(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】多段式栽培装置
(51)【国際特許分類】
A01G 9/02 20180101AFI20240307BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
A01G9/02 B
A01G7/00 601Z
(21)【出願番号】P 2020043938
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】中島 広志
(72)【発明者】
【氏名】冨貴 丈宏
(72)【発明者】
【氏名】三浦 玄太
(72)【発明者】
【氏名】長幡 逸佳
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/129130(WO,A1)
【文献】特開2014-239666(JP,A)
【文献】特開2013-085511(JP,A)
【文献】実開昭63-092543(JP,U)
【文献】特開2008-154512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/02
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さ方向に延びる複数の支柱と第1高さと第2高さの位置で前記支柱に固定される複数のパイプとを備える架台と、
前記第1高さで前記架台の前記パイプに支持された第1栽培ベッドと、
前記第1栽培ベッドの下方の前記第2高さで前記架台の前記パイプに支持された第2栽培ベッド
であって、前記第2栽培ベッドの幅方向における中心付近を避けて両端側に寄せて植物が植えられる前記第2栽培ベッドと、
前記第1栽培ベッドの培地に対して水を供給するかん水チューブと、
前記第2栽培ベッドの植物に対して光を照射可能な光源と、
を備え、
前記第1栽培ベッドは、前記培地を内部に保持する容器状の保持部と、前記培地に供給された水を排出する排水部とを備え、
前記保持部は、前記第1栽培ベッドの幅方向における中心付近が最も低くなるように形成され、
前記排水部は、前記保持部の最も低い部分に形成され、
前記光源は、前記幅方向における前記第1栽培ベッドの両端部の下方に配置され、かつ、前記第2栽培ベッドの長手方向に沿って延びるLED照明であり、
前記LED照明は、前記支柱に沿って高さ方向に複数本並べて配置さ
れ、
前記複数のパイプは、前記長手方向に沿って延び、
前記かん水チューブは、前記第1栽培ベッドの幅方向における中心付近であって前記培地の上に前記長手方向に沿って延びるように配置され、
前記保持部は、前記第1栽培ベッドの幅方向及び第2栽培ベッドの幅方向に間隔をあけて配置された2本の前記パイプに両端が固定された1枚の不織布シートによって形成され、
前記不織布シートは、透水性を有し、かつ、前記不織布シートから染み出した水を前記不織布シートの外面に沿って前記排水部へ導くことを特徴とする、多段式栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物工場における植物の栽培に用いる多段式栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工光源を利用した植物工場が増えている(特許文献1)。植物工場は、照明、温度、湿度、空気などが適切に制御された施設内で植物を生育させるため、天候や害虫などの影響を受けることなく、植物を年間通して栽培することが期待される。
【0003】
また、いちごの水耕栽培用に、いちごの苗を側面に突出させた升状の箱を上下に複数配置させる栽培装置が提案されている(特許文献2)。この水耕栽培装置では、循環養水を上から下の箱へ流下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開番号WO2018/037577号公報
【文献】特開2008-154512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、植物工場に適した光源と培地との配置が栽培装置に望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、光源と栽培ベッドとを適切に配置することにより、効率のよい水の供給と光の照射とを可能とする多段式栽培装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明に係る多段式栽培装置の一態様は、
