アルキレングリコールモノアルキルエーテルのうち、上記一般式(1)におけるnが1の具体例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールなどが挙げられ、上記一般式(1)におけるnが2の具体例としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。上記一般式(1)で表されるアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、例えば上記例示のもののうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、耐熱性の向上効果が特に良好であることから、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルを使用することがより好ましい。
【0028】
酸化剤兼ドーパント溶液における(b)成分の含有量は、電解コンデンサの耐熱性を高める効果を良好に確保する観点から、1質量%以上であり、5質量%以上あることが好ましい。ただし、酸化剤兼ドーパント溶液中の(b)成分の量が多すぎると、(b)成分が析出しやすくなる。よって、酸化剤兼ドーパント溶液の安定性を高める観点から、酸化剤兼ドーパント溶液における(b)成分の含有量は、30質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましい。
【0029】
酸化剤兼ドーパント溶液の溶媒には、通常、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘプタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノールなどの、炭素数が1~10の炭化水素基を有する1価のアルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール;などの有機溶媒を使用する。これらの中でも、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘプタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノールなどの、炭素数が1~10の炭化水素基を有する1価のアルコールなどの1価のアルコールがより好ましい。
【0030】
また、酸化剤兼ドーパント溶液には、(a)成分、(b)成分および溶媒以外にも、必要に応じて他の添加剤を加えてもよい。このような添加剤としては、例えば、グリシジル基(エポキシ基)を有する化合物またはその開環化合物;シランカップリング剤などの高分子化化合物;ポリシロキサン、アルコール可溶性樹脂、ポリエチレングリコールなどの高分子;などが挙げられる。
【0031】
グリシジル基を有する化合物またはその開環化合物としては、以下に示すモノグリシジル化合物、以下に示すジグリシジル化合物、グリセリンジグリシジルエーテル、ジグリセリンテトラグリシジルエーテル、アルコール可溶性エポキシ樹脂、アルコール可溶性ポリグリセリンポリグリシジルやそれらの開環化合物、エポキシポリシロキサン(上記の「ポリシロキサン」とは「シロキサン結合が2つ以上のもの」をいう)またはその開環化合物などが好適なものとして挙げられる。
【0032】
上記モノグリシジル化合物としては、エポキシプロパノール(つまり、グリシドール)、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、エポキシブタン(つまり、グリシジルメタン)、エポキシペンタン(つまり、グリシジルエタン)、エポキシヘキサン(つまり、グリシジルプロパン)、エポキシヘプタン(つまり、グリシジルブタン)、エポキシオクタン(つまり、グリシジルペンタン)、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、メタクリル酸グリシジルなどが挙げられる。
【0033】
また、上記ジグリシジル化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブチレングリコールジグリシジルエーテル、ペンチレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキシレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0034】
グリシジル基を有する化合物またはその開環化合物の、酸化剤兼ドーパント溶液における添加量は、酸化剤兼ドーパント溶液中の(a)成分の量を100質量部としたとき、5~100質量部とすることが好ましい。
【0035】
本発明の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて導電性高分子を製造するに際して、モノマーには、チオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、アニリンまたはその誘導体を用いることができるが、特にチオフェンまたはその誘導体を用いることが好ましい。これは、チオフェンまたはその誘導体を重合して得られる導電性高分子が導電性および耐熱性のバランスがとれていて、他のモノマーに比べて、コンデンサ特性の優れた電解コンデンサが得られやすいためである。
【0036】
チオフェンまたはその誘導体におけるチオフェンの誘導体としては、例えば、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3-アルキルチオフェン、3-アルコキシチオフェン、3-アルキル-4-アルコキシチオフェン、3,4-アルキルチオフェン、3,4-アルコキシチオフェンや、上記の3,4-エチレンジオキシチオフェンをアルキル基で修飾したアルキル化エチレンジオキシチオフェンなどが挙げられ、そのアルキル基やアルコキシ基の炭素数としては、1以上であることが好ましく、また、16以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。
【0037】
上記の3,4-エチレンジオキシチオフェンをアルキル基で修飾したアルキル化エチレンジオキシチオフェンについて詳しく説明すると、上記3,4-エチレンジオキシチオフェンやアルキル化エチレンジオキシチオフェンは、下記の一般式(2)で表される化合物に該当する。