高さ方向に延びる複数の支柱と第1高さと第2高さの位置で前記支柱に固定される複数のパイプとを備える架台と、
前記第1高さで前記架台の前記パイプに支持された第1栽培ベッドと、
前記第1栽培ベッドの下方の前記第2高さで前記架台の前記パイプに支持された第2栽培ベッドであって、前記第2栽培ベッドの幅方向における中心付近を避けて両端側に寄せて植物が植えられる前記第2栽培ベッドと、
前記第1栽培ベッドの培地に対して水を供給するかん水チューブと、
前記第2栽培ベッドの植物に対して光を照射可能な光源と、
を備え、
前記第1栽培ベッドは、前記培地を内部に保持する容器状の保持部と、前記培地に供給された水を排出する排水部とを備え、
前記保持部は、前記第1栽培ベッドの幅方向における中心付近が最も低くなるように形成され、
前記排水部は、前記保持部の最も低い部分に形成され、
前記光源は、前記幅方向における前記第1栽培ベッドの両端部の下方に配置され、かつ、前記第2栽培ベッドの長手方向に沿って延びるLED照明であり、
前記LED照明は、前記支柱に沿って高さ方向に複数本並べて配置され、
前記複数のパイプは、前記長手方向に沿って延び、
前記かん水チューブは、前記第1栽培ベッドの幅方向における中心付近であって前記培地の上に前記長手方向に沿って延びるように配置され、
前記保持部は、前記第1栽培ベッドの幅方向及び第2栽培ベッドの幅方向に間隔をあけて配置された2本の前記パイプに両端が固定された1枚の不織布シートによって形成され、
前記不織布シートは、透水性を有し、かつ、前記不織布シートから染み出した水を前記不織布シートの外面に沿って前記排水部へ導くことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多段式栽培装置によれば、栽培ベッドを上下に少なくとも2段配置することにより第1栽培ベッドの排水を利用した効率のよい水の供給を可能とすると共に、第2栽培ベッドの光源の配置により排水との干渉を避けつつ植物工場に適した省スペースを達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る多段式栽培装置の正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る多段式栽培装置の側面図である。
【
図3】本発明の変形例に係る多段式栽培装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0013】
本実施形態に係る多段式栽培装置は、架台と、前記架台に支持された第1栽培ベッドと、前記第1栽培ベッドの下方において前記架台に支持された第2栽培ベッドと、前記第1栽培ベッドの培地に対して水を供給するかん水チューブと、前記第2栽培ベッドの植物に対して光を照射可能な光源と、を備え、前記第1栽培ベッドは、前記培地を内部に保持する容器状の保持部と、前記培地に供給された水を排出する排水部とを備え、前記保持部は、前記第1栽培ベッドの幅方向における中心付近が最も低くなるように形成され、前記排水部は、前記保持部の最も低い部分に形成され、前記光源は、前記幅方向における前記第1栽培ベッドの両端部の下方に配置され、かつ、前記第2栽培ベッドの長手方向に沿って延びることを特徴とする。
【0014】
1.多段式栽培装置
図1及び
図2を用いて本発明の一実施形態に係る多段式栽培装置10について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る多段式栽培装置10の正面図であり、
図2は本発明の一実施形態に係る多段式栽培装置10の側面図である。
【0015】
図1及び
図2に示すように、多段式栽培装置10は、図示しない公知の植物工場内に配置される。多段式栽培装置10は、架台14と、架台14に支持された第1栽培ベッド21と、第1栽培ベッド21の下方において架台14に支持された第2栽培ベッド22と、第1栽培ベッド21上のかん水チューブ50と、第1光源41と、第2光源42と、を備える。
【0016】
架台14は、複数の栽培ベッドを高さ方向Zに沿って間隔をあけて並べて支持する。ここでは第1栽培ベッド21と第2栽培ベッド22を上下に配置する例について説明するが、第2栽培ベッド22の下にさらに1つ以上の第2栽培ベッド22を高さ方向Zに並べてもよい。このように栽培ベッドを架台14に対し多段に配置することで植物工場の限られたスペースを効率よく栽培に利用することができる。
【0017】
架台14は、第1栽培ベッド21及び第2栽培ベッド22の長手方向Yに沿って延びる複数のパイプ140を含む。正面から見て架台14の左右が作業者の通路兼作業スペース
となる。したがって、第1栽培ベッド21及び第2栽培ベッド22は、長手方向Yに沿って長く延び、長手方向Yに沿って植物60が植えられる。パイプ140は、高さ方向Zに沿って延びる支柱142にそれぞれ固定される。架台14は、第1栽培ベッド21及び第2栽培ベッド22の幅と略同じ幅を有する。第1栽培ベッド21及び第2栽培ベッド22の幅方向X、長手方向Y及び高さ方向Zは、互いに直交する。
【0018】
架台14には、設置面からの第1高さH1の位置に固定されたパイプ140に第1栽培ベッド21が支持され、設置面からの第2高さH2の位置に固定されたパイプ140に第2栽培ベッド22が支持される。第2高さH2は、第1高さH1よりも低い。架台14は、上から第1栽培ベッド21、第2栽培ベッド22、第1栽培ベッド21、第2栽培ベッド22の順に繰返し配置してもよい。架台14の一番低い位置には、断面V字状の排水樋144が支持される。排水樋144は、架台14に支持される一番低い位置の第2栽培ベッド22から排水される水を受けて、架台14の外へ排出する。
【0019】
第1栽培ベッド21は、培地30を内部に保持する容器状の保持部212と、保持部212を架台14に固定する取付部210と、培地30に供給された水を排出する排水部214と、かん水チューブ50と、を備える。培地30は、第1栽培ベッド21で栽培される植物60に応じて選定できる。培地30としては、例えば、ロックウール、ピートモス、バーミキュライト、ココヤシ等の公知の固形培地を採用できる。
【0020】
かん水チューブ50は、第1栽培ベッド21の培地30に対して水を供給する。かん水チューブ50は、第1栽培ベッド21の幅方向Xの中心付近であって培地30の上に配置される。かん水チューブ50は、第1栽培ベッド21の長手方向Yに沿って延びる例えば合成樹脂製のチューブであり、側面の複数の開口から水を植物60へ供給することができる。かん水チューブ50で供給される水は、植物60の生育に必要な肥料を含んでもよい。
【0021】
保持部212は、第1栽培ベッド21の幅方向Xにおける中心付近が最も低くなるように形成される。また、排水部214は、保持部212の最も低い部分に形成される。このようにすると、第1栽培ベッド21からの排水が幅方向Xにおける中心付近に集中するため、第2栽培ベッド22の培地32には幅方向Xにおける中心付近を避けて両端側に寄せて植物60を植えれば、第1栽培ベッド21からの排水が葉に遮られにくい。第2栽培ベッド22では幅方向Xにおける両端付近に植物60を植えることで、排水部214から滴下する水と培地32とを効率よく利用できる。
【0022】
正面から見た保持部212の外形は、幅方向Xの両端から高さ方向Zに延びる直線部分と、その直線部分の下端を繋ぐ下方に凸の湾曲部分とを有する。この湾曲部分の下端が排水部214になる。正面から見た保持部212の外形は、例えば、略U字状である。
【0023】
保持部212は、幅方向Xに間隔をあけて配置された2本のパイプ140に両端が固定された1枚の不織布シートによって形成される。当該両端がそれぞれ取付部210となる。不織布シートは、透水性を有することが好ましい。不織布シートが透水性を有することにより、不織布シートから染み出した水を不織布シートの外面に沿って排水部へ導くことができる。保持部212の材質としては、透水性のある不織布シートが軽量で取り扱いに優れるため好ましいが、透水性を有する他の材質を採用してもよい。不織布シートとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンなどの合成樹脂製の不織布を用いることができる。
【0024】
また、不織布シートの代わりに、シートよりも剛性の高い材料を採用してもよく、例えば、幅方向Xにおける中心付近に排水を集中させることができる形状を有する合成樹脂製
の容器を採用してもよい。
【0025】
取付部210は、保持部212の幅方向Xにおける両端から外側に延びる部分である。第1栽培ベッド21として不織布シートを用いた場合には、パイプ140に不織布シートの両端(取付部210)を巻き付けてクリップ状のパッカーでパイプ140を挟んで固定される。不織布シートに代えてより剛性のある容器を用いた場合には、容器の幅方向Xにおける両端にフック状の取付部210を設けてこれをパイプ140に引っ掛けることで容器を載せてもよい。このように、取付部210は、排水部214からの排水を妨げない位置で保持部212を架台14に対して所定位置に支持することができれば他の構成を採用してもよい。