【0038】
【0039】
一般式(2)中、R3は水素または炭素数1~10のアルキル基である。
【0040】
そして、上記一般式(2)中のR3が水素の化合物が3,4-エチレンジオキシチオフェンであり、これをIUPAC名称で表示すると、「2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2,3-Dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、この化合物は、IUPAC名称で表示されるよりも、一般名称の「3,4-エチレンジオキシチオフェン」で表示されることが多いので、本明細書では、この「2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン」を「3,4-エチレンジオキシチオフェン」と表示している。そして、上記一般式(2)中のR3がアルキル基の場合、このアルキル基としては、炭素数が1~10のものが好ましく、特に炭素数が1~4のものが好ましい。つまり、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が特に好ましく、それらを具体的に例示すると、一般式(2)中のR3がメチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-メチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Methyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、以下、これを簡略化して「メチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。一般式(2)の中のR3がエチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-エチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Ethyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、これを簡略化して「エチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。
【0041】
一般式(2)の中のR3がプロピル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-プロピル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Propyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、これを簡略化して「プロピル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。そして、一般式(2)の中のR3がブチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-ブチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Butyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、これを簡略化して「ブチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。また、「2-アルキル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン」を、本明細書では、簡略化して「アルキル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。そして、それらのアルキル化エチレンジオキシチオフェンの中でも、メチル化エチレンジオキシチオフェン、エチル化エチレンジオキシチオフェン、プロピル化エチレンジオキシチオフェン、ブチル化エチレンジオキシチオフェンが好ましい。
【0042】
そして、3,4-エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)とアルキル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-アルキル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)とは混合して用いることが好ましく、その混合比は、モル比で0.05:1~1:0.1であることが好ましく、0.1:1~1:0.1であることがより好ましく、0.2:1~1:0.2であることがさらに好ましく、0.3:1~1:0.3であることが特に好ましい。
【0043】
本発明の酸化剤兼ドーパント溶液を用いての導電性高分子の製造は、通常に導電性高分子を製造する場合と、電解コンデンサの製造時に導電性高分子を製造する、いわゆる「その場重合」による導電性高分子の製造の場合との両方に適用できる。
【0044】
モノマーとなるチオフェンやその誘導体などは、常温で液状なので、重合にあたって、そのまま用いることができ、また、重合反応をよりスムーズに進行させるために、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、アセトニトリルなどの有機溶剤でモノマーを希釈して有機溶剤溶液として用いてもよい。なお、モノマーとしては、特に好ましいチオフェンまたはその誘導体を代表させて説明するが、ピロールまたはその誘導体やアニリンまたはその誘導体も、上記チオフェンまたはその誘導体と同様に用いることができる。
【0045】
通常に導電性高分子を製造する場合(この「通常に導電性高分子を製造する場合」とは、電解コンデンサの製造時に「その場重合」によって導電性高分子を製造するのではないという意味である)、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液と、モノマーのチオフェンまたはその誘導体とを混合した混合物を用い〔その混合割合は、質量基準で、酸化剤兼ドーパント溶液が含有する(a)成分:モノマーが5:1~15:1が好ましい〕、例えば、5~95℃で、1~72時間酸化重合することによって行われる。
【0046】
上記のように、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液は、電解コンデンサの製造にあたってモノマーと混合するので、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液は、モノマーとの混合前に、(a)成分と(b)成分と溶媒とを混合して酸化剤兼ドーパント溶液として調製しておかなくてもよく、(a)成分と(b)成分と溶媒とモノマーとを同時に混合しても、上記のような本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマーとの混合物と同様の状態になるので、そのようにしてもよく、また、あらかじめ、モノマーと、(a)成分および(b)成分のうちの一方(さらには、必要に応じて溶媒)とを混合しておいたものと、(a)成分および(b)成分のうちの他方(さらには、必要に応じて溶媒)とを混合したものも、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマーとの混合物と同様の状態になるので、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液は、電解コンデンサの製造にあたって、上記例示のように調製してもよい。
【0047】
なお、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液は、特に電解コンデンサの製造時にモノマーのチオフェンまたはその誘導体をいわゆる「その場重合」で導電性高分子を製造するのに適するように開発したものであることから、これについて以下に詳しく説明する。
【0048】
また、電解コンデンサも、アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどがあり、そのアルミニウム電解コンデンサの中にも、巻回型アルミニウム電解コンデンサと積層型もしくは平板型アルミニウム電解コンデンサとがあるが、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液は巻回型アルミニウム電解コンデンサの製造にあたっても適用できるものであるから、これについて先に説明する。
【0049】
まず、巻回型アルミニウム電解コンデンサのコンデンサ素子としては、アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理して誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して作製したものを使用することが好ましい。
【0050】
そして、上記コンデンサ素子を用いての巻回型アルミニウム電解コンデンサの製造は、例えば、次のように行われる。
【0051】
上記コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマー(チオフェンまたはその誘導体)との混合物に浸漬し、引き上げた後(取り出した後)、室温または加熱下でモノマーを重合させてチオフェンまたはその誘導体の重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質層を形成した後、その固体電解質層を有するコンデンサ素子を外装材で外装して、巻回型アルミニウム電解コンデンサを製造する。
【0052】
また、上記のように、コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマーとの混合物に浸漬するのに代えて、モノマーを上記したメタノールなどの有機溶剤で希釈しておき、そのモノマー溶液にコンデンサ素子を浸漬し、引き上げて乾燥した後、該コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げた後、室温または加熱下でモノマーを重合させるか、または、コンデンサ素子を先に本発明の酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げて乾燥した後、該コンデンサ素子をモノマーに浸漬し、引き上げた後、室温または加熱下でモノマーを重合させ、以後、上記と同様にして、巻回型アルミニウム電解コンデンサが製造される。
【0053】
上記巻回型アルミニウム電解コンデンサ以外の電解コンデンサ、例えば、積層型もしくは平板型アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどの製造にあたっては、コンデンサ素子としてアルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁金属の多孔体からなる陽極と、それらの弁金属の酸化被膜からなる誘電体層を有するものを用い、そのコンデンサ素子を、上記巻回型アルミニウム電解コンデンサの場合と同様に、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマーとの混合物に浸漬し、引き上げて、室温または加熱下でモノマーを重合させるか、あるいは、コンデンサ素子をモノマー溶液に浸漬し、引き上げて乾燥した後、該コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げた後、室温または加熱下でモノマーを重合させるか、あるいは、コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げて乾燥した後、該コンデンサ素子をモノマー中に浸漬し、引き上げた後、室温または加熱下でモノマーを重合させ、該コンデンサ素子を洗浄した後、乾燥する。そして、これらの工程を繰り返して、導電性高分子からなる固体電解質層を形成した後、カーボンペースト、銀ペーストを付け、乾燥した後、外装することによって、積層型もしくは平板型アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどが製造される。
【0054】