【0026】
排水部214は、培地30に供給された水の内、植物60に吸収されなかった水を第1栽培ベッド21から排出する部分である。保持部212の全体が透水性に優れていれば、保持部212の外面を伝って最も低い排水部214に水が集まるため、排水部214に特別な構造を採用しなくてもよいが、長手方向Yに沿って複数の貫通孔を並べて設けてもよい。排水部214に複数の貫通孔を設けることで、培地30側から貫通孔を通って下方へ排水が促進される。
【0027】
第1光源41は、第1栽培ベッド21の上方に配置されて培地30に植えられた植物60に対して光を照射可能である。第1光源41は、第1栽培ベッド21の長手方向Yに沿って延びるように架台14の上端に固定される。
【0028】
第2栽培ベッド22は、基本的に第1栽培ベッド21と同じ材質及び形状を有し、培地30を保持する保持部222と、保持部222を架台14に固定する取付部220と、培地30に供給された水を排出する排水部224と、を備える。第2栽培ベッド22については、第1栽培ベッド21と同様の構成に関する説明を省略する。第2栽培ベッド22は、第1栽培ベッド21の真下に配置され、幅方向Xの中心付近の培地32に第1栽培ベッド21の排水部214から水が滴下される。培地32には排水部214からの水の滴下を妨げないように中心付近を避けて植物60が植えられる。植物60は、両端の取付部220側に寄せて2列に植えられる。第2栽培ベッド22の植物60への給水は、排水部214からの水によって行う。
【0029】
このように、栽培ベッドを上下に少なくとも2段配置することにより第1栽培ベッド21の排水を利用した効率のよい水の供給を可能とする。第1栽培ベッド21からの排水には肥料が残留しているため、第2栽培ベッド22において肥料の有効活用ができる。しかも、第2栽培ベッド22で排水部214からの水が吸収されることで肥料を含む廃液量も削減される。なお、第2栽培ベッド22にはかん水チューブ50を配置していないが、補助的な用途でのかん水チューブ50を培地32に配置してもよい。
【0030】
第2光源42は、第2栽培ベッド22の植物60に対して光を照射可能である。第2光源42としては、公知の人工光源を採用できる。第2光源42は、第2栽培ベッド22の幅方向Xにおける第1栽培ベッド21の両端部の下方であって、第2栽培ベッド22の長手方向Yに沿って延びる。第2光源42は、その長手方向Yの両端でパイプ140が固定される支柱142に固定される。第2光源42は、長手方向Yに沿って延びる例えばLED(Light Emitting Diode)照明であり、LED照明は、支柱142に沿って高さ方向Zに複数本並べて配置される。このように、第2栽培ベッド22に対する第2光源42の配置により第1栽培ベッド21からの排水との干渉を避けつつ植物工場に適した省スペースを達成することができる。
【0031】
支柱142に沿って高さ方向Zに並べられた複数の第2光源42は、それぞれの光軸の
向きを長手方向Yに沿った回転軸のまわりに変更可能である。光軸の向きを変更可能とすることで、第2光源42からの光が下側にある第2光源42によって遮られることを抑制し、第2栽培ベッド22の植物60へ十分な光の照射が可能となる。
【0032】
2.変形例
図3を用いて、変形例に係る多段式栽培装置10aについて説明する。
図3は、変形例に係る多段式栽培装置10aの正面図である。変形例に係る多段式栽培装置10aは、保持部212の外形を除いて、
図1及び
図2を用いて説明した多段式栽培装置10と基本的な構成が同じであるため、重複する説明については省略する。
【0033】
図3に示すように、第1栽培ベッド21aの保持部212は、正面から見て、幅方向Xの両端から下方に傾斜して延びる直線部分が下端の排水部214で接続するように構成される。正面から見た第1栽培ベッド21aの保持部212の外形は、例えば、略V字状である。
【0034】
保持部212の外形を略V字形状とすることにより、
図1の構成に比べてより排水が排水部214に集中しやすくなる。
【0035】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0036】
10,10a…多段式栽培装置、14…架台、140…パイプ、142…支柱、144…排水樋、21,21a…第1栽培ベッド、210…取付部、212…保持部、214…排水部、22,22a…第2栽培ベッド、220…取付部、222…保持部、224…排水部、30…培地、32…培地、41…第1光源、42…第2光源、50…かん水チューブ、60…植物