なお、上記説明では、コンデンサ素子を本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマーとの混合物や、上記のモノマー溶液や本発明の酸化剤ドーパント溶液に浸漬し、コンデンサ素子にそれらを含浸させる場合について説明しているが、コンデンサ素子に例えばスプレーなどでそれらを塗布してそれらを含浸させるようにしてもよい。
【0055】
上記のような導電性高分子の製造や電解コンデンサの製造時の「その場重合」による導電性高分子の製造にあたって、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液とモノマー(チオフェンまたはその誘導体)あるいはモノマー溶液との使用比率は、酸化剤兼ドーパントとなる(a)成分の量とモノマーの量との比率が、質量比で2:1~8:1であることが好ましく、「その場重合」は、例えば、10~300℃で、1~180分間で行われる。
【0056】
また、電解コンデンサの製造にあたっては、上記のように、本発明の酸化剤兼ドーパント溶液を用いて導電性高分子を製造した後、その導電性高分子上にπ共役系導電性高分子の分散液を用いて導電性高分子層を形成して、その両者で固体電解質を構成した電解コンデンサとしてもよい。
【0057】
上記のπ共役系導電性高分子としては、ポリマーアニオンをドーパントとして用いたπ共役系導電性高分子が用いられる。このポリマーアニオンは、主として高分子スルホン酸で構成されるが、その具体例としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂、スチレンスルホン酸と非スルホン酸系モノマー(メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物またはその加水分解物など)との共重合体などが挙げられる。
【0058】
次に、上記のポリマーアニオンをドーパントとしてモノマー(モノマーとしては最も代表的なチオフェンまたはその誘導体を例に挙げて説明する)を酸化重合して導電性高分子を合成する手段について説明すると、上記ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂などや、スチレンスルホン酸と非スルホン酸系モノマーとの共重合体などは、いずれも、水や水と水混和性溶剤との混合物からなる水性液に対して溶解性を有していることから、酸化重合は水中または水性液中で行われる。
【0059】
上記水性液を構成する水混和性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられ、これらの水混和性溶剤の水との混合割合は、水性液全体中の50質量%以下であることが好ましい。
【0060】
導電性高分子を製造するにあたっての酸化重合は、化学酸化重合、電解酸化重合のいずれも採用することができる。
【0061】
化学酸化重合を行うにあたっての酸化剤としては、例えば、過硫酸塩が用いられるが、その過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸カルシウム、過硫酸バリウムなどが用いられる。
【0062】
化学酸化重合において、その重合時の条件は、特に限定されることはないが、化学酸化重合時の温度としては、5℃~95℃が好ましく、10℃~30℃がより好ましく、また、重合時間としては、1時間~72時間が好ましく、8時間~24時間がより好ましい。
【0063】
電解酸化重合は、定電流でも定電圧でも行い得るが、例えば、定電流で電解酸化重合を行う場合、電流値としては、0.05mA/cm2~10mA/cm2が好ましく、0.2mA/cm2~4mA/cm2がより好ましく、定電圧で電解酸化重合を行う場合は、電圧としては、0.5V~10Vが好ましく、1.5V~5Vがより好ましい。電解酸化重合時の温度としては、5℃~95℃が好ましく、特に10℃~30℃が好ましい。また、重合時間としては、1時間~72時間が好ましく、8時間~24時間がより好ましい。なお、電解酸化重合にあたっては、触媒として硫酸第一鉄または硫酸第二鉄を添加してもよい。
【0064】
上記のようにして得られる導電性高分子は、重合直後、水中または水性液中に分散した状態で得られ、酸化剤としての過硫酸塩や触媒として用いた硫酸鉄塩やその分解物などを含んでいる。そこで、その不純物を含んでいる導電性高分子の分散液を超音波ホモジナイザーや高圧ホモジナイザーや遊星ボールミルなどの分散機にかけて不純物を分散させた後、カチオン交換樹脂で金属成分を除去することが好ましい。このときの動的光散乱法により測定した導電性高分子の粒径としては、100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、また、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。その後、エタノール沈殿法、限外濾過法、陰イオン交換樹脂などにより、酸化剤や触媒の分解により生成したものを除去することが好ましい。
【0065】
本発明においては、上記のような酸化剤兼ドーパント溶液を用いてチオフェンまたはその誘導体などのモノマーを酸化重合して得た導電性高分子を固体電解質として用いて電解コンデンサを構成してもよく、また、上記の導電性高分子と、ポリマーアニオンをドーパントとするπ共役系導電性高分子の分散液から得られた導電性高分子とを固体電解質として用いて電解コンデンサを構成してもよい。さらに、それらに、沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤または沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤とヒドロキシル基またはカルボキシル基を少なくとも1つ有する芳香族系化合物とを含む導電性補助液を含ませて電解コンデンサを構成してもよい。
【0066】
上記導電性補助液に使用可能な沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤としては、例えば、γ-ブチロラクトン(沸点:203℃)、ブタンジオール(沸点:230℃)、ジメチルスルホキシド(沸点:189℃)、スルホラン(沸点:285℃)、N-メチルピロリドン(沸点:202℃)、ジメチルスルホラン(沸点:233℃)、エチレングリコール(沸点:198℃)、ジエチレングリコール(沸点:244℃)、リン酸トリエチル(沸点:215℃)、リン酸トリブチル(289℃)、リン酸トリエチルヘキシル〔215℃(4mmHg)〕、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0067】
また、上記の、ヒドロキシル基(芳香環の構成炭素に結合するヒドロキシル基をいい、カルボキシル基中などの-OH部分を意味するものではない)またはカルボキシル基を少なくとも1つ有する芳香族系化合物としては、ベンゼン系のもの、ナフタレン系のもの、アントラセン系のもののいずれも用いることができ、その具体例としては、例えば、ヒドロキシベンゼンカルボン酸、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール、アミノニトロフェノール、ヒドロキシアニソール、ヒドロキシジニトロベンゼン、ジヒドロキシジニトロベンゼン、アルキルヒドロキシアニソール、ヒドロキシニトロアニソール、ヒドロキシニトロベンゼンカルボン酸(つまり、ヒドロキシニトロ安息香酸)、ジヒドロキシニトロベンゼンカルボン酸(つまり、ジヒドロキシニトロ安息香酸)、フェノール、ジヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシベンゼンカルボン酸、トリヒドロキシベンゼンカルボン酸、ヒドロキシベンゼンジカルボン酸、ジヒドロキシベンゼンジカルボン酸、ヒドロキシトルエンカルボン酸、ニトロナフトール、アミノナフトール、ジニトロナフトール、ヒドロキシナフタレンカルボン酸、ジヒドロキシナフタレンカルボン酸、トリヒドロキシナフタレンカルボン酸、ヒドロキシナフタレンジカルボン酸、ジヒドロキシナフタレンジカルボン酸、ヒドロキシアントラセン、ジヒドロキシアントラセン、トリヒドロキシアントラセン、テトラヒドロキシアントラセン、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシアントラセンジカルボン酸、ジヒドロキシアントラセンジカルボン酸、テトラヒドロキシアントラセンジオン、ベンゼンカルボン酸、ベンゼンジカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。
【0068】
また、上記沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤または導電性補助液にエポキシ化合物またはその加水分解物、シラン化合物またはその加水分解物およびポリアルコールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の結合剤を含有させることもできる。
【0069】
本発明によれば、耐熱性に優れた電解コンデンサを製造するのに適した導電性高分子を製造できる導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液を提供することができ、また、それを用いて耐熱性に優れた電解コンデンサを製造するのに適した導電性高分子を提供し、さらに、その導電性高分子を固体電解質として用いて、耐熱性に優れた電解コンデンサを提供することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0071】
〔酸化剤兼ドーパント溶液の調製〕
実施例1
濃度が50質量%となる量のパラトルエンスルホン酸第二鉄〔(a)成分〕と、濃度が1質量%となる量のジエチレングリコールモノメチルエーテル〔(b)成分〕と、エタノール(溶媒)とを混合して、酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0072】
実施例2
ジエチレングリコールモノメチルエーテルの濃度を5質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0073】
実施例3
ジエチレングリコールモノメチルエーテルの濃度を10質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0074】
実施例4
ジエチレングリコールモノメチルエーテルの濃度を20質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0075】
実施例5
ジエチレングリコールモノメチルエーテルの濃度を30質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0076】
実施例6
(b)成分をジエチレングリコールモノエチルエーテルに変更した以外は、実施例2と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0077】
実施例7
(b)成分をプロピレングリコールモノメチルエーテルに変更した以外は、実施例2と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0078】
実施例8
(b)成分をプロピレングリコールモノエチルエーテルに変更した以外は、実施例2と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0079】
実施例9
(b)成分をジプロピレングリコールモノメチルエーテルに変更した以外は、実施例2と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0080】
実施例10
(a)成分をナフタレンスルホン酸第二鉄に変更し、(b)成分を3-メトキシ-1-ブタノールに変更した以外は、実施例3と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0081】
実施例11
(b)成分をエチレングリコールモノブチルエーテルに変更した以外は、実施例10と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0082】
実施例12
(b)成分を3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールに変更した以外は、実施例10と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0083】
比較例1
(b)成分を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0084】
比較例2
ジエチレングリコールモノメチルエーテルの濃度を35質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製したが、安定性が悪く、含有成分の析出が認められたので、後記の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの作製は行わなかった。
【0085】
比較例3
(b)成分に代えて2-プロパノールを添加した以外は、実施例10と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0086】
比較例4
(b)成分に代えてプロピレングリコールを添加した以外は、実施例10と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0087】
比較例5
(b)成分に代えてエチレングリコールジエチルエーテルを添加した以外は、実施例10と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0088】
比較例6
(b)成分に代えてエチレングリコールモノエチルエーテルを添加した以外は、実施例10と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0089】
実施例1~12および比較例1~6の酸化剤兼ドーパント溶液の構成を表1および表2に示す。なお、比較例3で使用した2-プロパノール、比較例4で使用したプロピレングリコール、比較例5で使用したエチレングリコールジエチルエーテル、および比較例6で使用したエチレングリコールモノエチルエーテルは、いずれも(b)成分には該当しないが、(b)成分との比較のために使用したものであることから、表2では各実施例との比較を容易にするために(b)成分の欄に示している。また、表2の(b)成分の欄の「n」、「R1」および「R2」は、上記一般式(1)における「n」、「R1」および「R2」を意味している。
【0090】
【0091】
【0092】
〔固体電解コンデンサの作製〕
実施例13
表面をエッチング処理したアルミニウム箔を12質量%濃度のアジピン酸アンモニウム水溶液中に浸漬し、この状態でアルミニウム箔に40Vの電圧を印加してアルミニウム箔の表面に誘電体層を形成して陽極とし、この陽極にリード体を取り付けた。また、アルミニウム箔からなる陰極にリード体を取り付けた。これらの陽極と陰極とを、セパレータを介して重ね合わせて巻回して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサ用のコンデンサ素子を作製した。
【0093】
3,4-エチレンジオキシチオフェン:20mLにメタノール:80mLを添加して調製したモノマー溶液に、上記コンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、50℃で10分間乾燥した。その後、実施例1の酸化剤兼ドーパント溶液に上記コンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、70℃で2時間加熱し、さらに180℃で1時間加熱することで、3,4-エチレンジオキシチオフェンを重合させて、3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質層を、上記コンデンサ素子の表面に形成した。このコンデンサ素子を外装体で外装して、設定静電容量が40μF以上で、設定ESRが16mΩ以下の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0094】
実施例14~24および比較例7~11
酸化剤兼ドーパント溶液を実施例2~12または比較例1、3~6のものに変更した以外は、実施例13と同様にして巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0095】
実施例13~24および比較例7~11の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、初期特性として、静電容量およびESRを、それぞれ下記の方法で測定した。
【0096】
(静電容量)
HEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃の条件下で、120Hzで測定した。
【0097】
(ESR)
HEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃の条件下で、100kHzで測定した。
【0098】
上記の測定は、各試料とも10個ずつについて行った。これらの結果を表3に示す。表3では、静電容量およびESRに関しては、10個の測定値の小数点第2位で四捨五入した平均値を示している。
【0099】
【0100】
(固体電解コンデンサの耐熱性評価)
実施例13~24および比較例7~11の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサ各10個を、125℃で1500時間貯蔵した後、上記と同じ方法で、静電容量およびESRを測定した。これらの結果を表4に示す。なお、表4には、静電容量については、下記式によって求めた静電容量の初期特性評価時の測定値からの変化率(%)を、ESRについては、この耐熱性評価時の測定値を初期特性評価時の測定値で除して求めた変化率(倍)を、それぞれ記載する。
【0101】
静電容量の耐熱性評価測定値の初期特性評価測定値からの変化率(%):
変化率(%) = 100 × (耐熱性評価測定値-初期特性評価測定値)
÷ 初期特性評価測定値
【0102】
【0103】
表3および表4に示す通り、実施例13~24の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、比較例7~11の電解コンデンサに比べて、25℃でのESRが低く、さらに、高温貯蔵後の静電容量の低下およびESRの上昇が抑えられており、良好な耐熱性を有していた。